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事件 平成 11年 (ワ) 3968号 特許権侵害差止等請求事件
原告 東海機器工業株式会社右代表者代表取締役 【A】 右訴訟代理人弁護士 上原洋允
同 小杉茂雄 右補佐人弁理士 【B】
被告 極東産機株式会社右代表者代表取締役 【C】 右訴訟代理人弁護士 青柳ヤ子
同 美瀬克彦 右補佐人弁理士 【D】
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2000/10/19
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
事実及び理由は、別紙事実及び理由記載のとおりである。
(口頭弁論終結日 平成一二年六月三〇日)
追加
別紙第一請求1被告は、別紙物件目録(一)ないし(三)記載の物件を生産し、使用し、譲渡し、貸し渡し、又は、その譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡又は貸渡しのための展示を含む)をしてはならない。
2被告は、別紙物件目録(一)ないし(三)記載の物件及びその半製品を廃棄せよ。
3被告は、原告に対し、金5000万円及びこれに対する平成11年4月23日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要一争いのない事実等(末尾に証拠の掲記のないものは、当事者間に争いがない。)1原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、請求項1記載の発明を「本件方法発明」、請求項2記載の発明を「本件装置発明」、請求項1、2記載の発明を総称して「本件発明」という。)を有している。
特許番号第2535491号発明の名称畳のクセ取り縫着方法及び畳縫着機出願日平成5年5月11日公開日平成6年11月22日登録日平成8年6月27日特許請求の範囲【請求項1】「数値制御により自動的にクセ取り運動をする畳縫着機(10)を用いて、
畳台(4)上に締付けられている畳床(5)の下前側をクセ取り縫着する方法において、
上前側を切断縫着した畳床(5)を方向転換してその下前側を畳縫着機(10)に向けて畳台(4)上に載置した後、該畳床(5)の上前側に押付け力を付与して下前側を畳縫着機(10)に向けて移動するとき、該下前側の下前基準線(L)の位置を計算するために検出センサー53で確認した後、該下前基準線(L)から移動された畳床(5)の下前側における畳幅方向の離間隔(X0)を計算しその計算値になるように畳床(5)を押し付け、その後、前記畳床(5)を締付けてから数値制御により自動的にクセ取り縫着することを特徴とする畳のクセ取り縫着方法。」【請求項2】「数値制御により自動的にクセ取り運動をする畳縫着機(10)と、該畳縫着機(10)の側方に配置されていて直線基準定規(20)および畳床締付け手段(6)を有する畳台(4)と、を備えているものにおいて、
前記畳台(4)に、上前側を切断縫着した畳床(5)を方向転換する方向転換手段(32)と、畳床(5)の上前側を押付けて畳床(5)の下前側を畳縫着機(10)に向けて押付ける畳床押込み手段(41)と、を備えているとともに、該畳床押込み手段(41)で押付けられた畳床(5)の下前側の下前基準線(L)の位置を計算するため確認する検出センサー(53)を備えていることを特徴とする畳縫着機」(甲2、別添特許公報参照)2構成要件(一)本件方法発明は、本件発明に係る明細書(以下「本件明細書」という。)の「特許請求の範囲」によれば、次の構成要件に分説することができる(以下、分説された構成要件を、その符号に従い「構成要件A」のように表記する。なお、原・被告は、各構成要件の経時的構成について、後記第二、1のとおり考えるべきであると主張している。)。
A数値制御により自動的にクセ取り運動をする畳縫着機(10)を用いて、畳台(4)上に締付けられている畳床(5)の下前側をクセ取り縫着する方法において、
B上前側を切断縫着した畳床(5)を方向転換してその下前側を畳縫着機(10)に向けて畳台(4)上に載置した後、
C該畳床(5)の上前側に押付け力を付与して下前側を畳縫着機(10)に向けて移動するとき、該下前側の下前基準線(L)の位置を計算するために検出センサー(53)で確認した後、
D該下前基準線(L)から移動された畳床(5)の下前側における畳幅方向の離間隔(X0)を計算しその計算値になるように畳床を押し付け、
Eその後、前記畳床(5)を締め付けてから数値制御により自動的にクセ取り縫着することを特徴とする畳のクセ取り縫着方法。
(二)本件装置発明は、次の構成要件に分説することができる(以下、分説された構成要件を、その符号に従い「構成要件A′」のように表記する。)A′数値制御により自動的にクセ取り運動をする畳縫着機(10)と、該畳縫着機(10)の側方に配置されていて直線基準定規(20)および畳床締付け手段(6)を有する畳台(4)と、を備えているものにおいて、
B′前記畳台(4)に、上前側を切断縫着した畳床(5)を方向転換する方向転換手段(32)と、畳床(5)の上前側を押付けて畳床(5)の下前側を畳縫着機(10)に向けて押付ける畳床押込み手段(41)を備えているとともに、
C′該畳床押込み手段(41)で押付けられた畳床(5)の下前側の下前基準線(L)の位置を計算するため確認する検出センサー(53)を備えているD′ことを特徴とする畳縫着機。
3本件発明の作用効果は、次のとおりである。
上前側を切断縫着した畳床5は、畳台4に備えている方向転換手段32により、その下前側(クセ取り切断縫着する側)を畳縫着機10に向くように方向転換された後に、その上前側を畳床押込み手段41によって押し付けることにより、下前側が下前基準線L(下前切断位置)に位置合わせされる。
このとき、下前基準線Lの位置を計算するため検出センサー53により確認した後、該下前基準線Lから押付けられた(移動された)畳床5の下前側における畳幅方向の離間隔X0を計算しその計算値になるように畳床5を畳床押込み手段41により押し付ける。その後、畳床締付け手段6により畳床5を畳台4に固定した後、ミシン本体12を数値制御によりクセ取り運動をして下前側の切断縫着がなされる(本件明細書【0007】【0008】)。
本発明によれば、畳床の上前を切断縫着した後の下前のクセ取り切断縫着までを、数値制御による自動化を図りつつ、下前切断縫着に移行するときの方向転換及び位置決めを自動化できて省力化に寄与できる点で有益である(本件明細書【0023】)。
4被告製品・被告方法(一)被告製品(1)被告は、別紙物件目録(一)記載のコンピュータ式全自動平刺機(以下「イ号物件」という。)を製造販売している。
(2)被告は、かつて別紙物件目録(二)、(1)記載のコンピュータ式全自動平刺・返縫機(以下「ロ号物件(一)」という。)を製造販売していたが、現在では、同目録(二)、(2)記載のコンピュータ式全自動平刺・返縫機(以下「ロ号物件(二)」という。)を販売している(なお、原告は、ロ号物件(一)についても被告が現に製造販売していると主張しているが、この事実を認めるに足りる証拠はない。)。
(3)被告は、別紙物件目録(三)記載のコンピュータ式全自動平刺・返縫機(以下「ハ号物件」という。)を製造販売している。
(4)なお、原告は、イ号物件、ロ号物件(一)(二)及びハ号物件(以下、総称して「被告製品」という。)の構造及び動作は、別紙目録(一)ないし(三)のとおりであると主張するが、被告は、これらを否認し、イ号物件の概略は別紙イ号物件の説明図のとおりであると主張している。
(二)被告製品を使用した畳のクセ取り方法(以下「被告方法」という。)は、別紙被告方法目録のとおりである(ただし、原告は、被告方法目録の一部について、後記第三、二、2のとおり、訂正されるべきであると主張している。)。
5原告は、
@被告が自社工場内で「工場見学会」を開催し、被告製品を展示してデモンストレーションを行うことは、本件方法発明を業として使用する行為(本件方法発明の直接侵害)に該当するところ、被告製品は本件方法発明の実施にのみ使用されるものであるから、その製造販売は、本件方法発明の間接侵害を構成する、
A被告製品は、本件装置発明の技術的範囲に属する、
と主張し、
被告に対し、被告製品の生産、使用、譲渡、貸渡し、又は譲渡若しくは貸渡しの申出の差止め並びに被告製品及びその半製品の廃棄を求めるとともに、損害賠償として損害の内金5000万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成11年4月23日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
二争点1本件方法発明は、本件明細書の特許請求の範囲に記載された技術的事項が不明であり、技術的範囲を確定することができないものか。
2被告方法は、本件方法発明の技術的範囲に属するか。
3被告製品は、本件装置発明の技術的範囲に属するか。
4被告が原告に対し損害賠償義務を負う場合に支払うべき金銭の額。
第三争点に関する当事者の主張一争点1(本件方法発明は技術的範囲を確定することができないものか)について【被告の主張】1特許発明技術的範囲は、明細書の特許請求の範囲に基づいて定めるものであるから、特許請求の範囲の記載が不明な場合には、技術的範囲を裁判所において認定することができず、かかる一事をもって、侵害訴訟においては、特許権者のいかなる請求も認められない。
本件明細書の請求項1の特許請求の範囲の記載は、一読して内容が不明であり、以下に詳述するとおり、具体的にいかなる技術的手段によって、本件方法発明の目的である畳床の位置決めを自動的に行うことができるのか、明細書の全記載によっても不明であるから、本件方法発明は、特許請求の範囲に基づいて技術的範囲を確定することができないものである。
2原告は、本件方法発明による位置決めの「自動化は数値制御によるものであること」を大命題として、本件方法発明の技術的意義について主張しているが、
本件明細書中には、位置決めの「自動化は数値制御による」というような記載は存在しない。
特許発明技術的範囲は、願書に添付された明細書の「特許請求の範囲」の記載に基づいて定められ、その解釈に当たって参酌され得るのは、明細書の詳細な説明の記載及び添付図面である。特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の「記載」の解釈については、当業者にとって技術的に自明な事項を参酌し得るが、これは、明細書に記載されていない構成要件の付加や技術的事項の追加を許容するものではない。原告の「特許請求の範囲」の記載の解釈は、いずれも明細書に記載がないか明細書の記載と矛盾するもので、「当業者の技術常識」の名を借りて、明細書上の根拠に基づかない新たな「特許請求の範囲」を創作するものであるから、「特許請求の範囲」の解釈に当たり、かかる態度は許されない。
3構成要件Cの「該下前側の下前基準線(L)の位置を計算するために検出センサー53で確認した後」との記載について(一)本件明細書【0003】には、「下前基準線(下前切断位置)」と記載されており、これが下前基準線に関する唯一の記載であるから、「下前基準線(L)の位置」とは、「切断開始位置」としか解されない。原告の主張は明細書の記載に反しており、右主張を裏付ける明細書上の根拠は一切示されていない。
(二)原告が引用する本件明細書【0015】は「ミシン本体12の位置決め」の記載であり、クセ取り縫着される畳の位置合わせに関する記載ではない。本件明細書には、畳の位置合わせに関して、畳のいかなる部分についても「現在位置」なる概念の記載はなく、「下前基準線(L)の現在位置を求める」という記載も存在しない。
(三)特許請求の範囲の記載のうち、「検出センサー53」に関するものは、
「下前基準線(L)の位置を計算するために検出センサー53で確認した後」というのみであり、どこにも確認の対象は記載されていない。まして、原告主張のごとき「畳床5」の「現在位置」を「求めるために必要とされる物」や「Xb」などという記載はなく、原告の主張を裏付ける根拠は明細書上のどこにも存在しない。
本件明細書【0015】は、「ミシン本体12の位置決め」の記載であり、クセ取り縫着される畳の位置合わせに関する記載ではない。しかも、【0015】には、位置検出手段25からの検出信号を入力して、「前記切断開始位置を基準としたY軸方向の現在位置を数値的に算出すると共に、このY軸方向の現在位置に対するX軸方向の目標位置(設定位置)を前記切断開始位置を基準として算出する。」と記載され、「どの位置を基準とした」、「どちら方向の」、「現在位置を」、「数値的に算出」し、この「Y軸方向」の「現在位置」に対する「X軸方向」の「目標位置(設定位置)」を「前記切断開始位置を基準として」算出すると明記し、位置検出手段24からの検出信号により、「ミシン本体12のX軸方向の現在位置を定規20の寸法基準面20aを基準として計数する。」と、「何」の「どちら方向」の「現在位置」を「何を基準として」「計数する」ことが明記されている。
これに対し、検出センサー53についての明細書の記載は、特許請求の範囲と同文が繰り返される以外は、「近接スイッチ等の近接センサー53」との記載(【0021】)及び図3の「53」のみであり、「検出センサー53」が確認する対象も、右対象が「検出センサー53」によってどのように検出されるかも全く記載がなく、何であるのかも不明な「下前基準線(L)」の「どの時点」における「どこを基準とした」位置を計算するのに、「何」を検出するのかが一切不明なのである。
(四)原告主張の技術内容は明細書には一切記載されていないし、別紙参考図6も本件明細書に実施例として記載された図面ではない。そもそも、特許請求の範囲の記載は、「下前基準線(L)の位置を計算するために検出センサー53で確認した後」であり、「下前基準線の切断位置に対する現在位置」などという記載はない。また、明細書上、下前基準線Lについては「下前切断位置」としか記載がなく、「下前基準線Lの切断位置」という原告の主張は失当である。
4構成要件Dの「該下前基準線(L)から移動された畳床(5)の下前側における畳幅方向の離間隔(X0)を計算し」との記載について(一)原告は、「移動された畳床5」がどのような状態にあるかについて、
一切、技術的内容事項の主張及び技術説明をしていない。仮に、原告主張のとおり、句読点を入れて、「該下前基準線L(現在位置)から移動された、畳床5の下前側における畳幅方向の離間隔X0を計算し」と読んだとしても、「何」が「該下前基準線L(現在位置)から移動された」かは不明であり、移動された「何か」が、「畳床5の下前側における畳幅方向の離間隔(X0)を計算し」という記載といかなる関係にあるのかも不明である。また、「離間隔X0」が「該下前基準線L(現在位置)」から移動された」と読んでも意味不明である。
(二)本件明細書には、下前基準線Lと離間隔X0の記載があるのみであり、Xa、Xb、Xc、Xdに関する記載は皆無である。しかも、特許請求の範囲は、「該下前基準線(L)から移動された畳床5の下前側における畳幅方向の離間隔(X0)を計算し、その計算値になるように畳床5を押し付け」というものであり、右文言によれば、計算するのは離間隔であり、原告主張のような、移動量ではあり得ない。
【原告の主張】1明細書の「発明の詳細な説明」は、出願時にその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)がその実施をすることができる程度に記載しなければならないから(特許法36条4項)、明細書に記載された事項の技術的意義は、明細書に明示の記載がなくとも、当業者の技術常識を基に判断されなければならず、明細書に記載がなかったとしても、それが当業者において自明な事項であれば、記載されていたに等しい。
請求項1の「特許請求の範囲」は、当業者における技術常識を前提として解釈すれば明瞭であり、その技術的範囲を確定することができる。
2本件発明の技術的意義について本件発明の名称は「畳のクセ取り縫着方法及び畳縫着機」であるが、その本質は、「上前側を切断縫着した後、下前側をクセ取り縫着する場合であっても、
畳床の方向転換と位置決めを自動化することによって省力化を図ることを目的とするもの」であり(本件明細書【0004】)、その際、「畳床の方向転換と位置決めの自動化」は「数値制御」により図られる(本件明細書【0023】)。
そして、当業者の技術常識によれば、@数値制御による自動位置決め技術の基本は、「移動量=目標位置-現在位置」の関係を数値で制御することであり、
A右「現在位置」は、センサーにより検知されるから、本件方法発明の技術的範囲の解釈に当たっては、自動位置決め制御の基本である前記@Aを念頭に置いて解釈すべきであり、「数値制御により自動的にクセ取り運動をする」の意義が、畳床の方向転換と位置決めを現在位置を基準としてセンサーにより行うことをいうことは明らかである。
3構成要件Cについて(一)下前基準線とは、畳の丈の半分を意味する用語として、畳業界で慣用的に使用されており、「下前基準線(L)」の位置とは、当該畳床5の標準幅寸法Xaを上前側から図った位置をいう。本件明細書【0003】には「下前基準線(切断位置)」という記載があるが、これは、クセ量がすべてゼロの場合は、畳床5が下前基準線(L)の位置で一直線に切断されるので、「下前基準線=切断位置」となるが、クセ量X0がゼロではない(クセがある)場合には、クセ取りを行い、ジグザグ状に切断されるので、下前基準線の位置は切断位置にはならない、という意味である。
(二)「下前基準線(L)の位置を計算する」とは、「下前基準線Lの現在位置を求める」ことをいう。本件明細書【0015】には、「マイクロコンピュータ30は第2位置検出手段25からの検出信号を入力して、前記切断開始位置を基準としたY軸方向の現在位置を数値的に算出すると共に、このY軸方向の現在位置に対するX軸方向の目標位置(設定位置)を前記切断開始位置を基準として算出する。
また同時にマイクロコンピュータ30は第1位置検出手段24からの検出信号により、
ミシン本体12のX軸方向の現在位置を定規20の寸法基準面20aを基準として計数する。そしてマイクロコンピュータ30は第1位置検出手段により得たX軸方向の現在位置とX軸方向の目標位置との差がなくなるように、モータ駆動回路31を制御して、モータ14の駆動によりミシン本体12を目標位置に移動せしめる。」と記載されている。上記記載は、ミシン本体12の位置決めに関するものであるが、この位置決め技術と畳床5の位置決め技術は同じ数値制御に関するものであるから、本件明細書【0015】の記載と「下前基準線(L)の位置を計算する」とは同じことを記述している。
(三)「検出センサー53」が確認する対象は、畳床5の「現在位置」である。検出センサー53は、本件明細書【0015】の「第1位置検出手段24」や「第2位置検出手段25」と同じ機能を有しており、このことは、当業者であれば容易に理解できる。すなわち、ミシン本体12の位置制御において、「第1位置検出手段24」や「第2位置検出手段25」は、ミシン本体12のX軸方向の現在位置及びY軸方向の現在位置を検知するためのものである。同様に、畳床5の位置決め制御において、「検出センサー53」は、畳床5の現在位置を検知するためのものであり、別紙参考図6における「Xb」を求めることである。
(四)下前基準線(L)の位置は、別紙参考図6のとおり、検出センサー53が、畳床押込み手段41の所定部分を検出すると、畳床押込み手段41と切断位置との距離Xbが求められ、畳床5の上前側から下前基準線Lの距離は、当該畳床の標準寸法Xaとして既知であるから、下前基準線Lの切断位置に対する現在位置は「距離Xc=Xb-Xa」の式により求められる(本件明細書【0015】)。
4構成要件Dについて(一)「該下前基準線Lから移動された畳床5」とは、「該下前基準線(現在位置)から移動された、畳床5」というように句読点を入れて読めば理解が容易になる。
(二)「該下前基準線Lから移動された畳床5の下前側における畳幅方向の離間隔(X0)を計算し」により計算されるものは、「畳床5を位置決めするため移動させる距離(Xd)」であり、その計算方法を実施例に即して説明すれば、検出センサー53により、畳床5の下前基準線Lの現在位置(Xc=Xb-Xa)を求め、この下前基準線Lを離間隔(X0)だけ変位させて位置決めするのであるから、現在位置から畳床5を位置決めすべく移動させる距離Xdは、「Xd=Xc-X0=Xb-Xa-X0」の式により求められる。なお、右計算式は、実施例に即した説明において用いたものであり、本件方法発明がこの式に限定して解釈されるものではない。
二争点2(被告方法は、本件方法発明の技術的範囲に属するか)について【原告の主張】1(一)本件明細書【0021】の記載に照らせば、本件方法発明の構成要件は、次のA″〜E″のとおり分説されるべきである(以下「訂正後の構成要件A″」のように表記する。)。
A″数値制御により自動的にクセ取り運動をする畳縫着機(10)を用いて、畳台(4)上に締付けられている畳床(5)の下前側をクセ取りする縫着方法である。
B″上前側を切断縫着した畳床(5)を方向転換してその下前側を畳縫着機(10)に向けて畳台(4)上に載置した後、該畳床(5)の上前側に押付け力を付与して下前側を畳縫着機(10)に向けて移動する。
C″このとき、該下前側の下前基準線(L)の位置を計算するために検出センサー(53)で確認した後、該下前基準線(L)から移動された畳床(5)の下前側における畳幅方向の離間隔(X0)を計算しその計算値になるように畳床を押付ける。
D″その後、前記畳床(5)を締め付けてから数値制御により自動的にクセ取り縫着する。
E″ことを特徴とする畳のクセ取り縫着方法。
(二)本件方法発明の構成要件の経時的関係は、別紙参考図7のとおりであり、訂正後の構成要件C″が、訂正後の構成要件B″の移動のための制御内容を示すものとなり、訂正後の構成要件C″の「押付ける」と訂正後の構成要件B″の「移動する」は同じ時点を示している。したがって、検出センサーで確認する時点とは、必ずしも移動途中でなくてもよく、移動前でもよい。
2別紙被告方法のうち、3(1)及び7(1)は、次のとおり表現されるべきである(訂正部下線)。
(一)「3上前側平刺し工程」(1)畳床2を畳台1に載置し、巾寄せ20を移動させて畳を位置決めする。
床締め4が上昇して畳床2を畳台1に下から上に向かって締め付ける。巾寄せ20は、原点復帰する。この原点復帰工程において、制御装置30は、巾寄せ外端センサ22が検知した位置を巾寄せ20の原点位置として記憶する。
(二)「7Xminの位置に畳床の位置を合わせる工程」(1)畳床2の最小仕上寸法Xminの位置に、平刺しミシン10が原点位置にある場合の切断包丁11の位置が一致するように畳床2の位置を合わせて固定するために、制御装置30によって原点距離GからXminを控除して差分値Paを求め、制御装置30はPaを巾寄せ20が畳床2をミシン側へ押し込む量として記憶する。ここで、畳床2の切断開始位置が最も窪んだ位置の場合、参考図9に示す如く、Pa=G-Xmin=G-(Ks-X0)となる。
3被告は、被告方法では、畳の位置決めとして、特許第2802599号の発明(以下「被告発明」という。)を実施していると主張するが、被告発明の位置決め技術と原告発明の位置決め技術は、全く同じである。
(一)被告発明に係る明細書(乙3、以下「被告明細書」という。)の【0035】〜【0037】には、次の記載がある。
「(9)畳の回転回転座12を上昇させて畳を持ち上げ、180度回転して畳の下前側をレール4の方に向かわせる。
(10)畳の移動例えば、図7に示すように、畳の下前側のクセをとる場合には、入力されたクセのデータに基づいて、上前から最も突出している下前までの最大寸法(d)または上前から最も窪んでいる下前側までの最小寸法(c)を調べる。
そして、畳押しバー16によって畳台11上の畳をレール4方向に押し、上前から最も突出している下前までの最大寸法(d)を基準線(X1)とし、その基準線(X1)まで畳を押し出す。このときには畳ガイド15を使用しない。」(二)上記記載の「上前から最も突出している下前までの最大寸法(d)を基準線(X1)とし」は、「上前から最も窪んでいる下前までの最小寸法(c)を基準線(X2)」と読み替えられるから、被告発明において、最も窪んだ位置が図7の「A」であれば、「畳押しバー16によって畳台11上の畳をレール4方向に押し、上前から最も窪んでいる下前までの最小寸法(c)を基準線(X2)とし、その基準線(X2)まで畳を押し出す。」ということになる。
(三)被告明細書【0039】には、
「(13)平刺しミシン本体2の位置合わせ畳の框側の切断開始位置(X3)へ平刺しミシン本体2の切断刃22を一致させるように、平刺しミシン本体2を前後に移動させる。」と記載され、【0044】には、
「クセの最大寸法または最小寸法の位置を基準線(X1、X2)として畳の位置合わせを行ったのち、畳の切断開始位置(X3)へ平刺しミシン本体2の切断刃22を一致させるように、平刺しミシン本体2を前後に移動させてから下前の平刺し縫い工程に入るので、平刺しミシン本体2の移動量は、X1〜X2(図7参照)に限られ、少ない移動によりクセ取りを実施することができる。」と記載されているが、「平刺しミシン本体2の移動量はX1〜X2(図7参照)に限られる」とは、基準線X1又はX2の位置とミシン本体2の原点が一致するということである。したがって、切断位置X3が、基準線X1又はX2の位置と一致する場合、ミシン本体2は前後方向の位置合わせを行うことなく、原点位置から切断開始を行うことになる。すなわち、最も窪んだ位置が図7に示す「A」(畳の切断開始側端面)であった場合、畳は「基準線X2」に位置決めされ、その位置はミシン本体の原点かつ「切断開始位置(X3)」となる。すなわち、別紙目録(一)ないし(三)の第4図に示す状態と同じになるのであり、要するに、切断開始位置がXminとなる場合、被告方法にいう「畳常の切断開始位置へ平刺しミシンの切断包丁を一致させる工程」は行われないのである。
(四)また、「平刺しミシン本体2の移動量は、X1〜X2(図7参照)に限られ、少ない移動によりクセ取りを実施することができる」という被告発明の効果は、本件発明の効果と全く同じものである。本件発明においては、離間隔X0の位置が切断開始位置に位置決めされるので、ミシン本体は、離間隔X0、X1、X2、
X3、X4の範囲内で移動することになり、少ない移動量によりクセ取りを実施する。よって、被告発明の位置決め技術と本件発明の位置決め技術は全く同じということになる。
3被告方法においては、巾寄せ20(本件方法発明の「畳床押込み手段41」に相当する。)が原点復帰する都度、外端センサー22は、該巾寄せ20を検出し、原点距離Gを確認する。すなわち、外端センサー22による原点位置の確認は、作業の開始に当たってのみ行われるのではなく、畳床を巾寄せ20で移動させるに先駆けて、
その都度行われる。
しかして、別紙参考図9に示すように、巾寄せ20が畳床2を移動させるときには、「外端センサー22」が「巾寄せ20」を確認することにより、畳床2の下前基準線の位置が「原点距離G-基準寸法KS」として求められるから、被告方法は、
本件発明の「・・移動するとき、該下前側の下前基準線(L)の位置を計算するために検出センサー(53)で確認」という構成を有する。
4被告は、制御装置30によって原点距離GからXminを控除して差分値Paを求め、制御装置30はPaを巾寄せ20が畳床2をミシン側へ押し込む量として記憶すると主張するが、このことは、切断開始位置における離間隔X0が最小寸法の場合「Pa=G-(Ks-Xo)」という式で表される。
したがって、被告方法は、本件方法発明の「該下前基準線(L)から移動された畳床(5)の下前側における畳幅方向の離間隔(X0)を計算しその計算値になるように畳床(5)を押し付ける。」という構成を有しており、訂正後の構成要件B″、C″を充足することは明らかである。
【被告の主張】1方法特許については、工程の経時的前後の関係は極めて重大な必須構成要件となるが、本件方法特許における工程を経時的要件を含めて分説すれば、
第一工程:「上前側を切断縫着した畳床(5)を方向転換してその下前側を畳縫着機(10)に向けて畳台(4)上に載置する」。その「後」、
第二工程:「該畳床(5)の上前側に押付け力を付与して下前側を畳縫着機(10)に向けて移動するとき、
a該下前側の下前基準線(L)の位置を計算するために検出センサー(53)で確認した「後」、
b該下前基準線(L)から移動された畳床(5)の下前側における畳幅方向の離間隔(X0)を計算し、
cその計算値になるように畳床を押し付け、
第三工程:「その後、前記畳床(5)を締め付けてから数値制御により自動的にクセ取り縫着する」という工程が、その内容及び順序についても必須要件となる。
そして、右第二工程bにおいて、「移動された畳床(5)」と過去形で記載されていることによれば、畳床の移動は、遅くともbの時点では既に行われており、aの時点で開始されていることになる。
これに対し、被告方法においては、反転テーブルによる畳床の回転工程以前において既に畳の位置合わせのためのXminの演算がなされている点で、位置合わせ工程がすべて構成要件Bの実施「後」になされることを経時的な必須要件とする本件特許方法と異なり、巾寄せを前進せしめる前に押し込み量Paの演算が終了している点で、畳の押し付け移動中に「何らかの計算」を行うとする構成要件Dとは異なる。また、被告方法は、Xminに畳床を固定した後に、更に切断刃を切断開始位置に移動させた上で下前側の切断縫着を開始するものであり、この点で、切断刃による切断開始位置に畳床を固定して直ちに切断縫着を開始する構成要件Eとも異なる。
2本件方法特許は、前記一で詳述したとおり、具体的にどのような技術手段によって、具体的にどのようにして、畳の位置決めを自動的に行うことができるかが、本件明細書の全記載によっても不明であるが、少なくとも、人手で行っていた時と同じように、畳を押し付けながら、畳床の框側の切断開始位置に平刺ミシンの切断刃の位置とを一致させて、畳床の位置決め固定を行う方法の一つにすぎない。
これに対し、被告は、被告が特許権を有する特許第2802599号の被告発明(発明の名称「畳縫着方法」)における「最小寸法の位置基準」を実施して、畳の位置決めを行っている。被告方法は、すべての寸法制御が予め演算記憶されているXmin、Xmax、D0〜D4によって行われ、仕上り後の実寸法の最小位置Xminに平刺しミシンが原点位置にある場合の切断包丁の位置が一致するように制御して畳床の位置合わせを行って固定し、かかる畳床の固定後に切断刃を切断開始位置に移動させるという点で、畳の位置合わせ工程と切断開始位置への切断刃の一致工程とを分離した特許性のある独自の方法であり、本件特許方法とは、畳の位置決めについての基本的な技術思想を異にするものである。よって、構成要件C、Dの技術的内容がいかなるものであるにせよ、被告方法が両構成要件を欠如することは明らかである。
3かかる技術思想の相違により、被告方法は特許性ある優れた作用効果を生じるのである。すなわち、切断開始位置から、畳のクセは基準寸法に対して大の方向へ生じるときもあれば(以下「プラス方向」という。)、逆に小の方向に生じることもある(以下「マイナス方向」という。)。したがって、本件特許方法のごとく、切断開始位置と切断刃の位置とを一致させて畳の位置合わせを行う方法では、
切断開始位置からプラスの方向へ向かう場合と、マイナスに向かう場合の療法の場合を想定して、平刺しミシンの許容移動量として、プラス及びマイナスの双方に十分に見込んだ設計をしなければならない。しかるに、被告方法のごとく、クセのマイナス方向の最小値であるXminに畳の位置合わせをし、この後に切断開始位置に切断刃を移動するときには、平刺しミシンの移動量はクセのプラス方向の最大値Xmaxと最小値Xminの間に限られるため、ミシン本体が少ない移動によりクセ取りを実施することができる(被告明細書【0003】ないし【0006】、【0044】)。
4原告は、被告装置においても、Xminが切断開始位置と一致することがあり、その場合には別紙目録(一)ないし(三)の第4図と同じになると主張する。しかし、原告主張は、全く技術思想から離れた見かけの現象を云々するもので、失当である。前述のとおり、本件発明は、少なくとも、畳を上前側に移動するときに「何らかの計算を行ってその計算値になるように畳床を押し付け」ることによって、畳床の框側の切断位置と平刺しミシンの切断刃との位置とを一致させるものであるが、被告製品においては、かかる何らかの計算も行っておらず、畳の位置合わせ工程と切断開始位置への切断刃の一致工程を分離している点及び、常にXminの位置を基準線として畳の位置合わせを行った後切断刃を切断開始位置に移動する点において、決定的に異なるのである。
原告主張は、かかる技術思想の相違が存していても、Xminがたまたま切断開始位置と一致する場合には、見かけ上、位置合わせと切断開始位置への切断刃の一致工程が同時に行われるように見えることを奇貨とするもので失当である。また、原告主張は、多種多様な畳のクセについて、たまたま切断位置がXminのものがあれば、位置合わせの技術思想は異なっていても「見かけ上の動き」が同じであるから権利侵害であると主張するもので失当である。
5以上によれば、被告方法は、本件方法特許の技術的範囲に属しない。
三争点3(被告製品は、本件装置発明の技術的範囲に属するか)について【原告の主張】1被告製品は、本件装置発明の構成要件である「直線基準定規20」を有しない点で本件装置発明と相違するが、その他の構成においては同一であり、本件装置発明の不完全利用に関わるものである。
本件装置発明の一部を欠いた、いわゆる不完全発明は、構成の一部を削除した場合、すなわち「無」に置き換えた場合であり、置換部分として「無」を除外する根拠を見いだせない以上、均等論に関する最高裁判決(最高裁第三小法廷平成10年2月24日判決)が適用されるべきである。本件装置発明において、直線基準定規20は本質的部分ではないため、これを「無」に置き換えても特許発明の目的を達成することが可能であり、同一の作用効果を有する。また、被告物件の製造時点において、直線基準定規を有しない畳縫着機は多数存在したから、これを「無」に置き換えることは、当業者であれば容易に想到できたものであり、被告製品は、
本件装置発明の均等物として、その技術的範囲に属する。
本件装置発明は、従来人手により畳の位置決めを行っていたのを自動的に位置決めできるようにした「畳縫着機」であり、パイオニア発明である。このようなパイオニア発明に対しては、十分な保護が与えられなければならず、均等論により、被告物件は、本件装置発明の技術的範囲に属すると解するのが相当である。
2被告製品の「外端センサー22」は、本件装置発明の「検出センサー53」に相当し、被告製品は本件装置発明の構成要件C′を充足する。
被告は、「制御装置30は、巾寄せ外端センサー22(巾寄せの原点位置を兼ねる)が検知した位置を巾寄せ20の原点位置として記憶し・・(中略)・・この原点位置においては、巾寄せ20に取り付けられた床押し21の端面から平刺しミシン10に取り付けられた切断包丁11までの距離(以下「原点距離G」という。)は常に一定であり、以後の巾寸法制御はすべて原点距離Gを基準として行われる」と主張する。
しかし、外端センサー22が巾寄せ20の原点を記憶するということの技術的意味は、巾寄せ20によって押動される「畳床」に着目すれば、畳床の下前基準線Lの現在位置を計算するということであるから、両者は、技術的意義、即ち、数値制御による自動位置決め技術による制御対象物の「現在位置を知る」という技術において同じである。しかも、本件発明の請求項2は、検出センサーの確認時期を限定していないので、仮に、被告製品が作業開始時に原点確認を行うものであるとしても、構成要件C′に包含されるというべきである。なお、被告発明における原点確認は、作業開始時のみならず、巾寄せが原点に戻る都度行われている(甲24)。
【被告の主張】被告物件は、いずれも直線基準定規(20)を具備した畳縫着機でないことから構成要件A′を充足せず、「該畳床押込手段(41)で押し付けられた畳床(5)の下前側の下前基準線(L)の位置を計算するため確認するセンサー53」なるものを具備していないことから構成要件C′を充足しない。よって、被告物件は、本件装置発明の技術的範囲に属しない。
原告は、本件特許はパイオニア発明であるから、均等論によって被告物件は本件装置発明の技術的範囲に属するなどと主張しているが、本件特許は開示技術すら不明なものであり、技術の進歩に何らの貢献もないのであるから、パイオニア発明などと主張すること自体失当である。
四争点4(損害額)について【原告の主張】被告は、平成8年6月27日から現在に至るまでの間、被告物件を少なくとも71台製造、販売し、それにより得た利益は少なくとも1億円を下らないから、
原告は、右金額と同額相当の損害を被った。
原告は、右の損害1億円のうち、とりあえず内金5000万円の請求をする。
【被告の主張】争う。
第四当裁判所の判断一争点1(本件方法発明は技術的範囲を確定することができないものか)について1特許発明技術的範囲は、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならず(特許法〔以下「法」という。〕70条1項)、その場合には、願書に添付した明細書の特許請求の範囲以外の部分及び図面を考慮して、特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとされている(法70条2項)。また、明細書の発明の詳細な説明の欄には、出願時における当該技術分野の技術常識によって容易に理解され、当業者が実施できる程度に目的・構成・効果を明確かつ十分に説明することを要するから(法36条4項)、特許発明技術的範囲の解釈に当たっては、当該特許発明が属する技術分野における公知技術及び当業者における技術常識参酌することもできるものと解される。
しかし、明細書の発明の詳細な説明や図面及び出願時の技術水準を参酌しても、特許請求の範囲の記載の一部がいかなる構成をいうか不明である場合、又は、明細書の記載が極めて不備であるため、明細書に記載された当該発明の内容を実施することができない場合においては、前記解釈手法によっても、特許請求の範囲を確定することができないことになるから、結局、技術的範囲の判断基準となる特許請求の範囲自体が、全体として不明瞭に帰するものといわざるを得ない。このような場合は、いかなる係争対象物も当該発明と対比することができないのであるから、仮に係争対象物が特許請求の範囲の記載の一部を満たすとしても、その特許発明技術的範囲に属するという判断はできないと解するのが相当である。
2なお、特許の無効審決が確定する以前であっても、特許権侵害訴訟を審理する裁判所は、特許に無効理由が存在することが明らかであるか否かについて判断することができると解すべきであり、審理の結果、当該特許に無効理由が存在することが明らかであるときは、その特許権に基づく差止め、損害賠償の請求は、特段の事情がない限り、権利の濫用に当たり許されないものと解するのが相当である(最高裁平成12年4月11日判決・民集54巻4号1368頁参照)。
特許発明技術的範囲が確定できない場合とは、明細書の特許請求の範囲が、発明の詳細な説明の記載に基づいていないこと(平成5年法律第26号による改正前の法(以下「平成2年法」という。)36条5項1号違反)に加え、発明の詳細な説明の記載が、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果が記載されていないこと(平成2年法36条4項違反)をいうものと解されるところ、平成2年法36条4項又は5項の要件を満たさない特許出願に対して特許がされたときには、その特許には無効原因があるとして、無効審判を請求することができるのであるから(平成2年法123条1項3号)、特許発明技術的範囲が確定できない場合において、当該特許権に平成2年法36条4項、5項の無効事由があることが明らかである場合には、訂正審判による訂正が認められる蓋然性があるなどの特段の事情がなければ、その特許権に基づく差止め、損害賠償の請求が、権利の濫用に当たり許されないものと判断されることもあると解される。
3本件特許権の「特許請求の範囲」請求項1は、「数値制御により自動的にクセ取り運動をする畳縫着機(10)を用いて、畳台(4)上に締付けられている畳床(5)の下前側をクセ取り縫着する方法において、上前側を切断縫着した畳床(5)を方向転換してその下前側を畳縫着機(10)に向けて畳台(4)上に載置した後、該畳床(5)の上前側に押付け力を付与して下前側を畳縫着機(10)に向けて移動するとき、該下前側の下前基準線(L)の位置を計算するために検出センサー53で確認した後、該下前基準線(L)から移動された畳床(5)の下前側における畳幅方向の離間隔(X0)を計算しその計算値になるように畳床(5)を押し付け、その後、前記畳床(5)を締付けてから数値制御により自動的にクセ取り縫着することを特徴とする畳のクセ取り縫着方法。」というものであり、特許請求の範囲の記載には、畳の下前側をクセ取りする縫着方法において、数値制御の対象とされるものが何であるか、また、下前基準線の位置を計算するため検出センサー53が確認する対象が何であるかは記載されておらず、「該下前基準線(L)から移動された畳床(5)の下前側における畳幅方向の離間隔(X0)を計算し」という記載についても、移動段階のどの時点において、畳床のどの部分を基準として計算を行うのか、また、離間隔とは畳床のどの部分と何との間隔をいうものかが明確になっていない。
したがって、これらの点について、本件明細書の特許請求の範囲以外の部分の記載及び図面並びに公知技術参酌しても発明の内容を合理的に解釈できないときには、本件発明の技術的範囲は不明瞭であるといわざるを得ない。
4本件発明の技術的意義について(一)甲2によれば、本件明細書の「発明の詳細な説明」及び図面には、次の記載があることが認められる。
(1)「産業上の利用分野」の項には、「本発明は、畳のクセ取り縫着方法及び畳縫着機に関するものである。」との記載がある(【0001】、3欄2ないし3行)。
(2)「従来の技術」の項には、「ミシン台を畳台に沿って走行自在に設けるとともに、切断刃及び縫着針等を有するミシン本体をミシン台に対して畳台と直交する方向に移動自在に設け、予め設定したクセ取り寸法に従って、ミシン台の走行とともにミシン本体を畳台と直交する方向に駆動し、数値制御方式によりミシン本体の走行に伴って畳台に締め付け固定した畳床を設定寸法に切断縫着する畳縫着機において、ミシン本体、走行レール及び畳台等に歪が発生しても、これを補正して設定寸法通りに切断縫着する畳縫着機は、例えば、特公昭62-38973号公報にて本件出願人が提案し、当業界において広く利用されている。」と記載されている(【0002】、3欄5ないし15行)。
(3)「発明が解決しようとする課題」の項には、「前述公報で開示の技術にあっては、上前側を切断縫着(所謂平刺し)した後、下前側を切断縫着(所謂平刺し)するとき、人手によって畳床の方向転換をするとともに、下前基準線(下前切断位置)に人手によって下前側を合致していたため、省力化の点で課題があった。」(【0003】、3欄17ないし22行)、「本発明は、上前側を切断縫着した後、下前側をクセ取り切断縫着する場合であっても、畳床の方向転換と位置決めを自動化することによって省力化を図ったことを目的とするものである。」(【0004】、3欄28ないし32行)という記載がある(なお、畳の「上前」とは、畳の長辺のうち、部屋に畳を敷いたときに畳と畳とが接する側の部分であり、直線状に加工され、「下前」とは、上前の反対側の長辺、即ち、部屋の敷居に接することになる部分であり、敷居の歪みに応じた形状(この歪みは「クセ」(曲)と呼ばれる。)に切断加工される。甲7)。
(4)「課題を解決するための手段」の項には、「請求項1に係る本発明では、数値制御により自動的にクセ取り運動をする畳縫着機10を用いて、畳台4上に締付けられている畳床5の下前側をクセ取り縫着する方法において、前述の目的を達成するために次の技術的手段を講じている」「すなわち、請求項1に係る本発明では、上前側を切断縫着した畳床5を方向転換してその下前側を畳縫着機10に向けて畳台4上に載置した後、該畳床5の上前側に押付け力を付与して下前側を畳縫着機10に向けて移動するとき、該下前側の下前基準線Lの位置を計算するために検出センサー53で確認した後、該下前基準線Lから移動された畳床5の下前側における畳幅方向の離間隔X0を計算しその計算値になるように畳床5を押付け、その後、
前記畳床5を締付けてから数値制御により自動的にクセ取り縫着することを特徴とするものである。」という記載がある(【0005】、3欄34ないし48行)。
(5)「作用」の項には、「その後、畳床締付け手段6により畳床5を畳台4に固定した後、ミシン本体12を数値制御によりクセ取り運動して下前側の切断縫着がなされる」という記載がある(【0008】、4欄23ないし26行)。
(6)図1に制御装置29が図示されており、その説明として、「実施例」の項に、「29は制御装置であり、マイクロコンピュータ30とモータ14を駆動するモータ駆動回路31を備え、この制御装置29は次のような動作をする。」(【0014】、
5欄18ないし21行)、「平刺しの場合、間取りを測定して得た畳を切断縫着すべき寸法、即ち、図5に示す如く畳長手方向(以下Y軸方向とする)の複数の各基準点A,B,C,D,Eにおける下前基準線Lに対する畳幅方向(以下X軸方向とする)の離間隔X0,X1,X2,X3,X4,を、キースイッチのキー操作により入力すると、この設定された寸法を基にマイクロコンピュータ30が各ステップ毎(Y軸送り10mm毎)にX軸の目標値を定規20の寸法基準面20aが基準になるように変換計算する。そして、切断刃19を切断開始位置に合わせ、手動ハンドル13の回動又は回動軸26に連結した図示省略のモータの駆動により、ミシン台11をY軸方向に走行移動すると、マイクロコンピュータ30は第2位置検出手段25からの検出信号を入力して、前記切断開始位置を基準としたY軸方向の現在位置を数値的に算出すると共に、このY軸方向の現在位置に対するX軸方向の目標位置(設定位置)を前記切断開始位置を基準として算出する。また同時にマイクロコンピュータ30は第1位置検出手段24からの検出信号により、ミシン本体12のX軸方向の現在位置を定規20の寸法基準面20aを基準として計数する。そしてマイクロコンピュータ30は第1位置検出手段24の検出信号により得たX軸方向の現在位置とX軸方向の目標位置との差がなくなるように、モータ駆動回路31を制御して、モータ14の駆動によりミシン本体12を目標位置に移動せしめる。」(【0015】、5欄22ないし45行)という記載がある。
(7)「実施例」の項には、「その後、締付け手段7によって畳床5を畳台4に固定し、数値制御により、畳縫着機10によって畳床5の下前側をクセ取り切断縫着すべく畳台4に沿って走行するのである」という記載がある(【0021】、6欄49行ないし7欄2行)。
(8)「発明の効果」の項には、「本発明によれば、畳床の上前を切断縫着した後の下前のクセ取り切断縫着までを数値制御による自動化を図りつつ下前切断縫着に移行するときの方向転換及び位置決めを自動化できて省力化に寄与できる点で有益である。」という記載がある(【0023】、7欄10ないし14行)。
(二)本件明細書及び図面の上記記載に照らせば、本件発明は、従来技術である「数値制御方式によりミシン本体の走行に伴って畳台に締め付け固定した畳床を設定寸法に切断縫着する畳縫着機」が有する問題点を解決するため、「該下前側の下前基準線Lの位置を計算するために検出センサー53で確認した後、該下前基準線Lから移動された畳床5の下前側における畳幅方向の離間隔X0を計算しその計算値になるように畳床5を押し付け、その後、前記畳床5を締付けてから数値制御により自動的にクセ取り縫着」し、畳床の方向転換と位置決めを自動化することによって省力化を図ったことに特徴があるといえる。
(三)原告は、本件発明において、数値制御により自動化が図られるものは、
従来技術のようなミシン本体の位置決めではなく、畳床の方向転換と位置決めであると主張し、さらに、当業者の技術常識によれば、@数値制御による自動位置決め技術の基本は、「移動量=目標位置-現在位置」の関係を数値で制御することであり、A右「現在位置」はセンサーにより検知されると主張する。
そこで、本件明細書の特許請求の範囲以外の部分及び当業者の技術常識参酌して、本件発明にいう「数値制御」の意味について検討する。
「数値制御」とは、JIS用語辞典によれば、「工作物に対する工具の位置をそれに対応する数値情報で指令する制御」と定義され、工作機械を対象として使われることが多いが、製図、布線、検査などにも用いられることが認められる(甲19)。また、「制御」とは、ある目的に適合するよう、対象となるものに所要の操作を加え、制御対象の物理量を所望の目標値と一致させることをいい、「制御」を行うためには、目的、制御対象、操作量、計測という4つの概念が必要となることが認められ(甲8)、「自動制御系」とは、「制御」の中でも、閉ループが形成され、制御結果が絶えずフィードバックされて目標値と比較され、目標値と制御量に差があれば、その差をなくすよう修正動作が行われるものをいうことが認められる(甲9、10)。
これらの概念によれば、「数値制御による自動位置決め」を実行するためには、目標値、制御対象、操作、制御結果の計測、フィードバックによる修正動作に関する指令の内容が、あらかじめ数値情報により与えられている必要があり、これらの情報が不明確な場合には、数値制御を行うことはできないというべきである。
前記(一)のとおり、本件明細書の発明の詳細な説明及び図面において、目標値、制御対象、操作量、制御結果の計測、フィードバックによる修正動作の内容が明らかにされているのは、従来技術であるミシン本体12の制御装置29の動作を表す【0015】のみであり、畳床の方向転換と位置決めに関しては、「数値制御」に必要な情報を開示した部分は存在しないのであるから、本件明細書の発明の詳細な説明及び図面並びに当業者における技術常識参酌した場合、畳の下前側をクセ取りする縫着方法において、数値制御の対象とされるものは、従来技術と同様、ミシン本体の位置決めであると解するのが合理的であり、これを畳床の方向転換と位置決めと解することはできないというべきである。
5構成要件Cの「下前基準線(L)の位置を計算するために検出センサー53で確認し」の意義について(一)甲2によれば、本件明細書の「発明の詳細な説明」及び図面には、「下前基準線(L)」について、次の記載があることが認められる。
(1)「課題を解決するための手段」の項に、「該畳床5の上前側に押付け力を付与して下前側を畳縫着機10に向けて移動するとき、該下前側の下前基準線Lの位置を計算するために検出センサー53で確認した後、該下前基準線Lから移動された畳床5の下前側における畳幅方向の離間隔X0を計算しその計算値になるように畳床5を押付け」(【0005】、3欄41行ないし46行)、「該畳床押込み手段41で押付けられた畳床5の下前側の下前基準線Lの位置を計算するため確認する検出センサー53を備えている」という記載がある(【0006】、4欄8行ないし11行)。
(2)「作用」の項に、「上前側を切断縫着した畳床5は、畳台4に備えている方向転換手段32により、その下前側(クセ取り切断縫着する側)を畳縫着機10に向くように方向転換された後に、その上前側を畳床押込み手段41によって押付けることにより、下前側が下前基準線L(下前切断位置)に位置合わせされる。」(【0007】、4欄13ないし18行)、「このとき、下前基準線Lの位置を計算するため検出センサー53により確認した後」(【0008】、4欄19ないし20行)という記載がある。
(3)「実施例」の項に、「このとき、該下前側の下前基準線Lの位置を計算するために近接スイッチ等の検出センサー53で確認し」(【0021】、6欄44ないし46行)という記載があり、図1及び図3に「53」として検出センサーが示されている。
(4)「実施例」の項に、前記3、(一)、(6)の記載(【0015】、5欄22ないし45行)があり、図5(動作説明図)には、Lと表示された直線及びそれに交差するジグザグ状の折れ線が描かれている。
(二)本件明細書の発明の詳細な説明には、「下前基準線(下前切断位置)」「下前基準線L(下前切断位置)」という記載があり、これによれば、「下前基準線L」とは畳の下前側の切断位置と同義であると解される。他方、本件明細書の図面には、下前基準線を表す「L」の表示がなされた直線と、それに交差するジグザグ状の折れ線が両方描かれており、下前基準線Lと畳の下前側の切断位置は異なることが示されている。このように、本件明細書の発明の詳細な説明及び図面には、下前基準線について二義的な記載があり、その意味は、明細書の特許発明の範囲以外の部分の記載及び図面によっても明らかでないというべきである。
この点につき、原告は、「下前基準線(下前切断位置)」とは、クセ量がすべてゼロの場合には畳床5が下前基準線Lの位置で一直線に切断されるので下前基準線と切断位置が一致するが、クセがある場合にはクセ取りを行い、ジグザグ状に切断されるので下前基準線の位置は切断位置にならないという意味であると主張する。しかし、本件明細書は、「畳のクセ取り縫着方法及び畳縫着機」に関するものであり、クセがない場合(クセ量がゼロである場合)に関する記載は、明細書中の全記載を見ても存在しない。しかも、本件明細書【0007】には、「その下前側(クセ取り切断縫着する側)を畳縫着機10に向くよう方向転換された後に、その上前側を畳床押込み手段41により押し付けることにより、下前側が下前基準線L(下前切断位置)に位置合わせされる。」という記載があり、上記記載は、クセ取り切断縫着される場合(クセがある場合)でも、下前基準線Lが下前切断位置と一致することを意味するものと解されるから、原告の主張は、明細書の記載に反するものであり、かかる解釈を採ることはできないというべきである。
(三)他方、証拠(甲23)によれば、「下前基準線」とは、畳業界において、畳の丈の半分(畳の基準幅寸法の位置)をいう用語として慣用されていることが認められ、右技術常識参酌すれば、「下前基準線Lの位置を計算するため」とは、畳の基準幅寸法の位置を求めることをいうものと一応理解することができる。
しかし、本件明細書には、畳の位置決めに関する過程中、どの時点における下前基準線(畳の基準幅寸法)の位置を計算するのか、また、そのため検出センサー53が確認する対象が何であるかが明らかにされておらず、これは、ミシン本体12の位置決めについては、マイクロコンピュータ30が算出する対象が「切断開始位置を基準としたY軸信号の現在位置」「Y軸方向の現在位置に対するX軸方向の目標位置(設定位置)を前記切断開始位置を基準として算出する。」と明記されていることと比較して不自然である。
この点につき、原告は、ミシン本体の位置決めと畳床5の位置決め技術は同じ数値制御に関するものであるから、下前基準線の位置を求めるとは、下前基準線の現在位置を求めることを意味し、検出センサー53が確認する対象は、畳床5の現在位置であると主張する。しかし、本件明細書には、畳の位置決めについては、「現在位置」という記載は全く存在しない上、ミシン本体の位置決め過程と、
畳床の方向転換及び位置決めは全く異なる過程であり、検出センサーが求める対象も当然に異なるはずであるから、ミシンの位置決めについて開示されたデータを直ちに畳床の位置決め過程に使用できると解することはできず、下前基準線を畳の基準幅寸法の位置とした場合であっても、本件明細書からは、畳床の位置決めを数値制御により定めるために必要な数値情報又はその基準となる位置関係を読み取ることはできない。以上によれば、「下前基準線(L)の位置を確認するために検出センサー53で確認し」の意義は、本件明細書の発明の詳細な説明及び図面を参酌してもなお不明確であるというべきである。
6構成要件Dの「該下前基準線(L)から移動された畳床(5)の下前側における畳幅方向の離間隔(X0)を計算し」の意義について(一)本件明細書(甲2)の「発明の詳細な説明」及び図面には、「該下前基準線(L)から移動された畳床(5)の下前側における畳幅方向の離間隔(X0)を計算し」について、次の記載があることが認められる。
(1)「課題を解決するための手段」の項に、「該下前基準線(L)から移動された畳床5の下前側における畳幅方向の離間隔X0を計算しその計算値になるように畳床5を押付け」という記載がある(【0005】、3欄44ないし46行)。
(2)「作用」の項に、「該下前基準線Lから押付けられた(移動された)畳床5の下前側における畳幅方向の離間隔X0を計算しその計算値になるように畳床5を畳床押込み手段41により押付ける。」という記載がある(【0008】、4欄20ないし23行)。
(3)「実施例」の項に、「該下前基準線Lから移動された畳床5の下前側における畳幅方向の離間隔X0を計算し、その計算値になるように押付けバー50を矢示H方向に移動して位置合わせをし」という記載がある(【0021】、6欄46ないし49行)(二)発明の詳細な説明の各記載及び図面には、「該下前基準線(L)から移動された畳床(5)の下前側における畳幅方向の離間隔(X0)を計算し」について、特許請求の範囲とほぼ同一の記載しかなく、上記記載から、特許請求の範囲に記載された用語の意義を合理的に解釈することはできないから、「移動された畳床(5)」「畳巾方向の離間隔(X0)」の意義は、明細書の特許請求の範囲以外の部分及び図面を参酌してもなお不明確であるというべきである。
原告は、「該下前基準線Lから移動された畳床5の下前側における畳幅方向の離間隔(X0)を計算し」により計算されるものは、「畳床5を位置決めするため移動させる距離(Xd)」であり、その計算方法は、実施例に即して説明すれば、別紙参考図9のとおり、「Xd=Xc-X0=Xb-Xa-X0」であると主張する。しかし、本件明細書には、下前基準線L及び離間隔X0の記載があるのみで、原告のいう「Xa、Xb、Xc、Xd」に関する記載は皆無であり、このような解釈を導き出す公知技術の存在を認めるに足りる証拠もない。しかも、特許請求の範囲の「該下前基準線(L)から移動された畳床5の下前側における畳幅方向の離間隔(X0)を計算し、その計算値になるように畳床5を押し付け」という文言によれば、ここで計算されるものは、あくまで「離間隔X0」であり、「移動量」であるとは解されないのであるから、原告の主張は、明細書に存在しない技術的事項を付加することにより、特許請求の範囲を解釈しようとするもので、法70条1項、2項により許されない。
6以上によれば、本件方法発明は、構成要件Cのうち「下前基準線(L)の位置を計算するために検出センサー(53)で確認し」、構成要件Dのうち「該下前基準線(L)から移動された畳床(5)の下前側における畳幅方向の離間隔(X0)を計算し」の意義が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び図面並びに当業者の技術常識参酌しても、いずれも不明確であり、当業者からみて、出願に係る発明の内容を合理的に解釈することができないから、全体として、技術的範囲を確定することができないというべきである。
してみれば、仮に、被告製品を使用した被告方法が原告主張のとおりであったとしても、本件方法発明と被告方法を対比することができないのであるから、
被告方法が本件方法発明の技術的範囲に属すると認めることはできず、被告製品について、本件方法発明の間接侵害に当たると判断することもできない。
7なお、被告方法は、当事者間に争いのない範囲でも、@あらかじめ入力されたクセのデータに基づいて下前側の最小仕上寸法Xminの位置に平刺ミシン10の切断包丁11の位置が一致するように畳床2の位置を合わせて固定する工程と、A切断開始位置とXminの差分値Paだけ平刺ミシン10を外側に移動させ、畳床2の切断開始位置へ平刺ミシン10の切断包丁11を一致させる工程を分離している。そして、乙3によれば、このような被告方法は、本件方法発明より後願の被告発明における「最小寸法の位置基準」を用いて畳の位置決めを行い、下前側のクセ取り縫着を行う方法と同じであると認められるところ、被告発明は、同発明に対する関係での従来技術の畳縫着方法においては、下前側のクセを取りながら平刺し縫いを開始する際、
畳縫着開始側の框の裁断開始位置と畳切断刃の刃先とを一致させて畳を畳台に固定した後、平刺しミシン本体を作動させて平刺し縫いを実施するため、クセの状態に基づく平刺しミシン本体の畳台に対する直交方向への最大移動量が不明であり、平刺しミシンの許容移動量をあらかじめ十分に見込んだ設計をしなければならなかいという課題が存したことから、この課題を解決し、平刺しミシン移動量を必要最小限とするための手段として考えられたものであると認められる(乙3、被告明細書【0004】)。
本件方法発明は、前記6のとおり、特許請求の範囲の一部が不明確であり、その技術的範囲を確定することができないが、「該下前側における畳幅方向の離間隔(X0)」なる距離を計算し、その計算値になるように畳床を押し付けるものであり、原告の主張によっても、別紙参考図5のとおり、平刺し縫いを開始するに際し、切断開始位置に畳切断刃の位置が合致するよう畳床5を畳床押込み手段41により押し込む方法であると解されるから、その技術思想は被告明細書にいう従来技術と同じであり、被告方法とは異なるものと見るのが相当である。
この点につき、原告は、畳の切断開始位置が下前側の最小仕上位置と一致する場合、被告方法は別紙目録(一)ないし(三)の第4図(即ち別紙参考図5と同じ)と同じ構成を採ることになると主張する。しかし、被告方法において、畳の切断開始位置が下前側の最小仕上寸法に合致する場合も、畳床の位置合わせ工程と切断開始位置への切断刃の一致工程が分離されていることには変わりがないから、被告方法における畳縫着機の動きの中に、外形上、畳の切断開始位置と下前側の最小仕上寸法が合致する場合があることをもって、被告方法が本件方法発明と同じ技術であるということはできない。
以上によれば、被告方法は、技術思想の点からも、本件方法発明の技術的範囲に属すると認めることはできず、被告製品について、本件方法発明の間接侵害に当たると判断することはできない。
二争点3(被告製品は、本件装置発明の技術的範囲に属するか。)1被告製品は、いずれも構成要件A′にいう「直線基準定規(20)」を有しておらず、文言上は本件装置発明の構成要件A′を充足しないことが明らかである。
2原告は、被告製品は、構成要件A′の「直線基準定規(20)」を「無」に置換したものであり、この差異が均等であるとして本件装置発明の技術的範囲に含まれると主張する。
特許侵害訴訟において、明細書の特許請求の範囲に記載された構成中に、
相手方が製造等をする製品(以下「対象製品」という。)と異なる部分が存在する場合であっても、(1)右部分が特許発明の本質的部分ではなく、(2)右部分を対象製品におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって、(3)右のように置き換えることに、当業者が、対象製品の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、(4)対象製品が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから右出願時に容易に推考できたものではなく、かつ、(5)対象製品特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、右対象製品は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である(最高裁平成10年2月24日判決・民集52巻1号113頁参照)。
3(一)甲2によれば、本件明細書の発明の詳細な説明及び図面には、次のような記載があることが認められる。
(1)「発明が解決しようとする課題」の項に、前記一、4、(一)、(3)の記載がある(【0003】【0004】)(2)「課題を解決するための手段」の項に、「請求項2に係る本発明では、数値制御により自動的にクセ取り運動をする畳縫着機10と、該畳縫着機10の側方に配置されていて直線基準定規20および畳床締付け手段6を有する畳台4と、を備えているものにおいて、前述の目的を達成するために次の技術的手段を講じている。すなわち、請求項2に係る本発明では、前記畳台4に、上前側を切断縫着した畳床5を方向転換する方向転換手段32と、畳床の上前側を押付けて畳床5の下前側を畳縫着機10に向けて押付ける畳床押込み手段41と、を備えているとともに、該畳床押込み手段41で押付けられた畳床5の下前側の下前基準線Lの位置を計算するため確認する検出センサー53を備えていることを特徴とするものである。」との記載がある(【0006】、3欄49行ないし4欄11行)。
(3)「実施例」の項に、前記一、4、(一)、(6)の記載がある(【0015】、5欄22ないし45行)。
(二)本件明細書の上記記載に照らせば、本件装置発明の特徴は、数値制御によりミシン本体の位置決めを行う畳縫着機において、畳床の方向転換と位置決めを自動化することにより省力化を図ったものを提供することにあるが、直線基準定規20は、その寸法基準面20aがミシン本体12のX軸方向の現在位置を計数するための基準となり、ミシン本体12の数値制御に当たり必要不可欠な構成要素であるから、本件装置発明の本質的部分に当たるものと解される。
よって、被告物件は、前記均等の要件の(1)を具備しないから、本件発明と均等なものとして本件発明の技術的範囲に属するものということはできない。
三以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がない。
別紙物件目録(一)商品名「平刺しロボット21」(二)(1)商品名「両用ロボットTRAー1」(2)商品名「両用ロボットUTRAーU」(三)商品名「両用ロボットV」別紙目録(一)図イ号物件説明書別紙目録(二)図ロ号物件説明書別紙目録(二)図ハ号物件説明書別紙被告方法目録1原点復帰工程被告方法においては、作業の開始に当たって、まず原点復帰工程を実施する。
この工程により、制御装置30は巾寄せ外端センサ22(巾寄せの原点位置センサを兼ねる)が検知した位置を巾寄せ20の原点位置として記憶し、クセ取り基準センサ12(平刺しミシンの原点位置センサを兼ねる)が検知した位置を平刺ミシン10の原点位置として記憶する。この原点位置においては、巾寄せ20に取り付けられた床押し21の端面から平刺ミシン10の原点位置として記憶する。この原点位置においては、巾寄せ20に取り付けられた床押し21の端面から平刺ミシン10に取り付けられた切断包丁11までの距離(以下「原点距離G」という。)は常に一定であり、以降の巾寸法制御はすべて原点距離Gを基準として行われる。
2寸法の入力工程畳一枚ずつに割り付けられた畳の基準寸法(以下「畳基準KS」という。)と、この畳基準KSからの下前側の仕上がり後の実寸法との5点の位置における偏差を偏差X0、X1、X2、X3、X4として制御装置30に入力する。
3上前側平刺し工程(1)畳床2を畳台1に裁置し、床締め4が上昇して畳床2を畳台1に下から上に向かって締め付ける。
(2)制御装置30は入力済みの寸法データから以下の演算を行って、Xmin、Xmax、D0〜D4を求めて記憶する。
○基準寸法KSに偏差(X0〜X4)を各々合算して仕上がり後の実寸法(XA〜XE)を求め、この実寸法のうち最小の仕上がり寸法をXminとして、最大の仕上がり寸法をXmaxとして代入して記憶する。
○最小の仕上がり寸法Xminと仕上がり後の実寸法(XA〜XE)との差をD0〜D4として演算し記憶する。
以降の作業における寸法の制御は、Xmin、Xmax、D0〜D4の値のみが用いられる。
(3)平刺ミシン10によって自動的に上前側の縫着及び切断が行われる。
4平刺ミシンの原点復帰工程床止め4を解除し、平刺ミシン10を原点位置まで復帰させる。
5畳床の回転工程反転テーブル3を上昇させ、ロータリーアクチュエーターによって反転テーブルを旋回させて、畳床2を回転させる。
6荒落とし必要/不要の判定工程制御装置30は上前側の切り落とし代を畳床の巾寸法から控除したWdからXminを控除する演算を行い、その値が所定値以上の場合は荒落としを必要と判断して荒落とし工程に移行させる。所定値より小さいときは次項以降の工程に以降させる。
7Xminの位置に畳床の位置を合わせる工程(1)畳床2の最小仕上寸法Xminの位置に、平刺ミシン10が原点位置にある場合の切断包丁11の位置が一致するように畳床2の位置を合わせて固定するために、制御装置30によって原点距離GからXminを控除して差分値Paを求め、制御装置30はPaを巾寄せ20が畳床2をミシン側に押し込む量として記憶する。
(2)制御装置30は、巾寄せエンコーダ23からのパルスによってカウントされる移動量値がPaと一致するまで巾寄せ20を前進させる。
(3)Xminの位置に、平刺ミシン10が原点位置にある場合の切断包丁11の位置が一致して巾寄せ20が停止した位置で、床締め4が上昇して畳床2を畳台1に固定する。
8畳床の切断開始位置へ平刺ミシンの切断包丁を一致させる工程畳床2が固定された後、畳床2の框側の切断開始位置へ平刺ミシン10の切断包丁11を一致させるために、切断開始位置とXminの差分値として演算され記憶されているD0の値の分だけ制御装置30によって平刺ミシン10を外側に移動させ、畳床2の切断開始位置へ平刺ミシン10の切断包丁11を位置合わせする。
9下前のクセ取り平刺し縫い工程運転スイッチを入れると平刺ミシン10は前進走行を開始し、あわせて制御装置30によるクセ取り制御によってレールに直交する方向にも前後に移動してクセ取り切断縫着を行う。
クセ取り制御は、制御装置30が切断開始位置を基準とした前進走行距離を常に計測して、その前進走行距離に応じてクセ取り量をD0、D1、D2、D3、D4と順に変化させるよう制御することによって行われる。
10下前平刺縫い終了による原点位置復帰工程下前平刺し縫い工程が終了すると、畳床2の床締め4を解除し、平刺しミシン10及び巾寄せ20を原点位置まで復帰させる。
別紙イ号物件の説明図第1図第2図第3図別紙参考図
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 阿多麻子
裁判官 前田郁勝
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