運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 訂正2005-39230
無効2005-80121 訂正2006-39199
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成19行ケ10147審決取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10367審決取消請求事件 判例 特許
平成20行ケ10151審決取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10257審決取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10285審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 技術的思想 /  頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  上位概念 /  発明の詳細な説明 /  優先権 /  援用権(援用) /  置き換え /  置換 /  同一の作用効果 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  加工 /  設定登録 /  審理範囲 /  請求の理由 /  訂正審判 /  新規事項追加(新規事項の追加) /  請求の範囲 /  減縮 /  拡張 /  変更 /  釈明 /  独立特許要件 /  訂正明細書 /  要旨変更 /  訂正要件 /  確定審決の登録 /  同一事実(同一の事実) /  同一証拠(同一の証拠) /  取消決定 /  公知事実 /  原告適格 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 19年 (行ケ) 10380号 審決取消請求事件
原告マ ックス株式会社
原告訴訟代理人弁護士田倉保
原告訴訟代理人弁理士七條耕司
同 高田修治
被告日 立工機株式会社
被告訴訟代理人弁護士井坂光明
被告訴訟代理人弁理士井沢博
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2008/11/27
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1特許庁が無効2005−80121号事件について平成19年9月28日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
請求
主文第1項と同旨
争いのない事実等
以下の事実は,当事者間に争いがないか,証拠によって容易に認定することができる事実である(なお,法律上の見解は当裁判所が付記したものである。)。
1 特許庁における手続の経緯等(1) 本件特許被告は,発明の名称を「打込機」とする特許第2842215号の特許(以下「本件特許」という。)の特許権者であり,本件特許は,平成6年4月22日に出願され(優先権主張平成5年9月22日,日本),平成9年5月9日及び平成10年6月15日の各手続補正(いずれも願書に添付した明細書の記載を補正するもの)を経て,平成10年10月23日に設定登録されたものであり,登録時の請求項の数は8である(甲36)。
(2) 本件無効審判及び審決取消訴訟ア 第1次審決に至る経緯原告は,平成17年4月19日,同日付け審判請求書(甲37。以下「本件無効審判請求書」という。なお,本件無効審判請求書には,書証として,本件特許の優先権主張日前に頒布された刊行物であるドイツDE2700949A1公報〔甲1〕,ドイツDT2443544A1公報〔甲2。以下「刊行物2」ということがある。〕が添付されていた。)を特許庁に提出し,本件特許を無効にすることについて審判(無効2005-80121号事件。以下「本件無効審判」という。)を請求した。
その後,本件無効審判の手続において,被告は,平成17年7月15日付け審判事件答弁書(甲56)及び同日付け訂正請求書(甲57。以下,この請求書による訂正を「本件第1訂正」という。),同年10月4日付け口頭審理陳述要領書(甲58),同月11日付け上申書(甲59)及び同月18日付け上申書(甲60)を提出し,原告は,同年9月9日付け弁駁書(甲38。以下「第1回弁駁書」という。)及び同年10月18日付け口頭審理陳述要領書(甲39)を提出した。
特許庁は,平成17年11月8日,「訂正を認める。特許第2842215号の請求項1〜7に係る発明についての特許を無効とする。特許第2842215号の請求項8に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との審決(甲69。以下「第1次審決」という。)をした。
イ 第1次審決に対する取消訴訟被告及び原告は,それぞれ第1次審決の取消しを求めて,審決取消訴訟(知的財産高等裁判所平成17年(行ケ)第10842号事件及び平成17年(行ケ)第10847号事件)を提起し,その後,被告が,平成17年12月20日,本件特許につき訂正審判(訂正2005-39230号事件。甲61)を請求したところ,知的財産高等裁判所(第4部)は,平成18年1月30日,特許法181条2項により第1次審決を取り消す旨の決定(甲76。以下「第1次取消決定」という。)をした。
第1次取消決定は,第1次審決中の「特許第2842215号の請求項1〜7に係る発明についての特許を無効とする。」との部分(被告から提起された平成17年(行ケ)第10842号事件)及び第1次審決中の「特許第2842215号の請求項8に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との部分(原告から提起された平成17年(行ケ)第10847号事件)を審理の対象としたものであり,結局,第1次審決の全部を取り消したものである。
ウ 第2次審決に至る経緯第1次取消決定が効力を生じたことにより再開された本件無効審判の手続において,被告は,平成18年2月20日付け訂正請求書(以下,この請求書による訂正〔平成17年12月20日付け訂正審判請求書(甲61)に添付された訂正明細書援用するもの(甲40,66,弁論の全趣旨)〕を「本件第2訂正」という。)を提出し(なお,本件第2訂正が請求されたことに伴い,本件第1訂正の請求は取り下げられたものとみなされた〔特許法134条の2第4項参照〕。),原告は,平成18年3月31日付け弁駁書(甲40。以下「第2回弁駁書」という。
なお,第2回弁駁書には,書証として,刊行物2,実公昭56-6303号公報〔甲3〕,米国特許第4657166号公報〔甲4。以下「刊行物1」ということがある。〕,米国特許第4621758号公報〔甲5〕,フランス第1510942号公報〔甲6。以下「刊行物3」ということがある。〕,特公昭46-29234号公報〔甲7〕,実開平4-133580号公報〔甲8〕,ドイツDE3715293A1公報〔甲9〕,米国特許第5062562号公報〔甲10〕,ドイツ第7314056号公報〔甲11〕,特開平3-43163号公報〔甲12〕,米国特許第3713573号公報〔甲13〕,ドイツDT1286469号公報〔甲14〕,米国特許第4573624号公報〔甲15〕,中華民国専利公報・公告第118052号・全文明細書〔甲16〕,米国特許第3387541号公報〔甲17〕,特公昭50-31306号公報〔甲18〕,米国特許第3403600号公報〔甲19〕,米国特許第3853257号公報〔甲20〕,特開昭50-58675号公報〔甲21〕,実公昭51-42141号公報〔甲22〕,実開昭56-52684号公報・全文明細書〔甲23〕,実開昭58-173482号公報・全文明細書〔甲24〕,米国特許第3850079号公報〔甲25〕,特公昭63-42125号公報〔甲26〕,米国特許第3633811号公報〔甲27〕,米国特許第4220070号公報〔甲28〕,ドイツDE3207962A1公報〔甲29〕,実開昭62-92174号公報〔甲30〕,「TA-211/SF50M0」リーフレット写し及び矢示部拡大図〔甲31〕が添付されていた。)を提出した。
審判長は,平成18年5月18日,「上記弁駁書において新たに追加された甲第4〜31号証により立証しようとする事実に基づいた請求の理由の補正は,審判請求時の要旨を変更するものと認められるところ,この補正は,特許法131条の2第2項各号のいずれにも該当しないものであるから,許可しない。」との補正許否の決定(甲71)を発送するとともに,被告に対し無効理由通知書,原告に対し職権審理結果通知書(甲70。以下「本件職権審理結果通知書」という。なお,同通知書と上記無効理由通知書とは同内容であるから,以下,両者を併せ,「本件無効理由通知」という。)をそれぞれ発送した。
その後,被告は,平成18年6月19日付け意見書(甲62)及び同日付け訂正請求書(甲63。以下,この請求書による訂正を「本件第3訂正」という。)を提出し(なお,本件第3訂正が請求されたことに伴い,本件第2訂正の請求は取り下げられたものとみなされた〔特許法134条の2第4項参照〕。),原告は,同年8月8日付け弁駁書(甲41。以下「第3回弁駁書」という。)を提出した。
特許庁は,平成18年10月16日,「訂正を認める。特許第2842215号の請求項1乃至5に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(甲72。以下「第2次審決」という。)をした。
本件第3訂正は,登録時の請求項4ないし6の削除を伴うものであるところ,第2次審決中,同請求項の削除に係る訂正を認めた部分については,原告・被告とも取消訴訟を提起する原告適格を有しないというべきであるから,同審決の送達により,本件第3訂正のうち,登録時の請求項4ないし6を削除した部分は,形式的に確定した(知的財産高等裁判所平成19年(行ケ)第10099号事件・平成19年7月23日決定,知的財産高等裁判所平成18年(行ケ)第10455号事件・平成20年2月12日判決参照)。
エ 第2次審決に対する取消訴訟被告は,第2次審決の取消しを求めて,審決取消訴訟(知的財産高等裁判所平成18年(行ケ)第10516号)を提起し,その後,平成18年12月20日,本件特許につき訂正審判(訂正2006-39199号事件)を請求したところ,知的財産高等裁判所(第3部)は,平成19年2月14日,特許法181条2項により第2次審決を取り消す旨の決定(甲82。以下「第2次取消決定」という。)をした。
前記ウのとおり,第2次審決中,登録時の請求項4ないし6の削除に係る訂正を認めた部分は,既に同審決の送達により形式的に確定した。
上記審決取消訴訟において取消しを求めた対象は,同審決中,本件第3訂正後の請求項1ないし5に係る発明についての特許を無効とした部分のみであり,第2次取消決定における取消しの対象も,当該部分のみである。
オ 本件審決に至る経緯第2次取消決定が効力を生じたことにより再開された本件無効審判の手続において,被告は,平成19年3月5日付け訂正請求書(甲65。
以下,この請求書による訂正を「本件第4訂正」という。)を提出し(なお,本件第4訂正が請求されたことに伴い,本件第3訂正の請求のうち,既に形式的に確定している登録時の請求項4ないし6の削除に係る訂正を認めた部分以外の部分〔登録時の請求項1ないし3,7及び8に係る部分〕は,取り下げられたものとみなされた〔特許法134条の2第4項,知的財産高等裁判所平成19年(行ケ)第10081号事件・平成19年6月20日決定,知的財産高等裁判所平成19年(行ケ)第10099号事件・平成19年7月23日決定参照〕。),原告は,平成19年4月16日付け弁駁書(甲42。以下「第4回弁駁書」という。なお,第4回弁駁書には,本件無効審判請求書又は第2回弁駁書に添付されていた書証と同一の書証〔甲1〜31〕が添付されていた。)を提出した。
審判長は,平成19年5月15日,被告に対し,第4回弁駁書の副本の送付通知をするとともに,特許法施行規則47条の2第1項に基づき,30日の期間を指定して答弁指令を行った。なお,同通知には,上記期間が特許法134条1項,2項に規定された指定期間ではない旨記載されていた。
その後,被告は,平成19年6月14日付け審判事件答弁書(甲66)を提出し,第4回弁駁書に添付された刊行物3(甲6)については,本件無効審判請求書に記載のない刊行物であり,これに基づく審判請求の理由の補正はその要旨を変更するものであることのみを主張した。
特許庁は,平成19年9月28日,「訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(甲73。以下「本件審決」という。)をし,19年10月11日,その謄本を原告に送達した。
なお,前記ウのとおり,第2次審決中,登録時の請求項4ないし6の削除に係る訂正を認めた部分は,原告・被告とも取消訴訟を提起する原告適格を有しないから,既に同審決の送達により形式的に確定しており,本件審決中,登録時の請求項8の削除に係る訂正を認めた部分も,同様の理由により,同審決の送達により形式的に確定したから,結局,登録時の請求項4ないし6及び8の削除に係る訂正は,いずれも形式的に確定している。したがって,本訴において取消しを求めた対象は,本件審決中,本件第4訂正のうち登録時の請求項1ないし3及び7に係る訂正を認め,同訂正後の請求項1ないし4の発明についての特許につき審判請求を不成立とした部分である。
カ その他当事者間に争いのない事実本件無効審判の手続において,?@第4回弁駁書に係る原告の主張に関して,明示的な補正許否の決定がされた事実はなく,?A本件無効審判請求書で主張した無効理由について,原告が明示的にこれを撤回した事実はなく,?B本件職権審理結果通知書で通知された無効理由に関して,第2次取消決定が効力を生じて本件無効審判の手続が再開された後,これを審理の対象としない旨の明示的な告知がされた事実はない(第3回弁論準備手続調書)。
なお,本件無効審判の手続において原告が提出した書証(甲1〜31)の当該手続における書証番号は,本訴における書証番号と同一である(審決書3頁36行,第2回弁駁書〔甲40〕25頁45行,第4回弁駁書〔甲42〕44頁23行の各「甲第26号証:実公昭63-42125号公報」は,いずれも「甲第26号証:特公昭63-42125号公報」の誤記と認められる〔弁論の全趣旨〕。)。
2 特許請求の範囲の記載及び本件第4訂正の内容(1) 登録時の特許請求の範囲の記載登録時における本件特許の願書に添付した明細書(甲36。以下,図面と併せ,「登録時明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1ないし8の各記載は,次のとおりである(以下,これらの請求項に係る発明を項番号に対応して,「登録時発明1」などといい,これらをまとめて「登録時発明」という。)「【請求項1】ドライブビット等の打撃駆動手段を内蔵した打込機本体の下方に位置し,多数の止具集合体及び該止具集合体を前進させるためスプリングによって押圧される給送部材を収納支持するマガジンと,マガジン前端に設けられ,ドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内する給送路を有し,少なくとも前面が平板状のビットガイドと,打込機本体に設けられたトリガと,上端がトリガ近傍まで延び,下端がビットガイド下端より下方に突出し,中間部がビットガイドの前面に設けられると共にビットガイドに上下動可能に支持された平板状のコンタクトアームと,コンタクトアームを下方に押圧する押圧手段とを備え,コンタクトアームが上昇し,トリガが操作された時のみ前記ドライブビットの駆動を開始させるようにした打込機であって,前記ビットガイドの給送路の下方に位置するコンタクトアームの部分に射出路を設け,射出路から止具を打出すようにしたことを特徴とする打込機。
【請求項2】ドライブビット等の打撃駆動手段を内蔵した打込機本体の下方に位置し,多数の止具集合体及び該止具集合体を前進させるためスプリングによって押圧される給送部材を収納支持するマガジンと,マガジン前端に設けられ,ドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内する給送路を有し,少なくとも前面が平板状のビットガイドと,打込機本体に設けられたトリガと,上端がトリガ近傍まで延び,下端がビットガイド下端より下方に突出し,中間部がビットガイドの前面に設けられると共にビットガイドに上下動可能に支持された平板状のコンタクトアームと,コンタクトアームを下方に押圧する押圧手段とを備え,コンタクトアームが上昇し,トリガが操作された時のみ前記ドライブビットの駆動を開始させるようにした打込機であって,前記ビットガイドの給送路の下方に位置するコンタクトアームの部分に射出路を設けると共に,前記コンタクトアームにビットガイドの給送路の両側に沿って上方に延びた2個の案内部を設け,該案内部をビットガイドに沿って上下動させる構成とし,射出路から止具を打出すようにしたことを特徴とする打込機。
【請求項3】前記押圧手段を,前記2個の案内部を下方に押圧する2個のスプリングにより構成したことを特徴とする請求項2記載の打込機。
【請求項4】前記ビットガイドの前面にプレートを設けると共に,ビットガイドの給送路とプレートとの間にコンタクトアームが位置しない構成としたことを特徴とする請求項1または2記載の打込機。
【請求項5】前記コンタクトアームの先端部に射出溝を設けると共に少なくとも射出溝の下端部前面にプレートを設け,該プレートと射出溝により前記射出路を形成するようにしたことを特徴とする請求項1または2記載の打込機。
【請求項6】前記コンタクトアームの射出溝の下端近傍両側にプレート側に突出した一対の凸部を設け,該凸部の間に前記プレートの下端部を入れたことを特徴とする請求項5記載の打込機。
【請求項7】ドライブビット等の打撃駆動手段を内蔵した打込機本体の下方に位置し,多数の止具集合体及び該止具集合体を前進させるためスプリングによって押圧される給送部材を収納支持するマガジンと,打込機本体に設けられたトリガと,上端がトリガ近傍まで延び,反マガジン側の前面に射出路を設けた平板状のコンタクトアームと,コンタクトアームを下方に押圧する押圧手段とを備え,コンタクトアームが上昇し,トリガが操作された時のみ前記ドライブビットの駆動を開始させると共に打込み反力によって打込機本体が上昇した時コンタクトアームが下降しコンタクトアーム前面が止具に接触するようにしたことを特徴とする打込機。
【請求項8】止具が打出される射出部にマガジン内に収納された止具をスプリングによって押圧される給送部材を介して供給し,射出部に沿って上下動可能に設けられたコンタクトアームの先端を被打込材に押し付け打込機本体側に押し上げることにより射出部内に供給された止具を打出す打込機であって,前記コンタクトアームの前面にプレートを設け,射出部内に供給された止具の先頭の前面をコンタクトアームでなくプレートで受けるようにしたことを特徴とする打込機。」(2) 本件第4訂正後の特許請求の範囲の記載本件第4訂正後の本件特許の願書に添付した明細書(甲65。以下,図面と併せ,「訂正明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1ないし5の各記載(下線部分は登録時明細書の記載からの訂正箇所を示す。)は,次のとおりである(以下,これらの請求項に係る発明を項番号に対応して,「本件発明1」などといい,これらをまとめて「本件発明」という。なお,本件第4訂正後の請求項1ないし3はそれぞれ登録時の請求項1ないし3に対応し,本件第4訂正後の請求項4は登録時の請求項7に対応するものである。)。
「【請求項1】ドライブビットを内蔵した打込機本体の下方に位置し,多数の止具集合体及び該止具集合体を前進させるためスプリングによって押圧される給送部材を収納支持するマガジンと,マガジン前端に設けられ,上記止具集合体が通過する給送路を有し,少なくとも前面が平板状のビットガイドを備え,上記給送路の一部はドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内するようにした打込機であって,打込機本体に設けられたトリガと,上端がトリガ近傍まで延び,下端がビットガイド下端より下方に突出し,中間部がビットガイドの前面に設けられると共にビットガイドに上下動可能に支持された平板状のコンタクトアームと,コンタクトアームを下方に押圧する押圧手段とを備え,コンタクトアームが上昇し,トリガが操作された時のみ前記ドライブビットの駆動を開始させるようにした打込機であって,前記コンタクトアームの前面にプレートを設けることにより,前記マガジン側から前記ビットガイド,前記コンタクトアームの中間部,前記プレートの順に配列し,先頭の止具の前面をコンタクトアームでなくプレートで受けるようにし,前記止具集合体が通過する給送路とプレートとの間にコンタクトアームが位置しないように前記コンタクトアームの中間部をビットガイドに支持すると共に,前記ビットガイドの給送路の下端より突出した前記コンタクトアームの部分に前記給送路に連続する射出穴を前記コンタクトアームの下端まで貫通して設け,該射出穴から止具を打出すようにしたことを特徴とする打込機。
【請求項2】ドライブビットを内蔵した打込機本体の下方に位置し,多数の止具集合体及び該止具集合体を前進させるためスプリングによって押圧される給送部材を収納支持するマガジンと,マガジン前端に設けられ,上記止具集合体が通過する給送路を有し,少なくとも前面が平板状のビットガイドを備え,上記給送路の一部はドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内するようにした打込機であって,打込機本体に設けられたトリガと,上端がトリガ近傍まで延び,下端がビットガイド下端より下方に突出し,中間部がビットガイドの前面に設けられると共にビットガイドに上下動可能に支持された平板状のコンタクトアームと,コンタクトアームを下方に押圧する押圧手段とを備え,コンタクトアームが上昇し,トリガが操作された時のみ前記ドライブビットの駆動を開始させるようにした打込機であって,前記コンタクトアームの前面にプレートを設けることにより,前記マガジン側から前記ビットガイド,前記コンタクトアームの中間部,前記プレートの順に配列し,先頭の止具の前面をコンタクトアームでなくプレートで受けるようにし,前記止具集合体が通過する給送路とプレートとの間にコンタクトアームが位置しないように前記コンタクトアームの中間部をビットガイドに支持すると共に,前記ビットガイドの給送路の下端より突出した前記コンタクトアームの部分に前記給送路に連続する射出穴を前記コンタクトアームの下端まで貫通して設け,該射出穴から止具を打出すようにし,前記コンタクトアームにビットガイドの前記ドライブビットを案内する給送路の部分の両側に沿って上方に延びた2個の案内部を設け,該案内部をビットガイドに沿って上下動させる構成としたことを特徴とする打込機。
【請求項3】前記押圧手段を,前記2個の案内部を下方に押圧する2個のスプリングにより構成したことを特徴とする請求項2記載の打込機。
【請求項4】ドライブビットを内蔵した打込機本体の下方に位置し,多数の止具集合体及び該止具集合体を前進させるためスプリングによって押圧される給送部材を収納支持するマガジンと,マガジン前端に設けられ,上記止具集合体が通過する給送路を有し,少なくとも前面が平板状のビットガイドを備え,上記給送路の一部はドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内するようにした打込機であって,打込機本体に設けられたトリガと,上端がトリガ近傍まで延び,反マガジン側の前面に射出路を設けた平板状のコンタクトアームと,コンタクトアームを下方に押圧する押圧手段とを備えた打込機であって,前記コンタクトアームの前面にプレートを設けることにより,前記マガジン側から前記ビットガイド,前記コンタクトアームの中間部,前記プレートの順に配列し,先頭の止具の前面をコンタクトアームでなくプレートで受けるようにし,前記止具集合体が通過する給送路とプレートとの間にコンタクトアームが位置しないように前記コンタクトアームの中間部をビットガイドに支持すると共に,前記ビットガイドの給送路の下端より突出した前記コンタクトアームの部分に前記給送路に連続する射出穴を前記コンタクトアームの下端まで貫通して設け,該射出穴から止具を打出すようにし,コンタクトアームが上昇し,トリガが操作された時のみ前記ドライブビットの駆動を開始させると共に打込み反力によって打込機本体が上昇した時コンタクトアームが下降しコンタクトアーム前面が止具に接触して前記ドライブビットが前記止具から外れないようにしたことを特徴とする打込機。」(3) 本件第4訂正の内容本件審決(審決書4頁30行〜7頁19行)では,被告(被請求人)が求めた本件第4訂正(甲65)の内容を次のとおり分説しているが,本判決においても,同分説に従う。なお,前記(2)のとおり,本件第4訂正後の請求項1ないし3はそれぞれ登録時の請求項1ないし3に対応し,本件第4訂正後の請求項4は登録時の請求項7に対応するものである。
ア 訂正事項1(ア) 訂正事項1-1「特許請求の範囲の請求項1の『ドライブビット等の打撃駆動手段を内蔵した打込機本体』を,『ドライブビットを内蔵した打込機本体』に訂正する。」(審決書5頁5行〜6行)(イ) 訂正事項1-2「特許請求の範囲の請求項2の『ドライブビット等の打撃駆動手段を内蔵した打込機本体』を,『ドライブビットを内蔵した打込機本体』に訂正する。」(審決書5頁8行〜9行)(ウ) 訂正事項1-3「特許請求の範囲の請求項7の『ドライブビット等の打撃駆動手段を内蔵した打込機本体』を,『ドライブビットを内蔵した打込機本体』に訂正する。」(審決書5頁11行〜12行)イ 訂正事項2(ア) 訂正事項2-1「特許請求の範囲の請求項1及び2の『マガジン前端に設けられ,ドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内する給送路を有し,少なくとも前面が平板状のビットガイドと,』を,『マガジン前端に設けられ,上記止具集合体が通過する給送路を有し,少なくとも前面が平板状のビットガイドを備え,上記給送路の一部はドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内するようにした打込機であって,』に訂正する。」(審決書5頁15行〜21行)(イ) 訂正事項2-2「特許請求の範囲の請求項7の『給送部材を収納支持するマガジンと,』を,『給送部材を収納支持するマガジンと,マガジン前端に設けられ,上記止具集合体が通過する給送路を有し,少なくとも前面が平板状のビットガイドを備え,上記給送路の一部はドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内するようにした打込機であって,』に訂正する。」(審決書5頁23行〜28行)ウ 訂正事項3(ア) 訂正事項3-1「特許請求の範囲の請求項1の『コンタクトアームが上昇し,トリガが操作された時のみ前記ドライブビットの駆動を開始させるようにした打込機であって,』を,『コンタクトアームが上昇し,トリガが操作された時のみ前記ドライブビットの駆動を開始させるようにした打込機であって,前記コンタクトアームの前面にプレートを設けることにより,前記マガジン側から前記ビットガイド,前記コンタクトアームの中間部,前記プレートの順に配列し,先頭の止具の前面をコンタクトアームでなくプレートで受けるようにし,前記止具集合体が通過する給送路とプレートとの間にコンタクトアームが位置しないように前記コンタクトアームの中間部をビットガイドに支持すると共に,』に訂正する。」(審決書5頁31行〜6頁8行)(イ) 訂正事項3-2「特許請求の範囲の請求項1の『前記ビットガイドの給送路の下方に位置するコンタクトアームの部分に射出路を設け,射出路から止具を打出すようにしたことを特徴とする打込機。』を,『前記ビットガイドの給送路の下端より突出した前記コンタクトアームの部分に前記給送路に連続する射出穴を前記コンタクトアームの下端まで貫通して設け,該射出穴から止具を打出すようにしたことを特徴とする打込機。』に訂正する。」(審決書6頁10行〜16行)(ウ) 訂正事項3-3「特許請求の範囲の請求項2の『前記ビットガイドの給送路の下方に位置するコンタクトアームの部分に射出路を設けると共に,前記コンタクトアームにビットガイドの給送路の両側に沿って上方に延びた2個の案内部を設け,該案内部をビットガイドに沿って上下動させる構成とし,射出路から止具を打出すようにしたことを特徴とする打込機。』を,『前記コンタクトアームの前面にプレートを設けることにより,前記マガジン側から前記ビットガイド,前記コンタクトアームの中間部,前記プレートの順に配列し,先頭の止具の前面をコンタクトアームでなくプレートで受けるようにし,前記止具集合体が通過する給送路とプレートとの間にコンタクトアームが位置しないように前記コンタクトアームの中間部をビットガイドに支持すると共に,前記ビットガイドの給送路の下端より突出した前記コンタクトアームの部分に前記給送路に連続する射出穴を前記コンタクトアームの下端まで貫通して設け,該射出穴から止具を打出すようにし,前記コンタクトアームにビットガイドの前記ドライブビットを案内する給送路の部分の両側に沿って上方に延びた2個の案内部を設け,該案内部をビットガイドに沿って上下動させる構成としたことを特徴とする打込機。』に訂正する。」(審決書6頁18行〜33行)(エ) 訂正事項3-4「特許請求の範囲の請求項7の『コンタクトアームを下方に押圧する押圧手段とを備え,コンタクトアームが上昇し,トリガが操作された時のみ前記ドライブビットの駆動を開始させると共に打込み反力によって打込機本体が上昇した時コンタクトアームが下降しコンタクトアーム前面が止具に接触するようにしたことを特徴とする打込機。』を,『コンタクトアームを下方に押圧する押圧手段とを備えた打込機であって,前記コンタクトアームの前面にプレートを設けることにより,前記マガジン側から前記ビットガイド,前記コンタクトアームの中間部,前記プレートの順に配列し,先頭の止具の前面をコンタクトアームでなくプレートで受けるようにし,前記止具集合体が通過する給送路とプレートとの間にコンタクトアームが位置しないように前記コンタクトアームの中間部をビットガイドに支持すると共に,前記ビットガイドの給送路の下端より突出した前記コンタクトアームの部分に前記給送路に連続する射出穴を前記コンタクトアームの下端まで貫通して設け,該射出穴から止具を打出すようにし,コンタクトアームが上昇し,トリガが操作された時のみ前記ドライブビットの駆動を開始させると共に打込み反力によって打込機本体が上昇した時コンタクトアームが下降しコンタクトアーム前面が止具に接触して前記ドライブビットが前記止具から外れないようにしたことを特徴とする打込機。』に訂正する。」(審決書6頁35行〜7頁16行)エ 訂正事項4「特許請求の範囲の請求項4,5,6及び8を削除し,これに伴い請求項7を請求項4に訂正する。」(審決書7頁18行〜19行)3 本件審決の理由別紙審決書写しのとおりである。要するに,本件審決は,原告(請求人)の主張の概要を下記(1)のとおり摘示した上で,下記(2)のとおりの判断をして,「本件発明1〜4についての特許は,請求人の主張及び証拠方法によっては,無効とすることができない。」(審決書36頁22行〜23行)としたものである。
(1) 本件審決が摘示した原告(請求人)の主張の概要ア「第4回弁駁書における請求人の主張の概要は,平成19年3月5日付けの訂正請求は,特許法第134条の2第1項の規定に反しているから認めるべきではなく,また,本件発明1ないし8(判決注,登録時発明1ないし8)についての特許は,以下4つの理由により無効とされるべきである,というものである。
1.前記訂正請求は認められないものであるから,訂正前の特許請求の範囲の記載された発明は特許法第29条第2項の規定により無効である。(以下,『無効理由1』という。)2.前記訂正請求は認められないものであるから,平成17年11月8日付け審決において判断されているとおり,請求項1ないし7記載の発明は無効である。(以下,『無効理由2』という。)3.前訂正請求は認められないものであるから,請求項8記載の発明は,審判請求書に添付した引用文献(甲第1号証および甲第2号証)に基づき,特許法第29条第2項の規定により無効である。(以下,『無効理由3』という。)4.仮に,前記訂正請求が有効であるとしても,前記訂正請求によって訂正された特許請求の範囲に記載された発明は,特許法第29条第2項の規定により無効である。(以下,『無効理由4』という。)」(審決書4頁6行〜22行)イ「無効理由4の概要は,本件発明1〜4は,第4回弁駁書に甲第4号証として添付された・・・刊行物1・・・,甲第2号証として添付された・・・刊行物2・・・,及び甲第6号証として添付された・・・刊行物3・・・に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである,というものである。」(審決書13頁11行〜17行)(2) 本件審決の判断ア 本件第4訂正の可否「上記訂正は,平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書きに適合し,特許法第134条の2第5項において準用する平成6年改正前第126条第2項の規定に適合するので,当該訂正を認める。」(審決書13頁2行〜5行。本判決において,以下,平成6年法律第116号による改正前の特許法を「平成6年改正前特許法」といい,平成6年改正前特許法134条2項ただし書きの規定する要件及び特許法134条の2第5項において準用する平成6年改正前特許法126条2項の規定する要件を併せて「訂正要件」という。)イ 原告(請求人)の主張に対する判断(ア)「無効理由1ないし3は,すべて訂正前の特許請求の範囲の記載に基づく主張であるが,上記『第4.』のとおり訂正は認められたので,無効理由1ないし3は,理由が無くなった。」(審決書13頁7行〜9行)(イ)「本件発明1〜4は,刊行物1,刊行物2ないし刊行物3に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたとすることができない。また,第4回弁駁書に添付された甲第1〜31号証にも,上記相違点2,4に係る本件発明1〜4の構成は記載されておらず,示唆するところがない。したがって,本件発明1〜4についての特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである,とすることはできない。」(審決書36頁13行〜20行)本件審決は,上記判断をするに当たって,刊行物1記載の発明の内容,刊行物2記載の事項の内容,刊行物3記載の事項の内容,本件発明と刊行物1記載の発明との一致点・相違点について,次のとおり認定した(なお,審決書20頁末行,29頁20行及び21行,31頁26行,33頁20行及び24行に「引用例」とあるのは,いずれも「刊行物」の誤記と認める。)。
a本件審決が認定した刊行物1記載の発明の内容(a) 刊行物1記載の発明1「釘打込みブレード70を内蔵した釘打ち機本体の下方に位置し,釘帯105及び該釘帯105を前進させるためバネ125によって前進方向に付勢される釘押出し部材130を収納支持するマガジンと,マガジン前端に設けられ,上記釘帯105が通過する給送路を有し,少なくとも前面が平板状の側面フランジ96-96を備え,上記給送路の一部は釘打込みブレード70と釘打込みブレード70により打撃される先頭の釘を案内するようにした釘打ち機であって,釘打ち機本体に設けられたトリガ184と,下端が側面フランジ96-96下端より下方に突出することができ,上記釘帯105が通過するスロット102aを中間部に有し,側面フランジ96-96の前面に設けられると共に側面フランジ96-96に上下動可能に支持され,反マガジン側の前面に窪み102bを設けた平板状の移動自在部材102と,移動自在部材102を下方に押圧するバネ167とを備え,移動自在部材102が上昇し,トリガが操作された時のみ前記釘打込みブレード70の駆動を開始させるようにした釘打ち機であって,前記移動自在部材102の前面に,マガジン側に窪み101bを設けた正面プレート101を設けることにより,前記マガジン側から,前記側面フランジ96-96,前記移動自在部材102,前記正面プレート101の順に配列し,先頭の釘の前面を移動自在部材102でなく正面プレート101で受けるようにし,移動自在部材102が下降位置にあるときは,給送路の一部を構成するスロット102aを通して,上記釘帯105を正面プレート101側に供給する一方,移動自在部材102が上昇し,移動自在部材102の下端が,正面プレート101の下端と側面フランジ96の下端と同じ位置になるときは,正面プレート101の窪み101bと移動自在部材102の窪み102bとによって,正面プレート101と移動自在部材102との下端まで案内溝を形成し,前記釘帯105が通過する給送路に移動自在部材102が位置するように,前記移動自在部材102を側面フランジ96-96に支持すると共に,前記給送路の下方に給送路に連続する案内溝を設けており,前記案内溝から釘を打出すようにした釘打ち機。」(審決書21頁4行〜35行)(b) 刊行物1記載の発明2「刊行物1記載の発明1において,前記移動自在部材102に,前記釘打込みブレード70を案内する給送路の部分の両側に沿って上方に延びた2個のスロット102d-102dを設け,該スロット102d-102dを側面フランジ96-96に沿って上下動させる構成とした釘打ち機。」(審決書21頁37行〜22頁2行)(c) 刊行物1記載の発明3「釘打込みブレード70を内蔵した釘打ち機本体の下方に位置し,釘帯105及び該釘帯105を前進させるためバネ125によって前進方向に付勢される釘押出し部材130を収納支持するマガジンと,マガジン前端に設けられ,少なくとも前面が平板状の側面フランジ96-96を備え,上記釘帯105が通過する給送路を有する移動自在部材102を備え,上記給送路の一部は釘打込みブレード70と釘打込みブレード70により打撃される先頭の釘を案内するようにした釘打ち機であって,釘打ち機本体に設けられたトリガ184と,反マガジン側の前面に窪み102bを設けた平板状の移動自在部材102と,移動自在部材102を,下方に押圧するバネ167とを備えた釘打ち機であって,前記移動自在部材102の前面に正面プレート101を設けることにより,前記マガジン側から,前記側面フランジ96-96,前記移動自在部材102,前記正面プレート101の順に配列し,先頭の釘の前面を移動自在部材102でなく正面プレート101で受けるようにし,移動自在部材102が上昇し,移動自在部材102の下端が,正面プレート101の下端と側面フランジ96の下端と同じ位置になるときは,正面プレート101の窪み101bと移動自在部材102の窪み102bとによって,正面プレート101と移動自在部材102との下端まで案内溝を形成し,前記釘帯105が通過する給送路と正面プレート101との間に移動自在部材102が位置するように,前記移動自在部材102の中間部を側面フランジ96-96に支持すると共に,前記給送路の下方に給送路に連続する案内溝を設け,前記案内溝から釘を打出すようにし,移動自在部材102が上昇し,トリガが操作された時のみ前記釘打込みブレード70の駆動を開始させるようにした釘打ち機。」(審決書22頁4行〜29行)b本件審決が認定した刊行物2記載の事項の内容(a) 刊行物2記載の事項1「打撃ロッド2を内蔵した止具打込み機本体の下方に位置し,止具の帯状集合体16及び止具の帯状集合体16を,ばねによってシフトするためのマガジンスライダ19を収納するマガジン15と,マガジン前端に設けられ,止具の帯状集合体16が通過する給送路を有し,少なくとも前面が平板状のガイドプレート9を備え,上記給送路の一部は,案内溝11となっており,打撃ロッド2及び打撃ロッド2により打撃される最初のステープル17を案内するようにした止具打込み機であって,止具打込み機本体に設けられた引金レバー4と,上端が引金レバー4を作動させるサイドバー29近傍まで伸び,下端がガイドプレート9下端と同じか,下端より下方に突出可能であって,中間部がガイドプレート9の後方に設けられると共にガイドプレート9に上下動可能に支持された平板状の接触素子24と,接触素子24を下方静止位置に保つ引張ばね28とを備え,接触素子24が上昇し,引金レバー4が操作されたときのみ前記打撃ロッド2の駆動を開始させるようにした止具打込み機であって,止具の帯状集合体16はステープル17からなり,ガイドプレート9の前面にカバープレート10を設けることにより,前記マガジン側から側方パネル7,接触素子24,ガイドプレート9,カバープレート10の順で配列し,最初のステープル17を接触素子24でなく,カバープレート10で受けるようにし,止具の帯状集合体16が通過する給送路とカバープレート10との間に接触素子24が位置しないように接触素子24の中間部をガイドプレート9に支持すると共に,カバープレート10とガイドプレート9とで形成された案内溝の下方である案内脚部の下端から,ステープル17を打出すようにした止具打込み機。」(審決書24頁16行〜25頁6行)(b) 刊行物2記載の事項2「止具打込み機において,止具の帯状集合体16が通過する給送路を有するガイドプレート9を備え,給送路の一部は打撃ロッド2と打撃ロッド2により打撃される先頭の止具を案内すること。」(審決書25頁8行〜10行)(c) 刊行物2記載の事項3「止具の帯状集合体16が通過する給送路とカバープレート10との間に接触素子24が位置しないよう接触素子24の中間部をガイドプレート9に支持すること。」(審決書25頁12行〜14行)c刊行物3記載の事項「ブロックの一方(後部)73aは,ホチキスブレード71が内部で摺動する溝82を有し,また,ホチキスの溝82にセットされる針を導入する垂直開口部88が設けられており,他方の部分73bにはガイド81が設けられており,接触部80がこのガイドの内部を通過しており,溝82は,ホチキスブレード71とホチキスブレード71で綴じられる針Aを案内する止め金打機。」(審決書26頁11行〜17行)d本件審決が認定した本件発明と刊行物1記載の発明との一致点・相違点(a)本件審決は,本件発明1と刊行物1記載の発明1とを対比し,両者は下記の一致点1において一致し,下記の相違点1ないし4において相違すると認定した。
[一致点1]「ドライブビットを内蔵した打込機本体の下方に位置し,多数の止具集合体及び該止具集合体を前進させる給送部材を収納支持するマガジンと,マガジン前端に設けられ,少なくとも前面が平板状のハウジング部材を備え,上記止具集合体が通過する給送路を有し,上記給送路の一部はドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内するようにした打込機であって,打込機本体に設けられたトリガと,ハウジング部材に上下動可能に支持された平板状のコンタクトアームと,コンタクトアームを下方に押圧する押圧手段とを備え,コンタクトアームが上昇し,トリガが操作された時のみ前記ドライブビットの駆動を開始させるようにした打込機であって,前記コンタクトアームの前面にプレートを設けることにより,前記マガジン側から前記ハウジング部材,前記コンタクトアームの中間部,前記プレートの順に配列し,先頭の止具の前面をコンタクトアームでなくプレートで受けるようにし,前記コンタクトアームの中間部をハウジング部材に支持すると共に,前記ハウジング部材の給送路の下端より前記給送路に連続する射出路を前記コンタクトアームの下端まで貫通して設け,該射出路から止具を打出すようにした打込機。」(審決書27頁4行〜22行)[相違点1]「前者は,給装部材が,スプリングによって押圧されているのに対して,後者は,スプリングによって前進方向に付勢されているが,スプリングによって押圧されていない点。」(審決書27頁24行〜26行)[相違点2]「前者は,ハウジング部材が止具集合体が通過する給送路を有するビットガイドであって,マガジン側からビットガイド,コンタクトアームの中間部,前記プレートの順に配列し,止具集合体が通過する給送路とプレートとの間にコンタクトアームが位置しないようにコンタクトアームの中間部をビットガイドに支持するのに対して,後者は,ハウジング部材はビットガイドでなく,ドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内する部材が正面プレート101の窪み101bと移動自在部材102の窪み102bであり,しかも,コンタクトアームが上昇した際に,止具集合体が通過する給送路とプレートとの間にコンタクトアームが位置する点。」(審決書27頁28行〜28頁1行)[相違点3]「前者が,コンタクトアームの上端がトリガ近傍まで延びているのに対し,後者は,そのように特定されていない点。」(審決書28頁3行〜4行)[相違点4]「前者は,ビットガイドの給送路の下端より突出したコンタクトアームの部分に,給送路に連続する射出穴を前記コンタクトアームの下端まで貫通して設けているのに対し,後者は,ハウジング部材の下端から突出自在であるコンタクトアームの部分に給送路に連続する窪みを,コンタクトアームの下端まで設けている点。」(審決書28頁6行〜10行)(b)本件審決は,本件発明2と刊行物1記載の発明2とを対比し,両者は下記の一致点2において一致し,前記(a)の相違点1ないし4において相違すると認定した。
[一致点2]「ドライブビットを内蔵した打込機本体の下方に位置し,多数の止具集合体及び該止具集合体を前進させる給送部材を収納支持するマガジンと,マガジン前端に設けられ,少なくとも前面が平板状のハウジング部材を備え,上記止具集合体が通過する給送路を有し,上記給送路の一部はドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内するようにした打込機であって,打込機本体に設けられたトリガと,ハウジング部材に上下動可能に支持された平板状のコンタクトアームと,コンタクトアームを下方に押圧する押圧手段とを備え,コンタクトアームが上昇し,トリガが操作された時のみ前記ドライブビットの駆動を開始させるようにした打込機であって,前記コンタクトアームの前面にプレートを設けることにより,前記マガジン側から前記ハウジング部材,前記コンタクトアームの中間部,前記プレートの順に配置し,先頭の止具の前面をコンタクトアームでなくプレートで受けるようにし,前記コンタクトアームの中間部をハウジング部材に支持すると共に,前記ハウジング部材の給送路の下端より前記給送路に連続する射出路を前記コンタクトアームの下端まで貫通して設け,該射出路から止具を打出すようにし,前記コンタクトアームに前記給送路の部分の両側に沿って上方に延びた2個の案内部を設け,該案内部をハウジング部材に沿って上下動させる構成とした打込機。」(審決書32頁21行〜33頁6行)(c)本件審決は,本件発明3と刊行物1記載の発明2とを対比し,両者は前記(b)の一致点2において一致し,前記(a)の相違点1ないし4及び下記の相違点5において相違すると認定した。
[相違点5]「本件発明3は,押圧手段を,2個の案内部を下方に押圧する2個のスプリングにより構成としたものであるのに対して,刊行物1記載の発明2は,そのように特定されていない点。」(審決書33頁23行〜25行)(d)本件審決は,本件発明4と刊行物1記載の発明3とを対比し,両者は下記の一致点3において一致し,前記(a)の相違点1ないし3及び下記の相違点6において相違すると認定した(なお,審決書35頁13行に「案内止する部材」とあるのは,「案内する部材」の誤記と認める。)。
[一致点3]「ドライブビットを内蔵した打込機本体の下方に位置し,多数の止具集合体及び該止具集合体を前進させる給送部材を収納支持するマガジンと,マガジン前端に設けられ,少なくとも前面が平板状のハウジング部材を備え,上記止具集合体が通過する給送路を有し,上記給送路の一部はドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内するようにした打込機であって,打込機本体に設けられたトリガと,反マガジン側の前面に射出路を設けた平板状のコンタクトアームと,コンタクトアームを下方に押圧する押圧手段とを備えた打込機であって,前記コンタクトアームの前面にプレートを設けることにより,前記マガジン側から前記ハウジング部材,前記コンタクトアームの中間部,前記プレートの順に配置し,先頭の止具の前面をコンタクトアームでなくプレートで受けるようにし,前記コンタクトアームの中間部をハウジング部材に支持すると共に,前記ハウジング部材の下端より突出した前記コンタクトアームの部分に前記給送路に連続する射出路を前記コンタクトアームの下端まで貫通して設け,該射出路から止具を打出すようにし,コンタクトアームが上昇し,トリガが操作された時のみ前記ドライブビットの駆動を開始させるようにした打込機。」(審決書34頁17行〜35頁1行)[相違点6]「前者は,打込み反力によって打込機本体が上昇した時コンタクトアームが下降しコンタクトアーム前面が止具に接触して前記ドライブビットが前記止具から外れないようにしたのに対して,後者は,そのように特定されていない点。」(審決書35頁21行〜24行)
取消事由についての原告の主張
本件審決は,以下のとおり,訂正の可否についての判断を誤った違法(取消事由1),本件発明についての進歩性の判断を誤り又はこれを遺脱した違法(取消事由2ないし5)があるから,取り消されるべきである。
1 取消事由1(訂正の可否についての判断の誤り)以下のとおり,本件第4訂正を認めた本件審決の判断には誤りがある。すなわち,?@訂正事項2-1及び2-2は,「ビットガイドと給送路との関係を明りょうにするもの」(審決書8頁24行)ではなく,?A訂正事項3-2は,「コンタクトアーム」の位置を不明りょうにするものであり,訂正事項3-1,3-3及び3-4は,「ビットガイド,プレート,コンタクトアームの位置関係を具体的に特定するもの」(審決書9頁11行〜12行)ではなく,特許請求の範囲減縮ではなく,かえってその位置関係を不明りょうにするものであるから,いずれも訂正要件を満たさず,また,?B本件第4訂正では,「射出穴」の概念が拡張されており,この点も訂正要件を満たさない。
(1) 「給送路」についての判断の誤り以下のとおり,本件第4訂正における「給送路」に係る訂正事項は,?@特許請求の範囲における「給送路」という語を本件第4訂正前(登録時)とは異なる意味で用いるものであること,?A特許請求の範囲における「給送路」の意味を不明りょうにし,これを内包する「ビットガイド」の意味をも不明りょうにするものであることから,訂正要件を満たさない。
ア 「給送路」の意味が変更されたこと(ア)本件第4訂正前(登録時)の特許請求の範囲では,「ドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内する」という限定があったことから,「給送路」は,射出路と同軸上に存在するもの(以下「縦方向の給送路」という。)のみが記載されていた。
(イ)これに対し,本件第4訂正後の特許請求の範囲では,「止具集合体が通過する給送路を有し」,「給送路の一部はドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内する」と記載されていることから,同訂正により,「給送路」は,その全体が止具集合体が通過するもの(以下「横方向の給送路」という。)となり,その一部のみが縦方向の給送路となった。
(ウ)このように,本件第4訂正前(登録時)は,特許請求の範囲の記載における「給送路」が縦方向の給送路を指し,その全体が「ドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内する」機能を有するものであったのに対し,本件第4訂正後は,特許請求の範囲の記載における「給送路」が横方向の給送路を指すことになり,その全体が「止具集合体が通過する」機能を有し,その一部のみが「ドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内する」機能を有することになったものであって,本件第4訂正は,「給送路」という用語の意味に実質的な変更を加えるものである。
イ 「給送路」の意味が不明りょうになったこと(ア)「通過」とは「通りすぎること,通りこすこと」(広辞苑)を意味するから,本件第4訂正後の「給送路」は,「先頭の止具」に限らず,「止具集合体」が通り,かつ,すぎるものであることが必要である。また,本件第4訂正後の特許請求の範囲では,「ドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内する」機能を有するのが「給送路の一部」とされているのに対し,「止具集合体が通過する」機能を有するのは「給送路」とされ,「一部」という限定がないから,「給送路」全体に「止具集合体が通過する」機能があることが必要である。
(イ)上記(ア)の点を前提として,本件第4訂正後の特許請求の範囲における「給送路」の意味を検討するに,次の4通りの解釈が可能であるが,いずれの解釈によっても他の文言と矛盾する。
a「給送路」が,?@「止具集合体が通過する」横方向の空間(以下「C空間」という。別紙参考図の図1-2-3,図1-3-1及び図1-3-2参照。)と,?A「ドライブビット」と「先頭の止具」を案内する縦方向の空間のうち,C空間に対応する部分(以下「A空間」という。同参考図の図1-2-2,図1-3-1及び図1-3-2参照。)とを意味するとすれば,A空間は,先頭の止具1個分のスペースしかなく,「止具集合体」が通りすぎることができないから,「給送路」は「止具集合体が通過する」という要件を充足しないことになる。
b「給送路」が,C空間のみを意味するとすれば,「給送路の一部」は「ドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内する」という要件を充足しないことになる。
c「給送路」が,?@A空間と,?A「ドライブビット」と「先頭の止具」を案内する縦方向の空間のうち,A空間以外の部分(以下「B空間」という。別紙参考図の図1-2-2,図1-2-3,図1-3-1及び図1-3-2参照。)を意味するとすれば,A空間及びB空間に入ることができるのは先頭の止具のみであり,「止具集合体」はこれらの空間を「通過」することができないから,「給送路」は「止具集合体が通過する」という要件を充足しないことになる。
d「給送路」が,A空間のみを意味するとすれば,「ドライブビット」と「先頭の止具」を案内するのは,「給送路」全体ということになるから,「給送路の一部」は「ドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内する」という文言と整合しない上,前記のとおり,A空間は,先頭の止具1個分のスペースしかなく,「止具集合体」が通りすぎることができないから,「給送路」は「止具集合体が通過する」という要件を充足しないことになる。
(ウ)以上のとおり,本件第4訂正において,特許請求の範囲に「止具集合体が通過する給送路」という文言が付加されたことにより,「給送路」の意味が不明りょうになった。すなわち,本件第4訂正後の特許請求の範囲における「止具集合体が通過する」という「給送路」と,「ドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内する」という「給送路(の一部)」とは,統一的に解釈することができない。
(2) 「コンタクトアーム」及び「ビットガイド」についての判断の誤り以下のとおり,本件第4訂正における「コンタクトアーム」及び「ビットガイド」に係る訂正事項は,?@特許請求の範囲における「コンタクトアーム」の意味を不明りょうにするものであること,?A特許請求の範囲における「ビットガイド」の意味を不明りょうにするものであることから,訂正要件を満たさない。
ア 「コンタクトアーム」について本件第4訂正により,「コンタクトアーム」は,その位置が「給送路の下方に位置する」から「給送路の下端より突出した」と変更されたが,「下端」とは「下の方のはし」(広辞苑)を意味するから,「コンタクトアーム」は,「給送路」の下方で,かつ,「給送路」に接した部分より突出したものであることが必要となった。
ところが,本件第4訂正後の「給送路」の意味は,前記(1)のとおり,不明りょうであって,「給送路」の範囲を確定することができないから,その下端も確定することができない。
したがって,本件第4訂正後の「ビットガイドの給送路の下端より突出した前記コンタクトアーム」という構成は,不明りょうである。
イ 「ビットガイド」について本件第4訂正により,「ビットガイド」は,?@マガジン前端に設けられること(位置),?A上記止具集合体が通過する「給送路」を有すること(構成要素,機能),?B少なくとも前面が平板状であること(形状),?C上記「給送路」の一部がドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内するものであること(機能)とされた。
すなわち,「ビットガイド」は「給送路」を有するものであるが,前記(1)のとおり,本件第4訂正により「給送路」の意味に実質的な変更が加えられたから,「ビットガイド」についても,その技術的内容が異なるものに変更された(本件第4訂正により,「ビットガイド」はその一部のみがドライブビットを案内する機能を有するものに変更された。)。
また,「ビットガイド」の「前面」は,「プレート」に接する面なのか,「コンタクトアーム」に接する部分なのか,不明りょうである。
(3) 射出穴についての判断の誤り本訴における被告の以下の主張にかんがみると,本件第4訂正により,「射出穴」の概念が拡張されたというべきであり,この点も訂正要件を満たさない。
すなわち,被告は,本件第4訂正により,特許請求の範囲に「射出穴」との記載を付加したことをもって,登録時明細書に記載された第1の実施例(「コンタクトアームの先端部51がパイプ状になった場合」,段落【0014】,【0015】参照)と,第2の実施例(「溝のように開放されたもの」の場合,段落【0016】,【0017】参照)のうち,第2の実施例の場合を放棄したはずであるにもかかわらず,被告は,「射出穴」が,一体形成されたパイプ状に溶接されたものに限られず,複数の部材がネジ止め等により射出穴を形成するものも含まれ,溝のように開放されたものと区別されるだけである旨主張している。このような被告の主張を前提とすれば,「射出穴」には「螺子止め形成」の場合が含まれることになるから,本件第4訂正により「射出穴」の概念が拡張されたというべきである。
2取消事由2(刊行物1記載の発明に刊行物2記載の事項を適用することについての判断の誤り)本件審決は,本件発明1と刊行物1記載の発明1との相違点2及び4の容易想到性の判断に際して,「刊行物1記載の発明に刊行物2記載の事項を適用することはできない。」(審決書31頁19行〜20行)と判断し,本件発明1と刊行物1記載の発明1との相違点4,本件発明2と刊行物1記載の発明2との相違点2及び4,本件発明3と刊行物1記載の発明2との相違点2及び4,本件発明4と刊行物1記載の発明3との相違点2の各容易想到性の判断に際しても,これと同様の判断をした。
しかし,以下のとおり,本件審決の上記判断は誤りである。そして,本件審決はその余の相違点に係る本件発明1ないし4の各構成について容易想到であると判断しているから,上記誤りが本件審決の結論に影響することは明らかである。
(1) 本件発明1と刊行物1記載の発明1との対比の誤り本件審決は,本件発明1と刊行物1記載の発明1との相違点2について判断するに先立ち,本件発明1と刊行物1記載の発明1とを対比して,「後者の『側面フランジ96-96』は,マガジン前端に設けられ,少なくとも前面が平面であるハウジング部材という限りで前者の『ビットガイド』と共通し,後者の『正面プレート101』は,コンタクトアームの前面に設けられ,先頭の止具の前面を受けるプレート部材という限りで前者の『プレート』と共通」(審決書26頁29行〜33行)すると認定した上で,「刊行物1記載の発明1において,ドライブビットをガイドしているのは,正面プレート101の窪み101bと移動部材102の窪み102bであって,ハウジング部材である側面フランジ96-96ではない。すなわち,刊行物1記載の発明1の側面フランジは,ドライブビットをガイドする機能はなく,刊行物2記載のビットガイド(ガイドプレート)とは機能が異なるから,刊行物1記載の発明1の側面フランジを刊行物2記載のビットガイドと置き換える動機づけがないというべきである。」(審決書29頁9行〜15行)と判断した。
しかし,以下のとおり,本件発明1の「ビットガイド」が有する2つの機能(ドライブビットを案内する機能,止具集合体が通過する機能)に着目すれば,刊行物1記載の発明1の「側面フランジ96-96」及び「正面プレート101」は,それぞれ本件発明1の「ビットガイド」及び「プレート」に完全に対応しているということができるから,本件審決が,上記2つの機能を区別せずに,「マガジン前端に設けられ,少なくとも前面が平面であるハウジング部材という限りで」,「コンタクトアームの前面に設けられ,先頭の止具の前面を受けるプレート部材という限りで」という限定的な認定をしたことは誤りであり,これを前提とする本件審決における相違点2の容易想到性の判断も誤りである。
ア 「側面フランジ」について(ア)刊行物1記載の発明1の「側面フランジ96-96」は,「マガジン前端に設けられ,少なくとも前面が平面であるハウジング部材」であるが,これと「正面プレート101の窪み101b」及び「移動自在部材102の窪み102b」とが組み合わされることにより,本件発明1の「ビットガイド」のドライブビットを案内する機能が実現されている。
したがって,刊行物1記載の発明1における「側面フランジ」,「正面プレート101の窪み101b」及び「移動自在部材102の窪み102b」は,ドライブビットを案内する機能に関し,本件発明1の「ビットガイド」及び「プレート」に正しく対応しているといえる。
(イ)なお,刊行物2記載の事項1の「カバープレート10」及び「ガイドプレート9(の案内溝11)」は,本件発明1の「ビットガイド」におけるドライブビットを案内する機能を果たし,本件発明1の「プレート」と「ビットガイド」が有する「給送路の一部」に完全に対応しており,また,刊行物2記載の事項1の「ガイドプレート9」は,本件発明1の「ビットガイド」における止具集合体が通過する機能を果たし,本件発明1の「ビットガイド」の「給送路」に対応している。
イ 「正面プレート」についてそもそも,本件発明1における「プレート」も,コンタクトアーム(給送路)の前面に設けられ,先頭の止具の前面を受けるプレート部材であることを超える技術的事項を要件としてはいないから,刊行物1記載の発明1の「正面プレート101」は,完全にこれに対応する。
ウ コンタクトアームを上下動可能に支持する部位について本件発明1の「ビットガイド」は,「コンタクトアーム」を「上下動可能に支持」するものであるところ,刊行物1記載の発明1の「側面フランジ96-96」は,この点においても,本件発明1の「ビットガイド」と対応する。なお,本件審決も,本件発明1と刊行物1記載の発明1との一致点として,「ハウジング部材に上下動可能に支持された平板状のコンタクトアーム」(審決書27頁12行)との点を認定している。
(2) 刊行物1記載の発明に刊行物2記載の事項を適用することの容易性本件審決は,「刊行物1記載の発明1に刊行物2記載の止具集合体が通過する給送路とプレートとの間にコンタクトアームが位置しないようにコンタクトアームの中間部をビットガイドに支持するという事項を採用すると,釘105の軸部105bを移動自在部材102に接触して案内することができないことになり,釘打込みブレードと被加工物との適正な整合状態で釘を維持するという刊行物1記載の発明の目的を放棄することになるから,阻害要因が存在するといえる。」(審決書31頁12行〜18行)と判断した。
しかし,以下のとおり,本件審決の上記判断は誤りである。
ア本件発明1と刊行物1記載の発明1との相違点は,要するに,止具集合体の形状に基づく違いのみに帰着するものである。
そして,刊行物1記載の発明1では,止具の頭部は相互に連結されているが,止具の軸部は分離したままの状態の形状を有する止具集合体(以下「セパレート型止具集合体」という。なお,「打込機」においてセパレート型止具集合体を用いた例としては,刊行物1のほか,甲28がある。)が採用されているのに対し,刊行物2記載の事項は,個々の止具の頭部及び軸部が,次の止具の頭部及び軸部と接着等により連結された止具集合体(以下「接着型止具集合体」という。)を前提にするものである。
しかし,刊行物1記載の発明1及び刊行物2記載の事項は,いずれも「打込機」に関するものであって技術分野の共通性があること,「打込機」において,接着型止具集合体は広く用いられてきたこと(甲2,11,15,26,27,85)からすれば,接着型止具集合体を採用するか,セパレート型止具集合体を採用するかは,当業者が適宜選択し得る事項といえる。
イ刊行物1記載の発明1において重要なのは,?@被加工物との接点において打撃時の衝撃に対して発生し得る前ズレを防止するため,コンタクトアームに射出路を設けるという技術的思想,及び,?A止具をコンタクトアームでなく,プレートで受けるという技術的思想であるが,これらは,接着型止具集合体を採用しても実現することができるから,セパレート型止具集合体と接着型止具集合体のいずれを採用するかと,刊行物1記載の発明1における上記技術思想とは,何ら関係がないといえる。
刊行物1の図17Aではコンタクトアームに相当する移動自在部材102の下方縁部102cが止具の頭部に接触しているとしても,図20には止具の頭部にも軸部にも接触していない場合も開示されているから,刊行物1記載の発明1では,移動自在部材102と止具が接触しているか否かが重要なのではなく,単に,セパレート型止具集合体の形状から,コンタクトアームが物理的に,水平方向については先頭の止具と次の止具との中間に,上下方向については止具の頭部と一番下の先端部の間に位置することで,先頭の止具を案内できるというものにすぎない。
接着型止具集合体においては,次の止具の軸部が先頭の止具を案内する機能を有する(ドライブビットが先頭の止具を打撃する力によって,先頭の止具が接着されていた次の止具から離され,先頭の止具が下方向に移動する際,次の止具の軸部がこれと密着する位置にあるから,両者の軸の間に案内機能を有する部材を設ける必要がない。)から,セパレート型止具集合体に代えて接着型止具集合体を採用する場合,コンタクトアームをどのように使うかを問題にする必要すらない。
ウしたがって,接着型止具集合体を前提とした技術的内容を開示している刊行物2記載の事項を,セパレート型止具集合体を採用した刊行物1記載の発明1に適用することは,当業者であれば容易に想到することができるというべきであり,また,この点について何ら阻害要因は存在しない。
3取消事由3(刊行物1記載の発明に刊行物3記載の事項を適用することについての判断の誤り及び判断の遺脱)原告は,本件無効審判の手続において,第4回弁駁書(甲42)を提出し,刊行物1記載の発明に刊行物3記載の事項を適用することによる進歩性の欠如についての主張をした。すなわち,本件発明1ないし4は,いずれも刊行物1記載の発明に刊行物3記載の事項を適用することにより,容易に発明することができたものである。
ところが,本件審決は,刊行物1記載の発明1の「側面フランジは,刊行物3記載の事項におけるブロックの一方73aとも機能が異なるものである。」(審決書29頁15行〜17行)と説示したにとどまり,刊行物1記載の発明に刊行物3記載の事項を適用することについて,何ら実質的な判断を示していない。
また,刊行物1記載の発明1の「側面フランジ」が果たす機能は,本件発明1の「ビットガイド」における止具集合体が通過する機能であるから,刊行物1記載の発明1の「側面フランジ」について,本件発明1の「ビットガイド」におけるドライブビット及び先頭の止具を案内する機能と対比すること自体に誤りがあるというべきで,上記の説示それ自体も誤りである。
したがって,本件審決には,刊行物1記載の発明に刊行物3記載の事項を適用することについて,判断の誤り又は判断の遺脱があるといえ,この誤りが本件審決の結論に影響することは明らかである。
4取消事由4(刊行物2記載の発明に刊行物1記載の事項を適用することについての判断の誤り)(1) 本件審決の判断の誤り本件審決は,本件発明1の進歩性の判断に際して,「刊行物2に記載された発明(刊行物2記載の事項1)に,刊行物1記載の発明1を適用することについて検討しても,上述のとおり,刊行物2記載の事項1の接触素子(コンタクトアーム)及びガイドプレート(ビットガイド)と,刊行物1記載の発明1の移動自在部材(コンタクトアーム)及びそれを支持する側面フランジとは機能が全く異なるから,刊行物2記載の事項1のコンタクトアーム及びビットガイドに刊行物1に記載されたコンタクトアーム及びその支持手段を適用する動機づけがないものである。したがって,刊行物2記載の事項1に刊行物1記載の発明1を適用することはできない。」(審決書32頁3行〜11行)と判断し,本件発明2ないし4の進歩性の判断に際しても,これと同様の判断をした。
しかし,以下のとおり,本件審決の上記判断は誤りである。
ア刊行物2記載の発明(刊行物2記載の事項のうち,本件発明1ないし4に対応する構成を総称したものをいう。以下,同じ。)及び刊行物1記載の事項は,いずれも「打込機」に関するものであって,技術分野を共通するから,そもそも刊行物2記載の発明に刊行物1記載の事項を適用することを阻害する要因はないといえる。
イ刊行物2記載の発明における「接触素子」は,刊行物1記載の事項における「移動自在部材」と同一の作用効果を奏し,同一の技術的思想に基づくものである。
また,ビットガイドの機能のうちドライブビット及び先頭の止具を案内する機能は,刊行物2記載の発明ではカバープレート10及びガイドプレート9が,刊行物1記載の事項では正面プレート101の窪み101b及び移動自在部材102の窪み102bが,それぞれ実現しており,ビットガイドの機能のうち止具集合体が通過する機能は,刊行物2記載の発明ではガイドプレート9が,刊行物1記載の事項では側面フランジ96-96が,それぞれ担っている。
このように,刊行物2記載の発明と刊行物1記載の事項とは,上記2つの機能が完全に対応しているにもかかわらず,本件審決は,これを区別せず,ドライブビット及び先頭の止具を案内する機能に関して刊行物1記載の事項の側面フランジに言及した点に誤りがある。
ウ刊行物2記載の発明に刊行物1記載の事項を適用することの容易性を判断するに際しては,まず,刊行物2記載の発明を本件発明と対比すべきところ,本件審決が「刊行物2の『止具の帯状集合体16』,『ガイドプレート9』,『打撃ロッド2』,『カバープレート10』,『マガジンスライダ19』,『ステープル17』,『引金レバー4』,『引張ばね28』,『止具打込み機』,及び『接触素子24』は,その構成及び機能より,本件発明1の『止具集合体』,『ビットガイド』,『ドライブビット』,『プレート』,『給装部材』,『止具』,『トリガ』,『押圧手段』,『打込機』,及び『打込機において,コンタクトアーム』に,それぞれ相当する。」(審決書28頁30行〜29頁2行)と認定したように,刊行物2記載の発明と本件発明1とはすべての部材が対応するものである。
したがって,本件発明1と刊行物2記載の発明とを対比し,両者の相違点の容易想到性の判断をするに際しては,射出穴の有無のみが相違する「コンタクトアーム」についてのみ検討すれば足りる。
また,本件審決が「本件発明1と刊行物1記載の発明1とを対比すると,・・・後者の『移動自在部材102』が前者の『コンタクトアーム』に,・・・それぞれ相当する」(審決書26頁21行〜26行)と認定したように,刊行物1記載の発明1の「移動自在部材102」は,本件発明1の「コンタクトアーム」に対応するものであって,刊行物1記載の事項において,刊行物2記載の発明の「接触素子24」に対応するのは,「移動自在部材102」であるから,刊行物1記載の事項における「側面フランジ」について検討する必要はないといえる。
本件審決が刊行物1記載の事項の側面フランジに言及したことは,上記の点からも,誤りであるといえる。
エなお,本件発明1における「マガジン側からビットガイド,コンタクトアームの中間部,プレートの順に配列し」との構成の技術的な意義については,訂正明細書に何ら記載がなく,格別のものとは認め難いこと,従来から,コンタクトアーム,ビットガイド,プレートの順に配列する例も,ビットガイド,コンタクトアーム,プレートの順に配列する例も,共に知られていたことからすれば,いずれの順に配列するかは単なる設計事項にすぎない。
オ以上のとおり,当業者にとって,刊行物2記載の発明に刊行物1記載の事項を適用することは容易である。
(2) 本件審決の判断の誤りが本件審決の結論に影響すること本件審決の前記(1)の判断の誤りは,以下のとおり,本件審決の結論に影響する。
審理範囲について複数の公知事実に基づく進歩性欠如に係る無効理由において,いずれを主たる引用発明とし,いずれを従たる引用発明とするかは,単なる判断方法の相違にすぎないから,刊行物1記載の発明に刊行物2記載の事項を適用することのみでなく,刊行物2記載の発明に刊行物1記載の事項を適用することも,同様に検討すべき対象といえる。
イ 本件発明1について(ア) 本件発明1と刊行物2記載の発明との一致点・相違点本件発明1と刊行物2記載の発明とは,次の一致点(1)において一致し,次の相違点(1)ないし(4)において相違する。
a一致点(1)ドライブビットを内蔵した打込機本体の下方に位置し,多数の止具集合体及び該止具集合体を前進させるためスプリングによって押圧される給送部材を収納支持するマガジンと,マガジン前端に設けられ,上記止具集合体が通過する給送路を有し,少なくとも前面が平板状のビットガイドを備え,上記給送路の一部はドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内するようにした打込機であって,打込機本体に設けられたトリガと,上端がトリガ近傍まで延び,下端がビットガイド下端より下方に突出し,中間部がビットガイドに設けられると共にビットガイドに上下動可能に支持された平板状のコンタクトアームと,コンタクトアームを下方に付勢する付勢手段とを備え,コンタクトアームが上昇し,トリガが操作された時のみ前記ドライブビットの駆動を開始させるようにした打込機であって,前記コンタクトアームの前側にプレートを設けることにより,前記マガジンの前側に配置された前記ビットガイド,前記コンタクトアームの中間部,前記プレートのうち,前記ビットガイドを前記マガジン側に配列し,先頭の止具の前面をコンタクトアームでなくプレートで受けるようにし,前記止具集合体が通過する給送路とプレートとの間にコンタクトアームが位置しないように前記コンタクトアームの中間部をビットガイドに支持すると共に,前記ビットガイドの給送路の下端より突出した前記コンタクトアームの部分を有することを特徴とする打込機。
b相違点(1)前者は,中間部がビットガイドの前面に設けられると共にビットガイドに上下動可能に支持された平板状のコンタクトアームであるのに対して,後者は,中間部がガイドプレート9の後面に設けられると共にガイドプレート9に上下動可能に支持された平板状のトリガ安全装置である点で相違する。
c相違点(2)前者は,コンタクトアームを下方に押圧する押圧手段とを備えたものであるのに対して,後者は,トリガ安全装置を下方に付勢する引張ばね28とを備えたものである点で相違する。
d相違点(3)前者は,前記コンタクトアームの前面にプレートを設けることにより,前記マガジン側から前記ビットガイド,前記コンタクトアームの中間部,前記プレートの順に配列したものであるのに対して,後者は,前記トリガ安全装置の前方にカバープレート10を設けることにより,前記マガジン側から前記トリガ安全装置,前記ガイドプレート9の中間部,前記カバープレート10の順に配列したものである点で相違する。
e相違点(4)前者は,前記ビットガイドの給送路の下端より突出した前記コンタクトアームの部分に前記給送路に連続する射出穴を前記コンタクトアームの下端まで貫通して設け,該射出穴から止具を打出すようにしたものであるのに対して,後者は,前記ガイドプレート9の案内溝11の下端より突出した前記トリガ安全装置の部分に前記案内溝11に連続する射出穴を設けていない(案内溝11の下端開口から止具を打出すようにした)点で相違する。
(イ) 相違点についての容易想到性a相違点(1)についてコンタクトアームの中間部を,ビットガイドの前面に設けるか,ビットガイドの後面に設けるかは,単なる設計事項であり(なお,コンタクトアームの中間部をビットガイドの前面に設けることは,刊行物3,刊行物1,甲21ないし24などに示されるように,周知である。),当業者は適宜選択可能である。また,訂正明細書の特許請求の範囲には当該事項に関連する記載はなく,発明の詳細な説明にもコンタクトアームの中間部をビットガイドの前面に設けることによって生じる作用効果は記載されていない。
したがって,相違点(1)に係る本件発明1の構成は,当業者が容易に想到することができたというべきである。
b相違点(2)についてコンタクトアームを下方に付勢する手段として,押圧手段を用いるか,引張ばね28を用いるかは,単なる設計事項であり,当業者は適宜選択可能である。
したがって,相違点(2)に係る本件発明1の構成は,当業者が容易に想到することができたというべきである。
c相違点(3)についてビットガイドとコンタクトアームの配置の相違は,相違点(1)(コンタクトアームの中間部をビットガイドの前面に設けるか,ビットガイドの後面に設けるかの相違)に基づくものであり,「前記コンタクトアームの前面にプレートを設けることにより,前記マガジン側から前記ビットガイド,前記コンタクトアームの中間部,前記プレートの順に配列」した構成は,相違点(1)の場合と同様に,また,刊行物1において従来技術とされた甲32に示されるように,周知である。
したがって,相違点(3)に係る本件発明1の構成は,相違点(1)と同様に,当業者が容易に想到することができたというべきである。
d相違点(4)について刊行物1には,本件発明1の「コンタクトアーム」に相当する,下端に案内溝を設けた「移動自在部材102」が記載されており,この案内溝は,打撃された釘を打ち込み完了まで案内する射出路である点で,本件発明1の「射出穴」と同一であるから,刊行物1には,射出穴をコンタクトアームの下端まで貫通して設け,該射出穴から止具を打出すようにしたことが記載されているに等しい。また,射出穴をコンタクトアームの下端まで貫通して設け,該射出穴から止具を打出すようにしたものは,甲3(その公開公報等である甲83も同様。),11ないし15に記載されている。このように,本件発明1のように,コンタクトアームに射出穴を設け,該射出穴から止具を打出することは,周知である。
したがって,相違点(4)に係る本件発明1の構成は,当業者が容易に想到することができたというべきである。
eまとめ以上のとおり,本件発明1は,刊行物2記載の発明に,刊行物1記載の事項,刊行物3記載の事項,周知技術を適用することにより,当業者が容易に発明することができたものである。
ウ 本件発明2について(ア) 本件発明2と刊行物2記載の発明との一致点・相違点本件発明2と刊行物2記載の発明とは,次の一致点(2)において一致し,前記イ(ア)bないしeの相違点(1)ないし(4)において相違する。
a一致点(2)ドライブビットを内蔵した打込機本体の下方に位置し,多数の止具集合体及び該止具集合体を前進させるためスプリングによって押圧される給送部材を収納支持するマガジンと,マガジン前端に設けられ,上記止具集合体が通過する給送路を有し,少なくとも前面が平板状のビットガイドを備え,上記給送路の一部はドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内するようにした打込機であって,打込機本体に設けられたトリガと,上端がトリガ近傍まで延び,下端がビットガイド下端より下方に突出し,中間部がビットガイドに設けられると共にビットガイドに上下動可能に支持された平板状のコンタクトアームと,コンタクトアームを下方に付勢する付勢手段とを備え,コンタクトアームが上昇し,トリガが操作された時のみ前記ドライブビットの駆動を開始させるようにした打込機であって,前記コンタクトアームの前側にプレートを設けることにより,前記マガジンの前側に配置された前記ビットガイド,前記コンタクトアームの中間部,前記プレートのうち,前記ビットガイドを前記マガジン側に配列し,先頭の止具の前面をコンタクトアームでなくプレートで受けるようにし,前記止具集合体が通過する給送路とプレートとの間にコンタクトアームが位置しないように前記コンタクトアームの中間部をビットガイドに支持すると共に,前記ビットガイドの給送路の下端より突出した前記コンタクトアームの部分を有し,前記コンタクトアームにビットガイドの給送路の部分の両側に沿って上方に延びた2個の案内部を設け,該案内部をビットガイドに沿って上下動させる構成としたことを特徴とする打込機。
b相違点上記のとおり,本件発明2と刊行物2記載の発明との相違点は,本件発明1と刊行物2記載の発明との相違点と同一である。
(イ) 相違点の容易想到性したがって,本件発明2は,本件発明1と同様の理由により,刊行物2記載の発明に,刊行物1記載の事項,刊行物3記載の事項,周知技術を適用することにより,当業者が容易に発明することができたものである。
エ 本件発明3について(ア) 本件発明3と刊行物2記載の発明との一致点・相違点本件発明3と刊行物2記載の発明とは,前記ウ(ア)aの一致点(2)及び次の一致点(3)において一致し,前記イ(ア)bないしeの相違点(1)ないし(4)及び次の相違点(5)において相違する。
a一致点(3)前記押圧手段を前記2個の案内部を下方に付勢する弾性部材により構成した打込機。
b相違点(5)前者は,前記押圧手段を前記2個の案内部を下方に押圧する2個のスプリングにより構成したことを特徴とする打込機であるのに対して,後者は前記押圧手段を前記2個の案内部を下方に押圧する2個のスプリングではなく,下方に付勢する1個の引張ばね28により構成した打込機である点で相違する。
(イ) 相違点の容易想到性a相違点(1)ないし(4)について相違点(1)ないし(4)に係る本件発明3の構成は,前記イ(イ)と同様の理由により,当業者が容易に想到することができたというべきである。
b相違点(5)について前記の相違点(2)と同様に,コンタクトアームを下方に押圧する手段として押圧手段を用いるか,引張ばね28を用いるかは単なる設計事項である。また,用いるスプリングを2個とするか1個とするかは当業者によって適宜選択可能に行われるものである。
したがって,相違点(5)に係る本件発明3の構成は,当業者が容易に想到することができたというべきである。
cまとめ以上によれば,本件発明3は,刊行物2記載の発明に,刊行物1記載の事項,刊行物3記載の事項,周知技術を適用することにより,当業者が容易に発明することができたものである。
オ 本件発明4について(ア) 本件発明4と刊行物2記載の発明との一致点・相違点本件発明4と刊行物2記載の発明は,次の一致点(4)において一致し,前記イ(ア)bないしeの相違点(1)ないし(4),次の相違点(6)及び(7)において相違する。
a一致点(4)ドライブビットを内蔵した打込機本体の下方に位置し,多数の止具集合体及び該止具集合体を前進させるためスプリングによって押圧される給送部材を収納支持するマガジンと,マガジン前端に設けられ,上記止具集合体が通過する給送路を有し,少なくとも前面が平板状のビットガイドを備え,上記給送路の一部はドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内するようにした打込機であって,打込機本体に設けられたトリガと,上端がトリガ近傍まで延びた平板状のコンタクトアームと,コンタクトアームを下方に付勢する付勢手段とを備えた打込機であって,前記コンタクトアームの前側にプレートを設けることにより,前記マガジンの前側に配置された前記ビットガイド,前記コンタクトアームの中間部,前記プレートのうち,前記ビットガイドを前記マガジン側に配列し,先頭の止具の前面をコンタクトアームでなくプレートで受けるようにし,前記止具集合体が通過する給送路とプレートとの間にコンタクトアームが位置しないように前記コンタクトアームの中間部をビットガイドに支持すると共に,前記ビットガイドの給送路の下端より突出した前記コンタクトアームの部分を有し,コンタクトアームが上昇し,トリガが操作された時のみ前記ドライブビットの駆動を開始させると共に打込み反力によって打込機本体が上昇した時コンタクトアームが下降することを特徴とする打込機。
b相違点(6)前者は,反マガジン側の前面に射出路を設けた平板状のコンタクトアームであるのに対して,後者は,反マガジン側の前面に射出路の無い平板状のトリガ安全装置である点で相違する。
c相違点(7)前者は,打込み反力によって打込機本体が上昇した時コンタクトアームが下降しコンタクトアーム前面が止具に接触して前記ドライブビットが前記止具から外れないようにしたことを特徴とする打込機であるのに対して,後者は,打込み反力によって止具打込み機が上昇した時接触素子24(トリガ安全装置)が下降し接触素子24前面が止具に接触しうる構造である打込機である点で相違する。
(イ) 相違点の容易想到性a相違点(1)ないし(4)について相違点(1)ないし(4)に係る本件発明4の構成は,前記イ(イ)と同様の理由により,当業者が容易に想到することができたというべきである。
b相違点(6)について刊行物1には,「反マガジン側の前面に窪み102bを設けた平板状の移動自在部材102」が記載されている。この「窪み102b」は射出路であるから,相違点(6)に係る本件発明4の構成は,刊行物1に記載されている。
したがって,刊行物2記載の発明に刊行物1記載の事項を適用し,相違点(6)に係る本件発明4の構成とすることは,当業者が容易に想到することができたというべきである。
c相違点(7)について刊行物1には,打込み反力によって止具打込み機が上昇した時,移動自在部材102が下降し移動自在部材102前面が止具に接触し前記ドライブビットが前記止具から外れないようにしたことを特徴とする打込機が記載されており,甲3(その公開公報等である甲83も同様。)にも,同様の構成が開示されている。
したがって,刊行物2記載の発明に刊行物1記載の事項又は甲3記載の事項を適用し,相違点(7)に係る本件発明4の構成とすることは,当業者が容易に想到することができたというべきである。
dまとめ以上のとおり,本件発明4は,刊行物2記載の発明に,刊行物1記載の事項,甲3記載の事項,周知技術を適用することにより,当業者が容易に発明することができたものである。
5取消事由5(刊行物3記載の発明に刊行物1記載の事項を適用することについての判断の誤り及び判断の遺脱)原告は,本件無効審判の手続において,第4回弁駁書(甲42)を提出し,刊行物1記載の発明に刊行物3記載の事項を適用することによる進歩性の欠如についての主張をするとともに,刊行物3記載の事項(発明)について,「コンタクトアーム先端に射出路が設けられているか否かを除き,ほぼ本件発明と同一の構成を有するものである。」と主張した。
複数の公知事実に基づく進歩性欠如に係る無効理由において,いずれを主たる引用発明とし,いずれを従たる引用発明とするかは,単なる判断方法の相違にすぎないから,刊行物1記載の発明に刊行物3記載の事項を適用することのみでなく,刊行物3記載の発明に刊行物1記載の事項を適用することも,同様に検討すべき対象といえる。
そして,本件発明1ないし4は,いずれも刊行物3記載の発明に刊行物1記載の事項を適用することにより,容易に発明することができたものである。
ところが,本件審決は,刊行物1記載の発明1の「側面フランジは,刊行物3記載の事項におけるブロックの一方73aとも機能が異なるものである。」(審決書29頁15行〜17行)と説示するにとどまり(前記3のとおり,同説示は誤りである。),刊行物3記載の発明に刊行物1記載の事項を適用することについて,何ら実質的な判断を示していない。
したがって,本件審決には,刊行物3記載の発明に刊行物1記載の事項を適用することについて,判断の誤り又は判断の遺脱があるといえ,この誤りが本件審決の結論に影響することは明らかである。
被告の反論
以下のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1 取消事由1(訂正の可否についての判断の誤り)に対し(1) 訂正事項2-1及び2-2について原告の主張は,要するに,訂正事項2-1及び2-2が,特許請求の範囲減縮及び明りょうでない記載の釈明に該当せず,実質上特許請求の範囲変更するものであるというものと解されるが,以下のとおり,原告の上記主張は失当である。
ア 特許請求の範囲減縮に該当すること(ア) 訂正事項2-1について訂正事項2-1は,本件第4訂正前(登録時)の下記(イ)ないし(ハ)の各構成(以下「構成(イ)」のようにいう。)を下記(a)ないし(d)の各構成(以下「構成(a)」のようにいう。)に訂正するものである。
(イ) ビットガイドはマガジンの前端に設けられている(ロ)ビットガイドはドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内する給送路を有する(ハ) ビットガイドは少なくとも前面が平板状をしている(a) ビットガイドはマガジンの前端に設けられている(b) ビットガイドは止具集合体が通過する給送路を有する(c) ビットガイドは少なくとも前面が平板状をしている(d)給送路の一部は,ドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内する訂正事項2-1に係る本件第4訂正前後の上記各構成を対比すると,構成(イ)は構成(a),構成(ハ)は構成(c)とそれぞれ同一であり,構成(ロ)は,ビットガイドが少なくともドライブビット及び先頭の止具を案内する給送路を有するという限りにおいて,構成(d)と同一である。そして,本件第4訂正前の構成には,同訂正後の構成(b)に相当する要件がないから,訂正事項2-1は,構成(b)を追加したものである。
すなわち,本件第4訂正前の「ビットガイド」は,「ドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内する給送路を有する」ものをすべて包含していたのに対し,同訂正後は,上記構成のほかに「止具集合体が通過する給送路を有する」という構成を有するものに限定された。
このように,訂正事項2-1は,構成(b)を追加したものであり,特許請求の範囲減縮に該当する。
(イ) 訂正事項2-2について訂正事項2-2は,本件第4訂正前(登録時)の請求項7の「給送部材を収納支持するマガジンと,」を「給送部材を収納支持するマガジンと,マガジン前端に設けられ,上記止具集合体が通過する給送路を有し,少なくとも前面が平板状のビットガイドを備え,上記給送路の一部はドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内するようにした打込機であって,」に訂正するものであり,同訂正前の構成に加え,訂正事項2-1と同様の構成を追加したものであるから,特許請求の範囲減縮に該当する。
イ 明りょうでない記載の釈明に該当すること(ア) 登録時明細書に記載された「給送路」について登録時明細書(甲36)の段落【0011】には,「ビットガイド12には,図1に示す如く,マガジン2の止具集合体が通過する給送路121が設けられ,該給送路121の底は止具8の足先端を支持するようになっている。給送路121の前方には止具集合体の先頭の止具8が入ると共に打込機本体1内の図示しないドライブビットが上下動するための射出溝122が下端まで貫通して設けられている。」,「なお,前記給送路121と射出溝122は1個の溝としてもよく,以下説明の便宜上給送路121として説明する。」との記載がある。
したがって,登録時明細書にいう「給送路」とは,止具集合体が通過する通路と,先頭の止具が入り,ドライブビットが上下動する溝状の通路の両方を含むものである。
(イ) 訂正事項2-1について訂正事項2-1に係る構成(b)は,登録時明細書の上記(ア)の記載に基づいて,ビットガイドが,止具集合体の通過する通路である給送路を有していることを明確にしたものである。
また,ビットガイドは,先頭の止具及びドライブビットを案内する溝状通路である給送路を有しており,この給送路は,ビットガイドが有する全体の給送路からみれば一部の給送路であるから,訂正事項2-1に係る構成(d)のようにいうことができる。
したがって,訂正事項2-1は,登録時明細書に記載された事項に基づき,ビットガイドに止具集合体が通過する給送路が設けられていること,該給送路の一部がドライブビット及び先頭の止具を案内するものであることをそれぞれ特定し,ビットガイドと給送路の関係を明りょうにするものであるから,明りょうでない記載の釈明に該当する。
(ウ) 訂正事項2-2について訂正事項2-2も,訂正事項2-1と同様に,登録時明細書の段落【0011】及び【0010】の記載に基づき,打込機がビットガイドを備えていることを特定し,ビットガイドと給送路との関係を明りょうにするものであるから,明りょうでない記載の釈明に該当する。
ウ 実質上特許請求の範囲変更するものでないこと(ア)訂正事項2-1及び2-2は,「給送路」の定義を変更するものではなく,ビットガイドが有する通路を具体的に特定し,限定するものである。すなわち,訂正事項2-1及び2-2に係る構成は,ビットガイドの給送路が,止具集合体が通過する通路(登録時明細書の段落【0011】の給送路121がこれに相当する。)と,ドライブビット及び先頭の止具を案内する通路(登録時明細書の段落【0011】の射出溝122がこれに相当する。)の両方を含んでいることを意味するものである。本件第4訂正前(登録時)のビットガイドは,ドライブビット及び先頭の止具を案内する通路としての給送路を有するものであったが,同訂正後のビットガイドは,ドライブビット及び先頭の止具を案内する通路に加え,止具集合体が通過する通路も備えたものに限定されたものであって,同訂正前後において,ビットガイドが,ドライブビット及び先頭の止具を案内する通路としての給送路を有することは,何ら変更されていない。
(イ)原告は,訂正事項2-1及び2-2に係る「止具集合体が通過する給送路」との構成について,「給送路」全体に「止具集合体が通過する」機能があることが必要であると主張するが,そのように解釈すべき根拠はない。
すなわち,上記構成は,ビットガイドの有する給送路が止具集合体が通過する機能も有することを意味するにすぎず,ビットガイドの給送路の全ての部分を止具集合体が通りすぎることを意味するものではないし,登録時明細書の段落【0011】においても,止具集合体が通過する「給送路121」と,ドライブビットが上下動する「射出溝122」とを併せて,便宜上「給送路」と称することが説明されているにとどまり,「給送路」全体に「止具集合体が通過する」機能がある旨の記載はない。
(2) 訂正事項3-1,3-3及び3-4について原告の主張は,要するに,訂正事項3-1,3-3及び3-4が,特許請求の範囲減縮及び明りょうでない記載の釈明に該当しないというものと解されるが,以下のとおり,原告の上記主張は失当である。
ア訂正事項3-1,3-3及び3-4が特許請求の範囲減縮に該当すること(ア)訂正事項3-1,3-3及び3-4に係る「先頭の止具の前面をコンタクトアームでなくプレートで受けるようにし,」,「前記止具集合体が通過する給送路とプレートとの間にコンタクトアームが位置しないように前記コンタクトアームの中間部をビットガイドに支持すると共に,」との構成は,登録時明細書の「給送路121の前面にカバー10を設けたため,前記給送部材13の押圧力をカバー10で受けるようになり,この押圧力がコンタクトアーム5に作用しなくなるので,スプリング6の付勢押圧力を給送部材13の押圧力とは無関係に小さく設定することができるようになる。」(段落【0013】)との記載,「前記ビットガイドの前面にプレートを設けると共に,ビットガイドの給送路とプレートとの間にコンタクトアームが位置しない構成としたことを特徴とする請求項1または2記載の打込機。」(請求項4)との記載,及び,図1の記載に基づくものである。
また,訂正事項3-1,3-3及び3-4に係る「前記コンタクトアームの前面にプレートを設けることにより,前記マガジン側から前記ビットガイド,前記コンタクトアームの中間部,前記プレートの順に配列し,」との構成のうち,「コンタクトアームの前面にプレートを設ける」との部分は,登録時明細書の「前記コンタクトアームの前面にプレートを設け,」(請求項8)との記載,及び,図1の記載に基づくものであり,ビットガイド,コンタクトアームの中間部及びプレートの順の配列は,「マガジン前端に設けられ,・・・少なくとも前面が平板状のビットガイドと,」及び「中間部がビットガイドの前面に設けられると共にビットガイドに上下動可能に支持された平板状のコンタクトアームと,」(請求項1及び2)との各記載,「前記コンタクトアームの前面にプレートを設け,」(請求項8)との記載,及び,図1の記載に基づくものである。
そして,訂正事項3-1,3-3及び3-4に係る上記各構成は,登録時明細書の上記各記載に基づき,ビットガイドと,先頭の止具を受けるプレートと,コンタクトアームとの位置関係を具体的に特定するものであるから,特許請求の範囲減縮に該当する。
(イ)訂正事項3-3及び3-4に係る「前記ビットガイドの給送路の下端より突出した前記コンタクトアームの部分に前記給送路に連続する射出穴を前記コンタクトアームの下端まで貫通して設け,該射出穴から止具を打出すようにし」との構成は,登録時明細書の「ビットガイド12の給送路121の下方に位置するコンタクトアーム先端部51には給送路121に連続する射出穴55が先端部51の下端まで貫通して設けられている。先端がビットガイド12の下端より下方に突出するコンタクトアーム先端部51は・・・」(段落【0012】)との記載,及び,図1の記載に基づくものである。
そして,訂正事項3-3及び3-4に係る上記構成は,登録時明細書の上記各記載に基づき,コンタクトアームの部分に設けられた射出路の形状を具体的に射出穴に特定すると共に,該射出穴が設けられているコンタクトアームの場所を具体的に特定するものであるから,特許請求の範囲減縮に該当する。
(ウ)訂正事項3-4に係る「コンタクトアームが上昇し,トリガが操作された時のみ前記ドライブビットの駆動を開始させると共に打込み反力によって打込機本体が上昇した時コンタクトアームが下降しコンタクトアーム前面が止具に接触して前記ドライブビットが前記止具から外れないようにした」との構成は,登録時明細書の「打込み途中において打込み反力により打込機本体1が上方に持ち上げられるが,この際コンタクトアーム5が下降して止具8の頭部に接触するようになり,打込機本体1が前方に移動することがなくなるので,ドライブビットが止具8から外れることがなくなって止具8が完全に打ち込まれるようになると共に取付部材9の表面が打撃されて打撃痕を残すこともなくなる。」(段落【0014】)との記載に基づくものである。
そして,訂正事項3-4に係る上記構成は,登録時明細書の上記記載に基づき,反力により打込機本体が持ち上がったときのドライブビットの動きを更に具体的に特定する訂正であるから,特許請求の範囲減縮に該当する。
イ 訂正事項3-3が明りょうでない記載の釈明に該当すること訂正事項3-3に係る「ビットガイドの前記ドライブビットを案内する給送路の部分に沿って上方に延びた2個の案内部」との構成は,登録時明細書の「ビットガイドの給送路の両側に沿って上方に延びた2個の案内部」(請求項2)との記載における「給送路」が,ドライブビットを案内する給送路の部分であることを,図1の記載に基づいて明りょうにするものであって,明りょうでない記載の釈明に該当する。
(3) 射出穴についての判断の誤りに対し争う。原告の主張は,本件審決の判断に誤りがあるか否かとは関連のない主張であり,本件審決の結論に影響するものでもないから,審決取消事由の主張に該当しない。
2取消事由2(刊行物1記載の発明に刊行物2記載の事項を適用することについての判断の誤り)に対し(1) 本件発明1と刊行物1記載の発明1との対比の誤りに対し原告の主張は,要するに,本件発明1の「ビットガイド」が有する機能をドライブビットを案内する機能と止具集合体が通過する機能の2つに分け,各機能をもつ部材が刊行物1記載の発明1に存在するか否かを検討すべきであるというものと解されるが,以下のとおり,原告の上記主張は失当である。
本件発明1は,「ビットガイド」と称する部材を備え,当該部材が,「マガジン前端に設けられ」,「止具集合体が通過する給送路を有し」,「給送路の一部はドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内する」,「少なくとも前面が平板状」という構成をすべて有する部材であることを要するものであり,単に,打込機がドライブビットの案内機能と,止具集合体の通過機能の2つの機能を備えていればよいというものではないから,ドライブビットを案内する機能と止具集合体が通過する機能を個別に取り上げて,当該機能を有する部材が刊行物1記載の発明1に存在するか否かを検討しても,本件発明1と刊行物1記載の発明1とを対比したことにはならない。
(2)刊行物1記載の発明に刊行物2記載の事項を適用することの容易性に対しア 刊行物1記載の発明に刊行物2記載の事項を適用することの困難性(ア)刊行物1記載の発明1は,従来の機械では,釘の種類によっては適切な支持がないと被加工物にうまく打込めないため,他の釘を使用しなければならないという問題があったことにかんがみ,釘がブレードにより被加工物に打込まれるときに釘を適正に維持する移動自在部材を備えた釘打機を提供することを目的とするものであり,移動自在部材102が後退した状態において,釘打込みブレード70と被加工物との適当な整合状態で釘105aを維持することを特徴とするものである。
そして,刊行物1記載の発明1では,移動自在部材102が上方に移動すると,その下方縁部102cが釘打込みブレード70の下方に位置決めされる釘105aの軸部105bに接触し,それにより生成される保持作用と,押出し部材130により釘頭部と軸部に加えられる力とによって,釘が適正に整合された位置に維持される。
このように,刊行物1記載の発明1では,釘打込みブレード70と被加工物との適当な整合状態で釘105aを維持するため,移動自在部材102が釘集合体の給送路の中に入り込む程度に上方に移動し,釘105aの軸部105bと接触することが,必須である。
(イ)これに対し,刊行物2記載の事項は,「止具の帯状集合体16が通過する給送路とカバープレート10との間に接触素子24が位置しないように接触素子24の中間部をガイドプレート9に支持する」ものである。
(ウ)そうすると,刊行物2記載の事項を刊行物1記載の発明1に適用すると,釘の給送路にガイドプレート9が位置しない構成となり,釘を適正に整合された位置に維持できなくなる。すなわち,刊行物1記載の発明1は,移動自在部材102が釘集合体の給送路に位置することが必須であるにもかかわらず,刊行物2は,給送路とカバープレート10との間に接触素子24が位置しないように支持することを教示するのであるから,刊行物2記載の事項を刊行物1記載の発明1に適用することは,同発明の目的に相反することになる。
(エ)この点について,原告は,刊行物1記載の発明1では,セパレート型止具集合体を用いていることにより,止具のふらつきという問題が生じるのであり,接着型止具集合体を採用すれば,そのような問題は生じない旨主張する。
しかし,刊行物1記載の発明1は,止具の種類によっては,ふらついて被加工物に適正に打込めないという,従来の機械における課題を解決することを目的とする発明であるところ,セパレート型止具集合体を採用するか接着型止具集合体を採用するかは設計事項であるという原告の主張は,要するに,ふらつかない釘を使用すればよいというものであって,刊行物1記載の発明1の課題を解決するものではないから,刊行物2記載の事項を刊行物1記載の発明1に適用することを妨げる事由の存否とは,無関係というべきである。
イ 相違点2に係る本件発明1の構成の想到困難性について刊行物1記載の発明1の「側面フランジ96-96」は,刊行物2記載の事項の「ガイドプレート9」に相当する部材ではないから,前者の「側面フランジ96-96」を後者の「ガイドプレート9」に置き換えるというのは,不合理である。また,置き換えたとしても,これにより得られる構成は,本件発明1とは異なるものである。
したがって,刊行物1記載の発明1の側面フランジを刊行物2記載の事項のビットガイドと置き換える動機付けがないのみならず,仮に置き換えたとしても,本件発明1に想到することはできないといえる。
(3) 小括以上のとおり,本件審決が,相違点2に係る本件発明1の構成の容易想到性の判断に際し,刊行物1記載の発明1に刊行物2記載の事項を適用することについて,動機付けがなく,阻害要因があると判断したことに誤りはなく,相違点4に係る本件発明1の構成の容易想到性の判断についても同様である。また,本件審決における相違点2に係る本件発明2ないし4の各構成についての判断についても,本件発明1の場合と同様に,誤りはない。
3取消事由3(刊行物1記載の発明に刊行物3記載の事項を適用することについての判断の誤り及び判断の遺脱)について原告は,本件発明1ないし4は,いずれも刊行物1記載の発明に刊行物3記載の事項を適用することにより,容易に発明することができたものであると主張する。
しかし,以下のとおり,原告の上記主張は失当である。
(1) 相違点2に係る本件発明の構成の想到困難性について本件審決は,刊行物1記載の発明1の「側面フランジは,刊行物3記載の事項におけるブロックの一方73aとも機能が異なるものである。」(審決書29頁15行〜17行)として,刊行物1記載の発明に刊行物3記載の事項を適用することはできない旨判断したものと解されるが,刊行物1記載の発明の「側面フランジ96-96」は,ドライブビットを案内するという基本的な機能を持たないから,本件発明の「ビットガイド」には該当しないし,仮に刊行物1記載の発明の「側面フランジ96-96」を刊行物3記載の事項の「部材73a」で置換したとしても,相違点2に係る本件発明の構成には想到しないから,本件審決の判断に誤りはない。
(2)刊行物1記載の発明に刊行物3記載の事項を適用することの困難性について本件審決は,刊行物1記載の発明に刊行物2記載の事項を適用することは,刊行物1記載の発明の目的に相反することになり,阻害要因が存在すると判断したが,刊行物1記載の発明に刊行物3記載の事項を適用することについても,同様の阻害要因がある。
(3) 本件無効審判の手続について被告は,本件無効審判の手続において,刊行物3について,本件無効審判請求書に記載のない刊行物であり,これに基づく審判請求の理由の補正はその要旨を変更するものであることを主張した。
4取消事由4(刊行物2記載の発明に刊行物1記載の事項を適用することについての判断の誤り)に対し原告は,本件発明1ないし4は,刊行物2記載の発明に刊行物1記載の事項などを適用することにより,当業者が容易に発明することができたものであると主張する。
しかし,以下のとおり,原告の上記主張は失当である。
(1) 一致点・相違点に関する原告主張の誤りア原告は,本件発明1ないし4と刊行物2記載の発明とは,「前記コンタクトアームの前側にプレートを設けることにより,前記マガジンの前側に配置された前記ビットガイド,前記コンタクトアームの中間部,前記プレートのうち,前記ビットガイドを前記マガジン側に配列し,」との点において一致すると主張する。
しかし,本件発明1ないし4は,プレートの位置がコンタクトアームの前側か後側かを規定したものではなく,プレートをコンタクトアームの「前面」に設けることを要件とするものである。また,本件発明1ないし4は,マガジン側からビットガイド,コンタクトアームの中間部,プレートの順に配列することを要件とするが,刊行物2記載の発明は,コンタクトアーム24,ビットガイド9,プレート10の順に配列されている。
したがって,原告の主張に係る上記の点は,一致点にはならない。
イ本件発明1ないし4と刊行物2記載の発明とは,コンタクトアームの構成に基本的な相違があるにもかかわらず,原告はその相違を正確に記述していない。
本件発明1ないし4は,平板状のコンタクトアームの上端がトリガ近傍まで延び,中間部はビットガイドとプレートとの間に配列されてビットガイドに支持され,下端はビットガイドの下端より突出し,突出したコンタクトアームより止具を打出すのに対し,刊行物2記載の発明は,コンタクトアームの中間部がビットガイドとプレートとの間になく,下段部がビットガイドに支持され,ビットガイドの下端ではなく側面から下方に突出している。
したがって,相違点として,「前者は,平板状のコンタクトアームの上端がトリガ近傍まで延び,中間部はビットガイドとプレートとの間に配列されてビットガイドに支持され,下端はビットガイドの下端より突出し,突出したコンタクトアームより止具を打出すのに対し,後者はそのように構成されていない点」(以下「相違点(3)’」という。)を挙げるべきである。
ウ以上のとおり,原告主張に係る本件発明1ないし4と刊行物2記載の発明との一致点・相違点には誤りがあるから,本件発明1ないし4を容易に発明することができたとする原告の主張は,その前提を欠くものである。
(2) 本件発明1ないし4の想到困難性ア 相違点(3)’について刊行物1記載の発明は,本件発明1ないし4のビットガイドに相当する部材,つまり「止具集合体が通過する給送路を有し,少なくとも前面が平板状をし,給送路の一部がドライブビット及び先頭の止具を案内するように構成された」部材を有しない。
したがって,刊行物1は,相違点(3)’に係る「中間部はビットガイドとプレートとの間に配列されてビットガイドに支持され,下端はビットガイドの下端より突出したコンタクトアームであって,突出したコンタクトアームより止具を打出す」との構成を開示するものとはいえない。
イ 相違点(4)について刊行物1は,側面フランジ96の側面よりコンタクトアーム102を突出させる構成を開示するが,ビットガイドの下端より突出させることを開示しない。また,刊行物1は,プレート101とコンタクトアーム102とで形成する射出口より止具を打出しているが,コンタクトアーム102に,給送路に連続する射出穴をコンタクトアーム102の下端まで貫通して設けていない。
したがって,刊行物1は,相違点(4)に係る構成を開示するものとはいえない。
ウなお,相違点(3)’及び(4)に係る各構成が周知であることを示す証拠は存在しない。
エ以上のとおり,本件発明1ないし4と刊行物2記載の発明とは,少なくとも相違点(3)’及び(4)において相違し,これらの相違点に係る本件発明1ないし4の各構成は,刊行物1には記載されておらず,周知であったともいえないから,本件発明1ないし4は,刊行物2記載の発明に刊行物1記載の事項などを適用することにより,当業者が容易に発明することができたとはいえない。
5取消事由5(刊行物3記載の発明に刊行物1記載の事項を適用することについての判断の誤り及び判断の遺脱)に対し原告は,本件発明1ないし4は,いずれも刊行物3記載の発明に刊行物1記載の事項を適用することにより,容易に発明することができたものであると主張する。
しかし,刊行物1は,本件発明と刊行物3記載発明との相違点を開示するものではないから,刊行物3記載の発明に刊行物1記載の事項を適用しても,上記相違点に係る本件発明の構成に想到することはできない。
なお,前記3(3)のとおり,被告は,本件無効審判の手続において,刊行物3について,本件無効審判請求書に記載のない刊行物であり,これに基づく審判請求の理由の補正はその要旨を変更するものであることを主張した。
当裁判所の判断
当裁判所は,原告主張に係る取消事由はいずれも理由がないが,本件審決には,原告が本件無効審判請求書により主張した無効理由に関し判断を遺脱した違法があるから,これを取り消すべきものと判断する。その理由は,以下のとおりである。
1 取消事由1(訂正の可否の判断の誤り)について原告は,本件第4訂正を認めた本件審決の判断には誤りがあると主張する。
しかし,以下のとおり,原告の上記主張は失当である。
(1) 「給送路」についての判断の誤りについてア 本件発明1ないし3における「給送路」について(ア)本件第4訂正前(登録時)の特許請求の範囲の請求項1ないし3の記載は前記第2,2(1)のとおりであり,本件第4訂正後の特許請求の範囲の請求項1ないし3の記載は前記第2,2(2)のとおりである。
(イ)上記本件第4訂正前後の特許請求の範囲の各記載によれば,「ビットガイド」が有する「給送路」について,登録時発明1ないし3では,「ドライブビット及びドライブビットより打撃される先頭の止具を案内する」ものであるとされていたところ,本件発明1ないし3では,上記の点に加え,「止具集合体が通過する」ものであるとされていることが理解できる。
そうすると,登録時発明1ないし3では,「給送路」は「止具集合体が通過する」ものと,そうでないものの両者を含む構成であったところ,本件発明1ないし3では,「ビットガイド」が有する「給送路」について,新たに「止具集合体が通過する」という限定が加えられたということができる。
なお,「ドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内する」ものが,登録時発明1ないし3では「給送路」とされていたところ,本件発明1ないし3では「給送路の一部」とされている。しかし,本件発明1ないし3において,「給送路」が「ドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内する」ものであることは,登録時発明1ないし3と何ら異なるものではなく,上記の点は,「給送路」が,「ドライブビット及びドライブビットより打撃される先頭の止具を案内する」のみでなく,「止具集合体が通過する」ものとされたことに伴い,「ドライブビット及びドライブビットより打撃される先頭の止具を案内する」のが,「給送路の一部」であることを明確にしたものと理解するのが相当である。
(ウ)登録時明細書(甲36)には,「ビットガイド12には,図1に示す如く,マガジン2の止具集合体が通過する給送路121が設けられ,該給送路121の底は止具8の足先端を支持するようになっている。給送路121の前方には止具集合体の先頭の止具8が入ると共に打込機本体1内の図示しないドライブビットが上下動するための射出溝122が下端まで貫通して設けられている。またビットガイド12の前面には給送路121,射出溝122と平行に延びた案内溝123及び前面から突出した突起124が設けられている。なお,前記給送路121と射出溝122は1個の溝としてもよく,以下説明の便宜上給送路121として説明する。また給送路121の上方にある複数の凹凸部は,異なる長さの複数の止具8を打込めるようにするためのものであるが,周知構成のものであると共に本発明とは直接関係しないものであるので,詳細な説明は省略する。」(段落【0011】,訂正明細書の記載も同じ。)との記載がある。
同記載によれば,登録時明細書には,「止具集合体が通過する給送路121」と「止具集合体の先頭の止具が入ると共にドライブビットが上下動するための射出溝122」とを1個の溝として形成することが記載され,上記「1個の溝」は,「止具集合体が通過する給送路」であるとともに,その「一部はドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内するようにした」ものであることが説明されていると認められる。
そうすると,本件第4訂正により,本件発明1ないし3における「ビットガイド」が有する「給送路」を,「止具集合体が通過する」ものであって,「給送路の一部はドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内するようにした」ものとした点は,登録時明細書に記載した事項の範囲内においてしたものというべきである。
イ 本件発明4における「給送路」について(ア)本件第4訂正前(登録時)の特許請求の範囲の請求項7の記載は前記第2,2(1)のとおりであり,本件第4訂正後の特許請求の範囲の請求項4の記載は前記第2,2(2)のとおりである。
(イ)上記本件第4訂正前後の特許請求の範囲の各記載によれば本件第4訂正により,登録時発明7における「給送部材を収納支持するマガジンと,」が,本件発明4における「給送部材を収納支持するマガジンと,マガジン前端に設けられ,上記止具集合体が通過する給送路を有し,少なくとも前面が平板状のビットガイドを備え,上記給送路の一部はドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内するようにした打込機であって,」に訂正され,新たに「マガジン前端に設けられ,上記止具集合体が通過する給送路を有し,少なくとも前面が平板状のビットガイドを備え,上記給送路の一部はドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内する」という限定が加えられたということができる。
(ウ)そして,前記ア(ウ)において検討したところによれば,本件第4訂正により,本件発明4において,「マガジン前端に設けられ,上記止具集合体が通過する給送路を有し,少なくとも前面が平板状のビットガイドを備え,上記給送路の一部はドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内する」ものとした点は,登録時明細書に記載した事項の範囲内においてしたものと認められる。
ウ 原告の主張に対し原告は,本件第4訂正は,?@特許請求の範囲における「給送路」という語を本件第4訂正前(登録時)とは異なる意味で用いるものである,?A特許請求の範囲における「給送路」の意味を不明りょうにし,これを内包する「ビットガイド」の意味をも不明りょうにするものである,と主張する。
しかし,以下のとおり,原告の上記主張はいずれも失当である。
(ア)本件第4訂正は,特許請求の範囲における「給送路」という語を本件第4訂正前(登録時)とは異なる意味で用いるものであるとはいえない。
前記ア(イ)のとおり,本件発明1ないし3において,「給送路」が「ドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内する」ものであることは,登録時発明1ないし3と何ら異なるものではなく,本件発明1ないし3では,「給送路」が「止具集合体を通過する」点が更に限定されたにすぎないというべきであり,これをもって,実質上特許請求の範囲拡張し,又は変更するものということもできない。
また,登録時発明7では,「給送路を有するドライブビット」について特定していないから,本件発明4については,そもそも「給送路」という語を本件第4訂正前(登録時)とは異なる意味で用いるという原告の主張それ自体が妥当しない。
(イ)本件第4訂正は,特許請求の範囲における「給送路」の意味を不明りょうにし,これを内包する「ビットガイド」の意味をも不明りょうにするものであるとはいえない。
前記ア(ウ)のとおり,登録時明細書によれば,「ビットガイド」が有する「給送路」は,「止具集合体が通過する給送路」であるとともに,その「一部はドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内するようにした」ものであることが説明されているということができ,そのように理解したとしても,訂正明細書の特許請求の範囲の記載と矛盾するものではない。
なお,原告は,本件第4訂正後の特許請求の範囲では,「給送路」全体に「止具集合体が通過する」機能があることが必要であるところ,「給送路の一部」である「ドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内する」部分は,「止具集合体」が通りすぎることができないから,「給送路」は「止具集合体が通過する」という要件を充足しないなどと主張するが,原告が主張するように「給送路」からその一部を取り出した上,当該部分を「止具集合体」が通りすぎることができなければならないものと解すべき根拠は,登録時明細書及び訂正明細書の記載に照らし,これを見いだすことができない。
エ まとめ以上のとおりであるから,本件第4訂正を認めた本件審決の判断のうち,「給送路」についての判断部分に誤りがあるということはできない。
(2)「コンタクトアーム」及び「ビットガイド」についての判断の誤りについてア 「コンタクトアーム」について原告は,本件第4訂正後の「給送路」の意味は不明りょうであって,その下端を確定することができないから,同訂正後の「ビットガイドの給送路の下端より突出した前記コンタクトアーム」という構成も不明りょうであると主張する。
しかし,本件第4訂正後の「給送路」の意味が不明りょうでないことは前記(1)のとおりであるから,原告の上記主張は,その前提を欠くものであり,採用の限りでない。
イ 「ビットガイド」について(ア)本件第4訂正前(登録時)の特許請求の範囲の請求項1ないし3及び7の記載は前記第2,2(1)のとおりであり,本件第4訂正後の特許請求の範囲の請求項1ないし4の記載は前記第2,2(2)のとおりである。
(イ)上記本件第4訂正前後の特許請求の範囲の各記載によれば,本件発明1ないし4は,登録時発明1ないし3及び7に対し,「ビットガイド」,「プレート」及び「コンタクトアーム」の位置関係について,「前記コンタクトアームの前面にプレートを設けることにより,前記マガジン側から前記ビットガイド,前記コンタクトアームの中間部,前記プレートの順に配列し,先頭の止具の前面をコンタクトアームでなくプレートで受けるようにし,前記止具集合体が通過する給送路とプレートとの間にコンタクトアームが位置しないように前記コンタクトアームの中間部をビットガイドに支持する」との限定を加えたものであることが理解できる。
(ウ)原告は,訂正事項3-1,3-3及び3-4は,「ビットガイド,プレート,コンタクトアームの位置関係を具体的に特定するもの」ではなく,特許請求の範囲減縮ではなく,かえってその位置関係を不明りょうにするものであると主張する。
しかし,以下のとおり,原告の上記主張は失当である。
原告の上記主張は,本件第4訂正後の「給送路」の意味が不明りょうであるとの主張を前提とするものであるところ,同主張を採用できないことは,前記(1)のとおりである。
また,前記(イ)のとおり,訂正事項3-1,3-3及び3-4により,「コンタクトアームの前面にプレートを設ける」こと,「マガジン側」から「ビットガイド」,「コンタクトアームの中間部」,「プレート」の順に「配列される」ことが特定されるのであるから,同訂正事項が,「ビットガイド」,「プレート」及び「コンタクトアーム」の位置関係を具体的に特定するものであることは明らかである。
(エ)原告は,本件第4訂正によって「給送路」の意味が不明りょうになったことを前提として,「コンタクトアームの位置」が不明確となり,「ビットガイド」についても,その「部材」としての定義と「機能」の定義とが乖離したものとなったと主張するが,本件訂正後の「給送路」が不明確とはいえないことは前記(1)のとおりであるから,原告の上記主張は前提において失当である。
ウ まとめ以上のとおりであるから,本件第4訂正を認めた本件審決の判断のうち,「コンタクトアーム」及び「ビットガイド」についての判断部分に誤りがあるということはできない。
(3) 「射出穴」についての判断の誤りについて原告は,本訴における被告の主張に照らし,本件第4訂正により「射出穴」の概念が拡張されたものであって,同訂正は訂正要件を欠くと主張する。
しかし,以下のとおり,原告の上記主張は失当である。
ア「射出穴」との記載は,本件第4訂正前(登録時)の特許請求の範囲にはなく,同訂正により特許請求の範囲に付加されたものである。したがって,同訂正により「射出穴」の概念が拡張されたということはできない。
イなお,本件審決は,登録時明細書の図8,9や段落【0017】の記載を根拠として,「訂正事項3-4について,『射出路』と『射出穴』が混在した記載になっており,さらに,当該訂正は特許明細書の記載のない事項を伴うものである」との原告を排斥した(審決書12頁20行〜33行)。しかし,登録時明細書の図8,9や段落【0018】の記載は,「射出穴56の代わりに射出溝56を形成する」こととした実施例についてのものであり,訂正事項3-4により,特許請求の範囲に付加された「射出穴」との記載の根拠となるものではないから,本件審決の上記説示に係る判断には誤りがある。
しかし,?@本件審決は,「訂正事項・・・3-4の『前記ビットガイドの給送路の下端より突出した前記コンタクトアームの部分に前記給送路に連続する射出穴を前記コンタクトアームの下端まで貫通して設け,該射出穴から止具を打出すようにし』という訂正部分に関して,特許明細書の段落0012に『・・・。ビットガイド12の給送路121の下方に位置するコンタクトアーム先端部51には給送路121に連続する射出穴55が先端部51の下端まで貫通して設けられている。先端がビットガイド12の下端より下方に突出するコンタクトアーム先端部51は・・・』と記載され,また図1に記載されている。そうすると,本訂正部分は,特許明細書の上記記載に基づき,コンタクトアームの部分に設けられた射出路の形状を具体的に射出孔に特定し,射出穴が設けられているコンタクトアームの場所を具体的に特定するものであるから,特許請求の範囲減縮を目的とするものに該当し,また,新規事項の追加には該当しない。」(審決書9頁行24行〜37行)と説示しているところ,同説示は,登録時明細書の段落【0012】及び図1の各記載に照らし,これを是認できること,また,?A「射出路」が「射出穴」に対する上位概念であることは登録時明細書の記載に照らし明らかであることからすれば,本件第4訂正後の請求項4の記載に「射出路」と「射出穴」が混在することをもって,同請求項に係る訂正が訂正要件を満たさないということはできない。
したがって,本件審決の上記判断の誤りは,訂正の可否に関する結論に影響するものとはいえない。
(4) 小括以上のとおりであるから,本件審決における訂正の可否の判断について原告主張に係る誤りはなく,原告主張の取消事由1は理由がない。
なお,本件審決は,「請求項4,5,6・・・を削除することは,特許請求の範囲減縮を目的とするものであり,新規事項の追加には該当しない。」(審決書10頁16行〜17行)と説示しているところ,本件第3訂正は登録時の請求項4ないし6の削除を伴うものであり,同訂正を認めた第2次審決中,これらの請求項の削除に係る訂正を認めた部分については,原告・被告とも取消訴訟を提起する原告適格を有しないというべきであって,本件第3訂正のうち請求項4ないし6を削除した部分は,同審決の送達により,既に形式的に確定しているから(知的財産高等裁判所平成19年(行ケ)第10099号事件・平成19年7月23日決定,知的財産高等裁判所平成18年(行ケ)第10455号事件・平成20年2月12日判決参照),本件審決の上記説示は誤りである。しかし,本件審決の上記誤りは,本件第4訂正の可否に関する本件審決の結論に影響するものではない。
2取消事由2(刊行物1記載の発明に刊行物2記載の事項を適用することについての判断の誤り)について(1) 本件発明1と刊行物1記載の発明1との対比の誤りについて原告は,本件審決が,本件発明1の「ビットガイド」が有するドライブビットを案内する機能,止具集合体が通過する機能を区別せずに,「マガジン前端に設けられ,少なくとも前面が平面であるハウジング部材という限りで」,「コンタクトアームの前面に設けられ,先頭の止具の前面を受けるプレート部材という限りで」という限定的な認定をしたことは,誤りであるから,これを前提とする相違点2についての容易想到性の判断も誤りであると主張する。
しかし,以下のとおり,原告の上記主張は失当である。
ア 本件発明1の「ビットガイド」訂正明細書の請求項1の記載によれば,本件発明1の「ビットガイド」は,「マガジン前端に設けられ」,「止具集合体が通過する給送路を有し」,「少なくとも前面が平板状」であって,「給送路の一部はドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内する」ものであり,「止具集合体が通過する給送路とプレートとの間にコンタクトアームが位置しないように前記コンタクトアームの中間部を支持する」ものであると認められる。
イ 刊行物1記載の発明(ア)刊行物1(甲4)の記載(本件審決の指摘に係る3欄6行〜10行(訳文第2段落7行〜9行),8欄33行〜9欄11行(訳文第13段落〜第14段落),9欄36行〜10欄50行(訳文第16段落〜第18段落),12欄60行〜14欄25行(訳文第26段落〜第29段落),図1,10,13,14,17,18,25〜28参照)によれば,刊行物1には,次の発明(以下「刊行物1発明1」という。下線部は,本件審決の認定に係る刊行物1記載の発明1と異なる部分を示す。)が記載されているものと認められる。
「釘打込みブレード70を内蔵した釘打ち機本体の下方に位置し,釘帯105及び該釘帯105を前進させるためバネ125によって前進方向に付勢される釘押出し部材130を収納支持するマガジンと,マガジン前端に設けられ,少なくとも前面が平板状の側面フランジ96-96を備え,上記釘帯105が通過する給送路を有し,上記給送路の一部は釘打込みブレード70と釘打込みブレード70により打撃される先頭の釘を案内するようにした釘打ち機であって,釘打ち機本体に設けられたトリガ184と,下端が側面フランジ96-96下端より下方に突出することができ,上記釘帯105が通過するスロット102aを中間部に有し,側面フランジ96-96の前面に設けられると共に側面フランジ96-96に上下動可能に支持され,反マガジン側の前面に窪み102bを設けた平板状の移動自在部材102と,移動自在部材102を下方に押圧するU字状の板バネ及びばね167とを備え,移動自在部材102が上昇し,トリガが操作された時のみ前記釘打込みブレード70の駆動を開始させるようにした釘打ち機であって,前記移動自在部材102の前面に,マガジン側に窪み101bを設けた正面プレート101を設けることにより,前記マガジン側から,前記側面フランジ96-96,前記移動自在部材102,前記正面プレート101の順に配列し,先頭の釘の前面を移動自在部材102でなく正面プレート101で受けるようにし,移動自在部材102が下降位置にあるときは,給送路の一部を構成するスロット102aを通して,上記釘帯105を正面プレート101側に供給する一方,移動自在部材102が上昇し,移動自在部材102の下端が,正面プレート101の下端と側面フランジ96の下端と同じ位置になるときは,正面プレート101の窪み101bと移動自在部材102の窪み102bとによって,正面プレート101と移動自在部材102との下端まで案内溝を形成し,前記釘帯105が通過する給送路に移動自在部材102が位置するように,前記移動自在部材102を側面フランジ96-96に支持すると共に,前記給送路の下方に給送路に連続する案内溝を設けており,前記案内溝から釘を打出すようにした釘打ち機。」(イ)本件審決は,刊行物1記載の発明1について,「マガジン前端に設けられ,上記釘帯105が通過する給送路を有し,少なくとも前面が平板状の側面フランジ96-96を備え,上記給送路の一部は釘打込みブレード70と釘打込みブレード70により打撃される先頭の釘を案内するようにした釘打ち機であって,」(審決書21頁7行〜10行)と認定しているが,同認定は刊行物1記載の発明を正確に摘示したものとはいえない。
(ウ)しかし,本件発明1と刊行物1発明1とを対比すると,両者は,本件審決が認定した一致点において一致し,相違点1ないし4において相違すると認められるから,本件審決における刊行物1記載の発明1の認定の一部に誤りがあるとしても,この誤りは審決の結論に影響するものではない。
なお,本件審決は,相違点2として,刊行物1記載の発明1の「側面フランジ96-96」,すなわち「ハウジング部材はビットガイドでなく,ドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内する部材が正面プレート101の窪み101bと移動自在部材102の窪み102b」である旨認定していること,本件審決の認定に係る刊行物1記載の発明3では,刊行物1発明1(上記(ア)の下線部)と同様の認定がされていることからみて,本件審決の前記(イ)の記載は単なる誤記とも考えられる。
(エ)そして,刊行物1発明1の「側面フランジ96-96」は,「マガジン前端に設けられ,少なくとも前面が平板状」であって,「前記釘帯105が通過する給送路に移動自在部材102が位置するように,前記移動自在部材102を支持する」ものであること,また,刊行物1発明1の「正面プレート101の窪み101bと移動自在部材102の窪み102bとによって,正面プレート101と移動自在部材102との下端まで案内溝を形成し」,この「案内溝」により「ビットと先頭の止具」が案内されるものであることが,それぞれ認められる。
ウ 対比・検討(ア)前記ア及びイによれば,本件発明1の「ビットガイド」と刊行物1発明1の「側面フランジ96-96」とは,「マガジン前端に設けられ,少なくとも前面が平板状」であって,「コンタクトアームを支持する」ものである点で共通するが,前記イ(エ)のとおり,刊行物1発明1では,ドライブビットと先頭の止具は,「正面プレート101の窪み101bと移動自在部材102の窪み102bとによって,正面プレート101と移動自在部材102との下端まで」形成された「案内溝」により案内されるのであり,「側面フランジ96-96」により案内されるものではない。
そうすると,本件審決が,本件発明1の「ビットガイド」と刊行物1記載の発明1の「側面フランジ96-96」とを対比するに当たり,両者が「マガジン前端に設けられ,少なくとも前面が平板状であるハウジング部材」である点において共通することに着目し,後者がこれらの点の限りで前者と共通する旨認定したことに誤りはなく,また,「刊行物1記載の発明1において,ドライブビットをガイドしているのは,正面プレート101の窪み101bと移動部材102の窪み102bであって,ハウジング部材である側面フランジ96-96ではない。すなわち,刊行物1記載の発明1の側面フランジは,ドライブビットをガイドする機能はな(い)」(審決書29頁9行〜13行)と認定したことにも,誤りはない。
(イ)本件審決は,本件発明1と刊行物1記載の発明1との一致点として,「ハウジング部材に上下動可能に支持された平板状のコンタクトアーム」(審決書27頁12行)との点を認定しているから,本件発明1の「ビットガイド」と刊行物1発明1の「側面フランジ96-96」とが「コンタクトアーム」を「上下動可能に支持」するという点においても共通する点を看過した違法はない。
また,本件審決は,本件発明1と刊行物1記載の発明1との一致点として,「上記止具集合体が通過する給送路を有し,上記給送路の一部はドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内するようにした」(審決書27頁8行〜9行)との点を認定しているから,刊行物1記載の発明1における「止具集合体が通過する給送路の一部でドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内する」との構成を看過した違法はない。
さらに,本件審決は,本件発明1と刊行物1記載の発明1との相違点2として,「前者は,ハウジング部材が止具集合体が通過する給送路を有するビットガイドであって,マガジン側からビットガイド,コンタクトアームの中間部,前記プレートの順に配列し,止具集合体が通過する給送路とプレートとの間にコンタクトアームが位置しないようにコンタクトアームの中間部をビットガイドに支持するのに対して,後者は,ハウジング部材はビットガイドでなく,ドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内する部材が正面プレート101の窪み101bと移動自在部材102の窪み102bであり,しかも,コンタクトアームが上昇した際に,止具集合体が通過する給送路とプレートとの間にコンタクトアームが位置する点」(審決書27頁28行〜28頁1行)を認定しているから,刊行物1記載の発明1における「ドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内する部材」は,「正面プレート101の窪み101bと移動自在部材102の窪み102b」であり,これらが,本件発明1における「ビットガイド」のドライブビット及び先頭の止具を案内する機能に対応するものであることを看過した違法はない。
エ まとめ以上のとおりであるから,本件発明1と刊行物1記載の発明1との対比の誤りをいう原告の主張は,採用の限りでない。
(2)刊行物1記載の発明に刊行物2記載の事項を適用することの容易性について原告は,本件審決が「刊行物1記載の発明1に刊行物2記載の事項を適用することはできない。」と判断したのは誤りであると主張する。
しかし,以下のとおり,原告の上記主張は失当である。
ア刊行物1発明1の側面フランジと刊行物2記載の事項のビットガイドとの機能の相違に基づく想到困難性について(ア)前記(1)イ(エ)のとおり,刊行物1発明1において,ドライブビット及び先頭の止具を案内する機能を備える部材は,「移動自在部材102」と「正面プレート101」であるところ,同発明の「側面フランジ96-96」に代えて刊行物2記載の事項の「ガイドプレート9」を用いることとし,ドライブビット及び先頭の止具を案内する機能を「側面フランジ96-96」に代わる「ガイドプレート9」が備えるようにすることを想定すると,「ガイドプレート9」に支持される「移動自在部材102」の中間部はドライブビット及び先頭の止具を案内するものではなくなることになるが,この場合に「移動自在部材102」の形状をどのようなものとすればよいかは,明らかでない。
(イ)刊行物2記載の事項の「ガイドプレート9」を採用するに当たり,刊行物1発明1の「移動自在部材102」に相当する刊行物2記載の事項の「接触素子24」の構成を同時に採用することを想定しても,刊行物2記載の事項においては,マガジン側から,「接触素子24」,「ガイドプレート9」,「カバープレート10」の順に配列されているから,直ちに相違点2に係る本件発明1記載の構成における「マガジン側からビットガイド,コンタクトアームの中間部,プレートの順に配列し」との構成に想到し得るとはいえない。
(ウ)この点,原告は,本件発明1における「マガジン側からビットガイド,コンタクトアームの中間部,プレートの順に配列し」との構成には技術的な意義がなく,コンタクトアーム,ビットガイド,プレートの順に配列するか(刊行物2,甲21),ビットガイド,コンタクトアーム,プレートの順に配列するか(刊行物1,刊行物3,甲32)は,単なる設計事項にすぎないと主張する。
しかし,後記4のとおり,刊行物2記載の事項において,マガジン側から,「ガイドプレート9」,「接触素子24」,「カバープレート10」の順に配列しようとすれば,「接触素子24」が「ガイドプレート9」の「溝11」に干渉する位置となるなどの問題が生ずることからすれば,刊行物1発明1に刊行物2記載の事項を適用し,かつ,「マガジン側からビットガイド,コンタクトアームの中間部,プレートの順に配列」するものとすることが,単なる設計事項にすぎないということはできない。
(エ)そうすると,刊行物1発明1の側面フランジと刊行物2記載の事項のビットガイド(ガイトプレート)とは,打撃ビットと先頭の止具を案内する機能の有無が異なることによって,前者の側面フランジに代えて後者のビットガイドを採用することにより,相違点2に係る本件発明1の構成に想到することが当業者に容易であったということはできない。
イ 刊行物1発明1の目的に基づく想到困難性について(ア)刊行物1(甲4)の記載によれば,刊行物1発明1は,「打撃において先頭の止具がふらつかないようにする」ことを目的として,「移動自在部材102が,上昇時に先頭の止具と次の止具との間に位置する」ように構成されているものであることが認められる。
ここで,刊行物1発明1の「側面フランジ96-96」に代えて刊行物2記載の事項の「ガイドプレート9」を用いることを想定すると,ドライブビット及び先頭の止具の案内は「ガイドプレート9」で行うこととなるから,刊行物1発明1の「移動自在部材102」は,先頭の止具と次の止具の間に位置することができなくなってしまう。
また,刊行物1発明1の「移動自在部材102」に刊行物2記載の事項を適用し,止具集合体が通過する給送路に位置しない構成とすると,刊行物1発明1の「移動自在部材102」は先頭の止具と次の止具の間に位置することができなくなってしまう。
そうすると,刊行物1発明1に刊行物2記載の事項を適用しようすれば,刊行物1発明1の「先頭の止具がふらつかないようにする」という目的を達成することができなくなるから,そのような適用をすることは困難であるというべきである。
(イ)この点,原告は,刊行物1記載の発明1の「コンタクトアーム」が上昇時に先頭の止具と次の止具との間に位置すべきこととなるのは,同発明がセパレート型止具集合体を用いたことによるものであり,接着型止具集合体を採用すれば,次の止具が先頭の止具を支えるため,コンタクトアームが先頭の止具を支える必要はなくなるから,刊行物1発明1に刊行物2記載の事項を適用することは,容易である旨主張する。
しかし,接着型止具集合体であっても,先頭の止具は,打ち込まれる際には,次の止具から分離されるものであるから,刊行物1発明1における「移動自在部材102」が上昇して,接着型止具集合体の先頭の止具を分離しながら,先頭の止具と次の止具との間に位置することができるということができる。そうすると,刊行物1発明1において,接着型止具集合体を採用することを想定したとしても,「移動自在部材102」が「止具集合体が通過する給送路に位置しないようにする」構成を当業者が必ず採用するものとはいえない。
原告の主張は採用することができない。
(3) 小括以上検討したところによれば,本件審決が,本件発明1と刊行物1記載の発明1との相違点2の容易想到性の判断に当たり,刊行物1記載の発明に刊行物2記載の事項を適用することはできないと判断したことに誤りはなく,本件審決が,本件発明2と刊行物1記載の発明2との相違点2,本件発明3と刊行物1記載の発明2との相違点2,本件発明4と刊行物1記載の発明3との相違点2の各容易想到性の判断に当たり,上記と同様の判断をしたことにも,誤りはない。
したがって,原告主張の取消事由2は理由がない。
原告は,刊行物1記載の発明に刊行物2記載の事項を適用することの容易性について,その他縷々主張するが,いずれも採用の限りでない。
3取消事由3(刊行物1記載の発明に刊行物3記載の事項を適用することについての判断の誤り及び判断の遺脱)について原告は,本件審決には,刊行物1記載の発明に刊行物3記載の事項を適用することについて,判断の誤り又は判断の遺脱があると主張する。
しかし,以下のとおり,原告の上記主張は失当である。
後記6のとおり,原告が本件無効審判手続において主張した無効理由のうち,刊行物1記載の発明,刊行物3記載の事項及び周知慣用手段の組合せに係る理由は,刊行物3に基づく公知事実によって構成されているという点において,本件無効審判請求書の要旨を変更するものというべきであり,しかも,特許法131条の2第2項の規定による補正の許可及び被告(被請求人)に対する同法134条2項の答弁書の提出の機会の付与も,同法153条2項の規定による通知及び当事者に対する意見申立ての機会の付与もされていないから,本件無効審判の手続において,適法に主張されたものということはできない。
そうすると,本件無効審判について,請求不成立の審決をするに際し,刊行物1記載の発明に刊行物3記載の事項を適用することについて,判断を示す必要はないというべきである。すなわち,本件審決が,刊行物1記載の発明1の「前記側面フランジは,刊行物3記載の事項におけるブロックの一方73aとも機能が異なるものである。」(審決書29頁15行〜17行),「本件発明1の相違点2,4は,刊行物1記載の発明1,刊行物2記載の事項2,3に基づいて,当業者が容易になし得たものとすることができない。」(審決書31頁34行〜32頁2行),「本件発明1は,刊行物1,刊行物2ないし刊行物3に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたとすることができない。」(審決書32頁12行〜14行),「本件発明2は,刊行物1,刊行物2ないし刊行物3に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたとすることができない。」(審決書33頁15行〜17行),「本件発明3は,刊行物1,刊行物2ないし刊行物3に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたとすることができない。」(審決書34頁8行〜10行),「本件発明4は,刊行物1ないし刊行物3に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたとすることができない。」(審決書36頁10行〜11行),「本件発明1〜4は,刊行物1,刊行物2ないし刊行物3に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたとすることができない。」(審決書36頁13行〜15行)などと説示している点は,いずれも本件審決の結論を導く根拠とは無関係の,不要な判断である。
以上のとおり,取消事由3に係る原告の主張は,本件審決を取り消すべき事由に当たらない。
4取消事由4(刊行物2記載の発明に刊行物1記載の事項を適用することについての判断の誤り)について原告は,本件審決が,本件発明1の進歩性の判断に際して,「刊行物2記載の事項1に刊行物1記載の発明1を適用することはできない。」(審決書32頁3行〜11行)と判断し,本件発明2ないし4の進歩性の判断に際しても,これと同様の判断をしたことが誤りであり,本件発明1ないし4は,刊行物2記載の発明に刊行物1記載の事項などを適用することにより,当業者が容易に発明することができたものであると主張する。
しかし,以下のとおり,原告の上記主張は失当である。
(1) 本件発明1についてア 本件発明1と刊行物2記載の発明との対比(ア) 刊行物2記載の発明刊行物2(甲2)の記載(本件審決の指摘に係る5頁7行〜6頁末行(訳文2頁21行〜48行),7頁16行〜30行(訳文3頁8行〜14行),8頁4行〜8行(訳文3頁19行〜21行),図1〜5のほか,訳文1頁5行〜9行,訳文1頁27行〜32行,訳文1頁43行〜末行参照)によれば,刊行物2には,次の発明(以下「刊行物2発明」という。)が記載されているものと認められる。
「打撃ロッド2を内蔵した止具打込み機本体の下方に位置し,多数の止具の帯状集合体16及び該止具の帯状集合体16を,ばねによってシフトするためのマガジンスライダ19を収納するマガジン15と,マガジン前端に設けられ,止具の帯状集合体16が通過する給送路を有し,少なくとも前面が平板状のガイドプレート9を備え,上記給送路の一部は,案内溝11となっており,打撃ロッド2及び打撃ロッド2により打撃される最初のステープル17を案内するようにした止具打込み機であって,止具打込み機本体に設けられた引金レバー4と,上端が引金レバー4の近傍まで伸びている連結ブラケット23及び下端がガイドプレート9下端より下方に突出可能であって,その中間部であるサイドフレーム31がガイドプレート9の後方に設けられると共にガイドプレート9の溝32により上下動可能に支持された平板状の接触素子24からなる安全装置22と,安全装置22を下方静止位置に保つ引張ばね28とを備え,安全装置24が上昇し,引金レバー4が操作されたときのみ前記打撃ロッド2の駆動を開始させるようにした止具打込み機であって,ガイドプレート9の前面にカバープレート10を設けることにより,前記マガジン側から,接触素子24のサイドフレーム31,ガイドプレート9,カバープレート10の順で配列し,先頭の止具を接触素子24でなく,カバープレート10で受けるようにし,止具の帯状集合体16が通過する給送路とカバープレート10との間に接触素子24が位置しないように接触素子24のサイドプレート31をガイドプレート9に支持し,マガジン15が空になっている場合にマガジンスライダ19が位置する最終位置においてマガジンスライダ19のストッパエレメント19と係合するタブ40を接触素子24のサイドフレーム31が備えていると共に,カバープレート10とガイドプレート9とで形成された案内溝の下方である案内脚部の下端から,止具を打出すようにした止具打込み機。」(イ) 本件発明1と刊行物2発明との一致点・相違点本件発明1と刊行物2発明とを対比すると,両者は次の一致点において一致し,次の相違点?@ないし?Bにおいて相違することが認められる。
a一致点「ドライブビットを内蔵した打込機本体の下方に位置し,多数の止具集合体及び該止具集合体を前進させるためスプリングによって押圧される給送部材を収納支持するマガジンと,マガジン前端に設けられ,上記止具集合体が通過する給送路を有し,少なくとも前面が平板状のビットガイドを備え,上記給送路の一部はドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内するようにした打込機であって,打込機本体に設けられたトリガと,上端がトリガ近傍まで延び,下端がビットガイド下端より下方に突出し,中間部がビットガイドに上下動可能に支持された平板状のコンタクトアームと,コンタクトアームを下方に付勢する付勢手段とを備え,コンタクトアームが上昇し,トリガが操作された時のみ前記ドライブビットの駆動を開始させるようにした打込機であって,前記コンタクトアームの前側にプレートを設けることにより,先頭の止具の前面をコンタクトアームでなくプレートで受けるようにし,前記止具集合体が通過する給送路とプレートとの間にコンタクトアームが位置しないように前記コンタクトアームの中間部をビットガイドに支持すると共に,前記ビットガイドの給送路の下端より突出した前記コンタクトアームの部分を有することを特徴とする打込機。」b相違点?@本件発明1が「平板状のコンタクトアームは,その中間部がビットガイドの前面に設けられると共にビットガイドに上下動可能に支持され,マガジン側からビットガイド,コンタクトアームの中間部,プレートの順に配列したもの」であるのに対して,刊行物2発明は「平板状の接触素子24は,そのサイドフレーム31がガイドプレート9の後面に設けられると共にガイドプレート9に上下動可能に支持され,マガジン側から接触素子24のサイドフレーム,ガイドプレート,カバープレートの順に配列したもの」である点。
c相違点?Aコンタクトアームを下方に付勢する付勢手段に関して,本件発明1が「コンタクトアームを下方に押圧する押圧手段」であるのに対して,刊行物2記載発明は「接触素子24を下方に付勢する引張ばね28」である点。
d相違点?B本件発明1が「ビットガイドの給送路の下端より突出した前記コンタクトアームの部分に前記給送路に連続する射出穴を前記コンタクトアームの下端まで貫通して設け,該射出穴から止具を打出すようにしたものであるのに対して,刊行物2記載発明はそのように構成されていない点。
なお,原告は,本件発明1と刊行物2記載の発明との相違点として,コンタクトアームに関する相違点(1),ビットガイド,コンタクトアーム及び正面プレートの配列の順番に関する相違点(3)とを主張するが,本件発明1において,コンタクトアームの中間部をビットガイドの前面に配置することにより,マガジン側からビットガイド,コンタクトアームの中間部,プレートの順に配列したものとなるのであるから,これらの構成は,一体として検討すべきである。
イ 相違点?@の容易想到性について(ア)刊行物2発明において,「接触素子24」の「サイドフレーム31」は,平板状に形成された「ガイドプレート9」に対して上下動可能に支持されているものであるところ,「サイドフレーム31」は,給送路を避けて形成されているものであるから,ガイドプレートの前面,後面のどちらに位置したとしても,「サイドフレーム31」が「ガイドプレート9」が備える「ドライブビットと先頭の止具」を案内する「溝11」に干渉することはないと考えられるが,「サイドフレーム31」と「一体」で,「平坦状」に形成されている「接触素子24」は,ガイドプレートの前面に位置すると,「ガイドプレート9」の「溝11」に干渉する位置となることは明らかである。なお,「サイドフレーム31」を「ガイドプレート9」の前面に配置しても,「その先端部24’」を「溝11」の位置を避けて形成することは可能であるが,その場合には,刊行物2発明の「接触素子24」と「サイドフレーム31」を「ガイドプレート9」を跨いで連結する必要があり,その構造は複雑なものとなることから,そのようにすることについて,単なる設計事項と直ちに認めることはできない。
(イ)刊行物2発明の「接触素子24」と一体に形成される「サイドフレーム31」は,「マガジン15が空になっている場合にマガジンスライダ19が位置する最終位置においてマガジンスライダ19のストッパエレメント19と係合するタブ40」を備え,それにより空打ちを防止することができるように構成されているものであるから,「サイドフレーム31」を「ガイドプレート9」の「マガジンスライダ19」側に配置することには,合理的理由があるといえる。
また,「接触素子24」をガイドプレートの前面に配置することにより,マガジン側から「ガイドプレート」,「サイドフレーム31」,「カバープレート10」の順に配列するようにした場合には,「マガジンスライダ」と「サイドフレーム31」の間に「ガイドプレート」が位置することとなって,「マガジンスライダ」と係合することができなくなってしまうこととなるから,刊行物2発明の目的を達成することができないことになる。
(ウ)この点,原告は,コンタクトアームをガイドプレートの前面に位置させるようにする構成は,刊行物3,刊行物1,甲21ないし24などに示されるように周知であることから,相違点?@に係る本件発明1の構成は,当業者が容易に想到することができた旨主張する。
しかし,以下のとおり,原告の上記主張は失当である。
a刊行物1記載の事項は,打撃ビットと先頭の止具の案内を「ビットガイド」ではなく,「移動自在部材102」により行うものであるから,「接触素子24」ではなく「ガイドプレート」が案内する刊行物2発明に直ちに適用できるものとはいえず,また,「移動自在部材102」は,「マガジンスライダ」と係合するものでもない。
また,刊行物3記載の事項は,「ビットガイド」に相当する「一方の部材73a」の前側に「接触部80」の「中間部」が位置されるものであるとはいえるものの,「接触部80」は,マガジンスライダと係合することができないものである。
したがって,刊行物1に「ビットガイド」の前側に「コンタクトアーム」を配置する構成が開示されているとしても,これを刊行物2発明に適用し,同発明におけるマガジンスライダと係合する部材を備えるように構成された「コンタクトアーム」をビットガイドの前側に配置するようにすることが容易であるとはいえないし,刊行物3に「ビットガイド」の前側に「コンタクトアーム」を配置する構成が開示され,同構成が原告の主張するように周知であったとしても,これを刊行物2発明に適用し,同発明におけるマガジンスライダと係合する部材を備えるように構成された「コンタクトアーム」をビットガイドの前側に配置するようにすることが容易であるとはいえない。
b甲21には,「移動可能なシュー5」と,「工具3」,「工具4」との配置関係については何ら記載されておらず(第1図からもその点は明らかでない。),第5図及び第6図によれば,「工具4」の前面には「工具3」が配置されており,「移動可能なシュー5」は,「工具4」の前面で保持されているものとはいえないから,「中間部がビットガイドの前面に設けられると共にビットガイドに上下動可能に支持された平板状のコンタクトアーム」が開示されているとはいえない。甲21に係る出願の変更出願に係る甲23についても,同様である。
c甲22,24では,コンタクトアームに相当する部材(甲22の「コンタクト12」,甲24の「コンタクトアーム17」)は,いずれも「止具集合体が通過する給送路」を構成する部材よりも前側(マガジン反対側)に配置されており,甲22の「コンタクト12」や甲24の「コンタクトアーム17」が,「マガジンスライダ」と係合することは不可能であるから,甲22,24に記載された配置が原告の主張するように周知であったとしても,これらを刊行物2発明に適用することが容易であるとはいえない。
(エ)以上検討したところによれば,相違点?@に係る本件発明1の構成は,当業者が容易に想到することができたとは認められない。
したがって,相違点?A及び?Bについて検討するまでもなく,本件発明1は,刊行物2記載の発明に刊行物1記載の事項などを適用することにより,当業者が容易に発明することができたものであるとする原告の主張は,採用することができない。
(2) 本件発明2ないし4について本件発明2ないし4は,本件発明1と同様に,刊行物2発明とは少なくとも上記相違点?@において相違する。したがって,本件発明2ないし4は,刊行物2記載の発明に刊行物1記載の事項などを適用することにより,当業者が容易に発明することができたものであるとする原告の主張は,本件発明1と同様の理由により,採用することができない。
(3) 小括以上によれば,本件審決が,本件発明1の進歩性の判断に際して,「刊行物2記載の事項1に刊行物1記載の発明1を適用することはできない。」(審決書32頁3行〜11行)と判断し,本件発明2ないし4の進歩性の判断に際しても,これと同様の判断をしたことは,その結論において相当である。
したがって,原告主張の取消事由4は理由がない。
5取消事由5(刊行物3記載の発明に刊行物1記載の事項を適用することについての判断の誤り及び判断の遺脱)について原告は,本件審決には,刊行物3記載の発明に刊行物1記載の事項を適用することについて,判断の誤り又は判断の遺脱があると主張する。
しかし,前記3及び後記6のとおり,原告が本件無効審判手続において主張した無効理由のうち,刊行物1記載の発明,刊行物3記載の事項及び周知慣用手段の組合せに係る理由は,本件無効審判の手続において,適法に主張されたものということはできないから,本件無効審判について,請求不成立の審決をするに際し,刊行物3に基づく公知事実から構成される無効理由について,判断を示す必要はないというべきである。すなわち,刊行物3に係る本件審決の説示は,本件審決の結論を導く根拠とは無関係の,不要な判断である。
以上のとおりであるから,取消事由5に係る原告の主張は,本件審決を取り消すべき事由に当たらない。
6 本件審決の違法性について(1) 特許無効審判の審理についてア特許無効審判について,特許庁が請求を不成立とする審決をするには,審判体は,審判手続において請求人が適法に主張したすべての無効理由について審理し,審決においてその成否についての判断を示す必要があることはいうまでもない。審判体が,審判手続において,特許法153条2項の規定により当事者に通知した無効理由についても,同様である。
イ特許法134条1項の答弁書の提出があった後は,被請求人にも審決における判断を得る利益があるから,請求人が,審判請求の対象である特定の請求項について,請求書で主張した複数の無効理由についてその一部の主張を撤回するには,審判の請求の取下げの場合(特許法155条)に準じて,被請求人の承諾を得る必要があるというべきであり,少なくとも審判において明確な意思確認のための手続を採ることが必要である。審判体が,審判手続において,いったん特許法153条2項の規定により当事者に通知した無効理由について,これを審理の対象としないこととする場合も同様である。
ウ請求書の副本の送達がされた後,審判手続において請求人が主張した無効理由が請求書の要旨を変更するものである場合に,審決において当該無効理由について判断するためには,あらかじめ審判手続において,特許法131条の2第2項の規定により補正の許可をした上で,被請求人に同法134条2項の答弁書を提出する機会を与えるか,又は,同法153条2項の規定による通知をして,当事者に意見を申し立てる機会を与える手続を採らなければならない。上記の各規定が設けられた趣旨は,当事者に対して,適正公平な審判手続を保障するという理由のみならず,第三者に対して,審決の効力の及ぶ範囲を明確にするという理由があることに由来する。とりわけ,後者の理由に関しては,特許法167条に「何人も,特許無効審判・・・の確定審決の登録があったときは,同一の事実及び同一の証拠に基づいてその審判を請求することができない。」と規定されていることを併せ考慮すると,審決の判断の基礎とした無効理由を構成する事実及び証拠がどのようなものであるかを,審判手続において明確にさせることが必須となるが,前記各規定は,その手続を担保するものとして極めて重要な規定であるといえる。したがって,請求書の要旨変更に該当する無効理由について,上記のような手続を採ることなく,審決において判断することは,手続上の違法を来すというべきである。
エところで,特許無効審判の手続において,請求人が無効理由を主張した後に,被請求人が訂正請求をするような場合に,訂正前の特定の請求項との関係で主張された無効理由は,当該請求項に対応する訂正後の請求項との関係においても,無効理由の主張がされているものとして,手続が進められるべきであることは当然である(この点は,平成11年法律第41号による特許法の改正において,訂正請求の可否の判断に際して,訂正後の請求項(ただし,無効審判請求がされていない請求項を除く。)に係る独立特許要件の審理をしないこととされた趣旨が,同改正前における訂正後の請求項に係る独立特許要件の審理と無効理由の審理が重複するという理由であるという立法経緯からも,疑問の余地はない。)。
オ 上記アないしエの見地から,以下,本件について検討する。
(2) 事実認定前記第2(争いのない事実等)及び証拠によれば,本件無効審判の手続に関し,以下の事実を認めることができる。
ア 原告が本件無効審判請求書において主張した無効理由原告は,平成17年4月19日,登録時発明1ないし8についての各特許を無効とすることを求めて,本件無効審判を請求し,本件無効審判請求書により,概略,次の無効理由を主張し(なお,原告は,第1回弁駁書により,無効理由についての根拠条文を平成6年改正前特許法における条文に補正したが,同補正は,特許を無効にする根拠となる事実に係る主張をそのまま維持した上で,単に適用条文の誤りを修正するものにすぎないから,審判請求書の要旨を変更するものではない。下記に摘示する各無効理由に係る根拠条文は,上記補正後のものである。)(甲37,38,69),本件無効審判の手続を通じ,これらの主張を明示的に撤回したことはない。
(ア) 平成6年改正前特許法17条2項違反登録時発明1ないし8における以下の各構成は,願書に最初に添付した明細書又は図面(以下,両者を併せ,「当初明細書」という。)に記載のない事項を追加した補正に伴うものであるから,登録時発明1ないし8についての各特許は,平成6年改正前特許法17条2項の規定に違反してされたものである(以下,この無効理由を「当初無効理由1」と総称し,請求項ごとの無効理由を「当初無効理由1?@」などという。なお,原告は,登録時発明7の「平板状のコンタクトアーム」については,本件無効審判請求書では,平成6年改正前特許法17条2項違反である旨の主張をしていなかったが〔甲37〕,第1回弁駁書〔甲38〕及び平成17年10月4日付け口頭審理陳述要領書〔甲39〕ではこれを主張するに至り,その後,第1回口頭審理において同主張を撤回した〔甲68〕。)。
?@登録時発明1「ドライブビット等の打撃駆動手段」,「少なくとも前面が平板状のビットガイド」,「平板状のコンタクトアーム」,「コンタクトアームを下方に押圧する押圧手段」の構成?A登録時発明2「ドライブビット等の打撃駆動手段」,「少なくとも前面が平板状のビットガイド」,「平板状のコンタクトアーム」,「コンタクトアームを下方に押圧する押圧手段」,「前記コンタクトアームにビットガイドの給送路の両側に沿って上方に延びた2個の案内部を設け」の構成?B登録時発明3「ドライブビット等の打撃駆動手段」,「少なくとも前面が平板状のビットガイド」,「平板状のコンタクトアーム」,「コンタクトアームを下方に押圧する押圧手段」,「前記コンタクトアームにビットガイドの給送路の両側に沿って上方に延びた2個の案内部を設け」,「前記押圧手段を,前記2個の案内部を下方に押圧する2個のスプリングにより構成した」の構成?C登録時発明4「ドライブビット等の打撃駆動手段」,「少なくとも前面が平板状のビットガイド」,「平板状のコンタクトアーム」,「コンタクトアームを下方に押圧する押圧手段」,「前記コンタクトアームにビットガイドの給送路の両側に沿って上方に延びた2個の案内部を設け」,「ビットガイドの給送路とプレートとの間にコンタクトアームが位置しない構成とした」の構成?D登録時発明5「ドライブビット等の打撃駆動手段」,「少なくとも前面が平板状のビットガイド」,「平板状のコンタクトアーム」,「コンタクトアームを下方に押圧する押圧手段」,「前記コンタクトアームにビットガイドの給送路の両側に沿って上方に延びた2個の案内部を設け」,「少なくとも射出溝の下端部前面にプレートを設け」の構成?E登録時発明6「ドライブビット等の打撃駆動手段」,「少なくとも前面が平板状のビットガイド」,「平板状のコンタクトアーム」,「コンタクトアームを下方に押圧する押圧手段」,「前記コンタクトアームにビットガイドの給送路の両側に沿って上方に延びた2個の案内部を設け」,「少なくとも射出溝の下端部前面にプレートを設け」の構成?F登録時発明7「ドライブビット等の打撃駆動手段」,「コンタクトアームを下方に押圧する押圧手段」,「コンタクトアームが上昇し,トリガが操作された時のみ前記ドライブビットの駆動を開始させると共に打込み反力によって打込機本体が上昇した時コンタクトアームが下降しコンタクトアーム前面が止具に接触」の構成?G登録時発明8「射出部」,「コンタクトアームの前面にプレートを設け,・・・止具の先頭の前面をコンタクトアームでなくプレートで受けるようにした」の構成(イ) 平成6年改正前特許法36条5項1号違反登録時発明1ないし8における以下の各構成は,登録時明細書の発明の詳細な説明に記載されていないから,登録時発明1ないし8についての各特許は,平成6年改正前特許法36条5項1号の規定に違反してされたものである(以下,この無効理由を「当初無効理由2」と総称し,請求項ごとの無効理由を「当初無効理由2?@」などという。)。
?@登録時発明1「ドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内する給送路」,「平板状のコンタクトアーム」の構成?A登録時発明2「ドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内する給送路」,「平板状のコンタクトアーム」の構成?B登録時発明3「ドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内する給送路」,「平板状のコンタクトアーム」,「前記押圧手段を,前記2個の案内部を下方に押圧する2個のスプリングにより構成した」の構成?C登録時発明4「ドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内する給送路」,「平板状のコンタクトアーム」の構成?D登録時発明5「ドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内する給送路」,「平板状のコンタクトアーム」の構成?E登録時発明6「ドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内する給送路」,「平板状のコンタクトアーム」の構成?F登録時発明7「平板状のコンタクトアーム」の構成?G登録時発明8「コンタクトアームの先端を被打込材に押し付け打込機本体側に押し上げることにより射出部内に供給された止具を打出す打込機」の構成(ウ) 平成6年改正前特許法36条5項2号違反登録時発明1ないし8における以下の各構成は,明確でないから,登録時発明1ないし8についての各特許は,平成6年改正前特許法36条5項2号の規定に違反してされたものである(以下,この無効理由を「当初無効理由3」と総称し,請求項ごとの無効理由を「当初無効理由3?@」などという。)。
?@登録時発明1「打撃駆動手段」,「前面が平板状のビットガイド」,「平板状のコンタクトアーム」の構成?A登録時発明2「打撃駆動手段」,「前面が平板状のビットガイド」,「平板状のコンタクトアーム」の構成?B登録時発明3「打撃駆動手段」,「前面が平板状のビットガイド」,「平板状のコンタクトアーム」の構成?C登録時発明4「打撃駆動手段」,「前面が平板状のビットガイド」,「平板状のコンタクトアーム」の構成?D登録時発明5「打撃駆動手段」,「前面が平板状のビットガイド」,「平板状のコンタクトアーム」の構成?E登録時発明6「打撃駆動手段」,「前面が平板状のビットガイド」,「平板状のコンタクトアーム」の構成?F登録時発明7「打撃駆動手段」,「平板状のコンタクトアーム」,「反マガジン側の側面」,「コンタクトアームが上昇し,トリガが操作された時のみ前記ドライブビットの駆動を開始させると共に打込み反力によって打込機本体が上昇した時コンタクトアームが下降しコンタクトアーム前面が止具に接触」の構成?G登録時発明8「射出部」,「コンタクトアームの前面にプレートを設け,・・・止具の先頭の前面をコンタクトアームでなくプレートで受けるようにした」の構成(エ) 特許法29条2項違反(ただし,甲1及び2に基づくもの)登録時発明1ないし8は,いずれも甲1及び刊行物2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,登録時発明1ないし8についての各特許は特許法29条2項に違反してされたものである(以下,この無効理由を「当初無効理由4」と総称し,請求項ごとの無効理由を「当初無効理由4?@」などという。)。
イ 本件無効通知の内容審判体は,本件無効理由通知により,当事者双方に対し,本件第2訂正(なお,本件第2訂正後の請求項1ないし4は登録時の請求項1ないし4に対応し,本件第2訂正後の請求項5及び6は登録時の請求項7及び8に対応するものである。)の可否及び同訂正後の請求項1ないし6に係る各発明についての特許の無効理由について,概略,次のとおり通知した(甲70)。
(ア) 本件第2訂正の可否本件第2訂正を認める。
(イ) 無効理由本件第2訂正後の請求項1ないし6に係る発明は,いずれも刊行物1記載の発明,刊行物2記載の事項及び周知慣用手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,これらの発明についての特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものである(以下「職権通知無効理由」という。)。なお,本件職権審理結果通知書では,付勢力を押圧によって発生させることは慣用手段であり,射出孔は,甲3,11,15にも記載されているように周知である,とされている。
なお,第2次取消決定が効力を生じて本件無効審判の手続が再開された後,本件無効理由通知に係る無効理由を審理の対象としない旨の明示的な告知がされた事実はない。また,原告は,第3回弁駁書(甲41)において,本件第3訂正後の請求項1ないし5に係る各発明について,本件無効理由通知に係る無効理由と同様の無効理由を主張した。
ウ 第4回弁駁書における原告の主張原告は,平成19年4月16日,第4回弁駁書及び甲3ないし31を提出し,概略,次の主張をした(甲42)。
(ア) 本件第4訂正の適否本件第4訂正の請求は,以下の点において,訂正要件を充足しない。
a訂正事項1-1ないし1-3は,特許請求の範囲減縮に該当しない。
b訂正事項2-1及び2-2は,特許請求の範囲減縮及び明りょうでない記載の釈明に該当せず,実質上特許請求の範囲変更するものである。
c訂正事項3-1ないし3-4は,特許請求の範囲減縮に該当せず,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものではなく,実質上特許請求の範囲変更するものである。
(イ) 無効理由1登録時発明1ないし8は,以下のとおり,いずれも刊行物1記載の発明,刊行物2記載の事項,刊行物3記載の事項及び周知慣用手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,これらの発明についての特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
a登録時発明1ないし8は,いずれも刊行物1記載の発明,刊行物2記載の事項及び周知慣用手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
b刊行物3記載の発明は,登録時発明とほぼ同一の構成を有するものであるから,登録時発明1ないし8は,いずれも刊行物2記載の事項に代えて,刊行物3記載の事項を刊行物1記載の発明に適用することによっても,当業者が容易に発明をすることができたものである。
(ウ) 無効理由2第1次審決において判断されているとおり,登録時発明1ないし7における「ドライブビット等の打撃駆動手段」との構成は,当初明細書に記載のない事項を追加した補正に伴うものであるから,登録時発明1ないし7についての各特許は,平成6年改正前特許法17条2項の規定に違反してされたものである。
(エ) 無効理由3登録時発明8は,甲1及び刊行物2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,登録時発明8についての特許は特許法29条2項に違反してされたものである。
(オ) 無効理由4本件発明1ないし4は,刊行物1記載の発明,刊行物2記載の事項,刊行物3記載の事項及び周知慣用手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,これらの発明についての特許は特許法29条2項に違反してされたものである。
エ 第4回弁駁書の提出後,本件審決に至るまでの手続審判長は,平成19年5月15日,被告に対し,第4回弁駁書の副本の送付通知をするとともに,特許法施行規則47条の2第1項に基づき,30日の期間を指定して答弁指令を行ったが,同通知には,上記期間が特許法134条1項,2項に規定された指定期間ではない旨記載されており,また,第4回弁駁書に係る原告の主張に関して,明示的な補正許否の決定がされた事実はない。
なお,被告は,平成19年6月14日付け審判事件答弁書(甲66)において,刊行物3については,本件無効審判請求書に記載のない刊行物であり,これに基づく審判請求の理由の補正は,その要旨を変更するものであることのみを主張した。
(3) 判断前記(1)の見地及び前記(2)の認定事実に基づき,本件審決の違法性について判断する。
ア 判断遺脱(ア) 平成6年改正前特許法17条2項違反について本件第4訂正後の請求項1ないし3はそれぞれ登録時の請求項1ないし3に対応し,本件第4訂正後の請求項4は登録時の請求項7に対応するものである(前記第2,2)から,原告は,本件無効審判の手続において,本件発明1ないし4についての各特許に対し,それぞれ当初無効理由1?@ないし1?B及び1?F(これらのうち,「ドライブビット等の打撃駆動装置」との構成に係る理由は,無効理由2と重複する。)を主張したものと解するべきである。
本件第4訂正に係る訂正事項1-1ないし1-3により,登録時の請求項1,2及び7の「ドライブビット等の打撃駆動装置」との記載は,いずれも「ドライブビット」に訂正されたから,「訂正は認められたので,」無効理由2は,「理由が無くなった。」とする本件審決の判断に誤りはない。
しかし,本件第4訂正後の請求項1ないし4の記載(前記第2,2(2))に照らし,当初無効理由1?@ないし1?B及び1?Fのうち,無効理由2と重複する理由以外の理由は,当然には,理由がなくなったということはできないところ,本件審決が,これらの理由の成否について何ら判断していないことは,審決書の記載に照らし,明らかである。
したがって,本件審決は,当初無効理由1?@ないし1?B及び1?F(無効理由2と重複する理由を除く。)について,判断を遺脱した違法がある。
(イ) 平成6年改正前特許法36条5項1号違反本件第4訂正後の請求項1ないし3はそれぞれ登録時の請求項1ないし3に対応し,本件第4訂正後の請求項4は登録時の請求項7に対応するものである(前記第2,2)から,原告は,本件無効審判の手続において,本件発明1ないし4についての各特許に対し,それぞれ当初無効理由2?@ないし2?B及び2?Fを主張したものと解するべきである。
しかし,本件審決が,これらの理由の成否について何ら判断していないことは,審決書の記載に照らし,明らかである。
したがって,本件審決は,当初無効理由2?@ないし2?B及び2?Fについて,判断を遺脱した違法がある。
(ウ) 平成6年改正前特許法36条5項2号違反本件第4訂正後の請求項1ないし3はそれぞれ登録時の請求項ないし3に対応し,本件第4訂正後の請求項4は登録時の請求項7に対応するものである(前記第2,2)から,原告は,本件無効審判の手続において,本件発明1ないし4についての各特許に対し,それぞれ当初無効理由3?@ないし3?B及び3?Fを主張したものと解するべきである。
しかし,本件審決が,これらの理由の成否について何ら判断していないことは,審決書の記載に照らし,明らかである。
したがって,本件審決は,当初無効理由3?@ないし3?B及び3?Fについて,判断を遺脱した違法がある。
(エ) 特許法29条2項違反(ただし,甲1及び2に基づくもの)本件第4訂正後の請求項1ないし3はそれぞれ登録時の請求項ないし3に対応し,本件第4訂正後の請求項4は登録時の請求項7に対応するものである(前記第2,2)から,原告は,本件無効審判の手続において,本件発明1ないし4についての各特許に対し,それぞれ当初無効理由4?@ないし3?B及び4?Fを主張したものと解するべきである。
しかし,本件審決が,これらの理由の成否について何ら判断していないことは,審決書の記載に照らし,明らかである。
したがって,本件審決は,当初無効理由3?@ないし3?B及び3?Fについて,判断を遺脱した違法がある。
なお,当初無効理由4?Gと無効理由3とは重複するものであるところ,本件審決は,「訂正は認められたので,無効理由・・・3は,理由が無くなった。」と判断しているが,本件第4訂正により登録時の請求項8は削除されたから,そもそも上記のような説示をすることは不要といえる(なお,本件審決中,登録時の請求項8の削除に係る訂正を認めた部分は,同審決の送達により形式的に確定している。)。
イ 本件無効審判の手続について(ア) 無効理由1及び4の内容本件第4訂正後の請求項1ないし3はそれぞれ登録時の請求項ないし3に対応し,本件第4訂正後の請求項4は登録時の請求項7に対応するものである(前記第2,2)から,原告は,本件無効審判の手続において,登録時発明1ないし3及び7についての特許に関して無効理由1として主張した内容を,本件発明1ないし4についての各特許に対しても主張したものと解すべきところ,その内容は本件発明1ないし4についての各特許に関して無効理由4として主張した内容と重複するものであるから,以下,無効理由4について検討する(なお,本件審決は,「訂正は認められたので,無効理由1・・・は,理由が無くなった。」と判断しているが,前記(1)エのとおり,訂正前の特定の請求項との関係で主張されている無効理由は,同請求項と対応する訂正後の請求項との関係でも,当然,主張されていると解すべきであるから,適切さを欠く説示といわざるを得ない。)。
無効理由4は,本件発明1ないし4は,いずれも刊行物1記載の発明,刊行物2記載の事項,刊行物3記載の事項及び周知慣用手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるというものであり,具体的には,?@刊行物1記載の発明,刊行物2記載の事項及び周知慣用手段の組合せ,?A刊行物1記載の発明,刊行物3記載の事項及び周知慣用手段の組合せを主張するものである。
(イ) 本件無効審判請求書との関係無効理由4は,刊行物1に基づく公知事実,刊行物2に基づく公知事実及び刊行物3に基づく公知事実によって構成されるものであるということができる(なお,周知慣用手段は,通常,特許法29条2項所定の「その発明の属する分野における通常の知識」と位置付けられるものであり,無効理由を構成する公知事実そのものではないと解される。)が,このうち刊行物2に基づく公知事実は本件無効審判請求書で主張された特許法29条2項の無効理由(当初無効理由4)を構成する公知事実であるが,刊行物1及び3に基づく各公知事実は,本件無効審判請求書で主張された当初無効理由4を構成する公知事実ではない。
したがって,無効理由4は,刊行物1及び3に基づく各公知事実によって構成されているという点において,本件無効審判請求書の要旨を変更するものというべきである。
ところで,平成18年5月18日発送の補正許否の決定(甲71)では,第2回弁駁書に関し,「新たに追加された甲第4〜31号証により立証しようとする事実に基づいた請求の理由の補正は,審判請求時の要旨を変更するものと認められる」と説示されているが,原告が甲4ないし31により立証しようとした事実には,周知慣用手段に係るものが含まれており(例えば,本件無効理由通知は,周知手段を示するものとして,甲11及び15に言及している。),周知慣用手段は,通常,特許法29条2項所定の「その発明の属する分野における通常の知識」と位置付けられ,無効理由を構成する公知事実そのものではないことに照らせば,上記説示に係る審判体の判断は,周知慣用手段に基づく請求の理由の補正についてまで不許可とした点において,これを是認することができない。
(ウ) 職権通知無効理由との関係職権通知無効理由は,本件第2訂正後の請求項1ないし6に係る発明について,いずれも刊行物1記載の発明,刊行物2記載の事項及び周知慣用手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたというものであり,本件第2訂正後の請求項1ないし4は登録時の請求項1ないし4に対応し,本件第2訂正後の請求項5及び6は登録時の請求項7及び8に対応するものであり,また,本件第4訂正後の請求項1ないし3はそれぞれ登録時の請求項1ないし3に対応し,本件第4訂正後の請求項4は登録時の請求項7に対応するものであるから,本件発明1ないし4が,刊行物1記載の発明,刊行物2記載の事項及び周知慣用手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたという無効理由については,本件無効審判の手続において,適法に審理の対象とされたものということができる。
(エ)無効理由4のうち適法に審理の対象とされた部分とそうでない部分そうすると,無効理由4のうち,?@刊行物1記載の発明,刊行物2記載の事項及び周知慣用手段の組合せに係る理由は,本件無効審判の手続において,適法に審理の対象とされたものということができるが,?A刊行物1記載の発明,刊行物3記載の事項及び周知慣用手段の組合せに係る理由は,本件無効審判請求書の要旨を変更するものであって,かつ,特許法131条の2第2項の規定による補正の許可及び被告(被請求人)に対する同法134条2項の答弁書の提出の機会の付与も,同法153条2項の規定による通知及び当事者に対する意見申立ての機会の付与もされていないものといえる。
したがって,無効理由4のうち,刊行物1記載の発明,刊行物3記載の事項及び周知慣用手段の組合せに係る理由は,刊行物3に基づく公知事実によって構成されているという点に関し,本件無効審判の手続において,適法に主張されたものということはできない。
(オ)本件審決が刊行物3に基づく公知事実によって構成される無効理由について示した判断本件審決は,刊行物3の記載を摘記して刊行物3記載の事項を認定するとともに(審決書25頁15行〜26頁17行),具体的な判断としては,刊行物1記載の発明1の「前記側面フランジは,刊行物3記載の事項におけるブロックの一方73aとも機能が異なるものである。」(審決書29頁15行〜17行)との説示のみをして,「本件発明1の相違点2,4は,刊行物1記載の発明1,刊行物2記載の事項2,3に基づいて,当業者が容易になし得たものとすることができない。」(審決書31頁34行〜32頁2行),「本件発明1は,刊行物1,刊行物2ないし刊行物3に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたとすることができない。」(審決書32頁12行〜14行),「本件発明2は,刊行物1,刊行物2ないし刊行物3に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたとすることができない。」(審決書33頁15行〜17行),「本件発明3は,刊行物1,刊行物2ないし刊行物3に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたとすることができない。」(審決書34頁8行〜10行),「本件発明4は,刊行物1ないし刊行物3に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたとすることができない。」(審決書36頁10行〜11行),「本件発明1〜4は,刊行物1,刊行物2ないし刊行物3に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたとすることができない。」(審決書36頁13行〜15行)という抽象的な判断を示したものである。
(カ) まとめ上記検討したところによれば,本件審決は,特許法が規定する適正な手続を経ることなく,無効理由4のうち刊行物3に基づく公知事実によって構成される理由について,前記(オ)のとおり,部分的かつ断片的な説示をして,当該無効理由が成立しない旨の判断を示した点において,適切さを欠くものであったというべきである。なお,本件審決の同判断部分は,本件審決の結論を導く根拠とは無関係の,不要な判断である点は,前記3のとおりである。
今後,再開されるべき本件無効審判の手続においては,審判体は,紛争の一回的解決を図るべく,原告の主張に係る特許法29条2項違反の無効理由を構成する公知事実として,刊行物3に基づく公知事実を付加する補正を許可するか否か,あるいは,これに代えて同法153条2項の規定による通知をするか否かについて,審理を進めるべきである。
なお,?@訂正がされた場合に,訂正前の発明について対比された公知事実のみならず,その他の公知事実との対比を行って,その点の判断をしない限り,訂正後の発明が特許を受けることができる発明であるかに関する判断結果の安定性を実現することはできないこと(最高裁判所平成7年(行ツ)第204号平成11年3月9日最高裁判所第3小法廷判決(民集53巻3号303頁),最高裁判所平成10年(行ツ)第81号平成11年4月22日第1小法廷判決(裁判集民事193号231頁)参照),?A本件無効審判の過程でされた訂正請求が確定する前に,別の無効審判が請求されたような場合には,審理判断の対象となる発明の要旨が本件無効審判におけるそれとは異なるものとなって,判断結果の安定性を損なうおそれがあること等の事情に照らすならば,審判体としては,本件第4訂正により特許請求の範囲に付加された構成との関係で,刊行物3に基づく公知事実を主張する必要が生じたものとして,特許法131条の2第2項1号の規定による補正の許可をすべきものといえる。
7 結論以上検討したところによれば,原告主張の取消事由1ないし5はいずれも理由がないが,本件審決は,判断遺脱の違法があるから,取消しを免れない(なお,原告は,本件審決を取り消すことを請求するとともに,本件審決の理由が別紙審決書写しのとおりであること,また,本件無効審判の手続において,本件無効審判請求書記載の無効理由を主張し,同主張を明示的に撤回したことはないことを,本訴において主張しているから,原告は,本件審決に判断遺脱の違法があることを基礎付ける事実を主張していると解するのが相当である。)。
よって,本訴請求は理由があるから,これを認容することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 齊木教朗
裁判官 嶋末和秀