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審判番号(事件番号) データベース 権利
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平成12ワ6570特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成15ワ4287損害賠償等請求事件 判例 特許
関連ワード 守秘義務 /  29条1項3号 /  複写物 /  進歩性(29条2項) /  公知技術 /  技術的範囲 /  発明の詳細な説明 /  分割出願 /  権利の濫用(権利濫用) /  対象製品 /  均等 /  均等論 /  置き換え /  置換 /  置換可能性 /  同一の作用効果 /  置換容易性 /  容易に想到(容易想到性) /  非容易 /  意識的除外(意識的に除外) /  特許発明 /  実施 /  構成要件 /  構成要件充足性 /  侵害 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 /  審決確定(審決が確定) / 
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事件 平成 14年 (ワ) 12410号 損害賠償請求事件
原告 東海理研株式会社
訴訟代理人弁護士 佐尾重久
補佐人弁理士 富澤孝
同 山中郁生
同 岡戸昭佳
同 奥田誠
同 田中裕人
同 野村茂樹
被告 山崎産業株式会社
訴訟代理人弁護士 村林隆一
同 松本司
同 岩坪哲
同 井上裕史
補佐人弁理士 高良尚志
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2004/01/15
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
被告は、原告に対し、3402万6450円及びこれに対する平成14年12月17日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は、「ポスト用異物収集装置」に関する2つの特許権を有する原告が、
被告によるポスト用異物収集装置の製造販売が各特許権を侵害するものであり、これによって原告が損害を被ったと主張して、被告に対し損害賠償を求めた事案である。
1 前提となる事実(特に明示した部分以外は当事者間に争いがない。) (1) 特許権 ア 原告は、下記@及びAの各特許権(以下、@の特許権を「本件特許権A」、Aの特許権を「本件特許権B」といい、それぞれの請求項1記載の発明を「本件発明A」、「本件発明B」といい、両発明を合わせて「本件各発明」という。また、本件各特許権に係る明細書を「本件各明細書」という。)の特許権者である。
@ 本件特許権A 発明の名称 ポスト用異物収集装置 出願日 平成9年2月28日 出願番号 特願2000-117692号 (特願平9-46655号の分割) 登録日 平成12年8月4日 特許番号 特許第3096040号 特許請求の範囲 別紙特許公報(特許第3096040号。以下「本件公報A」という。)の該当欄記載のとおり A 本件特許権B 発明の名称 ポスト用異物収集装置 出願日 平成9年2月28日 出願番号 特願2000-117700号 (特願平9-46655号の分割) 登録日 平成12年8月4日 特許番号 特許第3095750号 特許請求の範囲 別紙特許公報(特許第3095750号。以下「本件公報B」という。)の該当欄記載のとおり イ 本件発明Aの構成要件は、次のとおり分説できる。
a ポスト本体の差入口の内側下方で、かつ、ポスト本体内の郵袋の上方に位置し、前記差入口から投函された郵便物のみを選択して前記郵袋に導く選択手段と、
b 前記選択手段で選択された前記差入口から投函された郵便物を除く異物を収容する異物収容手段と、
c 少なくとも、揺動自在に配設し、前記差入口から投函された運動エネルギーを低減させる差入口より広い幅を有し、略く字状に折曲した規制板を有し、
前記差入口から投函された郵便物を郵袋に導く投函物案内手段とを具備し、
d 前記選択手段は、前記異物収容手段を構成する収容箱の上面及び前記収容箱の前記規制板側の前面から前記収容箱の底部まで異物を導くポスト用異物収集装置において、
e 前記選択手段は、前記異物収容手段を構成する収容箱の上面に、前記差入口に近い位置を高く、前記差入口から離れるに従って低く形成し、前記差入口の方向に対して直角に所定の間隔で複数の線材を配設し、前記規制板との間に間隙を形成し、収容箱の立上前面との間にも間隙を形成して収容箱の底部まで異物を導くこと f を特徴とするポスト用異物収集装置。
ウ 本件発明Bの構成要件は、次のとおり分説できる。
a ポスト本体の差入口の内側下方で、かつ、ポスト本体内の郵袋の上方に位置し、前記差入口から投函された郵便物のみを選択して前記郵袋に導く選択手段と、
b 前記選択手段で選択された前記差入口から投函された郵便物を除く異物を収容する異物収容手段と、
c 少なくとも、揺動自在に配設し、前記差入口から投函された運動エネルギーを低減させる差入口より広い幅を有し、略く字状に折曲した規制板を有し、
前記差入口から投函された郵便物を郵袋に導く投函物案内手段とを具備し、
d 前記選択手段は、前記異物収容手段を構成する収容箱の上面及び前記収容箱の前記規制板側の前面から前記収容箱の底部まで異物を導くポスト用異物収集装置において、
e 前記選択手段は、前記異物収容手段を構成する収容箱の上面に、前記差入口に近い位置を高く、前記差入口から離れるに従って低く形成し、前記差入口の方向に対して直角に所定の間隔で複数の線材を配設し、前記規制板との間に間隙を形成し、収容箱の立上前面との間にも間隙を形成して収容箱の底部まで異物を導くとともに、
f 前記選択手段と前記規制板との間にある間隙を、前記収容箱の立上前面に配設したスペーサによって設けたこと g を特徴とするポスト用異物収集装置。
(2) 被告は、別紙物件目録記載のポスト用異物収集装置(以下「イ号物件」という。)を製造販売している 。イ号物件は、郵便差出箱10号用、同14号用、同14号S用の3種類があるが、これらは、規制板の幅と差入口の幅及び収容箱Aに配設された線材Cの本数に違いがあるだけで、その余の構成は同じである。
イ号物件の構成の記述については、前記目録記載のとおり、当事者間に争いがある。
2 争点 (1) 構成要件充足性 〔原告の主張〕 イ号物件は、規制板の形状がほぼ直線状である点で、本件各発明の構成要件cの「略く字状に折曲した規制板」の構成と異なっている。また、イ号物件のうち郵便差出箱10号用のものは、規制板の幅が差入口の幅より狭いから、同cの「差入口より広い幅を有(する)・・・規制板」との構成と異なっている。
しかし、イ号物件は、上記の点以外は、本件各発明の構成要件をすべて充足する。
〔被告の主張〕 イ号物件は、原告が自認する点以外に、次の諸点で本件各発明の構成要件を充足しない。
構成要件aについて イ号物件は、選択手段により一定の寸法以下の異物を選択して異物収容手段に回収するが、一定寸法以上の異物については郵便物とともに郵袋に回収する構成になっているから、構成要件aの「郵便物のみを選択して前記郵袋に導く」との構成を有しない。
構成要件cについて 構成要件cの「差入口から投函された運動エネルギーを低減させる」とはいかなる意味か不明であって、イ号物件はそのような構成を有していない。
構成要件dについて イ号物件は、選択手段の線材の隙間の大きさ以下の異物を落として収容箱に回収する構成になっており、収容箱の上面から異物を導くように構成されているのであって、規制板側前面から異物を導く構成にはなっていないから、構成要件dの「規制板の前面から異物を導く」との構成を具備しない。
構成要件eについて イ号物件において、異物が収容箱に落ちるのは、選択手段の線材の隙間から落ちるからであり、構成要件eのように「規制板との間に間隙を形成し、収容箱の立上前面との間にも間隙を形成し」た効果ではない。また、イ号物件においては、選択手段の線材は差入口に対して略直角に、言い換えれば差入口の方向に設置されているから、「差入口の方向に対し直角に所定の間隔で複数の線材を配設し」との構成を具備しない。したがって、イ号物件は、構成要件eを充足しない。
オ 本件発明Bの構成要件fについて イ号物件においては、選択手段と規制板との間にスペーサがなくとも間隙が生じる構成になっており、スペーサを配設したことと選択手段と規制板との間にある間隙を設けたこととは無関係であるから、本件発明Bの構成要件fを充足しない。
(2) 均等の成否 〔原告の主張〕 イ号物件は、前記(1)の〔原告の主張〕で述べたように、規制板の形状がほぼ直線状である点、及びイ号物件のうち郵便差出箱10号用のものは、規制板の幅が差入口の幅より狭い点で、本件各発明の構成要件cと相違するが、以下のとおり、本件各発明の構成と均等である。
構成要件cの「略く字状に折曲した規制板」について (ア) 非本質的部分 本件各発明の特許請求の範囲において、「略く字状に折曲した規制板」と記載されているのは、従来技術を記載している、いわゆる「おいて書き」の部分である。略く字状の規制板も直線状の規制板も、本件各特許権の出願前から存在するものであり、従来から公知のものが本件各発明の本質部分ではあり得ない。
本件発明Aの本質的部分は、構成要件eの部分にあり、これにより、
タバコやマッチ等の燃焼物やガム等が投入されても、収用箱の底部に収集されるために、投函された郵便物を燃焼させたり汚染させたりすることがないという優れた作用効果を奏するものである。また、本件発明Bの本質的部分は、構成要件e及び同fの部分にあり、これにより、上記の本件発明Aの作用効果に加えて、投函された郵便物が容易にポスト内部に落下可能なようにするという優れた作用効果を奏するものである。 (イ) 置換可能性 略く字状の規制板も直線状の規制板も、本件各特許権の出願前から存在するところ、略く字状の規制板を直線状の規制板に置換しても、本件各発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏することは明らかである。
(ウ) 置換容易性 略く字状の規制板も直線状の規制板も、本件各特許権の出願前から存在するから、当業者であれば、略く字状の規制板を直線状の規制板に置換することは極めて容易に行うことができる。
(エ) 非容易推考性 本件各発明は、出願当時の自由技術から当業者が容易に推考できたものでない。
(オ) 意識的除外 本件各特許権の出願手続において、直線状の規制板を特許請求の範囲から意識的に除外したという事情はない。
なお、略く字状の規制板は従来技術であり、拒絶査定や取消審決、無効審決を免れるために、これに限定したというものでもない。
被告がその主張において引用する本件各明細書中の記載は、実施例の規制板の構造を説明しているにすぎない。
構成要件cの「(規制板が)差入口より広い幅を有し」(イ号物件のうち郵便差出箱10号用)について (ア) 非本質的部分 本件各発明の特許請求の範囲において、「差入口より広い幅を有し」と記載されているのは、従来技術を記載したいわゆる「おいて書き」の部分であり、本質的部分ではない。
(イ) 置換可能性 規制板の幅が差入口よりも広い方が望ましいのは、差入口の両端の位置から火のついた煙草の吸い殻が投入された場合に、その方が安定して異物収容箱に導くのが可能であるからである。
仮に、規制板の幅が差入口よりも煙草の吸い殻の太さである約8ミリメートルより狭いと、差入口の両端から投入された煙草の吸い殻を安定して異物収容箱に導けない恐れがある。
しかし、郵便差出箱10号用のイ号物件の規制板の幅は、差入口よりも全体で4ミリメートル、両端においては2ミリメートルずつ狭いにすぎず、機能的に同一ということができ、本件各発明と同一の作用効果を奏することができることは明らかである。
(ウ) 置換容易性 規制板の幅を差入口より広いものから狭いものに置換することは、当業者であれば極めて容易に行うことができる。
(エ) 非容易推考性 本件各発明は、出願当時の自由技術から当業者が容易に推考できたものでない。
(オ) 意識的除外 本件各特許権の出願手続において、拒絶査定や取消審決、無効審決を免れるために、差入口より幅の狭い規制板を特許請求の範囲から意識的に除外したという事情はない。
なお、差入口より幅の広い規制板は従来技術であり、上記のような理由からこれに限定したというものでもない。
〔被告の主張〕 ア 構成要件cの「略く字状に折曲した規制板」について (ア) 非本質的部分 本件各発明は、従来技術である特開平9-47354公開特許公報(甲6)に記載のない「前記選択手段は、・・・前記規制板との間に間隙を形成し、収容箱の立上前面との間にも間隙を形成して収容箱の底部まで異物を導く」との構成(構成要件e)に進歩性が認められたものであるところ、かかる構成を採用した場合には、規制板は収容箱方向に傾斜していなければ、収容箱に異物を導くことができない。本件各発明の「略く字状の規制板」の構成を「直線状の規制板」に替えた場合には、規制板は異物を収容箱に導くことができず、本件発明の作用効果を達し得なくなるから、本件各発明の技術思想とは別個のものと評価されることになる。
よって、規制板が略く字状の構成となっていることは、本件各発明の本質的部分である。
(イ) 置換可能性 上記(ア)のとおり、略く字状の規制板を直線状の規制板に置換したのでは、本件各発明の作用効果を奏さないから、置換可能性はない。
また、イ号物件は、折曲していない規制板を使用していることにより、規制板の上半部が差入口から奥へと離隔するため、差入口から手などを差し入れても容易に規制板に届かず、規制板を不正に開いて異物を投入することが困難になるとの優れた作用効果を奏する。これに対し、本件各発明では、略く字状に折曲した規制板を使用しているため、規制板の上半部が差入口に近接する構成となるのであり、イ号物件のような効果を奏さない。
(ウ) 置換容易性 イ号物件は、規制板とバランサーを採用した独特の構成であり、本件各発明との間に置換容易性はない。
(エ) 意識的除外 a 本件各明細書には、本件各発明の作用効果として、「規制板34は差入口3の反対側に回動するとき、略く字状に折曲されているから、その開口を大きくすることができ、定常状態では、規制板34自由端から異物収容手段10に異物を導くことができる。」と記載されている(本件公報A11欄24ないし27行、本件公報B10欄43ないし46行)。
原告は、上記の作用効果を意図した上で、本件各発明の構成において、規制板の形状として「略く字状」との限定をしたのであり、折曲のない規制板は意図的に除外されたものである。
b さらに、原告は、平成9年2月28日、出願番号特願平9-46655号(乙22)の特許出願をし、平成12年4月19日、当該出願から本件各発明を分割出願した。また、平成9年2月28日、原告は、出願番号実願平9-1193号(乙23)の実用新案登録出願をした。
上記各出願にかかる各発明及び考案は、いずれも「ポスト用異物収集装置」に関するものであって、選択手段、異物収容手段及び投函物案内手段を有し、その投函物案内手段は規制板を有し、その規制板は差入口より広い幅を有し、
かつ、略く字状に折曲している。
このように、原告は、平成9年にした上記各出願において、すべての発明及び考案について、別個の発明又は考案であるという前提にもかかわらず、
いずれも上記構成を必須の構成要素として出願しているのであるから、意図的にこのように限定したものと解すべきである。
したがって、略く字状ではない規制板に均等論を適用する余地はない。
構成要件cの「(規制板が)差入口より広い幅を有し」(イ号物件のうち郵便差出箱10号用)について (ア) 非本質的部分 「(規制板が)差入口より広い幅を有し」との構成が本件各発明の非本質的部分であることは認める。
(イ) 置換可能性 本件各発明は、原告が主張するように、規制板が差入口よりも広い幅を有している公知のポストを前提として課題を解決したというのであるから、従来使用されていない、規制板が差入口よりも狭い幅のポストに本件各発明の技術的範囲が及ぶことはあり得ない。
原告は、煙草の吸い殻の太さを問題とするが、そのような主張は、本件各明細書の記載を無視するものである。
(ウ) 置換容易性 原告が主張するとおり、公知の技術として、規制板の幅は差入口より広い方が望ましいと当然に考えられていたのであり、それを敢えて差入口よりも狭い幅に変更することは、置換容易性があるとはいえない。
(エ) 意識的除外 前記アの被告の主張(エ)bのとおりであるから、差入口よりも幅の狭い規制板に均等論を適用する余地はない。
(3) 明白な無効理由の存否(出願前公知) 〔被告の主張〕 本件各特許権の出願前に、以下のような事実経過が存在した。
ア 原告は、平成8年6月11日、本件各発明の構成をすべて記載した図面を作成し、社団法人郵政ニューオフィス研究会に送付した。
イ 社団法人郵政ニューオフィス研究会は、同年8月24日、郵政省郵務局輸送企画課企画調整係のA次席に上記図面を送付した。
ウ 社団法人郵政ニューオフィス研究会は、同月26日、Bに上記図面を送付した。
エ 郵政省は、同年10月7日、上記図面が含まれる入札通知を、入札業者に交付した。
本件各発明は、いずれも特許権の出願前である上記ア、イ又はウの時点で日本国内において公知となったものであるから、無効理由が存在することが明白である。したがって、本件各特許権に基づく権利行使は権利の濫用として許されない。
なお、上記の図面は、原本1枚だけのものではなく、複写物が作成されていたものであり、それは頒布によって公開することを目的としていたものである。
それが、郵政省のA次席に交付され、あるいは民間会社のBに交付されたことは、
上記図面が多数の者が見えるような状態に置かれたことを意味する。
また、上記図面について、守秘義務が課されていたとはいえない。すなわち、国家公務員であってもすべての事項について守秘義務を負うものではないところ、上記図面を含む書類には秘密であることを示す印が付されていなかったのであるから、秘密扱いをしていなかったことは明らかである。
〔原告の主張〕 被告の主張は争う。
特許法29条1項3号にいう刊行物とは、公衆に対して頒布により公開することを目的として複製された文書、図面その他これに類する情報伝達媒体をいい、公開的なものであるから印刷物の内容を秘密にしているものあるいは私文書を多数の友人に配布するために印刷したものはこれに当たらないと解すべきである。
被告が主張する図面は、原告が作成し、技術検討を目的として、社団法人郵政ニューオフィス研究会に送付したものであり、公衆に対して頒布により公開を目的としたものでもなければ、複製されたものでもない。
また、郵政省の職員は、国家公務員法により守秘義務を負っていたし、社団法人郵政ニューオフィス研究会は郵政省から業務委託を受け、実質的に郵政省の窓口の役割を担っていた公益法人であるから、その職員は国家公務員に準ずるものであり、守秘義務を負っていたのは明らかである。さらに、Bは、株式会社ジイケイ設計の従業員であったが、同社は、社団法人郵政ニューオフィス研究会から、郵政省が指名競争入札用仕様書の添付図面として各会社に送付するための図面作成を請け負っていたものである。指名競争入札では、談合等の防止のために、事前に仕様書の図面等が各会社に漏れないようにしているから、図面について守秘義務があることは、株式会社ジイケイ設計も、Bも理解していたことは明らかであり、同人も守秘義務を有していた。
したがって、被告の主張アないしウの事実によって、本件各発明が公知になったとはいえない。
さらに、郵政省が平成8年10月7日に上記図面が含まれる入札通知を入札業者に交付したこと(被告の主張エ)については、原告の意思に反して公知となったものであり、これが無効理由とならないことは、被告が申し立てた無効審判請求事件において、請求不成立審決が確定しているところである。
(4) 損害 〔原告の主張〕 被告は、下記のとおり、イ号物件を備えた郵便差出箱を製造し、平成14年3月18日ころ、郵政事業庁に対して販売した。
郵便差出箱10号 単価5万5500円 個数2758個 郵便差出箱14号 単価3万4000円 個数4192個 郵便差出箱14号S 単価4万2500円 個数1051個 (代金合計3億4026万4500円) 被告が上記郵便差出箱の製造販売によって得た利益は、上記代金合計額の10パーセントである3402万6450円を下らない。
〔被告の主張〕 否認ないし争う。
当裁判所の判断
1 イ号物件は、少なくとも、規制板の形状がほぼ直線状である点及び規制板の幅が差入口の幅より狭い点(郵便差出箱10号用のもの)で、本件各発明の構成と相違することは、原告の自認するところである。したがって、イ号物件は、文言上は本件各発明の構成要件cを充足するものではない。
2 原告は、上記相違点につき、本件各発明と均等であってその技術的範囲に属する旨主張するので、まず、争点(2)ア(規制板の形状についての均等の成否)について判断する。
(1) 特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であっても、@ 当該部分が特許発明の本質的部分ではなく、A 当該部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって、B このように置き換えることに、当業者が、
対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、C 対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから出願時に容易に推考できたものではなく、かつ、D 対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明技術的範囲に属するものと解するのが相当である(最高裁判所第三小法廷平成10年2月24日判決・民集52巻1号113頁参照)。
そこで、本件各発明の規制板をイ号物件の規制板に置き換えることについて、上記各要件を充足しているか否かについて検討する。
(2) まず、本件各発明における「規制板」の意義、機能について検討する。
ア 本件各発明の特許請求の範囲の記載によれば、規制板は、差入口から投函された郵便物を郵袋に導く投函物案内手段を構成するものであり、揺動自在に配設され、差入口から投函された物の運動エネルギーを低減させるものである。
イ 本件各明細書の発明の詳細な説明には、次のような記載があることが認められる(甲3、4)。
(ア) 【発明の属する技術分野】、【発明が解決しようとする課題】の項 本件各発明は、ポストの差入口より投入された郵便物以外の、例えば、タバコやマッチ等の燃焼物やガム等が投函されたはがきや封書等の郵便物の燃焼や、ポスト内部の汚染を防止するためのいたずら防止用のポスト用異物収集装置に関するものである(本件公報A、B段落番号【0001】)。従来のポストは、
悪戯等によって差入口より郵便物以外の上記のような異物が投入されたときに、郵袋内にある郵便物や郵袋自体を燃焼させたり、汚染してしまう可能性があったので、本件各発明は、新設のポストに配設することができ、郵便物以外の異物を投入されたときでも、郵袋内の郵便物が損傷することのないポスト用異物収集装置の提供を課題とするものである(同【0006】、【0007】)。
(イ) 【発明の実施の形態】の項 「ガイド板35の端部31と端部32の間のポスト本体1の郵袋5側には、差入口3から投函されたものに衝突して運動エネルギーを低減させる差入口3より広い幅を有し、略く字状に折曲した規制板34を配設している。規制板34はガイド板35との間をヒンジで接続されており、自重によって略垂直に吊り下がっている。・・・その規制板34の自由端である下端は、差入口3側に彎曲されていて、線材21の折曲端部から所定の距離離れた位置となっており、しかも、線材21の折曲端部から下方部分との間にも隙間を形成している。」(本件公報A【0032】、本件公報B【0030】) 「上記実施の形態の投函物案内手段30の規制板34は、投函物案内手段30の板状物に軸支され、揺動自在としたものであり、また、所定の質量以下のもの、例えば、はがき、手紙等では、規制板34と線材21との間に隙間を形成してあるから、そこから、または、規制板34の自由端である下端を若干開放(回動)させて、郵袋5内に導くことができる。更に、規制板34は、盗難防止板6を開放した状態でたばこ等を投げ入れたとしても、その質量により、容易に回動せず、しかも、
下部の隙間を通過できないから、所定の間隔で形成して配設した複数本の線材21からなる選択手段20により、確実に異物収容手段10によって収容できる。そして、規制板34は差入口3の反対側に回動するとき、略く字状に折曲されているから、その開口を大きくすることができ、定常状態では、規制板34自由端から異物収容手段10に異物を導くことができる。」(本件公報A【0041】、本件公報B【0039】) (ウ) 【発明の効果】の項 「したがって、揺動自在に配設し、前記差入口から投函された運動エネルギーを低減させる略く字状に折曲した規制板は、差入口から投函されたものに衝突し、所定の質量以上の運動エネルギーを受けると容易に回動し、それを郵袋内に導くことができる。また、差入口より投函されたはがき等の軽量な郵便物は、規制板に当たり選択手段の上を通り、郵袋へ落下することができ、また、差入口より投げ込まれた異物は、規制板に当たり、反射し、選択手段を通して収容箱へ落下するから、火を付けた直後の長いたばこ及びパイプ付きのたばこにおいても、収容箱に収容することができ、これらの郵便物以外のたばこ等の異物が収集され、郵袋側に落下しないので、郵袋内にある郵便物や郵袋自体を燃焼や汚染から守ることができる。」(本件公報A【0053】、本件公報B【0051】) ウ 以上のような本件各明細書の記載によれば、本件各発明の規制板は、揺動自在に配設されていて、差入口から郵便物が投函された場合は、その質量によって容易に回動して郵袋内に導き、軽量の郵便物や差入口から投入されたたばこ、マッチ等の異物の場合は規制板に当たって通過を規制する(この場合は、選択手段によって、郵便物は郵袋に、異物は収容箱に導かれる。)機能を有するものである。
そして、本件各発明が規制板を略く字状の折曲した形状としたことは、規制板が差入口の反対側に回動するとき、その開口を大きくすることができ、また、下端が差入口側に接近するようになっているから、定常状態(吊り下がった状態)では、規制板下端部(自由端)から異物を異物収容手段に導くことができるという作用を奏するところに意義があるものと解される。なお、乙第20号証(甲6と同じ。特開平9-47354公開特許公報)によれば、本件各特許権の出願以前から、略く字状に折曲した規制板のみならず単なる直線状の規制板も存在したことが認められるから、本件各発明は、従来技術として存在した規制板のうちから、直線状のものではなく、略く字状に折曲した形状を発明の構成として採用したものと解することができる。
(3) 次に、イ号物件の規制板についてみると、イ号物件の規制板がほぼ直線状の形状であることは前記のとおりである。そして、検乙第1号証の2及び弁論の全趣旨によれば、イ号物件の規制板も、揺動自在に配設されていて、差入口から郵便物が投函された場合は、その質量によって容易に回動して郵袋内に導き、軽量の郵便物や差入口から投入されたたばこ、マッチ等の異物の場合は規制板に当たって通過を規制する機能を有するものであり、イ号物件も、前記(2)で取り上げたような、
本件各明細書に記載された作用効果を奏し、本件各発明の目的を達することはできるものと認められる。
(4) そこで、本件各発明の規制板をイ号物件の規制板に置き換えることに、当業者がイ号物件の製造販売時に容易に想到することができたものであるか否かを検討する。
検乙第1号証の2及び弁論の全趣旨によれば、イ号物件の規制板は、差入口に対面する部分の形状は側面からみて直線状であるものの、別紙物件目録添付の図面1、4、ア及びエに図示されているとおり、その裏面上方に重り(バランサーE)が取り付けられていること、これにより、ポスト内に揺動自在に配設された規制板は、他の部材によって規制されない状態においては、差入口の奥の上方から差入口の方向の下方に向けて傾斜した状態で静止することが認められる。
ところで、検乙第1号証の2及び弁論の全趣旨によれば、イ号物件において、上記のように傾斜した状態で静止する規制板を用いている理由としては、ポストの差入口から異物が投げ入れられた場合に、投げ入れられた異物を規制板によって円滑に異物収容手段に導くことを可能にするという目的に加え、被告が主張するように、規制板の上半部を差入口から奥へと離隔させることによって、差入口から手などを差し入れても容易に規制板に届かず、規制板を不正に開いて異物を投入することを困難ならしめるという目的もあるものと認められるところ、これは、単なる直線状の規制板においては達することができない効果であることは明らかである。
原告は、略く字状に折曲した規制板を単なる直線状の規制板に置換することを前提として均等を主張するが、上に述べたとおり、イ号物件の規制板は、その裏面上方に重り(バランサー)を取り付けることによって、上記のように傾斜した状態で静止するという作用と、これによって、差入口から手などを差し入れても容易に規制板に届かず、規制板を不正に開いて異物を投入することを困難ならしめるという効果を得るものであって、この重りを単なる直線上の規制板に加えられた設計事項にすぎないということはできないから、原告の上記主張は相当でない。したがって、均等の要件としての置換容易性の成否について検討するに際しては、略く字状に折曲した規制板を、上記のようなイ号物件の規制板に置換することについての置換容易性を検討すべきである。
しかるところ、前記(3)のとおり、本件各特許権の出願以前から、略く字状に折曲した規制板のみならず単なる直線状の規制板も存在したものであるが、被告によるイ号物件の製造とこれを取り付けた郵便差出箱の販売以前において、イ号物件の規制板のように、規制板の裏面上方に重りを取り付け、これによって差入口の奥の上方から差入口の方向の下方に向けて傾斜した状態で静止するように設計された規制板が存在したことや、そのような構成が知られていたことは、原告も主張しておらず、本件の全証拠によっても、そのような事実を認めることはできない。
そうすると、被告によるイ号物件の製造とこれを取り付けた郵便差出箱の販売の当時、上記のようなイ号物件の規制板は新規な構成であったというべきであり、当業者に知られていたとはいえず、他に、当業者において、略く字状に折曲した規制板をイ号物件の規制板に置き換えることが容易であったということを肯定させるような事情も認められない。
したがって、本件各発明の略く字状に折曲した規制板をイ号物件の規制板に置換することについては、均等成立のための前記要件Bを満たさないというべきである。
(5) よって、上記のような規制板を備えたイ号物件は、他の均等要件について検討するまでもなく、本件各発明の構成と均等であるということはできないから、
本件各発明の技術的範囲に属しない。
3 結論 以上のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がない。
よって、主文のとおり判決する。
追加
(別紙)物件目録1図面の説明(ただし、図面1ないし4が原告主張のもの、図面アないしオが被告主張のものである。)図面1ポスト用異物収集装置の断面図(ただし、郵便差出箱10号のもの)図面2異物収容手段の斜視図図面3原告図面1のA-A断面図図面4ポスト用異物収集装置の断面図(ただし、郵便差出箱14号及び14号Sのもの)図面ア異物収集装置を備えたポストの縦断面図(ただし、郵便差出箱10号のもの)図面イ異物収容手段及び選択手段の斜視図(ただし、郵便差出箱10号のもの)図面ウ図面アのA-A断面図図面エ異物収集装置を備えたポストの縦断面図(ただし、郵便差出箱14号及び14号Sのもの)図面オ図面エのA-A断面図2構成(ただし、項目番号を除いて、括弧外が原告主張のもの、括弧外から下線部を除き、括弧内を付加したものが被告主張のものである。)(1)全体の構成選択手段と、異物収容手段(規定外投函物収容手段)と、投函物案内手段とから構成されるポスト用異物収集装置(2)選択手段アポスト本体の差入口の内側下方で、かつ、ポスト本体内の郵袋の上方に位置し、差入口から投函された郵便物のみを(、その寸法で)選択して、(一定寸法以上の投函物を)郵袋に導く選択手段@を具備している。
イ選択手段@は、異物収容手段を構成する収容箱Aの上面及び収容箱Aの規制板側Bの前面から収容箱Aの底部まで異物(一定寸法以下の投函物)を導くように構成されている。
ウ選択手段@は、異物収容手段を構成する収容箱Aの上面に、差入口に近い位置を高く、差入口から離れるに従って、低く形成し、差入口(の方向)に対して直角に(平行に)所定の間隔で複数の線材Cを配設されている。
エ選択手段@と規制板Bとの間には間隙が形成されるとともに、(選択手段@と)収納箱Aの立上前面との間にも間隙を形成してあり(る)、これにより収納箱の底部まで異物を導く。
オ収納箱Aの立上前面にスペーサDが配設され(ている)、これにより、選択手段と規制板との間に間隙を設けるようにしてある。
(3)異物収容手段(規定外投函物収容手段)選択手段@で選択された差入口から投函された郵便物(一定寸法以上及び一定重量以上の投函物)を除く異物(投函物)を収容箱Aで収容している。
(4)投函物案内手段揺動自在に配設され、差入口から投函された物体の運動エネルギーを低減させる、(上端部奥側にバランサーEを突設し、奥側から収容箱A側に下降傾斜した状態で静止し得る、)ほぼ直線状の(差入口よりも狭い幅の〔郵便差出箱10号〕又は広い幅の〔同14号、14号S〕折曲させていない)規制板Bを有し、差入口から投函された郵便物(投函物のうち、一定重量以上の投函物)を郵袋に導く投函物案内手段を具備している。
規制板Bの幅及び差入口の幅は、それぞれ以下のとおり。
規制板Bの幅差入口の幅郵便差出箱10号286ミリメートル290ミリメートル郵便差出箱14号280ミリメートル240ミリメートル郵便差出箱14号S280ミリメートル240ミリメートル(別紙)図面1図面2図面3図4図面ア図面イ図面ウ図面エ図面オ
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 田中秀幸
裁判官 守山修生
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