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審判番号(事件番号) データベース 権利
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事件 平成 19年 (ワ) 3493号 特許権侵害差止等請求事件
東京都中央区<以下略>
原告 株式会社クレハ
同訴訟代理人弁護士山内貴博
同 田中昌利
同 上田一郎
同 古川裕実
同 東崎賢治
同訴訟代理人弁理士森田憲一
同 山口健次郎
同補佐人弁理士脇村善一 富山市<以下略>
被告 テイコクメディックス株式会社訴訟承継人日医工ファーマ 株式会社
同訴訟代理人弁護士小南明也
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2009/10/08
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告は,原告に対し,5301万4217円及び内金56万7450円に対する平成19年2月21日から,内金5244万6767円に対する平成20年12月5日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,これを2分し,その1を原告の負担とし,その余を被告-2-の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨( ) (主位的請求) 1ア 被告は,別紙被告製品目録(甲)記載の製品を製造し,販売し,又は販売のために展示してはならない。
イ 被告は,その占有する別紙被告製品目録(甲)記載の製品を廃棄せよ。
(予備的請求)ア 被告は,別紙被告製品目録(乙)記載の製品を製造し,販売し,又は販売のために展示してはならない。
イ 被告は,その占有する別紙被告製品目録(乙)記載の製品を廃棄せよ。
( ) 被告は,原告に対し,328万5098円及びこれに対する平成19年2 2月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
( ) 被告は,原告に対し,1億2714万2816円及びこれに対する平成2 30年12月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
( ) 訴訟費用は被告の負担とする。 4( ) 仮執行宣言52 請求の趣旨に対する答弁( ) 原告の請求をいずれも棄却する。 1( ) 訴訟費用は原告の負担とする。 2( ) 仮執行免脱宣言 3
事案の概要
本件は,経口投与用吸着剤並びに腎疾患治療又は予防剤及び肝疾患治療又は予防剤についての特許権を有する原告が,被告において別紙被告製品目録(甲)記載の製品(以下「被告製品」という )を製造,販売する行為は上記特許権を侵 。
害する行為であると主張して,被告に対し,特許法100条1項に基づく被告製品の製造,販売等の差止め及び同条2項に基づく被告製品の廃棄を求めるとともに,特許法184条の10第1項に基づく補償金139万7914円及び民法709条に基づく損害賠償金1億2903万円の合計1億3042万7914円並びに内金328万5098円(上記補償金及び上記損害賠償金のうち平成18年8月4日から同年10月31日までの間に係る損害賠償金188万7184円の合計額)に対する請求又は不法行為の後の日である平成19年2月21日(訴状送達の日の翌日)から,内金1億2714万2816円に対する不法行為の後の日である平成20年12月5日(平成20年12月1日付け訴えの変更申立書送達の日の翌日)から,それぞれ支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
なお,本件訴訟係属中に被告製品の仕様変更があり,原告は,主位的に,仕様変更後の被告製品についても原告の特許権を侵害するものであるとして,変更前,(() ) 後の被告製品を区別せず 商品名で特定される被告製品 別紙被告製品目録 甲の製造販売差止め及び廃棄の請求を行い,予備的に,変更前の仕様の被告製品の在庫のロット番号で特定される被告製品(被告製品目録(乙)記載1( )及び2 1( ))の販売差止め及び廃棄と,変更前の仕様の被告製品(同目録記載1( )及び 1 22( ))の製造販売の差止め及び廃棄の請求をしているものである。 2
争いのない事実等(証拠を掲げていない事実は当事者間に争いがない)。
1当事者( ) 原告は,化学工業薬品,化学工業品,農薬,医薬品,医薬部外品等の製造 1及び販売等を業とする株式会社である(甲1 。)(「 」 。 ), , ( ) テイコクメディックス株式会社 以下 テイコク という は 医薬品 2医薬部外品,動物用医薬品,医療用機械器具等の製造販売及び輸入販売等を業とする株式会社であった(甲2 。被告は,平成21年6月1日,テイコ )クメディックス株式会社を吸収合併した(弁論の全趣旨 (以下,テイコク )と被告を区別せず「被告」という 。。)2 原告の有する特許権( ) 原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,その特許請求の範囲請 1求項1を引用する請求項6の発明を「本件発明1」といい,請求項2を引用する請求項6の発明を「本件発明2」といい,これらの発明を合わせて「本件発明」という。また,本件発明に係る特許を「本件特許」といい,本件特許に係る明細書(別紙特許公報参照)を「本件明細書」という )を有して 。
いる。
特 許 番 号 第3835698号発明の名称 経口投与用吸着剤,並びに腎疾患治療又は予防剤,及び肝疾患治療又は予防剤出 願 日 平成15年10月31日優 先 日 平成14年11月1日国際公開日 平成16年5月13日登 録 日 平成18年8月4日【特許請求の範囲】【請求項1】,. フェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として製造され 直径が001〜1mmであり,ラングミュアの吸着式により求められる比表面積が1000?u/g以上であり,そして細孔直径7.5〜15000nmの細孔容積が0.25mL/g未満である球状活性炭からなるが,但し,式(1 :)R=(I -I )/(I -I ) (1)15 35 24 35〔式中,I は,X線回折法による回折角(2θ)が15°における回折 15強度であり,I は,X線回折法による回折角(2θ)が35°における 35回折強度であり,I は,X線回折法による回折角(2θ)が24°にお24ける回折強度である〕で求められる回折強度比(R値)が1.4以上である球状活性炭を除く,ことを特徴とする,経口投与用吸着剤。
【請求項2】全塩基性基が0.40meq/g以上の球状活性炭からなる請求項1に記載の経口投与用吸着剤。
【請求項6】請求項1〜5のいずれか一項に記載の経口投与用吸着剤を有効成分とする,腎疾患治療又は予防剤。
( ) 本件発明1を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説した 2構成要件をそれぞれ「構成要件A」などという 。。)A フェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として製造され,B 直径が0.01〜1mmであり,C ラングミュアの吸着式により求められる比表面積が1000?u/g以上であり,そしてD 細孔直径7.5〜15000nmの細孔容積が0.25mL/g未満であるE 球状活性炭からなるが,F 但し,式(1 :)R=(I -I )/(I -I ) (1)15 35 24 35〔式中,I は,X線回折法による回折角(2θ)が15°にお 15ける回折強度であり,I は,X線回折法による回折角(2θ) 35が35°における回折強度であり,I は,X線回折法による回 24折角(2θ)が24°における回折強度である〕で求められる回折強度比(R値)が1.4以上である球状活性炭を除く,ことを特徴とする,G 経口投与用吸着剤を有効成分とする,H 腎疾患治療又は予防剤( ) 本件発明2を構成要件に分説すると,構成要件AからHは,本件発明1と 3同じであり,構成要件Eの前に次の構成要件が加わる。
I 全塩基性基が0.40meq/g以上の3 原告は,平成16年6月14日,被告に対して,本件特許に係る出願(国際公開番号 )の特許請求の範囲の内容を記載した通知書(甲11 WO2004/039381の1。以下「本件通知書」という )を発送し,本件通知書は,同月15日, 。
被告へ到達した(甲11の2 。)4 被告の行為被告は,平成16年9月,別紙被告製品目録(甲)記載1の「キューカル細粒分包2g (以下「被告製品1」という )及び同目録記載2の「キューカ 」。
ルカプセル286mg (以下「被告製品2」という )の製造,販売を,業 」。
として開始し,現在も,製造,販売を継続している。
(なお,被告は,平成20年3月に被告製品の仕様を変更し,構成要件Dを充足しないものに変更したと主張しているので,以下,この仕様変更前の被告製品1を「被告製品1-1 ,被告製品2を「被告製品2-1」といい,仕様変 」更後の被告製品1を「被告製品1-2 ,被告製品2を「被告製品2-2」と 」いう。また,被告製品1-1と2-1を合わせて「仕様変更前被告製品」といい,被告製品1-2と2-2を合わせて「仕様変更後被告製品」という )。
5 被告製品の構成被告製品1及び2は,いずれも炭素源としてフェノール樹脂を使用した経口投与用吸着剤を有効成分とする,腎疾患の一つである慢性腎不全の治療薬であるから,構成要件A,G及びHを充足する。また,被告製品1及び2は,ふるいの目開き0.01〜1mmの範囲に対応するふるい通過百分率(%)が,いずれも90%以上であるから構成要件Bを充足し,ラングミュアの吸着式によって比表面積を計算すると,被告製品1の比表面積は1390?u/gであり,被告製品2の比表面積は1330?u/gであるから構成要件Cを充足し,さらに,被告製品1及び2の全塩基性基はいずれも0.67meq/gであるから構成要件Iを充足する。
仕様変更前被告製品は,水銀圧入法によってその細孔直径7.5〜1500,., 0nmの細孔容積を測定すると 被告製品1-1については0 14mL/g.。 被告製品2-1については0 11mL/gであるから構成要件Dを充足する
争点
1 被告製品は,構成要件E及びFを充足するか2 仕様変更後被告製品は,構成要件Dを充足するか3 本件特許は無効とされるべきものか4 今後 構成要件Dを充足する被告製品が製造 販売される可能性が高いか 本 ,,(件特許権の侵害のおそれの有無)5 補正後の発明の内容を通知する必要があるか(補償金請求に関し)6 補償金の額7 不法行為に基づく損害賠償の額
争点に関する当事者の主張
1 争点1(被告製品は,構成要件E及びFを充足するか)について〔原告の主張〕( ) 構成要件E(球状活性炭からなる)について 1ア 被告製品が球状活性炭からなるものであることは 被告製品の説明書 甲 ,(5)の記述( 球形吸着炭)から明らかである。 「」イ 被告は,本件発明における「球状活性炭」は,?@ピッチ類を用いた従来の製造方法と実質的に同様の操作を利用して調整して得られた,球状で比表面積が100?u/g以上の多孔質体であること,?A?@で得られた多孔質体に対して,付加工程(酸化処理,還元処理など)を実施しないこと,という要件を満たさなければならないと主張し,被告製品は,付加工程を経ておらず,?Aを満たさないものであるから,構成要件Eは充足しない旨主張する。
しかしながら,後記ウに述べるように,本件明細書の記載からすれば,被告の主張する?Aの要件は導かれず,被告の主張は失当である。
また,後記エのとおり,仮に被告主張の?Aの要件を前提としても,被告製品の製造工程には,被告が主張する「付加工程」なるものはないから,被告の主張は失当である。
ウ 本件発明における「球状活性炭」の意義(ア) 本件明細書の「球状活性炭」及び「表面改質球状活性炭」の意義本件明細書の段落【0014】には「球状『活性炭』とは,球状の熱硬化性樹脂などの炭素前駆体を熱処理した後に,賦活処理を行うことによって得られる多孔質体であり,球状で比表面積が100?u/g以上であるものを意味する 」と記載されており 「球状の熱硬化性樹脂など 。,の炭素前駆体を熱処理した後に,賦活処理を行うことによって得られる多孔質体であり,球状で比表面積が100?u/g以上であるもの」という要件を満たす限り 「球状活性炭」に該当するものと定義付けられて ,いる。
一方で,本件明細書では 「前記の球状活性炭を,前記の酸化処理及 ,び還元処理して得られる多孔質体 ,すなわち「表面改質球状活性炭」 」という概念を定義し( 0017 「球状活性炭」と「表面改質球状 【】 ),活性炭」を並列的に記載している。
これらの本件明細書の記載を整合的に解釈するならば,本来は「球状」,「」 活性炭 の概念に含まれるものであっても 特に 表面改質球状活性炭として定義されるものは「球状活性炭」から除かれて,両者は互いに重複しない概念とされたものと解すべきことになる。本件発明に即して言えば 「球状の熱硬化性樹脂などの炭素前駆体を熱処理した後に,賦活 ,処理を行うことによって得られる多孔質体であり,球状で比表面積が100?u/g以上であるもの」から「前記の球状活性炭を,前記の酸化処」, 「」 理及び還元処理して得られる多孔質体を除いたものが 球状活性炭であると定義付けられていることになる。そして,本件明細書の記載によれば,除く対象となり得るものとしては 「前記の球状活性炭を,前 ,記の酸化処理及び還元処理して得られる多孔質体」というもののみである。
要するに,本件発明における「球状活性炭」とは 「球状の熱硬化性 ,樹脂などの炭素前駆体を熱処理した後に,賦活処理を行うことによって得られる多孔質体であり,球状で比表面積が100?u/g以上であるもの (要件?@)であって,かつ 「 前記の酸化処理及び還元処理』をし 」,『ていないもの (要件?A )であると解すべきである。 」’したがって 「酸化処理」だけがされたもの,又は「還元処理」だけ ,がされたもの,あるいは,その他何らかの処理をしたものであっても,それが「前記の酸化処理及び還元処理」という双方の処理をしたものでない限り 「球状活性炭」の概念に含まれるのである。 ,そして,被告の主張を前提としても,被告製品の製造工程において,還元処理が行われていないことについては,被告は明らかに争わないのであるから,被告製品は「球状活性炭」に該当し,構成要件Eを充足することは明らかである。
(イ) 被告は,上記のような,本件明細書の記載上明らかな「前記の酸化処理及び還元処理をしていないもの」という要件(要件?A )から論理を ’,「(, 飛躍させ 本件明細書の記載に何らの根拠もない 付加工程 酸化処理還元処理など 」という要件(要件?A)を導入しているものであって, )許されない解釈である。
被告は,本件明細書の段落【0004】から【0006】の記載を根拠とする。しかし,まず,段落【0006】の記述は,表面改質球状活性炭について説明しているものであり,球状活性炭について説明しているものではないから,球状活性炭について被告が主張する要件?Aを導く根拠とはなりえない。
次に,段落【0004】及び【0005】の記述は 「ピッチ類から ,球状活性炭を調製し,酸化還元することにより得られる従来の多孔質性球状炭素質物質」と比較して「熱硬化性樹脂を炭素源として調製した球状活性炭」が「酸化処理及び還元処理」すなわちその双方の処理を実施する前の状態にもかかわらず,有益な選択吸着性を示すことを述べているにとどまる。すなわち,酸化処理又は還元処理など何らかの処理が行「」 , われた球状の活性炭を 球状活性炭から排除する趣旨の記載ではなく「」 , 酸化処理及び還元処理 の双方を加えられた従来の活性炭に比較して「酸化処理及び還元処理」の双方が加えられなくても,本件発明における「球状活性炭」が有益な選択吸着性を示すという事実を述べたにすぎない。したがって,被告が根拠とする本件明細書の記載は,いずれも被告の主張の根拠とはなり得ないものである。
そもそも,本件発明における球状活性炭は 「特異な細孔構造」を有 ,しているために,毒性物質の選択吸着性能が著しく向上するものである(本件明細書【0012】参照 。具体的には,直径が0.01〜1m )mであり,比表面積が1000?u/g以上であり,細孔直径7.5〜15000nmの細孔容積が0.25mL/g未満であることが要件となっている(請求項1 。すなわち,本件発明においては,フェノール樹 )脂又はイオン交換樹脂を炭素源としたもののうち,直径が特定の範囲内であり(本件明細書【0022 ,十分な大きさの比表面積を有しな 】)がら(本件明細書【0023 ,ある範囲内の大きさの直径を有する 】)細孔の容積が小さい(本件明細書【0024 )球状活性炭を得ること 】によって,本件明細書に記載されているとおりの顕著な作用効果を導いているのである。つまり,本件発明の主眼は,出発材料としてフェノール樹脂又はイオン交換樹脂を用いるとともに 「特異な細孔構造」を有 ,しているところにあり 「酸化処理及び還元処理」を行わないことを発 ,明の構成要件として含むものではないことも,請求項1にそのことについて記載がないことから明らかである。したがって,請求項1に記載されている要件に加えて 「球状活性炭」に「付加工程(酸化処理,還元 ,処理など)を実施しない」などという新たな要件を加える理由など一切存在せず,被告の主張は失当である。
エ 被告製品の製造工程に「付加工程」なるものが存在しないこと本件明細書中に「付加工程」なる文言は存在しない。被告の主張によれ,「 」 , ば それは 官能基を導入調整するための工程 を指すものであるとされ被告は,被告製品の下記の製造工程cないしeによって全酸性基量が抑えられており,これらの工程が付加工程に当たる旨主張している。しかしながら,下記の工程は,いずれもそのような付加工程なるものに該当しないことは明らかである。
記工程c 回転炉温度を約950℃に維持しながら水蒸気の供給を停止し,二酸化炭素ガスを約20分間供給する工程d 回転炉を傾斜して,炉内の活性炭を,炉の下部に置いた容器に排出する。排出に際しては,容器の頂部,底部から二酸化炭素ガスを流入させて容器中の空気と置き換え,活性炭を外気に触れさせないようにする工程e 炉内の活性炭のすべてを容器に排出した段階で 容器頂部 二 ,(() 。 ) 酸化炭素ガスを逃がすための開口部 小孔 が空けられているに蓋をして空気の流入を遮断し,約6時間を要して100℃程度まで冷却するまず,工程cでは,温度を950℃に維持しながら,二酸化炭素ガスを供給している。ここで,二酸化炭素ガス(炭酸ガス)は,賦活反応を引き起こすガスであり(本件明細書【0014】参照 ,二酸化炭素ガスによ )る賦活反応については,850℃より高い温度で進行するとされていること(甲25,28 ,及び炭酸ガス賦活は,実際には水蒸気と併用される )場合が多いとされること(甲25)からすれば,工程cにおいて生じている反応は,賦活反応と考えることが合理的である。また,この事実を測定によって示すために,原告は,実験(甲29)を行ったところ,工程cと同様の条件の下で窒素ガスを注入した場合と比べて二酸化炭素ガスを注入することにより,活性炭の比表面積が増加した。したがって,工程cは,賦活反応が行われている工程であり,何ら「官能基を導入調整するための工程」ではない。
工程d及びeにおいては,炉内の活性炭を外気に触れさせないように容器に排出し,空気の流れを遮断しながら,約6時間かけて100℃まで冷却しているにすぎない。そして,約950℃もの高温になっている活性炭を空気中において冷却しようとすれば発火することは明らかであるから,工程d及びeは,賦活処理終了後の活性炭を外気に触れることによって発火などが起こることを防ぎつつ,回転炉から容器に移しかえて冷却する過,。, 程であり 活性炭を製造する上で当然に必要な過程にすぎない すなわち工程d及びeは何ら「官能基を導入調整するための工程」ではない。
以上より,工程cないしeが「付加工程」に該当するという被告の主張は成り立つ余地はない。
( ) 構成要件F(回折強度比(R値)が1.4以上である球状活性炭を除く) 2についてア 被告製品につき,反射式デフラクトメーター法により回折角(2θ)1,() 。 5° 24°及び35°における回折強度をそれぞれ測定した 甲10そして,測定された回折強度を基に,構成要件Fで定義されている回折強度比Rを算出した結果,被告製品1のR値は1.11であり,被告製品2のR値は1.10であったから,被告製品はいずれも構成要件Fを充足する。
イ X線回折法による測定では,反射式デフラクトメーター法を採用することが当業者にとって自明であること(ア) X線回折法については,日本工業規格(JIS)及び日本薬局方においてそれぞれ関連する規格が定められており,その内容に実質的な相違点はない。炭素材料の製造,利用,評価の際に用いる測定法の規格としては,これら当業者が実験などを行う際に当然に参考にするであろう権,(), 威のある規格に加え 日本学術振興会が定めた測定法 学振法 もまた一般的な規格として,当業者の間で広く普及している。よって,当業者であれば,本件のような試料についてX線回折法による測定を実施するに際しては,特段の指定がされない限り,JIS,日本薬局方,学振法で定められた規格等に従い測定方法を決定するのが通常である。
(イ) X線回折装置におけるX線の検出,測定方法は,フィルムを用いた写真法とカウンタ(計数管)を利用したカウンタ法がある(甲12 。デ )フラクトメーター法は,後者のカウンタ法に属し,カウンタによる自動記録方式のX線回折計(デフラクトメーター)を用いた検出,測定方法のことをいう。
本件発明の請求項1及び同項を引用している請求項に関して構成要件,(), 該当性を判断するためには X線回折法により回折角 2θ が15°24°,35°である際の回折強度を測定することになる。上記の写真法では,ある回折角における回折強度を定量的に測定することが困難である。したがって,十分な精度をもって定量的に測定することが可能なカウンタ法を使用することは,当業者にとって自明である。そして,カウンタ法としては,デフラクトメーター法が代表的な方法であり,JIS,日本薬局方,学振法のいずれにおいても,本件のような試料を測定する方法として,デフラクトメーター法のみが測定方法として記載されている。すなわち,当業者にとって,本件発明の請求項1の記載を見れば,デフラクトメーター法を用いて回折強度を測定することは自明といえる。
さらに,甲第10号証の実験における「反射式」デフラクトメーター法で測定したときの記載は,デフラクトメーターを用いて,X線の入射する方向と試料面及び試料面と計数装置との角度が等しくなるように操作する,いわゆる対称反射法によってX線回折の測定を行ったことを示す趣旨である。JISに記載されているX線回折装置の基本構造は,対称反射式を用いて測定することを前提としているし(甲14の2〜3頁 ,日本薬局方には 「ゴニオメーターはX線の入射する方向と試料 ),面及び試料面と計数装置との角度を走査する装置である。通例,両角度が等しくなるように走査する対称反射式で測定する との記述があり 甲 」(15の90頁 ,対称反射式を用いることが明記されている。 )このように,X線回折法によって構成要件に定めた回折角における回折強度を測定し,その値から回折強度比(R値)を算出する場合には,「反射式デフラクトメーター法」を採用することが当業者にとって自明であることは明らかである。
ウ R値の測定条件は,当業者にとって自明であるか,又は当業者が技術常識に従って適宜に決定すれば支障がない内容であること(ア) X線の線源としてCuKα線を用いることについてX線回折法においては 「測定試料に適した波長のX線が得られるよ ,うに対陰極の種類を選択 (甲15の90頁)した上で,当該試料の回 」折強度を測定することとなる。
そして,活性炭などの炭素材料に関してX線回折法を使用して分析する場合,X線の線源のターゲット(対陰極)については銅(Cu)を用いることが通例である(甲12の44頁,甲14の20頁,甲15の90頁 。また,日本薬局方(甲15)にも記載があるとおり,活性炭な )どを試料としてX線回折法を行う場合においては 「波長に分布のある ,連続X線部分を除き,単色化した特性X線のみを用いる (甲15の9 」0頁)ことが必要であるところ,当業者であれば,特性X線として,X線強度が強く,容易に単色化することが可能なX線の線源としてCuKα線を用いることは当然である。なお,具体的に学振法では,CuKα線を用いることが明記されている(甲13の25頁 。)よって,当業者であれば,X線の線源としてCuKα線を用いることは自明である。
(イ) その余の測定条件について試料作成及びその余の測定条件については,回折強度を正確に測定するという測定の趣旨に合致する範囲内で,当業者が技術常識に従って適宜に決定,設定すればよいものである。
a 試料の粉砕について試料の粉砕については,JIS(甲14,32)において 「粒径,の大きい試料は,必要に応じて乳鉢などを用い手動又は専用の機械によって粉砕して10μm以下の粒径になるようにする と記載され 4 」(頁「5.試料及びその調整方法 ,日本薬局方(甲15)にも同様 」)の記載があることから(90頁右欄11行「通例,試料粉末を無配向化する方法として試料をめのう乳鉢等で粉砕し ,試料を粉砕して 」)測定することは,当業者であれば当然に行うべきことである。原告による測定(甲10,16)においても当然に行われている。
b 試料板にアルミニウム板を用いること試料板として,アルミニウム板を用いることも,日本薬局方等に明記されており(甲15の90頁右欄8行「通例,測定試料はアルミニウム又はガラス製の平板試料ホルダーの充てん部に粉末試料を充てん成形することにより調整する ,アルミニウム板を用いることは当 」)業者にとって当然のことである。被告が使用したX線回折装置を販売している株式会社リガク電機においても,アルミ試料板とガラス試料板のみが一般に販売されている。
なお,被告の実験報告書(乙6)においては,試料板としてアルミニウム板の他に,プラスチック板も使用している。しかしながら,活性炭のような炭素材料のX線回折の測定では,炭素原子に対するX線の透過力が大きいので,プラスチックの試料板を使用すると,プラスチックの構造(炭素が含まれている )の回折強度を拾ってしまう可 。
能性があるため,当業者にとって,活性炭のX線回折強度を測定する,。 際に 試料板としてプラスチック板を使用することは常識的ではない,「」 (),( ,) , このことは X線回折の手引き 甲12 JIS 甲14 32日本薬局方(甲15)及び学振法(甲13)において,試料板としてプラスチック板を使用することが記載されておらず,また,被告が使用したX線回折装置の製造者である株式会社リガク電機を始め,原告の調査した限りではいずれの会社からも,被告が使用したプラスチックの試料板が標準試料板として販売されてないことからも明らかである。
c 補正について原告の実験報告書(甲10,16)においては,装置誤差を補正するために,標準物質として一般的な物質であり,JIS(甲32の6頁「6.標準物質 )において,好ましい標準物質として挙げられて 」いる高純度ケイ素(シリコン)粉末を使用して回折強度の補正を行っ,(, ており その旨は実験報告書にも明記されている 甲10の3頁9行甲16の2頁 。)また,吸収因子及びローレンツ偏光因子に関する補正を行う必要がないことは,JIS(甲14,32)及び日本薬局方(甲15)に,,。 同因子に関する補正についての記載がないことからして 当然であるエ 当業者に委ねられる測定条件によって,R値の測定結果が相違することはないこと(ア) 被告は,R値は測定方法及び試料作成方法によって変動するため固有値を取り得ないと主張する。
確かに,個々の試料に関する回折強度それ自体の絶対値は,測定条件により異なるので固有値ではない。しかしながら,変化するのは回折強度の絶対値のみであり,ある回折角におけるベースライン強度を差し引いた回折強度を基準にしたとき,その強度に対するその他の回折角にお() けるベースライン強度を差し引いた回折強度の比率 すなわち相対強度は変化しない。
具体的に説明すると,以下の図1に示すように,X線回折法により実際に測定値として得られる回折強度の値は,回折強度(Y)とベースライン強度(BL)との和(Y+BL)である。以下の図1では,回折角(2θ)15°における回折強度(I )とベースライン強度(BL)15を示す。
ここで,ある「物質S」を測定条件C1のもとで,X線回折法で測定したときに実際に回折角(2θ)15°,24°及び35°において測定される回折強度をI ,I ,Iとすると,それらの回折強度は,15 24 35以下の式(1-1 (1-2)及び(1-3)で表される。 ),I =Y +BL・・・ 1-1)15 15 (I =Y +BL・・・ 1-2)24 24 (I =Y +BL・・・ 1-3)35 35 (上記において,Y は,測定条件C1での回折角(2θ)15°にお15いて 「物質S」の構造に起因する回折強度であり,Y は,測定条件 , 24C1での回折角(2θ)24°において「物質S」の構造に起因する回折強度であり,Y は,測定条件C1での回折角(2θ)35°におい35て「物質S」の構造に起因する回折強度である。また,BLは,測定条件C1でのベースライン強度である。
前記式(1-1 (1-2)及び(1-3)を,本件特許の請求項 ),1で規定するR値の計算式R=(I -I )/(I -I )15 35 24 35に代入して整理すると,以下の式のとおりとなる。
次に,前記と同じ「物質S」を別の測定条件C2のもとでX線回折法で測定したときに実際に回折角(2θ)15°,24°及び35°において測定される回折強度をI’ I’ ,I’ とする。回折強度Y15 24 35,の絶対値は,測定条件の変化に応じてそれぞれ変化するが,各回折強度。, 相互間の相対強度は物質に固有の値であるから変化しない したがって測定条件C1から測定条件C2への変化に伴って,回折角(2θ)15°での回折強度I’ における「物質S」の構造に起因する回折強度が1515 24測定条件C1での回折強度Y のn倍になるとすると,回折強度I’における「物質S」の構造に起因する回折強度もY のn倍に,回折強24度I’ における「物質S」の構造に起因する回折強度もY のn倍に35 35なる また ベースライン強度 BL も 測定条件の変化に伴って B 。, (), 「L 」に変化する。したがって,それらの回折強度は,以下の式(2- ’1 (2-2)及び(2-3)で表される。 ),I’ =nY +BL ・・・ 2-1)15 15 ’(I’ =nY +BL ・・・ 2-2)24 24 ’(I’ =nY +BL ・・・ 2-3)35 35 ’(前記式(2-1 (2-2)及び(2-3)を,本件特許の請求項 ),1で規定するR値の計算式R=(I -I )/(I -I )15 35 24 35に代入して整理すると,以下の式のとおりとなる。
このように,同じ「物質S」について,測定条件をC1からC2に変化させてもR値は変化しないのである。
R=I24-I35I15-I35=(Y15-BL)-(Y35-BL)(Y24-BL)-(Y35-BL)=Y15-Y35Y24-Y35R=I'15-I'35I'24-I'35=(nY15-BL')-(nY35-BL')(nY24-BL')-(nY35-BL')=nY15-nY35nY24-nY35=Y15-Y35Y24-Y35(イ) R値の持つ意味活性炭においては,回折角35°付近にX線回折の回折ピークが存在しないことは明らかであるから(この事実は,乙1の2の9の996頁のFig.10及びFig11を見ても明らかである ,実際には, 。)回折角35°における回折強度(Y )は0であり,I はBLの回折35 35強度と一致する。
また,当業者であれば,回折角24°における回折強度(Y )が炭24素質材料の002面(炭素の結晶構造が積層構造であり,その積層面に相当)に起因する回折強度であり,試料を構成する炭素の骨格構造を示したものであることは容易に把握することができる。そして,R値と比表面積(すなわち,試料の細孔構造)とがおおむね比例関係にあること(甲18の1の12頁)を併せて考えれば,回折角15°における回折強度(Y )が試料の細孔構造を反映したものであり,R値は測定対象15試料の細孔構造と炭素の骨格構造の比を示すパラメータであると容易に理解することができる。
そのようなパラメータが,測定装置や試料作成方法等によって変動するはずはないから,R値が測定条件によって変化しないことは,R値の持つ意味を考察することによっても示されるといえる。
オ 被告の実験報告書(乙6)を根拠とする主張に対する反論(ア) 試料の厚さについて被告は,試料の厚さが異なるとR値が異なると主張する。しかしながら,R値は,回折強度の比率(すなわち相対強度)であり,仮に,被告の主張するとおり,回折強度比であるR値が試料の厚さにより異なるとすれば,X線回折強度の測定及びそれに基づく物質の同定・定量などを行うに際し,試料の厚さは測定の再現性や測定精度という観点から非常に重要な因子であるということになる。
にもかかわらず,原告が提出したX線回折強度の測定に関するJIS等各種文献(甲12〜15)はおろか,被告が提出したX線回折強度の測定に関する文献(乙1の2の10・11)にも,測定試料の厚さを正確に規定する必要があることは一切記載されていない。例えば,格子定数や結晶子の大きさを測定するために制定された学振法の25頁「4-1 回折線図形の測定 (甲13)には 「X線用試料をメノウ乳鉢中 」,でよく混合した後,X線回折計付属の試料板に均一に充填する」としか,。, 記載されておらず 試料の厚さについては一切触れられていない また() ,「. () 」 JIS 甲32 においても 7頁 8 1 回折データの整理 3に「X線強度はバックグラウンドを差し引いた回折X線のピーク高さを相対強度として求める 」との記載があり,相対強度を利用して物質を 。
同定することが記載されている一方で,4頁「5.1.2 粉体試料の試料ホルダへの充てん」には「試料ホルダには,金属やガラスなどの板に穴又はくぼみを付けたものを用いる 」としか記載されておらず,試 。
料の厚さについては触れられていない。さらに,JIS(甲32)の35頁「4.5 データ処理」には測定条件として記録すべき事項が記載さ,。, れているものの そこにも試料の厚さに関する記載は一切ない 加えて被告が提出する証拠である「X線分析 (乙1の2の10)の53頁に 」も,粉砕した試料の成形方法として「 1)ガラス板(中略)などに1 (.,() 。」「() 〜1 5mmの浅いくぼみを作り これに試料をつめる 後略 2アルミ板,ガラス板など(厚さ2mm)に1×2cmくらいの四角の窓をあけ,これに粉末試料をつめる (後略 」と記載されているのみで 。)あり,試料の厚さに関する厳格な記載は存在しない。
すなわち,回折角における相対強度の測定においては,測定の趣旨に合致する範囲において,当業者が適切と考える厚さで試料を作成し,測定を行えば構わないとされているのである。
この点につき,原告が行った実験の報告書(甲33)では,試料厚さを0.8mmから2.3mmまで変化させているにもかかわらず,R値はいずれの厚さにおいても1.1であった。
(イ) 測定装置についてa 被告は,測定条件によってR値や回折強度が異なると主張し,被告の提出する乙第6号証には「ほぼ同じ試料厚みで測定したRINT1100のR値とRINT2400のR値とは一致しなかった」との記載がある(乙6の3頁 。)b しかしながら,そもそも,測定装置が違うと回折強度比が異なるとすれば,分析手法としてのX線回折法そのものが成り立たないことになる。もし,乙第6号証に記載されているとおり,測定装置によって回折強度比(相対強度)であるR値に0.85から1.56までの違いがあるとすれば,同じ物質を測定しても装置によって回折強度比が50%以上も異なる(すなわち,装置によって当該物質のX線回折図形が大きく異なる )ことになる。そのようなことがもし発生すると 。
すれば,JIS(甲32の7頁以下,同35頁以下)に記載されているようなX線回折図形が物質特有であることを根拠とするX線回折法による物質の同定そのものが全く不可能になる。しかし,現実にX線回折法による物質の同定が幅広く使用されている(相対強度を指標とした国際的に共通の粉末X線データベース(JIS35頁)が存在する )ことは明らかな事実である。このような観点からすれば,測定 。
装置によって回折強度比は異ならないことは明らかである。
さらに,乙第6号証の測定結果から,その3頁「5.考察(2 」)に記載されているような結論を導くことも非科学的である。測定装置の相違によってR値が異なることを測定結果の比較によって立証するためには,測定装置以外の条件を同じにしなければならないことはいうまでもない。しかしながら,例えば乙第6号証の表1に記載されている測定結果と,表2における測定結果を比較すると,試料板が異なる(表1ではプラスチック試料板,表2ではアルミ試料板 。すなわ)ち,表1と表2の実験結果を比較し,その結果が相違しているとしても,測定装置のみならず,試料板までも異なっている以上,試料板の相違による影響の可能性を否定することができず,その比較は意味のあるものではない。よって,そのような条件下での比較結果から,測定装置の違いによって測定結果が異なるという結論を導くことは不可能である。
c 乙第6号証の表1と同じ測定装置で,かつアルミ試料板を用いて測,. 。 定した結果が 乙第14号証のFig1として被告より開示されたその結果によれば,回折角15°における回折強度と回折角24°における回折強度がほぼ等しいこと,すなわちR値が約1であることが容易に読み取れる。他方乙第6号証の表2に記載されている測定結果から算出されるR値もまた約1であり,これは,表1とは異なる測定装置でアルミ試料板を用いて測定した結果である。これらをまとめると以下のとおりである。
測定装置 試料板 R値 記載箇所プラスチック 1.4 乙6・表1 RINT1100アルミ 1.0 乙6・表2 RINT2400アルミ 約1 乙14・ 1 RINT1100 Fig.これらの事実からは,仮に被告による測定結果が正しいとしても,試料板に適切な素材を使用すれば測定装置が異なってもR値は変動しないことが判明し,また,乙第6号証の表2記載のデータ及び乙14のFig.1から読み取れるデータと比較して,乙第6号証の表1に,( ) 記載のデータにおいてR値が変動している原因は 試料板 及び敷板にプラスチックを使用していることにあることが明確になった。
(ウ) 小角散乱による影響の補正について乙第6号証においては,解析方法?A(乙6の2頁( ))として,小角 4散乱による影響を補正しているようであり,当該補正を行ったデータと,。 して表3を記載し もって補正前後におけるR値が異なる旨を主張するしかしながら,乙第6号証には,いかなる補正が行われたのかについての記載がなく,反論の必要はないものである。また,小角散乱による影響について補正を行うこと自体,各種文献(甲12〜15)にも一切記載がない上に,R値の算出においては既にベースライン補正を行っていることから,全く不要な作業であるといわざるを得ない。
なお,乙第6号証には 「測定データのうち小角散乱に由来するもの ,は測定した全領域においてバックグラウンドとして寄与する」との記載があり(乙6の2頁 ,参考文献3が挙げられているものの,参考文献 )3にはそのような趣旨の記載はない。また 「データ処理により小角散 ,乱によるバックグラウンドを求め,測定データからバックグラウンドを差し引いて回折強度を求めた」との記載があり 「データ処理」を裏付 ,けるものとして参考文献4が挙げられているものの,参考文献4には当該データ処理に関する記述は一切ない。このように,乙第6号証の参考資料を検討しても,被告の行った補正方法は明らかにならず,被告の主張は何らの根拠もないものである。
(エ) 同じ試料厚さでかつ同じ測定装置を用いても,R値が異なるとの主張について被告は,乙第6号証を根拠に,同一の測定機器を用い,かつ試料の厚さその他同じ条件によっても,測定のたびにR値が一定でないと主張する。しかしながら,R値は,回折強度比(相対強度)である以上,測定ごとに異なる数値を示すはずがないことは前記のとおりである。
なお,乙第6号証の「5.考察(3 」では,RINT1100によ )る測定結果(表3)及びRINT2400による測定結果(表2)を基に,R値がばらついていると述べている。しかしながら,表2及び表3,, に記載されている測定結果のうち厚さが違う試料の測定結果の比較は既に乙第6号証の考察(1)において評価されているのであるから,考察の(3)において述べられるべきは,表2に記載されている同一試料厚さの測定結果の比較(すなわち,試料厚さが0.3,0.6,1.9mmのそれぞれの複数回の実験結果)に基づく考察のみであるべきである。また,試料厚さが0.3,0.6,1.9mmのそれぞれ複数回の実験結果についても,同じ試料について二度測定したのか,それとも厚さをそろえた試料を複数作成し,それぞれについて測定を行ったのか不明確である。このような基本的な考察ができておらず,また,実験報告書としての基本的な記述が欠けていること自体,乙第6号証の信用性を著しく減殺させるものである。
(オ) 乙第6号証の実験結果の問題点について乙第6号証には,使用されているX線発生装置2種(?@封入式X線管球,?A回転体陰極型X線発生装置)を比較すると,?Aで発生するX線の方が強いにもかかわらず(?Aの方が高出力のX線を発生させるための装置であることに加え,印加電流も?Aは?@の2倍である ,?Aで測定し 。)たX線回折強度の絶対値(表2)と比較して,?@で測定したX線回折強度の絶対値(表1)の方が大きいという,不合理な結果が記載されている。
また,表2に記載されている測定結果のうち,試料層厚0.6mmの一番目の数値(I :407,I :519,I :107。単位はい15 24 35ずれもcps)は,ベースラインであるI の値が他の多くの測定値よ35りも大きいにもかかわらず,I の測定値が表2に掲載された測定値の 15中で最も小さい値となっており,この測定結果が物質固有のX線回折図形(回折プロファイル。この場合には,炭素の回折プロファイル )を 。
示してない,すなわち,X線回折の基本的な条件すら満たしていない結果であることは明白である。
さらに,表1に記載の実験結果においては,表2記載の実験結果と異なり,試料層厚が増加するに従い,一方的にR値が減少している。試料層厚に反比例してR値が一方的に減少することは不可解としかいいようがなく,このような実験結果は,何らかの作為が入っているという疑いを抱かざるを得ない。
このように,乙第6号証に不合理な結果が記載しされている一方で,回折強度を測定した際のチャート等の一次データが添付されていないことを考慮すれば,乙第6号証に記載されている実験結果には,何らかの作為,又は当業者であれば測定に際して当然に排除するべく様々な配慮を行う測定ノイズが含まれている可能性が高い。
〔被告の主張〕( ) 構成要件E(球状活性炭からなる)について 1ア 以下に述べるように,本件発明における「球状活性炭」は単純な意味での「球状」の「活性炭」という用語ではなく,厳密に定義付けられなければならないものであり,被告製品はその「球状活性炭」には該当しない。
イ 本件発明における「球状活性炭」の意義(ア) 本件発明は 「熱硬化性樹脂を炭素源として調製した球状活性炭は, ,酸化処理及び還元処理を実施する前の状態であるにもかかわらず,生体内の尿毒症性物質のひとつと考えられるβ-アミノイソ酪酸の吸着性に,(,) 優れており しかも有益物質である消化酵素 例えば α-アミラーゼ等に対する吸着性が少ないという有益な選択吸着性を有することを見出し」たこと,及び「その選択吸着性の程度が,前記特公昭62-11611号公報(特許文献1)に記載の吸着剤よりも優れていることを見出した」ことに基づくものである(本件明細書【0004】参照 。)本件明細書においては,前記の見出した事実が「驚くべきこと」であると記載されているばかりか,さらに,従来技術では「ピッチ類から調製される球状活性炭を更に酸化処理及び還元処理して官能基を導入することによって,前記の選択吸着性が発現されることになると考えられていたので,酸化処理及び還元処理を実施する前の球状活性炭の状態で選択的吸着能を発現すること,及びその吸着能が従来の経口投与用吸着剤」「 」 よりも優れているという本発明者による前記の発見 も 驚くべきことであると記載されている(本件明細書【0005】参照 。)その上で 「前記の球状活性炭を更に酸化処理及び還元処理すること ,によって調製した表面改質球状活性炭は,生体内の尿毒症性物質のひとつと考えられるβ-アミノイソ酪酸の吸着性に優れており,しかも有益物質である消化酵素(例えば,α-アミラーゼ)等に対する吸着性が少ないという前記の有益な選択吸着性が,前記特公昭62-11611号公報(特許文献1)に記載の吸着剤よりも一層向上する」と記載されている( 0006】参照 。 【)なお 「本発明の経口投与用吸着剤として用いる球状活性炭又は表面 ,改質球状活性炭は,前記のとおり,従来の経口投与用吸着剤の炭素源として用いられてきたピッチ類に代えて,炭素源として熱硬化性樹脂を用いる点を特徴としており,それ以外の点では,ピッチ類を用いる従来の製造方法と実質的に同様の操作を利用して調製することができる。本発明の経口投与用吸着剤として用いる球状活性炭又は表面改質球状活性炭は,例えば,以下の方法によって製造することができる (本件明細 。」書【0013 「最初に,熱硬化性樹脂からなる球状体を,炭素と反 】),応性を有する気流(例えば,スチーム又は炭酸ガス)中で,700〜1000℃の温度で賦活処理すると,本発明の経口投与用吸着剤として用いる球状活性炭を得ることができる。ここで,球状『活性炭』とは,球状の熱硬化性樹脂などの炭素前駆体を熱処理した後に,賦活処理を行うことによって得られる多孔質体であり,球状で比表面積が100?u/g以上であるものを意味する。本発明においては1000?u/g以上が好ましい ( 0014 )と記載されているように 「球状活性炭」は, 。」【 】 ,ピッチ類を用いる従来の製造方法と実質的に同様の方法によって調整された多孔質体であること,球状で比表面積が100?u/g以上であることも記載されている。
(イ) すなわち,本件発明の本質的部分は,本件明細書の記載から「フェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として製造した球状活性炭」であることは一目瞭然であり,この構成によって,従来技術と同等以上の選択吸着性能を有する経口投与用吸着剤を極めて容易に得ることができるというものである。
ところが 「フェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として製造 ,すること」をその本質的部分とするにもかかわらず 「フェノール樹脂 ,() 」 又はイオン交換樹脂を炭素源として製造した球形の活性炭 多孔質体との構成は,公知技術(乙1の2の1,2,7)である。
そうであるとすれば,その本質的部分を構成する「球状活性炭」の要件(構成要件E)は,単に「球状」の「活性炭」であるとか 「球状」 ,の「多孔質体」などのように一般的な意味に理解してはならず,厳密に定義付けられなければならない。
(ウ) そして,本件明細書の上記記載によれば,本件発明の「球状活性炭」は 「フェノール樹脂又はイオン交換樹脂」を炭素源として従来と同じ ,(,) 製造方法 ピッチ類の場合と同様に熱処理後 賦活処理を行う製造方法で調製することによって容易に得られるもの(多孔質体,球状で比表面積が100?u/g以上)であり,その後に官能基を導入調製するための付加工程(例えば,酸化処理及び還元処理などの工程)を実施しなくても,従来技術と同等以上の選択吸着性を有する経口投与用吸着剤を得ることができるとするものである。換言すれば,その後に付加工程を実施,「 」 。 して得られた物質は 本件発明の球状活性炭 の概念には含まれない(エ) 以上からすれば,本件発明における「球状活性炭」とは,?@ピッチ類を用いた従来の製造方法と実質的に同様の操作を利用して調製して得られた,球状で比表面積が100?u/g以上の多孔質体であること,?A?@で得られた多孔質体に対して,付加工程(酸化処理,還元処理など)を実施しないことの2つの要件を満たすものでなければならない。
ウ 被告製品は,本件発明の「球状活性炭」に該当しないこと(ア) 被告製品の製造工程被告製品は,以下のような工程で製造されるものである。
工程a 球形粒状フェノール系樹脂を炉に入れ,窒素ガス気流下,約800℃で炉内に約30分間滞留させて炭素質材料を得る。
() , , 工程b 炭素質材料 約50kgを回転炉に仕込み 水蒸気雰囲気中約950℃で約13時間賦活処理を行い,活性炭を生成する。
工程c 回転炉温度を約950℃に維持しながら水蒸気の供給を停止し,二酸化炭素ガスを約20分間供給する。
工程d 回転炉を傾斜して,炉内の活性炭を,炉の下部に置いた容器に排出する。排出に際しては,容器の頂部,底部から二酸化炭素ガスを流入させて容器中の空気と置き換え,活性炭を外気に触れさせないようにする。
工程e 炉内の活性炭のすべてを容器に排出した段階で,容器頂部(二() 。 ) 酸化炭素ガスを逃がすための開口部 小孔 が空けられているに蓋をして空気の流入を遮断し,約6時間を要して100℃程度まで冷却する。
(イ) 上記のように,被告製品の製造工程においては,球形粒状フェノール系樹脂に対する熱処理工程(工程a ,水蒸気賦活処理工程(工程b) )に加えて,二酸化炭素ガス供給工程(工程c ,炉からの排出工程(工 )程d ,冷却工程(工程e)を経て,活性炭(被告製品)を得るもので )ある。このように,空気の流入を遮断し,二酸化炭素を供給して炉内の雰囲気を二酸化炭素ガスに変えて約950℃で保持した上で,炉から排出し,さらに二酸化炭素ガス雰囲気下で冷却工程を経ることで,全酸性基量が際だって少なく毒素物質の吸着性能が向上した活性炭を得ることができるのである。
すなわち,被告製品の製造工程における工程cからeは,前記付加工程(酸化処理,還元処理などの工程)に相当することは明らかである。
(ウ) 以上からすれば 被告製品は 付加工程を実施しない との要件 前 ,, 「」(),「」 記イ(エ)の要件?A を満たさないものであり 本件発明の 球状活性炭には該当せず,構成要件Eを充足しない。
(エ) 原告は,工程cにおいて,二酸化炭素ガスを供給していることは,賦活処理と考えることが合理的であると主張する。
しかしながら,賦活処理は,既に工程bで行っているのであるから,再び賦活処理を行う必要性など全く存在しない。二酸化炭素ガスが賦活反応を引き起こすガスであることは確かであるものの,既にb工程によって水蒸気雰囲気中で賦活処理を行っているのであるから,この二酸化炭素ガス供給工程は,単純な賦活工程ではなく,既に工程bによって導入された官能基を調整するための工程であると理解すべきである。
また,原告は,工程d及びeが冷却工程にすぎないと主張する。
確かに,工程d及びeは,活性炭を製造する上で当然に必要な冷却過程の範疇に含まれることは当然である。しかしながら,単なる冷却であ。, れば自然に放置することで十分である 工程d及びeを経ることにより.() 全酸性基量0 14meq/g未満という低い数値が得られた 乙13ので,被告製品の製造工程においては,自然放置ではなく,あえて製造工程dおよびeを経ているのであって,このことからすれば,二酸化炭素ガス流入による冷却工程は,既に導入された官能基を調整するための工程であると理解すべきである。
( ) 構成要件F(回折強度比(R値)が1.4以上である球状活性炭を除く) 2についてア 本件明細書には,R値を含めた回折強度に関連する説明を根拠付ける記,, 。 載は一切なく 原告の主張する測定方法 測定条件を採用する根拠はないイ 原告の実験報告書について(ア) 原告の提出する実験報告書(甲10)には,以下のように記載されている。
( ) 測定装置aX線回折装置(株式会社リガク製「RAD-rC/PC化 )」( ) 試料作成方法b試料を120℃で3時間減圧乾燥する。
アルミニウム試料板(35×50m?u,t=1.5mmの板に20×18m?uの穴を空けたもの)に充填する。
( ) 測定方法cグラファイトモノクロメーターにより単色化したCuKα線(波長λ=0.15418nm)を線源とする。
反射式デフラクトメーター法による。
( ) 測定条件dX線発生部及びスリットの条件印加電圧40kV,電流100mA発散スリット=1/2°,受光スリット=0.15mm,散乱スリット=1/2°( ) 回折図形の補正 eローレンツ偏光因子,吸収因子,原子散乱因子等に関する補正行わず。
標準物質用高純度シリコン粉末(111)回折線を用いて回折角を補正。
(イ) 以上の条件等について,原告が証拠を用いて説明したのは( )だけcであり,それ以外について全く合理的な説明がされていない。
X線回折強度測定に際して使用する試料の粉砕の程度や試料作成方法,充填方法等に注意しなければ,その回折強度測定の再現性は失われるのであるから,物質特定のためにはそれらの測定条件を明確にしておかなければならない。それにもかかわらず 「( )試料作成方法」 ,bにおいて,試料を粉砕したかどうか,粉砕したとしてどの程度粉砕したか 「アルミニウム試料板(35×50m?u,t=1.5mmの板 ,に20×18m?uの穴を空けたもの 」を用いたのはなぜか,それに )対して試料をどの程度の強度で充填したかについては全く記載されてない。
また,通常,X線回折法に基づいて回折強度を測定する場合,補正をするのが一般的であるにもかかわらず 「( )回折図形の補正」に ,eおいては,一切補正を行っていない。これについても,なぜ補正をしないのかについて全く記載されていない。
ウ 測定方法によって全く異なる回折強度値となること(ア) 乙第1号証の2の10には,X線回折強度の測定に際しては,十分に細かい試料を用いなければ測定の再現性が失われること,粒子の粉砕の程度(大きさ)は45μm以下であること,粉砕した試料を平板状に形,,, . 成する方法として ?@ガラス板 アルミ板プラスチック板等に1〜15mmのくぼみを作り,これに試料をつめる場合と,?A厚さ2mmのアルミ板,ガラス板等に1×2cm位の四角の窓をあけてこれに粉末試料をつめる場合があること,充填に際して注意を要するべきことなどが記載されている。
また,乙第1号証の2の11には,X線回折強度の測定の試料作成に際しては,メノウ乳鉢で150メッシュ標準篩をすべてが通過するように粉砕すること,試料板に試料を充填する前に試料と標準物質を十分に混合し,均一に充填することが必要であることなどが記載されている。
要するに,X線回折強度測定に際して,使用する試料の粉砕の程度や試料作成方法,充填方法などに注意しなければ,その回折強度測定の再現性が失われるということであり,換言すれば,物質特定のために回折強度値を用いる場合は,それらの測定条件を明確にしておかなければならないということである。
(イ) 原告は,ある回折角におけるベースライン強度を差し引いた回折強度を基準にしたとき,その強度に対するその他の回折角におけるベースライン強度を差し引いた回折強度の比率(すなわち相対強度)は,変化しないと主張する。
この主張は,測定条件を変化させた場合,回折角15°における試料の構造に起因する回折強度がn倍になると,回折角24°及び35°における同試料の構造に起因する回折強度もn倍になることを,その前提としている。しかしながら,なぜ,そのような前提が成り立つかについての理由は不明であり,原告の主張はその前提を欠くものである。
また,原告は,ベースライン強度を一定値と想定しており 「回折角,35°における回折強度(Y )は0であり,I はBLの回折強度と35 35一致する」と主張する。
しかしながら,この前提も誤っている。甲第13号証の26頁の脚注7には 「バックグラウンドは付図1の如く水平に引く。( )回折線の , 112場合は89°,( )回折線の場合は75°,( )回折線の場合は57 110 004°,( )回折線の場合は29°付近を基準とするとよい 」とされてお 002 。
り,解析の対象とする結晶面によって異なる角度の値をバックグラウンドとして使用する旨が記載されている。そして,小角散乱の影響を考えると,通常は,それをバックグラウンド(小角側に行くほど立ち上がるようなカーブを描くので,一定値(=横軸に平行)ではない。乙14参照)として差し引くのが技術常識である。回折角35°における回折強度をバックグラウンドとして,全角度領域において差し引くことの理論的根拠は全く薄弱である。
エ 被告の実験報告書(乙6)について被告が行った実験の結果(乙6)によれば,測定装置?@( )RINT1100, .,.,.,. 及びプラスチック試料板を用い 試料層厚を0 8 1 0 1 1 2,.. 。 2に変更した結果 R値は1 29〜1 56と大きく異なる値をとったまた,ほぼ同じ試料厚で測定した測定装置?@によるR値(1.56,1.,. ,. ) ( ) (. 50 1 31 1 29 と測定装置?A によるR値 0 RINT240099,1.18,0.73,0.99,1.05,0.85,0.95)は一致せず,R値は一定でないことが明らかとなった。さらに,小角散乱による影響を補正で除去したところ,R値は0.19,0.26であり,補正を行わなかった場合のR値(0.85〜1.56)とは全く異なる値が得られた。
以上のとおり,R値及びその前提となる回折強度は,測定方法はもちろん,その測定のために作成する試料の作成方法や補正の有無によっても大きく変動するものであり,およそ物質の特定において固有値を取り得ないことは明らかである。
2 争点2(仕様変更後被告製品は,構成要件Dを充足するか)〔原告の主張〕( ) 仕様変更後被告製品が低細孔容積品を有効成分とする腎疾患治療又は予防 1剤であり,本件特許の構成要件を充足することア 仕様変更後被告製品が,低細孔容積品と高細孔容積品の2種類の物質に截然と区別されること(ア) 水による分離実験と細孔容積の測定(甲60の1)仕様変更後被告製品について水による分離を行うと,浮遊品と沈降品とにきれいに分離される。仕様変更後被告製品における浮遊品と沈降品の割合は,浮遊品が約4割で,沈降品が約6割である。
そして,浮遊品及び沈降品について「細孔直径7.5〜15000nmの細孔容積」を測定したところ 「細孔直径7.5〜15000nm ,の細孔容積が0.25mL/g未満」という構成要件Dについて,浮遊品はすべてこれを充足せず,沈降品はすべてこれを充足することが明らかとなった。
「. 」,. 沈降品の 細孔直径7 5〜15000nmの細孔容積 の値は 01mL/g前後であり,構成要件Dの閾値(0.25mL/g)を大きく下回る。また,沈降品の細孔容積が0.0851〜0.1468mL/gの間に分布しているのに対し,浮遊品の細孔直径は0.5574〜0.8233mL/gの間に分布しており,絶対値としておおよそ1桁も異なる。同一サンプル内であるにもかかわらず,これら沈降品の細孔容積と浮遊品の細孔容積の比をとると,1:5.5〜1:7.8と大きな差異があることがわかる。このような差異は,均一な仕様の下に製造された物質を分離した場合には生じ得ない。さらに,平成21年2月9日付け測定分析結果報告書において用いられた試料について,浮遊品の細孔容積と沈降品の細孔容積との加重平均をとり,全体の細孔容積を求めると,平均で0.316mL/gとなるが,全体の細孔容積が0.316mL/gである物質の6割を取り出した場合の細孔容積が0.0851〜0.1468mL/gであり,残り4割を取り出した場合の細孔.. , 容積が0 5574〜0 8233mL/gとなるような物質を想定し細孔容積がどのように分布するかを試算してグラフ化すると二つのピークが表れ,これによると,仕様変更後被告製品は,細孔容積の大きい浮,, 遊品群と 細孔容積の小さい沈降品群との2種類の物質の混合物であり前者が約4割の重量を,後者が約6割の重量を占めるものであると考えられる。
すなわち,仕様変更後被告製品には,構成要件Dを満たすものが約6割も含まれているものの 本件特許権の侵害品 沈降品 に非侵害品 浮 ,()(遊品)が混合しているため,全体としては,たまたま構成要件Dを充足しないような測定結果が得られているものにすぎないのである。
(イ) 被告による実験報告書(乙37)について(), , 被告から提出された実験報告書乙37 は 仕様変更前被告製品と仕様変更後被告製品及び原告製品(クレメジンカプセル200mg)について,比重の異なる溶液での分離を試みた実験であるが,以下に述べるように,この実験結果は,原告の主張を裏付けるものと評価できる。
実験報告書(乙37)の3頁の分離結果に基づいて,仕様変更前被告製品,仕様変更後被告製品及び原告製品の比重ごとの分布を表にすると下記のとおりとなる。
比重1.0 1.0 1.3 1.3 1.5 1.5 1.7 1.7 1.9 〜〜〜〜〜仕様変更前17.7% 3.0% 24.3% 36.6% 18.4% 被告製品仕様変更後22.8% 0.0% 22.7% 37.1% 17.5% 被告製品原告製品0.0% 0.0% 0.0% 13.7% 86.3%注目すべきは,仕様変更後被告製品の比重のうち,1.0〜1.3の欄が0.0%になっていることである。すなわち,比重1.0以下の範囲(22.8%)と,比重1.3以上1.9以下(76.2%)とに截然と分かれているのである。適切に管理された工程から得られる測定値の分布が正規分布に近い分布となることは当業者の技術常識であり 甲 ,(64の115頁 ,均一の仕様の下に同一の工程で製造された物質であ )れば,上記のような分布の分断は生じ得ないものである。このような分布の分断が生じていることは,仕様変更後被告製品の中に低細孔容積品と高細孔容積品の2種類の物質が見られるというばかりではなく,低細孔容積品と高細孔容積品とが,比重1.0を境に連続しているのではなく,比重1.0以下の高細孔容積品と比重1.3以上の低細孔容積品とに截然と区別される別個の物質であることを示しているのである。
イ 本件特許の構成要件の文言が,2種類の物質の混合物である仕様変更後被告製品も包含していること本件特許の構成要件のうち構成要件D「細孔直径7.5〜15000nmの細孔容積が0.25mL/g未満であり」は 「腎疾患治療又は予防 ,剤 (構成要件H)の有効成分である「経口投与用吸着剤 (構成要件G) 」」を構成する「球状活性炭 (構成要件E)を限定する構成要件である。 」医療用医薬品においては,有効成分にその他の成分を配合して製剤とすることが一般的に行われており,このことは当業者の技術常識である。そして,細孔容積に関する構成要件Dを含め,構成要件AないしFを充足する球状活性炭が存在し,そのような球状活性炭を有効成分とする腎疾患治療又は予防剤があるとすれば,その腎疾患治療又は予防剤は,本件発明の技術的範囲に含まれる。この結論は,仮にその腎疾患治療又は予防剤が同時に他の成分を含有していたとしても変わりはない。
本件明細書に 「更に他の薬剤であるアルミゲルやケイキサレートなど ,の電解質調節剤と配合した複合剤の形態で用いることもできる ( 00。」【35 )との記載があることも,本件発明の技術的思想の範囲内に構成要 】件AないしFを充足する球状活性炭を有効成分とし,同時に他の成分をも含有する腎疾患治療又は予防剤が含まれていることを示すものである。
したがって,細孔容積に関する構成要件Dは,腎疾患治療又は予防剤全体を対象として判定されるべきものではなく腎疾患治療又は予防剤が含有する有効成分たる球状活性炭のみを対象として判定されるべきものであり,このことは,本件特許の特許請求の範囲の文言から自明である。
ウ 仕様変更後被告製品が本件特許の構成要件Dを充足すること,., 前記のとおり 仕様変更後被告製品が比重1 0以下の高細孔容積品と比重1.3以上の低細孔容積品という截然と区別される別個の物質の混合品であることは明らかである。
そして,測定分析結果報告書(甲60の1)によれば,低細孔容積品の細孔容積は,0.1mL/g前後(0.0851〜0.1468mL/g。), (. ) の間に分布している であり 構成要件Dの限界値 0 25mL/gを大きく下回るものである。
そうすると,低細孔容積品は,本件特許の構成要件AないしFを充足する有効成分たる球状活性炭に該当する。仕様変更後被告製品は,この構成要件を充足する有効成分と同時に他の成分である高細孔容積品をも含有する腎疾患治療又は予防剤であり,前記のとおり,このような仕様変更後被告製品が本件特許の構成要件を充足することは,本件特許の特許請求の範囲の文言から自明である。
( ) 仕様変更後被告製品(被告製品1-2及び2-2)が混合物であることを 2捨象したとしても,その少なくとも一部の製品は,本件特許の構成要件を充足することア 仕様変更後被告製品が混合物であることを捨象し,一体の物として構成要件充足性を判定するとしても,以下のとおり,仕様変更後被告製品の少なくとも一部の製品は,本件特許の構成要件を充足するから,仕様変更後被告製品の製造,販売は,本件特許権を侵害するものであり,また,本件特許権を侵害するおそれがある。
イ 仕様変更後被告製品の測定結果としては,原告従業員作成の実験報告書(甲51,53)と,株式会社島津テクノリサーチ(以下「島津テクノリ」。)(,, サーチ という 作成の測定分析結果報告書 乙15の1 乙23の1乙24,甲59の1)が存在する。
これらの測定結果に含まれる測定値は,合計121件であるが,これらの測定値は,あくまで仕様変更後被告製品全体から一部をサンプルとして取り出し測定したことによって得られた値にすぎず,これらの測定値の最大値・最小値がそのまま仕様変更後被告製品全体の最大値・最小値を示すものではない。しかも,仕様変更後被告製品は,ばらつきが大きいため,その測定値(細孔容積)は相当幅のあるものとなっている。
そのため,これらの測定値を表面的に認識するだけでは,分析として不十分である。仕様変更後被告製品のばらつきの大きさを考慮し,測定値の分布の状況をも検討することによってこそ,被告が製造,販売する仕様変更後被告製品の全体像を認識することが可能となり,かつ,本件特許権侵害の有無及びそのおそれを判断することが可能となるものである。
そこで,上記の観点から各測定結果の内容を分析し,整理して述べることとする。
ウ 各測定結果の内容(ア) 原告従業員作成の実験報告書(甲51,53)当該実験報告書(甲51,53)の測定対象は,?@被告提供の被告製品1-2(ロット番号7FA,7FB,7HA,7HB,8AA ,?A )市販の被告製品1-2(ロット番号7HB,8AA,8CA,8DA,8FA,8GA,8GB ,?B被告提供の被告製品2-2(ロット番号 )7GA)及び?C市販の被告製品2-2(ロット番号7GA)である。
縮分操作は行われていない。
測定結果は,別紙測定結果一覧「甲51」欄及び「甲51,甲53」欄の記載のとおりであり,?@被告提供の被告製品1-2につき10件,?A市販の被告製品1-2につき21件,?B被告提供の被告製品2-2につき2件,?C市販の被告製品2-2につき3件の合計36件の測定値が得られ,そのうち?A市販の被告製品1-2の3件(ロット番号8DA,8FA ,?B被告提供の被告製品2-2の1件(ロット番号7GA)及 )び?C市販の被告製品2-2の2件(ロット番号7GA)の合計6件の細孔容積が0.25mL/g未満であった。
(イ) 原告依頼に係る島津テクノリサーチ作成の平成21年1月8日付け測定分析結果報告書(甲59の1)当該測定分析結果報告書(甲59の1)の測定対象は,?@被告製品1-2(ロット番号8AA,8CA,8DA,8FA,8GA,8GB,8GC)及び?A被告製品2-2(ロット番号7GA,8HA)である。
縮分操作が行われている。
,「」 , 測定結果は 別紙測定結果一覧甲59の1 欄記載のとおりであり54件の測定値が得られ,そのうち?@被告製品1-2の1件(ロット番号8DA)の細孔容積が0.25mL/g未満であった。
(ウ) 被告依頼に係る島津テクノリサーチ作成測定分析結果報告書(乙15の1,23の1,24)当該各測定分析結果報告書(乙15の1,23の1,24)の測定対, ( ,,,, 象は ?@被告製品1-2 ロット番号7FA 7FB 7HA 7HB8AA,8CA,8DA,8FA,8GA,8GB,8GC)及び?A被告製品2-2(ロット番号7GA,8HA)である。
縮分操作が行われている。
測定結果は,別紙測定結果一覧「乙15の1,23の1,24」欄記載のとおりであり,被告製品1-2につき25件,被告製品2-2につき6件の合計31件の測定値が得られ,細孔容積が0.25mL/g未満となる測定値はなかった。
エ 測定結果の分析(ア) 縮分操作の有無による測定結果の相違の対比前記のとおり,原告従業員の実験報告書(甲51,53)では,合計36件の測定値が得られ,測定値は,0.193〜0.457の範囲に分布し,6件の細孔容積が0.25mL/g未満であった。
これに対し,原告又は被告依頼に係る島津テクノリサーチ作成の測定分析結果報告書(甲59の1,乙15の1,23の1,24)では,合計85件の測定値が得られ,測定値は,0.2428〜0.3846の範囲に分布し,1件の細孔容積が0.25mL/g未満であった。
このように,原告従業員の実験報告書に比して,島津テクノリサーチ作成の測定分析結果報告書は,細孔容積の分布の範囲が狭く,細孔容積が0.25mL/g未満となる測定値が少ない。この差異は,縮分操作の有無によるところが大きいと考えられる。
(イ) 縮分の影響について縮分操作とは,乙第15号証の1頁に「アルミ袋・カプセルを開き,1包分(約2g)を混ぜ合わせた後,二分器で縮分」と記載されているとおり,試料を均一に混合する操作である。縮分操作を行うと,試料が均一に混合されるため,原試料のばらつきが大きくても,縮分操作後の試料は,ばらつきが抑制されることになる。
したがって,島津テクノリサーチによる測定分析結果報告書(甲59の1)に信頼性があることは当然であるが,原告従業員による実験報告書(甲51,53)も,原試料のばらつきを忠実に反映させた点で高い信頼性を有するものである。
そして,原告従業員の実験報告書(甲51,53)によれば,仕様変更後被告製品については,大きなばらつきの中で,構成要件Dを満たすサンプルがあることが客観的に示されている。また,島津テクノリサーチによる測定分析結果報告書(甲59の1)は,縮分操作をしてばらつきを抑制しても,なお,構成要件Dを満たすものが含まれていることを示している。
〔被告の主張〕( ) 被告製品1-2のロット番号7FA,7FB,7HA,7HB,8AA, 18GA,8GB及び8GC,並びに,被告製品2-2のロット番号8HAについては,被告の依頼による島津テクノリサーチの測定分析結果報告書(乙,,) , (, 15の1 23の1 24 のみならず 原告従業員の実験報告書 甲5153)及び原告の依頼による島津テクノリサーチの測定分析結果報告書(甲59の1)においても,ほとんどの試料について細孔直径7.5〜15000nmの細孔容積は0.25mL/g以上の結果が出ており,構成要件Dを充足しないことは明らかである。
( ) なお,原告従業員の実験報告書(甲51,53)によれば,被告製品1- 22のロット番号8DA及び8FAと被告製品2-2のロット番号7GAについて,細孔直径7.5〜15000nmの細孔容積が0.25mL/g未満の結果が6回測定されたとされる。
しかしながら,被告が測定分析を依頼した島津テクノリサーチによる測定分析結果報告書(乙15の1,23の1,24)によれば,いずれも細孔直径7.5〜15000nmの細孔容積が0.25mL/g以上との測定結果となっており,これに反する原告が自社内部で行ったにすぎない分析結果は信用性が低い(下記( )参照 。4)( ) また,被告製品1-2のロット番号8DAについては,原告が島津テクノ 3リサーチに依頼した測定分析の結果報告書(甲59の1)において,1回だけ0.25mL/g未満の数値(0.2428)が測定されている。
もっとも,その試料であるロット番号8DAについては,同じ実験方法によって測定しているデータ9件のうち8件が0.25mL/g以上を示し,9件の平均値が0.2839であること,及びこの種の製品においては,完全な均一性を要求することは不可能であり,ばらつきが出ることはむしろ当然であることからすれば,たまたま生じた測定誤差の範囲内としか考えられない。
( ) 原告従業員の実験報告書は信頼性がないこと 4ア 原告は,縮分操作を行うと,試料が均一に混合されるため,原試料のば,, , らつきが大きくても 縮分操作後の試料は ばらつきが抑制されるとして縮分を行っていない原告従業員の実験報告書(甲51,53)の分析結果も,試料のばらつきを忠実に反映させた点で高い信頼性を有するなどと主張する。しかしながら,以下に述べるように,この原告の主張は誤りであり,縮分が行われていない同実験報告書は信頼性がない。
イ 縮分操作とは,試料を均一に混合する操作ではないこと本件発明における構成要件Dを充足するかどうかを測定するに際して,本件明細書【0029】に記載された測定装置(水銀ポロシメーター(例えば, 社製「 )による必要がある。 MICROMERITICS AUTOPORE 9200」)しかしながら,島津テクノリサーチの有する水銀ポロシメーター「島津-マイクロメリティックス社製オートポア9220形」において,測定試料を入れる標準セル(容積5cc)のステム容積は約0.4ccであり,,.。, その試料容量としては 被告製品では約0 4gが適切である そのため1回服用量が2gである被告製品においては,その母集団(2g)が測定操作上多すぎるため,全体を一括して測定することができない。
そこで,その量を標準セルに入れる適正量0.4gに減らす必要があるが,その減量に際して,その特性を維持し,母集団の平均組成を変えないように分析試料を作成する必要がある。
「分析の基礎技術 (乙31)に 「試料の縮分」につき 「主として固 」, ,体試料を取り扱う場合に,前述のようにして採取した試料は分析操作上多すぎるのでなるべく平均組成をかえないようにしてその量をへらさなければならない。この操作を縮分()という 」と記載されているとお reduction。
りである。
以上の操作を縮分というのであって,縮分が試料を均一に混合する旨の原告主張は誤りである。
ウ 縮分は,試料のばらつきを抑制するものではないことこのように,縮分操作は,原試料のばらつきを抑制するものではない。
母集団全体から直接の分析対象となる分析試料を適切に選択していかなければ,その全体の性質は明らかとならない。ここで 「試料」とは 「分 ,,析に提供されたもの,または分析対象となるものから採取し,母集団(バ)」, ルク の本質的性質を保持するような方法で選ばれた物質の部分 をいい「試料採取過程(サンプリング 」とは「大量物質から小部分の物質を抜 )き取り,その部分がどの点から見ても母集団(バルク)の特性をもつ代表となるように分析試料を作って行く,いく段もの過程」をいう。さらに,「縮分」とはこのサンプリングの一過程であり「二段試料(大口試料を一定の方式で分割して得た量の少ない試料)から一定の方式で試料の量を少なくし,分析試料にいたる過程」である。そして,この「縮分」を経て得られた「分析試料」は 「分析のために供せられる最終試料」であり 「分 ,,析試料は均一であるとみなされ,また分析の対象となる母集団の特性を保持している必要がある 」とされる(以上について,乙32 。 。)そして,この縮分のために用いる器械が「縮分器」である。例えば,試料縮分器の代表的メーカーである筒井理化学器械株式会社の試料縮分器のパンフレット(乙33)には 「粉粒体は移動や攪拌により,粒度,比重 ,差に基づく分離,偏析が起こるため,粉粒体製品の試験を行う時,試料の縮分を適切にしなければ信頼できる結果が得られません 」と記載してい 。
る。
エ 本件明細書には記載がないものの,縮分による試料作成が技術常識であること縮分による試料作成が技術常識であることを示す文献が多数存在する(乙31,32,34〜36 。)他方,本件明細書においては,縮分操作について言及されていない。しかしながら,前記技術常識に基づけば,適切なサンプリング操作である縮分を経た後の試料についての実験データが記載されているものと理解せざるを得ない。
本件発明の従来技術とされる「特公昭62-11611公報 (乙4) 」の7欄には 「一般にヒトを対象とする場合に経口投与量は1日当り1〜 ,5gを3〜4回に分けて服用し,更に症状によって適宜増減する。投与形態は散剤,顆粒,錠剤,糖衣錠,カプセル懸濁剤,乳剤等いずれも取り得る」と記載されており,炭素質吸着剤を構成する球形炭素質物質を1粒ずつ経口投与するのではなく,1〜20gを3〜4回に分けて服用することを前提としている。すなわち,1回当たり数百mg〜数gを経口投与するのであるから,球形吸着炭が集合体として機能し,その効果を奏することが当然の前提となっている。
そして,本件明細書においても,経口投与用吸着剤を1粒1粒単独で機能させるのではなく,前記従来技術を当然の前提とした上で(本件明細書【0035】参照 ,球状活性炭又は表面改質球状活性炭の集合体として )用いることが明確に記載されている。
例えば,本件明細書【0022】においては,本件発明の球状活性炭の直径は0.01〜1mmであり,その確認方法は,その範囲に対応するふるい通過百分率が90%以上であることとされており,球状活性炭の集合体を構成する各粒の直径にばらつきがあることを当然の前提としている。
また,本件明細書に実施例として記載されているものは,一定量の試料のまとまりをもってその作用効果を検証している。
さらに,細孔容積を水銀圧入法によって測定するとされていること自体が,細孔分布に関しては間接的な測定法であり,材料全体の平均的な情報を得るものである。特許庁が公開している標準技術集「2-1-1 有機高分子多孔質体の機能と物性/評価方法/多孔性 「2-1-1-2 細 」孔分布(Hg圧入法 (乙30)には,水銀圧入法は,細孔分布を間接 )」的に測定するものであり,材料全体の平均的な情報を得るための手法であることが記載されている。
このように,測定対象物質を入れる試料容器の容量に限りがある以上,集合体である試料の細孔分布を測定するために,適切なサンプリングをしなければ集合体全体の情報を的確に得ることができない。
そして,このサンプリング方法について,本件明細書には明示されていないのであるから,当業者の技術常識に従って判断せざるを得ないのであ。, , , ,. る 仮に このサンプリングについて いいかげんな方法 例えば 299gの中から適当に試料容器の容量に応ずる量だけ抜き取って測定したのであれば,その得られた数値はたまたまそのような数値であったというだけであり,その集合体の物性値を的確に表現しているとは到底いえない。
( ) 水による分離実験の誤り 5ア 原告は,被告製品につき水による分離実験(甲60の1)を行い,浮遊品と沈降品との混合物であると主張する。
しかしながら,水に浮くか沈むかというのは,活性炭の集合体から構成される被告製品において1粒1粒の活性炭の比重が1より大きいものと,小さいものが含まれているというだけのことであり,水による分離実験などというのは全く意味のないものである。
被告が行った実験(乙37)のように,溶液の比重を調整すれば,被告製品も原告製品も,すべて沈降品となったり,すべて浮遊品となったり,沈降品と浮遊品とに分離されたりする結果となるのであって,原告製品は比重1.7で浮遊品2割,沈降品8割に分離するのである。被告製品は,たまたま,比重1で分離したというだけである。
イ また,原告は,被告製品を水で分離した沈降品と浮遊品の細孔容積について測定した結果を主張している。しかしながら,いったん,水に浸したものを乾燥させたとしても微小な細孔構造が変化していることは十分に考えられるから,その測定結果は信頼性がないものである。
ウ 原告は 「全体としては,たまたま構成要件Dを充足しないような測定 ,結果が得られているものにすぎない」と主張する。
しかしながら 「たまたま」ではなく,構成要件Dを充足しないような ,測定結果が得られるように被告が仕様変更を行った必然の結果である。むしろ,全体として構成要件Dを充足しない測定結果が得られていることが重要なのである。
被告製品の医薬品としての用法・用量においては,1日6gを3回に分けて経口投与する。よって,その細孔直径7.5〜15000nmの細孔容積の値は,1回投与量2g(母集団)に対して,偏りがないようにサンプリングして測定されなければならない。原告の主張する測定方法は,サンプリングに関する技術常識を無視して,母集団をあえて2つに分けて,それぞれを試料とする偏ったサンプリングを行った結果であり,恣意的な測定といわざるを得ない。
3 争点3(本件特許は無効とされるべきものか)〔被告の主張〕( ) 無効理由?@(補正による新規事項の追加) 1ア 本件発明における構成要件Fは 「但し,式(1 :R=(I -I ) ,)15 35/(I -I ) (1 (中略)で求められる回折強度比(R値)が1. 24 35 )4以上である球状活性炭を除く」とするものであり,形式的には「除くクレーム」の形となっている。この構成要件Fは,本件特許出願に関する拒絶査定不服審判において,同日にされた特許出願(以下「別件特許出願」といい,この出願に係る特許を「別件特許」という。乙1の2の6)に係る発明と同一(特許法39条2項)である旨の平成18年3月13日付け拒絶理由通知(乙3の6)を回避するために,同年5月15日付け手続補正書(以下「本件補正」という。乙3の8)によって追加された事項である。
特許庁の審査基準の記載からすれば,?@たまたま先行技術と重複する場合において,?A先行技術とは技術思想が顕著に異なり,?B重複する部分を除外しても発明の本質的部分が残る場合(すなわち,除外した残りの部分に発明の本質的部分があり,依然としてそれが願書に添付した明細書等に記載した事項に裏付けられている場合)に限って,例外的に「除くクレーム」が許されると解すべきである。
本件特許出願と別件特許出願は,出願人が同一(原告)であり,しかも。, , その技術思想はほとんど同じであるさらに 重複する部分を除外すると本件発明の本質的部分は何も残らず,本件特許の出願に係る願書に最初に添付した明細書等(以下「本件当初明細書」という。乙2の2)には何も裏付けられていないことになるのであるから,本件補正は許されない。
イ 本件補正によって,新たな技術的事項が導入されたこと(ア) 構成要件Fは,R値が1.4以上である場合を除いている点で,本件補正前の発明に対し技術的意味での限定を加えており,換言すれば,本件補正後の発明は補正前の発明と比較してその技術的範囲が相違する。
(イ) 本件明細書には,R値に関する記載がない。R値という概念は一般的技術用語ではないから,R値に係る構成要件Fの追加により,どのような球状活性炭が除かれるのか,また何のために除くのかという技術的な意味を理解することはできないし,R値が1.4未満の球状活性炭をどのようにして製造するのかも不明である。さらに,単に特定の物質だけをその権利範囲から除外するという態様とは全く異なり,R値1.4以上という一定の範囲をすべて除外してしまうものであるから,除かれた後に残された球状活性炭が果たして発明の効果を奏するのか不明である。
,,,, しかも R値の計算根拠となる回折強度は その測定装置 測定条件補正の有無などによって様々な値が導かれる。そのため,どのような測定条件等によって得られた回折強度比(R値)かを明示しなければ,何,。, を除き 何を残したかという境界を確定することができない すなわちいかなる測定条件等を前提とした回折強度比(R値)かによってその技術的範囲が変化するのである。
そうすると,本件補正により,以上のような追加的説明が明細書に記載される必要があるのであって,そのような追加的説明を要すること自体,新たな技術的事項を導入することにほかならない。
(ウ) 本件補正により技術的範囲変更されたことは,本件明細書において実施例として記載されていた事項(後記( )イのとおり,本件明細書に 2記載されている実施例は,いずれもR値の記載はないものの,すべてR値1.4以上のものの実験結果である )のすべてが実施例でなくなっ 。
たことからも明らかである。
実施例とは,当該発明の実施の形態を具体的に示したものであり,発明の実施形態において特許出願人が当該発明を実施するために最良と思うものが記載されるのであるから,これが除外されたということは,請求項に係る発明の大きな部分を占めた部分が除外されたというべきであり,技術的範囲が大きく変更されたことになる。
しかも,原告は,出願経過において,本件補正により除外された実施例の選択吸着率が公知技術と比べて優れていることを根拠として本件発明の特許性を説明してきたのであるから,その意見書における説明自体を根底から覆すことになる。
本件補正によって,実施例のすべてが除外されたのであるから,実施例に裏付けられない発明となったのであり,新たな技術的事項が導入されたことが明らかである。
(エ) 原告は,本件補正に当たり,手続補足書(乙3の9)に沿えて実験成績証明書A及びBを提出し,回折強度比(R値 (それに関連する測定 )方法,測定条件なども記載されている )を含めた物性値の測定結果や 。
製造方法,効果などを説明している。
すなわち,R値1.4以上のものを除いた部分の本件発明による経口投与用吸着剤がその発明の効果を奏することが本件当初明細書に記載されていないことを原告が認めていたからこそ,前記実験成績証明書2通を提出して明細書の記載を追加したものである。
これは,本件補正によって,請求項に係る発明の成立性を裏付けるデータを示す必要性(従来の実施例を交換する必要性)が生じたこと,すなわち追加的説明が必要であることを端的に示すものであり,本件補正によって,新たな技術的事項が導入されたことを原告が自認したものにほかならない。
(オ) 原告は,別件特許に係る明細書においては,R値1.4以上のものでなければ目的とする作用効果が奏しないと強調して特許査定を経ており,その明細書には,従来公知の経口投与用表面改質球状活性炭のR値は1.4未満であり,1.4以上のものは見出されていなかったこと,.. . 本件特許出願人が1 4以上のものと14未満のものを比較すると14以上のものにつきβ-アミノイソ酪酸の吸着能が向上し,毒性物質の選択吸着性が向上することを見出したこと,その選択吸着性が向上したことを示す実施例として表1,2が記載されている。
しかるに,本件発明においては,本件補正によってR値が1.4以上のものを除くのであるから,R値が1.4未満のものでも,毒性物質の選択吸着性などが向上することが示されなければならない。
本件補正前の発明では,実際の技術思想よりも広いクレームで記載されていたため,R値には無関係に選択吸着性が向上するという技術思想のはずであった。
ところが,構成要件Fを追加することで,R値が1.4以上であることを必須条件とする別件特許出願に係る発明と矛盾する内容となってしまったため,なぜこれと同じ作用効果が奏するのかという点についての技術的疑問が発生することになり,それに対して技術的説明を加える必要が出てきた。もちろん,これに対して適当な理由を付けることはできるであろうが,このような説明をしなければならなくなったということは,本件当初明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項だけでは説明できない事項が発生したということであり,結局,本件補正によって,新たな技術的事項が導入されたということになる。
( ) 無効理由?A(明細書の記載不備()?構成要件Fに関して) 21ア 特許法36条4項1号違反(無効理由?A-1)本件明細書には,回折強度比(R値)に関する具体的な説明が一切存在せず,R値を求めるために必要な回折強度の測定方法,測定条件(試料の粉砕の程度や試料の厚さなど)についても一切記載されていない。また,特定のR値(1.4未満)を有する球状活性炭を得るための炭化条件などの製造条件についての説明も一切記載されていないから,本件発明を実施するためにR値が1.4未満の球状活性炭を製造することができない。原告は手続補足書とともに実験成績証明書2通を提出しており,この実験成績証明書による補足がなければ,R値1.4以上のものを除いたものが具体的には何も示されていないのである。
よって,本件明細書においては,本件発明を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
イ 特許法36条6項1号違反(無効理由?A-2)R値が1.4以上であることを要件とする別件特許の明細書(乙1の2の6)の記載と本件明細書の記載はほとんど同一であり,別件特許出願の明細書に記載された実施例1〜5と,本件明細書に記載された実施例1〜,,,,, 4及び参考例1とでは その比表面積 細孔容積 平均粒子径 全酸性基全塩基性基,α-アミラーゼ残存量,DL-β-アミノイソ酪酸残存量,選択吸着率が全く同じ値であり,同一物としか理解できない。
そして,別件特許の明細書の実施例1〜5のR値は,すべて1.4以上となっているから,本件明細書において実施例として具体的に開示されているもののR値はすべて1.4以上のものということになる。
すなわち,構成要件Fが追加された結果,本件明細書に実施例として開示されたものは本件発明の実施例ではなくなったのであり,そのため,本件明細書においては,特許を受けようとする発明が記載されていないことになっていることは明らかである。
ウ 特許法36条6項2号違反(無効理由?A-3)前記のとおり,回折強度は,試料の粉砕の程度などの試料の作成方法や試料の厚さなどの測定条件によって変動するものであり,およそ物質の特定において固定値を取り得ないものである。そして,本件明細書には,R値を求めるための必要な回折強度の測定方法についての記載は全くなく,また,本件特許出願時において,球状活性炭の回折強度の測定における試料作成方法や測定条件が技術常識として確立していたとはいえなかった。
,,. すなわち 本件明細書の記載や出願当時の技術常識からしても R値1,, 4以上を除くという要件により 具体的にどのような球状活性炭が含まれどのようなものが除かれるのかが分からず,本件発明は不明確であることは明らかである。
( ) 無効理由?B(明細書の記載不備()?構成要件Dに関して) 32ア 特許法36条4項1号違反(無効理由?B-1)本件明細書には,本件発明の実施例として記載されているのは 「フェ ,ノール樹脂を炭素源とした球状活性炭(実施例1,2)のみであり 「細 」,孔直径7.5〜15000nmの細孔容積0.04mL/gあるいは0.」, 。 06mL/g のものに限られ それ以外のものは一切記載されていないまた,本件明細書には,上記実施例のものを得る方法しか記載されておらず,細孔容積を0.25mL/g未満で0.06mL/gより大きくしたものや0.04mL/gよりも小さくしたものをどのようにして得ることができるのかについても,また,それらが本件発明の効果を奏するかについても全く記載されていない。
さらに,イオン交換樹脂を炭素源とした球状活性炭については,その細孔容積をどのようにして0.25mL/g未満にするかも,また,本件発明の効果を奏するかについても全く記載されていない。
よって,本件明細書においては,本件発明を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
イ 特許法36条6項1号違反(無効理由?B-2)前記のとおり,本件明細書には,本件発明の実施例として記載されているのは 「フェノール樹脂を炭素源とした球状活性炭 (実施例1,2) ,」のみであり 「細孔直径7.5〜15000nmの細孔容積0.04mL ,/gあるいは0.06mL/g」のものに限られ,それ以外のものは一切記載されていない。
すなわち,本件明細書においては,構成要件D(細孔直径7.5〜15000nmの細孔容積が0.25mL/g未満)で特定された球状活性炭のうち,わずかな範囲のものしか開示されていないのである。
よって,本件発明は,本件明細書において発明として記載していない範,, 囲についてまで特許を受けようとするものであり 本件明細書においては特許を受けようとする発明が記載されていないことは明らかである。
( ) 無効理由?C(進歩性の欠如) 4本件発明は,当業者が下記の公知文献(乙1の2の1〜5・7)に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,本件特許は無効とされるべきものである。
記?@ 特開平11-292770号公報(発明の名称「マトリックス形成亢進抑制剤 ,出願人 呉羽化学工業株式会社,公開日 平成11年10月 」26日,乙1の2の1。以下「公知文献1」という )。
(「 」 , ?A 特公昭61-1366号公報 発明の名称 球型活性炭の製造方法出願人 住友ベークライト株式会社,公開日 昭和58年12月12日,公告日 昭和61年1月16日,乙1の2の2。以下「公知文献2」という )。
?B 北川浩ほか「フェノール-ホルムアルデヒド樹脂の水蒸気賦活 (工 」業化学雑誌73巻10号2100〜2104頁,1970年〔昭和45年 ,乙1の2の3。以下「公知文献3」という ) 〕。
「」 (, ?C 北川浩 フェノール樹脂を原料とする活性炭の製造 日本化学会誌1972年〔昭和47年 ,No.6,1144〜1150頁,乙1の 〕2の4。以下「公知文献4」という )。
?D 特開2002-308785号公報(発明の名称「経口投与用吸着」,, , 剤 出願人 呉羽化学工業株式会社公開日 平成14年10月23日乙1の2の5。以下「公知文献5」という )。
?E 特開平7-165407号公報(発明の名称「イオン交換体から作られた活性炭小球体 ,出願人 ハッソ・フォン・ブリュッヒャーほか, 」公開日 平成7年6月27日,乙1の2の7。以下「公知文献6」という)。
ア 公知文献1記載の発明に,公知文献2又は公知文献3ないし5を組み合わせることにより 「フェノール樹脂を炭素源とする本件発明1」を容易 ,に想到し得たこと,「,. (ア) 公知文献1には 有機合成高分子を原料として製造され 直径が005〜2mmであり,比表面積が500〜2000?u/gであり,細孔半径100〜75000オングストローム(細孔直径20〜15000nm)の空隙量が0.01〜1ml/gである経口投与用の球形活性炭を有効成分とする,腎疾患の治療剤若しくは予防剤」の発明が記載されている。
(イ) 一致点公知文献1に記載された発明と「フェノール樹脂を炭素源とする本件発明1」とを対比すると,両者は,経口投与用の球状活性炭に関するものである点(構成要件E,G ,腎疾患の治療剤若しくは予防剤である )点(構成要件H)で,それぞれ共通し,球状活性炭の直径及び比表面積(構成要件B,C)において重複する。
(ウ) 相違点a 構成要件A「フェノール樹脂を炭素源とする本件発明1」は,球状活性炭の炭素源がフェノール樹脂に特定されているのに対し,公知文献1に記載された発明は,球状活性炭の炭素源が有機合成高分子という上位概念で特定されている点で一見相違する。
b 構成要件D本件発明1の球状活性炭は,細孔直径7.5〜15000nmの細孔容積が0.25mL/g未満(構成要件D)であると特定されているが,公知文献1に記載された発明の球状活性炭は細孔半径100〜75000オングストローム(細孔直径20〜15000nm)の空隙量が0.01〜1ml/gであると特定されている点で,文言上は相違する。
しかしながら,細孔直径7.5〜15000nmの細孔容積が0.25mL/g未満であれば,これよりも狭い範囲の細孔直径20〜15000nmの細孔容積は,必然的に0.25mL/g未満となる。
したがって,本件発明1の球状活性炭と公知文献1に記載された発明の球状活性炭とは,構成要件Dの点において重複するものであり,実質的な相違点とはいえない。
c 構成要件F本件発明1は 「R値が1.4以上の球状活性炭を除く (構成要 ,」件F)と特定されているが,公知文献1に記載された発明はこのような特定はない。
しかしながら,構成要件Fは,単に,別件特許出願との重複部分を除くために追加されたものであり,その特定自体に技術的な意義は見出せず,実質的な相違点とはいえない。
(エ) 構成要件Aの相違点に関する容易想到性下記の公知文献によれば,公知文献1に記載された発明においてフェノール樹脂を採用することは,当業者にとって容易に想到し得るものである。
a 公知文献2公知文献1では,有機合成高分子を炭素源とする球状活性炭の具体例として,公知文献2に記載の球状活性炭を引用している。そして,公知文献2には,フェノール樹脂を炭素源とする球型活性炭の製造例が具体的に示されている。
そうすると,公知文献1には,フェノール樹脂を炭素源とした球状活性炭を製造することが実質的に記載されているのであり,公知文献1に記載された発明において,公知文献2記載のフェノール樹脂を用いることは,当業者が容易に想到し得たものである。
b 公知文献3ないし5公知文献3及び4の記載によれば,フェノール樹脂を原料として活性炭を製造すれば,1000?u/g以上の比表面積が得られること,そして,細孔半径30オングストローム(細孔直径6nm)以下のミクロ孔が細孔の大部分を占める細孔構造となり,細孔半径が30オングストロームより大きい細孔の容積は,少なくとも0.1mL/g以下となることが理解される。
また,公知文献5には,細孔直径20〜15000nmの細孔容積が大きくなればなるほど有益物質の吸着が起こりやすくなるため,有益物質の吸着を少なくする観点からは,前記細孔容積は小さいほど好ましいと記載されている。
したがって,有益物質の吸着を少なくするために,公知文献1に記載された発明において,公知文献3及び4に記載されているようなフェノール樹脂を炭素源として用いることは,当業者であれば容易に想到し得たことである。
イ 公知文献1に記載された発明に,公知文献5及び6を組み合わせることにより 「イオン交換樹脂を炭素源とする本件発明1」が容易に想到し得 ,たこと(ア) 一致点公知文献1に記載された発明と「イオン交換樹脂を炭素源とする本件発明1」とを対比すると,両者は,経口投与用の球状活性炭に関するものである点(構成要件E,G ,腎疾患の治療剤若しくは予防剤である )点(構成要件H)で,それぞれ共通し,球状活性炭の直径及び比表面積(構成要件B,C)において重複する。
(イ) 相違点イオン交換樹脂を炭素源とする本件発明1では,球状活性炭の炭素源がイオン交換樹脂に特定されているのに対し,公知文献1に記載された発明では,球状活性炭の炭素源が有機合成高分子という上位概念で特定されている点で一見相違する(構成要件A。なお,構成要件D及びFの点について実質的な相違点とはいえないことは,前記ア(ウ)b及びcで述べたとおりである 。。)(ウ) 相違点に関する容易想到性公知文献6は,球状活性炭に関するものであり,イオン交換樹脂を炭素源として球状活性炭を製造することにより,細孔直径10〜30nmのメソポアを主体とする細孔構造が得られることが記載されていることから,ここに記載の球状活性炭も,細孔直径7.5〜15000nmの細孔容積が0.25mL/g未満である蓋然性が高い。
そして,公知文献5からは,有益物質の吸着量を低下させるためには細孔直径20〜15000nmの細孔容積が小さいほど好ましいことが理解される。
そうすると,有益物質の吸着量を低下させる目的で,細孔直径が小さい細孔を主体とする細孔構造を得るために,公知文献1に記載された発明において,公知文献6に記載されるようなイオン交換樹脂を炭素源として用いることは,当業者が容易に想到し得たことである。
ウ 本件発明2は,公知文献1に記載された発明に公知文献2ないし6を組み合わせることによって,当業者が容易に想到し得たものであること(ア) 本件発明2の構成要件AないしHに関しては,上記ア及びイで述べたことを引用する。
(イ) 公知文献1に記載された発明は,構成要件I「全塩基性基が0.40meq/g以上」に関する記載がない点においても本件発明2と相違する。しかしながら,この点に関しては,公知文献5に,球状活性炭の全塩基性基を0.20〜0.70meq/gとすることにより有毒物質の吸着能を向上させることが記載されている。
したがって,公知文献1に記載された発明において,有毒物質の吸着能を向上させるために,球状活性炭の全塩基性基を0.40meq/g,( ) 以上の範囲とすることは 公知文献5 及び公知文献2ないし4及び6の記載に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。
〔原告の主張〕( ) 無効理由?@(補正による新規事項の追加)について 1本件当初明細書に記載された本件発明の最大の特徴は,炭素源を出発材料として,従前用いられていたピッチに代えてフェノール樹脂又はイオン交換樹脂を使用して調製した経口投与用吸着剤が優れた選択吸着率を有することを見出した点にある。そして,本件補正は 「R値が1.4以上である球状 ,活性炭を除く」旨の補正であり,この補正は,同じ出願人により同日に出願された別件特許との重なりを解消するために,別件特許に係る発明として開示された「R値が1.4以上である球状活性炭」を除外するものであって,本件発明の技術情報とは無関係であり,何ら新たな技術事項を付加するものではない。
これを知的財産高等裁判所特別部平成20年5月30日判決の判断基準に照らすと,経口投与用吸着剤の炭素源(出発材料)として熱硬化性樹脂を使用したという本件当初明細書に記載された本件発明の最大の特徴は,本件補正後も全く同じであり,また,優れた選択吸着率を獲得するに至ったという本件当初明細書に記載された本件発明の効果もまた同じである。
したがって,本件補正は,本件当初明細書に開示された本件発明に関する技術事項に新たな技術事項を付加したものではなく,特許法17条の2第3項に違反するものでないことは明らかである。
( ) 無効理由?A(明細書の記載不備( )?構成要件Fに関して)について 21ア 特許法36条4項1号違反(無効理由?A-1)の主張について,, , 被告は 本件明細書に R値を求めるために必要な回折強度の測定方法測定条件についての記載がない旨を主張する。しかしながら,前記のとおり,反射式デフラクトメーター法を採用し,X線の線源としてCuKα線を用いることは当業者にとって自明のことであり,その他の測定条件は,当業者に委ねられるものの,その条件によってR値が変化することはないので,回折強度の測定方法,測定条件について記載がないことは何ら問題とならない。
また,被告は,本件明細書に,特定のR値を有する球状活性炭を得るための製造条件についての説明が記載されていないとも主張する。しかしながら,活性炭において1.4付近のR値は,本件特許の出願時の常法に沿って製造された活性炭が普通に有している物性値であり,R値が1.4未満の活性炭を製造するために,R値が1.4以上の活性炭の製造方法とは基本的に異なる特別の技法を必要とするものではない。そもそも,構成要件Fは,別件特許出願との重複部分を除外するための除くクレームであって,何ら技術的な意義を有するものではないのであるから,特許法36条4項1号違反の問題は生じない。
さらに,被告は,実験成績証明書を実施可能要件に関する不備を補うために提出したかのごとく主張する。しかしながら,実験成績証明書は,除くクレームにより,請求項に係る発明に包含される一部の事項のみを当該請求項に記載した事項から除外したものであることを具体的に実験結果を示すことにより明らかにしたものであって,その実験に用いた原料,処理手段等のいずれも本件当初明細書の記載の範囲内のものであった。
イ 特許法36条6項1号違反(無効理由?A-2)の主張について被告は,手続補正の結果,本件明細書に具体的な実施例として開示されていたものがすべて本件発明の実施例ではなくなってしまったと主張する。
しかしながら,本件発明の場合,構成要件Fは,本件発明の技術的思想として1つのまとまりのある概念として把握される発明につき,権利請求部分と権利放棄部分との境界を定めるものにすぎないから,本件当初明細書の発明の詳細な説明の欄の記載によって,1つのまとまりのある概念として把握される発明につき,全体として本件当初明細書に開示ないし公開されているのである。
そして,活性炭において,1.4付近のR値は,本件特許の出願時の常,. 法に沿って製造された活性炭が普通に有している物性値であり R値が14未満の活性炭を製造するために,R値が1.4以上の活性炭の製造方法とは基本的に異なる特別の技法を必要とするものではない。
,. , そうすると 実施例がたまたまR値1 4以上のものに属するとはいえ当該部分は,技術的思想として1つのまとまりのある概念として把握される発明領域に含まれるものであって,当業者がこれら実施例を含む明細書の発明の詳細な説明の欄を参酌すれば,この領域に含まれるR値1.4未,, 満の部分についても 所望の結果が得られるものと認識し得るのであってサポート要件が満足されていることは明らかである。
ウ 特許法36条6項2号違反(無効理由?A-3)の主張について被告は,本件明細書にR値についての具体的な説明がないと主張する。
しかしながら,R値は,本件特許の請求項1において明確に定義されており,当業者は,R値の定義を明確に理解することができる。
また,被告は,本件明細書に回折強度の測定方法の記載がないこと,R値が変動するものであり固有値を取り得ないものであること,試料の作成方法や測定条件は本件特許出願時の技術常識ではなかったことを主張する。しかしながら,これらの主張に理由がないことは,前記のとおりである。
( ) 無効理由?B(明細書の記載不備( )?構成要件Dに関して)について 32ア 被告は,本件明細書に実施例として記載されているのは,フェノール樹脂を炭素源とした球状活性炭のみであり,細孔直径7.5〜15000nmの細孔容積0.04mL/gあるいは0.06mL/gのものに限られることが特許法36条4項1号,同条6項1号に違反すると主張する。
イ しかしながら,細孔直径7.5〜15000nmの細孔容積の制御は,本件当初明細書の記載及び本件特許の出願時の技術常識に基づいて,当業者が容易に実施することのできるものである。
すなわち,細孔直径7.5〜15000nmの細孔は,メソ孔又はマクロ孔と呼ばれる細孔であり,これらの細孔の容積は,本件特許の出願当時(, の技術常識に基づいて容易に制御することができる 甲18の2の1〜4乙1の2の3・4 。)なお,イオン交換樹脂を炭素源として使用する場合に関しては,本件明細書の参考例1において,細孔容積が0.42mL/gの場合の例が記載されており,さらに前記の実験成績証明書Aにおいて,0.0891mL/gの場合の例が記載されており,フェノール樹脂の場合と同様に,細孔容積が制御可能であることが分かる。
さらに,細孔直径7.5〜15000nmの細孔容積を制御することが容易であることを具体的なデータによって示したものが,2007年(平成19年)8月10日付け実験成績証明書(甲18の2の5)である。これが示すように,参考例1において,フェノール樹脂を炭素源として球状活性炭を調製し,得られた球状活性炭について各種の物性を測定した。その結果,得られた球状活性炭は,細孔直径7.5〜15000nmの細孔容積が0.08mL/gのものであり,その他,本件特許の請求項1で規定する直径及びラングミュアの吸着式により求められる比表面積の要件をそれぞれ満足していた。また,R値は1.34(1.4未満)であり,選択吸着率は2.9であった。
以上のように,細孔直径7.5〜15000nmの細孔容積は,本件明細書の記載及び本件特許の出願時の常法を利用して種々に制御することが可能であり,細孔直径7.5〜15000nmの細孔容積が例えば0.08mL/gである球状活性炭は,当業者が常法に従って製造することが可能であり,特許法36条4項1号に違反しない。
ウ 以上のように,細孔直径7.5〜15000nmの細孔容積の制御は,本件当初明細書の記載及び本件特許の出願時の技術常識に基づいて当業者が容易に実施することができるものであるから,本件明細書には,本件発明が記載されていることは明らかである。したがって,特許法36条6項1号違反も存在しない。
( ) 無効理由?C(進歩性の欠如)について 4ア フェノール樹脂を炭素源とする本件発明1について,公知文献1に記載された発明と公知文献2とを組み合わせることによる容易想到性の主張について(ア) 確かに,公知文献1においては,活性炭を有効成分とする腎臓等の疾患の治療又は予防剤が開示されている。そして,球状活性炭の原料として 「オガ屑,石炭,ヤシ殻,石油系若しくは石炭系の各種ピッチ類又 ,は有機合成高分子」の6種が列挙されている。
しかしながら,これらの原料は,一般的な活性炭の原料である上に,本件特許の出願前に多孔性球状炭素質物質からなる経口投与用吸着剤としては,ピッチを原料とする吸着剤のみが実施されていたこと,及び公知文献1の実施例が石油系ピッチのみである事実を考慮すると,それ以外の列挙された原料は,経口投与用吸着剤としての適用可能性を全く考慮せず,また,医療用としての適性も無視して,吸着剤としての広範な用途に対する一般的な活性炭の原料を単に列挙したものにすぎないことは,当業者に自明である。
公知文献1で球状活性炭の原料として有機合成高分子が列挙されてい,, るからといって それが医療用としての吸着適性を実際に備えているかさらには経口投与用吸着剤としての適性を実際に備えているかについては,当業者といえども,全く予測することができないものである。
さらに,本件発明では,単なる吸着特性のみでなく,適切な選択吸着性能を示すこと,また,酸化及び還元処理の実施前であっても優れた吸着特性を示すことが重要な作用効果とされており,上記有機合成高分子を原料とする球状活性炭がこのような特性を示すか否かは,当業者といえども,予測することができないことであった。
したがって,公知文献1から,本件発明である有機合成高分子を炭素源とする球状活性炭からなる経口投与用吸着剤に想到することは,当業者といえども決して容易なことではない。
(イ) 原告は,公知文献1の記載から球状活性炭の原料として公知文献2に記載のフェノール樹脂を用いることは,当業者が容易に想到し得たことであると主張する。
しかしながら,公知文献1において,フェノール樹脂の上位概念である有機合成高分子は,6つの選択肢の1つにすぎず,しかも,有機合成高分子は,その選択肢の中でも選択される動機付けが低いものである。
また,公知文献2において,確かにフェノール樹脂が記載されているものの,これも14種類の樹脂のうちの1つの選択肢として記載されているにすぎない。
イ フェノール樹脂を炭素源とする本件発明1について,公知文献1に記載された発明と公知文献3ないし5とを組み合わせることによる容易想到性の主張について(ア) 公知文献3は,吸着剤として一般に使用される活性炭に関するものであり,特別な用途に使用する活性炭に関するものではなく,医療用の活性炭や,経口投与用吸着剤として使用する活性炭については,全く開示がなく,それを示唆する記載もない。
また,公知文献3は,粉砕活性炭に関するものであるところ,このような粉砕活性炭の物性値を,本件発明で用いる球状活性炭の物性値と比。, , 較することは無意味である なぜなら 本件発明で用いる球状活性炭は球状であることが効果との関係で重要な意味を有しているからである。
(イ) 公知文献4は,廃棄物としてのフェノール樹脂を活性炭の原料として使用することを視野に入れた研究報告であり,その用途は,市販の水処理用活性炭を挙げている程度であり,同文献中には医療用の活性炭や,経口投与用吸着剤として使用する活性炭については全く開示がなく,示唆もない。
また,公知文献4に記載されている活性炭も,粉砕活性炭であり,球状活性炭に関する記載はない。
(ウ) 公知文献5は,原告の先行特許に関するものであるが,これはピッチを炭素源とする球状活性炭に関するものであり,本件発明のフェノール樹脂を炭素源として製造した球状活性炭については開示も示唆もない。
ウ イオン交換樹脂を炭素源とする本件発明1について,公知文献1に記載された発明と公知文献5及び6とを組み合わせることによる容易想到性の主張について公知文献6は,一般的な吸着剤として使用される活性炭に関するものであり,医療用,特に経口投与用吸着剤として使用する活性炭については開示も示唆もない。
エ 本件発明2について,公知文献1に記載された発明と公知文献2ないし6とを組み合わせることによる容易想到性の主張について,,, 本件発明2に係る請求項2は 請求項1の従属項であり 前記のとおり本件発明1が進歩性を有するのであるから,本件発明2も当然に進歩性を有している。
4 争点4(今後,構成要件Dを充足する被告製品が製造,販売される可能性が高いか(本件特許権の侵害のおそれの有無 ))〔原告の主張〕,, 仕様変更後被告製品の少なくとも一部の製品は 構成要件Dを充足しており今後も,構成要件Dを充足する製品が製造,販売される可能性が高い。
( ) 前記のとおり,縮分操作を経ない原告従業員作成の実験報告書(甲51, 153)では,合計36件の測定値が得られ,測定値は0.193〜0.45,. 。, 7の範囲に分布し 6件の細孔容積が025mL/g未満であった また(, 縮分操作を経た島津テクノリサーチによる測定分析結果報告書 乙15の123の1,24,甲59の1)では,合計85件の測定値が得られ,測定値は0.2428〜0.3846の範囲に分布し,1件の細孔容積が0.25mL/g未満であった。
縮分操作を経た分析試料は,どの点から見ても母集団の特性を持つ代表となる(乙32の468頁)のであるから,少なくとも,縮分操作を経て,細孔容積が0.25mL/g未満の測定値(0.2428)が得られた被告製品1-2のロット番号8DAに,構成要件Dを充足する製品が含まれていることは疑う余地がない。
( ) これに対し,被告は,ロット番号8DAにおける細孔容積が0.25mL 2/g未満の測定値(0.2428)につき,たまたま生じた測定誤差の範囲内であると主張する。
,, しかしながら ロット番号8DAについての縮分操作を経た測定値9件は0.2428の測定値を除いたとしても,0.2587〜0.3478という広い範囲に分布しており,このような大きなばらつきを示していることからすれば,細孔容積が0.25mL/g未満である製品が含まれていたとしても何ら不自然ではない。このような大きなばらつきの中に0.2428という測定値を置いてみれば,その測定値が決して誤差ではなく,信用することができるものであることは明らかである。
( ) また,被告製品1-2のロット番号8FAについては,縮分操作を経ない 3で,細孔容積が0.25mL/g未満の測定値(0.209)が得られている。縮分操作を経た測定結果は,0.2572〜0.2937という,0.25に近い範囲で分布しており,縮分操作を経ない測定値として0.209の他に0.251という測定値が得られていることからすれば,細孔容積が0.25mL/g未満である製品が含まれている可能性は相当程度高いと考えられる。
( ) さらに,被告製品2-2のロット番号7GAについては,縮分操作を経な 4,, . (., いで 5件中3件 細孔容積が025mL/g未満の測定値 0 193.,.) 。 , 0 229 0 234 が得られている 縮分操作を経た測定値としては0.2625〜0.3175という幅のある測定値が得られており,縮分操作を経ない測定値のうち,細孔容積が0.25mL/g未満となった測定値の割合が高い(60%)ことからすれば,細孔容積が0.25mL/g未満である製品が含まれている可能性は相当程度高いと考えられる。
( ) これらは,限られたサンプルの測定結果から,代表的なものを取り出した 5ものであるが,このように限られたサンプルについての縮分操作を経た測定結果ですら,細孔容積が0.25mL/g未満の測定値(0.2428)が得られ,かつ,0.2428〜0.3846と相当幅の広い範囲に分布していることからすれば,被告は,細孔容積をコントロールする意思がないか,あるいは,コントロールする製造能力がないかのいずれかであるといわざる。,, , . を得ない 現実に 製造 販売されている被告製品の中には 細孔容積が025mL/g未満の製品が多数存在していることが容易に推認される。
このことに加え,被告が仕様変更の具体的内容を明らかにしていないことも併せて考慮すれば,被告が今後,仕様変更を元に戻し,構成要件Dを充足する被告製品を製造,販売する可能性は高いといわざるを得ない。
( ) 前記のとおり,仕様変更後被告製品も構成要件Dを充足するので,仕様変 6(() 更前及び仕様変更後の被告製品のいずれについても 別紙被告製品目録 甲), , で特定される被告製品 その製造 販売の差止めが認められるべきであるが仮に,仕様変更後被告製品が構成要件Dを充足しないとしても,上記のとおり,仕様変更前の被告製品の製造,販売を再開する可能性は高く,また,既に全部が販売されて在庫が存在しない点について立証がないのであるから,その差止めが認められるべきであり,別紙被告製品目録(乙)で特定される被告製品(同目録記載1(1)及び2(1)のロット番号で特定されるものは仕様変更前被告製品の在庫であり,同目録記載1(2)及び2(2)は,今後,仕様を戻して製造されるおそれのある被告製品を指す )の製造,販 。
売の差止めを予備的に請求する。
〔被告の主張〕,, ( ) 原告は 仕様変更後被告製品が侵害品と非侵害品の混合物であると主張し 1被告が被告製品の製造をコントロールすることができていないか,又は意図的に混合しているのであり,いずれ仕様変更前被告製品に戻る可能性を否定することはできないなどと主張する。
しかしながら,特定細孔直径の細孔容積を制御することは当業者において適宜なし得る事項であり(乙28添付の審決書43頁参照 ,被告もそのよ )うにして制御して0.25mL/g以上になるように意図的に仕様変更した。, 。, ものである 原告は 仕様変更後被告製品を混合品などと主張する しかし非侵害品と侵害品をわざわざ作成してそれを混合するなどというのは,原告の誤った仮定に基づくものである。
( ) 原告は,仕様変更前被告製品について差止請求を認容すべきと主張する。 2しかしながら,被告は,被告製品1-1については平成19年4月,被告製品2-1については平成18年6月を最後に製造を中止し,販売については平成20年3月に完了しており,それ以降は,製造販売を完全に中止している。
( ) 原告は,既に全部が販売されて在庫が存在しない点について立証がないと 3主張する。しかしながら,被告は,仕様変更後被告製品を現に製造販売しており,仕様変更前被告製品をあえて製造販売する必要性のないことは明らかである。
,() ,() また 被告製品の使用期限は3年であり甲5 別紙被告製品目録 乙記載1(1)の各ロット番号が付されたものは,既に使用期限が到来しているか,間もなく使用期限が到来するものであり,在庫品が存在していたとしても,廃棄処分をせざるを得ないのであるから,販売の差止めの必要性はない。
(() ) 5 争点5 補正後の発明の内容を通知する必要があるか 補償金請求に関し〔原告の主張〕,, ( ) 原告は 本件特許に係る出願が国際公開された後の平成16年6月14日 1被告に対して,発明の内容を記載した通知書(本件通知書)を発送し,本件通知書は,同年6月15日に被告に到達した。被告は,その後の平成16年9月に被告製品の製造,販売を開始し,現在に至るまで継続しているため,原告は 被告に対し 本件通知書の到達日以降 本件特許権の設定登録日 平 ,, , (), 成18年8月4日 の前日までに被告によって販売された被告製品について特許法184条の10第1項に基づく補償金支払請求権を有する。
,, ( ) 被告は 原告が被告に送付した本件通知書に記載された特許出願の内容が 2本件発明の内容と異なるとして,補償金請求の要件を欠くと主張する。
特許出願人が出願公開後に第三者に対して特許出願に係る発明の内容を記載した書面を提示して警告をするなどして,第三者が上記出願公開がされた特許出願に係る発明の内容を知った後に,補正によって特許請求の範囲が補正された場合において,その補正が元の特許請求の範囲拡張,変更するものであって,第三者の実施している物品が補正前の特許請求の範囲の記載によれば発明の技術的範囲に属しなかったのに,補正後の特許請求の範囲の記載によれば発明の技術的範囲に属することとなったときは,出願人が第三者に対して特許法65条又は184条の10に基づく補償金支払請求をするためには,上記補正後に改めて出願人が第三者に対して所定の警告をするなどして,第三者が補正後の特許請求の範囲の内容を知ることを要する。これに対し,その補正が,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において補正前の特許請求の範囲減縮するものであって,第三者の実施している物品が補正の前後を通じて発明の技術的範囲に属するときは,上記補正の後に再度の警告等により第三者が補正後の特許請求の範囲の内容を知ることを要しないと解される(最高裁昭和63年7月19日第三小法廷判決・民集42巻6号489頁参照 。)これを本件についてみると,原告が行った特許法184条の10所定の警告(本件通知書)において記載した国際特許出願に係る特許請求の範囲は,以下のとおりである(下記請求項4のうち請求項1を引用する発明を「本件原発明4-1」といい,請求項2を引用する発明を「本件原発明4-2」といい,これらをまとめて「本件原発明」という 。。)【請求項1】,. , 熱硬化性樹脂を炭素源として製造され 直径が0 01〜1mmでありそしてラングミュアの吸着式により求められる比表面積が1000?u/g以上である球状活性炭からなることを特徴とする,経口投与用吸着剤。
【請求項2】全塩基性基が0.40meq/g以上の球状活性炭からなる請求項1に記載の経口投与用吸着剤。
【請求項4】請求項1〜3のいずれか一項に記載の経口投与用吸着剤を有効成分とする,腎疾患治療又は予防剤。
本件原発明を構成要件に分説し,本件発明の構成要件と対比すると下記の表のとおりである。
本件発明1 本件原発明4-1A フェノール樹脂又はイオン交換A’熱硬化性樹脂を炭素源として製樹脂を炭素源として製造され, 造され,.,., B 直径が0 01〜1mmであり B 直径が0 01〜1mmでありC ラングミュアの吸着式により求C ラングミュアの吸着式により求められる比表面積が1000?u/gめられる比表面積が1000?u/g以上であり,そして 以上であるD 細孔直径7.5〜15000n ?mの細孔容積が0.25mL/g未満であるE 球状活性炭からなるが, E 球状活性炭からなることを特徴とする,F 但し,式(1 :R=(I - ? ) 15I )/(I -I ) (1) 35 24 35〔式中,I は,X線回折法による 15回折角(2θ)が15°における回折強度であり,I は,X線回折法35による回折角(2θ)が35°における回折強度であり,I は,X線24回折法による回折角(2θ)が24°における回折強度である〕で求められる回折強度比(R値)が., 1 4以上である球状活性炭を除くことを特徴とする,G 経口投与用吸着剤を有効成分とG 経口投与用吸着剤を有効成分とする, する,H 腎疾患治療又は予防剤 H 腎疾患治療又は予防剤本件発明2 本件原発明4-2A フェノール樹脂又はイオン交換A’熱硬化性樹脂を炭素源として製樹脂を炭素源として製造され, 造され,.,., B 直径が0 01〜1mmであり B 直径が0 01〜1mmでありC ラングミュアの吸着式により求C ラングミュアの吸着式により求められる比表面積が1000?u/gめられる比表面積が1000?u/g以上であり,そして 以上でありD 細孔直径7.5〜15000n ?mの細孔容積が0.25mL/g未満でありI 全塩基性基が0.40meq/I 全塩基性基が0.40meq/g以上の g以上のE 球状活性炭からなるが, E 球状活性炭からなることを特徴とする,F 但し,式(1 :R=(I - ? ) 15I )/(I -I ) (1) 35 24 35〔式中,I は,X線回折法による 15回折角(2θ)が15°における回折強度であり,I は,X線回折法35による回折角(2θ)が35°における回折強度であり,I は,X線24回折法による回折角(2θ)が24°における回折強度である〕で求められる回折強度比(R値)が., 1 4以上である球状活性炭を除くことを特徴とする,, G 経口投与用吸着剤を有効成分と G 経口投与用吸着剤を成分とするする,H 腎疾患治療又は予防剤 H 腎疾患治療又は予防剤上の表のとおり,本件原発明は,本件発明と構成要件Aにおいて異なり,構成要件D及びFを欠くものである。そして,本件原発明の構成要件A’中の 熱硬化性樹脂 については 本件原発明の国際特許出願に係る明細書 乙 「」, (2の2)において 「出発材料として用いる前記の熱硬化性樹脂として,具 ,体的には,フェノール樹脂(中略)を用いることができる (7頁15行 。」目 「また,前記の熱硬化性樹脂として,イオン交換樹脂を用いることも ),できる (7頁22行目)と記載されているから,本件発明の構成要件A 。」は,本件原発明の構成要件A’を願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内において減縮したものである。
,, ’, このように 原告が行った補正は 本件原発明の構成要件A を減縮して本件発明の構成要件Aとし,構成要件D及びFによる限定を加えたものであり,補正前の特許請求の範囲を願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内において減縮するものである。そして,被告製品が本件発明の各構成要件を充足するのと同一の理由により,被告製品は,本件原発明の各構成要件を充足し,本件原発明の技術的範囲に属するのであって,補正の前後を通じて発明の技術的範囲に属するものである。
( ) したがって,原告が本件補償金請求権を行使するためには,補正の後に再 3度の警告等により被告において補正後の特許請求の範囲の内容を知ることを要しないことは,最高裁判例により明らかである。
〔被告の主張〕(。) 被告が原告から平成16年6月14日付け通知書 甲11の1 本件通知書の送付を受けたことは認める。
しかしながら,本件通知書の受領後に,数度の補正を経た平成18年6月16日付け手続補正書(乙3の11)によって,現在の本件発明の内容に変更されている。そして,原告は,前記補正によって変更された本件発明について,被告に通知していないため,補償金支払請求の要件を欠いている。
6 争点6(補償金の額)〔原告の主張〕平成16年9月から本件特許権の設定登録日の前日である平成18年8月3日までの被告製品の販売高は2795万8285円と推定される。
,,。 また 被告製品に係る本件特許権の実施料率は 販売価格の5%を下らないよって,特許法184条の10第1項に基づく補償金の額は139万7914円となる。
〔被告の主張〕平成16年9月から平成18年8月3日までの被告製品の販売高が2795万8285円であるとの原告の主張は争う。この期間の被告製品の売上高は,合計1891万5000円である。
被告製品に係る本件特許権の実施料率が販売価格の5%を下らない旨の主張は争う。
7 争点7(不法行為に基づく損害賠償の額)〔原告の主張〕( ) 特許法102条2項が適用されるべきであること 1ア 原告は,本件発明の実施品を製造・販売していない。しかしながら,原告は,平成3年12月からクレメジンカプセル200を,平成12年7月(, 「 」 。 ), からクレメジン細粒 以下 これらをまとめて 原告製品 という をそれぞれ現在に至るまで製造販売しており,これらの原告製品は,被告製品の競合品であるから,特許法102条2項(損害額の推定)が適用されるべきである。
イ 権利者が自ら権利者製品の製造・販売を全く行っていない場合には,逸失利益は発生していないから,特許法102条2項は適用されない。これに対し,権利者が特許発明実施品とはいえないものの,侵害品の競合品を製造・販売している場合に,同項が適用されるかどうかについては,学,。 説は分かれており 先例となるべき裁判例もあるとは言い難い状況であるもっとも,下記のとおり,本件においては,被告らによる被告製品の製造・販売がなければ,原告は,その分,原告製品を製造・販売することができたのであり,逸失利益相当の損害が発生したことは明らかである。
,, , すなわち 原告製品及び被告製品はいずれも医療用医薬品であるから市場における需要が所与のものとして一定程度存在しており,同種の製品が登場したからといって市場が拡大するわけではない。さらに,原告製品及び被告製品は,先発医薬品と後発医薬品の関係にある。このような状況において,被告らは,原告製品の後発医薬品であると称して被告製品を製造・販売しているのであるから,原告製品と被告製品は市場を完全に奪い合う関係にある。現実に医師により経口投与用吸着剤が処方される場合に,, おいて 仮に後発医薬品と称する被告製品が存在しなかったからといって何も処方しないという選択肢はあり得ない。そうすると,原告製品と被告製品は医療用医薬品市場において完全に競合していることは明らかであり,後発医薬品と称する被告らによる被告製品の製造・販売によって,先発医薬品である原告製品の製造・販売が減少し,原告製品の製造・販売に,。, よって得られたはずの利益が失われたことは 疑う余地がない すなわち特許法102条2項の基礎にある,侵害者が侵害品の販売等により一定額の利益を上げている場合には,権利者も同額の利益を上げられたはずであるという経験則が,本件事案では認められるのである。
ウ 現実には,特許を利用した事業戦略として,構成要件の一部を異にする複数の特許出願を行い,又は,構成要件の一部を異にする複数のクレームを設定した特許出願を行うなどの方法により,一定の範囲の技術に関して特許権を取得するものの,取得した特許権のすべてに係る発明を実施するのではなく,その一部についてのみ実施することは,通常の特許戦略であ。, , , る 特に 医療用医薬品に関する特許の場合には 関連する複数の特許権複数のクレームに応じてそれぞれ臨床試験を行った上で医薬品製造承認申請を行い,それぞれに対応した医療用医薬品の製造承認を得て製造・販売を行うことは考えられない。それにもかかわらず,そのような非現実的な行動をとらなければ,権利者が実際に選択した医療用医薬品に対応する特許権又はクレーム以外の特許権又はクレームについては特許法102条2項の適用を受けられないとすると,侵害者を不当に利する結果となり,発明の保護が到底図れないことは明らかである。
( ) 損害の額について 2ア 被告が受けた利益の額市場動向等によれば,被告製品の売上高は,平成18年8月4日から同年12月31日までの間については3000万円を,平成19年1月1日から同年12月31日までの間については1億7500万円を,平成20年1月1日から同年10月31日までの間については1億8600万円をそれぞれ下らないものと推認される。
そうすると,平成18年8月4日から平成20年10月31日までの間の被告製品の売上高は,3億9100万円を下らない。
上記被告製品の売上高に占める被告の利益の額の割合は,被告の親会社に当たる日医工株式会社の第44期(平成19年12月1日から平成20年11月30日まで)有価証券報告書に記載された連結損益計算書(甲61)には,売上総利益の売上高に占める割合が48.3%である旨の記載があることからすれば,30%を下らないものと推認される。
そうすると,被告の侵害行為により,被告が受けた利益の額は,下記の計算式のとおり,1億1730万円を下らない。
(計算式)3億9100万円 × 0.3 = 1億1730万円イ 弁護士等費用原告は,被告による本件特許権侵害行為のため,本件訴訟の提起を余儀なくされた。本件事案の内容,性質,被告による訴訟追行の状況等にかんがみれば,本件特許権侵害行為の差止め,被告製品の廃棄及び損害賠償を得るために原告が要した弁護士等費用のうち,本件特許権侵害行為と相当因果関係のある損害は,1173万円を下らない。
損害額合計したがって,被告は,原告に対し,民法709条に基づき,1億2903万円の損害賠償義務を負う。
( ) 経費に関する被告の主張については,いずれも争う。 3被告が控除すべきであるとする中間体加工賃,篩化加工賃及び充填包装加工賃の「賃」という用語が,人件費を含むものとして用いられているとすれば,人件費に該当する部分は,被告が被告製品を販売しなかった場合に支払を免れた性質のものとは認められず,これを被告製品の売上のために追加的に要した費用として控除することはできないというべきである。
また,販売管理費や開発費を控除すべきとする主張についても,それらの費目が製造又は販売に直接必要な変動費,個別固定費に該当することについ,。 ては何ら主張立証されておらず 控除することはできないというべきである( ) 寄与度考慮による減額に関する被告の主張について 4寄与度考慮による減額が認められるのは,侵害品全体の販売利益を権利者の損害と推定して,権利者にその権利行使を認めることは,権利者に過大な保護を与えることになって相当ではないからである。すなわち,特許法102条2項において 「侵害者がその侵害の行為により一定額の利益を受けて ,いること」が推定の前提とされたのは,侵害者が侵害品の販売等により一定額の利益を上げている場合には,権利者も同額の利益を上げられたはずであるという経験則が存在するとされていることによるものであり,寄与度減額すべき場合とは,侵害者の侵害行為がなかったとすれば,権利者が侵害品の製造販売数量と同数の権利者製品を製造販売することができていたとはいえず,上記経験則がそのまま妥当するとはいえない場合である。
,, , 本件では 原告製品と被告製品は 先発医薬品と後発医薬品の関係にあり後発医薬品と称する被告製品の製造販売によって,先発医薬品である原告製品の製造販売が減少し,原告製品の製造販売によって得られるはずの利益が失われたことは疑う余地がなく,上記経験則がそのまま妥当することは明らかである。
〔被告の主張〕( ) 特許法102条2項が適用されないこと 1ア 原告は,本件発明の実施をしていないから,被告の行為によって本件発明の実施を妨げられたことにより被る損害が原告に発生することはあり得ない。
よって,本件では,特許法102条2項が適用される余地はない。
イ 原告は,原告製品と被告製品が競合品であることを前提として主張しているが,両者は競合品ではなく,先発医薬品と後発医薬品として互いに棲み分けているものである。仮に,競合品であれば,薬価の低い被告製品が原告製品の販売を席捲するはずであるが,現実は全く異なる。一般に後発医薬品に対する評価は未だ確定しているとはいえず,後発医薬品の値段が安いと分かっていても,あえて値段の高い先発医薬品を選択する医師,患者も少なくない。そのため,被告製品の市場全体におけるシェアは1%程度しかない。
つまり,価格面の長所だけでは割り切れない別の要素を考慮して,先発医薬品が選択されているのであり,すなわち,原告製品と被告製品は市場において競合していないということである。
( ) 仕様変更前被告製品の製造販売によって被告が得た利益 2ア 被告製品1-1については,1包は2gで,1箱は84包であるので,1箱は168gであるところ,薬価は,1g当たり106.2円,仕切値,, 。 は薬価の80%であるから 1箱当たりの売価は 1万4273円であるまた,出荷数は,9896箱である。
そして,1箱当たり,原材料費,加工費(中間体加工賃,篩化加工賃及び充填包装加工賃)及び試験費として合計5895円,販売管理費として3854円の経費がかかっており,これらの経費を売上から控除すべきである。
そうすると,被告が被告製品1-1の販売によって得た利益は,下記計算式のとおり,4476万9000円(千円未満切捨て)となる。
(計算式)( 万 円- 円- 円)× 箱= 万 円 1 4273 5895 3854 9896 4476 9504イ 被告製品2-1については,1箱は588カプセルであり,薬価は,1カプセル当たり30.5円,仕切値は薬価の80%であるから,1箱当たりの売価は,1万4347円である。また,出荷数は1411箱である。
そして,1箱当たり,原材料費,加工費(中間体加工賃,篩化加工賃及び充填包装加工賃)及び試験費として合計8562円,販売管理費として3874円の経費がかかっており,これらの経費を売上から控除すべきである。
そうすると,被告が被告製品2-1の販売によって得た利益は,下記計算式のとおり,269万6000円(千円未満切捨て)となる。
(計算式)( 万 円- 円- 円)× 箱= 万 円 1 4347 8562 3874 1411 269 6421ウ 開発費の控除について被告製品は,原告製品と同等な後発医薬品として,厚生労働省に対してその製造承認申請をし,その承認を得た医薬品である。
被告は,先発医薬品の基礎となる特許(乙4)の有効期間が満了した段階で製造販売を開始するため,その期間満了を見越して,販売開始の数年前から準備を開始している。準備期間中においては,原材料樹脂の選定,試作品(球形吸着炭)の製作,試作品の各種試験などの試行錯誤を経て,規格定立を行った。また,製造承認申請に必要な生物学的同等性試験,安定性試験などを経た上で,申請に至った。この間,調査,開発に要する人件費,交通費,通信費,試験委託費用,申請費用などを要している。
さらに,実際の製造段階に至っては,製造に要する工場設備の整備,充填包装に要する充填機の整備などの費用も要している。
先発医薬品の開発に比較すれば少額であることはもちろんであるが,開発経費などを全く要さないような,例えば,他人の商品形態を模倣した製品を製造販売したという事案などとは全く異なるのである。
これらに要した人件費,外注費その他費用を合計すれば少なく見積もっても7000万円は下らず,被告製品1-1,被告製品2-1の利益率算定に際しては,これらも当然考慮されなければならない。
仮に,被告製品の販売を現段階で完全に停止しなければならないとした,。 場合は これらの開発費用はすべて経費として控除されなければならないそうすると,被告は,被告製品の製造販売によって利益をほとんど得ていないことになる。
もっとも,被告は,被告製品1-2,同2-2に仕様変更したため,その製造販売の停止の必要はないと判断されるものと考えられる。今後も,その製造販売を継続することを前提に,被告製品の販売期間を7年と仮定した場合,1年当たり1000万円を開発費として計上すべきである。そ,, して 被告製品1-1及び被告製品2-1の販売期間は約1年であるから利益算定に際しては開発費として1000万円を控除すべきである。
( ) 被告製品に対する本件発明の寄与率 3以下に述べる事実からすれば,被告製品に対する本件特許の寄与率は極めて低く,実質的にゼロである。
ア 被告製品が後発医薬品であること被告製品は,本件発明の実施品ではない原告製品と同等なものと認められて製造販売を承認された後発医薬品であり,被告製品は原告製品に比べて薬価(国家によって決定される公定価格)が2割から3割低くなっている。被告製品の市場シェアはわずか1%にすぎないが,この1%という販売が可能なのは,国家が後発医薬品制度を設け,その薬価を先発品に比べて低く設定しているからである。先発品メーカー,後発品メーカーにどの程度の利益を享受させるかは,特許とは全く別の観点から設定された国家の政策事項である。
被告が被告製品を医薬品として販売することができるのは,後発医薬品,。 として厚生労働省から製造承認を取得し その保護を得ているからであるすなわち,被告の製造,販売行為は,この厚生労働省から許可された権利の行使であって,この特許発明とは関係しない厚生労働省から許可された後発医薬品として有する地位が,被告製品の販売量増大に大いに貢献しているのである。
イ 被告製品が本件発明の実施の有無と関係なく医薬品として販売されていること仮に,仕様変更前被告製品が本件発明の侵害品であり,かつ,本件発明が被告製品の販売に大きく寄与しているとした場合,その仕様変更後被告製品が従来どおり販売することができていることの説明がつかない。原告の説明によれば,本件発明は,従来技術であるピッチを炭素源として得られる活性炭(原告製品がこれにあたる。乙4)に比べて選択吸着性能が格段に向上しているとのことであり,その作用効果を根拠として本件特許取得に至っている。
この理屈からすれば,仕様変更前被告製品は本件発明の作用効果により選択吸着性能に優れ,仕様変更後被告製品は本件発明の作用効果を奏しないから選択吸着性能が劣り,被告は,選択吸着性能が格段に異なった製品を販売していることになる。
しかしながら,そのような事実は全くなく,仕様変更の前後を通じて同様の医薬品として販売を継続している。これは,本件発明の作用効果は,実際には存在しないか,製品性能には影響せず販売に関して影響しないものであることを示すものであり,被告が得た利益に対して本件発明が全く寄与していないことは明らかである。
ウ 原告が本件発明を実施していないこと原告製品は,本件発明の実施品ではなく,原告は,選択吸着性能が優れていないとする従来技術の製品を従来どおり製造販売している。このことからすれば,本件発明の作用効果はないか,又は,本件明細書で強調しているほど大したものではなく,少なくとも製品性能として考慮に値しないものであることを原告も認識しているといわざるを得ない。
エ フェノール樹脂を炭素源として粒状活性炭を製造すること自体は公知技術であり,被告製品において本件発明は全く寄与していないこと本件発明は,活性炭の原料としてフェノール樹脂なる物質を初めて作り上げたとか,フェノール樹脂を用いた球状活性炭を初めて作り上げた,あるいは腎疾患等の治療予防用として初めて経口投与用球状活性炭を世に送り出したというものではなく,単に,公知物質であり,かつ,球状活性炭の原料として多用されているフェノール樹脂を転用して,既に存在していた原告製品の原料であるピッチをそれに変えたという程度のものであり,進歩性の程度は極めて低い。
また,経口投与用吸着剤の炭素源としては本件発明以外の原料も考え得るのであり,選択吸着性能を向上させるための代替技術(例えば,炭化賦)。 活工程で様々な工夫をすることで官能基を付加するなど も多数存在するこのように,被告製品の製造は,公知技術実施であり,本件発明の進歩性を仮に肯定したとしてもその程度は極めて低く,かつ,他の代替技術も存在するのであって,被告製品の販売により得た利益に対して本件発明は全く寄与していない。
当裁判所の判断
1 争点1(被告製品は,構成要件E及びFを充足するか)について( ) 構成要件E( 球状活性炭からなる )について 1「」被告は,後に官能基を導入調製するための付加工程を実施したものは,本件特許の特許請求の範囲の「球状活性炭」に含まれない旨主張するので,まず「球状活性炭」の意義について検討する。
ア 「球状活性炭」の意義,「 」,,, (ア) 本件発明の特許請求の範囲において 球状活性炭 は 原料 直径比表面積,細孔容積,R値によって限定されているにとどまり,その製造方法によっては,特定されていない。
(イ) 本件明細書の中においては,球状活性炭又は表面改質球状活性炭に関係して,以下のとおり記載されている。
a フェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として製造され,直径が0.01〜1mmであり,ラングミュアの吸着式により求められる比表面積が1000?u/g以上であり,全酸性基が0.40〜1.00meq/gであり,全塩基性基が0.40〜1.10meq/gであり,そして細孔直径7.5〜15000nmの細孔容積が0.25mL/g未満である表面改質球状活性炭からなるが,但し,式(1):R=(I -I )/(I -I (1 〔式中,I は,X線15 35 24 35 15 ))35 回折法による回折角(2θ)が15°における回折強度であり,Iは,X線回折法による回折角(2θ)が35°における回折強度であり,I は,X線回折法による回折角(2θ)が24°における回折24強度である〕で求められる回折強度比(R値)が1.4以上である表面改質球状活性炭を除く ことを特徴とする 経口投与用吸着剤 請 ,,( 【求項4 。】)b 本発明は,特異な細孔構造を有する球状活性炭からなる経口投与用吸着剤,及び前記球状活性炭を更に酸化処理及び還元処理することによって製造され,同様の特異な細孔構造を有する表面改質球状活性炭からなる経口投与用吸着剤に関する( 0001 。【】 )c 特公昭62-11611号公報(特許文献1)に記載の吸着剤は,特定の官能基を有する多孔性の球形炭素質物質(以後,表面改質球状活性炭とよぶ)からなり,生体に対する安全性や安定性が高く,同時に腸内での胆汁酸の存在下でも有毒物質の吸着性に優れ,しかも,消化酵素等の腸内有益成分の吸着が少ないという有益な選択吸着性を有し,また,便秘等の副作用の少ない経口治療薬として,例えば,肝腎機能障害患者に対して広く臨床的に利用されている。なお,前記特公昭62-11611号公報(特許文献1)に記載の吸着剤は,石油ピッチなどのピッチ類を炭素源とし,球状活性炭を調製した後,酸化処理,及び還元処理を行うことにより製造されていた( 0003 。 【】 )d 本発明者は,ピッチ類から球状活性炭を調製し,酸化還元することにより得られる従来の多孔性球状炭素質物質からなる経口吸着剤よりも一層優れた選択的吸着性を示す経口投与用吸着剤の探求を進めていたところ,驚くべきことに,熱硬化性樹脂を炭素源として調製した球状活性炭は,酸化処理及び還元処理を実施する前の状態であるにもかかわらず,生体内の尿毒症性物質のひとつと考えられるβ-アミノイソ酪酸の吸着性に優れており,しかも有益物質である消化酵素(例えば,α-アミラーゼ)等に対する吸着性が少ないという有益な選択吸着性を有することを見出し,更に,その選択吸着性の程度が,前記特公昭62-11611号公報(特許文献1)に記載の吸着剤よりも優れていることを見出した( 0004 。 【】 )e 従来の多孔性球状炭素質物質,すなわち,前記特公昭62-11611号公報(特許文献1)に記載の吸着剤で用いる表面改質球状活性炭では,ピッチ類から調製される球状活性炭を更に酸化処理及び還元処理して官能基を導入することによって,前記の選択吸着性が発現されることになると考えられていたので,酸化処理及び還元処理を実施する前の球状活性炭の状態で選択的吸着能を発現すること,及びその吸着能が従来の経口投与用吸着剤よりも優れているという本発明者による前記の発見は,驚くべきことである( 0005 。【】 )f また,本発明者は,前記の球状活性炭を更に酸化処理及び還元処理することによって調製した表面改質球状活性炭は,生体内の尿毒症性物質のひとつと考えられるβ-アミノイソ酪酸の吸着性に優れており,しかも有益物質である消化酵素(例えば,α-アミラーゼ)等に対する吸着性が少ないという前記の有益な選択吸着性が,前記特公昭62-11611号公報(特許文献1)に記載の吸着剤よりも一層向上することを見出した( 0006 。 【】 )g 最初に,熱硬化性樹脂からなる球状体を,炭素と反応性を有する気流(例えば,スチーム又は炭酸ガス)中で,700〜1000℃の温度で賦活処理すると,本発明の経口投与用吸着剤として用いる球状活性炭を得ることができる。ここで,球状「活性炭」とは,球状の熱硬化性樹脂などの炭素前駆体を熱処理した後に,賦活処理を行うことによって得られる多孔質体であり,球状で比表面積が100?u/g以上であるものを意味する。本発明においては1000?u/g以上が好ましい( 0014 。【】 )h なお,熱硬化性樹脂からなる前記球状体が,熱処理により軟化して,, 形状が非球形に変形するか あるいは球状体同士が融着する場合には前記の賦活処理の前に,不融化処理として,酸素を含有する雰囲気にて,150℃〜400℃で酸化処理を行うことにより軟化を抑制することができる。また,前記の熱硬化性樹脂球状体を熱処理すると,多くの熱分解ガスなどが発生する場合には,賦活操作を行う前に適宜予備焼成を行い,予め熱分解生成物を除去してもよい。
i 本発明による前記の球状活性炭の選択吸着性を一層向上させるには,こうして得られた球状活性炭を,続いて,酸素含有量0.1〜50vol%(好ましくは1〜30vol%,特に好ましくは3〜20vol%)の雰囲気下,300〜800℃(好ましくは320〜600℃)の温度で酸化処理し,更に800〜1200℃(好ましくは800〜1000℃)の温度下,非酸化性ガス雰囲気下で加熱反応による還元処理をすることにより,本発明の経口投与用吸着剤として用いる表面改質球状活性炭を得ることができる。ここで,表面改質球状活性炭とは,前記の球状活性炭を,前記の酸化処理及び還元処理して得られる多孔質体であり,球状活性の表面に酸性点と塩基性点とをバランスよく付加することにより腸管内の有毒物質の吸着特性を向上させたものである( 0017 。 【】 )(ウ) 上記のとおり,本件明細書において,球状活性炭は 「球状の熱硬化 ,性樹脂などの炭素前駆体を熱処理した後に,賦活処理を行うことによって得られる多孔質体であり,球状で比表面積が100?u/g以上であるものを意味する」と定義されている(上記g 。)そして,本件明細書には,熱硬化性樹脂の性状により,賦活処理の前() に不融化処理や予備焼成を適宜行うことが明記されていること 上記hに照らすと,上記製造方法の記載は,球状活性炭の製造工程のうちの必須工程を示したものと解するのが相当であり,これを当該熱処理,賦活処理の前後や途中に他の処理が施されたものを排除する趣旨と解することはできない。
本件明細書中には,本件発明について,フェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源とすることにより,酸化処理及び還元処理を実施する前の状態であるにもかかわらず,高い選択吸着性能を有することを発見したとの記載があるものの(上記d,e ,同記載は,ピッチ類から球状 )活性炭を調製し,酸化還元することにより得られる従来の多孔性球状炭素質物質と比較して,本件発明の球状活性炭が酸化還元処理をしなくても有益な選択吸着性を示すことを述べているにとどまるのであり,本件発明の球状活性炭に酸化処理や還元処理等が施されることがないことまで意味すると解することはできない。むしろ,本件明細書には,酸化処理及び還元処理を行うことにより,選択吸着性が一層向上することが記載されており(上記i ,これにより表面が改質された表面改質球状活 )性炭( 前記の球状活性炭を,前記の酸化処理及び還元処理して得られ 「る多孔質体であり,球状活性の表面に酸性点と塩基性点とをバランスよ」) く付加することにより腸管内の有毒物質の吸着特性を向上させたものであって,全酸性基が0.40〜1.00meq/gであり,かつ,全塩基性基が0.40〜1.10meq/gであるものに関しては,請求項4において特許請求されていることに鑑みると,フェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭化及び賦活処理することにより得られた活性炭を,その選択吸着性を高めるために酸化処理や還元処理が加えられたものも 本件発明の技術的思想の範囲内にあるというべきであって 上記 表 ,,「面改質球状活性炭」は 「球状活性炭」の下位概念に相当し 「球状活 ,,性炭」のうち酸化及び還元処理を施した特に優れた選択吸着性を有するものに「表面改質球状活性炭」という名称を与えたものと解するのが相当である。
そうすると,本件発明における「球状活性炭」は,本件明細書におけ「, る定義である 球状の熱硬化性樹脂などの炭素前駆体を熱処理した後に賦活処理を行うことによって得られる多孔質体であり,球状で比表面積が100?u/g以上であるもの」であって,この要件を満たすものであれば,後に選択吸着性を高めるための官能基の調整処理(酸化処理や還元処理)が行われたものであっても 「球状活性炭」から除外されない ,ものと解される。
イ そして,被告製品の有効成分である活性炭が「球状の熱硬化性樹脂などの炭素前駆体を熱処理した後に,賦活処理を行うことによって得られる多孔質体であり,球状で比表面積が100?u/g以上であるもの」という要件に該当することは,当事者間に争いがない。そうすると,被告製品は,「球状活性炭からなる」ものと認められ,構成要件Eを充足する。
( ) 構成要件F(R値が1.4以上である球状活性炭を除く,ことを特徴とす 2る)についてア R値計算の基礎となる回折強度の測定方法,測定条件について(ア) 被告は,本件明細書には,R値を算出するために必要な回折強度の測定方法,測定条件について一切記載がなく,原告の主張する測定方法,測定条件を採用する根拠はないと主張する。
しかしながら,回折強度の測定については,下記のとおり,日本工業規格(JIS (甲32 ,日本薬局方(甲15)及び日本学術振興会 ))が定めた測定法(学振法 (甲13)があり,これらの規格によれば, )本件のような球状活性炭の回折強度を測定するためには,反射式デフラクトメーター法を採用し,線源としては,CuKα線を用い,試料は粉砕してアルミニウム板又はガラス板に均一に充填してして作成すること,, が一般的であると理解することができるから 原告の主張する測定方法測定条件は,本件特許出願時における当業者の技術常識にかなうものであると認められる。なお,原告により本件特許と同日に出願された経口投与用吸着剤の特許の明細書の発明の詳細な説明中には,球状活性炭の回折強度比(R値)の測定につき,上記の測定方法を用いた旨の記載がある(乙1の2の6,段落【0041 。】)記a JIS K 0131(甲32)の「X線回折分析通則」では,次のとおりとされている。
5 試料及びその調整方法(4頁)粉体試料の粒径調整 5.1.1粒径の大きい試料は,必要に応じて乳鉢などを用い手動又は専用の機械によって粉砕して10μm以下の粒径になるようにする。
粉体試料の試料ホルダへの充てん 5.1.2試料ホルダには,金属やガラスなどの板に穴又はくぼみを付けたものを用いる。試料ホルダに試料を均一に,かつ,試料面が平たんでホルダの面と一致するように充てんする。
1 装置(20頁)装置の概要1.1(略)X線粉末回折装置は,X線を発生させるX線発生部,回折X線の回折角度や散乱X線の散乱角度を測るゴニオメーター部,X線を検出して計数し強度を測定する計数・指示記録部,及び,これらを制御して回折データを収集し,そのデータを処理して分析する制御・データ処理部から構成されている。
X線発生部1.1.1( ) X線管球1(略)Cuが一般的に使用されるが,分析目的によって,MoやCo,Fe,Cr等も使用される。
b 日本薬局方(甲15)の「粉末X線回折測定法」では,次のとおりとされている。
装置(90頁)通例,計数管を検出器としたディフラクトメーターを粉末X線回折装置として用いる。ディフラクトメーターはX線発生装置,ゴニオメーター,計数装置,制御演算装置等からなる。
(中略)粉末X線回折装置では波長に分布のある連続X線部分を除き,単色化した特性X線のみを用いる (中略)測定試料に適 。
した波長のX線が得られるように対陰極の種類を選択する。
ゴニオメーターはX線の入射する方向と試料面及び試料面と計数装置との角度を走査する装置である。通例,両角度が等しくなるように走査する対称反射法で測定する。
操作法(90頁)(略)通例,有機化合物,高分子化合物の測定には銅を対陰極として用いる。
通例,測定試料はアルミニウム又はガラス製の平板試料ホルダーの充てん部に粉末試料を充てん成形することにより調製する。
このとき,粉末試料粒子は原則として無配向化されたものを用いる。通例,試料粉末を無配向化する方法として試料をめのう製乳鉢等で粉砕し,微細結晶とする方法を用いる。
c 学振法(甲13)の「人造黒鉛の格子定数および結晶子の大きさ測定法」では次のとおりとされている。
1 試料(25頁)供試人造黒鉛材から約2gを採取し,メノウ乳鉢で全試料が150メッシュ標準篩を全通するように粉砕し試料とする。
4 測定法(25頁)X線用試料をメノウ乳鉢中でよく混合した後,X線回折計付属の試料板に均一に充填する。
X線は,CuKα線を用い,CuKβ線はニッケルフィルター。() 。 によって除く 中略 自動記録式X線回折計を用いて測定する(イ) 被告は,測定装置,試料の厚さ,試料板の素材,補正の有無等によってR値は異なるのであって,固有値は取り得ないと主張し,これらの条件を変えて測定した結果を乙第6号証として提出する。
a 測定装置について確かに,X線回折法において測定装置が異なりX線強度が異なることなどにより回折強度の値が異なり得るものであり,原告の提出する甲第16号証においても測定装置により異なる回折強度の値が測定されている。
,,( )( )() しかしながら R値は R= I -I / I -I 115 35 24 35〔式中,I は,X線回折法による回折角(2θ)が15°における 15回折強度であり,I は,X線回折法による回折角(2θ)が35° 35における回折強度であり,I は,X線回折法による回折角(2θ) 24が24°における回折強度である〕で求められる回折強度比のことであり(構成要件F ,回折強度の値が変化することが,R値の変化に )直結するものではない。むしろ,回折強度比は,物質の同定を行うために用いられている値であり(甲32の35〜39頁参照 ,測定装)置によってこれが異なるとは考え難い。そして,原告の提出する甲第16号証においても,回折強度比は,測定装置によってほとんど違いはない(なお,I ,I ,I の各値はバックグラウンドを除いて15 24 35いない数値であるため,その分同じ割合で変化するものではないものの,上記のR値の計算式によれば,バックグラウンドはR値から当然に除かれているため,回折強度比は変化しないものと認められる 。。)測定装置によってR値が変化するとの被告の主張は採用することができない。
b 試料の厚さについて被告は,試料の厚さにより,測定値が異なると主張する。
,, しかしながら 前記のX線回折法による測定法の各規格においては試料の厚さは均一にするとする以外には特に指定はない。試料の厚さにより回折強度値が異なることがあっても,回折強度比は異なるものとは認められないことは,上記測定装置の違いで述べたところと同様である。原告の行った実験(甲33)においても,試料の厚さによるR値の有意な変化は見られていない。
したがって,試料の厚さによってR値は変化しないものと認められるから,被告の主張は採用することができない。
c 試料板の素材について被告は,原告がアルミニウム試料板を用いた測定をしていることに,, (), ついて 根拠がないと主張し 自ら提出する実験報告書 乙6 ではプラスチック試料板とアルミニウム試料板のそれぞれを用いて測定を行い,異なる値が出たと主張する。
,, しかしながら 前記のX線回折法による測定法の各規格においては試料板として金属(アルミニウム)やガラス製を用いることとされており,プラスチック製のものについては記載されていないこと,本件のような有機合成高分子体を測定するための試料板として有機合成高分子であるプラスチックを用いることは,測定結果に影響を及ぼす可能性があると考えられることに照らすと,プラスチック製の試料板を用いた乙第6号証の実験による測定値の正確性には疑問があるといわざるを得ず,被告の主張は採用することができない。
d 補正について被告は,ローレンツ偏光因子,吸収因子,原子散乱因子等に関する補正を実施するかどうかでR値が変化するので,固有値がとり得ないと主張する。
,, しかしながら 前記のX線回折法による測定法の各規格においては回折強度の補正を行うものとはされていない。特に,日本薬局方の規格(甲15)においては 「干渉性散乱X線の回折強度は (中略) ,,偏光因子,多重度因子,ローレンツ因子,吸収因子などの影響を受ける」としつつも,補正を実施するとはされてない。
,,,, したがって 特に指定がなければ ローレンツ偏光因子 吸収因子原子散乱因子等に関する補正を実施しないことが当業者の技術常識であると認められるから,被告の主張は採用することができない。
e 乙第6号証の実験報告書について同実験報告書には,測定装置,試料板の素材,試料の厚さ,補正の有無等の条件を変えて回折強度を測定してR値を求めたところ,これにより異なるR値が得られたことが記載されている。
しかしながら,これまで述べたように,測定装置,試料の厚さによってR値が変化することは考えにくいこと,また,プラスチック試料板を用いたことにより値が変化している可能性があること,いかなる補正が行われたのか明確ではないことから,同実験報告書の実験結果をもって,R値が固有値をとり得ないものとすることはできない。
イ そして,甲第10号証の実験報告書は,下記の測定方法により仕様変更前被告製品の回折強度を測定したものであり,前記アのとおり,その測定方法は,当業者の技術常識にかなう測定方法であると認められる。
「X線回折装置(株式会社リガク製「RAD-rC/PC化 )を用」いた 試料を120℃で3時間減圧乾燥した後 アルミニウム試料板 3 。,(,. ) 5×50m?u t=1 5mmの板に20×18m?uの穴をあけたものに充填し,グラファイトモノクロメーターにより単色化したCuKα線(波長λ=0.15418nm)を線源とし,反射式デフラクトメーター法により,回折角(2θ)が15°,24°及び35°のそれぞれの角度における回折強度を測定した。X線発生部及びスリットの条件は,印加電圧40kV,電流100mA,発散スリット=1/2°,発光スリット=0.15mm,散乱スリット=1/2°である。また,回折図形の補正には,ローレンツ偏光因子,吸収因子,原子散乱因子等に関する補正を行わず,標準物質用高純度シリコン粉末の(111)回折線を用いて回折角を補正した 」。
ウ 甲第10号証の実験報告書によれば,被告製品1-1のR値は,1.11であり,被告製品2-1のR値は1.10であることが認められ,いずれも1.4未満であることが認められるから,仕様変更前被告製品は,構成要件F「回折強度比(R値)が1.4以上である球状活性炭を除く,ことを特徴とする」を充足する。
これに対し,仕様変更後被告製品(被告製品1-2及び2-2)のR値については立証がなく,構成要件Fを充足していると認めることができない。
( ) 以上によれば,仕様変更前被告製品は,構成要件E及びFを充足するもの 3と認められる。
そして,前記争いのない事実等5記載のとおり,仕様変更前被告製品は,構成要件A,B,C,D,G,H及びIをも充足するのであるから,本件発明の技術的範囲に属するものと認められる。
仕様変更後被告製品については,前記のとおり,構成要件Fを充足していると認めることができず,本件発明の技術的範囲に属するものと認めることはできない(なお,事案に鑑み,以下,争点2についても判断する 。。)2 争点2(仕様変更後被告製品は,構成要件Dを充足するか)について( ) 仕様変更後被告製品(被告製品1-2及び2-2)について,その細孔直 1径7 5〜15000nmの細孔容積について 原告従業員が行った測定 甲 .,(51,53)並びに島津テクノリサーチが行った測定(原告依頼のものは,。,,,。 ), 甲59の1 被告依頼のものは 乙15の1 23の1 24 の結果は別紙測定結果一覧のとおりである。
そして,これらの測定結果のうち,細孔容積が0.25mL/g未満との結果となったのは,原告従業員が行った測定(甲51,53)では,被告製品1-2のロット番号8DAを試料とした3つの測定結果のうち2つ,ロット番号8FAを試料とした3つの測定結果のうち1つ,及び被告製品2-2のロット番号7GAを試料とした5つの測定結果のうち3つであり,島津テクノリサーチの測定(原告依頼のもの。甲59の1)では,被告製品1-2のロット番号8DAを試料とした6つの測定結果のうち1つであった。その他の測定結果は,いずれも0.25mL/g以上であった。
( ) 島津テクノリサーチによる測定の結果は,上記のとおり,1つを除きすべ 2て0.25mL/g以上となっている。
なお,1つの0.25mL/g未満の測定結果は,別紙測定結果一覧の測定結果のとおり,被告製品1-2のロット番号8DAの6つの結果のうちの1つがそれであるが 「0.2428」と0.25mL/gをわずかに下回 ,っているのみである。
そして,甲第59号証の8頁によれば,この数値が出た試料は,そのすぐ下の数値「0.2587」と同じ試料から採取されたものであり,かつ,試料重量もほぼ同一であることが認められ,この2つの数値を総合すると,ロット番号8DAの測定結果としては0.25mL/g以上と見ることもできることから,上記「0.2428」は測定誤差の範囲内であると認めるのが相当である。
( ) 原告は,島津テクノリサーチの測定においては,縮分が行われ試料間のば 3らつきが抑えられているとした上で,被告製品においては原試料のばらつきが大きいことから,これを忠実に反映させる必要があるのであり,縮分を行わないで原告従業員が行った測定の結果(甲51,53)によれば,ロット番号8DA,8FA及び7GAにおいて,細孔容積が0.25mL/g未満の結果がいくつか検出されていることから,仕様変更後被告製品の一部は,構成要件Dを充足する旨主張する。
証拠(甲59の1,乙15の1,23の1,24)によれば,島津テクノリサーチの測定においてされた縮分は,被告製品の1包分(約2g)を混ぜ合わせた後,二分器で試料を二分したものであることが認められる。
そして,証拠(乙32,33)によれば,試料の全量を測定することができない場合には試料量を減らす必要があり,その際に,試験者の恣意を入れず試料の特定をなるべく保持するようにするための手法として,縮分による操作が重要であり,特に本件のような粉粒体は,粒度や比重差による分離,偏析が起こるため,混ぜ合わせの操作及び縮分の操作は,試料の採取の際に偏りを生じさせないために必須の操作であると認められる。
以上からすれば,縮分操作を経ている島津テクノリサーチによる測定の結,。, 果は 被告製品の構成を適切に測定したものと評価することができる 他方原告従業員による測定は,2gの被告製品からどのように試料0.8g又は0.5g(甲51)ないしは0.6g(甲53)を採取したのか不明といわざるを得ず,試料の採取過程において偏りが生じたことを否定することができないのであるから,この測定結果を根拠とする原告の主張は採用することができない。
( ) また,原告は,仕様変更後被告製品は,水に沈降する活性炭と浮遊する活 4性炭との混合物であると主張するとともに,水によって沈降した活性炭については,細孔直径7.5〜15000nmの細孔容積が0.25mL/g未満であった(以上の実験結果として甲60の1)として,仕様変更後被告製品は侵害品を有効成分として含有するものである旨主張する。
しかしながら,試料を水に入れたときに浮遊するものと沈降するものがあるということは,試料に比重が1よりも大きいものと小さいものが含まれていることを示すのみであり,それ以上の意味を見出すことはできない。原告は,被告の行った比重の異なる溶液中での分離実験(乙37)において,比重1.0〜1.3の間の活性炭がなく,浮遊品と沈降品に完全に分離することができるから,仕様変更後被告製品は,全く異なる2種類の物質から成るものであるとも主張する。しかしながら,乙第37号証の実験結果から仕様変更後被告製品が浮遊品と沈降品とに明確に分離されているとは認められず,原告の主張は採用することができない。
また,沈降する活性炭も浮遊する活性炭も同じ炭素物質であるため,沈降するものは密度が高く,浮遊するものは密度が低いものであると考えられるところ,平均粒子径が344μmないしは314μmの被告製品(甲7)において,細孔直径7.5〜15000nmという比較的大きな細孔の容積が大きければ活性炭の密度は低く,その結果水に浮遊し,その細孔容積が小さければ密度は高く,その結果水に沈降する傾向にあるものと考えられる。そうすると,細孔容積の小さい傾向にある沈降品を集めて測定したところ細孔容積が小さい結果が出たにすぎず,その結果は仕様変更後被告製品の測定として意味をなさないものであるといわざるを得ない。
そもそも,本件明細書(0029 )が記載する構成要件Dについての 【】細孔容積の測定方法は,一定量の試料について圧力と水銀の圧入量から細孔直径の細孔容積を測定する水銀圧入法であること,本件発明は腎疾患治療又は予防剤であり,一定量を服用することをその前提としていること,及び本,, 件発明は 特異な細孔構造を有する活性炭が体内の有毒な物質を多く吸着し有益な物質の吸着が少ないという選択吸着性が高いことを作用効果とするものであって,製品全体としてそのような特異な細孔構造でなければ,選択吸着性という作用効果を得ることができないことからすれば,細孔容積を測定する場合には,なるべく試料全体の同一性を保持したサンプルを用いて行うべきであり,原告の依頼により行われたような被告製品を水で分離してその一部を取り出して測定する方法では,構成要件Dの充足性を判断することができないというべきである。
なお,フェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源とする球状活性炭以外の物質が混合されているような場合であれば,本件明細書の記載上,それを除去した上で各数値を測定して,構成要件D等の充足性を判断する必要があると考えられるものの,仕様変更後被告製品については,フェノール樹脂を(,) 炭素源とする球状活性炭のみ 又は被告製品2については 加えてカプセルからなる以上,仮に原告が主張するように異なる活性炭の混合物であるとし, 。 ても それが全体として構成要件Dを充足するかを判断するのが相当である( ) 上に述べたところによれば,仕様変更後被告製品において,その細孔直径 57.5〜15000nmの細孔容積が0.25mL/g未満であることについては,これを認めるに足りる証拠はなく,仕様変更後被告製品が構成要件Dを充足すると認めることはできない。
3 争点3(本件特許は無効とされるべきものか)について( ) 無効理由?@(補正による新規事項の追加)について 1ア 特許法17条の2第3項は,第1項の規定により明細書等について補正をするときは,願書に最初に添付した明細書等に記載した事項の範囲内においてしなければならないと規定している。ここにいう「明細書等に記載した事項」とは,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)を基準として,明細書・特許請求の範囲・図面のすべての記載を総合して理解することができる技術的事項のことであり,補正が,上記のようにして導かれる技術的事項との関係で新たな技術的事項を導入するものでないときは,当該補正は「明細書等に記載した事項の範囲内」であると解すべきである。
そして,特許請求の範囲減縮を目的として特許請求の範囲に限定を付加する補正を行う場合,付加される補正事項が当該明細書等に明示されているときのみならず,明示されていないときでも新たな技術的事項を導入するものではないときは 「明細書等に記載した事項の範囲内」の減縮で ,あるというべきであり,このことは本件補正のように,いわゆる除くクレームを付加する補正においても妥当する。
イ 原告は,平成15年10月31日,本件特許出願(特願2004-548107号。乙2の2参照)と,別件特許に係る特許出願(特願2004-548106号。乙1の2の6。以下「別件特許出願」という )を行。
。, ( ) , った その後 本件特許出願につき拒絶査定がされたため 乙2の17原告は拒絶査定不服審判を請求した(乙3の1 。同手続中において,本 )件特許出願に係る発明が別件特許出願に係る発明と同一であるとの理由等で拒絶理由通知が出された(乙3の6 。そこで,原告が上記拒絶理由通 )知に対応して,平成18年5月15日に手続補正を行ったのが本件補正で,() あり 請求項及び発明の詳細な説明に下記の記載 いわゆる除くクレームを付加するものである(乙3の8 。)但し,式(1 :)R=(I -I )/(I -I ) (1)15 35 24 35〔式中,I は,X線回折法による回折角(2θ)が15°における回 15折強度であり,I は,X線回折法による回折角(2θ)が35°にお 35ける回折強度であり,I は,X線回折法による回折角(2θ)が24 24°における回折強度である〕(). , で求められる回折強度比 R値 が1 4以上である球状活性炭を除くすなわち 本件補正は 球状活性炭につきX線回折法による回折角 2 ,, , (θ)が15°,24°,35°における回折強度の比(R値)が1.4以上であるものを除くとするものである。
一方,乙第2号証の2によれば,本件当初明細書に記載された発明は,経口投与用吸着剤に用いられる球状活性炭について,熱硬化性樹脂,実質的にはフェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として用い,これにより,ピッチ類を用いる従来の球状活性炭に比べて,有益物質に対する吸着が少なく尿毒症性物質の吸着性に優れるという選択吸着性が向上するという効果を奏するとするものであることが認められる。
他方,別件特許の請求項1は,以下のとおりである(乙1の2の6 。)【請求項1】直径が0.01〜1mmであり,ラングミュアの吸着式により求められる比表面積が1000?u/g以上であり,そして式(1 :)R=(I -I )/(I -I (1)15 35 24 35 )〔式中,I は,X線回折法による回折角(2θ)が15°における回15折強度であり,I は,X線回折法による回折角(2θ)が35°にお 35ける回折強度であり,I は,X線回折法による回折角(2θ)が24 24°における回折強度である〕で求められる回折強度比(R値)が1.4以上である球状活性炭からなることを特徴とする,経口投与用吸着剤乙第1号証の2の6によれば,別件特許は,球状活性炭からなる経口投与剤につき,その細孔構造に注目して,直径,比表面積のほか,最も優れた選択的吸着性を示すX線回折強度を示す回折角の観点からこれをR値として規定し,このR値が1.4以上であることを特徴とするものであること,球状活性炭に関し,本件特許とは異なり,フェノール樹脂又はイオン交換樹脂を出発原料として特定せず,また,本件特許では従来技術に属するものとされるピッチ類を用いても調整が可能であるとして,このR値の観点から球状活性炭を特定したものであることが認められる。
そうすると,球状活性炭のうちフェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として用いた場合において,そのR値が1.4以上であるときには,本件特許出願に係る発明と別件特許出願に係る発明は同一であるということができる。そして,本件補正は,この両発明の重なり合う部分であるR値が1.4以上である球状活性炭を本件特許出願に係る発明の特許請求の範囲から除くことを目的とするものであり,前記の本件当初明細書に記載された発明の内容に照らせば,特許請求の範囲の記載に技術的観点から限定を加えるものではなく,新たな技術的事項を導入するものではないと認めるのが相当である。
ウ したがって,本件補正は 「明細書等に記載した事項の範囲内」の減縮 ,であるので,特許法17条の2第3項に違反するものではなく,本件特許は,無効とされるべきものとは認められない。
エ 被告の主張について(ア) 被告は,R値が1.4以上のものを除いていることの技術的意味やR値が1.4未満のものの製造方法が不明であり,これらの点について本来説明が必要なものであるから,本件補正により新たな技術的事項を追加するものであるなどと主張する。
しかしながら,本件当初明細書(乙2の2)の「発明を実施するための最良の形態」における 「本発明の経口投与用吸着剤として用いる球 ,状活性炭又は表面改質球状活性炭は,前記のとおり,従来の経口投与用吸着剤の炭素源として用いられてきたピッチ類に代えて,炭素源として熱硬化性樹脂を用いる点を特徴としており,それ以外の点では,ピッチ類を用いる従来の製造方法と実質的に同様の操作を利用して調製することができる (乙2の2の4頁)との記載に端的に示されているとお 。」り,本件特許出願に係る発明は,有益な選択吸着性という効果を導くための課題解決方法として球状活性炭の炭素源に着目し,これを熱硬化性樹脂(その後の補正を経て,最終的にはフェノール樹脂及びイオン交換樹脂)とした点に最大の特徴があるものであって,それ以外の要素につ,, いては 経口投与用吸着剤としての基本的性質に反しない限度において従来技術に従って適宜決定する余地のあることを前提とするものであり,その意味で,回折強度比(R値)についても,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)において適宜決定すべきことが予定されていたものというべきである。
本件当初明細書に開示された本件特許出願に係る発明の上記意義に照らせば,R値に特別の限定がないことは,R値が1.4以上の場合であると1.4未満の場合であるとを問わず,経口投与用吸着剤としての基本的性質に反しない限りにおいて,すべてのR値が含まれることを前提とするものと理解することができるのであって,本件補正も,そのような理解を前提とした場合に別件特許出願に係る発明との間で生ずるR値が1.4以上のものについての重複を排除するため,これを除外するという意義を有するものである。
以上のような本件特許出願に係る発明における回折強度比(R値)の意義ないし本件補正の意義に照らせば,回折強度比(R値)につきいかなる値を設定するかは,本件特許出願に係る発明の技術的事項に対し影響を与えるものではないというべきである。
(イ) 被告は,原告は,R値の計算根拠となる回折強度は測定条件により異なり得ることをもって,R値の意義等が一義的に明らかでない旨主張する。
しかしながら,前記のとおり,X線回折法については,日本工業規格(JIS (甲32 ,日本薬局方(甲15 ,日本学術振興会が定めた )) )測定法(学振法 (甲13)にそれぞれ規格が定められており,明細書 )にR値の測定方法に関する記載がなくとも,これらの規格に従って測定方法を決定し得るものであり,また,測定条件についても当業者の技術常識に従って適宜決定することにより,固有値を得ることができるもの,, と認められるのであるから これらについて明細書に記載のないことは上記判断を左右するものではない。
(ウ) 被告は,本件補正により実施例が除外されたとして,これをもって技術的範囲が大きく変更されたことの根拠とする。
この点,本件発明に係る実施例を示す表1,2と別件特許発明に係る実施例を示す表1,2とは,別件特許発明においてR値を付記しているほかはすべて一致し,また,両発明に係る明細書の記載において,実施例の基礎となる条件が一致することに鑑みれば,両発明における実施例は同一のものであると認められる。
,, , そして 被告の上記主張は 両者を形式的に併せ考慮することにより本件発明における実施例はR値1.4以上のものを表したものと評価して,本件補正後の本件発明に直接妥当する実施例が明細書の記載上存在しなくなったとみるものである。
しかし,前記(ア)の説示から明らかなとおり,本件当初明細書における実施例は,R値にかかわらず,炭素源としてフェノール樹脂又はイオン交換樹脂を用いたことにより,ピッチ類から得られる従来の経口吸着剤よりも優れた選択吸着性を示し,かつ,酸化処理及び還元処理を実施する前の状態でも選択吸着性を発揮することを裏付けているものであって,明細書の記載上,R値は付記されていないことからみても,当業者は本件明細書における実施例の記載に接した場合,これがR値を1.4以上のものに限定する趣旨と理解するものではないということができる。
なお,被告は,被告が別件特許の出願経過において,R値が1.4以上のものでなければ目的とする作用効果が奏しないと強調して特許査定を経ているなどと主張する。しかしながら,本件当初明細書の記載をみれば,本件発明の技術思想は,課題を解決するための手段として炭素源の種類に着目し,これに「フェノール樹脂又はイオン交換樹脂」を選択することによって課題を解決し得るかどうかを問題とするものであることは明らかであって,同日出願の別件特許の出願経過等において原告が「R値1.4以上」のものでなければ目的とする作用効果が奏しないと主張していたとしても,これと課題の解決方法が異なる本件発明の作用効果が否定されるわけではない。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
(エ) 被告は,本件補正により請求項に係る発明の成立性を裏付けるデータ(実験成績証明書A及びB。乙3の9)を示す必要性が生じたことは,追加的説明が必要であることを示すものであり,新たな技術的事項が導入されたことを意味する旨主張する。
実験成績証明書Aは 「 イオン交換樹脂』を炭素源として用いた場 ,『合でも,優れた選択吸着率を有する経口投与用吸着剤を得ることができることを示すため (意見書〔乙3の7〕6頁30行〜31行 ,実験 」)成績証明書Bは,本件補正により「 除かれた部分』以外の本件発明に 『よる経口投与用吸着剤が優れた選択吸着性を有していることを具体的に示すため (同7頁下から17行〜下から16行)に提出されたもので 」ある。前記のとおり,本件当初明細書における実施例は,R値にかかわらず,炭素源としてフェノール樹脂又はイオン交換樹脂を用いたことにより,ピッチ類から得られる従来の経口吸着剤よりも優れた選択吸着性を示し,かつ,酸化処理及び還元処理を実施する前の状態でも,選択吸,, 着性を発揮することを裏付けていたものであるから 明細書の記載上は実施例として不足はないということができる。
もっとも 本件補正により構成が限定された結果 本件発明の効果 フ ,,(ェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として用いたことによりピッチ類を用いる従来の球状活性炭に比べて選択吸着性が向上すること)を喪失するなど,本件発明の意義が失われることになるのであれば,本件補正は本件当初明細書における技術的意義変更を来すこととなり得ることからすれば,上記実験証明書の提出は,本件当初明細書の記載から把握できる技術的事項,すなわち,前記「最大の特徴」により前記「効果」が奏されることが,R値の大小にかかわらず妥当することを釈明するためにされたものと理解することができるのであって,これにより新たな技術的事項が付加されたとか,その裏付けになるといえるものではない。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
(オ) 被告は,R値を1.4未満とする本件補正は,R値が1.4以上であることを必須要件とする別件特許と作用効果の点で矛盾を来すから,本件補正により新たな技術的事項が導入されたといえる旨主張する。
しかしながら,前記のとおり,本件特許出願に係る発明は,R値のいかんにかかわらず,炭素源として熱硬化性樹脂(具体的にはフェノール樹脂又はイオン交換樹脂)を用いることにより課題を解決するものであるのに対し,別件特許は,炭素源のいかんにかかわらず,R値を1.4以上とすることにより課題を解決するものであって,課題解決のアプローチを異にする点で技術的思想を異にするものである。そうすると,別件特許の明細書においてR値が1.4以上であることを必須要件であるとしたとしても,直ちに両者が矛盾することになるものではないから,被告の上記主張は採用することができない。
( ) 無効理由?A(明細書の記載不備()?構成要件Fに関して) 21ア 特許法36条4項1号違反(無効理由?A-1)の主張について被告は,本件明細書中にはR値を求めるための回折強度の測定方法,測定条件について記載がなく,また,1.4未満のR値を有する球状活性炭を得るための製造条件についての説明もないので,本件発明を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないと主張する。
しかしながら,前記のとおり,回折強度の測定方法であるX線回折法については,規格が定められ,明細書にR値の測定方法に関する記載がなくとも,これらの規格に従って測定方法を決定し得るものであり,また,測定条件についても当業者の技術常識に従って適宜決定することにより,固有値を得ることができるものと認められる。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
イ 特許法36条6項1号違反(無効理由?A-2)の主張について被告は,手続補正の結果,本件明細書記載の実施例が,本件発明の実施例ではなくなったと主張する。
しかしながら,前記のとおり,本件当初明細書における実施例は,R値にかかわらず,炭素源としてフェノール樹脂又はイオン交換樹脂を用いたことにより,作用効果があることを示すものであり,明細書の記載上,R値は付記されていないことからみても,当業者は本件明細書における実施例の記載に接した場合,これがR値を1.4以上のものに限定する趣旨と理解するものではないということができるのであって,被告の主張は採用することができない。
ウ 特許法36条6項2号違反(無効理由?A-3)の主張について被告は,回折強度の測定方法等の記載がなく,R値は固有値を取り得ないものであるから,どのような球状活性炭が本件発明に含まれるのか不明確であると主張する。
しかしながら,前記のとおり,測定方法等は当業者の技術常識から決定できるのであり,R値は固有値を取ることができると認められるから,被告の主張は採用することができない。
( ) 無効理由?B(明細書の記載不備()?構成要件Dに関して) 32ア 特許法36条4項1号違反(無効理由?B-1)の主張について被告は,本件特許の明細書に実施例(実施例1,2)として記載された製造例が 「細孔直径7.5〜15000nmの細孔容積0.04mL/ ,gあるいは0.06mL/g」の「フェノール樹脂を炭素源とした球状活性炭」であることから,上記実施例以外の細孔容積に係る球状活性炭やこれを得る方法が記載されていないことは,実施可能要件を欠き,明細書の記載不備(特許法36条4項1号違反)に当たる旨主張する。
しかしながら,本件明細書の段落【0013】及び【0024】の記載は,炭素源に係る発明特定事項以外の発明特定事項について当業者が適宜の設定をすることが可能であることを示唆するものであると理解することができる。そして,証拠(甲18の2の1〜4,乙1の2の3・4)によれば,本件特許の出願日当時,細孔容積の制御が多様な方法で可能であったことは明らかである。
以上によれば,活性炭の細孔容積は,当業者において適宜制御可能であると認めることができるから 「フェノール樹脂及びイオン交換樹脂」を ,炭素源とする「細孔直径7.5〜15000nmの細孔容積が0.25mL/g未満」の球状活性炭を製造することは,本件特許の出願日当時の技術常識に基づいて当業者がなし得るものと認められ,その製造方法について本件明細書に記載がないことをもって実施可能要件を欠くとはいえず,被告の主張は採用することができない。
イ 特許法36条6項1号違反(無効理由?B-2)の主張について被告は,本件特許の明細書に実施例(実施例1,2)として記載された製造例が 「細孔直径7.5〜15000nmの細孔容積0.04mL/ ,gあるいは0.06mL/g」の「フェノール樹脂を炭素源とした球状活性炭」のみであり,構成要件D(細孔直径7.5〜15000nmの細孔容積が0.25mL/g未満)で特定された球状活性炭のうち,わずかな範囲のものしか開示がなく,いわゆるサポート要件を欠くと主張する。
しかしながら,本件明細書の表1,2には,細孔直径7.5〜15000nmの細孔容積が0.42mL/gの場合に,選択吸着率が2.1と比較的に劣っていることが示されていること,公知文献5(乙1の2の5)には,細孔直径20〜15000nmの細孔容積が小さくなるにつれて有益物質の吸着量が低下すること,及び細孔容積が小さすぎると毒性物質の吸着量も低下することが開示されており,このような知見は,本件出願日(平成15年10月31日)当時において公知の技術であったと認めることができる。
そうすると,本件明細書における実施例の記載に加え,選択吸着能は,(細孔容積が極小の場合を除き)その減少に応じて漸次発現する特性がある旨の上記知見を考慮すれば,当業者はこれにより優れた選択吸着率の達成を認識することができるから,本件特許請求の範囲の記載は,本件明細書における詳細な説明に記載したものであるということができ,サポート要件違反との被告の主張は採用することができない。
( ) 無効理由?C(進歩性の欠如)について 4被告は,ア.本件発明1のうちフェノール樹脂を炭素源とする発明は,公知文献1に記載された発明に公知文献2又は公知文献3ないし5を組み合わせることにより想到容易であり,イ.本件発明1のうちイオン交換樹脂を炭素源とする発明は,公知文献1に記載された発明に公知文献5及び6を組み合わせることにより想到容易であり,ウ.本件発明2は,公知文献1に記載された発明に公知文献2ないし6を組み合わせることにより想到容易であるとして,本件特許は進歩性を欠くものであり,特許無効審判により無効とされるべきものであると主張する。
ア 公知文献1に記載された発明に公知文献2又は公知文献3ないし5を組み合わせることによる本件発明1の容易想到性の主張について(ア) 証拠(乙1の2の1)によれば,公知文献1には,活性炭を有効成分とする,マトリックス形成亢進抑制剤に関する発明が記載されており,具体的には 「直径が0.05〜2mmであり,比表面積が500〜2 ,000?u/gであり 細孔半径100〜75000オングストローム 細 ,(孔直径20〜15000nm)の空隙量が0.01〜1 /gであmlる経口投与用の吸着能に優れた球形活性炭を有効成分とする,肝疾患又は腎疾患の治療若しくは予防に用いる剤 」についての発明(以下「公 。
知発明1」という )が記載されていると認められる。 。
そうすると,本件発明1と公知発明1とは,いずれも「直径が0.05〜1mmであり,比表面積が特定されたもので,そして特定範囲の細孔直径の細孔容積を特定した球状活性炭からなる経口投与用吸着剤 」。
である点において一致し,次の各点において相違する。
(相違点A)球状活性炭を製造するための原料に関し,本件発明1では 「フェ,ノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源とし」と特定しているのに対し,公知発明1では,そのように特定していない点。
(相違点B)比表面積の特定に関し,本件発明1では 「ラングミュアの吸着式 ,により求められる比表面積が1000?u/g以上であり」と特定しているのに対し,公知発明1では 「比表面積(メタノール吸着法によ ,る)が500〜2000?u/gであり」と特定している点。
(相違点C)特定範囲の細孔直径の細孔容積を特定した点に関し,本件発明1では 「細孔直径7.5〜15000nmの細孔容積が0.25mL/ ,g未満」と特定しているのに対し,公知発明1では 「細孔半径10 ,0〜75000オングストローム(細孔直径20〜15000nm)の空隙量が0.01〜1mL/gである」と特定している点。
(相違点D)本件発明1が,「但し,式(1 :)R=(I -I )/(I -I ) (1)15 35 24 35〔式中,I は,X線回折法による回折角(2θ)が15°における 15回折強度であり,I は,X線回折法による回折角(2θ)が35° 35における回折強度であり,I は,X線回折法による回折角(2θ) 24が24°における回折強度である〕で求められる回折強度比(R値)が1.4以上である球状活性炭を除く 」と特定しているのに対し,公知発明1ではそのように特定され ,ていない点。
(イ) そこで,相違点Aについて検討する。
a 既に述べたとおり,本件発明の技術的意義は,経口投与用吸着剤に用いられる球状活性炭について熱硬化性樹脂(具体的にはフェノール樹脂又はイオン交換樹脂)を炭素源として用いたことにより,ピッチ類を用いる従来の球状活性炭に比べて選択吸着性が向上した点にある。これに対し,公知発明1は,前記のとおり,肝疾患ないし腎疾患治療に有効な吸着能を有する経口投与用の球状活性炭ではあるものの,その炭素源について具体的な特定がなく,しかも,具体的な炭素源との関係で生じるピッチ類を用いる球状活性炭と比較した選択吸着性の有無ないし大小といった効果については示唆するところがない。
したがって,公知発明1から本件発明を想到することが容易というためには,少なくとも公知発明1のような経口投与用の球状活性炭がフェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源とするものと置換可能であることが示唆されることのみならず,そのようにして置換された炭素源と上記選択吸着性能との間に有意な関連があることをも示唆するものがなければならないというべきである。
b そこで,上記の観点に基づき相違点Aに係る構成の容易想到性について検討する。
( ) 公知文献2(乙1の2の2)の記載によれば,同文献に記載され aている発明はフェノール樹脂を炭素源とする球状活性炭の製造に関するものであるものの,接着剤や塗料等として従来から大量に製造されていた各種の熱硬化性樹脂の乳化物について,真球に近い球状活性炭を得ることが困難であったことからされた球状活性炭の製造方法である。公知文献2のその他の記載を考慮しても,そもそも公知発明1のような医薬製剤としての経口投与用吸着剤への転用については示唆する記載を見出すことはできないから,公知文献2に記載された発明を公知発明1に組み合せることは,困難である。
したがって,公知文献2によって,相違点Aに係る構成に想到することが容易であるということはできない。
( ) 公知文献3(乙1の2の3)には,フェノール-アルデヒド樹脂 bを炭素源とする球形活性炭の吸着能についての研究が記載されており,公知文献4(乙1の2の4)にはフェノール樹脂を原料とする活性炭について,比表面積,細孔分布などを測定し,市販の水処理用活性炭及び石炭を原料とする球形活性炭との比較を行った結果が記載されているものの,両文献の中に,そもそも公知文献1記載の発明のような医薬製剤としての経口投与用吸着剤への転用を示唆する記載を見出すことはできない。
また,公知文献5(乙1の2の5)には,医薬剤としての多孔性球状炭素質物質からなる経口吸着剤について従来の吸着剤に比して有益な選択吸着性を有するという発明が記載されているものの,その有益な選択吸着性は,特定範囲の細孔容積に着目したことによるものであって,その炭素源について何ら特定するところがない。また,その実施例を見ても,石油系ピッチから多孔性球状酸化ピッチを得,これに賦活処理等を施して多孔性球状炭素質物質を製造し,その選択吸着性を計測しており,有利な選択吸着性を導くための炭素源について何ら示唆するところがない。そうすると,このような公知文献5に係る発明に接した当業者において,同発明(及び公知発明1)から有利な選択吸着性を導くために炭素源を限定することを想到することは困難といわざるを得ない。
したがって,公知文献3ないし5によっても,相違点Aに係る構成に想到することが容易であるということはできない。
イ 公知発明1に公知文献5及び6を組み合わせることによる本件発明1の容易想到性の主張について本件発明1と公知発明1との一致点及び相違点は前記ア(ア)で認定したとおりであり,公知文献5の記載内容については,前記ア(イ)b( )で認定 bしたとおりである。
公知文献6(乙1の2の7)には,イオン交換樹脂を炭素源とする活性炭小球体の製造方法に関する発明が記載されていることが認められるものの,同文献中には,公知発明1のような医薬製剤としての経口投与用吸着剤への転用について示唆する記載を見出すことはできない。
上に述べたところによれば,公知文献5及び6によっても,相違点Aに係る構成に想到することが容易であるということはできない。
ウ 公知発明1に公知文献2ないし6を組み合わせることによる本件発明2の容易想到性の主張について本件発明2は,本件発明1の構成を前提とするものであり,既に説示したとおり,本件発明1に係る構成に想到することが容易といえない以上,本件発明2の構成に想到することが容易といえないことは,その余について論ずるまでもなく明らかである。
エ 以上のとおりであるから,被告の主張する各公知文献から,本件発明1及び2に想到することが容易であったということはできない。
( ) 以上のとおり,本件特許について,被告が主張する無効理由はいずれも認 5めることはできず,被告の主張はいずれも採用することができない。
4 争点4(今後,構成要件Dを充足する被告製品が製造,販売される可能性が高いか(本件特許権の侵害のおそれの有無 )について )( ) 主位的請求について 1前記2のとおり,被告が現在製造販売している仕様変更後被告製品は,構成要件Dを充足するとは認められないから,原告の主位的請求である別紙被告製品目録(甲)で特定される被告製品(商品名を「キューカル細粒分包2g 「キューカルカプセル286mg」とする製品)の製造販売の差止請 」,求は,これを認容することができない。
( ) 予備的請求について 2ア 仕様変更前被告製品の在庫の販売のおそれについて原告は,予備的請求として,別紙被告製品目録(乙)で特定される被告製品の差止めを求めている。同目録記載1(1)及び2(1)は,ロット番号で特定するものであり,これらは仕様変更前被告製品であることに争いはない。
原告は,仕様変更前被告製品の全部が販売されて在庫が存在しない点について立証はないから,上記ロット番号で特定される被告製品の差止めを認めるべきであると主張する。
しかしながら,証拠(甲5,乙38)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品の使用期限は製造より3年間であること,ロット番号の頭の数字が製造年を示し( 6」であれば2006年,それに続くアルファベットが 「)製造月を示す( A」であれば1月)ものであることが認められ,そうす 「ると,最も新しいものである「7DA」でも2010年(平成22年)4月ころに使用期限が到来するものであることが認められる。このことと,被告が,現在は仕様変更後被告製品を製造販売していることを考え合わせると,仮に,被告がこれらのロットの在庫を保有していたり,今後,返品等により在庫を保有することになったりしたとしても,それを販売する可能性は低いといわざるを得ず,販売の可能性が高いとの原告の主張は採用することができない。
したがって,予備的請求のうち,別紙被告製品目録(乙)記載1(1)() ( ) , 及び2 1 で特定される被告製品の 製造 販売の差止めに係る部分は理由がない。
イ 仕様変更前被告製品を新たに製造販売するおそれについて原告は,仕様変更後被告製品の少なくとも一部は構成要件D(細孔直径7.5〜15000nmの細孔容積が0.25mL/g未満であり)を充足し本件特許権を侵害するものであるから,被告は,細孔容積をコントロールする意思がないか,コントロールする製造能力がないかのいずれかであり,被告が今後,構成要件Dを充足する製品を製造,販売する可能性は高いと主張する。
しかしながら,既に判断したとおり,仕様変更後被告製品につき,適切に縮分操作を経て測定を行った実験においては,測定誤差と認められる1つの結果を除き,いずれも細孔直径7.5〜15000nmの細孔容積が0.25mL/g以上であったのであり,この実験結果に照らすと,仕様変更後被告製品が構成要件Dを充足しているということはできないから,仕様変更後被告製品の少なくとも一部が構成要件Dを充足することを前提とする原告の主張は採用することができない。
また,原告は,被告が仕様変更の具体的内容を明らかにしていないことを考慮すれば,被告が今後,仕様変更を元に戻し,構成要件Dを充足する侵害品を製造,販売する可能性は高いと主張する。
しかしながら,弁論の全趣旨によれば,被告は,本件訴訟係属中にその仕様を変更し,遅くとも平成20年3月ころには仕様変更前被告製品の製造を完全に中止し,その後製造していないこと,それ以降は仕様変更後被,() 告製品のみを製造販売していること被告の代表取締役が陳述書 乙38において変更前の仕様に戻すことはしないと陳述していること,本判決で仕様変更前被告製品につき本件特許権侵害が認められ,損害賠償請求が認容されることを総合すれば,被告が,変更前の仕様に戻して構成要件Dを充足する侵害品を製造販売するおそれが高いと認めることはできないというべきである。
以上からすれば,被告が今後構成要件Dを充足する製品を製造,販売する可能性は高いとの原告の主張は,これを採用することができず,予備的請求のうち,別紙被告製品目録(乙)記載1(2)及び2(2)で特定される被告製品の製造販売の差止めに係る部分についても,理由がない。
ウ したがって,原告の差止請求及びそれに付随する廃棄請求(予備的請求も含む )は,いずれも理由がない。 。
(() ) 5 争点5 補正後の発明の内容を通知する必要があるか 補償金請求に関しについて( ) 証拠(甲11の1・2)によれば,原告は,被告に対し,平成16年6月 114日,国際公開された本件特許出願に係る発明の内容として 「特許請求 ,の範囲 【請求項1】熱硬化性樹脂を炭素源として製造され,直径が0.01〜1mmであり,そしてラングミュアの吸着式により求められる比表面積が1000?u/g以上である球状活性炭からなることを特徴とする,経口投与用吸着剤 【請求項2】全塩基性基が0.40meq/g以上の球状活性 。
炭からなる請求項1に記載の経口投与用吸着剤 (中略 【請求項4】請求 。)項1〜3のいずれか一項に記載の経口投与用吸着剤を有効成分とする,腎疾患治療又は予防剤 」と記載した内容証明郵便(本件通知書)を送付して警 。
告し,同書面は,同月15日,被告に到達したことが認められる。
( ) 被告は,本件通知書の受領の後に,補正により本件特許の特許請求の範囲 2が変更されており,再度の通知がないため,補償金支払請求権は発生していないと主張する。
() , 特許法184条の10 同法65条も同様 が補償金請求権の要件として特許出願に係る発明の内容を記載した書面を示しての警告又は悪意を要求したのは,第三者に対して突然の補償金請求という不意打ちを与えることを防止するためであると解される。このような規定の趣旨に照らすならば,警告後の補正によって登録請求の範囲が補正された場合において,その補正が願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において補正前の特許請求の範囲減縮するものであるときには,第三者が補正後の特許請求の範囲の内容を知らなくとも不意打ちとはならないといえるから,上記補正の後に再度の警告等をすることを要しないと解すべきである。
本件通知書に記載された特許請求の範囲の内容は前記認定のとおりであり,本件発明と比較すると,?@「熱硬化性樹脂を炭素源として製造」が「フ」, ェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として製造 に補正されている点(. . ?A本件特許の構成要件D 細孔直径7 5〜15000nmの細孔容積が025mL/g未満 が付加されている点及び?B構成要件F 回折強度比 R ),((値)が1.4以上である球状活性炭を除く)が付加されている点で異なるものである。
しかしながら,?@の相違点については,本件通知書において「熱硬化性樹脂」としていたものを,熱硬化性樹脂である「フェノール樹脂又はイオン交換樹脂」と具体化した補正であり,証拠(乙2の2)によれば,本件特許の国際特許出願に係る明細書には,熱硬化性樹脂としてフェノール樹脂及びイオン交換樹脂を用いることができる旨の記載があることが認められるから,当該補正が本件当初明細書に記載した事項の範囲内において補正前の特許請求の範囲減縮するものであることは明らかである。
?Aの相違点に関して,構成要件Dに関する事項として本件当初明細書(乙2の2)に「本発明による経口投与用吸着剤として用いる球状活性炭又は表面改質球状活性炭においては,一層優れた選択吸着性を得る観点から,細孔直径7.5〜15000nmの細孔容積が0.25mL/g未満,特に0.。」(), 2mL/g以下であることが好ましい との記載がある 9頁 とともに水銀圧入法による細孔容積の測定方法についての記載(10頁)及び実施例の記載(17〜18頁)があったことが認められ,構成要件Dを追加した補正が本件当初明細書に記載した事項の範囲内においてされたものであり,かつ,同構成要件が追加されることで,特許請求の範囲減縮されたものと認められる。
また,?Bの相違点に関して,構成要件Fを追加した本件補正は,新たな技術的事項を付加するものではなく,願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内において補正前の特許請求の範囲減縮するものであると解すべきことは既に述べたところから明らかである。
( ) したがって,上記の補正はいずれも,願書に最初に添付した明細書又は図 3面に記載した事項の範囲内において補正前の特許請求の範囲減縮するものであって再度の警告等を要しないというべきであり,補償金請求の要件を満たしているものと認められる。
6 争点6(補償金の額)( ) 被告製品の売上高(平成16年9月から平成18年8月3日までの期間) 1平成16年9月から平成18年8月3日までの期間における被告製品の売上高が,少なくとも1891万5000円であったことについて当事者間に争いがなく,また,同金額を超えるものであったことについては,これを認めるに足りる証拠はない。
( ) 本件特許の実施料率 2本件特許は,従来技術の石油ピッチではなくフェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源とすることにより優れた選択的吸着性があるとしているものの(本件明細書【0004 【0005 ,原告は本件発明を実施してお 】,】 )らず,従来技術である石油ピッチを炭素源とした球状活性炭の原告製品を製造販売していることなどの事情を考慮すれば,本件において,本件特許の実施料率は3パーセントと認めるのが相当である。
( ) このように,平成16年9月から平成18年8月3日までの期間における 3被告製品の売上高は,1891万5000円であり,本件特許の実施料率は3パーセントであるから,この期間における補償金の額は,56万7450円と認められる。
7 争点7(不法行為に基づく損害賠償の額)( ) 被告は,原告が本件発明を実施していないことから,特許法102条2項 1は適用されないと主張する。
確かに,同項は,損害額の推定規定であり,損害の発生までをも推定する規定ではないため,侵害行為による逸失利益が発生したことの立証がない限り,適用されないものと解される。もっとも,侵害行為による逸失利益が生じるのは,権利者が当該特許を実施している場合に限定されるとする理由はなく,諸般の事情により,侵害行為がなかったならばその分得られたであろう利益が権利者に認められるのであれば,同項が適用されると解すべきである。
そして,弁論の全趣旨によれば,被告製品は,腎疾患治療薬(カプセル剤及び細粒剤)である原告製品の後発医薬品として製造承認を受け販売されているものであり,被告製品が製造販売されることで新たな需要を生み出すものではなく,腎疾患治療薬の市場において原告製品と競合し,シェアを奪い合う関係にあること,球状活性炭の腎疾患治療薬における原告製品のシェアが高いことが認められ,被告製品がなかったとした場合に原告製品ではなく他の後発医薬品が売れたであろうとの事情を裏付ける証拠もない本件においては,被告らによる侵害行為がなければ得られたであろう利益が原告に認められるのであって,本件には特許法102条2項が適用されるものと解するのが相当である。
( ) 特許法102条2項に基づく損害算定 2ア 仕様変更前被告製品の売上高(平成18年8月4日以降)被告は,仕様変更前被告製品の1箱当たりの売上高は,被告製品1-1については1万4273円(1箱84包 ,被告製品2-1については1 )万4347円(1箱588カプセル)であり,本件特許登録日である平成18年8月4日以降の出荷数は,被告製品1-1については9896箱,被告製品2-1については1411箱と主張する。そして,1箱当たりの売上高は薬価に基づいて算出していること,同出荷数を超える出荷があったことを認めるに足りる証拠はないことから,平成18年8月4日以降平成20年3月までの仕様変更前被告製品の売上高は,以下の計算式のとおり合計1億6148万9225円と認められる。
なお,被告の主張によれば,仕様変更前被告製品の製造販売は,平成20年3月をもって完全に終了しているとされ,それ以降に仕様変更前被告製品が製造販売されたことを認める証拠はない。
(計算式)万円×箱+万円×箱=億万円 1 4273 9896 1 4347 1411 1 6148 9225イ 仕様変更前被告製品の利益率証拠(甲61)及び弁論の全趣旨によれば,被告の親会社である日医工株式会社の平成18年12月1日から平成19年11月30日までの連結会計年度における売上高に対する総利益の割合が48.3パーセントであり,営業利益が35.4パーセントであることが認められ,この事実からすれば,原告が主張するとおり被告製品の利益率は30パーセントであると認めるのが相当である。
なお,被告は,原材料費,加工費,試験費及び販売管理費の経費及び開発費を売上から控除すべきであると主張する。しかしながら,被告の主張するこれらの経費についての立証がされておらず,また,これらの費用が侵害行為のために追加的に要した費用であるか明らかでないことからすれば,これらを売上から控除して利益額を算定することは困難であるといわざるを得ない。
損害額,, このように 平成18年8月4日以降の仕様変更前被告製品の売上高は1億6148万9225円であり,利益率が30パーセントであるから,原告の被った損害額は,4844万6767円であると認められる。
( ) 弁護士等費用3本件訴訟の内容,認容額その他諸般の事情を考慮すれば,弁護士等費用としては400万円が相当であると認める。
( ) 被告は,本件特許とは関係しない製造承認を受けたことに基づく後発医薬 4品としての地位が被告製品の売上に貢献していること,本件特許を侵害しないよう仕様変更をしても被告製品の販売を継続することができていること,原告が本件特許を実施していないこと,本件特許の進歩性が極めて低く,かつ,他の代替技術も存在することなどを主張して,寄与度減額すべきであると主張する。
しかしながら,仕様変更前被告製品は,その全体が本件発明を実施してい,, るものであること 本件発明を実施することにより高い選択吸着性を実現し原告製品の後発医薬品として製造承認を受けて製造販売してきたものであると考えられることからすれば,被告の主張する事情をもって寄与度減額をすべきと認めることはできない。
( ) 以上によれば,平成18年8月4日から平成20年3月までの期間におい 5て仕様変更前被告製品が販売されたことより被った原告の損害は,4844万6767円に弁護士等費用400万円を加えた5244万6767円と認められる。
( ) なお,原告は,前記請求の趣旨( )において,139万7914円の補償 62金請求に加えて,請求の趣旨( )における請求と一部重複する期間である平 3成18年8月4日から同年10月31日までの期間における損害として請求の趣旨( )における請求とは別個に188万7184円を請求しているが, 3上記のとおり,本件の審理において,平成18年8月4日から平成20年3月までの間における損害額の総額しか明らかにならず,その期間ごとの内訳は明らかでないため請求の趣旨( )で請求している期間に限った損害額は不 2明であるから,同請求は理由がないといわざるを得ない。
ただし,前記請求の趣旨( )において,平成18年8月4日から平成20 3年10月31日までの期間における損害及び弁護士等費用を請求しているため,同請求は,上記損害金全額(5244万6767円)について理由があると認められる。
8結論以上によれば,原告の請求のうち請求の趣旨( )記載の被告製品の製造販売 1の差止め及び廃棄を求める部分(請求の趣旨( ))については,予備的請求も 1含めていずれも理由がないので,これを棄却することとする。
請求の趣旨( )記載に係る請求(訴状記載の請求)のうち,特許法184条 2の10に基づく補償金56万7450円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成19年2月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるので,これを認容することとし,その余は理由がないので,これを棄却することとする。
請求の趣旨( )記載に係る請求(平成20年12月1日付け訴えの変更申立 3書記載の請求)のうち,不法行為に基づく損害賠償5244万6767円及びこれに対する同申立書送達の日の翌日である平成20年12月5日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるので,これを認容することとし,その余は理由がないので,これを棄却することとする。
そして,主文第1項については,仮執行宣言を付すこととし,仮執行免脱宣言は相当でないからこれを付さないこととして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 阿部正幸
裁判官 柵木澄子
裁判官 舟橋伸行