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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成13ワ1105特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成14ワ5107特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成12ワ12728特許権侵害差止請求事件 判例 特許
平成16ワ25576特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成14ワ12410損害賠償請求事件 判例 特許
関連ワード 創作性(創作) /  頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  発明特定事項 /  周知技術 /  技術的範囲 /  発明の詳細な説明 /  実質的に同一 /  均等 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  権原 /  構成要件 /  業として /  差止請求(差止) /  侵害 /  損害額 /  逸失利益 /  販売数量(販売数) /  単位数量 /  不法行為(民法709条) /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 21年 (ワ) 31831号 特許権侵害差止等請求事件
群馬県太田市<以下略>
原告株 式会社ヒロ・プランズ
同 訴訟代理人弁護 士榊原輝西島和
同 補佐人弁理 士首藤俊一岐阜県各務原市<以下略>
被告明光ホームテック株式会社
同 訴訟代理人弁護 士廣瀬英二小島浩一 加藤千鶴
同 補佐人弁理 士樋口武尚柘植千咲
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2010/10/01
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求1被告は,別紙物件目録記載の物件を生産し,譲渡し,又は譲渡の申出(譲渡のための展示を含む)をしてはならない。
2被告は,その占有する前項記載の物件を廃棄せよ。
3被告は,原告に対し,480万円及びこれに対する平成21年9月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2第2事案の概要1本件は座椅子に関する後記2(2)の特許以下本件特許といいその特 , (「」,許権を 本件特許権 というの特許権者である原告が 被告の製造販売する 「」。) ,別紙物件目録記載の物件 以下 被告製品 というは本件特許権を侵害する (「」。)と主張して,被告に対し,?特許法100条に基づき,被告製品の製造販売等の差止め及び被告製品の廃棄を求めるとともに,?不法行為による損害賠償請求権に基づき 逸失利益480万円及びこれに対する平成21年9月19日 訴 , (状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2前提事実(証拠等を掲げたもののほかは,当事者間に争いがない )。
(1)当事者ア原告は,寝具・家具及びその資材の製造販売等を目的とする株式会社である (弁論の全趣旨)。
イ被告は,インテリア家具の製造販売,各種物品の輸出入及び販売等を目的とする株式会社である。
(2)原告の有する特許権原告は,次の特許(本件特許)の特許権者である(以下,本件特許の特許請求の範囲【請求項1】記載の発明を「本件発明」という。また,本件特許権に係る特許請求の範囲,明細書及び図面を「本件明細書」といい,その特許公報〔甲1〕を別紙として添付する。。)ア特許番号特許第4132056号イ登録日平成20年6月6日ウ出願日平成16年6月17日エ発明の名称座椅子オ特許請求の範囲の【請求項1】「座部と前記座部に対して傾倒自在な背部とを備えた座椅子において,前3記座部は,座面中央に座面側に向かって次第に拡大する形状の円穴を有すると共に,当該座部の垂直断面において上面側表層カバー部材の直下に円穴の内周面側から座部の外周面側にかけてその長さ方向の中央が高く全体として弧状になるように配設された低反発クッション部材を有することを特徴とする座椅子 」。
(3)構成要件の分説本件発明は,次のように分説される。
A座部と前記座部に対して傾倒自在な背部とを備えた座椅子において,B前記座部は,座面中央に座面側に向かって次第に拡大する形状の円穴を有するとともに,C当該座部の垂直断面において上面側表層カバー部材の直下に円穴の内周面側から座部の外周面側にかけてその長さ方向の中央が高く全体として弧状になるように配設された低反発クッション部材Dを有することを特徴とする座椅子。
(以下,それぞれ「構成要件A」〜「構成要件D」と表記する )。
(4)被告の行為被告は,業として,被告製品を製造販売している。被告製品の形態は,別紙添付図1〜6に図示するとおりである(各図面中の番号10は座部,同20は背もたれ,同30はフレーム,同40は芯材,同50は低反発材,同60は低弾性材,同70は被覆材,同80は中空孔,同101〜104は空気層を指す(弁論の全趣旨)。)。
(5)構成要件の充足被告製品は,座部と同座部に対して傾倒自在な背部(背もたれ)とを備えた座椅子であり,本件発明の構成要件A,Dを充足することについては,当事者間に争いがない。
3争点4(1)技術的範囲の属否(構成要件B,Cの充足)(2)無効事由の有無(特許法104条の3の抗弁の成否)(3)損害額4争点に関する当事者の主張(1)争点(1)(技術的範囲の属否)について[原告の主張]ア構成要件Bの充足性(ア)被告製品の座部10は,座面中央に座面側に向かって内径が次第に拡大する形状の中空孔80を有する。
(イ)被告製品の中空孔80は,本件発明の「円穴」と実質的に同一である(当該中空孔80は,座部の中央に位置していないとはいえない範ちゅうに位置し,しかも,本件発明の作用効果-臀部の前後左右方向の位置ずれ防止等-が生じる位置にある から 上記(ア)の被告製品の構成は本 ),件発明の構成要件Bを充足する。
構成要件Cの充足性(ア)被告製品は,座部10の垂直断面において被覆材70の直下に中空孔80の内周面側から座部10の外周面側にかけてその長さ方向の中央が高く全体として弧状となるように配設された低反発材50(ウレタンフォーム)を有する。
(イ)被告製品の中空孔80は本件発明の「円穴」と,低反発部材50(ウレタンフォーム)は本件発明の「低反発クッション部材」と各々実質的に同一であるから 上記(ア)の被告製品の構成は本件発明の構成要件Cを ,充足する。
[被告の主張]ア構成要件Bの充足性(ア)原告の主張は争う。
5(イ)被告製品の「中空孔80」は,人が背もたれ20にもたれかけて座部10に着座するから,その重心位置を受けるために背部の取付位置と座部との距離関係で「座部10を上から見たとき,その面の前後の略2対1の比率位置」に設定されている。
これに対し,本件発明の構成要件Bの「・・・,座面中央に・・・円穴を有する」は,本件明細書の段落【0005】に「座部の座面に臀部が落ち込む円穴を設けてあるので 座面に対する臀部の前後左右方向 こ , (こで前方とは足先方向をいう の位置連れ 判決注: 位置ずれ の誤記 )(「」と認めるを防止することができる・・・ とある一方で ほかに背部 。) 」,の傾斜角度とともに円穴の位置が決定されるとの記載が全くないことからすると,座部のみを基準に決定しており,背部との相対関係から決定されるものではない。
してみれば中空孔80の略2対1の比率位置は本件発明の ,「」 「」,構成要件Bの「座面中央」とは,単純な寸法の相違に止まらず,技術背景を全く異にするものである。
したがって,被告製品は,本件発明の構成要件Bを有していない。
(ウ)また,構成要件Bの「座面側に向かって次第に拡大する形状の円穴」は,円穴に臀部が落ち込んだときでも,縁が角張った形の円穴となっておらず,開口上端側の縁に角が存在しない状態であることを前提とした記載と解釈するのが合理的である。ところが,被告製品は,座部に臀部を下ろしたとき,内部の構造上,中空孔80の開口上端側の縁に「角」が発生するから,構成要件Bの「座面側に向かって次第に拡大する形状の円穴」を有していないことになる。よって,かかる意味でも,本件発明の構成要件Bを充足しない。
構成要件Cの充足性(ア)原告の主張は争う。
6(イ)構成要件Cの全体として弧状の全体は低反発クッション部 「」 「」,「材 が 板状全体 という意味ではなく中層クッション部材6の外表 」 「」,「面を含んでの全体」と解釈するのが合理的である(そうでなければ,臀部の前後左右方向の位置ずれを防止することができない。。)(ウ)被告製品は,低反発材50が,空気層101,102,103を介し, ,, て 本件発明の中層クッション部材60に対応する芯材40 すなわち角張った形状(断面長方形状)の大芯材41及びその上の角張った形状(断面長方形状)の小芯材42の上面側に,かつ,大芯材41の下面を覆う低弾性材60の端部に接合されて,張力を付与された状態で配設されており,大芯材41と低反発材50との間には,大芯材41の弾性に加えて,内側に空気層101,外側に空気層102が存在し,上側から加えられた外力に対しては,被覆材70及び低反発材50の弾性並びに空気層101又は空気層102に入りこむ被覆材70及び低反発材50の弾性張力が作用する構成のため,構成要件Cの「当該座部の垂直断面において上面側表層カバー部材の直下に円穴の内周面側から座部の外周面側にかけてその長さ方向の中央が高く全体として弧状になるように配設された低反発クッション部材」の構成を有していないことになる。
(エ)仮に構成要件Cの全体として弧状の全体が低反発クッシ ,「」 「」,「ョン部材」の「板状全体」という意味であるとしても,被告製品は,低反発材50と低弾性材60の張力によって大芯材41と小芯材42の角が低反発材50又は低弾性材60に食い込み,低反発材50の外表面全体はわん曲した形態を呈しているが,内面側は単位接触圧力が高い部位においては変形が大となっており,やはり,構成要件Cの「全体として弧状」の構成を有していないことになる。
(2)争点(2)(無効事由の有無)について[被告の主張]7本件特許は,以下のとおり無効事由があり,特許無効審判により無効にされるとすべきものと認められるから,原告は本件特許権を行使することができない(特許法104条の3第1項 。)ア進歩性欠如(特許法29条2項違反)(ア)本件発明は,次の公知文献,周知文献の組合せによって,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という )が容易に発明をすることができたものである。以下,詳述する。 。
a実願昭63-57584号(実開平1-159873号)のマイクロフィルム(乙1)b実公昭45-33574号公報(乙2)c実願昭63-39417号(実開平1-143952号)のマイクロフィルム(乙3)d実願昭63-101178号(実開平2-22142号)のマイクロフィルム(乙4)e実願昭62-26203号(実開昭63-133142号)のマイクロフィルム(乙5)f特開平2-52607号公報(乙6)g平成16年3月6日付け日経流通新聞(日本経済新聞社発行)9面記載の「選択,特注感覚で」と題する記事(乙11)(イ)上記各文献の記載事項a乙1本件特許の出願前に頒布された刊行物である乙1の記載事項及び図示内容を総合すると,乙1には次の発明が記載されている。
「尻乗せ座4と背もたれ部6とを備えた座椅子において,前記尻乗せ座4は,尻が乗る面の尻乗せ座4の回動中心よりも背部側に,尻が乗る面の側に向かって次第に拡大する形状の凹部41を有すると共8に,当該尻乗せ座4の垂直方向の断面において表面張材4eの直下に凹部41の内周面側から尻乗せ座4の外周面側にかけて上方突出状態に張設されているクッション材4dを有する座椅子(以下,この発。」明を「乙1発明」という )。
b乙2本件特許の出願前に頒布された刊行物である乙2には,図面とともに,次の事項が記載されている。
(a)「この支版10にもたれの脚枠7の脚端11を枢支して,この枢支部を基点としてもたれ6は座版に向って伏倒できる(1頁2欄。」14〜16行目)「 」 (b)もたれを座版に向け伏倒できるようにした座椅子に於て・・・(2頁4欄2〜10行目)(c)「1は中心部に孔2を穿設した輪状板体であって3は図面第5図に示すように中心部に孔2’を有するスポンジ又はポリウレタン等から成る発泡体の弾力ある輪状緩衝体である。4は図面第4図に示。」 すスポンジ又はポリウレタン等の柔軟弾力性の嵌込緩衝体である(1頁1欄35行目〜2欄1行目)(d)「本案の座版は座版の中心部に嵌込緩衝体4が喰嵌されているから座版の外周部より中心部の緩衝が大きいから着座者の臀部が楽であって疲労を感じないし殊に嵌込緩衝体4の部分は無底であるから嵌込緩衝体4に加えられる重力は直接この部分だけは座版の下の量に加えられることになるから従来の座椅子のように使用中に座椅子のように使用中に座椅子が前方に移動したり,又座椅子と共に人体が前方に移動する虞れがない甚大な効果がある1頁2欄34行目」(〜2頁3欄4行目)(e)第1図〜第3図には,孔2が円の形状をしていることが図示され9ている。
c乙3本件特許の出願前に頒布された刊行物である乙3には,図面とともに,次の事項が記載されている。
(a)「座部3と背もたれ部4とから座椅子を構成してある。座部3の中央部分をカットして透孔5を形成してある(3頁8〜l0行。」目)(b)「透孔5と薄肉部7は共に矩形状に形成したが,円形や楕円形その他の形状であっても差し支えないことは勿論である(4頁8〜。」10行目)d乙4本件特許の出願前に頒布された刊行物である乙4には,図面とともに,次の事項が記載されている。
5 は背もたれ部分で ・・・ 6 で好みに合わせて角度切り替 「(),()えが可能である(明細書1頁の実用新案登録請求の範囲) 。」e乙5本件特許の出願前に頒布された刊行物である乙5には,図面とともに,次の事項が記載されている。
(a)「本考案の前記の構成において,凹陥部5は前記実施例に限定するものではなく,第4図示のように,座部2の中央を単に凹ませてでん部を受け入れるようにしても良い(5頁7〜10行目) 。」(b)第4図には,凹陥部5が円の形状をしていることが図示されている。
f乙6本件特許の出願前に頒布された刊行物である乙6には,図面とともに,次の事項が記載されている。
10(a)1 発泡シート構造体において 上層部には 反発弾性値が2 「() ,,5%以下の低反発弾性発泡成形クッションパッドを使用し,反発弾性値が55%以上の高反発弾性発泡成形クッションパッドの下層部にて支持する構成を特徴とするシートクッション(1頁左下欄の。」特許請求の範囲)(b)発明が解決しようとする課題 従来のシートクッションは 上 「〔 〕 ,層部の反発弾性が30%以上のものを使用しているので,着座時の圧力分散が悪く,横揺れに対する支持性の感触がよろしくなく,特に,肥満型の人は両サイドが窮屈となり,部分的に高圧力が発生し, 。,, やすく 疲れやすい状態を生起することになる 因って 本発明は従来の発泡体の密度,硬さを主体に構成されてきた構想を変え,人体に接触する上層部の発泡体を,すぐれたヒステリシスロスによる減衰能を発揮させる構想による低反発弾性の発泡体の構成を提供することを目的としている(1頁右下欄20行目〜2頁左上欄12 。」行目)(c)作用 この発明のシートクッションは 積層体の上層部の反発 「〔〕 ,弾性を25%以下の可及的低反発弾性のヒステリシスロスの大きな物性とし,下層部を高反発弾性の物性としたものであり,因って,着座する人のどんな体型の人にも,また,どんな姿勢に対しても良好な沿接形態が得られ,必要以上の圧接感を与えることなく,横揺れ等の動揺に対して良好なソフトな支持性を発揮する。また,下層部に高反発弾性クッションパッドを使用するため,上層部のソフトな接触感による緩衝性と下層部の高反発弾性との相乗作用により,より一層の動揺に対する順応性と良好な支持性と復元性作用を長期に発揮するものである(3頁左下欄ll行目〜右下欄4行目) 。」g乙1111乙11には,次の事項が記載されている。
「オーダーメード感覚で選べる座いす『着せ替え座椅子(いす)バリエ 。クッションの形(四角か丸形 ,中材(低反発ウレタンなど3 』 )種類カバー 合皮かキャンバス地 から組み合わせてオーダー 店 ),() 。
に在庫があればその場で完成品を持ち帰ることができる(9面「新。」製品」欄の「住」欄)(ウ)本件発明と乙1発明との対比a共通点,「」 , 本件発明と乙1発明とを対比すると 乙1発明の 尻乗せ座4 は, 「」, 各文言の意味 機能又は構成等からみて本件発明の 座部 に相当し,「」 「」 ,「」 「」 以下同様に背もたれ部6 は 背部 に尻が乗る面 は 座面に 「垂直方向の断面」は「垂直断面」に 「表面張材4e」は「上面 , ,側表層カバー部材に張設されているは配設されたにそれ 」,「」 「」,ぞれ相当する。
また,乙1発明の「上方突出状態に」は,尻乗せ座4の垂直方向の断面において凹部41の内周面側から尻乗せ座4の外周面側にかけて,その長さ方向の中央が高く全体として弧状になるような状態であるといえるから,本件発明の「その長さ方向の中央が高く全体として弧状になるように」に相当する。
本件発明の「円穴」について,本件明細書の段落【0011】には「この円穴3は座部1の座面11に乗せられる臀部が,少なくともその臀部の中央が浅く落ち込む穴或いは有底の窪み(以下これらを総称して円穴ともいう)を設けて」と記載されている。そして,乙1発明「」 , , の 凹部41 は 尻乗せ座4の尻乗せ中心部に形成されていること及び乙第1号証の第1図からみて,尻乗せ座4の尻が乗る面に乗せられた尻が,少なくともその尻の中央が凹部41に浅く落ち込むといえ12る。
,「」 ,「」, したがって 乙1発明の 凹部41 と 本件発明の 円穴 とはどちらも本件明細書で規定される「穴」である点で共通する。
乙1発明の「クッション材4d」と,本件発明の「低反発クッション部材」とは,どちらも「クッション部材」である点で共通する。
してみると,本件発明と乙1発明とは,本件発明の用語を用いて表現すると,「座部と背部とを備えた座椅子において,前記座部は,座面に座面側に向かって次第に拡大する形状の穴を有するとともに,当該座部の垂直断面において上面側表層カバー部材の直下に穴の内周面側から座部の外周面側にかけてその長さ方向の中央が高く全体として弧状になるように配設されたクッション部材を有する座椅子 」。
である点で一致する。
b相違点(a)相違点1本件発明では,背部が座部に対して傾倒自在であるのに対して,乙1発明では,背部(背もたれ部6)が座部(尻乗せ座4)に対して傾倒自在ではない点。
(b)相違点2穴を設ける位置について,本件発明では,座面中央であるのに対して,乙1発明では,座面(尻が乗る面)の尻乗せ座4の回動中心よりも背部側である点。
(c)相違点3本件発明では,円穴を有しているのに対して,乙1発明では,穴(凹部41)を有しているものの,円穴かどうか明らかでない点。
(d)相違点413本件発明では,低反発クッション部材を有しているのに対して,乙1発明では,クッション部材(クッション材4d)を有しているものの,低反発クッション部材かどうか明らかでない点。
c相違点についての検討(a)相違点1について座椅子において,背部が座部に対して傾倒自在であることは,例えば,乙2,乙4等に見られるように本件特許の出願前に周知の技術である。したがって,乙1発明に周知技術を適用し,相違点1に係る本件発明の発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。
(b)相違点2について乙1発明の座椅子は,単なる休息用座椅子として利用し,通常の座椅子として使用することができるものである。そして,通常の座, ,,,, 椅子において 穴を座面中央に設けることは 例えば 乙2 乙3乙5等に見られるように本件特許の出願前に周知の技術である。したがって,乙1発明に周知技術を適用し,相違点2に係る本件発明の発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。
(c)相違点3について座椅子において,座面に有する穴を円穴とすることは,例えば,乙2,乙3,乙5等に見られるように本件特許の出願前に周知の技術である。したがって,乙1発明に周知技術を適用し,相違点3に係る本件発明の発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。
(d)相違点4について乙6には,着座時の感触をよくし,どんな姿勢に対しても良好な14沿接形態が得られ,必要以上の圧接感を与えないように,シートクッションの上層部に低反発弾性発泡成形クッションパッドを使用す。, , ることが記載されている そして 着座時の感触を良くすることは椅子において一般的に普通に考慮されることである。したがって,乙1発明に乙6に記載された技術を適用し,乙1発明の座椅子において,着座時の感触をよくするために,クッション部材(クッション材4d)を低反発クッション部材とし,相違点4に係る本件発明の発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。しかも,座椅子において,中材に,低反発クッションを用いることは,例えば,乙11等に見られるように本件特許の出願前に周知の技術であって,乙1発明に該周知技術を適用し相違点4に係る本件発明の発明特定事項とすることにも格別の困難性は見いだせない。
(エ)以上によれば,本件発明は上記公知文献,周知文献の組合せによって容易に発明されたものということができ,進歩性が否定されるので,上記(ア)の結論に至る。
イ特許請求の範囲の記載不備(特許法36条6項1号,2号違反)特許請求の範囲には前記座部は 座面中央に座面側に向かって次第に ,「,拡大する形状の円穴構成要件B 及び 円穴の内周面側から座部の外周 」()「面側にかけてその長さ方向の中央が高く (構成要件C)と記載されてい 」る。しかし,当該記載の構成要件は技術的に不明であり,特許法36条6項2号の要件を具有しないものである。
また円穴の内周面側から座部の外周面側にかけてその長さ方向の中央 ,「が高く全体として弧状になるように配設された低反発クッション部材構」() , , 成要件C は 実施例のシート状の低反発クッション部材5のことであり低反発クッション部材5は外力が加わると,低反発であるため,その形状15が維持できなくなるものである ゆえに座部1の垂直断面において円穴 。,「3の内周面側31から座部1の外周面側12にかけて,その長さ方向の中央が高く全体として弧状となるように配設する」ことができるには,中層クッション部材6の存在が必要不可欠である。例えば,本件明細書の段落0018には例えば図示の如く中層クッション部材6の断面形 【】,「,,状を楕円形にしておけば,その中層クッション部材6の外表面を上下に2分割した領域の上面側に均等の厚さのシート状低反発クッション部材5を重ねて接着するだけで,低反発クッション部材5を・・・,座部1の垂直断面において円穴3の内周面側31から座部1の外周面側12にかけて,その長さ方向の中央が高く全体として弧状となるように配設することもできると記載されている しかし 本件発明の特許請求の範囲には 中層 。」。, 「クッション部材6」が存在しない。ゆえに,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでないから,同項1号の要件を具有しないものである。
したがって,本件請求項1に係る発明は,同号及び同項2号に規定する要件を満たしていない。
発明の詳細な説明の記載不備(特許法36条4項1号違反)(ア)記載不備1低反発クッション部材5を「臀部が触れる円穴3の上端側の開口縁部() ()」 縁 31側から座部1の外周面側12にかけて配設する ラッパ形状,「 」, ことにより臀部が座面11からはみ出すほどの大きさ であっても座部1の外周面側12において,臀部の形状に相応した形状で臀部を座部1に受けることができ,低反発クッション部材5にはその位置ずれを防止する機能が存在する旨の段落 0006及びこれと同様の記載の 【】(段落 0014の記載は 技術的に矛盾があり 記載内容が不明であ 【】),,る。
16(イ)記載不備2段落0014同0016及び同0018には内周面側 【】, 【】【】「31」と記載され,かつ,符号の説明では 「開口縁部(円穴の縁 」と ,)記載され,また,図示では,いずれにも該当しない位置が「31」として示されている。
したがって円穴3の上端側の縁即ち開口縁部31が無用に臀部に当 ,「らず 心地よい据わり感触が得られるように形成している段落 00 , 」(【】 【】) 。 07 及びこれと同様の記載の同 0012はその部位が不明である一方,同【0014】には「図示されていない臀部が触れる円穴3の上端側の開口縁部縁31側との記載もあり臀部が触れるとの記 ()」,「」載との間に技術的に矛盾があり不明である。
(ウ)記載不備3段落【0016】の低反発クッション部材5が「座部1の垂直断面において円穴3の内周面側31から座部1の外周面側12にかけて,その長さ方向の中央が高く全体として弧状となるように配設してある」こと,「 」 と座部1の座面11に対する垂直方向のクッション性を高めることとは全く異なったことを意味している。低反発クッション部材5を弧状と配置しても「座部1の座面11に対する垂直方向のクッション性を高めること は不可能である また臀部の先後左右方向のずれを更に効 」。,「果的に防止すること」は,低反発クッション部材5には当該機能を有し,【】( 【】) ていないから 段落 0016及びこれと同様の記載の同 0008の記載は,技術的に矛盾があり,記載内容が不明である。
(エ)記載不備4本件発明が解決しようとする課題として,段落【0003】で「本発明は,背部の傾斜角度如何に拘わらず,或いは長時間使用しても,初期の座り位置から位置ずれが生じ難い座椅子の提供を目的とすると記載。」17されている。ところが,同【0005】の「当該座面の表層カバー部材の直下に低反発クッション部材が配設してあるので,臀部の形状に相応した形状で臀部を座部に受けることができ,これによって更に位置ずれを防止することができる」との記載は,低反発クッション部材の特性ではなく,特に,位置ずれ防止は,座部1の円穴3作用に基づくものであるから,本件発明の課題と,その発明の構成と,作用効果の関係が矛盾しており,発明が不明である。
(オ)したがって,上記(ア)ないし(エ)に記載したように,本件請求項1に係る発明には,発明の詳細な説明の項に記載不備が存在し,特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。
[原告の主張]被告の無効事由の主張は争う。
進歩性欠如の主張に対し被告の主張は,次の理由から成り立たない。
(ア)本件発明の「円穴」は,乙1発明の「凹部41」には該当しない。
確かに 本件明細書の段落 0011 にはこの円穴3は座部1の ,【】,「座面11に乗せられる臀部が,少なくともその臀部の中央が浅く落ち込む穴或いは有底の窪み・・・を設け との記載があるが ここでいう 窪 」,「み」とは,円穴3と同様の作用効果を発揮する「窪み」と解釈すべきであり,円穴3と同様の作用効果を発揮し難い「窪み」と解釈されるいわれはない。
本件発明の円穴は 特許請求の範囲請求項1に記載のとおり座面側 , ,「」,「」 に向かって次第に拡大する形状の円穴 であるから ここでいう 窪みもまた座面側に向かって次第に拡大する形状の窪み と解釈されてし ,「 」かるべきである。
しかるに 乙1発明の 凹部41 は座面側に向かって次第に拡大 ,「」 ,「18する形状の窪み」とは到底認め難い形状である。
乙2,乙3,乙5等において見られると被告が主張する円穴についても同様である。
,【】, 被告の主張は 本件明細書の段落 0011 の文言のみ取り上げて「円穴≧窪み「窪み=凹部41」であるから「円穴?凹部41」とい 」,う構図を描き,この構図を前提として主張しているにすぎず,本件発明の実質を看過している。
(イ)次に,本件発明の低反発クッション部材は,前記した形状の円穴すなわち窪みに 特許請求の範囲請求項1に記載のとおり当該座部の垂直 , ,「断面において・・・円穴の内周面側から・・・その長さ方向の中央が ,高く全体として弧状になるように配設 されているが円穴の内周面側 」,「から・・・弧状になるように配設」されている本件発明の構成を容易に, 。 想到させる記載は 乙1ないし乙6及び乙11のいずれにも存在しない(ウ)さらに被告は相違点4について本件発明が低反発クッショ ,,「」,「ン部材」を用いている技術的理由を「着座時の感触を良くする」ことと勝手に解釈しているが,これは明らかに誤認である。
本件発明は 本件明細書の段落 0003 に記載のとおり背部の ,【】,「傾斜角度如何に拘わらず,或いは長時間使用しても,初期の座り位置か」 ,, ら位置ずれが生じ難い座椅子の提供 を目的としているのであり また本件明細書の段落【0005】に記載のとおり,座部の座面に臀部が落ち込む円穴を設け,その円穴との関係において所定の条件で低反発クッション部材の配設により,座面に対する臀部の前後方向の位置ずれを防止し 臀部の形状に応じた形状で臀部を受け これによって更に位置 , ,,「ずれの防止」と「初期の座り心地(着座時のショックの緩和ではない)を長時間にわたって保持させる」ために,請求項1の本件発明の構成としているのである。
19しかるに 乙1ないし乙6及び乙11のいずれにおいても位置ずれ , ,「防止」のために,円穴を「座面側に向かって次第に拡大する形状」に設けたり,低反発クッション部材を「円穴の内周面側から・・・弧状にな」 。 るように 設けることを容易に想到させるような記載は全く存在しないイ特許請求の範囲の記載不備の主張に対し否認ないし争う。
構成要件B,Cは,いずれも容易に理解されるものであり,特許法36条6項2号違反に該当しない。
構成要件Cに 中層クッション部材6 の記載がなくても低反発クッ 「」,「ション部材5」の下に何らかのクッション部材(実施例では中層クッション部材6)が配設されることは「座部」の構成として当然であり,同項1号違反にも該当しない。
発明の詳細な説明の記載不備の主張に対し否認ないし争う。
(ア)記載不備1の主張につき, , 本件発明では 低反発クッション部材が臀部の形状に応じて窪むからそれなりの位置ずれを防止する機能が発揮されるとともに,初期の座り心地を長時間にわたって保持できるものである。
(イ)記載不備2の主張につき「ラッパ状に形成された」円穴3の内周面はラッパ形状であるから,図1中の符号31の指示線は正に「円穴3の内周面」の「側」を端的に指示している。また,円穴3の開口縁部(円穴の縁)は円穴がラッパ形状であるが故に,テーパ面的となるため図上では指示部位があいまいとならざるを得ないが,概念的には明りょうである。すなわち,開口縁部(円穴の縁)は開口側に近づくほど臀部が当たり,遠ざかるほど臀部が当たらなくなるのである無用に臀部に当たらず というのは 臀部に 。「」,20当たって 心地よい据わり感触が得られるように形成 ラッパ状にし 「 ()」ているという意味である。
(ウ)記載不備3の主張につき弧状の両端側に比べて弧状の中央は低反発クッション部材5が厚くなるため,弧状の両端側に比べて低反発クッション部材特有のクッション性,すなわち,外力吸収力が高められ,臀部の形状に相応して形成される窪みが深まるのは当然である。低反発クッション部材5には,被告が指摘するように反発力というクッション性はほとんどないが,外力を受け入れるように窪んで吸収するというクッション性(外力吸収力)がある。それ故に,座面に臀部が下ろされると低反発クッション部材は臀部の形状に応じた窪みを形成するから,その窪みに収まった臀部は,そのような窪みがない場合に比べて臀部の前後左右方向のずれを防止できるし,その窪みが深いほど「ずれを効果的に防止」することができよう。
(エ)記載不備4の主張につき本件発明は,低反発クッション部材5が外力に反発せず受け入れるように窪んで吸収するという特有のクッション性を座椅子に活用し,座面に下ろされる臀部の形状に応じた窪みを形成させることにより,そのような窪みが生じない従来の座椅子に比べて座面における臀部の前後左右方向のずれを効果的に防止できることは明白である。本件発明では,本件明細書の段落【0018】で,シート状の低反発クッション部材5を用いる場合には沈みしろを考慮して「適当な厚み」が必要であることを明記している。被告が主張するように臀部の位置ずれが表層カバー部材の特性にゆだねられる可能性が高いこともあろうが,表層カバー部材は発明が成立するような材質,材料が選択されるものである。
(3)争点(3)(損害額)について[原告の主張]21ア被告は,平成20年6月6日から平成21年9月5日までの1年3か月の間に,被告製品を少なくとも6250個販売した。
被告の侵害行為がなければ,原告が販売できた特許製品の単位数量当たりの利益の額は768円である。
原告は,平成19年度(平成19年2月1日〜平成20年1月31日)に,特許製品と同一の製品を4336個販売しており,平成20年6月6日以降,被告物件の販売数量に相当する需要があれば,これに応じる能力は十分あった。
, , イ以上のとおり 特許製品の単位数量当たりの利益は768円であるから特許法102条1項損害額は,480万円(768円×6250個)となる。
[被告の主張]否認ないし争う。
第3争点に対する判断1争点(1)(技術的範囲の属否)について(1)被告製品が本件発明の構成要件A,Dを充足することについては,当事者間に争いがない。
(2)構成要件Bの充足性についてア被告製品を上方から見た場合,それが座面中央に位置しているものと直ちに評価できるかどうかはともかくとして,被告製品の座部が上方に向かって次第にその径を拡大する形状の中空孔80を有することは,当事者間に争いがない。
イ被告は 中空孔80の設置位置につき座部10を上から見たとき そ , ,「 ,の面の前後の略2対1の比率位置」に設定されているとして,中空孔80が構成要件Bでいうところの「座面中央」に位置することを否定する。
しかし,この場合の「座面中央」とは,本件明細書の段落【0003】22に記載されている本件発明の目的「本発明は,背部の傾斜角度如何に拘わらず,或いは長時間使用しても,初期の座り位置から位置ずれが生じ難い座椅子の提供を目的とするや 段落 0005 に記載されている本件 。」 ,【】発明の効果「本発明によれば,座部の座面に臀部が落ち込む円穴を設けてあるので,座面に対する臀部の前後左右方向(ここで前方とは足先方向をいう)の位置連れ(判決注: 位置ずれ」の誤記と認める )を防止するこ 「 。
とができると共に,当該座面の表層カバー部材の直下に低反発クッション部材が配設してあるので,臀部の形状に相応した形状で臀部を座部に受けることができ,これによって更に位置ずれを防止することができると共に。」, 初期の座り心地を長時間にわたって保持することができるからすればその位置は厳密に解されるべきものではなく,要するに,座部の座面に臀部が落ち込む円穴を設けたこと自体で,座面に対する臀部の前後左右方向の位置ずれが防止できればよいのであって,そのためには,当該円穴の位置は,上記目的及び効果を達成できる程度の範囲をもって,座部の中央部の辺りに存在すればよいというべきである。
そうすると前後の略2対1の比率位置 は 上記の意味合いで座部の ,「 」 ,中央部の辺りということができるから,被告製品の中空孔80は,構成要,「」 。 件Bとの対比においては なお 座面中央 に位置するものと評価できるウ被告は,構成要件Bの「座面側に向かって次第に拡大する形状の円穴」は,円穴に臀部が落ち込んだときでも,縁が角張った形の円穴となっておらず,開口上端側の縁に角が存在しない状態であることを前提とした記載と解釈するのが合理的であるとも主張する。
しかし,本件明細書の段落【0002】記載の背景技術,段落【0007】記載の発明の効果及び段落【0012】記載の実施例の各記載内容からすれば,構成要件Bは,飽くまで平たんな座面に円穴を形成した場合と比べて 円穴の上端部の縁が 無用にすなわち不必要に 臀部に当たら ,「」()23ず,心地よい座り感触を得られることを作用効果としているにすぎず,被告が主張するように,円穴に臀部が落ち込んだときでも,縁が角張った形の円穴となっておらず,開口上端部の縁に角が存在しない状態であることまでをその作用効果として求めているものとは解されない。
エ以上によれば,被告製品は,本件発明の構成要件Bを充足するものと認められる。
(3)構成要件Cの充足性についてア被告製品の形態は,別紙添付図1〜6に図示するとおり(前記第2の2(4))であって,これによれば,(ア)前記座部10には,座部側フレーム31に固定された外径が大きく内径が小さく形成された体積の大きい大芯材41及びその上に配設された外径が大芯材41よりも小さく内径が大芯材41よりも大きく形成された体積の小さい小芯材42が同心円状に配置固定されており,(イ)大芯材41及びその上の小芯材42は,それらの露出する上面側に低反発材50が,空気層101,102,103を介して,かつ,大芯材41の下面を覆う低弾性材60の端部に接合されて,低反発材50に張力を付与した状態で配設されていることが認められる。
イ被告は構成要件Cの全体として弧状の全体は低反発クッシ ,「」 「」,「ョン部材 が 板状全体 という意味ではなく中層クッション部材6の 」 「」,「」 。, 外表面を含んでの全体 と解釈するのが合理的である旨主張する しかし本件明細書の記載によれば,構成要件Cは,必ずしも中間クッション層を念頭に置いているとは認められず,そこでいう「全体として弧状」とは,飽くまで作成された座部において低反発クッション部材がどのような形状を呈しているかを規定したものと理解される。
また,被告は,仮に構成要件Cの「全体として弧状」の「全体」が「低24反発クッション部材」の「板状全体」という意味であるとしても,構成要件Cの「全体として弧状」の構成を有していない旨主張するが,上記認定の被告製品の形態を見れば,被告製品の低反発材50は,被告が主張するように内面側に変形が見られるものの,全体としては弧状を呈していると評価できる。
ウ以上によれば,被告製品は,本件発明の構成要件Cを充足するものと認められる。
(4)よって,被告製品は,本件発明の構成要件をすべて充足し,その技術的範囲に属するものと認められる。
2争点(2)(無効事由〔進歩性欠如〕の有無)について(1)乙1の記載本件特許出願前に頒布された刊行物である乙1には,図面とともに,次の事項が記載されている。
ア「1尻乗せ座4,背もたれ部6及び肘掛け部7を備えた座椅子であって,前記尻乗せ座4を本体フレーム1に対し,縦軸芯まわりに回動自在に取り付けると共に,前記肘掛け部7を本体フレーム1に対し,その高さが着座者の正常着座姿勢における肘相当高さ及び肩相当高さに変更され得るように枢支連結してある座椅子。
2前記尻乗せ座4及び前記背もたれ部6を後傾姿勢にし,該尻乗せ座4に尻乗せ中心部となる凹部41を形成し,該凹部41の尻乗せ中心を尻乗せ座4の回動中心よりも背部側に設定してある請求項1記載の座椅子。
・・・4前記尻乗せ座4を正面向き姿勢に固定する固定具9が設けられている請求項1記載の座椅子(1枚目の実用新案登録請求の範囲 。 。」 )イ「本発明は・・・安らかな休息が従来通り得られる上に,必要に応じて着座姿勢のまま積極的に軽運動を行って日頃の運動不足を簡易に解消する25ことができる座椅子を提供することを目的とする(明細書3頁2〜6行 。」目)ウ「 考案の効果〕〔・・・さらに前記固定具が付設されている場合は,該固定具を用いて前尻乗せ座を正面向き姿勢に固定することにより,前記座椅子を単なる休息用座椅子として利用することができる(明細書5頁2行目〜6頁9行 。」目)エ実施例 ・・・第1図〜第3図において1 はパイプ材からなる方 「〔〕 ,()形枠状の本体フレームを示しており,該本体フレーム(1)の中央部に架設された取付け版(1a)には,スラスト軸受体2がその縦軸芯を5°〜10°後傾させた状態で取り付けられており,該スラスト軸受体(2)を介し,パイプ材からなる方形枠状の座フレーム(3)が前記縦軸芯まわりに回動自在に取り付けられている。なお前記縦軸芯を5°〜10°後傾させたのは,その傾斜角度が5°未満であると後述の後傾させることによる効果が不十分になる一方,10°を超えると着座者の姿勢が無理な傾姿勢となるからである。そして該座フレーム(3)の中央部には,尻乗せ中心部となる凹部(41)を形成した尻乗せ座(4)が,前後方向約70?にわたる摺動を可能とした状態で且つスプリング(5)の弾性復元力による最後方ポジションへの位置決め復帰を可能とした状態で設置され,もって該尻乗せ座(4)が前記縦軸芯まわりに回動できるように且つ前後方向への位置を変更できるようになっている。また座フレーム(3)の背部側は前記縦軸芯と略平行な方向に折曲しており,その折曲部(3a)には背もたれ部(6a)を傾動自在に枢支する枢支部材(6b)が上下方向へ摺動できるように且つ止め具(6c)にて上下方向適宜位置にて固定できるように嵌合され,もって座フレーム(3)の背部に背もたれ(6a)を枢支部材(6b)にて傾動自在に且つ高さ調整自在に枢支してなる背もたれ部26(6)が装着されている。
なお,前記尻乗せ座(4)は具体的には,尻乗せ中心部となるべき位置に貫通孔が形成された木製ベース板(4a)を基礎とし,その貫通孔以外の部分に成形クッショク材(判決注: 成形クッション材」の誤記と認め 「。)() (), る4b を上方突出状態に付設した上でその上から成形張材 4cクッション材(4d)及び表面張材(4e)をこの順序で張設することによって構成されている。また最後方ポジションに位置する尻乗せ座(4)の尻乗せ中心部となる凹部(41)は,前記縦軸芯即ち尻乗せ座(4)の回動中心よりも背部側に10〜50?だけずれた位置に設けられている。
また,前記本体フレーム(1)の最背部側にはくの字状に折曲した左右一対の肘掛け部(7)の基端側が夫々枢支連結され,該肘掛け部(7)はいずれもその枢支連結部を旋回中心として旋回し,その高さが着座者の正常な着座姿勢における肘相当高さ(・・・)及び肩相当高さ(・・・)に変更され得るようになっている。
なお,前記フレーム本体(1)の適宜位置(例えば着座者からみて右側位置)には上向きにストッパ(8)が突設されており,該ストッパ(8)は第3図に示す如く,前記尻乗せ座(4)を設置した座フレーム(3)の回動を接当規制するようになっており,もって該ストッパ(8)は前記尻乗せ座(4)の回動範囲を一定角度に規制し得るようになっている。
また,前記フレーム本体(1)におけるストッパ(8)突設位置と反対側位置(例えば着座者からみて左側位置)には上下方向へ揺動自在な固定具(9)が装着されており,該固定具(9)が上下方向へ揺動すると,正面向き姿勢となった座フレーム(3)の一部と係合し得るようになっている。そして該固定具(9)と座フレーム(3)との係合によって前記尻乗せ座(4)は正面向き姿勢に固定されるようになっている。
かかる構成の座椅子を用いる場合には,先ず前記背もたれ(6a)の高27さ調整を行う。そしてこれを通常の座椅子として使用するときには,第5図及び第6図に示す如く,前記固定具(9)を用いて座フレーム(3)を正面向き姿勢に固定すると共に前記肘掛け部(7)を前記肘相当高さに変更し,その状態を維持しつつ尻乗せ座(4)に着座した着座者は座フレーム(3)を尻乗せ座(4)共々前後方向へ移動させて背もたれ部(6)の傾斜調整を行い,且つ,前記肘掛け部(7)に肘を掛けて着座者は安らかな休息を得る。
, ,, そして 着座者が着座姿勢のまま軽運動を行いたいときには 着座者は()() () 前記固定具 9 による座フレーム 3 の固定を解除して尻乗せ座 4を前記縦軸芯まわりに回動できる状態となすと共に,前記肘掛け部(7)を前記肩相当高さに変更し,第4図に示す如く,肘掛け部(7)を把持しつつ回動自在な尻乗せ座(4)に尻を乗せたまま該尻乗せ座(4)を回動させ,踵を床に着けつつ膝を立てた姿勢にて腰を左右に動かして軽運動を行う。
なお,上述の座椅子は,尻乗せ座(4)及び背もたれ部(6)が後傾姿勢とされ,尻乗せ座(4)には尻乗せ中心部となる凹部(41)が形成され,更に該凹部(41)の尻乗せ中心が尻乗せ座(4)の回動中心よりも背後側に設定されているため,着座者はその身体を振り子のように振らせることが可能となって前記軽運動をより容易に行うことができる。また前記ストッパ(8)が付設されているため,該ストッパ(8)によって尻乗せ座(4)の過剰回動が防止される結果,着座者は前記関節や筋肉の動かし過ぎ,脊椎や腹部の捻り過ぎ等を回避してその身体の安泰を確保することができる(明細書6頁16行目〜11頁17行目) 。」(2)乙1記載の発明上記(1)の記載から 乙1には 少なくとも以下のア〜カの構成を有する座 ,,椅子に関する発明が開示されていると認められる。
28ア尻乗せ座(4)とこれに対して前後に傾斜調整自在に連結された背もたれ部6及び肘掛け部(7)を備えた座椅子であって,イ前記尻乗せ座(4)を本体フレーム(1)に対し,縦軸芯まわりに回動自在に取り付けるとともに,ウ前記肘掛け部(7)を本体フレーム(1)に対し,その高さが着座者の正常着座姿勢における肘相当高さ及び肩相当高さに変更され得るように枢支連結してあり,エ前記尻乗せ座(4)は,尻乗せ中心部となるべき位置に貫通孔が形成された木製ベース板(4a)を基礎とし,その貫通孔以外の部分に成形クッション材(4b)を上方突出状態に付設した上でその上から成形張材(4cクッション材4d及び表面張材4eをこの順序で張設して構 ),()()成されており,オ前記尻乗せ座(4)を正面向き姿勢に固定する固定具(9)が設けられているカことを特徴とする座椅子。
(以下,この発明を「引用発明」という )。
(3)本件発明と引用発明の対比ア引用発明の尻乗せ座前後に傾斜調整自在背もたれ部表面 「」,「」,「」,「張材はそれぞれ本件発明の座部傾倒自在背部上面側 」,,「」,「」,「」,「表層カバー部材」に相当する。
引用発明の「クッション材」も,本件発明の「低反発クッション部材」も 「クッション部材」という点では一致している。 ,また,本件発明も,その実施例の構成から明らかなように,低反発クッション部材の下方に他のクッション材を配置してもかまわないものであるから 引用発明が 成形クッション材 4bを備えることにより本件発 ,「()」明と相違することにはならない。
29引用発明は,尻乗せ座(4)が本体フレーム(1)に対して縦軸芯まわりに回動自在に構成されているが,固定具(9)により尻乗せ座(4)を正面向き姿勢に固定できるものである。また,引用発明は,着座姿勢のまま軽運動が行えるようにした点に特徴があるものの,従来の座椅子と同様に安らかな休息が得られるものでもある。したがって,引用発明は,尻乗せ座(4)を回動自在にする構成を備えている点をもって本件発明と相違するものではない。さらに,本件発明は,引用発明のように肘掛け部やフレームを設けることをその技術的範囲から除外したものではないと解される。
なお引用発明の凹部41は必ずしも本件発明にいうところの ,「()」,「円穴」に該当するものとは断定できない。
イそうすると,両者の一致点及び相違点は,次のとおりである。
(ア)一致点「 , 座部と前記座部に対して傾倒自在な背部とを備えた座椅子において当該座部の垂直断面において上面側表層カバー部材の直下にクッション部材を有する座椅子」である点(イ)相違点a本件発明では,座部が「座面中央に座面側に向かって次第に拡大する形状の円穴 を有しておりクッション部材を座部の垂直断面にお 」,「いて上面側表層カバー部材の直下に円穴の内周面側から座部の外周面側にかけてその長さ方向の中央が高く全体として弧状になるように配設している」のに対し,引用発明では,木製ベース板(4a)に貫通孔があって,その貫通孔以外の部分に成形クッション材(4b)を上方突出状態に付設しているものの,成形クッション材(4b)の上方に位置する上面側表層カバー部材及びクッション部材に明確な「穴」が存在するとまでは認められない点30b座部の表面張材の直下に張設されるクッション部材につき,本件発明では低反発 性のものに限定されているのに対して 引用発明で ,「」 ,は,そのような性質のものであるか否かが明らかでない点(4)相違点についての容易想到性そこで,上記各相違点に係る構成について,当業者が容易に想到できたものであるか否かについて検討する。
ア相違点aについて(ア)実願昭63-39417号(実開平1-143952号)のマイクロフィルム(乙3)の記載事項上記刊行物には,図面とともに,次の事項が記載されている。
a「実用新案登録請求の範囲1.ホットカーペット上に置かれクッション材が詰った座部と背もたれ部とから成り,座部の中央部分をカットして透孔に形成あるいは当該部分のクッション材を熱プレス等により薄肉部に形成したことを特徴とするホットカーペット用座椅子(明細書1頁3〜9行目) 。」b「第1実施例・・・座部3の中央部分をカットして透孔5を形成してある ・・・第2実施例は 座部3の中央部に薄肉部7を形成したも 。,のである ・・・透孔5と薄肉部7は共に矩形状に形成したが 円形や 。 ,楕円形その他の形状であっても差し支えない同3頁6行目〜4頁1 」(0行目)c「このように波型の凹凸を表面に有する薄肉部7に臀部Hを着座させたときに,凹凸があるために臀部Hが蒸れる虞れが少なくなる。また,滑り止めにもなっている。このような凹凸を有する薄肉部7の他に平板状の薄肉部であっても差し支えない (同4頁末行〜5頁5行 」目)31d第2図は第1実施例に係る着座状態の側面図,第3図は同断面図,第6図は第2実施例に係る側面図であり,いずれも透孔5が座面側に向かって次第に拡大する形状を有することが図示されている。
(イ)実願昭62-26203号(実開昭63-133142号)のマイクロフィルム(乙5)の記載事項上記刊行物には,図面とともに,次の事項が記載されている。
a「2.実用新案登録請求の範囲(1) 臀部をのせる座部と,該座部の一端に立設した背もたれ部とから成る座椅子において,前記座部に,臀部を受け入れる凹陥部を設けたことを特徴とする座椅子(明細書1頁3〜7行目) 。」b「 従来の技術」および「考案が解決しようとする問題点」 「・・・座部にのせたでん部が滑り易く,例えば足を伸ばして座椅子に座ったときや,座椅子に座って「こたつ」に入っているとき等,上半身の体重を背もたれ部にもたれかけていると,座部上のでん部が次第, 。」 に前方にずれて不自然な姿勢になり 座り直すことがたびたびある(同1頁12行目〜2頁6行目)c「 問題点を解決するための手段」 「以上の目的を達成する本考案の座椅子は「でん部をのせる座部とその座部の一端に立設した背もたれ部とから成る座椅子において,その座部に でん部を受け入れる凹陥部を設けた構造 が特徴である同 , 」。」(2頁13〜18行目)d「 作用」「以上の構造の本考案の座椅子は,座部に使用者のでん部を受け入れる凹陥部が設けてあるので,使用者のでん部はその凹陥部に嵌め込むようにして受け入れられ,背もたれ部に上半身の体重をもたれかけさせていても,でん部が前方にずれることがなく,正常な座り姿勢を安32定させる (同2頁19行目〜3頁5行目) 」e「第一実施例・・・座部2の中央部分は,円形に切り抜いた凹陥部5が設けてあり,その凹陥部5の前端部分は座部2の前縁部2’を切り離した形状になっている。即ち,凹陥部5は座部2の前縁部2’を狭隘な入口部とし,座部2の中央部分で概ね円形に膨大する形状に切。,’ , り抜かれた貫通孔になっている そして その凹陥部5の周縁5 は下方に向かって緩やかにせばまる曲縁に成っており,座椅子1の使用者が座部2に自己のでん部をのせたとき,そのでん部の外面を滑らかに受け入れるように形成されている(同3頁9行目〜4頁2行目) 。」f「第二実施例・・・座部2の中央部分に第1図実施例と同様の凹陥部5を形成すると共に,その凹陥部5の前縁部位は,座部2より若干薄くした連結部6によって座部2の前縁部2’が連結されており,凹陥部5へでん部を嵌めたときの外力によって座部2の形状が崩れるのを防止すると共に,凹陥部5と使用者のでん部をフィットさせて使用感が向上するように配慮してある(同4頁3〜11行目) 。」g「第三実施例・・・前記実施例と同様に,座部2の中央部分に凹陥部5が設けてあり,その凹陥部5の底は座部2と連続した薄めの底板部7に形成してある(同4頁12〜15行目) 。」h「なお,本考案の前記の構成において,凹陥部5は前記実施例に限定するものではなく,第4図示(判決注:凹陥部5が円の形状をしていることが図示されているのように 座部2の中央を単に凹ませて 。),でん部を受け入れるようにしても良い(同5頁7〜10行目) 。」i第1図(B)及び第2図は,いずれも実施例の断面図であり,凹陥部5が座面側に向かって次第に拡大する形状を有することが図示されている。
(ウ)引用発明では,木製ベース板(4a)に貫通孔が形成され,その貫通33孔以外の部分に成形クッション材(4b)が上方突出状態に付設されているこの貫通孔の形状が座部尻乗せ座4の外周囲まで至ら 。「」(())ないものなのか,それとも木製ベース板(4a)及び成形クッション材(4b)を分割するように座部の外周囲にまで至っているのかは一見して明らかではないが,実施例の底面図である第2図,第3図の記載内容からは,孔が尻乗せ座(4)の外周まで至っているようには見えず,か, () えって 組立後の概観を示す第5図では尻乗せ中心部となる凹部 41はほぼ円状になっていることからすると,当該貫通孔は円形の穴,すなわち「円穴」の構成を備えているものと認められる。そして,当該「円穴」がその上部に付設された成形クッション材(4b)の部分まで含めると「座面側に向かって次第に拡大する形状」を備えていることは,乙1の第1図(座椅子の前後方向での部分断面側面図)に図示されたとおりである。
また,本件発明は,本件明細書の段落【0011】に「この円穴3は座部1の座面11に乗せられる臀部が,少なくともその臀部の中央が浅く落ち込む穴或いは有底の窪み(以下これらを総称して円穴ともいう)」, ,「」 を設けて・・・ とあるように 座面上に設けられる円穴は貫通孔に限定しておらず,したがって,当業者が当該「円穴」を「貫通孔」として構成するか,それとも有底の「窪み」として構成するかは,正に設計事項にすぎないといえる。そして,引用発明のうち木製ベース板(4a)に設けられた貫通孔が「円穴」の構成を備えていることは前示のとおりであり,その上部に形成される凹部(41)についても,完全な円形かどうかはともかくとして,おおむね「窪み」の形状をしていることは図面上明らかといえる。したがって,相違点aのうち,座部の「座面中央に座面側に向かって次第に拡大する形状の円穴」を設けることについては,既に引用発明においてその開示があるか,少なくとも示唆があ34るということができる。
そして,上記乙3及び乙5の記載によれば,本件特許の出願時において,座椅子の座部の座面中央に座面側に向かって次第に拡大する形状の, 。 円穴を設けることは 周知の技術的事項であったと認めることができるまた,引用発明においても,既に木製ベース板(4a)と成形クッション材(4b)に孔が設けられていることからすると,この周知技術を適用して更に上方の成形張材4cクッション材4d及び表面張 ,(),()材(4e)にも孔を設けたからといって,直ちに技術的不合理(所与の課題が解決できなくなる,あるいは著しい欠点が生じる等)が生じるものとも認められない。
したがって,上記に検討したところによれば,引用発明自体から,あるいは,引用発明に乙3及び乙5に記載される周知の技術的事項を考慮,「 」 して 座部の 座面中央に座面側に向かって次第に拡大する形状の円穴を設ける構成を採用することは,当業者が格別の創作能力を発揮しなくとも想到し得たものと認められる。
(エ)相違点aのうちクッション部材を座部の垂直断面において上面側表 ,「層カバー部材の直下に円穴の内周面側から座部の外周面側にかけてその長さ方向の中央が高く全体として弧状になるように配設している」点について,引用発明では,貫通孔が形成された木製ベース板(4a)を基礎とし,その貫通孔以外の部分に成形クッション材(4b)を上方突出状態に付設している(乙1の第1図は,座椅子の前後方向での部分断面側面図であるが,これによれば,成形クッション材(4b)は,貫通孔の内周面側から尻乗せ座(4)の外周面側にかけて,その長さ方向の略中央が高く全体として略弧状になるように形成されているところ 引。),用発明において,クッション材(4d)は,成形クッション材(4b),(), の上面に沿って配置するものと理解されるから その成形張材 4c35クッション材(4d)及び表面張材(4e)にも円穴が設けられる場合に,併せて,当該クッション材(4d)を円穴の内周面側から座部の外周面側にかけてその長さ方向の中央が高く全体として弧状になるように配設することも,当業者が格別の創作能力を発揮しなくともなし得たものと認められる(低反発クッション部材の具体的な配置の仕方として,座椅子に穴が空いているのであれば,臀部との接触が想定される部位,すなわち,穴の内周面側から座部の外周面側に至るまで配置させることは,当業者が通常の創作能力を発揮してなし得た程度のことというべきであるし,座部の垂直断面を中央部が高くなるようにすることは一般に行われる周知の技術的事項というべきであるから,穴がある座部について,穴の内周面側から座部の外周面側にかけて,その長さ方向の中央が高く全体として弧状になるように当該クッション部材を配設することも,当業者にとって通常の創作能力を発揮してなし得た程度のことと認めるのが相当である。。)イ相違点bについて(ア)特開平2-52607号公報(乙6)上記刊行物には,図面とともに,次の事項が記載されている。
a「2.特許請求の範囲(1) 発泡シート構造体において,上層部には,反発弾性値が25%以下の低反発弾性発泡成形クッションパッドを使用し,反発弾性値が55%以上の高反発弾性発泡成形クッションパッドの下層部にて支持する構成を特徴とするシートクッション(1頁左欄3〜9行目) 。」b「 発明が解決しようとする課題〕 〔従来のシートクッションは,上層部の反発弾性が30%以上のものを使用しているので,着座時の圧力分散が悪く,横揺れに対する支持,, , 性の感触がよろしくなく 特に 肥満型の人は両サイドが窮屈となり36部分的に高圧力が発生しやすく,疲れやすい状態を生起することになる。
因って,本発明は,従来の発泡体の密度,硬さを主体に構成されてきた構成を変え,人体に接触する上層部の発泡体を,すぐれたヒステリシスロスによる減衰能を発揮させる構想による低反発弾性の発泡体の構成を提供することを目的としている(1頁右下欄末行〜2頁左 。」上欄12行目)c「 作用〕〔この発明のシートクッションは,積層体の上層部の反発弾性を25%以下の可及的低反発弾性のヒステリシスロスの大きな物性とし,下層部を高反発弾性の物性としたものであり,因って,着座する人のどんな体型の人にも,また,どんな姿勢に対しても良好な沿接形態が得られ,必要以上の圧接感を与えることなく,横揺れ等の動揺に対して良好なソフトな支持性を発揮する。また,下層部に高反発弾性クッションパッドを使用するため,上層部のソフトな接触感による緩衝性と下層部の高反発弾性との相乗作用により,より一層の動揺に対する順応性と良好な支持性と復元性作用を長期に発揮するものである(3。」頁左下欄11行目〜右下欄4行目)d第2図(断面図)には,座面の上層部に低反発弾性発泡成形クッションが,座面の下層部には高反発弾性発泡成形クッションパッドがそれぞれ配設されている構造が図示されている。
(イ)特開2000-106969号公報(乙7)上記刊行物には,図面とともに,次の事項が記載されている。
a「 特許請求の範囲】【【請求項1】シートフレーム,シートパッド及び座部表皮からなる座席において,前記シートパッドの上下両面及び前記シートフレームと37シートパッド間のシートフレームとバネとの間に加速度負荷を吸収するための高密度低反発物質又は衝撃吸収物質を挿入したことを特徴とする加速度抑制型簡易座席装置の緩衝構造(2頁1欄1〜7行目) 。」b「 発明が解決しようとする課題 ・・・ 【 】【0005】人体に伝達される衝撃力を抑制するためには,運動量の伝達過程で速度変化を漸減し,人体に伝達する力を漸増伝達し,新たな衝撃成分を発生させない吸収方法及び低反発材料によって,運動エネルギを停溜吸収して消費させる構造が必要である(2頁1欄22。」〜42行目)c図1及び図4(いずれも断面図)には,シートパッドの上下両面に高密度低反発物質又は衝撃吸収物質を挿入する構造が図示されている。
(ウ)特開2002-336070号公報(乙9)上記刊行物には,図面とともに,次の事項が記載されている。
a「 特許請求の範囲】【【請求項1】座部(1)と背もたれ部(2)とからなる座椅子であって,前記座部(1)の一方の端部と前記背もたれ部(2)の端部が変曲点Sにおいて一体化されており,前記背もたれ部(2)の表面において,前記変曲点Sから5〜25?(1)離隔した箇所に頂点Tを有する突出部(2a)が形成されており,頂点Tと変曲点Sとを結ぶ直線と,前記座部(1)の他方の端部の端点Uと変曲点Sとを結ぶ直線とで形成する角αが直角若しくは鋭角であることを特徴とする座椅子。
・・・【請求項5】所定の厚みの複数の座布団部(3a,3b)が,前記水平面(1a)上に配設されたことを特徴とする,請求項1乃至4のい38ずれか一項に記載の座椅子(2頁1欄1〜26行目) 。」b「 0039 ・・・本発明の座椅子は,ウレタン,発泡ウレタン, 【】ウレタンフォーム,チップウレタン,低反発ウレタンフォーム,ポリウレタン,コルマビーズ,ポリエチレン,低反発マイクロフォーム,スポンジ,衝撃吸収シート,発泡スチロール,プラスチック,木材,。」 及びこれらの組み合わせから選択される材料から構成されてもよい(5頁8欄49行目〜6頁9欄5行目)c0040 好ましくは 座部は発泡スチロール若しくはプラスチ 「【】,ック等の比較的固い材料から成り,座布団部はそれに対してウレタン若しくは衝撃吸収シート等の柔らかい材料から成る。これにより,座り心地がよい一方で,確実に座位前屈運動が実施できる座椅子が提供できる(6頁9欄6〜11行目) 。」(エ)特開2000-5327号公報(乙10)上記刊行物には,図面とともに,次の事項が記載されている。
a「 特許請求の範囲】【【請求項1】人体に接して使用される器具に磁石を取り付けた磁石付き健康器具において,前記磁石として,大磁石の上に少なくとも一つの小磁石を載せて磁力を高めた複合磁石を用い,この複合磁石の前記小磁石を,人体が当接する面に向けて配置したことを特徴とする磁石付き健康器具。
・・・【請求項4】前記健康器具が,枕,腰枕,敷ふとん,椅子,足枕から選ばれた一種である請求項1〜3のいずれか1つに記載の磁石付き健康器具(2頁1欄1〜17行目) 。」b図1には,本発明を磁石付き枕に適用した実施形態として,低反発, () ,, 性 すなわち比較的軟質のポリウレタンフォーム 上 と 高反発性39すなわち比較的硬質のポリウレタンフォーム(下)とを上下に接合してなる枕本体の構造が図示されている。
c図7には,本発明を磁石付き座椅子に適用した他の実施形態が図示されている。
(オ)上記(ア)〜(エ)の記載によれば,本件特許の出願当時,椅子用のクッション材として上層に低反発クッション部材を配設することは,当業者にとって周知の技術的事項であったということができ,また,通常の座椅子である以上 当業者がその 着座位置の安定 を図ることや座り心 ,「」,「地の良さ」を求めることは,製品の性質上,自明の課題ともいうべき事項であることを考慮すれば,引用発明に上記周知技術を適用してクッション材(4d)を低反発クッション部材とすることは,当業者が通常の創作能力を発揮してなし得たことと認められる。
ウ以上によれば,本件発明の相違点a,bに係る構成は,引用発明に,乙3及び乙5に記載された周知の技術的事項(座椅子の座部が座面中央に座),, 面側に向かって次第に拡大する形状の円穴を設けること 及び乙6 乙7乙9及び乙10に記載された周知の技術的事項(椅子用のクッション材として上層に低反発クッション部材を配設すること)を組み合わせることにより,当業者が容易に想到できたものと認められる。
(5)以上のとおり,本件発明は,当業者が引用発明及び上記の周知の技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものであり,本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものと認められるから,特許法104条の3第1項により,原告は被告に対し本件特許権を行使することができない。
3結論よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。