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関連審決 無効2007-800229
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成19ワ35324特許権侵害差止請求事件 判例 特許
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関連ワード 発明者 /  製造方法 /  技術的範囲 /  実施可能要件 /  技術常識 /  明確性 /  発明の詳細な説明 /  優先権 /  分割出願 /  原出願日 /  数値限定 /  特許発明 /  実施 /  加工 /  構成要件 /  業として /  差止請求(差止) /  侵害 /  損害額 /  実施料 /  不法行為(民法709条) /  同意 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 19年 (ワ) 10364号 特許権侵害差止等請求事件
原告ダイセル化学工業株式会社
同訴訟代理人弁護士吉澤敬夫
同訴訟代理人弁理士岡崎信 太郎
被告日 本化薬株式会社
同訴訟代理人弁護士小池豊
同 櫻井彰人
同訴訟復代理人弁護士萱島博文
同補佐人弁理士小野誠
同 金山賢教
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2010/11/18
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1当事者の求めた裁判1原告(1) 被告は,別紙物件目録記載の製品を製造し,譲渡し,輸出し若しくは輸入し又は譲渡等の申出をしてはならない。
(2) 被告は,別紙物件目録記載の製品を廃棄せよ。
(3) 被告は,原告に対し,27億3253万3250円及びこれに対する平成平成19年9月11日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
2(4) 訴訟費用は,被告の負担とする。
(5) 仮執行宣言2被告(1) 原告の請求をいずれも棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
第2事案の概要1前提事実(証拠等の掲記のない事実は,当事者間に争いがない )。
(1) 当事者原告は,有機,無機化学工業製品,合成樹脂及び高分子化合物,ロケット推薬その他火薬類,自動車エアバッグ用インフレータ等の製造販売を業とする株式会社である。
被告は,火薬類及び発火装置等の応用製品,合成樹脂,その他の高分子有機化合物及びその原料等の製造販売を業とする株式会社である。
(2) 本件特許権ア概要原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,その特許を「本件特許」という )を有している。。
特許番号特許第3476771号発明の名称エアバッグ用ガス発生剤成型体の製造法分割出願日平成12年12月20日分割出願番号特願2000-386678号原出願日平成8年7月31日出願番号特願2000-386678号優先権主張日平成7年10月6日(特願平7-259953号に基づくもの)優先権主張日平成8年7月22日3(特願平8-192294号に基づくもの)登 録 日平成15年9月26日イ特許請求の範囲(ア) 本件特許の請求項1に係る特許権発生当初の特許請求の範囲は,以下のようなものであった。
「 請求項1】アジ化物を除く含窒素有機化合物を含み,70?f/□の 【圧力下における線燃焼速度が5〜12.5?/秒の範囲にあるガス発生剤組成物を単孔円筒状に成型してなるエアバッグ用ガス発生剤成型体であり,単孔円筒状成型体の厚みWが,W=(R-d)/2(Rは外径,dは内径)で求められるもので,該ガス発生剤組成物の70?f/□の圧力下における線燃焼速度r(?/秒)と,単孔円筒状成型体の厚みW(?)との関係が0.005≦W/(2・r)≦0.1で表される範囲にあるエアバッグ用ガス発生剤成型体 」。
(イ) 被告は,平成19年10月19日,特許庁に対し,本件特許について無効審判を請求した(無効2007-800229号 。)これに対し,原告は,特許庁に対し,平成20年1月8日付け訂正請求書(甲22)を提出して,本件特許発明の訂正を求めた。
特許庁は,上記訂正請求書による訂正を認めた上で,本件特許の請求項1に係る発明は平成10年法律第51号による改正前の特許法36条4項(いわゆる実施可能要件 ,同法第36条6項1号(いわゆるサ )ポート要件)及び同法36条6項2号(いわゆる明確性要件)に規定する要件を満たしていないものであり,無効理由を有する旨の平成20年3月5日付け無効理由通知書(甲28)を発した。
(ウ) これに対し,原告は,特許庁に対し,平成20年4月4日付け訂正請求書(甲30)を提出して,本件特許の請求項1に係る発明について訂正を求めた。同訂正に係る訂正後の請求項1の特許請求の範囲は以下の4とおりである(下線部は訂正に係る部分。。)「 請求項1】アジ化物を除く含窒素有機化合物を含み,70?f/□の 【圧力下における線燃焼速度が5〜12.5?/秒の範囲にあるガス発生剤組成物を単孔円筒状に成型してなるエアバッグ用ガス発生剤成型体であり,単孔円筒状成型体の厚みWが,W=(R-d)/2(Rは外径,dは内径)で求められ,厚みWに対する前記単孔円筒状成型体の長さLの比(L/W)が1以上のもので,該ガス発生剤組成物の70?f/□の圧力下における線燃焼速度r(?/秒)と,単孔円筒状成型体の厚みW(?)との関係が0.033≦W/(2・r)≦0.058で表される範囲にあるエアバッグ用ガス発生剤成型体であって,前記ガス発生剤組成物が含窒素有機化合物及び酸化剤に水溶性バインダーと,必要に応じスラグ形成剤を添加してなるエアバッグ用ガス発生剤成型体 」。
(エ) 特許庁は,平成20年10月15日,上記訂正請求書による訂正を認めた上で,無効審判請求不成立の審決(乙75:以下「本件審決」という )をした。。
(オ) 被告は,知的財産高等裁判所に対し,本件審決に係る審決取消訴訟(同庁平成20年(行ケ)第10438号)を提起したが,同裁判所は,平成21年9月29日,請求棄却の判決をした。被告は,同判決につき,最高裁判所に対し上告受理の申立て(同庁平成21年(行ヒ)第470号)をしたが,最高裁判所は,平成22年5月13日,上告審として受理しない旨の決定をした。
これにより,上記平成20年4月4日付け訂正請求書による訂正が確定した(以下,上記訂正後の請求項1に係る発明を「本件特許発明」といい,同訂正後の明細書及び図面を併せて「本件明細書」という。。)(3) 構成要件の分説5本件特許発明は以下のとおり分説される。
Aアジ化物を除く含窒素有機化合物を含み,70?f/□の圧力下における線燃焼速度が5〜12.5?/秒の範囲にあるガス発生剤組成物をB単孔円筒状に成型してなるエアバッグ用ガス発生剤成型体であり,C単孔円筒状成型体の厚みWが,W=(R-d)/2(Rは外径,dは内径)で求められ,厚みWに対する前記単孔円筒状成型体の長さLの比(L/W)が1以上のもので,該ガス発生剤組成物の70?f/□の圧力下における線燃焼速度r(?/秒)と,単孔円筒状成型体の厚みW(?)との関係が0.033≦W/(2・r)≦0.058で表される範囲にあるエアバッグ用ガス発生剤成型体であって,D前記ガス発生剤組成物が含窒素有機化合物及び酸化剤に水溶性バインダーと,必要に応じスラグ形成剤を添加してなるEエアバッグ用ガス発生剤成型体。
(4) 被告の行為被告は,業として,別紙物件目録記載のイ号製品,ロ号製品及びホ号製品。。 (以下,これらを併せて「被告各製品」ともいう )を製造,譲渡している2原告の請求原告は,被告各製品を製造販売等する被告の行為が本件特許権を侵害するとして,特許法100条1項に基づく被告製品の製造販売等の差止め及び同条2項に基づく被告製品の廃棄並びに民法709条不法行為に基づく損害賠償として25億6669万8500円,民法703条に基づく不当利得返還として1億6583万4750円及びこれらそれぞれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成19年9月11日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払いを求めている。
3争点(1) 被告各製品が本件特許発明技術的範囲に属するか (争点1)。
6(2) 損害の額等 (争点2)第3当事者の主張1争点1(被告各製品が本件特許発明技術的範囲に属するか)【原告の主張】(1) イ号製品ア別紙イ号製品構造目録のとおり,イ号製品のガス発生剤は以下の構成を備える。
aアジ化物を除く含窒素有機化合物であり,70?f/□の圧力下における線燃焼速度が約11?/秒であるガス発生剤組成物である。
b単孔円筒状に成型してなるエアバッグ用ガス発生剤成型体である。
該成型体は,その両端を潰してあるが,単孔円筒状であることに変わりはない。
c厚みWに対する前記単孔円筒状成型体の長さLの比(L/W)が1以上であり,線燃焼速度r(?/秒)と,単孔円筒状成形体の厚みW(?)との関係が約0.04であるエアバッグ用ガス発生剤成型体である。
d前記ガス発生剤組成物は,含窒素有機化合物及び酸化剤に水溶性バインダーと,スラグ形成剤を添加している。
eエアバッグ用ガス発生剤成型体である。
イ上記イ号製品の各構成は,本件特許発明構成要件AないしEをそれぞれ充足する。
よって,イ号製品は本件特許発明技術的範囲に属する。
(2) ロ号製品ア別紙ロ号製品構造目録のとおり,ロ号製品のガス発生剤は以下の構成を備える。
aアジ化物を除く含窒素有機化合物であり,70?f/□の圧力下における線燃焼速度が約7?/秒であるガス発生剤組成物である。
7b単孔円筒状に成型してなるエアバッグ用ガス発生剤成型体である。
該成型体は,その両端を潰してあるが,単孔円筒状であることに変わりはない。
c厚みWに対する前記単孔円筒状成型体の長さLの比(L/W)が1以上であり,線燃焼速度r(?/秒)と,単孔円筒状成形体の厚みW(?)との関係が約0.05であるエアバッグ用ガス発生剤成型体である。
d前記ガス発生剤組成物は,含窒素有機化合物及び酸化剤に水溶性バインダーと,スラグ形成剤を添加している。
eエアバッグ用ガス発生剤成型体である。
イ上記ロ号製品の各構成は,本件特許発明構成要件AないしEをそれぞれ充足する。
よって,ロ号製品は本件特許発明技術的範囲に属する。
(3) ホ号製品ア別紙ホ号製品構造目録のとおり,ホ号製品のガス発生剤は以下の構成を備える。
aアジ化物を除く含窒素有機化合物であり,70?f/□の圧力下における線燃焼速度が約11?/秒であるガス発生剤組成物である。
b単孔円筒状に成型してなるエアバッグ用ガス発生剤成型体である。
該成型体は,その両端を潰してあるが,単孔円筒状であることに変わりはない。
c厚みWに対する前記単孔円筒状成型体の長さLの比(L/W)が1以上であり,線燃焼速度r(?/秒)と,単孔円筒状成形体の厚みW(?)との関係が約0.04であるエアバッグ用ガス発生剤成型体である。
d前記ガス発生剤組成物は,含窒素有機化合物及び酸化剤に水溶性バインダーと,スラグ形成剤を添加している。
eエアバッグ用ガス発生剤成型体である。
8イ上記ホ号製品の各構成は,本件特許発明構成要件AないしEをそれぞれ充足する。
よって,ホ号製品は本件特許発明技術的範囲に属する。
(4) 被告の主張についてア被告は,被告各製品のガス発生剤成型体の形状が「単孔円筒状」ではないと主張するが,被告主張のように「単孔」を「一つのつきぬけた穴」と解する理由はない。被告各製品のガス発生剤成型体は,もともと両端が開いたマカロニ状のものの両端を潰した形状にすぎず,マカロニ形状を保ったままその両端部が僅かに潰れているだけで,全体が全く別の形状になっている訳ではなく,その長さも,直径も,またその厚みも把握することはできる。
したがって,被告各製品のガス発生剤成型体においても,本件特許発明構成要件Cで規定するL/WやW/(2・r)に相当する数値をいずれも把握することができるから,同発明の構成要件Bで規定する「単孔円筒状」を充足する。
イ被告は,被告各製品のガス発生剤成型体が,両端を潰した形状であるから外側から燃焼する旨主張するが,機械的に潰して変形させてあるにすぎないため,完全には塞がれておらず,開いたままの状態のものも多く含まれている(甲53 。また,外見上は完全に塞いであるように見えるガス )発生剤成型体についても,機械的に潰してあるだけなので,潰された合せ面において実際には微小な隙間(通孔)が認められる。
このため,点火器の作動によって生じる高温・高圧の条件下では,火焔は容易にこの通孔を経てガス発生剤成型体の内部に達し,ガス発生剤成型体の外面と内面をほぼ同時に着火させているのであり,両端を潰したことによっても依然として単孔円筒状であって,その燃焼速度も単孔円筒状のものと変わらない。なお,両端を潰したガス発生剤成型体に,仮に被告が9主張するような燃焼完了時間が遅いという効果があるとしても,かかる効果はエアバッグ展開の遅延を招来するものであり,エアバッグによる救命効果を損なうという技術的欠陥を意味するものに他ならないから,負の効果でしかない。
ウまた,被告は,中空部分が燃え出す際の厚み(W )が,燃える前の厚’み(W)とは全く異なってしまうから,両端を潰したガス発生剤成型体は「W/(2・r)」を把握できないと主張するが,被告各製品のガス発生剤成型体は,実際には,両端を潰していないガス発生剤成型体と同様,内面と外面が最初から燃焼を開始しているのであるから 「W/(2・r)」を,把握することができる。
【被告の主張】(1) 構成要件Aの充足性についてア本件特許発明構成要件Aは線燃焼速度を規定するが,ガス発生剤組成物の線燃焼速度の測定法には統一された基準がなく,その値はガス発生剤組成物を成型した測定試料の密度に影響されるから測定試料の成型方法が重要であるところ,本件明細書には,測定試料の成型方法が記載されていない。
したがって,本件明細書の記載では,線燃焼速度を測定することができないのであるから,被告各製品のガス発生剤成型体が構成要件Aを充足するとはいえない。
構成要件Aにおける「線燃焼速度」の測定方法について,本件審決は,「装置の内圧が上昇することを防止した装置内で試料の紐状体(ストランド)を一方から燃焼させ,その途中の既知の長さ部分の燃焼時間に基づき線燃焼速度を算出するストランド法等が周知慣用のものであり「当該」,測定方法においては,各剤の粒子径が変化しない程度で密度が十分に高くなる程度に圧縮成型した紐状体を使用し,上記ア.で説示した変動要因10(可燃物の粒子径及び試料の密度)を排除することも当業者の技術常識の範疇の事項」として,特許法36条4項及び6項違反がないと認定するが,これを前提とするならば,原告は,本件審決が認定した測定方法によりイ号製品に使用されているガス発生剤組成物の線燃焼速度を測定していないことになる。
すなわち,原告は,甲第6号証において被告各製品の線燃焼速度を測定しているが,同証拠で行われている測定では,測定中に圧力変化がなかったことを示す具体的実験データがない点で 「70?f/□なる定圧下にお ,いて測定した線燃焼速度」か否か不明である。しかも,甲第6号証は,「粒子径が変化しない程度で密度が十分に高くなる程度に圧縮成型した紐状体を使用し」た実験とは到底いえず(乙78 ,ストランド密度を甲第 )6号証の圧縮圧力より高くすると線燃焼速度が小さくなることも明らかである(乙79)から,甲第6号証が求めたイ号製品のガス発生剤組成物の線燃焼速度が構成要件Aにおける線燃焼速度とは到底いえない。
したがって,原告は,被告各製品について「各剤の粒子径が変化しない程度で密度が十分に高くなる程度に圧縮成型した紐状体を使用した」上で,「70?f/□なる定圧下において測定した線燃焼速度」を立証しておらず,被告各製品はいずれも構成要件Aを充足しない。
(2) 構成要件Bの充足性についてア構成要件Bにおける「単孔円筒状」の意義については 「孔」が「つき,ぬけた穴」を意味することや,本件明細書の段落【0037】及び【0038】の記載に照らすと,本件明細書の【図1】に示されるマカロニ形状を指すものと考えられる。このような形状だからこそ,構成要件Cにおける数値限定の基礎となる外径(R ,内径(d ,厚み(W)などの数値 ))も把握することができる。
さらに,構成要件Cにおける「W/(2・r)」はガス発生剤の燃焼時間11を意味するところ,両端が潰されて孔が存在しない中空成型体の場合には,最初に外側のみが燃え内側は燃えず,その後両端が燃え尽きて内側の中空部分が燃え出すが,その時の厚み(W )は燃える前の厚み(W)とは全 ’く異なってしまっており,これではW/(2・r)の値を規定する意味が全くなくなってしまう。本件特許発明が燃焼前の厚み(W)を用いてW/(2・r)の値を規定しているのは,燃焼の最初から内側を含む成型体全面が燃焼を開始する成型体を対象としているからであり,正に,燃焼の最初の厚み(W)に意味がある公報図1の如き単孔円筒状の成型体を対象としているのである。
イこれに対し,イ号製品のガス発生剤成型体の形状は,別紙イ号製品説明書(被告)の図イ-2・3に示されるように,ロ号製品のガス発生剤成型体の形状は,別紙ロ号製品説明書(被告)の図ロ-2・3に示されるように,ホ号製品のガス発生剤成型体の形状は,別紙ホ号製品説明書(被告)の図ホ-2・3に示されるように,いずれも両端が潰された中空体であって,単孔円筒状ではない。
原告は,被告各製品のガス発生剤成型体の内に,両端が閉じられておらず開いているものや,外見上閉じているが微少な隙間(通孔)があると反論するが,前者については,製造上の誤差や運搬上で破損されたものと推測され,後者については,燃焼の際,成型体の外面と同時に内面が燃焼することはない。
ウしたがって,被告各製品のガス発生剤成型体はいずれも構成要件Bを充足しない。
なお,被告各製品のガス発生剤成型体は,両端が潰された中空体であるから,本件特許発明のガス発生剤成型体とは異なり,外面のみから燃焼が始まる。これにより,本件特許発明のガス発生剤成型体では最高圧力までの到達時間が短くエアバッグ作動時の乗員加害性及びガス発生器の破損の12可能性が高くなるのに対し,被告各製品のガス発生剤成型体は,燃焼完了時間が遅く,乗員加害性及びガス発生器の破損の可能性が殆どないという優れた効果を奏するのである。
(3) 構成要件Cの充足性について構成要件Cは「単孔円筒状成型体の厚みWが,W=(R-d)/2(Rは外径,dは内径)で求められ」るものであること 「厚みWに対する前記単孔 ,円筒状成型体の長さLの比(L/W)が1以上のもので 」あること 「線燃,,焼速度r(?/秒)と,単孔円筒状成型体の厚みW(?)との関係が0.033≦W/(2・r)≦0.058で表される範囲にある」ことが必須とされている。
しかし,被告各製品のガス発生剤成型体は,前記のとおりいずれも単孔円筒状成型体ではなく,構成要件CでいうW,R,dの数値を把握できないから,構成要件Cを充足しない。
(4) 以上より,被告各製品のガス発生剤成型体は,本件特許発明構成要件AないしCを充足しないため,その技術的範囲に属さない。
2争点2(損害の額等)について【原告の主張】(1) 不法行為に基づく損害賠償請求被告は,平成16年9月1日から現在までに,運転席用エアバッグのインフレータであるホ号製品を少なくとも202万3300個,助手席用エアバッグのインフレータであるイ号製品及びロ号製品を少なくとも151万7000個販売した。
この期間におけるホ号製品の平均販売単価は1390円程度であり,イ号製品及びロ号製品の平均販売単価は1530円程度であり,その利益率はいずれも約50%である。
したがって,特許法102条2項により,原告がこの期間に被告の行為に13よって被った損害額は,以下の計算式のとおり,25億6669万8500円となる。
〔計算式〕2,023,300×1,390×0.5+1,517,000×1,530×0.5=2,566,698,500(2) 不当利得返還請求被告は,本件特許登録日から平成16年8月末までに,ホ号製品を少なくとも121万4900個,イ号製品及びロ号製品を少なくとも9万個販売した。
この期間におけるホ号製品の平均販売単価は1700円程度であり,イ号製品及びロ号製品の平均販売単価は1620円程度であり,本件特許の実施料率は7.5%を下らない。
したがって,原告は被告に対し不当利得返還請求権に基づき,1億6583万4750円の支払いを求める。
〔計算式〕(1,214,900×1,700+90,000×1,620)×0.075=165,834,750(3) 合計以上により,原告は被告に対し,不法行為に基づく損害賠償請求権及び不当利得返還請求権に基づき,合計27億3253万3250円の支払を求める。
【被告の主張】いずれも否認ないし争う。
第4当裁判所の判断1争点1(被告製品が本件特許発明技術的範囲に属するか)について本件において,被告は,本件特許発明構成要件AないしCの各充足性について争っているところ,本件事案にかんがみ,以下では,構成要件Bの充足性,すなわち,被告各製品のガス発生剤成型体の形状が構成要件Bに規定する「単孔円筒状」に該当するかについて検討することとする。
14(1) 「単孔円筒状」の意義ア特許請求の範囲の記載構成要件Bに係る特許請求の範囲の記載は 「単孔円筒状に成型してな ,るエアバッグ用ガス発生剤成型体であり」というものである。
また,構成要件Cでは,単孔円筒状の形状につき 「厚みWが,W=,(R-d)/2(Rは外径,dは内径)で求められ,厚みWに対する前記単孔円筒状成型体の長さLの比(L/W)が1以上のもので,該ガス発生剤組成物の70?f/□の圧力下における線燃焼速度r(?/秒)と,単孔円筒状成型体の厚みW(?)との関係が0.033≦W/(2・r)≦0.058で表される範囲にある」と定め,成型体の厚みを外径と内径から求めた上で,成型体の長さ及び線燃焼速度との関係において,一定の数値範囲にあることを定めている。
イ本件明細書の記載証拠(甲3の2,30)によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,以下の記載があることが認められる。
(ア) 発明の属する技術分野【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,エアバッグシステムを膨張させるために燃焼してガス成分を供給するガス発生剤成型体及びその製造方法に関する。
更に詳しくは,本発明は,自動車,航空機等に搭載される人体保護のために供せられるエアバッグシステムにおいて作動ガスとなるガス発生剤の新規な組成物及びその剤形に関するものである。
【0003】現在,エアバッグシステムに一般的に用いられているガス発生基剤としては,無機アジド系化合物,特にアジ化ナトリウムがあげられる。アジ化ナトリウムは燃焼性という点では優れているが,ガス発生時に副生するアルカリ成分は毒性を示し,搭乗者に対する安全性という点で,上記の要求15を満たしていない。また,それ自体も毒性を示すことから,廃棄した場合の環境に与える影響も懸念される。
【0004】これらの欠点を補うため,アジ化ナトリウム系に替わるいわゆる非アジド系ガス発生剤も幾つか開発されてきている。例えば,特開平3-208878にはテトラゾール,トリアゾール又はこれらの金属塩とアルカリ金属硝酸塩等の酸素含有酸化剤を主成分とした組成物が開示されている。
(イ) 発明が解決しようとする課題【0006】【発明が解決しようとする課題】ところが,含窒素有機化合物は一般的に燃焼において,化学当量分,すなわち化合物分子中の炭素,水素その他の元素の燃焼に必要な量の酸素を発生させるだけの酸化剤を用いる際,アジド系化合物に比べて発熱量が大きいという欠点を有する。エアバッグシステムとしては,ガス発生剤の性能だけでなく,そのシステム自体が通常の運転に際して邪魔にならない程度の大きさであることが必須であるが,ガス発生剤の燃焼時の発熱量が大きいと,ガス発生器を設計する場合除熱のための付加的な部品を必要とし,ガス発生器自体の小型化が不可能である。酸化剤の種類を選択することにより発熱量を低下させることも可能であるが,これに対応して線燃焼速度も低下し,結局ガス発生性能が低下することになる。
【0009】テトラゾール誘導体をはじめ,各種含窒素有機化合物を用いた非アジド系ガス発生剤組成物が従来から検討されてきた。組成物の線燃焼速度は組み合わされる酸化剤の種類によって異なるが,一般的に30?/秒以下の線燃焼速度を有する組成物がほとんどである。
【0010】線燃焼速度は,所望の性能を満足させるためのガス発生剤組成物の形状に影響を与える。ガス発生剤組成物の1個の形状において,肉厚部分の厚みの最も小さい厚み距離とそのガス発生剤組成物の線燃焼速度とによってガス発生剤組成物の燃焼時間が決定される。インフレータシステムに要求16されるバッグ展開時間はおおよそ40〜60ミリ秒にある。
【0011】多用されているペレット形状及びディスク形状のガス発生剤組成物をこの時間内に燃焼完了させるためには,例えば厚み2?で線燃焼速度20?/秒の時100m秒の時間を必要とし,所望のインフレータ性能を得ることができない。従って,線燃焼速度が20?/秒前後のガス発生剤組成物では厚み1?前後でなければ性能を満足できない。線燃焼速度が10?/秒。 前後及びそれ以下の場合,より肉厚部の厚みが小さいことが必須条件となる【0013】線燃焼速度が10?/秒前後及びそれ以下で,肉厚部の厚みを多用されているペレット形状及びディスク形状で達成するためには0.5?前後及びそれ以下の厚みが必須となるが,長期間の自動車の振動に耐え且つ工業的に安定した状態でペレット形状及びディスク形状にガス発生剤組成物を製造することは事実上不可能に近い。
(ウ) 課題を解決する手段【0014】【課題を解決するための手段】本発明者らは上記した問題点を解決すべく鋭意検討を重ねた結果,線燃焼速度の小さいガス発生剤組成物を成型することにより,所定の時間内に燃焼させうること,その性能はエアバッグ用ガス発生剤として十分適用しうることを見出し,本発明に至った。
【0015】すなわち本発明は,ガス発生剤組成物を単孔円筒状に成型してなり,該ガス発生剤組成物の70?f/□の圧力下における線燃焼速度r(mm/秒)と厚みW(mm)との関係が0.033≦W/(2・r)≦0.058で表される範囲にあるエアバッグ用ガス発生剤成型体,好ましくは70?f/□の圧力下における線燃焼速度が1乃至12.5mm/秒,更に好ましくは5乃至12.5mm/秒の範囲にあるガス発生剤組成物を単孔円筒状に成型してなるエアバッグ用ガス発生剤成型体を提供するものである。尚,本明細書中で単に線燃焼速度と記載した場合,70?f/□の圧力下におけるものを意味する。
17【0035】一般に火薬組成物をバインダーを用いて特定の厚みに成型するためには従来より知られる方法,例えば打錠成型,押出成型等を適用することができるが,本発明のようにエアバッグ用ガス発生剤として使用する場合には,線燃焼速度の点から,比較的薄い成型体にすることが好ましく,かつ必要な強度を持たせるためには,成型体を単孔円筒状に成型し,この成型を圧伸成型法を適用して行うことが好ましい。
【0036】本発明においては上記のガス発生剤組成物を乾式混合した後,水を加え十分均一になるまでスラリー混合し,金型を備えた圧伸成型機を用いて成型し,適当な長さに裁断し,乾燥することにより,エアバッグシステムへの適用が十分可能な性能のガス発生剤成型体が得られた。
【0037】圧伸成型の後に適当な長さに裁断することにより,ガス発生剤を図1に示すような単孔円筒状に加工できる。更に圧伸成型法では,金型を用いて外径を一定に保ち内径を変化させることにより厚さを調整することが可能である。
【0038】このような形状にすることにより,発熱が抑えられかつ円筒の外面及び内面からの燃焼が可能であり,エアバッグに適用するに足る優れた線燃焼速度が得られる。単孔円筒状成型体の外径(R),内径(d)及び長さ(L)はガス発生器への応用が可能な範囲で適宜設定できるが,実用性や燃焼速度を考慮すると,外径が6?以下,厚みW=(R-d)/2に対する長さの比(L/W)が1以上であることが望ましい。従来このような形状を有する成型体は発射薬,推進薬の分野では知られているが,エアバッグ用ガス発生剤に応用した例はない。本発明の成型体を用いた場合,線燃焼速度が小さい場合でも所望の燃焼時間内に燃焼し,且つスラグ形成剤の併用により,除熱のための付加的な部品を必要とせず,ガス発生器自体の小型化が可能である。
(エ) 図面【図面の簡単な説明】18【図1】 本発明のエアバッグ用ガス発生剤成型体の外観を表し,Lは長さ,Rは外径を,dは内径を意味する。
【図1】(2) 検討アまず,構成要件Bにおける「単孔円筒状」の内 「単孔」の語義につい ,て検討するに,広辞苑〔第3版 (乙83)によると 「孔 (こう)とは, 〕,」。, 「?つきぬけた穴。?中国の儒祖孔子を指していう 」と記載されており新明解国語辞典〔第4版 (乙115)には 「あな【穴 」として 「□ 〕,】,ある一点を中心として,へこんだ所。穴ぼこ。□丸く・裏(奥)までずっとくりぬいた所や部分。表記□の小さい物は 『孔』とも書く 」などと記 ,。
載されていることが認められる。
そうすると 「孔」の通常の語義としては 「貫通した穴」や「丸く, , ,一定程度の深さをもった穴」と一応解することができ,これによると,「単孔」とは,そのような孔を1つ有する形状を指すものと解される。
イこれに対し,原告は,例えば,JIS工業用語大辞典〔第4版 (甲6〕2)には,単孔ノズル」が「単口ノズル」と同義で使用されていることなどを指摘し,必ずしも「孔」が両端まで貫通している穴を指すとは限らない旨主張する。
しかしながら,本件特許発明構成要件Cでは,単孔円筒状成型体の厚みWを,その外径R及び内径dから求めた上,同成型体の長さLとの比19(L/W)が1以上であること,ガス発生剤組成物の70?f/□の圧力下における線燃焼速度rと,単孔円筒状成型体の厚みWとの関係が0.033≦W/(2・r)≦0.058で表される範囲にあることが定められているのであるから,厚み(W)を求めるためには,外径(R)と内径(d)の値が必須となる。しかし,原告が主張するように,孔が貫通したものだけでなく,他端が閉じているものも含むと解すると,閉じている部分について外径Rと内径dをどのように求めるのかという点に疑問が生じるにもかかわらず,本件明細書にはその点についての言及は認められない。
また,上記本件明細書の記載によると,本件特許発明の課題は,人体に無害であるが燃焼性に劣り,また発熱量の多い非アジド系ガス発生剤につき,発熱量を抑えるとともに,所定の時間内に燃焼させるためにその厚さを薄くする一方,長時間の自動車の振動に耐え,かつ工業的に安定した状態で製造することができるガス発生剤成型体の剤形を提供することにあると解される。そして,本件特許発明では,その課題解決手段として 「単,孔円筒状」という形状を一般的に開示した上,その厚み(W)を,長さ(L)や線燃焼速度(r)との関係において一定の範囲にすることにより,発熱を抑え,かつ円筒の外面及び内面からの燃焼を可能とし,エアバッグに適用するに足る優れた燃焼速度が得られるとしている(段落【0038。】)そして,そのような形状として,上記図1のような形状が開示されている。
そうすると,本件明細書に接した当業者は,特許請求の範囲における「単孔円筒状」とは,外面及び内面の両方から燃焼が進む図1のような形状を指すと解するものと考えられる。そして,このような形状であるからこそ,当業者は,構成要件Cにおける「W/(2・r)」の数値限定についても,技術的な意味を理解することができる。すなわち 「W/(2・,r)」は,単孔円筒状に成型された成型体の厚み(W)を線燃焼速度(r)の2倍で除しているのであるから,かかる値は,成型体の外面及び内面の両20方から燃焼することを前提としたものであり,その上で,ガス発生剤成型体が燃焼しきる時間を示すものと理解できる。仮に外面と内面が同時に着火しないような形状が含まれるとすると 「W/(2・r)」は,ガス発生 ,剤成型体が燃焼しきる時間を示すものではなく,数値限定した技術的意味が失われてしまうことになる。
ウこの点,原告は,孔が貫通していなくても,端部に狭い開口を有する場合には,ガス発生器の作動時に発生する高温・高圧の熱ガスが,その端部から単孔内部に容易に侵入し,その内面を外面とほぼ同時に着火せしめる結果をもたらすと主張し,専門家(独立行政法人宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所 宇宙輸送工学研究系 P教授)の意見書(甲74)を提出する。
たしかに,同意見書では「中空のガス発生剤に亀裂や隙間あるいは微孔等が存在する場合においては,外部の熱ガスが加圧状態で内部に到達すると,容易に内面側が発火し,外面だけでなく,ほぼ同時に内面側の燃焼に移行することは火薬類では良く見られる現象と言えます」と述べられている。
しかし,同意見書の上記記載によれば,被告が指摘するように 「熱ガ,スが内部に到達すると内面が燃焼する」という当たり前のことを述べてい。, る(したがって,貫通の要否について何も述べていない )とも読める上仮にかかる記載を,亀裂や隙間あるいは微孔があっても,外部の熱ガスが容易に内部に到達することを意味するものとしても,本件明細書の段落【0038】で記載されているように 「従来このような形状を有する成 ,型体は発射薬,推進薬の分野では知られているが,エアバッグ用ガス発生剤に応用した例はない」というのであるから,たとえ発射薬,推進薬の分野では自明の事柄であっても,本件特許発明の属する分野である自動車等のエアバッグに係る当業者にとって自明な事項であったとまではいえず,21「単孔円筒状」が貫通しない孔も含むという解釈を導くものではない。
エ以上のように 「単孔円筒状」の語義及び構成要件Cの数値限定の趣旨 ,からすれば 「単孔円筒状」とは,貫通した孔を有する形状と解するのが ,自然であること,本件明細書において外側と内側から燃焼する形状として開示されているものは図1に示すような形状のみであり,他の形状について何らの開示や示唆もないこと,図1に示すような形状のほかに,本件特許発明の作用効果を奏する形状が当業者において自明であったとも認めがたいことに照らすと,構成要件Bにおける「単孔円筒状」とは,1つの貫通した孔を有する円筒状の形状,すなわち図1のような形状を指すものと解するのが相当である。
(3) 被告各製品におけるガス発生剤成型体との対比ア本件において原告が主張する被告各製品のガス発生剤成型体の形状(別紙イ号製品構造目録ないしホ号製品構造目録各記載のガス発生剤成型体の図)と,被告が主張する被告各製品のガス発生剤成型体の形状(別紙イ号製品説明書(被告)の図イ-2・イ-3,別紙ロ号製品説明書(被告)の図ロ-2・ロ-3,別紙ホ号製品説明書(被告)の図ホ-2・ホ-3)とを比べると,原告の主張する図面には,端部付近に横方向の線分が記載されているのに対し,被告の主張する図面(正面図,B-B断面図)には,そのような線分が記載されていない点を除いて,ほぼ同一の形状,すなわち,マカロニ状の円筒形状の両端を径方向の両側から押し潰したような形状(以下「本件形状」という )であり,被告各製品のガス発生剤成型体 。
の形状に争いはない(なお,原告は,被告各製品には,本件形状のガス発生剤成型体の他に,目視で孔が確認できるものも含まれていると主張するが,これについては後に検討する。そして,証拠(甲53)によれば, 。)被告各製品のガス発生剤成型体が本件形状である以上,目視で孔を確認することはできない。
22また,証拠(乙109)によれば,被告各製品のガス発生剤成型体は,湿潤したガス発生剤を押出成型機で円筒ひも状に押出した後,所定の間隔で凸歯が設けられた2つの回転ドラムの間(凸歯の隙間は約0.5?)を通すことにより,連続して両側から押し潰しながら切断し,乾燥して製造していると認められ,このような過程で製造された被告各製品のガス発生剤成型体は,通常は,その両端が押し潰されており,孔は開いていないものと考えられる。
このように,本件形状のガス発生剤成型体には,そもそも孔が開いていないのであるから,構成要件Bにおける単孔円筒状に該当するとは認められない。
イこれに対し,原告は,被告各製品のガス発生剤成型体の両端には微細な孔が存する旨主張し(原告主張のガス発生剤成型体の図面の両端に記載されている線分はこれを表す,かかる孔が存在することにより,これら 。)ガス発生剤成型体は内側からも同時に燃焼するという本件特許発明と同様の作用効果を奏する旨主張する。
たしかに,証拠(甲53,69,76)によれば,被告各製品における本件形状のガス発生剤成型体の両端には,微細な隙間のあるものが存するとは認められる。しかし,証拠(乙111)によれば,上記甲第53号証で観察された隙間の間隔は,イ号製品のガス発生剤成型体(3個のサンプル)につき15μm,ホ号製品のガス発生剤成型体(3個のサンプル)につき最大23μmにすぎないことが認められ,かかる目視できないわずかな隙間をもって「孔」と評価するのは無理があるといわざるを得ない。
また,作用効果の点に関し,原告は,ロ号製品のガス発生剤成型体を実際に燃焼させた実験報告書(甲70,77)を提出し,被告各製品のガス発生剤成型体も,外側と内側から燃焼が開始する旨主張する。
しかし,被告は,甲第70号証の実験報告書について 「高温かつ高圧,23の熱ガス」が発生してガス発生剤成型体に着火したというのであれば,先ずは当該熱ガスにより瞬時かつ一斉に該ガス発生剤成型体の外面が,その全面にわたって着火,燃焼しなければならないはずであるのに,同報告書の添付資料2の「4.単孔内部の燃焼」の写真では,その外面が全くといってよいほど燃焼していないのであり,同実験は,単にガス発生剤成型体の端部の一端に火を点けた後の燃焼経過はどうなるのかを示すに過ぎないと指摘している。また,被告は,甲第77号証の実験報告書についても,同報告書添付資料2の映像3につき外面の燃焼は認められず,また燃焼の部位の周囲が燃焼していないという極めて異常な燃焼状態である等と指摘している。
上記各実験報告書に対する被告の指摘は,これ自体にわかに排斥できるものではない上,仮に,同各報告書で結論づけられているように,本件形状の被告各製品のガス発生剤成型体も,内側から同時に燃焼することがあり得るとしても,そのような事柄は,本件明細書に何らの開示も示唆もないし,自動車等のエアバッグに係る当業者にとって自明であったともいえず,本件特許発明技術的範囲を構成するものではない。
ウそうすると,目視できる孔すら有しない本件形状のガス発生剤成型体が「単孔円筒状」に該当するとの原告の主張には理由がない。
(4) 本件形状以外のガス発生剤成型体についてア原告は,被告各製品には,本件形状のガス発生剤成型体の他に,目視で孔が確認できるガス発生剤成型体も含まれており,少なくとも,これらについては「単孔円筒状」に該当する旨主張する。
イたしかに,証拠(甲53,67,68,乙109)によれば,被告各製品には,上記で検討した目視で孔の確認できない本件形状のガス発生剤成型体の他に,目視でも孔又は隙間を確認することができるガス発生剤成型体が存することが認められる。
24しかしながら,前記(2)で判示したとおり,構成要件Bにおける「単孔円筒状」とは,1つの貫通した孔を有する円筒状の形状,すなわち本件明細書の図1のような形状を指すものと解すべきところ,原告が提出する上掲各証拠によっても,その両端に孔が開いているのかどうかについては明確ではなく,本件明細書の図1と同じような形状であると認められるようなものは見あたらない(被告は,イ号製品には0.2%の割合で両端に隙間のあるガス発生剤成型体が確認できたことを認めているが,その具体的形状は明らかでなく,本件特許発明における「単孔円筒状」に該当するかどうかは不明である。。)そうすると,仮に被告各製品に孔の開いたガス発生剤成型体がごく一部混入していたとしても,その形状が構成要件Bの「単孔円筒状」に該当すると認めることはできない。
ウまた,前記(3)で認定した被告のガス発生剤成型体の製造方法からすると,被告各製品に孔の開いたガス発生剤成型体がごく一部混入していたとしても,どの時点で孔が形成されたかは不明であり(それらは成型不良又は充填時若しくは輸送時における割れがその原因とも考えられるが,出荷後の輸送等による割れの可能性も否定できない,本件特許発明におけ 。)る「単孔円筒状」のガス発生剤成型体が製造されたとまでは認められない。
したがって,仮に,被告各製品に混入した孔の開いたガス発生剤の一部が,構成要件Bの「単孔円筒状」といえる形状のものであったとしても,それらが,被告による製造,販売時に発生したものと認めることはできず,被告に本件特許権の侵害行為があったとまでは認められない。
(5) 以上によると,その余の構成要件について検討するまでもなく,被告各製品の製造販売等する被告の行為が本件特許権を侵害するとは認められない。
2結論よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決25する。