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関連審決 訂正2006-39096
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成19ワ10364特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成11ワ10931損害賠償等請求事件 判例 特許
平成17ワ10524特許権侵害差止請求事件 判例 特許
平成11ワ101特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成15ワ23943特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
関連ワード 発明者 /  有用性 /  製造方法 /  新規性 /  29条1項3号 /  頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  課題の共通性 /  上位概念 /  技術的範囲 /  出願公開 /  実施可能要件 /  技術的手段 /  発明の詳細な説明 /  化学構造 /  優先権 /  共有 /  着想 /  実施料相当額 /  時効 /  抵触 /  援用権(援用) /  優先日 /  技術的意義 /  置換 /  容易に想到(容易想到性) /  特許発明 /  実施 /  交換 /  構成要件 /  構成要件充足性 /  一般に流通 /  業として /  差止請求(差止) /  侵害 /  組成した物 /  損害額 /  算定方法 /  逸失利益 /  販売数量(販売数) /  譲渡数量 /  単位数量 /  実施能力 /  生産能力 /  実施料 /  相当因果関係 /  不法行為(民法709条) /  実施権 /  専用実施権 /  実施許諾(実施の許諾) /  設定登録 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 19年 (ワ) 507号 特許権侵害差止等請求事件
山口県周南市<以下略>
原告東ソー株式会社
訴訟代理人弁護士鎌田隆
同 柴由美子 東京都葛飾区<以下略>
被告ミヨシ油脂株式会社
訴訟代理人弁護士大野聖二
同 坂巻智香
訴訟復代理人弁護士 井上義隆
補佐人弁理士田中玲子
同 伊藤奈月
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2010/11/18
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告は,別紙物件目録記載の製品を生産し,使用し,譲渡し,輸出若しくは輸入し,又は同製品の譲渡の申出をしてはならない。
2 被告は,前項記載の製品を廃棄せよ。
3 被告は,原告に対し,11億9185万2910円及び内金7568万6368円に対する平成16年4月1日から,内金1億0800万4433円に対する平成17年4月1日から,内金1億5163万0709円に対する平成18年4月1日から,内金1億9315万5765円に対する平成19年4月1日から,内金2億4242万5658円に対する平成20年4月1日から,内金2億6323万0058円に対する平成21年4月1日から,内金1億5771万9919- 1 -円に対する平成21年10月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告のその余の請求を棄却する。
5 訴訟費用は,これを5分し,その2を被告の負担とし,その余は原告の負担とする。
6 この判決の第1項ないし第3項は,仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
1 主文第1項及び第2項と同旨2 被告は,原告に対し,27億2925万6208円(別紙請求債権目録の「 T 請求金額の合計額」記載の金員)及び別紙請求債権目録の「U 請求金額 の各年度別内訳一覧表」の1ないし8の「D」(年度別合計)欄記載の各内金 に対する「E」(遅延損害金起算日)欄記載の各日から各支払済みまで年5分 の割合による金員を支払え。
事案の概要
1 事案の要旨 本件は,発明の名称を「飛灰中の重金属の固定化方法及び重金属固定化処理 剤」とする特許第3391173号の特許(以下,この特許を「本件特許」, この特許権を「本件特許権」という。)の特許権者である原告が,被告が別紙 物件目録記載の製品(以下「被告製品」という。)を製造及び販売する行為が 原告の本件特許権の侵害に当たる旨主張して,被告に対し,特許法100条1 項及び2項に基づき,被告製品の生産,使用,譲渡等の差止め及び廃棄を求め るとともに,特許権侵害不法行為による損害賠償として27億2925万6 208円及び遅延損害金の支払を求めた事案である。
2 争いのない事実等(証拠の摘示のない事実は,争いのない事実又は弁論の全 趣旨により認められる事実である。) (1) 当事者 ア 原告は,石油化学製品等の各種化学製品の製造及び販売を業とする株式 会社である。
イ 被告は,マーガリン等の油脂製品を主とする化学製品の製造及び販売を 業とする株式会社である。
(2) 原告の特許権 ア 原告は,平成7年12月1日,本件特許に係る特許出願(優先権主張日 平成6年12月2日・優先権主張国日本,特願平7-313845号。以 下「本件出願」という。)をし,平成15年1月24日,本件特許権の設 定登録(請求項の数10)を受けた。
イ 本件特許に係る願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。甲 2)の特許請求の範囲の請求項6,7及び9の記載は,次のとおりであ る(以下,請求項6に係る発明を「本件発明1」,請求項7に係る発明 を「本件発明2」,請求項9に係る発明を「本件発明3」といい,これら を総称して「本件各発明」という。)。
「【請求項6】 ピペラジン-N-カルボジチオ酸もしくはピペラジン- N,N’-ビスカルボジチオ酸のいずれか一方もしくはこれらの混合物又 はこれらの塩からなる飛灰中の重金属固定化処理剤。」 「【請求項7】 ピペラジン-N-カルボジチオ酸塩もしくはピペラジン -N,N’-ビスカルボジチオ酸塩が,アルカリ金属,アルカリ土類金属 塩又はアンモニウム塩であることを特徴とする請求項6に記載の飛灰中の 重金属固定化処理剤。」 「【請求項9】 ピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸塩がピペラ ジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸カリウムであることを特徴とする請 求項7に記載の飛灰中の重金属固定化処理剤。」 ウ 本件各発明を構成要件に分説すると,次のとおりである。
(ア) 本件発明1(請求項6) 「A ピペラジン-N-カルボジチオ酸もしくはピペラジン-N,N’ -ビスカルボジチオ酸のいずれか一方もしくはこれらの混合物又は これらの塩からなる B 飛灰中の重金属固定化処理剤。」 (イ) 本件発明2(請求項7) 「C ピペラジン-N-カルボジチオ酸塩もしくはピペラジン-N,N ’-ビスカルボジチオ酸塩が,アルカリ金属,アルカリ土類金属塩 又はアンモニウム塩であることを特徴とする D 請求項6に記載の飛灰中の重金属固定化処理剤。」 (ウ) 本件発明3(請求項9) 「E ピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸塩がピペラジン- N,N’-ビスカルボジチオ酸カリウムであることを特徴とする F 請求項7に記載の飛灰中の重金属固定化処理剤。」 (3) 被告の行為 ア 被告は,平成15年1月24日以降,業として被告製品(別紙物件目録 記載の製品)の製造及び販売をしている。
イ 別紙参考製品名目録1ないし3記載の「製品名」の各製品は,被告が製 造及び販売する製品である。これらのうち,同目録1及び2(1)記載の各 製品については,被告製品に該当することに争いがないが,同目録2(2) 記載の製品(製品名●(省略)●。以下「●(省略)●」という。)及び 同目録3記載の各製品(製品名「●(省略)●」,「●(省略)●」,「 ●(省略)●」及び「●(省略)●」。以下,これらを「●(省略)● 等」と総称する。)については,争いがある。
3 争点 本件の争点は,被告製品が本件各発明の構成要件をいずれも充足し,その技 術的範囲に属するか(争点1),本件各発明に被告主張の無効理由があり,原 告の本件特許権の行使が特許法104条の3第1項により制限されるか(争点 2),被告製品の範囲(争点3),被告が賠償すべき原告の損害額(争点4) である。
争点に関する当事者の主張
1 争点1(技術的範囲の属否)について (1) 原告の主張 ア 本件発明1の技術的範囲 (ア) 本件発明1の特許請求の範囲(請求項6)の記載は,「ピペラジン -N-カルボジチオ酸もしくはピペラジン-N,N’-ビスカルボジチ オ酸のいずれか一方もしくはこれらの混合物又はこれらの塩からなる飛 灰中の重金属固定化処理剤」というものである。
そして,本件明細書の発明の詳細な説明には,「ジチオカルバミン酸 は,原料とするアミンによっては,pH調整剤との混練又は熱により分 解するために,混練処理手順及び方法に十二分に配慮する必要があっ た」(段落【0003】)という技術的課題を認識し,「安定性の高い キレート剤」を用いることにより飛灰中の重金属を簡便に固定化できる 技術を提供するという目的(段落【0004】)の下に研究開発を積み 重ねた結果,「ピペラジンカルボジチオ酸又はその塩」が,「重金属に 対するキレート能力が高く,高アルカリ性飛灰においても少量の添加量 で重金属を固定化でき」ることに加えて,「かつ熱的に安定である」こ とを見出して,本件各発明を完成するに至ったこと(段落【0005 】)が記載されている。
その安定性(熱的な安定性及びpH調整剤との混練に対する安定性) の高さを硫化水素(H 2S)ガス発生の有無という指標を用いて具体的 に示したのが,本件明細書の段落【0021】及び【0022】記載 の「安定性試験」及びその結果(表1)である。表1が示すとおり,本 件各発明の実施例の化合物1(ピペラジン-N,N’-ビスカルボジ チオ酸ナトリウム)(段落【0016】,【0017】)及び化合物 2(ピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸カリウム)(段落【0 018】)では,65℃に加温した場合も,pH調整剤として塩化第二 鉄(FeCl3,38%水溶液)を20重量%添加した場合も,硫化水素 ガス(H2 S)の発生は検知されなかった。これは,本件各発明を特定 するための必須の構成要件である「ピペラジン-N-カルボジチオ酸も しくはピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸のいずれか一方もし くはこれらの混合物又はこれらの塩」(以下「ピペラジンカルボジチオ 酸又はその塩」という場合がある。)それ自体の安定性(熱的な安定性 及びpH調整剤との混練に対する安定性)の高さによって奏される特有 の効果である。
(イ) 本件発明1の特許請求の範囲の記載及び本件明細書の上記記載によ れば,「ピペラジンカルボジチオ酸又はその塩」を必須の主要有効成分 とすることによって,かかる主要有効成分が奏する技術的利益を実質的 に享受している「飛灰中の重金属固定化処理剤」であれば,たとえ当該 主要有効成分以外の成分を含んでいるとしても,本件発明1の技術的範 囲に属すると解すべきである。
換言すれば,本件発明1には,「ピペラジンカルボジチオ酸又はその 塩」を必須の主要有効成分とするということ以外に,その構成を成分的 に更に限定する要件は存しない。
イ 被告製品の構成要件充足性(ア) 本件発明1について 被告製品は,ピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸の塩であ る「ピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸カリウム」及びピペラ ジン-N-カルボジチオ酸の塩である「ピペラジン-N-カルボジチオ 酸カリウム」を有効成分として含有するものであり,かつ,その用途 は,「飛灰中の重金属固定化処理剤」であるから,本件発明1の構成要 件A及びBを充足する。
(イ) 本件発明2について 被告製品が有効成分として含有する「ピペラジン-N,N’-ビスカ ルボジチオ酸カリウム」及び「ピペラジン-N-カルボジチオ酸カリウ ム」がいずれもアルカリ金属である「カリウム」の塩であることからす ると,被告製品は,本件発明2の構成要件C及びDを充足する。
(ウ) 本件発明3について 前記(ア)のとおり,被告製品が「ピペラジン-N,N’-ビスカルボ ジチオ酸カリウム」を有効成分として含有することからすると,被告製 品は,本件発明3の構成要件E及びFを充足する。
(エ) 小括 以上のとおり,被告製品は,本件各発明の構成要件AないしFをすべ て充足するから,本件各発明の技術的範囲に属する。
したがって,被告による被告製品の製造及び販売は,本件各発明に係 る本件特許権の侵害に当たる。
ウ 被告の主張に対する反論(ア) 特許請求の範囲の限定解釈の主張に対し a 被告は,後記(2)アのとおり,@本件発明1の技術的範囲につい て,副生成物として,硫化水素の発生源となるチオ炭酸塩等を含まな い,純然たる「ピペラジン-N-カルボジチオ酸もしくはピペラジン -N,N’-ビスカルボジチオ酸のいずれか一方もしくはこれらの混 合物又はこれらの塩」のみから構成され,安定性試験(65℃の加温 及び塩化第二鉄の水溶液の添加によるもの)において硫化水素を発生 しない飛灰中の重金属固定化処理剤に限定して解釈すべきである,A被告製品は,その製造工程においてチオ炭酸塩等の副生成物を対象とした除外工程がなく,副生成物であるチオ炭酸塩等を含まない,純然たる「ピペラジン-N-カルボジチオ酸もしくはピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸のいずれか一方もしくはこれらの混合物又はこれらの塩」のみから構成されているものではなく,また,安定性試験において硫化水素を発生するものであるから,本件発明1の技術的範囲に属さない旨主張する。
しかし,前記アのとおり,本件発明1には,「ピペラジンカルボジチオ酸又はその塩」を必須の主要有効成分とするということ以外に,その構成を成分的に更に限定する要件は存しないのであるから,被告の上記主張は,独自の解釈として失当である。
そして,被告製品(別紙物件目録記載の製品)は,「ピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸カリウム」及び「ピペラジン-N-カルボジチオ酸カリウム」を主要有効成分とするものであって,しかも,原告が実施した安定性試験の実験結果(甲5,10,18の1)によれば,現に市場に流通している被告製品(別紙参考製品名目録1記載の「NEWエポルバ810」及び「NEWエポルバ810S」)からは実質的に硫化水素ガス(H 2S)の発生が検出されていない。
また,仮に厳密に言えばごく低濃度の硫化水素ガスが被告製品から検出される場合があることに目を向けるとしても,それは,被告製品の上記主要有効成分そのものから発生しているのではなく,被告が飽くまで実体(具体的な化学組成)及び割合(具体的な重量比)に関する積極的な立証を回避し続けている異成分の誘導体から発生している疑いが濃厚である。
さらに,原告は,被告製品(「NEWエポルバ810」及び「NE Wエポルバ810S」)に,硫化水素ガスの発生が問題視されるほど の量のチオ炭酸塩が含まれているかどうかを確認するための測定実 験(甲20)を行ったが,いずれの被告製品においてもチオ炭酸塩は 検出限界未満(ND)であった。したがって,仮に被告製品にチオ炭 酸塩が含まれているとしても,それは,検出限界未満のごくわずかな 量に過ぎない。
b 以上のとおり,被告主張の限定解釈はそもそも失当であり,また, 安定性試験において被告製品から実質的に硫化水素ガス(H2 S)が 発生するものとは認められないから,被告製品が本件各発明の技術的 範囲に属さないとの被告の主張は理由がない。
(イ) 先願特許の実施の主張に対し a 被告は,後記(2)イのとおり,被告が特許権を有する特許第294 8879号の特許(以下「被告特許」という。)の出願は本件出願の 優先日前にされたものであり,被告特許は本件特許の先願特許に当た るところ,被告製品は被告特許の実施品であって,被告による被告製 品の製造及び販売は自己の先願特許の実施として適法な行為であるか ら,本件特許権侵害を構成するものではない旨主張する。
しかし,自己の先願の特許発明実施が他者の後願の特許発明の技 術的範囲に属するような態様で行われる場合,他者の特許権の侵害に 当たることは当然であり,被告の主張は,その主張自体理由がない。
また,被告主張の被告特許の請求項1に係る発明(以下「被告特許 発明」という。)は,@「ポリアミン1分子当たりに対し,少なくと も1個のジチオカルボキシ基:-CSSH,またはその塩を上記ポリ アミンの活性水素と置換したN-置換基として有するポリアミン誘導 体」とA「平均分子量5000以上のポリエチレンイミン1分子当た り,少なくとも1個のジチオカルボキシ基またはその塩を上記ポリエ チレンイミンの活性水素と置換したN-置換基として有するポリエチ レンイミン誘導体」とからなることを構成要件とするものであるが, 前述のとおり,被告は,「ピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ 酸カリウム」及び「ピペラジン-N-カルボジチオ酸カリウム」を主 要有効成分とする「ポリアミン誘導体」(ピペラジン誘導体)のほか に,被告製品に含有されているとする異成分の実体及び割合について 積極的な立証をしておらず,被告製品が被告特許発明にいう「ポリエ チレンイミン誘導体」を含有し,「ポリアミン誘導体」と「ポリエチ レンイミン誘導体」とからなることについて立証がされていない。
かえって,原告の実験結果(甲10)によれば,被告製品(製品名「 NEWエポルバ810」及び「NEWエポルバ810S」)には,平 均分子量5000以上の高分子成分が含まれないことが確認されてい る。
したがって,被告製品は被告特許発明実施品に該当するものとは 認められないから,被告の主張は,その前提を欠いている。
b 以上のとおり,被告による被告製品の製造及び販売は自己の先願特 許の実施として本件特許権侵害を構成するものではないとの被告の主 張は理由がない。
(2) 被告の主張 ア 特許請求の範囲の限定解釈 (ア) 原告は,本件各発明は,飛灰用重金属固定化処理剤の主要有効成分 であるジチオカルバミン酸系化合物の原料アミン化合物として,ピペラ ジンに着目し,ピペラジンから合成されるピペラジンジチオカルバミン 酸(ピペラジンカルボジチオ酸と同一のもの。以下同じ。)又はその塩 が,高度の重金属固定化能のみならず,加熱又は酸を添加したときでも 分解しにくく安定性に優れているという特長を有することに焦点を当て た発明であり,本件明細書の段落【0021】,【0022】に記載さ れている「安定性試験」(対象となる化合物の水溶液について65℃に 加温した場合及びpH調整剤として塩化第二鉄(FeCl3,38%水 溶液)を20重量%添加した場合のそれぞれについて,硫化水素ガスの 発生を調べる試験)に示された硫化水素が発生しないという効果は,本 件各発明の固有の効果である旨主張する。
このような原告の主張を前提とすれば,本件各発明の技術的範囲は, 副生成物として,硫化水素の発生源となるチオ炭酸塩等を含まない,純 然たる「ピペラジン-N-カルボジチオ酸もしくはピペラジン-N,N ’-ビスカルボジチオ酸のいずれか一方もしくはこれらの混合物又はこ れらの塩」のみから構成され,安定性試験において硫化水素を発生しな い飛灰中の重金属固定化処理剤に限定して解釈されるべきである。
(イ) しかるに,被告製品は,その製造工程においてチオ炭酸塩等の副生 成物を対象とした除外工程がなく,副生成物であるチオ炭酸塩等を含ま ない,純然たる「ピペラジン-N-カルボジチオ酸もしくはピペラジン -N,N’-ビスカルボジチオ酸のいずれか一方もしくはこれらの混合 物又はこれらの塩」のみから構成されているものではない。また,被告 製品は,乙3の試験報告書(被告製品の水溶液を65℃に加温する試験 及びpH調整剤として塩化第二鉄(Fecl 3,38%水溶液)を20 重量%添加する試験)に示されているとおり,安定性試験において硫化 水素を発生するものである。
したがって,被告製品は本件各発明の技術的範囲に属さない。
イ 先願特許の実施(ア) 先願に係る他者の特許権等との関係を定めた実用新案法17条,2 6条(特許法81条)の趣旨に照らし,自己の製品が他者の特許の先願 に係る自己の特許の実施品である場合,かかる先願特許権者は,後願た る特許権の禁止権によって制約されることなく,自己の先願特許を自由 に実施することができるというべきである。
しかるところ,被告製品は,以下に述べるとおり,本件特許の先願特 許である被告特許の実施品であるから,被告による被告製品の製造及び 販売は自己の先願特許の実施として適法な行為であり,本件特許権侵害 を構成するものではない。
(イ)a 被告は,発明の名称を「金属捕集剤及び金属捕集方法」とする特 許第2948879号の特許(被告特許)の特許権者である。被告特 許は,平成2年7月13日に出願(優先権主張日平成1年12月20 日・優先権主張国日本,特願平2-186744号)され,平成11 年7月2日に設定登録されたものである。
被告特許の出願は,本件出願の優先権主張日(平成6年12月2 日)より前にされたものであるから,被告特許は,本件特許の先願特 許に当たる。
b 被告特許に係る願書に添付した明細書(ただし,平成18年7月1 1日付け審決(訂正2006-39096号事件)による訂正後のも の。乙11)の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(被告特許発 明)を構成要件に分説すると,次のとおりである。
「(a) エチレンジアミン,・・・,ピペラジン,・・・,m-トルイ レンジアミンよりなる群から選ばれた1種又は2種以上の分子量 500以下のポリアミンに,アルカリの存在下又は非存在下で二 硫化炭素を反応せしめて得られる,ポリアミン1分子当たりに対 し,少なくとも1個のジチオカルボキシ基:-CSSH,または その塩を上記ポリアミンの活性水素と置換したN-置換基として 有するポリアミン誘導体と, (b) 平均分子量5000以上のポリエチレンイミン1分子当た り,少なくとも1個のジチオカルボキシ基またはその塩を上記ポ リエチレンイミンの活性水素と置換したN-置換基として有する ポリエチレンイミン誘導体とからなり, (c) ポリアミン誘導体とポリエチレンイミン誘導体とを重量比 で,ポリアミン誘導体:ポリエチレンイミン誘導体=9〜7:1 〜3の割合で含有することを特徴とする金属捕集剤。」c 被告製品は,@ピペラジン-N-カルボジチオ酸カリウム,Aピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸カリウムをその有効成分として含有するところ,@及びAは,いずれもポリアミンの一種であるピペラジンに,水酸化カリウムの存在下に二硫化炭素を反応させて得られる,ポリアミン1分子当たり1個(@の場合)又は2個(Aの場合)のジチオカルボキシカリウム塩(-CSSK)を,上記ピペラジンの活性水素と置換したN-置換基として有する「ポリアミン誘導体」であるから,被告製品は,被告特許発明構成要件(a)を充足する。
また,被告製品は,上記「ポリアミン誘導体」と,平均分子量5000以上のポリエチレンイミン1分子当たり,少なくとも1個のジチオカルボキシ基またはその塩を上記ポリエチレンイミンの活性水素と置換したN-置換基として有するポリエチレンイミン誘導体である「高分子ポリエチレンイミン誘導体」とを有効成分とする飛灰中の重金属固定化処理剤であって,上記「ポリアミン誘導体」と上記「高分子ポリエチレンイミン誘導体」とを重量比で「8〜9:1〜2」の割合で含有するから,被告特許発明構成要件(b)及び(c)を充足する。
d 以上のとおり,被告製品は,被告特許発明構成要件(a)ないし(c)をいずれも充足するから,被告特許の実施品である。
したがって,被告による被告製品の製造及び販売は,自己の先願特許の実施として適法な行為であり,本件特許権侵害を構成するもので はない。
2 争点2(本件特許権に基づく権利行使の制限の成否)について (1) 被告の主張 本件特許には,以下のとおり無効理由があり,特許無効審判により無効と されるべきものであるから,特許法104条の3第1項の規定により,原告 は,被告に対し,本件特許権を行使することができない。
ア 無効理由1(乙12に基づく新規性の欠如) 本件各発明は,以下のとおり,本件出願の優先権主張日(平成6年12 月2日)前に頒布された刊行物である特開平3-231921号公報(乙 12)に記載された発明(以下「乙12記載発明」という。)と同一であ るから,本件特許には,特許法29条1項3号に違反する無効理由(同法 123条1項2号)がある。
(ア) 乙12は,被告特許の公開特許公報(平成3年10月15日出願公 開)である。
乙12には,「本発明の金属捕集剤は飛灰,汚泥,鉱滓,土壌等に添 加して混練し,これらの中の重金属を固定化する金属捕集方法に適用す ることができる。本発明において用いるポリアミン誘導体,ポリエチレ ンイミン誘導体は,1級及び/又は2級アミン基を有するポリアミン分 子や,1級及び/又は2級アミノ基を有するポリエチレンイミン分子の 窒素原子に結合する活性水素と置換したN-置換基として,少なくとも 1個のジチオカルボキシ基:-CSSH又はその塩,例えばナトリウム 塩,カリウム塩等のアルカリ金属塩,カルシウム塩等のアルカリ土類金 属塩,アンモニウム塩等(以下,ジチオカルボキシ基及びその塩をまと めて単にジチオカルボキシ基と呼ぶ),を有する化合物である。」,「 このポリアミン誘導体,ポリエチレンイミン誘導体は,例えばポリアミ ンやポリエチレンイミンに二硫化炭素を反応せしめることにより得られ るが,更に反応終了後,水酸化ナトリウム,水酸化カリウム,水酸化ア ンモニウム等のアルカリで処理するか,或いは前記反応をアルカリの存 在下で行うことによりジチオカルボキシ基末端の活性水素をアルカリ金 属,アルカリ土類金属,アンモニウム等で置換することができ る。」,「本発明金属捕集剤を構成するポリアミン誘導体の骨格をなす ポリアミンとしては分子量500以下,特に好ましくは分子量60〜2 50のポリアミンが用いられる。上記ポリアミンとしては,エチレンジ アミン,・・・ジエチレントリアミン,・・・ピペラジン,・・・等が 挙げられる。」(以上,7欄2行〜9欄12行)との記載がある。
(イ) 上記記載から明らかなとおり,乙12には,アルカリ存在下で,ピ ペラジンと二硫化炭素を反応させた飛灰中の重金属固定化処理剤が記載 されている。
そして,アルカリ存在下で,ピペラジンと二硫化炭素を反応させた場 合には,「ピペラジン-N-カルボジチオ酸もしくはピペラジン-N, N’-ビスカルボジチオ酸のいずれか一方もしくはこれらの混合物又は これらの塩」が生成されることになるから,乙12の上記記載は,「ピ ペラジン-N-カルボジチオ酸もしくはピペラジン-N,N’-ビスカ ルボジチオ酸のいずれか一方もしくはこれらの混合物又はこれらの塩か らなる飛灰中の重金属固定化処理剤」という本件発明1の構成要件A及 びBをすべて開示するものである。
もっとも,乙12記載の飛灰中の重金属固定化処理剤は,「ポリアミ ン誘導体」成分と「高分子ポリエチレンイミン誘導体」成分とからなる ものであるが,原告が主張するように,本件発明1には,「ピペラジン カルボジチオ酸又はその塩」を必須の主要有効成分とすること以外に, その構成を成分的に更に限定する要件は存しないとの前提に立つ以上, 乙12記載の飛灰中の重金属固定化処理剤において,「ポリアミン誘導 体」成分としての「ピペラジンカルボジチオ酸又はその塩」と共に,「 高分子ポリエチレンイミン誘導体」成分を含むからといって,乙12記 載の飛灰中の重金属固定化処理剤が本件発明1と構成を異にするという ことはできない。
したがって,本件発明1は,乙12記載発明と同一のものであって, 新規性が欠如している。
(ウ) また,乙12の「このポリアミン誘導体,ポリエチレンイミン誘導 体は,例えばポリアミンやポリエチレンイミンに二硫化炭素を反応せし めることにより得られるが,更に反応終了後,水酸化ナトリウム,水酸 化カリウム,水酸化アンモニウム等のアルカリで処理するか,或いは前 記反応をアルカリの存在下で行うことによりジチオカルボキシ基末端の 活性水素をアルカリ金属,アルカリ土類金属,アンモニウム等で置換す ることができる。」(7欄16行〜8欄4行)との記載は,本件発明2 の構成要件C及びD並びに本件発明3の構成要件E及びFをすべて開示 するものである。
したがって,本件発明2及び本件発明3も,乙12記載発明と同一の ものであって,新規性が欠如している。
イ 無効理由2(乙12に基づく進歩性の欠如) 本件各発明は,以下のとおり,当業者が乙12に基づいて容易に想到することができたものであるから,本件特許には,特許法29条2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。
(ア) 本件各発明と乙12記載発明との対比 前記アで述べたとおり,乙12には,本件各発明の構成要件のすべて が開示されている。あえて本件各発明と乙12記載発明との相違点を挙 げるとすれば,本件各発明では,ポリアミンが「ピペラジン」に限定さ れているのに対し,乙12には,ポリアミンとして,「ピペラジン」の ほかに,数種の化合物が列挙されている点のみにあり,他に相違点は存 在しない。
そして,以下に述べるとおり,本件出願の優先権主張日当時,当業者 であれば乙12に列挙された数種の化合物から「ピペラジン」を選択し て,本件各発明に想到することが容易であったものである。
(イ) 容易想到性 a 技術分野の同一性 乙12記載発明と本件各発明は,いずれも飛灰等に含まれる重金属 の捕集剤及び捕集方法に関する発明であるから,両発明の技術分野は 同一である。
b 課題の公知性 乙19(石川禎昭「新しい耐熱キレートによる高性能の飛灰処理技 術」(「環境施設58 1994」,平成6年12月1日発行)) には,集塵灰の飛灰処理のための液体キレート(重金属固定剤)の一 例として,「ピロリジン系イオウ化合物」が挙げられ,同化合物 が,「酸性物質が混入されても,硫化水素などの有害ガスの発生は全 くなく,取り扱いも簡単で安心して使用できる耐熱性液体キレートで ある。」(8頁右欄4行〜7行)との記載があり,また,表-4の「 液体キレートの性状及びコスト比較」(9頁)において,特徴として 硫化水素ガスの発生の有無が記載されている。
このような乙19の記載事項からすれば,「飛灰中の重金属固定化 処理剤」において硫化水素等の有害ガスの発生を抑止するという技術 的な課題は,本件出願の優先権主張日(平成6年12月2日)当時既 に公知となっていたものである。
c 化学構造式からの予測可能性 (a) 安定性試験において,ジチオカルバミン酸塩を加熱したときに 硫化水素(H 2 S)が発生するかどうかは,ジチオカルバミン酸基 のNに結合する置換基によって決まり,一級アミン由来のジチオカ ルバミン酸塩は容易に硫化水素を発生し,二級アミン由来のジチオ カルバミン酸塩は容易に硫化水素を発生しない。これは,化合物の 構造特性からくる性質の差異によるものである。
すなわち,一級アミン由来のジチオカルバミン酸塩を加熱した場 合には,別紙1記載の反応式(1)のとおり,当該ジチオカルバミン 酸塩8の窒素上の水素とそのとなりの炭素上のS-M基が,熱的に は容易に脱離し,硫化水素金属化物9とイソチオシアナート10を 与え,次いで,硫化水素金属化物9は,硫化水素11と金属硫化物 12に容易に不均化する。
他方,二級アミン由来のジチオカルバミン酸塩を加熱した場合に は,別紙1記載の反応式(2)のとおり,当該ジチオカルバミン酸塩 8’の窒素上のR基とS-M基の脱離は熱的にも困難であり,ま た,たとえ脱離によって9’を生成しても,ここから硫化水素が発 生する経路を考えることは困難である。
(b) 以上については,岐阜大学工学部のYT教授作成の鑑定書(乙 18。以下「YT鑑定書」という。)に示されたとおりであり,ま た,被告が,ピペラジンと同じ二級アミンであるジエチルアミンの カルボジチオ酸カリウム塩の「精製品」(純然たる化合物。以下同 じ。),本件明細書記載の実施例の化合物1(ピペラジン-N, N’-ビスカルボジチオ酸ナトリウム)及び化合物No.2(ピペラ ジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸カリウム)の各精製品に関し て安定性試験を行ったところ,いずれの化合物についても,65℃ 加温試験及び塩化第二鉄の添加試験において,硫化水素が発生しな かったこと(乙17)からも確認される。
このように,純然たる化合物としてのジチオカルバミン酸塩の安 定性試験において,一級アミン由来のジチオカルバミン酸塩は容易 に硫化水素を発生させるのに対し,二級アミン由来のジチオカルバ ミン酸塩は硫化水素を発生させないことは,化合物の構造特性から くる性質の差異によるものであり,本件出願の優先権主張日当時, 当業者であれば,化学構造式から容易に知り得たことといえる。
d 乙12の記載事項 乙12には,「本発明金属捕集剤を構成するポリアミン誘導体の骨格をなすポリアミンとしては,分子量500以下,特に好ましくは分子量60〜250のポリアミンが用いられる。上記ポリアミンとしては,エチレンジアミン・・・ピペラジン・・・等が挙げられる。」(8欄9行目〜9欄12行目)との記載がある。
上記のとおり,乙12には,ポリアミン誘導体の骨格をなすポリアミンとして,ピペラジンが具体的に列挙されており,しかも,ピペラジン(分子量:86.14)は特に好ましいとされる分子量60〜250の範囲にある。
また,乙12に列挙されたポリアミンのうち,二級アミンはピペラジンのみであり,その余は一級アミンを含むものである。
e 本件各発明の作用効果が顕著なものではないこと(a) 発明の構成自体を想到することが容易である場合に当該発明の 進歩性が肯定されるためには,当該発明の出願により明らかにされ た効果が,当業者が当該発明の構成のものとして通常予測し得る範 囲を超えた顕著なものであることを要するというべきである。
しかるに,原告が本件出願後に行った特許出願に係る特開200 5-336128号公報(乙14)には,ジチオカルバミン酸塩水 溶液を製造するに当たって,アミン化合物中のアミノ基量に対する 二硫化炭素のモル比を特定の値(0.98〜1.0)にコントロールしない限り,チオ炭酸塩が相当量生成されて,これにより硫化水素(H2S),二硫化炭素(CS2)等のガスが発生することが記載されている(段落【0018】,【0019】)。
そして,乙14の合成例1及び3には,それぞれ所定の方法で製造されたピペラジン-N,N’-ビスジチオカルバミン酸カリウム(本件各発明の対象であるピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸カリウムと同一のもの)が示されているところ,合成例1(段落【0034】)は,アミン化合物中のアミノ基量に対する二硫化炭素のモル比を特定の値(0.98〜1.0)にコントロールしたものであり,他方,合成例3(段落【0036】)は,当該モル比が1.0を超えるものである。
この合成例3の「ピペラジン-N,N’-ビスジチオカルバミン酸カリウム」は,「表1」(段落【0041】)に示すとおり,チオ炭酸塩を0.8重量%含み,65℃に加温した場合に,二硫化炭素ガス30ppm が発生するものであるが,同時に,チオ炭酸塩は「水溶液を空気のない所で加熱すると二硫化炭素,水酸化カリウム,硫化水素を生ずる」(乙15)ものとされているから,チオ炭酸塩が相当量生成されている乙14の合成例3では,二硫化炭素ガスのみならず,硫化水素も発生することは明らかである。
一方で,本件各発明において,製造方法や副生成物であるチオ炭酸塩の量的な限定等はされていないことからすれば,乙14の合成例3に従って製造された,副生成物としてチオ炭酸塩を0.8重量%を含むピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸カリウムからなる飛灰中の重金属固定化処理剤は,本件各発明に含まれるものと理解される。
そうすると,ピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸カリウムを製造する条件によって,得られた物質を加熱したときに硫化水素が発生することも,発生しないことも,両方の場合があるのであるから,本件明細書に記載された「安定性試験」における「硫化水素を発生しない」という発明の効果(段落【0021】,【0022】)は,本件各発明の対象とされる飛灰中の重金属固定化処理剤の固有の効果であるとはいえない。このように本件各発明の対象は,飽くまで飛灰中の重金属固定化処理剤であるから,「ピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸」そのものの効果をいくら確認したところで,かかる効果は,本件各発明の固有の効果であるとはいえない。
なお,本件明細書の合成例2のアミン化合物(化合物2)中のアミノ基量に対する二硫化炭素のモル比を計算すると,「1.60」となり,合成例2のモル比は1.0をはるかに超えているので,乙14の上記記載に照らすならば,チオ炭酸塩が0.03重量%以上となるのは明らかであるから,本件明細書の合成例2に関する安定性試験において,硫化水素が発生しないという結果は,乙14の記載と矛盾した結果を示しており,その信頼性が欠如している。
この点について原告は,後記のとおり,本件各発明の合成例1及び合成例2では,「反応液に窒素を吹き込み未反応の二硫化炭素を留去した」というプロセスを経ており,これは,目的物質であるピペラジンカルボジチオ酸塩の合成過程でチオ炭酸塩などの副生成物が生成・混在することを抑制するための技術的手法の一つである旨主張する。しかし,「反応液に窒素を吹き込み未反応の二硫化炭素を留去した」というプロセスを,ピペラジン-N,N’-ビスカル ボジチオ酸カリウムの水溶液にいくら行ったとしても,チオ炭酸塩 などの副生成物が生成・混在することを抑制することはできない。
すなわち,合成例2は,「ガラス製容器中に窒素雰囲気下,ピペ ラジン112重量部,KOH48.5%水溶液316重量部,水3 95重量部を入れ,この混合溶液中に撹拌しながら40℃で二硫化 炭素316部を4時間かけて滴下した。滴下終了後,同温度にて約 2時間熟成を行った。反応液に窒素を吹き込み未反応の二硫化炭素 を留去したところ,黄色透明の液体を得た。ヨード滴定により測定 した結果,この水溶液中のピペラジン-N,N’-ビスカルボジチ オ酸カリウム濃度は40wt%であった。」(本件明細書の段落【 0018】)というものである。上述したとおり,乙14の記載に よれば,「反応液に窒素を吹き込み未反応の二硫化炭素を留去し た」というプロセスを行う前のピペラジン-N,N’-ビスカルボ ジチオ酸カリウムを合成する段階で,既に,チオ炭酸塩が0.03 重量%以上生成しているので,その後の段階で,いくら二硫化炭素 を留去したところで,既に生成されているチオ炭酸塩を留去するこ とができないのは明白である。このことは,被告の行った追試結 果(乙17)によって確認されている。
(b) さらに,前記cのとおり,純然たる化合物として考えた場合, ピペラジン(二級アミン)由来のジチオカルバミン酸系化合物(本 件明細書記載の化合物1及び2)の方が,エチレンジアミン, ジエチレントリアミン(いずれも一級アミノ基を含む。)由来のジ チオカルバミン酸系化合物(本件明細書記載の化合物3及び 4)よりも安定なことは,化学構造式から容易に知り得ることであ って,本件各発明の作用効果が当業者が通常予測し得る範囲を超え た顕著なものでないことは明らかである。
この点について原告は,後記(2)のとおり,ピペラジンが加熱及 び酸の添加に対する安定性が高く有害ガス(CS2,H2S等)の発 生抑制に結びつくという知見そのものが,本件出願前にはなかった から,本件各発明に予測困難な格別な効果がある旨主張するが,上 記のとおり,このことは化学構造式から容易に知り得ることである から失当である。
f 小括 前記aないしdを総合すると,@乙12記載発明と本件各発明は,いずれも飛灰等に含まれる重金属の捕集剤及び捕集方法に関する発明であるから,両発明はその技術分野を同一にするところ,当該技術分野において,硫化水素などの有害ガスを発生させないようにするという技術的課題は,本件出願の優先権主張日当時既に公知であったこと,A安定性試験において,一級アミン由来のジチオカルバミン酸塩は容易に硫化水素を発生させるのに対し,二級アミン由来のジチオカルバミン酸塩は硫化水素を発生させないことは,化合物の構造特性からくる性質の差異であって,本件出願の優先権主張日当時,当業者であれば容易に知り得たこと,B乙12にポリアミンとして記載されている二級アミンはピペラジンだけであることからすれば,乙12に接した当業者であれば,乙12においてポリアミンとして記載されている数種の化合物のうちで唯一の二級アミンであるピペラジンを選択し,ピペラジンジチオカルバミン酸塩からなる飛灰中の重金属固定化処理剤(本件発明1)に想到することは容易であったというべきである。しかも,ポリアミンとしてピペラジンを選択し,ピペラジンジチオカルバミン酸塩系化合物の構成とすることによって当業者が通常予測し得る範囲を超えた顕著な作用効果を奏するものでないことは,前記eのとおりである。
したがって,当業者であれば,乙12に基づいて本件各発明を容易 に想到することができたものというべきであるから,本件各発明は, 進歩性が欠如している。
ウ 無効理由3(乙34の2に基づく新規性の欠如) 本件発明1及び2は,本件出願の優先権主張日(平成6年12月2日)前に頒布された刊行物である乙34の2(「POLYMERIC CHELATES OF COPPER PIPERAZINE-BIS-DITHIOCARBAMATE(COPPER PIPERAZINE-BIS-N,N'-CARBODITHIOATE)」(CHEMIA ANALITYCZNA,1965年))に記載された発明(以下「乙34の2記載発明」という。)と同一であるから,本件特許には,特許法29条1項3号に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。
乙34の2には,@ピペラジンジチオカルバミン酸ナトリウムの水溶液中では,ピペラジンジチオカルバミン酸イオンが重金属とキレートを作って重金属を固定化すること,Aそのキレートは水混和性溶媒を用いて抽出が可能であり,水混和性のない溶媒には溶解しないこと,Bその安定性はピペラジンの構造によるものであること,C重金属の固定化は,任意のpH値において起こることが記載されている。
上記記載によれば,乙34の2には,本件発明1の構成要件A及びB並びに本件発明2の構成要件C及びDがすべて開示されている。
したがって,本件発明1及び2は,乙34の2記載発明と同一のものであって,新規性が欠如している。
エ 無効理由4(乙34の2に基づく進歩性の欠如) 本件発明3は,当業者が乙34の2に基づいて容易に想到することができたものであるから,本件特許には,特許法29条2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。
すなわち,乙34の2記載の発明と本件発明3とは,前者がナトリウム 塩(「ピペラジンカルボジチオ酸ナトリウム」)であるのに対し,後者はカリウム塩(「ピペラジンカルボジチオ酸カリウム」)であるとの点での相違があるのみである。
そして,乙34の2の記載事項(前記ウ@ないしC)をも考慮すれば,当業者であれば,乙34の2に基づいて本件発明3を容易に想到することができたものというべきである。
したがって,本件発明3は,進歩性が欠如している。
オ 無効理由5(実施可能要件違反) 本件明細書の発明の詳細な説明には,以下のとおり,当業者において本件各発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分な記載があるとはいえないから,本件特許には,平成14年法律第24号による改正前の特許法36条(以下「特許法旧36条」という。)4項に違反する無効理由(特許法123条1項4号)がある。
(ア) 前記1(2)ア(ア)の原告の主張を前提とすれば,本件各発明は,副 生成物であるチオ炭酸塩等を含まない,純然たる「ピペラジン-N,N ’-ビスカルボジチオ酸カリウム」化合物を用いた重金属固定化処理剤 の発明ということになるから,本件明細書の発明の詳細な説明には,上 記化合物の製造方法が開示されている必要がある。
しかるところ,前記イ(イ)e(a)のとおり,乙14(原告が本件出願 後に行った特許出願に係る特開2005-336128号公報)によれ ば,ピペラジンジチオカルバミン酸塩の製造に当たっては,少なくと も,アミン化合物中のアミノ基量に対する二硫化炭素のモル比が1.0 を超える場合には,チオ炭酸塩が副生成され,65℃に加温すれば硫化 水素が発生するものと考えられるから,副生成物であるチオ炭酸塩を含 まない,純然たる「ピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸カリウ ム」化合物を用いた重金属固定化処理剤を製造するためには,アミン化 合物中のアミノ基量に対する二硫化炭素のモル比が1.0を超えないようにする必要があるが,そのようなことは,本件明細書の発明の詳細な説明には一切記載されていない。
また,被告が,本件明細書の実施例記載のとおりに合成した化合物No.1及び化合物No.2の「未精製品」に関して,実施例記載の「安定性試験」の追試をした結果,65℃に加温した場合及び塩化第二鉄を添加した場合のいずれにおいても,硫化水素が発生した(乙17,24)。このことは,副生成物であるチオ炭酸塩等を含まない,純然たる「ピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸カリウム」化合物を得られていないことを示している。仮に本件明細書記載の「安定性試験」において硫化水素が発生しないという結果が事実であるとしても,二硫化炭素については,化合物No.1において,加温試験で「1600ppm」,塩化第二鉄の添加試験で「26ppm」,化合物No.2においては,加温試験で「2500ppm」,塩化第二鉄の添加試験で「38ppm」(乙24,表7,表10)という数値を示し,大量に発生していることが確認されている以上,「安定」(加熱又は酸の添加による逆反応が起こりにくい)とは到底言えず,本件各発明を実施できないことは明らかである。
さらに,本件各発明は,あらゆる製造方法により製造された「ピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸カリウム」を包含するものであるところ,本件明細書の記載から当業者がどのような製造方法を用いれば副生成物を含まない化合物を得られるかを理解することはできないから,上記実施例の記載をもって特許法旧36条4項実施可能要件を充足することにはならない。
この点について,原告は,後記(2)エ(イ)のとおり,本件各発明の実施例では,「反応液に窒素を吹き込み未反応の二硫化炭素を留去した」 ことが明記されているから,十分な記載がある旨主張するが,この方法 では,既に副生成されたチオ炭酸塩を除去することはできず,原告の主 張は失当である。
(イ) したがって,本件明細書の発明の詳細な説明には,当業者において 本件各発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分な記載がある とはいえないから,本件特許は,実施可能要件(特許法旧36条4項) に適合しない。
カ 無効理由6(サポート要件違反) 本件各発明の特許請求の範囲の記載は,以下のとおり,発明の詳細な説明に記載されたものでないものを含んでいるから,本件特許には,特許法旧36条6項1号に違反する無効理由(特許法123条1項4号)がある(ア) 前記1(2)ア(ア)のとおり,原告は,安定性試験において硫化水素 ガスが発生しないという効果をもって,本件各発明の固有の効果である 旨主張する。
他方で,前記イ(イ)e(a)のとおり,乙14には,合成例3として, 所定の方法で製造された「ピペラジン-N,N’-ビスジチオカルバミ ン酸カリウム」(「ピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸カリウ ム」と同一のもの)が示されているところ,当該物質は,チオ炭酸塩を 0.8重量%含むものとされているから,これを65℃に加温すれば硫 化水素が発生するものと考えられる。
本件各発明は,いずれも,「ピペラジン-N,N’-ビスカルボジチ オ酸カリウムからなる飛灰中の重金属固定化処理剤」をその技術的範囲 に含むところ,その製造方法や硫化水素発生の有無については,本件各 発明の特許請求の範囲に何ら記載されていないから,乙14の合成例3 に従って製造された「ピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸カリ ウム」からなる飛灰中の重金属固定化処理剤も,本件各発明の技術的範 囲に含まれるものといえる。
そうすると,原告が本件各発明の固有の効果であると主張する,安定 性試験において硫化水素ガスが発生しないという効果を奏さない物質( 乙14の合成例3に従って製造された「ピペラジン-N,N’-ビスカ ルボジチオ酸カリウム」からなる飛灰中の重金属固定化処理剤)が本件 各発明の特許請求の範囲に含まれることになる。
(イ) 以上のとおり,原告の主張する本件各発明の固有の効果を奏さない ものが特許請求の範囲の記載に含まれる以上,本件各発明は発明の詳細 な説明に記載されたものでないものを含むものといえるから,本件特許 は,サポート要件(特許法旧36条6項1号)に適合しない。
(2) 原告の主張 ア 無効理由1に対し (ア) 被告は,乙12の7欄2行ないし9欄12行の記載中に,本件各発 明の構成要件のすべてが開示されている旨主張する。
しかし,当該引用箇所には,ポリアミン誘導体とポリエチレンイミン 誘導体の合成に関する記載があり,その中にポリアミンという抽象的な 包括上位概念に属する30種を超える多種多様な化合物の名称がランダ ムに羅列され,その末尾あたりに「ピペラジン」という一語がたまたま 記載されているに過ぎない。このような一語のみを根拠に,乙12に, アルカリ存在下で,ピペラジンと二硫化炭素を反応させた飛灰中の重金 属固定化処理剤が記載されているといえないことは明らかである。
(イ) 次に,乙12には,被告特許発明に係る実施例として,ポリアミン 誘導体に当たる具体的な5種類の化合物が記載されているが,それら は,いずれもエチレン系の直鎖状のポリアミンに限定されており,環状 の「ピペラジン」を骨格とするポリアミン誘導体を合成して使用に供す るという具体的な記載は存在しない。
(ウ) さらに,乙12の記載中には,本件各発明のように「ピペラジン」 という特定の化学物質に着目した上で,「ピペラジン」を必須の構成要 素とする重金属捕集剤に焦点を当て,その技術的構成及び作用効果を具 体的に記載していると認められるような箇所は,実施例のみならず,比 較例をも含めて一切存在しない。
すなわち,本件明細書の記載(前記1(1)ア(ア))によれば,本件各 発明の必須不可欠の構成要素は,飛灰用の重金属固定化処理剤の主要有 効成分が「ピペラジンカルボジチオ酸又はその塩」であり,ジチオカル バミン酸系化合物の原料アミン化合物として「ピペラジン」という特定 の化合物に着目したことにより,高度の重金属固定化能と共に,加熱又 は酸の添加によっても,分解しにくく(合成されたジチオカルバミン酸 系化合物の逆反応が起こりにくく),安定性(熱的な安定性及びpH調 整剤との混練に対する安定性)に優れているという作用効果を実現した ものである。
そして,それを具体的に示したのが,本件明細書記載の安定性試験及 びその結果であり,本件明細書の「表1」が示すとおり,本件各発明の 実施例である化合物1(ピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸 ナトリウム)及び化合物2(ピペラジン-N,N’-ビスカルボジチ オ酸カリウム)では,65℃に加温した場合も,pH調整剤として塩化 第二鉄(FeCl 3,38%水溶液)を20重量%添加した場合も,硫 化水素ガス(H2S)の発生は検知されなかったのである。
これに対して,乙12には,重金属固定化処理剤として用いられるジ チオカルバミン酸系化合物の安定性の高さ,特に,加熱又は酸の添加に よる分解反応が起こりにくいジチオカルバミン酸系化合物を実現すると いう技術的な思想あるいは視点について,何ら開示がない。
そもそも,乙12には,加熱又は酸の添加によるジチオカルバミン酸 系化合物の分解によって有害ガス(CS2,H2S)が発生するという問 題意識がないから,それを解決する技術的手段が示されていないのは当 然である。
(エ) 以上によれば,乙12においては,「ピペラジン」を必須の構成要 素とする本件各発明の構成要件が開示されているとはいえないから,被 告主張の無効理由1は理由がない。
イ 無効理由2に対し(ア) 本件各発明と乙12記載発明との対比の主張に対し 乙12記載発明の技術的構成と本件各発明の技術的構成を対比する と,乙12記載発明(被告特許発明)の構成は,前記1(1)ウ(イ)のと おり,「ポリアミン誘導体(A成分)」と「高分子ポリエチレンイミン 誘導体(B成分)」の両成分をいずれも必須の要件とすることによって 特定されるのに対し,本件各発明の構成では「ピペラジンカルボジチオ 酸又はその塩」を必須の要件とすること以外に成分的な限定がない点で 異なり,両発明は,構成要件において決定的に異なる発明である。
次に,両発明の作用効果を対比すると,乙12記載発明の作用効果 は,@「金属を捕集して形成されたフロックが大きく,フロックの沈澱 速度が大きいため廃水中の金属イオンを効率良く捕集除去できる。」, A「フロックへの水のからみが従来の金属捕集剤を用いた場合に比して 少ないため,フロックを分離除去して固めて得たケーク中の含水量を少 なくすることができ,ケークの処理が容易となる。」,B「クロム( V),ニッケル,コバルト,マンガン等の金属イオンに対する捕集性に 優れ,更に従来よりも多種の金属イオンを効率良く捕集できるため,処 理対象廃水の範囲が拡大される。」,C「飛灰,汚泥,鉱滓,土壌等に 含まれる重金属が強固に固定されるため,その後セメントにて固化して 海洋投棄や埋め立て等によって処理した場合でも,セメント壁を通して 金属が流出する虞がなく,しかも・・・被処理物の容量が小さくなり, ・・・固化に用いるセメントの量を少なくできるとともに廃棄処理時の 取扱も容易となる」(以上,乙12の5欄16行〜6欄10行,25欄 1行〜26欄12行)というものである。このように乙12記載発明の 主たる目的は,廃水処理における金属イオンの捕集除去であり,フロッ ク(水処理関連分野において,凝集作用によって生成した大きな粒子で フワフワした浮遊物質の集合体)の形成能(形成されるフロックが大き く,廃水中での沈澱速度が速く,水分の絡みが少ないことなど)に特段 の技術的意味が存在するものである。
これに対し本件各発明は,その構成として「ピペラジンカルボジチオ 酸又はその塩」を必須の要件とすることにより,前述のとおり,高度の 重金属固定化能とともに,加熱又は酸の添加によっても,分解しにく く(合成されたジチオカルバミン酸系化合物の逆反応が起こりにく く),安定性(熱的な安定性及びpH調整剤との混練に対する安定性) に優れているという作用効果を実現したものであり,乙12記載発明の 作用効果とは明らかに異なるものである。
このように乙12記載発明と本件各発明とは,重金属固定化処理剤と して解決を要するそれぞれが認識している技術的課題が全く異なるもの であって,本件各発明は,乙12記載発明とは異なる技術的課題の下 に,乙12記載発明とは異なる技術的構成を採用し,その結果,乙12 記載発明においては全く実現されていない異質かつ顕著な効果を奏して いる。
(イ) 容易想到性の主張に対し a 被告は,安定性試験において,一級アミン由来のジチオカルバミン 酸塩は容易に硫化水素を発生させるのに対し,二級アミン由来のジチ オカルバミン酸塩は硫化水素を発生させないことは,化合物の構造特 性からくる性質の差異であって,本件出願の優先権主張日当時,当業者であれば容易に知り得たことであるとの前提に立った上で,乙12に接した当業者が,乙12においてポリアミンとして記載されている数種の化合物のうちで唯一の二級アミンであるピペラジンを選択し,本件各発明に想到するすることは容易であった旨主張する。
しかしながら,以下に述べるとおり,飛灰用重金属固定化処理剤の技術分野においては,「二級アミン由来のジチオカルバミン酸塩は硫化水素を発生させない」との前提は,技術的に誤りである。
かえって,二級アミン由来のジチオカルバミン酸塩が硫化水素を発生させることは,本件出願の優先権主張日当時,当業者の間で周知の技術事項であったというべきであるから,被告の上記主張は,そもそもその前提を欠き,失当である。
(a) 被告がその主張の根拠とするYT鑑定書(乙18)に刊行物2 として引用されている甲12(「THE DITHIOCRBAMATES AND RELATE D COMPOUNDS」(ジチオカーバメート及び関連化合物),1962 年(昭和37年)発行)の「SOME BASIC REACTIONS SUMMARIZE D」(幾つかの基本的な反応のまとめ)と題する節には,ジチオカ ルバミン酸の生理活性の点で特に重要な反応がFig.4及び同5にま とめられているが,そのFig.4には,二級アミン由来のジチオカル バミン酸塩の分解により二硫化炭素(CS2)と硫化水素(H2S) が発生する反応機構が化学式によって具体的に明示されている。
また,Y@鑑定書が刊行物4として引用する乙19の8頁「表- 3」及び9頁「表-4」には,二級アミン塩に当たるカルバミン酸 系イオウ化合物から「硫化水素ガス発生(少々)」が認められること が明記されている。
(b) 甲13(特開昭59-190205号公報)の「実験3」,「 実験4」及び「実験5ないし8」には,いずれも二級アミンである ジアルキルアミン,ジメチルアミン及びジプロピルアミン由来のジ チオカルバミン酸塩について,その水溶液の温度が約50℃では硫 化水素は発生しないものの,約80℃では硫化水素が発生すること が示されている。
(c) 甲24(「Studies on the stability of dithiocarbamic aci ds」(ジチオカルバミン酸の安定性に関する検討),1969年( 昭和40年))には,25±0.1℃(室温)という温度条件下に いおいて,二級アミンであるジフェニルアミン由来のジチオカルバ ミン酸から,二硫化炭素に伴って硫化水素も発生することが記載さ れ,その反応機構も示されている。
(d) 甲15(The Journal of Physical Chemistry Vol.74, 4.860頁〜865頁」,1970年2月19日)には,@ジチ オカルバミン酸塩は,水溶液中では,窒素原子と炭素原子の間の分 子内水素結合の生成により不安定化し,分解(C-N結合の切断) し易くなること,Aジチオカルバミン酸塩の安定性には窒素に結合 した置換基(R 1,R 2)の大きさが影響し,嵩高い置換基ほど安定 性に対してマイナスとなること(立体効果),B一級アミンのモノ メチル体(片方のRが水素)では,他の二級アミンよりも分解速度 定数が小さく(862頁のTableU),これは一級アミンの方が二 級アミンより安定していることを示していること,C「ジチオカル バミン酸は溶媒によって安定性に影響を受け,溶媒の種類(誘電定 数)によって差があることなどが記載されている。
上記@ないしCの技術事項は,アミンのジチオカルバミン酸塩の 分解反応は原料アミンが一級か二級かという単純な問題で決まるの ではなく,窒素(N)に結合した置換基の大きさや,反応雰囲気中 の溶媒の種類によっても影響を受け,複雑で一義的に決定されるも のではないことを示すものである。
(e) 以上のような公知文献の記載によれば,二級アミン由来のジチ オカルバミン酸塩から硫化水素が発生するに至る分解反応は現に存 在し,そのことは,本件出願の優先権主張日(平成6年12月2 日)当時,当業者の間で周知の技術事項であったものであり,被告 が主張する「二級アミン由来のジチオカルバミン酸塩は硫化水素を 発生させない」との前提は,技術的に誤りである。
b 前記ア(ウ)のとおり,乙12には,ピペラジンという特定の化学物質に着目した上で,ピペラジンを必須の要件とする重金属捕集剤に焦点を当てて,その技術的構成及び作用効果を具体的に記載していると認められるような箇所は一切存在せず,ピペラジンという特定の成分を必須の構成要件とする本件各発明の開示も示唆もない。
また,前記(ア)のとおり,本件各発明と乙12記載発明とは,重金属固定化処理剤として解決を要するそれぞれが認識している技術的課題が全く異なり,課題の共通性も認められない。
被告が主張するように,本件出願の優先権主張日当時に「硫化水素等の有害ガスの発生を抑止するという技術的な課題」自体は公知であり,そのような課題の認識を持った当業者が乙12の記載事項に接したとしても,乙12の記載中に「硫化水素等の有害ガスの発生を抑止する」という課題の示唆ないし着想はなく,乙12に羅列されたポリアミンの中で特に「ピペラジン」に着目する誘因ないし動機は存在しない。
かえって,本件出願の優先権主張日当時は,ピペラジン由来の金属錯体は耐熱性において劣る(50℃の溶液中で数分で分解してしまう)とすらいわれており(甲14の「表1」及び「表2」(39 頁)),「熱」や「酸」に対して安定性の高いジチオカルバミン酸系 化合物を目的とする上で,ピペラジンをわざわざ選択すべき理由はな い。
c(a) そもそも乙12に基づいて飛灰用重金属固定化処理剤の原料ア ミンとしてピペラジンに想到すること自体が当業者にとって極めて 困難であるが,仮に乙12からピペラジンを選択することに想到し 得たとしても,本件各発明のような異質かつ顕著な効果を通常予測 し得るものではない。なぜなら,ピペラジンが加熱及び酸の添加に 対する安定性が高くて有害ガス(CS2,H2S等)の発生抑制に結 び付くという知見そのものが,本件出願の優先権主張日当時にはな かったからである。むしろ,前記bのとおり,本件出願の優先権主 張日当時は,ピペラジン由来の金属錯体は耐熱性において劣る(5 0℃の溶液中で数分で分解してしまう)とすらいわれていたのであ る(甲14の「表1」及び「表2」(39頁))。
したがって,本件各発明には当業者において予測困難な格別の効 果がある。
(b) この点について被告は,乙14の合成例3に従って製造され た,副生成物としてチオ炭酸塩を0.8重量%を含むピペラジン- N,N’-ビスカルボジチオ酸カリウムからなる飛灰中の重金属固 定化処理剤は,硫化水素が発生するところ,本件各発明は,製造方 法や副生成物であるチオ炭酸塩の量的な限定等はされていないこと に照らすならば,乙14の合成例3に従って製造された上記飛灰中 の重金属固定化処理剤は,本件各発明に含まれることになるので, 本件明細書に記載された「安定性試験」における「硫化水素を発生 しない」という発明の効果は,本件各発明の対象とされる飛灰中の 重金属固定化処理剤の固有の効果であるとはいえない旨主張する。
しかし,被告の上記主張は理由がない。
すなわち,乙14記載の発明が抑制する有害ガス(CS2,H2S等)の主な発生源は「チオ炭酸塩」であるのに対し,本件各発明は安定性(熱的な安定性及びpH調整剤との混練に対する安定性)の高いジチオカルバミン酸系化合物を得ることに焦点を当てたものであり,得られた化合物(ピペラジンカルボジチオ酸又はその塩)の安定性の高さ(加熱又は酸の添加によっても分解しにくい)の具体的な発現として有害ガス発生抑制効果を奏しているものであり,両発明は,そもそも抑制の対象とする有害ガスの主な発生源が異なるし,その発生抑制メカニズムも当然異なるものである。
また,乙14の記載から明らかなとおり,乙14の合成例3は,「チオ炭酸カリウム」が副成・混在していない合成例1(段落【0034】,【0040】及び8頁【表1】の化合物1の欄)と比較することを専ら目的として,有害ガス発生源である「チオ炭酸カリウム」が多量に副成・混在するように意図的に合成されたものであり,主要生成物質である「ピペラジン-N,N’-ビスジチオカルバミン酸カリウム」による固有の効果を意図的に(比較可能であるように)減殺する目的で,有害ガス発生作用のある「チオ炭酸カリウム」をわざわざ副生成・混在させた合成例(比較例)である。その比較の結果,合成例3では,合成例1と異なり副生成物である「チオ炭酸塩」(チオ炭酸カリウム)が多量に生成・混在し,その「チオ炭酸塩」が分解したために二硫化炭素が発生したことが認められたということである。
このように乙14の合成例3から,合成例1との比較のために意図的に多量に生成・混在させた副成物である「チオ炭酸カリウム」の分解による有害ガス発生が認められたということと,乙14の合 成例1及び合成例3が「ピペラジン-N,N’-ビスジチオカルバミン酸カリウム」を主要有効成分とする飛灰用重金属固定化処理剤であることとは,全くの別の事柄であり,乙14の合成例3は,本件各発明の固有の効果である,「ピペラジンカルボジチオ酸又はその塩」そのものの安定性の高さ(加熱または酸の添加によっても分解しにくい)の具体的な発現として有害ガス発生抑制効果を奏することを否定する根拠となるものではない。
さらに,被告は,本件明細書の合成例2のアミン化合物中のアミノ基量に対する二硫化炭素のモル比を計算すると,1.60となり,モル比は1.0をはるかに超えているので,乙14の記載によれば,本件明細書の合成例2のチオ炭酸塩が0.03重量%以上となるのは明らかであるから,本件明細書の合成例2に関する安定性試験において,硫化水素が発生しないという結果は,乙14の記載と矛盾した結果を示しており,その信頼性が欠如しているなどと主張する。
しかし,前記のとおり,本件明細書には,合成例2について「反応液に窒素を吹き込み未反応の二硫化炭素を留去した」ことが明記されているところ,これは,合成例2の目的物質である「ピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸カリウム」の合成過程でチオ炭酸カリウムなどの副生成物が生成・混在することを抑制するために行われたものである。目的物質であるピペラジンカルボジチオ酸塩の合成過程でチオ炭酸塩などの副成物が生成・混在することを抑制するための技術的手法は,乙14が開示した手法(製造工程において原料二硫化炭素の添加量の調整や分割添加を行って反応量を抑制する手法)だけに限らず,反応液に窒素を吹き込み未反応の二硫化炭素を留去する手法をも含めて,いろいろな方法が考えられる。
そして,二硫化炭素(CS 2)は水に難溶性の化合物であり,ピ ペラジンのアルカリ水溶液に二硫化炭素を添加して反応させる合成 法では,添加した二硫化炭素は水溶液と相分離し,相間界面で反応 が進行し,まず,原料ピペラジンと原料二硫化炭素の反応が進むの であり,未反応の原料ピペラジンまたはピペラジン-N-カルボジ チオ酸(モノ体)が存在する状態では,最初からチオ炭酸塩(副成 物)が生成されるものではない。そのような反応形態をとるため に,ピペラジンと反応する二硫化炭素の量は,原料二硫化炭素の添 加量の調整や分割添加だけでなく,反応液に窒素を吹き込み未反応 の二硫化炭素を留去することによって十分に制御できるのである。
このことは,原告において,本件明細書の実施例に記載された合成 例1及び合成例2の記載どおりに従って目的化合物(本件明細書の 化合物1及び化合物2)を合成し,得られた「黄色透明の液 体」について安定性試験の追試を行ったところ,被告による追試結 果(乙17,24)とは異なり,硫化水素ガスの発生が検出されなか ったこと(甲20,31)から,確認されている。
(ウ) 以上によれば,被告主張の無効理由2は理由がない。
ウ 無効理由3及び4に対し(ア) 乙34の2は,ピペラジンビス-(N,N’-カルボジチオアー ト)が銅の測定用の分析試薬として有用であること,すなわち,主にピ ペラジンビス-(N,N’-カルボジチオアート)の銅錯体(銅キレー ト)のコロイド溶液の特性を論じたものであって,銅などの重金属を固 定化する前の「ピペラジンカルボジチオ酸又はその塩」そのものの特性 について論じたものではない。
まして,乙34の2では,「ピペラジンカルボジチオ酸又はその塩」 が重金属固定剤(特に飛灰用の重金属固定化処理剤)としての用途を持 つことについては,記載も示唆もされておらず,熱や酸による有害ガス の発生を抑制する効果についても一切触れられていない。
なお,乙34の2記載の「安定性はピペラジンの構造によるものであ ること」にいう「安定性」とは,銅を固定化した後の銅錯体(銅キレー ト)が水溶液中で沈殿凝集しない(コロイド状の浮遊物として存在す る)ために,銅の分光分析に用いることができるという意味であって, 本件各発明において問題となる,重金属を固定化する前の「ピペラジン カルボジチオ酸又はその塩」そのものが熱や酸によって分解し難く有害 ガスの発生抑制に結び付くという意味での「安定性」のことではない。
(イ) 以上によれば,本件発明1及び2が乙34の2の発明と同一である とはいえず,また,本件発明3が乙34の2の発明から当業者におい て容易に想到することができたものであるともいえないから,被告主張 の無効理由3及び4は,いずれも理由がない。
エ 無効理由5に対し 被告は,乙14の記載を根拠として,本件明細書の発明の詳細な説明には,副生成物であるチオ炭酸塩等を含まない,純然たる「ピペラジン-N-カルボジチオ酸もしくはピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸のいずれか一方もしくはこれらの混合物又はこれらの塩」の製造方法が開示されていなければ,当業者においてその実施が可能とはいえないのに,本件明細書の発明の詳細な説明にはその記載がないから,本件特許は実施可能要件に適合しない旨主張する。
しかしながら,以下のとおり,被告の上記主張は理由がない。
(ア) まず,本件各発明は,「ピペラジンカルボジチオ酸又はその塩」を 必須の主要有効成分とする飛灰中の重金属固定化処理剤そのものに関す る発明であり,かかる飛灰中の重金属固定化処理剤の「製造方法」に関 する発明ではない。
しかも,「ピペラジンカルボジチオ酸又はその塩」を必須の主要有効 成分とすることによる作用効果を実質的に享受している飛灰中の重金属 固定化処理剤であれば,当該主要有効成分以外の成分を含んでいたとし ても,本件各発明の技術的範囲に属するものというべきであるから,被 告が主張するような「製造方法」による発明の限定を加える必要性はそ もそもない。
(イ) また,乙14に基づいて被告が主張する「製造方法」とは,「アミ ン化合物中のアミノ基量に対する二硫化炭素のモル比が1.0を超えな いようにする」ということに尽きるが,それは副生成物であるチオ炭酸 塩の生成抑制手法の一つにすぎず,本件各発明の実施に当たって,その 手法に固執する必要は全くない。
現に,本件明細書(甲2)の合成例では,「反応液に窒素を吹き込み 未反応の二硫化炭素を留去した」(段落【0016】,【0017】) ことが明記されているが,これも目的物質であるピペラジンカルボジチ オ酸塩の合成過程でチオ炭酸塩などの副生成物が生成,混在することを 抑制するための技術的手法の一つであることは,前記のとおりである。
さらに,原告において,本件明細書の実施例に記載された合成例1及 び合成例2の記載どおりに従って目的化合物(本件明細書の化合物1 及び化合物2)を合成し,得られた「黄色透明の液体」について安定 性試験の追試を行ったところ,被告による追試結果(乙17,24)とは 異なり,硫化水素ガスの発生が検出されなかったこと(甲20,31) は,前記のとおりである。
(ウ) 以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,当業者におい て本件各発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分な記載があ るから,被告主張の無効理由5は理由がない。
オ 無効理由6に対し 被告は,乙14の合成例3に従って製造された「ピペラジン-N,N’ -ビスカルボジチオ酸カリウム」からなる飛灰中の重金属固定化処理剤も 本件各発明の技術的範囲に含まれるとの前提に立った上で,原告が本件各 発明の固有の効果であると主張する,安定性試験において硫化水素が発生 しないという効果を奏さない物質が本件各発明の特許請求の範囲に含まれ ることになるから,本件特許は,サポート要件に適合しない旨主張する。
しかしながら,乙14の合成例3は,専ら合成例1との比較のため に,「ピペラジンカルボジチオ酸カリウム」そのものによる固有の効果を 減殺する目的で,副生成物である「チオ炭酸カリウム」が多量に生成,混 在するような条件を意図的に設定して合成されたものであり,その結果, チオ炭酸塩カリウムを発生源として硫化水素が発生するものにすぎない。
したがって,乙14の合成例3に従って製造された「ピペラジン-N, N’-ビスカルボジチオ酸カリウム」から硫化水素が発生するからといっ て,これによって「ピペラジンカルボジチオ酸カリウム」そのものが有す る本件各発明の固有の効果が否定されることにはならないというべきであ る。
そうすると,被告主張の無効理由6は,その前提を欠くものであって, 理由がない。
カ 小括 以上のとおり,被告主張の無効理由1ないし6は,いずれも理由がな い。
3 争点3(被告製品の範囲)について(1) 原告の主張 ア ●(省略)●等について 後記(2)アのとおり,被告は,別紙参考製品名目録3記載の●(省略) ●等について,それらがいずれもその有効成分として「ピペラジン- N,N’-ビスカルボジチオ酸カリウム」ないし「ピペラジン-N-カルボジチオ酸カリウム」を含有するものであり,被告において金属固定化剤又は金属捕集剤の原料として製造,販売したことは認める一方で,これらの用途が飛灰処理用であるかどうかは不明であるとして,被告が●(省略)●等を「飛灰中の重金属固定化処理剤」として製造,販売したことを争っている。
しかしながら,以下に述べる事情等に照らすならば,被告が●(省略)●等を飛灰処理用の重金属固定化処理剤として製造,販売したことは明らかであるから,●(省略)●等は,被告製品(別紙物件目録記載の製品)に含まれるものである。
(ア) そもそも,ピペラジンカルボジチオ酸又はその塩を有効成分とす る重金属固定化処理剤(以下「ピペラジン系の重金属固定化処理剤」 という。)は,難分解性であるため,環境中に放出された場合の長期 毒性の観点から,雨水などによって溶出して河川に流入するような事 態は極力避けなければならないものであるから,ごみ焼却場などのク ローズドシステム(閉鎖系)で最終処理が行われる飛灰処理用途には 高い有用性を有するが,オープンシステム(開放系)で最終処理が行 なわれる水処理用途や土壌処理用途には不適当である。
また,ピペラジン系の重金属固定化処理剤は,低分子化合物である ため,水処理剤に要求される「フロック形成能」に欠け,水処理用途 には適しない。
これらのことからすれば,ピペラジン系の重金属固定化処理剤であ る●(省略)●等が飛灰処理用途以外の水処理用途や土壌処理用途に 用いられるものとは考えられない。
(イ) 鑑定人坂上信一郎(以下「坂上鑑定人」という。)による鑑定(以 下「坂上鑑定」といい,同鑑定人作成の平成22年2月10日付け計 算鑑定書を「坂上鑑定書」という。)の結果によれば,平成15年1 月1日から平成21年9月30日までの間に出荷販売された●(省 略)●等のすべてが,同鑑定書記載の●(省略)●ないし●(省略) ●の各社,すなわち,順に,●(省略)●のいずれかに販売されてい ることが認められるところ,●(省略)●社ないし●(省略)●社の いずれもが飛灰中の重金属固定化処理剤の大手取扱事業者であること は当業者の間で周知のことであり,このことは,●(省略)●社ない し●(省略)●社のいずれかに販売された●(省略)●等が飛灰用の 重金属固定化処理剤として使用されるものであったことを示してい る。
(ウ) 被告は,●(省略)●等について,販売先の仕様に基づいて製 造,販売したものにすぎず,その用途についてまでは把握していない 旨主張するが,ピペラジン系の重金属固定化処理剤は,化学物質の審 査及び製造等の規制に関する法律(以下「化審法」という。)が規定 する「第二種監視化学物質」(同法2条5項)を含有しており,その 取扱いには注意が必要であるとされているのであるから,そのような 薬剤を製造,販売する事業者が,その販売先における用途について知 らないなどという無責任なことはあり得ない。
イ 「●(省略)●」について 別紙参考製品名目録2(2)記載の「●(省略)●」についても,被告製品に含まれる。
この点について被告は,被告自らが被告第1準備書面(2007年(平成19)年4月24日付け)添付の別紙「被告製品目録」において●(省略)●が被告製品に含まれる事実を明らかにし(先行自白し),さらに,平成20年7月24日の本件第6回弁論準備手続期日においても重ねて自白したにかかわわらず,被告第15準備書面(2010年( 平成22)年6月30日付け)において上記事実を否認するに至ったも のであり,被告による上記事実の否認は,事実に関する「自白の撤回」 に該当し,かつ,自白の撤回が許容されるに必要な要件を充足するもの ではないから,許されるべきではない。
(2) 被告の主張 ア ●(省略)●等について (ア) 別紙参考製品名目録3記載の●(省略)●等は,いずれもその有 効成分として「ピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸カリウ ム」ないし「ピペラジン-N-カルボジチオ酸カリウム」を含有する ものではあるが,被告は,これらの製品を,販売先の仕様に基づき, 金属固定化剤又は金属捕集剤の原料となる,いわゆる「中間製品」と して製造,販売したものにすぎず,その用途についてまでは把握して いないから,これらの用途が飛灰処理用であるかどうかは不明であ る。
したがって,●(省略)●等は,被告において「飛灰中の重金属固 定化処理剤」として製造,販売したものとはいえないから,被告製品 に含まれるものではない。
(イ) 原告は,ピペラジン系の重金属固定化処理剤は,飛灰処理用途以 外の水処理用途や土壌処理用途には不適当である旨主張する。
しかし,ピペラジンジチオカルバミン酸塩が,飛灰処理用途以外 に,排水処理,鉱山から排出される鉱滓,汚染が進んだ土壌等の金属 固定化処理剤としても用いられることは,乙12(特開平3-231 921号公報),乙32(特開平4-267982号公報)及び乙5 1(特開2005-199221号公報。段落【0016】)に記載さ れているとおりである。
また,現に,●(省略)●等の販売先である●(省略)●社及び ●(省略)●社において,「●(省略)●」の名称で,ピペラジン系 の水処理用重金属固定化処理剤を製造,販売している(乙66,6 7)。
さらに,原告自身においても,ピペラジン系の飛灰用重金属固定化 処理剤「TS-275」を紹介するサイトにおいて,その姉妹品とし て,排水用重金属処理剤「TX-10」を宣伝していること(乙6 8)から,ピペラジン系の水処理用重金属固定化処理剤の製造,販売 を行っているものと解される。
したがって,ピペラジン系の重金属固定化処理剤が,飛灰処理用途 以外には不適当であるとの原告の主張は理由がない。
(ウ) また,原告は,●(省略)●等の販売先である●(省略)●社な いし●(省略)●社がいずれも飛灰用重金属固定化処理剤の大手取扱 事業者であることが,●(省略)●等が飛灰用重金属固定化処理剤と して使用されることの裏付けとなる旨主張する。
しかし,●(省略)●社ないし●(省略)●社は,ピペラジン系の 飛灰用重金属固定化処理剤のみを販売しているわけではなく,水処理 用の重金属固定化処理剤の販売も行っており(乙65の1ないし 3),このことは,●(省略)●社及び●(省略)●社による上記「 ●(省略)●」の製造,販売の事実からも裏付けられるから,原告の 上記主張は失当である。
イ ●(省略)●について 原告は,別紙参考製品名目録2(2)記載の●(省略)●が被告製品に含 まれる旨主張するが,坂上鑑定書によれば,●(省略)●は,非ピペラ ジン系とされており,被告製品に含まれないものであることが明らかで ある。
4 争点4(原告の損害額)について (1) 原告の主張 ア 特許法102条1項損害額(逸失利益) (ア) 被告製品の販売数量 平成15年1月24日(本件特許権の設定登録日)から平成21年 9月30日までの期間における●(省略)●等を含む被告製品の販売 数量(単位・s)は,別紙原告第1表のC欄記載のとおりであり,合 計●(省略)●sを下らない(坂上鑑定書図表1及び2の「出荷数量」 の合計)。
(イ) 被告製品の販売数量のうちの原告による販売可能数量 原告は,いずれも本件各発明の実施品に当たる飛灰中の重金属固定 化処理剤(ピペラジンカルボジチオ酸カリウムを有効成分とするも の)である,製品名「TS-275」の製品を平成15年4月から, 製品名「TS-300」の製品を平成18年4月から,それぞれ製 造,販売しているところ(以下,これらの製品を「原告製品」とい う。),平成15年1月24日から平成21年9月30日までの期間 における被告製品の合計販売数量●(省略)●kgのうち,原告が特許 法102条1項に基づく損害賠償請求の対象とし得る,原告による原 告製品の販売可能数量は,以下に述べるとおり,少なくとも合計●( 省略)●kgを下らない。
a まず,平成15年1月24日から同年3月31日までの間は,原 告製品の販売が未だ開始されていないから,この間の被告製品の販 売数量のうち,原告における原告製品の販売可能な数量はない。
b 次に,平成15年4月1日から平成18年3月31日までの期間 おいて,被告製品の販売がなければ原告において原告製品の販売が 可能であった数量を検討すると,次のとおりである。
(a) 上記期間おいては,原告製品及び被告製品に加え,大手製造事 業者3社(以下「OEM3社」という。)がピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤の製造,販売を行っていたところ,ピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤の中で,被告製品を除く製品における原告製品の市場占有率は,次のとおり算出される。
OEM3社によるピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤の販売数量を直接的に把握することは困難であるため,ピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤全体の市場規模の算出には,経済産業省の告示による統計データを用いるほかはない。
すなわち,化審法23条1項の規定によると,第二種監視化学物質を製造し,又は輸入した者は,当該化学物質の年度ごとの製造数量又は輸入数量を経済産業大臣に届け出ることが義務付けられており,ピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤の有効成分であるジカリウム=ピペラジン-1,4-ビス(カルボジチオアート)及びカリウム=ピペラジン-1-カルボジチオアートは第二種監視化学物質に指定されていることから,経済産業大臣に届出がされた上記化学物質の製造数量等(甲35の1,甲4の1及び2の各経済産業省告示に示された平成15年度ないし平成17年度における上記化学物質の製造数量等)から,ピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤の市場規模を見積もることができる。
つまり,原告製品及び被告製品においては,上記化学物質が平均値で38%含まれる水溶液として製造,販売されていること,上記化学物質にはピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤以外に工業的な用途はないことからすると,当該化学物質全体の届出数量を0.38で除することによりピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤の市場規模を算出することができる。
このようにして平成15年4月1日から平成18年3月31日 までの期間におけるピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤全 体の市場規模を算出すると,別紙原告第2表のC欄記載のとおり となる。これを基に,鑑定人古川孝之(以下「古川鑑定人」とい う。)による鑑定(以下「古川鑑定」といい,同鑑定人作成の平成 22年4月5日付け計算鑑定書及び同年5月12日付け補充鑑定 書を「古川鑑定書」という。)の結果から認められる上記期間に おける原告製品の販売数量及び別紙原告第1表記載のとおりの被 告製品の販売数量を前提として,被告製品を除くピペラジン系の 飛灰用重金属固定化処理剤の市場における原告製品の年度ごとの 市場占有率を算出すると,別紙原告第2表のE欄記載のとおりと なる。
(b) そうすると,平成15年4月1日から平成18年3月31日 までの期間については,被告製品の年度ごとの販売数量に,別紙 原告第2表のE欄記載の被告製品を除くピペラジン系の飛灰用重 金属固定化処理剤の市場における原告製品の年度ごとの市場占有 率を乗ずることによって算出される数量が,被告製品の販売がな ければ原告において原告製品の販売が可能であった数量であると いうことができ,その数量は,別紙原告第3表のB欄の平成15 年度ないし平成17年度の欄に記載のとおりとなる。
(c) また,平成15年4月1日から平成18年3月31日までの 期間について,被告製品の販売がなければ原告において原告製品 の販売が可能であった数量(別紙原告第3表のB欄記載の数量) が原告の実施能力の範囲内であったかどうかについては,原告が 上記期間における原告製品全部の製造を委託していた三新化学工 業株式会社(以下「甲社」という。ただし,古川鑑定書では,「 甲社」は「A社」と表記されている。)の余剰生産能力と比較す ることによって判断できる。
しかるところ,平成15年4月1日から平成18年3月31日 までの年度ごとの甲社の余剰生産能力は,別紙原告第3表のC欄 記載のとおりであり(古川鑑定書の第5表のイ欄),これと別紙 原告第3表のB欄記載の数量とを比較すれば,上記期間内におけ る被告製品の販売がなければ原告において原告製品の販売が可能 であった数量は,いずれの年度においても甲社の余剰生産能力の 範囲内である。
したがって,上記期間において,別紙原告第3表のB欄記載の 数量の全部が原告の実施能力の範囲内であったことは明らかであ る。
c さらに,平成18年4月1日から平成21年9月30日までの期 間において,被告製品の販売がなければ原告において原告製品の販 売が可能であった数量を検討すると,次のとおりである。
(a) まず,原告は,平成18年3月までは,原告製品全部の製造 を甲社に委託していたが,平成18年4月からは,それまで本件 特許権を侵害するピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤を製 造,販売していたOEM3社との和解交渉の結果,OEM3社 が,原告からの委託を受けて原告製品としてピペラジン系の飛灰 用重金属固定化処理剤を製造し,原告に販売することとなった。
(b) そのため,平成18年4月以降においては,市場におけるピ ペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤が原告製品と被告製品の みとなり,被告製品の販売がなければ原告製品の販売が可能であ った数量は,前記bのように原告の市場占有率を算出するまでも なく,被告製品の全販売数量とみることができる。
(c) また,平成18年4月1日から平成21年9月30日までの 期間においても,被告製品の販売がなければ原告において原告製 品の販売が可能であった数量(別紙原告第3表のB欄記載の数 量)は,いずれの年度においても,甲社の余剰生産能力(同第3 表のC欄記載の数量)の範囲内に十分な余裕をもって収まってい る。
したがって,上記期間においても,別紙原告第3表のB欄記載 の数量の全部が原告の実施能力の範囲内であったことは明らかで ある。
d 以上によれば,平成15年1月24日から平成21年9月30日 までの期間における被告製品の販売数量の合計●(省略)●kg(別 紙原告第3表のA欄の合計欄)のうち,●(省略)●kg(同第3表 のB欄の合計欄)が,原告が特許法102条1項に基づく損害賠償 請求の対象とし得る,原告における原告製品の販売可能数量とな る。
(ウ) 原告製品の単位数量当たりの利益額とそれに基づく特許法102 条1項に基づく原告の損害額 a 原告は,平成18年3月までは,原告製品の製造をすべて甲社に 委託していたが,平成18年4月からは,OEM3社との和解交渉 の結果,これら3社が新たに原告製品の製造委託先となったため, その後は合計4社に原告製品の製造を委託している。
b 甲社が原告の製造委託に基づき製造した原告製品(以下「甲社製 原告製品」という。)についての限界利益は,別紙原告第4表のと おり算出される。
平成15年4月1日から平成21年9月30日までの期間におけ る各年度ごとの甲社製原告製品の「平均販売単価(円/kg)」,「 変動費単価(円/kg)」及び「単位数量当たりの限界利益(円/k g)」は,それぞれ別紙原告第4表のA欄,B欄及びC欄に記載され たとおりである(古川鑑定書の第4表)。
c OEM3社によって製造された原告製品(以下「OEM3社製原 告製品」という。)についての限界利益は,別紙原告第5表のとお り算出される。
平成18年4月1日から平成21年9月30日までの期間におけ る各年度ごとのOEM3社製原告製品の「平均販売単価(円/k g)」,「変動費単価(円/kg)」及び「単位数量当たりの限界利 益(円/kg)」は,それぞれ別紙原告第5表のA欄,B欄及びC欄 に記載されたとおりである(古川鑑定書の第4表)。
d 別紙原告第4表及び別紙原告第5表の各C欄のとおり,甲社製原 告製品についての限界利益とOEM3社製原告製品の限界利益とは 異なり,前者が後者よりも明らかに高いが,それは前者と後者の取 引条件等の違いによって生じる合理的な差である。
営利企業としては,少しでも利益の多い事業展開を希求するのが 当然であることに加え,甲社が原告製品の製造,販売開始当時(平 成15年4月)からの製造委託先であり,原告にとっては自社の社 内製造と同等の下請製造といえることからすると,原告としては, 被告製品の販売がなければ販売可能であった原告製品の数量のう ち,甲社の製造能力によって製造可能な最大限の数量に達するまで は甲社製原告製品を販売し,それを超える数量についてのみOEM 3社製原告製品を販売したはずである。
これに対し,被告は,後記(2)ア(ウ)bのとおり,甲社製原告製品 よりもOEM3社製原告製品の方が販売単価が低いことを根拠に, 後者の方が優先的に販売されていたはずである旨主張する。
しかし,OEM3社が原告製品の製造委託先となったのは,原告 が,本件特許権の侵害品を自社製品として製造,販売していたOE M3社との間で和解交渉を行った結果,平成18年4月以降は,O EM3社が同一製品を原告からの委託により原告製品として製造, 販売する旨の合意が成立したからであり,原告がOEM3社に原告 製品の製造を委託しているのは,OEM3社に本件特許権の侵害行 為を止めさせることに主眼があるのであるから,OEM3社への製 造委託数量は,各社の従前からの販売数量に見合うだけあれば十分 であって,被告による本件特許権の侵害数量分までをもOEM3社 に製造させることはない。
e 以上を踏まえて,特許法102条1項に基づく原告の損害額を計 算すると,次のとおりである。
(a) 甲社製原告製品が販売可能であったことによる損害額 前述のとおり,平成15年1月24日から平成21年9月30 日までの期間における被告製品の販売数量合計●(省略)●kgの うち,被告製品の販売がなければ原告において原告製品の販売が 可能であった合計数量は●(省略)●kgである(別紙原告第3表 のB欄)。
次に,上記期間における年度ごとの甲社における余剰生産能力 は別紙原告第3表のC欄記載のとおりであるから,前述のとお り,被告製品の販売数量のうち,原告製品の販売可能数量は,い ずれも甲社における余剰生産能力の範囲内であり,したがって, 被告製品の販売数量のうち,原告製品の販売可能数量は,すべて 甲社において製造することが可能であったといえる。
さらに,前述のとおり,甲社製原告製品についての年度ごとの 限界利益(円/kg)は,別紙原告第4表のC欄記載のとおりであ る。
したがって,被告製品の販売がなければ原告において販売可能 であった原告製品のうち,甲社製原告製品が販売可能であったこ とによる原告の損害額(逸失利益)は,別紙原告第6表のC欄記 載の年度ごとの数量に同第6表のD欄記載の年度ごとの単位数量 当たりの利益(限界利益)を乗ずることによって得られた金額を 合計したものであり,その金額は同第6表のE欄記載のとおり, 合計●(省略)●となる。
(b) OEM3社製原告製品が販売可能であったことによる損害額 他方,OEM3社製原告製品が販売可能であったことによる損 害額は,原告第7表記載のとおり,0円である。
すなわち,別紙原告第7表のA欄は,平成15年4月1日から 平成21年9月30日までの期間において,被告製品の販売がな ければ原告において販売可能であった原告製品の数量を示すもの であり,同第7表のB欄は,A欄の数量のうち甲社製原告製品の 販売可能数量を示すものである。そして,同第7表のC欄は,同 第7表のA欄の数量からB欄の数量を差し引いた数量,つまり, 被告製品の販売がなければ原告において販売可能であった原告製 品の数量のうち甲社の余剰生産能力を超える数量を示すものであ るが,前記(a)で述べたとおり,被告製品の販売がなければ販売 可能であった原告製品の数量は,すべて甲社の余剰生産能力の範 囲内にあるため,同第7表のC欄に示す数量は,いずれの年度に おいても存在しない。
(c) 以上のとおり,平成15年4月1日から平成21年9月30 日までの期間において,被告が被告製品を販売し,本件特許権を 侵害したことによって原告が受けた,特許法102条1項に基づ いて算定される損害額は,別紙原告第6表のE欄記載の損害額( 甲社製原告製品が販売可能であったことによる損害額)と同第7 表のD欄記載の損害額(OEM3社製原告製品が販売可能であっ たことによる損害額)の合計金額であり,その額は,別紙原告第 8表のC欄記載のとおり,●(省略)●となる。
(エ) 被告主張の原告が被告製品の販売数量の一部を販売することがで きないとする事情(特許法102条1項ただし書)に対する反論 a 競合他社の存在について 被告は,後記(2)ア(イ)aのとおり,原告及び被告以外にも,ピペ ラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤を製造,販売する競合他社が 存在することから,被告製品が市場に存在しなかったと仮定した場 合であっても,原告が被告製品の販売数量のすべてを販売すること は不可能である旨主張する。
しかしながら,前記(イ)bのとおり,原告は,損害額の算出に当 たり,原告及び被告以外にOEM3社がピペラジン系の飛灰用重金 属固定化処理剤を製造,販売していた平成15年4月1日から平成 18年3月31日までの期間については,これら競合他社の競合品 の存在を考慮し,被告製品の販売数量のうちの原告における原告製 品の販売可能数量につき,被告製品を除くピペラジン系の飛灰用重 金属固定化処理剤の市場における原告製品の市場占有率を乗じた数 値を用いて算出しているのであるから,被告の上記主張は理由がな い。
なお,参考までに,上記のような処理を行うことなく,被告製品 の販売数量全部を基準とした場合の損害額を示すと,別紙原告第8 表のD欄記載のとおりとなる。
b 旧化審法による制限について 被告は,後記(2)ア(イ)b(a)のとおり,原告は,平成15年法律 第49号(平成16年4月1日施行)による改正前の化審法(以下「旧化審法」という。)3条及び4条に基づく手続を経ていないから,平成15年4月1日から平成16年1月8日までの間は,同法5条により,「ジカリウム=ピペラジン-1,4-ビス(カルボジチオアート)」(ビス体)及び「カリウム=ピペラジン-1-カルボジチオアート」(モノ体)を含む原告製品を製造することはできなかったものであるとして,このことが,原告において原告製品を「販売することができないとする事情」(特許法102条1項ただし書)に当たる旨主張する。
しかしながら,旧化審法3条の「新規化学物質」の製造の届出は,それを「製造しようとする者」が行うものであって,原告の場合には,製造委託先である甲社が届出を行えば足りるところ,甲社は,平成14年12月18日,厚生労働大臣,経済産業大臣及び環境大臣(以下「厚労大臣ら」という。)に対し,「ジカリウム=ピペラジン-1,4-ジカルボジチオアート」(「ジカリウム=ピペラジン-1,4-ビス(カルボジチオアート)」と同じもの。)(ビス体)について,新規化学物質としての届出(甲46の1)を行い,平成15年1月15日に判定結果の通知(甲46の2)を受けている。なお,甲社による旧化審法に基づく届出は,「カリウム=ピペラジン-1-カルボジチオアート」(モノ体)については行われていないが,これは,同法の運用上,対象化学物質中に1%未満で含有される化学成分については新規化学物質の届出を要しないとされていることによるものである。
したがって,平成15年1月16日以降であれば,原告による甲社製原告製品の販売が旧化審法によって制限されることはないのであるから,被告の上記主張は失当である c その他の事情について (a) 代替品の存在について 被告は,後記(2)ア(イ)c(a)のとおり,被告製品の代替品とし て,原告製品を含むピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤の みならず,ピペラジン以外のアミンによって合成された飛灰用重 金属固定化処理剤(以下「非ピペラジン系の飛灰用重金属固定化 処理剤」という。)が販売された可能性もある旨主張する。
しかしながら,被告製品と原告製品とは,いずれもピペラジン 系の飛灰用重金属固定化処理剤であって,その化学組成,用途及 び効果などにおいて一切差異のないものであるから,被告製品の 代替品として非ピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤が存在 するという事情は,原告製品の販売についてのみならず,被告製 品の販売についても同等に影響を及ぼす可能性のある事情である ことが明らかである。
したがって,そのような被告製品及び原告製品の両製品にとっ て共通の事情の存在という同等の条件下において,被告製品が現 に販売可能であった数量を,原告製品では販売不可能であるかの ようにいう被告の主張は,失当である。
加えて,被告が主張するように,一部の廃棄物処理事業体によ る入札仕様書の記載のみから,被告製品の代替品として非ピペラ ジン系の飛灰用重金属固定化処理剤が販売された可能性があるも のと断定することはできないし,原告の「TS-600」に関す る技術資料(乙44)の「ND」との記載から,同製品からは硫化 水素が発生しないものとする被告の主張も誤りである。
(b) 被告の営業努力(被告による市場開拓)について 被告は,後記(2)ア(イ)c(b)のとおり,被告が,他者に先行し て「ジカリウム=ピペラジン-1,4-ビス(カルボジチオアー ト)」(ビス体)及び「カリウム=ピペラジン-1-カルボジチ オアート」(モノ体)についての旧化審法3条に基づく届出を行 い,同法4条に基づく判定結果の通知を受けたことを根拠とし て,ピペラジン系の製品が飛灰用重金属固定化処理剤として一定 の市場を形成できたのは,被告による営業努力又は市場開拓によ るものである旨主張する。
しかしながら,被告による上記届出は,原告が平成7年12月 1日に本件出願を行い,それが平成8年9月3日に出願公開され た時点よりもはるかに後年のことであり,被告は,本件特許に係 る公開特許公報に触発されて届出をしたというにすぎない。
したがって,被告による営業努力又は市場開拓によって,ピペ ラジン系の製品が飛灰用重金属固定化処理剤として一定の市場を 形成できたなどとはいえない。
(c) 需要者の動機付けについて 被告は,後記(2)ア(イ)c(c)のとおり,飛灰用重金属固定化処 理剤のように入札制度によって納入業者が決定される製品の場 合,特許権の対象であること又は特許権に係る発明の奏する効果 を有することが入札の条件とされると,入札価格が特許権者によ りコントロールされることとなり,入札制度の目的が果たされな くなるから,そのようなことが入札の条件とされることはなく, したがって,飛灰用重金属固定化処理剤においては,その製品が 本件各発明の特許請求の範囲に含まれるかどうかが,需要者にお いて納入業者を決定する際の動機付けとなるものではない旨主張 する。
しかしながら,一般に,特許権を実施する製品の場合であって も,入札手続に直接参加するのは,当該製品の製造業者ではな く,その各取扱業者なのであって,入札手続は,それらの各取扱 業者間の競争によって実施されるものであるから,特許権者が入 札価格をコントロールするなどという余地は,本来あり得ない。
したがって,入札制度によって納入業者が決定される製品の場 合に,特許権の対象であること又は特許権に係る発明の奏する効 果を有することが入札の条件とされることはないなどということ はできず,これを前提とする被告の上記主張は失当である。
(d) 小括 以上に述べたところによれば,上記(a)ないし(c)の各事情 が,特許法102条1項ただし書の事情に当たるとの被告の主張 は,いずれも理由がない。
イ 特許法102条3項損害額(実施料相当額)(ア) 特許法102条3項は,自ら特許発明実施をしていない特許権 者においても実施料相当額の損害賠償請求を認めているのであるか ら,特許権侵害の数量が同条1項の適用を超える部分についてもまた 同様の取扱いを認めるのでなければ整合性に欠ける。
したがって,平成15年1月24日から平成21年9月30日まで の期間における被告製品の販売数量(合計●(省略)●kg)のうち, 前記アにおいて特許法102条1項に基づく原告の損害額の算定対象 とした,被告製品の販売がなければ原告において販売可能であった原 告製品の数量(合計●(省略)●kg)を差し引いて得られる残余の数 量(合計●(省略)●kg。別紙原告第9表のC欄記載の数量)につい ては,特許法102条3項に基づく実施料相当額の損害賠償請求が認 められるべきである。
(イ) 上記実施料相当額損害額は,下記の計算式により算出される。
【計算式】「上記(ア)の残余数量」×「被告製品の平均販売単価」 ×「実施料率」(ウ) そして,以下に述べる事情等を考慮すれば,本件各発明の実施に 対し受けるべき実施料の額としては,製品の販売価格の●(省略)● %が相当である。
すなわち,前述のとおり,OEM3社は,平成18年3月までは本 件特許権を侵害するピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤を製 造,販売していたが,原告との和解交渉の結果,平成18年4月から は原告製品の製造委託先となったものであるところ,別紙原告第5表 のC欄記載のOEM3社製原告製品の限界利益を,同第4表のC欄記 載の甲社製原告製品の限界利益と比較すると,後者の方が明らかに高 いことが分かる。
これは,甲社が原告製品の販売開始当時からの製造委託先であり, 原告にとっては自社製造と同等にみなし得る下請製造といえるのに対 し,OEM3社は,取引形態としては製造委託先であるものの,原告 にもたらす経済的利益という意味では,実質的には,本件特許権の実 施許諾先(ただし,その製品の全量を原告に納入するという限定条件 付である。)という程度の意味合いにとどまるからである。
しかるところ,別紙原告第5表のC欄記載のOEM3社製原告製品 の限界利益(円/kg)の,同第5表のA欄記載のOEM3社製原告製 品の平均販売単価(円/kg)に対する割合を計算すると,平成18年 度は約●(省略)●%●(省略)●,平成19年度は約●(省略)● %●(省略)●,平成20年度は約●(省略)●%●(省略)●,平 成21年度上期は約●(省略)●%●(省略)●である。
本件特許権の侵害問題を和解で解決したOEM3社から原告が得る 経済的利益の実質的な性質は上記のようなものであるところ,OEM 3社製原告製品に係る原告の限界利益の平均販売単価に対する割合が 上記のとおりであることに照らせば,本件各発明の実施に対し受ける べき実施料の額を,製品の販売価格の●(省略)●%とすることは妥 当な料率といえる。
(エ) 以上に述べたところに従って,特許法102条3項に基づく実施 料相当額の損害額を算定すると,別紙原告第10表記載のとおり,合 計●(省略)●円となる。
ウ 弁護士費用相当額 本件特許権侵害と因果関係のある弁護士費用は,前記アの逸失利益額及び前記イの実施料相当額の合計額●(省略)●円の約●(省略)●%に当たる●(省略)●円が相当である。
エ 消滅時効について 被告は,後記(2)エのとおり,原告の被告に対する本件特許権侵害に基づく損害賠償請求権の消滅時効について,被告による被告製品の販売時期に応じて,平成15年1月24日より前の時点から順次進行するとした上で,原告が本件訴えを提起した平成19年1月15日から起算して3年以上前の期間における被告製品の販売によって生じた損害に係る損害賠償請求権については,時効により消滅した旨主張する。
しかしながら,原告において,被告製品が本件各発明の技術的範囲に属し,本件特許権を侵害するものであるという確信を得るに至ったのは,平成18年7月に被告製品のサンプルを入手し,これを分析して分析結果を得た時点であり,この時点において初めて,原告は,被告による本件特許権侵害不法行為に係る損害及び加害者を知ったものといえるのであるから,上記損害賠償請求権の消滅時効の起算点が,平成18年7月以前に遡ることはない。
したがって,被告の上記消滅時効の抗弁は,およそ成り立つ余地のな いものである。
オ まとめ (ア) 以上を総合すれば,原告は,被告に対し,被告の本件特許権侵害 により原告が受けた損害の賠償として,下記の合計金27億2925 万6208円の支払を求めることができる。
逸失利益の損害 ●(省略)●円 実施料相当額の損害 ●(省略)●円 弁護士費用相当額の損害 ●(省略)●円 合 計 27億2925万6208円 (イ) また,上記損害賠償金に係る遅延損害金の起算日については,損 害賠償金の算定期間(各年4月1日から翌年3月31日,平成21年 度上期については4月1日から9月30日)ごとに区切りをつけ,当該 各期間の最終日の翌日をもって,当該期間に対応する損害賠償金に係 る遅延損害金の各起算日とする。
(ウ) 以上を一覧表にまとめると,別紙請求債権目録の「U 請求金額 の各年度別内訳一覧表」記載のとおりである。
(2) 被告の主張 ア 特許法102条1項損害額(逸失利益)について (ア) 被告製品の販売数量 平成15年1月24日から平成21年9月30日までの期間におけ る被告製品の販売数量(前記3(2)のとおり,●(省略)●等及び●( 省略)●は被告製品に含まれないので,これらに対応する数量は含ま ない。)は,別紙被告第1表の「A」記載のとおりである。
(イ) 被告製品の販売数量の一部を原告が販売することができないとす る事情(特許法102条1項ただし書) a 競合他社の存在 (a) ピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤の市場規模 ピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤については,原告及 び被告以外にも,これを製造,販売する競合他社が存在すること から,被告製品が市場に存在しなかったと仮定した場合であって も,原告において,別紙被告第1表記載の被告製品の販売数量の すべてを販売することは不可能である。
つまり,ピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤の市場か ら,被告製品を除いた市場を想定し,被告製品の販売数量のう ち,当該市場における競合他社の市場占有率に相当する数量は, 原告が販売することができない数量といえる(特許法102条1 項ただし書)。
もっとも,ピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤の市場規 模を正確に把握することは困難であることから,経済産業省に届 けられた「ピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸(ないし その塩)」及び「ピペラジン-N-カルボジチオ酸(ないしその 塩)」の製造数量及び輸入数量(合計値)に基づく推測値によっ て,原告製品の市場占有率を算定するのが相当である。
そして,その際には,これらの化合物のすべてが飛灰処理用に 用いられるものでないことは,坂上鑑定書において明らかにされ ているものの(同鑑定書の図表6及び9によれば,原告が製造, 販売する水処理用の重金属捕集剤「エポフロック」の中にピペラ ジンを使用する製品が1品目存在する。),ここでの目的が「原 告製品の市場占有率」の算定であることからすれば,これら化合 物の用途がすべて飛灰処理用であり,かつ,濃度約38%の水溶 液で使用されるとの前提に立って,上記市場規模を推測するのが 相当である。これによれば,平成15年1月24日から平成21 年9月30日までの間における各年度ごとのピペラジン系の飛灰 用重金属固定化処理剤の市場規模は,別紙被告第2表の「C」記 載のとおりとなる。
(b) 被告製品の届出製造数量(●(省略)●等に対応する数量を含む。) 被告製品の販売数量は,前記アのとおりであるところ,ピペラ ジン系の飛灰用重金属固定化処理剤の市場規模を算定するに当た っては,上記(a)のとおり,経済産業省への届出数量(製造・輸 入)に基づく推測値を用いざるを得ない。
したがって,被告製品を除く市場における原告製品の市場占有 率の算定に当たって必要となる,被告製品の販売数量について も,経済産業省への届出製造数量(●(省略)●等に対応する数 量を含む。)を用いた推測値によるのが相当である。
そして,被告の平成15年1月24日から平成21年9月30 日までの間における各年度ごとの「ピペラジン-N,N’-ビス カルボジチオ酸(ないしその塩)」及び「ピペラジン-N-カル ボジチオ酸(ないしその塩)」の届出製造数量及びこれに基づい て推測される被告製品の販売数量は,別紙被告第3表の「D」及 び「E」記載のとおりである。
(c) 原告製品の販売数量 上記(a)及び(b)のとおり,ピペラジン系の飛灰用重金属固定 化処理剤の市場規模及び被告製品の販売数量の算出に当たって, 経済産業省への届出数量(製造・輸入)を用いたことからすれ ば,原告製品の販売数量についても同様に,届出製造数量を用い るのが適切ではあるが,原告は,原告製品を自社内で製造するも のではないため,上記届出数量に関する資料を所持していない。
したがって,被告製品を除くピペラジン系の飛灰用重金属固定 化処理剤の市場における原告製品の市場占有率を算定するに当た って,原告製品の販売数量については,古川鑑定書によって認め られる原告製品の販売数量を用いるべきである。
すなわち,平成15年1月24日から平成21年9月30日ま での間における各年度ごとの原告製品の販売数量は,別紙被告第 4表の「F」記載のとおりである。
(d) 以上に基づいて,被告製品を除くピペラジン系の飛灰用重金 属固定化処理剤の市場における原告製品の市場占有率を算出する と,別紙被告第5表の「G」記載のとおりである。
したがって,被告製品を除くピペラジン系の飛灰用重金属固定 化処理剤の市場における競合他社の市場占有率のみに着眼して も,被告製品の販売数量(●(省略)●等を除いたもの。別紙被 告第1表の「A」記載の数量)のうち,原告において原告製品を 販売することができた数量は,別紙第5表の「H」記載の数量に すぎない。
b 旧化審法による制限 (a) 原告には,次のとおり,別紙被告第5表の「H」に記載され た数量の一部について,旧化審法との関係で原告製品を販売する ことができない事情がある。
すなわち,原告が甲社製原告製品の販売を開始した平成15年 4月当時,「ジカリウム=ピペラジン-1,4-ビス(カルボジ チオアート)」(ビス体)及び「カリウム=ピペラジン-1-カ ルボジチオアート」(モノ体)は,旧化審法3条の「新規化学物 質」に該当するものであったから,同条及び同法4条の規定に従 い,厚労大臣らに対し所定の届出を行い,同大臣らによる判定を 受けてその結果の通知を受けなければ,製造することができない 化学物質であった(同法5条)。
そして,これらの化学物質については,平成16年1月9日, 厚労大臣らが,旧化審法2条4項の「指 定 化 学 物 質 」 と し て 指 定 し , そ の 旨 を 告示したこと(乙55)から,以後は,「新 規化学物質」ではなくなり,その製造に当たって同法3条及び4 条の手続を経る必要がなくなった。
しかし,原告が甲社製原告製品の販売を開始した当時は,上記 化学物質について旧化審法3条及び4条に基づく上記の手続が経 られていなかったのであるから,平成15年4月1日から平成1 6年1月8日までの間は,旧化審法5条により,上記化学物質を 含有する原告製品を製造することはできなかったにもかかわら ず,原告は,同条に違反して製造した原告製品を販売していたも のといえる。
したがって,別紙被告第5表の「H」記載の数量のうち,上記 期間内の販売分に相当する数量については,原告において原告製 品を販売することが許されていなかったものである。
(b) これに対し,原告は,前記(1)ア(エ)bのとおり,原告製品の 製造委託先である甲社が厚労大臣らに対し「ジカリウム=ピペラ ジン-1,4-ジカルボジチオアート」(ビス体)についての届出 を行い,平成15年1月16日に判定結果の通知を受けているか ら,原告による同日以降の甲社製原告製品の販売は旧化審法の規 定に反しない旨主張し,また,甲社が,原告製品に含まれるもう 一つの成分である「カリウム=ピペラジン-1-カルボジチオア ート」(モノ体)について,旧化審法に基づく届出を行っていな いのは,同法の運用上,対象化学物質中に1%未満で含有される 化学成分については「新規化学物質」の届出を要しないものとさ れていることによるものである旨主張する。
確かに,旧化審法の運用上,対象化学物質中に1%未満しか含 有されない化学成分については「新規化学物質」の届出を行う必 要がないものとされているが,被告が原告製品(「TS-27 5」及び「TS-300」)について行った分析の結果(乙69) によれば,原告製品には,「カリウム=ピペラジン-1-カルボ ジチオアート」(モノ体)が,1%以上含有されていることが認 められる。
したがって,甲社は,原告製品に含有される化学成分のうち「 カリウム=ピペラジン-1-カルボジチオアート」(モノ体)に ついては,旧化審法3条及び4条によって必要とされる手続を経 ていない以上,上記化学物質(モノ体)を含有する原告製品の製 造は同法5条に違反するものであり,平成15年4月1日から平 成16年1月8日までの間において,原告が原告製品を販売する ことは,やはり許されなかったものといえる。
(c) 前記(a)及び(b)によると,平成15年度分として,原告が 原告製品を適法に販売することができた期間は,平成16年1月 9日から同年3月31日までの期間ということなるが,現実に は,原告が上記期間に原告製品を適法に販売することは不可能で あった。
すなわち,飛灰用重金属固定化処理剤は,入札によって販売さ れ,その入札は,通常1年間を納入期間として行われるが,最も 短い場合でも3か月が納入期間とされる。また,入札は,納入期 間開始日の2週間程度前に行われる。これらを前提とすると,平 成15年度分の販売,納入に該当する最も遅い時期に行われた入 札(平成16年1月1日から同年3月31日が納入期間)であっ ても,平成15年12月中旬ころには入札が行われており(乙5 9),原告による原告製品の適法な製造,販売が可能となった平 成16年1月9日の時点では,平成15年度分として販売,納入 される飛灰用重金属固定化処理剤の入札はすべて完了していたこ とになるから,原告が,平成15年度分として,原告製品を適法 に販売することは不可能であったものである。
以上によれば,別紙被告第5表の「H」記載の数量のうち,平 成15年度分(平成15年4月1日から平成16年3月31日ま で)に相当する数量は,そのすべてが,旧化審法との関係で原告 において原告製品を販売することができなかった数量といえる。
したがって,別紙被告第5表の「H」に記載された数量のう ち,旧化審法との関係で原告において原告製品を販売することが できた数量は,別紙被告第6表の「I」記載の数量となる。
c その他の事情 (a) 代替品の存在 ピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤は,各地のごみ処理 施設において使用されるところ,納入される処理剤は,納入先が 具体的製品名で指定する品目を前提として,主として入札によっ て決定するという手続が採られている。
例えば,「納入場所 小平・村山・大和衛生組合」,「期間 平成15年4月1日から平成16年3月31日まで」とする「集 じん灰処理薬品購入仕様書」(乙60の6)をみると,「薬品仕 様」として,被告の「NEWエポルバ810カイ」,原告の「T S-600」などの具体的製品名が指定されている。このように 具体的製品名が入札仕様書において指定されるに至ったのは,上記組合が,入札参加予定事業者に対し,「H14年度集じん灰無害化処理薬剤(キレート剤)薬品選定について」と題する書面を送付して,指定を受けるための条件を告知し(乙60の1,2),同事業者から提供を受けた薬剤をもとに,Pb(鉛)の溶出試験及び二硫化炭素の発生量試験を独自に行い,その結果をもとに(乙60の3,4),上記入札仕様書(乙60の6)に記載の具体的な製品名を指定するという過程を経た結果である。
上記入札仕様書において具体的な製品として選定されるための条件は,「H14年度集じん灰無害化処理薬剤(キレート剤)薬品選定について」(乙60の2)に記載のとおり,Pb溶出試験及び二硫化炭素発生量試験をクリアすることである。そして,このような条件は,他の納入先においても異なるものではない(乙61の1ないし3)。
つまり,飛灰用重金属固定化処理剤の入札仕様書に記載される具体的製品として選定されるための条件としては,鉛の溶出量や二硫化炭素の発生量が一定値以下であるという「効果」に着眼するのが通常であり,ピペラジン系であるという組成をもって納入条件とするのが通常ではない。このことは,被告製品の納入先ごとの納入量リスト(乙62の1ないし7)をみると,ピペラジン系という組成をもって納入条件と指定した納入先の割合が,平成15年3月期から平成21年3月期までの期間において,全体の12%程度にすぎないことからも明らかである。
以上によれば,ピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤である被告製品の納入先であっても,通常,ピペラジン系という組成に着眼してその納入を受けているものではないのであり,また, 現に,上記「小平・村山・大和衛生組合」に係る入札仕様書(乙60の6)では,非ピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤である原告の「TS-600」も具体的な製品名として指定されていることからしても,ピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤である被告製品の販売がなかったからといって,それに替わって,当然に,ピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤である原告製品が販売されたものとはいえず,代替品として,非ピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤(例えば,被告の「NEWエポルバ880」)が販売された可能性も十分存在するものというべきである。
また,上記「小平・村山・大和衛生組合」に係る入札仕様書(乙60の6)には,被告のピペラジン系の製品「NEWエポルバ810カイ」と原告の非ピペラジン系の製品「TS-600」が列挙されていること,また,硫化水素の発生量について付記している「多摩清掃工場」を納入先とする入札仕様書(乙64の2)においても,ピペラジン系の製品である「アッシュエースL-5100」,「アッシュクリーンC-350」及び「アルサイトL301」のみならず,原告の非ピペラジン系の製品「TS-600」も具体的な製品名として指定されていることからすれば,硫化水素の発生という点において,非ピペラジン系の製品でもピペラジン系の製品を代替できることは市場が認めていたものといえる。このことは,非ピペラジン系の製品である原告の「TS-600」の技術資料(乙44)において,飛灰処理に際して硫化水素は不発生(ND)と明記されていることからも裏付けられるところである。
以上のとおり,被告製品に代替するものとして,原告製品を含 むピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤のみならず,非ピペ ラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤が販売された可能性もある という事実は,特許法102条1項ただし書の事情として考慮さ れるべきである。
(b) 被告の営業努力(被告による市場開拓) 被告は,乙56(段落【0001】,【0008】)及び乙2 7の2(3頁左上欄〜左下欄)に示されたとおり,飛灰中に含ま れる重金属の固定化処理剤として,ピペラジン由来のジチオカル バミン酸(又はその塩)を用いることができるとの知見を有して いたところ,その工業的生産が適法に行えるよう,旧化審法3条 に基づく届出を行い,「ジカリウム=ピペラジン-1,4-ビ ス(カルボジチオアート)」については平成14年6月14日 に,「カリウム=ピペラジン-1-カルボジチオアート」につい ては同年8月1日に,同法4条に基づく判定結果の通知を受け た。
そして,これらの化学物質は,被告による上記届出を契機とし て,平成16年1月9日,旧化審法2条4項に規定される「指定 化学物質」に指定され,以後は,同法3条及び4条の手続を経る ことなく,製造数量等の届出さえすれば製造することができる化 学物質となったのである。
このように,ピペラジン系の製品が,飛灰用重金属固定化処理 剤として一定の市場を形成することができたのは,被告がその有 する知見をもとに,工業的生産を開始するべく早期に旧化審法に 基づく届出等を行ったこと,すなわち,被告の営業努力又は市場 開拓によるものであり,この点については,特許法102条1項 ただし書の事情として考慮されるべきである。
(c) 需要者の動機づけ 上記(a)のとおり,飛灰用重金属固定化処理剤の需要者である ごみ処理施設の運営主体は,大多数の場合,入札により納入業者 を選定している。
このような入札制度により納入業者を選定する場合,特許権の 対象であること又は特許権の奏する効果を有することが,入札の 条件となったり,入札手続において納入業者を決定する条件とな ることはない。なぜなら,特許権は独占権を本質とするところ, 特許権の対象であること又は特許権の奏する効果を有することが 入札の条件となった場合には,入札価格が特許権者によりコント ロールされることになり,その結果,広く参加者を求めて最も合 理的な金額を提示した者を納入業者とする,という入札制度の目 的が果たされなくなるからである。
したがって,このような入札制度で納入業者が決定されるとい う特殊な性格を有する飛灰用重金属固定化処理剤の場合には,そ の製品が本件各発明の特許請求の範囲の記載に形式上含まれると いう点は,需要者であるごみ処理施設の運営主体が納入業者を決 定するに際しての動機付けとなるものでないのであり,この点 も,特許法102条1項ただし書の事情として考慮されるべきで ある。
(d) 小括 以上の(a)ないし(c)の各事情を考慮すれば,別紙被告第6表 の「I」記載の数量の少なくとも90%については,原告におい て原告製品を「販売することができないとする事情」(102条 1項ただし書)があるものというべきである。
(ウ) 原告製品の単位数量当たりの利益額 a 甲社製原告製品についての限界利益 平成15年4月1日から平成21年9月30日までの期間におけ る年度ごとの甲社製原告製品の「単位数量当たりの限界利益(円/ s)」は,古川鑑定書第4表では,別紙原告第4表のC欄記載のと おりとされている。
そして,古川鑑定書においては,原告が甲社に支給するピペラジ ンについての製造設備の減価償却費等の製造固定費を売上原価に算 入しておらず,その理由として,「被告の販売数量相当を仮に原告 が追加的に製造販売した場合でも,それに伴うピペラジンの必要量 はピペラジンの製造能力の範囲内で足りるものであり,ピペラジン の製造設備の増強に伴う追加的な支出は不要である」ことが挙げら れている(同鑑定書14頁)。
しかしながら,古川鑑定書によれば,原告は,甲社に対して原告 工場で製造した原料ピペラジンを支給する一方で,OEM3社のう ちの1社に対しては,他のピペラジン製造業者からのピペラジンの 購入を代行して行っている事実が認められ,このことは,原告の原 料ピペラジンの製造能力がOEM3社用に別途製造して支給するこ とができない程度のものであることを如実に物語っている。
さらに付言しておくと,古川鑑定人においても,売上原価に原料 ピペラジンの製造固定費を含めないことに疑念を有していたからこ そ,同製造固定費を売上原価に含めた場合の原告製品の損益計算書 をあえて古川鑑定書(別表3)に掲載したものと解される。
したがって,甲社製原告製品の単位数量当たりの利益額(円/ s)については,古川鑑定書第4表の金額ではなく,同鑑定書別表 3の金額(別紙被告第7表の「J」記載の金額)を基準とすべきで ある。
b 甲社とOEM3社への割付け (a) 平成18年4月1日以降の原告製品は,甲社製の製品とOE M3社製の製品とから構成されるところ,両製品の平均販売単価 及び単位数量当たりの利益額は,別紙被告第8表記載のとおり, 大きく異なっている。
そこで,これを前提として,被告製品の販売がなければ原告に おいて販売可能であった原告製品の数量について,甲社製原告製 品とOEM3社製原告製品とにどのように割り付けられるべきか について,以下検討する。
(b) この点,原告は,前記(1)ア(ウ)dのとおり,平成18年4月 1日から平成21年9月30日までの期間における原告の損害額 の算定に際し,その期間に被告製品の販売がなければ原告におい て販売可能であった原告製品の数量について,まず,甲社の製造 能力によって製造可能な最大限の数量まで甲社製原告製品への割 付けを行い,その余剰分のみをOEM3社製原告製品に割り付け る方法を採り,その理由として,「営利企業としては少しでも利 益の多い事業展開を希求するのが当然であることに加えて,甲社 は原告製品の製造販売開始当時(平成15年4月)からの製造委 託先であって,原告にとっては自社の社内製造と同等の下請製造 といえる」ことを挙げる。
しかしながら,このような原告の主張は,甲社製又はOEM3 社製の原告製品について,原告がその出荷数量をコントロールし 得ることを当然の前提とするものであるところ,古川鑑定書等に よれば,OEM3社は,ピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理 剤の製造,販売において,原告と競合関係にあるとされ(古川鑑 定書12頁「(2)」),また,OEM3社は,独自ブランドとして も同処理剤の販売を行っているのであるから,原告がOEM3社 の出荷数量をコントロールできないことは明らかである。この点 は,「少しでも利益の多い事業展開を希求するのが当然である」 はずの原告自身が,単位数量当たりの利益の額が大きい甲社の製 造能力に達するまで甲社製原告製品を販売することなく,OEM 3社製原告製品を販売していることからも裏付けられる。
したがって,平成18年4月1日から平成21年9月30日ま での期間に被告製品の販売がなければ原告において販売可能であ った原告製品の数量について,まず,甲社製原告製品への割付け を行い,その余剰分のみをOEM3社原告製品に割り付けるとい う原告主張の損害額算定方法は,実態を無視したものであって, 失当である。
(c) そこで,実態に即した割付方法を検討するに,ごみ処理施設 の運営主体がピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤の納入を 受ける場合には,主として入札により納入業者が決定されること からすれば,より低い価格を提示した業者のみが当該処理剤を販 売することができるはずである。そうすると,被告製品の販売が なかったとすれば,甲社製原告製品よりも平均販売単価の低いO EM3社製原告製品の方が,その製造能力によって製造可能な最 大限の数量に達するまで販売されたものと解するのが自然かつ合 理的である。
したがって,原告が販売し得た数量(別紙被告第6表の「I」記 載の数量)について,まず,OEM3社製原告製品へ割付けを行 い,その余剰分についてのみ甲社製原告製品に割り付ける方法に よって,原告製品の単位数量当たりの利益額を算定するのが相当 である。
(d) しかるところ,OEM3社の製造能力は,合計で●(省略) ●トンであるから(古川鑑定書12頁「(2)」),その年度ごとの 余剰生産能力は,別紙被告第9表の「L」記載のとおりとなる。
そして,これを前提に,原告が販売し得た数量(別紙被告第6 表の「I」記載の数量)を,上記(c)の方法に従って割り付ける と,別紙被告第10表記載のとおりとなる。
c 各期間における原告製品の限界利益 以上を前提に,平成15年1月24日から平成21年9月30日 までの期間における原告の損害額算定の基礎となる原告製品の単位 数量当たりの限界利益を算出すると,次のとおりとなる。
(a) 平成15年1月24日から平成18年3月31日までの期間 における原告製品の限界利益 @ 上記期間における原告製品は甲社製のみであることから,こ の期間に係る原告製品の限界利益については,甲社製原告製品 のそれによるべきところ,前記aのとおり,当該利益について は,古川鑑定書第4表の金額(別紙原告第4表のC欄記載の金 額)ではなく,同鑑定書別表3の金額(別紙被告第7表の「 J」記載の金額)を基準とすべきである。
ただし,以下に述べるとおり,古川鑑定書別表3の金額(別 紙被告第7表の「J」記載の金額)には,本件各発明の技術的 範囲に属しない原料ピペラジンの製造に伴う利益までもが含ま れているものというべきであるから,同期間における原告の損 害額の算定に当たって,当該金額をそのまま用いるのは相当で はない。
A すなわち,甲社製原告製品とOEM3社製原告製品との「単 位数量当たりの利益の額」が大きく異なっている主な原因は, 別紙被告第11表から明らかなとおり,「平均販売単価」の差 以上に,「変動費単価」を構成する2要素(「売上原価単価」 と「変動販売費単価」)のうち,「売上原価単価」の大きな差 によるものである。
そして,このような「売上原価単価」の差は,原料となるピ ペラジンについての甲社製原告製品とOEM3社製原告製品と の差,すなわち,原料ピペラジンを原告工場で製造し支給して いるか,それとも,OEM3社が自ら製造ないし外部から調達 しているかの差にほかならない。換言すれば,原告は,甲社製 原告製品の「単位数量当たりの利益の額」を損害額算定の基礎 となる「単位数量当たりの利益の額」(特許法102条1項) に用いることによって,本件各発明に係る化合物の製造に必要 となる原料,すなわち,それ自体は本件各発明の技術的範囲に 属することのない原料ピペラジンの製造,販売に係る利益まで をも,損害の対象に含ませようとしているのである。
しかしながら,本件特許権の効力が原料ピペラジンの製造, 販売についてまで及ぶものではないことからすれば,上記のよ うな利益までをも損害の対象とすることは許されないものとい える。
B 以上のとおり,甲社製原告製品とOEM3社製原告製品と の「単位数量当たりの利益の額」の差は,主として「売上原価 単価」の差に由来するものであり,かつ,その差は,本件各発 明の技術的範囲に属しない原料ピペラジンの製造,販売に伴う 利益であるから,当該利益に相当する額を原告の損害額に含め るのは相当でなく,損害算定の基礎となる甲社製原告製品の「 単位数量当たりの利益の額」から差し引くべきである。
しかるところ,平成18年度から平成21年度上期までの期 間における上記「売上原価単価」の差は,別紙被告第11表 の「B」の「上段」記載のとおりであるが,他方,平成15年 度から17年度の期間においては,OEM3社製原告製品が存 在しておらず,上記「売上原価単価」の差をもって原料ピペラ ジンの製造,販売に伴う利益を算定し得ないことから,当該期 間における原料ピペラジンの製造,販売に伴う利益は,平成1 8年度から平成21年度上期までの期間における上記「売上原 価単価」の差の平均値(●(省略)●円)をもって代替させる のが相当である。
C したがって,平成14年度の一部から平成17年度における 原告の損害額算定の基礎となる甲社製原告製品の限界利益の額 については,別紙被告第12表記載のとおりとすべきである。
(b) 平成18年4月1日から平成21年9月30日までの期間に おける原告製品の限界利益 上記期間における原告製品は,甲社製製品とOEM3社製製品 とから構成されるところ,この期間に係る原告製品の限界利益に ついては,原告が販売し得た数量(別紙被告第6表の「I」記載 の数量)を上記b(c)の方法に従って,OEM3社製原告製品と 甲社製原告製品とに割り付けることによって算定されるべきであ る。
しかるところ,上記割付けを行うと,別紙被告第10表記載の とおり,平成18年度から平成21年度上半期までの期間におけ る原告が販売し得た数量は,そのすべてがOEM3社製原告製品 に割り付けられることになる。
したがって,上記期間における原告製品の限界利益について は,専らOEM3社製原告製品のそれによるべきである。
(エ) 以上を踏まえて,特許法102条1項に基づく原告の損害額を算 定すると,別紙被告第13表記載のとおり,合計●(省略)●円を上 回ることはない。
イ 特許法102条3項損害額(実施料相当額)について (ア) 原告は,平成15年4月1日から平成18年3月31日までの期 間について,特許法102条1項に基づく損害額を主張し,その中 で,被告製品の販売数量のうち原告製品の販売可能数量を超える数 量(別紙原告第9表のC欄記載の数量)につき,原告が「販売するこ とができないとする事情」(102条1項ただし書)を認めながら, 当該数量について,同法102条3項に基づく実施料相当額損害額 も主張している。
しかしながら,特許法102条1項に基づく損害賠償を請求する場 合において,同項ただし書に該当する数量について同条3項に基づく 損害賠償を請求することは,特段の事情がない限りできないものと解 すべきところ,原告は,被告製品の販売数量のうち原告製品の販売可 能数量を超える数量(別紙原告第9表のC欄記載の数量)について, 上記「特段の事情」を明らかにしていないから,原告の上記主張が成 り立つ余地はない。
なお,原告は,上記期間における被告製品の販売数量の全部に相当 する原告製品を製造する能力を甲社のみで有しており(古川鑑定書第 5表「エ」),製造能力の点において,上記「特段の事情」を認める ことができないことは明らかである。
(イ) また,原告は,平成18年度から平成21年度上期までのOEM 3社製原告製品の平均販売単価に対する限界利益の割合等を根拠に挙 げて,本件各発明の実施に対し受けるべき実施料の額としては,製品 の販売価格の10%が相当である旨主張する。
しかしながら,別紙原告第5表に基づいて計算すれば,平成18年 度におけるOEM3社製原告製品の平均販売単価に対する限界利益の 割合は約7%にすぎず,他方,同割合が平成18年度以降,漸次増加 していることからすれば,平成17年度以前の同割合は,平成18年 度の同割合以下であることが合理的に推測されるから,原告主張の販 売価格の10%という実施料率が高すぎる数値であることは明らかで ある。
ウ 弁護士費用相当額について 原告は,十分な根拠を示さず,請求額の10%を弁護士費用相当額の損害として主張するが,このような過大な主張が認められる余地はない。
エ 消滅時効援用(ア) 被告は,平成15年1月24日より前から,被告製品を継続して 製造,販売していたのであるから,原告は,競合メーカーとして,そ の当時から,当然に被告による被告製品の製造,販売の事実を熟知し ていたはずである。
そうすると,原告の被告に対する本件特許権侵害に基づく損害賠償 請求権の消滅時効は,平成15年1月24日より前の時点から,順次 進行するものと考えられるところ,原告が本件訴えの提起をした平成 19年1月15日の時点において,平成15年1月24日から平成1 6年1月15日までの間における被告製品の販売によって生じた損害 に係る損害賠償請求権については,原告が「損害及び加害者」を知っ た時から3年が経過しているから,消滅時効が完成したものである。
被告は,本訴において,上記消滅時効援用する。
(イ) なお,原告は,被告による被告製品の製造,販売が本件特許権を 侵害しているとの確信を得るに至ったのは,平成18年7月に被告製 品のサンプルを入手し,その後それを分析した結果を得た時点である 旨主張するが,事実に反する。
すなわち,静岡市廃棄物処理課が平成16年10月1日から同年1 2月31日までの契約期間に係る液体キレート(飛灰処理用重金属固 定剤)の購入に当たって作成した入札仕様書(甲7の1)において は,「薬品銘柄」欄に,原告の「TS-275」とともに,被告の「 ニューエポルバ810S」も挙げられている上,購入対象とされる薬 剤について「主成分がピペラジン系(有効成分35%以上)のキレー ト剤」であることが条件の一つとされていることからすると,平成1 6年10月1日以前から,被告がピペラジン系の飛灰用重金属固定化 処理剤を製造,販売していたことは市場関係者の間に広く知れ渡って いたものであり,原告においてもこれを当然認識していたはずであ る。
当裁判所の判断
1 争点1(技術的範囲の属否)について (1) 構成要件充足性 被告製品が,別紙物件目録記載のとおり,「ピペラジン-N,N’-ビ スカルボジチオ酸カリウム」及び「ピペラジン-N-カルボジチオ酸カリ ウム」の一方又は双方を有効成分として含有する飛灰中の重金属固定化処 理剤であることは,争いがない。
そして,「ピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸カリウム」及 び「ピペラジン-N-カルボジチオ酸カリウム」は,いずれもアルカリ金 属であるカリウムの塩であるから,「ピペラジン-N-カルボジチオ酸も しくはピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸の塩」に該当する。
そうすると,被告製品は,「ピペラジン-N-カルボジチオ酸もしくは ピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸のいずれか一方もしくはこれ らの混合物又はこれらの塩」(構成要件A)からなる「飛灰中の重金属固 定化処理剤」(構成要件B)に該当するものと認められるから,本件発明 1の構成要件A及びBを充足するものと認められる。
同様に,被告製品は,「ピペラジン-N-カルボジチオ酸塩もしくはピ ペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸塩」が,「アルカリ金属」(構 成要件C)である「カリウムの塩」(構成要件E)であることを特徴とす る「飛灰中の重金属固定化処理剤」(構成要件D及びF)と認められるか ら,本件発明2の構成要件C及びD並びに本件発明3の構成要件E及びF を充足するものと認められる。
したがって,被告製品は,本件各発明(本件発明1ないし3)の構成要 件をすべて充足するから,その技術的範囲に属するというべきである。
(2) 被告の限定解釈の主張に対する判断 これに対し被告は,@本件各発明の技術的範囲は,副生成物として,硫 化水素の発生源となるチオ炭酸塩等を含まない,純然たる「ピペラジン- N-カルボジチオ酸もしくはピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸 のいずれか一方もしくはこれらの混合物又はこれらの塩」のみから構成さ れ,安定性試験(本件明細書記載の65℃の加温及び塩化第二鉄の水溶液 の添加によるもの)において硫化水素を発生しない飛灰中の重金属固定化 処理剤に限定して解釈されるべきである,A被告製品は,その製造工程に おいてチオ炭酸塩等の副生成物を対象とした除外工程がなく,副生成物で あるチオ炭酸塩等を含まない,純然たる「ピペラジン-N-カルボジチオ 酸もしくはピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸のいずれか一方も しくはこれらの混合物又はこれらの塩」のみから構成されているものでは なく,また,被告製品は,安定性試験において硫化水素を発生するもので あるから,本件各発明の技術的範囲に属さない旨主張する。
しかし,被告の主張は,以下のとおり理由がない。
ア 特許請求の範囲の記載(ア) 本件発明1の特許請求の範囲(請求項6)は,「ピペラジン-N -カルボジチオ酸もしくはピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ 酸のいずれか一方もしくはこれらの混合物又はこれらの塩からなる飛 灰中の重金属固定化処理剤。」というものであり,特許請求の範囲の 記載上,被告が主張するような「副生成物として,硫化水素の発生源 となるチオ炭酸塩等を含まない,純然たる「ピペラジン-N-カルボ ジチオ酸もしくはピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸のいず れか一方もしくはこれらの混合物又はこれらの塩」のみから構成され る」ものに限定する文言はみられない。
また,本件発明2の特許請求の範囲(請求項7)は,「ピペラジン -N-カルボジチオ酸塩もしくはピペラジン-N,N’-ビスカルボ ジチオ酸塩が,アルカリ金属,アルカリ土類金属塩又はアンモニウム 塩であることを特徴とする請求項6に記載の飛灰中の重金属固定化処 理剤。」,本件発明3の特許請求の範囲(請求項9)は,「ピペラジ ン-N,N’-ビスカルボジチオ酸塩がピペラジン-N,N’-ビス カルボジチオ酸カリウムであることを特徴とする請求項7に記載の飛 灰中の重金属固定化処理剤。」というものであり,同様に,いずれに おいても上記のものに限定する文言はみられない。
さらに,本件発明1の特許請求の範囲(請求項6)記載中の「ピペ ラジン-N-カルボジチオ酸もしくはピペラジン-N,N’-ビスカ ルボジチオ酸のいずれか一方もしくはこれらの混合物又はこれらの塩 からなる」との部分(構成要件A)は,本件発明1の飛灰中の重金属 固定化処理剤において,「ピペラジン-N-カルボジチオ酸もしくは ピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸のいずれか一方もしくは これらの混合物又はこれらの塩」が必須の有効成分であることを規定 したものであって,これ以外の他の成分を含有することを積極的に排 除する意味を有するものではないと解するのが,請求項6の文理上自 然な解釈である。
(イ) 以上によれば,本件各発明の特許請求の範囲の記載の文言から は,被告主張の限定解釈の根拠を見出すことはできない。
イ 本件明細書の記載事項(ア) 本件明細書(甲2)の「発明の詳細な説明」には,以下のような 記載がある。
a「【発明の属する技術分野】本発明は都市ゴミや産業廃棄物等の焼 却プラントから排出される飛灰を処理するに際し,飛灰中に含有さ れる鉛,水銀,クロム,カドミウム,亜鉛及び銅等の有害な重金属 をより簡便に固定化し不溶出化することを可能にする方法に関する ものである。」(段落【0001】) b「【従来の技術】都市ゴミや産業廃棄物等の焼却プラントから排出 される飛灰は電気集塵機(EP)やバグフィルター(BF)で捕集 されたのち埋め立てや海洋投棄されている。しかし,これら飛灰は 有害な重金属を多く含んでおり,埋め立て地からの雨水等による 鉛,水銀等の溶出は環境汚染の可能性がある。このため飛灰は特別 管理廃棄物に指定され,「セメント固化法」,「酸その他の溶剤に よる抽出法」,「溶融固定化法」又は「薬剤添加法」のいずれかの 処理を施した後,廃棄することが義務づけられている。このうち薬 剤添加法は他の方法に比べ,一般に,装置及び取扱いが簡便なため 種々検討されている。例えば,ポチエチレンイミン等のポリアミン を原料とするジチオカルバミン酸塩に無機硫化物を併用する方法が 特開平5-50055号公報に開示され,ジエチレントリアミンを 原料とするジチオカルバミン酸塩を使用する方法が特開平6-79254号公報に開示されている。」(段落【0002】)c「【発明が解決しようとする課題】飛灰処理に関しては,EP又はBF捕集等によるばいじん対策以外に,排ガス及びダイオキシン対策が必要であり,これらの対策によっては得られる飛灰の性状が大きく異なり,特に高アルカリ性飛灰においては重金属溶出量が多くなることが知られている。このような飛灰の重金属固定化のためには,従来の薬剤ではその使用量を大幅に増加するか,又は塩化第二鉄等のpH調整剤,又はセメント等の他の薬剤との併用法を取らざるを得ず,処理薬剤費が増大し,又は処理方法が複雑化する等の問題があった。さらに,前記ジチオカルバミン酸は,原料とするアミンによっては,pH調整剤との混練又は熱により分解するために,混練処理手順及び方法に十二分に配慮する必要があった。」(段落【0003】),「本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり,その目的は,飛灰中に含まれる重金属を安定性の高いキレート剤を用いることにより簡便に固定化できる方法を提供することである。」(段落【0004】)d「【課題を解決するための手段】本発明者等は上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果,ピペラジンカルボジチオ酸又はその塩は,重金属に対するキレート能力が高く,高アルカリ性飛灰においても少量の添加量で重金属を固定化でき,かつ熱的に安定であることを見出し,本発明を完成するに至った。」(段落【0005】)e「すなわち本発明は,飛灰に水とピペラジンカルボジチオ酸又はその塩を添加し,混練する事を特徴とする飛灰中の重金属の固定化方法である。」(段落【0006】),「本発明のピペラジンカルボジチオ酸としては,ピペラジン-N-カルボジチオ酸又はピペラジン -N,N’-ビスカルボジチオ酸のいずれか一方,又はこれらの混合物として使用できる。ピペラジン-N-カルボジチオ酸を使用する場合には,ジチオカルバミン酸基当量を,ピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸を使用する場合における該官能基当量と同等にすることにより,ピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸を使用した場合と同様の効果を得ることができる。従って,これらの混合物として使用する場合における混合比は任意に選択できる。」(段落【0009】),「本発明のピペラジンカルボジチオ酸塩は,前記したピペラジンカルボジチオ酸のアルカリ金属,アルカリ土類金属又はアンモニウムの塩が使用できる。このうち水に溶解し得るリチウム,ナトリウム,カリウム,マグネシム,カルシウム,アンモニウムの塩が好ましい。さらに,熱的に安定でかつ安価なナトリウム塩又はカリウム塩が特に好ましい。」(段落【0010】),「本発明のピペラジンカルボジチオ酸又はその塩の使用量は,処理する飛灰中の重金属の含有量や重金属の形態により異なり特に限定するものではないが,通常飛灰に対して0.01〜5重量%の範囲で使用される。」(段落【0011】),「本発明の方法において,固定化される飛灰中の重金属は,一般にジチオカルバミン酸基がキレートすることによって水溶液から不溶化できる金属であり,鉛,水銀,クロム,カドミウム,亜鉛,銅,ニッケル,砒素,セレン等が例示できる。特に,鉛,水銀,クロム,カドミウム,亜鉛,銅についてはキレート効果が高いことから好ましい。」(段落【0014】)f「【実施例】次に,実施例によりさらに詳細に本発明を説明する。
但し,本発明は下記実施例によってなんら制限を受けるものではない。」(段落【0015】) g「合成例1 ピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸ナトリウム(化合物1)の合成ガラス製容器中に窒素雰囲気下,ピペラジン172重量部,NaOH167重量部,水1512重量部を入れ,この混合溶液中に撹拌しながら45℃で二硫化炭素292部を4時間かけて滴下した。滴下終了後,同温度にて約2時間熟成を行った。反応液に窒素を吹き込み未反応の二硫化炭素を留去したところ,黄色透明の液体を得た。」(段落【0016】)h「合成例2 ピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸カリウム(化合物2)の合成ガラス製容器中に窒素雰囲気下,ピペラジン112重量部,KOH48.5%水溶液316重量部,水395重量部を入れ,この混合溶液中に撹拌しながら40℃で二硫化炭素316部を4時間かけて滴下した。滴下終了後,同温度にて約2時間熟成を行った。反応液に窒素を吹き込み未反応の二硫化炭素を留去したところ,黄色透明の液体を得た。ヨード滴定により測定した結果,この水溶液中のピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸カリウム濃度は40wt%であった。」(段落【0018】)i「合成例3 エチレンジアミン-N,N’-ビスカルボジチオ酸ナトリウム(化合物3)の合成合成例1と同様の装置を用いエチレンジアミン39重量部,NaOH53重量部,水920重量部を入れ,48℃にて二硫化炭素99重量部を滴下,反応させて目的の化合物を含む溶液を得た。ヨード滴定により測定した結果,この水溶液中のエチレンジアミン-N,N’-ビスカルボジチオ酸ナトリウム濃度は15wt%であった。」(段落【0019】) j「合成例4 ジエチレントリアミン-N,N’,N”-トリスカル ボジチオ酸ナトリウム(化合物4)の合成 合成例1と同様の装置を用いジエチレントリアミン206重量部, NaOH250重量部,水1001重量部を入れ,48℃にて二硫 化炭素415重量部を滴下,反応させて目的の化合物を含む溶液を 得た。IC測定によるジチオカルバミン酸基による硫黄の含有率は 19.4%(計算値19.3%)であった。ヨード滴定により測定 した結果,この水溶液中のジエチレントリアミン-N,N’,N” -トリスカルボジチオ酸ナトリウム濃度は42wt%であっ た。」(段落【0020】)k「参考例1〜参考例4 安定性試験 得られた化合物1〜4の水溶液を65℃に加温して硫化水素ガス の発生について調べた。さらに水溶液にpH調整剤として塩化第二 鉄(FeCl3 ,38%水溶液)を20重量%添加して硫化水素ガス の発生についても調べた。結果を表1に示す。」(段落【0021 】)l「実施例1 重金属固定化能試験 BF灰(Ca=30.9%,Na=1.5%,K=1.8%,Pb =2100ppm,Zn=5800ppm,Cu=150ppmを 含む)100重量部に対し,水30重量部を加え,さらにピペラジ ン-N,N’-ビスカルボジチオ酸ナトリウムを0.5部(固形分 換算)となるように添加(化合物1の水溶液を飛灰に対し2wt %添加),混練し,環境庁告示第13号試験に従い溶出試験を行っ た。鉛の溶出結果を表2に示す。」(段落【0023】)m「【発明の効果】本発明の方法によれば,ピペラジンカルボジチオ 酸又はその塩は重金属固定化能が高く,かつ熱的にも安定であるこ とから,重金属溶出量の多い高アルカリ性飛灰においても,少量の 添加で効果を発揮し経済的であるとともに,他の助剤の使用に際し て安全かつ簡便な処理方法にて実施できるので工業的にも非常に有 用である。」(段落【0032】) n 表1(段落【0022】)は,化合物1ないし4についての 硫化水素ガス(H2S)の発生について調べた「安定性試験」の結果 を示した表である。
表1には,「H2Sの発生」に係る「加温(65℃)」及び「38 %FeCl3添加」の欄には,「参考例1」(化合物1)及び「参 考例2」(化合物2)につき,いずれも「発生なし」との記載 が,「参考例3」(化合物3)及び「参考例4」(化合物4) につき,いずれも「発生あり」との記載がある。
o 表2(段落【0024】)は,鉛の溶出結果について調べた「重 金属固定化能試験」の結果を示した表である。
(イ) 前記(ア)の記載を総合すれば,本件明細書には,@都市ゴミや産 業廃棄物等の焼却プラントから排出される飛灰処理に際し,飛灰中に 含有される重金属固定化,特に重金属溶出量が多くなる高アルカリ性 飛灰中に含有される重金属固定化においては,薬剤添加法で使用され る従来の薬剤ではその使用量を大幅に増加するか,又は塩化第二鉄等 のpH調整剤,又はセメント等の他の薬剤との併用法を取らざるを得 ず,処理薬剤費が増大し,又は処理方法が複雑化する等の問題があ り,さらに,薬剤として使用されるジチオカルバミン酸(カルボジチオ 酸)は,原料とするアミンによっては,pH調整剤との混練又は熱に より分解するために,混練処理手順及び方法に十二分に配慮する必要 があるという課題があったこと,A上記課題を解決し,「飛灰中に含 まれる重金属を安定性の高いキレート剤を用いることにより簡便に固 定化」できる方法を提供することを目的として検討した結果,「ピペラジンカルボジチオ酸又はその塩は,重金属に対するキレート能力が高く,高アルカリ性飛灰においても少量の添加量で重金属を固定化でき,かつ熱的に安定であること」を見出して,本件各発明を完成するに至ったこと,B本件各発明の実施例である「合成例1」及び「合成例2」並びに比較例である「合成例3」及び「合成例4」によりそれぞれ得られた化合物1ないし4について「安定性試験」(対象となる化合物の水溶液を65℃に加温して硫化水素ガスの発生を調べる加温試験及び同水溶液にpH調整剤として塩化第二鉄(FeCl3 ,38%水溶液)を20重量%添加して硫化水素ガスの発生を調べる添加試験)を行った結果,ピペラジンを原料アミンとして合成した化合物1及び化合物2についてはいずれも検出下限を超える硫化水素ガスの発生が認められなかったのに対し(表1の「発生なし」の記載),エチレンジアミン又はジエチレントリアミンを原料アミンとして合成した化合物3及び化合物4については検出下限を超える硫化水素ガスの発生が認められ(表1の「発生あり」の記載),本件各発明の実施例の化合物1及び化合物2は比較例の化合物3及び化合物4よりも硫化水素ガスの発生が抑制されていること,C本件各発明の実施例である「実施例1」ないし「実施例4」及び比較例である「比較例1」ないし「比較例5」について「重金属固定化能試験」を行った結果,表2に示すように,「実施例1」ないし「実施例4」のキレート剤(化合物)は「比較例1」ないし「比較例5」のキレート剤(化合物)よりも「溶出鉛濃度」が低かったこと,D「発明の効果」として,本件各発明のピペラジンカルボジチオ酸又はその塩は,「重金属固定化能が高く,かつ熱的にも安定であることから,重金属溶出量の多い高アルカリ性飛灰においても,少量の添加で効果を 発揮し経済的であるとともに,他の助剤の使用に際して安全かつ簡便 な処理方法にて実施できるので工業的にも非常に有用である」ことが 記載されていることが認められる。
そして,上記認定事実によれば,本件明細書には,本件各発明は, 飛灰中に含有される重金属固定化,特に重金属溶出量が多くなる高ア ルカリ性飛灰中に含有される重金属固定化のための重金属固定化処理 剤を「ピペラジンカルボジチオ酸又はその塩」を必須の有効成分とす る構成とすることによって,従来の重金属固定化処理剤に比べて,「 重金属固定化能が高く,かつ熱的にも安定」な作用効果を奏するもの としたことに技術的意義を有することが開示されていることが認めら れる。
他方で,本件明細書には,「本発明は下記実施例によってなんら制 限を受けるものではない。」との記載(前記(ア)f)がある上,本件 各発明の実施例として示された「合成例1」及び「合成例2」により それぞれ得られた化合物1及び化合物2についてもその副生成物 に関する記載はなく,また,本件各発明の飛灰中の重金属固定化処理 剤が,被告が主張するような「副生成物として,硫化水素の発生源と なるチオ炭酸塩等を含まない,純然たる「ピペラジン-N-カルボジ チオ酸もしくはピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸のいずれ か一方もしくはこれらの混合物又はこれらの塩」のみから構成され る」ことを要することの記載も,示唆もない。
したがって,本件明細書の記載からも,被告主張の限定解釈の根拠 を見出すことはできない。
(ウ) この点について被告は,本件明細書の段落【0021】,【00 22】に記載されている「安定性試験」に示された硫化水素が発生し ないという効果は,本件各発明の固有の効果であるとの前提に立て ば,本件各発明の技術的範囲は,副生成物として,硫化水素の発生源となるチオ炭酸塩等を含まない,純然たる「ピペラジン-N-カルボジチオ酸もしくはピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸のいずれか一方もしくはこれらの混合物又はこれらの塩」のみから構成され,安定性試験において硫化水素を発生しない飛灰中の重金属固定化処理剤に限定して解釈されるべきである旨主張する。
しかしながら,本件明細書の上記記載部分は,本件各発明の実施例である「合成例1」及び「合成例2」並びに比較例である「合成例3」及び「合成例4」によりそれぞれ得られた化合物1ないし4について行われた「安定性試験」の内容及び結果について記載したものであるところ,当該「安定性試験」は,「ピペラジンカルボジチオ酸又はその塩」を必須の有効成分とする本件各発明が従来の重金属固定化処理剤に比べて「熱的に安定」であることを検証するために行われたものであって,「安定性試験において硫化水素を発生しない」ことそれ自体が本件各発明の内容を規定する要件となるものではない。
そして,前記(イ)Bの認定事実によれば,「安定性試験」の結果を示した表1の「発生あり」及び「発生なし」との記載は,加温試験及び塩化第二鉄の添加試験の各試験において検出下限を超える硫化水素が発生したか,あるいは発生しなかったかを記載したものにすぎないのであって,「発生なし」との記載は上記各試験の検出下限を下回る硫化水素が発生しなかったことまで意味するものではなく,また,「安定性試験」の結果は,本件各発明の実施例であるピペラジンを原料アミンとして合成した化合物1及び化合物2が,比較例としてエチレンジアミン又はジエチレントリアミンを原料アミンとして合成した化合物3及び化合物4よりも硫化水素ガスの発生が抑制される効果を有することを示したものと認められる。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
ウ 小括 以上によれば,被告主張の本件各発明の限定解釈は,特許請求の範囲 の記載及び本件明細書の記載に基づかないものというべきであって,理 由がない。
(3) 被告の先願特許実施の主張に対する判断 ア 被告は,被告製品は,本件特許の先願特許である被告特許発明実施 品であるから,被告による被告製品の製造及び販売は自己の先願特許の 実施として適法な行為であり,本件特許権侵害を構成するものではない 旨主張する。
(ア) 被告特許(特許第2948879号。平成11年7月2日設定登 録)の優先権主張日は,平成1年12月20日であって(乙12), 本件特許の優先権主張日(平成6年12月2日)よりも前であるか ら,被告特許の出願は,本件出願の先願の関係にある。
被告特許に係る願書に添付した明細書(ただし,平成18年7月1 1日付け審決(訂正2006-39096号事件)による訂正後のも の)の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりであり(乙1 1),この請求項1に係る発明が被告特許発明である。
「(1) エチレンジアミン,プロピレンジアミン,ブチレンジアミン, ヘキサメチレンジアミン,ジエチレントリアミン,ジプロピレントリ アミン,ジブチレントリアミン,トリエチレンテトラミン,トリプロ ピレンテトラミン,トリブチレンテトラミン,テトラエチレンペンタ ミン,テトラプロピレンペンタミン,テトラブチレンペンタミン,ペ ンタエチレンへキサミン,フェニレンジアミン,o-キシレンジアミ ン,m-キシレンジアミン,p-キシレンジアミン,イミノビスプロ ピルアミン,モノメチルアミノプロピルアミン,メチルイミノビスプ ロピルアミン,1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン,1, 3-ジアミノプロパン,1,4-ジアミノブタン,3,5-ジアミノ クロロベンゼン,メラミン,1-アミノエチルピペラジン,ピペラジ ン,3,3’-ジクロロベンジジン,ジアミノフェニルエーテル,ト リジン,m-トルイレンジアミンよりなる群から選ばれた1種又は2 種以上の分子量500以下のポリアミンに,アルカリの存在下又は非 存在下で二硫化炭素を反応せしめて得られる,ポリアミン1分子当た りに対し,少なくとも1個のジチオカルボキシ基:-CSSH,また はその塩を上記ポリアミンの活性水素と置換したN-置換基として有 するポリアミン誘導体と,平均分子量5000以上のポリエチレンイ ミン1分子当たり,少なくとも1個のジチオカルボキシ基またはその 塩を上記ポリエチレンイミンの活性水素と置換したN-置換基として 有するポリエチレンイミン誘導体とからなり,ポリアミン誘導体とポ リエチレンイミン誘導体とを重量比で,ポリアミン誘導体:ポリエチ レンイミン誘導体=9〜7:1〜3の割合で含有することを特徴とす る金属捕集剤。」(イ) 前記(ア)によれば,被告特許発明は,@請求項1記載の群から選 ばれた1種又は2種以上の分子量500以下のポリアミンに,アルカ リ存在下又は非存在下で二硫化炭素を反応せしめて得られる,ポリア ミン1分子当たりに対し,少なくとも1個のジチオカルボキシ基:- CSSH,またはその塩を上記ポリアミンの活性水素と置換したN- 置換基として有するポリアミン誘導体と,A平均分子量5000以上 のポリエチレンイミン1分子当たり,少なくとも1個のジチオカルボ キシ基またはその塩を上記ポリエチレンイミンの活性水素と置換した N-置換基として有するポリエチレンイミン誘導体とからなり,Bポ リアミン誘導体とポリエチレンイミン誘導体とを重量比で,ポリアミ ン誘導体:ポリエチレンイミン誘導体=9〜7:1〜3の割合で含有 することを特徴とする金属捕集剤であるとの構成を有するものである といえる。
しかるに,本件においては,被告製品が上記Aの平均分子量500 0以上のポリエチレンイミン誘導体(高分子ポリエチレン誘導体)の 構成を有することを認めるに足りる証拠はなく,また,被告製品が上 記Bのポリアミン誘導体とポリエチレンイミン誘導体とが重量比で「 9〜7:1〜3」の割合で含有するとの構成を有することを認めるに 足りる証拠もない。
したがって,被告製品は,被告特許発明実施品に当たるものと認 めることはできない。
イ そうすると,他人の特許発明実施に当たる行為が,その特許出願前 の出願に係る自己の特許発明実施に当たる場合には,先願特許の実施 として他人の特許発明の特許権侵害を構成しないか否かについて検討す るまでもなく,被告による被告製品の製造及び販売は自己の先願特許の 実施として適法な行為であるとの被告の主張は,理由がない。
(4) まとめ 以上のとおり,被告製品は,本件各発明の技術的範囲に属するものと認 められ,被告による被告製品の製造及び販売は,本件特許権侵害を構成す るというべきである。
2 争点2(本件特許権に基づく権利行使の制限の成否)について(1) 無効理由1(乙12に基づく新規性の欠如) 被告は,本件各発明は,乙12(特開平3-231921号公報)に記 載された発明(乙12記載発明)と同一であるから,本件特許には,特許法 29条1項3号に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある旨主 張する。
すなわち,被告は,@乙12には,アルカリ存在下で,ピペラジンと二硫化炭素を反応させた飛灰中の重金属固定化処理剤が記載されていること(7欄2行〜9欄12行),Aまた,乙12には,「このポリアミン誘導体,ポリエチレンイミン誘導体は,例えばポリアミンやポリエチレンイミンに二硫化炭素を反応せしめることにより得られるが,更に反応終了後,水酸化ナトリウム,水酸化カリウム,水酸化アンモニウム等のアルカリで処理するか,或いは前記反応をアルカリの存在下で行うことによりジチオカルボキシ基末端の活性水素をアルカリ金属,アルカリ土類金属,アンモニウム等で置換することができる。」との記載があること(7欄16行〜8欄4行),Bアルカリ存在下で,ピペラジンと二硫化炭素を反応させた場合には,「ピペラジン-N-カルボジチオ酸もしくはピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸のいずれか一方もしくはこれらの混合物又はこれらの塩」が生成されることからすると,乙12の上記@の記載は,「ピペラジン-N-カルボジチオ酸もしくはピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸のいずれか一方もしくはこれらの混合物又はこれらの塩からなる飛灰中の重金属固定化処理剤」という本件発明1の構成要件A及びBを開示し,上記Aの記載は,本件発明2の構成要件C及びD並びに本件発明3の構成要件E及びFを開示するものであるから,本件各発明は,乙12記載発明と同一のものである旨主張する。
ア 乙12の記載事項(ア) 乙12には,次のような記載がある。
a「特許請求の範囲」として,「(1) 分子量500以下のポリアミン 1分子当たりに対し,少なくとも1個のジチオカルボキシ基または その塩を上記ポリアミンの活性水素と置換したN-置換基として有 するポリアミン誘導体と,平均分子量5000以上のポリエチレン イミン1分子当たり,少なくとも1個のジチオカルボキシ基又はそ の塩を上記ポリエチレンイミンの活性水素と置換したN-置換基として有するポリエチレンイミン誘導体とからなることを特徴とする金属捕集剤。」,「(2) 請求項1記載の金属捕集剤を重金属を含む飛灰に添加して混練し,飛灰中の重金属を固定化することを特徴とする金属捕集方法。」,「(3) 請求項1記載の金属捕集剤を重金属を含む鉱滓に添加して混練し,鉱滓中の重金属を固定化することを特徴とする金属捕集方法。」,「(4) 請求項1記載の金属捕集剤を重金属を含む土壌に添加して混練し,土壌中の重金属を固定化することを特徴とする金属捕集方法。」,「(5) 請求項1記載の金属捕集剤を重金属を含む汚泥に添加して混練し,汚泥中の重金属を固定化することを特徴とする金属捕集方法。」(1欄〜2欄)b「〔産業上の利用分野〕 本発明は金属捕集剤及び金属捕集方法に関する。」(2欄8行〜9行)c「〔従来の技術及び発明が解決しようとする課題〕 近年,工場等の廃水による河川,海等の汚染が問題となるにつれて,廃水による汚染防止のための規制が強化され,廃水中に含まれる金属類を所定の濃度以下とすることが義務づけられている。また鉱山より排出される鉱滓,ゴミ焼却場においてゴミ焼却の際に発生する飛灰,廃水処理の際の中和凝集沈澱処理や凝集剤による沈澱処理において産業廃棄物として生じる汚泥,更に汚染の進んだ土壌等には種々の重金属が含有され,それらの重金属が流出して地下水,河川,海水中に混入することが問題となっており,これらの金属に対する処理方法を確立することは焦眉の課題となっている。これらにおいて特に水銀,カドミウム,鉛,亜鉛,銅,クロム等の人体に有害な重金属に対しては厳しい規制が設けられている。このため廃水処理においては金属類を除去するための種々の方法が提案されており,この種の 方法として,イオン浮選法,イオン交換法,電解浮上法,電気透析法,逆浸透圧法等の方法や,水酸化カルシウム,水酸化ナトリウム等のアルカリ中和剤を投入して金属類を水酸化物とした後,高分子凝集剤により凝集沈澱させて除去する中和凝集沈澱法等が知られている。しかしながら,イオン浮選法,イオン交換法,電解浮上法,電気透析法,逆浸透圧法は重金属類の除去率,操作性,ランニングコスト等の問題があり,一部の特殊な廃水処理のみにしか利用されていないのが現状である。また中和凝集沈澱法では大量の金属水酸化物のスラッジが生成し,これら水酸化物のスラッジは脱水性が悪く,スラッジ容積も大きいため運搬が困難であるという問題を有するとともに,重金属類を排水基準値以下に除去することも非常に困難である。しかもこれらスラッジは廃棄の仕方によっては再溶解して二次公害を生じるという問題も含んでいる。これに対して金属捕集剤を用いた廃水処理では上記の問題点を解決できるため,近年金属捕集剤が広く利用されている。この種の金属捕集剤としてジチオカルボキシ基を官能基として有するポリアミン誘導体からなる金属捕集剤が知られており,この金属捕集剤を用いた廃水処理方法も種々提案されている(例えば特公昭56-39358号,特公昭60-57920号,特公昭64-3549号,特開昭62-65788号等)。」,「上記ポリアミン誘導体は金属捕集効率に優れ,しかも金属イオンを捕集して生じたフロックが大きく,沈降速度も大であるため,従来法に比して効率良く廃水中の金属イオンの除去を行うことができるが,それでもクロム(V),ニッケル,コバルト,マンガンに対する吸着性は充分とはいえなかった。また金属捕集剤に金属が結合して生成したフロックを分離除去して固めて得たケークは,焼却したりコンクリートで固めて処理したりしている が,従来の金属捕集剤を用いた場合にはケーク中の含水量が比較的多く,このためケーク焼却の際に過大なエネルギーが必要となったり,嵩が大きくなって処理作業に必要以上の手間や経費がかかる等の問題を生じる場合があった。」,「また飛灰,汚泥,鉱滓,土壌中の金属を処理する方法として従来は,これらをそのままセメントで固化した後に埋め立てたり,海洋投棄する等の方法が採用されていたが,セメント壁を通して金属が流出する虞があるため安全な方法とは言いがたく,完全な処理方法が求められていた。」(以上,2欄10行〜5欄15行)d「本発明は上記した問題を解決するためになされたもので,更に廃水中の多種の金属イオンを効率良く捕集除去できるとともに,ケーク中の含水量を従来に比して少なくでき,ケーク処理作業の効率をも向上し得る金属捕集剤を提供することを目的とする。また重金属を含む飛灰,汚泥,鉱滓,土壌等をセメントで固化して海洋投棄や埋め立て等によって処理するに際し,本発明の金属捕集剤を用いて処理することにより,従来に比ベてケークの容量を小さくできるため使用するセメントの量を少なくすることができ,埋め立て等の処理を容易に行うことができるとともに,飛灰,汚泥,鉱滓,土壌等に含まれる重金属を強固に固定化して金属の流出を防止することのできる金属捕集方法を提供することを目的とする。」(5欄16行〜6欄10行)e「〔課題を解決するための手段〕 即ち本発明は,分子量500以下のポリアミン1分子当たりに対し,少なくとも1個のジチオカルボキシ基またはその塩を上記ポリアミンの活性水素と置換したN-置換基として有するポリアミン誘導体と,平均分子量5000以上のポリエチレンイミン1分子当たり,少なくとも1個のジチオカル ボキシ基又はその塩を上記ポリエチレンイミンの活性水素と置換したN-置換基として有するポリエチレンイミン誘導体とからなることを特徴とする金属捕集剤を要旨とするものである。」(6欄11行〜7欄1行)f「本発明の金属捕集剤は飛灰,汚泥,鉱滓,土壌等に添加して混練し,これらの中の重金属を固定化する金属捕集方法に適用することができる。本発明において用いるポリアミン誘導体,ポリエチレンイミン誘導体は,1級及び/又は2級アミノ基を有するポリアミン分子や,1級及び/又は2級アミノ基を有するポリエチレンイミン分子の窒素原子に結合する活性水素と置換したN-置換基として,少なくとも1個のジチオカルボキシ基:-CSSH又はその塩,例えばナトリウム塩,カリウム塩等のアルカリ金属塩,カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩,アンモニウム塩等(以下,ジチオカルボキシ基及びその塩をまとめて単にジチオカルボキシ基と呼ぶ),を有する化合物である。このポリアミン誘導体,ポリエチレンイミン誘導体は,例えばポリアミンやポリエチレンイミンに二硫化炭素を反応せしめることにより得られるが,更に反応終了後,水酸化ナトリウム,水酸化カリウム,水酸化アンモニウム等のアルカリで処理するか,或いは前記反応をアルカリの存在下で行ううことによりジチオカルボキシ基末端の活性水素をアルカリ金属,アルカリ土類金属,アンモニウム等で置換することができる。ポリアミン,ポリエチレンイミン類と二硫化炭素との反応は溶媒,好ましくは水,アルコール中で30〜100℃で1〜10時間,特に40〜70℃で2〜5時間行うことが好ましい。」(7欄2行〜8欄8行)g「本発明金属捕集剤を構成するポリアミン誘導体の骨格をなすポリアミンとしては分子量500以下,特に好ましくは分子量60〜2 50のポリアミンが用いられる。上記ポリアミンとしては,エチレンジアミン,プロピレンジアミン,ブチレンジアミン,ヘキサメチレンジアミン,ジエチレントリアミン,ジプロピレントリアミン,ジブチレントリアミン,トリエチレンテトラミン,トリプロピレンテトラミン,トリブチレンテトラミン,テトラエチレンペンタミン,テトラプロピレンペンタミン,テトラブチレンペンタミン,ペンタエチレンへキサミン〔一般式,H-(NH-CH2 CH2 CH)m-NH-CH2CH2-NH-(CH2CH2CH2-NH)n-H(但し,m,nは整数で,m+n=l〜8となる数)で示されるポリアミン〕等のポリアルキレンポリアミン;フェニレンジアミン,o-,m-,p-キシレンジアミン,イミノビスプロピルアミン,モノメチルアミノプロピルアミン,メチルイミノビスプロピルアミン,1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン,1,3-ジアミノプロパン,1,4-ジアミノブタン,3,5-ジアミノクロロベンゼン,メラミン,1-アミノエチルピペラジン,ピペラジン,3,3’-ジクロロベンジジン,ジアミノフェニルエーテル,トリジン,m-トルイレンジアミン等が挙げられる。これらは単独で用いるのみならず,2種以上混合して用いることもできる。」(8欄9行〜9欄14行)h「本発明金属捕集剤のもう一方の構成成分であるポリエチレンイミン誘導体の骨格をなすポリエチレンイミンとしては平均分子量5000以上,好ましくは平均分子量10000〜200000,特に好ましくは平均分子量20000〜150000のものが用いられる。上記ポリアミン,ポリエチレンイミン(以下,ポリアミン,ポリエチレンイミンを総称してポリアミン類と呼ぶ場合がある。)はアルキル基,アシル基或いはβ-ヒドロキシアルキル基をN-置換 基として有していても良い。」(9欄15行〜10欄5行),「本発明金属捕集剤は,上記ジチオカルボキシ基を有するポリアミン誘導体とジチオカルボキシ基を有するポリエチレンイミン誘導体との混合物であるが,ポリアミン誘導体とポリエチレンイミン誘導体との混合比は重量比で,ポリアミン誘導体:ポリエチレンイミン誘導体=9〜7:1〜3が好ましい。」(11欄2行〜8行)i「本発明の金属捕集剤は金属を吸着して形成されるフロックが大きく,しかもそのフロックの沈降速度が大きいため,本発明の金属捕集剤をそのまま用いても効率良く廃水中の金属を捕集除去できるが,更に一硫化ナトリウム,ポリ硫化ナトリウム,硫化水素ナトリウム等の硫化ナトリウム類の少なくとも一種と併用すると更に更にフロックの沈降速度を早くでき,より効率の良い処理が行なえる。」(11欄9行〜17行),「また本発明の金属捕集剤を用いて飛灰,汚泥,鉱滓,土壌中の重金属を固定するには,概ねこれらの中に含まれる金属を捕集するに必要な金属捕集剤の1.2〜3.0倍量の金属捕集剤を含む水溶液を,飛灰,汚泥,鉱滓,土壌に添加して混練する方法が採用されるが,混練作業を容易とするために更に水を添加しても良い。」(13欄4行〜10行),「本発明金属捕集剤は水銀,カドミウム,鉛,亜鉛,銅,クロム(Y),砒素,金,銀,白金,バナジウム,タリウム等の金属イオンは,従来の金属捕集剤と同等或いはそれ以上に効率良く捕集除去できるとともに,従来の金属捕集剤によって捕集し難かったクロム(V),ニッケル,コバルト,マンガン等の金属イオンも効率良く捕集除去できる。」(13欄15行〜14欄2行)j「〔実施例〕・・・実施例1〜8,比較例1〜4 まず,以下に示す方法により,ポリアミン誘導体及びポリエチレンイミン誘導体の 合成を行った。」(14欄3行〜8行),「ポリアミン誘導体1の 合成 四ッ口フラスコ中にエチレンジアミン(分子量60)40g と,20%水酸化ナトリウム水溶液536gとを仕込み,40℃に て激しく攪拌しながら滴下ロートより二硫化炭素203.7gを滴 下し,滴下終了後,同温度にて4時間熟成を行ってポリアミン誘導 体1を得た。」(15欄15行〜16欄1行),「ポリアミン誘導 体2の合成 同様の装置にトリエチレンテトラミン(分子量14 6)101gと20%水酸化ナトリウム水溶液464gを仕込み, 上記と同様にして二硫化炭素176.3gを反応させてポリアミン 誘導体2を得た。」(16欄2行〜7行),「ポリアミン誘導体3 の合成 同様の装置にジエチレントリアミン(分子量103)4 8.5gと水384gを仕込み,60℃に加熱して二硫化炭素14 5.9gを滴下ロートより滴下し,滴下終了後同温度にて4時間熟 成を行った。次いで反応溶液温度を70〜75℃に昇温し,20% 水酸化ナトリウム水溶液384gを添加して1.5時間反応を行い ポリアミン誘導体3を得た。」(16欄8行〜15行),「ポリア ミン誘導体4の合成 N-プロピルトリエチレンテトラミン(分子 量188)90.2gと15%水酸化ナトリウム水溶液640gと を仕込み,ポリアミン誘導体1の合成法と同様にして二硫化炭素1 72.8gを反応せしめポリアミン誘導体4を得た。」(16欄1 6行〜17欄1行),「ポリアミン誘導体5の合成 β-ヒドロキ シプロピルペンタエチレンへキサミン(分子量290)91.5g と20%水酸化ナトリウム水溶液296gとを仕込み,ポリアミン 誘導体1の合成法と同様にして二硫化炭素112.5gを反応せし めポリアミン誘導体5を得た。」(17欄2行〜7行)k「金属捕集剤組成 実施例1 ポリエチレンイミン誘導体3 1.3重量% ポリアミン誘導体1 8.7重量%実施例2 ポリエチレンイミン誘導体2 2.8重量% ポリアミン誘導体2 7.2重量%実施例3 ポリエチレンイミン誘導体1 2重量% ポリアミン誘導体3 8重量%実施例4 ポリエチレンイミン誘導体2 1.5重量% ポリアミン誘導体4 8.5重量%実施例5 ポリエチレンイミン誘導体3 2.5重量% ポリアミン誘導体5 7.5重量%実施例6 実施例1の金属捕集剤 8.0重量% -硫化ナトリウム 2.0重量%実施例7 実施例3の金属捕集剤 9.0重量% 五硫化ナトリウム 1.0重量%実施例8 実施例5の金属捕集剤 8.5重量% 硫化水素ナトリウム 1.5重量%比較例1 ポリエチレンイミン誘導体2を単独で使用比較例2 ポリアミン誘導体1を単独で使用比較例3 ポリエチレンイミン誘導体4 1.3重量% ポリアミン誘導体1 8.7重量%比較例4 比較例3の金属捕集剤 8.0重量% -硫化ナトリウム 2.0重量%」(17欄14行〜19欄8行),「処理方法は被処理水溶液1 ?に金属捕集剤70rを添加して5分間攪拌した後,静置して生成したフロックが沈澱するまでの時間を測定した。次いで生成したフロックを濾過した後,濾液中の残存金属イオン濃度を原子吸光分析法によ って測定した。フロック沈澱時間,生成したフロック量,フロックを濾別して形成したケークの含水率及び濾液中の残存金属イオン濃度の測定結果を第1表に示す。尚,ケークの含水率は赤外線照射法による蒸発水分量を重量%で示した。」(19欄16行〜20欄5行)l「実施例9 鉛950ppm,カドミウム125ppm,亜鉛5300ppm,全クロム130ppm,水銀13ppm,銅160ppm及びニッケル4ppmを含有する,ゴミ焼却により生じた飛灰50gに,実施例2で用いたと同じ金属捕集剤1gを水10gで希釈した水溶液として加え,温度65〜70℃で20分間よく混練した。混練後の処理灰(常温)と未処理灰について溶出試験(環境庁告示13号)を行い,溶出した金属量と処理前後の飛灰の嵩密度を測定した。結果を第2表に示す。」(20欄6行〜16行)m「〔発明の効果〕 以上説明したように本発明の金属捕集剤は,分子量500以下のポリアミンの活性水素と置換したジチオカルボキシ基を官能基として有するポリアミン誘導体と,平均分子量5000以上のポリエチレンイミンの活性水素と置換したジチオカルボキシ基を官能基として有するポリエチレンイミン誘導体との混合物としたことにより,金属を捕集して形成されたフロックが大きく,フロックの沈澱速度が大きいため廃水中の金属イオンを効率良く捕集除去できる。しかも,本発明の金属捕集剤を用いた場合,フロックへの水のからみが従来の金属捕集剤を用いた場合に比して少ないため,フロックを分離除去して固めて得たケーク中の含水量を少なくすることができ,ケークの処理が容易となる。更に本発明の金属捕集剤は,従来の金属捕集剤による吸着性があまり良くなかったクロム(V),ニッケル,コバルト,マンガン等の金属イオンに対する 捕集性にも優れ,更に従来よりも多種の金属イオンを効率良く捕集 できるため,処理対象廃水の範囲が拡大される等の効果を有する。
また本発明の金属捕集方法によれば,飛灰,汚泥,鉱滓,土壌等に 含まれる重金属が強固に固定されるため,その後セメントにて固化 して海洋投棄や埋め立て等によって処理した場合でも,セメント壁 を通して金属が流出する虞がなく,しかも本発明方法で処理すると 処理後の被処理物の容量が小さくなり,従って廃棄時の容量を小さ くできるため,固化に用いるセメントの量を少なくできるとともに 廃棄処理時の取扱も容易となる等の効果を有する。」(25欄1行 〜26欄12行)(イ) 前記(ア)の記載を総合すれば,乙12には,@廃水中の多種の金 属イオンを効率良く捕集除去できるとともに,ケーク中の含水量を従 来に比して少なくでき,ケーク処理作業の効率をも向上し得る金属捕 集剤の提供と,このような金属捕集剤を用いることによって,重金属 を含む飛灰,汚泥,鉱滓,土壌等をセメントで固化して海洋投棄や埋 め立て等によって処理するに際し,従来に比ベてケークの容量を小さ くできるため使用するセメントの量を少なくすることができ,埋め立 て等の処理を容易に行うことができるとともに,飛灰,汚泥,鉱滓, 土壌等に含まれる重金属を強固に固定化して金属の流出を防止するこ とのできる金属捕集方法の提供を目的とし,これらの目的を達成する ための金属捕集剤の構成として,「分子量500以下のポリアミンの 活性水素と置換したジチオカルボキシ基を官能基として有するポリア ミン誘導体」と,「平均分子量5000以上のポリエチレンイミンの 活性水素と置換したジチオカルボキシ基を官能基として有するポリエ チレンイミン誘導体」との「混合物」とする構成を採用したこと,A ポリアミンに属する「エチレンジアミン」,「トリエチレンテトラミ ン」,「ジエチレントリアミン」,「N-プロピルトリエチレンテトラミン」又は「β-ヒドロキシプロピルペンタエチレンへキサミン」と水酸化ナトリウム水溶液及び二硫化炭素を反応させて得た「ポリアミン誘導体1ないし5」(ジチオカルボキシ基を官能基として有するポリアミン誘導体)と,「ポリエチレンイミン誘導体1ないし4」(ジチオカルボキシ基を官能基として有する平均分子量5000以上の高分子のポリエチレンイミン誘導体)を混合して得た金属捕集剤(実施例1ないし8)と,ポリアミン誘導体1又はポリエチレンイミン誘導体2を単独で使用して得た比較例等について,フロック沈澱時間,生成したフロック量,フロックを濾別して形成したケークの含水率及び濾液中の残存金属イオン濃度の測定結果が示されていること(第1表),B実施例2の金属捕集剤を添加して混練した処理灰(常温)と未処理灰について,溶出した金属量と処理前後の飛灰の嵩密度の測定結果が示されていること(第2表),C「発明の効果」として,「本発明の金属捕集剤」は,「ポリアミン誘導体」と高分子の「ポリエチレンイミン誘導体」との「混合物」とする上記@の構成を採用したことにより,金属を捕集して形成されたフロックが大きく,フロックの沈澱速度が大きいため廃水中の金属イオンを効率良く捕集除去できる,フロックを分離除去して固めて得たケーク中の含水量を少なくすることができ,ケークの処理が容易となる,従来の金属捕集剤による吸着性があまり良くなかったクロム(V),ニッケル,コバルト,マンガン等の金属イオンに対する捕集性にも優れ,更に従来よりも多種の金属イオンを効率良く捕集できるため,処理対象廃水の範囲が拡大されること等の効果を奏し,また,「本発明の金属捕集方法」によれば,飛灰,汚泥,鉱滓,土壌等に含まれる重金属が強固に固定されるため,その後セメントにて固化して海洋投棄や埋め立て等によって処 理した場合でも,セメント壁を通して金属が流出する虞がなく,しか も処理後の被処理物の容量が小さくなり,固化に用いるセメントの量 を少なくできるとともに廃棄処理時の取扱も容易となる等の効果を有 することが記載されていることが認められる。
そして,上記認定事実によれば,乙12には,乙12記載の金属捕 集剤の発明は,「分子量500以下のポリアミンの活性水素と置換し たジチオカルボキシ基を官能基として有するポリアミン誘導体」 と,「平均分子量5000以上のポリエチレンイミンの活性水素と置 換したジチオカルボキシ基を官能基として有するポリエチレンイミン 誘導体」との「混合物」であること,すなわち,上記「ポリアミン誘 導体」と上記の高分子の「ポリエチレンイミン誘導体」の両成分を有 することを必須の構成とし,このような構成を採用したことにより, 金属を捕集して形成されたフロックが大きく,フロックの沈澱速度が 大きいため廃水中の金属イオンを効率良く捕集除去できる,フロック を分離除去して固めて得たケーク中の含水量を少なくすることがで き,ケークの処理が容易となる,クロム(V),ニッケル,コバル ト,マンガン等の金属イオンに対する捕集性にも優れ,更に従来より も多種の金属イオンを効率良く捕集できるため,処理対象廃水の範囲 が拡大される等の作用効果を奏するとともに,飛灰等に含まれる重金 属を強固に固定する作用効果をも奏することが開示されていることが 認められる。なお,乙12記載の金属捕集剤の発明に含まれる,被告 特許発明は,前述のとおり,上記「ポリアミン誘導体」と上記の高分 子の「ポリエチレンイミン誘導体」とを重量比で,「ポリアミン誘導 体:ポリエチレンイミン誘導体=9〜7:1〜3の割合で含有する」 構成を有するものである。
(ウ) 他方で,乙12には,ポリアミンに属する「エチレンジアミ ン」,「トリエチレンテトラミン」,「ジエチレントリアミン」,「 N-プロピルトリエチレンテトラミン」又は「β-ヒドロキシプロピ ルペンタエチレンへキサミン」を原料とし,水酸化ナトリウム水溶液 及び二硫化炭素と反応させて合成した「ポリアミン誘導体1ないし 5」(前記(ア)j)が開示されているが,この「ポリアミン誘導体1 ないし5」を始めとする,「ジチオカルボキシ基を官能基として有す るポリアミン誘導体」のいずれかを単独で用いた「金属捕集剤」が, 飛灰等に含まれる重金属を強固に固定し又は熱的に安定であるなどの 作用効果を奏し,「飛灰中の重金属固定化処理剤」として有用である ことについては記載も示唆もない。もっとも,乙12には,従来技術 として,「ジチオカルボキシ基を官能基として有するポリアミン誘導 体からなる金属捕集剤が知られており,この金属捕集剤を用いた廃水 処理方法も種々提案されている」(前記(ア)c)との記載があるもの の,上記記載部分は,その記載内容に照らし,「ジチオカルボキシ基 を官能基として有するポリアミン誘導体」を単独で用いた「金属捕集 剤」が「飛灰中の重金属固定化処理剤」として有用であることを開示 したものとはいえない。
また,乙12には,乙12記載の金属捕集剤の発明を構成する「ポ リアミン誘導体」の骨格をなすポリアミンとして,前記(ア)のとお り,30種に及ぶ化合物が例示され,その中には「ピペラジン」も挙 げられているが,「ピペラジン」に特に着目して説明をした記載箇所 はなく,ましてや,「ピペラジン」を使用した「ジチオカルボキシ基 を官能基として有するポリアミン誘導体」が「飛灰中の重金属固定化 処理剤」として有用であることについての記載も示唆もない。
イ 本件各発明との対比(ア) 前記ア(イ)及び(ウ)の認定事実に照らすならば,乙12記載の金 属捕集剤の発明(乙12記載発明)は,「分子量500以下のポリア ミンの活性水素と置換したジチオカルボキシ基を官能基として有する ポリアミン誘導体」と,「平均分子量5000以上のポリエチレンイ ミンの活性水素と置換したジチオカルボキシ基を官能基として有する ポリエチレンイミン誘導体」の両成分(混合物)を必須の有効成分と する発明であって,有効成分として「ポリアミン誘導体」を単独で用 いることを想定した発明であるものと認めることはできない。
しかるに,本件各発明は,「ピペラジンカルボジチオ酸又はその 塩」を必須の有効成分とする飛灰中の重金属固定化処理剤の発明(前 記1(2)イ(イ))であって,この「ピペラジンカルボジチオ酸又はその 塩」は,「分子量500以下のポリアミンの活性水素と置換したジチ オカルボキシ基を官能基として有するポリアミン誘導体」に該当する ものであるが,他方で,本件各発明は,乙12記載の金属捕集剤の発 明を構成する「ポリエチレンイミン誘導体」については必須の有効成 分とするものではない。
したがって,本件各発明と乙12記載発明とは,本件各発明は,「 ポリアミンの活性水素と置換したジチオカルボキシ基を官能基として 有するポリアミン誘導体」である「ピペラジンカルボジチオ酸又はそ の塩」を必須の有効成分とするのに対し,乙12記載発明は,「分子 量500以下のポリアミンの活性水素と置換したジチオカルボキシ基 を官能基として有するポリアミン誘導体」及び「平均分子量5000 以上のポリエチレンイミンの活性水素と置換したジチオカルボキシ基 を官能基として有するポリエチレンイミン誘導体」の両成分を必須の 有効成分とする点において相違するというべきであるから,本件各発 明は,乙12記載発明と同一であるということはできない。
(イ) これに対し被告は,乙12には,アルカリ存在下で,「ピペラジ ン」と二硫化炭素を反応させた飛灰中の重金属固定化処理剤が記載さ れており,「ピペラジン-N-カルボジチオ酸もしくはピペラジン- N,N’-ビスカルボジチオ酸のいずれか一方もしくはこれらの混合 物又はこれらの塩からなる飛灰中の重金属固定化処理剤」の開示があ る旨主張する。
しかし,前記ア(ウ)の認定事実に照らすならば,乙12には,被告 が主張するようなアルカリ存在下で,「ピペラジン」と二硫化炭素を 反応させた飛灰中の重金属固定化処理剤の発明が記載されているもの と認めることはできないから,被告の上記主張は,理由がない。
ウ 小括 以上のとおり,被告主張の無効理由1は理由がない。
(2) 無効理由2(乙12に基づく進歩性の欠如) 被告は,本件各発明は,当業者が乙12に基づいて容易に想到すること ができたものであるから,本件特許には,特許法29条2項に違反する無 効理由(同法123条1項2号)がある旨主張する。
すなわち,被告は,本件各発明と乙12記載発明との相違点は,本件各 発明では,ポリアミンが「ピペラジン」に限定されているのに対し,乙1 2には,ポリアミンとして,「ピペラジン」のほかに,数種の化合物が列 挙されている点のみにあるところ,@乙12記載発明と本件各発明とは, いずれも飛灰等に含まれる重金属の捕集剤及び捕集方法に関する発明であ るから,両発明はその技術分野を同一にするところ,当該技術分野におい て,硫化水素などの有害ガスを発生させないようにするという技術的課題 は,本件出願の優先権主張日当時既に公知であったこと,A安定性試験に おいて,一級アミン由来のジチオカルバミン酸塩は容易に硫化水素を発生 させるのに対し,二級アミン由来のジチオカルバミン酸塩は硫化水素を発 生させないことは,化合物の構造特性からくる性質の差異であって,本件 出願の優先権主張日当時,当業者であれば容易に知り得たこと,B乙12にポリアミンとして記載されている二級アミンはピペラジンだけであることからすれば,乙12に接した当業者であれば,乙12においてポリアミンとして記載されている数種の化合物のうちで唯一の二級アミンであるピペラジンを選択し,ピペラジンジチオカルバミン酸塩からなる飛灰中の重金属固定化処理剤に想到することは容易であったものであり,しかも,ポリアミンとしてピペラジンを選択し,ピペラジンジチオカルバミン酸塩系化合物の構成とすることによって当業者が通常予測し得る範囲を超えた顕著な作用効果を奏するものではない,したがって,当業者であれば,乙12に基づいて本件各発明を容易に想到することができた旨主張する。
ア 相違点 被告は,本件各発明と乙12記載発明との相違点は,本件各発明は,ポリアミンが「ピペラジン」に限定されているのに対し,乙12には,ポリアミンとして,「ピペラジン」のほかに,数種の化合物が列挙されている点のみにある旨主張する。
被告の上記主張の趣旨は,乙12には,「ジチオカルボキシ基を官能基として有するポリアミン誘導体」を有効成分とする「飛灰中の重金属固定化処理剤」の発明が記載されていることを前提に,乙12では,この「ポリアミン誘導体」の骨格をなすポリアミンとして,「ピペラジン」のほかに,数種の化合物が列挙されているのに対し,本件各発明では,上記「ポリアミン誘導体」の骨格をなすポリアミンが「ピペラジン」に限定さている点において,本件各発明と乙12記載発明とは相違し,他に相違点はないというにあるものと解される。
しかしながら,前記(1)イ(ア)認定のとおり,乙12記載の金属捕集剤の発明は,「分子量500以下のポリアミンの活性水素と置換したジチオカルボキシ基を官能基として有するポリアミン誘導体」と,「平均分 子量5000以上のポリエチレンイミンの活性水素と置換したジチオカルボキシ基を官能基として有するポリエチレンイミン誘導体」の両成分(混合物)を必須の有効成分する発明であって,有効成分として「ポリアミン誘導体」を単独で用いることを想定した発明ではない。
したがって,乙12に「ジチオカルボキシ基を官能基として有するポリアミン誘導体」を有効成分とする「飛灰中の重金属固定化処理剤」の発明が記載されていることを前提とする被告の上記主張は,その前提において失当であり,採用することはできない。
そして,前記(1)イ(ア)認定のとおり,本件各発明と乙12記載発明とは,本件各発明は,「ポリアミンの活性水素と置換したジチオカルボキシ基を官能基として有するポリアミン誘導体」である「ピペラジンカルボジチオ酸又はその塩」を必須の有効成分とするのに対し,乙12記載発明は,「分子量500以下のポリアミンの活性水素と置換したジチオカルボキシ基を官能基として有するポリアミン誘導体」及び「平均分子量5000以上のポリエチレンイミンの活性水素と置換したジチオカルボキシ基を官能基として有するポリエチレンイミン誘導体」の両成分(混合物)を必須の有効成分とする点において相違する。
そこで,以下においては,本件各発明と乙12記載発明との間に上記相違点があることを前提に,本件出願の優先権主張日当時,当業者が乙12に基づいて本件各発明を容易に想到することができたかどうかについて検討することとする。
容易想到性の有無(ア) 本件明細書には,本件各発明は,飛灰中に含有される重金属固定 化,特に重金属溶出量が多くなる高アルカリ性飛灰中に含有される重 金属固定化のための重金属固定化処理剤を「ピペラジンカルボジチオ 酸又はその塩」を必須の有効成分とする構成とすることによって,従 来の重金属固定化処理剤に比べて,「重金属固定化能が高く,かつ熱的にも安定」な作用効果を奏するものとしたことに技術的意義を有することが開示されている(前記1(2)イ(イ))。
他方で,乙12には,ポリアミンに属する「エチレンジアミン」,「トリエチレンテトラミン」,「ジエチレントリアミン」,「N-プロピルトリエチレンテトラミン」又は「β-ヒドロキシプロピルペンタエチレンへキサミン」を原料とし,水酸化ナトリウム水溶液及び二硫化炭素と反応させて合成した「ポリアミン誘導体1ないし5」(前記(1)ア(ア)j)が開示されているが,この「ポリアミン誘導体1ないし5」を始めとする,「ジチオカルボキシ基を官能基として有するポリアミン誘導体」のいずれかを単独で用いた「金属捕集剤」が,飛灰等に含まれる重金属を強固に固定するなどの作用効果を奏し,「飛灰中の重金属固定化処理剤」として有用であることについては記載も示唆もない。
また,乙12には,乙12記載の金属捕集剤の発明を構成する「ポリアミン誘導体」の骨格をなすポリアミンとして,「エチレンジアミン,プロピレンジアミン,ブチレンジアミン,ヘキサメチレンジアミン,ジエチレントリアミン,ジプロピレントリアミン,ジブチレントリアミン,トリエチレンテトラミン,トリプロピレンテトラミン,トリブチレンテトラミン,テトラエチレンペンタミン,テトラプロピレンペンタミン,テトラブチレンペンタミン,ペンタエチレンへキサミン〔一般式,H-(NH-CH 2CH 2CH)m-NH-CH2CH2-NH-(CH2CH2CH2-NH)n-H(但し,m,nは整数で,m+n=l〜8となる数)で示されるポリアミン〕等のポリアルキレンポリアミン;フェニレンジアミン,o-,m-,p-キシレンジアミン,イミノビスプロピルアミン,モノメチルアミノプロピルアミン, メチルイミノビスプロピルアミン,1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン,1,3-ジアミノプロパン,1,4-ジアミノブタン,3,5-ジアミノクロロベンゼン,メラミン,1-アミノエチルピペラジン,ピペラジン,3,3’-ジクロロベンジジン,ジアミノフェニルエーテル,トリジン,m-トルイレンジアミン等」の30種に及ぶ化合物が例示され,その中には「ピペラジン」も挙げられているが,「ピペラジン」に特に着目して説明をした記載箇所はなく,ましてや,「ピペラジン」を使用した「ジチオカルボキシ基を官能基として有するポリアミン誘導体」が「飛灰中の重金属固定化処理剤」として有用であることについての記載も示唆もない。
さらに,乙12には,本件明細書に上記のように開示されている,「ピペラジンカルボジチオ酸又はその塩」を必須の有効成分とする飛灰中の重金属固定化処理剤が,従来の重金属固定化処理剤に比べて,「重金属固定化能が高く,かつ熱的にも安定」な作用効果を奏することについての記載も示唆もない。
以上の認定事実及び前記アの認定事実に照らすならば,本件出願の優先権主張日当時,乙12に接した当業者は,乙12記載の金属捕集剤の発明は,「分子量500以下のポリアミンの活性水素と置換したジチオカルボキシ基を官能基として有するポリアミン誘導体」及び「平均分子量5000以上のポリエチレンイミンの活性水素と置換したジチオカルボキシ基を官能基として有するポリエチレンイミン誘導体」の両成分(混合物)を必須の有効成分とする構成の発明であると認識するというべきところ,このような当業者において,上記両成分の一方の成分である「ポリアミン誘導体」の骨格をなすポリアミンとして,乙12に上記のとおり例示された30種に及ぶ化合物の中から特に「ピペラジン」を選択し,ピペラジンジチオカルバミン酸塩を有 効成分とする飛灰中の重金属固定化処理剤の構成(相違点に係る本件 各発明の構成)とすることについての動機付けや契機となるべきもの はない。
したがって,当業者が乙12に基づいて本件各発明を容易に想到す ることができたものとは認められない。
(イ) これに対し被告は,@乙12記載発明と本件各発明とは,いずれ も飛灰等に含まれる重金属の捕集剤及び捕集方法に関する発明である 点で技術分野を同一とし,当該技術分野において,硫化水素などの有 害ガスを発生させないようにするという技術的課題は,本件出願の優 先権主張日当時既に公知であったこと,A安定性試験において,一級 アミン由来のジチオカルバミン酸塩は容易に硫化水素を発生させるの に対し,二級アミン由来のジチオカルバミン酸塩は硫化水素を発生さ せないことは,化合物の構造特性からくる性質の差異であって,本件 出願の優先権主張日当時,当業者であれば容易に知り得たこと,B乙 12にポリアミンとして記載されている二級アミンはピペラジンだけ であることからすれば,乙12に接した当業者であれば,乙12にお いてポリアミンとして記載されている数種の化合物のうちで唯一の二 級アミンであるピペラジンを選択し,ピペラジンジチオカルバミン酸 塩からなる飛灰中の重金属固定化処理剤に想到することは容易であっ た旨主張する。
しかしながら,被告の主張は,以下のとおり理由がない。
a 被告が主張(上記@)するように飛灰等に含まれる重金属の捕集 剤及び捕集方法に関する技術分野において,硫化水素などの有害ガ スを発生させないようにするという技術的課題そのものが,本件出 願の優先権主張日当時公知であったとしても,このことから,相違 点に係る本件各発明の構成であるピペラジンジチオカルバミン酸塩 を有効成分とする飛灰中の重金属固定化処理剤が,従来の重金属固 定化処理剤に比べて,「重金属固定化能が高く,かつ熱的にも安 定」な作用効果を奏することが既に知られていたということはでき ない。
b また,仮に被告が主張(上記A,B)するように「安定性試験」 において,一級アミン由来のジチオカルバミン酸塩は容易に硫化水 素を発生させるのに対し,二級アミン由来のジチオカルバミン酸塩 は硫化水素を発生させないことは,化合物の構造特性からくる性質 の差異であり,乙12にポリアミンとして記載されている二級アミ ンはピペラジンだけであるとしても,前述のとおり,乙12記載の 金属捕集剤の発明は,「分子量500以下のポリアミンの活性水素 と置換したジチオカルボキシ基を官能基として有するポリアミン誘 導体」と,「平均分子量5000以上のポリエチレンイミンの活性 水素と置換したジチオカルボキシ基を官能基として有するポリエチ レンイミン誘導体」の両成分(混合物)を必須の有効成分とする発 明であって,有効成分として上記「ポリアミン誘導体」を単独で用 いることを想定した発明ではないこと,乙12には,上記「ポリア ミン誘導体」の骨格をなすポリアミンとして30種に及ぶ化合物が 例示され,その中に「ピペラジン」が含まれているが,「ピペラジ ン」に特に着目して説明をした記載箇所はなく,「ピペラジン」を 使用した「ジチオカルボキシ基を官能基として有するポリアミン誘 導体」を有効成分とするものが「飛灰中の重金属固定化処理剤」と して有用であることについての記載も示唆もないことに照らすなら ば,乙12に接した当業者といえども,ポリアミンとして例示され た30種に及ぶ化合物の中から二級アミンである「ピペラジン」に 着目し,この「ピペラジン」を使用した「ジチオカルボキシ基を官 能基として有するポリアミン誘導体」(ピペラジンジチオカルバミ ン酸又はその塩)を有効成分とする「飛灰中の重金属固定化処理 剤」の構成(相違点に係る本件各発明の構成)とすることについて の動機付けや契機となるべきものはなく,上記構成に想到すること が容易であったものということはできない。
ウ 小括 以上のとおり,当業者が乙12に基づいて本件各発明を容易に想到す ることができたものと認めることはできないから,被告主張の無効理由 2は理由がない。
(3) 無効理由3(乙34の2に基づく新規性の欠如) 被告は,本件発明1及び2は,乙34の2(「POLYMERIC CHELATES OF C OPPER PIPERAZINE-BIS-DITHIOCARBAMATE(COPPER PIPERAZINE-BIS-N,N'-CA RBODITHIOATE)」(CHEMIA ANALITYCZNA,1965年))に記載された発 明(乙34の2記載発明)と同一であるから,本件特許には,特許法29条 1項3号に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある旨主張す る。
すなわち,被告は,乙34の2に,@ピペラジンジチオカルバミン酸ナ トリウムの水溶液中では,ピペラジンジチオカルバミン酸イオンが重金属 とキレートを作って重金属を固定化すること,Aそのキレートは水混和性 溶媒を用いて抽出が可能であり,水混和性のない溶媒には溶解しないこ と,Bその安定性はピペラジンの構造によるものであること,C重金属の 固定化は,任意のpH値において起こることが記載されていることからす ると,乙34の2には,本件発明1の構成要件A及びB並びに本件発明2 の構成要件C及びDがすべて開示されているから,本件発明1及び2は, 乙34の2記載発明と同一のものである旨主張する。
ア 乙34の2の記載事項 (ア) 乙34の2には,次のような記載がある。
a 表題として,「ピペラジン-ビス-ジチオカルバマート銅(ピペ ラジン-ビス-カルボジチオアート銅)の高分子キレート」(原文 837頁・訳文1頁) b「アミノカルボジチオアートの誘導体(置換されたジチオカルバマ ート)についての研究中に,我々はピペラジンの誘導体に注目し た。この化合物は,Gleu及びSchwabによって,分析に有用であると 言及され,Dunderdale及びWatkinsによって合成もされたが,性質に ついての詳細は報告されていなかった。我々の研究では,最初,分 析的性質に関心を持ったが,他のアミノカルボジチオアートとは異 なる挙動が一般的に興味深かった。・・・(判決注・「化学構造 式」省略) 分子の両端にある二つのキレートするカルボジチオア ート基は,ピペラジンリングの硬さにより,同じ金属イオンに結合 することができない。したがって,おそらく二価イオンとの反応で は,ポリマーのキレートが形成され,それはビス(-β-ジケト ン),キニザリン,ビス-(8-ヒドロキシキノリル)メタン, 8,8’-ジハイドロキン-5,5’-ビキノリル,1,6-ジハ イドロキシフェナジン等の場合に見られる反応と同様であるのだろ う。」(原文837頁本文1行〜13行・訳文1頁) c「実験 試薬 ピペラジン-ビス-(N,N-カルボジチオアート)ナトリウム― C6H 8N 2S4Na2・6H2Oは,ピペラジンと二硫化炭素から合成 された。生成物は,メタノール-水混合物から結晶化された。この 合成において,少なくとも2倍過剰の二硫化炭素が使用された。・ ・・この試薬溶液は,分解を防ぐためアルカリ(0.1N KO H)とされた。濃度は電位差測定で決定された。」(原文837頁 14行〜21行・訳文1頁)d「金属イオンとの定性的な反応 いくつかの一般的な重金属陽イオンについて検証を行い,ピペラジ ン-ビス-(N,N’-カルボジチオアート)とのポジティヴな反 応を得た。それらを表1にまとめる。水溶液中では,結果は,一般 にジエチルアミノ誘導体の反応とよく似ている。しかし,任意のp H値において,クロロホルム又は四塩化炭素を用いた抽出がまさに 起こった。銅の誘導体に対して,異なるタイプのいくつかの溶媒, 水と混和できるものと混和できないものと両方の溶媒について,す なわち,エタノール,n-ブタノール,n-ペンタノール,酢酸エ チル,ジエチルエーテル,ピリジン,ジオキサン,ジメチルホルム アミド,クロロホルム,四塩化炭素,二硫化炭素,ヘキサン,シク ロヘキサン,シクロヘプタン,ベンゼン,トルエン及びキシレンに ついて,試験された。銅キレートの溶解は観察されなかった。水と 混和しない溶媒の場合,ピペラジン-ビス-(N,N’-カルボジ チオアート)銅を抽出しようとすると,溶媒の分散が銅キレートか らなる茶色いフィルムで覆われた小さな液滴となり,フィルムは液 滴が融合するのを防いでいた。」(原文・838頁1行〜15行・ 訳文2頁〜3頁)e「ピペラジン-ビス-(N,N’-カルボジチオアート)銅を分析 する上での特性 ピペラジン-ビス-(N,N’-カルボジチオアート)を銅の測定 に用いることを考えて,キレート溶液の安定性及びBeerの法則への 適合性について検討し,ジエチルアミノ-N-カルボジチオアート と比較した。銅キレートのコロイド溶液の安定性を評価するため に,銅濃度を3×10 ―5M一定とし,他の変動因子としてpH,過 剰の配位子,保護コロイドの種類を変化させた。ポリビニルアルコ ール(=保護コロイド)(0.02%-0.05%),pH7にお いては暗室中7日間,実験室拡散光中で24時間,目立った変化は 起こらなかった。」(原文842頁21行〜31行,訳文・原告第 10準備書面の別紙) f「これらの結果を考慮して強調すべきことは,ピペラジン-ビス -(N,N’-カルボジチオアート)は銅の測定用の分析試薬とし て有用であるということである。」(原文843頁4行〜6行,訳 文・原告第10準備書面の別紙) g「その(ピペラジン-ビス-(N,N’-カルボジチオアート)) の明らかな欠点は金属キレートが抽出用の有機溶媒に溶解しないこ とであるが,擬似水溶液中における測定には有利である。」(原文 844頁16行〜18行,訳文・原告第10準備書面の別紙) h「表1.ピペラジン-ビス-(N,N’-カルボジチオアート)と いくつかの陽イオンとの反応」には,「金属イオン」欄に「Ag + 」,「Cu2+」,「Ni2+」,「Co 2+」,「Pb2+」,「Cd2 + 」,「Zn2+」等の記載があり,それぞれについて「沈殿の 色」,「沈殿のpH」及び「マスキング剤」の各項目欄に検証結果 が示されている(原文・838頁・訳文2頁)。
(イ) 前記(ア)の記載を総合すれば,乙34の2には,@アミノカルボ ジチオアートの誘導体(置換されたジチオカルバマート)のうち,ピ ペラジンの誘導体は,他の研究者によって,「分析に有用」であると 言及され,合成もされていたが,性質についての詳細は報告されてい なかったところ,他のアミノカルボジチオアートとは異なる挙動が一 般的に興味深かったこと,Aピペラジンと二硫化炭素から合成したピ ペラジン-ビス-(N,N’-カルボジチオアート)ナトリウムの試薬を使用して,「Ag+」,「Cu2+」,「Ni2+」等のいくつかの重金属陽イオンについて検証を行った結果,沈殿が起こり,表1に示すような定性的な反応(「沈殿の色」及び「沈殿のpH」)が得られたこと,B銅の誘導体に対して,水と混和できるものと混和できないものと両方の溶媒について試験をしたところ,銅キレートの溶解は観察されず,また,水と混和しない溶媒の場合,ピペラジン-ビス-(N,N’-カルボジチオアート)銅を抽出しようとすると,溶媒の分散が銅キレートからなる茶色いフィルムで覆われた小さな液滴となり,フィルムは液滴が融合するのを防いでいたこと,Cピペラジン-ビス-(N,N’-カルボジチオアート)を銅の測定に用いることを考え,銅キレートのコロイド溶液の安定性を評価するために,銅濃度を一定とし,他の変動因子としてpH,過剰の配位子,保護コロイドの種類を変化させる実験を行った結果,ポリビニルアルコール(=保護コロイド)(0.02%-0.05%),pH7においては暗室中7日間,実験室拡散光中で24時間,目立った変化は起こらなかったこと,D「これらの結果を考慮して強調すべきこと」は,ピペラジン-ビス-(N,N’-カルボジチオアート)は銅の測定用の分析試薬として有用であること,Eピペラジン-ビス-(N,N’-カルボジチオアート)の明らかな欠点は金属キレートが抽出用の有機溶媒に溶解しないことであるが,擬似水溶液中における測定には有利であることが記載されていることが認められる。
そして,上記認定事実によれば,乙34の2には,ピペラジン-ビス-(N,N’-カルボジチオアート)ナトリウムからなり,Ag+,Cu2+,Ni 2+等の金属陽イオンとの反応により,沈殿を生じさせる試薬が,銅の測定用の分析試薬として有用であること,上記試薬を使 用して形成された銅キレートのコロイド溶液を用いて銅の分析を行う に際し,その安定性を評価するために,銅濃度を一定とし,他の変動 因子としてpH,過剰の配位子,保護コロイドの種類を変化させる実 験を行った結果,ポリビニルアルコール(=保護コロイド)(0.0 2%-0.05%),pH7においては暗室中7日間,実験室拡散光 中で24時間,目立った変化は起こらず,安定していることが開示さ れていることが認められる。
(ウ) 他方で,乙34の2には,ピペラジン-ビス-(N,N’-カル ボジチオアート)ナトリウムからなり,Ag+,Cu2+,Ni2+等の金 属陽イオンとの反応により,沈殿を生じさせる試薬あるいはアミノカ ルボジチオアートの誘導体のうち,ピペラジン誘導体が,飛灰等に含 まれる重金属を強固に固定し又は熱的に安定であるなどの作用効果を 奏することや,「飛灰中の重金属固定化処理剤」としても利用できる ことについての記載も示唆もない。
イ 検討(ア) 前記ア(イ)の認定事実によれば,乙34の2には,ピペラジン- ビス-(N,N’-カルボジチオアート)ナトリウムからなり,Ag + ,Cu2+,Ni2+等の金属陽イオンとの反応により,沈殿を生じさせ る分析試薬が記載され,また,その分析試薬が特に銅の測定に有用で あることが記載されていることが認められる。
そして,ピペラジン-ビス-(N,N’-カルボジチオアート)ナ トリウムは,「ピペラジンカルボジチオ酸ナトリウム」であるから, 乙34の2には,「ピペラジンカルボジチオ酸塩」である「ピペラジ ンカルボジチオ酸ナトリウム」を必須の有効成分とする分析試薬が開 示されているということができる。
しかしながら,他方で,前記ア(ウ)認定のとおり,乙34の2に は,上記分析試薬あるいはアミノカルボジチオアートの誘導体のう ち,ピペラジン誘導体が,飛灰等に含まれる重金属を強固に固定し又 は熱的に安定であるなどの作用効果を奏することや,「飛灰中の重金 属固定化処理剤」としても利用できることについての記載も示唆もな い。
したがって,乙34の2に記載された上記分析試薬は,「飛灰中の 重金属固定化処理剤」ではない点において,本件発明1及び2と相違 するというべきであるから,本件発明1及び2は,乙34の2に記載 された発明と同一であるということはできない。
(イ) これに対し被告は,乙34の2に,@ピペラジンジチオカルバミ ン酸ナトリウムの水溶液中では,ピペラジンジチオカルバミン酸イオ ンが重金属とキレートを作って重金属を固定化すること,Aそのキレ ートは水混和性溶媒を用いて抽出が可能であり,水混和性のない溶媒 には溶解しないこと,Bその安定性はピペラジンの構造によるもので あること,C重金属の固定化は,任意のpH値において起こることが 記載されていることからすると,乙34の2には,本件発明1の構成 要件A及びB並びに本件発明2の構成要件C及びDがすべて開示され ている旨主張する。
しかし,前記(ア)認定のとおり,乙34の2には,ピペラジン-ビ ス-(N,N’-カルボジチオアート)ナトリウムからなる分析試薬 が「飛灰中の重金属固定化処理剤」としても利用できることについて の記載も示唆もない。のみならず,乙34の2において,上記分析試 薬に関する安定性として記載されている内容は,上記分析試薬を使用 して形成された銅キレートのコロイド溶液が銅の分析を行うのに適し た安定性を有することであって,銅キレート形成後の安定性を意味す るのに対し,本件明細書に記載されている本件各発明の「熱的な安 定」あるいは「安定性試験」においてピペラジン以外のアミンを原料 として合成されたジチオカルバミン酸化合物よりも硫化水素の発生が 抑制されるという点は,重金属とのキレート形成前の化合物そのもの の安定性を意味するものであって,安定性の意味が異なるものであ る。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
ウ 小括 以上のとおり,被告の無効理由3は理由がない。
(4) 無効理由4(乙34の2に基づく進歩性の欠如) ア 被告は,本件発明3は,当業者が乙34の2に基づいて容易に想到す ることができたものであるから,本件特許には,特許法29条2項に違 反する無効理由(同法123条1項2号)がある旨主張する。
すなわち,被告は,本件発明3と乙34の2記載発明との相違点は, 本件発明3が「ピペラジンカルボジチオ酸カリウム」であるのに対し, 乙34の2記載発明は「ピペラジンカルボジチオ酸ナトリウム」である 点にのみあるところ,乙34の2の記載事項をも考慮すれば,当業者で あれば,乙34の2に基づいて本件発明3を容易に想到することができ た旨主張する。
しかしながら,前記(3)イ(ア)の認定事実に照らすならば,乙34の2 記載発明は,「ピペラジンカルボジチオ酸ナトリウム」を必須の有効成 分とする分析試薬であって,「飛灰中の重金属固定化処理剤」ではない 点において本件発明3と相違するというべきであること,乙34の2に は,上記分析試薬あるいはアミノカルボジチオアートの誘導体のうち, ピペラジン誘導体が,飛灰等に含まれる重金属を強固に固定し又は熱的 に安定であるなどの作用効果を奏することや,「飛灰中の重金属固定化 処理剤」としても利用できることについての記載も示唆もないことから すると,乙34の2に接した当業者において,上記分析試薬を飛灰中の 重金属固定化処理剤の構成(相違点に係る本件発明3の構成)とするこ とについての動機付けや契機となるべきものはないというべきである。
したがって,当業者が乙34の2に基づいて本件発明3を容易に想到 することができたものとは認められない。
イ 以上のとおり,被告の無効理由4は理由がない。
(5) 無効理由5(実施可能要件違反) ア 被告は,本件各発明は,副生成物であるチオ炭酸塩等を含まない,純 然たる「ピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸カリウム」化合物 を用いた重金属固定化処理剤の発明である以上,本件明細書の発明の詳 細な説明には,上記化合物の製造方法が開示されている必要があるが, 本件明細書の発明の詳細な説明には,上記製造方法の開示はないので, 当業者において本件各発明の実施をすることができる程度に明確かつ十 分な記載があるとはいえないから,本件特許には,特許法旧36条4項 に違反する無効理由(同法123条1項4号)がある旨主張する。
しかしながら,被告の主張は,以下のとおり理由がない。
(ア) 本件各発明は,「ピペラジン-N-カルボジチオ酸もしくはピペ ラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸のいずれか一方もしくはこれ らの混合物又はこれらの塩」を必須の有効成分とする飛灰中の重金属 固定化処理剤の発明であって,これを,被告が主張するような「副生 成物であるチオ炭酸塩等を含まない,純然たる「ピペラジン-N,N ’-ビスカルボジチオ酸カリウム」化合物を用いた重金属固定化処理 剤」に限定して解釈すべき理由がないことは,前記1(2)で認定したと おりである。
また,本件各発明の「飛灰中の重金属固定化処理剤」の有効成分で あるピペラジンカルボジチオ酸又はその塩自体は,化学構造が特定さ れた化合物であること,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件各 発明の合成例が記載されていること(前記1(2)イ(ア)g,h)からす ると,本件明細書に接した当業者であれば,本件各発明を実施するこ とに困難はないというべきである。
したがって,本件各発明の上記のような限定解釈を前提に,本件特 許の実施可能要件違反をいう被告の主張は,失当である。
(イ) また,被告は,被告が,本件明細書の実施例記載のとおりに作成 した化合物No.1及び化合物No.2の「未精製品」に関して,実施例記 載の「安定性試験」の追試(乙17,24)をした結果,65℃に加 温した場合(加温試験)及び塩化第二鉄を添加した場合(塩化第二鉄 の添加試験)のいずれにおいても,硫化水素が発生し,また,二硫化 炭素が大量に発生していることが確認されている以上,「安定」(加 熱又は酸の添加による逆反応が起こりにくい)とはいえず,本件各発 明を実施できない旨主張する。
しかし,他方で,@原告において,本件明細書の実施例に記載され た合成例1及び合成例2の記載どおりに従って目的化合物(本件明細 書の化合物1及び化合物2)を合成し,得られた「黄色透明の液 体」について安定性試験の追試を行ったところ,被告による追試結果( 乙17,24)とは異なり,硫化水素ガスの発生が検出されなかったこ と(甲20,31),A被告の追試結果(乙17)において,本件明 細書記載の実施例の化合物1及び化合物No.2の「精製品」の化合物 に関しては,65℃加温試験及び塩化第二鉄の添加試験において,硫 化水素が発生しなかったことが確認されていること,B本件明細書記 載の本件各発明の実施例である合成例には,「反応液に窒素を吹き込 み未反応の二硫化炭素を留去した」(段落【0016】,【0017 】)ことが明記されているが,乙17,24には,窒素の吹き込み 量,吹き込み時間の記載がないことなどに照らすならば,被告主張の 化合物No.1及び化合物No.2の「未精製品」に関する「安定性試験」 の追試結果(乙17,24)を根拠として,本件各発明を実施できな いということはできない。
(ウ) さらに,被告は,本件各発明は,あらゆる製造方法により製造さ れた「ピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸カリウム」を包含 するものであるところ,本件明細書の記載から当業者がどのような製 造方法を用いれば副生成物を含まない化合物を得られるかを理解する ことができないから,本件明細書の実施例の記載をもって実施可能要 件を充足することにはならない旨主張する。
しかしながら,本件明細書の段落【0015】に「【実施例】次 に,実施例によりさらに詳細に本発明を説明する。但し,本発明は下 記実施例によってなんら制限を受けるものではない。」(前記1(2)イ (ア)f)と記載があるように,本件各発明の飛灰中の重金属固定化処 理剤の製造方法実施例記載のものに限定されるものではないし,ま た,本件出願の優先権主張日当時,アミンを原料とするジチオカルバ ミン酸化合物の合成技術は既に確立されていたこと(弁論の全趣旨) に照らすならば,当業者において適宜の方法,条件を選択し,本件各 発明の飛灰中の重金属固定化処理剤を製造することができるものと認 められる。
イ したがって,被告の無効理由5は理由がない。
(6) 無効理由6(サポート要件違反) 被告は,本件各発明の特許請求の範囲の記載は,発明の詳細な説明に記 載されたものでないものを含んでいるから,本件特許には,特許法旧36 条6項1号に違反する無効理由(特許法123条1項4号)がある旨主張 する。
すなわち,被告は,@本件各発明は,いずれも,「ピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸カリウムからなる飛灰中の重金属固定化処理剤」をその技術的範囲に含むところ,その製造方法や硫化水素発生の有無については,本件各発明の特許請求の範囲に何ら記載されていないから,乙14(原告が本件出願後に行った特許出願に係る特開2005-336128号公報)の合成例3に従って製造された「ピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸カリウム」からなる飛灰中の重金属固定化処理剤も,本件各発明の技術的範囲に含まれる,A乙14によれば,当該物質は,チオ炭酸塩を0.8重量%含むものとされているから,これを65℃に加温すれば硫化水素が発生するものと考えられる,Bそうすると,原告が本件各発明の固有の効果であると主張する,安定性試験において硫化水素ガスが発生しないという効果を奏さない上記物質が本件各発明の特許請求の範囲に含まれる以上,本件各発明は発明の詳細な説明に記載されたものでないものを含むものといえるから,本件特許は,サポート要件に適合しない旨主張する。
ア 乙14の記載事項(ア) 乙14には,次のような記載がある。
a 「特許請求の範囲」として,「【請求項1】チオ炭酸塩を0.0 3重量%未満含有し,かつアミノ基をジチオカルバミン酸基に対し て2.0モル%以下含有することを特徴とするジチオカルバミン酸塩 水溶液。」 b「【発明が解決しようとする課題】飛灰処理に関しては,EP又は BF捕集等によるばいじん対策以外に,排ガス及びダイオキシン対 策が必要であり,これらの対策によっては得られる飛灰の性状が大 きく異なり,特に高アルカリ性飛灰においては重金属溶出量が多く なることが知られている。このような飛灰の重金属固定化のために は,従来の薬剤ではその使用量を大幅に増加するか,又は塩化第二鉄等のpH調整剤,又はセメント等の他の薬剤との併用法を取らざるを得ず,処理薬剤費が増大し,又は処理方法が複雑化する等の問題があった。さらに,前記ジチオカルバミン酸塩は,その製造方法によっては,また原料とするアミンによっては,pH調整剤との混練又は熱により分解し,H 2S,CS2等のガスを発生させる場合がある。」(段落【0005】),「本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり,その目的は,固体廃棄物,特に飛灰中に含まれる重金属を,H 2S,CS 2等の有害ガスの発生を抑えつつ,安定性の高いキレート剤を用いることにより簡便に処理できる方法を提供することである。」(段落【0006】)c「本発明者等は上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果,チオ炭酸塩を0.03重量%未満含有し,かつアミノ基をジチオカルバミン酸基に対して2.0モル%以下含有することを特徴とするジチオカルバミン酸塩水溶液を重金属固定化処理剤として用いると,H 2 S,CS 2等のガス発生を極微量に抑制でき,かつ,重金属に対するキレート能力が高く,高アルカリ性飛灰においても,少量の添加量で重金属を固定化できることを見出した。また,このジチオカルバミン酸水溶液は,アミン化合物と二硫化炭素とアルカリ金属化合物を反応させるジチオカルバミン酸塩水溶液の製造方法において,アミン化合物中のアミノ基に対する二硫化炭素のモル比を0.98〜1.0とすることにより得られる。また,好ましくは,二硫化炭素に対するアルカリ金属化合物の反応モル比を1.0〜1.3とし,更に好ましくは,アミン化合物と二硫化炭素とアルカリ金属化合物を反応させる際に,アミン化合物の水溶液に,反応させる二硫化炭素の一部を添加し反応・熟成させた後,反応させるアルカリ 金属化合物の一部を添加し反応・熟成させる操作を3回以上繰り返すことにより製造することができることを見出し,本発明を完成するに至った。」(段落【0007】)d「ジチオカルバミン酸はアミノ基と当量の二硫化炭素の反応により得られるが,二硫化炭素の添加量を少なくすることにより,未反応のアミノ基を存在させることができる。本発明のジチオカルバミン酸塩水溶液は,アミノ基をジチオカルバミン酸基に対して2.0モル%以下,好ましくは0.1〜1.8モル%含有する。この範囲でアミノ基を含有すると,ジチオカルバミン酸は安定に存在し,固体廃棄物中の重金属を固定化処理する際に,H2 S,CS2 等のガス発生を抑制できる。アミノ基をジチオカルバミン酸基に対して2.0%を越えて含有すると,重金属の固定化能が低下する。前記ピペラジンジチオカルバミン酸塩の場合,ピペラジン-N,N’-ビスジチオカルバミン酸塩を96モル%以上含有し,残りはピペラジン-N-ジチオカルバミン酸塩である。」(段落【0016】),「また,本発明のジチオカルバミン酸塩水溶液は,チオ炭酸塩を0.03重量%未満,好ましくは0.02重量%未満含有する。チオ炭酸塩は固体廃棄物中の重金属を固定化処理する際に,H 2S,CS 2等のガス発生の原因となるため,これを含まないことが好ましい。チオ炭酸塩を0.03重量%以上含有すると,固体廃棄物中の重金属を固定化処理する際に,H 2S,CS2等のガス発生を抑制できなくなる。」(段落【0017】)e「本発明のジチオカルバミン酸塩水溶液は,従来上記アミン化合物を水に溶解させ,これに二硫化炭素並びにアルカリ金属化合物を添加して反応させる等の方法により製造されている。しかしながら,原料となる二硫化炭素並びにアルカリ金属化合物の仕込み方法によ っては,アミノ基の含有量がジチオカルバミン酸基に対して2.0モル%を越え,また,チオ炭酸塩が0.03重量%以上となった結果,固体廃棄物中の重金属を固定化処理する際に,H 2S,CS 2等のガス発生が極めて高いものになったり,固体廃棄物中に含まれる重金属の固定化能が低下する場合を生じる。」(段落【0018】),「本発明のジチオカルバミン酸塩水溶液は,アミン化合物と二硫化炭素とアルカリ金属化合物を反応させるジチオカルバミン酸塩水溶液の製造方法において,アミン化合物中のアミノ基に対する二硫化炭素のモル比を0.98〜1.0,好ましくは0.99〜1.0とすることにより製造することができる。アミン化合物中のアミノ基量に対する二硫化炭素のモル比が0.98未満では,アミノ基の含有量がジチオカルバミン酸基に対して2.0モル%を越え,また1.0を超えるとチオ炭酸塩が0.03重量%以上となる。」(段落【0019】)f「さらに,アミン化合物と二硫化炭素とアルカリ金属化合物を反応させる際に,アミン化合物の水溶液に,反応させる二硫化炭素の一部を添加し反応・熟成させた後,反応させるアルカリ金属化合物の一部を添加し反応・熟成させる操作(以下,分割添加という)を3回以上繰り返すことが好ましい。この操作では,第一工程としてアルカリ金属化合物を二硫化炭素に対してモル比で0.97〜1.0,好ましくは0.98〜1.0添加し反応・熟成させる操作を2回以上繰り返した後,更に第二工程として残りの二硫化炭素を添加し反応・熟成させた後,アルカリ金属化合物を二硫化炭素に対してモル比で1.0以上添加し反応・熟成させることが好ましい。アルカリ金属の量を第一工程で,先に添加した二硫化炭素に対して反応モル比で0.97〜1.0添加することによりチオ炭酸塩の発生を 著しく抑えることが可能となり,第二工程で,添加した二硫化炭素 に対して反応モル比で1.0以上添加し,最終的に添加する全二硫 化炭素に対する全アルカリ金属化合物の反応モル比を1.0〜1. 3にする。」(段落【0021】),「添加する二硫化炭素の量 は,第一工程ではアミン化合物中のアミノ基に対してモル比で0. 33以下,第二工程では0.50以下であることが好ましく,添加 する総量は前記の0.98〜1.0とすることが必要である。」( 段落【0022】)g「【発明の効果】本発明のジチオカルバミン酸塩水溶液は,固体廃 棄物中の重金属を固定化処理する際に,H2S,CS2 等のガス発生 を極微量に抑制でき,かつ,重金属に対するキレート能力が高く, 高アルカリ性飛灰においても少量の添加で効果を発揮し経済的であ るとともに,他の助剤の使用に際して安全かつ簡便な処理方法にて 実施できるので,工業的にも非常に有用である。」(段落【003 2】)h「【実施例】次に,実施例によりさらに詳細に本発明を説明する。
但し,本発明は下記実施例によってなんら制限を受けるものではな い。」(段落【0033】)i「合成例1 ピペラジン-N,N’-ビスジチオカルバミン酸カリウ ム(化合物1) ガラス製容器中に,ピペラジン11重量部,水37重量部を入れ, この混合溶液中に撹拌しながら40℃で二硫化炭素を理論モル比の 1/4量に相当する4.8重量部を20分間で滴下し10分間熟成 後にKOH48.5%水溶液7重量部を20分間で滴下し,20分 間熟成させた。上記の操作をさらに3度繰り返した。但し,4度目 のKOH48.5%水溶液は11重量部を100分間で滴下した。
滴下終了後,同温度にて約1時間熟成を行ったところ,うす緑色透 明の液体を得た。ヨード滴定により測定した結果,この水溶液中の ピペラジン-N,N’-ビスジチオカルバミン酸カリウム濃度は4 0重量%であった。」(段落【0034】) j「合成例3 ピペラジン-N,N’-ビスジチオカルバミン酸カリウ ム(化合物3) ピペラジン9.8重量部を入れた以外は合成例1と全く同じ方法で 合成を行ったところ,褐色透明液体を得た。ヨード滴定により測定 した結果,この水溶液中のジチオカルバミン酸塩濃度は40.5重 量%であった。」(段落【0036】) k「合成例4 ピペラジン-N,N’-ビスジチオカルバミン酸カリウ ム(化合物4) ピペラジン12重量部を入れた以外は合成例1と全く同じ方法で合 成を行ったところ,褐色透明液体を得た。ヨード滴定により測定し た結果,この水溶液中のジチオカルバミン酸塩濃度は40重量%で あった。」(段落【0037】) l「更に,化合物1〜6の水溶液を65℃に加温して二硫化炭素ガ スの発生について調べた。結果を表1に示す。」(段落【0040 】) m 表1には,「化合物1」〜「化合物4」について,「ジチオカル バミン酸基に対するアミノ基(モル%)」,「チオ炭酸塩(重量 %)」及び「二硫化炭素ガス発生量(ppm)」がそれぞれ記載さ れ,「化合物3」については,チオ炭酸塩が0.8(重量%)で, 二硫化炭素ガス発生量が30(ppm)であることが示されてい る。
(イ) 前記(ア)の記載を総合すれば,乙14には,@固体廃棄物中の重 金属を固定化処理する際に,H 2S,CS 2等のガスが発生する原因に ついて,ジチオカルバミン酸塩水溶液がチオ炭酸塩を含有することに よるものであるとの知見をもとに,チオ炭酸塩を0.03重量%未満 含有し,かつアミノ基をジチオカルバミン酸基に対して2.0モル% 以下含有するジチオカルバミン酸塩水溶液は,アミン化合物と二硫化 炭素とアルカリ金属化合物を反応させる際に,アミン化合物の水溶液 に,反応させる二硫化炭素の一部を添加し反応・熟成させた後,反応 させるアルカリ金属化合物の一部を添加し反応・熟成させる操作(分 割添加)を3回以上繰り返すことにより製造することができること, A合成例3に従って製造されたピペラジン-N,N’-ビスジチオカ ルバミン酸カリウム(化合物3)が,チオ炭酸塩を0.8重量%含 有し,二硫化炭素ガスを30ppm発生することが記載されている が,合成例3における二硫化炭素ガスの発生原因がチオ炭酸塩である ことが開示されていることが認められる。
イ 検討 以上の認定事実によれば,乙14の合成例3のピペラジン-N,N’-ビスジチオカルバミン酸カリウム(化合物3)は,副生成物であるチオ炭酸カリウムが多量に生成するような条件を意図的に設定して合成されたものであり,その結果として,化合物3の水溶液を65℃に加熱すると,表1の「二硫化炭素ガス発生量(ppm)」が示すとおり,30ppmの二硫化炭素ガスを発生するものである。これらのことから,ピペラジン-N,N’-ビスジチオカルバミン酸カリウムとは別に,副生成物であるチオ炭酸塩を多量に含んでいる場合に,飛灰用の重金属固定化処理剤から二硫化炭素が発生したからといって,本件各発明に含まれる「ピペラジン-N,N’-ビスジチオカルバミン酸カリウム」からなる飛灰用の重金属固定化処理剤が奏する効果を否定すること にはならない。
したがって,本件各発明は発明の詳細な説明に記載されたものでない ものを含むとの被告の主張は,その前提を欠くものであって,理由がな い。
ウ 小括 以上のとおり,被告主張の無効理由6は理由がない。
3 争点3(被告製品の範囲)について(1) ●(省略)●等について ア 原告は,別紙参考製品名目録3記載の●(省略)●等は被告製品(別 紙物件目録記載の製品)に該当する旨主張する。これに対し被告は, ●(省略)●等が,いずれも「ピペラジン-N,N’-ビスカルボジチ オ酸カリウム」及び「ピペラジン-N-カルボジチオ酸カリウム」の一 方又は双方を有効成分として含有する製品(ピペラジン系の重金属固定 化処理剤)であることは認めるが,●(省略)●等は金属固定化剤又は 金属捕集剤の原料となる,いわゆる中間製品として製造,販売したもの であり,これらの用途が飛灰処理用(飛灰用)であるかどうかは不明で あって,●(省略)●等は「飛灰中の重金属固定化処理剤」(飛灰用重 金属固定化処理剤)とはいえないから,被告製品に該当しない旨主張す るので,以下において判断する。
(ア)a 被告が製造及び販売する別紙参考製品名目録1及び2(1)記載の 製品が被告製品に該当することは,争いがない。
上記争いのない事実と坂上鑑定の結果を総合すれば,次の事実が 認められる。
(a) 被告の社内においては,重金属固定化処理剤ないし重金属捕 集剤の製造及び販売の事業を「環境改善関連事業」として位置づ けている。
被告が製造する重金属固定化処理剤ないし重金属捕集剤には, ピペラジンを原料として用いるピペラジン系のものとピペラジン 以外のアミンを原料として用いる非ピペラジン系のものがある。
(b) 被告が平成15年1月1日から平成21年9月30日までの 期間に製造及び販売したピペラジン系の重金属固定化処理剤ない し重金属捕集剤の出荷販売数量は,以下のとおりである。
@ 別紙参考製品名目録1及び2(1)記載の各製品 別紙参考製品名目録1及び2(1)記載の各製品は,ピペラジン 系の飛灰用重金属固定化処理剤である。
上記各製品は,製品名にして●(省略)●種類以上に及び, 平成15年1月1日から平成21年9月30日までの期間の出 荷販売数量は合計●(省略)●s(坂上鑑定書図表1)である。
A 水浄化用重金属捕集剤(「製品名 エポフロック」) 「エポフロック」は,ピペラジン系の水浄化用重金属捕集剤 である。
上記製品は,平成15年1月1日から平成21年9月30日 までの期間のうち,平成15年4月1日から平成16年3月3 1日までの間において出荷販売され,その出荷販売数量は合計 ●(省略)●s(坂上鑑定書図表21)である。
B ●(省略)●等 別紙参考製品名目録3記載の●(省略)●等は,ピペラジン 系の重金属固定化処理剤である。
上記各製品は,製品名にして●(省略)●種類あり,平成1 5年1月1日から平成21年9月30日までの期間のうち,平 成15年1月1日から平成21年3月31日までの間において 出荷販売され,その出荷販売数量は合計●(省略)●s(坂上 鑑定書図表2)である。
上記各製品は,被告から●(省略)●社ないし●(省略)● 社にすべて販売されている(坂上鑑定書図表2,3)。
(c) 被告が平成15年1月1日から平成21年9月30日までの 期間に出荷販売したピペラジン系の重金属固定化処理剤全体の出 荷販売数量は,合計●(省略)●s(前記(b)の@ないしBの合 計)となる。
このうち,別紙参考製品名目録1及び2(1)記載の各製品の出荷 販売数量が占める割合は約●(省略)●%,●(省略)●等の出 荷販売数量が占める割合は約●(省略)●%,「エポフロック」 の出荷販売数量が占める割合は約●(省略)●%である。
b 前記aの認定事実によれば,被告は,平成15年1月1日から平 成21年9月30日までの期間において販売した「ピペラジン系の 重金属固定化処理剤」を「飛灰用」として大量に製造,販売してき たこと,被告が上記期間において「ピペラジン系の重金属固定化処 理剤」を「飛灰用以外の用途」である「水浄化用」として販売した 期間及び出荷販売数量はごく限定的なものにすぎないことが認めら れる。
(イ) 前記(ア)a(b)B認定のとおり,被告が平成15年1月1日から 平成21年9月30日までの期間(ただし,実際に出荷販売されたの は同年3月31日までである。)に出荷販売した●(省略)●等は ●(省略)●社ないし●(省略)●社にすべて販売されている。
そこで,●(省略)●社ないし●(省略)●社が,ピペラジン系の 飛灰用重金属固定化処理剤の販売に係る事業に関与する業者であるか どうかについて検討する。
a(a) 甲43の1-1は,秋田市総合環境センターが平成19年4 月1日から平成20年3月31日までの契約期間に係る灰処理用 キレート剤の購入に当たって作成した「灰処理用キレート剤仕様 書」である。
甲43の1-1においては,購入対象とされる製品の具体的な 品名が複数指定され,その中に,●(省略)●社製及び●(省 略)●社製●(省略)●が挙げられていること,購入対象とされ る薬剤の条件として「主成分はピペラジンジチオカルバミン酸と する。」とされていることからすると,●(省略)●社製及び ●(省略)●社製の上記各製品は,いずれもピペラジン系の飛灰 用重金属固定化処理剤であると考えられる。
また,別紙参考製品名目録1及び2(1)には,被告が製造,販売 するピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤の中に,●(省 略)●という製品名の製品及び●(省略)●のほか●(省略)● を冠した複数の製品名の製品が含まれるところ,これらの製品が 甲43の1-1に記載された●(省略)●社製及び●(省略)● 社製の各製品とその製品名を共通にすることからすると,別紙参 考製品名目録1及び2(1)記載の上記各製品は,それぞれ●(省 略)●社及び●(省略)●社が取り扱う各製品シリーズに属する 製品であると考えられる。
以上によれば,●(省略)●社及び●(省略)●社はピペラジ ン系の飛灰用重金属固定化処理剤を自社の製品として販売してい ることが認められる。
(b) ●(省略)●社のホームページ(甲9,43の2-2)によ れば,●(省略)●社は,飛灰用重金属固定化処理剤を●(省 略)●として販売していることが認められる。
他方,別紙参考製品名目録1には,被告が製造,販売するピペ ラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤の中に●(省略)●という 製品名の製品が含まれるところ,当該製品が●(省略)●社の上 記製品とその製品名を共通にすることからすると,別紙参考製品 名目録1記載の上記製品は,●(省略)●社が取り扱う製品シリ ーズに属する製品であると考えられる。
したがって,●(省略)●社はピペラジン系の飛灰用重金属固 定化処理剤を自社の製品として販売していることが認められる。
(c) 甲44の1ないし6によれば,●(省略)●社は,ピペラジ ンジチオカルバミン酸(ピペラジンカルボジチオ酸と同一のも の)を使用した飛灰用重金属固定化処理剤に係る複数の特許につ いて,●(省略)●社と共同で特許出願を行い,これらの特許権 を●(省略)●社と共有していることが認められる。この事実 は,●(省略)●社と●(省略)●社とが,ピペラジンジチオカ ルバミン酸を使用した飛灰用重金属固定化処理剤に関する事業に ついて,共同関係にあることを推認させるものといえる。なお, ●(省略)●社と●(省略)●社との間に共同で事業を行う関係 があることは,●(省略)●社及び●(省略)●社の双方が●( 省略)●という名称の同一製品を販売している事実(乙66及び 67)からも裏付けられる。
しかるところ,●(省略)●社がピペラジン系の飛灰用重金属 固定化処理剤を販売する事業を行っていることは,前記(a)のと おりであるから,●(省略)●社と上記のような事業上の共同関 係にある●(省略)●社が●(省略)●社の上記事業に関与して いることを推認することができる。
(d) 前記(a)ないし(c)によれば,●(省略)●社ないし●(省 略)●社は,ピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤の販売に 係る事業を行い,又は同事業に関与する業者であるものと認めら れる。
さらに,●(省略)●社は●(省略)●社ないし●(省略)● 社の関係会社(商社等)とされるものであるから,●(省略)●社 も,●(省略)●社ないし●(省略)●社と同様に,ピペラジン 系の飛灰用重金属固定化処理剤の販売に係る事業を行い,又は同 事業に関与する業者であるものと認められる。
b 他方で,●(省略)●社ないし●(省略)●社が,ピペラジン系 の重金属固定化処理剤を飛灰処理用以外の用途に係る製品として販 売していることをうかがわせる証拠は,乙66及び67以外には見 当たらない。
そこで,乙66及び67の内容につき検討するに,乙66は, ●(省略)●社が作成し,「改訂日 2010年2月25日」との 記載のある「●(省略)●」という名称の製品に関する「製品安全 データシート」であり,その「組成,成分情報」欄には,当該製品 が,「ジカリウム=ピペラジン-1,4-ビス(カルボジチオアー ト)(カリウム=ピペラジン-1-ビス(カルボジチオアート)を 約2%含有)」を約35%含有することが記載され,また,乙67 は,秋田市総合環境センターが平成21年4月1日から平成22年 3月31日までの契約期間に係る水処理用キレート剤の購入に当た って作成した「水処理用キレート剤仕様書」であり,購入対象とさ れる製品の具体的な品名として,●(省略)●社製●(省略)●が 記載されている。
しかるところ,乙66及び67の上記のような記載からすれば, これらの証拠は,●(省略)●社及び●(省略)●社が「●(省 略)●」という名称の同一製品を販売していること及び当該製品が ピペラジン系の水処理用重金属捕集剤であることを示すものということはできるものの,乙66の内容が2010年(平成22年)2月25日の時点で改訂されていることからすれば,乙66によってピペラジン系の製品であることが確認し得るのは,上記改訂以降に販売された「●(省略)●」についてであって,それより前に販売された同製品については,上記改訂前の「製品安全データシート」によらなければ,それがピペラジン系の製品であるか否かを確認することはできないものといえる。
そして,本件においては,上記改訂前である平成15年1月1日 から平成21年3月31日までの期間に●(省略)●社ないし●( 省略)●社に販売された●(省略)●等の用途が飛灰用重金属固定 化処理剤であったかどうかが問題となっているところ,乙66及び 67によっては,●(省略)●等の上記販売期間に対応する時期 に,●(省略)●社及び●(省略)●社がピペラジン系の製品に当 たる水処理用重金属捕集剤を販売していたとの事実を認めるには足 りない。
c 以上のとおり,平成15年1月1日から平成21年3月31日ま での期間に販売された●(省略)●等のすべてが●(省略)●社な いし●(省略)●社に販売されたことが認められるところ,●(省 略)●社ないし●(省略)●社が,いずれもピペラジン系の飛灰用 重金属固定化処理剤の販売に係る事業を行い,又は同事業に関与す る業者であることが認められる一方で,●(省略)●社ないし●( 省略)●社が,●(省略)●等の販売された期間に対応する時期 に,ピペラジン系の重金属固定化処理剤を飛灰処理用以外の用途に 係る製品として販売していたとの事実を認めるに足りる証拠はない のであり,以上の事情は,●(省略)●等が飛灰用重金属固定化処 理剤をその用途とする薬剤として製造,販売されたことを積極的に うかがわせる事情ということができる。
(ウ) 一方で,●(省略)●等の具体的な用途に関する被告の主張,立 証をみると,販売先の仕様に基づいて製造,販売しているにすぎない からその用途についてまでは把握していない旨の理由を述べて,当該 用途につき「不知」との答弁をするのみで,積極的な主張,立証を行 わない。
しかるところ,被告としては,自らの取引先である●(省略)●社 ないし●(省略)●社における●(省略)●等の具体的な用途を主 張,立証することが格別困難であることを示す事情も認められないの に,あえてこの点についての主張,立証をしないのであり,このよう な被告の訴訟対応は,●(省略)●等の用途が,原告主張のとおり飛 灰用重金属固定処理剤であるとの推認を補強する事情になるものとい うことができる。
(エ) 以上の(ア)ないし(ウ)の事情を総合すると,●(省略)●等は飛 灰用重金属固定化処理剤の用途に使用されるものとして製造,販売さ れたことを推認することができる。
イ これに対し被告は,●(省略)●等と同様のピペラジン系の製品の一般的な用途として,飛灰用重金属固定化処理剤以外の用途もある旨主張し,その根拠として,複数の公開特許公報(乙12,32,51)の記載や飛灰処理用以外の用途に係るピペラジン系の重金属固定化処理剤の製品(いずれも水処理用の重金属捕集剤である●(省略)●社及び●(省略)●社製「●(省略)●」(乙66,67)及び原告製「TX-10」(乙68))が現に存在することを指摘する。
しかしながら,以下に述べるとおり,被告が指摘する上記各証拠は,●(省略)●等が販売された平成15年1月1日ないし平成21年3月 31日当時,飛灰処理以外の用途に係るピペラジン系の重金属固定化処理剤が現に存在していたことを具体的に示す証拠とはいえず,これらによって,●(省略)●等の用途が飛灰用重金属固定化処理剤であるとの推認が妨げられるものではない。
(ア) 乙12には,従来技術として,「ジチオカルボキシ基を官能基と して有するポリアミン誘導体からなる金属捕集剤が知られており,こ の金属捕集剤を用いた廃水処理方法も種々提案されている」との記載 があるものの(前記2(1)ア(ウ)),ピペラジンに関しては,「発明の 詳細な説明」において,乙12記載の金属捕集剤を構成する「ポリア ミン誘導体」の骨格をなす30種に及ぶポリアミンが例示される中 に,「ピペラジン」も挙げられているにすぎず(前記2(2)イ(ア)), 飛灰処理用以外の用途に係るピペラジン系の重金属固定化処理剤の存 在が具体的に示されているとはいえない。
(イ) 乙32には,発明の名称を「固体状物質中の金属固定化方法」と して,固体状物質に,金属捕集剤と水溶性高分子とを添加し,固体状 物質中に存在する金属を固定化することを特徴とする固体状物資中の 金属固定化方法(特許請求の範囲の請求項1),固体状物質が,飛 灰,鉱滓,土壌,汚泥のいずれかである請求項1記載の固体状物質中 の金属固定化方法(同請求項2)が記載されているところ,その中 で,ピペラジンに関しては,「発明の詳細な説明」において,上記金 属捕集剤として複数の化合物が例示されるうちの一つである「ジチオ カルバミン酸基またはその塩を有する化合物」を生成するために使用 されるポリアミンが多数例示されるなかに,「ピペラジン」も挙げら れているのみにすぎず,当該記載をもって,飛灰処理用以外の用途に 係るピペラジン系の重金属固定化処理剤の存在が具体的に示されてい るとはいえない。
(ウ) 乙51には,発明の名称を「スラッジまたは土壌の無害化処理方 法」として,水銀化合物を含有するスラッジまたは土壌を水洗した 後,重金属処理剤を添加することを特徴とするスラッジまたは土壌の 無害化処理方法(特許請求の範囲の請求項1)等が記載されていると ころ,その中で,ピペラジンに関しては,「発明の詳細な説明」にお いて,上記重金属処理剤として,「ジチオカルバミン酸のNa基やK 基を主成分とする有機キレート系重金属処理剤等」が好ましいものと して挙げられるに当たり,その原料となるアミンが多数例示されるな かに,「ピペラジン」も挙げられているのみにすぎず,当該記載をも って,飛灰処理用以外の用途に係るピペラジン系の重金属固定化処理 剤の存在が具体的に示されているとはいえない。
(エ) さらに,被告が,現に存在する飛灰処理用以外の用途に係るピペ ラジン系の重金属固定化処理剤として指摘するもののうち,●(省 略)●社及び●(省略)●社製の水処理用重金属捕集剤「●(省略) ●」(乙66,67)については,●(省略)●等が販売された平成1 5年1月1日ないし平成21年3月31日の時期において,ピペラジ ン系の製品であったことが確認できないことは,前記ア(イ)bで述べ たとおりである。
また,原告製の水処理用金属捕集剤「TX-10」については,そ もそもピペラジン系の製品であることを認めるに足りる証拠がない。
この点に関し,被告は,当該製品がピペラジン系の製品であること の根拠として,同製品が,ピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤 である「TS-275」を紹介する原告のサイトにおいて,姉妹品と して宣伝されていること(乙68)を指摘するが,原告のサイトにお ける上記記載から,直ちに「TS-275」と「TX-10」との含 有有効成分の同一性までが明らかとなるものとはいえないから,被告 の上記主張は失当である。
したがって,乙66ないし68の各証拠についても,平成15年1 月1日ないし平成21年3月31日の時期において,飛灰処理用以外 の用途に係るピペラジン系の重金属固定化処理剤が存在していたこと を示す証拠とはいえない。
ウ まとめ 以上のとおり,●(省略)●等は飛灰用重金属固定化処理剤の用途に 使用されるものとして製造,販売されたことを推認することができ,こ の推認を妨げる証拠はない。
したがって,●(省略)●等は,被告製品に該当するものと認められ る。
(2) ●(省略)●について ア 原告は,別紙参考製品名目録2(2)の●(省略)●は被告製品に該当す る旨主張する。
そこで検討するに,坂上鑑定の結果によれば,以下の事実が認められ る。
(ア) 坂上鑑定人は,その鑑定の実施に当たって,被告がその環境改善 関連事業において取り扱うすべての製品を対象として「ピペラジン系 製品」であるか否かの区分調査を行った(坂上鑑定書の10頁(3) A)。
上記区分調査は,各製品について,@技術設計上ピペラジンが使用 されていること,A原料にピペラジンが使用されていること,B製造 工程にピペラジンが投入されていることの3点に留意して,被告が製 品ごとに作成している技術基準書の記載内容に基づいて確認するとい うものである(坂上鑑定書の第4(13頁ないし18頁))。
(イ) 坂上鑑定人は,上記区分調査の結果,被告が製造,販売する製品 のうち,「●(省略)●」は「非ピペラジン系製品」であり,「●( 省略)●」は「ピペラジン系製品」であることを確認した(坂上鑑定 書の32頁(4))。
なお,乙41(公認会計士YU及び同YV作成の売上数量の計算に 関する平成20年11月20日付け調査報告書)では,●(省略)● は「非ピペラジン系製品」であるのに,「ピペラジン系製品」として 集計の対象としていた(坂上鑑定書の32頁(4))。
イ 坂上鑑定の結果は,上記アのとおり,必要な技術資料を逐一確認した 結果に基づくものであって,その信用性に疑義を差し挟むべき事情は認 められない。
してみると,●(省略)●は,坂上鑑定が示すように「非ピペラジン 系製品」であって,ピペラジン系の重金属固定化処理剤とはいえないか ら,●(省略)●は被告製品に該当しないことが認められる。
ウ この点に関し,原告は,●(省略)●が被告製品に該当することは, 被告がいったん自白した事実であり,被告において後にこれを否認する のは,事実に関する「自白の撤回」に当たり許されない旨主張する。
しかしながら,被告による上記否認が,主要事実に関する自白の撤回 に当たるとしても,●(省略)●は被告製品(ピペラジン系の飛灰用重 金属固定化処理剤)に含まれるとの被告の自白が真実に反することは, 上記のとおり坂上鑑定の結果から明らかであり,また,そうである以 上,被告の上記自白が錯誤によるものであることもこれを推認すること ができるというべきであるから,被告による上記否認が許されないとの 原告の主張は採用することができない。
エ 以上によれば,●(省略)●が被告製品に該当するとの原告の主張は 理由がない。
(3) まとめ 上記(1)及び(2)の事実と前記争いのない事実等(3)イによれば,別紙参考 製品目録1,2(1)及び3の各製品は被告製品に該当するが,同目録2(2) の●(省略)●は被告製品に該当しないというべきである。
4 争点4(原告の損害額)について(1) 特許法102条1項損害額(逸失利益)について ア 被告製品の販売数量 特許法102条1項本文は,侵害行為を組成した物譲渡数量に,「 侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益 の額」を乗じて得た額を,特許権者又は専用実施権者の実施能力を超え ない限度において,特許権者又は専用実施権者が受けた損害額とするこ とができると規定している。
そこで,まず,本件特許権の「侵害行為を組成した物譲渡数量」に ついて検討するに,坂上鑑定の結果によれば,被告製品(別紙参考製品 目録1,2(1)及び3の各製品)の平成15年1月24日から平成21年 9月30日までの期間における販売数量は,別表1の「C」欄記載のと おり合計●(省略)●sと認められる(坂上鑑定書図表1及び2の「出 荷数量」)。
なお,坂上鑑定書図表1及び2においては,平成15年3月期の「出 荷数量」について,平成15年1月1日から同年3月31日までの90 日間分の数量として,●(省略)●等を除く被告製品につき「●(省 略)●s」(図表1),●(省略)●等につき「●(省略)●s」(図 表2)とされているので,これを基に平成15年1月24日から同年3 月31日までの67日間分の数量を算出するため,上記各数量にそれぞ れ90分の67を乗じ,得られた「●(省略)●s」及び「●(省略) ●s」の和である「●(省略)●s」をもって,当該期間に係る被告製 品の販売数量と認めている(ただし,1s未満切捨て)。
イ 原告製品の単位数量当たりの利益額(ア) 「侵害の行為がなければ販売することができた物」 a 証拠(甲7の1ないし7の5,32,34,古川鑑定の結果)及 び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。
(a) 原告は,平成15年4月1日から,ピペラジン系の飛灰用重 金属固定化処理剤「TS-275」を,平成18年4月1日か ら,ピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤「TS-300」 を製造,販売している。原告製品(「TS-275」及び「TS -300」)は,本件各発明の実施品である。
(b) 原告は,平成15年4月1日から平成18年3月31日まで の期間,専ら甲社に対し,原告製品の製造委託をし,甲社によっ て製造された原告製品(甲社製原告製品)を販売した。
上記期間においては,原告及び被告のほかに,OEM3社にお いてもピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤を製造,販売し ていた。
(c) 原告は,平成18年4月1日以降,甲社及びOEM3社の合 計4社に対し,原告製品の製造委託をし,甲社製原告製品及びO EM3社によって製造された原告製品(OEM3社製原告製品) を販売している。
b 上記認定事実によれば,原告製品は,本件各発明の実施品であ り,市場において侵害品である被告製品と競合する製品であるか ら,原告において「侵害の行為がなければ販売することができた 物」(特許法102条本文)に該当するものと認められる。
(イ) 古川鑑定の結果に基づく原告製品の単位数量当たりの利益額 a 上記(ア)aのとおり,原告製品は,その製造委託先により,甲社 製原告製品とOEM3社製原告製品とに大別することができる。
古川鑑定の結果によれば,原告製品全体,甲社製原告製品単独及 びOEM3社製原告製品に係る年度ごとの「平均販売単価」,「控 除対象費用(単価)」及び「単位数量当たりの利益の額」(ただし, 原告製品全体については4社の平均値,OEM3社製原告製品につ いては3社の平均値)は,それぞれ別表2-1ないし2-3記載の とおりと認められる(古川鑑定書第1表ないし第3表)。
b これに対し被告は,古川鑑定書における甲社製原告製品の「単位 数量当たりの利益の額」(第2表(別表2-2))は,@原告が甲 社に支給する原料ピペラジンについての製造設備の減価償却費等の 製造固定費を売上原価に算入すべきであるのに,これが算入されて いない点,A本件各発明の技術的範囲に属しない原料ピペラジンの 製造,販売に伴う利益分が控除されるべきであるのに,これが控除 されていない点において,相当でない旨主張する。
しかしながら,以下に述べるとおり,被告の上記主張はいずれも 理由がない。
(a) 被告の上記@の主張について 古川鑑定書第2の1(2)(3頁)によれば,甲社製原告製品の原料 となるピペラジンは,原告が製造して甲社に支給しているもので あるから,甲社製原告製品の売上原価には,原告におけるピペラ ジンの製造費用が含まれることが認められる。
しかるところ,古川鑑定書第3の2(2)B(14頁)においては, 上記ピペラジンの製造費用のうち,直接材料費等の製造直接費に ついては,原告製品の製造数量に応じて増減する変動費であるこ とから売上原価に算入するものとされる一方で,製造設備の減価 償却費等の製造固定費については,被告製品の販売数量に相当す る原告製品を原告が追加的に製造,販売した場合に原告の原料ピ ペラジンの製造能力が不足して新規の設備投資が必要となる場合でない限り,原告製品の製造数量に応じて変動することのない費用であることから売上原価に算入しないことしたものである。
このような古川鑑定書における会計処理は,原告製品に係るいわゆる限界利益の算出に当たっての適切な処理であるものということができる。
そして,古川鑑定書第3の1(1)bA及び第5表の「イ」欄(10頁〜11頁)によれば,平成15年4月1日から平成21年9月30日までの期間における被告製品の販売数量(別表1のC欄記載の数量)に相当する原告製品を原告が甲社に製造委託して追加的に製造,販売した場合でも,原告において,甲社に支給すべき原料ピペラジンが不足する事態とはならない程度の原料ピペラジンの余剰製造能力を有することが認められること(古川鑑定書第5表のイ欄記載の「原料ピペラジンの製造能力考慮後の余剰製造能力(t)」が,ウ欄記載の「被告出荷数量(t)」をいずれの年度においても上回っている。)に照らすならば,甲社製原告製品の限界利益の算出に当たって,原告におけるピペラジンの製造固定費を売上原価に算入すべき理由はないものと解される。
この点に関し,被告は,原告が,甲社に対して原告工場で製造した原料ピペラジンを支給する一方で,OEM3社のうちの1社に対しては,原告の製造に係る原料ピペラジンを直接支給することなく,他のピペラジン製造業者からのピペラジンの購入を代行して行っているという事実をもって,原告の原料ピペラジンの製造能力がOEM3社用に別途製造して支給することができない程度のものであることを示す事実であるかのごとく主張するが,上記購入代行の事実が直ちに原告における原料ピペラジンの製造能 力の不足に結びつくものとはいえない。
したがって,被告の上記@の主張は理由がない。
(b) 被告の上記Aの主張について 被告の上記Aの主張は,甲社製原告製品の場合,原料となるピ ペラジンを原告自身が製造して甲社に支給していることから,原 告以外の者が製造したピペラジンを原料とするOEM3社製原告 製品と比較して,甲社製原告製品の売上原価が低く抑えられるこ ととなり,その結果,より多額の利益が得られることとなるが, このような利益の中には,それ自体は本件各発明の技術的範囲に 属することのない原料ピペラジンの製造,販売による利益が含ま れているものといえるから,原告の損害額算定の基礎となる甲社 製原告製品の「単位数量当たりの利益の額」においては,上記利 益に相当する額を控除すべきというものと解される。
しかるところ,被告の上記主張は,甲社製原告製品の製造過程 における「一部の原料」について,それ自体の製造,販売に係 る「利益」なるものを独立に観念して,甲社製原告製品の「単位 数量当たりの利益の額」について論じるものであって,その主張 自体独自の見解であって採用することができない。
また,仮に被告が主張するように甲社製原告製品の場合とOE M3社製原告製品の場合とで,売上原価の差異に伴う利益額の差 異が生じているとしても,それは,甲社製原告製品及びOEM3 社製原告製品における製造,販売の具体的な形態の違いによっ て,各原告製品の販売によって原告が受ける利益額が現に異なっ ているということにすぎないのであって,甲社製原告製品に係る 利益額の中に,本来計上されるべきでない利益が含まれていると いうものではない。
したがって,被告の上記Aの主張も,理由がない。
(ウ) 原告の損害額算定の基礎となるべき原告製品の単位数量当たりの 利益額について a 平成15年4月1日から平成18年3月31日までの期間につい て 上記期間に製造,販売された原告製品は,甲社製原告製品のみで あるから(前記(ア)a(b)),この期間に係る原告の損害額算定の 基礎となる原告製品の単位数量当たりの利益額は,甲社製原告製品 についての単位数量当たりの利益額である。
そして,古川鑑定の結果によれば,当該利益額は,別表2-1及 び2-2において共通する,平成15年度ないし平成17年度に係 る「単位数量当たりの利益の額」欄記載の金額と認めるのが相当で ある。
b 平成18年4月1日から平成21年9月30日までの期間につい て (a) 上記期間に製造,販売された原告製品は,その製造委託先が 甲社であるものとOEM3社であるものがあり(前記(ア)a(c )),かつ,製造委託先がいずれであるかによって,製品の単位数 量当たりの利益額が異なることに照らすならば,この期間に係る 原告の損害額算定の基礎となる原告製品の単位数量当たりの利益 額については,製造委託先の別にかかわらず,当該期間中に販売 されたすべての原告製品を対象とした平均値をもって,原告製品 の単位数量当たりの利益額と認めるのが相当である。
しかるところ,この点に関して,原告は,甲社製原告製品の方 が原告にとって販売による利益が多いことなどを根拠に,被告製 品の販売がなければ原告において販売可能であった原告製品の数 量のうち,甲社の製造能力によって製造可能な最大限の数量に達 するまでは甲社製原告製品が販売されていたはずであるとして, その範囲内の数量に関する限り甲社製原告製品のみに係る単位数 量当たりの利益額が採用されるべきである旨主張し,他方,被告 は,甲社製原告製品よりもOEM3社製原告製品の方が販売単価 が低いことを根拠に,被告製品の販売がなければ原告において販 売可能であった原告製品の数量のうち,OEM3社の製造能力に よって製造可能な最大限の数量に達するまではOEM3社製原告 製品が販売されていたはずであるとして,その範囲内の数量に関 する限りOEM3社製原告製品のみに係る単位数量当たりの利益 額が採用されるべきである旨主張するが,以下のとおり,いずれ も採用することはできない。
(b) 原告の主張について @ 原告の主張は,被告製品の販売がなければ販売可能であった 数量の原告製品を原告が販売する場合には,原告にとって,よ り利益の多い甲社製原告製品の方を優先的に販売するはずであ るとの立論をその前提とするものであるところ,このような立 論は,原告が,原告製品を販売するに当たって,これを甲社製 原告製品として販売するか,あるいは,OEM3社製原告製品 として販売するかにつき,原告自身の利益の多寡を基準とした 自由な判断によって決定し得る状況にあることを前提として初 めて成り立つものといえる。
しかるところ,古川鑑定書第4表に基づいて,平成18年4 月1日から平成21年9月30日までの期間における原告製品 の実際の販売数量の内訳を見ると(5頁〜8頁),合計販売数 量●(省略)●s(平成18年度ないし平成21年度上期の「 全体値」欄の合計)の約●(省略)●%に当たる●(省略)● s(同「OEM3社平均値」欄の合計)が,原告にとってより 利益の少ないOEM3社製の製品であることが認められるので あり,このことは,原告が原告製品を販売するに当たって,こ れを甲社製原告製品として販売するか,OEM3社製原告製品 として販売するかの振り分けが,必ずしも原告自身の利益の多 寡を基準とした自由な判断のみによって決定されるものとはい えないことを端的に示しているということができる。
A これに対し,原告は,OEM3社が原告製品の製造委託先と なったのは,原告が,本件特許権の侵害品を自社製品として製 造,販売していたOEM3社との間で和解交渉を行った結果, 平成18年4月以降は,OEM3社が同一製品を原告からの委 託により原告製品として製造,販売する旨の合意が成立したか らであるとした上で,このような経緯からすれば,原告がOE M3社に原告製品の製造を委託しているのは,OEM3社に本 件特許権の侵害行為を止めさせることに主眼があるのであるか ら,OEM3社への製造委託数量は,各社の従前からの販売数 量に見合うだけあれば十分であって,被告による侵害数量分ま でをもOEM3社に製造させることはない旨主張する。
この点,原告の有機化成品事業部環境薬剤部長の陳述書(甲4 5)及び弁論の全趣旨を総合すれば,OEM3社が原告製品の製 造委託先となった経緯がおおよそ原告の上記主張のとおりであ ることは認められるものの,原告とOEM3社との和解交渉の 具体的な経過やその結果成立したとされる両者間の合意内容の 詳細については,上記陳述書からも明らかではなく,他にこれ を認めるに足りる証拠はない。このように,OEM3社が原告 の委託により原告製品を製造し,これを原告がOEM3社から 仕入れて販売するに当たっての原告とOEM3社の間の各合意 内容の詳細が証拠上明らかではない以上,被告による侵害数量 分をOEM3社に製造させることはない旨の原告の主張は,そ の裏付けを欠くというべきであって,直ちに首肯することはで きない。
したがって,原告の上記主張は,その前提となる立論を是認 することができないから,採用することはできない。
(c) 被告の主張について 被告の主張は,原告製品のような飛灰用重金属固定化処理剤 は,地方自治体などのごみ処理施設の運営主体が実施する入札手 続によって納入業者が決定されるのが一般的であり,このような 入札手続においては,より低い価格を提示した業者が落札するは ずであるから,被告製品の販売がなければ販売可能であった数量 の原告製品が販売される場合には,平均販売単価がより低いOE M3社製原告製品の方が優先的に販売されたはずであるとの立論 をその根拠とするものである。
しかしながら,被告の上記立論は,原告製品の平均販売単価の 高低が上記のような入札手続における原告製品の入札価格に直ち に反映することを前提とするものと考えられるところ,このよう な前提自体が必ずしも正しいとはいえない。
すなわち,証拠(甲7の1ないし7の5,32)及び弁論の全 趣旨によれば,原告は,飛灰用重金属固定化処理剤のメーカーで はあるものの,その末端のユーザーであるごみ処理施設の運営主 体が実施する入札手続に直接参加することはほとんどなく,これ らの入札手続に参加するのは,原告から原告製品を購入した購入 転売会社から,更に原告製品を仕入れた商社等の取扱業者である のが通常であることが認められる。
そして,これらの取扱業者が上記入札手続に参加する場合に は,必ずしも原告製品の販売価格の高低をそのまま入札価格に反 映させるとは限らないのであって,むしろ落札のために,自身の 利益額を削って入札価格を低くすることもあり得ることといえ る。このような入札の実情からすれば,原告製品の平均販売単価 の高低が直ちに入札手続における原告製品の入札価格に反映され るものとはいえない。
このことは,平成18年度から平成21年度上期までのいずれ の年度をみても,OEM3社製原告製品よりも平均販売単価が高 いと認められる甲社製原告製品(古川鑑定書第4表(5頁〜8 頁)の「A社」の製品)が,相当な販売実績(前記(b)@記載の 上記期間における原告製品の合計販売数量●(省略)●sの約 ●(省略)●%)を示していることからも裏付けられるものとい える。
したがって,被告の上記主張は,その前提となる立論を是認す ることができないから,採用することはできない。
(d) 小括 以上によれば,平成18年4月1日から平成21年9月30日 までの期間に係る原告の損害額算定の基礎となる原告製品の単位 数量当たりの利益額は,別表2-1の平成18年度ないし平成2 1年度上半期に係る「単位数量当たりの利益の額」欄記載の金額 となる。
c まとめ 以上によれば,平成15年4月1日から平成21年9月30日ま での期間に係る原告の損害額算定の基礎となる年度ごとの原告製品 の単位数量当たりの利益額は,いずれも別表2-1の「単位数量当 たりの利益の額」欄記載の金額と認めるのが相当である。
ウ 原告の実施能力 古川鑑定書によれば,原告の平成15年4月1日から平成21年9月30日までの期間における原告製品の余剰生産能力は,原告の製造委託先の一つである甲社の製造能力のみに着目し,かつ,原告から甲社に支給される原料ピペラジンの原告における余剰製造能力をも考慮に入れても,当該期間における被告製品の販売数量を優に上回っていることが認められる(第3の1(1),第5表)。
したがって,前記アの被告製品の販売数量の全部について,原告が原告製品を製造,販売する能力(実施能力)を有していたことが認められる。
エ 被告製品の販売数量の一部を原告が販売することができないとする事情(特許法102条1項ただし書) 特許法102条1項ただし書は,侵害品の譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を権利者が「販売することができないとする事情」があるときは,同項本文の損害額から,当該事情に相当する数量に応じた額を控除する旨規定するところ,被告は,これに相当する事情として,競合他社の存在,旧化審法による制限,その他の事情を主張するので,以下それぞれについて検討する。
(ア) 競合他社の存在について a 被告は,ピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤については, 原告及び被告以外にも,これを製造,販売する競合他社が存在する ことから,被告製品が市場に存在しなかったと仮定した場合であっ ても,原告において,被告製品の販売数量のすべてを販売すること は不可能であり,ピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤の市場から,被告製品を除いた市場を想定し,被告製品の販売数量のうち,当該市場における競合他社の市場占有率に相当する数量は,原告において「販売することができないとする事情」に相当する数量に当たる旨主張する。
(a)ピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤の市場規模 ピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤全体の市場規模(販売 数量)については,直接これを明らかにする資料がないことから, 化審法23条1項に基づいて経済産業大臣に届け出られたジカリ ウム=ピペラジン-1,4-ビス(カルボジチオアート)及びカ リウム=ピペラジン-1-カルボジチオアートの製造数量及び輸 入数量の合計値から推測するのが相当である。
すなわち,化審法23条1項の規定によると,第二種監視化学 物質(旧化審法においては「指定化学物質」)を製造し,又は輸 入した者は,当該物質の年度ごとの製造数量又は輸入数量を経済 産業大臣に届け出ることが義務付けられており,ピペラジン系の 飛灰用重金属固定化処理剤の有効成分であるジカリウム=ピペラ ジン-1,4-ビス(カルボジチオアート)及びカリウム=ピペ ラジン-1-カルボジチオアートは上記第二種監視化学物質(旧 化審法の下においては「指定化学物質」)に指定されていること から,その製造数量及び輸入数量の合計数量が経済産業大臣に届 け出られ,経済産業省告示により公表されている。
そして,平成15年度ないし平成20年度に係る上記数量は, それぞれ,平成15年度が5619トン(甲35の1),平成1 6年度が7773トン(甲4の1),平成17年度が7586ト ン(甲4の2),平成18年度が10434トン(甲35の 2),平成19年度が7482トン(乙54の1及び2),平成 20年度が7893トン(乙54の1及び2)であることが認め られる。なお,平成21年度上半期については,上記数量を確認 し得る資料がないため,正確な数値を把握することはできない が,直近の平成20年度の同数量に2分の1を乗じた数量394 7トン(1トン未満は四捨五入)をもって代替させるのが相当で ある。
他方,原告製品及び被告製品においては,上記化学物質が平均 値で38%含まれる水溶液として製造,販売されていることか ら,当該化学物質全体の届出数量を0.38で除することによっ てピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤の市場規模(販売数量 )を算出するのが相当である。
そこで,以上の方法により,平成15年4月1日から平成21 年9月30日までの年度ごとのピペラジン系の飛灰用重金属固定 化処理剤の市場規模(販売数量)を算出すると,別表3のC欄記 載のとおりとなる。
(b) 被告製品を除くピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤の 市場における原告製品の市場占有率 上記のとおりのピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤の市 場規模のほか,前記アで認定した被告製品の販売数量(別表3の B欄記載の数量)及び古川鑑定書第4表から認められる原告製品 の販売数量(別表3のA欄記載の数量)を前提に,平成15年4 月1日から平成21年9月30日までの期間における年度ごと の「被告製品を除く市場における原告製品の市場占有率」を算出 すると,別表3のE欄記載のとおりとなる。
この点に関し,被告は,上記算定の基礎となるピペラジン系の 飛灰用重金属固定化処理剤の市場規模の算出が経済産業大臣への ジカリウム=ピペラジン-1,4-ビス(カルボジチオアート) 及びカリウム=ピペラジン-1-カルボジチオアートの届出数量 からの推測値によっていることを根拠に,当該算定に用いられる 被告製品の販売数量についても,被告による届出数量に基づく推 測値によるべきである旨主張する。
しかしながら,同様に上記算定の基礎となる原告製品の販売数 量については,経済産業大臣への上記物質の届出数量が明らかで ないため,実際の販売数量によらざるを得ないことからすると, 被告製品のみについて上記届出数量に基づく推測値を用いること が必ずしも合理的であるとはいえない。
加えて,被告が算出した,被告製品の販売数量について上記推 測値を用いた場合の被告製品を除くピペラジン系の飛灰用重金属 固定化処理剤の市場における原告製品の市場占有率(別紙被告第5 表のG欄記載の率)を,別表3のE欄記載の同占有率と比較してみ ても,格別大きな差異がないことからしても,上記算定の基礎と なる被告製品の販売数量について,実際の販売数量によることが 不合理であるとはいえず,被告の上記主張は採用の限りではな い。
(c) 平成18年4月以降の期間において,競合他社の製品を考慮 することの要否 原告は,平成18年3月まで本件特許権を侵害するピペラジン 系の飛灰用重金属固定化処理剤を製造,販売していたOEM3社 が,同年4月以降は,原告からの製造委託を受けて原告製品とし てピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤を製造し,原告に販 売することとなった結果,市場におけるピペラジン系の飛灰用重 金属固定化処理剤は,原告製品と被告製品のみになったとして,平成18年4月1日から平成21年9月30日までの期間については,上記(b)のような原告製品の市場占有率を考慮するまでもなく,被告製品の販売数量の全量をもって,原告における原告製品の販売可能数量とみることができる旨主張する。
しかしながら,平成18年4月以降の市場におけるピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤が原告製品と被告製品のみであったとの原告の主張は,これを認めるに足りる証拠がない。原告は,ピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤を製造,販売してきた業者は,原告,被告のほかには,OEM3社しかないことを当然の前提として上記のような主張をするが,そのような前提自体について,これを認めるに十分な証拠を提出しているとはいえない。
加えて,仮に原告の主張のとおり平成18年4月以降の市場におけるピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤が原告製品と被告製品のみであったとすれば,上記(a)及び(b)の方法により算出した平成18年4月1日以降の被告製品を除くピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤の市場における原告製品の市場占有率は,100%に近接した数値となってしかるべきであるのに,実際の上記数値は,別表3のE欄記載のとおり,例えば,平成18年度については●(省略)●%,平成20年度については●(省略)●%となっている。このような結果は,上記数値の算定が経済産業大臣への届出数量に基づく推測値を基礎とするものであることによる誤差の存在を考慮に入れたとしても,なお原告の上記主張とは符合しない結果ということができる。
したがって,原告の上記主張についても,これを採用すること はできず,平成18年4月以降の期間においても,原告製品の市 場占有率を考慮して,その販売可能数量を算出する必要がある。
b 以上によれば,被告製品の販売数量のうち,被告製品の販売がな ければ競合他社の製品(競合品)が販売されていたものと考えられ る数量を除いた,原告における原告製品の販売可能数量は,被告製 品の販売数量に,上記a(b)で算出した被告製品を除くピペラジン 系の飛灰用重金属固定化処理剤の市場における原告製品の市場占有 率を乗じて得られる数量とするのが相当である。
そして,平成15年4月1日から平成21年9月30日までの年 度ごとの当該数量は,別表4のC欄記載の数量と認められる。
(イ) 旧化審法による制限について a 被告は,原告は旧化審法3条及び4条に基づく手続を経ていない から,平成15年4月1日から平成16年1月8日までの間は,同 法5条により,「ジカリウム=ピペラジン-1,4-ビス(カルボ ジチオアート)」(ビス体)及び「カリウム=ピペラジン-1-カ ルボジチオアート」(モノ体)を含む原告製品を製造することはで きなかったものであり,このことが,原告において原告製品を「販 売することができないとする事情」に当たるとして,上記期間に係 る被告製品の販売数量に応じた額については原告の損害額から控除 されるべきである旨主張する そこで,以下では,原告が平成15年4月に原告製品の販売を開 始するに当たり,原告製品に関して,旧化審法3条及び4条におい て必要とされる手続がとられていなかったとの事実が認められるか 否かについて検討する。
b 旧化審法3条ないし5条は,次のように規定している。
(a) 3条 「 次に掲げる化学物質以外の化学物質(以下「新規化学物質」 という。)を製造し,又は輸入しようとする者は,あらかじ め,厚生労働省令,経済産業省令,環境省令で定めるところに より,その新規化学物質の名称その他の厚生労働省令,経済産 業省令,環境省令で定める事項を厚生労働大臣,経済産業大臣 及び環境大臣に届け出なければならない。(以下,ただし書 略) 一 次条第三項(第5条の2第2項において準用する場合を含 む。)の規定により厚生労働大臣,経済産業大臣及び環境大 臣が公示した化学物質 二 第一種特定化学物質 三 第二種特定化学物質 四 指定化学物質(第二十5条の規定により指定を取り消され たものを含む。) 五 附則第2条第4項の規定により通商産業大臣が公示した同 条第一項に規定する既存化学物質名簿に記載されている化学 物質」(b) 4条 「 厚生労働大臣,経済産業大臣及び環境大臣は,前条の届出 があつたときは,その届出を受理した日から三月以内に,そ の届出に係る新規化学物質について既に得られているその組 成,性状等に関する知見に基づいて,その新規化学物質が次 の各号のいずれに該当するかを判定し,その結果をその届出 をした者に通知しなければならない。
第2条第2項各号の一に該当するもの 二 第2条第3項各号の一に該当する疑いのあるもの(同項 各号の一に該当するものを含む。第四項において同じ。) 三 第2条第2項各号に該当せず,かつ,同条第三項各号に 該当する疑いのないもの 四 第一号又は第二号に該当するかどうか明らかでないもの 2 厚生労働大臣,経済産業大臣及び環境大臣は,前条の届出 に係る新規化学物質が前項第四号に該当すると判定したとき は,速やかに,その新規化学物質について実施される試験の 試験成績に基づいて,その新規化学物質が同項第一号から第 三号までのいずれに該当するかを判定し,その結果をその届 出をした者に通知しなければならない。
3 厚生労働大臣,経済産業大臣及び環境大臣は,前二項の規 定により前条の届出に係る新規化学物質第一項第三号に該当 するものである旨の通知をしたときは,遅滞なく,その新規 化学物質の名称を公示しなければならない。
4 厚生労働大臣,経済産業大臣及び環境大臣は,第一項及び 第二項の規定により前条の届出に係る新規化学物質が第2条 第三項各号の一に該当する疑いのあるものである旨の通知を したときは,遅滞なく,当該化学物質につき同条第四項の規 定による指定をするものとする。
5,6省略」(c) 5条第3条の届出をした者は,前条第一項又は第二項の規定によ りその届出に係る新規化学物質について同条第三項又は第四項 に規定する通知を受けた後でなければ,その新規化学物質を製 造し,又は輸入してはならない。(以下,省略)」c 以上のような旧化審法3条ないし5条の規定によれば,同法3条 の「新規化学物質」を製造しようとする者は,あらかじめ所定の事項を厚生労働大臣,経済産業大臣及び環境大臣に届け出て,厚生大臣らによる同法4条1項又は2項の判定を受け,同条3項又は4項に規定する通知を受けた後でなければ,当該「新規化学物質」を製造することができない。
そして,@「ジカリウム=ピペラジン-1,4-ビス(カルボジチオアート)」及びA「カリウム=ピペラジン-1-カルボジチオアート」については,平成16年1月9日の「厚生労働省,経済産業省,環境省告示第1号」(乙55)において,旧化審法2条4項の規定に基づく「指定化学物質」として指定されたことに照らすならば,同日より前における上記各化学物質は,同法3条の「新規化学物質」に該当し,同法3条及び4条に基づく手続を経た者でなければ,これらを含有する製品を製造することはできなかったものといえる。
しかるところ,原告製品は,ジカリウム=ピペラジン-1,4-ジカルボジチオアート(上記@の化学物質と同じもの)を主要有効成分とするものであるところ(甲5,乙68),証拠(甲46の1及び2)によれば,当該化学物質については,甲社が,厚労大臣らに対し,平成14年12月18日付けの「新規化学物質製造届出書」をもって旧化審法3条に基づく新規化学物質としての届出を行ったこと,これに対し,厚労大臣らは,甲社に対し,平成15年1月15日付けの書面をもって,届出のあった新規化学物質(ジカリウム=ピペラジン-1,4-ジカルボジチオアート)について,同法4条1項に基づき,同項2号(同法2条3項各号の一に該当する疑いのあるもの)に該当すると判定した旨の通知をしたことが認められる。
そうすると,甲社は,上記化学物質について,旧化審法3条に基づく厚労大臣らに対する届出を行い,厚労大臣らによる同法4条1項の判定を受けて,同条4項に規定する通知を受けたものといえるから,甲社が平成15年1月15日以降に上記化学物質を主要有効成分とする原告製品を製造することは,旧化審法5条抵触するものではない。
したがって,原告が平成15年4月1日以降に甲社の製造に係る原告製品を販売することが,旧化審法上許されないものとはいえない。
d この点,旧化審法の運用上,対象化学物質中に1%未満しか含有されない化学成分については,同法3条の「新規化学物質」としての届出は要しないものとされている(このような運用がされている事実については,争いがない。)ところ,被告は,乙69に基づき,原告製品には,甲社による上記届出の対象となった「ジカリウム=ピペラジン-1,4-ジカルボジチオアート」(ビス対)のほかに,「カリウム=ピペラジン-1-カルボジチオアート」(モノ体)も1%以上含有されているとした上で,後者の化学成分については,甲社による旧化審法3条の届出はされていないから,甲社による上記届出の存在にかかわらず,原告は,旧化審法上,適法に原告製品を製造,販売することはできなかった旨主張する。
そこで,乙69が被告の上記主張の根拠となり得るものか否かについて検討するに,乙69は,被告の油化事業本部技術統括部第二技術部長が,被告において入手したとされる原告製品(製品名「TS-275」につき3試料,「TS-300」につき2試料の合計5試料)について 1 H-NMR測定を行ったところ,いずれの試料においても,ピペラジンジチオカルバミン酸カリウムのモノ体(す なわち,「カリウム=ピペラジン-1-カルボジチオアート」)が 1重量%以上存在することが判明した旨を報告し,当該測定に係る 1 H-NMRチャートを添付した陳述書である。
しかしながら,乙69をみても 1H-NMR測定の対象とされた 原告製品の入手経路が明らかではなく,それらが真に原告製品であ ることを確認し得る裏付けとなる証拠も示されていないから,そも そも同号証に示された結果をもって原告製品の 1H-NMR測定の 結果と断定することはできない。また,他に原告製品に「カリウム =ピペラジン-1-カルボジチオアート」(モノ体)が1重量%以 上含有されるとの事実を認めるに足りる証拠もない。
したがって,被告の上記主張は,その前提となる事実が認められ ないから,採用することができない。
e 以上によれば,旧化審法の規定による制限をもって,原告におい て原告製品を「販売することができないとする事情」(特許法10 2条1項ただし書)に当たるとする被告の主張は理由がない。
(ウ) その他の事情について 被告は,特許法102条1項ただし書に当たるその他の事情とし て,@被告製品の代替品として,原告製品を含むピペラジン系の飛灰 用重金属固定化処理剤のみならず,非ピペラジン系の飛灰用重金属固 定化処理剤が販売された可能性もあること,Aピペラジン系の製品が 飛灰用重金属固定化処理剤として一定の市場を形成できたのは,被告 による営業努力又は市場開拓によるものであること,B入札制度で納 入業者が決定される飛灰用重金属固定化処理剤においては,製品が本 件各発明の特許請求の範囲に含まれるかどうかが,需要者において納 入業者を決定する際の動機付けとなるものではないことをそれぞれ指 摘し,これらの諸事情を考慮すれば,別紙被告第6表の「I」記載の 数量の少なくとも90%については,原告において原告製品を「販売することができないとする事情」がある旨主張する。
しかしながら,以下に述べるとおり,上記@ないしBの点に関して特許法102条1項ただし書の事情があるとする被告の主張は,いずれも採用することができない。
a 被告の上記@の主張について 被告は,被告製品に代替するものとして,原告製品を含むピペラ ジン系の飛灰用重金属固定化処理剤のみならず,非ピペラジン系の 飛灰用重金属固定化処理剤が販売された可能性もあるという事実 は,原告において原告製品を「販売することができないとする事 情」に当たる旨主張する。
しかしながら,非ピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤は, ピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤とは異なる化学物質を有 効成分とする製品であるから,そもそも,代替品に当たるものとい うことはできない。また,仮に被告が主張するように非ピペラジン 系の飛灰用重金属固定化処理剤が被告製品の代替品に当たるとして も,原告製品及び被告製品はいずれもピペラジン系の飛灰用重金属 固定化処理剤であることに照らすならば,上記代替品の存在は,原 告製品の販売についてのみならず,被告製品の販売についても同等 に影響を及ぼす可能性のある事情であり,そのような原告製品及び 被告製品の両製品にとって共通の事情の存在をもって,被告製品が 現に販売可能であった数量について原告において原告製品を「販売 することができないとする事情」に当たるということはできない。
加えて,被告が主張するように,一部の廃棄物処理事業体による 入札仕様書の記載のみから,被告製品の代替品として非ピペラジン 系の飛灰用重金属固定化処理剤が販売された可能性があるものと断 定することは困難である。
したがって,被告の上記@の主張は,採用することができない。
b 被告の上記Aの主張について 被告は,ピペラジン系の製品が,飛灰用重金属固定化処理剤とし て一定の市場を形成することができたのは,被告がその有する知見 をもとに,工業的生産を開始するべく早期に旧化審法に基づく届出 等を行ったこと,すなわち,被告の営業努力又は市場開拓によるも のであり,この点は,原告において原告製品を「販売することがで きないとする事情」として考慮されるべきである旨主張する。
ここに被告が被告による営業努力又市場開拓として具体的に主張 している事実は,他者に先行して,平成14年6月14日に「ジカ リウム=ピペラジン-1,4-ビス(カルボジチオアート)」(ビ ス体)について,同年8月1日に「カリウム=ピペラジン-1-カ ルボジチオアート」(モノ体)について,それぞれ旧化審法3条に 基づく届出を行い,そのことが,平成16年1月9日の「厚生労働 省,経済産業省,環境省告示第1号」(乙55)において,上記各物 質が旧化審法2条4項の規定に基づく「指定化学物質」として指定 されるに至る契機となったというものである。
しかしながら,前記(イ)cで述べたとおり,原告製品の主要有効 成分である「ジカリウム=ピペラジン-1,4-ジカルボジチオア ート」(ビス対)については,甲社においても,平成14年12月 18日付けの「新規化学物質製造届出書」をもって旧化審法3条に 基づく届出を行い,平成15年1月15日付けの書面をもって当該 物質について同法4条1項の判定を受けて,同条4項に規定する通 知を受けた事実があることからすると,被告の上記届出によって原 告による原告製品の製造,販売が可能となったという関係にあると はいえない。
また,被告が上記時期に上記届出を行ったことが,その後の飛灰 用重金属固定化処理剤におけるピペラジン系の製品の市場形成に関 して,いかなる意味を持ったのかについては,証拠上不明というほ かない。
したがって,ピペラジン系の製品が飛灰用重金属固定化処理剤と して一定の市場を形成できたのは,被告による営業努力又は市場開 拓によるものと認めることはできないから,被告の上記Aの主張も 採用することができない。
c 被告の上記B主張について 被告は,飛灰用重金属固定化処理剤のように入札制度によって納 入業者が決定される製品の場合,特許権の対象であること又は特許 発明の奏する効果を有することが入札の条件とされると,入札価格 が特許権者によりコントロールされることとなり,入札制度の目的 が果たされなくなるから,そのようなことが入札の条件とされるこ とはなく,飛灰用重金属固定化処理剤においては,その製品が本件 各発明の技術的範囲に含まれるかどうかが,需要者において納入業 者を決定する際の動機付けとなるものではないとして,このような 事情が原告において原告製品を「販売することができないとする事 情」となる旨主張する。
しかしながら,被告の上記主張からは,被告が述べる上記の事情 が,なにゆえに,原告において原告製品を「販売することができな いとする事情」となるのが判然としないというべきであり,被告の 上記主張は,そもそも特許法102条1項ただし書の事情について の主張として不十分なものというほかない。
また,仮に被告の上記主張の趣旨が飛灰用重金属固定化処理剤に おいては,ある製品が本件各発明の技術的範囲に含まれるかどうか が需要者において納入業者を決定する際の動機付けとならないこと から,被告製品の販売がなかった場合でも,それに替わって,当然 に本件各発明の技術的範囲に属するピペラジン系の飛灰用重金属固 定化処理剤が販売されたものとはいえず,代替品として,本件各発 明の技術的範囲に属さない非ピペラジン系の製品が販売された可能 性もある旨を主張する趣旨であるとすれば,そのような主張は,被 告の上記@の主張と実質的に異ならないものというべきであるか ら,前記aで述べたところが同様に当てはまるものといえる。
したがって,いずれにしても被告の上記Bの主張は採用すること ができない。
オ 特許法102条1項損害額(逸失利益) 以上のアないしエの各検討結果を総合すれば,平成15年1月24日 から平成21年9月30日までの期間において,被告が被告製品を販売 して本件特許権を侵害したことによって原告が受けた,特許法102条 1項によって算定される損害額は,別表5記載のとおり,合計●(省 略)●円と認められる。
(2) 特許法102条3項損害額(実施料相当額)について ア 平成15年4月1日から平成21年9月30日までの期間について (ア) 原告は,上記期間における被告製品の販売によって原告が受けた 損害について,特許法102条1項によって算定された損害額を請求 するとともに,その中で,被告製品の販売数量のうち原告において「 販売することができないとする事情」(同項ただし書)が認められる 数量については,同条3項に基づく実施料相当額損害額を請求でき る旨主張する。
しかしながら,特許権者が特許権侵害行為により受けた損害につい て,特許法102条1項は,特許権侵害行為をした者がその侵害行為を組成した物を譲渡したときは,その譲渡行為がなかったとすれば特許権者が自己の物を販売することによって得ることができた利益(逸失利益)の損害額の算定方式を定めた規定であって,特許権侵害行為を組成した物の譲渡行為がなかったという仮定を前提とした損害額の算定方式を示しているのに対し,同条3項は,特許発明実施があったこと(例えば,特許発明実施品である特許権侵害行為を組成した物の譲渡行為があったこと)を前提としてこれに対し特許権者が受けるべき実施料相当額損害額の算定方式を定めた規定であって,両者は前提を異にする損害額の算定方式であり,また,同条1項による逸失利益の損害賠償を請求する特許権者が,その損害額算定の対象とした譲渡数量のうち,同項ただし書により特許権者が「販売することができないとする事情」に相当する数量として控除するものとされた分に対応する実施料相当額を請求し得ると解すると,特許権者が侵害行為に対する損害賠償として請求し得る逸失利益とともに,この逸失利益を超える額についてまで損害賠償を請求することを認めることになるが,このような事態を認めることは,妥当でないというべきである(知財高裁平成18年9月25日判決(平成17年(ネ)第10047号)参照)。
これを本件についてみるに,原告は,被告製品の販売数量の全部を特許法102条1項損害額算定の対象として同項による損害賠償を請求し,しかも,前記(1)ウ認定のとおり,その販売数量全部について原告製品を製造,販売する能力(実施能力)を有していたのであるから,原告において原告製品を「販売することができないとする事情」に相当する数量として控除すべき分については,同条3項に基づく実施料相当額の損害賠償を請求することができないというべきである。
したがって,原告の上記主張は採用することができず,原告の上記 期間における被告製品の販売についての特許法102条3項に基づく 実施料相当額の損害賠償請求は理由がない。
(イ) これに対し原告は,特許法102条3項は,自ら特許発明実施 をしていない特許権者においても実施料相当額の損害賠償請求を認め ているのであるから,特許権侵害の数量が同条1項の適用を超える部 分についてもまた同様の取扱いを認めるのでなければ整合性に欠ける 旨主張する。
しかしながら,前記(ア)で示した解釈は,自己実施をしていない特 許権者が特許法102条3項に基づいて実施料相当額の損害賠償を請 求することや,自己実施をしている特許権者が特許権侵害行為により 受けた損害について同項による損害額の算定方式のみを選択し,同項 による損害賠償を請求すること,あるいは同条1項による損害賠償を 請求するとともに,同項による損害額算定の対象としていない数量部 分(同項ただし書による控除前の譲渡数量)に限って同条3項による 実施料相当額の損害賠償を請求することを何ら否定するものではな く,原告が主張するような整合性を欠くものということはできない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
イ 平成15年1月24日から同年3月31日までの期間について(ア) 上記期間においては,いまだ原告が原告製品の販売を行っていな いことから,被告製品の販売によって原告が受けた損害として,特許 法102条1項によって算定される逸失利益に係る損害を認めること はできないが,同法102条3項に基づく実施料相当額の損害を認め ることはできるので,以下では,本件各発明の実施に対し受けるべき 金銭の額について検討する。
(イ) 本件各発明についての実施料率 本件各発明について,特許法102条3項の「実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭」(実施料相当額)を算定するに当たっては,原告による本件各発明の実施許諾の実例が存在しないため,現実の実施料率を参考として相当な実施料率を算定することはできない。
しかるところ,原告は,OEM3社について,原告にもたらす経済的利益という意味では実質的には本件特許権の実施許諾先と異ならないなどとして,原告においてOEM3社が製造する原告製品を販売することによって得られる利益額の販売価格に対する割合をもって,上記実施料率算定の一つの指標となり得る旨主張する。
そこで検討するに,OEM3社が原告製品の製造委託先となったのは,原告が,本件特許権の侵害品を自社製品として製造,販売していたOEM3社との間で和解交渉を行った結果,平成18年4月以降は,OEM3社が同一製品を原告からの製造委託により原告製品として製造,販売する旨の合意が成立したという経緯によるものであること(前記(1)イ(ウ)b(b)A),その後のOEM3社製原告製品に係る単位数量当たりの利益額の推移をみると,いずれの年度においても甲社製原告製品に係る当該利益額を大きく下回っていること(別表2-2及び2-3)などの事情にかんがみれば,OEM3社が原告にもたらす経済的利益の実質に関する原告の上記主張にも一応の合理性を認めることができ,原告においてOEM3社が製造する原告製品を販売することによって得られる単位数量当たりの利益額の平均販売単価に対する割合をもって,相当な実施料率算定の指標とすることができるものというべきである。
そこで,平成18年4月1日から平成21年9月30日までのOEM3社製原告製品の平均販売単価及び単位数量当たりの利益の額(別 表2-3)に基づき,年度ごとの上記割合を算出すると,平成18年 度が約●(省略)●%,平成19年度が約●(省略)●%,平成20 年度が約●(省略)●%,平成21年度上半期が約●(省略)●%で あることが認められる。
上記のとおり,OEM3社製原告製品の単位数量当たりの利益額の 平均販売単価に対する割合は,各年度によって異なるものであるとこ ろ,平成15年1月24日から同年3月31日までの期間における被 告製品の販売について妥当すべき本件各発明の実施料率については, 当該期間に最も近接した平成18年度に係る上記割合(約●(省略)● %)を参考とし,加えて,本件各発明の内容,原告における本件各発明 の実施状況,被告による侵害行為の態様等の本件に顕れた諸事情をも 勘案すれば,●(省略)●%と認めるのが相当である。
(ウ) 特許法102条3項損害額(実施料相当額) そこで,前記(イ)の実施料率に基づき,平成15年1月24日から 同年3月31日までの期間における被告製品の販売に係る実施料相当 額の損害額を算定すると,上記期間における被告製品の販売数量●( 省略)●s(別表1のC欄記載の数量)に,坂上鑑定書図表1及び2 から認められる平成15年1月1日から同年3月31日までの期間に おける被告製品の平均販売単価●(省略)●円/s(●(省略)●等 を含む被告製品の販売価額●(省略)●円を出荷販売数量●(省略) ●sで除した値)を乗じ,これに更に実施料率●(省略)●%を乗じ て得られる●(省略)●円となる(ただし,1円未満は切捨て)。
(3) 弁護士費用について 本件事案の性質・内容,本件審理の経過等諸般の事情にかんがみれば, 被告の本件特許権侵害相当因果関係のある弁護士費用相当額は,500 0万円と認めるのが相当である。
(4) 消滅時効について ア 被告は,原告の被告に対する本件特許権侵害不法行為に基づく損害 賠償請求権の消滅時効について,被告が被告製品を販売した時点から順 次時効期間が進行するとし,原告が本件訴えの提起をした平成19年1 月15日の時点において,平成15年1月24日から平成16年1月1 5日までの間における被告製品の販売によって生じた損害に係る損害賠 償請求権については,原告が「損害及び加害者」を知った時から3年が 経過しているから,消滅時効が完成した旨主張する。
(ア) ところで,民法724条は,不法行為による損害賠償請求権の消 滅時効の起算点につき,被害者又はその法定代理人が「損害及び加害 者を知った時」と規定するところ,ここにいう「損害及び加害者を知 った時」とは,被害者等において,「加害者に対する賠償請求が事実 上可能な状況のもとに,その可能な程度にこれを知った時を意味する もの」と解するのが相当である(最高裁判所昭和48年11月16日 第二小法廷判決・民集27巻10号1374頁参照)。そして,これ を,本件のような物の製造,販売による特許権侵害不法行為に基づ く損害賠償請求権についてみると,被害者等に当たる特許権者として は,加害者による当該物の製造,販売という客観的事実を認識するの みならず,当該物が自己の特許権に係る特許発明技術的範囲に属す ることまで認識していなければ,加害者の当該行為が自己の特許権を 侵害する不法行為であることを認識し得ず,ひいては,加害者に対し て損害賠償請求権を行使することはできないものといえるから,特許 権者において,「損害及び加害者を知った」といえるためには,加害 者の製造,販売する物が被害者の特許権に係る特許発明技術的範囲 に属することについてまで認識することが必要であると解される。
以上を前提に検討するに,原告の主張によれば,原告において被告 製品が本件各発明の技術的範囲に属するとの確信を得た時期は,原告 が平成18年7月に被告製品のサンプルを現に入手し,その後これを 分析してその結果を得た時点であるとされ,当該分析結果を記載した 原告の実験担当者作成の「実験報告書」(甲5)にも,これに沿う記載 部分がある。そして,被告製品が,その性格上,市場で一般に流通す る商品ではなく,被告との取引関係のない第三者が必ずしも容易に入 手し得るものとはいえないことからすると,被告製品を入手した時期 に関する原告の上記主張が格別不自然なものということもできない。
他方,上記平成18年7月よりも前に,原告において,被告製品のサ ンプルを入手し,その分析結果を得ていたとの事実を認めるに足りる 証拠はない。
(イ) これに対し,被告は,静岡市廃棄物処理課が平成16年10月1 日から同年12月31日までの契約期間に係る液体キレート(飛灰処 理用重金属固定剤)の購入に当たって作成した入札仕様書(甲7の 1)において,「薬品銘柄」欄に「ニューエポルバ810S」が挙げ られるとともに,購入対象とされる薬剤について,「主成分がピペラ ジン系(有効成分35%以上)のキレート剤」であることが条件の一 つとされていることからすると,同年10月1日以前から,被告がピ ペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤を製造,販売していたことは 市場関係者の間に広く知れ渡っていたものであり,原告においてもこ れを当然認識していたはずである旨主張する。
しかしながら,甲7の1から直接認定し得るのは,静岡市廃棄物処 理課が,上記入札仕様書を作成した時点において,被告が製造する「 ニューエポルバ810S」を「主成分がピペラジン系(有効成分35 %以上)のキレート剤」の一つとして認識していたとの事実にすぎ ず,このことから直ちに被告がピペラジン系の飛灰用重金属固定化処 理剤を製造,販売していることが,本件訴えの提起日(平成19年1 月15日)の3年前の平成16年1月14日の時点において,市場関 係者の間に広く知れ渡っていたとの事実までもが認められるものとは いえず,ひいては,原告がこれを認識していたとの事実も認めること はできない。
このほかに,平成16年10月以前の時期に,被告がピペラジン系 の飛灰用重金属固定化処理剤を製造,販売していることが市場関係者 の間に広く知れ渡っていたとの事実,あるいは,原告がこれを認識し ていたとの事実を認めるに足りる証拠はない。
イ 以上の検討によれば,原告において被告製品が本件各発明の技術的範 囲に属することを認識した時期であるとして主張する平成18年7月よ り前の時点において,原告がそのことを認識していたとの事実を認める ことはできず,そうすると,原告の被告に対する本件特許権侵害の不法 行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効の起算点について,上記平成1 8年7月より前の時点とすることはできない。
したがって,平成15年1月24日から平成16年1月15日までの 間における被告製品の販売によって生じた損害に係る原告の損害賠償請 求権について消滅時効が完成したとの被告の主張は,理由がない。
(5) 原告の損害額(まとめ) 以上によれば,被告による本件特許権侵害により被告が賠償すべき原告 の損害額は,別表6記載のとおりの金額となる。
したがって,原告は,被告に対し,本件特許権侵害不法行為による損 害賠償として総額11億9185万2910円(別表6のE欄記載の金 額)及び内金●(省略)●円(別表6のC欄の平成15年1月24日から 同年3月31日までの期間に係る金額●(省略)●円と平成15年度に係 る金額●(省略)●円の合計額)に対する平成16年4月1日から,内金 ●(省略)●円(別表6のC欄の平成16年度に係る金額)に対する平成 17年4月1日から,内金●(省略)●円(別表6のC欄の平成17年度 に係る金額)に対する平成18年4月1日から,内金●(省略)●円(別 表6のC欄の平成18年度に係る金額)に対する平成19年4月1日か ら,内金●(省略)●円(別表6のC欄の平成19年度に係る金額)に対 する平成20年4月1日から,内金●(省略)●円(別表6のC欄の平成 20年度に係る金額)に対する平成21年4月1日から,内金●(省略) ●円(●(省略)●)に対する平成21年10月1日から各支払済みまで 民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。
なお,弁護士費用相当額の損害に係る遅延損害金の起算日については, 上記のとおり,本件において原告が主張する被告の不法行為(本件各発明 の技術的範囲に属する被告製品を平成15年1月24日から平成21年9 月30日まで継続的に製造,販売した行為)が行われた最終日の翌日であ る平成21年10月1日と認めるのが相当である。
5 結論 以上によれば,原告の被告に対する本訴請求のうち,特許法100条1項に基づき被告製品の生産,使用,譲渡,輸出若しくは輸入,又は譲渡の申出の差止めを求める請求及び同条2項に基づき被告製品の廃棄を求める請求については,いずれも理由があるからこれを認容することとし,特許権侵害不法行為による損害賠償を求める請求については,前記4(5)記載の金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容することとし,その余は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官 大西勝滋
裁判官 石神有吾
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