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関連審決 無効2008-800198
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成21ワ3409特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成19ワ3493特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成17ワ 785特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成19ワ3494特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成19ワ22715特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
関連ワード 承継 /  製造方法 /  新規性 /  公然実施(29条1項2号) /  頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  公知技術 /  技術的範囲 /  技術常識 /  着想 /  数値限定 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  特許発明 /  実施 /  先使用権(先使用) /  構成要件 /  業として /  差止請求(差止) /  侵害 /  販売数量(販売数) /  実施料 /  不法行為(民法709条) /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 20年 (ワ) 25354号 特許権侵害差止等請求事件
横浜市<以下略>
原告株 式会社インフア
同訴訟代理人弁護士村西大作
同訴訟復代理人弁護士小林幸夫
同 坂田洋一
同訴訟代理人弁理士江森健二
同訴訟復代理人弁理士本山敢 名古屋市<以下略>
被告株式会社デビカ
同訴訟代理人弁護士山本卓也
同 大河内將貴
同 内山史隆
同訴訟代理人弁理士浅野勝美
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2009/09/11
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求1被告は,別紙被告製品目録記載の各製品を販売してはならない。
2被告は,その本店,事務所及び倉庫に存在する別紙被告製品目録記載の各製品を廃棄せよ。
3被告は,原告に対し,7728万円及びこれに対する平成20年9月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要1本件は,軽量粘土である別紙被告製品目録記載の製品(以下,まとめて「被告製品」という。)を販売している被告に対し,原告が,被告製品は原告の有する後記「軽量粘土およびその製造方法」の特許権(以下,この特許権を「本件特許権」といい,本件特許権に係る特許を「本件特許 ,本件特許に係る特 」許請求の範囲の請求項1記載の発明を「本件特許発明1 ,同請求項2記載の 」発明を「本件特許発明2」といい,本件特許発明1及び2を併せて「本件特許発明」という )を侵害すると主張して,?@被告製品の販売の差止め(特許法 。
100条1項)及び廃棄(同条2項)を求めるとともに,?A同特許権侵害不法行為による損害賠償請求権(民法709条,特許法102条3項)に基づいて,損害賠償金7728万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成20年9月19日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
被告は,被告製品が本件特許発明構成要件を充足することを争い,抗弁として,?@特許法104条の3の権利行使の制限(新規性欠如,進歩性欠如 ,)?A先使用権(本件特許出願前の被告製品1の実施)を主張する。
また,原告は,本件特許に係る無効審判請求事件(無効2008-800198)において,本件特許発明2を訂正する旨の訂正請求をした(以下,この訂正請求に係る発明を「本件訂正発明2」という。。)2前提となる事実( ) 当事者1ア原告は,文房具,事務用品の開発,製造,販売等を目的とする株式会社である。(争いのない事実),,, 。 イ被告は文房具の製造 企画 販売 輸出入等を目的とする株式会社である(争いのない事実)( ) 本件特許権等2原告は,次の特許の特許権者である。
ア登 録 番 号特許第3597490号イ発明の名称軽量粘土およびその製造方法ウ出願日平成13年5月31日エ登録日平成16年9月17日オ特許請求の範囲【請求項1】有機中空微小球を含有する軽量粘土において,当該有機中空微小球の平均粒径を30〜150μmの範囲内の値とするとともに,添加量を,全体量に対して,0 1〜3重量%未満の範囲内の値とし,かつ,前記軽量粘土が,水.をさらに含有するとともに,当該水の添加量を,全体量に対して,65〜85重量%の範囲内の値とすることを特徴とする軽量粘土。
【請求項2】前記有機中空微小球が白色であることを特徴とする請求項1に記載の軽量粘土。
(以下,本件特許発明に係る明細書及び図面を「本件明細書」といい,その特許公報(甲2)を別紙として添付する。)(争いのない事実)( ) 構成要件の分説3ア本件特許発明1本件特許発明1の構成要件を分説すると,次のとおりである(以下,各構成要件を「構成要件1A」のようにいう。)。
【1A】有機中空微小球を含有する軽量粘土において,【1B】当該有機中空微小球の【1B1】平均粒径を30〜150μmの範囲内の値とするとともに,【1B2】添加量を,全体量に対して,0.1〜3重量%未満の範囲内の値とし,【1C】かつ,前記軽量粘土が,水をさらに含有するとともに,当該水の添加量を,全体量に対して,65〜85重量%の範囲内の値とすること【1D】を特徴とする軽量粘土。
(争いのない事実)イ本件特許発明2本件特許発明2の構成要件を分説すると,次のとおりである。
【2A】有機中空微小球を含有する軽量粘土において,【2B】当該有機中空微小球の【2B1】平均粒径を30〜150μmの範囲内の値とするとともに,【2B2】添加量を,全体量に対して,0.1〜3重量%未満の範囲内の値とし,【2C】かつ,前記軽量粘土が,水をさらに含有するとともに,当該水の添加量を,全体量に対して,65〜85重量%の範囲内の値とし,【2C 】前記有機中空微小球が白色であること ’【2D】を特徴とする軽量粘土。
(争いのない事実)( ) 被告の行為4被告は,被告製品(以下,別紙被告製品目録記載の番号1〜6のものを合わせて「被告製品1 ,番号7〜16のものを合わせて「被告製品2 ,番号1 」 」7のものを「被告製品3」という。)を紫香楽教材粘土株式会社(以下「紫香楽教材粘土」という )から仕入れ,業として販売している。(争いのない事 。
実,弁論の全趣旨)( ) 構成要件の充足5ア本件特許発明1(ア) 被告製品1被告製品1は,構成要件1Aの「有機中空微小球」の点を除き,本件特許発明1の構成要件を充足する。(争いのない事実)(イ) 被告製品2被告製品2は,構成要件1Aの「有機中空微小球」の点及び構成要件1B2の「0.1〜3重量%未満」の点を除き,本件特許発明1の構成要件を充足する。(争いのない事実)(ウ) 被告製品3被告製品3は,構成要件1Aの「有機中空微小球」の点及び構成要件1C「」, 。 の 65〜85重量% の点を除き 本件特許発明1の構成要件を充足する(争いのない事実)イ本件特許発明2(ア) 被告製品1被告製品1は,構成要件2Aの「有機中空微小球」の点を除き,本件特許発明2の構成要件を充足する。(争いのない事実)(イ) 被告製品2被告製品2は,構成要件2Aの「有機中空微小球」の点並びに構成要件2B2の「0.1〜3重量%未満」の点を除き,本件特許発明2の構成要件を充足する。(争いのない事実)(ウ) 被告製品3被告製品3は,構成要件2Aの「有機中空微小球」の点及び構成要件2C「」, 。 の 65〜85重量% の点を除き 本件特許発明2の構成要件を充足する(争いのない事実)( ) 特許無効の主張に関する事実6ア公然実施発明(ア) 株式会社大和は,遅くとも,本件特許出願前の平成12年1月に,紫香楽教材粘土から軽量粘土である「ふわふわかる〜ん」を仕入れ,これを日本国内で販売した。(乙3,4。以下,この商品に係る発明を「本件公然実施発明 ,この商品を「本件公然実施発明品」という。) 」(イ) 平成12年6月2日,被告が設立され,被告は,株式会社大和から,軽量粘土の販売を含む文房具,事務用品等の製造販売及びその関連事業を承継し,同年7月ころから,引き続き,本件公然実施発明品の販売を継続した。(乙3,4,弁論の全趣旨)イ刊行物記載発明(ア) 乙1刊行物の記載本件特許出願前に頒布された刊行物である特公平6-70734号公報(乙1。以下「乙1刊行物」という。)には,次の記載がある(なお,乙1刊行物に係る特許の出願人は,紫香楽教材粘土及び日本フィライト株式会社である。)。
?@「 特許請求の範囲】 【【請求項1】粒子中に気体を内包する軽量微小素材を主素材とし,これに合成粘結剤と,馴合液材と,添加物とを加えて構成される軽量粘土において,上記軽量微小素材が粒径1〜200ミクロンの微小中空球であり,その外殻が単一の空間を内包し,該外殻がアクリロニトリルないし塩化ビニリデンを少なくとも一成分とする共重合樹脂から形成されることを特徴とする軽量粘土 」。
?A「 第3欄29〜32行目〕本発明はこれらの課題にかんがみ,馴合 〔液材の必要料が少量でありながらも塑結がよく,また滑らかできめがママ細かく鮮明な色付けが可能であるとともに,廃棄処理も容易な軽量粘土を提供することを目的とする 」。
?B「 第4欄22〜26行〕本発明において使用される軽量微小素材は 〔光を乱反射する性質があるので,白色度の高い繊維粉と混合することにより,白色度92度(KETT光電白度計で測定)の極めて白色度の高い粘土が得られる。従って添加物として色素を加えた場合,鮮明な色付けが可能である 」。
?C「 第4欄33〜41行〕以下,本発明の軽量粘土の実施例を説明す 〔る。本発明の軽量粘土中に含まれる軽量微小素材粒子は,外殻は塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合樹脂,酢酸ビニル-アクリロニトリル共重合樹脂,メチルメタクリレート-アクリロニトリル共重合樹脂アクリロニトリル等を成分とし,気体を内包している。
そしてこの軽量微小素材粒子の粒径は1〜200ミクロン,嵩比重は0.01〜0.05に形成され,極めて軽量の微小中空球である 」。
?D「 第4欄42行目〜第5欄1行目〕本発明の軽量粘土においては, 〔軽量微小素材粉末を3〜20部(重量部),添加物としての繊維粉を10〜3部,合成粘結剤であるカルボキシメチルセルロースを10〜20部,それぞれ粉末にして混合撹拌し,均一な粉末混合物とする。一方,馴合液材として水50〜60部にポリオールエーテル粉を3〜8部添加し,撹拌分散させた水溶液を作り,前記粉末混合物に添加して混練する。ところで,軽量微小素材粉末の添加量が3部未満では,所定の目的重量に達することができず,20部を越えても軽量化は達成できるが,粘土としての性質が損なわれる 」。
?E「 第5欄13〜15行目〕馴合液材である水の添加量は50部未満 〔では粘土が硬すぎて造形作業がしにくく,60部を越えると軟化して造形性が乏しく,さらなる軽量化を達成できない 」。
?F「 第5欄16〜21行目〕以上のことから本発明の実施例では軽量 〔微小素材粉末12部,パルプ繊維粉18部,カルボキシメチルセルロース粉12部の粉末を撹拌混合し,均一な粉末混合物を製成し,別にポリオールエーテル粉5部を常温水53部に分散し,水溶液を調節して上記粉末混合物に添加し混練して製造する 」。
?G「 第6欄14〜19行目〕以上詳述したように,本発明軽量粘土に 〔よれば,水等の馴合液材の必要量が少量でありながらも塑結がよく,また滑らかできめが細かく鮮明な色付けが可能であるとともに,廃棄処理も容易な軽量粘土が提供される。軽量化の度合いが顕著であるため,運搬時の負担は大幅に軽減される 」。
(イ) 乙1発明の内容以上から,乙1刊行物には,少なくとも次の構成を有する発明(以下「乙1発明」という。)が開示されている。
「軽量微小素材粒子が,外殻は塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合樹脂,酢酸ビニル-アクリロニトリル共重合樹脂,メチルメタクリレート-アクリロニトリル共重合樹脂アクリロニトリル等を成分とし,気体を内包し, , , ており 粒径は1〜200ミクロン 嵩比重は0.01〜0.05に形成され, , 極めて軽量の微小中空球であって 軽量微小素材粉末を3〜20部(重量部)繊維粉を10〜3部,カルボキシメチルセルロースを10〜20部,水を50〜60部,ポリオールエーテル粉を3〜8部添加した100部の軽量粘土(乙1刊行物において 「重量部」の用語は 「重量% (重量百分率) 。」,,」の意味で用いられているものと認められる )。
(ウ) 乙1発明と本件特許発明との対比a本件特許発明1との一致点,「( ), 乙1発明は 構成要件1B2判決注:有機中空微小球の 添加量を. . 全体量に対して,0 1〜3重量%未満の範囲内の値とし 」のうち「0 ,1〜3重量%」の点及び構成要件1C「かつ,前記軽量粘土が,水をさらに含有するとともに,当該水の添加量を,全体量に対して,65〜85重量%の範囲内の値とすること」のうち「65〜85重量%」の点を除く構成を備えている点で,本件特許発明1と一致する。(争いのない事実)b本件特許発明2との一致点,「( ), 乙1発明は 構成要件2B2判決注:有機中空微小球の 添加量を. . 全体量に対して,0 1〜3重量%未満の範囲内の値とし 」のうち「0 ,1〜3重量%」の点,構成要件2C「かつ,前記軽量粘土が,水をさらに含有するとともに,当該水の添加量を,全体量に対して,65〜85重量%の範囲内の値とし 」のうち「65〜85重量%」の点及び構成要件 ,2C’を除く構成を備えている点で,本件特許発明2と一致する。(争いのない事実)( ) 訂正請求7ア原告は,本件特許に係る無効審判請求事件(無効2008-800198)において,平成20年12月5日,本件特許発明2を次のとおりに訂正(訂正部分は『』で示す。)する旨を求める訂正請求をした。(甲20)【2A】有機中空微小球を含有する軽量粘土において,【2B】当該有機中空微小球の【2B1】平均粒径を30〜150μmの範囲内の値とするとともに,【2B2】添加量を,全体量に対して,0.1〜3重量%未満の範囲内の値とし,【2C】かつ,前記軽量粘土が,水をさらに含有するとともに,当該水の添加量を,全体量に対して,65〜85重量%の範囲内の値とし,【2C 】前記有機中空微小球が白色『であって,前記有機中空微小球の ”反射率計で測定される視感明度(L値)を70〜99の範囲内の値とする』こと【2D】を特徴とする軽量粘土。
イ被告製品1〜3は,いずれも,構成要件2C”を充足する。(争いのない事実)3争点(構成要件の充足)( ) 「有機中空微小球」の充足1( ) 有機中空微小球の添加量「0.1〜3重量%未満」の充足 2( ) 水の添加量「65〜85重量%」の充足 3(新規性欠如)( ) 本件公然実施発明における各構成要件の開示4(進歩性欠如)( ) 有機中空微小球の添加量「0.1〜3重量%未満」の開示又は容易想到性5(6) 水の添加量「65〜85重量%」の容易想到性( ) 「有機中空微小球が白色」の開示又は容易想到性7(先使用権)( ) 本件特許出願前の被告製品1の実施8(損害)( ) 損害の額(特許法102条3項)94争点に関する当事者の主張(構成要件の充足)について( ) 争点( )(「有機中空微小球」の充足)につき11ア原告(ア) 本件特許発明の「有機中空微小球」は,有機中空微小球それ自体が使用されていればよいのであり,製品のレベルとしてどのようなものが使用されるかとは関係がない。本件明細書中にも,本件特許発明の「有機中空微小球」が後記イの被告主張にあるようなDEタイプの製品に由来するのものに限定される旨の記載や示唆は存しない。特許請求の範囲に記載された所定平均粒径の有機中空微小球を,所定量の水と共に,所定量含有すれば本件特許発明技術的範囲に含まれる。
, , (イ) 後記イの乙26試験の結果は 極めて感覚的かつ恣意的な官能判断であり本件特許発明の「有機中空微小球」がDEタイプの製品に由来するものに限定されることの根拠とはならない。
(ウ) 市場には,DEタイプの製品を製造,販売している製造メーカーが現に数社存在し,また,非水系材料を母体として有機中空微小球を配合した粘土を製造するには,DEタイプの製品を使用するしかない。現に,被告自身もそのような軽量油粘土を取り扱っている(甲23の「ふわふわ油粘土」参照)。
被告がWEタイプの製品のみを使用しているとはいえない。
イ被告(ア) 有機中空微小球には,熱膨張を加えていない未膨張のもの(U)と熱膨張を加えた膨張済みのもの(E)が存在し,また,その双方について,それぞれ,湿性のウェットタイプ(WU,WE)と,乾性のドライタイプ(DU,DE)とが存在し,これらのいずれかを使用することが本件特許出願当時の技。, , 術水準又は公知技術であった そして これらの固形成分含有割合をみるとドライタイプ(DU DE)については 99%超であり ウェットタイプ(W ,,,U,WE)については,60〜80%(WU)又は15%以下(WE)となっている。
「」 ,「」 本件特許発明における 有機中空微小球 は 膨張品における 膨張問題の解決を目的としていることからみて(本件明細書【0004 【0006】 】【0018 【0022】),未膨張品(DU,WU)を意味しておらず,膨 】張品(DE,WE)のいずれかである。さらに,被告が紫香楽教材粘土に依頼して,本件特許発明実施例1(本件明細書【0047】)に示す各成分の配合割合に従って,DEタイプの製品(「エクスパンセル551DE」)とWEタイプの製品(「エクスパンセル551WE」)を使用して粘土を製造する比較製造試験(乙26。以下「乙26試験」という。)をしたところ,WEタイプの製品を配合して製造された粘土は,べちゃべちゃでほとんど液体状のものとなり,軽量粘土とは到底いえない状態のものにしかならなかったが,DEタイプの製品を配合して製造された粘土は,通常の製造過程を経て,包装機による包装に耐えられる程度の軽量粘土となった。上記試験結果からすると,本件特許発明の「有機中空微小球」は,DEタイプの製品であるといえる。実際にも,原告は密封系の設備を使用して本件特許発明実施品である軽量粘土を製造していることを自認しているが,これは,原告が,製造過程で激しい飛散が生じるDEタイプの製品を使用しているからにほかならないと考えられる。
一方,被告は,被告製品1〜3を,WEタイプの製品を使用して製造している。
したがって,被告製品は,本件特許発明にいう「有機中空微小球」を使用しているとはいえない。
(イ) 乙26試験は,本件特許出願当時において既に存在した当業者間における技術水準を前提に実施された試験であり,官能判断ではない。軽量粘土製造に当たって,配合の際に激しい飛散が生じ,安定した製造に著しい支障を来, 。 すDEタイプの製品を使用しないことは 当業者間における技術常識である(ウ) DEタイプの製品が市場に存在するとしても,軽量「紙」粘土製造に当たっては,WEタイプを使用することが当業者間の常識であり,DEタイプの製品を使用することは著しく困難ないし不可能である。なお,被告が軽量「油」粘土で使用しているのは,DUタイプである。
( ) 争点( )(有機中空微小球の添加量「0 1〜3重量%未満」の充足)につき22 .ア原告(ア) 原告による被告製品2の分析試験(甲7。以下「甲7試験」という。)によれば,被告製品2に使用されている有機中空微小球の添加量は,全体量に対して2.8重量%である。
(イ) 後記イの乙2試験報告書は,有機中空微小球の分離手段,分離手順,分離温度,分離時間等の分離条件を何ら開示しておらず,また,1回限りの測定値を基にしていてばらつき要因を全く考慮していない。これに対して,甲7試験報告書は,有機中空微小球の分離条件につき,十分かつ具体的にきめ細かく記載しており,また,測定値についても,多数回の測定値の平均値を算出してばらつき要因を考慮している。
(ウ) 乙2試験報告書においては,有機中空微小球のポリマー定性分析(赤外分光分析法)において,有機中空微小球の構成成分となり得ないセルロース系成分が検知されているが,これは,極めて少量の室温水しか使用しなかったために有機中空微小球の分離操作が不十分であり,そのためセルロース系成分である繊維が残留していると考えるのが妥当である。そうすると,乙2試験は,有機中空微小球の分離操作が不十分であった可能性が高い。
(エ) 甲7試験の予備実験においては,所定量のタルクを使用し,有機中空微小球の添加量を2 7重量部としているが,いずれも本件特許発明の技術的範.囲内の実施態様である。また,DEタイプの製品を使用したからといって添加量を正確に測定できないなどということもない。
イ被告(ア) 財団法人化学物質評価研究機構による被告製品2の分析試験(乙2。以下「乙2試験」という )によれば,被告製品2に使用されている有機中空微 。
小球の添加量は,全体量に対して3 6重量%である。
.(イ) 財団法人化学物質評価研究機構による乙2試験報告書の補足説明である報告書(乙22)には,乙2試験における有機中空微小球の分離手段及び分離手順,分離温度,分離時間等の諸条件を開示しているほか,同報告書によれば,乙2試験では,1試料につき同時に2回測定を行い,その平均値をとったことが分かる。
(ウ) 乙2試験は,化学製品一般において採用される試験条件の下,適正かつ十分な分離操作を経た上で添加量の測定が行われているのであり,セルロース系成分が検知されていたからといって,有機中空微小球の分離操作が不十分であったということはない。
(エ) 甲7試験の予備実験において測定試料として作成された軽量粘土は,本件特許発明に記載されていない成分であるタルクが20 3重量部配合されて.いる。また,上記予備試験では,混練の過程で激しい飛散が生じてしまうことが不可避なDEタイプの有機中空微小球(「エクスパンセル551DE」), 。 を2 7重量部配合したとあるがこれを正確に配合できたかは疑問である.したがって,予備試験は信用に値しないものであり,本試験も信用できないものである。
( ) 争点( )(水の添加量「65〜85重量%」の充足)につき33ア原告(ア) 神奈川県産業技術センターによる被告製品3の分析試験(甲8。以下「甲8試験」という。)によれば,被告製品3に使用されている水の添加量は,全体量に対して65.3重量%である。
(イ) 後記イの乙17試験報告書は,加熱減量法による水の含有量の測定条件について,加熱条件として「105℃,6日間」と記載しているものの,他の測定条件については開示がない。これに対して,甲8試験報告書は,軽量粘土の加熱条件のみならず,軽量粘土の試料量,形態(厚さ,形状),乾燥後の放冷条件についても正確に記載している。
(ウ) 乙17試験は,軽量粘土の加熱条件を,105℃,6日間としているが,この条件は,ポリマー成分の熱分解や,低分子量物の揮発等のおそれを生じさせる過剰な条件であって,誤差要因が大きくなる。
後記イの被告主張にある「化学製品の減量及び残分試験方法(JISK0067)」は,所定温度での2時間の加熱乾燥を実施した後,放冷して秤量し,その後は,恒量になるまで,1時間の加熱乾燥と放冷後の秤量を繰り返すというものであり,熱分解し易い配合成分や低分子量の配合成分を含む軽量粘土において,6日間にわたるような異常な乾燥加熱を継続することを想定しているものではない。
(エ) 甲8試験における50℃,24時間という加熱条件は,分析の専門公的機関である神奈川県産業技術センターが設定したものであり,何ら恣意的なものではなく,また,実際,水の添加量を安定的に測定できる条件でもある。
イ被告(ア) 財団法人化学物質評価研究機構による被告製品3の分析試験(乙17。以下「乙17試験」という )によれば,被告製品3に使用されている水の添 。
加量は,全体量に対して62 8重量%である。
.(イ) 乙17試験報告書の補足説明である報告書(乙22)には,軽量粘土の試料量,形態,乾燥後の放冷条件等の測定条件が記載されている。
(ウ) 軽量粘土を試験対象とする定型的な成分分析試験の方法は存在せず,化学製品一般についての成分分析試験の方法を採用するのが通常であるところ,乙17試験は,公的な試験所であり,第三者的な立場である財団法人化学物質評価研究機構が日本工業規格の「化学製品の減量及び残分試験方法(JISK0067)」に従って試験を行ったものであり,妥当なものである。
(エ) 甲8試験の50℃という加熱条件の設定は,何ら根拠のない恣意的なものである。
(新規性欠如)について( ) 争点( )(本件公然実施発明における各構成要件の開示)につき44ア被告(ア) 本件公然実施発明品は,有機中空微小球を含有する軽量粘土であるから,本件公然実施発明と本件特許発明とは,構成要件1A及び1D並びに2A及び2Dの点で一致する。
(イ) 本件公然実施発明品の有機中空微小球の平均粒径は,40〜120μmであるから,本件公然実施発明と本件特許発明とは,構成要件1B及び1B1並びに2B及び2B1の点で一致する。
(ウ) 本件公然実施発明品の有機中空微小球の添加量は,1 4重量%であるか .ら,本件公然実施発明と本件特許発明とは,構成要件1B及び1B2並びに2B及び2B2の点で一致する。
(エ) 本件公然実施発明品の水分量は,75 6重量%であるから,本件公然実.施発明と本件特許発明とは,構成要件1C及び2Cの点で一致する。
(オ) 本件公然実施発明品は白色であるから,本件公然実施発明と本件特許発明とは,構成要件2C’の点で一致する。
(カ) 紫香楽教材粘土は,商品名ごとに成分内容,配合割合等を定めているのであるから,その商品名が同一であれば成分内容及び配合率も同一である。したがって,本件公然実施発明品と乙2で分析された被告製品1とは同一構成の製品である。
イ原告実際に分析された被告製品1と本件公然実施発明品とは,名称こそ「ふわふわかる〜ん」として共通するものの,単なる納品書や売上伝票の記載をもって本件公然実施発明品の構成が明らかになるものではなく,両者が同一の構成を有することについて何らの証明がない。
(進歩性欠如について)( ) 争点( )(有機中空微小球の添加量「0 1〜3重量%未満」の開示又は容易55 .想到性)につきア被告(ア) 有機中空微小球の添加量について,乙1発明の「3〜20部(重量部)」との構成と本件特許発明の「0.1〜3重量%未満」との構成とは 「3」の ,点で一致している。
すなわち,乙1発明は,紫香楽教材粘土において,当時最軽量であった500gの製品と同一の体積にして製品重量200gの軽量粘土を製造するという販売政策上の目的を達成すべく,当該目的重量を達成するための軽量微小素材の配合割合と各原料の全体比の調整の結果として,3〜20重量部という数値を導き出したにすぎず,その数値自体は,乙1発明の「軽量化」という目的と直接的な関係があるものではない。
したがって,本件特許発明における「3重量%未満」と乙1発明における「3重量部」とは,有意差のない相違があるにすぎず,実質的意義において一致している。
(イ) 仮に乙1発明の「3〜20部(重量部 」と本件特許発明の有機中空微小 )球の添加量「0 1〜3重量%未満」とが一致しないとしても,上記(ア)のよ.うな事情からすると 「3重量%未満」とすることは,当業者において容易 ,に想到できるところである。
(ウ) 粘土製造業者においては,軽量粘土を製造するに際して配合する軽量微小素材として,WEタイプの製品を使用することが技術水準である。そして,軽量微小素材である「EXPANCELWE」及び「EXPANCELDE は いずれも粉末状の形状を有している そうすると 乙1発明の 軽 」 , 。,「量微小素材粉末」とは,WEタイプの製品を指しているものと解される。
そこで,3重量部を基準とし,その前後0 2部添加量を増減させて,乙.(。「」 1発明の配合割合に従って粘土を製造した試験 乙34 以下 乙34試験という )を行ったところよれば,両者の体積,硬度,色,手触りの諸点に 。
おいて,同等の数値,結果を示す形成品が得られた。
イ原告(ア) 本件特許発明は,その数値範囲を「0 1〜3重量%未満」として,乙1.発明の「3重量%」を排除しているのであるから,両者の構成は,数学的に一致しないことが明らかである。
製品重量500gの粘土を製品重量200gの製品重量に変えるという販売政策上の目的と軽量微小素材粉末の添加量との間には,通常何ら関係がない 「軽量微小素材粉末」が軽量化材である以上,その添加量と「軽量化」 。
との間には直接的かつ密接な関係がある。
(イ) 本件特許発明数値限定発明であり,有機中空微小球の添加量を「0 1.〜3重量%未満」とする構成を採ることにより,所定の平均粒径とあいまって,一定の造形性や軽量性等が得られる一方,膨張問題を解消した優れた保管性が得られるという課題解決を得たものであり,有機中空微小球の添加量は極めて重大な技術的意義を有しており(本件明細書【0006 【000 】7 【0010 【0014 【0018 【0022 【0023 【005 】】】】】】4 【0062】図1,図2参照) 「3重量%未満」という数値限定は,軽 】 ,量粘土の膨張性や軽量性に対して,臨界的意義を有している。
一方,乙1刊行物には,有機中空微小球の添加量について 「 2頁右欄 ,〔下から2〜1行目〕軽量微小素材粉末の添加量が3部未満では,所定の目的重量に達することができず 」と記載されており,乙1発明が「3重量%未 ,満」を積極的に排除していることは明らかである。したがって,有機中空微小球の添加量を「0 1〜3重量%未満」とすることは,当業者に容易に想.到できることではない。
(ウ) 乙34試験で使用された軽量微小素材は,WEタイプの製品であり,相当量の水(85重量%)を含むが,乙1発明の「軽量微小素材」に水が含まれる旨の記載は乙1刊行物にはなく,むしろ,単に「軽量微小素材粉末」と記載しているから,水を含まない「軽量微小素材」であるDEタイプの製品を使用していると考えるのが自然である。したがって,乙34試験は,乙1発明の軽量粘土に基づく試験であったとは考えられない。したがって,この試験に基づいて 「3重量%未満」と「3重量部」との間に有意差がないという ,ことはできない。
(6) 争点(6)(水の添加量「65〜85重量%」の容易想到性)につきア被告(ア) 乙1発明の「水50〜60部」を,特定条件の場合に最も適合するように本件特許発明の水の添加量「65〜85重量%」に調整することは,単なる最適条件化であり,当業者にとって容易である。
(イ) 乙1発明の「軽量微小素材」としては,粘土製造に当たって当業者が当然の前提とするWEタイプの製品が使用されていたと考えられる。そこで,乙1発明の数値範囲に含まれる実験例として,軽量微小素材12部,カルボキシメチルセルロース12部,広葉樹パルプ(平均繊維長1)18部,ポリmmオールエーテル粉5部,常温水53部を添加した100部の軽量粘土を製造した(以下,この軽量粘土を「実験例1」という。)。乙1発明出願当時(昭和63年11月ころ)に使用されていたWEタイプの軽量微小素材は 「エ,クスパンセル551WE」であり,これは,100g中固形分が15g,水分が85g含まれていたから 実験例1の水分量は 63 20%となる(5 ,,.3部+12部×85%)。さらに,実験例1の製造条件の下,軽量微小素材だけを平成12年ころから市販され現在に至っている,100g中固形分が10g,水分が90g含まれている「エクスパンセル053WEアドバンセル」を使用した100部の軽量粘土を製造すると(以下,この軽量粘土を「実験例2」という。),実験例2の水分量は,63 80%となる(53部.。, , +12部×90%) また 実験例2で使用した軽量微小素材を8 9部とし .そのほかは,カルボキシメチルセルロース10 3部,広葉樹パルプ(平均繊 .維長1)11 9部,ポリオールエーテル粉3 7部,常温水65 2部をmm. ..添加した100部の軽量粘土を製造すると(以下,この軽量粘土を「実験例3」という。),実験例3の水分量は,73 21%となる(65 2部+8 9...部×90%)。
このように,粘土製造に当たって水分量は適宜調整可能であるとともに,軽量微小素材の含有する水分を加えて換算してみると,本件特許発明の水分量との差はごくわずかなものにすぎなくなるか,あるいは本件特許発明の数値範囲に含まれることになる。したがって,水の添加量は,当事者が適宜に最適比率で調合される,単なる設計事項にすぎない。
イ原告(ア) 本件特許発明は,水の添加量を「65〜85重量%」とする構成を採ることにより,一定の造形性等が得られる一方,有機中空微小球の添加量等もからんで,所定の発色性が得られ,さらに,膨張問題を解消して優れた保管性が得られるという課題解決を得たものであり,水の添加量は,有機中空微小球の添加量等と並んで極めて重大な技術的意義を有している(本件明細書 0【033 【0058 【0062】)。一方,乙1刊行物には,水の添加量に 】】ついて「 3頁左欄14〜15行目〕60部を超えると軟化して造形性が乏 〔しく さらなる軽量化を達成できないと記載されており 乙1発明が 6 , 。」,「0重量%を超えた値」を積極的に排除していることは明らかである。したがって,水の添加量を「65〜85重量%」とすることは,当業者に容易に想到できるものではない。
(イ) 実験例1〜3において使用された「軽量微小素材」の固形分の数値の根拠は見られないし,また,乙1刊行物にもこれら数値は記載されていない。乙1発明の「軽量微小素材」に水が含まれる旨の記載は乙1刊行物にはなく,むしろ「軽量微小素材粉末」と記載しているから,水を含まない「軽量微小素材」であるDEタイプの製品を使用していると考えるのが自然である。そうすると,実験例1及び2が乙1発明の軽量粘土に基づく試験であったとは考えられない。実験例3に至っては,そもそも添加した水の量が乙1発明の数値範囲を超えている。
したがって,実験例1〜3に基づき,水の添加量が単なる設計事項であるということはできない。
( ) 争点( )( 有機中空微小球が白色」の開示又は容易想到性)につき77 「ア被告(ア) 乙1刊行物には,前提となる事実(6)イ(ア)?Bのとおり 「 第4欄22〜 ,〔26行目〕本発明において使用される軽量微小素材は光を乱反射する性質があるので,白色度の高い繊維粉と混合することにより,白色度92度(KETT光電白度計で測定)の極めて白色度の高い粘土が得られる。従って添加, 。」。 物として色素を加えた場合 鮮明な色付けが可能であるとの記載がある物体がすべての波長の可視光線を100%乱反射するとき その物体は 白 ,「色」なのであるから,乙1刊行物の上記「本発明において使用される軽量微小素材は光を乱反射する性質がある」との記載からみれば,乙1発明の軽量微小素材が「白色」であることは開示されているか,又は「白色」とすることは容易に想到できる。
(イ) また,乙1刊行物の上記記載の趣旨は,元来白色であるところの軽量微小素材を 「白色度の高い繊維粉と混合すること」で,より一層高い白色度の ,粘土となるということであり 「白色度の高い」は 「繊維粉」にかかるも ,,のの,全体の文意としては,繊維粉単体の白色度の効果を記載したものでは。,「 , ないと解される したがって 上記記載の 添加物として色素を加えた場合鮮明な色付けが可能」になるという効果の記載も,繊維粉単体の効果を意味するものではなく,白色度の高い軽量微小素材を使用したことの効果を意味するものといえる。
したがって,乙1刊行物の上記記載が,有機中空微小球の白色度と全く関係ないとか,有機中空微小球の色効果について言及していないとする解釈は誤りである。
(ウ) 上記(ア)の「(KETT光電白度計で測定)」との記載で言及されている株「 」, 式会社ケット科学研究所製の白度計(玄米・精米白度計-300)はC日本工業規格(JIS)Z8722に記載された「色の測定方法-反射及び透過物体色」に準じた測定方法を採用する機器である。そして,日本工業規格(JIS)にある他の白色度測定方法の一つである「繊維製品の白色度測定方法」(L1916)において規定される「測色計」も「JISZ8722に規定する分光測色方法・・・によるものとし」と規定されている。そうすると,白色度の測定方法は,結局のところ,日本工業規格(JIS)Z8722に記載された「色の測定方法-反射及び透過物体色」でよいのであり 「有,機中空微小球」の白色度にも適用可能な測定方法である。
イ原告(ア) 本件特許発明2においては,軽量粘土それ自体ではなく,有機中空微小球の白色性を規定したものであるところ,上記ア(ア)の記載(乙1刊行物第4欄22〜26行目)は,繊維粉の色を述べたものであって,有機中空微小球の白色度とは全く関係がない。
(イ) 乙1刊行物は,白色性に富んだ有機中空微小球を使用することにより,発色性に更に優れた軽量粘土を得ることができるという本件特許発明における有機中空微小球の色効果(本件明細書【0019 【0060 【0061】) 】】について,何ら言及するものではなく,単に,白色度の高い繊維粉を混合する効果を記載しているにすぎない。
(ウ) 乙1刊行物に記載された白色度は,KETT光電白度計によるものであって,通常,穀類の精米の程度の指標となるものであり,有機中空微小球の白色度と関連付けることはできない。
(先使用権)について( ) 争点( )(本件特許出願前の被告製品1の実施)につき88ア被告(ア) 本件公然実施発明品と被告製品1とは,その構成が同一である。
(イ) 前提となる事実(6)ア(イ)のとおりであるから,被告には先使用権がある。
(ウ) 被告に先使用権がないとしても,紫香楽教材粘土は,本件特許出願前から本件公然実施発明品の製造,販売を継続しているから,被告による被告製品1の販売行為は,紫香楽教材粘土の先使用権に基づくものである。
イ原告本件公然実施発明品と被告製品1とが同一の構成であるとの証明はない。
(損害)について(9) 争点(9)(損害の額(特許法102条3項))につきア原告(ア) 販売数量被告は,本件特許の登録日(平成16年9月17日)より後である平成17年6月以降平成20年8月31日までの間に各被告製品を次の数量販売した。
a被告製品1(a) 平成17年6月21日〜平成17年8月31日35万個(b) 平成17年9月1日〜平成18年8月31日70万個(c) 平成18年9月1日〜平成19年8月31日70万個(d) 平成19年9月1日〜平成20年8月31日35万個計210万個b被告製品2(a) 平成17年9月1日〜平成18年8月31日15万個(b) 平成18年9月1日〜平成19年8月31日20万個(c) 平成19年9月1日〜平成20年8月31日10万個計45万個c被告製品3(a) 平成17年6月21日〜平成17年8月31日3万5千個(b) 平成17年9月1日〜平成18年8月31日7万個(c) 平成18年9月1日〜平成19年8月31日7万個(d) 平成19年9月1日〜平成20年8月31日3万5千個計21万個(イ) 単価被告製品1〜3の1個当たりの単価は,350円を下らない。
(ウ) 相当実施料原告が本件特許発明実施に対し受けるべき実施料は,売上高の8%が相当である。
(エ) 算定したがって,原告は,次の額の金銭を自己が受けた損害の額として,その賠償を請求することができる。
(210万個+45万個+21万個)×350円×8%=7728万円イ被告否認する。
第3当裁判所の判断1本件事案にかんがみ,特許法104条の3の権利行使の制限(進歩性欠如)の抗弁(争点(5)〜(7))から検討することとする。
前記第2前提となる事実(6)イ(刊行物記載発明)(イ)に認定したとおり,乙1発明は 「軽量微小素材粒子が,外殻は塩化ビニリデン-アクリロニトリル共 ,重合樹脂,酢酸ビニル-アクリロニトリル共重合樹脂,メチルメタクリレート-アクリロニトリル共重合樹脂アクリロニトリル等を成分とし,気体を内包しており,粒径は1〜200ミクロン,嵩比重は0.01〜0.05に形成され,極めて軽量の微小中空球であって,軽量微小素材粉末を3〜20部(重量部),繊維粉を10〜3部,カルボキシメチルセルロースを10〜20部,水を50〜60部,ポリオールエーテル粉を3〜8部添加した100部の軽量粘土 」。
というものである。
そして,?@乙1発明と本件特許発明1とを対比すると,乙1発明は,少なくとも,構成要件1B2のうち「0 1〜3重量%」の点及び構成要件1Cのう.ち水の添加量「65〜85重量%」の点を除く構成を備えている点で,本件特, ,, 許発明1と一致し ?A乙1発明と本件特許発明2とを対比すると 乙1発明は少なくとも,構成要件2B2のうち「0 1〜3重量%」の点,構成要件2C .のうち水の添加量「65〜85重量%」の点及び構成要件2C (有機中空微 ’小球が白色であること)を除く構成を備えている点で,本件特許発明2と一致することも,上記( )イ(ウ)に認定したとおりである。
6そこで,乙1発明と本件特許発明の上記相違点に係る構成の開示又は容易想到性について,以下,順に検討することとする。
2争点( )(有機中空微小球の添加量「0 1〜3重量%未満」の開示又は容易5 .想到性)について( ) 本件特許発明は,軽量粘土全体量に対する有機中空微小球の添加量と水の添1加量を各別に数値(重量%)をもって特定しているのであるから 「有機中空 ,微小球の・・・添加量を,全体量に対して,0 1重量%〜3重量%未満」と.する構成の,有機中空微小球の重量%は,有機中空微小球それ自体のもの,すなわち,水を含まないものを意味することは,特許請求の範囲の記載から明らかというべきである。
( ) 乙1発明の「軽量微小素材粉末 「3〜20部(重量部)」につき2 」ア他方,乙1刊行物には 「微小素材」との用語が様々な文脈で使用されて ,いるので,その意義が問題となる。
ところで,乙1刊行物には,次の記載がある。
?@「 特許請求の範囲 【請求項1】粒子中に気体を内包する軽量微小素 【】材を主素材とし ・・・上記軽量微小素材が粒径1〜200ミクロンの ,微小中空球であり 」,?A「 2頁左欄34〜37行目〕粒子中に気体を内包する軽量微小素材を 〔主素材とし ・・・上記軽量微小素材がが粒径1〜200ミクロンの微 ,ママ小中空球であり 」,?B「 2頁左欄43〜45行目〕上述の構成により,上記軽量微小素材粒 〔子の表面に水等の馴合液材が浸透付着することがなくなり,微小素材粒子は含水性ないし含液性に乏しいものとなる 」。
?C「 2頁左欄49行目〜右欄3行目〕微小素材粒子の内部は気体が内包 〔される単一空間,即ち『がらんどう』であるため,内部が液体充填ないし内部まで緻密な固体である場合と比較して,本発明に係る微量微小素ママ材は著しく軽量なものとなっている 」。
?D「 2頁右欄4〜6行目〕また外殻を形成するアクリロニトリルないし 〔塩化ビニリデンは適度の弾性を有するため,粘土製造中に微小素材粒子の破砕も生じにくい 」。
?E「 2頁右欄13〜19行目〕本発明において使用される軽量微小素材 〔12部,当産業上の利用分野において一般的に配合される添加物としてのパルプ繊維粉18部,カルボキシメチルセルロース粉を典型例とする合成粘結剤12部,添加物として加えられるポリオールエーテル粉5部とした場合,馴合液材である常温水の重量比は53部に留まる 」。
?F「 2頁右欄22〜28行目〕本発明において使用される軽量微小素材 〔は光を乱反射する性質がある・・・さらに上記軽量微小素材粒子は気体を内包し,その結果粘土の内部には多くの気体が分散されている」?G「 2頁右欄33〜41行目〕以下,本発明の軽量粘土の実施例を説明 〔する。本発明の軽量粘土中に含まれる軽量微小素材粒子は,外殻は塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合樹脂,酢酸ビニル-アクリロニトリル共重合樹脂,メチルメタクリレート-アクリロニトリル共重合樹脂アクリロニトリル等を成分とし,気体を内包している。
. そしてこの軽量微小素材粒子の粒径は1〜200ミクロン 嵩比重は0 ,01〜0 05に形成され,極めて軽量の微小中空球である 」. 。
「〔 〕 , ?H2頁右欄42行目〜3頁左欄1行目 本発明の軽量粘土においては軽量微小素材粉末を3〜20部(重量部 ,添加物としての繊維粉を1 )0〜3部,合成粘結剤であるカルボキシメチルセルロースを10〜20部,それぞれ粉末にして混合撹拌し,均一な粉末混合物とする。一方,馴合液材として水50〜60部にポリオールエーテル粉を3〜8部添加, , 。 し 撹拌分散させた水溶液を作り 前記粉末混合物に添加して混練するところで,軽量微小素材粉末の添加量が3部未満では,所定の目的重量に達することができず,20部を越えても軽量化は達成できるが,粘土としての性質が損なわれる 」。
?I「 3頁左欄16〜21行目〕以上のことから本発明の実施例では軽量 〔微小素材粉末12部,パルプ繊維粉18部,カルボキシメチルセルロース粉12部の粉末を撹拌混合し,均一な粉末混合物を製成し,別にポリオールエーテル粉5部を常温水53部に分散し,水溶液を調節して上記粉末混合物に添加し混練して製造する 」。
?J「 3頁左欄22行目〜右欄1行目〕そして軽量微小素材粉末は,各粒 〔子が特有の弾性力を有するため,これが軽量粘土製造中に破壊されることはほとんどない 」。
?K「 図面の簡単な説明】第1図は本発明軽量粘土構成部材である軽量微 【小素材の断面図である 」。
( 第1図】として,2重円状のものが3つ掲載されている ) 【 。
上記記載のとおり,乙1刊行物では 「微小素材」との用語が使用されて ,いるが,それは「微小中空球」を意味していると解され,また,用語の使用が一貫しているとはいい難い部分もないではないものの,微小素材の個々の粒子に着目するときには「粒子」を付し,製造に使用する微小素材全体の粉末状の外観に着目するときには「粉末」を付しているものと解することができる。
そして,乙1発明の「軽量微小素材の粒子」は,上記?Gのとおり「塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合樹脂,酢酸ビニル-アクリロニトリル共重合樹脂,メチルメタクリレート-アクリロニトリル共重合樹脂,アクリロ, 」 ニトリル等を成分とし 気体を内包しており・・・極めて軽量の微小中空球であるから,本件特許発明の「有機中空微小球」に相当するものである。
イそこで,本件特許発明の「有機中空微小球」に相当する乙1刊行物の「軽量微小素材の粒子」について更に検討する。
一般に,軽量粘土に使用される有機中空微小球は,熱可塑性の外殻を持った球体であって,内部に少量の炭化水素を内包し,平均粒径は10〜20ミクロン前後であり,真比重は1000〜1300kg m 程度であるが,加/3熱すると,膨張して体積が劇的に増加した中空球状粒子となり,真比重が20〜70kg m 程度となることが認められる(甲19,乙24,25 。
/ )3乙1刊行物には 「 2頁右欄39〜41行目〕この軽量微小素材粒子の ,〔粒径は1〜200ミクロン,嵩比重は0 01〜0 05に形成され,極めて..軽量の微小中空球である 」との記載があり,また,乙1発明に係る公開特 。
許公報である特開平2-123390号公報(乙41)にも 「 2頁右欄 ,〔9〜18行目〕本発明に使用する熱膨張性粒子は ・・・である。本用途の ,場合は上記の粒子を加熱処理して膨張させた微小中空体を使用する 」とあ。
るから,乙1発明の「軽量微小素材の粒子」は,加熱膨張後の微小中空球粒子をいうことは明らかである。
ウところで,微小中空球粒子が膨張済みであり,軽量粘土の製造に使用される微小中空球の製品には,?@水分を含まない雰囲気で加熱させて膨張させ,ほぼ固形分のみのものであるDEタイプの製品と,?Aスチーム加熱することにより膨張させ,固形分のほか水分を70〜90重量%含むWEタイプの製品があるところ,本件特許出願当時から両方のタイプの製品が市販されていたこと,DEタイプの製品は飛散しやすく取扱いにくいこと,そのため,軽,, 量粘土の製造業者が軽量粘土(紙粘土)を製造する際には 作業性の観点から通常,上記?Aの含水のもの(WEタイプ)を用いることが認められる(甲22の【0036 ,乙36〜39,弁論の全趣旨 。 】 )したがって,上記の点を考慮すると,乙1刊行物に接した当業者は,乙1発明の「軽量微小素材粉末」としては,既存の膨張済み微小中空球製品のうち水分を70〜90重量%含む含水のもの(WEタイプ)を使用するのが適当と理解するというべきである。
エそして,乙1発明において添加する「軽量微小素材粉末」として上記含水のもの(WEタイプ)を使用すると,有機中空微小球それ自体の重量%は,次のとおり 「0 3重量%〜6重量%」となる。 ,.3(重量部)×(100重量%-90重量%)=0 3(重量部) .20(重量部)×(100重量%-70重量%)=6(重量部)( ) 容易想到性3ところで,乙1発明の「軽量微小素材粉末」として適当な含水のもの(WEタイプ)の添加量「3〜20部(重量部)」すなわち有機中空微小球それ自体の重量%「0.3重量%〜6重量%」を,本件特許発明の有機中空微小球の添加量「0 1〜3重量%未満」と変更することについての格別の技術的意義は,.本件明細書からは見いだせない。
そうすると,本件特許発明において有機中空微小球の添加量を「0 1〜3.重量%未満」としたことは,乙1発明の「軽量微小素材粉末」として適当な含水のものの添加量の数値範囲を好適なものに変更したにすぎないというべきであり,当業者が適宜行う範囲内のことというほかない。
, 「」, よって有機中空微小球の添加量を0 1〜3重量%未満としたことは.当業者が容易に想到することができたというべきである。
( ) 原告の主張につき4原告は,乙1刊行物には 「 2頁右欄49〜50行目〕軽量微小素材粉末 ,〔の添加量が3部未満では,所定の目的重量に達することができず 」と記載さ ,れているから,乙1発明の構成を本件特許発明の構成とするには阻害要因がある旨を主張する。
しかしながら,上記( )〜( )のとおり,本件特許発明の「3重量%未満」と 13いう上限値は乙1発明の「軽量微小素材粉末」として適当な含水のもの(WEタイプ)を使用した場合における軽量微小素材粒子の添加量の数値範囲に含まれているのであるから,有機中空微小球の添加量を本件特許発明の数値範囲である3重量%未満にすることに何らの阻害要因があるということはできず,原告の上記主張は,採用することができない。
3争点( )(水の添加量「65〜85重量%」の容易想到性)について6( ) 上記2にて認定説示のとおり,乙1発明の「軽量微小素材粉末」として,水 1分を70〜90重量%含む含水のもの(WEタイプ)が適当であるのは,当業者に明らかであり,その場合,乙1発明の「水50〜60部」とは,次のとおり,水を「52 1〜78重量%」添加することとなる。
.50(重量部)+3(重量部)×70 100重量%=52 1(重量部) /.60(重量部)+20(重量部)×90 100重量%=78(重量部) /一方,乙1発明の「軽量微小素材粉末」として適当な含水のもの(WEタイプ)を使用した場合の水の添加量「52.1〜78重量%」を,本件特許発明の「65〜85重量%」と変更することについての格別の技術的意義は,本件明細書からは見い出せない。
そうすると,本件特許発明において水の添加量を「65〜85重量%」としたことは,乙1発明の「軽量微小素材粉末」として適当な含水のものの添加量の数値範囲を好適なものに変更したにすぎず,当業者が適宜行う範囲内のことというほかない。
よって,水の添加量を「65〜85重量%」としたことは,当業者が容易に想到することができたというべきである。
( ) 原告は,乙1刊行物には 「 3頁左欄14〜15行目〕60部を超えると2 ,〔軟化して造形性が乏しく,さらなる軽量化を達成できない 」と記載されてい 。
るから,乙1発明の構成を本件特許発明の構成とするには阻害要因がある旨を主張する。
しかしながら,上記( )のとおり,本件特許発明の「65重量%」という下1限値は乙1発明の「軽量微小素材粉末」として含水のもの(WEタイプ)を使用した場合における水の含有量の数値範囲に含まれているのであるから,水の添加量を本件特許発明の数値範囲である65重量%以上にすることに阻害要因があるということはできず,原告の上記主張は,採用することができない。
4争点( )(「有機中空微小球が白色」の開示又は容易想到性)について7乙1刊行物の「白色度」は繊維粉の色に関する記載であり,軽量微小素材に関する記載ではないから,乙1発明が本件特許発明2の構成要件2C (有機 ’中空微小球が白色であること)を有していると認めることはできない。
しかしながら,乙1刊行物には,前記第2前提となる事実( )イ(ア)?Bのとお6り 「 第4欄22〜26行目〕本発明において使用される軽量微小素材は光 ,〔を乱反射する性質があるので,白色度の高い繊維粉と混合することにより,白色度92度(KETT光電白度計で測定)の極めて白色度の高い粘土が得られる。従って添加物として色素を加えた場合,鮮明な色付けが可能である 」と。
の記載がある。そして,光を乱反射する性質を有するものが白色に見えることは当業者にとって自明であり,また,粘土の白色度を高めて鮮明な色付けを可能とするために,繊維粉のみならず軽量微小素材にも白色度の高いものを使用することは,当業者が容易に着想することであるから,乙1刊行物は 「軽量 ,微小素材」を「白色」とすることを示唆しているというべきである。
したがって 「軽量微小素材」の粒子,すなわち有機中空微小球を「白色」 ,としたことは,当業者が容易に想到することができたというべきであり,これに反する原告の主張は,いずれも採用することができない。
5本件訂正発明2について前記第2前提となる事実( )アのとおり,原告は 「白色」を「反射率計で7 ,測定される視感明度(L値)を70〜99の範囲内の値」と訂正する旨の訂正請求をしている。
しかしながら,有機中空微小球の「白色」を,表し方としてごく一般的なL値で表し,その値を任意に70〜99の範囲内に設定したとしても,それは当業者が任意に行う設計事項にすぎず,特段の技術的意義を見いだすことはできない。
したがって,訂正後の構成要件2C”も,当業者が容易に想到できたものというべきであり,その余の構成要件が乙1発明のそれと一致又は容易想到であることは上記2,3において認定判断したとおりであるから,本件訂正発明2も当業者が乙1発明から容易に想到できたものというべきであり,無効というほかない。
6まとめ以上のとおりであるから,本件特許発明1,2及び本件訂正発明2は,いずれも,乙1発明から当業者が容易に発明をすることができたものであり,進歩性を欠く発明である。
したがって 原告は 被告に対し 本件特許権を行使することができない(特 ,,,許法104条の3)。
7結論よって,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がないから,棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 岡本岳
裁判官 中村恭
裁判官 鈴木和典