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関連審決 無効2006-80174
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審判番号(事件番号) データベース 権利
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関連ワード 容易に実施 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  実施可能要件 /  技術常識 /  明確性 /  発明の詳細な説明 /  優先権 /  存続期間 /  優先日 /  参酌 /  置き換え /  容易に想到(容易想到性) /  不存在 /  実施 /  加工 /  交換 /  設定登録 /  請求の範囲 /  拡張 /  公知事実 / 
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事件 平成 19年 (行ケ) 10257号 審決取消請求事件
原告株 式 会社ジーシー
訴訟代理人弁理 士野間忠之
同彌重仁也
被告エルンスト ミュールバウエル ゲーエ ムベーハー ウント コー.カーゲー
訴訟代理人弁護 士鈴木秀彦
同鈴木秀雄
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2008/08/26
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2006-80174号事件について平成19年6月5日にした審決を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯被告は,昭和61年10月9日,発明の名称を「重合可能なセメント混合物」とする発明について,特許出願(特願昭61-239386号。以下この出願を「本件出願」という。優先日 1985年[昭和60年]10月9日 ドイツ連邦共和国)をし(甲9),平成9年9月12日,特許庁から特許第2132069号として特許権の設定登録を受けた(以下,この特許を「本件特許」という。平成18年10月9日存続期間満了により登録が抹消された[甲22])。
原告は,平成18年9月6日,特許庁に対し,本件特許について無効審判請求(無効2006-80174号事件)をした。これに対し,被告は,平成19年1月29日訂正請求をした(以下,この訂正を「本件訂正」という。甲10)。特許庁は,平成19年6月5日,「訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は,平成19年6月15日,原告に送達された。
2 本件訂正後の特許請求の範囲の記載(請求項1)等本件訂正後及び訂正前の各特許請求の範囲の記載(請求項1)は,以下のとおりである。下線は訂正部分を示す(本件訂正後の発明(請求項1)を「本件発明」という場合がある。)。
(1) 本件訂正後(請求項1)次の成分:(a)酸基及び/またはその酸から誘導された反応性誘導体基を含み,次の(b)の成分と混合された場合において,重合可能であると共に(b)の成分とのイオン反応をなしうる,不飽和モノマー及び/またはオリゴマー及び/またはプレポリマーと,(b)ホスフェートセメント(ZnO/MgO),Ca(OH) セメント,シリケートセメント2またはアイオノマーセメントから選ばれる,該酸基または酸誘導体基とのイオン反応を介して硬化しうる微粉状の反応性充填剤と,(c)硬化剤とを含有する重合可能なセメント混合物であって,該成分(a)及び(b)は,該成分(a)における酸基または酸誘導体基が該成分(b)の微粉状の反応性充填剤とイオン的に反応し,セメント反応を受け得るように選ばれることを特徴とする重合可能なセメント混合物。
(2) 本件訂正前(請求項1)次の成分:(a)酸基及び/またはその酸から誘導された反応性酸誘導体基を含む,重合可能な不飽和モノマー及び/またはオリゴマー及び/またはプレポリマーと,(b)ホスフェートセメント(ZnO/MgO),Ca(OH) セメント,シリケートセメン2ト,アイオノマーセメントまたはイオン交換ゼオライトから選ばれる,該酸基または酸誘導体基と反応しうる微粉状の反応性充填剤と,(c)硬化剤とを含有する重合可能なセメント混合物であって,該成分(a)及び(b)は,該成分(a)における酸基または酸誘導体基が該成分(b)の微粉状の反応性充填剤とイオン的に反応し,セメント反応を受け得るように選ばれることを特徴とする重合可能なセメント混合物。
3 審決の内容審決の内容は,別紙の審決書写し記載のとおりである。
要するに,(1)本件訂正は,平成6年改正前の特許法134条2項ただし書に適合し,特許法134条の2第5項において準用する平成6年改正前の特許法126条2項の規定に適合する,(2)本件発明は,甲1ないし甲3等に記載された各発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない,(3)本件特許明細書(判決注本件訂正後の本件出願に係る明細書(以下「本件明細書」という。)の趣旨)に記載不備はなく,本件出願は,昭和62年法律第27号による改正前の特許法36条4項所定の要件(以下「特許請求の範囲の必須要件」という。)及び平成2年法律第30号による改正前の特許法36条3項所定の要件(以下「明細書の実施可能要件」という。)を満たす,というものである。
当事者の主張
1 審決の取消事由に関する原告の主張審決には,以下のとおり,(1)本件訂正は実質的に特許請求の範囲拡張に当たるにもかかわらず,訂正を認めた結果,本件発明の認定を誤った点(取消事由1),(2)本件発明は,甲2記載の発明の認定を誤った結果,容易想到性の判断を誤った点(取消事由2),(3)本件発明には,特許請求の範囲の必須要件違反及び明細書の実施可能要件違反があるにもかかわらず,その点の判断を誤った点(取消事由3)に取消事由がある。
(1) 取消事由1(本件訂正を認めた誤り)本件訂正後の請求項1において,成分(b)は,「イオン反応を介して硬化しうる」と記載されている。ところで,同成分(b)における「硬化」が,「硬くなる」こと一般を指すのか,「セメント反応」によって硬化することを指すのか明確性を欠く。「イオン反応を介して硬化しうる」との記載は,固体物質である成分(b)を更に硬化させることをも意味することになる点で,明確性を欠く。
そして,本件訂正後の請求項1では,成分(a)がオリゴマーやプレポリマーの場合や酸誘導体基を有する場合に,「イオン反応を介して硬化しうる」ものでありさえすれば,これに含まれることになるから,実質的に特許請求の範囲拡張することになる。
以上のとおり,本件訂正は,成分(b)として「硬化しうる」ものという文言を付加したことにより,セメント粉末自体がイオン反応により硬化するものをも含むことになるため,実質的に特許請求の範囲拡張したことになる。
したがって,審決は,本件訂正を認めた結果,本件発明の要旨の認定を誤った違法がある。
(2) 取消事由2(甲2の「ガラス」の性質に関する認定の誤り)甲2に記載された「ガラス」は,本件発明の成分(b)の「グラスアイオノマーセメント」に該当するから,「グラスアイオノマーセメント」が開示されているというべきである。審決は,甲5の記載内容は,本件出願時(判決注本件の優先権主張日(以下「本件優先権主張日」という。)当時の趣旨)に公知であったとはいえないという理由により,甲5の記載内容を参酌すべきでないとして,甲2に開示された「ガラス」は,本件発明の成分(b)の「グラスアイオノマーセメント」に該当するとはいえないと判断した点に誤りがある。
また,甲2に記載された「ガラス」は,本件優先権主張日当時の当業者の技術常識によれば,本件発明の成分(b)の「グラスアイオノマーセメント」と認定されるべきものであるから,この点でも,審決には誤りがある。
ア 甲5の記載を参酌しなかった誤りまず,審決は,甲5の記載内容は,本件出願時(判決注本件優先権主張日当時の趣旨)に公知であったとはいえないとの理由により,甲5の記載内容を参酌すべきでないとして,甲2に開示された「ガラス」は,本件発明の成分(b)の「グラスアイオノマーセメント」に該当するとはいえないと判断した。
しかし,審決の判断は,以下のとおり誤りである。
すなわち,審決は,特許法29条2項の無効理由を基礎付ける引用例が特許の優先権主張日前のものに限られるという原則を,無効理由を基礎付ける引用例に記載された物質が何かという事実の証明に関しても適用した点で誤りがある。特許法29条2項を基礎付ける公知例が特許の優先権主張日前のものに限るとされている理由は,特許法29条2項では,優先権主張日時点における技術水準に照らして当業者が容易に発明をすることができたかどうかが検討の対象とされるからに他ならない。しかし,甲5は,本件発明について当業者が容易に発明をすることができたか否かの公知例として示されたものではなく,公知例として引用された甲2に記載の「ガラス」がグラスアイオノマーセメントであることを証明するために示されたものであって,その発行時期によって甲2のガラス成分の意味内容や定義が変化するわけではないから,審決の判断は,違法である。
イ 本件優先権主張日当時の技術水準(甲7,8,30)についての誤り本件優先権主張日当時の技術水準を示した以下の各資料(甲7,8,30)によれば,甲2に開示された「ガラス」は,本件発明の成分(b)の「グラスアイオノマーセメント」であると認められる。したがって,この点からも,審決には誤りがある。
(ア) 「新しい歯科材料」(甲7)甲2に記載されたガラスの組成の重量%を重量部と置き換えてて,甲7の組成と重量部で比較すると,次のとおりである。
シリケートセメント粉末の一般 「Glass asdescribedin U.S.4,成分組成(新しい歯科材料・甲7)224,023」(甲2)SiO29.7〜47.230〜45 2AlO21.4〜35.820〜30 2 3フッ化物14.6〜30.720〜40その他-4〜10(AlPO)4上記表によれば,配合割合の高いSiO ,Al O ,フッ化物の割合がほと 223んど一致している。したがって,甲2のガラスは「グラスアイオノマーセメント粉末」の組成と大差がないシリケートセメント粉末の組成と略一致し,グラスアイオノマーセメントに少量含有される一般的な物質(AlPO )も含まれている。以上によれば,甲2のガラスは,本件優先権4主張日(1985年10月9日)以前に発行された甲7(1984年[昭和59年]3月28日発行)の記載からも,「グラスアイオノマーセメント」であるといえる。
(イ) 「英国特許第1316129号明細書」(甲8)甲2に記載されたガラスの重量比を甲8の記載内容と比較すると以下のようになる。
アルミノシリケートガラスの定義甲2重量比(GB1316129)(甲8)(?U)(?T)SiO/AlO0.5〜1.51.5〜2.01.00〜2.25 22 3F/AlO0.25〜2.00.6〜2.50.34〜1.032 3上記表のとおり,甲2に記載されたガラスのシリカ(SiO )/アルミ 2ナ(Al O )の重量比及びフッ素(F)/アルミナ(Al O )の重量比の大23 23部分が,甲8の定義に含まれることからすると,甲2に記載されたガラスは,本件優先権主張日(1985年10月9日)以前に公開された甲8(1973[昭和48年]年5月9日公開)からも,グラスアイオノマーセメントであるといえる。
(ウ) 米国特許第4378248号明細書(甲30)米国特許第4378248号明細書(甲30)には,「本発明の目的はグラスアイオノマー又はポリカルボキシレートセメントで接着され得る陶材の製造である。」,「カルシウムフルオロアルミノシリケートガラスは,イオン遊離性ガラスとして公知であり,そして酸化カルシウム,酸化アルミニウム,シリカ及びフッ化物をガラスの形態に溶融することによって製造される。このようなガラスは粒子状に砕かれポリ(カルボン酸)と混合されて水硬性セメントを形成する。このように,そのセメントに水が加えられると,ガラスから遊離するカルシウムイオンとポリ(カルボン酸)のクロスリンクとが結合する。」との記載があり,グラスアイオノマーセメントに関して記載されている。
甲30の実施例と,甲2に記載された粉末とを比較すると,次のとおりである。
成分米国特許第4378248 甲2号 (重量%)甲30(重量%)Al O16〜2017.4〜35.7 23SiO28〜3427.2〜35.72AlPO8〜123.4〜12.5 4Na AlF20〜258.7〜23.8 36AlF3〜6 3CaF10〜208.7〜23.82したがって,甲2の粉末がイオン遊離性ガラス(グラスアイオノマーセメント)であることは,本件優先権主張日(1985年10月9日)前に公開されていた甲30(1983年[昭和58年]3月29日作成米国特許公報)の記載からも明らかである。
ウ 甲2のその他の記載事項に関して(ア) 水の不存在について甲2にはイオン反応に必要な「水」が成分中に存在しない。しかし,甲2に係る歯科用修復材は,口腔内で唾液と接触すれば,本件発明と同様に成分(a)ないし(c)を含んでいるのでビスフェノールAグリシジルメタクリレートプレポリマーが硬化した後にこれら成分(a)及び(b)がイオン反応を起こす。この点は,本件発明において実施例の4,6,10及び12に水分が含まれていないことと同様である。
(イ) 甲2の治療物がシラン処理されていることについて被告は,甲2に記載されたガラスが,アイオノマーセメントとしては好ましくないシラン処理が施されているから本件優先権主張日当時の当業者が甲2に記載されたガラスをグラスアイオノマーセメントであると認識し得なかった旨主張する。しかし,シラン処理はイオン反応に影響を与えることはないから(甲15),被告のこの点の主張は理由がない。
(ウ)甲2がコンポジット・レジン(樹脂複合剤)に関する記載であることについて被告は,甲2が重合反応をするコンポジット・レジン(樹脂複合剤)に関する記載であるから,その記載に基づいて,セメント反応を前提とする本件発明は容易想到ではない旨主張する。しかし,被告によれば,本件発明はコンポジットとセメントの両方の性質を有することになるから,コンポジットに関する甲2の記載から本件発明は容易想到であるといえる。甲2に,イオン反応という語が記載されていなくとも,成分からみてイオン反応を起こすことが開示されているといえるから,本件発明は,甲2に基づいて容易に発明することができたというべきである。
エ 小括以上のとおり,甲5のみならず,本件優先権主張日前に発行された甲7,甲8及び甲30によっても,甲2に記載されたガラスが本件発明のグラスアイオノマーセメント(成分(b))であることが明らかである。審決は,容易想到性の判断を誤った違法がある。
(3)取消事由3(特許請求の範囲の必須要件違反及び明細書の実施可能要件違反を看過した誤り)請求項1には,成分(a)ないし(c)の配合割合が明記されておらず,固形化しないセメント混合物も含まれているため,特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されたものであるとはいえない。
また,本件明細書においては,本件発明の重合可能なセメント混合物における配合割合は,充填剤についてのみ記載があり,その他の成分については記載がなく,特に,(c)硬化剤については,全く記載がないから,当業者が容易に実施することができない。「実験報告書1」(甲14)のとおり,本件明細書の「発明の詳細な説明」に記載された配合割合に従って実験をしても,成分(b)が粉末のまま残って適切なセメント硬化体が得られない場合がある。
以上のとおり,審決は,特許請求の範囲の必須要件違反及び明細書の実施可能要件違反を看過した誤りがある。
2 被告の反論(1) 取消事由1(本件訂正を認めた誤り)の主張に対しア本件訂正後の請求項の(b)における「イオン反応を介して硬化しうる」との語が,「セメント反応」を意味することは,本件明細書の【発明の詳細な説明】において「反応性充填剤」に関して「本来のセメント反応をなし,イオン反応を介して行なわれる硬化」との記載を参酌すれば明らかである(甲10)。原告のこの点の主張は理由がない。
原告は,「イオン反応を介して硬化しうる」との記載は,固体粉末である成分(b)が更に硬化することになり,記載が不明確であるとも主張する。しかし,同記載が,一定量の粉末と液状物の混合物が全体としてセメント状に硬化することを指すことは,セメント混合物の硬化に関する技術常識であるから,原告の上記主張も失当である。
イ本件訂正前の請求項1にも,本件訂正後の請求項1にも,成分(a)が成分(b)の反応性充填剤と「イオン的に反応し,セメント反応を受け得るように選ばれる」ことが規定されている以上,特許請求の範囲拡張にはならない。
原告は,成分(b)がモノマー以外の成分(a)(オリゴマーやプレポリマー等)の酸基とイオン反応させることになるから,実質上特許請求の範囲拡張に当たると主張する。しかし,成分(a)において,「モノマー」と「オリゴマー及び/プレポリマー」と記載されている以上,実質上特許請求の範囲拡張には当たらず,原告の上記主張は失当である。
(2) 取消事由2(甲2の「ガラス」の性質に関する認定の誤り)に対しア甲2のガラスの性質を認定するに当たり,甲5の記載を参酌しなかった誤りに対して原告は,甲2に開示された「ガラス」は,本件発明の成分(b)の「グラスアイオノマーセメント」に該当するというべきであると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
すなわち,甲5は,本件優先権主張日の後に頒布されたものであるが,このような文献について,本件優先権主張日当時の公知文献(甲2)の内容を理解する目的に用いる場合,本件優先権主張日当時における当業者の技術常識を基準として検討する必要がある。原告は,甲5のグラスアイオノマーの具体例の組成と甲2記載のガラスとを対比して,両者は近似していることを理由として,甲2に開示された「ガラス」は,「グラスアイオノマーセメント」に該当すると主張するが,原告の同主張は,本件優先権主張日当時における公知事実又は当業者の認識に基づかない主張であるから,失当である。
イ 本件優先権主張日当時の技術水準(甲7)についての誤り(ア)原告は,グラスアイオノマーセメントの典型的な組成においては,約40%のSiO と約30%のAl O と適量のフッ化物が含まれているとし2 23ているが,それは,「シリケートセメント」の「一般組成」として記載されているもの(SiO が29.7%〜47.2%,Al O が21.4%〜352 23.8%)であって,「グラスアイオノマー」のものではない。かえって,甲7の「表10・1」には,グラスアイオノマーの具体例(ASPA)とし?Wて,SiO が30.1%,Al O が19.7%という異なる組成のものが記2 23載されている。
また,上記「表10・1」に記載された「シリケートセメント」の一般組成においては,「CaF 」(蛍石)が6.2%ないし16.8%,「NaF」が8. 24%ないし13.9%であるのに対して,甲2に記載された「ガラス」の組成においては,「CaF 」(蛍石)が10ないし20重量部,「Na AlF 」2 36(氷晶石)が10ないし20重量部であり,異なる。フッ化物としてひとまとめにすることはできない。
(イ)甲2の請求項1,3において「ガラス」の成分組成として示されているのは,次の組成である。
石英(SiO )30〜45重量部(40.5〜36%)2酸化アルミニウム(Al O )20〜30重量部(27〜24%) 2 3氷晶石(NaAlF )10〜20重量部 (13.5〜16%) 6リン酸アルミニウム(AlPO ) 4〜10重量部 (5.5〜8%) 4蛍石(CaF )10〜20重量部 (13.5〜16%) 2これに対し,甲5,甲7及び乙1の記載によれば,当時知られていたグラスアイオノマーセメントの具体的成分組成は,次のとおりである。
甲5の「G200」甲7の「ASPA ?W」 乙1の「表9-6」SiO29.0%30.1%29.0%2Al O16.5%19.7%16.6% 23CaF34.3%34.5%34.2%2AlPO9.9%10.0%9.9% 4NaF3.0%3.7%5.0%AlF 2.7%5.3%3上記の成分組成は,いずれも甲2のガラスの成分組成とは相違しているから,当時の当業者が,甲2のガラスの組成を見てグラスアイオノマー粉末であると認識し得たとは,考えられない。
ウ 甲2のその他の記載事項に関して(ア) 水の不存在についてグラスアイオノマーセメントは,ポリアクリル酸とアルミノシリケートガラスとを,水の存在下で反応する(甲5,甲7の138頁,甲20の195〜196頁参照)。しかし,甲2には,液成分中にポリアクリル酸が含まれておらず,液成分と粉末成分との硬化反応に水が必要であることなどは,記載されていない。したがって,当業者は,水の存在下でのイオン反応が予定されていない甲2記載の「ガラス」成分を,水の存在下で反応することが必要なグラスアイオノマーセメント用の粉末成分であると認識することはない。
(イ) 甲2の治療物がシラン処理されていることについて甲2に記載されたガラスは,アイオノマーセメントとしては好ましくないシラン処理が施されていたから,当業者は,甲2のガラスがグラスアイオノマーセメントであると認識することはない。
(ウ)甲2がコンポジット・レジン(樹脂複合剤)に関する記載であることについて甲2の発明に係る歯科用治療物は,グラスアイオノマーセメントを用いる「歯科用セメント」とは別異の種類のものとして認識されている「コンポジット(Composite)」(重合反応によって硬化するもの。甲21)に属する治療剤(樹脂複合剤)であるから,甲2のガラスがグライアイオノマー粉末であると,当業者が認識し得ない。
(3)取消事由3(特許請求の範囲の必須要件違反及び明細書の実施可能要件違反を看過した誤り)に対し本件発明は,成分(a)及び成分(b)を組み合せることによって,従来の,単なる「セメント」と「コンポジット」の双方の特徴を兼ね備えた「セメント混合物」を提供することができた点に特徴を有するものであって,成分の混合割合そのものに特徴を有する発明ではないから,具体的な混合割合を明示する必要はない。本件明細書には,主要な成分である成分(a)及び(b)について,それぞれの好ましい配合割合等が記載され,また,実施例においても,配合割合が示されている。したがって,本件明細書の記載事項には不備がない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(本件訂正を認めた誤りの主張)について(1)原告は,本件訂正後の請求項1の(b)には,「イオン反応を介して硬化しうる」とのみ記載され,同成分(b)における「硬化」が「硬くなる」ことを指すのか,「セメント反応」によって硬化することを指すのか明確でないと主張する。しかし,本件訂正後の請求項1において,「該成分(a)及び(b)は,該成分(a)における酸基または酸誘導体基が該成分(b)の微粉状の反応性充填剤とイオン的に反応し,セメント反応を受け得るように選ばれる」と記載されているから,明確性を欠くとの原告の上記主張は採用することができない。
また,原告は,固体物質(b)を更に硬化させることを含むことになり,不明確であるとも主張する。しかし,本件訂正後の請求項1において,「該成分(a)及び(b)は,該成分(a)における酸基または酸誘導体基が該成分(b)の微粉状の反応性充填剤とイオン的に反応し,セメント反応を受け得る」と記載され,成分(a)と成分(b)との硬化反応がイオン反応を介してのセメント反応であると記載されているから,明確性を欠くとの原告の上記主張は採用することができない。
(2)原告は,本件訂正後の請求項においては,成分(a)がオリゴマーやプレポリマーの場合や酸誘導体基を有する場合,「イオン反応を介して硬化する」ものとして含めたことになり,実質的に特許請求の範囲拡張したことになると主張する。しかし,本件訂正前の請求項1の成分(a)に,更に「(b)の成分とイオン反応をなしうる」との限定を付したとしても,実質的に特許請求の範囲拡張することにならないのは明らかである。原告のこの点の主張は採用の限りでない。
また,原告は,本件訂正により成分(b)の選択条件として新たに「硬化」という不明確な文言を付加した結果,セメント粉末自体がイオン反応によって硬化することを含み,実質的に特許請求の範囲拡張することになると主張する。しかし,本件訂正後の請求項1は,セメント粉末がイオン反応によってさらに硬化する場合を含むという原告の解釈は採用できず,原告の主張は,その前提において失当である。
2 取消事由2(甲2の「ガラス」の認定の誤りの主張)について原告は,甲2記載の「ガラス」は,本件発明の成分(b)の「グラスアイオノマーセメント」に該当すると主張する。
しかし,甲2に開示された「ガラス」は,本件優先権主張日における当業者の技術常識に照らすと,甲2に開示された「ガラス」が,本件発明の成分(b)の「グラスアイオノマーセメント」に該当すると認識されることが一般的であるということはできない。その理由は,以下のとおりである。
(1) 甲2の記載(甲2,乙14)ア 甲2の特許請求の範囲には,以下の記載がある。
「1.歯の頸部の非う蝕性腐食病変(a non carious erosion lesion)を修復する際に使用される歯医者のための歯科用修復キットであって,該キットが,粒状固体系,液体結合剤系,エッチング溶液及びプライマーとから構成されていて,全てがそれぞれの容器から隔てられた別の容器に配されており,歯医者は歯科用充填材を造るために必要な量の材料を取り出し,充填材を造るために使用される材料の分量(quantity)は配される歯の色に合わせられ,(a)充填材を形成させるために(b)と混合させるために調製される粒状固体系は(i)95〜105部の微細なシラン処理されたガラス,(ii)0.1〜2部の微細シリカ,(iii)0.5〜2.5部の過酸化ベンゾイル及び(iv)歯牙構造の色に合わせるために必要な微量のべんがら着色料とから構成されており,(b)また充填材を形成させるために(a)と混合させるために調製される液体結合剤系は(i)45〜65部のビスフェノール-A/グリシジルメタクリレートプレポリマー,(ii)5〜25部のヒドロキシエチルメタクリレート,(iii)15〜45部のエチレングリコールジメタクリレート,(iv)0.001〜3部のメタクリル酸,(v)0.03〜0.2部のp-メトキシフェノール及び(vi)0.05〜1部のN,N-ジヒドロキシエチル-p-トルイジンとから構成されており,(c)(歯の)表面を整えるために,歯に塗布されるように調製された,リン酸を25〜50%含むエッチング溶液(d)エッチングされた歯の表面上のカルシウムイオンとキレート化したり充填材料と共にコポリマー化したりすることによって結合を形作るために,歯に塗布されるように調製された,エタノール下で2%のN-フェニルグリシン/グリシジルメタクリレート縮合生成物を含むプライマー溶液。
・・・3.請求項1の歯科用修復キットにおいて,シラン処理されたガラスが以下の成分を有している。
(1)30〜45部の石英,(2)20〜30部の酸化アルミニウム,(3)10〜20部の氷晶石,(4)4〜10部のリン酸アルミニウム,(5)10〜20部の蛍石」イ 詳細な説明欄の記載欄には,以下の事項が記載されているといえる。
(ア)(a)粒状固形物系と(b)液体バインダー系を混合することにより,歯の上記病変を修復するための充填剤(fillng material)が調製されること(イ)(a)と(b)からなる混合物のうちの触媒粉末(上記(a))は,シラン処理されたガラス又は石英の充填材(filler),微細シリカ,過酸化ベンゾイル触媒及び鉄酸化物顔料を含有し,ガラス又は石英はこのコンポジット・システムのための充填材(filler)であり,歯の欠陥色を隠しながらも歯の構造を装うことができるのに十分な半透明性を有するような適度の不透明度を有しなければならず,シラン処理は,ガラスと結合剤との間の結合を増大させるために行われ,コンポジット中の微細シリカは,コンポジットの混和中に,粉末成分を均一に分散させるのを助け,過酸化ベンゾイル(BPOと呼ばれる)は重合開始剤であり,顔料は,歯の様々な色にマッチさせるのに必要な程度に微少量用いられること(ウ)また,(a)と(b)からなる混合物のうちの汎用液(上記(b))は,各種モノマー,プレポリマー,安定剤及びアミン促進剤を含有し,このうちメタクリル酸(MAA)は,粉末系と液体系を混合した後のコンポジットの迅速な最終硬化を確実にするものであり,p-メトキシフェノールは,コンポジット中において,開始剤の存在下でモノマーに安定性を与え,かつ加工時間をコントロールする安定剤であり,N,N-ジヒドロキシエチル-p-トルイジン又はジメチル-p-トルイジンは,重合用のBPOとの共触媒又は促進剤であること(エ)さらに,コンポジットを硬化させるためには,触媒粉末は汎用液と混和しなければならないこと(2) 甲2の開示内容についてア甲2において,(a)と(b)からなる混合物における硬化は,(b)の各種モノマー及びプレポリマーの重合(及び架橋)反応に基づくことが示され,セメント硬化についての記載はない。甲2において,「ガラス」は,コンポジット・システムのための充填材(filler)として用いられることが示され,「ガラス」について,酸と反応する性質やイオン遊離性を要する等,「ガラス」が何らかの反応に関与するという記載はない。
また,乙5は,その発行日は本件優先権主張日の翌月であって,本件優先権主張日当時の当業者の技術常識を窺うことができる。そして,これによれば,コンポジットに用いられる充填材(filler)は,強度,硬度,耐摩耗性を高め,重合収縮や熱膨張係数を小さくするという役割を有するものであって,反応に関与することは想定されていなかったことが,優勢件主張日当時の技術常識であると認められる。
そうすると,甲2に記載された発明には,ガラスのイオン遊離性を利用してセメント硬化を行うという技術の開示はされていないと認められる。
イ以上によれば,本件優先権主張日当時,当業者が,甲2について,ガラスのイオン遊離性を利用してセメント硬化を行うことを開示,示唆しているものと認識することはないといえる。
なお,甲1及び甲3にも,ガラスのイオン遊離性を利用してセメント硬化を行うことについての記載や示唆がない。
(3) 原告の主張に対しこの点について,原告は,本件優先権主張日当時の技術水準を示した各資料(甲7,8,30)を参照すれば,甲2に開示された「ガラス」は,本件発明の成分(b)の「グラスアイオノマーセメント」であることが理解でき,したがって,本件発明は,甲1ないし甲3により,当業者が容易に発明することができたものである旨主張する。
しかし,原告の上記主張は,以下のとおり,失当である。
すなわち,前示のとおり,甲2において,「ガラス」のイオン遊離性を利用してセメント硬化を行うことについての記載又は示唆がないのであるから,仮に,他の証拠(甲5,7,8,30)により,甲2に記載された「ガラス」が,本件発明の成分(b)の「グラスアイオノマーセメント」に当たると認められたとしても,そのことによって直ちに,当業者が,本件発明における(a),(b)及び(c)成分からなる「重合可能なセメント混合物」を容易に発明することができたということはできない。
以上のとおり,原告の取消事由2に関する主張は,理由がない。
3取消事由3(特許請求の範囲の必須要件違反及び明細書の実施可能要件違反の看過の誤り)について(1)原告は,請求項1には,成分(a)ないし(c)の配合割合が明記されず,固形化しないセメント混合物も含まれるため,特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されているとはいえず,特許請求の範囲の必須要件に違反している旨を主張する。
しかし,原告の上記主張は,いずれも理由がない。
ア 本件明細書の発明の詳細な説明(甲10)には,以下の記載がある。
(ア) 「(問題点を解決するための手段)本発明は,一方では歯及び骨基質に対する良好な接着力及び組織適合性のような,ポリカルボン酸とサリチレートとを主成分とするセメントの本質的に有利な特徴を有し,他方では低い溶解性と大きな機械的強度のような,複合材料の有利な特徴を有し,複合材料と共重合することができ,はっきりした分野現象を示さない新規な歯科用混合物を開発すると云う課題に基づいている。
この課題は本発明によると,次の成分:(a)酸基及び/またはその反応性酸誘導体基を含む,重合可能な不飽和モノマー及び/またはオリゴマー及び/またはプレポリマーと,(b)微粉状の金属化合物及び/または金属化合物を含有するガラス及び/または金属化合物を含有するセラミック及び/またはゼオライト及び/または酸化可能な金属及び/または窒化ホウ素,及び/またはこれらの充填剤及び/またはガラスまたはセラミックの混合物の焼結生成物及び/またはこれらの成分と貴金属との焼結生成物と,(c)硬化剤を含有する重合可能なセメント混合物によって解決される。」(甲10,5頁)(イ)「酸基または反応性酸誘導体基含有化合物が重合可能な化合物の全体量に占める割合は,特に好ましい混合物では,20%〜60%の範囲であり,好ましい混合物では5%〜100%の範囲であるが,5%以下の混合物も本発明による混合物に特徴的である明白な効果を有している。」(甲10,14頁)(ウ)「反応性充填剤が全充填剤に占める割合は,好ましい混合物で5重量%より多く,特に好ましい混合物では30重量%より多い。しかし,幾つかの例では少ない割合でも,例えばアルカリ性のような,明白な効果を示すことができ,このことは象牙質領域の充填剤には重要である。本発明による混合物の総充填剤含量は特に10%〜95%の間であり,好ましくは全混合物の30%〜85%(重量%)である。」(甲10,14頁〜15頁)イ本件明細書における上記の各記載に照らすならば,本件発明は,成分(a)と成分(b)を組み合わせることによって,「セメント」と「コンポジット」の双方の特徴を兼ね備えた重合可能なセメント混合物を提供したことが開示され,その特許請求の範囲には,この点の課題を解決するために必要な事項のみが記載され,発明の構成に欠くことのできない事項以外の事項の記載はない。したがって,特許請求の範囲に,発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことのできない事項以外の事項が記載され,審決が特許請求の範囲の必須要件違反を看過しているとの原告の主張は採用の限りでない。
(2)また,原告は,本件明細書において,本件発明の重合可能なセメント混合物における配合割合は,充填剤についてのみ記載され,その他の成分については記載がないことを理由に,審決が明細書の実施可能要件違反を看過していると主張する。
しかし,原告の上記主張は,理由がない。すなわち,実施例1ないし13において具体的な組成の例が記載されている上,本件発明が従来の「セメント」と「コンポジット」における反応の両方を利用するものであって,「セメント」及び「コンポジット」の成分組成に関する知識が当業者に蓄積されていることに照らすと,当業者が過度な実験を伴うことなく,本件発明の目的を達成し得る配合割合を見いだすことができるものと認められる。
4 結 論以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。その他原告は,縷々主張するが,いずれも理由がない。よって,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 齊木教朗
裁判官 嶋末和秀
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