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審判番号(事件番号) データベース 権利
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事件 平成 19年 (ワ) 22715号 特許権侵害差止等請求事件
東京都八王子市<以下略>
原告株式会社日本ハイポックス
同訴訟代理人弁護士井堀周作
同訴訟代理人弁理士吉田芳春 神戸市西区<以下略>
被告美津村株式会社
同訴訟代理人弁護士坂本光輝
同 補佐人弁理 士南條博道
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2009/06/30
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求1被告は,別紙物件目録記載1ないし5の各製品(以下,それぞれ「被告製品1」などといい,被告製品1ないし5を総称して「被告製品」という )を製 。
造し,販売し,販売の申出をしてはならない。
2被告は,被告製品を回収し,廃棄せよ。
3被告は,原告に対し,3600万円及びこれに対する平成19年10月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要本件は,化粧料についての特許権を有する原告が,被告において被告製品を製造,販売する行為は上記特許権を侵害する行為であると主張して,被告に対し,特許法100条1項に基づき被告製品の製造,販売等の差止めを,同条2項に基づき被告製品の回収及び廃棄を,民法709条に基づき損害賠償金3600万円及びこれに対する不法行為の後である平成19年10月6日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
1争いのない事実等(証拠を掲げていない事実は当事者間に争いがない )。
( )原告の有する特許権1ア原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,その特許請求の範囲請求項1の発明を「本件発明」という。また,本件発明に係る特許を「本件特許」といい,本件特許に係る明細書(別紙特許公報参照)を「本件明細書」という )を有している。 。
特 許 番 号第3449624号発明の名称化粧料および燕窩抽出物の製造方法出願日平成9年11月5日登録日平成15年7月11日特許請求の範囲請求項1「燕窩の含水溶剤抽出物をスキンケア成分として含有することを特徴とする化粧料 」。
イ本件発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説した構成要件をそれぞれ「構成要件A」などという。なお,燕窩とは,ア 。)マツバメ科のアナツバメ属に属すツバメ類が,唾液又は唾液と羽毛等を混( )。 ぜて固めた巣窩のことをいう 本件明細書2頁4欄33行ないし35行A燕窩の含水溶剤抽出物をBスキンケア成分として含有することを特徴とするC化粧料。
( )被告の行為2被告は,平成18年5月ころから,業として,被告製品1ないし4を製造し,販売し,販売の申出をした(なお,被告が,被告製品1ないし4のほかに,被告製品5の製造,販売ないし販売の申出をしたことを認めるに足りる証拠はない。。)( )被告製品1ないし4の構成3ア被告製品1ないし4は,アナツバメ巣エキスを含有する化粧品である。
アナツバメ巣エキスは,燕窩を粉砕し,これにタンパク分解酵素(エンドペプチダーゼ)を添加して酵素による反応を行い,その後,上澄みを回収して粉末化させることによって得られる物である(上記エキスを,以下「燕窩の酵素分解物」という。なお,酵素による反応は,全くの水無 。)しでは起こらないため,上記処理の過程では,酵素による分解反応を起こ(,「」。) させるために水が加えられる この分解反応を 以下 加水分解 という(甲29,乙18,24,弁論の全趣旨 。)イ被告製品1ないし4は,化粧品であって,化粧料と同義であるから,構成要件Cを充足する。
2争点( )被告製品1ないし4は,構成要件A及びBを充足するか(争点1 。
1 )( )原告の損害(争点2)23争点に関する当事者の主張( )争点1(被告製品1ないし4は構成要件A及びBを充足するか)につい1てア原告の主張(ア)構成要件Aの充足性被告製品1ないし4は,前記のとおり燕窩の酵素分解物を含有するものである。以下に述べるとおり,燕窩の酵素分解物とは,構成要件Aの「燕窩の含水溶剤抽出物」にほかならない。
aすなわち 「抽出」とは 「固体や液体を液体溶媒(両者は相互に ,,ほとんど不溶解)と接触させ,1種以上の成分を溶媒中に移行させる分離方法 (マグローヒル科学技術用語大辞典 改訂第3版・113 」4頁(甲37 )であり 「適当な化学反応をおこさせて抽出しやす ),い物質に変えて抽出する場合」も含まれる(岩波 理化学辞典 第5版・ 058 (甲49。 []))したがって,被告が燕窩の酵素分解物を得るに際し,触媒として酵素を使用して加水分解反応を起こさせているとしても,触媒である酵素の作用自体は,燕窩の成分を含水溶剤に移行しやすい物質に変えているだけであって,被告が燕窩に含水溶剤である水を接触させ,燕窩の成分を水に溶解,移行させて,その上澄みを得ていることに変わりがない以上 「抽出」が行われているといえる。 ,b不溶性タンパク質を可溶化することが「抽出」の一手段としてとらえられていることは 「日本生化学会編 生化学実験講座1 タンパク ,質の化学1 分離精製」の12頁(甲56)に 「もちろん動物,植 ,物,微生物など材料によって,その解体操作や可溶化の方法は著しく異なるが,要は目的とするタンパク質をすみやかにかつ安定なかたちで,好収量で抽出することにある」との記載があることや,不溶性タンパク質の可溶化の方法として,ペプシンやトリプシンのようなタンパク分解酵素を用いた方法も知られていること(日本生化学会編 新生化学実験講座1 タンパク質?T 分離・精製・性質・72頁ないし7()), ,「, 3頁 甲57シアル酸研究会のホームページに燕窩から直接シアル酸糖鎖を残したまま,ムチン型糖タンパク質を取り出して有効利用しようという研究がなされた (未発表)これは燕窩をプロテア 。
ーゼ処理して水溶性とするもので,この方法で処理した燕窩の抽出物は主にムチン型糖タンパク質で,約60%のムチン型タンパク質と,それぞれ約10%の中性糖とシアル酸から構成されている 」との記 。
載があること(乙44 ,などによっても,裏付けられている。 )また,特許文献においても,次のとおり,酵素反応を伴う抽出にお,, , いて 当該酵素反応が 目的とする抽出のために必要な手段であれば当該抽出の概念に含まれると解釈される例がある。
?@特開平5-252947号公報(甲58)酵素による処理を含む海藻抽出物の製造方法が記載されている。
?A特許第2933309号公報(甲59)酵素反応処理を含む魚介類エキスの抽出方法が記載されている。
?B特開2007-124901号公報(甲60)タンパク分解酵素による消化工程を含むコラーゲン抽出方法が記載されている。
?C特開2007-230980号公報(甲61)酵素によりタンパク質を加水分解する処理を含む多糖類抽出液の調製方法が記載されている。
?D特開2007-261966号公報(甲62)酵素処理によるコラーゲン抽出方法が記載されている。
?E特表2004-521919号公報(甲63)タンパク分解酵素を添加する酵母抽出物の製造方法が記載されている。
さらに,燕窩は,ムチン型糖タンパク質であり,ムチン型糖タンパク質は,酸,アルカリ,酵素で加水分解されることが知られている。
したがって,燕窩を,例えば酵素で可溶化し,得られた水溶性成分,,「」 のみを分離する方法は 酵素による可溶化が そのまま 燕窩の抽出の概念に含まれる。
c原告が実施したイオン交換クロマトグラフィー,ゲル濾過クロマトグラフィー及びSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法(以下「SDS-PAGE」という )による比較実験では,次のとおり,原告 。
が所定の条件で抽出した燕窩の酵素分解物と燕窩の含水溶剤抽出物とは,同一の分離パターンを示した。かかる実験結果は,両者の成分が同一であること,すなわち,燕窩の酵素分解物が燕窩の含水溶剤抽出物に含まれることを示すものである。
(a)イオン交換クロマトグラフィーによる比較実験イオン交換クロマトグラフィーは,試料に含まれる成分のイオン交換吸着性の違いによって分離分析を行うクロマトグラフィーで,タンパク質やペプチドの分離分析によく用いられている。したがって,含水溶剤抽出物と酵素分解物との間で,構成する成分の性質がわずかでも異なれば,異なるピークとして分離されるはずであり,逆にピークが別々に分離しなければ,それらの成分は同じ性質を有することを示すものである。
原告が平成20年6月に実施した実験(その内容は 「燕窩の含 ,水溶剤抽出物と酵素分解物のイオン交換クロマトグラフィーによる比較」と題する試験報告書(甲68の2)に記載のとおりである。
以下「甲68実験」という )によると,燕窩を60℃から95℃ 。
の範囲の水で加熱して抽出した含水溶剤抽出物のクロマトグラムと,燕窩の酵素分解物のクロマトグラムは,いずれも,約3分,8分,10分及び30分の4つのピークが検出され,対応する各ピークの溶出時間がおおむね一致し,さらに,両者(燕窩の含水溶剤抽出物と燕窩の酵素分解物)の等量混合物でも,これらのピークは,互いに分離されることなく,4つのピークが一致した。
また,原告が平成21年1月から2月にかけて実施した実験(その内容は 「被告の行っている酵素を使った燕窩エキス製法による ,生成物と原告特許との関係について」と題する試験報告書(甲71の1)に記載のとおりである。以下「甲71実験」という )によ。
ると,燕窩の酵素分解物のクロマトグラムは,酵素添加量を10倍にし,反応時間を2倍にした場合でも,同様に,約3分,8分,10分及び30分の4つのピークを検出した(甲71実験中,上記結果が確認された実験を,以下「甲71?@実験」という。。)さらに,甲71実験によると,所定の酵素反応時間終了後に酵素失活のための90℃30分間の加熱処理を行った燕窩の酵素分解物のクロマトグラムには,約3分,8分,10分及び30分にピークが検出されたのに対し,酵素失活のための加熱処理を行わなかった酵素分解物のクロマトグラムには,約3分,8分及び10分のピークは検出されたものの,約30分のピークは検出されなかった(甲71実験中,上記結果が確認された実験を,以下「甲71?A実験」という。。)上記実験結果は,甲68実験に用いた燕窩の含水溶剤抽出物と燕窩の酵素分解物との間に成分の差がないこと,燕窩の酵素反応により生成する組成物の主要成分は,溶出時間が約3分,8分,10分及び30分の4成分であり,実用的な反応条件下では,この4成分以外に他の成分の生成がないこと,溶出時間30分のピークは,酵素反応により生成するのではなく,加熱処理によって生成することを示している。
(b)SDS-PAGEによる比較実験原告が平成20年11月に実施した実験(その内容は 「燕窩の,酵素分解物と含水溶剤抽出物?Aの電気泳動(SDS-PAGE)による比較」と題する試験報告書(甲69)に記載のとおりである。
以下甲69実験というによると燕窩の含水溶剤抽出物6 「」。),(0℃の水で24時間×2回,その後に60℃の水で約20時間,さらに90℃から95℃の水で4時間)の泳動パターンと,燕窩の酵素分解物の泳動パターンとは,類似しており,いずれも,分子量約1万5000Da(ダルトン)から30万Daの成分を含有しているものと推定される。
そして,その構成比には若干の違いが見られるものの,全体の約40%を占める分子量5万Da以下の低分子量成分の含有量に大差はなく,両者に本質的な差はないと考えられる。
(c)ゲル濾過クロマトグラフィーによる比較実験ゲル濾過クロマトグラフィーは,3次元網目構造を持つ多孔性粒子を固定相として,その細孔への浸透性の差,すなわち分子の大小によって分離を行うものであり,SDSへの複合体が完全に形成されていることを前提とするSDS-PAGEと異なり,分子量の差異が直接反映されるので,形状が類似する分子を大きさの順に分離する際の精度は非常に高いものである(ただし,燕窩の主成分である糖タンパク質は,分子量マーカーとして用いた一般的な球状タンパク質とは形状が著しく異なることから,分子量の絶対値を正確に推定することは適当でない。。)甲71実験によると,燕窩の酵素分解物のクロマトグラムと燕窩を60℃の水で抽出した含水溶剤抽出物のクロマトグラムは,いずれも,約5分,8分,9分,11ないし12分,13分及び16分のピークが認められ,酵素分解物のみに特異的と考えられるピークはなく,各ピークの面積比においても,顕著な差は認められなかった(甲71実験中,上記結果が確認された実験を,以下「甲71?B実験」という。。), , このように 両者のクロマトグラムパターンはほぼ一致しており上記実験結果は,両者の成分の分子量に有意の差がないことを示すものである。
d被告は,被告製品1ないし4が含有する燕窩抽出物について,被告が日本化粧品工業連合会から表示名称として決定を受けた「アナツバメ巣エキス」との名称を用いている。同連合会の「成分表示名称リスCollocalia esulenta トではアナツバメ巣エキスはアナツバメ 」,「」,「または同属のツバメ類の巣窩のエキスである 」と定義されている。 。
そして 「エキス」は 「抽出物」を意味しているので(広辞苑 第 ,,5版・289頁(甲34,アナツバメ巣エキス,すなわち燕窩の ))酵素分解物は 「燕窩の含水溶剤抽出物」を意味している。 ,また,被告は,平成19年7月当時の同社のホームページ(甲77の2)において,同社の沿革の項に 「1979年燕の巣を原料と ,するシアル酸抽出方法を検討「1980年燕の巣から大量にシ 」,アル酸を分離抽出する製法を確立「1997年美津村?鰍ノて燕 」,の巣エキス抽出濃縮プラントの設計を開始「1999年燕の巣 」,エキス抽出精製プラント完成」などと記載しており,被告自身 「燕,の巣エキス ,すなわち「燕窩の酵素分解物」は 「抽出物」である 」 ,との認識を有していた。
(イ)構成要件Bの充足性,,「」 上記(ア)のとおり 被告製品1ないし4は燕窩の含水溶剤抽出物である燕窩の酵素分解物をスキンケア成分として配合しているので,構成要件Bを充足する。
イ被告の主張(ア)原告の主張(ア)を否認ないし争う。以下のとおり,燕窩の酵素分解物は 「燕窩の含水溶剤抽出物」に含まれない。 ,a一般に 「抽出」とは 「植物,動物などの天然物試料,固体混合 ,,物,溶液などの中にある成分を溶媒中に溶出させ分離回収する操作」(大木道則等編 化学大辞典・1421頁(乙9「媒体に対する)),溶解度又は吸着性の差を用いて試料中の目的成分を取り出す操作日」(本工業標準調査会 審議 JIS分析化学用語(基礎部門) JISK0211(以下「JIS」という・24頁(乙33 )などと定義 。)), ,, されており 元々物質中に存在する特定の成分を 分解することなくそのままの形で取り出すことを意味している。
したがって 「適当な化学反応をおこさせて抽出しやすい物質に変 ,えて抽出する」場合でも,その「目的の成分」を分解することなく,一時的に溶媒に溶け易い形に化学反応で変えて溶媒中に回収し,その形からもとの成分に戻さなければ,抽出ということはできない。
本件発明において,燕窩成分が抽出される媒体は,水,熱水,その他水に混和する有機溶剤であって,燕窩成分はそのままの形で抽出される。つまり 「燕窩の含水溶剤抽出物」は,含水溶剤に溶解してき ,た,巨大分子量あるいは高分子量の糖タンパク質であり,酵素による, 。 処理を受けていないため 巨大分子量あるいは高分子量のままであるこれに対し,被告製品1ないし4の製造過程は,燕窩を,水の存在下,タンパク分解酵素で処理するものであり,巨大分子量の糖タンパク質を低分子量の糖タンパク質に変化させる(タンパク質のアミド結合(ペプチド結合)を特定の位置で切断する )ことに特徴があり, 。
その過程は,まさに「酵素による分解」であって 「含水溶剤による ,抽出」とは一線を画するものである。なお,被告製品1ないし4の製造過程において水を要するのは,酵素活性を発現させ,低分子量の糖タンパク質を得るためであり,燕窩を抽出するためではない。
このように,酵素は,燕窩を水に溶けやすくするために採用されたものではなく,燕窩をより低分子量の別の物質に変換させるために採用されたものであり,燕窩の酵素分解物は,燕窩に当初からその形で含まれていたものではなく,燕窩の高分子量の物質を酵素で分解して初めて得られる物であるから,燕窩の「抽出物」ではない。
b「溶剤」は 「溶媒」と同意語であり(日本化学会 学術用語集 化 ,学編(増訂2版 ・609頁(乙45「溶媒」とは 「溶液,固溶 ))),,体などにおいて,溶かされたものを溶質というのに対し,溶かすために用いるもの (日本分析化学会編 分析化学用語辞典・258頁(乙 」46「溶液において物質を溶解させるために用いる液体 (JI )), 」S・5頁(乙47 )などと定義されている。 )したがって 「燕窩の含水溶剤抽出物」とは 「燕窩の成分を,水 , ,を含む(又は水と混じる)溶媒と称する液体のみによって溶解して得た物質」ということができる。
これに対し,燕窩の酵素分解物では,分解に使用しているのは,溶媒ではなく,タンパク質を切断する酵素であるから,酵素分解物は,「含水溶剤」による「抽出物」とはいえない。
c原告は,シアル酸研究会のホームページ(乙44)に「燕窩の抽出物」という記載があることを指摘する。しかしながら,同ホームページを作成,管理しているαは,有機合成が専門であり,有機合成においては 「抽出」という操作は日常的に行われ,論文においても「抽 ,出又は抽出物」という語句が多用されているため,αは,酵素処理後,「」「」 に得られた物質についても あえて 酵素処理物 又は 酵素分解物と言わず,慣用句として「抽出物」という表現を使ったものと推測される。
燕窩に関して言えば,特許文献においても 「燕窩の水抽出物及び ,/又は燕窩の酵素処理物」と明確に区分している例(特開2005-206547号公報(乙48「燕窩の酵素分解物を有効成分とし )),」( ()), て と限定している例 特開2003-95961号公報 乙49「燕窩水抽出物の酵素処理物」と限定している例(特開2002-68988号公報(乙50 )などがあり,燕窩を取り扱う業界では, )燕窩の酵素処理物が燕窩の抽出物と言われることはほとんどない。
d本件明細書には,燕窩の含水溶剤抽出物の製造方法が記載されている(本件明細書3頁5欄32行ないし6欄11行 。そこには,水又 )は水と混和する溶剤を用いて燕窩を0℃〜180℃で,好ましくは室温〜120℃の範囲において,10分〜50時間,好ましくは1〜8時間抽出処理することが記載され,抽出装置として,加熱抽出機,高圧加熱抽出機,超臨界抽出装置,ソックスレー型抽出機,超音波抽出装置,マイクロ波抽出装置が列挙され,好ましいものは熱水抽出物であると記載されているにとどまり,酵素に関する記載は全く見当たらない。
仮に,酵素処理が抽出の一方法であるならば,少なくとも,本件明細書中に「酵素を抽出に用いることができる」程度の記載があって然るべきであるにもかかわらず,上記のとおり酵素に関する記載が全くないことは,原告が,出願当初から,本件発明において,酵素を用いて抽出することを意図していなかったことを裏付けている。
e甲68実験,甲71実験及び甲69実験の結果は,分離パターンの類似性を示しているにすぎず,物としての同一性を立証するに足りるものではない。燕窩の酵素分解物には,燕窩の含水溶剤抽出物と成分的に異なる物が存在している。このことは,被告の実施した以下の実験結果によって裏付けられている。
(a) イオン交換クロマトグラフィーによる比較実験?@被告が平成11年8月に実施した実験(その内容は 「燕窩の,『酵素分解物』と『含水溶剤抽出物』のクロマトグラフィー的比較」と題する実験報告書(乙17)に記載のとおりである。以下「乙17実験」という )によると,燕窩の酵素分解物のクロマ 。
トグラムには,低分子と推定されるピークが約56%の割合で検出されたのに対し,燕窩を55℃から63℃の水で抽出した含水溶剤抽出物のクロマトグラムには,低分子領域にピークが認められなかった。
上記実験で用いたカラムは分子ふるいの要素を有しているので,上記実験結果から,燕窩の酵素分解物と燕窩の含水溶剤抽出物との間には,分子量的な差が存在するものと推測することができる。
?A被告が平成20年8月に実施した実験(その内容は 「燕窩の,酵素分解物と高温で処理した含水溶剤抽出物のイオン交換クロマトグラフィーによる比較」と題する実験報告書(乙31)に記載のとおりである。以下「乙31実験」という )によると,燕窩 。
の酵素分解物のクロマトグラムには,保持時間6.8分,8.5分及び33分付近に主たるピークが認められたのに対し,燕窩を93℃〜99℃(浴槽温度 ,81℃〜84℃(内温)の水で抽 )出した含水溶剤抽出物のクロマトグラムには,保持時間6.8分と8.5分付近には,小さなピークがわずかに認められたにとどまり,主たるピークは33分付近のピークであった。
また,同実験では,燕窩の酵素分解物のクロマトグラムの各成分のピーク面積の総和が135万0374であるのに対し,燕窩の含水溶剤抽出物の各成分のピーク面積の総和は27万5729であり,酵素分解物の約20%しか認められなかった。これは,上記含水溶剤抽出物の約80%に相当する部分が,酵素分解物には含まれていない物質で占められており,それらはカラムから溶出してこないか,溶出したとしても検出器で検知されない物質であることを意味している。
(b)SDS-PAGEによる比較実験被告が平成20年9月に実施した実験(その内容は 「燕窩の酵 ,( ) 素分解物と含水溶剤抽出物?A より高温で処理した含水溶剤抽出物の電気泳動(SDS-PAGE)による比較」と題する実験報告書(乙26)に記載のとおりである。以下「乙26実験」という )。
によると,燕窩の含水溶剤抽出物(なお,抽出方法は上記(a)?Aと同じ )は,ほとんどが20万Da以上のタンパク質であったのに対 。
し,燕窩の酵素分解物中には,20万Da以上のタンパク質の存在も確認することができたものの,それ以外に,13万2000Da,11万Da,7万2000Da及び6万8000Daと推定される分子量を持つタンパク質のバンドが認められた。
このように,酵素分解物においては,大きい分子が切断されて小さな分子に変換している物も存在しているのに対し,燕窩の含水溶, ,, 剤抽出物では 大きな分子のみが見出されており この実験結果は両者が成分的に異なることを示している。
f被告製品1ないし4の「アナツバメ巣エキス」という名称は,CTCosmetic,Toiletry,and Fragrance AssociationSwiftlet Nest FA( )による「(INCI名(国際化粧品成分名称))との命名に基づき,Extraction 」被告が日本化粧品工業連合会に対して名称作成の申込みを行ったのに対し,同連合会が表示名称として決定したものである。これらの名称と特許権侵害の有無とは,何ら関連性がない。
また,エキスの意味は,より多義的であり,抽出物とエキスとが厳密に一致するわけではない。
(イ)原告の主張(イ)については,否認する。
ウ被告の主張に対する原告の反論(ア)被告の主張(ア)a及びbについては,否認ないし争う。
燕窩の分解反応の機序を推定するためには,まずその構造の詳細を明らかにする必要があるが 燕窩のそれは明らかになっていないので酵 , ,「素のない反応系」における分解反応の機序についても 「酵素のある反 ,応系」における分解反応の機序についても,その具体的な内容は不明である。
また,ムチン型糖タンパク質は,酵素分解を受けないか,極めて受けにくい性質を持っている。すなわち,ムチン型糖タンパク質の一般的構造は,まっすぐに伸びたペプチド鎖の中央部分に0-結合型糖鎖が密集しており,糖鎖の密度が高いので,プロテアーゼがポリペプチドに近づくのを妨げ,プロテアーゼ作用に対して強い抵抗性を示すこともよく知られている。つまり,糖鎖密集部をつないでいるペプチド結合鎖が占める割合は,通常のタンパク質に比べると格段に少ないため,ペプチド鎖の切れ端の長短などは性質にほとんど影響せず,酵素の基質特異性が発, 。 揮されたとしても 生成物に大きい影響を及ぼしているとは考えにくい(イ)被告の主張(ア)cについては,否認ないし争う。
被告の挙げる特許文献(乙48〜50)は,いずれも同一出願人によるものであり,一出願人の表現をもって当業者の常識とすることはできない。
(ウ)被告の主張(ア)dについては,否認ないし争う。
不溶性タンパク質の抽出は,不溶性タンパク質を,共有結合,非共有結合又は高次構造を変化させて,水に溶けやすくする過程を広く含む概念であり,一例として,本件明細書では,難溶性の燕窩が熱水抽出されることを示している。その他の可溶化方法は,当業者にとって公知ないし周知のことなので,改めて本件明細書に記載しなかったにすぎない。
(エ)被告の主張(ア)eについては,否認ないし争う。次のとおり,乙17実験,乙31実験及び乙26実験は,いずれも,適切な実験とは言い難いものである。
aイオン交換クロマトグラフィーによる比較実験(a)乙17実験について被告は,乙17実験で用いたカラムは分子ふるいの要素を有しているので,上記実験結果から,燕窩の酵素分解物と燕窩の含水溶剤抽出物との間には,分子量的な差が存在するものと推測することができると主張する。
しかしながら,イオン交換クロマトグラフィーによる分離の原理は,分子ふるい効果によるものではなく,イオンの交換吸着性の差異によるものであり,得られるクロマトグラムの溶出時間は,分子量の大きさの順を示すものではないので,被告の主張は,失当である。
また,乙17実験では,燕窩を55℃から65℃の水で抽出した含水溶剤抽出物のクロマトグラムは,約30分のピークが検出されない点で,燕窩の酵素分解物のクロマトグラムとの相違が認められたものの,これは,酵素反応が通常の化学反応に比べて低い温度で達成されるため,酵素のない反応系では活性化エネルギーの差を補充するために反応温度を上げる必要があるにもかかわらず,上記含水溶剤抽出物の抽出温度と酵素分解物の反応温度を同じにするという不適切な試験方法を採ったことによるものである。
したがって,上記結果から,燕窩の酵素分解物の成分と燕窩の含水溶剤抽出物の成分が異なるものであると認定することはできない。
(b)乙31実験についてイオン交換クロマトグラフィーにより得られるクロマトグラムの, , 溶出時間が 分子量の大きさの順を示すものでないことについては前記(a)のとおりである。
また,乙31実験によっても,燕窩の酵素分解物と燕窩の含水溶剤抽出物のクロマトグラムは,いずれも,保持時間6.8分,8.5分及び33分付近にピークが認められるものであり,かかるピークの位置は各成分を示すものであるから,上記実験結果は,両者の成分が異ならないことを示している。
なお,乙31実験では,ピーク面積において両者は異なっているものの,これは,被告の主張するように含水溶剤抽出物の約80%に相当する部分が酵素分解物には含まれていない物質で占められていることを意味するものではない。原告実験と被告実験とで,試験物質作成のための原料となる燕窩や抽出温度,抽出時間等の条件の差異があることによるものである。
bSDS-PAGEによる比較実験SDS-PAGEは,分子量の違いによりタンパク質を分画するのに優れた方法である。しかしながら,糖タンパク質や酸性タンパク質など特殊なタンパク質の場合は,ラウリル硫酸ナトリウム(SDS)と結合しにくいことから,分子量の測定誤差はかなり高くなると考えられている。
したがって,糖タンパク質を主成分とする燕窩の酵素分解物及び含水溶剤抽出物の分子量に関して,本手法を用いて議論することは,失当である。
また,乙26実験で用いられた含水溶剤抽出物は,原告が甲68実験に用いた含水溶剤抽出物と抽出条件が異なるので,両者は組成を異にしていると考えられる。
したがって,仮に,乙26実験により,同実験で用いられた含水溶剤抽出物と燕窩の酵素分解物が組成を異にしていることが認められるとしても,甲68実験に用いた含水溶剤抽出物と燕窩の酵素分解物が組成を異にしていることが認められるものではない。
( )争点2(原告の損害)について2ア原告の主張被告は,平成18年5月ころから,被告製品1及び2の製造を開始し,これまでに,同製品を少なくとも各3000本販売した。
被告製品1及び2の販売価格は,いずれも2万円であり,利益率は,販売価格の30%である。
, , したがって 被告が被告製品1及び2を販売することにより得た利益は次のとおり,3600万円を下らず,原告は,本件特許権の侵害行為により,少なくとも3600万円の損害を被った。
円×本×=円20,0006,00030%36,000,000イ被告の主張原告の主張のうち,被告がこれまでに被告製品1及び2を少なくとも6000本販売したこと及び同製品の販売価格が2万円であることは認め,その余は否認ないし争う。
第3当裁判所の判断1争点1(被告製品1ないし4は構成要件A及びBを充足するか)について(1)「燕窩の含水溶剤抽出物」の意義ア本件発明の特許請求の範囲は 「燕窩の含水溶剤抽出物をスキンケア成 ,分として含有することを特徴とする化粧料」であり,本件では 「燕窩の ,含水溶剤抽出物」に燕窩の酵素分解物が含まれるか否かが争点となっている。
イそこで,特許請求の範囲に記載された「燕窩の含水溶剤抽出物」に燕窩の酵素分解物が含まれるか否かについて検討する。
(ア)「燕窩の含水溶剤抽出物」とは 『 燕窩」を「含水溶剤」で「抽 ,「出」した物』と解される 「溶剤」は 「溶媒」と同意語であり(乙4 。,5「溶液,固溶体などにおいて,溶かされたものを溶質というのに ),対し,溶かすために用いるもの「溶液において物質を溶解させるた 」,めに用いる液体」などと定義され(乙46,47「抽出」は,一般 ),的には 「固体,液体などの中のある成分を溶媒へ溶解させて分離する ,取り出す 移行させる こと と定義されていることが認められる 甲 (,)」 (37,乙9〜11,33〜35,53,54 。)また,燕窩の成分であるタンパク質は,タンパク分解酵素(エンドペプチダーゼ)によって加水分解され,その際,酵素の基質特異性,基質の立体構造などの関係で,特定のペプチド結合だけが特異的に加水分解されることが認められる(乙24 。)そうすると,このような酵素分解物と,単に水や水と水混和性有機化合物との混合物を溶媒として燕窩から抽出した物とでは,成分組成が全く同じにはならないと推論するのが,むしろ自然であると考えられる。
(イ)一方,甲第49号証(岩波 理化学辞典 第5版)には 「抽出」に ,は 「たんに目的物質を抽出相に溶解させて抽出するほか,適当な化学 ,反応をおこさせて抽出しやすい物質に変えて抽出する場合がある」との記載が存在し,また,甲第56号証(日本生化学会編 生化学実験講座1 ,甲第57号証(日本生化学会編 生化学実験講座1 ,甲第58号 ) )証ないし63号証の各特許公報及び乙第44号証(シアル酸研究会のホームページ)等の各文献には,分解酵素を用いてタンパクや多糖を分解して可溶化し,材料から目的物質を取り出す方法についても 「抽出」 ,という用語が用いられていることが認められる。
しかしながら,甲第49号証には,単に,適当な化学反応を起こさせて抽出しやすい物質に変えた上で抽出する場合もあることが記載されているだけであって,単に「抽出」というだけで当然に,化学反応を起こして材料中の物質を取り出す場合も含まれると一般に認識されているこ(,,「」 とを認めるに足りるものではない むしろ 前記(ア)のとおり抽出は,一般的には 「固体,液体などの中のある成分を溶媒へ溶解させて ,分離する(取り出す,移行させる)こと」と定義されていることからすると,通常,単に「抽出」というだけでは,化学反応を起こして材料中の物質を取り出す方法は含まれないものと認識されていることがうかがえる。また,甲第56号証ないし63号証及び乙第44号証等の各 。)文献においては,いずれも,酵素処理による方法を用いていることが文中に明記されているものであることが認められることからすると,これらの証拠は,むしろ 「抽出」が特に酵素処理などの化学変化を起こさ ,せる場合を意味するときは,それを明記するのが一般的であることをうかがわせるものといえる。
(ウ)被告製品1ないし4にアナツバメ巣エキスとの名称が付されていることについては当事者間に争いがなく,また,甲第77号証の2によれば,被告のホームページにおいて「燕の巣エキス抽出精製プラント」などの表現がされているとの事実が認められる。
しかしながら,これらの事実は,いずれも,被告において,燕窩から加水分解の方法によって物質を取り出すこと又は取り出した物質について,抽出ないし抽出物という用語を用いた事実があることを示すにとどまり,単に「含水溶剤抽出物」といった場合に,酵素等を用いて化学変化を起こさせる方法により物質を取り出す方法をも当然に含むものであることを認めるに足りるものではない。
(エ)以上の事実にかんがみると,特許請求の範囲の「抽出」の用語から直ちに 「燕窩の含水溶剤抽出物」に燕窩の酵素分解物が含まれるもの ,と解することはできない。
イそこで,本件明細書の中の「燕窩の含水溶剤抽出物」についての記載を検討する。
, ,()。 本件明細書には 発明の詳細な説明として 以下の記載がある 甲2(ア)技術分野「本発明は化粧料および燕窩抽出物の製造方法に関する。さらに詳しくは,本発明は,スキンケア成分として,皮膚細胞におけるコラーゲン合成促進作用や保湿作用を有するとともに,皮膚に対して無害な燕窩の含水溶剤抽出物を含有するものであって,肌にしわやたるみの予防・改善,肌への弾力や張りの付与などの美容・美顔効果を有し,皮膚用として好適な化粧料,および上記燕窩の含水溶剤抽出物を効率よく製造する方法に関するものである(2頁3欄22行ないし30行) 。」(イ)背景技術「従来,使用されていたポリエーテル類や,グリセリン,ソルビトールなどの保湿剤は皮膚科学的に異質であるという欠点を有しており,ま, , た 近年使用されるようになった類は天然物由来物質であるがNMF使用感が悪かったり,保湿効果に劣ったり,あるいはヒアルロン酸やコンドロイチン硫酸のように保湿性に優れているものの,高価であるなどの欠点を有し,必ずしも充分に満足しうるものではなかった。
また,肌のしわは,皮膚が水分を保持できなくなるとコラーゲンやエラスチンが減少することで発生することが知られている。したがって,皮膚細胞におけるコラーゲンの合成促進物質や,過剰なエラスチン分解酵素の産生を抑制する物質は,前記保湿剤とともに,皮膚の老化を防止するのに有効である。
したがって,優れた保湿性を有し,かつコラーゲンの合成促進作用などを有する上,皮膚に対して害のない新規な高機能スキンケア物質の開発が望まれていた。
,,()() 他方 燕窩は アマツバメ科のアナツバメ属ApodidaeCollocaliaに属すツバメ類が唾液または唾液と羽毛などを混ぜて固めた巣窩であって,従来,漢方薬の原料として,あるいは中華料理における食用素材として広く使用されており,また,近年では,燕窩を原料に用いた健康食品なども開発されている。しかしながら,この燕窩は,上述のように,いずれも経口利用であり,外用剤あるいは化粧料などに利用された例は,これまで知られていない(2頁4欄16行ないし4 。」1行)(ウ)発明の開示「本発明は,このような事情のもとで,保湿作用およびコラーゲン合成促進作用などを有するとともに,皮膚に対して害のない新規な高機能スキンケア成分を含有し,肌のしわや,たるみの予防・改善,肌への弾力や張りの付与などの美容・美顔効果を発揮する皮膚用として好適な化粧料を提供することを目的とするものである。
発明者らは,前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果,従来外用剤や化粧料などに利用されていない燕窩の含水溶剤抽出物が,保湿作用及びコラーゲン合成促進作用などを有するとともに,皮膚に対して無害であって,これをスキンケア成分として含有する化粧料が,その目的に適合しうること,そして,上記抽出物は,燕窩乾燥物の粉砕品を,それに対して所定の割合の含水溶剤中において,所定の温度で抽出処理したのち,必要に応じ,濃縮処理や乾燥処理することにより,効率よく製造しうることを見出し,この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
すなわち,本発明は,燕窩の含水溶剤抽出物をスキンケア成分とし,,, て含有することを特徴とする化粧料 並びに 燕窩乾燥物の粉砕品を1〜倍重量の含水溶剤中において,0〜℃の温度で分〜1000 18010時間抽出処理し,次いで場合により濃縮処理や乾燥処理すること 50を特徴とする燕窩の含水溶剤抽出物からなるスキンケア剤または化粧料の素材の製造方法を提供するものである(2頁4欄43行ない 。」し3頁5欄16行)(エ)発明を実施するための最良の形態「本発明で用いられる燕窩の含水溶剤抽出物は,下記のようにして製造することができる。
まず,燕窩を粉砕しやすいように乾燥したのち,抽出が容易に行われるように,できるだけ細かく粉砕する。次いで,この燕窩乾燥物の粉砕品を,1〜倍重量,好ましくは5〜倍重量,より好ま1000 500しくは〜倍重量の含水溶剤中において,0〜℃,好まし10100 180くは室温〜℃の範囲の温度において,分〜時間,好ましく 120 1050は1〜8時間抽出処理する。この抽出処理は,常圧下および加圧下のいずれで行ってもよい。抽出装置としては,例えば加熱抽出機,高圧加熱抽出機,超臨界抽出装置,ソックスレー型抽出機,超音波抽出装置,マイクロ波抽出装置などが利用できる。
この抽出処理に用いる含水溶剤としては,例えば,水を始め,水と水混和性有機化合物との混合物が用いられる。ここで,水混和性有機化合物としては,例えばメタノール,エタノール,プロパノール,エ,, , チレングリコール プロピレングリコール ポリエチレングリコールポリプロピレングリコール,グリセリン,ソルビトールなどのアルコール類,アセトン,ジメチルケトン,メチルエチルケトンなどのケトン類,ジエチルエーテル,ジプロピルエーテル,テトラヒドロフランなどのエーテル類などが挙げられる。なお,後で説明するように,抽出を乾燥処理し,粉末として用いる場合には,上記の水混和性有機化合物としては,揮発性であればよく,特に制限はないが,濃縮物などの液状品として用いる場合には,化粧料添加剤として認可されている水混和性有機化合物を用いることが肝要である。
本発明における燕窩の含水溶剤抽出物としては,特に熱水抽出物が好適である(3頁5欄32行ないし6欄11行) 。」40 「 ,, この燕窩の含水溶剤抽出物中には 固形分換算で 通常タンパク質が〜重量%,糖質が〜重量%およびシアル酸が〜重量802060 0.115%の割合で含有されている。上記のタンパク質および糖質の多くは,糖タンパク質として存在しており,そしてシアル酸は,通常遊離の状態では存在せず,N-アセチルノイラミン酸としてシアリルオリゴ糖を形成し,糖,タンパク質の糖鎖に含まれている。すなわち,タンパク質の少なくとも一部と糖質の少なくとも一部とシアル酸とが糖タンパク質の形で抽出物中に含まれており,そして,この糖タンパク質の糖鎖には,N-アセチルガラクトサミン,ガラクトースおよびN-アセチルノイラミン酸を構成要素とするシアリルオリゴ糖が少なくとも9002700 含まれている。なお,該シアリルオリゴ糖は,分子量が〜程度であって,末端にN-アセチルノイラミン酸が配位し,2本鎖以上に分岐したヘテログリカンである。
また,前記タンパク質は,通常プロリン,セリン,ロイシン,スレ60 オニンバリンフェニルアラニンチロシンなどの中性アミノ酸 ,,,75 1525 〜重量%アスパラギン酸グルタミン酸の酸性アミノ酸〜 ,,15 重量% アルギニン リジン ヒスチジンなどの塩基性アミノ酸5〜 ,,,重量%を含有しており,その他メチオニンやシスチンなどの含硫アミノ酸を1重量%以下の割合で含有している。
この燕窩抽出物は,前記のタンパク質および糖質を主成分とし,脂質および繊維の含有量は極めて少ない。また,微量の灰分が含まれており,そして,この灰分はリン,鉄,カルシウム,ナトリウム,カリウムなどから構成されている(3頁6欄27行ないし4頁7欄5 。」行)「この燕窩抽出物は、優れた保湿作用を有するとともに、皮膚細胞におけるコラーゲン合成促進作用を有しており、これらの相乗効果によって、肌のしわやたるみの予防・改善、肌への弾力や張りの付与などの効果を発揮するとともに、肌にしっとり感を付与する。また、良好な、 。」 皮膜形成能を有しており しかも皮膚に対して極めて安全性が高い(4頁7欄6行ないし12行)上記のとおり,本件明細書では 「燕窩の含水溶剤抽出物」について, ,その製造方法,抽出処理に用いる含水溶剤の例,成分及び作用等について説明されていることが認められる。
しかしながら 「燕窩の含水溶剤抽出物」の製造方法としては 「燕窩 , ,乾燥物の粉砕品を,1〜倍重量,好ましくは5〜倍重量,より1000 500好ましくは〜倍重量の含水溶剤中において,0〜℃,好まし 10100 180くは室温〜℃の範囲の温度において,分〜時間,好ましくは1 120 1050〜8時間抽出処理する」ものであり 「抽出処理は,常圧下および加圧下 ,,, 」 のいずれで行ってもよく 抽出装置としては 加熱抽出機等が利用できること,抽出処理に用いる含水溶剤の例としては 「例えば,水を始め,水 ,と水混和性有機化合物との混合物が用いられ,水混和性有機化合物としては,メタノールなどが挙げられる」こと,成分としては 「通常タンパク ,質が〜重量%,糖質が〜重量%およびシアル酸が〜重40802060 0.115量%の割合で含有されている」こと,作用としては 「優れた保湿作用、 ,皮膚細胞におけるコラーゲン合成促進作用及び良好な皮膜形成能を有しており、皮膚に対して極めて安全性が高い」ことなどが説明されているにとどまり,燕窩の含水溶剤抽出に際し,単に目的物(燕窩中の成分)を抽出相(水や水と水混和性有機化合物との混合物)に溶解させて抽出する方法のほかに,タンパク分解酵素による加水分解反応等の化学変化を起こさせる方法も採り得ることや,このように化学変化を起こさせる方法により燕窩から取り出した物質が,燕窩から水等によって抽出した物質と同様の成分,作用を有することなどを示唆する記載は,存在しないことが認められる。
また,本件明細書中には 「含水溶剤」及び「抽出物」という用語につ ,いて,酵素を用いた加水分解のように,燕窩の中の成分に適当な化学変化を起こす場合をも含むものである旨の,格別の定義は記載されていない。
したがって 本件明細書の記載からも 特許請求の範囲に記載された 燕 , , 「窩の含水溶剤抽出物」は燕窩の酵素分解物を含むものであると解釈することは,困難である。
ウ原告は,甲68実験,甲71実験及び甲69実験の結果は,燕窩の酵素分解物と燕窩の含水溶剤抽出物の成分に差がないことを示しているから,特許請求の範囲の「燕窩の含水溶剤抽出物」には燕窩の酵素分解物を含むものと解釈すべきである旨主張する。
しかしながら,以下のとおり,これらの実験の結果は,いずれも,燕窩の酵素分解物と燕窩の含水溶剤抽出物が同一の成分を有する同一の物質であることを認めるに足りるものではない。
(ア)イオン交換クロマトグラフィーによる比較実験(甲68実験,甲71?@実験及び甲71?A実験)について証拠(甲68の2,71の1)及び弁論の全趣旨によれば,?@燕窩を60℃から95℃の範囲の水で加熱して抽出した含水溶剤抽出物,燕窩の酵素分解物及び両者の等量混合物の各クロマトグラムには,いずれも,約3分,8分,10分及び30分の4つのピークが検出されたこと甲68の2・図2〜4?A酵素添加量を基質に対し1 78% 酵 (), .(素濃度0.053%)とし,反応時間を24時間とした燕窩の酵素分解物のクロマトグラムと,酵素添加量を基質に対し17.8%(酵素濃度0.53%)とし,反応時間を48時間とした酵素分解物のクロマトグラムには,いずれも,約3分,8分,10分及び30分の4つのピークが検出されたこと(甲71の1・図1・2 ,?B所定の酵素反応時間 )終了後に酵素失活のための90℃30分間の加熱処理を行った燕窩の酵素分解物のクロマトグラムには,約3分,8分,10分及び30分にピークが検出されたのに対し,酵素失活のための加熱処理を行わなかった酵素分解物のクロマトグラムには,約3分,8分及び10分のピークは検出されたものの,約30分のピークは検出されなかったことが認められる。
そして,原告は,上記実験結果は,上記含水溶剤抽出物と酵素分解物の成分に差がなく,両者の方法による抽出物がほぼ同一であることを示すと主張する。
しかしながら,イオン交換クロマトグラフィーは,クロマトグラフィー(各種の固体又は液体を固定相とし,その一端に置いた試料混合物を適当な展開剤(移動相)で移動させて,各成分の吸着性や分配係数の差異に基づく移動速度の差を利用してこれを相互分離する技術の総称 )。
の一形式であり,イオン交換樹脂その他のイオン交換体を固定相として用い,イオン交換樹脂柱の上端に試料混合物を入れ,適当な電解質溶液で展開することによって,成分イオンを,樹脂に対する交換吸着性の差異により分離して,順に溶出するというものである(甲65,乙12の1 。)したがって,上記各実験の結果は,あくまでも,燕窩の酵素分解物と燕窩の含水溶剤抽出物の各クロマトグラムに,ピークとして観察される() , 4つの同じイオン交換 吸着 能を有する物があることを表すにすぎず両者がおよそ4つの成分だけから組成されていることや,同じイオン交換(吸着)能を有する物が同一の成分であることまで認めるに足りるものではないというべきである(なお,乙26実験及び甲69実験の結果も,燕窩の酵素分解物は明らかに4つより多い成分からなっていることを示している。。)(イ)ゲル濾過クロマトグラフィーによる比較実験(甲71?B実験)について甲第71号証の1によれば,甲71?B実験では,燕窩の酵素分解物をゲル濾過クロマトグラフィー処理すると,溶出時間8.4分,同9.242分,同11.9分で分離溶出する物を含むのに対し,原告所定の条件で得た燕窩の含水溶剤抽出物では,上記溶出時間で分離溶出する物は確認することができず,溶出時間8.025分,同9.092分,同11.692分で分離溶出する物が確認されただけであることが認められる(図5,6 。)ゲル濾過クロマトグラフィーは,3次元網目構造を持つ多孔性粒子を固定相として,その細孔への浸透性の差,すなわち分子の大小によって分離を行うものであるから(乙20 ,上記実験結果は,燕窩の酵素分 )解物と上記含水溶剤抽出物が同一の成分を有するものではないことを示すものといえる。
これに対し,原告は,前記のとおり,両者のクロマトグラムパターンに有意の差は認められないと主張する。しかしながら,分子量20万Daのβアミラーゼの溶出時間が7.967分,同6万6000Daの牛血清アルブミンの溶出時間が8.933分,同1万2400DaのチトクロムCの溶出時間が10.183分であること(甲71の1・図7〜9)に照らし,上記溶出時間の差は,有意の差でないとは認め難い(なお,ゲル濾過クロマトグラフィーの性質が上記のようなものであることからすると,仮に,ゲル濾過クロマトグラフィーによるクロマトグラムが一致したとしても,それは,あくまで,成分の分子量がおおよそ同じであることが分かるだけであって,クロマトグラムに溶出された各成分が一致することまで認めるに足りるものではない。。)(ウ)SDS-PAGEによる比較実験(甲69実験)について甲第69号証によれば,甲69実験では,燕窩の酵素分解物のレーンでは,分子量4万5000超ないし9万7200超とされる領域内がCBB染色しているのに対し,原告所定の条件で得た燕窩の含水溶剤抽出物のレーンでは,CBB染色の程度は燕窩の酵素分解物のレーンよりも小さい一方,高分子量の領域内では,CBB染色の状態が逆になっていること(写真2 ,燕窩の酵素分解物は,含水溶剤抽出物よりも,分子 )()。 量5万ないし10万超程度の成分を多く含むこと 図5 が認められるしたがって,上記実験結果は,むしろ,燕窩の酵素分解物と上記含水溶剤抽出物が同一の成分を有するものではないことを示すものといえる。
また,SDS-PAGEは,ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)が結合したタンパク質をゲル(ポリアクリルアミドゲル)中で電気泳動させるもので,ゲルの網目構造により,ほぼ分子量の大きさの違いでそれぞれのSDS結合タンパク質を分離することができるものであるから,仮に,SDS-PAGEによるタンパク質のCBB染色が一致したとしても,それは,あくまで,成分中のタンパク質の分子量がおおよそ同じであることが分かるだけで,両者の各成分が一致することまで認めるに足りるものではない。
エ以上のとおりであるから,特許請求の範囲の「燕窩の含水溶剤抽出物」に燕窩の酵素分解物が含まれると解釈することはできないというべきである。
(2)被告製品1ないし4の構成要件Aの充足性被告製品1ないし4は,いずれも燕窩の酵素分解物を含有する物であることは,前記第2の1(3)アのとおりである。
したがって,燕窩の酵素分解物が「燕窩の含水溶剤抽出物」に当たらず,構成要件Aを充足しない以上,被告製品1ないし4は,いずれも,構成要件Aを充足せず,本件発明の技術的範囲に属さないと認められる(なお,被告製品5が本件発明の技術的範囲に属さないことは,既に説示したところから明らかである。。)2結論よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 阿部正幸
裁判官 山門優
裁判官 柵木澄子