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審判番号(事件番号) データベース 権利
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事件 平成 18年 (ワ) 11429号 特許権侵害差止等請求事件
原告パナソニック電工株式会社 (旧商号松下電工株式会社)
訴訟代理人弁護 士井窪保彦北原潤一
補佐人弁理士加藤志麻子
被告富 士高分子工業株式会社
訴訟代理人弁護 士山上和則
訴訟代理人弁理 士池内寛幸若月節子
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2009/04/07
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1被告は,別紙物件目録記載の放熱シートのうち 「GR−n「GR,」,−Hn「GR−Fn」及び「GR−HFn」の製品名を有する放熱 」,シートを製造し,販売してはならない。
2被告は,前項記載の放熱シートを廃棄せよ。
3被告は,原告に対し,98万7345円及びこれに対する平成18年11月9日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
4被告は,原告に対し,526万0134円及びこれに対する平成18年11月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5原告のその余の請求をいずれも棄却する。
- 2 -6訴訟費用はこれを20分し,その1を被告,その余を原告の各負担とする。
7この判決の第1項,第3項及び第4項は,仮に執行することができる。
事実及び理由
全容
第1請求の趣旨1被告は,別紙物件目録記載の放熱シートを製造し,販売してはならない。
2被告は,前項記載の放熱シートを廃棄せよ。
3被告は,原告に対し,1800万円及びこれに対する平成18年11月9日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
4被告は,原告に対し,1億0400万円及びこれに対する平成18年11月9日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5訴訟費用は被告の負担とする。
6仮執行宣言第2事案の概要1当事者間に争いのない事実等(末尾に証拠の掲記のない事実は当事者間に争いがない )。
1当事者()原告は,合成樹脂及びその他の化学工業製品の製造並びに販売等を業とする株式会社である。
被告は,有機硅素化合物及びその他の高分子化合物を原料とする合成ゴム成形加工並びにその販売等を業とする株式会社である。
2原告の特許権()ア原告は,下記の特許(以下「本件特許」といい,その請求項1の発明を「本件特許発明1 ,請求項5の発明を「本件特許発明2」という。また, 」これらを併せて「本件各特許発明」ともいう )の特許権者である(以下, 。
本件特許に係る特許権を「本件特許権」という。また,本件特許に係る明細書及び図面〔ただし,特許付与後の異議決定において認容された訂正後のものをいう 〕を「本件明細書」という。 。 。)登 録 番 号第3290127号発明の名称熱伝導性シリコーンゴム組成物及びこの熱伝導性シリコーンゴム組成物によりなる放熱シート出願日平成10年1月27日出 願 番 号特願平10-14565号登録日平成14年3月22日異議決定日平成16年2月23日特許請求の範囲「 請求項1】シリコーンゴムに,下記一般式(A)で示されるシランカッ 【, プリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラーを分散させて成り熱伝導性無機フィラーが熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%〜80vol%であることを特徴とする熱伝導性シリコーンゴム組成物。
【化1】YSiX(A)3X=メトキシ基又はエトキシ基Y=炭素数6個以上18個以下の脂肪族長鎖アルキル基」「 請求項5】請求項1乃至4のいずれかに記載の熱伝導性シリコーンゴム 【組成物を成形して成ることを特徴とする放熱シート 」。
イ本件各特許発明構成要件の分説本件特許発明1及び2を構成要件に分説すると,次のとおりとなる(以下,本件各特許発明の各構成要件を,以下に掲げる符号を付して「構成要件A」などという。。)本件特許発明1 (ア)Aシリコーンゴムに,下記一般式(A)で示されるシランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラーを分散させて成り,YSiX(A)3X=メトキシ基又はエトキシ基Y=炭素数6個以上18個以下の脂肪族長鎖アルキル基B熱伝導性無機フィラーが熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%〜80vol%であるCことを特徴とする熱伝導性シリコーンゴム組成物。
本件特許発明2(ただし,請求項1を引用する部分に限る )(イ) 。
D構成要件AないしCを充足する熱伝導性シリコーンゴム組成物を成形して成ることを特徴とする放熱シート。
3本件各特許発明の概要()本件各特許発明は,トランジスター,コンピューターのCPU(中央演算処理装置)等の電気部品と放熱器との間に配置され,電子・電気部品から発生する熱を放熱器に伝達する放熱シートを形成するために好適な熱伝導性シリコーンゴム組成物及びこの組成物を成形して成る放熱シートに関する発明である。
4実施許諾契約の締結及び被告製品の販売に基づく実施料の支払()ア原告と被告は,平成12年10月1日,原告が被告に対し,本件特許に係る出願(以下「本件出願」という )及び「これに係る特許」の技術的 。
範囲に属する熱伝導性シリコーンゴム組成物からなる放熱シート(以下「許諾製品」という )を日本国内において製造,使用及び販売すること 。
について,非独占的実施権を許諾し,被告から原告に対し,許諾製品の正味販売価格の1%(ただし,本件出願に係る特許権が成立した日の属する月の翌月以降については3%)を実施料として支払うこと等を内容とする特許実施許諾契約(以下「本件実施契約」といい,その契約書である「特許実施許諾契約書 〔甲4〕を「本件実施契約書」という )を締結した。 」 。
イ被告は,本件実施契約に基づき,遅くとも平成12年10月より別紙物件目録記載の放熱シート(以下「被告製品」という )の製造,販売を開 。
始し,その後,平成14年5月までの被告製品の販売について,その売上高の1%相当の実施料を原告に支払った。
なお,被告は,現在,被告製品のうち,GR-i,GR-Hi,GR-Fi及びGR-HFiを製造販売していない (弁論の全趣旨) 。
ウ被告は,本件特許が登録された後の平成14年7月17日,被告製品が本件各特許発明技術的範囲に属さず,許諾製品に該当しないとして,実施料の支払を拒絶する旨を原告に通知し,同年12月13日,本件実施契約を解除する旨の意思表示をした。
これにより,本件実施契約は,契約期間の約定(契約期間は締結日から3年とし,期間満了前3か月前までにいずれの当事者からも契約解除の申出がない限り1年間ずつ延長されるとの内容)により,平成15年10月1日をもって終了した。
5本件出願後の補正()原告は,平成13年12月4日,特許庁審査官から本件出願について拒絶。 ), 理由通知(以下「本件拒絶理由通知」という )を受けたことから(乙2平成14年2月4日付けで手続補正書(乙3:以下「本件補正書」という )を提出し,本件出願に係る願書に添付した特許請求の範囲に「熱伝導 。
性無機フィラーが熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%〜80vol%である (構成要件B)との要件を加えるなどの補正をし(以下 」「本件補正」という,これにより特許査定となり,同年3月22日に特 。)許権の設定登録がなされた。なお,同設定登録後の平成14年11月27日に第三者から特許異議の申立てがなされたことから,原告は訂正請求し,これが認められて本件特許は維持された (甲3)。
原告は,本件補正当時,本件補正の事実を被告に通知しなかった。
6被告製品の構成()ア被告製品は,<中略>シシラン(一般式YSiX において,X=<中 3略>基,Y=炭素数<中略>個の脂肪族長鎖アルキル基とした化合物)から成るシランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラー(主としてアルミナから成る )がシリコーンゴムに分散されている。 。
(弁論の全趣旨)イ被告製品のうち,GR-b(GR-Hb,GR-Fb及びGR-HFbを含む。以下,併せて「GR-b」という,GR-d(GR-Hd,GR- 。)Fd,GR-HFd及びGR-Tdを含む。以下,併せて「GR-d」という,GR-i(GR-Hi,GR-Fi及びGR-HFiを含む。以下, 。)併せて「GR-i」という,GR-k(GR-Hk,GR-Fk及びGR 。)-HFkを含む。以下,併せて「GR-k」という,GR-l(GR-H 。)l,GR-Fl及びGR-HFlを含む。以下,併せて「GR-l」という )並びにGR-m(GR-Hm,GR-Fm及びGR-HFmを含む。以 。
下,併せて「GR-m」という )の各組成については,別紙被告製品の組 。
成の「カップリング剤処理フィラー(vol% 」中「フィラーのみ」欄の各数 )値(ただし,被告製品の製造時にシランカップリング剤で表面処理が施され。), た熱伝導性無機フィラーとして製造工程に投入されたフィラーの量として及び「未処理フィラー(vol% 」欄の各数値のとおりである(ただし,GR )-n〔GR-Hn,GR-Fn及びGR-HFnを含む。以下,特に明示しない限り,併せて「GR-n」という 〕の熱伝導性無機フィラーの数値につ 。
いては争点1-2のとおり,当事者間に争いがある。。)ウ被告製品は,熱伝導性シリコーンゴム組成物をシート状に成形したものであり,当該組成物を含むものであるから,いずれも構成要件Cを充足する。
2原告の請求原告は,被告製品が本件特許発明1及び2の各技術的範囲に属し,同製品を製造販売する被告の行為は原告の有する本件特許権を侵害するとして,被告に対して以下の請求をしている。
1特許法100条1項に基づく被告製品の製造販売の差止め及び同条2項に()基づく被告製品の廃棄2本件実施契約に基づき,本件特許の登録後である平成14年6月1日から()本件実施契約が終了した平成15年10月1日までの約定実施料として1800万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成18年11月9日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払3民法709条不法行為に基づく損害賠償として,本件実施契約が終了し()た日の翌日である平成15年10月2日から平成18年9月末日までの被告製品の売上げについて,特許法102条3項により1億0400万円及びこれに対する訴状送達の翌日である平成18年11月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払3争点1被告製品は構成要件Bを文言上充足するか (争点1)() 。
構成要件Bの「熱伝導性無機フィラー」の解釈(争点1-1)イGR-nの組成(争点1-2)2被告製品(ただし,GR-n及びGR-iは除く )は本件各特許発明と() 。
均等なものとしてその技術的範囲に属するか (争点2) 。
3約定実施料及び損害の額(争点3)()4相殺の抗弁の成否(争点4) ()第3争点に関する当事者の主張1争点1-1(構成要件Bの「熱伝導性無機フィラー」の解釈)について【原告の主張】1構成要件Bの「熱伝導性無機フィラー」は,構成要件Aに示されるシラン()カップリング剤(以下「本件カップリング剤」という )で表面処理をした 。
ものであるか否かを問わず,熱伝導性シリコーンゴム組成物に含まれる熱伝導性無機フィラー(以下,単に「フィラー」ともいう )の総量の範囲を定 。
めたものと解すべきである。
ア特許請求の範囲の記載構成要件Bは 「熱伝導性無機フィラーが熱伝導性シリコーンゴム組成 ,物全量に対して40vol%〜80vol%である」というものであり,同要件の文言上,構成要件Bの「熱伝導性無機フィラー」が構成要件Aの「シランカップリング剤で表面処理を施した」ものに限定されることを示す手掛かりとなる文言( 前記「当該」又は「該」等)は一切存在しない。 「」,イ発明の詳細な説明本件各特許発明の本質的特徴は,本件カップリング剤で表面処理をし(ア)た熱伝導性無機フィラー(以下,本件カップリング剤で熱伝導性無機フィラーの表面処理を施すことを,単に「カップリング処理」ともいう )をシリコーンゴムに分散させたことにより,たとえシリコーンゴ 。
ム組成物における熱伝導性無機フィラーの充填量を40vol%〜80vol%程度まで増加しても,本件明細書の発明の詳細な説明における段落【0004 (以下,本件明細書の発明の詳細な説明における記載を, 】段落番号を付して,単に「段落【0004 」などという )及び段落 】。
【0006】に記載される課題を解決できることにある。本件各特許発明の上記本質に照らせば,構成要件Aは,本件各特許発明に特有の課題解決原理を規定したものであり,構成要件Bは,課題解決原理である構成要件Aが,その役割を発揮するための前提となる熱伝導性シリコーンゴム組成物の基本的な組成を示すものと解するのが合理的である。
このように,本件各特許発明の熱伝導性シリコーンゴム組成物は,熱伝導性無機フィラーの充填量が熱伝導性シリコーンゴム組成物全量の40vol%〜80vol%であるため(構成要件B ,高い熱伝導性を発揮で )きる反面,そのままでは前記課題が生じ得ることになるが,本件カップリング剤という特定のシランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラーをシリコーンゴムに分散させて成るものであるため(構成要件A ,高い熱伝導性を有しつつ前記課題が解決されるという顕著 )な効果を奏するのである。
段落【0015】では 「熱伝導性シリコーンゴム組成物中の熱伝導(イ) ,性無機フィラー1の配合割合は,熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%〜80vol%とするものであり」と記載されており,配合割合が「40vol%〜80vol%」である主体は 「熱伝導性シリコー ,ンゴム組成物中の熱伝導性無機フィラー1」であって 「シランカップ ,リング剤で表面処理を施された」熱伝導性無機フィラーに限定されていない。また 「40vol%に満たないと高い熱伝導率を得ることが困難 ,であり」と記載されているように 「熱伝導性無機フィラーの量を40 ,vol%以上」にするということは,熱伝導性シリコーンゴム組成物に高い熱伝導性という効果を実現するための手段を規定する要件であって,それ自体,課題解決手段を規定したものではない。かかる解釈は段落【0055】の記載からも明らかである。
この点,被告は,段落【0015】の記載は【0013】の記載を受けたものであると主張する。しかし,段落【0013】には熱伝導性無機フィラー全量がカップリング処理されなければならないとは記載されていない。よって,段落【0015】の記載が段落【0013】の記載を受けたものであるとしても,熱伝導性無機フィラー全量がカップリング処理されたものであると解する根拠にはならない。
出願経過からみた原告主張の解釈の正当性本件特許の出願経過からしても,本件各特許発明の特徴が,シリコーンゴムにカップリング処理を施した熱伝導性無機フィラーを分散させることにあったことは明らかである。
原告は,特許庁審査官より,本件拒絶理由通知を受けたことから,本(ア)件補正書によって 「熱伝導性無機フィラーが熱伝導性シリコーンゴム ,組成物全量に対して40vol%〜80vol%である」との文言を追加する等の補正(本件補正)をした。
しかし,もし原告が,本件補正においてカップリング処理をした熱伝導性無機フィラーの配合量を規定しようと意図したのであれば 「シリ,コーンゴムに,下記一般式(A)で示されるカップリング処理を施した熱伝導性無機フィラーを40vol%〜80vol%分散させて成ることを特徴とする熱伝導性シリコーンゴム組成物」と記載すれば必要にして十分であったはずであり,あえて,本件特許発明1のような記載にする必要はなかった。
したがって,原告は,本件補正に際しても,熱伝導性シリコーンゴム組成物の基本的な成分である熱伝導性無機フィラーの配合量を規定することを意図して本件補正を行ったものであり,カップリング処理を施した熱伝導性無機フィラーの配合量を定めたものではない。
また,本件出願時の願書に添付した明細書及び図面(以下「当初明細(イ)書」という )において 「40vol%〜80vol%」に係る記載があっ 。,た箇所は段落【0012】のみであるが,ここで「40vol%〜80vol%」という数値範囲が指すものは,熱伝導性無機フィラー自体の配合量である。
したがって,この記載を根拠とする,本件補正における「40vol%〜80vol%」という数値範囲の追加が,熱伝導性無機フィラー自体の配合量を規定したものであることもまた明らかである。
さらに,平成14年2月4日に提出された意見書(乙4:以下「本件(ウ)意見書」という )においても,原告は 「40vol%〜80vol%」と 。,はカップリング処理を施した熱伝導性無機フィラーの配合量(本件カップリング剤込みの量)を定めたものであるとは述べていない。
同意見書中の 「熱伝導性無機フィラーの表面が疎水性の長鎖のアル ,キル基に覆われてシリコーンゴムとの相溶性が向上し」との部分によれば 「相溶性が向上し」という効果は,長鎖アルキル基を有する本件カ ,ップリング剤を採用したことによって得られる効果であって 「40vo ,l%〜80vol%」という数値範囲とは無関係である。しかも,同意見書においては 「40vol%〜80vol%」との数値範囲とその効果に関し ,て 「熱伝導性無機フィラーが熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対 ,して40vol%以上であることで高い熱伝導率を得ると共に,80vol%以下であることから熱伝導性シリコーンゴム組成物の硬化成形物が硬く脆くなることを防止することができる,という効果を奏したものである 」との記載があり,これによれば 「40vol%〜80vol%」との 。 ,数値範囲が設定された目的が,熱伝導性無機フィラー自体の配合量を規定することにあったのは明らかである。
以上のとおり,本件拒絶理由通知に対する応答という観点からみても,(エ)「40vol%〜80vol%」は熱伝導性無機フィラー自体の配合量と解すべきである。
2構成要件Bの「熱伝導性無機フィラー」は,その全量がカップリング処理()されることまでを要しないと解すべきである。
ア本件明細書の発明の詳細な説明には,熱伝導性無機フィラーの全量がカップリング処理されていなければ本件各特許発明の効果が得られないとは記載されていない。かえって,段落【0018】では,本件各特許発明の効果を得るための本件カップリング剤の処理量について,熱伝導性無機フィラーの表面に本件カップリング剤の単分子層を形成するのに必要な本件カップリング剤量の0.1〜15倍とするのが好ましいことが記載されている。この記載によれば,シリコーンゴム組成物中の熱伝導性無機フィラーの全表面積の0.1倍,つまり10%の表面が本件カップリング剤で覆われていれば本件各特許発明の効果を奏するのに十分ということになり,熱伝導性無機フィラーの全表面がカップリング処理されている必要はないことが明らかである。
イまた,本件各特許発明の効果である相溶性の向上には,カップリング処理された熱伝導性無機フィラーの体積が重要なのではなく,シリコーンゴム組成物に含まれる熱伝導性無機フィラーの全表面積のうち,どの程度カップリング処理されているかが重要なのである。よって,組成物全体に占める熱伝導性無機フィラーの体積分率を特定した構成要件Bは,相溶性の向上ではなく,シリコーンゴム組成物の熱伝導性を発揮させるための要件であり 「40vol%〜80vol%」の体積割合を有する熱伝導性無機フィ ,ラー全てがカップリング処理されていることまで要求するものではない。
ウこのように,構成要件Bは,熱伝導性無機フィラー全量がカップリング処理されていることを要求するものではない。
3仮に,構成要件Bの「40vol%〜80vol%」をカップリング処理済みの()熱伝導性無機フィラーの配合量(本件カップリング剤込みの量)と解すると以下のような不合理が生じる。
ア上記解釈によると 「40vol%」という最低値は,熱伝導性無機フィ ,ラーと本件カップリング剤の合計量ということになるが,そうすると,熱。 伝導性無機フィラー自体の量は40vol%未満であってもよいことになるしかし,シリコーンゴム組成物の熱伝導性に影響を与える因子は熱伝導性無機フィラー自体の量であって,本件カップリング剤の量は熱伝導性とは全く関係がない。
したがって,高い熱伝導率を得るという目的との関係でいえば,熱伝導性無機フィラーと本件カップリング剤の合計量の最低量を定めても全く意味はなく,高い熱伝導率を得るために必要な最低量を規定するのであれば,それは熱伝導性無機フィラー自体の量以外にはあり得ないはずである。
イまた,上記解釈のように 「80vol%以下」がカップリング処理済み ,の熱伝導性無機フィラーの量の上限値を定めるものであって,未処理の熱伝導性無機フィラーを無制限に添加することができるとするならば,カップリング処理済みの熱伝導性無機フィラー40vol%,未処理の熱伝導性無機フィラー59vol%の比率で混合させることも可能となり,しかも,カップリング処理済み熱伝導性無機フィラーが 「80vol%以下である ,ことから熱伝導性シリコーンゴム組成物の硬化成形物が硬く脆くなることを防止することができる (段落【0055 )という結論にならざるを 」】得ない。しかしながら,硬化成形物が硬く脆くなる原因が熱伝導性無機フィラーそのものに起因するという技術常識からすると,熱伝導性無機フィラーの総量がほぼ99vol%にもなる熱伝導性シリコーンゴム組成物の硬化成形物が硬く脆くならないはずがない。
よって,被告の解釈を採用すると 「80vol%以下」の数値限定の理 ,由は技術常識に反することとなり,数値限定をすることの技術的意味が没却されるから,このような解釈が正しいはずはない。
4まとめ()以上より,構成要件Bの「熱伝導性無機フィラー」とは,熱伝導性無機フィラー自体を意味するものと解すべきであり 「40vol%〜80vol%」と ,いう数値範囲は,本件カップリング剤と熱伝導性無機フィラーとの合計量を示すものではなく,熱伝導性無機フィラーの総量の下限値及び上限値をそれぞれ示すものと解すべきである。また,上記数値範囲を満たす熱伝導性無機フィラーの全量がカップリング処理されていることまで,同要件は要求していないと解すべきである。
【被告の主張】1原告の主張(1)について()構成要件Bの「熱伝導性無機フィラー」は 「シランカップリング剤で表 ,面処理した熱伝導性無機フィラー」と解すべきである。
ア特許請求の範囲の明瞭な文言1つのクレーム内では,後の語句は前の語句を受けると解釈するのが文脈上自然であるから,構成要件Bの「熱伝導性無機フィラー」が構成要件Aの「シランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラー」を指すことは明らかである。
イ本件明細書の記載本件明細書の段落【0015】は段落【0013】の記載を受けたも(ア)のであり,段落【0015】中の「金属酸化物を用いると,カップリング剤の処理効率が高くなるものであり,上記フィラーの表面の一部又は全部を酸化させることにより,カップリング剤の処理効率を向上することもできる」との記載からも明らかなとおり,同段落の「熱伝導性無機フィラー」は全量カップリング処理されたものである。
段落【0035】の全実施例で開示されている熱伝導性無機フィラー(イ)の体積分率は「60vol%」であり,その全量がカップリング処理されている。したがって,この測定結果を受けた段落【0055】に記載された様々な効果は,40〜80vol%の熱伝導性無機フィラー全量がカップリング処理されたものであることにより発現するものと解される。
よって,本件明細書の記載からしても,原告の主張は失当である。
ウ包袋禁反言原告は,本件補正において特許請求の範囲構成要件Bを加えたもの(ア)であり,40vol%未満と80vol%を超える範囲は,自ら意識的に削除したものである。
原告は,当初明細書の段落【0012】における「40vol%〜80vol%」という数値範囲が指すものは,熱伝導性無機フィラー自体の配合量であると主張するが,当初明細書の段落【0011】には 「本発明 ,の熱伝導性シリコーンゴム組成物は,シリコーンゴムに,シランカップリング剤にて表面処理された熱伝導性フィラーを分散させたものである 」と記載されており,段落【0012】の記載は段落【0011】 。
の記載を受けたものであるから 「40vol%〜80vol%」とは,全量 ,がカップリング処理された熱伝導性フィラーの体積分率を指すものと解すべきである。
原告は,本件意見書(乙4)において,カップリング処理された熱伝(イ)導性無機フィラーの量が「40〜80vol%」の範囲であると 「相溶,性が向上し「成形加工性を挙げることができる」と主張している。 」,しかし,かかる作用効果は,熱伝導性無機フィラーをカップリング処理したことによるものであり,このような作用効果を無視して,カップリング処理されていない熱伝導性無機フィラーを含むと主張することは包袋禁反言として許されない。
平成15年6月2日付けの原告作成「意見書 (特許異議の申立てに(ウ) 」おける特許庁審判官による取消理由通知に対する意見書。甲5)21頁表の「熱伝導フィラー「体積分率(% 」の欄には,全量カップリン 」,)グ処理したフィラー40〜80vol%の例が記載され 「熱伝導性無機 ,フィラーをシランカップリング剤で処理することによって,圧縮永久歪みの改善,引裂強度の向上,ゴム硬度変化の低減の効果が得られることも確認される(22頁2〜4行)と記載されている。この記載は, 。」40〜80vol%の熱伝導性無機フィラー全量をカップリング処理することを表明するものである。
2原告の主張(2)について()上記(1)において主張したとおり,本件明細書における熱伝導性無機フィラーは全量カップリング処理されたものであり,構成要件Bの「熱伝導性無機フィラー」は本件カップリング剤を含む熱伝導性無機フィラーの下限値と上限値を定めたものと解すべきである。
3原告の主張(3)について()構成要件Bの「熱伝導性無機フィラー」は本件カップリング剤込みの量と解すべきである。
ア原告は,段落【0015】及び【0055】の部分的記載を挙げて,「40vol%「80vol%」という数値は本件カップリング剤の量を含 」,まないと主張しているが,上記(1)において主張したとおり,構成要件Bの「40〜80vol%」は,シランカップリング剤を含む熱伝導性フィラーの総量の下限値と上限値を定めたものである。
イ原告は熱伝導性に与える因子は熱伝導性無機フィラー自体の量であると主張するが,そもそも本件明細書には,熱伝導性がいくらなのか一切の記載がないから,熱伝導性無機フィラーの量と熱伝導性との関係を議論することができない。
原告は,硬化成形物が硬く脆くなる原因は熱伝導性無機フィラーの添加量に起因すると主張するが,本件明細書の実施例1(60vol%全部が処理された熱伝導性無機フィラー)と比較例1(60vol%全部が未処理の熱伝導性無機フィラー)のゴム硬度変化を表1及び2から抜粋して対比すると,実施例1の「7」に対し,比較例1は「40」となっており,段落【0040】の記載からも,硬化成形物が硬く脆くなる原因は,熱伝導性無機フィラーがカップリング処理されていないことに起因すると理解できる。
2争点1-2(GR-nの組成)について1当事者の主張の概要()原告はGR-n中の熱伝導性無機フィラー全体の体積分率が80vol%を下回ると主張するのに対し,被告はこれを否認するとともに,GR-nの組成は別紙被告製品の組成のとおり,熱伝導性無機フィラー全体の体積分率が82.9vol%,カップリング処理済みの熱伝導性無機フィラーの体積分率が82.8vol%であると主張する。
GR-n中の熱伝導性無機フィラーの体積分率を求める方法について,本件では,GR-nの製造作業手順を記載したものとして被告が提出した書面(乙26,27)から算出する方法(以下「算出方法?@」という,GR。)-nを燃焼させた際の残渣質量を測定し,当該質量とGR-n及びシリコーンゴムの比重に基づいて,熱伝導性無機フィラーの体積分率を算出する方法(以下「算出方法?A」という,GR-nの比重並びにGR-nの成分と 。)しての熱伝導性無機フィラー,シリコーンゴム及び本件カップリング剤等の各比重に基づき,熱伝導性無機フィラーの体積分率を算出する方法(以下「算出方法?B」という )という3つの方法が主張されている。 。
2算出方法?@に係る当事者の主張()【原告の主張】被告は,GR-nの製造作業手順を示す証拠として「製造標準処方 (乙」26,27:以下,併せて「製造標準処方」という )及びその内容を説明 。
する証拠として被告常務取締役(技術総括責任者)α作成にかかる陳述書(乙28:以下「乙28陳述書」という )を提出し,カップリング処理さ 。
れたフィラーの体積分率は,82.8vol%であると主張するが,上記各証拠の内容には,以下のとおり重大な疑問がある。
ア製造標準処方及び乙28陳述書によれば,GR-nの製造に供される添加成分は8種類(Siポリマー,処理フィラー1,処理フィラー2,処理フィラー3,Siキャタリスト,添加剤-A,添加剤-B,添加剤-C)とされているところ,乙28陳述書において 「添加剤-A〜Cは顔料で ,あり,熱伝導性に影響するものではありません 」と述べられている。よ 。
って,製造標準処方及び乙28陳述書によれば,GR-nには未処理フィラーは含まれないことになる。
他方で,被告は,被告代表取締役とα作成にかかる陳述書(乙22)において,GR-nは0.1vol%の未処理フィラーを含むと陳述していたのであり,製造標準処方及び乙28陳述書の上記結論と明らかに矛盾する。
これに対し,被告は,α作成にかかる陳述書(乙30:以下「乙30陳述書」という )において 「添加剤-B及び添加剤-Cは金属酸化物で 。,あり,本件特許の請求項2の『熱伝導性無機フィラー』に含まれます 」。
と乙28陳述書の内容を訂正したが,技術総括責任者という立場にあるαが誤って陳述するということは通常考えられない。また,乙30陳述書では,添加剤B及びCが「金属酸化物」であることを理由として 「熱伝導 ,性無機フィラー」に該当するとしているが,金属酸化物であるからといって,直ちに「熱伝導性無機フィラー」に当たるわけではない。この点,添加剤B及びCの比重がいずれも5.0であること等から推認すると,同添加剤はそれぞれ酸化鉄と考えるのが合理的であるが,酸化鉄は一般に熱伝導性(無機)フィラーとは考えられていない。したがって,酸化鉄が金属酸化物であるとの形式的理由のみをもってこれを熱伝導性無機フィラーであるという上記陳述は誤りである。
イ乙28陳述書では,GR-nにおける処理フィラーの体積分率の算出に当たって,各添加成分の真比重を用いている。したがって,真比重の数値が動けば体積分率も変化するのであり,真比重の数値は必要不可欠な前提である。しかしながら,乙28陳述書では,このような重要性を有する真比重の数値を,何ら客観的な裏付けを示すことなく,各添加成分について設定した上で,同成分の体積を求めている。
被告の主張は,このような不確かな真比重の数値を不可欠の前提として,処理フィラー1ないし3合計の体積分率を82.77vol%と算出しているのであるから,この数値は客観的な裏付けを欠くものである。
【被告の主張】ア製造標準処方(乙26,27)は被告の作業手順書であり,これに基づいて計算すれば,GR-n中のカップリング処理された熱伝導性無機フィラーの体積分率は,82.8vol%である。本件明細書の実施例(段落【0032】及び【0034 )においても,熱伝導性シリコーンゴム組 】成物を製造する際には,原料を計量した数値から体積分率を出しており,被告の算出方法は,本件明細書に記載されているものと同一である。
イ原告は,乙28陳述書には未処理フィラーは含まれていないと主張するが,乙30陳述書から明らかなとおり,乙28陳述書における「添加剤-B及び添加剤-C」は金属酸化物であり 「熱伝導性無機フィラー」に含 ,まれる。よって 「添加剤-B及び添加剤-C」がカップリング処理され ,ていない熱伝導性無機フィラーであることは明らかである。乙30陳述書によれば,添加剤-Bと添加剤-Cの合計は0.08vol%であり,四捨五入すると,0.1vol%となる。よって,乙30陳述書は被告の主張と一致している。
なお,被告は,添加剤-B及びCが酸化鉄であることは否定しないが,酸化鉄が一般に熱伝導性フィラーと考えられていることは文献(乙31〜34)からも明らかである。
ウ比重については,乙30陳述書において算出根拠を明らかにしている。
3算出方法?Aに係る当事者の主張()【原告の主張】ア平成19年6月22日付け実験報告書(甲8:ただし,算出方法?Aに係る部分に限る。以下「甲8報告書」という )の信用性 。
甲8報告書によれば,GR-nを燃焼(空気雰囲気,800℃,4時(ア)間)させて,その燃焼残渣(灰分)の重量を測定し,その内,シリコーン分(同バッチの炉内で燃焼させたシリコーンゲルSE1885の燃焼残渣から算出)を差し引くと,フィラー分の重量%(以下「wt%」という )は93.81wt%であった。そこで,GR-nの比重を3.35 。
5(外部機関によって水中置換法により測定された結果)とし,シリコーンゲルの比重を0.97として,GR-n中の熱伝導性無機フィラーの体積分率を算出したところ78.6vol%であった。
よって,甲8報告書によれば,GR-nのフィラー総量は 「40vo ,l%〜80vol%」の範囲内である。また,カップリング処理された熱伝導性無機フィラーの量もこの数値範囲内にあることは,被告自身,GR-nのフィラーはそのほとんど全てがカップリング処理されていることを自認していることから明らかである。
被告は,甲8報告書について,空気雰囲気下(酸素存在下)で実験を(イ)行うと多量のシリコーン由来の残渣が生成すると主張する。しかし,原告は,被告が実施した実験(乙11)では,熱処理により生成する可能性があるシリコーン由来の残渣を何ら考慮することなくフィラー量を算出したことが問題と考え,甲8報告書では,GR-nを熱処理するとシリコーン由来の残渣が生じることを前提として,別途シリコーンゲルを単体で熱処理した際に生じるシリコーン由来の残渣の割合を求め,GR-nを熱処理した際の残渣からシリコーン由来の残渣を減算して正確なフィラー量を算出しようとしたものである。しかも,甲8報告書によれば,GR-nとシリコーンゲルSE1885の実験は同一バッチの炉内で行われており,加熱過程における熱履歴は全く同じであるから,シリコーンゲルSE1885における熱処理後のシリコーン灰分の割合(換言すれば,減量分)を参酌し 「GR-n」における同条件による熱処 ,理後の減量分から熱処理前のシリコーン量,そしてフィラー量を求めることは,十分に合理性があるというべきである。
このように,甲8報告書では,熱処理により生成するシリコーン由来の残渣を適切に考慮してフィラー量を算出しているから,当該残渣が生成する熱処理条件を採用したことは,何ら原告の実験方法が誤りであることを示すものではない。
イ平成19年5月14日付け試験報告書(乙11:以下「乙11報告書」という )の信用性。
乙11報告書では,計算の前提となる分析サンプルN(GR-n)の(ア)比重を「3.4」とするが,測定方法については「自動比重計を用いて比重の測定を行いました 」とあるだけで,詳細は明らかでない。自動 。
比重計では,通常,小数点以下4桁程度の精度の測定が可能であるにもかかわらず,乙11報告書では小数点以下1桁までしか比重の数値を挙げていない。しかも,これに基づいて,GR-nの体積を小数点以下2桁まで算出している。他方で,シリコーンゴムの比重については,小数点以下2桁までの数値(0.97)を採用し,これに基づいて,シリコーンゴム(5g)の体積を小数点以下2桁まで算出している。
このように,乙11報告書では,計算の前提となる比重が測定機器の精度と合致しておらず,かつフィラーの体積分率の算出に用いられた2つの比重の桁数に一貫性がないことからすると,その算出結果には信頼性が乏しい。
乙11報告書では,試料を窒素雰囲気下で熱重量測定(TG)を行い,(イ)30℃から600℃まで30℃/分の昇温条件で加熱することによりシリコーン成分を除き,そのときの残渣質量からフィラーの体積分率を求めているが,実際には,試料を加熱することによりシリコーン成分を除いた場合,燃焼後にシリコーン灰分が発生することから,残渣にはフィラー分とシリコーン灰分の両方が存在している。したがって,乙11報告書における「TG測定の結果,5wt%の減量が見られましたので,残った95wt%がフィラーでした 」との記載は誤りである。実際には, 。
この95wt%の中に,フィラー分とシリコーン灰分が含まれており,フィラー分は95wt%よりも少ないはずである。
乙11報告書は,このようにフィラー分が95wt%であることを前提として,これに試料及びシリコーンゴムの比重を勘案して,試料中の熱伝導性無機フィラーの体積分率を計算し,82.5vol%という数値を導いているが,上記のとおり,フィラー分が95wt%という前提そのものが誤りである以上,その体積分率も誤りであることが明らかである。
なお,被告は,IR(赤外線)スペクトル測定の結果(乙21:以(ウ)下「乙21報告書」という )をもって,乙11報告書における実験で 。
生じた残渣には,シリコーン成分やSiO が残っていないことが確認2されたと主張する。
しかし,乙21報告書は,乙11報告書の実験における残渣を用いて平成19年9月6日に新たに報告された実験結果であるところ,約4か月も前にフィラー量測定のために行った乙11報告書の実験の残渣を被告が保管しておいたこと自体疑わしい。
また,乙21報告書の実験結果では,残渣にシリコーン或いはSiOが残っていないことが示されているにすぎず,残渣にフィラー以外の2ものが含まれていないことが立証されているとはいえない。IRは有機物の分析には適しているが,検出感度が必ずしも高くないため,無機物である残渣の分析に用いることは適切ではない。
【被告の主張】ア甲8報告書の信用性原告は,甲8報告書に基づいて,GR-n中のフィラー量は78.6vol%であると主張するが,甲8報告書には明らかな誤りがある。
すなわち,シリコーンは,酸素が存在しない雰囲気下で強熱すると,ほぼ全量が揮発・消失するが,酸素が存在すると多量の残渣が生成する。それゆえ,甲8報告書の実験では,GR-nの強熱残渣にはシリコーン由来の固形成分が残っている。このシリコーン由来の固形成分の残量は,常に一定量残るというものではなく,甲8報告書のように,GR-nとシリコーンゲルSE1885の残量割合からGR-nのフィラー量を求めることは,科学的に確立された方法ではない。
イ乙11報告書乙11報告書は第三者分析機関による分析試験における試験報告書で(ア)あるところ,同報告書の分析によれば,GR-nのフィラー量は,82.5vol%である。
原告は,分析サンプルN(GR-n)の比重「3.4」が小数点以下(イ)1桁までであることを問題とするが,比重が3.4(有効2桁)であったということは,信頼範囲は3.35〜3.44であることを意味する。
この範囲の値を比重に代入してフィラー体積を計算すると,フィラーの体積分率は,82.3〜82.7vol%となり,いずれも80vol%を超える。よって,比重測定値の信頼性は問題にならない。
乙11報告書の試験は,窒素雰囲気下の熱天秤で熱分解させる方法に(ウ)よって測定しており,強熱残渣にはシリコーン由来の固形成分はほとんど含まれていない条件で実施されている。この点,原告は,残渣にはフィラー分とシリコーン灰分の両方が存在すると主張するが,乙11報告書と同一の第三者試験機関が分析をした乙21報告書によれば,乙11報告書における実験残渣にはシリコーン成分やSiO が残っていかな2いことが確認されている。なお,乙21報告書の実験では,GR-nを新たに窒素下で熱分解して得た試料で行ったものである。
よって,乙11報告書の結果の方が信用性が高い。
(エ)4算出方法?Bに係る当事者の主張 ()【原告の主張】アGR-nの比重(密度)は,外部機関3社による実測の結果,その測定値の平均値は,3.355〜3.358である。
イ被告が製造標準処方に基づいて主張する6成分から,GR-nにおける熱伝導性無機フィラー(アルミナ)の体積分率を算出すると,平成20年1月17日付け原告従業員β作成の陳述書1(甲25:以下「甲25陳述書」という )のとおり80vol%を下回った。 。
すなわち,被告が主張するGR-nの成分の種類及び比重並びにカップリング剤の体積分率の数値をそれぞれ採用し,GR-nの比重は前記外部機関の実測結果の中間値3.356を採用し,V1(シリコーンの体積分率)及びV3(添加剤Aの体積分率)について取り得る種々の値を組み合わせて代入し,その際のV2(本件カップリング剤を除いた処理フィラーの体積分率 ,V4(添加剤-B,Cの合計の体積分率)の解の組み合わ )せを計算した。その結果は別紙計算書1のとおりであり,V2及びV4の解の組合せのうち,現実に取り得る解は,少なくともV4が0を超える場合でなければならないから,この条件を満たす解の範囲内にあるV2の値がGR-nのカップリング剤を除いた処理フィラー(アルミナ)の体積分率ということになる。
このようにして別紙計算書1を見ると,V4が0を超える解(表中黄色のセルで示した解)においては,V2は全て0.8(80vol%)を下回っている( V4=0」の場合のV2の最大値は79.29vol% 。この 「 )ことは,V1,V3,V4を現実的に取り得る範囲でいかように組み合わ。 せても,V2が80vol%を上回ることはあり得ないことを意味しているウまた,被告は,GR-nの成分中,添加剤-B及びCがカップリング処理されていない熱伝導性無機フィラーであると主張するので,これを前提にGR-nの熱伝導性無機フィラー体積分率(総量)の算出を行ったところ,この場合においても,V1,V3,V4を現実的に取り得る範囲でいかように組み合わせても,GR-nのカップリング剤を除いた熱伝導性無機フィラー(アルミナ,添加剤-B及びC)の体積分率は80vol%以下になった(甲25陳述書の表6〜10 。)エさらに,原告は,本件カップリング剤の量が被告主張の2.2vol%でない可能性を考慮し,被告主張の6成分(各成分の種類及び比重並びに添加剤-A〜Cの体積分率は被告主張のとおりの数値を採用し,GR-nの比重は3.356を採用した )から,GR-nにおける熱伝導性無機フ 。
ィラー(アルミナ)の体積分率を算出したところ,平成20年1月17日付け原告従業員β作成の陳述書2(甲26:以下「甲26陳述書」という )のとおり80vol%を下回った。 。
すなわち,別紙計算書2によれば,仮にV3(本件カップリング剤の体積分率)が2.2vol%でなかったとしても,V2(本件カップリング剤を除いた処理フィラーの体積分率)は80vol%を下回った。
加えて,添加剤-B及びCも熱伝導性無機フィラーと仮定してGR-nにおける熱伝導性無機フィラーの体積分率を算出しても,別紙計算書2のとおり,熱伝導性無機フィラーの総量の体積分率(V2+V5〔添加剤B,Cの合計の体積分率 )は80vol%を下回った。 〕【被告の主張】アGR-nの比重についてGR-nの比重測定の平均値が3.355〜3.358であることについて,被告は争わない。
イ甲25陳述書の誤り甲25陳述書は,最終製品であるシリコーンゴムからカップリング処理済みの熱伝導性無機フィラーの体積分率を求めているが,かかる計算方法は,本件明細書に記載も示唆もされていない。
また,甲25陳述書は以下の誤りを犯しているから信用することができない。
第1の誤り(ア)甲25陳述書は,GR-nに気泡が存在しないという前提で行った検討であるが,事実は,GR-nには1vol%以上と推認される気泡が存在する(乙35,37 。)第2の誤り(イ)甲25陳述書では 「処理フィラーの体積分率」を 「V2+0.0 , ,22」としているが,フィラーの体積分率がX%変化すれば,本件カップリング剤の体積分率もX%変化し,その結果,処理フィラーの体積分率もX%変化するから 「処理フィラー体積分率」は「1.0273× ,V2」とすべきである(乙36 。)第3の誤り(ウ)甲25陳述書では,カップリング処理前のフィラーの体積分率に「V2」という変数を設定しているが,構成要件Bの「熱伝導性無機フィラー」は,本件カップリング剤を含むカップリング処理された熱伝導性無機フィラーである。したがって,変数としては,本件カップリング剤を含むカップリング処理された熱伝導性無機フィラーの体積分率とすべきである。
しかるに,甲25陳述書では,カップリング処理前の熱伝導性無機フィラーの体積分率(V2)を計算し,その数値自体が「40vol%〜80vol%」の範囲にあるかを判断している。正しくは,V2から処理フィラーの体積分率を計算し,その値によって「40vol%〜80vol%」の範囲にあるかを判断しなければならない。
ウ甲26陳述書について甲26陳述書も,上記イの(ア)及(イ)と同じ誤りを犯しているから信用することができない。
エGR-nの正しい計算結果気泡が存在しないと仮定した場合のGR-nの正しい計算結果は,平成20年2月27日付け被告従業員γ作成の陳述書(4 (乙36:以下 )「乙36陳述書」という )のとおりであり,これによればGR-nに含 。
。 まれる処理フィラー(処理アルミナ)の体積分率は80vol%を上回った【原告の反論 (甲25陳述書に対する被告の主張について) 】ア「第1の誤り」について被告の提出する乙第35号証は,当該検査の対象となった試料がGR-nかどうかすら不明である。また,被告は,GR-nには気泡が存すると主張するが,空気は極めて断熱性が高いことから,気泡が1vol%にも達する商品は不良品にほかならない。
なお,仮に,GR-nに1vol%程度の気泡が存在することを前提として,甲25陳述書と実質的に同様の検証を行ったとしても,GR-n中の熱伝導性無機フィラーであるアルミナの体積分率は,依然として80vol%以下となる(甲28 。しかも,気泡の量が1vol%の場合はもとより, )2vol%や,さらには現実にはあり得ない極端な値である3vol%という仮定に基づいても,熱伝導性無機フィラーの体積分率は依然として80vol%以下になるのである。
イ「第2の誤り」について仮に,甲25陳述書における「 処理フィラーの体積分率)=V2+0. (022」との部分を 「 処理フィラーの体積分率)=1.0273×V ,(2」と修正したとしても,V2の最大値は80vol%以下になるとの結論は変わらない。すなわち,乙第36号証によれば 「処理フィラー(処理 ,アルミナ)体積分率(V2)の理論上の最大値」として 「81.45vo ,l%「81.56vol%「81.49vol%」という3つの数値が示さ 」,」,れているが,ここでのV2とは,カップリング剤を含めた処理フィラーの体積分率であるから 「 処理フィラーの体積分率)=1.0273×V ,(2」の式により,熱伝導性無機フィラー自体の体積分率を求めると,いずれも80vol%を下回る。
ウ「第3の誤り」について被告の「第3の誤り」に係る主張は,クレーム解釈の議論であり,甲25陳述書における変数設定の誤りの指摘としては当たらない。
3争点2(被告製品は本件各特許発明均等なものとしてその技術的範囲に属するか)について(予備的主張)【原告の主張】構成要件Bの解釈について 「40vol%〜80vol%」の範囲内にある熱伝 ,導性無機フィラーの全量がカップリング処理されていなければならないと解釈した場合,GR-b,GR-d,GR-k,GR-l及びGR-m(以下,「GR-b等」という )は構成要件Bを文言上充足しないことになるが,以 。
下に述べるとおり均等侵害が成立する。
1本質的部分について()本件各特許発明の本質的部分は,本件カップリング剤で表面処理をした熱伝導性無機フィラーをシリコーンゴムに分散させたこと(構成要件A)である。
他方,構成要件Bにおいて,本件各特許発明の本質的部分と関係のある構成は,熱伝導性無機フィラーが本件カップリング剤で処理されていること自体であり,同要件のその余の部分,すなわち,熱伝導性無機フィラーの総量が40vol%〜80vol%であることや,熱伝導性無機フィラーの全量が本件カップリング剤で処理されていることは,本件各特許発明の本質的部分を構成するものではない。
しかるところ,GR-b等は,熱伝導性無機フィラーの全量がカップリング処理されていないとの点が異なるのみであり,本件各特許発明の本質的部分である構成要件Aを含め他の構成要件を全て充足している。したがって,GR-b等と本件各特許発明の構成は,本質的部分において異ならない。
2置換可能性について()アGR-b等に係る熱伝導性無機フィラーのうちカップリング処理された熱伝導性無機フィラーの割合は,別紙被告製品の組成記載のとおりであるところ,熱伝導性無機フィラーの全量をカップリング処理するという本件各特許発明の構成をGR-b等のような組成に置き換えても,粘度の上昇による成形加工性の低下を招くおそれが少なく,これを成形して成る放熱シートは,圧縮永久歪みが少ない,引裂強度が高い,ゴム硬度が低い,高温放置による機械的特製の低下(ゴム硬度変化)が少ない,といった本件各特許発明の作用効果と同一の作用効果を奏する。
このことは,平成19年3月15日付け原告従業員β作成の実験報告書(甲6:以下「甲6報告書」という )のとおりであり,これによれば, 。
熱伝導性無機フィラー総量に対するカップリング処理された熱伝導性無機フィラーの量を半量としたサンプル(半量処理サンプル)が,初期ゴム硬度とエージング時ゴム硬度において,カップリング処理を全くしなかったサンプル(未処理サンプル)に比して顕著な差異があり,他方で,全量につきカップリング処理をしたサンプル(全量処理サンプル)とほぼ同等の効果が得られたことからも明らかである。また,同人作成の平成19年7月2日付け実験報告書(甲11)及び平成19年7月6日付け実験報告書(甲12)においても,GR-b等が本件各特許発明と同様の作用効果を奏することが明らかである。
イ被告は,甲6報告書の追試実験の結果として乙第13号証を提出するが,原告が乙第13号証の追試実験を行ったところ(甲13 ,初期ゴム硬度, )エージング後ゴム硬度及びゴム硬度変化を含むほぼ全項目において,半量処理品が全量処理品に近い物性を示すという甲6報告書と同様の結果が得られた。
ウよって,置換可能性がある。
3置換容易性について()本件各特許発明における熱伝導性無機フィラーの全量をカップリング処理するという構成を,GR-b等のように,熱伝導性無機フィラーの一定割合をカップリング処理するという構成に置き換えてもなお本件各特許発明の作用効果を奏することは,段落【0018】等の記載に基づき,本件カップリング剤の処理量を適宜調整して実際にシリコーンゴム組成物及びその成形硬化物を作製してみれば容易に確認できることであり,単なる試行錯誤の域を出るものではないから,当業者がGR-b等の製造時点で容易に想到できたものである。
4公知技術からの容易推考性について()GR-b等の構成は,本件各特許発明の出願日において,当業者が容易に推考できたものとはいえない。
5意識的除外等の特段の事情について()GR-b等が,本件各特許発明出願経過において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情はない。なお,構成要件Bは本件補正において追加されたものであるが,本件補正の意図が,熱伝導性無機フィラー全量をカップリング処理したものに限定する趣旨でなかったことは明らかであり,GR-b等のような組成を有するものが意識的に除外されたといった事情はない。
【被告の主張】1本質的部分について ()本件各特許発明は,構成要件Bを加えなければ,拒絶理由を含み,特許にならなかったという出願経過があるから,構成要件Bも構成要件Aと共に本質的要件である。
2置換可能性()ア甲6報告書は,初期ゴム硬度及びエージング時ゴム硬度のみを測定しただけであり,本件明細書の段落【0035】に記載されている 「成形ス ,ラリー粘度測定「圧縮永久歪み測定「引裂強度測定」は測定してい 」,」,ない。よって,甲6報告書は原告にとって都合のよいデータのみを採用したのではないかとの疑問が残る。
,」, イ被告が甲6報告書の追試試験をしたところ 「エージング前後の硬度「スラリー粘度「圧縮永久歪み ,及び「引裂強度」の各試験結果を総 」,」合すると,半量処理品は全量処理品と全量未処理品の間に位置しているか,又は全量未処理品に近い物性を示していることが明らかになった(乙13 。よって,GR-b等は,本件明細書に記載された作用効果を奏して )いない。
3置換容易性()被告は未処理フィラーと処理フィラーとを併用しているが,その技術的理由は,中粒子フィラー及び小粒子フィラーをカップリング処理して保護膜を形成することにより,白金系硬化触媒及び架橋剤の吸着を防止し,白金系硬化触媒及び架橋剤の使用量を減らして生産コストを下げること,並びに生産上必要なA液スラリー及びB液スラリーの保存安定性を向上するためである(乙14,15 。)したがって,GR-b等は,本件明細書に記載も示唆もされていない独特な理由により未処理フィラーと処理フィラーとを併用しているのであり,このことは,当業者がGR-b等の製造時点で容易に想到できたものではない。
4公知技術からの容易推考性 ()本件各特許発明新規性がないか又は進歩性もないので,GR-b等の構成は,本件各特許発明の出願日において当業者が容易に推考できた。
5意識的除外などの特段の事情()前記1の【被告の主張 (1)ウのとおり,本件特許の出願経過によれば, 】40vol%未満と80vol%を超える範囲は,原告自ら意識的に除外したものといえる。
4争点3(約定実施料及び損害額)について【原告の主張】1被告製品全体の製造販売に係る損害等()ア被告製品は本件各特許発明技術的範囲に属し,本件実施契約における「許諾製品」に該当するから,本件実施契約の終了前における被告製品の製造販売は,同契約に基づく実施料の支払義務を発生させる実施行為に該当し,同契約の終了後における被告製品の製造販売は本件特許権を侵害する。
イ約定実施料本件特許の登録日後である平成14年6月1日から本件実施契約が終了した平成15年10月1日までの間の被告製品の売上高は6億円を下らないから,本件実施契約で定められた売上高の3%である1800万円が約定実施料の額である。
損害額本件実施契約の終了日の翌日である平成15年10月2日から平成18年9月末日までの間の被告製品の売上高は13億円を下らない。本件各特許発明実施に対し原告が受けるべき金銭の額は,被告製品の売上高の8%を下らないから,特許法102条3項により1億0400万円が原告の受けた損害の額である。
2GR-nの製造・販売に係る損害等 ()アGR-nの売上高平成14年6月1日から平成20年5月末日までのGR-nの売上高は,以下のとおりと考えられる。
平成14年6月〜平成15年9月0.8億円平成15年10月〜平成16年9月1.2億円平成16年10月〜平成17年9月3.0億円平成17年10月〜平成18年9月3.0億円平成18年10月〜平成19年9月3.0億円平成19年10月〜平成20年5月2.0億円イ約定実施料上記のように,平成14年6月1日から本件実施契約が終了した平成15年10月1日までの間のGR-nの売上高は8000万円を下らないから,売上高の3%である240万円が約定実施料の額である。
損害額上記のように,本件実施契約終了日の翌日である平成15年10月2(ア)日から平成20年5月末日までの間のGR-nの売上高は12億2000万円を下らない。
被告は,本件特許権が成立する前に,自ら実施権の許諾を原告に申し(イ)入れ,本件実施契約が締結されたものである上,本件特許権の成立後も,被告以外のメーカーに対して実施許諾されるなど,本件各特許発明は放熱シートの分野における極めて技術的価値の高い発明である。
さらに,本件実施契約では特許権成立後の実施料率が3%とされているところ,被告は自らの意思で本件実施契約を解約しておきながら,漫然と実施行為(侵害行為)を継続しているのであり,仮に,損害賠償としての実施料相当額が上記約定額と同等にとどまるのであれば,ライセンス契約を尊重しようというインセンティブが働かず,侵害行為を助長する。
よって,損害賠償としての実施料相当額は,実施契約上の約定実施料をかなり上回らなければ不合理であり,本件においては売上高の8%が相当である。
したがって,特許法102条3項により,平成15年10月2日から(ウ)平成20年5月末日までの間のGR-nの販売につき,原告が受けるべき金銭の額に相当する額は,売上額12億2000万円の8%である9760万円である。
エ弁護士・弁理士費用の請求原告は,本件の訴訟追行を原告訴訟代理人弁護士及び補佐人弁理士に委任して報酬の支払を約しており,被告の違法行為と相当因果関係がある金額は,上記イ及びウの合計額である1億円の10%である1000万円が相当である。
【被告の主張】1被告製品全体の製造・販売に係る損害等について()争う。
2GR-nの製造・販売に係る損害等()アGR-nの販売額本件実施契約期間内(ア)本件実施契約期間内である平成14年6月1日から平成15年9月末日までのGR-nの販売額は,別紙「GR-nシリーズ販売実績(その1 」のとおりであり,同期間の総販売額は3282万1737円であ )る。
本件実施契約期間外(イ)本件実施契約終了後である平成15年10月1日から平成20年5月末日までのGR-nの販売額は,別紙「GR-nシリーズ販売実績(その2 」のとおりであり,同期間の総販売額は7942万5336円で )ある。
イ約定実施料及び損害額の計算約定実施料(ア)本件実施契約期間内の約定実施料率は3%であるから,GR-nの販売に係る約定実施料の額は98万4652円となる。
損害額(イ)本件実施契約期間外における実施料相当額の損害金は,せいぜい5%が妥当である。なぜなら,被告の行為は悪質とはいえず,また,本件実施契約における約定実施料率(3%)と比べて,5%という数字は67%もアップしているからである。実施料率を5%として計算すると,原告の受けた損害額は397万1267円となる。
ウ代理人費用について原告は代理人費用を請求しているが,仮に代理人費用を請求できるとしても,それは特許権侵害という不法行為に係る損害のみであり,約定実施料について請求することはできない。
本件において被告が原告に対して支払うべき約定実施料及び損害額はわずかであり(合計495万5919円 ,後記5の被告の過払金(合計8 )30万5526円)と相殺により消滅する。
したがって,代理人費用は認められない。5争点4(相殺の抗弁の成否)について【被告の主張】被告は,平成20年6月30日,仮に原告の本訴請求のうちGR-nに係る請求が認容された場合には,後記(2)に掲げる各債権を自働債権として,原告の本訴請求に係る債権と対当額で相殺するとの意思表示をした。
1約定実施料の支払()被告が,本件実施契約の存続期間中に,本件実施契約に基づき原告に支払った約定実施料は下記表のとおりである。
(単位:円)被告が原告に実施料を支払った期間製品名 合計額第1期第2期第3期第4期12.10-12.1112.12-13.513.6-13.1113.12-14.5 平平平平GR-b,GR-d,GR-e,<中略><中略><中略><中略> <中略> GR-j,GR-k,GR-lの合計GR- 27,39294,392191,41958,414371,617 iGR-n 76,680207,821188,443145,290618,234<中略><中略><中略><中略> <中略> 合計2自働債権の存在 ()ア第1次的主張(錯誤無効に基づく不当利得返還請求権)被告は,本件特許に係る公開公報を確認した上で,原告に対して実施(ア)契約の締結を申し込み,交渉を経た上で,同公報の特許請求の範囲に記載された発明に特許権が発生することを前提として,本件実施契約を締結したものであり,原告にもその旨述べた。
それにもかかわらず,同公報記載どおりの特許権は発生せず,本件補正によって構成要件Bが付加された特許権が発生したのであるから,被告の本件実施契約を締結する旨の意思表示には動機の錯誤がある。
上記動機は原告に表示されており,同錯誤がなければ,被告は本件実(イ)施契約を締結しておらず,通常人であっても,特許権の技術的範囲に属さない製品を製造するにもかかわらず,その製造に際して実施料の支払義務を負う契約を締結するはずもないので,要素の錯誤に当たる。よって,GR-i及びGR-nを除く被告製品に係る部分については,一部無効である。
したがって,同製品に係る既払実施料<中略>円につき,被告は原告に対する不当利得返還請求権を有する。
なお,本件実施契約4条2項には不返還条項が定められているが,こ(ウ)れは「本件特許権につき,契約締結後,無効審判が請求され無効審決が確定した場合であっても,本件契約金等の返還をしない」との趣旨を合意したものであり,この趣旨を超えて,本件実施契約につき錯誤や詐欺等が存在する場合において,契約の無効や取消しを理由として実施料等の返還請求をすることが一切できないとの趣旨まで含む合意があったとはいえない。
イ第2次的主張(既払実施料に係る不当利得返還請求権)出願中の発明に係る実施許諾契約において,契約締結後の補正によって特許請求の範囲減縮された場合,出願人(原告)は,権利化を図るために,自らの意思により独占すべき権利の範囲を狭めたのであるから,実施許諾の範囲は,原始的に(契約締結の日から)減縮された特許請求の範囲になるというべきである。本件においても,原告は,本件補正によって本件実施契約についても減縮した部分については実施料を請求できないことを承知の上で補正したのである。
したがって,契約の解釈に関する信義則上,本件補正によって,GR-i及びGR-nを除く被告製品は契約から除外される。また,上記ア(ウ)と同様に,本件実施契約4条2項が適用される余地もない。
以上より,GR-i及びGR-nを除く被告製品の既払実施料である<中略>円の全額について,原告は法律上の原因なく利得しており,被告は同額の損失を受けているから,被告は原告に対し,同額について不当利得返還請求権を有する。
ウ第3次的主張(既払実施料の一部に係る不当利得返還請求権)原告による本件補正は出願の一部取下げないし放棄とでもいうべき行為である。そして,出願の全部が取り下げられた場合ないし放棄された場合,その後は,被告の原告に対する実施料支払義務は消滅すると解すべきであるから,そのこととのバランス上,補正によって出願範囲の一部が取り下げられた場合には,被告の原告に対する実施料支払義務は,それ以降,その補正に対応する一部が消滅すると解すべきである。
したがって,被告は,本件補正書が提出された日の翌日である平成14年2月5日以降は,本件補正に対応した実施料しか支払う義務がなかったにもかかわらず,従前どおりの実施料を支払い続けたのであるから,既払実施料のうち補正に対応した部分については不当利得返還請求権が生じる。
よって,仮に,上記ア及びイの主張が認められないとしても,平成14年2月5日以降に支払われた実施料のうち<中略>円(下記計算式)については,原告は法律上の原因なく利得し,被告は同額の損失を受けたのであるから,被告は原告に対し,同額につき不当利得返還請求権を有する。
計算式:<中略>円(平成13年12月1日から平成14年5月31日までのGR-n及びGR-iを除く既払実施料)÷182日(平成13年12月1日〜平成14年5月31日)×116日(平成14年2月5日〜5月31日)=<中略>円〕エ第4次的主張(債務不履行に基づく損害賠償請求)原告は,信義則上,被告に対して,本件補正を通知する義務を負っていたところ,被告に本件補正を秘したまま,これを行ったのであるから,上記義務に違反したというべきである。そして,原告が,上記補正の事実を被告に通知しておけば,その補正の範囲に応じて実施料を減額することとなったはずである。
したがって,被告は原告に対し,本件補正以降の既払実施料のうち,補正された範囲に相当する<中略>円につき,債務不履行に基づく損害賠償請求権を有する。
【原告の主張】1第1次的主張について()ア上記被告の主張(2)ア(ア)は否認する。
イ本件実施契約締結後になされた本件補正と,本件実施契約締結時における要素の錯誤とは無関係であり,錯誤無効の主張は失当である。
2第2次的主張及び第3次的主張について()いずれも争う。
ア被告による実施料の支払は,本件実施契約という法律上の原因に基づいてなされたものであるから,原告が当該実施料を受領したことが不当利得となることはない。少なくとも平成14年3月22日に本件特許権の設定登録がされる以前においては,本件実施契約における「許諾製品」とは,本件補正前の特許請求の範囲技術的範囲に属する熱伝導性シリコーンゴム組成物よりなる放熱シートと解するほかはない。そうすると,平成14年3月22日以前において,GR-i及びGR-nを除く被告製品が本件実施契約の「許諾製品」に該当することは明らかであるから,この期間における被告の既払実施料が原告の不当利得となることはあり得ない。
イまた,本件実施契約4条2項は,被告が原告に対して本件実施契約に基づくものとして任意に支払った実施料については,確定的に原告に帰属するものとし,許諾特許や本件実施契約のその後の帰趨(無効や終了など)によって当該支払の有効性が失われ返還されることがない旨を定めたものである。かかる条項の目的は,いったん支払われた実施料について,後日,その支払の有効性に対する疑義が生じることを防止することにより契約当事者間の法律関係の安定を図ることにある。同条項では,不返還の場合の具体的な例示として 「許諾特許の無効,本契約の解約」が掲げられてい ,るが,あくまでも例示であり,いったんなされた支払の不返還が上記の場合に限定されるものでないことは 「その他いかなる理由によっても」被 ,告に返還されないとの文言から明らかである。
よって,被告が原告に任意に支払った上記期間におけるその他製品の実施料について,原告に不当利得が発生することはない。
3第4次的主張について()争う。
ア少なくとも特許成立前の補正について,被告が主張するような信義則上の義務を観念することはできない。特許成立前の段階における実施許諾契約における許諾対象たる発明は,当該出願の願書に最初に添付した明細書の開示範囲を超えない限度で,その後の補正により変わり得るのであり,特許が成立しないことも十分にあり得るからである。また,かかる状況において,被許諾者が実施許諾契約を締結して実施料を支払う理由は,特許出願に係る発明について将来特許が成立したときに,特許権者から権利行使を受けるリスクを予め回避しておくことにある。そして,本件実施契約のように,実施料の支払の根拠となる許諾対象製品を許諾対象たる発明との抵触関係によって定義する場合,その抵触関係の有無の判断は,第一次的には被許諾者の責任においてなされるべきである。なぜなら,被許諾者は,自己が実施しようとする製品の内容を熟知しているし,許諾対象となっている発明の内容についても,これが補正により変化し得る浮動的なものであることを十分に認識した上で実施許諾契約を結んでいることに加え,許諾対象発明の内容について特許庁で出願書類(包袋)を閲覧したり,許諾者に適宜問い合わせることで,容易に知ることができるからである。
イ他方,許諾者としては,被許諾者からその実施する製品の詳細な構成や実施許諾の動機について特段の説明や情報提供を受けることなく,特許成立後の実施契約よりも低率の実施料で許諾しているのであり,それにもかかわらず補正の都度,被許諾者に逐一通知しなければならないとすれば煩瑣に堪えない。
ウこのように,特許出願段階における実施許諾契約の性質及び契約当事者の利害状況によれば,被許諾者において,許諾対象となった特許出願について注意を払っておくべきであり,何ら契約書に記載がないにもかかわらず,信義則上,許諾者が被許諾者に対して補正内容について通知義務を負うものと解することはできない。本件においても,本件実施契約には,補正内容の通知義務に関する規定は一切ないのであり,信義則上も,原告が被告に対してかかる通知義務を負うものと解することはできない。
エなお,仮に,原告に通知義務違反という債務不履行が認められたとしても,被告の主張する損害は,被告自身が容易に確認できるクレーム内容の確認を怠ったことにより生じたものであるから,上記債務不履行との因果関係は存在しない。さらに,仮に因果関係の存在も認められたとしても,上記事情によれば被告自身の不注意が損害の発生に寄与していることが明らかであるから,損害賠償の責任及び額を定めるに当たり過失相殺がなされるべきである(民法418条 。)第4当裁判所の判断1争点1-1(構成要件Bの「熱伝導性無機フィラー」の解釈)について構成要件Bの「熱伝導性無機フィラー」の意義について,原告は,カップリング処理したものであるか否かを問わず「熱伝導性シリコーンゴム組成物に含まれる熱伝導性無機フィラーの総量」であると主張するのに対し,被告は,「カップリング処理を施した熱伝導性無機フィラー」であると主張するので,以下,検討する。
1特許請求の範囲の記載()まず,特許請求の範囲の記載について検討を加える。
ア前記当事者間に争いのない事実等で認定したとおり,本件特許の特許請求の範囲【請求項1】には 「シリコーンゴムに,下記一般式(A)で示さ ,れるシランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラーを分散させて成り,熱伝導性無機フィラーが熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%〜80vol%であることを特徴とする熱伝導性シリコーンゴム組成物 」と記載されていることが認められる。 。
イ上記記載のとおり,構成要件Bの「熱伝導性無機フィラー」の文言の前に「同「当該」又は「該」といった直前の文言を指し示す接頭語が付 」,されていないことから,同「熱伝導性無機フィラー」が,構成要件Aの定義するカップリング処理した熱伝導性無機フィラーを指すことが一義的に明確とはいえない。しかしながら,他方,同記載において,構成要件Bの「熱伝導性無機フィラー」が構成要件Aのそれとは別の物である,すなわちカップリング処理されていないものも含めた熱伝導性無機フィラーの総量と解する根拠となる積極的な記載も認められない。また,構成要件Bが構成要件Aの直後に配置され,しかも 「熱伝導性無機フィラー」との文 ,言が構成要件Aのそれと近接して使用されていることからすれば,後者が前者を指している,すなわち構成要件Bの「熱伝導性無機フィラー」が構成要件Aのカップリング処理された熱伝導性無機フィラーを指すと読むのがどちらかといえば自然な解釈といえる。
2発明の詳細な説明の記載()次に,発明の詳細な説明の記載を参しゃくして構成要件Bの「熱伝導性無機フィラー」の意義について検討する。
ア証拠(甲2,3)によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,以下の記載があることが認められる。
段落【0007】(ア)「本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり,熱伝導性無機フィラーを高充填化しても,成形物に柔軟性と耐熱機械特性が付与される熱伝導性シリコーンゴム組成物及び放熱シートを提供することを目的とするものであり,更に具体的には,成形スラリーの粘度低下,成形物の圧縮永久歪みの低下(ゴム弾性の付与)及び引裂強度の向上の効果をもたらす熱伝導性シリコーンゴム組成物及び放熱シートを提供することを目的とするものである 」。
段落【0013】(イ)「 発明の実施の形態】以下,本発明の実施の形態を説明する。本発明 【の熱伝導性シリコーンゴム組成物は,シリコーンゴムに,シランカップリング剤にて表面処理された熱伝導性無機フィラーを分散させたものである 」。
段落【0014】(ウ)「シリコーンゴムとしては,二液型や一液型の液状タイプのシリコーンゲルやシリコーンゴム,熱加硫型のシリコーンゴム等の各種のタイプを使用することができる 」。
段落【0015】(エ)「また熱伝導性無機フィラー1としては,アルミナ,シリカ,酸化マグネシウム,酸化ベリリウム,酸化チタン等の金属酸化物,窒化アルミニウム,窒化ホウ素,金属アルミニウム,銅粉等を用いることができるが,金属酸化物を用いると,カップリング剤の処理効率が高くなるものであり,上記フィラーの表面の一部又は全部を酸化させることにより,カップリング剤の処理効率を向上することもできる。またこの熱伝導性無機フィラー1の形状としては,特に限定するものではなく,球状であっても針状であっても板状であっても構わないものである。ここで熱伝導性シリコーンゴム組成物中の熱伝導性無機フィラー1の配合割合は,熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%〜80vol%とするものであり,40vol%に満たないと高い熱伝導率を得ることが困難であり,80vol%を超えると熱伝導性シリコーンゴム組成物の硬化成形物がさらに硬く脆くなる恐れがあって好ましくない 」。
段落【0018】(オ)「ここで熱伝導性無機フィラー1に対する上記のシランカップリング剤の処理量は 〔熱伝導性無機フィラーの添加量(g)〕×〔熱伝導性無機 ,フィラーの比表面積(?u/g)〕÷〔熱伝導性無機フィラーの最小被覆面積(?u/g)〕の式で示される熱伝導性無機フィラー1の表面にシランカップリング剤の単分子層を形成するのに必要なシランカップリング剤量の,0.1〜15倍とするのが好ましいものである。ここで0.1倍に満たないと,シランカップリング剤による処理効果が少なくなる。また15倍を超えるとシランカップリング剤のコストが大きくなり,また熱伝導性シリコーンゴムの加熱処理を行う際にメタノールの発生に起因すると思われるボイドが発生する恐れがある 」。
段落【0025】(カ)「ここで,上記のようにしてシランカップリング剤にて表面処理が成された熱伝導性無機フィラー1の表面の様子は,図1に示すようになる。
すなわち,シランカップリング剤としてYSi(OMe) (OMeはメ3トキシ基,Yは炭素数6以上の脂肪族長鎖アルキル基を示す)を用いる3 とすると,シランカップリング剤は,下記の式のようにYSi(OH)まで加水分解された後,数個の分子が脱水反応によりオリゴマー化する 」。
段落【0027】(キ)「更に熱伝導性無機フィラー1の表面の水酸基と反応して,熱伝導性無機フィラー1の表面は図1に示すような,疎水性の長鎖のアルキル基2で覆われるものである。このように親水性の熱伝導性無機フィラー1の表面が疎水性の長鎖のアルキル基2で覆われることにより,熱伝導性無機フィラー1とマトリックスのシリコーンゴムとの相溶性が著しく向上するものである。上記の式(A)中にYで表されているアルキル基の炭素数は,大きければ大きいほど熱伝導性無機フィラー1とマトリックスのシリコーンゴムとの相溶性が向上するものであるが,現時点ではこのアルキル基の炭素数が18のものまでが,安定に存在することが確認されており,Yで表されているアルキル基の炭素数の上限は18となっている 」。
段落【0028】(ク)「上記のように本発明の熱伝導性シリコーンゴム組成物では,熱伝導性無機フィラー1とマトリックスのシリコーンゴムとの相溶性を向上することができるため,熱伝導性を高めるためにマトリックスのシリコーンゴムに熱伝導性無機フィラー1を高充填化しても,スラリー状の熱伝導性シリコーンゴム組成物の成形スラリー粘度が上昇して成形加工性が低下するようなことがなく,熱伝導性無機フィラー1を高充填化して熱伝導性を高めた熱伝導性シリコーンゴム組成物の成形加工性を向上することができる 」。
段落【0029】(ケ)「またシリコーンゴムとの相溶性を向上させたことにより,熱伝導性無機フィラー1同士の凝集を防ぎ,シリコーンゴムのマトリックス中での熱伝導性無機フィラー1の二次凝集の少ない良好な分散状態を可能とすることができ,従って熱伝導性シリコーンゴム組成物の硬化成形物の柔軟性が向上し,ゴム弾性が向上すると共に,引張強度,引裂強度,圧縮永久歪み特性を著しく改善することができる 」。
段落【0030】(コ)「またシリコーンゴムとの相溶性を向上すると耐熱エージング(高温放置)によるシリコーンゴムの酸化を起こしにくくさせ,またこのときの熱伝導性無機フィラー1同士の凝集も,上記のように起こりにくいことから,この熱伝導性シリコーンゴム組成物の硬化成形物の,耐熱試験における機械特性変化を低減することができるものである 」。
段落【0032】(サ)「 実施例】以下,本発明を実施例によって詳述する。 【(実施例1)シリコーンゴムとして,主剤と硬化剤の二液よりなる付加反応型シリコーンゲル(東レダウコーニング社製,品番「SE1885 )を,熱伝導性無機フィラー1としてアルミナ(昭和電工社製)を, 」シランカップリング剤としてn-ヘキシルトリメトキシシランをそれぞれ用い,熱伝導性無機フィラー1に上記の直接処理法の乾式法にて,シランカップリング剤を,熱伝導性無機フィラー100重量部に対して0.5重量部の割合で処理し,シリコーンゴムの主剤と硬化剤のそれぞれに,この表面処理を施した熱伝導性無機フィラー1を,熱伝導性無機フィラー1の体積分率(Vf)が60%となるように配合した。この混練物の主剤と硬化剤を一対一の比率で混練して,スラリー状の熱伝導性シリコーンゴム組成物を得た 」。
段落【0055】(シ)「 発明の効果】上記のように本発明の請求項1に記載の熱伝導性シリ 【コーンゴム組成物は,シリコーンゴムに,上記一般式(A)で示されるシランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラーを分散させて成り,熱伝導性無機フィラーが熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%〜80vol%であるため,熱伝導性無機フィラーの表面が疎水性の長鎖のアルキル基に覆われてシリコーンゴムとの相溶性が向上し,熱伝導性を高めるためにマトリックスのシリコーンゴムに熱伝導性無機フィラーを高充填化しても,スラリー状の熱伝導性シリコーンゴム組成物の成形スラリー粘度が上昇して成形加工性が低下するようなことがなく,熱伝導性無機フィラーを高充填化した熱伝導性シリコーンゴム組成物の成形加工性を向上することができるものであり,また熱伝導性無機フィラー同士の凝集を防ぎ,シリコーンゴムのマトリックス中での熱伝導性無機フィラーの二次凝集の少ない良好な分散状態を可能とすることができ,熱伝導性シリコーンゴム組成物の硬化成形物の柔軟性が向上し,ゴム弾性が向上すると共に,引張強度,引裂強度の向上及び圧縮永久歪みを低減することができるものであり,また耐熱エージング(高温放置)によるシリコーンゴムの酸化を起こしにくくさせると共に上記のように熱伝導性無機フィラー同士の凝集も起こりにくいものであって,この熱伝導性シリコーンゴム組成物の硬化成形物の,耐熱試験におけるゴム硬度変化等の機械特性変化を低減することができるものである。また熱伝導性無機フィラーが熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%以上であることで高い熱伝導率を得ると共に,80vol%以下であることから熱伝導性シリコーンゴム組成物の硬化成形物が硬く脆くなることを防止することができるものである 」。
イ発明の目的等の記載本件明細書の前記段落【0007】及び【0013】の記載によれば,本件各特許発明の目的は,熱伝導性無機フィラーを高充填化しても,成形物に柔軟性と耐熱機械特性が付与される熱伝導性シリコーンゴム組成物及びこれを成形して成る放熱シートを提供すること,具体的には,成形スラリーの粘度低下,成形物の圧縮永久歪みの低下(ゴム弾性の付与)及び引裂強度の向上の効果をもたらす熱伝導性シリコーンゴム組成物及びこれを成形して成る放熱シートを提供することにあり,その目的を達成するための手段が,シリコーンゴムに,本件カップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラーを分散させるということにあることが認められる。そして,段落【0014】では,段落【0013】で示されたシリコーンゴムとして使用できるシリコーンゴムの種類が開示され,段落【0015】では,段落【0013】で示された熱伝導性無機フィラーの候補となる素材が複数掲げられている。また,段落【0015】では,熱伝導性無機フィラーの候補素材の中でも「金属酸化物を用いると,カップリング剤の処理効率が高くなるものであり,上記フィラーの表面の一部又は全部を酸化させることにより,カップリング剤の処理効率を向上することもできる」と記載されている。
このように,段落【0015】は,本件各特許発明の目的を解決する手段を開示した段落【0013】を受け,そこに記載されている熱伝導性無機フィラーに好適な素材(金属酸化物)を示し,これを用いるとカップリング剤の処理効率が高くなることを開示しているから,段落【0015】の上記記載は,熱伝導性無機フィラーの全量にカップリング処理することを前提としたものであると理解することができる。そして,同じ段落【0015】の中で 「ここで熱伝導性シリコーンゴム組成物中の熱伝導性無 ,機フィラー1の配合割合は,熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%〜80vol%とするものであり」と記載されているから,ここで示された配合割合は,カップリング処理された熱伝導性無機フィラーの上記組成物に対する配合割合を示すものと解するのが自然である。
ウ発明の効果及び実施例の記載前記段落【0025】及び【0027】には,熱伝導性無機フィラーをカップリング処理することによって,親水性の熱伝導性無機フィラーの表面が疎水性の長鎖のアルキル基で覆われ,熱伝導性無機フィラーとマトリックスのシリコーンゴムとの相溶性が著しく向上することが開示されており,その効果として,熱伝導性を高めるためにマトリックスのシリコーンゴムに熱伝導性無機フィラーを高充填化しても,スラリー状の熱伝導性シリコーンゴム組成物の成形スラリー粘度が上昇して成形加工性が低下することがないこと(段落【0028,熱伝導性無機フィラー同士の凝集 】)を防ぎ,シリコーンゴムのマトリックス中での熱伝導性無機フィラーの二次凝集の少ない良好な分散状態を可能とすることができ,熱伝導性シリコーンゴム組成物の硬化成形物の柔軟性が向上し,ゴム弾性が向上するとともに,引張強度,引裂強度,圧縮永久歪み特性を著しく改善することができること(段落【0029,耐熱エージング(高温放置)によるシリ 】)コーンゴムの酸化を起こしにくくさせ,また熱伝導性無機フィラー同士の凝集も起こりにくいことから,熱伝導性シリコーンゴム組成物の硬化成形物の,耐熱試験における機械特性変化を低減することができること(段落【0030 )がそれぞれ示されており(段落【0055】においても同 】様のことが示されている,かかる効果はいずれも熱伝導性無機フィラ 。)ーをカップリング処理することによる相溶性の向上によってもたらされるものと解される。そうすると,かかる記載に接した当業者は,未処理の熱伝導性無機フィラーを混合使用することについて直ちには想到せず(本件証拠上,想到し得たことを窺わせる公知技術も認められない,むしろ,。)未処理の熱伝導性無機フィラーの表面は疎水性の長鎖のアルキル基で覆われていないのであるから,シリコーンゴムと熱伝導性無機フィラーとの相溶性を十分に向上させることができず,上記発明の効果が低減すると考えるのが自然である。よって,本件各特許発明は,熱伝導性無機フィラーの全量をカップリング処理した上,シリコーンゴムに充填するものと解するのが通常と考えられる。
本件明細書に開示された実施例との関係についても,前記段落【0032】では,カップリング処理した熱伝導性無機フィラーを,シリコーンゴムの主剤と硬化剤のそれぞれに熱伝導性無機フィラーの体積分率(Vf)が60%となるように配合し,その混練物の主剤と硬化剤を1対1の比率で混練して熱伝導性シリコーンゴム組成物を作成する実施例(実施例1)が示され,段落【0033】ないし【0054】において,カップリング剤の種類や,カップリング剤の対熱伝導性無機フィラーの重量割合を変えて熱伝導性シリコーンゴムを作成する実施例(実施例2〜8)及び熱伝導性無機フィラーの素材を変えた実施例(実施例9〜11)が示されており,これらの実施例とカップリング処理をしない比較例等を比較して,成形スラリー粘度測定,圧縮永久歪み測定,引裂強度測定及びゴム強度測定をそれぞれ行い,上記発明の効果が確認されている。このように,実施例においても,熱伝導性無機フィラー全量をカップリング処理してシリコーンゴムに充填することが示されており,全量未処理のものと比較することにより,その効果を確認しているのであり,カップリング処理したものと未処理のものを混合使用した場合にも同じ効果が得られることは何ら開示されていない。よって,当業者としては,本件各特許発明はシリコーンゴムに充填する熱伝導性無機フィラー全量をカップリング処理するものと理解すると考えられる。
このように,本件明細書における発明の効果及び実施例に関する各記載は,一貫してシリコーンゴムに充填する熱伝導性無機フィラー全量をカップリング処理することを前提としており,ここに未処理の熱伝導性無機フィラーを充填することは,何らの開示も示唆もされていないのであるから,本件各特許発明はあくまでシリコーンゴムに充填する熱伝導性無機フィラー全量をカップリング処理するものと解するほかない。そうすると,構成要件Bの「熱伝導性無機フィラー」も,カップリング処理した熱伝導性無機フィラーと解するのが相当である。
エ原告の主張について原告は段落【0015】の「40vol%に満たないと高い熱伝導率を(ア)得ることが困難であり,80vol%を超えると熱伝導性シリコーンゴム組成物の硬化成形物がさらに硬く脆くなる恐れがあって好ましくない」との記載や,段落【0055】の「熱伝導性無機フィラーが熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%以上であることで高い熱伝導率を得ると共に,80vol%以下であることから熱伝導性シリコーンゴム組成物の硬化成形物が硬く脆くなることを防止することができる」との記載等に基づき,構成要件Bの「熱伝導性無機フィラー」は,シリコーンゴムに充填する熱伝導性無機フィラーの総量を意味すると主張する。確かに,これらの記載のみからすれば,原告主張のように解することも全く不可能とはいえない。しかし,上記記載は 「たとえ熱伝導性 ,無機フィラー全量をカップリング処理しても,80vol%を超えてこれをシリコーンゴムに充填すると,熱伝導性シリコーンゴム組成物の硬化成形物がさらに硬く脆くなる恐れがあって好ましくない」というように解することもできるのであり(本件明細書上,カップリング処理を施した熱伝導性無機フィラーであれば80vol%を超えて充填しても硬く脆くならないことを窺わせる記載も認められない,前記特許請求の範 。)囲の記載,発明の効果及び実施例の記載とも併せ考慮すれば,むしろこのように解するのが自然といえる。
原告は,本件明細書の発明の詳細な説明には,熱伝導性無機フィラー(イ)の全量がカップリング処理されていなければ本件各特許発明の効果が得られないとは記載されていないから,構成要件Bの「熱伝導性無機フィラー」全量がカップリング処理されることまで要求されていないとも主張する。確かに,本件明細書では,熱伝導性無機フィラーの全量がカップリング処理されていなければ本件各特許発明の効果が得られないとまでは明示的に記載されていない。しかし,他方で,本件明細書には,未処理の熱伝導性無機フィラーを加えてもよいことについて何らの開示も示唆もなく,実施例にも熱伝導性無機フィラーの全量がカップリング処理されたものだけが開示されており,未処理の熱伝導性無機フィラーを加えた場合にも,そうでない場合と同様の効果が得られることについて何ら記載されていない。むしろ,前記ウのとおり,未処理の熱伝導性無機フィラーは,その表面が疎水性の長鎖アルキル基に全く覆われていないのであるから,これを加えた場合に本件各特許発明と同様の効果が得られるとは容易に想到できないと考えられる。この点,原告は,自ら実験した結果(甲6)を基に,熱伝導性無機フィラーの半量を処理した場合であっても,本件各特許発明の効果を奏するに十分であると主張する(原告第3準備書面15頁6行〜16頁9行 。しかし,特許請求の範 )囲の解釈(均等侵害の成否は別論)において,明細書の記載のほか,出願経過及び公知技術を参しゃくすることを超えて,当業者にとって自明でない実験結果を考慮することはできないというべきであるから,同実験結果の信用性にかかわらず,これを根拠とすることはできない。
原告は,段落【0018】の記載から,シリコーンゴム組成物中の熱(ウ)伝導性無機フィラーの全表面積の0.1倍,つまり10%の表面が本件カップリング剤で覆われていれば,本件各特許発明の効果を奏するのに十分であるとも主張する。しかし,同段落の記載は,カップリング処理に使用するカップリング剤の量比を示したものであって,熱伝導性無機フィラーの全表面積の0.1倍の量のカップリング剤を使用し,その全量が熱伝導性無機フィラーの表面に結合した場合には,全ての熱伝導性無機フィラーの表面の平均10%がカップリング剤で覆われることになるのであり,その結果,あくまで全量がカップリング処理された熱伝導性無機フィラー(表面の一部が処理されたもの)になるのであって,カップリング処理が全くされていない熱伝導性無機フィラーを混合使用することが示されているとはいえない。この点に関連して,原告は相溶性との関係で重要なのはカップリング処理された熱伝導性無機フィラーの表面積であり,体積分率ではない旨主張するが,熱伝導性無機フィラー1個当たりの大きさが同じであれば,その表面積と体積が相関関係を有するのは自明であるから,この点をもって構成要件Bの「熱伝導性無機フィラー」全量がカップリング処理されることを要しないとは到底いえないものというほかない。
3出願経過()本件において,構成要件Bは本件出願後の補正(本件補正)によって加えられたものであることから,本件特許の出願経過についても検討する。
ア当初明細書の記載原告は,平成10年1月27日に本件出願をしたものであるところ,当初明細書には以下の記載のあることが認められる(乙1 。)特許請求の範囲(ア)「 請求項1】 シリコーンゴムに,下記一般式(A)及び(B)で示 【されるシランカップリング剤から選択されたシランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラーを分散させて成ることを特徴とする熱伝導性シリコーンゴム組成物。
【化1】YSiX(A)3Y SiX(B)22X=メトキシ基又はエトキシ基Y=炭素数6個以上の脂肪族長鎖アルキル基又はフェニル基」発明の詳細な説明の記載(イ)a段落【0012】「また熱伝導性無機フィラー1としては,アルミナ,シリカ,酸化マグネシウム,酸化ベリリウム,酸化チタン等の金属酸化物,窒化アルミニウム,窒化ホウ素,金属アルミニウム,銅粉等を用いることができるが,金属酸化物を用いると,カップリング剤の処理効率が高くなるものであり,上記フィラーの表面の一部又は全部を酸化させることにより,カップリング剤の処理効率を向上することもできる。またこの熱伝導性無機フィラー1の形状としては,特に限定するものではなく,球状であっても針状であっても板状であっても構わないものである。ここで熱伝導性シリコーンゴム組成物中の熱伝導性無機フィラー1の配合割合は,熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%〜80vol%とするものが好ましいものであり,40vol%に満たないと高い熱伝導率を得ることが困難であり,80vol%を超えると熱伝導性シリコーンゴム組成物の硬化成形物がさらに硬く脆くなる恐れがあって好ましくない 」。
b段落【0046】「 発明の効果】上記のように本発明の請求項1に記載の熱伝導性シ 【リコーンゴム組成物は,シリコーンゴムに,上記一般式(A)及び(B)で示されるシランカップリング剤から選択されたシランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラーを分散させて成るため,熱伝導性無機フィラーの表面が疎水性の長鎖のアルキル基又はフェニル基に覆われてシリコーンゴムとの相溶性が向上し,熱伝導性を高めるためにマトリックスのシリコーンゴムに熱伝導性無機フィラーを高充填化しても,スラリー状の熱伝導性シリコーンゴム組成物の成形スラリー粘度が上昇して成形加工性が低下するようなことがなく,熱伝導性無機フィラーを高充填化した熱伝導性シリコーンゴム組成物の成形加工性を向上することができるものであり,また熱伝導性無機フィラー同士の凝集を防ぎ,シリコーンゴムのマトリックス中での熱伝導性無機フィラーの二次凝集の少ない良好な分散状態を可能とすることができ,熱伝導性シリコーンゴム組成物の硬化成形物の柔軟性が向上し,ゴム弾性が向上すると共に,引張強度,引裂強度の向上及び圧縮永久歪みを低減することできるものであり,また耐熱エージング(高温放置)によるシリコーンゴムの酸化を起こしにくくさせると共に上記のように熱伝導性無機フィラー同士の凝集も起こりにくいものであって,この熱伝導性シリコーンゴム組成物の硬化成形物の,耐熱試験におけるゴム硬度変化等の機械特性変化を低減することができるものである 」。
イ本件拒絶理由通知の内容原告は,平成13年12月4日,特許庁審査官より本件拒絶理由通知を受けた。これには「請求項1に記載の発明は組成物に係る発明と認められるが,各成分の配合量(組成比)が記載されていない(すべての配合量(組成比)について同等の効果を奏するものとは認められない 」として, )特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に規定する要件を充たしていないと記載されていた(乙2 。)ウ本件補正本件拒絶理由通知に対し,原告は,平成14年2月4日に本件補正書を提出し,当初明細書の特許請求の範囲【請求項1】に構成要件Bを加えるなどの本件補正をした(乙3 。また原告が同日提出した本件意見書には )発明の効果に係る説明として,段落【0055】と同じ記載があるほか,本件拒絶理由通知に対する意見として以下の記載がある(乙4 。)「審査官殿は 『請求項1に記載の発明は組成物に係る発明と認められ ,るが,各成分の配合量(組成比)が記載されていない(すべての配合量(組成比)について同等の効果を奏するものとは認められない 』との)ご認定である。
これに対して,本意見書と同日付けで提出する手続補正書による補正後の請求項1の記載では,既述のように『熱伝導性無機フィラーが熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%〜80vol%』である点で限定されているので,請求項1に係る発明は明確になったものと思料する 」。
エ検討上記認定のとおり,構成要件Bは,本件拒絶理由通知を受けた本件補(ア)正によって,後から加えられたものであるところ,本件拒絶理由通知が明らかにするように求めている「各成分の配合量」とは,当初明細書の特許請求の範囲【請求項1】に記載のあった「シリコーンゴム」と「カップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラー」の各配合量を指すものと解するのが自然であるし,このことは,本件拒絶理由通知において 「全ての配合量について同等の効果を奏するものとは認められ ,ない」と指摘されていることからも窺える。
そうすると,かかる拒絶理由通知に対する応答としてなされた本件補正によって加えられた構成要件Bは 「熱伝導性シリコーンゴム組成物 ,全量」に対して 「カップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フ ,ィラー」の配合量を定めたものと解するのが自然であり,このことは,本件意見書において「 熱伝導性無機フィラーが熱伝導性シリコーンゴ 『ム組成物全量に対して40vol%〜80vol%』である点で限定されているので,請求項1に係る発明は明確になった」と述べられていることとも符合する。
この点,原告は,本件補正においてカップリング処理を施した熱伝導(イ)性無機フィラーの配合量を規定しようと意図したのであれば,本件特許発明1のようには記載しないと主張するが,特許請求の範囲をどのように記載するかについては,その具体的表現に相当の幅があるのであり,本件においても,カップリング処理を施した熱伝導性無機フィラーの配合量を規定する場合に,本件明細書の特許発明の範囲のような記載には論理的になり得ないとまではいえない。
また,原告は,当初明細書の段落【0012】の「40vol%〜80vol%」という数値範囲が指すものは熱伝導性無機フィラー自体の配合量であると主張するが,同段落は本件明細書の段落【0015】とほぼ同じであり,同段落の「熱伝導性無機フィラー」がカップリング処理を施した熱伝導性無機フィラーを指すと解するのが自然であることは前記(2)イで説示したとおりである。
さらに,原告は本件意見書における記載をもって,本件補正の目的が熱伝導性無機フィラー自体の配合量を規定することにあったと主張するが,原告が指摘する記載は本件明細書の段落【0055】と同じ内容であり,この記載も熱伝導性無機フィラー全量をカップリング処理することを前提としていると解されることは,前記(2)エで説示したとおりである。
以上からすると,本件補正における原告の主観的意図はともかく,少(ウ)なくとも構成要件Bを加えた本件補正を外形的に見れば,カップリング処理された熱伝導性無機フィラーの体積分率を限定したものと解するのが相当であり,自らかかる補正をしておきながら,後になってこれと異なる主張をすることは,本件補正の外形を信用した第三者の法的安定性を害するものであり,禁反言の法理に抵触し許されないというべきである。
4本件カップリング剤込みの量と解すると不合理であるとの主張について()構成要件Bの「熱伝導性無機フィラー」につき,原告はカップリング処理済みの熱伝導性無機フィラーの配合量(本件カップリング剤込みの量)と解すると不合理が生じると主張するのに対し,被告は本件カップリング剤込みの量であると主張するので,以下検討する。
ア本件明細書の記載証拠(甲2,3)によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,以下の記載があることが認められる。
段落【0003】 (ア)「従来このような放熱シート3のための材料として,柔軟性を持ったゴムシート,両面に接着剤をコーティングしたテープ,あるいは接着剤やグリース等のような形態のものが用いられており,いずれの形態のものにおいても熱伝導性フィラーをマトリックス樹脂に混合分散することが行なわれている。この場合マトリックス樹脂としては,耐熱性,耐寒性に優れ,広い温度範囲で良好な圧縮復元性を有するシリコーンゴムが用いられることが多く,また熱伝導性フィラーとしては,アルミナ,酸化マグネシウム,窒化ホウ素等の高熱伝導性の無機フィラーを用いるものであり,この熱伝導性無機フィラーをマトリックス樹脂に高充填量で混合分散することによって得られる熱伝導性シリコーンゴム組成物を加熱成形して放熱シート3を形成することが行なわれている。ここで,熱伝導性フィラーは放熱シート3の熱抵抗をできる限り低減するために用いられるものであり,電子機器の小型化,放熱器5の小型化,更には電子部品4の発熱量の増加の傾向に伴い,電子部品4から発生した熱をできる限り効率よく放熱器5から放熱させようとするものである 」。
段落【0004】(イ)「 発明が解決しようとする課題】しかし熱伝導率を上昇させるために 【単にシリコーンゴムに対する熱伝導性無機フィラー充填量を増加させると,熱伝導性シリコーンゴム組成物の成形スラリー粘度が上昇し,成形加工性が低下したり,成形したシートの硬度が高硬度化することになる。
このように放熱シート3が高硬度化すると,電子部品4や放熱器5の接合面の微妙なうねりや反りに対しての追随性が低下し,放熱器5と電子部品4との間の空隙7を充分に埋めることができないという問題が発生する。またこのような高硬度の放熱シート3を微妙なうねりや反りに追随させようとすると,電子部品4と放熱シート3の間にかなりの荷重を掛ける必要があり,電子部品4に対して大きなダメージを与える恐れがある 」。
イ検討上記段落【0003】には「熱伝導性フィラーは放熱シート3の熱抵抗をできる限り低減するために用いられるもの」と記載されており,段落【0004】には「熱伝導率を上昇させるために単にシリコーンゴムに対する熱伝導性無機フィラー充填量を増加させると」と記載されていることからすれば,本件明細書上,熱伝導率を高める役割を果たすものは熱伝導性無機フィラーであって,本件カップリング剤が熱伝導率そのものに影響を与えることを窺わせる記載は認められない。また,段落【0015】(前記(2)ア(エ )には,数値限定の意義について 「40vol%に満 ) ,たないと高い熱伝導率を得ることが困難であり」と記載されていることからすると,40vol%以上でなければならないものは,あくまで熱伝導率に影響を与える熱伝導性無機フィラーそのものの量であって,本件カップリング剤込みの量ではないと解するのが相当である。
他方,上記段落【0004】には 「熱伝導率を上昇させるために単に ,シリコーンゴムに対する熱伝導性無機フィラー充填量を増加させると,熱伝導性シリコーンゴム組成物の成形スラリー粘度が上昇し,成形加工性が低下したり,成形したシートの硬度が高硬度化することになる」と記載されており,成形した放熱シートの硬度が高硬度化する要因は熱伝導性無機フィラーにあり,本件明細書上,本件カップリング剤そのものが高硬度化に影響を与えていることを窺わせる記載はない。また,段落【0015】には,数値限定の意義について 「80vol%を超えると熱伝導性シリコ ,ーンゴム組成物の硬化成形物がさらに硬く脆くなる恐れがあって好ましくない」と記載されていることからすると,80vol%以下でなければならないものは,高硬度化に影響を与える熱伝導性無機フィラーそのものの量であって,本件カップリング剤込みの量ではないと解するのが相当である。
このように,構成要件Bの「熱伝導性無機フィラー」は,本件カップリング剤を含まないものと解するのが相当である。もっとも,そうであるからといって,構成要件Bの「熱伝導性無機フィラー」が構成要件Aのカップリング処理を施した熱伝導性無機フィラーを指すとの前記(2)の判断を左右するものではない。なぜなら,熱伝導性無機フィラーと本件カップリング剤とはもともと別の成分であるし,段落【0019【0022】】,及び【0023】において熱伝導性シリコーンゴム組成物を形成する方法として紹介されているインテグラルブレンド法においては,熱伝導性無機フィラーをシリコーンゴムに充填する前にカップリング処理を施すのではなく,シリコーンゴム中に熱伝導性無機フィラーを混練する際に本件カップリング剤を同時に配合するのであるから,特にこのような方法においては,熱伝導性無機フィラーと本件カップリング剤とを熱伝導性シリコーンゴムを組成する別の成分として捉えるのが通常と考えられるからである。
以上のように,構成要件Bの「熱伝導性無機フィラー」に本件カップリング剤込みの量と解することはできないという原告の主張は採用できるが,同「熱伝導性無機フィラー」がカップリング処理されていないものも含むという原告の主張を裏付けることにはならない。
5小括()以上のとおり,上記特許請求の範囲の記載及び同発明の詳細な説明の記載並びに出願経過からすれば,構成要件Bにおける「熱伝導性無機フィラー」は構成要件Aの熱伝導性無機フィラーと同じもの,すなわちカップリング処理を施した熱伝導性無機フィラー(ただし,その体積分率の算定に当たっては本件カップリング剤を含まない量を基準とする )と解するのが相当であ 。
る。なお,本件明細書ではカップリング処理された熱伝導性無機フィラーと未処理のものとを混合使用することについて許容も禁止もされていないから,未処理の熱伝導性無機フィラーを加えたからといって,直ちに本件各特許発明技術的範囲に含まれなくなるという訳ではなく,あくまで,カップリング処理された熱伝導性無機フィラーの体積分率が構成要件Bの範囲内にあるか否かによって判断することになる。
そして,上記解釈によれば,被告製品のうち組成について争いのないGR-b等については,別紙被告製品の組成の「カップリング剤処理フィラー」の「フィラーのみ」欄に記載のとおり,カップリング処理した熱伝導性無機フィラーの体積分率が「40vol%〜80vol%」の範囲に含まれないから,いずれも構成要件Bを充たさない(均等侵害の成否については後記3で判断する。。)2争点1-2(GR-nの組成)について上記本件各特許発明技術的範囲の解釈を前提に,GR-nの組成すなわちGR-n中のカップリング処理を施した熱伝導性無機フィラーの体積分率(本件カップリング剤を除く )について検討する。 。
1算出方法?@について()本件において,被告は,特許法104条の2に基づき,GR-nの製造方法を記載したものとして製造標準処方(乙26,27)を提出するところ,これが信用できるものであれば,これに基づいてGR-nの組成を算出する方法(算出方法?@)が最も直截な方法といえる。そこで,まず製造標準処方の信用性について検討する。
ア被告は,自ら提出した製造標準処方はGR-nのものであることに間違いない旨主張する。しかし,製造標準処方には「用途」として「GR-n」との記載があるものの,原材料名は製造メーカー名も含めて全て黒塗りされており,他にも黒塗り部分が少なからず存在し,その内容を窺い知ることができないから,これらの書証の信用性をにわかに肯定することはできないというべきである。
イまた,乙28陳述書では,製造標準処方に示された原材料につき,GR-nのAパーツ(乙26及び乙27の各1枚目)の原材料が,「シリコーンポリマー(Siポリマー,)」「シランカップリング剤処理熱伝導性フィラー(処理フィラー1,)」「シランカップリング剤処理熱伝導性フィラー(処理フィラー2,)」「シランカップリング剤処理熱伝導性フィラー(処理フィラー3,)」「添加剤-A ,」「硬化触媒(Siキャタリスト,)」「添加剤-C」であること(乙28陳述書2頁【表2,GR-nのBパーツ(乙26 】)及び乙27の各2枚目)の原材料が,「シリコーンポリマー(Siポリマー,)」「シランカップリング剤処理熱伝導性フィラー(処理フィラー1,)」「シランカップリング剤処理熱伝導性フィラー(処理フィラー2,)」「シランカップリング剤処理熱伝導性フィラー(処理フィラー3,)」「添加剤-A ,」「添加剤-B」であること(乙28陳述書2頁【表3 )が説明されており 「添加剤- 】,A〜Cは顔料等であり,熱伝導性に影響するものではありません 」と述。
べられている。そうすると,乙28陳述書によれば,シリコーンポリマー(Siキャタリストを含む )に配合された材料は,カップリング処理さ 。
れた熱伝導性無機フィラーのほか,熱伝導性に関係のない顔料である添加剤AないしCのみであるから,未処理の熱伝導性無機フィラーは充填されていないことになる。しかし,被告は,GR-nには0.1vol%の未処理の熱伝導性無機フィラーが充填されていると主張しているのであるから(別紙被告製品の組成 ,乙28陳述書の内容は被告の主張と矛盾するこ )とになる。
被告は,この点について原告から指摘されるや,乙30陳述書を提出し,その中で 「4)上記において,添加剤-A〜Cは顔料等であり,熱伝 ,『(導性に影響するものではありません 』を 『 4)上記において,添加剤 。,(-A〜Cは顔料等です。添加剤-B及び添加剤-Cは金属酸化物であり,本件特許の請求項2の『熱伝導性無機フィラー』に含まれます 』と訂正 。
します 」と,さしたる理由も付さずに乙28陳述書の記載を訂正してい 。
るが,本件ではGR-nの組成が重要な争点になっているのであり,その中において,裁判所からの示唆により被告が自らGR-nの製造方法を明らかにするという趣旨で製造標準処方と併せて乙28陳述書を提出したという経緯に加え,乙28陳述書が被告の技術総括責任者(常務取締役)という立場にある者の作成に係るものであることに照らすと,乙28陳述書の前記記載部分が単なる誤記ないし勘違いであったというのはにわかに信用することができない。
ウしかも,弁論の全趣旨によれば,乙28陳述書で示された添加剤B及びCは酸化鉄であると認められるところ,放熱材料全般についての専門書である「電子機器・部品用放熱材料の高熱伝導化および熱伝導性の測定・評価技術 (甲29)には,酸化鉄が「熱伝導性フィラー」であるとの記 」載は見受けられない。この点,被告は,公開特許公報(乙31〜34)には熱伝導性フィラーとして酸化鉄を使用することが記載されていると主張するが,他方で,被告が出願人となっている「熱伝導性組成物及びこれを用いたパテ状放熱シートと放熱構造体」という発明に係る公開特許公報(特開2005-42096号公報:甲35)には 「熱伝導性フィラ ,ー」として 「金属酸化物」が記載されているものの( 請求項3,そ , 【】)の具体例として酸化鉄は掲げられておらず( 請求項4,むしろ酸化鉄 【】)は酸化防止剤の例示として記載されていること( 0028 )からすれ 【】ば,被告としては酸化鉄を熱伝導性無機フィラーとして捉えていなかったのではないかという疑念が払拭できない。そうすると,乙28陳述書の添加剤B及びC(酸化鉄)が被告の主張する未処理の熱伝導性無機フィラーに当たるものとして,乙28陳述書と被告の主張との上記矛盾が解消されたといえるのかどうかについても,少なからず疑問の残るところといわざるを得ない。
エさらに,乙28陳述書に示されるGR-nの組成(乙28陳述書の【表4 )に基づいてGR-nの比重を計算すると,3.4031(4213.100 】÷1238.01=3.4031:ただし,被告の主張によれば3.4029 )となる 。
ところ,かかる結果は,争いのない事実としてのGR-nの比重(3.355〜3.358)と異なることになる。この点について,被告はGR-nに気泡が存在することに基づく差であると主張するところ,仮に上記の差が全て気泡によるものであるとすると,気泡は1vol%以上存することになる。しかし,空気は断熱性の高いものであるから,これを1vol%も含むものは熱伝導性シリコーンゴムとして不良品ではないかという疑問が生じるし,甲第27号証による軟X線検査装置による観察でも気泡の存在は見受けられない。また,GR-nには1vol%以上の気泡が存在すると推認される旨結論づける乙第37号証についても,仮に乙第37号証で検証された試料が不良品ではないGR-nであったとしても,気泡含有量の計算を行わないで,画像のみから気泡が1vol%以上存在するとは即断し難い。
オ以上からすると,GR-nの製造標準処方やこれを説明する乙28陳述書及び乙30陳述書は,これを信用することができないというべきであり,これに依拠する被告の主張は採用できない。
2算出方法?Aについて()算出方法?A(GR-nを燃焼させた際の残渣質量を測定し,当該質量とGR-n及びシリコーンゴムの比重に基づいて,熱伝導性無機フィラーの体積分率を算出する方法)に基づく立証方法として,原告は甲8報告書を提出し,被告は乙11報告書を提出するので,以下,それぞれの信用性について検討する。
ア甲8報告書の信用性甲8報告書では,GR-nを燃焼(空気雰囲気,800℃,4時間)させて,その燃焼残渣(灰分)の重量を測定し,そのうち,シリコーン分(同バッチの炉内で燃焼させたシリコーンゲルSE1885の燃焼残渣から算出)を差し引いて,フィラー分のwt%(重量%)を算出し,その結果とGR-nの比重(3.355)及びシリコーンゲルの比重(0.97)から,GR-n中の熱伝導性無機フィラーの体積分率を78.6vol%と算出している。
しかし,弁論の全趣旨によれば,シリコーンは,酸素が存在しない雰囲気下で強熱すると,低分子で揮発性の環状ジメチルシロキサンなどに分解し,最終的にはほぼ全量が揮発・消失するが,酸素が存在すると,Si-有機基の酸化分解・シロキサン結合の生成という別の化学反応が起こり,高密度の架橋構造が生成するために多量の残渣が生成することが認められる。また 「シリコーンハンドブック (乙19の773頁)には,ゴム , 」硬化物の「組成を把握するためには,シリコーンと充填剤などを分離する必要があるが,通常不活性ガス(N など)通気下熱分解することにより,2シリコーンを低分子量の留分として分離することができる(なお試料によってはシリコーンの熱分解が十分にすすまないことがある」と記載さ)。
れていることが認められる。そうすると,GR-nのようなシリコーンゴムの組成を求めるには,通常,窒素雰囲気下で燃焼することにより充填剤を分離する方法が執られるものと認められ,甲8報告書のように,空気雰囲気下で燃焼することは通常の分解方法とは認め難い。
この点,甲8報告書では,空気雰囲気下でシリコーンゴムを燃焼させると残渣が発生することから,シリコーン由来の残渣を算出するためにシリコーンゴムのみから成る試料(シリコーンゲルSE1885)を同じ条件下で燃焼させ,熱処理後平均37wt%減少したことから,GR-nの残渣にも同じ割合でシリコーン由来の残渣が生じるとして,GR-nの熱処理後の減少分2.29wt%からシリコーン由来分を算出し(2.29÷0.37=6.19wt% ,その余の部分(93.81wt%)を熱伝導性無機フィラーであ )ると算出している。この算出方法は,シリコーンゴムのみから成る試料と,熱伝導性無機フィラー及びシリコーンゴムから成る試料とが,熱処理後に同じ割合においてシリコーン由来の残渣が生じることを前提するものであるが,証拠(乙29)によれば,空気雰囲気下での熱分解において,シリコーンの含有量と熱分解後の残渣量は完全に比例関係にあるのではなく,シリコーン含有量が100wt%の場合に生じる残渣は,シリコーン含有量が20wt%以下の場合に生じる残渣と,その割合において異なることが認められる。そうすると,シリコーンゴムのみから成る試料と,熱伝導性無機フィラー及びシリコーンゴムから成る試料とが,熱分解後に同じ割合において残渣が生じるという前提自体が成り立つとは認め難く,甲8報告書は,熱伝導性無機フィラーの重量割合を算定する段階で,既に誤っている可能性を否定できないというべきである。
上記のように,甲8報告書は熱分解の方法及びその後の算出方法において疑問点がある上,原告は,被告からこの疑問点を指摘されたにもかかわらず,追試を行うなど甲8報告書の信用性を裏付ける証拠を提出していないことに照らすと,甲8報告書の信用性を肯定することはできないというべきである。
イ乙11報告書の信用性乙11報告書では,被告から提供された分析サンプルN(乙12によればGR-n)を窒素雰囲気下で熱重量測定(TG)を行い,30℃から600℃まで30℃/分の昇温条件で加熱することによりシリコーン成分を除き,そのときの残渣質量から熱伝導性無機フィラーの体積分率を求めている。具体的には,熱重量測定の結果5wt%の減量があったことから,残った95wt%が熱伝導性無機フィラーであることを前提に,分析サンプルNの比重を3.4,シリコーンゴムの比重を0.97として,分析サンプルN中の熱伝導性無機フィラーの体積分率を82.5vol%と算出している。
しかし,そもそも熱重量測定の結果5wt%の減量があったとの点について,乙11報告書では,試料の加熱前の重量及び加熱後の残渣重量が全く記載されておらず,唐突に5wt%という結論しか記載されていない。しかも,5wt%という数値の有効数字は1桁にすぎず,本件では,これに分析サンプルNの比重3.4及びシリコーンゴムの比重0.97(いずれも有効数字は2桁)を用いて乗除演算しているのであるから,結論として導き出された「82.5」という数値の有効数字も1桁であることに変わりはない。そうすると 「82.5」という一見もっともらしそうに見える数 ,値も,実は75以上85未満の範囲内にある数値を示すものにすぎない可能性を否定できない曖昧な数字にすぎず 「40vol%〜80vol%」とい ,う構成要件Bの充足性を判断するために必要な有効数字とは到底いえない。
このように,乙11報告書は,熱重量測定の経過が不明である上,有効数字の取り方に看過できない疑問点があるから,その信用性を肯定することはできないというべきである。
ウそうすると,結局のところ,算出方法?Aとして当事者双方から提出された証拠はいずれも信用することはできず,これに基づいてGR-nの体積分率を算出することはできない。
3算出方法?Bについて()算出方法?B(GR-nの比重並びにGR-nの成分としての熱伝導性無機フィラー,シリコーンゴム及び本件カップリング剤等の各比重に基づき,熱伝導性無機フィラーの体積分率を算出する方法)に基づく立証方法として,原告は甲25陳述書及び甲26陳述書を,被告は乙36陳述書を提出するので,それぞれの信用性について,以下検討する。
ア甲25陳述書の信用性甲25陳述書の内容(ア)被告の主張を前提として,GR-nの成分を「Siポリマー「キ」,ャタリスト「処理フィラー1「処理フィラー2「処理フィラー 」,」,」,3「添加剤-A「添加剤-B」及び「添加剤-C」の6種類(処 」,」,理フィラー1ないし3は同じもの )とし 「Siポリマー」及び「キ 。,ャタリスト」の比重を0.97 「処理フィラー1」ないし「処理フィ ,ラー3」の比重を3.898 「添加剤-A」の比重を2.70 「添 , ,加剤-B」及び「添加剤-C」の比重を5.00とし 「Siポリマ ,ー」及び「キャタリスト」の体積分率を「V1 (比重が同じなのでま 」とめる「処理フィラー1」ないし「処理フィラー3」を「V2+0. 。),022 (処理フィラーは未処理のフィラーと本件カップリング剤とか 」ら成ることから,未処理のフィラーの体積分率を「V2」とし,本件カップリング剤の体積分率を被告が主張する〔別紙被告製品の組成〕2.2vol%とする「添加剤-A」の体積分率を「V3「添加剤- 。), 」.B」及び「添加剤-C」の体積分率を「V4 (比重が同じなのでまと 」める,GR-nの比重が3.356である(争いのない事実として 。)の3.355〜3.358の中間値)として,以下の式を導くことができる。
3.356=0.97×V1+3.898×(V2+0.022)+2.7×V3+5.0×V4体積分率の和は1であるから,以下の式を導くことができる。
V1+(V2+0.022)+V3+V4=1V1ないしV4は体積分率であるから0から1の間に解がある。よって,以下の各式を導くことができる。
0≦V1≦10≦V2≦10≦V3≦10≦V4≦1上記各式のみでは1つの解を得ることができないが,V1ないしV4が取り得る値を組み合わせて代入した結果,別紙計算書1のとおりとなる。別紙計算書1によれば,水色セルの領域はV4が負の値となるから,この領域に解は存在せず,紺色及び黄色のセル領域が上記各式の条件を満たす領域であり,紺色セル領域がV2の最大値である。
よって,V2の最大値はいずれも80vol%を下回っている( V3「=V4=0」の場合のV2の最大値は79.29vol%)ので,GR-nの未処理フィラーの体積分率は80vol%を下回る。なお,GR-nの比重を3.358としても,未処理フィラーの体積分率は80vol%を下回る(甲25【表9。】)計算方法について(イ)被告は,最終製品から熱伝導性無機フィラーの体積分率を求める甲25陳述書の計算方法は,本件明細書に記載も示唆もされていないと主張する。しかし,最終製品であるGR-nは構成要件Dの「放熱シート」に該当し,その元となる構成要件Dの「熱伝導性シリコーンゴム組成物」は,構成要件Cの「熱伝導性シリコーンゴム組成物」と同一であること,構成要件Cの「熱伝導性シリコーンゴム組成物」は構成要件Bの「熱伝導性シリコーンゴム組成物」と同一と解されること(同一の文言であり,これらを別異に解する理由もない,構成要件Bでは,熱伝 。)導性無機フィラーが「熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%〜80vol%」とされていることからすれば,最終製品である放熱シートとしてのGR-nから,その組成を計算する方法は,むしろ本件各特許発明の特許請求の範囲の記載に則したものというべきである。
よって,最終製品であるGR-nから組成を計算する甲25陳述書の計算方法は妥当なものとして是認できる。
被告が主張する甲25陳述書の「第1の誤り」について(ウ)被告は,甲25陳述書は気泡が存在しないという前提で行っているが,GR-nには1vol%以上の気泡が存すると主張するところ,前記(1)エのとおり,GR-nに1vol%以上もの気泡が存するとは即断し難い(ただし,乙第37号証によれば,気泡が存在する可能性も完全に否定することはできない。。)被告が主張する甲25陳述書の「第2の誤り」について(エ)被告は,甲25陳述書において,処理フィラーの体積分率を「V2+0.022」としていることにつき,フィラーの体積分率がX%変化すれば,本件カップリング剤もX%変化し,その結果,処理フィラーの体積分率もX%変化するから,正しくは「1.0273×V2」とすべきであると主張する(被告の主張する「第2の誤り。」)確かに,カップリング処理に必要な本件カップリング剤は熱伝導性無機フィラーの体積と一定の相関関係を有すると考えられることから,熱伝導性無機フィラーを変数(V2)としながら,本件カップリング剤を変数とせず,2.2vol%と固定することが合理的といえるか疑問の残るところである。
しかしながら,他方で,被告が主張する「1.0273」という比例定数は,被告が主張するGR-n中の処理フィラーの体積分率と未処理フィラーの体積分率から求めた値であるところ(82.8÷80.6=1.0273 ,)本件においては処理フィラーと未処理フィラーの各体積分率が争いになっているのであるから,被告の主張する数値を前提に比例定数を導き出しても,客観的な裏付けのある数値にはならないというべきである。
被告が主張する甲25陳述書の「第3の誤り」について(オ)被告が「第3の誤り」として主張する内容は,構成要件Bの「熱伝導性無機フィラー」の解釈に係るものであるところ,前記1(4)のとおり,同「熱伝導性無機フィラー」には本件カップリング剤を含まないと解すべきであるから,これを含むことを前提とする被告の主張は失当である。
以上のように,甲25陳述書は,本件カップリング剤の体積分率を変(カ)数としなかった点において疑問の残るところであり,その計算結果を直ちに採用することはできないものの,その余の計算方法は合理的なものとして是認することができる。
イ甲26陳述書の信用性甲26陳述書の内容(ア)甲25陳述書と同様の手法を用いるが 「処理フィラー」を処理前の ,熱伝導性無機フィラーと本件カップリング剤とに分けて計算している。
すなわち 「Siポリマー」及び「キャタリスト」の体積分率を併せて ,「V1 (比重0.97 ,処理前の熱伝導性無機フィラーの体積分率 」)を1から3まで併せて「V2 (比重3.98:アルミナの比重 ,本 」 )件カップリング剤の体積分率を「V3 (比重0.88)とし 「添加 」,剤-A「添加剤-B」及び「添加剤-C」については,全体に占め 」,る割合がごく小さいことから,被告の主張する値を前提に固定する。なお,GR-nの比重は甲25陳述書と同じく3.356を前提とする。
そうすると,以下の式を導くことができる。
3.356=0.97×V1+3.98×V2+0.88×V3+2.7×0.00359+5.0×0.00089体積分率の和は1であるから,以下の式を導くことができる。
V1+V2+V3+0.00359+0.00089=1V1ないしV3は体積分率であるから0から1の間に解がある。よって,以下の各式を導くことができる。
0≦V1≦10≦V2≦10≦V3≦1上記各式のみでは1つの解を得ることができないが,これらに取り得る値を組み合わせて代入した結果,別紙計算書2のとおりとなった。別紙計算書2によれば,水色セルの領域はV1が負の値となるから,この領域に解は存在しないことになる。橙色のセル及び赤色のセルが上記各式の条件を満たす領域であり,この領域におけるV2の最大値は0.8(80vol%)を下回っている。
信用性の検討(イ)甲26陳述書の計算方法は甲25陳述書と同様,妥当なものとして是認できる上,甲26陳述書では,上記のように本件カップリング剤の体積分率を変数としており,甲25陳述書における前記疑問が解消されている。また,添加剤-AないしCについて,これらが全体に占める割合がごく小さいことから,被告主張の数値で固定したことについても合理性があるものと考えられる。なお,甲26陳述書においても,気泡は存在しないものとして計算されているところ,上記ア(ウ)のとおり気泡の存在自体は完全に否定できないが,1vol%以上存在するとまでは認め難いことから,この点をもって甲26陳述書の信用性を完全に覆滅させるものとまではいえない。
よって,甲26陳述書は基本的に信用することができるものとして,これを採用することができる。
ウ乙36陳述書の信用性乙36陳述書の内容(ア)「Siポリマー」及び「キャタリスト」の体積分率を「V1 (比重」0.97「処理フィラー」の体積分率を1から3まで併せて「V ),」), 」. 2 (比重3.898「添加剤-A」の体積分率を「V3 (比重27「添加剤-B」及び「添加剤-C」の体積分率を併せて「V4」 ),(比重5.0)とする。なお,GR-nの比重は甲25陳述書及び甲26陳述書と同じく3.356とする。そうすると,以下の式を導くことができる。
3.356=0.97×V1+3.898×V2+2.7×V3+5.0×V4各成分の体積分率の和は1であり,V1ないしV4はいずれも0以上1以下であるから,以下の各式を導くことができる。
V1+V2+V3+V4=10≦V1≦10≦V2≦10≦V3≦10≦V4≦1上記各式を組み合わせれば 「V3=V4=0」の時にV2が最大値 ,, になり,その時のV2の値は0.8149(81.49vol%)となり80vol%を上回る。なお,GR-nの比重につき,原告が委託した外部の検査機関の測定結果の1つである3.355を採用した場合のV2の最大値は81.45vol%,同じく3.358を採用した場合のV2の最大値は81.56vol%となる。
信用性の検討(イ)乙36陳述書の計算方法自体については,甲26陳述書と同様,妥当なものとして是認することができる。
しかし,乙36陳述書で算出された「V2」は,本件カップリング剤込みの熱伝導性無機フィラーであるところ,前記1で説示したとおり,構成要件Bの「熱伝導性無機フィラー」は本件カップリング剤を含まないと解すべきである。かかる解釈を前提とすると,本件カップリング剤込みの熱伝導性無機フィラーの体積分率を求めて,これが80vol%を上回ることを立証しても,構成要件Bの充足性は判断できない。
ところで,乙36陳述書によれば,処理フィラーの体積分率は処理前のフィラーの1.0273倍になるというのであり,仮にこれを前提にすると,乙36陳述書の上記計算結果によっても,本件カップリング剤を除く熱伝導性無機フィラーの体積分率は80vol%を下回る。すなわち,GR-nの比重を3.356とした場合の処理フィラーの最大値81.49vol%を前提とすると,本件カップリング剤を除く熱伝導性無機フィラーの体積分率は79.32vol%(81.49÷1.0273 ,GR-n )の比重を3.355とした場合の処理フィラーの最大値81.45vol%を前提とすると,本件カップリング剤を除く熱伝導性無機フィラーの体積分率は79.29vol%(81.45÷1.0273 ,GR-nの比重を3. )358とした場合の処理フィラーの最大値81.56vol%を前提とすると,本件カップリング剤を除く熱伝導性無機フィラーの体積分率は79.39vol%(81.56÷1.0273)となり,乙36陳述書の計算を前提としても80vol%を下回ることになる。
以上のように,乙36陳述書で算出されたV2の値自体は信用することができるところ,乙36陳述書で述べられている計算方法により本件カップリング剤を除く熱伝導性無機フィラーの体積分率を求めると80, vol%を下回ることになるので,上記構成要件Bの解釈を前提とすると乙36陳述書はGR-nの構成要件Bの充足性を推認させるものといえる。
エ気泡について被告は,GR-nに1%以上の気泡があると主張するところ,前記ア(ウ)のとおり,GR-nにどの程度の気泡があるのか必ずしも判然としないところである。この点,原告はGR-nに気泡が存在した場合を想定して,平成20年3月17日付け原告従業員β作成の陳述書4(甲28:以下「甲28陳述書」という )を提出するので,これについても検討を 。
加えることとする。
甲28陳述書の内容(ア)「Siポリマー」及び「キャタリスト」の体積分率を「V1 (比重」0.97「処理フィラー (本件カップリング剤を除く )の体積分 ),」 。
率を1から3まで併せて「V2 ,本件カップリング剤を含む「処理フ 」ィラー」の体積分率を,被告が主張する比例定数(1.0273)を前提に「1.0273×V2 (比重3.898「添加剤-A」の体積 」),分率を「V3 (比重2.7「添加剤-B」及び「添加剤-C」の体 」),積分率を併せて「V4 (比重5.0 ,気泡(空気)の体積分率をV 」)5(1気圧・23℃下での空気の比重は0.00119 )とする。な 。
お,GR-nの比重は3.356とする。そうすると,以下の式を導くことができる。
3.356=0.97×V1+3.898×(1.0273×V2)+2.7×V3+5.0×V4+0.00119×V5各成分の体積分率の和は1であり,V1ないしV5はいずれも0以上1以下であるから,以下の各式を導くことができる。
V1+V2+V3+V4+V5=10≦V1≦10≦V2≦10≦V3≦10≦V4≦10≦V5≦1上記各式を組み合わせると 「V3=V4=0」の時にV2が最大値 ,となる。そこで,V5(気泡)を0.01(1vol%)と仮定すると,V2(本件カップリング剤を除く熱伝導性無機フィラー)の最大値は0.79646(79.65vol% ,V5を0.02(2vol%)と仮定す )ると,V2の最大値は0.79968(79.97vol% ,V5を0. ). 03(3vol%)と仮定すると,V2の最大値は0.80290(8029vol%)となり,気泡が3vol%という数値でなければ,V2は80vol%を下回る。
甲28陳述書の信用性(イ)甲28陳述書の計算方法については,甲26陳述書と同様,妥当なものとして是認することができる。なお,本件カップリング剤を含む処理フィラーの体積分率を「1.0273×V2」としたことについて,必ずしも「1.0273」という比例定数に客観的な裏付けがあるとはいい難いが,計算のために変数を少なくする必要がある上,気泡については被告がその存在を主張したものであるから,被告が主張する比例定数を前提としても,必ずしも不合理とはいえない。
また,GR-n中の気泡の量について,被告は乙28陳述書から算出されるGR-nの比重である3.4029(ただし,前記2(1)エによれば3.4031 )と争いのない事実としてのGR-nの比重であ 。
る3.355ないし3.358との差であると主張するところ,この主張を前提とすれば,気泡の量は1.29vol%〜1.38vol%にとどまる(甲27の2頁 。そうすると,気泡が2vol%を超えることは,被 )告の主張からしても考えられないのであるから,気泡の体積分率が2vol%であってもV2が80vol%を超えないということは,気泡に係る被告の主張を前提としても,GR-n中の「熱伝導性無機フィラー (た」だし,本件カップリング剤を除く )は80vol%を下回ることになる。 。
なお,被告は,気泡(空気)を体積分率に加えること自体が誤りであると主張し,その理由として,重量を量る場合,例えば人間が体重を量る場合,大きく息を吸おうが大きく息を吐き出そうが体重に相違はないのであり,空気の重さは考慮に入れてはならないと主張する(被告第13準備書面4頁 。この主張の趣旨は必ずしも明確ではないが,前記 )(3)ア(イ)のとおり,最終製品としてのGR-nから組成を求める計算方法は妥当なものであり,GR-nに気泡が混入しているのであれば,これを前提に組成を計算するほかないというべきである。そもそも,被告は,甲25陳述書については,気泡の存在を考慮していないとして,その信用性を争い,他方において,甲28陳述書については,気泡を計算に入れたことを論難しているのであって,その主張は一貫性を欠くものといわざるを得ない。
4小括()上記のように,基本的に信用できる甲26陳述書では,GR-nの熱伝導性無機フィラー(ただし,本件カップリング剤を除く )が「40vol%〜 。
80vol%」の範囲内にあると算出されていること,被告が提出した乙36陳述書によっても「40vol%〜80vol%」の範囲内にあること,甲28陳述書によれば,気泡の存在を考慮してもなお「40vol%〜80vol%」の範囲内にあることからすれば,GR-nの本件カップリング剤を除く熱伝導性無機フィラーの体積分率は,熱伝導性シリコーンゴム組成物としてのGR-nに対して40vol%〜80vol%の範囲内にあると認められるから,GR-nは構成要件Bを充足する。
また,GR-nはシランカップリング剤として「<中略>シラン」を用いるものであり,これは構成要件Aの「一般式(A)で示されるシランカップリング剤」に該当すると認められる(弁論の全趣旨 。そして,GR-nはかか )るシランカップリング剤でカップリング処理した熱伝導性無機フィラーが分散されているから,構成要件Aを充足する。なお,被告は,GR-nではカップリング処理を施していない熱伝導性無機フィラーも使用されているから構成要件Aを充足しないと主張するが,前記1(5)のとおり,本件明細書上,未処理の熱伝導性無機フィラーを使用することを禁じるような記載は見受けられないから,単に未処理のフィラーを使用したということをもって,構成要件Aの充足性を否定できないというべきである。
このように,GR-nは構成要件A及びBを充足し,構成要件Cを充足することに争いはないから,GR-nは本件特許発明1の技術的範囲に属する。
また,GR-nは構成要件Dの「放熱シート」に当たるから,本件特許発明2の技術的範囲にも属する。
3争点2(GR-b等は本件各特許発明均等なものとしてその技術的範囲に属するか)前記1(5)のように,GR-b等は構成要件Bを文言上充足しないので,原告の予備的主張としての均等侵害の成否について検討する。
1最高裁判所平成6年(オ)第1083号同10年2月24日第三小法廷判決()(民集52巻1号113頁参照)は,特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合に,なお均等なものとして特許発明技術的範囲に属すると認められるための要件の1つとして 「対象製品等が ,特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もない」ことを掲げており,この要件が必要な理由として 「特許出願手続において出願人が特許請求の範囲から意識的に ,除外したなど,特許権者の側においていったん特許発明技術的範囲に属しないことを承認するか,又は外形的にそのように解されるような行動をとったものについて,特許権者が後にこれと反する主張をすることは,禁反言の法理に照らし許されないからである」と判示している。
そうすると,特許権者において特許発明技術的範囲に属しないことを承認したといった主観的な意図が認定されなくても,第三者から見て,外形的に特許請求の範囲から除外されたと解されるような行動をとった場合には,第三者の予測可能性を保護する観点から,上記特段の事情があるものと解するのが相当である。そこで,かかる解釈を前提に,本件において上記特段の事情が認められるかどうかについて検討する。
2本件における出願経過については,前記1(3)において認定したとおり()であり,本件補正をするに当たっての原告の主観的意図はともかく,少なくとも構成要件Bを加えた本件補正を外形的に見れば,カップリング処理された熱伝導性無機フィラーの体積分率を限定したものと解される。したがって,原告は,熱伝導性無機フィラーの体積分率が「40vol%〜80vol%」の範囲内にあるもの以外の構成を外形的に特許請求の範囲から除外したと解されるような行動をとったものであり,上記特段の事情に当たるというべきである。なお,本件拒絶理由通知は,単に組成物に係る発明だからという理由で,その組成比の記載がない本件出願は,特許法36条6項2号に規定する要件を充足しないと判断しているところ,この判断の妥当性には疑問の余地がないではない。しかし,第三者に拒絶理由の妥当性についての判断のリスクを負わせることは相当でなく,原告としても,単に熱伝導性無機フィラーの総量を定める意図だったというのであれば,その意図が明確になるような補正をすることはできたはずであり,それにもかかわらず,自らの意図とは異なる解釈をされ得るような(むしろそのように解する方が自然な)特許請求の範囲に補正したのであるから,これによる不利益は原告において負担すべきである。
3以上により,GR-b等について 「対象製品等が特許発明の特許出願手() ,続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もない」ことという要件を充たさないから,これらを本件各特許発明均等なものとして,その技術的範囲に属すると認めることはできない。
4争点3(約定実施料及び損害の額)について上記のように,被告製品のうち,GR-nのみが本件各特許発明技術的範囲に属し,その製造販売は本件特許権を侵害するものであるから,以下,GR-nについて,原告が求める約定実施料及び損害の額を算定することとする。
1GR-nの販売額()証拠(乙39)及び弁論の全趣旨によれば,平成14年6月1日から平成15年9月末日までのGR-nの販売額は,別紙「GR-nシリーズ販売実績(その1 」のとおりと認められ,その総販売額は3282万1737円 )となる。
また,証拠(乙39)及び弁論の全趣旨によれば,平成15年10月1日から平成20年5月末日までのGR-nの販売額は,別紙「GR-nシリーズ販売実績(その2 」のとおりと認められ,その総販売額は7942万5 )336円となる。
GR-nの販売額について,原告は,業界全体の総売上高,被告製品のシェア及び被告製品中のGR-nの位置づけなどから,平成14年6月1日から平成15年10月1日までのGR-nの売上高は8000万円,平成15年10月2日から平成20年5月末日までのGR-nの売上高は12億2000万円をそれぞれ下らないと主張する。
しかし,原告は,本訴において,平成20年10月8日に文書提出命令を申し立て(当庁平成20年(モ)第1296号 ,これを受けて,当裁判所 )が平成20年11月7日に文書提出命令(被告の決算報告書及び法人事業概況説明書,確定申告書控え,総勘定元帳,サーコンGR販売記録並びに売上伝票を対象とする。ただし,本件と関連のないものについては除く )を発。
令し,被告からこれらの文書の提出があった。その後,原告は同文書を閲覧したものの,平成20年12月15日の第12回弁論準備手続期日において「平成20年11月7日付けで決定のあった文書提出命令に基づいて,被告から提出のあった文書を検討したが,原告からこれを書証として提出する予定はない 」と述べた。以上の経過は当裁判所に顕著である。 。
GR-nの販売額等を示す最も直截な書面は,上記文書提出命令において提出を命じた各文書であるところ,上記のとおり,原告はこれらを閲覧しながら,証拠として提出しなかったのであるから,かかる本訴の経過に照らし,被告の自認する販売額の限度で,GR-nの販売額等を認定するのが相当である。
2約定実施料()上記(1)のとおり,本件実施契約の存続中である平成14年6月1日から平成15年9月30日までのGR-nの販売額は3282万1737円であり,本件実施契約の終了日である同年10月1日の販売額については,被告が明らかにした同月の販売額を日割りして算出したところ8万9765円(\2,782,712÷31×1=\89,765〔1円未満四捨五入 )となる。そこで,こ 〕れらを合算した額(3291万1502円)に約定実施料率3%を乗じた金額である98万7345円が約定実施料の額となる。
3損害額()上記(1)のとおり,平成15年10月1日から平成20年5月末日までのGR-nの販売額は7942万5336円であるところ,上記(2)のとおり,平成15年10月1日の販売額(8万9765円)については約定実施料算定の基礎とすべきであるから,本件実施契約終了後に被告が販売したGR-nの販売額は7933万5571円(\79,425,336-\89,765=\79,335,571)と認めるのが相当である。また,原告は特許法102条3項による損害の額の推定を主張するところ,前記当事者間に争いのない事実等(4)において認定したとおり,被告は,原告と本件実施契約を締結しながら,平成14年7月17日,被告製品は本件各特許発明技術的範囲に属さないとして,実施料の支払を拒絶し,同年12月13日には,本件実施契約を解除する旨の意思表示をしたものであること,本件実施契約における実施料率が販売額の3%とされていたことなどに照らすと,販売額の6%に相当する金額である476万0134円(1円未満四捨五入)をもって 「特許発明の実 ,施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭」と認めるのが相当である。
以上より,本件実施契約終了後のGR-nの販売に係る原告の損害額は476万0134円となる。
4弁護士・弁理士費用()原告が弁護士を訴訟代理人とし,弁理士を補佐人として本件訴訟を提起したことは,当裁判所に顕著な事実であるところ,本件訴訟の内容,訴訟経過,認容額(ただし,特許法100条に基づく差止め・廃棄請求及び不法行為に基づく損害賠償請求の認容額に限る )等本件に顕れた諸般の事情を考慮す 。
ると,被告の不法行為相当因果関係を有する弁護士・弁理士費用相当の損害額は50万円と認めるのが相当である。
5小括()よって,原告の本件実施契約に基づく約定実施料額は98万7345円,本件実施契約終了後の特許権侵害不法行為に基づく損害賠償の損害額は526万0134円となる。
5争点4(相殺の抗弁の成否)について被告は,本件実施契約期間中に支払った約定実施料について,第1次的主張ないし第4次的主張までの4つの自働債権を主張するので,以下検討する。
1被告の第1次的主張について()被告は,本件特許に係る公開公報の特許請求の範囲に記載された発明に特許権が発生することを前提として本件実施契約を締結したにもかかわらず,現実には本件補正によって減縮された範囲でしか特許権が発生しなかったことを理由に,本件実施契約における被告の意思表示には動機の錯誤があったと主張する。
しかし,本件実施契約締結時,すなわち被告の意思表示の時点(平成12年10月1日)では,未だ本件補正書は提出されておらず(本件補正書の提出日は平成14年2月4日である,原告が補正を検討していたことを窺 。)わせる事情も認められない(本件補正の契機となった本件拒絶理由通知が発せられたのは平成13年12月4日である )から,仮に被告が上記のよう 。
な意図をもって本件実施契約を締結したとしても,同時点においては,被告の動機に錯誤があったとは認められない(なお,本件実施契約締結に際して,本件特許に係る公開公報の特許請求の範囲に記載された発明に特許権が発生しないことを解除条件としたような事情も認められない。そもそも,特。)許出願は拒絶されることもあり,また,補正又は訂正されることもあり,特許請求の範囲に変動を生じ得る点は本件実施契約上織り込み済みというべきである。
よって,民法95条に基づく本件実施契約の無効を前提とする被告の第1次的主張は失当であり,同主張に基づく不当利得返還請求権は認められない。
2被告の第2次的主張及び第3次的主張について()ア本件実施契約書(甲4)には,以下の定めがあることが認められる。
「許諾特許」とは,原告所有の下記の特許出願及びこれに係る特許権(ア)並びにその分割又は変更に係る新たな出願に基づく権利をいう (第2。
条(1 ))特開平11-209618号(発明の名称:熱伝導性シリコーンゴム組成物及び該組成物よりなる放熱シート)「許諾製品」とは,許諾特許の技術的範囲に属する熱伝導性シリコー(イ)ンゴム組成物よりなる放熱シートをいう (第2条(2 ) 。)本件実施契約に基づいて被告から原告になされたあらゆる支払は,許(ウ)諾特許の無効,本件実施契約の解約その他いかなる理由によっても被告に返還されないものとする (第4条2:以下「不返還条項」とい 。
う )。
イ上記本件実施契約の第2条(1)には,契約締結時点における「許諾特許」として公開公報(特開平11-209618号)が掲げられており,これと並んで「これに係る特許権」と記載されていることからすれば,特許権発生前の「許諾特許」とは,同公開公報の特許請求の範囲に記載された発明を指すものであり,特許権発生後の「許諾特許」とは,発生した特許権に係る特許請求の範囲による特許を指すものと解するのが相当である。
被告は,特許請求の範囲減縮された場合には,信義則上,契約締結の日に遡って許諾の範囲も減縮されると主張する(第2次的主張 。しかし, )本件実施契約締結時点では本件特許は未だ出願段階であったから,補正により特許請求の範囲減縮されることがあり得ることは当然に想定できたはずであるのに,本件実施契約書上,特許請求の範囲が補正により減縮された場合について何らの定めもされていない。
また,未だ出願段階であるが故に特許出願が拒絶されたり,補正により特許請求の範囲減縮されることもあり得ることを前提として,実施料率が特許権発生後に比して低率(1%)に抑えられていると解され,これとの均衡においても,特許出願が拒絶された場合や特許請求の範囲減縮された場合のリスクは被許諾者において負担すべきである。したがって,補正により特許請求の範囲減縮されたからといって,信義則上,本件実施契約締結の日に遡って減縮の効果が生じると解することはできない。
ウ被告は,特許請求の範囲減縮する本件補正を出願の一部取下げと同視し,少なくとも本件補正書の提出日の翌日である平成14年2月5日以降は,被告の本件実施契約に基づく実施料支払義務は,補正に対応して減縮するとも主張する(第3次的主張 。しかしながら,補正によって確定的 )に減縮の効果が生じるわけではなく,その後の補正によっても変動し得るものであるから,補正を出願の一部取下げと同視することはできず,本件補正書の提出日に遡って減縮の効果が生じると解することはできない。
なお,被告は,特許法29条1項及び2項の判断は「特許出願前」で行っており,補正の効果も出願時に遡ることから,本件実施契約においても減縮の効果が遡ると主張する(第17準備書面2頁 。しかし,本件実施 )契約において減縮の効果が遡るか否かは契約解釈の問題であって,特許法の解釈とは異なり得るし,実質的に見ても,特許法29条1項及び2項における新規性,進歩性の判断基準時たる「出願時」の解釈と,本件実施契約における減縮遡及効の問題とは全くの別問題であるから,同列に論じることはできない。また,被告は,最高裁判所平成4年(オ)第364号同5年10月19日第三小法廷判決を引用するが,同判例は減縮遡及効について判断したものではないから,本件に適切でない。
エ上記に対し,本件実施契約上,特許権発生後における「許諾特許」とは,同特許権に係る特許請求の範囲と解すべきであるから,本件補正による特許請求の範囲減縮により,GR-b等は「許諾特許」の技術的範囲に属さず 「許諾製品」に当たらないことになる。よって,GR-b等につい ,ては,特許権発生後,すなわち特許権の設定登録日以後,実施料を支払う義務はなかったというべきである。
しかしながら,本件実施契約では,原告がいったん受領した実施料は,許諾特許の無効,本件実施契約の解約その他いかなる理由によっても被告に返還されないと定められており(不返還条項 ,その文言上,契約締結 )後に生じたあらゆる事由がこれに含まれることになるから,本件における特許請求の範囲減縮も,文言上「その他いかなる理由」に含まれることになる。この点,被告は本件において不返還条項は適用すべきではない旨主張する。しかし,本件では特許請求の範囲減縮された上で特許権が発生したのであるから,減縮後の技術的範囲に属する場合には実施料の受領が認められることになるし,本件実施契約上,被告が原告に対して実施品の態様を開示する義務は定められておらず,基本的に被告の責任において当該実施品が「許諾製品」に該当するかを判断することが前提とされているのであるから,特許権が発生している以上,被告の支払う実施料を受領することは,むしろ通常のことといえる。そうすると,本件において原告が特許権発生後も被告の支払う実施料を受領したことが信義則に照らして容認できないとはいえず,不返還条項の適用を否定すべき事情は見当たらない。
オ以上より,本件実施契約締結後,特許権発生日までの間については,GR-b等も「許諾特許」の技術的範囲に含まれ 「許諾製品」に該当する ,から,その実施料の受領が法律上の原因を欠くとはいえない。
また,特許権発生日後については,GR-b等は「許諾特許」の技術的範囲に含まれず 「許諾製品」には該当しないが,GR-b等について原 ,告が受領した実施料は不返還条項に基づき返還する必要はないから,その実施料の受領に法律上の原因がないとはいえない。
よって,被告の第2次的主張及び第3次的主張に係る不当利得返還請求権は,いずれも認められない。
3被告の第4次的主張について()原告は,信義則上,本件補正を通知する義務を負っていたと主張するところ,上記(2)イ・ウのとおり,出願段階では補正が認められて特許されるものかどうかが未だ確定しておらず,原告が本件補正書を提出したというだけでは直ちに本件実施契約上の権利義務に影響を及ぼすものではないと解すべきであるから,そもそも補正の事実を通知する実益に乏しく,信義則上,かかる義務を認めることはできない。
他方で,補正によって特許請求の範囲減縮された上で特許査定され,特許権が発生した場合には,本件実施契約上の権利義務にも影響を及ぼすことになるから,減縮の事実を被許諾者に通知する実益があることは否定できない。また,本件実施契約では,まず,被告において自己の販売する製品が「許諾製品」に該当するかどうかを判断すべきであるから,その判断に当たって特許請求の範囲減縮されたことは重要な情報といえる。したがって,少なくとも,被告から本件出願の経過等について問合せがされた場合には,原告はこれに誠実に応答すべき信義則上の義務があったというべきである。
しかし,さらに進んで,特許請求の範囲減縮されたことについて,被告からの問合せの有無にかかわらず原告から積極的にこれを通知すべき義務があったか否かについては,これを容易に肯定することはできない。なぜなら,本件実施契約書においてかかる通知義務の存在を窺わせる条項は全く見当たらず,同契約書外においても通知義務を認める旨の合意の存在を推認させる具体的事情は何ら認められないのであるから,本件において通知義務を認めるということは,実施許諾契約一般において,これについての明示又は黙示の合意の有無にかかわらず,許諾者たる特許権者に信義則上の通知義務を負わせることになりかねないからである。
もともと,出願段階で許諾を受けようとする者にとって,契約締結後の補正により特許成立段階で特許請求の範囲減縮されることは,当然に想定できる事柄であり,減縮があった場合に許諾者から通知して欲しいというのであれば,契約交渉段階でその旨の同意を取り付けて契約書に明記しておくべきといえる(かかる交渉を経ずに許諾者一般にかかる義務を負わせることは,むしろ許諾者に予期しない不利益を被らせるおそれがある。また,被許。)諾者は,許諾者に特許請求の範囲を問い合わせたり(少なくとも許諾者には問合せに応答すべき義務がある,特許公報等を参照するなどして,特許 。)請求の範囲がどのようになったか調査することができるのである。
上記のような事情を併せ考慮すれば,許諾者たる特許権者一般に,信義則上,特許請求の範囲減縮された場合の通知義務を認めることはできないというべきであり,本件においても,原告に,信義則上かかる通知義務があったと認めるに足りる事情はない(なお,上記は特許請求の範囲減縮された場合を前提としており,拒絶査定不服審判における不成立審決が確定した場合や,特許無効審判における無効審決が確定したような場合における通知義務については別途考慮を要するところである。。)したがって,原告には通知義務違反の債務不履行が認められず,これに基づく損害賠償請求権も認められない。
4小括()以上より,被告が自働債権として主張する債権はいずれも認めることができないから,被告の相殺の抗弁は理由がない。
第5結論,原告の本件請求は,特許法100条に基づくGR-nの製 以上によれば造販売の差止め及び廃棄,本件実施契約に基づく約定実施料98万7345円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成18年11月9日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払及び特許権侵害不法行為に基づく損害賠償(弁護士・弁理士費用相当の損害を含む)として526万0134円及びこれに対する不法行為の後の日(訴状送達の日の翌日)である平成18年11月9日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある, からこれを認容し,その余は理由がないからこれを棄却することとし,なおGR-nの廃棄請求を認容した部分については,相当でないから仮執行宣言主文のとおり判決する。 を付さないこととして,
追加
田中俊次裁判長裁判官理香裁判官西北岡裕章裁判官別紙物件目録「サーコンGRシリーズ」に属し,以下の製品名を有する放熱シートGR-b,GR-Hb,GR-Fb,GR-HFbGR-d,GR-Hd,GR-Fd,GR-HFd,GR-TdGR-i,GR-Hi,GR-Fi,GR-HFiGR-k,GR-Hk,GR-Fk,GR-HFkGR-l,GR-Hl,GR-Fl,GR-HFlGR-m,GR-Hm,GR-Fm,GR-HFmGR-n,GR-Hn,GR-Fn,GR-HFn以上
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