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関連審決 審判1998-35505
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成13ワ15719特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成12ワ17298損害賠償等請求事件 判例 特許
平成13ワ1105特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成14ワ12410損害賠償請求事件 判例 特許
平成14ワ5107特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
関連ワード 頒布された刊行物 /  上位概念 /  意匠登録出願 /  共有 /  実施料相当額 /  登録意匠 /  類似する意匠 /  意匠権 /  援用権(援用) /  権利の濫用(権利濫用) /  特許出願日 /  出願経過 /  均等 /  均等論 /  実施 /  先使用権(先使用) /  侵害 /  実施料 /  不法行為(民法709条) /  実施権 /  通常実施権 /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 11年 (ワ) 11856号 損害賠償請求事件
原告 有限会社ケイエイエム
原告 有限会社シミズ
原告ら訴訟代理人弁護士 河合徹子
同 岡村泰郎
同 濱岡峰也
同 堀内康徳
同 山本健司
補佐人弁理士 森治
被告 阪神高速道路公団
被告 川崎製鉄株式会社
被告 日本碍子株式会社
被告 神鋼鋼線工業株式会社
被告ら訴訟代理人弁護士 村林隆一
同 松本司
同 岩坪哲
補佐人弁理士 小谷悦司
同 村松敏郎
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2002/02/19
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告阪神高速道路公団及び被告川崎製鉄株式会社は、各原告に対し、連帯して各金2503万2483円及びこれに対する平成11年11月23日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
2 被告阪神高速道路公団及び被告日本碍子株式会社は、各原告に対し、連帯して、各金2424万5910円及びこれに対する平成11年11月23日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
3 被告阪神高速道路公団及び被告神鋼鋼線工業株式会社は、各原告に対し、連帯して、各金3068万2023円及びこれに対する平成11年11月23日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
4 被告阪神高速道路公団は、各原告に対し、各金3998万0208円及びこれに対する平成11年11月23日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は、被告阪神高速道路公団の指示により、その余の被告らが高架橋の足場兼用吸音部材(足場板)を製造販売し、被告阪神高速道路公団がこれを使用していることは、原告らの共有する後記の特許権及び意匠権侵害するとして、原告らが、被告らに対し、民法709条719条、特許法102条3項(請求の第1項ないし第3項)、意匠法39条3項(請求の第4項)に基づき、各損害賠償を請求した事案である。
(争いのない事実等) 1(1) 原告らは、有限会社ケンオン興産とともに、次の特許権(以下「本件特許権」という。)を共有していた。
特許番号 第2676598号 発明の名称 高架橋の足場兼用吸音部材 出願年月日 平成7年9月14日(特願平7-262179号) 登録年月日 平成9年7月25日 特許請求の範囲 高架橋の床版の下方に所定の作業空間を形成して床版の下面を覆うように設ける恒久足場の足場兼用吸音部材であって、多数の透孔を有する上面板と、多数の透孔を有し、下方に突出する膨出部を形成した下面板と、下面板の膨出部内を含む上面板と下面板との間に充填した吸音材とで構成したことを特徴とする高架橋の足場兼用吸音部材(請求項1)。
(2) 本件特許権について、平成12年7月19日、特許を無効とする審決(平成10年審判第35505号、同第35522号、同第35524号、同第35535号、同第35541号、同第35553号、同第35560号、同第35569号、同第35582号、同第35588号、同第35599号、甲31)がされ、同審決に対する審決取消請求事件(東京高等裁判所平成12年(行ケ)第318号)においても、平成13年11月28日、同事件原告らの請求を棄却する旨の判決(甲44)が言い渡され、同判決の確定により、前記審決は確定した。
2 原告らは、有限会社ケンオン興産とともに、次の意匠権(以下、「本件意匠権」といい、その登録意匠を「本件登録意匠」という。)を共有している。
登録番号 第1034463号 出願年月日 平成7年9月14日(前特許出願日援用、意願平9-58201号) 登録年月日 平成11年1月8日 意匠に係る物品 足場板 登録意匠の内容 別紙意匠公報のとおり。
3 被告川崎製鉄株式会社は別紙「イ号物件意匠説明書」、被告日本碍子株式会社は別紙「ロ号物件意匠説明書」、被告神鋼鋼線工業株式会社は別紙「ハ号物件意匠説明書」各記載の足場板(ただし、その意匠の構成については、一部争いがある。以下、「イ号物件」、「ロ号物件」、「ハ号物件」といい、各意匠を「イ号意匠」、「ロ号意匠」、「ハ号意匠」という。)を各製造販売し、被告阪神高速道路公団(以下、「被告公団」という。)は、これを購入して使用している。
(争点) 1 本件特許権に関する主張(文言侵害均等論、明白な無効理由、先使用による通常実施権、原告らの損害) 原告らは、本件特許権侵害を理由とする請求(請求の第1項ないし第3項)を維持するが、前記争いのない事実等1記載のとおり、本件特許を無効とする審決の確定により、本件特許権は初めから存在しなかったものとみなされ(特許法125条本文)、前記請求は理由がないことが明らかであるから、この点に関する当事者の主張も、およそ争点となり得ない(民訴法253条2項参照)。
2 本件登録意匠とイ号意匠ないしハ号意匠との類否 (原告らの主張) (1) 本件登録意匠の構成は、次のとおりである。
A 略扁平直方体状に形成した上部と、
B 該上部から下方に帯状に突出する、側面視で上部より幅の狭い膨出部として形成した下部とで全体を構成し、
C 略扁平直方体状に形成した上部の上面及び膨出部として形成した下部の周辺に多数の透孔を形成したものである。
(2) イ号意匠ないしハ号意匠の各構成は、それぞれ別紙「イ号物件意匠説明書」ないし「ハ号物件意匠説明書」各記載のとおりである。
(3) 本件登録意匠とイ号意匠ないしハ号意匠との共通点及び相違点は次のとおりである。いずれもその特徴的な態様を共通にするものであって、各相違点は細部的な微差にすぎないから、両意匠は類似する。被告らの主張するような需要者を基準としても、足場板設置後に高架橋下方を通行する通行人や通行車両の運転者の感じるであろう美的印象を当然考慮するはずであるから、両意匠の類似性を否定することにはならない。被告らの主張(3)@ないしB及びDの相違点は、原告らの類似意匠登録出願(意願平9-58202号、甲17の1)が同出願に係る意匠との間でこれらの相違点を有していた意願平8-35864号(未公開)の意匠と類似するとして拒絶査定(甲17の2、3)を受けたことに照らすと、いずれも細部的微差にすぎない。被告らの主張(3)C記載の相違点も、同様の相違点を有する別の吸音パネルの意匠である甲18の3、4の各意匠について、特許庁において類似すると判断され、
甲18の4の意匠が甲18の3の意匠の類似意匠として登録されたことに照らすと、
細部的微差にすぎない。実際上も、イ号物件ないしハ号物件は、いずれも阪神高速道路3号神戸線において、統一的なデザインの下に使用されている。被告らの主張(3)の吸音パネルの意匠(意願平7-34132号、乙11)は、その審査経過(甲26)に照らすと、本件意匠登録出願の分割変更時である平成9年6月16日より以前の平成8年12月20日付け拒絶理由通知の時に審査が実質的に終了していたから、本件登録意匠出願の存在を看過して登録されたものにすぎない。
〔共通点〕 いずれも略扁平直方体状に形成し、上面に多数の透孔を形成した上部と該上部から下方に帯状に突出する、側面視で上部より幅の狭い膨出部として形成し、
膨出部として形成した下部の周面に多数の透孔を形成した下部とからなる足場板である。
〔相違点〕 被告らの主張(3)C記載のとおり、本件登録意匠が単一の枠体と膨出部で構成されているのに対し、イ号意匠ないしハ号意匠はいずれも複数の枠体と膨出部を一連一体に連結している。
(4) 被告らの主張(4)は否認する。
(被告らの主張) (1) 本件登録意匠の構成は、次のとおりである。
A 左右両端部に側面視において縦長長方形状をなす空室と、その外側壁に左と右とで高さ位置を若干ずらせた係止片と、中央部に下向きに突出するリブがいずれも長手方向に形成され、左右の空室間の内側下面が開放された枠体の上面に多数の透孔を穿設してなる上面板と、
B 該枠体の下方に、側面視において幅と高さの比が約2対3のU字状をなす周面に多数の透孔を有する膨出部を前記枠体の幅方向の左右両端部に形成された空室の内側位置で、かつ、枠体の長さ方向両端部の内側位置より下方に突出形成せしめてなる下面板とからなり、
C 透孔の密度が上面板より下面板の方が高い足場板の形状。
(2) イ号意匠ないしハ号意匠の各構成が、それぞれ別紙「イ号物件意匠説明書」ないし「ハ号物件意匠説明書」目録中、各「図面」及び「意匠の具体的構成態様」記載のとおりであることは認めるが、「意匠の基本的構成態様」記載のとおりであることは否認する。
(3) 本件登録意匠とイ号意匠ないしハ号意匠との共通点及び相違点は次のとおりである。本件登録意匠に係る物品である足場板の需要者(足場板を購入し高架橋への設置工事を行う建設業者又は同工事の発注者である高架橋設置管理者)を基準とすれば、@膨出部の幅と高さの比、A膨出部の周面に表された形状、模様(多数の円形透孔の有無)、B膨出部が枠体の両端より突出形成されているか否か、C単一の枠体と膨出部で構成されているか、複数の枠体と膨出部を一連一体に連結しているか、D側面が露出しているか金属板で覆われているか否か等の基本的な構成において相違している。原告らが主張する本件登録意匠とイ号意匠ないしハ号意匠に共通する基本的構成態様をそっくり具備し、かつ、被告ら主張の上記五つの相違点と同質の相違点を有し、しかも、本件登録意匠よりも、イ号意匠ないしハ号意匠によく類似する吸音パネルの意匠(意願平7-34132号、乙11)が、本件意匠登録出願後に出願されたにもかかわらず、登録されたことに照らしても、本件登録意匠とイ号意匠ないしハ号意匠が非類似であることは明らかである。原告らが両意匠に共通する基本的構成態様として主張するものは、上記別件意匠にも備わっている程度の、この種物品(足場兼用吸音材)が通常有する形態にすぎない。
〔共通点〕 いずれも枠体の上方に上面板を、同下方にU字状の膨出部からなる下面板を設けた概括的形状を有する。
〔相違点〕 ア 側面視の形状 本件登録意匠では、左右両端部に縦長長方形状をなす空室と、その外側壁に左と右とで高さ位置を若干ずらせた係止片と、中央部に下向きに突出するリブとがいずれも長手方向に形成され、左右の空室間の内側下面が開放された枠体の下方に、幅と高さの比が約2対3のU字状をなす膨出部を前記枠体の左右の空室の内側位置より突出形成されており、これらの形状が側面に露出して観察されるものであるのに対し、イ号意匠及びロ号意匠では、横長長方形状、枠体の下方に幅と高さの比が略同一のU字形をなす膨出部を一定間隔を置いて三つ突出形成され、枠体に一対の取付金具が設けられ、また、膨出部の長手方向前後両端面が金属板によって覆われている。ハ号意匠では、横に長い枠体の下方に扁平逆台形状の足場下部材を介して幅と高さの比が略同一のU字状をなす膨出部が一定間隔を置いて三つ突出形成され、枠体に一対の取付金具が設けられており、膨出部、枠体の各前後両端面も金属板によって覆われている。
イ 正面視の形状 本件登録意匠では、横長長方形状の枠体の両端部より若干内側に控えた位置から縦に長く、周面に多数の円形透孔を有する膨出部を垂下形成せしめた形状であるのに対し、イ号意匠及びロ号意匠では、横長長方形状の枠体の下面に、上方部が若干短く枠体の両端部より若干内方に控えた位置に取り付けられ、下方部は枠体両端部より大きく外方に突出した状態で、イ号意匠では、内面にガラスクロスが張られた菱形網目を有するエキスパンドメタルからなる縦に短い膨出部を、ロ号意匠では細かな菱形網目を有し、その網目内に緻密にからまりあった微細なアルミニウム繊維が厚み方向にプレス圧着されているため、空気の流通性は有するものの透孔ではない多孔質のアルミニウム繊維吸音材からなる縦に短い膨出部が垂下形成されている。ハ号意匠では、横長長方形状の枠体の下面に多数の円形透孔が穿設され、その下にガラスクロスが張られた斜め内側に向けて傾斜する足場下部材を介して縦に短い周面に不規則なポーラス状の細かな孔を有する発泡アルミニウム吸音材からなる縦に短い膨出部を両端が枠体より外方に突出して垂下形成されている。
ウ 平面視の形状 本件登録意匠では、枠体の上面自体の前後左右両端部を残した中央部に多数の円形透孔を形成しているのに対し、イ号意匠及びロ号意匠では、三つの枠体が一体的に連結され、各枠体内部にガラスクロスを張った菱形網目を有するエキスパンドメタルが張設されており、また、両端部から膨出部が大きく突出している。
ハ号意匠でも、三つの枠体が一体的に連結され各枠体の上面自体に左右及び中央部を若干残して内部にガラスクロスを張った多数の円形透孔を形成し、両端部から膨出部が大きく突出している。
エ 底面視の形状 本件登録意匠では、枠体の前後左右両端部を残して、周面に多数の円形透孔を有する膨出部が表れているのに対し、イ号意匠及びロ号意匠では、三つの枠体が一体的に連結され、各枠体の下面に、イ号意匠では両端部にフラットな下面板と、中央部に膨出部が、いずれも内面にガラスクロスが張られた菱形網目を有するエキスパンドメタルによって構成され、ロ号意匠では、同じくフラットな下面板と、膨出部に、細かな菱形網目を有し、その網目内に緻密にからまりあった微細なアルミニウム繊維が厚み方向にプレス圧着されているため、空気の流通性は有するものの透孔ではない多孔質のアルミニウム繊維吸音材によって構成されている。ハ号意匠では、中央部に不規則なポーラス状の細かな孔を有する発泡アルミニウム吸音材で構成された膨出部と、その両端に多数の円形透孔を穿設したパンチングメタルの内面にガラスクロスが張られた内方に向けて傾斜する足場下部材が設けられている。イ号意匠ないしハ号意匠のいずれにおいても、膨出部のみが枠体の両端より大きく突出されている。
(4) 後記争点3(被告らの主張)(2)を前提とすれば、本件登録意匠は別紙意匠公報各図面そのものに限定されるべきである。
3 権利の濫用(明白な無効理由) (被告らの主張) (1) 被告公団の依頼により、その余の被告らは、遅くとも平成7年8月21日には阪神高速道路3号神戸線に敷設する足場板の開発に着手し、被告公団に対し、
同年9月8日に「高架橋裏面吸音足場付き円筒吸音材及び周辺設備に関する検討書(報告書001)」(乙1)を、同月13日には「高架橋裏面吸音足場付き円筒吸音材及び周辺設備に関する検討書(報告書002)」(乙3)をそれぞれ提出した。同検討書に記載された高架橋裏面吸音足場付き円筒吸音材の意匠は、本件登録意匠と同一又は類似する意匠である。これによれば、本件登録意匠は、出願前公知(意匠法3条1項1号又は3号)である。
(2) 本件登録意匠は、本件特許出願の分割変更出願によるものであるところ、
次の点で原出願(甲15)の要旨を変更する違法な分割変更出願であるから、その出願日が前記変更出願日である平成9年6月16日に繰り下がる結果、本件特許出願に係る公開特許公報(公開日平成9年3月25日)により、出願前公知(意匠法3条1項1号)である。 ア 原出願には、本件登録意匠図面のうち「平面図」及び「底面図」に相当する図面は全く添付されておらず、「右側面図」に相当する図面も、第2変形例又は第3変形例の断面図である第9図(b)又は第10図(b)があるにすぎず、側面図としては添付されていない。
イ 原出願では「下面板の膨出部内を含む上面板と下面板との間に吸音材を充填したことを特徴とする足場兼用吸音部材」であったものを、本件意匠登録出願では「膨出部を有する下面板と上面板からなることを特徴とする足場板」という上位概念及び物品名に変更している。
(原告らの主張) いずれも否認する。
4 先使用による通常実施権 (被告らの主張) (1) 前記争点3(被告らの主張)(1)前段記載のとおり。
(2) 同被告らは、前記(1)の当時、本件意匠登録出願に係る意匠を知らなかった。
(原告らの主張) いずれも否認する。
5 原告らの損害 (原告らの主張) 3998020815×0.01=39980208 (1) 被告公団の使用する各物件の数量及び価格は次のとおりである。
ア イ号物件 30870u 12億5162万4150円 イ ロ号物件 29900u 12億1229万5500円 ウ ハ号物件 37837u 15億3410万1165円 合計 39億9802万0815円 (2) 本件意匠権(各原告の共有持分)の実施料相当額は、原告らにつき各1%である。
(被告らの主張) いずれも否認する。
判断―争点2(本件登録意匠とイ号意匠ないしハ号意匠との類否)について
1 本件登録意匠の構成 別紙意匠公報(甲4)によれば、本件登録意匠に係る物品である「足場板」は、下面板の膨出部内を含む上面板と下面板との間に吸音材を充填するように構成され、高架橋の下方に設置して用いられるものであり(公報説明欄)、その意匠の構成は次のとおりであると認められる。
(1) 基本的構成 A 略偏平直方体状に形成され、上面板を有する上部枠体と、下方に突出する側面視U字状の膨出部を形成した下面板とからなる。
B 上部枠体の上面板には多数の透孔が穿設されている。
C 下面板は、上面板より長さ、幅ともやや短く、膨出部周面には多数の透孔が穿設されている。
(2) 具体的構成 A 上部枠体は、左右両端部に側面視においてやや縦長の長方形状をなす空室と、その外側壁に左と右とで高さ位置を若干ずらせた係止片と、上面中央部に下向きに突出するリブがいずれも長手方向に形成され、左右の空室間の内側下面が開放された枠体からなり、上面板に穿設された多数の透孔は、円形で平面視で左右、
上下の側端部を除き長手方向に5列並んでいる。
B 下面板の膨出部は、側面視において幅と高さの比が約2対3のU字状をなし、前記枠体の幅方向の左右両端部に形成された空室の内側位置から下方に突出しており、膨出部周面に穿設された多数の透孔は円形で、正面視で左右側端を除く全面に密に形成されている。
2 イ号意匠ないしハ号意匠の構成 イ号意匠ないしハ号意匠の構成が、それぞれ別紙「イ号物件意匠説明書」ないし「ハ号物件意匠説明書」中、各「図面」及び「意匠の具体的構成態様」記載のとおりである(同記載中、「グラスクロス」とあるのは「ガラスクロス」と同義と認める。)ことは、いずれも当事者間に争いがない。なお、イ号物件ないしハ号物件は、いずれも、内部に吸音材が充填され、高架橋の下方に多数並べて設置して用いられる足場板である(弁論の全趣旨)。
別紙「イ号物件意匠説明書」ないし「ハ号物件意匠説明書」の各図面によれば、イ号意匠ないしハ号意匠の基本的構成は次のとおりであると認められる。
A 略偏平直方体状に形成され、上面板を有する上部枠体と、下方に突出する側面視U字状の膨出部を形成した下面板とからなる。
B 上部枠体の上面板は、正面視で横長の長方形状の3個の枠体が並列して一体に連結された形状になっており、それぞれに菱形網目(イ号意匠、ロ号意匠)又は多数の透孔(ハ号意匠)が形成されている。
C 下面板は、一定間隔を置いて形成された3個の膨出部からなり、各膨出部は、上面板の各枠体より幅はやや狭く、長さは上面板の前後両端から突出しており、膨出部周面には菱形網目(イ号意匠、ロ号意匠)が形成されている。
3 本件登録意匠とイ号意匠ないしハ号意匠との類否 (1) 本件登録意匠に係る物品の需要者は、足場板を購入し高架橋への設置工事を行う建設業者又は同工事の発注者である高架橋設置管理者であるから、本件登録意匠とイ号意匠ないしハ号意匠との類否を判断するに当たっても、足場板が高架橋に設置された状態を想定した平面視又は底面視からの形状だけではなく、その取引時における足場板を想定したすべての面からの形状について観察して判断すべきである。
(2) 前記1、2認定の本件登録意匠とイ号意匠ないしハ号意匠の各構成によれば、いずれも基本的構成として、略偏平直方体状に形成され上面板を有する上部枠体と、下方に突出する側面視U字状の膨出部を形成した下面板からなる足場板であることでは共通する。もっとも、本件登録意匠においては、足場板が上部枠体も下面板も1個からなるのに対し、イ号意匠ないしハ号意匠の足場板では、上面板は3個の枠体が並列して一体に連結された形状になっており、下面板も一定間隔を置いた3個の膨出部からなる点では異なっている。しかし、本件登録意匠及びイ号意匠ないしハ号意匠の足場板は、いずれも、高架橋の下方に多数並べて設置して用いられるものであるから、予定された使用状態においては、各足場板単体が1個の上部枠体と下面板からなるものか、それとも3個の上部枠体と下面板からなるものかという違いは、美感の上で差異をもたらすものではなく、このことを考慮すれば、各意匠の類比を判断するに当たっても上記の差異を重視することは相当でない。
(3) 本件登録意匠とイ号意匠ないしハ号意匠とを対比すると、前記(2)で述べた相違点のほかに、次のような相違点がある(イ号意匠ないしハ号意匠については、別紙「イ号物件意匠説明書」ないし「ハ号物件意匠説明書」の記載のほか、甲5、7、19、検乙1ないし3)。
ア 本件登録意匠は、正面視、背面視及び底面視の形状において、膨出部に多数の円形透孔を形成し、平面視の形状においても、上面体の前後左右両端部を残した中央部に多数の(ただし、正面視、背面視及び底面視で膨出部に現われる透孔よりは粗で、5列からなる。)円形透孔を形成している。これに対し、イ号意匠ないしハ号意匠には、次のような相違点がみられる。
(ア) イ号意匠では、正面視、背面視及び底面視の形状における下面板(膨出部)の全面並びに平面視の形状における上面板の枠部分を除く全面のいずれもが、内部にガラスクロスが張られた菱形網目を有するエキスパンドメタルによって構成されている。
(イ) ロ号意匠では、正面視、背面視及び底面視の形状における下面板(膨出部)の全面が、細かな菱形網目を有するエキスパンドメタルによって構成されており、その網目内部は、緻密にからまりあった微細なアルミニウム繊維(多孔質のアルミニウム繊維吸音材)によって構成されている。平面視の形状における上面板の枠部分を除く全面は、枠体内部にガラスクロスを張った菱形網目を有するエキスパンドメタルが張設されている。
(ウ) ハ号意匠では、正面視及び背面視の形状において、横長長方形状の上部枠体の下面に設けられた足場下部材には多数の円形透孔が穿設されており、その下にガラスクロスが張られている。この足場下部材の下にある下面板の膨出部は、その上端部を覆う横長の金属板に円形透孔が1列のみ穿設されているものの、
膨出部本体は、全面が不規則なポーラス状の細かな孔を有する発泡アルミニウム吸音材によって構成されている。底面視の形状においても、3個の枠体の各中央部に不規則なポーラス状の細かな孔を有する発泡アルミニウム吸音材で構成された膨出部が形成されており、それぞれの両端に現われる足場下部材には、内面にガラスクロスが張られた多数の円形透孔が穿設されている。平面視の形状において、上面板には、3個の枠体のそれぞれに、内部にガラスクロスを張った多数の円形透孔が左右両端部と中央部を除いて形成されている。
イ 本件登録意匠では、下面板の下方に突出させたU字状の膨出部の幅と高さの比が約2対3であり、縦長となっているが、イ号意匠ないしハ号意匠においては、この比がいずれも略同一であり、膨出部が半円筒状の形状となっている。
ウ 本件登録意匠においては、下面板の膨出部の前後両端は上部枠体(上面板)の前後両端部より内側位置にあるが、イ号意匠ないしハ号意匠では、いずれも、膨出部が上部枠体(上面板)の前後両端より突出している。
エ 本件登録意匠では、上部枠体は、左右両端部に縦長長方形状をなす空室と、その外側壁に左と右とで高さ位置を若干ずらせた係止片と、上面中央部に下向きに突出するリブとがいずれも長手方向に形成され、左右の空室間の内側下面が開放されて膨出部につながっている。これに対し、イ号意匠ないしハ号意匠意匠では、上部枠体はそのような形状は現れず、一方で、側面視で上部枠体に一対の取付金具が設けられている。
オ 本件登録意匠では、下面板(膨出部)が上部枠体の下面から直接垂下しているが、ハ号意匠では、横に長い枠体の下方に側面視扁平逆台形状で内方に向けて傾斜する足場下部材があり、この足場下部材を介して膨出部につながっている。
カ 本件登録意匠においては、側面視で上部枠体と下面板膨出部の内部形状が側面に露出して観察されるのに対し、イ号意匠ないしハ号意匠では、上部枠体及び下面板膨出部の内部形状は側面に露出しておらず、膨出部の長手方向前後両端面及び両端突出部の上面は金属板(イ号意匠、ハ号意匠)又は1枚の金属板を折り曲げて形成した蓋体(ロ号意匠)によって覆われている。
(4) 上記の相違点のうち、アの相違点に関する本件登録意匠の構成、すなわち、本件登録意匠において上部枠体の上面板と下面板の膨出部周面に穿設された円形透孔は、足場板における可視部分の大部分を占め、ことに膨出部の円形透孔は、
膨出部の周面全面に密に穿設されており、使用時に最も目立つ部分でもあるから、
需要者の眼をひく特徴的な形状ないし模様ということができる。このように、正面視、背面視、底面視及び平面視の各形状現われる多数の円形透孔の存在は、独特の美感をもたらすものであり、見る者の注意をひく部分として、本件登録意匠の要部を構成するものというべきである。
原告らは、本件登録意匠とイ号意匠ないしハ号意匠は、「いずれも略扁平直方体状に形成し、上面に多数の透孔を形成した上部と該上部から下方に帯状に突出する、側面視して上部より幅の狭い膨出部として形成し、膨出部として形成した下部の周面に多数の透孔を形成した下部とからなる足場板である」点で共通し、他の相違点は微差にすぎないから、両意匠は類似する旨主張する。しかし、原告らが主張する両意匠の共通点のうち、膨出部の下部周面に多数の透孔を有するという点は、前記のとおり、イ号意匠ないしハ号意匠には存在しないものであり(イ号意匠及びロ号意匠の膨出部周面に形成された菱形網目は透孔とはいえないし、本件登録意匠の円形透孔とは美感上顕著に相違するものである。また、ハ号意匠の膨出部に形成された不規則なポーラス状の細かな孔も本件登録意匠の透孔とは全く異なるものであり、美感上も顕著に相違する。)、事実に反する。また、甲18の2、甲20、21(乙24)、甲23、乙12の1ないし8によれば、本件意匠登録出願前に頒布された刊行物や発行された公開特許公報、意匠公報等に記載された高架橋の裏面に取り付ける吸音材としては、断面円形、半円形の筒状のものがあり、そのほか、道路用桁下化粧材やルーバ材としては、断面三角形、台形、やや偏平な半円形状等の形状のものがあることが認められる。これらの事実も併せ考えると、本件登録意匠の要部を略偏平直方体状の上部枠体と下方に突出した膨出部を形成した下面板からなる構成のみに求めることは相当ではなく、見る者に美感上強い印象を与える膨出部の周面全体に形成された円形透孔の存在も意匠の要部ととらえるべきである。
また、本件登録意匠の構成のうち、下面板が上部板より長さ、幅ともやや短く、下面板(膨出部)が幅と高さの比が約2対3、すなわち縦長のU字状に形成されている点も、本件意匠の基本的な美的印象を構成するポイントであり、前記の出願前の公知意匠にも見られない点であるから、看者の注意をひく意匠の要部と解される。
ところで、乙11によれば、本件意匠登録出願(平成7年9月14日)後の平成7年11月14日出願に係る「吸音パネル」の意匠が登録になっており、この意匠は、本件登録意匠と同じく、高速道路等の高架部の裏側桁部分に取り付けられるものであり、上部が略偏平直方体状で、下部がゆるやかな弧状の波板状に膨出部が形成され、長手方向側面同士で2個連結されており、上部と下部は長手方向同一長さであり、上面板には長手方向両側部を除き菱形網目が形成され、波板状膨出部は周面全体に極めて密に円形透孔が形成されている形状を現している(実際の使用時には多数連続して取り付けられる。)ことが認められる。この意匠が本件登録意匠の後願でありながら登録された(意匠法3条の2参照)事実に照らしても、本件登録意匠の要部を原告ら主張のようにとらえるのは相当ではなく、膨出部の円形透孔のみならず、下面板が上部枠体より長手方向で短く、膨出部が縦長のU字状に形成されている点も、意匠の構成上無視できないことを示しているといえる。なお、乙11の登録意匠について、原告らは審査経過を云々するが、その出願経過(甲26)から、本件意匠登録出願の存在を看過して登録に至ったとは断定できない。
(5) 上記のとおり、イ号意匠及びロ号意匠は、本件登録意匠のような円形透孔を有しておらず、また、ハ号意匠においては、上部枠体の上面板に円形の透孔がみられるものの、その配置状況や配置密度が本件登録意匠とは大きく異なっているほか、下面板中、両端の足場下部材には円形透孔がみられるとはいえ、下面板の大部分を占め、中央部に位置する膨出部には、円形透孔がみられないのであるから、イ号意匠ないしハ号意匠は、意匠の要部において本件登録意匠の構成と大きく異なっている。また、イ号意匠ないしハ号意匠は、下面板(膨出部)が上面板の前後方向両端より突出しており、U字状の膨出部も縦長ではなく半円筒状の形状になっている点で、下面板(膨出部)が前後方向長さでも上面板より短くて上面板から突出せず、膨出部が縦長のU字状に形成された本件登録意匠とは、意匠の要部の構成でかなり異なった印象を与えるものになっている。
これらの相違点により、本件登録意匠とイ号意匠ないしハ号意匠とは、全体として、見る者に美感上顕著に異なる印象を与えるものというべきである。
したがって、イ号意匠ないしハ号意匠は、いずれも本件登録意匠に類似しない。上記判断と異なる甲25(弁理士A作成の鑑定書)は採用できない。
結論
以上によれば、原告らの請求は、その余の点について判断するまでもなく、
いずれも理由がない。
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 中平健
裁判官 田中秀幸
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