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事件 平成 5年 (ワ) 11876号
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裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 1998/10/12
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 被告は、原告スミス・クライン・アンド・フレンチ・ラボラトリース・リミテッドに対し、金五億円及びこれに対する平成五年七月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は、原告スミスクライン・ビーチャム製薬株式会社に対し、金二五億五九三六万円及びこれに対する平成五年七月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告スミスクライン・ビーチャム製薬株式会社のその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用は、原告スミスクライン・ビーチャム製薬株式会社に生じた費用の二分の一及び被告に生じた費用の四分の一を同原告の負担とし、同原告及び被告に生じたその余の費用並びに原告スミス・クライン・アンド・フレンチ・ラボラトリース・リミテッドに生じた費用を被告の負担とする。
五 この判決は、主文一、二項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 原告ら1 被告は、原告スミス・クライン・アンド・フレンチ・ラボラトリース・リミテッド(以下「原告SKF」という。)に対し、金五億円及びこれに対する平成五年七月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告は、原告スミスクライン・ビーチャム製薬株式会社(以下「原告SBS」という。)に対し、金五〇億円及びこれに対する平成五年七月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告 請求棄却
当事者の主張
一 原告らの主張1 当事者(一) 原告SKFは、医薬品の開発及び製造販売を業とする英国の会社である。
(二) 原告SBSは、原告SKFの関連会社であり、原告SKFの製品を日本国内で販売しており、原告SKFが所有する一2記載の特許権の日本における独占的通常実施権者である。
(三) 被告は、医薬品の製造販売を業とする会社である。
2 原告SKFの特許権 原告SKFは、次の特許権(以下「本件特許権」という。)を有していた。
発明の名称 「シアノグアニジン化合物の製法」出願日 昭和四八年九月五日優先権主張 昭和四七年九月五日及び同四八年二月八日の英国出願に基づく。
出願番号 昭和四八年第一〇〇一二五号出願公告日 昭和五六年一月一三日公告番号 昭和五六年第一三〇九号登録日 昭和五六年八月三一日登録番号 第一〇六二七六六号訂正審判請求 昭和六三年九月五日請求公告 平成元年二月二七日訂正審判確定登録日 平成元年一二月一八日3 本件特許請求の範囲 本件特許請求の範囲は五項からなるが、その第一項の記載は、別紙「特許請求の範囲」記載のとおりである。
4 目的化合物(一) 右特許請求の範囲の目的化合物は、一般式の形式で記載されているが、R1、R2は特定の基に限定されているから、実際には、次の式で示される特定の化合物「1―シアノ―2―メチル―3―[2―[[(5―メチル―4―イミダゾリル)メチル]チオ]エチル]グアニジン」を意味している。本件特許の実施例1では、これを、N―シアノ―N’―メチル―N’’―[2―((4―メチル―5―イミダゾリル)メチルチオ)エチル]グアニジンと呼んでいる。
<83162-001>(二) 右化合物は、一般名をシメチジンといい、胃潰瘍、十二指腸潰瘍等の消化性潰瘍に極めて優れた治癒効果を有する医薬品である。シメチジンは、原告SKFの関連会社やライセンシーにより、世界各国で「タガメット」という商品名で販売されている。
5 被告の行為 被告は、昭和六〇年一一月五日、シメチジンの錠剤(商品名「カイロック錠」)につき製造承認を取得し、翌昭和六一年に薬価基準の収載を受け、その製造販売を行っている。また、被告は、シメチジンの細粒(商品名「カイロック細粒」)についても、昭和六二年に製造承認と薬価基準の収載を受け、その製造販売を行っている(両者を合わせて指称する場合は「被告製剤」という。)。
6 本件特許権の侵害 シメチジンは、本件特許のいずれの優先権主張日当時、新規化合物であったから、特許法104条により、被告製剤に使用されているシメチジン原末は、本件特許方法により製造されたものと推定される。よって、被告が被告製剤を製造販売することは本件特許権を侵害する。
7 損害賠償請求及び不当利得返還請求の額(一) 被告製剤の販売量(1) 被告製剤には、旧ユーゴスラビア(現スロベニア)のレック・リュブリヤナ・ファルマシューチカル・アンド・ケミカル・ワークス(以下「レック社」という。)が製造し、被告が輸入したシメチジン原末が使用されている。
(2) 現在、我が国で旧ユーゴスラビア(現スロベニア)からシメチジンを輸入しているのは被告だけであるから、シメチジンの輸入量は、被告が被告製剤の製造に使用した量と一致する。旧ユーゴスラビア(現スロベニア)から輸入したシメチジンの量は、次のとおりである。
昭和六一年 二五〇〇キログラム昭和六二年 四七五〇キログラム昭和六三年 七五〇〇キログラム平成元年 二万三〇五〇キログラム平成二年一月ないし六月 九〇〇〇キログラム同年七月ないし一二月 一万九〇〇〇キログラム平成三年 四万九〇〇〇キログラム平成四年 二万一〇〇〇キログラム平成五年一月ないし六月 二万五〇〇〇キログラム同年七月及び八月 一万〇〇〇〇キログラム(3) カイロック錠の製造販売数量は、右輸入量を基礎として、次のようにして、算出することができる。なお、被告の製造販売するカイロック錠一錠中には、
〇・二グラムのシメチジンが含有され、被告の製造販売する細粒には、一グラム中〇・四グラムのシメチジンが含有されているが、すべて錠剤に換算した。また、製剤を製造する場合、少量の原末の損失が発生するので、右輸入量の九五パーセントが被告製剤に用いられたとした。さらに、原末を輸入してから製剤とするまで時間的間隔があるが、便宜上原末が輸入された年に製剤化されたとした(但し、一万円未満切り捨て)。
輸入原末量×0.95÷0.2昭和六一年 一一八七万錠昭和六二年 二二五六万錠昭和六三年 三五六二万錠平成元年 一億〇九四八万錠平成二年一月ないし六月 四二七五万錠同年七月ないし一二月 九〇二五万錠平成三年 二億三二七五万錠平成四年 九九七五万錠平成五年一月ないし六月 一億一八七五万錠同年七、八月 四七五〇万錠(二) 原告SBSの損害賠償請求権 被告が、被告製剤を輸入、販売する行為は、原告SBSの独占的通常実施権侵害するものであり、また、被告は、右侵害行為をするに当たり、少なくとも過失があった。したがって、被告は、不法行為に基づき、同原告の被った損害を賠償すべきである。
原告SBSは、以下の損害のうち、金五〇億円(訴え提起時に二五億円の範囲で一部請求、平成八年六月二八日付け請求拡張の申立て時に二五億円を追加し、合計五〇億円の範囲で一部請求)を請求する。
(1) 平成二年七月から五年六月までの侵害行為に係る損害 平成二年七月から平成五年六月までの三年間の被告製剤の販売量は、錠剤換算で合計六億一〇二五万錠である。
原告SBSは、我が国における本件特許権の独占的通常実施権者であり、唯一適法にシメチジン製剤を販売していたから、被告製剤が販売されたことにより、被告製剤の販売数量と同数量だけ、原告SBSによるタガメット錠の売上が減少した。
原告SBSは、タガメット錠を一錠当たり三五円で販売し、一錠当たり少なくとも一五円の利益を上げている。したがって、被告が被告製剤を販売したことにより、
過去三年間で五億〇〇三三万錠(右合計六億一〇二五万錠の一部)でのタガメット錠の販売数量が減少し、原告SBSは、合計七五億〇四九五万円(一五円×五億〇〇三三万錠)を下らない損害を蒙った。
(2) 平成五年七月以降の侵害行為に係る損害(ア) 平成五年七月及び八月分 本件特許権の存続期間満了日である平成五年九月五日までの同年七月及び八月の間に被告が販売したことによって、原告SBSが被った損害額は次のとおりである。すなわち、前記のとおり、この期間のシメチジン原末の輸入数量は一万キログラムであり、これを錠数に換算すると、四七五〇万錠となる。したがって、原告SBSの得べかりし利益は、七億一二五〇万円を下らない。
1000万g×0.95÷0.2g=4750万錠4750万錠×15円=7億1250万円(イ) 平成五年九月ないし一二月分 被告が、本件特許権の存続期間中にカイロック錠を販売することができたのは、
存続期間中にシメチジン製剤を製造し、各種試験に基づくデータを厚生大臣に提出して製造承認を得たからである。このような行為は、それ自体本件特許権を侵害する行為である。もし被告が、存続期間満了後に初めて製造承認を得ようとしたら、
承認が得られるのは早くとも平成六年九月ころ(存続期間満了から一年後)となる。
そうすると、平成五年九月以降の被告の販売は、違法な行為によって初めて達し得たものであるから、損害賠償請求の対象となる。
平成五年九月ないし一二月分までのシメチジン原末の輸入数量は合計二万キログラムであるから、原告SBSの得べかりし利益は、一四億二五〇〇万円を下らない。
2000万g×0.95÷0.2g=9500万錠9500万錠×15円=14億2500万円(3) 平成五年三月ないし六月分の損害に係る消滅時効の進行について 仮に、一部請求の場合、消滅時効中断の効力はその一部の範囲についてのみ生じ、残部には及ばないとして、平成五年六月までの損害に係る賠償請求権(当初請求した二五億円を超える分)が、時効により消滅する余地があるという見解を前提としても、原告SBSの被告に対する以下の損害賠償請求権は、消滅時効が完成していない。
すなわち、原告が、被告の月間のシメチジン原末の輸入数量を知り得るのは四か月後である。したがって、過去三年を遡る以前に損害が判明していなかった平成五年三月ないし六月分について、消滅時効は完成しない。この間のシメチジン原末の輸入数量は二万キログラムであるから、原告SBSの得べかりし利益は、一四億二五〇〇万円を下らない。
2000万g×0.95÷0.2g=9500万錠9500万錠×15円=14億2500万円(三) 原告SKFの不当利得返還請求権 被告は、特許権者である原告SKFに対し、被告製剤の製造販売について相応の実施料を支払うべきところ、不当にこれを免れている。
被告製剤の販売数量は、右(一)(3)のとおり錠剤換算で合計七億二二六一万錠(右合計八億三二五三万錠の一部)であり、被告によるカイロック錠の右期間の併記販売単価は一錠当たり二五円を下らないから、その売上額合計は、一八〇億六五二五万円を下らない。よって、被告が支払いを免れた実施料の額は、この売上額に対し通常の実施料率である五パーセントを乗じた九億〇三二六万円を下らない。
原告SKFは、被告に対し、右金額の不当利得返還請求権を有する。
二 原告らの主張に対する認否1 原告らの主張1(一)及び(三)は認める。同1(二)のうち、原告SBSが本件特許権の独占的実施権者であることは否認し、その余は知らない。
2 同2及び同3は認める。
3 同4のうち、本件特許権の目的化合物が、N―シアノ―N’―メチル―N’’―[2―((4―メチル―5―イミダゾリル)メチルチオ)エチル]グアニジンであり、消化性潰瘍に対し治癒効果を有する医薬品であってシメチジンと呼ばれていること、シメチジンなる化合物が「タガメット」なる商品名で販売されていることは認めるが、その余は知らない。
4 同5は認める。
5 同6は争う。
本件特許の目的化合物は、原告らが主張する当時において、新規物質ではないし、レック社は、本件特許の製法とは全く別個の製法(以下「レック法」という。)によりシメチジン原末を製造した。
6 同7のうち、(一)(1)の事実は認めるが、その余は不知ないし争う。
三 被告の主張1 特許法104条の適用について 原告らは、本件特許の目的化合物であるシメチジン(N―シアノ―N’―メチル―N’’―[2―((4―メチル―5―イミダゾリル)メチルチオ)エチル]グアニジン)の新規性判断の基準日を本件特許出願の優先権主張日とするが、本件特許出願は優先権主張の要件を満たしておらず、右化合物の新規性判断の基準日は、出願日である昭和四八年九月五日である。そして、この出願日前には、右化合物は日本国内において公然知られていたから、本件では、特許法104条の適用はない。
(一) 本件特許出願の対象であるシメチジン及びその製造方法は、昭和四六年三月九日及び同年七月二二日のイギリス特許出願(以下「英国第一出願」という。)に包含されていた。
(1) 原告SKFは、右英国第一出願による優先権を主張して、次の特許出願を行い公開された(乙三四号証、以下「乙三四出願」という。)。
発明の名称 異項環式化合物の製造法出願日 昭和四七年三月九日出願番号 昭和四七年第二四三七一号出願公開日 昭和四七年一二月一六日公開番号 昭和四七年第四二六六一号 右発明の特許請求の範囲の目的化合物の一般式のX1に低級アルキルに属するメチル、X2に水素、Aに含窒素不飽和異項環基であるイミダゾリル基を選び、lを1、mを2とし、Yに硫黄を選び、EをNR2としたうえ、R1に低級アルキルであるメチル、R2にシアノをそれぞれ選べば、N―シアノ―N’―メチル―N’’―[2―((4―メチル―5―イミダゾリル)メチルチオ)エチル]グアニジンとなる。
(2) 乙三五号証の出願(以下「乙三五出願」という。)は、昭和四九年一二月二〇日、乙三四出願から分割出願され、次のとおり特許査定された。
発明の名称 異項環式化合物の製造法優先権主張 昭和四六年三月九日及び同年七月二二日の英国出願に基づく。
出願番号 昭和四九年第一四七四九〇号出願公開日 昭和五〇年八月二〇日公開番号 昭和五〇年第一〇五六六四号出願公告日 昭和五二年一一月二日公告番号 昭和五二年第四三八三二号特許査定日 昭和五五年五月二七日 右発明の公開特許公報及び公告特許公報の実施例3には、いずれもN―シアノ―N’―メチル―N’’―[2―((4―メチル―5―イミダゾリル)メチルチオ)エチル]グアニジン及びその製造方法が記載されている。
(3) シメチジン及びその製造方法実施例を追加した右分割出願が許されたのは、乙三四出願の公開特許公報等にシメチジン及びその製造方法が開示されていたからに他ならない。しかも、この分割出願には、原出願の優先権主張がそのまま容認されている。乙三五出願に係る特許権が特許査定後、特許料不納付によって消滅したとしても、シメチジンが開示されていた事実に影響を及ぼすものではない。
(4) また、乙三四出願の明細書には次のような記載があり、これによって当業者はシメチジンを容易に製造することができる。
「EがNR2である本発明目的化合物〔T〕(別紙式T)は、式〔W〕、〔Z〕又は〔[〕で表されるアミンを式〔\〕(別紙式\)で表されるイソチオウレアで処理することにより製造することができる。」 この製法において、式〔W〕で表されるアミン(別紙式W)と式〔\〕で表されるイソチオウレア(別紙式\)とを反応せしめて得られる目的化合物の化学式は別紙式〔A〕となるが、乙三五出願の公告特許公報に記載された目的化合物(別紙式B)と比較すると、相違点は別紙式〔B〕のR1が水素又は低級アルキルであるのに対し、別紙式〔A〕では、R1に対応するのが水素であることだけである。
ところで、別紙式〔B〕の化合物を製造する場合、R1が低級アルキルか水素であるかにより製造条件に差異がないことは当業者に良く知られていることであり、
別紙式〔A〕の化合物の製造方法の記載に基づいて、別紙式〔B〕のうちのR1が低級アルキル基であるものを製造することができる。そして、別紙式〔B〕のAに異項環基であるイミダゾール、X1に低級アルキルに属するメチル、mを2とし、
EをNR2としたうえ、R1が低級アルキルに属するメチル、R2にシアノを選べば、本件特許の目的化合物となる。
したがって、当業者は、乙三四出願の明細書の記載からシメチジンを容易に製造することができ、これが開示されていたことは、右分割出願の経過から明らかである。
(5) 以上によれば、シメチジン及びその製造方法は、英国第一出願に含まれていたことは明らかであり、原告らが本件特許出願の優先権主張の基礎とする昭和四七年九月五日及び同四八年二月八日の英国出願(以下「英国第二出願」という。)は、シメチジンの製造方法についての最初の出願ではないから、これに基づく優先権の主張は許されない。
したがって、新規性判断の基準時は、本件特許の我が国における出願日である昭和四八年九月五日である。
(二) 昭和四七年八月二四日、「尿素誘導体の製造方法及びその応用」なるベルギー出願が公開された。この特許発明の目的化合物を示す一般式TのX1に低級アルキルに属するメチル、X2に水素、Aに含窒素不飽和異項環基であるイミダゾリル基を選び、lを1、mを2とし、Yに硫黄を選び、EをNR2としたうえ、R1に低級アルキルであるメチル、R2にシアノをそれぞれ選べば、シメチジン、すなわちN―シアノ―N’―メチル―N’’―[2―((4―メチル―5―イミダゾリル)メチルチオ)エチル]グアジニンとなる。右ベルギー特許は、昭和四七年九月発行の「ケミカル パテンツ インデックス」(イギリスのダウエント社発行)にも掲載された。
また、シメチジンは、前記のとおり、乙三四出願が昭和四七年一二月一六日に公開されたことによっても公知となっている。
2 レック社におけるシメチジンの製造方法 被告製剤に用いられているレック社製のシメチジンは、別紙「イ号方法の表示」記載のとおりの製法(以下「レック法」という。)で製造されたものである。本件特許方法とは出発物質も処理手順も全く異なる製法であり、レック法は本件特許権を侵害しない。
(一) 製造記録 レック社のシメチジンの製造記録(乙二五号証ないし乙二七号証、以下「本件製造記録」という。)によれば、レック法は、O―エチル―S―[(5―メチル―4―イミダゾリル)メチル]ジチオカーボネート臭化水素酸塩(出発物質T、「CS」と記号化されている。)と、N―シアノ―N’―メチル―N’’―(2―クロロエチル)グアニジン(出発物質2、「G」と記号化されている。)とを、四〇パーセントのメチルアミン水溶液中で約七〇℃前後に加熱してシメチジン(「CTD」と記号化されている。)を得る方法である(以下記号は、別紙「製造記録中の記号の説明」による。)。
レック社では、
OT↓IS↓Gの工程でGを製造し、
HM↓BM↓CSの工程でCSを製造し、CSとGとを反応させて粗シメチジンを合成し(CS+G↓CTD)、これを結晶化し、次いで混合整粒している。
(二) レック法の追試 被告は、
工場的規模の本件製造記録記載の方法を、実験室規模の製造に変更し、レック法の追試を行ったところ、六九パーセントの収率でシメチジンを得た(乙三九号証)。
レック社は、工業的に高収率でシメチジンを製造することができる方法であることが確認された。
(三) 不純物について(1) 別紙「反応機構(GSSG)」のとおり、レック法によってシメチジンを製造する際、副次的な反応としてキサントゲン酸カリウムとGとが反応し、その後メチルアミン分解に続き、酸化を受けてGSSG(22’―ジチオビス(エチル―(N―シアノ―N’―メチル)グアニジン)が生じる。キサントゲン酸カリウムとGは、いずれもレック法に特徴的な物質であり、GSSGは、レック法によって製造されたシメチジンから検出される特徴的な不純物である。
被告製剤(カイロック錠)からは、GSSGが検出されており(乙四二号証)、
この事実は、被告製剤に用いられているシメチジンがレック法により製造されていることを示す。
また、被告製剤の原末であるシメチジン中からもGSSGが検出されたことが確認されているし(乙四四号証)、被告がレック法によって製造したシメチジン(乙三九号証)中からもGSSGが検出されたことが確認されている(乙四五号証)。
そして、別紙「反応機構(GSSG)」記載の反応を実験(G及びキサントゲン酸カリウム四〇%のメチルアミン水溶液中で反応)したところ、GSSGが生成することが確認された(乙四六号証)。
以上から、GSSGはレック法により製造されたシメチジンの特徴的な不純物であることが明らかであり、レック社製のシメチジン及び被告製剤中にGSSGが検出される事実は、当該シメチジンがレック法により製造されたことを裏付ける。
(2) 原告は、レック法シメチジンには、N―シアノ―N’N’’―ビス[2―[[(5―メチル―1H―イミダゾール―4―イル)メチル]チオ]エチル]グアニジン(以下「SK&F92506」という場合がある。)は存在しないと主張するが、事実は、レック法により合成されたシメチジン結晶中にはSK&F92506は存在し、その生成機構も明らかである(乙五〇、五一号証)。原告の不純物論は、実験室での合成実験で得られたシメチジンに含まれる不純物と、製造条件の全く相違する工業的生産品のそれとを比較するものであり失当である。
3 被告製剤の販売数量について 被告が、昭和六一年一二月から平成五年八月までに販売した被告製剤の量と使用したシメチジン原末の量(括弧内の表示)は、以下のとおりである(原告の主張に合わせ、すべてを二〇〇ミリグラム錠に換算した。販売数量は、薬事工業生産動態統計調査規則による申告義務に基づき作成された調査書によっている。)。
なお、原告は、原末輸入数量を基に販売数量を主張しているが、原末輸入量が直ちに販売数量となるものではなく、常に在庫として貯蔵される原末が存在する。
(一) 販売数量と原末使用量昭和六一年 一八五・九万錠(三七一・八キログラム)同 六二年 一一四四・八万錠(二二八九・六キログラム)同 六三年 三一二八・八万錠(六二五七・六キログラム)平成元年 六〇七一・八万錠(一万二一四三・六キログラム)平成二年 一億一一〇五・三万錠(二万二二一〇・六キログラム)平成三年 一億二六九一・五万錠(二万五三八三・〇キログラム)平成四年 一億三五六七・九万錠(二万七一三五・八キログラム)平成五年一月ないし六月 七九二〇・二万錠(一万五八四〇・四キログラム)同年七月、八月 二二二三・八万錠(四四四七・六キログラム)(二) シメチジン原末の輸入量 また、被告は、レック社との継続的契約に基づき、次のとおりシメチジン原末を輸入している。原末全量を製剤化し、販売することができなかったため在庫が生じたが、輸入量、在庫量は契約内容や販売見込等に基いて決定されるものであり、何ら不合理ではない。
昭和六一年 三五〇〇キログラム同 六二年 五二五〇キログラム同 六三年 七五〇〇キログラム平成元年 二万五九五〇キログラム平成二年 三万二五〇〇キログラム平成三年 五万一一八四キログラム平成四年 二万一〇〇〇キログラム平成五年一月ないし六月 二万五七五〇キログラム同年七月、八月 一万〇〇〇〇キログラム4 原告SBSの損害賠償請求について(一) 原告SBSは、本件特許権の独占的通常実施権者でないので、被告の販売行為により、損害を被ることはない。
(1) 原告SBSは、本件特許権者である原告SKFと契約を締結していない。
また、原告SBSは、本件特許権の独占的通常実施権者ではない。原告SKFは、本件特許の存続期間中にシメチジン製剤を販売した製薬会社すべてに法的手続きを採らず、原告SBS以外の製薬会社にもシメチジン製剤の販売を許諾していた。原告らは、原告SBS以外の製薬会社に実施権を与えたものではないと主張するが、対価を得て販売を許可することは実施権を与えたことにほかならない。
原告SKFがタガメットの製造を許諾したのは、訴外藤沢薬品工業株式会社に対してであって、原告SBSは、単にその販売を行っているに過ぎない。タガメットの製造承認及び品目許可を得たのは、右藤沢薬品であり、薬価収載も藤沢薬品の製造販売に係る医薬品とされている。藤沢薬品との関係からみても、原告SBSは、
本件特許の独占的通常実施権者ではない。
(2) タガメットが本件特許の実施品であるかどうかは知らない。本件特許が実施されていなければ、原告SBSには損害は生じない。
原告らは、タガメットが本件特許請求の範囲に含まれる硫黄法により製造されているとするが、被告が硫黄法により製造したシメチジンとガメットとのHPLCパターンは明らかに異なる(乙五九号証)。
(二) 被告製剤の販売と、原告SBSの損害との間には、因果関係が存在しない。
(1) 今日、医療機関や医師に対する情報提供活動、販売促進活動なしに医療用医薬品が流通することは考えられず、被告製剤は、被告独自の営業努力によって医療機関に納入実績を確保した。被告製剤の販売がなければ、当然それだけタガメットの売上が増加するという関係にはないし、被告製剤とタガメットとは、タガメットが大規模病院に納入されているのに対し、被告製剤は開業医を中心とする中小医療機関に納入されており、両者は需要先が異なる。
また、平成二年以降、カイロック40%細粒の販売量の方がカイロック錠よりも多いが、タガメットにはこのような剤型はなく、タガメットは、カイロック40%細粒とは競合しない。
(2) タガメットも被告製剤も、ヒスタミンH2受容体拮抗剤(H2ブロッカー)として、同じくH2ブロッカーである塩酸ラニチジン製剤であるザンタック、
ファモチジン製剤であるガスター、塩酸ロキサチジンアセテート製剤であるアルタット、ニザチジン製剤であるアシノンと競合・代替関係にある。そして、臨床医は、化学構造の相違には関心がなく、右各製剤は相互に代替可能な同一作用機序、
同一効果を有するH2ブロッカー製剤として使用されている。
タガメットの売上量は、昭和五九年一一月のザンタックの発売や昭和六〇年七月のガスター等他のH2ブロッカー製剤の発売により減少したのであって、昭和六一年一一月の被告製剤の販売開始によって影響を受けたものではない。のみならず、
被告製剤の販売数量と同数量のタガメット錠の売上が減少したとはいえない。
(3) 本件で損害賠償の対象期間となっている平成二年七月、タガメットの後発品(いわゆるゾロ商品)が二五社の製薬会社から発売されている。ゾロ商品は薬価差を武器に販売していたわけであるから、右ゾロ商品の発売が、タガメットの販売数量に影響を及ぼしたのであって、被告製剤の販売数量と同数量のタガメットの販売が減少したとの原告の主張は根拠がない。
(4) タガメットは、当初藤沢薬品がその販売を担当したが、その後藤沢薬品はタガメットの販売から手を引き、原告SBSの販売力は低下した。原告らは、販売回復に努め販売促進活動を行ったであろうが、請求の対象とされている期間、原告SBSの販売力に余力はなく、自らの販売能力の上限、極限での販売活動をしてきた。したがって、被告製剤の販売分と同数だけ、原告SBSがタガメットを余分に販売することができたとする原告SBSの主張は成り立たない。
(三) 平成五年九月ないし一二月分の損害について 本件特許の期間満了後の販売による損害賠償請求は理由がない。
原告SBSは、本件特許の存続期間満了後に被告製剤の製造承認を得ようとすれば、早くとも存続期間満了から一年を必要としたであろうから、存続期間満了後の被告製剤の販売についても損害賠償を請求できると主張する。
しかし、特許権消滅後の販売行為は損害賠償請求の対象とはならず、同原告の主張は、特許権の存続期間を定めている法制度の根本に反する。同原告の主張は、本件特許の存続期間中に、被告が被告製剤の製造承認申請を行ったことが本件特許の侵害であることを前提にしているが、本件特許は製造方法についてのものであって、目的物質それ自体に及ぶものではないから、製造承認の申請を禁止する根拠とはならない。
(四) 消滅時効について 原告SBSが請求拡張の申立てをしたのは、平成八年六月二八日である。
平成五年六月二八日より前に発生した損害については、三年を経過している。被告は、右請求拡張部分について、消滅時効援用する。なお、一部請求を明示した本件訴訟提起によっては、残部についての消滅時効の進行は中断しない。
平成五年三月ないし六月分の損害について、原告SBSは、残部についての消滅時効の進行が中断しないとしても、同原告が被告のシメチジン輸入量を知り得るのは四か月後であるから、平成五年三月ないし六月分の被告製剤の売上による損害については消滅時効は完成していないと主張する。
しかし、「損害を知る」とは損害の発生を知っていることであり、損害の数額を具体的に知ることまで要するものではない。原告SKFは、昭和五八年、被告に対し、被告製剤の販売差止請求訴訟を大阪地方裁判所に提起して被告製剤の販売開始の事実を熱知しており、これと密接な関係にある原告SBSも当然熟知していたし、何よりも、原告SBSは、本件訴状で平成五年三月以降六月までの被告の売上分について損害を算定し、これを請求している。
(五) タガメット一錠当たりの利益額について 原告SBSが被った損害は、同原告の得べかりし純利益を基礎として算定すべきものであるから、タガメットの研究開発費、販売促進費、広告宣伝費やタガメットに関する一般管理費は控除されなければならない。そして、タガメットは原告SBSの主力商品であるから、同原告の一般管理費のほとんどは、タガメットに起因するものである。原告SBSの主張は、これらを無視するものであって、一錠当たりの利益は、一五円よりもはるかに低額である。むしろ、甲第一五号証から計算される平成二年七月から平成五年六月までの間におけるタガメット錠一錠当たりの純利益は〇・三〇円である。
5 原告SKFの不当利得返還請求について 原告SKFの主張する実施料率(製品販売額の五パーセント)は、高きに過ぎる。国有特許の実施料率は実施価値により二ないし四パーセントとされ、これを基準とすべきである。
また、被告が被告製剤の販売を開始した昭和六一年当時、シメチジンに変わる新しいH2ブロッカー製剤が発表され、その市場規模は既にタガメットのそれを超えていた。タガメットの市場規模は昭和五九年をピークに下降しており、シメチジンのH2ブロッカーとしての役割は右当時終焉近くになっており、しかも他に多数の製法特許がある。
したがって、仮に、実施料率を定めるのであれば、国有特許の実施料算定方法に基づき、二パーセントとするのが相当である。
四 被告の主張に対する原告らの反論1 特許法104条の適用について(一) 乙三四出願及び対応する英国第一出願の特許請求の範囲の一般式には、確かに、シメチジンが、形式上包含されている。しかし、一般式とは、その中の各記号の表す原子ないし原子団の各種の組合せによる極めて多数の化合物を包含するものである、化合物が開示され、あるいは発明として完成しているといい得るためには、原則として化合物が実際に製造され、その性質が認識されることが必要である。化合物とは原子の組合せにより構成され、原子と原子の組合せの法則は定まっているから、新規な化合物の式を記載することは可能である。しかし、これだけでは、そのような化合物を合成することができるか、合成されたとして如何なる性質を有するかを認識することはできない。したがって、構造式を示しただけでは、その化合物が開示されたことにはならないし、まして多数の化合物を包含する一般式を示しただけでは、その式に含まれるすべての化合物が公然知られたということはできない。ことに乙三四出願に係る明細書の一般式は、丸を書いた形から一見して明らかなように、通常の特許明細書におけるものよりも甚だしく広く、無数の化合物を含むものである。
これに対し、本件特許出願及び対応する英国第二出願は、限定されたシアノグアニジン類の製造方法に関するものであり、英国第一出願に含まれる実質上無数の化合物の中から、英国第一出願には具体的な開示がなく、その後見い出された、特に医薬としての効果が顕著で副作用の少ない化合物群を選択して、特許の対象としたものである。
選択発明という概念は特許法上確立しているが、もし先行発明の一般式が公知となることにより、その中に含まれるあらゆる化合物も公知になったと解するならば、選択発明の成立する余地はあり得ない。英国第一出願は、広い範囲の化合物を対象とするものであり、英国第二出願は右に対する選択発明である。本件特許出願は、英国第二出願に基づく優先権を主張し、それに対応する出願をしているのであるから、正に優先権主張制度に即しており、英国第一出願が英国第二出願と同一の対象についての「最初の出願」であるはずがない。
なお、被告は、ベルギーの特許の出願公開によって、シメチジンは本件特許の出願日以前から知られていると主張する。右ベルギー特許は、原告SKFの出願に係るもので、英国第一出願に基づく優先権主張をしているのであるから、乙三四出願と同じ内容のものである。したがって、シメチジンはこれによっても公知にならない。
(二) 被告は、乙三四出願から分割された乙三五出願の公開特許公報中の実施例3にシメチジンが開示されていることから、乙三四出願の優先権の基礎となる英国第一出願にシメチジンが開示されていた旨主張する。
原告SKFが乙三五出願の出願の際、シメチジンの実施例を追加したことは事実であるが、再考の結果、もともと開示のなかった明細書に強いて入れても、後に要旨変更とされるおそれがあり、本件特許との関係で二重特許という問題も起こるので、特許査定後、特許料不納付により特許権を遡って消滅させた。このような事後の手続の経緯が、乙三四出願の開示内容の認定に影響するものではなく、本件特許出願と乙三四出願の関係は、両明細書を客観的に対比することにより判断すべきである。
2 イ号方法(レック社の製造記録)について レック社におけるシメチジンの製造記録であるとして被告から提出された本件製造記録(乙二五号証ないし乙二七号証)は、以下の理由から、実際の製造を記録したものではない。
(一) 記載内容の矛盾 本件製造記録では、その製造条件にばらつきがある。すなわち、G合成工程において撹拌時間や遠心分離時間にばらつきがあること、CS合成工程(HMからBMを経てCSを合成)でBMを作る際にHM自体(塩基)を用いたり塩酸塩を用いたりして統一されていないこと、環流後の冷却時間、反応の際の温度、撹拌時間等にばらつきがあること、粗製シメチジンの合成及びシメチジン精製工程において反応時間や操作時間にばらつきがあること等、内容が一様でない。また、各工程での原料比や原料と得られた合成物量との相関関係が存在しない。
このように、本件製造記録は、相互に矛盾が多く、数年前に製造方法を確立し、
何年も工場生産をしてきたという会社の製造記録としては杜撰であって、到底実際の製造を記載したものとは考えられない。
(二) 実施不能 レック社製造記録を追試しても、そもそもシメチジンを得ることはできず、レック社の本件製造記録は実施不能である。
(1) 本件製造記録の記載の体裁からすれば、ISを反応釜に充填し、これにメチルアミン水溶液を加えているようであるが、固体(実際には粉末)に液体を注ぐということは技術的に非常識である。実験では強引に撹拌することができるが、工場生産ではあり得ない。
(2) Gの結晶析出に要する水の量が、製造記録の量(四〇〇リットル)では不足である(Gの結晶が析出しない)が、製造記録には水を追加することは記載されていない。つまり、このままでは実施不能であって、製造記録が実際の工程を記載したものであれば、このようなことはあり得ない。
(三) 不純物分析 本件製造記録の条件を適宜改善することによって得られたシメチジンと原告が市場から入手した被告製剤の不純物分析の結果からすると、被告製剤に用いられているシメチジンは、レック社製造記録による製造方法とは異なる方法で製造されたことが明らかである。むしろ、本件特許発明技術的範囲に属する方法(オキシ法)で製造されていると考えられる。
同じ化合物を製造するのにいくつかの方法があるとき、得られる目的物自体は同一物質であっても、原料や原料を処理する工程が異なることから、目的物中に含まれる不純物(残存原料、中間生成物、副生成物)は同一ではない。したがって、分析の結果、異なる不純物が見出されれば、その物の製造方法は同じでなかったことになる。
(1) 四種の不純物分析について レック法によるシメチジン原末からは、1―メチル―2―シアノイミノイミダゾール(以下「S34」という。)とビス[(5―メチル―1H―イミダゾ―ル―4―イル)メチル]サルファイド(以下「S68」という。)の二つの不純物が検出された。この二つの不純物は、レック法において生成した場合に生ずる副生物である。
被告製剤からは、右不純物は検出されず、被告製剤のシメチジン原末がレック法によって製造されたもので別紙「反応機構(GSSG)」のとおりであれば、このようなことはあり得ない。
他方、レック法によりシメチジン原末からは、N―シアノ―N’N’’―ビス[2―[[(5―メチル―1H―イミダゾール―4―イル)メチル]チオ]エチル]グアニジン(以下「SK&F92506」という。)及び1`1―ビス[[2’―[(N’―シアノ―N’’―メチル)グアナデイニル]エチル]チオ]メタン(以下「SK&F105779」という。)の二つの化合物が不純物として検出されなかったが、被告製剤からは、右不純物が検出された。この点からも、被告製剤に用いられているシメチジン原末が、レック法によって製造されたものでないことが明らかである。
本件特許請求の範囲第一項及び第二項は、Yが硫黄である方法と酸素である方法を含んでいるが、Yが酸素である方法(オキシ法)によるシメチジンは、SK&F92506とSK&F105779が不純物として含まれる。被告製剤に用いられているシメチジンの不純物構成は、オキシ法によるシメチジンの不純物構成と同一であり、レック社が被告に提供したシメチジンは、単にレック法により製造されたものではないというだけでなく、本件特許の技術的範囲に属するオキシ法によって製造されたものであることが推認される。
(2) 総体的不純物分布について カイロック錠とレック法によって製造されたシメチジンとオキシ法によって製造されたシメチジンとの総体的不純物分布を比較すると、オキシ法シメチジンにもレック法シメチジンにも共通する四個の不純物を除けば、オキシ法シメチジンのみにある六個の不純物はすべてカイロック錠にもあるが、レック法シメチジンのみにある五個の不純物はカイロック錠にはない(甲第三三号証)。
ある製造方法によって作られた化合物は、その製法の結果として様々な不純物を含有し、その一つ一つは、他の製法によって作られた当該化合物とも共通することがあり得るが、全体の分布は一つの製法に特有のものである。不純物分布図は、製造方法の「指紋」といってよく、カイロック錠のシメチジンの指紋と異なる指紋を与えるレック法シメチジンが、同一の製造方法によって作られたものといえるはずがない。
(3) GSSG分析について 被告は、GSSGがレック法に特徴的な不純物であるとする。しかし、レック社自ら(乙四二号証)あるいは被告も(乙四六号証)、GSSGはシメチジンの分解によって生じるとしているのであって、シメチジンが分解してできるということは、GSSGはシメチジンが存在するすべての反応液、すなわちすべてのシメチジン製造方法において副生する可能性があるということである。したがって、GSSGはレック法によるシメチジンに特徴的な不純物ではあり得ないから、カイロック錠からそれが検出されたからといって、その原末がレック法によって製造されたことにはならない。かえって、原告らが実施した実験結果によれば、GSSGはオキシ法からより多く検出され、カイロック錠からのGSSGの検出量は高いから(甲二八、二九号証)、カイロック錠のシメチジン原末はオキシ法によって製造されたであろうとの推定ができる。
(四) 収率について 本件製造記録の条件を適宜改善することによって、何とかGを得たとしても、精製シメチジンの収率は、CSを基準として四〇・五パーセントである。他方、レック社は、ユーゴスラビアにおいてシメチジンの製造方法に関する特許権を得ており、これは、正に、本件特許発明技術的範囲に属するオキシ法であるが、右特許発明実施例によれば、約九〇パーセントの収率で精製シメチジンが得られるとなっている(甲第二三号証の三)。商業生産において収率が重要な問題であることはいうまでもなく、レック社が会社の経営を考えるならば、常に本件特許を用いる誘惑にさらされていることになる。スロベニアでの工場生産は誰の監視も受けておらず、レック社がオキシ法を用いるのは、経済的合理性を考えれば必然である。
3 被告製剤の販売数量について 被告が主張するシメチジン原末の使用料と、原告が主張の根拠とした輸入統計との数値と間には、七年間で五万キログラム(三、四年分)以上の違いがあり、これだけの差が生じるのは不自然である。被告がその主張の根拠としている「薬事工業生産動態統計調査」書は、公的証明力があるわけではない。
被告の主張によれば、原末在庫量は、被告主張の次の半期の必要量を常に上回っていることになるが、原末購入の金利負担や保管(品質管理)を考えると、甚だ不自然である。
4 原告SBSの損害賠償請求について(一) 原告SBSは、独占的通常実施権者でないとの主張について 被告は、原告SKFが原告SBSに対し独占的通常実施権を付与した契約の当事者になっていないと主張する。しかし、右契約は、原告SKFの親会社であるスミスクライン・コーポレーションが、原告SKFを代理して締結したものであって、
その中に、
関係会社の有するすべての特許に適用のあることが明記されている。また被告は、
原告SBSは専用実施権者でないから損害賠償請求権がないとするが、独占的通常実施権者が侵害者に対して損害賠償をなし得ることは通説である。
(二) 販売行為と損害の発生との間の因果関係の存在について(1) 被告は、タガメット錠もカイロック錠も、消化性潰瘍剤市場の一品目であり、その市場には他に「ザンタック」(塩酸ラニチジン)、「ガスター」(ファモチジン)等があるから、カイロック錠の販売数量と同数量のタガメット錠の売上が減少したとはいえない旨主張する。本件では、タガメットの売上が減少したかどうかは関係なく、同じシメチジン製剤である被告製剤がタガメットを代替したかが問題である。
被告があげるその他のH2ブロッカー製剤の有効成分は、シメチジンとは別個の化合物であり、物性に異なるところがあるし、薬効の範囲が同様であっても効き方は違い得る。また、化合物として異なる以上、副作用の異なることが当然に予想される。
シメチジンは、その特定の化学構造故に独自の効果を有しているのであるから、
すべての面で全く同等の物は存在しない。被告の販売した製剤は、独占的通常実施権者である原告SBSの販売していた本件特許実施品と全く同一のシメチジンの製剤であった。このような場合、同じ物は同じ物を代替したとみるのが当然である。
剤型が異なっても、シメチジン以外の特殊な効果を持っているわけではないから同様である。
(2) なお、被告は、被告独自の営業努力によって納入実績を確保したし、被告製剤とタガメットとは、医療機関の中でも需要先が異なると主張する。
しかし、医師に対する医薬情報提供担当者の数は、原告側の方がはるかに多い。
需要先が異なるという点も、タガメットの売上は大規模病院よりも開業医の方が多く、被告は病院に食い込めないから、開業医向けの被告製剤の販売数量の方が多いというだけのことである。むしろ、販売の絶対量において、小規模病院及び診療所に販売されたタガメット錠の量は、被告製剤のそれよりはるかに多く、医薬情報提供担当者と医師との接触回数も小規模病院及び診療所についてタガメット錠の方が多い。タガメット錠と被告製剤とは、同じ需要層で競合していた。
(三) 平成五年九月ないし一二月分の損害について 特許権の存続期間中に、医薬品の製造承認を得るために特許対象物質の合成と試験への使用は、ただ自己の製剤の販売のためであるから、特許法69条1項にいう試験又は研究ではない。
のみならず、そもそも、被告は、本件特許の存続期間中にシメチジン原末を輸入しているのであるから、試験又は研究に当たるか否かを検討するまでもなく、明らかに本件特許を侵害している。したがって、その原末を製剤して存続期間満了後に販売することも本件特許の侵害であり、原末輸入という本件特許の侵害行為によって原告SBSの蒙った損害が、原末が製剤され販売された時点で顕現されることになる。
(四) 消滅時効の主張について(1) 被告の時効消滅の主張は争う。
(2) 平成五年三月ないし六月分の損害について 原告SBSが請求を拡張した平成八年六月当時、平成五年三月ないし六月分の損害の数額を原告SBSは示すことができなかったのであり、そのような状態で消滅時効のみが進行するのは不合理である。
時効が進行するためには、損害の程度や数額を具体的に知る必要はないが、単なる損害発生の推定又は危惧感だけでは十分でなく、加害行為の違法性と損害との間の相当因果関係を知ることが必要だとされている。医薬品後発メーカーは、しばしば原末入手先を変えるから、右当時原告が知り得たのは、被告が被告製剤の販売を継続していることのみであって、販売量や原末生産場所は依然として判明していなかった。
また、本件は、特許法104条の推定規定に基づく請求であり、被告の行為が特許権侵害という不法行為を構成するかどうかは、認容判決が確定することにより初めて判明するのであるから、消滅時効の進行は、被告製剤の販売が特許権侵害であることが本訴において認容され、確定した時というべきである。
証拠(省略)
理 由
原告らの請求1(当事者)の(一)及び(三)、同2(原告SKFの特許
権)、同3(本件特許請求の範囲)、同4(目的化合物)のうち、本件特許の目的化合物が、N―シアノ―N’―メチル―N’’―[2―((4―メチル―5―イミダゾリル)メチルチオ)エチル]グアニジンであり、消化性潰瘍に対し治癒効果を有する医薬品であってシメチジンと呼ばれていること、シメチジンが「タガメット」なる商品名で販売されていること、同5(被告の行為)及び同7(損害賠償請求及び不当利得返還請求の額)のうち、被告製剤にはレック社が製造し被告が輸入したシメチジン原末が使用されていること、以上の事実は当事者間に争いがない。
特許法一〇四条の適用について
一 甲三号証、七号証及び弁論の全趣旨によると、ケミカル・アブストラクツ誌第一巻(一九〇七年)から第七九巻(一九七三年)及び昭和二五年から昭和四八年の日本特許公報を調査したところ、本件特許の優先権主張日(昭和四八年-九七三年-二月八日)当時、右刊行物にシメチジンの記載を見出すことはできなかった旨の調査結果が報告されていること、右ケミカル・アブストラクツ誌は、その創刊以来、全世界の化学に関係のあるほとんどの学術雑誌、特許文献、主要学会の講演集等の広範囲な文献調査に基づく二次文献(詳録誌)であること、そして、右調査では、日本の特許公報も調査対象とし、したがって、ケミカル・アブストラクツ誌では十分対応できないおそれのある化合物群を表現する網羅的なクレームの表現についても対処していること、ヒスタミン受容体のうちのH2―レセプターに対する拮抗薬の探索、発見の経緯等に照らすならば、シメチジンは、右優先権主張日当時、
日本国内において公然知られた物ではないことが認められる。
二 被告は、シメチジンの新規性判断の基準日は、本件特許の出願日である昭和四八年九月五日であって、この出願日前に、既にシメチジンは日本国内において公然知られていたから、本件では、特許法104条の適用はないと主張するが、右主張は、次のとおり採用できない。
1 乙三四号証によれば、原告SKFは、英国第一出願(昭和四六年三月九日及び同年七月二二日出願)に基づく優先権主張をして、乙三四出願の特許出願をしていることが認められる。そして、シメチジンが、乙三四出願及び対応する英国第一出願の特許請求の範囲の一般式に形式上包含されることは当事者間に争いがない(なお、本件では、英国第一出願明細書は証拠として提出されていないが、原告においても乙三四出願の明細書の記載(乙三四号証)が、英国第一出願明細書を翻訳した内容と同一であることを前提としているので、以下、この前提に立って検討する。)。
甲一九号証及び右乙三四号証によれば、乙三四出願の明細書中の発明の詳細な説明の項には、本件特許の優先権主張の基礎となった英国第二出願明細書に記載されている、シチメジンに相当する化合物の具体的化学構造式、化合物名、その製造方法及び物性等は何ら開示されていない。
化合物は、原子の組合わせで構成され、原子はそれぞれの定まった原子価によって結合するから、従来から知られている反応を考慮すれば、原料から目的化合物を得るような過程を、化学反応式として配載することも、さらに新規の化合物を記載することも可能であるが、それだけでは、想定した反応が現実に起こり得るか、化合物が得られたとしていかなる性質を有するかは明らかになるとはいえない。したがって、ある化合物ないしその製法が発明として開示されたといい得るためには、
単にある化合物が属する一般式が記載されるだけでは足りないのであって、具体的な化合物が特定され、その化合物による効果が明示され、実施例に基づいて製法が開示されることが必要である。そうすると、乙三四出願によってシメチジンが開示されていたと認めることはできない。
よって、本件特許の出願における優先権主張は適法であると解する。
2 被告は、乙三四出願から分割された乙三五出願が特許査定されたことを根拠として、乙三四出願の明細書にはシメチジンが開示されており、原告らが、本訴においてこの点を否定することは、禁反言の法理に反すると主張する。
確かに、乙三五出願は、英国第一出願を基礎として優先権主張がされ、同出願の明細書中にシメチジンの実施例が追加されている(当事者間に争いがない)。しかし、英国第一出願と日本における乙三四出願及び乙三五出願とは別個独立のものであり、日本に出願されてからの審査経過は、優先権主張の基礎となった英国第一出願の明細書の記載内容やその後の英国第二出願との関係に何ら影響するものではないと考えられるし、そもそも、英国第一出願においていかなる発明が開示されていたかは、当該明細書の記載から客観的に判断されるべきであり、乙三五出願が英国第一出願を基礎とする優先権主張をして乙三四出願から分割出願されたという事後の手続の経緯によって、発明の開示の程度が左右されるものではない。したがって、被告のこの点の主張は、採用できない。
3 被告は、本件特許の優先権主張日当時、昭和四七年八月二四日に発行されたとするベルギーの特許公報の写し及び「ケミカル パテンツ インデックス」により、シメチジンは公然知られていたと主張する。しかし、乙三二、三三号証によれば、右ベルギー特許出願は、原告SKFが英国第一出願を基礎として優先権主張をしたものであることが認められるところ、前記1と同様に、シメチジンの具体的な構造、製法、物性等は示されておらず、「公然と知られた物」とは、少なくとも当該技術分野における通常の知識を有する者において、その物を製造する手掛りが得られる程度に知られた事実が存することが必要であると解するのが相当であるから、シメチジンが、本件特許の優先権主張日当時、公然知られていたということはできない。したがって、この点に関する被告の主張も理由がない。
三 以上によれば、シメチジンは、本件特許の優先権主張日当時新規化合物であったと認められるから、特許法104条により、被告製剤に使用されているシメチジン原末は、本件特許方法により製造されたものと推定される。
被徒製剤に用いられているシメチジンの製法について
被告は、被告製剤に用いられているシメチジンは、別紙「イ号方法の表示」記載のとおりの製法で作られたものであって、本件特許発明技術的範囲に属さない旨主張する。
しかし、以下に述べるとおり、被告の主張は理由がない。
まず、乙二五ないし二七号証(本件製造記録、なお、枝番号の記載は省略する、
以下同じ)は、レック社における実際の工場生産の過程を記載したものと認めることはできない。次に、@市場から入手したカイロック錠、A被告の提出した本件製造記録の条件を適宜改善することによって得られたシメチジン、B本件特許発明技術的範囲に属する方法(オキシ法)で製造されたシメチジン、の各不純物分析の結果によれば、カイロック錠原末は、被告の主張に係るイ号方法によって製造されたものではなく、むしろ、本件特許発明技術的範囲に属する方法(オキシ法)により製造されたものと推認することができる。
したがって、右いずれの理由からも、「被告製剤に使用されているシメチジン原末が本件特許方法により製造されたものではない」との立証が尽くされたものということはできない。
一 本件製造記録の信憑性について1 まず、乙二五ないし二七号証を検討する。
乙二五号証は、平成二年二月一〇日から同年四月二五日にかけて製造されたロット番号M―四五九〇四九〇の総量七五五キログラムのシメチジン製造記録、乙二六号証は、平成三年四月一四日から同年六月三日にかけて製造されたロット番号M―四六六四〇六九一の総量七五六キログラムのシメチジン製造記録、乙二七号証の一、二は、平成四年三月五日から四月一五日にかけて製造されたロット番号K―四六八二〇四九二の総量七五〇・五キログラムのシメチジン製造記録であるとされている。右各証拠及び乙二九号証によれば、本件製造記録は、(1)出発原料であるOTの合成工程記録、(2)Gの合成工程記録(OTからISを合成しISからGを合成)、(3)粗シメチジンの合成工程(HMからBMを合成しBMからCSを合成し、CSとGからシメチジンを合成)、(4)シメチジン結晶化工程(シメチジンをエタノールから再結晶)、(5)シメチジン混合整粒前工程(精製シメチジンを減圧下で乾燥)、(6)シメチジン混合整粒工程(複数ロットを合わせて均一化し、整粒して最終シメチジン一ロットとする)の計六工程の製造記録から構成されていることが認められる。また、乙二八号証(陳述書)には、本件製造記録がレック社の製造記録の原本そのものの写しであって、何の改竄も加えていないと記載されている。
しかし、本件製造記録は、その記載内容からして、次のような不自然な点が多く存在し、レック社におけるシメチジンの製造過程を記録したものと認めることは、
到底できない。
2 各工程での原料比、原料と収量との関係について 本件製造記録の記載によれば、@Gの合成工程におけるOTとKEAの量、AGの合成工程において使用されたOTの量とGの量、Bシメチジン合成時のCSの量とGの量、CGの合成工程において使用されたISの量とGの量、DCSとGの量と粗シメチジンの収量が、それぞれ同じ工程下でもロット番号ごとにばらつきがあることが認められ、その関係を図示すれば、別紙グラフ@ないしDのとおりである。
小規模の単発的製造とは異なり、恒常的に大規模な工場生産を行う場合には、製造効率の最も良い条件を設定して、それに従って製造を継続するのが通常であるところ、高収率、高純度、安価かつ安全に医薬品原料の供給を目的とする製薬会社が、右のように一定しない条件下で製造を継続することは、極めて不自然である。
さらに、乙二二号証(レック社の研究開発責任者の陳述書)によれば、レック社は、昭和五一年からシメチジンの生産開発研究を開始し、昭和五八年には工場生産を始め、レック法を昭和六二年に導入して収量及び純度の改善を達成したことが認められ、そうすると、本件製造記録が作成されたとする平成二年ないし四年ころは、レック法が導入されてから三年以上経過した時期であり、レック法によるシメチジン製造は既に確立され安定した状態に入っていると考えられるところ、本件製造記録にあるような不確定な製造条件で、収率も一定しない状況下で、シメチジン製造が、長期間継続されていたとするのは不自然である。
この点について、被告は、各工程の合成物の収量は水を含む重量であるから、単に収量と原料の比を問題とするのは意味がないと主張する。
しかし、本件製造記録によれば、OT、G、CSいずれも各工程で遠心分離処理がなされていることが認められ、この点の被告の主張は前提を欠き、失当である。
なお、仮に、原料と生成物との間の相関関係にばらつきがあることの理由が、水分の含有率が一定していないということによるものであったとしても、確立した工場生産において、このような収率の一定しない状況で、恒常的に実施していたものと考えることは到底できない。結局、被告の主張は失当である。
3 撹拌時間、遠心時間等について 本件製造記録の記載によると、G合成工程における撹拌時間と遠心分離時間、CS合成工程における環流冷却時間と撹拌時間、シメチジン合成工程における反応時間等に、ばらつきがみられる。
この点について、被告は、撹拌時間は遠心分離の準備や作業者の労働能力等の要因によって作業時間のばらつきがでるし、遠心分離は溶媒流出がなくなるまで実施するために一定でないことによる旨反論し、乙四〇号証及び乙四九号証(陳述書)には、これに沿った内容が記載されている。
しかし、前記のとおり、小規模の単発的製造であるならばともかく、恒常的に大規模な工場生産を行う場合には、製造効率の最も良い条件を設定して、それに従って製造を継続するのが通常であるところ、作業を継続するか停止するかについての客観的な基準を設けず、作業能力の異なる作業者の主観にまかせることは、不合理、不自然であって、本件製造記録に記載されていたような方法が実施されていたものと解することはできない。
二 不純物分析について1 同一の化合物を製造するのに複数の方法がある場合において、得られた目的物が同一であったとしても、原料やこれを処理する工程が異なることにより、目的物中に含まれる不純物(残存原料、中間生成物、副生成物)に相違が生ずる。他方、
同一の原料を使用して、同一の条件の下で、同一の目的物質を製造した場合には、
実施の規模にかかわらず、同じ不純物が残存するものと考えられる。したがって、
同一の化合物であっても、それらの組成を分析した結果、異なる不純物が見出されれば、それらの化合物の製造方法は、同一ではなかったと推測される。そこで、右の観点から、被告製剤中の不純物を分析・比較することにより、被告製剤が、被告主張に係るイ号方法によって製造されていたか否かを、以下に検討することにする。
2 甲二二、二九、三五号証を総合すれば、以下のとおりの事実が認められる。
(一)被告が販売し、市場に流通するカイロック錠(以下「カイロック原末」という場合がある。)、被告の提出した本件製造記録の条件を適宜改善することによって得られたシメチジン(以下「レック法原末」という。)及び本件特許発明技術的範囲に属するいわゆるオキシ法で製造されたシメチジン(以下「オキシ法原末」という。)の各不純物を分析すると、以下のとおりの特徴が得られる。
(二) カイロック原末からは、1―メチル―2―シアノイミノイミダゾール(前記「S34」)とビス[(5―メチル―1H―イミダゾール―4―イル)メチル]サルファイド(前記S68)の二つの不純物は、検出されなかったが、N―シアノ―N’N’’―ビス[2―[[(5―メチル―1H―イミダゾール―4―イル)メチル]チオ]エチル]グアニジン(前記SK&F92506)及び1’1―ビス[[2’―[(N’―シアノ―N’’―メチル)グアナデイニル]エチル]チオ]メタン(前記SK&F105779)の二つの化合物が不純物として検出された。
また、レック法原末からは、S34とS68の二つの不純物が検出されたが、SK&F92506とSK&F105779は検出されなかった。
さらに、オキシ法原末からは、カイロック原末と同様に、S34とS68の二つの不純物が検出されなかったが、SK&F92506とSK&F105779とが検出された。
3 右の不純物分析の結果、すなわち、カイロック原末は、レック法で製造された場合には、S34とS68が検出されるものと考えられるところ、これらの不純物は検出されず、他方、同法で製造された場合には、SK&F92506とSK&F10577が検出されることはないと考えられるにもかかわらず、検出されていることに照らすならば、カイロック原末は、少なくとも、レック法では、製造されていないことが推認される。
特に、S34に着目するならば、同物質はGの分解物であること、Gは分解されやすく、高温条件の下で分解されることからすると、レック法原末において、特異的な不純物として存在すると解するのが合理的であるというべきところ(乙四二、
一六二号証)、S34がカイロック原末からは全く検出されないことは、右結論を明らかに裏付けるものといって差し支えない。
被告は、不純物分析の結果について、縷々反論するが、いずれも、的確な証拠に基づくものでなく、理由がない。
以上の不純物分析の結果を総合すると、被告製剤に用いられているカイロック原末は、単にレック法により製造されたものではないというだけでなく、本件特許の技術的範囲に属するオキシ法によって製造されたものであることが推認される。
4 被告は、GSSGがレック法に特徴的な不純物であると主張する。しかし、乙四二号証、四六号証によれば、レック社及び被告は、GSSGはシメチジンの分解によって生じるとしていることが認められる。そうすると、GSSGはシメチジンが存在するすべての反応、したがって、すべてのシメチジン製造方法において副生する可能性があるということになる。結局、GSSGはレック法によるシメチジンに特徴的な不純物ではあり得ないから、カイロック錠からそれが検出されたからといって、その原末がレック法によって製造されたことにはならない。被告のこの点の主張は理由がない。
被告の責任について
一 以上によれば、被告製剤に用いられているシメチジンは、本件特許方法によって製造されたものと推定されるから、被告がレック社から右シメチジン原末を輸入してこれを被告製剤に使用し、販売する行為は、本件特許権の侵害に当たり、さらに、原告SBSの独占的通常実施権侵害に当たる。また、被告は、右侵害行為をするに当たり、少なくとも過失があったものということができる。
したがって、被告は、不法行為に基づき、同原告の被った損害を賠償すべき義務がある。
また、被告は、特許権者である原告SKFに対し、被告製剤の製造販売について相応の実施料を支払う義務があるというべきところ、正当な理由なくこれを免れているので、被告は、原告SKFに対し、実施料相当額の不当利得返還義務を負う。
二 ところで、被告は、原告SBSが本件特許の独占的通常実施権者ではないとして、原告SBSには損害賠償請求権が発生しない旨主張する。すなわち、被告は、
原告SKFは、本件特許の存続期間中に訴外株式会社三和化学研究所、同菱山製薬株式会社、同高田製薬株式会社、同大正薬品工業株式会社、同株式会社龍角散及び同富山化学工業株式会社にシメチジン製剤を販売させていることに照らせば、原告SBSは独占的通常実施権者ではない旨主張する。そこで、この点を先に判断する。
右各社が、本件特許の存続期間中シメチジン製剤を販売していたことは当事者間に争いがなく、また、甲五九号証、乙八〇、一一二号証(添付資料)及び弁論の全趣旨によれば、@原告SKFは、平成二年以降、少なくとも二六社のシメチジン製剤の後発製造業者に対し、右製剤の製造販売差止仮処分を申請したこと、Aこのうち、訴外大東交易株式会社に対する仮処分申立ては和解により終了したが、原告SKFは、右大東交易からシメチジン原末を購入していた右三和化学研究所が在庫として持っていたシメチジン原末を処分することを認めたこと、B右三和化学研究所を除く残りの五社は、訴外三井石油化学工業株式会社が他の業者に製造させていたシメチジン原末を購入してシメチジン製剤を製造していたところ、原告SKFは、
一連の仮処分申立てを行う前に右三井石油化学工業と話し合いの場を持ち、必ずしも本件特許権の侵害とは断定できないながらも対価を得て、右三井石油化学工業及び同社からシメチジン原末の提供を受けている五社に対しては訴訟を提起しない旨の合意が成立したこと等の事実が認められる。
右認定した事実によれば、右三和化学研究所外五社によるシメチジン製剤の製造販売は、本件特許権の侵害又はその疑いに対する原告らの対応の一環として許容されたものと認められ(右三和化学研究所については在庫に限ってシメチジン原末の製剤化が許された。)、原告SKFと右六社が本件特許権に関し、通常の取引として実施権契約を締結したものと解することはできない。そして、原告SKFと原告SBSとの関係からすれば、当然かかる合意の際には、原告SBSの意向も反映されていると解されるが、もし、このような和解における互譲の一態様としてシメチジン製剤の製造販売を許容した結果、原告SBSの独占的通常実施権者としての地位に変動が生じるとするならば、先行する特許権侵害者と特許権者ないし独占的通常実施権者との和解によって、後行侵害者は何ら独占的通常実施権者からの損害賠償請求を受けないという不合理な結果を放置することになり、独占的通常実施権者の不利益の下で不誠実な者の利益を擁護する結果となる。
したがって、本件特許の存続期間中に右六社によるシメチジン製剤の製造販売が行われていたとしても、原告SBSの独占的通常実施権者としての地位には何ら影響がないと解すべきである。
損害賠償請求及び不当利得返還請求の額について
一 被告製剤の販売量について1 甲一一号証及び弁論の全趣旨によれば、以下のとおりの事実が認められる。
昭和六一年から平成五年までの間、我が国で旧ユーゴスラビア(現スロベニア)からシメチジンを輸入しているのは被告のみであること、旧ユーゴスラビア(現スロベニア)から輸入したシメチジンの量は、少なくとも、以下のとおりであること、したがって、被告が輸入したシメチジンの量も、これと同量であることが認められる。
昭和六一年 二五〇〇キログラム昭和六二年 四七五〇キログラム昭和六三年 七五〇〇キログラム平成元年 二万三〇五〇キログラム平成二年一月ないし六月 九〇〇〇キログラム同年七月ないし一二月 一万九〇〇〇キログラム平成三年 四万九〇〇〇キログラム平成四年 二万一〇〇〇キログラム平成五年一月ないし六月 二万五〇〇〇キログラム同年七月及び八月 一万〇〇〇〇キログラム2 そこで、被告が販売したカイロック錠の数量について、右輸入量を基礎として算定すると、以下のとおりとなる(なお、被告は、一錠中にシメチジンが〇・二グラム含有する錠剤及び一グラム中〇・四グラムのシメチジンが含有されている細粒を製造販売しているが、すべて錠剤に換算した。)。
すなわち、製剤を製造する場合、原末の損失が発生することから、右損失の輸入量全体に対する比率を五パーセントとし、また、輸入量のすべてが、製剤の製造に使用されないで、一部は、在庫とされる点があることから(但し、時間的間隔はあるものの、一時的に在庫とされた原末も、順次、製剤とされるので、在庫率そのものではない。)、在庫のままとされた量の輸入量全体に対する比率を一五パーセントとして、輸入量全体の八〇パーセントが、製剤とされたものとして算定すると、
以下のとおりとなる。
昭和六一年 一〇〇〇万錠昭和六二年 一九〇〇万錠昭和六三年 三〇〇〇万錠平成元年 九二二〇万錠平成二年一月ないし六月 三六〇〇万錠同年七月ないし一二月 七六〇〇万錠平成三年 一億九六〇〇万錠平成四年 八四〇〇万錠平成五年一月ないし六月 一億〇〇〇〇万錠平成五年七月、八月 四〇〇〇万錠3 これに対して、被告は、被告が昭和六一年一二月から平成五年八月までに販売した被告製剤の販売量及び使用したシメチジン原末量は、「被告の主張」3(一)記載のとおりであると主張する。
確かに、乙八五号証ないし九二号証(いずれも薬事工業生産動態統計調査結果)には、右販売数量について、被告主張に沿った記載がある。しかし、本件において、@被告から、被告製剤の販売量に関する会計帳簿の提出がないこと、右各書証は、いずれも書面全体の一部分を除いて他の部分が隠されて提出されていること等の理由から、右各書証の記載内容について、真偽を検討することができないこと、
A輸入量と比較すると、その在庫量があまりに大量であって(二年分を超える在庫量が認められる。)、極めて不自然であること等の点を考慮すると、被告の主張を採用することはできない。
二 原告SBSの損害賠償請求権について1 平成二年七月から平成五年六月までの侵害行為に係る損害 原告SBSは、被告が被告製剤を販売したことにより、原告SBSによるタガメット錠の売上が減少したので、同原告は、タガメット錠の一錠当たりの利益額と同額の損害を被ったと主張するので、この点を検討することにする(以下、損害額の算出に当たっては、すべて、月単位で計算する。)。
(一) 甲一五、五九号証によれば、以下のとおりの事実が認められる。
(1) 原告SBSにおけるタガメット錠の売上は、以下のとおりである(一万円未満は切り捨て、以下同じ)平成二年七月ないし一二月 一二〇億五五六〇万円平成三年 二〇二億四六〇七万円平成四年 一七二億五二七七万円平成五年一月ないし六月 八四億六一六〇万円(2) 原告SBSにおけるタガメット錠の製造、販売に係る直接経費(原末代、
製剤、包装費、特許実施料、配送・販売管理費)の合計及び売上額に占める割合は、以下のとおりである(なお、期間全体の平均値は、平成二年及び平成五年につき、半年分として算定した。以下同じ)。
平成二年七月ないし一二月 五二億八四六二万円(四三・八%)平成三年 九一億五六一九万円(四五・二%)平成四年 八一億四三七七万円(四七・二%)平成五年一月ないし六月 三六億六二三一万円(四三・二%)期間全体の平均値 (四五・二%)(3) 原告SBSにおける一般管理費(甲一五号証とは異なり、タガメットとの関連性を有しない一般経費も含めて示した。したがって、原告SBSにおける「一般管理費及び販売費」から(2)の「直接経費」分のみを控除した額である。)は、以下のとおりである。
平成二年七月ないし一二月 一〇四億五五七四万円平成三年 一七三億二一九九万円平成四年 一八二億四四四七万円平成五年一月ないし六月 八六億九四一〇万円(4) 原告SBSにおける全製品の売上高に占めるタガメットの売上高の割合は、以下のとおりである。
平成二年七月ないし一二月 七六・四%平成三年 七四・五%平成四年 六一・四%平成五年一月ないし六月 五四・八%(5) また、原告SBSにおけるタガメット錠の平均販売単価は、以下のとおりである。
平成二年七月ないし一二月 平均三八・〇二円平成三年 平均三五・一〇円平成四年 平均三二・三四円平成五年一月ないし六月 平均三三・六九円期間全体平均 平均三四・四三円(二) 原告SBSは、前記のとおり、独占的通常実施権者であるというべきところ、被告が被告製剤を販売したことにより、被告製剤の販売数量と同数量だけ、原告SBSによるタガメット錠の売上が減少したものということができる。そこで、
同原告が被った逸失利益の額を算定するに当たり、タガメット錠の一錠当たりの利益額を検討する。
先ず、利益額を算定するに当たり、原告SBSにおけるタガメット錠の売上額から、製造、販売等に係る直接経費(原末代、製剤・包装費、特許実施料、配送・販売管理費)を控除すべきことは当然である。直接経費率の期間全体の平均値が、四五・二パーセントであることから、売上額の四五パーセント(小数点二桁未満を切り捨て)を直接経費分として控除するのが相当と解する。
次に、原告SBSは、一般管理費として、「販売促進費及び宣伝広告費」、「給料手当」、「委託研究費」、「交際費」、「福利厚生費」、「交通費」その他の諸経費を計上しているところ、@これらの経費の中には、タガメット錠の売上と全く関連性のない経費や、売上額に応じて、増減するものとは必ずしもいえない経費が、数多く含まれており、これらの経費相当分は、逸失利益の算定に当たって控除すべきではないといえるが、他方、A原告SBSにおいては、これらの一般管理費が極めて多額であり、また、同原告の業態をみると、タガメットの売上額の全製品の売上額に占める比率が高いこと(七六パーセントから五四パーセントの間を推移している。)等の事実に照らすならば、逸失利益の算定に当たり、一般管理費のすべてについて、タガメット錠の製造、販売に寄与していないものとして、全く考慮しないことは、必ずしも適切ではないものというべきである。結局、民事訴訟法248条の趣旨に照らして、タガメット錠の売上額の四〇パーセントに相当する一般管理費に限り、その売上額に比例して増減する性質を有するものとして控除するのが相当である。
そうすると、タガメット錠一錠当たりの平均販売単価は、三四・四三円であるから、一錠当たりの利益額は、その一五パーセント(直接経費分四五パーセントと一般管理費分四〇パーセントの合計を控除したもの)に当たる五・一六円(少数点二桁未満は切り捨て)となる。したがって、被告が被告製剤を販売したことにより、
原告SBSは、平成二年七月から平成五年六月までの間に、四億五六〇〇万錠のタガメット錠の販売数量が減少したものということができるから(因果関係の判断については後記のとおり)、原告SBSは、合計二三億五二九六万円(五・一六円×四億五六〇〇万錠)を下らない損害を被った。
三四・四三×〇・一五=五・一六四億五六〇〇万錠×五・一六=二三億五二九六万円2 平成五年七月以降の侵害行為に係る損害(一) 平成五年七月、八月分の損害について 前記のとおり、平成五年七月、八月のカイロック錠の販売量は、錠剤換算で四〇〇〇万錠であると認められ、これによって原告SBSが被った損害は、前記と同様の算定により、二億〇六四〇万円となる。
三四・四三×〇・一五=五・一六四〇〇〇万錠×五・一六=二億〇六四〇万円 したがって、原告SBSの平成二年七月から平成五年八月までの損害の合計額は、二五億五九三六万円となる。
(二) 平成五年九月ないし同年一二月分の損害について 本件特許の期間満了後に被告が被告製剤を販売したことによる損害賠償請求は理由がない。
原告SBSは、本件特許の存続期間満了後に被告製剤の製造承認を得ようとすれば、早くとも存続期間満了から一年を必要としたであろうから、存続期間満了後の被告製剤の販売についても損害賠償を請求できると主張する。しかし、本件特許権の存続期間中に、被告が被告製剤の製造承認申請を行った行為自体が違法であるとまではいえないことに照らして、同原告の主張は採用できない(なお、前記のとおり、原告SBSの損害額については、被告の輸入量実額を基礎として推認したが、
右算定に当たり、被告がシメチジン原末を輸入してから、カイロック錠に製剤して販売するまでの時間的間隔は、敢えて修正していない。したがって、被告が、本件特許期間満了前に輸入し、期間満了後に販売した製剤については、損害額に含まれているものもあり得ると解せられる。)。
3 被告の行為と原告SBSの被った損害との間の因果関係の存否について 被告は、タガメット錠もカイロック錠も、消化性潰瘍剤市場の一品目であり、その市場には他に「ザンタック」(塩酸ラニチジン)、「ガスター」(ファモチジン)等があるから、カイロック錠の販売数量と同数量のタガメット錠の売上が減少したとはいえない旨主張する。しかし、被告が販売した被告製剤は、原告SBSの販売していた本件特許実施品と全く同一のシメチジンの製剤であること、被告が挙げる他社のH2ブロッカー製剤は、シメチジンとは別個の化合物であり、その性質も異なり、薬効も相違が生じ得ることに照らせば、本件のような場合において、被告の販売した被告製剤は、全く同一化合物である原告SBSの販売していた製剤を代替したものと解するのが相当であって、結局、被告の主張は採用できない。また、被告は、被告独自の営業努力によって納入実績を確保したのであり、被告製剤の販売量と同量のタガメット錠の販売が減少したとはいえない旨主張するが、本件全証拠によるも、右主張に沿う的確な証拠はない。
なお、原告SBSの販売するタガメット錠の原末が、本件特許方法によって製造されていることは、甲九、一〇、一五号証及び弁論の全趣旨から認められる。
三 原告SKFの不当利得請求権について 前記事実から明らかなとおり、被告は、特許権者である原告SKFに対し、被告製剤の製造販売について相応の実施料を支払うべきところ、これを免れているのであるから、原告SKFは、被告に対して、実施料相当額につき、不当利得返還請求権を有することになる。
ところで、第五一2において認定した事実、甲六〇号証及び弁論の全趣旨によれば、昭和六一年から平成五年六月まで間の被告製剤の販売数量は、錠剤に換算して合計六億四三二〇万錠であること、被告によるカイロック錠の右期間の平均販売単価は一錠当たり二五円を下らないこと、その売上額の合計は、一六〇億八〇〇〇万円を下らないこと、本件製剤の製造販売に関する通常の実施料額が、売上額の三・五パーセントを超えることは、いずれも明らかである。よって、被告が支払いを免れた実施料の額は、右売上額に対して、右三・五パーセントを乗じた五億六二八〇万円を下らない。
したがって、原告SKFは、被告に対し、請求額どおり金五億円の不当利得返還請求権を有する。
結語
よって、原告らの請求は、以下の限度で理由があり、その余の請求は、理由がない。
一 原告SKFは、不当利得返還請求として金五億円及びこれに対する訴状送達の翌日である平成五年七月一三日から支払済みまで民事法定利率である年五分の割合による遅延損害金の各支払い二 原告SBSは、損害賠償請求として金二五億五九三六万円及びこれに対する不法行為以降の日である平成五年七月一三日から支払済みまで民事法定利率である年五分の割合による遅延損害金の各支払い
裁判官 飯村敏明
裁判官 八木貴美子
裁判官 沖中康人