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関連審決 無効2000-35143
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成10ワ14072特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成10ワ7865特許権侵害行為差止請求事件 判例 特許
平成14ワ5107特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成14ワ12410損害賠償請求事件 判例 特許
平成15ワ4285損害賠償等請求事件 判例 特許
関連ワード 技術的思想 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  公知技術 /  技術的範囲 /  先行技術 /  発明の詳細な説明 /  実質的に同一 /  権利の濫用(権利濫用) /  対象製品 /  均等 /  置き換え /  置換 /  置換可能性 /  同一の作用効果 /  容易に想到(容易想到性) /  意識的除外(意識的に除外) /  特許発明 /  構成要件 /  業として /  差止請求(差止) /  侵害 /  同意 /  請求の範囲 /  補助参加 / 
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事件 平成 12年 (ワ) 12728号 特許権侵害差止請求事件
原告 株式会社日本ティーエムアイ
原告訴訟代理人弁護士 飯田秀郷
同 栗宇一樹
同 早稲本和徳
同 久保田伸
同 秋野卓生
同 七字賢彦
被告 プロミス株式会社
被告補助参加人 オムロン株式会社 (以下「被告補助参加人オムロン」という。)
被告補助参加人 日本アイ・ビー・エム株式会社 (以下「被告補助参加人アイビーエム」という。)
被告訴訟代理人兼被告補助参加人オムロン訴訟代理人弁護士 中島敏
被告補佐人兼被告補助参加人オムロン補佐人弁理士 世良和信
被告訴訟代理人兼被告補助参加人アイビーエム訴訟代理人弁護士 片山英二
同 北原潤一
同 村上寛
被告補佐人兼被告補助参加人アイビーエム補佐人弁理士 黒田薫
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2001/05/29
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
原告の請求
被告は,別紙イ号物件目録及び同ロ号物件目録記載のシステムを使用してはならない。
事案の概要
本件は,カード発行システムについて特許権を有する原告が,被告に対し,被告が使用する「いらっしゃいましーん」なる名称のカード発行システムが,原告の特許発明に係る明細書の特許請求の範囲に記載された構成と均等であり,その技術的範囲に属すると主張して,当該特許権に基づき上記システムの使用行為の差止めを求めている事案である。
1 当事者間に争いのない事実 (1) 原告は,次の特許権(以下「本件特許権」という。)を有する。
@ 発明の名称 カード発行システム A 出願年月日 平成3年8月24日 B 出願番号 特願平3-295290 C 登録年月日 平成9年10月3日 D 特許番号 第2703683号 (2) 本件特許権に係る明細書(以下「本件明細書」という。本判決末尾添付の特許公報〔甲2。以下「本件公報」という〕参照)の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,この発明を「本件特許発明」という。)。
「会員証などのカードの発行を集中的に制御する親局と,この親局の制御の下にカードの発行を行う少なくとも一つの子局とを有し,前記子局は,運転免許証などの身分証明書が貼付され署名がなされたシートを読み取りハードコピー化する情報読み取り手段と,得られたハードコピーを前記親局に伝送する情報伝送手段と,カードの発行を行うカード発行手段と,前記親局からカード発行許可信号を受け取ると,前記カード発行手段に対してカード発行を指示する駆動制御手段とを備え,前記親局は,前記子局の情報伝送手段によって供給される情報を受け取る情報受取手段と,前記子局に対して前記カード発行許可信号を伝送する許可信号発生手段とを備えている,ことを特徴とするカード発行システム。」 (3) 本件特許発明の特許請求の範囲の記載は,次のAないしHの構成要件に分説することができる(以下,それぞれの構成要件を「構成要件A」などという。)。
A 会員証などのカードの発行を集中的に制御する親局と,この親局の制御の下にカードの発行を行う少なくとも一つの子局とを有し, B 前記子局は,運転免許証などの身分証明書が貼付され署名がなされたシートを読み取りハードコピー化する情報読み取り手段と, C 得られたハードコピーを前記親局に伝送する情報伝送手段と, D カードの発行を行うカード発行手段と, E 前記親局からカード発行許可信号を受け取ると,前記カード発行手段に対してカード発行を指示する駆動制御手段を備え, F 前記親局は,前記子局の情報伝送手段によって供給される情報を受け取る情報受取手段と, G 前記子局に対して前記カード発行許可信号を伝送する許可信号発生手段とを備えている, H ことを特徴とするカード発行システム (4) 被告は,被告補助参加人オムロンの製造販売にかかる別紙イ号物件目録記載のシステム(以下「イ号システム」という。)及び被告補助参加人アイビーエムの製造 販売にかかる別紙ロ号物件目録記載のシステム(以下「ロ号システム」といい,イ号システムとロ号システムを併せて「被告システム」という。)を使用している。
2 争点及びこれに関する当事者の主張 (1) 被告システムと本件特許発明構成要件との対比 (原告の主張) ア イ号システムについて (ア)当事者間に争いのないイ号物件目録を分説し,これを要約整理した結果に基づくイ号システムの構成の特徴は次のとおりである。
@ リモート・センターは,無人のカード発行装置である自動契約機11とISN64などの通信回線により接続されており,リモート・センターのオペレータ・役席者によって与信審査及び借入申込書・融資契約書・カード受領書等の帳票26の必要事項のチェックを行うことにより,カード発行を行う無人のカード発行装置である自動契約機11を有し, A 前記無人のカード発行装置である自動契約機11は,運転免許証や健康保険証,その他の身分証25及び申込者の署名がなされた借入申込書・融資契約書・カード受領書等の帳票26の情報を読みとるスキャナ24並びに,性別,職務形態,電話番号,最終学校などの与信関連項目についての回答を入力できるタッチ入力兼用の表示器23を有し, B 前記スキャナ24によって読み取られた画像データとタッチ入力兼用の表示器23により得られた情報を制御部(CPU)161,記憶部(メモリ)162及び通信処理部163により通信回線を介してリモート・センターへ伝送する手段と C カードの発行を行うカード発行部22及びカード発行口13を有し, D 前記リモート・センターから前記与信審査の結果信用ありと判断され,前記帳票26の内容が妥当であると判断した旨の通知を前記通信回線を介して受け取ると,カードをスタッカから繰り出しカード発行を指示する駆動制御手段とを備え, E 前記リモート・センターは,無人カード発行装置である自動契約機11から制御部(CPU)161,記憶部(メモリ)162及び通信処理部163により通信回線を介して伝送されてきた与信関連項目データ,帳票26の画像データ等の情報を受け取る制御部(PC)210及び記憶部(メモリ)202,表示部(CRT)203を備え, F 前記リモート・センターの受付端末200から,前記与信審査の結果信用ありと判断され,前記帳票26の内容が妥当であると判断された旨の通知を自動契約機11に対して送信する許可通知発生手段とを備えている, G 契約カード発行システムである。
(イ)本件特許発明とイ号システムの構成との比較 a イ号システムの構成の特徴@のリモート・センターは構成要件Aの親局に,無人のカード発行装置である自動契約機11は子局にそれぞれ該当する。リモート・センターは,常駐するオペレータ・役席者によって申込者の与信審査及び借入申込書・融資契約書・カード受領書等の帳票の必要事項のチェックを行い,これに基づき無人のカード発行装置である自動契約機11がカードを発行しているから,リモート・センターはカードの発行を集中的に制御している。したがって,構成の特徴@は構成要件Aを充足する。
b 構成の特徴Aの「運転免許証や健康保険証,その他の身分証25及び申込者の署名がなされた借入申込書・融資契約書・カード受領書等の帳票26」は構成要件Bにおける「運転免許証などの身分証明書が貼付され署名がなされたシート」に該当するというべきである。構成要件Bにおけるシートは必ずしも身分証明書が貼付されている1枚のシートである必然性はないからである。
しかし,構成の特徴Aの「スキャナ24」は,構成要件Bにおける「情報読み取り手段」に該当するものの,読み取った情報をハードコピー化していない点で異なる。(相違点1) c 構成の特徴Bは,前記スキャナ24によって読み取られた帳票26の画像データを制御部(CPU)161,記憶部(メモリ)162及び通信処理部163により通信回線を介してリモート・センターへ伝送する手段を備えており,この伝送手段は本件特許発明構成要件Cの情報伝達手段に該当する。
しかし,伝達の対象となる情報については,構成要件Cではハードコピーであるのに対して,イ号システムではスキャナによって読み取られた画像データである点で異なる。(相違点2) d 構成の特徴Cは,カードの発行を行うカード発行部22及びカード発行口13を有しており,カード発行装置を備えているから構成要件Dを充足する。
e 構成の特徴Dのリモート・センターから与信審査の結果信用ありと判断され,前記帳票26の内容が妥当であると判断した旨の通知は,かかる通知によってカードの発行が可能となるのであるから,構成要件Eのカード発行許可信号に該当し,自動契約機11はこのカード発行許可信号を前記通信回線を介して受け取ると,カードをスタッカから繰り出しカード発行を指示するから,カード発行を指示する駆動制御手段を備えており,構成の特徴Dは構成要件Eを充足する。
f 構成の特徴Eのリモート・センターは制御部(PC)210及び記憶部(メモリ)202,表示部(CRT)203によって,無人カード発行装置である自動契約機11から制御部(CPU)161,記憶部(メモリ)162及び通信処理部163により通信回線を介して伝送されてきたタッチ入力兼用の表示器23によって得られた与信関連項目データ,スキャナ24によって得られた帳票26の画像データ等の情報を受け取ることができるから,本件特許発明構成要件Fの情報受取手段に該当する。したがって,構成の特徴Eは,構成要件Fを充足する。
g 構成の特徴Fのリモート・センターの許可通知発生手段は,本件特許発明構成要件Gの許可信号発生手段に該当するから,構成の特徴Fは,構成要件Gを充足する。
h 構成の特徴Gは,構成要件Hを充足する。
イ ロ号システムについて (ア)当事者間に争いのないロ号物件目録を分説し,これを要約整理した結果に基づくロ号システムの構成の特徴は次のとおりである。
@′ リモート・センターは,無人のカード発行装置である自動契約機61とISN64などの通信回線により接続されており,リモート・センターのオペレータ・役席者によって与信審査及び借入申込書・融資契約書・カード受領書等の帳票の必要事項のチェックを行うことにより,カード発行を行う無人のカード発行装置である自動契約機61を有し, A′ 前記無人のカード発行装置である自動契約機61は,運転免許証や健康保険証,その他の身分証及び申込者の署名がなされた借入申込書・融資契約書・カード受領書等の帳票の情報を読み取るスキャナ68並びに,性別,職務形態,電話番号,最終学校などの与信関連項目についての回答を入力できるタッチ入力兼用の表示器73を有し, B′ 前記スキャナ68によって読み取られた画像データとタッチ入力兼用の表示器73により得られた情報を制御部(CPU)101,記憶部(メモリ)102及び通信処理部により通信回線を介してリモート・センターへ伝送する手段と C′ カードの発行を行うカード発行部72及びカード発行口63を有し, D′ 前記リモート・センターから前記与信審査の結果信用ありと判断され,前記帳票の内容が妥当であると判断した旨の通知を前記通信回線を介して受け取ると,カードをスタッカから繰り出しカード発行を指示する駆動制御手段とを備え, E′ 前記リモート・センターは,無人カード発行装置である自動契約機61から制御部(CPU)101,記憶部(メモリ)102及び通信処理部により通信回線を介して伝送されてきた与信関連項目データ,帳票の画像データ等の情報を受け取る制御部(PC)251及び記憶部(メモリ)252,表示部(CRT)253を備え, F′ 前記リモート・センターの受付端末250から,前記与信審査の結果信用ありと判断され,前記帳票の内容が妥当であると判断された旨の通知を自動契約機61に対して送信する許可通知発生手段とを備えている, G′ 契約カード発行システムである。
(イ)本件特許発明とロ号システムの構成との比較 a ロ号システムの構成の特徴@′のリモート・センターは構成要件Aの親局に,無人のカード発行装置である自動契約機61は子局にそれぞれ該当する。
リモート・センターは,常駐するオペレータ・役席者によって申込者の与信審査及び借入申込書・融資契約書・カード受領書等の帳票の必要事項のチェックを行い,これに基づき無人のカード発行装置である自動契約機61がカードを発行しているから,リモート・センターはカードの発行を集中的に制御している。したがって,構成の特徴@′は構成要件Aを充足する。
b 構成の特徴A′の「運転免許証や健康保険証,その他の身分証及び申込者の署名がなされた借入申込書・融資契約書・カード受領書等の帳票」は構成要件Bにおける「運転免許証などの身分証明書が貼付され署名がなされたシート」に該当するというべきである。構成要件Bにおけるシートは必ずしも身分証明書が貼付されている1枚のシートである必然性はないからである。
しかし,構成の特徴A′の「スキャナ68」は,構成要件Bにおける「情報読み取り手段」に該当するものの,読み取った情報をハードコピー化していない点で異なる。(相違点1) c 構成の特徴B′は,前記スキャナ68によって読み取られた帳票の画像データを制御部(CPU)101,記憶部(メモリ)102及び通信処理部により通信回線を介してリモート・センターへ伝送する手段を備えており,この伝送手段は本件特許発明構成要件Cの情報伝達手段に該当する。
しかし,伝達の対象となる情報については,構成要件Cではハードコピーであるのに対して,イ号システムではスキャナによって読み取られた画像データである点で異なる。(相違点2) d 構成の特徴C′は,カードの発行を行うカード発行部72及びカード発行口63を有しており,カード発行装置を備えているから構成要件Dを充足する。
e 構成の特徴D′のリモート・センターから与信審査の結果信用ありと判断され,前記帳票の内容が妥当であると判断した旨の通知は,かかる通知によってカードの発行が可能となるのであるから,構成要件Eのカード発行許可信号に該当し,自動契約機61はこのカード発行許可信号を前記通信回線を介して受け取ると,カードをスタッカから繰り出しカード発行を指示するから,カード発行を指示する駆動制御手段を備えており,構成の特徴D′は構成要件Eを充足する。
f 構成の特徴E′のリモート・センターは制御部(PC)251及び記憶部(メモリ)252,表示部(CRT)253によって,無人カード発行装置である自動契約機61から制御部(CPU)101,記憶部(メモリ)102及び通信処理部により通信回線を介して伝送されてきたタッチ入力兼用の表示器73によって得られた与信関連項目データ,スキャナ68によって得られた帳票の画像データ等の情報を受け取ることができるから,本件特許発明構成要件Fの情報受取手段に該当する。したがって,構成の特徴E′は,構成要件Fを充足する。
g 構成の特徴F′のリモート・センターの許可通知発生手段は,本件特許発明構成要件Gの許可信号発生手段に該当するから,構成の特徴F′は,構成要件Gを充足する。
h 構成の特徴G′は,構成要件Hを充足する。
(被告及び被告補助参加人らの主張) ア イ号システムについて 原告主張のイ号システムの特徴の要約は,イ号物件の自動契約機61を「カード発行装置」とし,イ号システムを「契約カード発行システム」とするなど,当事者間で合意済みのイ号物件目録に基づいて,これを正確に要約整理していないから,否認する。
イ号物件は,読み取った情報をハードコピー化しない点,スキャナで読み取った帳票等の画像データをハードコピーによりリモート・センターヘ伝送する手段を有しない点において,本件特許発明構成要件B,同Cを充足しない。この点は,原告も既に自認するところである。
上記に止まらず,イ号物件の自動契約機における読み取り対象は「運転免許証などの身分証明書が貼付され署名がなされたシート」ではないから,この点においても,イ号システムは本件特許発明構成要件Bを充足しない。原告は,「運転免許証や健康保険証,その他の身分証及び申込者の署名がなされた借入申込書・融資契約書・カード受領書等の帳票」が構成要件Bの「運転免許証などの身分証明書が貼付され署名がなされたシート」に該当すると主張するが,失当である。
イ ロ号システムについて 原告主張のロ号システムの特徴の要約は,ロ号物件の自動契約機61を「カード発行装置」とし,ロ号システムを「契約カード発行システム」とするなど,当事者間で合意済みのロ号物件目録に基づいて,これを正確に要約整理していないから,否認する。
ロ号物件は,読み取った情報をハードコピー化しない点,スキャナで読み取った帳票等の画像データをハードコピーによりリモート・センターヘ伝送する手段を有しない点において,本件特許発明構成要件B,同Cを充足しない。この点は,原告も既に自認するところである。
上記に止まらず,ロ号物件の自動契約機における読み取り対象は「運転免許証などの身分証明書が貼付され署名がなされたシート」ではないから,この点においても,ロ号システムは本件特許発明構成要件Bを充足しない。原告は,「運転免許証や健康保険証,その他の身分証及び申込者の署名がなされた借入申込書・融資契約書・カード受領書等の帳票」が構成要件Bの「運転免許証などの身分証明書が貼付され署名がなされたシート」に該当すると主張するが,失当である。
(2) 被告システムは,本件特許発明均等であるか。
(原告の主張) 被告システムの構成と本件特許発明構成要件B,Cとでは,構成要件Bにおいては,情報読み取り手段は読み取った身分証明に関する情報をハードコピー化するのに対して,構成の特徴A,A′においては,スキャナによって読み取った身分証明に関する情報をハードコピー化しないこと(相違点1),構成要件Cにおいては,得られたハードコピーを親局に対して伝送するのに対して,構成の特徴B,B′においては,スキャナによって読み取られた画像データ(イメージデータ)が伝送されること(相違点2),の2点において相違する。しかし,次のとおり,被告システムは本件特許発明均等である。
ア 本件特許発明の技術的課題は,「ビデオレンタル店のような営業形態においては,与信判断によって会員証などのカードを発行してよいかどうかを人的に判断する必要があり,会員証などのカード発行手続きを完全に無人化することができないところ,これを省力化すること」である。この技術的課題の解決手段として本件特許発明構成要件が存するところ,親局に与信判断をして会員証などのカードの発行を可とする判断をする担当者を常駐させることで会員証などのカードの発行を集中的に行うこと,その与信判断の資料となる与信情報を子局が獲得し,これを親局に伝達すること,という構成が本質的な構成部分というべきであり,どのような手段で与信判断の資料となる情報を獲得しこれを親局に伝送するかという構成は,付随的な構成にすぎず,本質的部分ではない。 イ 本件特許発明構成要件中の「複写機のスキャナ部で読み取った身分証明に関する情報を一旦ハードコピーし,このハードコピー上のイメージデータをファクシミリにより伝送する」ことを,被告システムのように「スキャナで読み取った身分証明に関する情報(イメージデータ)を伝送する」と置き換えても,子局の身分証明に関する情報をイメージデータとして親局に伝送できることは全く変わりがなく,本件特許発明の作用効果,すなわち「本発明によれば,人手に頼ることなく本店から離れた支店において適格者に対してのみ会員カード等の発行を行うことが可能になる」ことを奏することは明らかである。
ウ 被告が被告システムの使用を開始した平成7年2月ころの時点では,複写機,ファクシミリ,スキャナ,スキャナで読み取ったイメージデータの伝送手段方法等,原稿の画像情報を画像信号に変換して伝送する方法は全て当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)に広く知られており,そのうちのどの方法を採用するかは当業者の任意の選択にかかる事項であって,本件特許発明構成要件中の「複写機のスキャナ部で読み取った身分証明に関する情報を一旦ハードコピーし,このハードコピー上のイメージデータをファクシミリにより伝送する」ことを,被告システムのように「スキャナで読み取った身分証明に関する情報(イメージデータ)を伝送する」と置き換えることは当業者にとって容易に想到できたものである。
エ 本件特許発明の出願時である平成3年8月24日以前に,人手に頼ることなく本店から離れた支店において適格者に対して会員カード等の発行を行うことを目的として,本件特許発明構成要件における「複写機のスキャナ部で読み取った身分証明に関する情報を一旦ハードコピーし,このハードコピー上のイメージデータをファクシミリにより伝送する」ことに代えて,「スキャナで読み取った身分証明に関する情報(イメージデータ)を伝送する」ことにした被告システムの構成が公知であったことはなく,また,公知の技術から容易に推考することができたとすることもできない。
オ 原告は,本件特許発明の出願手続において,被告システムのように「スキャナで読み取った身分証明に関する情報(イメージデータ)を伝送する」という構成を本件特許発明技術的範囲から意識的に除外したこともない。
カ したがって,被告システムは本件特許発明技術的範囲均等の範囲に属しているから,被告システムを業として使用する行為は,本件特許権を侵害し,差止請求の対象になる。
(被告及び被告補助参加人らの主張) ア 本件特許発明の課題は,本件明細書の「発明が解決しようとする課題」欄に記載しているとおり「複数の支店を備えたビデオ等のレンタル店において,各支店において完全に無人化した状態で会員証の発行を行うことが可能なシステムを実現すること」である。
本件では,本件特許発明の出願前に既に公知であった文献として,「取引用カード発行システム」に関する公開特許公報(特開昭60-55487号。乙4。以下,「本件公開公報」という。)が存在するところ,これには,「本人確認を含むカード発行の手続きをすべて自動的に行え,しかも取引実績不良者のチェック及び二重登録のチェックをも可能とする取引用カード発行システムを提供すること」(本件公開公報3頁左上欄3行ないし8行目)を目的とする「取引用カード発行システム」として,「人手に頼ることなく本店から離れた支店において適格者に対してのみ会員カードの発行を行う」具体的なシステムが開示されている。そして,本件特許発明と本件公開公報に記載された発明を対比すると,本件特許発明の各構成要件A,D,E,F,G及びHがそれぞれ本件公開公報に開示されており,両者の間では,情報読み取り手段と情報伝送手段の具体的構成に相違があるにすぎない。すなわち,本件公開公報では,カード発行システムにおいて,カードの発行を集中的に制御する親局と,親局の制御のもとにカードを発行する無人化する子局という構成や,そのような構成に基づき,子局から親局に対し,認識装置で読み取られた運転免許証の免許証番号,電子カメラ装置で撮像した利用者の顔及び運転免許証の画像信号,キーボードで入力した氏名などの顧客情報を伝送する仕組みが開示されている。
よって,本件特許発明の特有の解決手段は,「複数の支店を備えたビデオ等のレンタル店の各支店において完全に無人化した状態で会員証の発行を行うことが可能なシステムを実現する」という本件特許発明の課題を達成するため,従来技術であった「カードの発行を集中的に制御する親局と,親局の制御のもとにカードを発行する無人化された子局」という構成に基づき,「子局から親局に対し,子局において身分証明書が貼付され署名がなされたシートを読み取ってハードコピー化したものを伝送する」という構成を採用したことにあると言える。
したがって,本件特許発明の特徴的な原理は,本件特許発明の出願前に既に公知であった「カードの発行を集中的に制御する親局と,親局の制御のもとにカードを発行する無人化された子局」という構成を前提として,身分証明書が貼付され署名がなされたシートをハードコピー化した上で親局に伝送するという手段を取り入れた点にある。
そうすると,原告の認める本件特許発明構成要件と被告システムの構成との相違部分は,これを他の構成に置き換えれば,全体として本件特許発明技術的思想と別個のものと評価されるものといえるから,上記の相違部分は本件特許発明の本質的部分に当たるものというべきである。
イ 本件特許発明の目的は,複数の支店を備えたビデオ等のレンタル店という限定された業種において,人手不足やコスト削減のため,各支店において完全に無人化した状態で会員証の発行を行うことが可能なシステムを実現することにある。
そして,本件特許発明は,子局において運転免許証などの身分証明書が貼付され署名がなされたシートを読み取りハードコピー化したものを親局に伝送するという構成を採用した結果,@ 通信手段としてアナログ公衆回線を利用することができ,また身分証明書が貼付され署名がなされた1枚のシートを1回送信するだけなので,接続時間はこの1枚のシートを送信する時間だけで済み(審査中は通信接続していない。),親局と子局との間の通信コストを低廉で済ませることができる,A 子局から親局への審査資料の送信が終了すると自動的に通信接続が断たれるので,1つの親局で同時並行的に複数の子局とのやり取りが可能となり,人手不足の問題を解消することができる,等の作用効果を奏することは明らかである。
そして,前記のとおり,本件特許発明が「人手不足やコスト削減」を目的としていることにかんがみ,これらの作用効果は本件特許発明にとって重要なものである。
原告の認める前記相違部分に関し,被告システムでは,身分証明書と借入申込書がそれぞれ別の機械にスキャナで読み取られ,またスキャナで読み取られ,自動メモリーにいったん記憶された身分証明書,借入申込書などの各デジタル画像データ及び顧客のキー入力したキー情報(コードデータ)を,それぞれ別の機会にISDN網等を用いて受付端末に伝送している。そこで,被告システムでは,@ 通信手段としてISDN網等を用いているため,アナログ公衆回線を利用することができない。また身分証明書,借入申込書などの各デジタル画像データ及び顧客のキー入力したキー情報(コードデータ)を,それぞれ別の機会にISDN網等を用いて受付端末に伝送し,かつ審査中も通信接続しているので,接続時間は,一定時間を要する。よって,親局と子局との間の通信コストを低廉で済ませることができない。また,A 1台の受付端末で同時に対応しうる自動契約機は1台のみであり,しかも申込受付からカード発行まで一定時間を要するので,人手不足の問題を解消することができない。
以上によれば,前記相違部分を被告システムにおけるものと置き換えた場合,本件特許発明の目的を達することができず,これと同一の作用効果を奏しない。
ウ 本件明細書では,@ 支店にモニターカメラを設置して本店の側において,そのカメラを介して得られた画像から利用者の身分証明書の利用を確認する方法では身分証明書の内容を正確に読み取れない場合があること,A デジタル回線を介して画像情報の転送を行うシステムは,一般的に高価になってしまうという問題点があること,を指摘している(本件公報6欄22行ないし31行目)。
これに加えて,本件特許発明が「コスト削減」を目的としていることからすれば,本件特許発明が,親局と子局との間の通信方式としてISDN網等を意識的に除外したものであることは明らかである。
エ したがって,本件においては,均等は成立しない。
(原告の再反論) ア 本質的部分について 本件公開公報に記載の発明では,取引カードの発行手続を完全に無人化することを目的としており,そのための障害となる本人確認を運転免許証番号を利用することにより可能とし,さらには,運転免許証番号を利用することにより二重発行をも防止できるようにしている。したがって,自動カード発行ユニット及びホストコンピュータのいずれの側においても人手を介在させることなく,取引カードを発行することが可能である。
これに対して,本件特許発明は,本件公開公報に記載の発明のように,ホストコンピュータにおいて運転免許証を用いた二重登録のチェック等を行って自動的に取引カードの発行の許否を判断する構成とは異なり,親局には担当者が常駐していることを前提としたシステム構成となっている。
以上のように,本件公開公報に記載の発明は取引カードの発行を完全に無人化することをシステム構成の基本としているのに対して,本件特許発明では担当者による高度な判断を利用しつつカードが発行される子局側を無人化することをシステム構成の基本としている点において異なる。
したがって,本件特許発明が特許として認められたのは,被告が主張するように「身分証明書が貼付され署名がなされたシートをハードコピー化し,得られたハードコピーを親局に伝送する」という特徴を本件特許発明が有していたからに他ならないからではなく,親局において常駐する人間が与信判断を行うことによって,従来,ビデオレンタル会員カードやクレジットカードの発行が,与信に関する判断のため,担当者を支店等の窓口に常駐させる必要がありこれを無人化することが不可能であったところを可能にした点に本件特許発明の本質があり,この点において発明性が存したからである。
置換可能性について 本件特許発明と被告システムとは,同一の作用効果をもたらすものである。すなわち,被告システムにおいては,顧客は,自動契約機と受付端末間の通信を用いてオペレータと対話状態を維持しながら,オペレータとは直接対面することなく,融資契約を締結し,かつ契約カードの交付を受けることができるが,このことは,リモート・センターから離れた無人の状態のカード発行装置である自動契約機において,カード発行の申込みをする適格者に対してカードの発行を行うことが可能になることを意味する。 本件特許発明によれば,人手に頼ることなく本店から離れた支店において適格者に対して会員カード等の発行を行うことが可能になる。
仮に,被告システムが,身分証明書が偽造されたものではないかどうかを精査すること,表示部(CRT)に映し出された顧客のカラー画像を目視し,また,顧客と双方向テレビ会議機能により対話を行うことといった作用を有するとしても,本件特許発明を被告システムが利用していることに何ら影響のない付加的な事項にすぎない。
意識的除外について 被告が引用する本件明細書の記載部分は,ハードコピー及びファクシミリを介することによって「利用者の身分証明書の内容を確認する」ことができ,デジタル回線によるカメラからの画像データを伝送しないでも,システムを構築することが可能になるという趣旨を説明しているにすぎず,通信回線としてのデジタル回線の利用それ自体を意識的に除外したものではないことは,明らかである。
(3) 本件特許には,明らかな無効理由があって,これに基づく権利行使は権利の濫用に当たり許されないか。
(被告及び被告補助参加人らの主張) 本件特許発明については,沖電気工業株式会社を請求人とする無効審判請求事件(無効2000-35143)において,平成12年12月20日付けで無効審決がされた。同審決に詳細に述べられているとおり,本件特許発明は,本件公開公報をはじめとする公知文献に記載された発明から当業者が容易に発明することができたものであり,特許法123条1項2号,同法29条2項により無効とされるべきことは明らかである。
よって,原告が,本件特許発明に基づき,被告に対し被告システムの使用について差止請求権を行使することは,権利の濫用に該当し,許されない。
争点に対する判断
本件においては,被告システムがいずれも,本件特許発明構成要件B,Cの文言を充足しない点(相違点1,2)を有することは,原告の自認するところである。原告は上記相違点の存在にもかかわらず,被告システムはいずれも本件特許発明の構成と均等なものとして,その技術的範囲に属すると主張するので,この主張の当否について判断する。
1 争点(2) (被告システムが本件特許発明均等であるか)について ア 本件において,本件特許発明の特許請求の範囲に記載された構成中の「運転免許証などの身分証明書が貼付され,署名がなされたシート」を「ハードコピー化」し,「得られたハードコピー」を親局に伝送する,という部分(以下「本件相違部分」という。)が,被告システムにおける構成(被告システムにおいては,身分証明書,借入申込書などがそれぞれ別の機会にスキャナで読み取られるという構成,及び,スキャナで読み取られ,自動メモリにいったん記憶された身分証明書,借入申込書などの各デジタル画像データ及び顧客のキー入力したキー情報(コードデータ)を,ぞれぞれ別の機会にISDN回線等を用いて受付端末に伝送するという構成)と異なっているという点については,当事者間に争いがない。
ところで,特許請求の範囲に記載された構成中に他人が製造する製品又は用いる方法(以下「対象製品等」という。)と異なる部分が存する場合であっても,@ 右部分が特許発明の本質的部分ではなく,A 右部分を対象製品等におけるものと置き換えても,特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって,B 右のように置き換えることに,当業者が,対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり,C 対象製品等が,特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから右出願時に容易に推考できたものではなく,かつ,D 対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは,右対象製品等は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明技術的範囲に属するものと解するのが相当である(最高裁平成6年(オ)第1083号同10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁参照)。
そこで,本件において,本件相違部分の存在にもかかわらず,上記の@ないしDの要件(以下,それぞれの要件を「要件@」などという。)を満たすことにより,被告システムが本件特許発明の特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,その技術的範囲に属するということができるかどうかを検討する。
イ 要件Aについて (ア)証拠(甲2,乙2,3)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
a 本件明細書の「発明の詳細な説明」の欄には,次の記述がある。
(a)「【産業上の利用分野】本発明は各種の会員券,会員証などを発行するためのカード発行システムに関するものである。特に本発明は,無人化されたビデオテープなどのレンタル店において,そのレンタル店の本店の側からの遠隔操作により会員証を発行するためのカード発行システムに関するものである。」(本件公報3欄19行〜24行) (b)「【従来の技術】近年,ビデオテープの利用者が増加するに伴い,ビデオテープのレンタル店の数も増加し,複数の支店を有するレンタルチェーン店も出現している。このようなレンタル店においては,利用者に運転免許証などを提示してもらい,身分を特定した後に,会員証を発行し,以後は会員券の提示のみでレンタルが行われるようになっている。」(本件公報3欄26行〜32行) (c)「【発明が解決しようとする課題】しかしながら,会員証の発行は依然として人手に頼っているのが現状である。これは,会員証の発行に際しては利用者の身分を確認するために運転免許証などの身分証明書を目視により確認する必要があるからである。このために,ビデオテープ等のレンタル店を完全に無人化することは困難である。
本発明の課題は,この点に鑑みて,複数の支店を備えたビデオ等のレンタル店において,各支店において完全に無人化した状態で会員証の発行を行うことが可能なシステムを実現することにある。」(本件公報3欄39行〜48行) (d)「【作用】本発明のシステムにおいては,まず子局側(レンタル店の支店)において利用者が運転免許証などの身分証明書が貼付され署名がなされたシートを複写機等を用いて複写する。これにより得たハードコピーをファクシミリ装置を介して親局側(レンタル店の本店)に送信する。送信済みのハードコピーは回収することが好ましい。親局側では,受信したシートの内容,すなわち利用者の身分を確認する。確認して問題が無ければ,ファクシミリ装置を用いて,子局側のファクシミリ装置を呼び出す。子局側の駆動制御手段は,子局側のファクシミリ装置を介して呼出し信号音を受け取ると,カード発行手段を駆動して,カードの発行を行わせる。このように,子局の側において店員を置くことなくカードの発行が行われる。」(本件公報4欄28行〜41行) (e)「【発明の効果】以上説明したように,本発明のカード発行システムにおいては,支店の側において運転免許証などの身分証明書が貼付され署名がなされたシートを読み取って,ハードコピーを得て,これを本店の側に送信する構成を採用している。本店の側では受信した情報に基づきカードの発行の許否を判別して,カードを発行する場合にはカード発行許可信号を支店側に送信して,支店側のカード発行機を駆動してカードの発行を行わせるように構成されている。したがって,本発明によれば,人手に頼ることなく本店から離れた支店において適格者に対してのみ会員カード等の発行を行うことが可能になる。」(本件公報6欄50行〜7欄11行) b 被告システムのうちイ号システムにおいては,顧客が,自動契約機11の入力操作面14の「はじめてお申込のお客様」キーを選択し,「確認」キーを押すと,これが受付端末200に送信され,オペレータに顧客の来店を知らせる。そして,信用情報機関の利用の同意,性別,職務形態,電話番号の入力を経て,本人確認書類の入力の段階において,顧客が,入力操作面14に表示された「運転免許証」キー,「健康保険証」キー,その他身分を証明する書類を示す「その他」キーのうちの少なくとも一つを選択した後,身分証をスキャナ24にセットすると,スキャナがこれを読み取り,画像データをメモリ162にいったん記憶した後,INS64なるISDN回線又は専用回線を介して一括して受付端末200へ送る。次に,借入申込書記入の段階において,記入案内を入力操作面14に表示し,顧客が記入完了を通知し,借入申込書をスキャナ24にセットすると,スキャナがこれを読み取り,画像データをメモリ162に記憶した後,ISDN回線又は専用回線を介して受付端末200に送信する。その後,借入申込みに対する契約の可否の決定及び契約をする場合の与信限度額の決定,暗証番号の入力,融資契約書の発行,カード受領書の発行の後,オペレータの指示により,自動契約機11がカードの発行を行う。ロ号システムについても,自動契約機などの装置に付された番号が異なるだけで,その余は同様である。
(イ)上記によれば,被告システムは,子局において,顧客がスキャナ24(ロ号システムではスキャナ68。以下同様)の読み取り面上にセットした運転免許証などの身分証明書及び借入申込書について,スキャナ24(スキャナ68)でそれらの画像をデジタルデータ化して読み取り,それを顧客端末内の記憶装置に上書して一時的に記憶し,該記憶した画像データをISDN回線ないし専用回線を介して親局に当たる受付端末200(受付端末250)に伝送することによって,人手に頼ることなく本店から離れた支店において適格者に対してのみ会員カード等の発行を行うことが可能になっているのであって,本件特許発明同一の作用効果を奏し,本件特許発明の目的を達成しているということができる。
(ウ)この点につき,被告及び被告補助参加人らは,前記第2,2(2) の被告及び被告補助参加人らの主張欄記載のとおり,被告システムは本件特許発明同一の作用効果を奏していない旨主張している。
しかしながら,被告システムのように,「メモリに一時的に記憶させるだけ」であっても,人手に頼ることなく本店から離れた支店において適格者に対してのみ会員カード等の発行を行うことが可能になっているということに変わりはない。確かに,被告システムは,スキャナで得られた画像データをISDN回線等を用いて親局に送り,そのデータから利用者の身分証明書の内容を確認する仕組みを用いており,ハードコピー化された情報を親局に伝送するという本件特許発明の構成と異なっていることは前述のとおりであるが,被告システムのメモリに一時的に記憶するという構成と本件特許発明のハードコピー化した情報を伝送するという構成とは,ともに,人手に頼ることなく本店から離れた支店において適格者に対してのみ会員カード等の発行を行うことを可能にするものと考えられ,被告システムが,スキャナで得られた画像データをISDN等を用いて親局に送るという構成を採ることにより,正確性,迅速性等の点において,本件特許発明の特許請求の範囲に記載された構成を採った場合に見られない作用効果を果たしているとしても,右の点は,本件特許発明の作用効果を奏した上で,これにさらに付加されたものというべきであるから,これを理由に被告システムの作用効果が本件特許発明と同一であるとの判断が妨げられるものではない。また,被告システムでは申込書及び身分証明書の内容をメモリに一時的に記憶させるだけであるので,子局側で,利用者が確かに来店して会員になったことの証明を得ることはできず,その点において,本件特許発明と異なるが,前記認定の本件特許発明の目的・作用効果に照らせば,この点をもって,被告システムが本件特許発明同一の作用効果を奏していないということはできない。
したがって,被告及び被告補助参加人らの前記主張は採用できない。
(なお,被告及び被告補助参加人らは,本件特許発明の目的は,ビデオ等のレンタル店という限定された業種において,会員証の発行を行うことが可能なシステムを実現することにあると主張するが,本件明細書の特許請求の範囲には,本件特許発明の開示するシステムをビデオ等のレンタル店におけるものに限定する記載はなく,また,「発明の詳細な説明」欄における「発明の効果」の項にもビデオのレンタル店に特有の作用効果は記載されていないから,本件明細書の「発明の詳細な説明」欄における「複数の支店を備えたビデオ等のレンタル店において」という記載(本件公報3欄45行〜46行)は単なる例示にすぎないと解され,この主張も採用できない。)。
(エ)以上によれば,本件相違部分を被告システムにおけるものと置き換えても,本件特許発明の目的を達することができ,これと同一の作用効果を奏するものと認められる。
ウ 要件@について (ア)均等が成立するためには,特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分が特許発明の本質的部分ではないことを要するが,ここにいう特許発明の本質的部分とは,特許請求の範囲に記載された特許発明の構成のうちで,当該特許発明特有の課題解決手段を基礎付ける特徴的部分,言い換えれば,この部分が他の構成に置き換えられるならば,全体として当該特許発明技術的思想とは別個のものと評価されるような部分をいうものと解するのが相当である。
すなわち,特許法が保護しようとする発明の実質的価値は,従来技術では達成し得なかった技術的課題を実現するための,従来技術に見られない特有の技術的思想に基づく解決手段を,具体的な構成をもって社会に開示した点にあるから,明細書の特許請求の範囲に記載された構成のうち,当該特許発明特有の解決手段を基礎付ける技術的思想の中核をなす特徴的部分が特許発明における本質的部分であると理解すべきであり,対象製品等がそのような本質的部分において特許発明の構成と異なれば,もはや特許発明の実質的価値は及ばず,特許発明の構成と均等ということはできないと解するのが相当である。
そして,発明が各構成要件の有機的な結合により特定の作用効果を奏するものであることに照らせば,対象製品等との相違が特許発明における本質的部分に係るものであるかどうかを判断するに当たっては,単に特許請求の範囲に記載された構成の一部を形式的に取り出すのではなく,特許発明先行技術と対比して課題の解決手段における特徴的原理を確定した上で,対象製品等の備える解決手段が特許発明における解決手段の原理と実質的に同一の原理に属するものか,それともこれとは異なる原理に属するものかという点から,判断すべきものというべきである。
(イ)これを本件についてみるに,証拠(甲2,乙4)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
a 本件明細書の「発明の詳細な説明」欄に記載された,本件特許発明が解決しようとする課題は,前記イ(ア)a(c)のとおりである。
b カード発行システムとしては,本件特許の出願がされた平成3年8月24日当時,「取引用カード発行システムにおいて,自動発行ユニットから,電子カメラ装置で影像した利用者の顔及び運転免許証の画像信号,並びにキーボードで入力した氏名などの顧客情報を管理センタへ伝送し,管理センタではオペレータが利用者の顔写真と免許証の写真とを照合して本人確認を行い,自動発行ユニットに取引用カードの発行命令を送出することにより,本人確認を経たカードの発行を無人で行うもの」(本件公開公報の発明)が公知であった。
(ウ)上記の事実によれば,本件特許の出願当時の技術水準に照らすと,カード発行システムにおいて,カードの発行を集中的に制御する親局と,親局の制御のもとにカードを発行する無人化された子局という構成や,そのような構成に基づき,子局から親局に対し,電子カメラ装置で撮像した利用者の顔及び運転免許証の画像信号,キーボードで入力した氏名などの顧客情報を伝送し,親局でオペレータが利用者を確認してカード発行許可信号を子局に伝送する構成自体は,すでに公知であったというべきである。そして,上記の公知技術を前提として,複数の支店を備えたビデオ等のレンタル店の各支店において完全に無人化した状態で会員証の発行を行うことが可能なシステムを実現するという技術的課題を達成するために,従来技術であったカードの発行を集中的に制御する親局と,親局の制御のもとにカードを発行する無人化された子局という構成に基づいて,子局から親局に対し,子局において身分証明書が貼付され署名がなされたシートを読み取ってハードコピー化したものを伝送するという構成を採用したことが,従来技術に見られない本件特許発明に特有の解決手段であったということができる。
これを言い換えれば,本件特許発明の特徴的原理は,既に公知であったカードの発行を集中的に制御する親局と,親局の制御の下にカードを発行する無人化された子局という仕組みを前提として,そのようなシステムの中で従来になかった一つの具体的な構成として,身分証明書が貼付され署名がなされたシートをハードコピー化した上で親局に伝送するという手段を取り入れた点にある。すなわち,本件特許発明は,カメラを介して得られた画像を伝送したり,通信回線とISDNを利用するようなシステムとは異なる一つの具体的なシステムを構築し,それにより,支店を完全に無人化した上でカード発行を可能にするという課題を解決するとともに,システムを廉価に構成でき,しかもハードコピー化された情報を目視することにより情報内容の確認を正確に行うことができるという既存の他のシステムにない利点を備えた具体的なシステムを開示したものである。
そうすると,本件特許発明の中核をなす特徴的部分は,子局において身分証明書が貼付され署名がなされたシートを読み取りハードコピー化し,得られたハードコピーを親局に伝送するという構成にあると解するのが相当である。
以上によれば,本件特許発明構成要件B及びCのうち,本件相違部分は,これを他の構成に置き換えれば,全体として本件特許発明技術的思想と別個のものと評価されるものというべきであるから,本件相違部分は本件特許発明の本質的部分に当たるといわなければならない。
(エ)この点につき,原告は,本件特許発明の中核となる特徴的部分は,親局に与信判断をして会員証などのカードの発行を可とする判断をする担当者を常駐させることで会員証などのカードの発行を集中的に行うともに,その与信判断の資料となる与信情報を子局が獲得しこれを親局に伝達するという構成にあり,本件特許発明と被告システムとの相違点は,情報伝達手段という付随的な構成にすぎないから,本質的部分に該当しない旨主張する。
しかしながら,親局に担当者が常駐していることを前提としたシステム構成であるという点については,本件公開公報(乙4)には,自動発行ユニットから,電子カメラ装置で利用者本人の顔及び運転免許証を撮像した画像信号を管理センタに送信し,管理センタではオペレータが利用者の顔写真と運転免許証の写真とを照合して厳密な本人確認を行うことが記載され(6頁左下欄15行〜7頁左上欄12行),しかも,カード発行時にこのような厳密な本人確認を行うことが開示されている(7頁左上欄9行〜11行)から,親局に担当者が常駐しているシステム構成は既に公知であったというべきである。また,前判示のとおり,本件特許の出願当時の技術水準に照らすと,カード発行システムにおいて,カードの発行を集中的に制御する親局と,親局の制御のもとにカードを発行する無人化された子局という構成は,既に公知であったというべきであるから,ハードコピー化とスキャナによる読み取りという本件特許発明と被告システムとの本件相違部分が,単なる情報伝達手段の相違にすぎないということはできない。原告の上記の主張を採用することはできない。
(オ)以上によれば,本件相違部分は,本件特許発明の本質的部分であるというべきであるから,本件においては,均等が成立する要件を欠いている。
エ 以上によれば,被告システムは,その余の点を判断するまでもなく,本件特許発明均等であるとは認められない。
したがって,被告による被告システムの使用行為は,その余の点を判断するまでもなく,本件特許権を侵害するものではないというべきであるから,原告の請求は理由がない。
2 よって,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 三村量一
裁判官 村越啓悦
裁判官 和久田道雄
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