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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成17ネ10119特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
平成20ネ10065特許権侵害差止請求控訴事件 判例 特許
平成20ネ10068特許権侵害差止控訴事件 判例 特許
平成17ネ10080特許権侵害排除等請求控訴事件 判例 特許
平成18ネ10051特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  慣用技術 /  上位概念 /  下位概念 /  技術的範囲 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  補正要件 /  均等 /  容易に想到(容易想到性) /  特許発明 /  実施 /  構成要件 /  差止請求(差止) /  侵害 /  新規事項追加(新規事項の追加) /  請求の範囲 / 
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事件 平成 20年 (ネ) 10046号 特許権侵害行為差止等請求控訴事件
控訴人プ ラコム株式会社
訴訟代理人弁護士牧山美香
訴訟代理人弁理士佐藤英昭
被控訴人アイリスオーヤマ株式会社
訴訟代理人弁護士安江邦治
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2008/11/26
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
全容
第1控訴の趣旨1原判決を取り消す。
2被控訴人の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。
第2事案の概要【以下,略称は原判決の例による。】1一審原告で庭園管理用資材の製造・販売等を業とする会社である被控訴人は,特許第3908155号(発明の名称「ホースリール」,出願日 平成14年11月22日,登録日 平成19年1月26日。請求項の数7。以下「本件特許権」という)の特許権者であるところ,本件訴訟は,一審被告で日用品雑貨の製造販売等を業とする会社である控訴人に対し,同人の製造販売する原判決別紙物件目録記載のフルカバーホースリールセット(被告製品)は被控訴人の上記特許権を侵害するとして,被告製品の譲渡・譲渡のための展示・輸入の差止め及び廃棄を求めた事案である。
2原審の東京地裁は,平成20年3月31日,被告製品は本件特許発明1の技術的範囲に属し,本件特許1に無効理由はないとして,一審原告の請求をいずれも認容した。そこで,これに不服の一審被告が本件控訴を提起した。
3当審における主たる争点は,原審と同様に,?@被告製品は本件特許発明1の技術的範囲に属するか(原審における争点1),及び?A本件特許1に無効理由があるか(同じく争点4),である。
第3当事者の主張当事者双方の主張は,次のとおり付加するほか,原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」記載のとおりであるから,これを引用する。
1控訴人(1)被告製品は本件特許発明1の構成要件1-Eを充足しない(争点1-1)ア 構成要件1-Eの解釈原判決は,「構成要件1-Eの『フレームの脚部を前記開口部を閉鎖する位置と閉鎖しない位置との間で移動可能に取り付けた』とは,その字義通り,『フレームの脚部』を『開口部を閉鎖する位置』に位置させることができるとともに,同じ『フレームの脚部』を開口部を『閉鎖しない位置』に位置させることもできるように,『フレームの脚部』を『取り付け』ることを要し,かつ,これで足りると解すべきである。」(36頁下2行〜37頁4行)とした上で,「…被告製品において,『サイドステップ』を『開口部を閉鎖する位置』に位置させることができることは,甲8号証の4の写真から明らかであり,同じ『サイドステップ』を開口部を『閉鎖しない位置』に位置させることもできることは,甲8号証の5の写真から明らかであるから,被告製品は,構成要件1-Eを充足する。」(37頁13行〜17行)と判断した。
イしかし,明細書に用いる用語のうち「技術用語は,学術用語を用いる。」とされ(特許法施行規則24条,様式第29「備考7」),「…ただし,特定の意味で使用する場合において,その意味を定義して使用するときは,この限りでない。」(同「備考8」)とされている。そして,特許請求の範囲に記載された発明は,発明の詳細な説明に記載されたものでなければならない(特許法36条6項1号参照)。
本件特許発明1における「移動」の用語は,学術用語としては特定できず,一般には「移り動くこと。移し動かすこと。…」を意味している(広辞苑第3版,株式会社岩波書店1990年〔平成2年〕1月8日第3版第8刷発行,乙5)。このような「移り動くこと。移し動かすこと。」の範疇には,「スライド」,「ずらす」,「飛ぶ」,「渡る」,「越える」,「挿入する」,「流れて動く」,「反転する」,「抜き取る」,「取り外す」,「挿入する」などの多くの動きを含むところ,原判決の上記認定によれば,本件特許発明1の「脚部」は「開口部を閉鎖する位置と閉鎖しない位置との間で」これらの動きを行うものとなる。従って,本件特許発明1における「脚部の…移動」の文言は一義的に明確ではないことになる。
一方,本件特許発明1における「移動」に対して,本件明細書(特許公報〔甲2〕)の発明の詳細な説明のうちの実施例には,「…脚部67,67が回動自在に支持されている。」(段落【0036】),「…前記両脚部67,67は,前記円筒部66,66を中心に回動することによって…」(段落【0037】)と記載され,図面(【図8】,【図9】)においても脚部が回動する構造しか記載されていない。
これに対し,本件特許発明1の特許請求の範囲の記載には,「前記フレームの脚部を前記開口部を閉鎖する位置と閉鎖しない位置との間で移動可能に取り付けた」とされ,それ自体語句として一義的に明確でない「移動」の用語が含まれ,その脚部の移動方法が一義的に明確であるとはいえないにもかかわらず,その点について唯一の実施例である「回動」以外には十分な開示がされていない。
そうすると,本件特許発明1について,上記実施例以外の発明の詳細な説明では,当業者が脚部を開口部を閉鎖する位置と閉鎖しない位置との間で移動すること,すなわち本件特許発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に特許請求の範囲が説明されているとはいえないから,本件特許発明1の特許請求の範囲の記載を解釈するに当たっては,本件明細書(甲2)に記載された唯一の実施例に記載されている「回動」を考慮して解釈すべきである。そうすると,脚部が「回動」するという動きを行うことにより,脚部が「開口部を閉鎖する位置と閉鎖しない位置との間で移動」すると限定的に解釈することが合理的である。
ウ上記の解釈に基づくと,被告製品のサイドステップを上記「開口部を閉鎖する位置と閉鎖しない位置との間で移動」するには,まず,サイドステップをフレームの底面から抜き取ってフレームから取り外し,この取り外し状態でサイドステップを平面内で反転させ,その後,サイドステップの穴部及びボス部をフレームの凸部及び嵌合穴部に挿入するという少なくとも3段階の動きを経る必要がある。
被告製品のサイドステップでは,このような「取り外し」,「反転」,「挿入」の3段階の複雑な動きを行うことにより,初めて「開口部を閉鎖する位置と閉鎖しない位置との間で移動」ができる。
このような3段階の動きを必要とする被告製品のサイドステップは,発明の詳細な説明に「回動」しか記載されておらず,しかも1段階だけの「移動」を行う本件特許発明1における「フレームの脚部を前記開口部を閉鎖する位置と閉鎖しない位置との間で移動可能に取り付けた」文言には含まれない。
よって,被告製品は構成要件1-Eを充足せず,原判決には事実誤認がある。
エところで原判決は,この「回動」について,「…本件明細書において,実施例としては脚部が『回動』する構造のもののみが記載されているとしても,『フレームの脚部を前記開口部を閉鎖する位置と閉鎖しない位置との間で移動可能に取り付け』る構成として,脚部が『回動』する構造のほかに,脚部をスライドさせる構造や,着脱自在とした脚部を付け替える構造をも含み得ることは,当業者が技術常識をもって本件明細書を見れば容易に理解することができるものである。」(37頁22行〜38頁1行)とした。
しかし,被告製品では,サイドステップをフレームから取り外し,その後に水平面内で反転させ,その後にさらに穴部及びボス部をフレームの凸部及び嵌合部に挿入するという「取り外し」,「反転」,「挿入」の3段階の動きを必要としている。そして,このような3段階の動きによってサイドステップが「開口部を閉鎖する位置と閉鎖しない位置との間で移動」することができる。このように被告製品のサイドステップが「開口部を閉鎖する位置と閉鎖しない位置との間」を移動するには,本件明細書に開示されている動きの態様(回動)とは全く異なった動きをしており,被告製品のサイドステップの動きは本件明細書の脚部の動きとはほど遠いものであり,上記「脚部をスライドさせる構造や,着脱自在とした脚部を付け替える構造」とも異なっており,被告製品は当業者が技術常識をもって容易に理解できるものではない。よって被告製品が構成要件1-Eを充足するとした原判決には事実誤認がある。
(2) 本件特許1は無効とされるべきものである(争点4)ア 進歩性の欠如(争点4-1)について原判決は,「…乙22発明は,廃棄物処理用コンテナに関する発明であり,ホースリール付き踏み台に関する発明である乙7発明及びホースリールに関する発明である乙8発明とは全く異なる技術分野に属するものである。このような技術分野の異なる乙22発明を乙7発明及び乙8発明と組み合わせることは,ホースリール又は踏み台に関する当業者にとって容易ではないというべきである。」(42頁下3行〜43頁3行)と判断した。控訴人は,原審においては,乙7,乙8,乙22に基づく進歩性の欠如を主張したが,当審においても,周知技術を示す証拠として下記乙24を追加し,これらに基づく進歩性欠如を主張する。
すなわち乙7(特開平9-195653号公報,発明の名称「ホースリール付き踏み台」,出願人 アイリスオーヤマ株式会社,公開日 平成9年7月29日)には,踏み台部2とホースリール部3とから構成され,踏み台部2は,外郭を構成する本体5と,本体5の上側を塞いで踏み台となる蓋体6とからなると共に,ホースを巻き取る巻き取りドラムを備えていることが記載されている(明細書の段落【0015】,【0016】)。
また,乙8(特開平11-246123号公報,発明の名称「ホースリール」,出願人 アイリスオーヤマ株式会社,公開日 平成11年9月14日)には,左右フレーム4,5の下部に連結パイプ13が設けられ,「…この連結パイプ13にはステップ17がそれぞれ回動自在に軸支されている。」(段落【0023】)ことが記載され,「…双方のステップ17は,図7に示したように,…左右フレーム4,5の下部において他方側の連結パイプ13との間に収容される…非使用位置(aに示した位置)から,下方へ向かい回動され左右一対のフレーム4,5の両側部よりも前後方向の外側に振り出されるとともに,…使用位置まで回動するようになっている。」(段落【0028】)ことが記載され,図7にはそのステップ17の挙動が記載されている。
上記記載から明らかなように,乙8のステップは左右フレーム4,5の下部に位置する非使用位置(折り畳み状態)と,左右フレーム4,5の外側に振り出される使用位置(展開状態)まで回動(移動)するものである。そして,乙8のステップは展開状態において,「…ホースリール1の下部側の寸法を上部側よりも大きくして安定性を確保…」(段落【0036】)する効果を有している。この効果は本件特許発明1における脚部が「…展開状態75において,本体ケース11の起立状態の安定化を図れる…」(本件明細書〔甲2〕,段落【0038】)という効果を奏するのと同じである。
乙22(特開2001-278402号公報,発明の名称「廃棄物処理用コンテナ」,出願人 トピー工業株式会社,公開日 平成13年10月10日)には,「…底面板6及び7は,本体枠1の底面開口を閉塞するに十分な大きさであって,均等な大きさからなる左右一対の金属板により構成され,…軸5,5により形成された蝶番機構5a・5aを介して観音開き状に開閉自在に取り付けられているとともに…」(段落【0011】),「…一対の底面板6・7が蝶番機構5a・5aを支点に観音開き状に下方に向けて開き,コンテナにおける本体枠1の底面開口が開放され,内容物である廃棄物が落下する。」(段落【0019】)と記載され,図1には底面板6・7が本体枠1の底面開口を閉じた状態が,図3には底面板6・7が開放した状態が開示されている。この乙22は,底面板がフレーム底面の開口部を閉鎖する位置と閉鎖しない位置との間で移動(回動)可能となっていることを開示するものである。
次に,乙24(特開2002-104582号公報,発明の名称「ボックス型パレット」,出願人 株式会社豊田自動織機及び有限会社日向エンジニアリング,公開日 平成14年4月10日)には,「…ボックス本体2は上部には収納物を受容可能な投入用開口3を有し,下部には収容物を排出可能な排出用開口4(図3参照)を有する。そして,ボックス本体2の底部には,排出用開口4を開閉する外開き式でかつ観音開き式の2枚の底蓋7,8が備えられている。…」(段落【0011】),「…このため,底蓋7,8のロックが解除されて前後の底蓋7,8が下方へ回動し,排出用開口4が開放されることになる。従って,収容物が荷台に排出される。」(段落【0023】)と記載され,図1には,底蓋7,8が排出用開口4を開いた状態が,図2には,排出用開口4を閉じた状態が開示されている。この乙24は,底蓋がフレーム底面の開口部を閉鎖する位置と閉鎖しない位置との間で移動(回動)可能となっていることを開示するものである。
これら乙22,乙24は,フレームの底面に設けた開口部に対し,底面板や底蓋を閉鎖する位置と閉鎖しない位置との間で回動可能とすることが日常的になされていることを示唆するものであり,上記構造がホースリールの分野を含めた産業分野で汎用的な周知慣用技術に属することを示している。このような周知慣用技術においては,周知慣用技術の内容に照らし,技術内容の別を問わず,汎用的な技術レベルであること及び技術のレベルとして,必要に応じ,適宜採用し得るものであることは明らかである。
そうすると,乙7の本体(本件特許発明1のフレームに相当)の底部に,乙8のステップを取り付ける際に乙22や乙24のような周知慣用的な構造とすることにより,本件特許発明1の構成要件1-Eの「前記フレームの脚部を前記開口部を閉鎖する位置と閉鎖しない位置との間で移動可能に取り付けた」構造となる。従って,構成要件1-Eは乙7,乙8,乙22,乙24に基づいて当業者が容易に想到し得る。
以上によれば,原判決の「…本件特許発明1は,本件特許出願前に,当業者が乙7発明,乙8発明及び乙22発明ないしは乙11発明に基づいて容易に想到することができたということはできない。」(43頁7行〜9行)との認定は誤りであり,本件特許発明1は上記乙7,乙8,乙22,乙24に基づき容易に発明できたものであるから,同発明には進歩性を欠く無効理由がある。
補正要件違反(争点4-2)について原判決は,一審被告の補正要件違反の主張につき,「そうすると,本件当初明細書には,脚部を回動させるとの実施例の構造に限らず,上記に例示したような構造のものも実質的に開示されていたといえるから,本件補正が新規事項を含むものとはいえない。」(46頁21行〜23行)とした。
しかし,補正によって「前記フレームの脚部を前記開口部を閉鎖する位置と閉鎖しない位置との間で移動可能に取り付けた」とする補正は,本件当初明細書(乙1〔本件特許公開公報〕)に記載された事項の範囲を超えているため,新規事項を含む補正であるから原判決の上記認定は誤りである。
願書に添付すべき明細書については上記(1)イのとおり,「技術用語は学術用語を用いる。」とされ,また「用語は,その有する普通の意味で使用し,かつ,明細書及び特許請求の範囲全体を通じて統一して使用する。
ただし,特定の意味で使用しようとする場合において,その意味を定義して使用するときは,この限りでない。」(特許法施行規則24条,様式第29,備考8)と規定されている。
本件特許発明1における「移動」は,上記(1)イのとおり,「移り動くこと。移し動かすこと。…」であるが(乙5),「移動」の用語に関して明細書の発明の詳細な説明には一切,定義がない。
また,特許請求の範囲の記載は「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものである」という要件に適合するものでなければならない(特許法36条6項1号)から,特許請求の範囲の記載は発明の詳細な説明に基礎付けられていなければならないところ,発明の詳細な説明の箇所には,上記(1)イのとおり,回動する構造しか記載されていない。
そうすると,本件特許発明1における「移動」の用語を基礎付けるものとして,発明の詳細な説明には,「回動」する構造しか記載されていないから,「移動」の用語は「回動」よりも広く解釈できるような動きは含まない。
そして,「移動」の用語は,「回動」のみならず,「スライド」,「ずらす」,「渡る」,「越える」,「乗り移る」,「流れて動く」,「反転」,「引き抜く」などの多くの動きの態様を含んでいる。このように,「移動」の用語は「回動」以外の多くの動きを含むものであるから,特許庁発行の特許・実用新案審査基準(2003年〔平成15年〕10月部分改訂,乙16)の「第?T節新規事項」に規定されている,「…当初明細書等に記載がなくても,これに接した当業者であれば,出願時の技術常識に照らして,その意味であることが明らかであって,その事項がそこに記載されているのと同然であると理解する事項」(1頁下7行〜下5行)を超えており,当初明細書から自明な事項でないことが明らかである。
また,「回動」以外の多くの動きを含む「移動」は下位概念の「回動」に対する上位概念である。そして下位概念上位概念とする補正は,当初明細書等に記載した事項以外の事項が追加されることになるものであるから,当初明細書等に記載した事項の範囲内でする補正とはならない(乙16)。
よって,本件特許発明1は特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してなされたものであり,無効理由がある。
ウ 記載不備(争点4-3)について原判決は,「…当業者が技術常識をもって本件当初明細書を見れば,本件特許発明1においては,脚部を回動させる構造のほかに,脚部をスライドさせる構造や,着脱可能な脚部を取り付ける構造によって『開口部を閉鎖する位置と閉鎖しない位置との間で移動可能』とした構成をも含み得ることが当然に理解することができることは,前記(2)のとおりであり,その後,若干の補正を経たとはいえ,本件明細書の発明の詳細な説明においても,『回動』以外の『移動』が実質的に開示されていることは同様であるから…『移動』が発明の詳細な説明に記載されていないということはできない。また,『移動』が『回動』に限定されるものではないことは,既に述べたとおりであり,『移動』については,通常の意味に従って解釈すれば足りるから,本件特許発明1がこの点で不明確であるということもできない。」(47頁末行〜48頁12行)とした。
しかし,「移動」の用語は,不明瞭であるから,「移動」の用語を含む本件特許発明1は不明確であり,上記認定は誤りである。本件特許発明1の「移動」の用語に関し,その意味が発明の詳細な説明には定義されておらず,また発明の詳細な説明にも,回動する構造しか記載されておらず,また「移動」には多様な動きを含むことについては,上記(1),イ記載のとおりである。
そうすると,発明の詳細な説明に記載されていない「移動」の用語が加わっている本件特許発明1は明確でなく,同発明には特許法36条6項1号及び2項に違反する無効理由がある。
2 被控訴人(1) 控訴人の主張(1)(争点1-1)に対し被告製品のサイドステップはその機能からみて本件特許発明1の「フレームの脚部」に相当することは明らかである。そして,本件特許発明1における「前記フレームの脚部を前記開口部を閉鎖する位置と閉鎖しない位置との間で移動可能に取り付けた」の要件中の「移動」の意義は,「開口部を閉鎖する位置」と「開口部を閉鎖しない位置」の二つの位置間において,脚部が変位した結果,異なった位置・状態にあることを意味しており,それ自体,その意義は明白である。
ちなみに,本件明細書(甲2)には「…展開状態75において,本体ケース11の起立状態の安定化を図れるように構成されており,前記折り畳み状態74にあっては,底面61に開設された前記底面開口部62を前記脚部67,67によって閉鎖できるように構成されている。」(段落【0038】)と記載され,図1及び図7,並びに図2及び図9には,それぞれ「開口部を閉鎖しない位置」及び「開口部を閉鎖する位置」における「脚部の状態」が明示されているから,このような二つの異なった位置間にある脚部の位置・状態の変化した様子を意味するものとして「移動」の用語を使用することに何ら不都合はない。
控訴人は脚部の「移動方法」に多様な方法があるから「移動」の意義が一義的に明確ではないと主張するが,本件特許発明1における脚部の「移動」はあくまでも上記二つの異なった位置間にある脚部の位置・状態の変化した様子をいうものであるから,控訴人の主張は誤りである。
また,本件特許発明1の「フレームの脚部を前記開口部を閉鎖する位置と閉鎖しない位置との間で移動可能に取り付けた」の要件には「移動方法」は含まれない。本件特許発明1は,そもそも「脚部の動き」そのものを要件とはしておらず,また,本件特許発明1の「脚部を移動可能」の要件は,明細書の実施例に記載された「脚部の動き」に限定されるものではない。控訴人の主張は誤りである。
(2) 控訴人の主張(2)ア(争点4-1)に対し乙7(特開平9-195653号公報)は,ホースリール付き踏み台に関する発明であり,その底面は開口してはいるが,脚部は固定脚であって,「脚部を開口部を閉鎖する位置と閉鎖しない位置との間で移動可能に取り付けた」との構成を有しない。
また,乙22(特開2001-278402号公報)は廃棄物処理用コンテナに関する発明であり,乙24(特開2002-104582号公報)は底開閉式のボックス型パレットにおける底蓋の閉塞位置にロックするロック機構の簡素化を図ることを目的とした発明であり,いずれも,底面開口を閉塞する位置と閉塞しない位置との間で移動可能に取り付けられた底面板又は底蓋を備えるものであるが,いずれも,ホースリール付き踏み台に関する上記乙7,及びホースリールに関する乙8(特開平11-246123号公報)とは全く異なる技術分野に属するものであるから,原判決も認定するように,このような技術分野の異なる乙22,及び乙24を乙7,乙8と組み合わせることは,ホースリール又は踏み台に関する当業者にとって容易ではないというべきである。
なお,乙22及び乙24が底面板や底蓋を閉鎖する位置と閉鎖しない位置との間で回動可能とする産業分野で汎用的な周知慣用技術を開示するものであるとしても,乙22及び乙24の開示する技術事項を乙7及び乙8と組み合わせることによって本件特許発明1の構成要件1-Eを想到することはホースリールの当業者にとって容易ではないというべきである。
(3) 控訴人の主張(2)イ(争点4-2)に対し控訴人の主張は,いずれも,原審でなされた主張の範囲を出るものではなく,控訴人の主張は原判決において排斥されており,原判決に誤りはない。
本件明細書中に実施例として控訴人のいう回動方式による移動方法が記載されていることはそのとおりであるが,「移動」は回動以外の方法によってもなされるものであり,明細書では移動方法につき何らの限定も加えていないばかりでなく,原判決も認定するように,本件特許発明1において,脚部を移動させる構造を採用したのは,本件明細書によれば,ケース状に形成したフレーム底面の開口部を閉じて開口部内に収納した部品の飛び出しを防止すること及び脚部をフレームの側方へ延出してホースリールの起立を安定させることを,脚部の展開状態とホースリール全体をコンパクトなサイズに折り畳む状態とを選択的に実現可能とするためである。そして,本件当初明細書(乙1)には,かかる目的のために,脚部を回動させる構造が必須である旨の記載も示唆もなく,それが必須であるとする理由もない。むしろ,当業者が技術常識をもって本件当初明細書を見れば,かかる目的達成のためには,脚部を回動させる構造のほかに,脚部をスライドさせる構造や,着脱可能な脚部を取り付ける構造によって「開口部を閉鎖する位置と閉鎖しない位置との間で移動可能」とした構成をも含み得ることは,当然理解することができる。
そして当初の請求項1には,「底面に開設された開口部を脚部によって閉鎖できるようにした」ことが「回動」によって実現されることを明示又は示唆するような記載はなく,したがって,本件特許発明1において,「回動」の要件が「移動」に補正されたかのごとき控訴人の主張は失当である。
(4) 控訴人の主張(2)ウ(争点4-3)に対し本件特許発明1において,フレームの脚部が「移動可能」な位置は本件明細書中の記載及び図1,2,7及び9から明らかであり,かつ「脚部」が「開口部を閉鎖する位置」及び「閉鎖しない位置」のそれぞれにおいてどのような位置・状態にあるかも上記各図から明らかである。
そして,「移動」は「開口部を閉鎖する位置」と「開口部を閉鎖しない位置」の脚部の各位置・状態の変位を意味する用語として使用されていることも,明細書の記載から極めて明らかであるとともに,控訴人自身,「移動」は「移り動くこと。移り動かすこと。…」と理解しているように,「移動」がどのような意味を有する用語であるかは一般人においてもホースリールに関する当業者においても極めて容易に理解し得るものであるから,本件特許発明1の特許請求の範囲の記載は特許法36条6項1号及び2号の要件を満たしている。
第4 当裁判所の判断1当裁判所も,被控訴人の控訴人に対する本訴請求は理由があると判断する。
その理由は,以下のとおり付加するほか,原判決記載のとおりであるから,これを引用する。
2 控訴人の主張(1)(争点1-1)について(1)控訴人は,被告製品は本件特許発明1の構成要件1-Eを充足しないとし,その理由として,構成要件1-Eの「前記フレームの脚部を前記開口部を閉鎖する位置と閉鎖しない位置との間で移動可能に取り付けた」は,脚部が回動することをいうと解すべきところ,被告製品のサイドステップでは「取り外し」・「反転」・「挿入」の3段階の動きにより初めて「開口部を閉鎖する位置と閉鎖しない位置との間で移動」ができるものであるから,これは回動とは異なる複雑な動きであり,構成要件1-Eを充足しないと主張するので,以下検討する。
ア 本件明細書(甲2〔特許公報〕)には以下の記載がある。
(ア) 特許請求の範囲・「【請求項1】ホースを巻き取るドラムがフレームに回動自在に支持されたホースリールにおいて,前記フレームを,前記ドラムが収容されるケース状に形成し,当該フレームに天面を形成するとともに,前記フレームの底面に開口部を設け,前記フレームの脚部を前記開口部を閉鎖する位置と閉鎖しない位置との間で移動可能に取り付けたことを特徴とするホースリール。」(イ) 発明の詳細な説明・「【発明が解決しようとする課題】しかしながら,このようなホースリールにあっては,フレームを構成する側板が上部に頂点を有する三角形状に形成されているため,店頭販売時に重ねて陳列することができなかった。」(段落【0007】)・「このため,陳列スペースを要するという問題があった。」(段落【0008】)・「本発明は,このような従来の課題に鑑みてなされたものであり,陳列時における省スペース化を図ることができるホースリールを提供することを目的とするものである。」(段落【0009】)・「【発明の実施の形態】以下,本発明の一実施の形態を図に従って説明する。図1は,本実施の形態にかかるホースリール1を示す図であり,該ホースリール1は,散水用のホースを巻き取る際に使用されるものである。」(段落【0027】)・「このホースリール1は,フレームを構成する矩形状の本体ケース11を備えてなり,該本体ケース11は,図2にも示すように,上方に開口した容器状の下部容器12と,下方に開口した容器状の上部容器13とが結合され形成されている。この本体ケース11内には,図3に示すように,ホース14を巻き取る為のドラム15が収容されており,該ドラム15は,ホース挿通穴16を貫通したホース14が巻かれる円筒状の胴部17と,該胴部17の両端部に設けられた鍔部18,18とによって構成されている。」(段落【0028】)・「前記下部容器12の底面61には,図7にも示すように,矩形状の底部開口部62が開設されており,本体ケース11は,この底部開口部62を介して外部に連通している。」(段落【0035】)・「また,前記底面61には,横長の脚固定部材65,65が前面側及び後面側の各縁部に沿ってネジ止めされている。両脚固定部材65,65の両端部には,図8にも示すように,十字状の軸部66,66が互いに対向する方向へ突設されており,対向した軸部66,66には,同形状に形成された脚部67,67が回動自在に支持されている。」(段落【0036】)・「この脚部67の両端部には,前記軸部66,66に外嵌する円筒部71,71が基端部72に形成されており,この円筒部71には,先端へ向けて延出する上面部73が一体形成されている。前記両脚部67,67は,前記円筒部66,66を中心に回動することによって,図9に示すように,両脚部67,67の先端が前記本体ケース11の下部に配置され両脚部67,67が前記底面開口部62の下部に配置された折り畳み状態74と,図1に示したように,両脚部67,67の先端が本体ケース11より側方へ延出し,かつ前記本体ケース11の底面61に当接して(図8参照)回動が規制された展開状態75とを任意に形成できるように構成されている。」(段落【0037】)・「これにより,展開状態75において,本体ケース11の起立状態の安定化を図れるように構成されており,前記折り畳み状態74にあっては,底面61に開設された前記底面開口部62を前記脚部67,67によって閉鎖できるように構成されている。」(段落【0038】)・「前記上面部73は,一方の脚部67を他方の脚部67に先行して折り畳んで図9に示した折り畳み状態74を形成した際に,両脚部67,67の基端部72,72より先端側が重なる長さに形成されており,その裏面には,複数のリブ81,・・・と,その両側縁から延出したフランジ82,82とが一体形成されている。このフランジ82,82及び前記リブ81,・・・の高さ寸法は,図8にも示したように,基端部72から先端へ向かうに従って低くなるように設定されており,各脚部67の厚み寸法は,前記本体ケース11に軸支された基端部72から先端へ向かうに従って薄肉になるように設定されている。」(段落【0039】)・「さらに,両脚部67,67は,図9に示したように,前記折り畳み状態74にて重なり合う全域での厚み寸法の和が,両脚部67,67で最も厚い基端部72での厚み寸法以下となるように,前記重合部83での厚み寸法が設定されており,前記折り畳み状態74において,両脚部67,67が,前記脚部固定部材65の下面より上方に位置するように構成されている。」(段落【0040】)・「この状態で,脚部67,67を本体ケース11下部に折り畳むことにより,当該脚部67,67によって底面開口部62を閉鎖することができる。これにより,底部開口部62内に収容した前記接続プラグ51や前記ハンドル47の不用意な飛び出しを防止することができる。」(段落【0053】)・「【発明の効果】以上説明したように,本発明の請求項1及び2のホースリールにあっては,ケース状のフレーム上に,他のホースリールを積み重ねて陳列することができる。」(段落【0059】)・「このため,ホースリールを積み重ねることができない従来のホースリールと比較して,店頭陳列時の省スペース化を図ることができる。したがって,少ないスペースで,より多くのホースリールを陳列することができる。」(段落【0060】)・「さらに,脚部をフレーム下部に配置することにより,当該脚部によってフレーム底面の開口部を閉鎖することができる。これにより,開口部内に収容した構成部品の不用意な飛び出しを防止することができる。」(段落【0064】)(ウ) 図面(かっこ内は【図面の簡単な説明】の記載である)・【図1】(本発明の一実施の形態を示す斜視図である。)・【図4】(同実施の形態の平面図である。)・【図8】(図4のC-C断面に相当する図である。)・【図9】(同実施の形態の折り畳み状態を示す要部の断面図である。)イ上記アの記載によれば,本件特許発明1は,フレームの脚部を開口部を閉鎖する位置と閉鎖しない位置との間で移動可能にしたものであるところ(請求項1),脚部を「側方へ延出し…た展開状態75」と「折り畳み状態74」とを任意に形成できるようにし(段落【0037】),脚部をフレーム下部に配置した状態(折り畳んだ状態)では,フレーム底面の開口部が脚部により閉鎖ないし塞がれること(請求項1,段落【0037】,【図9】),「側方へ延出し…た展開状態75」においては,回動が規制され,本体ケース11の起立状態の安定化が図れること(段落【0038】,【図1】,【図8】)が示されている。
そうすると,構成要件1-Eの「前記フレームの脚部を前記開口部を閉鎖する位置と閉鎖しない位置との間で移動可能に取り付けた」とは,原判決が説示するとおり(36頁末行〜37頁4行),「フレームの脚部」を「開口部を閉鎖する位置」に位置させることができるとともに,同じ「フレームの脚部」を開口部を「閉鎖しない位置」に位置させることもできるように「フレームの脚部」を「取り付け」ることを要し,かつ,これで足りると解される。
そして,原判決が説示するとおり(37頁13行〜17行),本件特許発明1の脚部に相当する被告製品のサイドステップは,「開口部を閉鎖する位置」に位置させることも,開口部を「閉鎖しない位置」に位置させることもできるものであるから(甲8の4,5),被告製品は構成要件1-Eを充足する。
(2)これに対し控訴人は,構成要件1-Eの「移動」の語は一義的に明確ではないから,本件明細書(甲2)の実施例に示された「回動」のみに限定され,脚部が回動することにより開口部を閉鎖する位置と閉鎖しない位置との間で移動するものに限られると主張する。
しかし,原判決が説示するとおり(37頁22行〜38頁6行),本件明細書において脚部を「回動」する構造のほか,脚部をスライドさせる構造や,着脱自在とした脚部を付け替える構造をも含み得ることは,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が技術常識をもって本件明細書を見れば容易に理解することができ,かつ,本件明細書には脚部を「移動可能」とする構成として脚部が「回動」する構造に限定する旨の記載や示唆はなく,そのような構造に限定すべき理由もない。したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
また控訴人は,被告製品のサイドステップを,開口部を閉鎖する位置と開口部を閉鎖しない位置との間で移動するには,フレームから取り外し,反転し,嵌合穴部に挿入するという3段階の複雑な動きを要するから,構成要件1-Eを充足しないと主張する。
しかし,構成要件1-Eは,フレームの脚部を開口部を閉鎖する位置に位置させることができるとともに,同じフレームの脚部を開口部を閉鎖しない位置にも位置させることができるようにフレームの脚部を取り付けることを要し,かつ,これで足りると解されるから,上記(1),イのとおり,被告製品は構成要件1-Eを充足するというべきであり,控訴人の上記主張は採用することができない。
3 控訴人の主張(2)ア(争点4-1)について控訴人は,本件特許発明1は乙7,乙8,乙22,乙24の各発明に基づき容易に発明できたもので進歩性を欠き,特許無効審判により無効とされるべきものであるから,特許法104条の3により特許権者たる被控訴人はその権利を行使することができないと主張するので,以下検討する。
(1)乙7発明は本件特許発明1の構成要件1-Aないし1-D,1-Fの構成を備えているが,脚部を開口部を閉鎖する位置と閉鎖しない位置との間で移動可能とする構成を有しないから,構成要件1-Eの構成を備えておらず,この点において乙7と本件特許発明1とが相違することについては,原判決が40頁11行〜41頁12行において説示するとおりである。
また,乙8発明はホースリール1の下部側の寸法を小さくする非使用位置とホースリール1の下部側の寸法を大きくする使用位置との間で移動可能に取り付けられたステップ17を備えるものの,ステップ17は,非使用位置において,ホースリール1の下部全体を覆うような形状を有しておらず,構成要件1-Eの構成を開示しないこと,また同発明は,左右一対のフレームから成り,フレームがケース状に形成されていないから,その底面に開口部を観念することが困難であり,フレームの脚部が開口部を閉鎖する位置に移動するとの構成に想到することが困難であることについても原判決が41頁14行〜42頁10行で説示するとおりである。
乙22発明も,底面開口を閉塞する位置と閉塞しない位置との間で移動可能に取り付けられた底面板6,7を備えるものの,同発明は,廃棄物処理用コンテナに関する発明であり,ホースリール付き踏み台に関する発明である乙7発明,ホースリールに関する発明である乙8発明とは異なる技術分野に属し,乙7発明と乙8発明とを組み合わせることは,ホースリール又は踏み台に関する当業者にとって容易ではないと認められることについても原判決が42頁11行〜43頁3行で説示するとおりである。
(2)そして,乙24(特開2002-104582号公報,発明の名称「ボックス型パレット」,出願人 株式会社豊田自動織機及び有限会社日向エンジニアリング,公開日 平成14年4月10日)には,以下の記載がある。
発明の詳細な説明・「図1〜図3に示すように,ボックス型パレット1は,四角形の箱形に形成されたボックス本体2を主体に構成されている。ボックス本体2は上部には収納物を受容可能な投入用開口3を有し,下部には収容物を排出可能な排出用開口4(図3参照)を有する。そして,ボックス本体2の底部には,排出用開口4を開閉する外開き式でかつ観音開き式の2枚の底蓋7,8が備えられている。また,ボックス本体2は4隅に支脚5を有している。従って,地上に置かれた状態では,底蓋7,8の下面が地上から支脚5の長さ相当分だけ浮上するようになっている。更にボックス本体2の下部には,フォークリフトのフォークF(図1の仮想線参照)を差し込むことが可能なフォークポケット形成用の2本の角筒体6が平行に配設されている。両角筒体6は前記排出用開口4を横切って水平に延在されており,収容物の引っかかりを防止するために,排出用開口4(ボックス本体2内)を横切る部位の上面が山形に形成されている。なお,以下の説明では,便宜上,フォークFの挿入方向を前後方向,それに直交する方向を左右方向といい,フォーク差し込み口側(図1の左側)を前側という。従って,底蓋7,8については,一方を前側の底蓋7といい,他方を後側の底蓋8という。」(段落【0011】)・「…このため,底蓋7,8のロックが解除されて前後の底蓋7,8が下方へ回動し,排出用開口4が開放されることになる。従って,収容物が荷台に排出される。」(段落【0023】)イ 図面(かっこ内は【図面の簡単な説明】の記載である)・【図1】(本実施の形態に係るボックス型パレットの全体を示す側面図であり,底蓋の開放状態が実線で示されている。)ウ上記ア,イによれば,ボックス型パレットにおいて,排出用の開口を開閉する観音開き式の底蓋が示され(段落【0011】),底蓋が回動して排出用開口が開放されることにより収容物が荷台に排出される構成が示されている(段落【0023】)が,このボックス型パレットにおいても底蓋は開閉して収容物を排出することはできるものの,開放時においてボックスを支持する役割を果たすものではない。
そうすると,乙24のようなボックス型パレットにおいて,底面を開口できるようにすることが周知技術であるとしても,ホースリールにおいて開口部の閉鎖開口を行うことを開示するものではなく,ホースリールのフレームの脚部が移動して開口部の開口や閉鎖を行うことを開示ないし示唆するものでもない。
(3)上記(1),(2)によれば,本件特許発明1は,乙7,乙8,乙22,乙24の各発明に基づき容易に発明できたということはできないというべきである。
(4)これに対し控訴人は,乙22,乙24が示すように,フレームの底面に設けた開口部に対し底面板や底蓋を閉鎖する位置と閉鎖しない位置との間で回動可能とすることは周知技術であり,必要に応じ適宜採用し得るものであるから,乙7の本体(本件特許発明1のフレームに相当)の底部に乙8のステップを取り付ける際に,乙22,乙24のような周知技術の構造を採用することは,ホースリールの分野では容易であり,本件特許発明1は容易に想到し得たと主張する。
しかし,乙7,乙8は,本件特許発明1と同じくホースリールに関する発明であるものの,本件特許発明1の課題である店頭販売時に重ねて陳列することを可能にし省スペース化を図ることに関しては何ら記載がなく,本件特許発明1のようにホースリールのフレームの脚部が移動して開口部の開口や閉鎖を行うことを想到するための動機付けもないから,乙22,乙24が示すように,コンテナ・パレットの底面に設けた開口部について底面板や底蓋を閉鎖する位置と閉鎖しない位置との間で回動可能とすることが周知であるとしても,それを採用することが容易とはいえない。
さらに,乙22,乙24には,本件特許発明1の,フレームの脚部によりフレーム底面の開口部を閉鎖する位置と閉鎖しない位置との間で移動可能に取り付けることにより,閉鎖しない位置に取り付けた場合にはケースの起立状態の安定化が図れるという技術思想は記載も示唆もされていないから,乙7の本体の底部に乙8のステップを取り付ける際に乙22,乙24の周知技術を採用したとしても,本件特許発明1のフレームの脚部を開口部を閉鎖する位置と閉鎖しない位置との間で移動可能に取り付けるという構成が容易に想到されるわけではない。したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
4 控訴人の主張(2)イ(争点4-2)について控訴人は,平成18年11月22日提出の手続補正(以下「本件補正」という。甲12)により,請求項1を「前記フレームの脚部を前記開口部を閉鎖する位置と閉鎖しない位置との間で移動可能に取り付けた」と補正したことは新規事項の追加に当たり,補正要件違反の無効理由があると主張する。
しかし,原判決が46頁8行〜末行で説示するとおり,本件当初明細書(公開特許公報,乙1)には,脚部を回動させる構造のほかに,脚部をスライドさせる構造や,着脱可能な脚部を取り付ける構造によって「開口部を閉鎖する位置と閉鎖しない位置との間で移動可能」とした構成も含まれていると解されるから,本件補正は新規事項を含むものとはいえず,補正要件違反の無効理由は認めることができない。
5 控訴人の主張(2)ウ(争点4-3)について控訴人は,本件特許発明1の構成要件1-Eの「移動」の用語は発明の詳細な説明に記載がなく,また不明確であるから,特許法36条6項1号及び2号の無効理由があると主張する。
しかし,原判決が47頁末行〜48頁12行において説示するとおり,「移動」に関しては発明の詳細な説明に記載があり,またその内容が不明確ということはできないから,特許法36条6項1号及び2号の無効理由は認めることができない。
6 結論以上のとおりであるから,控訴人の当審における主張は全て理由がなく,被控訴人の控訴人に対する本訴請求は認容すべきである。
よって,これと結論を同じくする原判決は相当であるから,本件控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 今井弘晃
裁判官 清水知恵子