審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成12ワ7510特許権侵害差止請求事件 | 判例 | 特許 |
平成16ワ25576特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成12ワ12728特許権侵害差止請求事件 | 判例 | 特許 |
平成14ワ5107特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成11ワ3968特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 確実性 / 新規性 / 29条1項3号 / 公開性 / 情報性 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 周知技術 / 公知技術 / 技術的範囲 / 特許の有効性 / クレーム / 権利の濫用(権利濫用) / 均等 / 同一の作用効果 / 容易に想到(容易想到性) / 意識的除外(意識的に除外) / 実施 / 加工 / 間接侵害 / 構成要件 / 構成要件充足性 / 差止請求(差止) / 侵害 / 損害額 / 逸失利益 / 請求の範囲 / 変更 / |
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事件 |
平成
12年
(ワ)
16531号
特許権侵害差止等請求事件
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原告 株式会社ニデック 訴訟代理人弁護士 松本直樹 被告 ビジックスジャパン株式会社 被告 ジャパンフォーカス株式会社 被告 株式会社ジェー・エフ・シー・セールスプラン 被告ら訴訟代理人弁護士 大場正成 同 尾崎英男 同 嶋末和秀 被告ら補佐人弁理士 山本秀策 同 森下夏樹 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2001/11/13 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は,原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
1 被告ジャパンフォーカス株式会社及び被告株式会社ジェー・エフ・シー・セールスプランは,別紙物件目録記載の装置を輸入し,又は販売してはならない。 2 被告ジャパンフォーカス株式会社及び被告株式会社ジェー・エフ・シー・セールスプランは,その占有する上記装置を廃棄せよ。 3 被告らは,原告に対し,各自金7億6261万円及びこれに対する平成12年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 |
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事案の概要等
1 争いのない事実等 (1) 当事者 ア 原告は,眼科医用手術装置や眼鏡店用光学装置の製造販売を業とする株式会社である。 イ 被告ビジックスジャパン株式会社(以下「被告ビジックス」という。)は,アメリカ合衆国カリフォルニア州サンタクララに所在する米国ビジックス社の日本における子会社で,米国ビジックス社が製造する装置の日本における販売後のカスタマーサービス及び修理等を業とする株式会社である。 ウ 被告ジャパンフォーカス株式会社(以下「被告ジャパンフォーカス」という。)は,眼科医用手術装置や脳外科用機械の輸入等を業とする株式会社である。 エ 被告株式会社ジェー・エフ・シー・セールスプラン(以下「被告JFC」という。)は,被告ジャパンフォーカスの系列販売会社であり,眼科医用手術装置の販売等を業とする株式会社である。 (2) 原告の有する特許権 ア 原告は,以下の特許権(以下「本件特許権」といい,その発明を「本件発明」といい,その明細書を「本件明細書」という。)を有している。 【発明の名称】 レーザビームによるアブレーション装置およびその方法 【出願日】 平成5年1月29日 【登録日】 平成10年7月31日 【登録番号】 特許第2809959号 【特許請求の範囲】 (請求項1)(以下「装置クレーム」という。) 加工目的物を所期する形状にアブレーションするためにレーザビームを供給するレーザビーム供給手段と,レーザビームを加工目的物まで導光する導光光学系と,加工目的物に対してアブレーションする領域を変える領域変更手段と,該領域変更手段の動作を制御する制御手段とを有するアブレーション装置において,前記加工目的物のアブレーションレートに対して既知のアブレーションレートを持つレート基準物と,該レート基準物に対して第1の光学特性を持つ曲面を形成すべく前記制御手段に指示する指示手段と,前記制御手段の制御に基づいて実際に形成されたレート基準物の曲面の第2の光学特性を測定する測定手段と,該測定手段により測定された第2の光学特性を入力する入力手段と,該入力手段により入力された第2の光学特性と前記第1の光学特性の比較に基づいて加工目的物に対するアブレーションレートを算出し装置の駆動情報を較正する較正手段と,を持つことを特徴とするレーザビームによるアブレーション装置。 (請求項7)(以下「方法クレーム」という。) レーザビームによるアブレーション領域を変化させることにより,加工目的物を所期する形状にアブレーションする方法において,加工目的物のアブレーションレートに対して既知のアブレーションレートを持つレート比較物をレーザビームの光路に置く過程と,該レート基準物に対して第1の光学特性を持つ曲面を形成すべく制御して前記レート比較物に曲面を形成する過程と,該レート基準物に実際に形成された曲面の第2の光学特性を測定する過程と,測定された第2の光学特性を入力する過程と,入力された第2の光学特性と前記第1の光学特性の比較から加工目的物に対するアブレーションレートを算出する過程と,算出されたアブレーションレートに基づいて装置の駆動情報を較正する較正過程と,較正された駆動情報に基づいて加工目的物を加工する過程とからなることを特徴とするレーザビームによるアブレーション方法。 イ 本件発明の構成要件 本件発明を構成要件に分説すると,以下のとおりである。 (ア) 装置クレーム A 加工目的物を所期する形状にアブレーションするためにレーザビームを供給するレーザビーム供給手段と,レーザビームを加工目的物まで導光する導光光学系と,加工目的物に対してアブレーションする領域を変える領域変更手段と,該領域変更手段の動作を制御する制御手段とを有するアブレーション装置において, B 前記加工目的物のアブレーションレートに対して既知のアブレーションレートを持つレート基準物 と, C 該レート基準物に対して第1の光学特性を持つ曲面を形成すべく前記制御手段に指示する指示手段と, D 前記制御手段の制御に基づいて実際に形成されたレート基準物の曲面の第2の光学特性を測定する測定手段と , E 該測定手段により測定された第2の光学特性を入力する入力手段と, F 該入力手段により入力された第2の光学特性と前記第1の光学特性の比較に基づいて加工目的物に対するアブレーションレートを算出し装置の駆動情報を較正する較正手段と, G を持つことを特徴とするレーザビームによるアブレーション装置。 (イ) 方法クレーム a レーザビームによるアブレーション領域を変化させることにより,加工目的物を所期する形状にアブレーションする方法において, b 加工目的物のアブレーションレートに対して既知のアブレーションレートを持つレート比較物をレーザビームの光路に置く過程と, c 該レート基準物 に対して第1の光学特性を持つ曲面を形成すべく制御して前記レート比較物に曲面を形成する過程と, d 該レート基準物に実際に形成された曲面の第2の光学特性を測定する過程と , e 測定された第2の光学特性を入力する過程と, f 入力された第2の光学特性と前記第1の光学特性の比較から加工目的物に対するアブレーションレートを算出する過程と,算出されたアブレーションレートに基づいて装置の駆動情報を較正する較正過程と, g 較正された駆動情報に基づいて加工目的物を加工する過程とからなることを特徴とするレーザビームによるアブレーション方法。 (3) 被告らの行為 ア 被告ジャパンフォーカスは,別紙物件目録記載の装置(以下「被告製品」という。また,被告製品によるキャリブレーションの方法を「被告方法」という。)を「キャリブレーションカード」と共に輸入し,また被告JFCは,被告製品を「キャリブレーションカード」と共に日本国内で販売している。 イ 被告ビジックスは,被告製品についての日本での製品販売後のカスタマーサービス及び修理をしている。 (4) 被告製品及び被告方法の本件発明に係る構成要件充足性 上記「本件発明の構成要件」記載に係る下線部分を除き,被告製品及び被告方法は,本件発明における上記各構成要件を充足する(この点は,当事者間に争いがない。)。 (5) 本件マニュアルの記載内容と本件発明に係る構成要件との対比 「ビジックス トウェンティ/トウェンティ エキシマレーザーシステム 2020B オペレーターズマニュアル」(以下「本件マニュアル」といい,当該装置自体を「被告旧製品」という。)の記載内容と上記記載に係る本件発明の構成要件AないしD,G,同aないしd,gが合致する(この点は,当事者間に争いがない。)。 2 事案の概要 本件は,原告が,被告製品に関する被告らの行為は,本件特許権侵害行為であると主張して,被告らに対して,被告製品の輸入販売の差止め等及び損害賠償を求めている事案である。 3 本件の争点 (1) 被告製品及び被告方法が本件発明に係る請求項1及び同7記載の各技術的範囲に含まれるかどうか @被告製品及び被告方法には,本件発明にいう「レート基準物」が存在するかどうか(構成要件B,C,D,b,c,d各充足性),A被告製品及び被告方法において,加工目的物(角膜)に対するアブレーションレートを算出しているかどうか(構成要件F,f各充足性),Bレンズメータは,被告製品の一部であるか(構成要件D,d各充足性) (2) 被告製品又は被告方法は,本件発明と均等かどうか (3) 本件特許の有効性 ア 本件マニュアルが,平成11年法律第41号改正前の特許法29条1項3号(以下「改正前の特許法29条1項3号」という。)にいう「刊行物」といえるかどうか イ 本件特許に明らかな無効理由が存在するといえるかどうか (4) 被告らの行為と原告の損害額等 |
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争点に関する当事者の主張
1 争点(1)について 【被告らの主張】 (1) 被告方法 被告製品におけるキャリブレーションの方法(被告方法)は,おおむね以下のとおりである。 ア 装置を最初に設置するときに,サービスエンジニアが正確なエネルギーメータを用いて装置のエネルギー検出器を較正し,「キャリブレーション係数」を「1.0」にセットする。 イ 装置の毎起動時及び患者に対して手術を行う前に,フルーエンスキャリブレーションが実行される。フルーエンスキャリブレーションは,照射されるレーザをエネルギー検出器によって検出し,それが「目標エネルギー値」と一致するように,レーザの出力を調整することである。装置のエネルギー検出器の検出値が正確であれば,フルーエンスキャリブレーションによって照射面に実際に照射されるレーザ光のエネルギーは,「目標エネルギー値」と一致するが,エネルギー検出器の検出値は経時的に変動する可能性があり,実際の照射エネルギーは必ずしも「目標エネルギー値」と一致しない。 ウ 上記イ記載のエネルギー検出器の誤差を補正するために,球面キャリブレーションが行われる。球面キャリブレーションの内容は,おおむね以下のとおりである。 (ア)それまでの「キャリブレーション係数」の下でレーザ光をキャリブレーションカードに照射し,レンズメータによりレンズ度数の実測値を得,装置に入力する。 (イ)上記(ア)で入力された実測値が期待値である4.00±0.07Dの許容範囲を超える場合,以下の計算式により「キャリブレーション係数」を更新する。ただし,実測値が4.00±0.25Dを超える場合は,上記イの操作からやり直す。 新キャリブレーション係数 =実測値/目標値(4.00D)×前回のキャリブレーション係数 (ウ)目標値を,以下の計算式により修正する。 新目標エネルギー値 =当初の目標エネルギー値/新キャリブレーション係数 エ 「キャリブレーション係数」と「目標エネルギー値」のデータは,次に球面キャリブレーションによってそのデータが更新されるまで,フルーエンスキャリブレーションにおいて使われる。 (2) 本件発明では,アブレーションレートを算出することとしているが,ここでいうアブレーションレートは,単位当たりのレーザにより被照射物質がアブレーション(切除)される深さを意味する。 (1)の被告方法から明らかなように,被告製品においては,アブレーションレートを算出していないし,これに基づく較正を行うこともない。 したがって,被告製品及び被告方法では,キャリブレーションカードは,角膜のアブレーションレートに対し,既知のアブレーションレートを持つ「レート基準物」又は「レート比較物」ではないので,構成要件B,C,D,b,c,dを充足しない。 また,被告製品及び被告方法においては,加工目的物に対するアブレーションレートを算出し,それによって装置の駆動情報を較正していないので,構成要件F,fを充足しない。 (3) 被告製品及び被告方法においては,レンズメータは,被告製品の一部ではないので,構成要件D,dを充足しない。 【原告の主張】 被告製品におけるキャリブレーションの方法が,被告らが主張するようなものであるかどうかは,疑問があるが,そうであるとしても,被告製品及び被告方法は,次のとおり,本件発明の構成要件を充足する。 (1) 被告製品及び被告方法においては,キャリブレーションカードにテスト切除を行って,これを基にして装置を較正しており,また,後記(2)のとおり,アブレーションレートを算出しているから,キャリブレーションカードは,「レート基準物」又は「レート比較物」に該当する。 (2) 被告製品及び被告方法においては,キャリブレーション係数を算出する場合に「実測値/目標値」の比が用いられるが,これは角膜に対するアブレーションレートの相対値であるから,この比の算出が,「加工目的物に対するアブレーションレートを算出」することに該当する。 そして,被告製品においては,上記キャリブレーション係数に基づいて,レーザ光の出力を調整しているから,アブレーションレートに「基づいて装置の駆動情報を較正する」ものである。 (3) レンズメータは,被告製品の一部である。 2 争点(2)について 【原告の主張】 (1) 非本質的部分であること 本件発明は,レート基準物を使ってテスト切除を行った結果を利用しての較正というところに,その本質があり,明示的にアブレーションレートを算出することは,本質的部分ではない。 本件発明の較正方法のうち,レーザ光の強度を調整する較正方法では,明示的にアブレーションレートを算出する必要がないが,本件明細書は,これを第3の較正方法として開示している。このことは,明示的にアブレーションレートを算出する方法が,本件発明の本質的部分でないことを示している。 (2) 同一の作用効果であること 被告製品及び被告方法と本件発明の作用効果は同一である。明示的にアブレーションレートを算出しなくても,レーザ光の強度を調整することができ,同一作用効果をもたらすことができる。 (3) 容易に想到することができること 本件明細書には,第3の較正方法として,レーザ光の強度を調整する方法が示されているから,これを前提として,その場合に明示的にアブレーションレートを算出せず,比による方法を考え出すことは,極めて容易である。 (4) 公知技術から容易推考でないこと 被告製品及び被告方法は,公知技術と同一又はそれから容易に推考できたものではない。 本件マニュアルは刊行物ではなく,したがってその内容はここでいう公知技術にも当たらないから,公知技術として考慮されるべきは,本件明細書で言及されているエキシマレーザーによるアブレーション装置などであるところ,同記載から被告製品及び被告方法が容易に推考することができるということはない。 (5) 意識的に除外されたものでないこと 意識的に除外されたものというべき事実はない。 (6) 以上によると,被告製品及び被告方法と本件発明は均等である。 【被告らの主張】 (1) 本質的部分の相違及び作用効果の相違 レート基準物を使ってテスト切除を行った結果を利用して較正することは,本件特許の出願時に周知技術であったから,それが本件発明の本質ということはない。 本件発明の技術思想は,アブレーションレートが変化するという問題を,加工目的物に対する現在のアブレーションレートを測定・算出することによって解決するものであるのに対し,被告製品及び被告方法は,レーザのエネルギーが変化するという問題を,レーザのエネルギーが所定の目的値となるように制御することによって解決するものであるから,本質的部分において異なるし,同一の作用効果を得られるということもない。 本件明細書に記載されている第3の較正方法は,「測定されたアブレーションレートに基づいてレーザの出力自体を調整する方法」であるから,被告製品及び被告方法とは本質的部分において異なる。 (2) 容易に想到することができないこと 本件明細書には,比率によって装置の較正を行う旨の記載も示唆もないし,比率だけで装置の較正はできない。被告製品及び被告方法では単に比率によってレーザの強度の増減をしているのではなく,レーザが所定のエネルギー値を有するように制御している。したがって,被告製品及び被告方法は,本件発明から容易に想到することができるものではない。 3 争点(3)について 【被告らの主張】 (1) 本件マニュアルの刊行物該当性 本件マニュアルは,本件特許の出願日である平成5年1月29日よりも前に刊行されたものであって,平成3年12月18日には刊行されていた。 本件マニュアルは,米国ビジックス社が被告旧製品の購入者に対して,その付属物として提供するものであり,合衆国連邦食品医薬品管理局(FDA)が医療用機器の製造業者に各機器と共に作成を義務づけているもので,特段秘密扱いしているものではない。 本件マニュアルは,世界各国の多数の医療機関に設置される装置を取り扱う不特定多数の人に装置の構造や作業手順に関する情報を伝達するための文書であり,公開性を有するものである。 したがって,本件マニュアルは,改正前の特許法29条1項3号に規定する「刊行物」に該当する。 (2) 本件特許に係る無効理由の存在 本件マニュアルに記載されている較正方法は,本件発明における較正方法と実質的に同じである。 また,「オフタルモロジー」99巻5号中の「193-nm ArF エキシマレーザ 角膜切除手術の臨床フォローアップ」(以下「本件オフタルモロジー」という。)は,平成4年(1992年)5月に発行された文献であるところ,本件オフタルモロジーには,本件発明の各構成要件が実質上すべて開示されている。 以上によると,本件発明は,本件マニュアル記載の内容と同一であり,又は本件マニュアル及び本件オフタルモロジーの記載内容から容易に推考することができたというべきである。 したがって,本件発明には明らかな無効理由(改正前の特許法29条1項3号又は特許法29条2項違反)が存在するから,原告の本件特許権に基づく本件請求は権利濫用である。 【原告の主張】 (1) 本件マニュアルの刊行物該当性について 改正前の特許法29条1項3号にいう「刊行物」であるためには,内容自体が広く第三者に情報として流通されるべき性質(情報性)を有するものでなければならない。 本件マニュアルは,被告旧製品に添付されたものであるが,被告旧製品は,非常に高価な物であり,また,治験目的の販売に限られており,入手することは困難な状況であったこと,本件マニュアルを見る者は,装置を使用する眼科医やメンテナンスを行うオペレータのような人たちだけであること,本件マニュアルには著作権表示がなされており,その複製が禁じられていることからすると,本件マニュアルは,改正前の特許法29条1項3号に規定する「刊行物」には該当しない。 (2) 本件特許権の有効性について ア 本件マニュアルが刊行物に該当するとしても,以下に述べるとおり,本件発明に新規性,進歩性がないとはいえない。 (ア)本件マニュアルには,キャリブレーションカードを用いたテスト切除の結果の入力により自動的に較正することについての記載がない。 (イ)被告旧製品は,キャリブレーションカードを用いたテスト切除を行う前に検出器に基づいた自動調整(フルーエンスキャリブレーション)を行うので,それによってテストレンズを形成した結果は,通常-4.0±0.25Dの許容範囲内におさまるようになり,調整しなくてもそのまま手術ができるというものである。したがって,本件マニュアルに記載されているキャリブレーションカードを用いたテスト切除は,フルーエンスキャリブレーションの結果を確認しているだけで,較正を行っているとはいえない。 また,テスト切除の結果に基づいて一定の調整がされるとしても,本件マニュアル記載の方法では,第1回のテスト結果に基づいて調整したのち,第2回のテストが行われ,その結果が所定値の範囲内であれば,角膜へのレートに換算して入力が行われるのであるから,第2の光学特性と第1の光学特性の「比較」に基づいて加工目的物(角膜)に対するアブレーションレートを算出しているとはいえない。 (ウ)したがって,本件マニュアルには,構成要件E及びF,e及びfに該当する記載がないから,本件発明は,本件マニュアル記載の内容と同一であるとか,本件マニュアルの記載内容から容易に推考することができたということはない。 イ 本件オフタルモロジーには,被告旧製品におけるテスト切除が確認のためだけに行われる手順であることが説明されており,較正については記載されていない。したがって,本件発明が本件オフタルモロジーの記載内容から容易に推考することができたということはない。 4 争点(4)について 【原告の主張】 (1) 被告ジャパンフォーカス及び被告JFCの行為は,以下のアないしウの少なくとも1つに該当するので,原告は,被告ジャパンフォーカス及び同JFCに対し,差止請求権及び損害賠償請求権を有する。 ア 装置クレームの直接侵害 被告ジャパンフォーカスは被告製品を「キャリブレーションカード」と共に輸入し,また被告JFCは被告製品を「キャリブレーションカード」と共に日本国内で販売している。これらの行為は,本件特許権の請求項1の侵害行為(直接侵害行為)に当たる。 イ 装置クレームの間接侵害 被告製品は,「キャリブレーションカード」と共に使用する他には用途がないものである。「キャリブレーションカード」と共にある被告製品は,請求項1該当の物であるから,被告製品は,特許法101条1号の「その物の生産にのみ使用する物」である。したがって,被告ジャパンフォーカスや被告JFCによる被告製品の輸入や販売は,同条によって侵害とみなされる(間接侵害)。 ウ 方法クレームの間接侵害 被告製品は,「キャリブレーションカード」と共にする「レンズキャリブレーション」の手順を含む角膜手術にのみ使用するものである。そして,この角膜手術は,本件特許権の請求項7の技術的範囲に属するので,その侵害に当たる。 したがって,被告ジャパンフォーカスや被告JFCによる被告製品の輸入や販売は,特許法101条2号によって侵害とみなされる。 (2) 被告ビジックスは,被告製品についての「トレーニング」と「トータルサポート」をしている。これは,被告製品の使用のためのサポートであるから,それ自体が侵害行為であるか又は被告製品の輸入及び販売の幇助行為である。したがって,被告ビジックスは,他の2名の被告と連帯して,損害を賠償する責任がある。 (3) 原告の損害額は,以下のとおり,合計7億6261万円である。 ア 逸失利益 7億0900万円 被告らは,1998年(平成10年)に被告製品の日本での販売を開始し,現在もこれを継続しているところ,被告らは,2000年(平成12年)3月末までに,少なくとも25台の被告製品を輸入販売した。 原告の「EC-5000」は,本件発明の実施品たるエキシマレーザー角膜手術装置であるところ,原告の装置の1台当たりの利益の額は,少なくとも2836万円である。 したがって,被告らの行為により,原告は,少なくとも7億0900万円(=25台×2836万円)の損害を被った。 イ 弁護士費用 5361万円 【被告らの主張】 原告の主張はすべて争う。 |
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当裁判所の判断
1 争点(3)について まず,本件特許には,明らかな無効理由があって,本件特許権に基づく権利行使が権利濫用として許されないかどうかという点について検討する。 (1) 本件マニュアルの刊行物性について ア 改正前の特許法29条1項3号にいう「刊行物」とは,公衆に対し頒布により公開することを目的として複製された文書,図画その他これに類する情報伝達媒体であって,頒布されたものを指すと解される。 これを本件についてみると,証拠(乙1,3ないし5)及び弁論の全趣旨によると,本件マニュアルは,被告旧製品に付属した操作マニュアルであって,被告旧製品を購入した者に対してその付属物として提供されるものであること,被告旧製品を購入した者には必ず提供されていること,本件マニュアルは,被告旧製品の動作開始時や操作時に容易に見ることができるように,被告旧製品のそばに置かれることが多く,また,本件マニュアルの内容が秘密にされているという事情は存在しないこと,以上の事実が認められ,このような事実からすると,本件マニュアルは,頒布することを目的として複製された文書であって,それを見ることができる者について特段制限があったとも認められず,また,実際に頒布されているから,上記法条に規定する「刊行物」に該当すると解するのが相当である。 この点,原告が主張するように,被告旧製品が高価であって,実際上入手する者が限られており,また,本件マニュアルを見る者は,装置を使用する眼科医やメンテナンスを行うオペレータなどであるとしても,このような事情をもって,「刊行物」に該当しないということはできない。また,本件マニュアルに著作権表示がされ,その複製が禁じられていることも,本件マニュアルが「刊行物」に該当するかどうかを左右するものということはできない。したがって,この点に関する原告の主張は理由がない。 イ そして,証拠(乙4)及び弁論の全趣旨によると,本件マニュアルは,遅くとも平成3年12月18日には現時点における内容に改訂され刊行頒布されていたものと認められる。 (2) 争いのない事実並びに証拠(甲26,28,乙1,4,6)及び弁論の全趣旨によると,以下の事実が認められる。 ア 本件マニュアルの記載内容 (ア)本件マニュアルは,被告旧製品の装置の構成と,操作手順を述べた説明書であり,全体が12の章と付属書AないしMから構成されている。 (イ)本件マニュアル中の「第8章」は,「ソフトウェア」の説明に関する章で,コンピュータ制御されたシステムであるPTK(治療的角膜切除術)及びPRK(角膜屈折矯正手術)をユーザーが操作する上で必要な内容に関する説明がされている。PTK及びPRKの各々の操作について,治療に必要なデータを入力する治療パラメータウィンドウと呼ばれる画面があり,画面上での入力データの説明が記述されており,その入力データの中に「パルス当りの深さ-基質」(Depth per pulse-stroma)という名称のデータがある。 (ウ) 第8章中の「パルス当りの深さ-基質」部分の記載内容(8頁部分) 「この変数はコンピュータープログラムに各レーザーパルスでどれだけの組織が除去されるかを知らせる。コンピューターは次いである深さあるいは屈折率の変化を達成するために必要なパルス数を正しく計算する。パルス当りの深さのパラメータはシステムキャリブレーションを行うことにより決定される。(第9章参照)キャリブレーションにおいてビジックス キャリブレーションカードが所定の光学パワーのレンズを形成するように切除される。キャリブレーションの順序はまず『パルス当りの深さ-基質』がパルスあたり0.27ミクロンであると仮定するところから始まる。切除の後,形成されたレンズはレンズメータで読み取られ,その光学的パワーが決定される。もしパワーが目標値よりも低いならば,『パルス当りの深さ』のパラメータを減少させる必要がある。なぜならば実際に各パルスによって除去される物質の量は,パルス当り0.27ミクロンよりも少ないからである。逆に,もし測定されたパワーが目標値よりも高ければ,『パルス当りの深さ』は増加されなければならない。これは線形関数で,もしパワーが例えば15%低ければ,あるいは高ければ,『パルス当りの深さ』を同じパーセンテージにより変化されなければならない。このキャリブレーションは更新された『パルス当りの深さ』の数値を用いて再検証される。」 「コンピューターは『パルス当りの深さ-基質』の数値として0.18〜0.35の間を受けつける。前述のキャリブレーションを行ったときに,もしキャリブレーションカードにおいて所定の光学的パワーを実現するために,『パルス当りの深さ』が0.24以下あるいは0.30以上必要であるならば,システムフルーエンスがおそらく適切に160mJ/cm2に設定されていない。フルーエンスキャリブレーションが再チェックされるべきである。もしシステムエネルギーモニターがフルーエンス160mJ/cm2を示しているならば,ビジックスのサービス部門に連絡されたい。」 「注意:キャリブレーションカードに対し決定される『パルス当りの深さ』の数値と角膜基質を切除するために使われる数値の間には補正要因が存在する。そして実際の患者の切除のためにコンピューターに入力される数値は,付属書L(キャリブレーション)におけるモノグラムにしたがって調整されなければならない。」 「この補正要因はキャリブレーションカードと人の角膜基質の間のアブレーションレートの差異を考慮したものである。」 「ウインドウの右側部分には,全深さとパルス数が表示される。全深さはミクロン単位で表示され,(発射されたパルス数)×(パルス当りの深さ)と等しい。パルス数は,実質的にはゼロまでカウントダウンするパルスカウンターである。テーブル情報が転送された後,治療を完了するために必要な全パルス数が表示される。一つのレーザパルスが発射される毎にこの数が1つずつ減る。このようにして,医者はいつ治療が完了するかを予測できる。」 (エ)第9章「治療キャリブレーション」部分の記載内容(9頁部分) (一般) 「治療キャリブレーションは日々のビジックス トウェンティ/トウェンティ エキシマレーザーシステムの電源投入毎及び各治療の開始前にエネルギーレベルと治療パラメータが正しいことを確認するために行われる。レーザーエネルギーが測定され検証され,そしてテストアブレージョンがビジックスの治療用キャリブレーションカードを用いて実施される。」 (レーザエネルギーの測定) 「8 以下の指示事項を使って,適切なフルーエンスを得るようにレーザー・エネルギーを調整する。レーザー・コントロール・パネルの『パルス・エネルギー』を押して,現在の要求エネルギー設定を決定する。パルス・エネルギーがミリジュール単位で表示される。パルス・エネルギーを変更するには: a 『パルス・エネルギー』をボタンが点灯するまで押す。 b 『エンター』を押す。操作を続ける前に,ボタンのLCDが点滅していることを確認する。 c レーザーの数字キーを使って望ましいパルスエネルギーを入力し,そして『エンター』を押す。 もしも間違った数字をキーパッドから入力した場合には,『クリア』を押して入力を抹消する。パルス・エネルギーの変更は,施術箇所での出力エネルギーを158から163mJ/cm2 に調整するのに必要なものである。第6章の『レーザー・パルス・エネルギーの設定』にさらに追加的な情報がある。 9 パルス・エネルギーを変更した後に,フルーエンス表示が158から163 mJ/cm2 の間になるまで,ステップ8を繰り返す。もしも,何回か調節してもこれができない場合には,ビジックスのサービス部門に連絡すること。」 (テスト媒体切除の測定) 「もしテストアブレーションが目視検査を合格したならば,テストカードをレンズメータにおく。焦点はもっとも小さな中央の十字のバーの見える状態である。我々はマイナス側から接近することを推奨する。レンズメーターの区間を観察する場合,焦点の測定値は-4.0D(±0.25D)でなければならない。もし測定値がこの許容範囲を超えていれば,『パルス当りの深さ』の数を上下に調整する。もし測定値が4.0D以上であれば,上方に調整し,もし測定値が4.0D以下であれば下方に調整する。(第8章『パルス当りの深さ-基質』の項参照)この調整をチェックするために,同じ手続を繰り返す。」 (オ)付属書Lは,上に「キャルカードパルス当りの深さ値」が横に記載されており,左に角膜の矯正度数が縦に記載されており,その交点に角膜に対する「パルス当りの深さ」が記載されている。 イ 本件オフタルモロジーは,平成4年(1992年)5月に発行頒布されたもので,その記載内容は,次のとおりである。 「均一な手術を確実なものとするために,レーザは各患者の治療の前に較正された。直径5.0mmの治療用アブレーション装置を通って伝達されるエネルギーはアームに組み込まれているジュールメータ(熱量計)によって測定され,レーザ出力は,測定値が31.4mJ,すなわち160mJ/cm2のフルーエンスを表わす値になるまで調整された。いかなる商業的なエネルギー検出器でも絶対的なエネルギーの検出値には少なくとも±10%の不確実性がある。従って,適正なフルーエンスとレーザシステムの全体的な動作は,ポリメチルメタアクリレートのテストブロックに標準レンズを切除し,レンズメータで読み取ることによって確かめられた。テストブロックに彫られたレンズが所定の光学パワーを有したときに,角膜のアブレーションレートの適正な値が計算され,そしてコンピュータプログラムに入力された。平均のアブレーションレートは0.31μm/パルスで0.27から0.35μm/パルスの範囲に分布した。又,レーザシステムのコンピュータプログラムは患者のIDや切除深さ,速度,直径のようなパラメータを記録するためにも使われた。」 (3)ア 前記争いのない事実からすると,本件マニュアルには,本件発明の構成要件のうち,要件AないしD,G,aないしd,gの各要件に係る内容が記載されていることが認められる。 イ 上記(2)アで認定した事実からすると,本件マニュアルには,次のような記載があることが認められる。 (ア)レーザエネルギーの測定を行いつつ,出力の調整を行い,検出器出力が所定の値になるようにする(フルーエンスキャリブレーション)。 (イ)次に,キャリブレーションカードによるテスト切除を行う。まず@「パルス当りの深さ」を設定し,Aテスト切除を行い,Bレンズメータによってカードを測定し,C測定値が目標値の許容範囲外であるときは,測定値が目標値より低い又は高いパーセントだけ「パルス当りの深さ」を修正し,D許容範囲内になるまで,@からCの操作を繰り返す。 (ウ)許容範囲内の値になった場合には,そのレンズを作成するときに設定した「パルス当りの深さ」を付属書Lの「キャルカードパルス当りの深さ値」の中から選択し,その欄を下に,所望の角膜の矯正度数を記載した行に至るまでたどり,これらの交点における数字を「パルス当りの深さ」として入力し,それに基づいてレーザのパルス数を調整して,患者の治療を行う。 ウ 上記イで認定した事実及び弁論の全趣旨によると,本件マニュアルの記載のうち,「パルス当りの深さ」は,本件発明の「アブレーションレート」に,「キャリブレーションカード」は,本件発明の「レート基準物」に,キャリブレーションカードによるテスト切除における測定値は,本件発明の「第2の光学特性」に,測定値と比較される目標値は,「第1の光学特性」にそれぞれ相当するところ,上記イで認定した事実によると,本件マニュアルには,レート基準物に対してレーザービームを照射して実際に形成された曲面の光学特性(第2の光学特性)を測定し,その測定値と目標値(第1の光学特性)を比較し,比較に基づいて加工目的物に対するアブレーションレートを算出し,そのアブレーションレートに基づいて装置の駆動情報を較正することが記載されているものと認められる。 この点について,原告は,@本件マニュアルに記載されているキャリブレーションカードを用いたテスト切除は,フルーエンスキャリブレーションの結果を確認しているだけで,較正を行っているとはいえない,A本件マニュアル記載の方法では,第1回のテスト結果に基づいて調整したのち,第2回のテストが行われ,その結果が所定値の範囲内であれば,角膜へのレートに換算して入力が行われるのであるから,第2の光学特性と第1の光学特性の「比較」に基づいて加工目的物に対するアブレーションレートを算出しているとはいえないと主張する。しかし,上記イ認定のとおり,本件マニュアルには,フルーエンスキャリブレーションの後に,キャリブレーションカードを用いた切除を行って,その結果に基づいて調整を行うことが記載されているから,本件マニュアルに記載されているキャリブレーションカードを用いたテスト切除は,フルーエンスキャリブレーションの結果を確認しているだけであるということはできない。また,上記イ認定の事実によると,原告が主張するとおり,本件マニュアルには,第1回のテスト結果に基づいて調整したのち,第2回のテストが行われることが記載されているが,第2回のテスト結果が所定値の範囲内であれば,第1回のテスト結果に基づいて測定値と目標値を比較して調整された「パルス当りの深さ」に基づいて角膜に対するアブレーションレートが算出されることが記載されているのであるから,第2の光学特性と第1の光学特性の「比較」に基づいて加工目的物に対するアブレーションレートを算出することが記載されているということができる。 なお,原告は,本件マニュアルに記載されているキャリブレーションカードを用いたテスト切除における「パルス当りの深さ」の当初の設定値は,0.27μmであり,目標値は,-4.00D(±0.25D)であるから,測定値が目標値を多少上回る-4.26Dであったときには,「パルス当りの深さ」は,0.288μmとなるが,本件マニュアルの付属書Lの「キャルカードパルス当りの深さ値」は,0.22から0.28しかないから,加工目的物に対するアブレーションレートを算出することができないと主張する。 この点について,被告は,キャリブレーションカードを用いた場合,-4.00Dに相当する「パルス当りの深さ」は,0.27μmではなく0.24μmであると主張する。この主張が正しいとすると,本件マニュアルの付属書Lの「キャルカードパルス当りの深さ値」が0.22から0.28しかないとしても,加工目的物に対するアブレーションレートを算出することができることになる。しかしながら,本件マニュアルには,上記被告の主張に係る記載はなく,かえって,上記認定したとおり,本件マニュアルには「コンピューターは『パルス当りの深さ-基質』の数値として0.18〜0.35の間を受けつける。前述のキャリブレーションを行ったときに,もしキャリブレーションカードにおいて所定の光学的パワーを実現するために,『パルス当りの深さ』が0.24以下あるいは0.30以上必要であるならば,システムフルーエンスがおそらく適切に160 mJ/cm2 に設定されていない。」との記載があることからすると,被告の上記主張を直ちに信用することはできない。そうすると,本件マニュアルの記載中に上記原告主張に係る不自然な点が存在することは否定できない。 もっとも,上記認定のとおり,本件マニュアルには,測定値と目標値を比較することにより調整された「パルス当りの深さ」に基づいて角膜に対するアブレーションレートを算出することが明確に記載されているのであるから,原告が主張するような不自然な点があるからといって,本件マニュアルには,第2の光学特性を測定し,その測定値と第1の光学特性を比較し,比較に基づいて加工目的物に対するアブレーションレートを算出し,そのアブレーションレートに基づいて装置の駆動情報を較正することが記載されていないということはできない。 エ 本件マニュアルの記載においては,上記イ認定のとおり,第2の光学特性から加工目的物に対するアブレーションレートを求める過程を手作業で行っているのに対し,本件発明においては,第2の光学特性を装置に入力し,装置が加工目的物に対するアブレーションレートを算出するという点で異なっている。そうすると,本件マニュアルには,本件発明の構成要件E,F,e,fに対応する事項が記載されているとまでいうことはできない。 しかし,一般的に手作業で行われていた処理を装置上で処理することができる場合には,装置上で処理するように試みられているものと考えられるところ,第2の光学特性から加工目的物に対するアブレーションレートを求める過程を装置に行わせることに技術的な困難性があるとは認められない。 なお,上記イ認定のとおり,本件マニュアルの記載では,第2の光学特性から加工目的物に対するアブレーションレートを求める過程で,キャリブレーションカードを用いたテスト切除(第2回目の切除)を行っているが,これは,確認のためのものであると解されるから,省略することができるものであり,それを省略することが技術的に困難であるとはいえない。 以上によると,本件発明は,本件マニュアルの記載から当業者が容易に発明することができたものであると認めるのが相当である。 オ なお,被告は,本件オフタルモロジーには,本件発明の各構成要件が実質上すべて開示されていると主張する。前記(2)イで認定した事実によると,本件オフタルモロジーには,エネルギー検出器による検出値が160mJ/cm2に相当する検出値(31.4mJ)となるようにレーザ発生装置の出力を調整すること,しかし,その検出値には少なくとも±10%の誤差があること,したがって,ポリメチルメタアクリレートのテストブロックに標準レンズを切除し,レンズメータで読み取ることで確かめられなければならないこと,テストブロックに彫られたレンズが所定の光学パワーを有したときに,角膜のアブレーションレートの適正な値が計算され,コンピュータプログラムに入力されること,以上の各事実が記載されていることが認められるが,テストブロックに標準レンズを切除し,レンズメータで読み取った値と本来得られるべき値の比較に基づいて角膜に対するアブレーションレートを算出することは記載されていないから,本件発明の構成要件F,fに対応する事項やこれらを示唆する事項が記載されているとは認められない。 (4) 以上のとおり,本件特許は,特許法29条2項に違反してされたものであるから,本件特許に,同法123条1項2号に規定する無効理由が存在することは明らかである。そして,本件においては,本件特許に関して訂正の請求がされているなどの特段の事情も認められないから,本件特許権に基づく本件請求は,権利の濫用として許されない。 2 以上の次第で,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がないから,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 森義之 |
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裁判官 | 内藤裕之 |
裁判官 | 上田洋幸 |