運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連ワード 進歩性(29条2項) /  上位概念 /  技術的範囲 /  発明の詳細な説明 /  参酌 /  均等 /  均等侵害 /  置換 /  置換可能性 /  同一の作用効果 /  置換容易性 /  容易に想到(容易想到性) /  意識的除外(意識的に除外) /  禁反言 /  特許発明 /  実施 /  交換 /  構成要件 /  構成要件充足性 /  差止請求(差止) /  侵害 /  拒絶査定 /  特許審決 /  請求の範囲 /  変更 /  国際公開 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 20年 (ネ) 10065号 特許権侵害差止請求控訴事件
控訴人(一審原告)株式会社クローバー・ネットワーク・コム
訴訟代理人弁護 士石嵜信憲
同 山中健児
同 柊木野一紀
同 林康司
同 永田早苗
補佐人弁理士高橋和夫
被控訴人(一審被告)株 式会社ジンテック
訴訟代理人弁護 士野口明男
同 吉利果慧
同 飯塚卓也
訴訟代理人弁理 士原島典孝
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2009/02/18
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1原判決を取り消す。
2被控訴人は,別紙物件目録記載の装置を製造し,使用してはならない。
3被控訴人は,その占有に係る別紙物件目録記載の装置を廃棄せよ。
4訴訟費用は,第1,2審を通じて被控訴人の負担とする。
5この判決は,第2項及び第3項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
全容
第1当事者の求めた裁判1控訴人主文同旨2被控訴人(1)本件控訴を棄却する。
(2)控訴費用は控訴人の負担とする。
第2事案の概要控訴人(以下「原告」という。)は,「電話番号情報の自動作成装置」の発明に係る特許権(特許番号第3998284号。以下,この特許を「本件特許」といい,この特許権を「本件特許権」という。)の特許権者である。
原告は,被控訴人(以下「被告」という。)が製造し使用している別紙物件目録記載の装置(以下「被告装置」という。)が本件特許権の特許請求の範囲の請求項1記載の発明(以下「本件発明」という。)の技術的範囲に属し,被告製品の製造販売が本件特許権を侵害すると主張して,被告に対し,特許法100条1項,2項に基づき,被告装置の製造及び使用の差止め並びに廃棄を求めた。これに対し,被告は,被告装置は本件発明の技術的範囲に属さず,また,本件特許権は進歩性欠如等の無効理由が存するので,特許法104条の3第1項により権利行使が許されないなどと主張して,これを争った。
原判決は,被告装置は本件発明の技術的範囲に属しないとして,原告の請求を棄却した。これに対して,原告は,これを不服として,控訴を提起した。
前提となる事実及び本件における争点は,次のとおり付加・訂正するほか,原判決の「事実及び理由」の「第2事案の概要」の「1事案の要旨」,「2争いのない事実」及び「3争点」のとおりであるから,これを引用する。
なお,以下,略語については,当裁判所も原判決と同一のものを用いる。
原判決4頁11行目から14行目までを次のとおり改める。
「(1)被告装置が,本件発明の構成要件を充足し,本件発明の技術的範囲に属するか(争点1)ア被告装置は,構成要件Aの「番号テーブルを作成」を充足するか(争点1-1)イ被告装置は,構成要件Bの「接続信号」を充足するか(争点1-2)ウ被告装置は,構成要件Cの「接続信号中の応答メッセージに応じて」,「一時取り外し案内しているが新電話番号を案内していない電話番号」,「の3種類の番号に仕分けして」を充足するか(争点1-3)エ被告装置が,構成要件Cの「応答メッセージ」を充足しない場合,本件発明の構成と均等なものといえるか(争点1-4)(2)本件特許に無効理由があり,原告の本件特許権の行使が特許法104条の3第1項により制限されるか(争点2)ア本件特許に進歩性の欠如(特許法29条2項)による無効理由があるか(争点2-1)イ本件特許に明細書の記載不備(平成14年法律第24号による改正前の特許法(以下「旧特許法」という。)36条4項,6項)による無効理由があるか(争点2-2)」第3争点に関する当事者の主張次のとおり訂正付加するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第3争点に関する当事者の主張」に記載のとおりであるから,これを引用する。
1原判決の訂正付加(1)原判決4頁16行目「1争点1(構成要件充足性)について」を「1争点1-1ないし1-3(構成要件充足性)について」と改める。
(2)原判決15頁末尾に行を改めて,次を加える。
「2争点1-4(構成要件Cに係る均等)について(1)原告の主張以下のとおり,被告装置の「切断メッセージ中の理由番号に応じて・・・」は,本件発明の構成要件Cの「接続信号中の応答メッセージに基づいて・・・」と均等である。
ア本件発明の本質的部分本件発明は,実在する電話番号ないし実在する電話番号の変更情報を知り得る方法がないという技術課題を解決するために,「市外局番と市内局番と連続する予め電話番号が存在すると想定される番号の番号テーブル」を作成し,ハードディスクに登録し,この番号テーブルを利用し,オートダイヤル発信手段を用いて電話をかけたときの接続信号により電話番号としての有効性及び無効性を判断し,実在する有効電話番号と実在しない無効電話番号を収集してハードディスクに登録するという構成を有し,それにより刻々変化する電話番号情報を細大洩らさず迅速かつ正確に把握することができるという作用効果を奏する電話番号情報の自動作成装置である。
また,本件特許に係る出願は,特開平7-177214号公報(乙7)には,電話番号リストに存在する電話番号に発呼し,回線上の反応に基づいて電話番号の有効及び無効を判定する技術が記載されており,電話番号リストを自動的に作成することに関して記載はないが,電話番号リストの作成は当業者が適宜行なうことであるということを理由に拒絶査定された(乙8の24,34)。これに対し,原告は,乙7記載の発明が顧客リストに含まれる電話番号リストから無効電話番号を削除するという構成が採られているのに対し,本件発明では,「市外局番と市内局番と連続する予め電話番号が存在すると想定される番号の番号テーブル」を用いて電話番号情報を作成するという構成が採られていると主張して,特許審決(乙8の48)がされたものである。
以上のとおり,本件発明の「番号テーブル」を用いることによって,電話番号の桁数に応じて膨大な数の電話番号に発呼する無駄を回避しながら日本全国の電話番号についての情報を網羅的に自動作成して蓄積することが可能となるのであり,これが本件発明の本質的部分であるというべきである。
被告は,「応答メッセージ」を含む構成要件Cが本質的部分であると主張するが,アナログ回線での応答メッセージを用いて無効電話番号の分類を行なうことと,デジタル回線での応答メッセージを用いて無効電話番号の分類を行なうこととの間に本質的な差異はなく,本件発明の本質的部分とはいえない。
置換可能性構成要件Cの「応答メッセージ」を「切断メッセージ」に置換しても,本件発明の目的である「実在する電話番号を収集し,加えて,実在する電話番号を基に適時有効あるいは/および無効なものに更新される電話番号を収集し,正確な電話番号の利用状況を示す電話番号情報として提供すること」は達成される。そして,NTT交換網については,平成9年12月末にアナログ交換機の廃棄処分が完了しているので(甲19),遅くとも,被告装置の製造使用の開始時の平成14年末ころには,全国のNTT交換網はすべてデジタル交換機に更新されており,ISDN回線を用いて本件発明によるのと同等の電話番号リストの自動作成を行なうことは容易かつ現実的に可能であり,「応答メッセージ」を「切断メッセージ」の構成に置換しても,本件発明と同一の目的を達成し,同一の作用効果を奏するものである。
置換容易性ISDNのサービス種別「非制限64kbit/s回線交換」を用いて番号テーブルから読み出した電話番号に発呼したときの切断メッセージ中の理由番号を採用し電話番号の有効性等を判断することには何の困難もなく,本件発明の電話番号情報の自動作成装置における電話番号の有効性等を判断する要素として,接続信号又は接続信号中の応答メッセージに代えて切断メッセージ若しくは切断メッセージ中の理由番号を用いることは容易である。したがって,当業者であれば,被告装置の製造等の時点において,接続信号中の応答メッセージを切断メッセージ中の理由番号に置換しても,本件発明の電話番号情報の自動作成装置の目的を達し,同様の作用効果を奏することは容易に推考し得たものである。
エ被告装置の容易推考性被告は,被告装置は本件特許出願前に出願され,その後に公開された国際特許出願(乙16)に記載された発明と同一であるから,容易に推考できたと主張する。しかし,被告の主張は失当である。
すなわち,乙16の国際公開日は平成9年1月16日であるから,本件特許の出願時には公知ではない。また,乙16には本件特許に係る「市外局番と市内局番と連続する予め電話番号が存在すると想定される番号の番号テーブルを作成しハードディスクに登録する手段」は記載されていない。
意識的除外本件特許の出願手続において,ISDN回線における切断メッセージに基づいて無効とされた電話番号の分類を行なう方法を意識的に除外した等といった特段の事情はない。
(2)被告の反論被告装置は,均等侵害の第1要件(本件発明の本質的部分),第2要件(置換可能性)及び第4要件(被告製品の容易推考性)をいずれも充足しないので,原告の主張は失当である。
ア本件発明の本質的部分に対し本件発明の目的は,実在する電話番号に関する情報を知り得る方法がなく,また実在する電話番号の変更情報をすべて得るためのシステムが実現されていないという従来技術の課題を解決して,実在する電話番号を収集し,正確な電話番号の利用状況を示す電話番号情報として提供することにある(本件明細書の段落【0005】及び【0006】)。そして,かかる課題を解決するための特徴的な解決手段が,接続信号に基づいて電話番号の有効無効を判断した上,無効電話番号を音声メッセージに基づいて仕分けることにある。よって,仕分けに当たって音声メッセージを用いるという構成は本件特許発明の本質的部分の一つにほかならない。そして,音声メッセージによって無効電話番号を3種の電話番号に仕分ける上記技術と,被告装置のように,ISDN回線によって返される切断メッセージ中の番号を利用して電話番号を仕分けをする技術とでは,電話番号の仕分けを行う解決手段において根本的に異なっており,両者の技術思想の相違は,本質的なものである。したがって,被告装置は,均等侵害の第1要件を充足しない。
置換可能性に対し本件発明の作用効果は,電話番号の有効無効を判断した上で,無効電話番号を音声メッセージに基づいて,「新電話番号を案内している電話番号」,「新電話番号を案内していない電話番号」,「一時取り外し案内しているが新電話番号を案内していない電話番号」に仕分けして登録する点にあるが,被告装置においては,少なくとも「一時取り外し案内しているが新電話番号を案内していない電話番号」なるものを仕分けることはできないのであるから,本件発明の作用効果を達成することができず,置換可能性がない。
ウ被告装置の容易推考性に対し被告装置は,本件特許出願前に出願され,後に公開された国際特許出願(乙16)に記載された発明と同一であるから,容易推考である。」(3)原判決16頁1行目中「争点2(権利行使制限の抗弁の成否)」を「争点2-1(進歩性の欠如による無効理由の有無)」に改める。
(4)原判決19頁16行目末尾の次に,行を改めて次を加える。
「3争点2-2(明細書の記載不備(旧特許法36条4項,6項)による無効理由の有無)について(1)被告の主張仮に原告が主張するとおり構成要件B及びCの「接続信号により電話番号としての有効性(無効性)を判断」の中に切断メッセージ中の理由番号による有効・無効の判断を行なうことが含まれるとすれば,本件明細書の発明の詳細な説明が当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえず,旧特許法36条4項に違反し,また特許請求の範囲の記載が本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえないので,同条6項1号にも違反する。したがって,本件特許には旧特許法36条4項及び6項に違反する無効理由(特許法123条1項2号)があり,特許無効審判により無効とされるべきものである。
(2)原告の主張被告の主張は争う。」第4当裁判所の判断当裁判所は,被告装置は本件発明の技術的範囲に属し,かつ本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものとは認められないので,これと異なる原判決を取り消し,原告の請求を認容すべきものと判断する。
以下理由を述べる。
1争点1-1(被告装置は,構成要件Aの「番号テーブルを作成」を充足するか)について(1)本件特許の特許請求の範囲(構成要件A)には,「番号テーブルを作成しハードディスクに登録する」と記載されている。同構成の「番号テーブルを作成」する行為は,ハードディスクに登録することとは別個の行為であるものの,その具体的な内容について格別の記載はない。そこで,本件明細書の発明の詳細な説明参酌するに,本件明細書には「番号テーブルを作成」することに関して,次の記載がある。
ア【0010】上記「電話番号が実在すると想定される番号のテーブル(以下,単に「番号テーブル」という)の作成手段は,電話番号が現在のところ数字で最大10桁の範囲にある特徴を利用する。また,電話番号は市外局番と市内局番と連続する4桁の番号から構成されている特徴を利用し,想定される電話番号の範囲を限定して番号テーブルを作成する。
イ【0011】この番号テーブルは,市外局番と市内局番と連続する4桁の番号との10桁の数字を下位より昇順に並べて作成される。
ウ【0022】【実施例】図2乃至図4のフローチャートを用いて,本実施例における実在する電話番号情報の自動作成処理を説明する。図2は,実在する電話番号の自動作成処理のメインルーチンを示すフローチャートである。まず,実在すると想定される電話番号を作成し,テーブルに登録する,すなわち,番号テーブルを作成する(ステップA01)。
エ【0023】図3は,ステップA01において実行される,想定される番号の作成処理ルーチンB001を示すフローチャートである。最初に,市外局番テーブルを作成する(ステップB0011)。市外局番テーブルは,例えば,電話帳に掲載されているNTT支店,営業所の受け持ち市内局番等を利用して作成する。(中略)便宜的に,NTTがナビゲーション用に市販している市外局番・市内局番マスター等を利用することも一つの方法である。
オ【0024】ここで,各局番に対応する下4桁の連番数字を作成する(ステップB0013)。この下4桁の連番数字の作成件数は,市外局番と市内局番とが対になっていることから,番号下4桁および市内局番の通りの積となる。
したがって,例えば,平成8年2月現在において,想定される電話番号の最大通りは14,634件×9999件=約14,600万件となり,電話帳掲載者(約4,000万件)を除くと,想定される電話番号の初回調査すべき全件数,すなわち,番号テーブルの番号登録件数は10,600万件となる。こうして作成された連番数字を番号テーブルに登録する(ステップB0014)。
(2)以上の本件明細書の記載に,「テーブル」とは一般に「表,一覧表」の語義であること(広辞苑第6版1911頁)を併せれば,「番号テーブルを作成」とは,電話番号が市外局番と市内局番と連続する4桁の番号から構成されている特徴を利用し,想定される電話番号の範囲を限定して,市外局番と市内局番と連続する4桁の番号との10桁の数字を下位より昇順に並べた一覧表を作成するものであると認められる。そして,本件発明は,市外局番と市内局番と連続する数字を並べて作成するものであるが,その数字を並べる方法については本件明細書に記載がない。
被告装置は,別紙物件目録記載のとおり,DVDに記録した番号テーブルを読み出しハードディスクに登録する手段により市外局番と市内局番と連続する予め電話番号が存在すると想定される番号の番号テーブルをハードディスクに登録するものである。そして,弁論の全趣旨によれば,被告装置は,具体的には,?@被告装置が使用する番号テーブルは,既に市外局番と市内局番と連続する数字を並べた状態でDVDに記録され,?A被告装置はDVDから番号テーブルのデータを読み取り,?B読み取ったデータをハードディスクに登録するデータとして処理し,?C被告装置が処理したデータをハードディスクへ登録するものであると認められる。
したがって,被告製品において,番号テーブルが記録されたDVDを読み取り,当該データを処理することは,「番号テーブルを作成」に該当するものということができ,構成要件Aを充足するものというべきである。
(3)これに対し,被告は,原告が本件特許出願に対して乙7を引用例としてなされた審査官の拒絶査定に対する不服審判請求書(乙8の39)において,上記引用例記載の「電話番号リストのクリーニング装置」と本件発明とは番号テーブルの作成手段の有無において異なると述べているので,構成要件Aの充足性に関する原告の主張は包袋禁反言の原則に反すると主張する。
しかし,不服審判請求書(乙8の39)によれば,原告の主張は,「本願発明は,電話帳に掲載されている市内局番やNTTが市販している市外局番・市内局番マスター等を利用して,精度が高く無駄な発呼回数を減少させる電話番号リストを作成する電話番号情報の作成装置であるのに対して,前記引用例に記載された発明は,顧客リストに含まれる電話番号リストから無効電話番号を削除する電話番号リストのクリーニング装置である点で明らかに相違します。」とあり,両者の相違点として電話番号リストの内容の差異を指摘しているものであって,番号テーブルの作成手段の有無について言及しているものではない。被告の上記主張は理由がない。
2争点1-2(被告装置は,構成要件Bの「接続信号」を充足するか)について(1)本件特許の特許請求の範囲(構成要件B)には,「・・・オートダイヤル発信信号手段を用いて電話をかけたときの接続信号により電話番号としての有効性を判断し・・・」と記載され,同記載によると,「接続信号」は電話を架けたときに電話番号としての有効性の有無を判断する手段として用いられるためのものであることが記載されている。
そして,本件明細書の発明の詳細な説明によれば,?@「接続信号」とは,電話を発信したときに発信側に返戻される信号音のことであり,これが着呼音(呼び出し音),極性反転,あるいは話中音であるときに,有効な電話番号すなわち実在する電話番号であると判定されること,?A「接続信号」の種類として,(a)着呼音(呼び出し中であることを意味し,発信側に知らせる音であり,所定の周波数で所定の周期および継続時間で繰り返される断続音)(b)話中音(相手話中,または中継回線話中を表わす音があり,所定の周波数で所定の周期および継続時間で繰り返される断続音)(c)未使用電話に対する音(音声メッセージ等)(d)発信音(受信準備完了を知らせる音であり,所定周波数の連続音)(e)極性反転信号(電話回線へ遮断されていた電流が流れるもの)(f)非課金のための特殊呼び出し(フリーダイヤル,お話中調べ,電話称呼等)があると記載されている(段落【0011】【0012】)。
証拠(甲9)によれば,「信号」とは「装置と装置の間で制御,監視のために送受信する情報」を指すとされ,一方「信号音」とは「電気通信網上で伝達される可聴信号」を指すとされているから,「接続信号」は,可聴信号のみならず極性反転信号を含む上位概念と理解すべきである。確かに,本件明細書の発明の詳細な説明中では,「接続信号」について「信号音」であるとの記載があるが,他方,その種類に極性反転信号を含む旨の記載がされていることに照らすならば,「信号音」は「接続信号」の例示としての説明と理解すべきである。
以上のとおり,「接続信号」は可聴信号に限られず,電話を発信したときに発信側に返戻される情報を指すものと解するのが相当である。
(2)被告装置は,別紙物件目録記載のとおり,ISDNのサービス種別「非制限64kbit/s回線交換」(乙9によれば,端末装置からISDN回線を通じてデジタルデータ通信が可能な機器等との間でデジタルデータ通信を行なうことを目的として利用されるISDNのサービス種別の一種であると認められる。)を用いて番号テーブルから読み出した電話番号に発呼を行なったときデジタル信号からなる切断メッセージが返されるとの構成を備えており,かかる切断メッセージはISDNにおいて接続の際に伝送される情報であるから,「接続信号」に該当する。
そして,被告装置は,切断メッセージ中の理由番号に応じて,当該電話番号を「有効」等に分類してハードディスクに登録する手段を備えているから,構成要件Bの「接続信号により電話番号としての有効性を判断し,有効となった番号を実在する有効電話番号として収集し前記ハードディスクに登録する手段」の構成を備えており,構成要件Bを充足する。
3争点1-3(被告装置は,構成要件Cの「接続信号中の応答メッセージに応じて」,「一時取り外し案内しているが新電話番号を案内していない電話番号」,「の3種類の番号に仕分けして」を充足するか)について(1)「接続信号中の応答メッセージに応じて」の充足性についてア本件特許の特許請求の範囲(構成要件C)によれば,「応答メッセージ」は「接続信号」に含まれること,また,応答メッセージに基づいて,無効となった電話番号の中で3種類の番号に仕分けすることが記載されている。そして,本件明細書(甲2)には,この点に関して,以下の記載がある。
a「・・・郵便物の未着は日に日に増大しており,また,電話によるマルチメディアにおいては,無効電話(未使用電話)の増大,電話所有者違い等によるトラブルが多発している。特に,現状では,迅速かつ正確な実在する電話番号情報の提供は実現されておらず,人違いによるトラブルは枚挙にいとまがない。申込人が他人となり金銭を貸し付けた者が相違する等,電話社会の進展に伴い,そのトラブルの内容も深刻化,重大化してきている(特許文献1,特許文献2,参照)。
【特許文献1】特開平3-270354号公報【特許文献2】特開平10-98517号公報(段落【0003】)「・・・このように,大量の郵便物の戻りによる郵便費用の無駄や住所・電話番号の変更のための人手による情報更新費用は莫大なものである。そこで,住所以上に電話番号の適切な管理が必要となってきており,そのために電話番号の利用状況を逐次情報として提供する必要性が高まっている」(段落【0004】)。
b「・・・現状における電話番号情報は電話帳に掲載されている情報に限られており,実在する電話番号を知り得る方法がなかった。また,実在する電話番号の変更情報を全て得るためのシステムは未だ実現されていない。」(段落【0005】),「本発明は,上記問題点を根本的に解決するためのものであり,実在する電話番号を収集し,加えて,実在する電話番号を基に適時有効あるいは/および無効なものに更新される電話番号を収集し,正確な電話番号の利用状況を示す電話番号情報として提供することを目的とする。」(段落【0006】)c「【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために,本発明の電話番号情報の自動作成装置は,市外局番と市内局番と連続する予め電話番号が存在すると想定される番号の番号テーブルを生成しハードディスクに登録する手段と,番号テーブルを利用し,オートダイヤル発信手段を用いて電話をかけたときの接続信号により電話番号としての有効性を判断し,有効となった番号を実在する有効電話番号として収集しハードディスクに登録する手段と,番号テーブルを利用し,オートダイヤル発信手段を用いて電話をかけたときの接続信号により電話番号としての無効性を判断し,無効となった電話番号の中で,接続信号中の応答メッセージに基づいて,新電話番号を案内している電話番号,新電話番号を案内していない電話番号,一時取り外し案内しているが新電話番号を案内していない電話番号,の3種類の番号に仕分けして,実在しない無効電話番号として収集しハードディスクに登録する手段と,を備えることを要旨とする。」(段落【0007】)d「・・・接続信号とは電話を発信したときに発信側に返戻される信号音のことであり,これが着呼音(呼び出し音),極性反転,あるいは話中音であるときに,有効な電話番号すなわち実在する電話番号であると判定し,有効電話番号の記憶領域に記憶する。着呼音,極性反転,あるいは話中音のいずれも認識されず,所定の応答音があるとき,無効電話番号であると判定し,無効電話番号の記憶領域に記憶する。」(段落【0011】)e「上記した接続信号には,以下のようなものがある。
▲1▼着呼音(呼び出し音,またはリングバックトーン)呼び出し中であることを意味し,発信側に知らせる音であり,所定の周波数で所定の周期および継続時間で繰り返される断続音である。
▲2▼話中音相手話中,または中継回線話中を表わす音であり,所定の周波数で所定の周期および継続時間で繰り返される断続音である。
▲3▼未使用電話に対する音例えば,「おかけになった電話番号は,現在使用されていません。」「・・・お客様の都合で移転しました。新しい番号は○○○○番です。」「・・・連絡先が変りました。新しい番号は○○○○番です。」「お客様の都合で一時取り外しています・・・」等の音声メッセージがある。
▲4▼発信音受信準備完了を知らせる音であり,所定周波数の連続音である。
▲5▼電話をオフフックしたときの極性反転信号この時電話回線へ遮断されていた電流が流れる。
▲6▼その他非課金のための特殊呼び出し(フリーダイヤル,お話中調べ114,電話呼称113,他104,115等)において,「極性反転が発生しない特殊電話番号」等がある。」(段落【0012】)f「上記無効すなわち未使用電話番号についての音声メッセージは,所定メッセージを繰り返した後,終了する特徴がある。そこで,特定の電話番号を無効であると判断するためには,例えば,上記のような音声メッセージを認識する。そのため,例えば,この音声メッセージをディジタル信号に変換して記憶領域に記憶し,所定のサンプリング音声と,サンプリング音声幅(音声の開始から終了までの時間幅)との2点において基準音声メッセージと比較し,判定する。この音声メッセージの判定により未使用電話番号を,▲1▼新電話番号を案内している電話番号,▲2▼新電話番号を案内していない電話番号,▲3▼一時取り外し案内しているが新電話番号を案内していない電話番号,の3種類に仕分けすることができる。」(段落【0014】)g「【実施例】・・・図1は,本発明による実在する電話番号情報の自動作成装置の実施例の全体構成を示すブロック図である。本装置は,CPU1,コントローラ2,メモリ3,I/Oボード4,キーボード5,プリンタ6,ハードディスク7,音声・回路ボード8,ディスプレイ9およびフロッピーディスク10から構成されている。・・・」(段落【0016】),「・・・ハードディスク7に記憶された応答信号が予めハードディスク7に記憶されている所定の信号パターンの周波数と一致するかを判定する。予め記憶されている信号パターンは,呼び出し音および話中音の2種類である。極性反転は,特に図示してはいないが,ループ電流の遮断を電気回路により検知する。着呼音,話中音あるいは極性反転以外の音声が認識されたときは,音声の繰り返し開始から終了までの時間をカウントする。音声のカウント時間が所定の時間を過ぎても終了しない場合は,「おかけになった電話番号は,現在使用されていません・・・」等の永遠繰り返しメッセージの未使用の電話番号である。」(段落【0020】),「所定の時間で終了するメッセージとしては,「おかけになった電話番号は移転のため電話番号が変りました。
新しい番号は○○○○番です。」,「おかけになった電話番号はお客様の都合で電話番号が変りました。連絡先の電話番号は○○○○番です。」,「おかけになった電話番号はお客様の都合で一時取り外しています。(このメッセージは新しい電話番号を案内していない。)」,その他類似メッセージがあるが,新しい電話番号を案内しているメッセージと一時取り外しを案内しているメッセージとは所定の繰り返しでメッセージを終了する特徴をもっている。これを利用して,無効電話番号のうち,▲1▼新電話番号を案内している電話番号,▲2▼新電話番号を案内していない電話番号,▲3▼一時取り外し案内しているが,新電話番号を案内していない電話番号,の3種類に自動仕分けし,ハードディスク7に記憶する。」(段落【0021】)h「発信された番号について,着信認識処理(A003)を実行する。
この処理においては,オートダイヤルで発信されてからS秒間の応答信号を認識する。すなわち,タイマーのカウント開始(T 秒)によりS0秒間の応答信号認識処理を開始し(ステップA0030),応答信号が着呼音,極性反転,話中音であるかを判定し(ステップA0031〜A0033),それぞれがYESであるとき,その番号は有効な電話番号であると判断して,有効電話番号としてハードディスク(図1)に登録する,すなわち,有効電話番号テーブルを作成する(ステップA0035)。」(段落【0026】),「応答信号が上記したもののいずれでもなければ,上記以外の音声であるかを判定し(ステップA0034),YESであればその番号は無効な電話番号であると判断し,無効電話番号としてハードディスク(図1)に登録する,すなわち,無効電話番号テーブルを作成する(ステップA0036)。」(番号【0027】)i「ステップA0034において無効と判断するときの応答音としては,音声メッセージが認識される。この音声メッセージをディジタル信号に変換して記憶領域に記憶し,所定のサンプリング音声と,サンプリング音声幅(音声の開始から終了までの時間幅)との2点において基準音声と比較し,判定する。判定結果は,▲1▼例えば「・・・移転のため電話番号が変りました・・・」や「・・・お客様の都合で連絡先が変りました・・・」のように,新電話番号を案内している電話番号,▲2▼例えば「・・・現在使われていません・・・」のように,新電話番号を案内していない電話番号,▲3▼例えば「・・・お客様の都合で一時取り外しています。」のように,一時取り外し案内しているが,新電話番号を案内していない電話番号,の3種類に判別し,自動仕分けする。」(段落【0028】),「S秒間何ら音声を認識しないかあるいは,上記した3種類の音声メッセージ以外の永遠繰り返しメッセージが返信されるとき,すなわち,タイマーのS秒カウント終了(T 秒)によりSS秒後に認識処理終了となった(ステップA0037)場合は,回線を切断し(ステップA0038),ステップA001に戻って,再度同一の番号をダイヤルする。図2のフローチャート中には詳細に示されてはいないが,この繰り返しは,例えば,3回繰り返し,再度何ら音声が認識されないときは無効電話番号として処理する。その番号について有効あるいは無効を認識した後,すなわち,有効あるいは無効電話番号の登録後,回線は切断され,次の番号をダイヤルする。この処理は,番号テーブルが全件終了するまで繰り返される。」(段落【0029】)j「【発明の効果】本発明による電話番号情報の自動作成装置によれば,▲1▼有効(実在する)電話番号情報▲2▼無効(未使用)電話番号情報▲3▼無効電話番号の中からある時有効となった電話番号(新設電話番号)情報▲4▼有効電話番号の中からある時無効となった電話番号(廃止電話番号)情報を得て,刻々変化する電話番号情報を細大洩らさず迅速かつ正確に把握することが可能となり,例えば,電話を利用した販促・販売方法に必要とされる正確な電話番号の利用状況を逐次情報として提供することができる。」(段落【0036】),「また,有効電話番号情報についてその市外局番および市内局番と該当する住所エリアの情報を利用して,利用者の住所情報を得ることができ,したがって,本発明は,今後益々発展する電話を利用したコミュニケーション機器等の効率的な運用に,また,大量顧客を保有する企業の住所変更管理情報等に利用することができる。」(段落【0037】)イ証拠(甲9)によれば,「メッセージ」とは「任意の量の情報」ないし「言語その他の記号によって伝達される情報内容」(広辞苑第6版2766頁)を指す。ところで,本件発明の詳細な説明には,実施例として,「応答音」を用いて3種類の番号に仕分けする手段が示されている。しかし,前記2で判断したとおり,構成要件Bにおける「接続信号」は,可聴信号に限られるものではなく,可聴信号及び非可聴信号の両者を含む上位概念と理解すべきであることに照らすならば,構成要件Cにおける「応答メッセージ」も,可聴なものに限られると解すべき根拠はなく,応答を受けた可聴情報及び非可聴情報の両者を含む上位概念と理解するのが相当である。したがって,「応答メッセージ」とは電話を発したときに応答される言語その他の記号によって伝達される情報を指すものと解するのが相当である(「信号」と「メッセージ」はいずれも情報を指すものであり,「応答メッセージ」を「接続信号」と異なる性質を有するものとして,可聴のものに限定する根拠はない。)。
この点に対して,被告は,前記本件明細書の発明の詳細な説明中の「所定の応答音があるとき,無効電話であると判定し」との記載(段落【0011】)及び「ステップA0034において無効と判断するときの応答音としては,音声メッセージが認識される。」との記載(段落【0028】)から,構成要件Cの「応答メッセージ」は「応答音」のみを指し,「音声メッセージ」に限定されるものであると主張する。
しかし,被告の上記主張は理由がない。前記のとおり,「応答メッセージ」は,必ずしも可聴音に限られるものではないし,上記段落【0028】の記載も,本件発明の構成を説明するために,「音声メッセージ」を例示したにすぎないから,同構成における「応答メッセージ」が,「応答音」ないし「音声メッセージ」に限定されるとする根拠とはならない。被告の上記主張は採用できない。
ウ被告装置は,別紙物件目録記載のとおり,切断メッセージ中の理由番号に応じて,当該電話番号を「有効」,「無効」等に分類するものであるから,被告装置の「理由番号」を含む切断メッセージは,「応答メッセージ」に該当することは明らかである。
この点に対して,被告は,被告装置はISDNの切断メッセージに基づいて電話番号の分類を行うものであり,着呼音,極性反転信号又は話中音の有無と音声メッセージの存否をもって無効電話番号と判定する技術思想を用いるものではないから構成要件Cを充足しないと主張する。
しかし,被告の主張は,以下のとおり失当である。すなわち,?@本件特許の特許請求の範囲(構成要件C)には,「接続信号中の応答メッセージ」と記載され,可聴音に限定する記載はないこと,?Aしたがって,本件発明は,その技術思想として「応答メッセージ」によって無効電話番号を判別する技術が開示されていると解されること,?B証拠(甲16,17)によれば,本件特許出願時において,既にISDN技術が存すること,ISDNの網から応答される情報を取得し,同情報に基づいて電話番号の有効性を判別することが知られていたことからすれば,本件明細書に接した当業者としては,本件発明においては,ISDN技術を除外して,上記の技術思想が開示されていると認識することはないというべきである。したがって,仮に本件明細書における実施例が音声メッセージによって無効電話番号を判別する技術に関するものであっても,それはあくまで実施例として示されたにすぎないと解すべきであるから,本件発明の技術的範囲が音声メッセージに限定されるものではない。したがって,被告の上記主張は理由がない。
(2)「一時取り外し案内しているが新電話番号を案内していない電話番号」の充足性について前記本件明細書の発明の詳細な説明(段落【0021】)によれば,「一時取り外し案内しているが新電話番号を案内していない電話番号」に対応するメッセージとして,「おかけになった電話番号はお客様の都合で一時取り外しています(このメッセージは新しい電話番号を案内していない。)」が挙げられ,それは,所定の繰り返しでメッセージを終了するものとされること,上記メッセージに限られず,その他類似メッセージも含まれること,新しい電話番号を案内しているメッセージと一時取り外しを案内しているメッセージとは所定の繰り返しでメッセージを終了する特徴をもっていることが記載され,本件発明は,上記の点に着目して,「一時取り外し案内しているが,新電話番号を案内していない電話番号」を,自動仕分けする技術が開示されている。
他方,証拠(甲4,15)によれば,被告装置の「都合停止」は,「お客様都合により電話不通の可能性が高い状態」を指し,「お客様がおかけになった電話番号は,都合によりただいま通話が出来なくなっております。」との自動音声アナウンスが平均6分間で自動切断されるまで繰り返され,新電話番号が案内されないものであると認められる。
そうすると,被告装置の「都合停止」は,利用者の都合により電話が不通の状態にあること,新電話番号が案内されないこと,上記メッセージは,「都合により」,「通話が出来なくなっております。」との点で一時的な状況ということができるし,仮にメッセージの内容が異なるとしても,上記「その他類似メッセージ」に含まれるということができる。したがって,被告装置の「都合停止」は,「一時取り外し案内しているが新電話番号を案内していない電話番号」に該当するものと解すべきである(さらに,証拠(乙4)によれば,被告装置の「局預け」は,「お客様の都合で電話番号を一時的に預けている状態,移転のアナウンスは流れているが,新番号アナウンスのない電話番号」とされるので,「局預け」もまた,「一時取り外し案内しているが新電話番号を案内していない電話番号」といい得る。)。
したがって,被告装置は,構成要件Cの「一時取り外し案内しているが新電話番号を案内していない電話番号」を充足する。
(3)「3種類の番号に仕分けして」の充足性について本件特許の特許請求の範囲(構成要件C)には,「無効となった電話番号の中で」「新電話番号を案内している電話番号,新電話番号を案内していない電話番号,一時取り外し案内しているが新電話番号を案内していない電話番号,の3種類の番号に仕分け」と記載されている。
上記の「無効となった電話番号の中で」とは,「無効となった電話番号の範囲内で」との意味と解される。そして,証拠(甲4)によれば,被告装置において,「移転」とは「欠番かつ電話番号案内が流されている状態」を,「無効」とは「欠番(現在使用されていない状態)」を,「都合停止」とは「お客様都合により電話不通の可能性が高い状態」を指すものである。そうすると,被告装置における「移転」は,構成要件Cの「新電話番号を案内している電話番号」に,被告装置における「無効」は,構成要件Cの「新電話番号を案内していない電話番号」に,被告装置における「都合停止」は,構成要件Cの「一時取り外し案内しているが新電話番号を案内していない電話番号」に,それぞれ該当する。したがって,被告装置は,上記の他に「エラー」,「再調査」,「INS回線有効」との分類をするものであっても(「局預け」が「一時取り外し案内しているが新電話番号を案内していない電話番号」に該当することは,前記(2)のとおりである。),無効となった電話番号の範囲内で,前記3種類の番号に仕分けがされているとの構成を充足することに変わりはない(なお,乙4によれば,「エラー」とは「入力番号が不備またはフリーダイヤルなどの特殊電話番号,050ではじまるIP電話である場合」を,「再調査」とは「NTTが公開している「技術参考資料」上,必ずしも明確に契約状態を判定できない場合」を指すところ,これらはいずれも前記「新電話番号を案内していない電話番号」に含まれ得るし,乙4,9によれば,「INS回線有効」とは「INS回線で,使われている電話番号」を指し,そもそも「無効となった電話番号」ではないから,結局,被告装置は無効となった電話番号の中で前記3種類の番号に仕分けされているとも解される。)。
よって,被告装置は,構成要件Cの「3種類の番号に仕分けして」を充足する。
4小括以上のとおり,被告装置は構成要件AないしCを充足するものであり,また被告装置は,その内容からして「電話番号情報の自動作成装置」に該当するので,構成要件Dも充足する。
したがって,被告装置は本件発明の技術的範囲に属するものというべきである。
5争点2-1(本件特許に進歩性の欠如(特許法29条2項)による無効理由があるか)について(1)本件発明の内容本件発明の内容は,原判決の「第2事案の概要」2(3)記載のとおりである。
(2)引用発明の内容乙7(特開平7-177214号公報)には,?@特許請求の範囲として,「【請求項5】クリーニング処理しようとする電話番号リストをメモリに読み込む手段と,前記メモリに格納された前記リストの電話番号を順番に読み取り,その番号のダイヤル信号を公衆電話回線網に送出する発呼手段と,前記発呼手段によるダイヤル信号の送出動作に対する回線上の反応を監視する回線監視手段と,前記回線監視手段により発呼後の所定時間内に呼出音が検出された場合,および呼出音の検出前に極性反転が検出された場合に,発呼した電話番号を有効電話番号と判定する有効判定手段と,前記回線監視手段により発呼後の所定時間内に前記呼出音および前記極性反転および話中音のいずれも検出されなかった場合に動作し,回線上に所定の音声信号が送出されていればそれを認識する音声認識手段と,前記音声認識手段により番号移転の案内メッセージが検出された場合に,メッセージ中の新しい電話番号を有効電話番号と判定する移転番号認知手段と,前記音声認識手段により番号移転の案内メッセージが検出されなかった場合には,発呼した電話番号を無効電話番号と判定する無効判定手段と,前記有効判定手段,前記移転番号認知手段,前記無効判定手段の処理結果に従って前記有効電話番号と前記無効電話番号とを区別したリストを作成する出力リスト作成手段と,を備えたことを特徴とする電話番号リストのクリーニング装置。」との記載があり,?A「発明の詳細な説明」(段落【0023】,【0030】ないし【0032】等),【図2】及び【図3】には,上記?@の「電話番号リストのクリーニング装置」においては,ある電話番号の発呼に対して話中音も極性反転も呼出音も検出されない場合には発呼した電話番号を無効電話番号リストに記入すること,また,ある電話番号の発呼に対して話中音が検出された場合には発呼した電話番号を有効電話番号リストに記入することが開示されている(以下この発明を「引用発明」という。)。
(3)本件発明と引用発明との一致点本件発明と引用発明とを対比すると,両者の一致点及び相違点は,下記のとおりと認められる。
ア一致点電話番号のリストが記録された番号テーブルを記憶手段に登録し,番号テーブルを利用しオートダイヤル発信手段を用いて電話を架けたときの接続信号により電話番号としての有効性を判断し,有効となった電話番号を有効電話番号として収集し,番号テーブルを利用しオートダイヤル発信手段を用いて電話を架けたときの接続信号により電話番号としての無効性を判断する点。
イ相違点(ア)相違点1本件発明は,市外局番と市内局番と連続する予め電話番号が存在すると想定される番号の番号テーブルを作成するのに対して,引用発明は,このような番号テーブルの作成機能を有していない点。
(イ)相違点2本件発明には,無効となった電話番号の中で,接続信号中の応答メッセージに基づいて,「新電話番号を案内している電話番号」,「新電話番号を案内していない電話番号」,「一時取り外し案内しているが新電話番号を案内していない電話番号」の3種類の番号の分類が存在するが,引用発明には,このような分類が存在しない点。
□相違点についての容易想到性の判断ア相違点1について被告は,相違点1に係る構成について,引用発明と乙10,14,15により容易に想到し得るものと主張する。しかし,以下のとおり,上記刊行物には,「市外局番と市内局番と連続する予め電話番号が存在すると想定される番号の番号テーブル」が開示されているとはいえないので,被告の主張は失当である。
(ア)映画「ウォーゲーム」のDVD(乙10)に開示されているのは,「プロトビジョン社のコンピュータの番号」という特定の番号が存在するものと想定されるエリアコード「311」及び3桁の数字から成る局コードを含む番号をコンピュータ画面上に映し出したものである。この場合,上記エリアコード「311」及び特定の局コード以外の他のエリアコード及び局コードを含む番号が生成されない。これに対し,前記本件明細書の記載によれば,「市外局番と市内局番」は,特定の番号に限られず,実在する市外局番及び市内局番一切を指すものといえる。したがって,仮に乙10に開示されている「エリアコード」及び「局コード」がそれぞれ「市外局番」,「市内局番」に対応し得るとしても,本件発明とは技術思想を異にするものである。
また,乙10においては,コンピュータが連続する電話番号のデータを作成してこれと併行して発呼を行うこと,及びその過程においてコンピュータ画面上に連続する電話番号のデータが表示されることが開示されているのみであり,この電話番号のデータは電話を架けるために利用されるものでもなく,ハードディスクに登録されるともいえないから,上記の連続する電話番号のデータは「番号テーブル」ではない。
(イ)乙14には,「ランダム・ディジット・ダイヤリングを用いた全国調査(有効な市外局番及び3桁のプリフィックスの範囲に制限されたもの)では,選択された全ての番号の73.4%は,使われていない(割り当てられていない)と報告している。」(290頁右欄3〜7行),乙15には,「クリスクロス電話帳を参照することにより,グレーター・シンシナティ地域において,短距離通話のための3桁の局番(交換機)は62個存在している。その中で,5つの小さな交換機はビジネスオフィス用にのみ提供され,残りの57個により,他のビジネスの電話番号のみならず,家庭用あるいは個人用の電話番号が提供されることとなる。それぞれの交換機は,10000個の電話番号(0000番から9999番)をサポートする能力を有しているが・・」(46頁左欄3〜10行),「それぞれの交換機において,どのブロックが使用されており,どのブロックが使用されていないかを解明することにより,4桁の番号からなる表を作成することが可能となる。ここでいう4桁の番号は,それぞれの交換機の3桁の番号と,当該交換機において使用中であると判明したブロックの最初の桁からなり,グレーター・シンシナティ地域における全ての存在しうる電話番号を示す。」(46頁左欄26〜32行)との記載がある。
しかし,これらにおいては,市外局番とその下位の番号(乙14)又は交換機の番号と使用中であると判明したブロックの番号(乙15)を付加して調査対象とすることが開示されているにとどまり,「市外局番と市内局番と連続する予め電話番号が存在すると想定される番号の番号テーブル」について記載されているものではないし,その示唆も認めることができない。
(ウ)以上によれば,相違点1に係る構成は容易に想到し得るということはできない。
イ相違点2について乙7の【0001】には,「この発明は,いわゆるテレマーケティングなどの顧客リストに含まれる電話番号リストから無効な電話番号を削除する処理を行うクリーニング装置に関する。」との記載があるとおり,引用発明は,無効な電話番号を削除することを目的としており,無効な電話番号をさらに分類する目的はない。そして,乙7の【0011】には,発呼に対する回線上の反応として,(a)呼出音,(b)話中音,(c)極性反転に伴うループ電流の遮断,(d1)番号誤りによるトーキー送出,(d2)番号移転によるトーキー送出,(d3)特殊情報音,(d4)非課金の被呼音呼出が記載があり,【0035】には,「「番号移転によるトーキー」の認知を音声認識装置によりリアルタイムに行うものである。
つまり,ある電話番号の発呼後の所定時間内に前記呼出音および前記極性反転および話中音のいずれも検出されなかった場合に,回線上の信号を音声認識装置に入力し,「番号移転によるトーキー」の音声が回線に送出されているか否かを自動的に検出し,さらに「番号移転によるトーキー」であった場合にはメッセージ中の新電話番号を自動的に認知し,その電話番号を有効電話番号リストに自動的に記入する。」と記載がある。これらは,発呼に対する回線上の反応の種類を記載したものであるし,段落【0035】の記載も,番号移転によるトーキーがあった場合にはメッセージ中の新電話番号を自動的に認知し,その電話番号を有効電話番号リストに自動的に記入するためのものである。すなわち,上記記載の「番号移転によるトーキー」の音声の送出の有無は,そのメッセージ中の新電話番号を認知し,それを有効電話番号リストに記入することを目的とするものであり,無効電話番号を「番号移転によるトーキー」があった場合とそうでない場合とに分類するものということはできず,他に無効電話番号を分類することを示唆する記載はない。
したがって,引用発明から相違点2に係る構成は容易に想到し得ない。
ウ以上によれば,本件特許には進歩性欠如の無効理由は存しない。
6相違点2-2(本件特許に明細書の記載不備(旧特許法36条4項,6項)による無効理由があるか被告は,被告装置が構成要件B及びCを充足するとすれば,本件特許に明細書の記載不備による無効理由が存することになると主張する。しかし,被告の上記主張は失当である。
すなわち,前記認定の本件明細書の記載によれば,本件発明の技術思想は,実在する電話番号情報を得るために電話番号が存在すると想定される番号の番号テーブルを作成し,当該番号テーブルを利用して電話を架けたときに得られる接続信号により電話番号としての有効性を判断し,無効となった電話番号をさらに仕分けするというものであって,かかる技術思想は被告装置においても同様であり,両者の差異は使用する電話回線がアナログ回線かISDN回線によるかに基づく違いのみである。そして,その差異は送受信される情報の表現形式という実施態様上での差異にすぎず,後者について記載がなくともそれをもって記載不備ということはできない。
したがって,被告の主張は理由がない。
第5結論以上のとおり,その余の争点(被告装置が,構成要件Cの「応答メッセージ」を充足しない場合,本件発明の構成と均等なものといえるか(争点1-4))について判断するまでもなく,本件控訴は理由があり,これと異なる原判決は不当であるから,原判決を取り消して原告の請求を認容することとし,主文のとおり判決する。
追加
(別紙)物件目録NCOT(NationalChangeOfTelephone-number)という名称を有する電話番号データベースの生成に用いられ,下記(1)ないし(3)の構成を有するTACS(TelelistAutomaticCleaningSystem)からなり,下記(1)の手段により市外局番と市内局番と連続する予め電話番号が存在すると想定される番号の番号テーブルをハードディスクに登録し,当該番号テーブルに登録された電話番号に下記(2)の手段により発呼を行うことによる当該電話番号の現在の利用状況の調査装置。
(1)DVDに記録した番号テーブルを読み出しハードディスクに登録する手段,(2)ISDNのサービス種別「非制限64kbit/s回線交換」を用いて,上記番号テーブルから読み出した電話番号に発呼を行う手段,(3)上記発呼を行ったときデジタル信号からなる切断メッセージが返された場合に,切断メッセージ中の理由番号に応じて,当該電話番号を「有効」,「無効」,「移転」,「都合停止」,「エラー」,「局預け」,「再調査」,「INS回線有効」にそれぞれ分類してハードディスクに登録する手段
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 中平健
裁判官 上田洋幸