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審判番号(事件番号) データベース 権利
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平成15ワ23943特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
関連ワード 発明者 /  物の発明 /  製造方法 /  技術的範囲 /  構成要件 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 9年 (ネ) 5702号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1999/05/18
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 控訴人1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、原判決別紙物件目録(一)及び同物件目録(二)記載の物件を製造し、販売して、販売のための宣伝、広告をしてはならない。
3 被控訴人は、被控訴人の所有する原判決別紙物件目録(一)及び同物件目録(二)記載の物件を廃棄せよ。
4 被控訴人は、控訴人に対し、金二億円及びこれに対する平成九年三月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
5 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
との判決及び仮執行宣言二 被控訴人 主文と同旨
事案の概要
事案の概要は、次のとおり訂正し、当審における控訴人の主張を付加するほかは、原判決の事実及び理由の第二 事案の概要のとおりであるから、これを引用する。
(原判決の訂正)一 二一頁七行目の「工程2において、」から九行目の「溶液が得られ、」までを、「硝酸ミコナゾールが工程1の溶液に溶解しているとしても、工程2において加えられるリドカインの作用により、硝酸ミコナゾールは遊離のミコナゾールに変化し、その遊離のミコナゾールが工程3において加えられるクロタミトンに改めて溶解し遊離のミコナゾールとクロタミトンの溶液が得られ、」と改める。
二 二三頁末行の「工程2において、」から二四頁二行目の「溶液が得られ、」までを、「工程2において加えられる硝酸ミコナゾールが工程1の溶液に溶解しているとしても、工程1において加えられているリドカインの作用により、硝酸ミコナゾールは遊離のミコナゾールに変化し、その遊離のミコナゾールが工程3において加えられるクロタミトンに改めて溶解しミコナゾールとクロタミトンの溶液が得られ、」と改める。
(当審における控訴人の主張)一 原判決は、本件発明の構成要件について、「本件発明が、抗真菌外用剤という組成物の発明であることは原告主張のとおりであるけれども、本件発明の特許請求の範囲が、組成物の発明について、構成要件aの溶液及び構成要件bの外用基剤という原料を規定することによって構成されており、右原料のうち、構成要件aの物質が、特定の溶質と特定の溶媒からなる溶液であることから、構成要件の解釈として、構成要件bの外用基剤とは別に構成要件aの溶液が調製されていなければならないという製造方法の要素が不可避的に現れるものにすぎない。」として、あくまで製法プロセスを加えて解釈すべきであると判示した。しかし、このような解釈態度は、特許法70条1項の規定に反するものであって、本件発明の技術的範囲を不当に狭く解釈するものである。
二 本件発明の構成要件について、原判決のいう構成要件a、b、cの分説によったとしても、被控訴人製剤は構成要件aを充足する。
1 原判決は、「右溶液は、外用基材に当たる成分からは独立して調製されなければならず、外用基材に当たる成分が混在する状態の物質は、構成要件aの溶液には当たらないと解するべきである。」と判示する。
しかし、本件明細書及び審査過程の書類において、一般式(T)で表わしうる化合物をクロタミトンに溶かした溶液に、他の基剤成分が混在していてはならないとする何らの記載も、また、示唆もない。本件明細書の「通常の外用剤の製剤のごとくこれらの化合物を用いた外用基剤に一般式(T)の化合物を添加しても、結晶の析出がみられ、所望の外用剤が得られない。」との記載の意味は、溶液ができない場合をいい、そのような場合は本件発明に該当しないということを明確にしているにすぎない。また、本件特許出願の審査過程で控訴人が提出した昭和六三年一二月二一日付意見書で控訴人が主張していることは、クロタミトン等が、一般式(T)で表わしうる化合物の優れた溶剤であることの新知見を得たこと、該一般式(T)で表わしうる化合物をクロタミトン等に溶かした溶液を用いて製剤化を行うことによって所望の製剤が得られるということである。右溶液状態であるとの要件を満たせば、その溶液に他の成分、基剤が配合されていても、何ら差し支えはないのである。
2 原判決は、本件活性成分たる一般式(T)で表わしうる化合物に関し、被控訴人製剤における硝酸ミコナゾールが遊離のミコナゾールになっているとは認められないとする。
硝酸ミコナゾールは、ほとんどの溶媒に対して極めて難溶又は不溶性であり、そのままでは製剤(外用剤)に配合しても所望の薬効を期待し難い。そこで、本件発明の発明者は、遊離のミコナゾールは溶解性が比較的大きくなるが、なお、体液などの水系には難溶であること、クロタミトン等の特定のものが遊離のミコナゾールをよく溶解させ得ることを知って本件発明を完成したのである。
本件発明に使用した原料のミコナゾールも市販の硝酸ミコナゾールを用いたものであるが、それが難溶性であるが故に、硝酸ミコナゾールをアルカリ処理して遊離のミコナゾールとした上で使用した。被控訴人製剤においてもリドカインというアルカリ性物質を配合することにより硝酸ミコナゾールを遊離のミコナゾールに変換させ、所望の薬効を発揮させるようにしている。そして、被控訴人製剤を抽出処理して分析した結果によれば、クロタミトンを含む油相中に表示のミコナゾールの配合量のほぼ一〇〇パーセントが含まれていることが明らかにされている。
3 難溶性化合物を溶かす場合、通常は、溶解させやすい溶媒に先に溶かし、それから他の成分を加えていく方が好ましい方法と考えるが、該溶解性の高い溶媒、例えば、クロタミトンを後から加える方法を採ったとしても、結局のところ、クロタミトンが含まれる安定した溶解状態の溶液を作ることになるのであり、本件発明の技術的範囲に含まれるのである。
争点に対する判断
当裁判所も、控訴人の本訴請求は理由がないと判断するところ、その理由は、次のとおり訂正し、控訴人の当審における主張に対する判断を付加するほかは、原判決の事実及び理由の第三 争点に対する判断と同じであるから、これを引用する。
(原判決の訂正)一 四八頁六行目の「甲第一一号証」の次に「、甲第一四号証」を加え、同頁七行目から末行までを「右実験は、クロタミトン、硝酸ミコナゾール、リドカインないしこれと水からなる系における実験であるところ、被告製剤(一)の製造工程においては、
クロタミトンが混合される前に、リドカイン、硝酸ミコナゾールないし水だけではなく、その他に多数の成分を含有する相を形成しているのであるから、右実験の結果をもって、直ちに工程2において遊離のミコナゾールが得られることの証左とすることはできない。」と改める。
二 五一頁六行目の冒頭から八行目の「主張する」までを「(6) さらに、控訴人は、硝酸ミコナゾールが工程1の溶液に溶解しているとしても、工程2において加えられるリドカインの作用により、硝酸ミコナゾールは遊離のミコナゾールに変化し、その遊離のミコナゾールが工程3において加えられるクロタミトンに改めて溶解し遊離のミコナゾールとクロタミトンの溶液が得られる旨主張する」と、五四頁六行目の冒頭から七行目の「原告の主張」までを「(6) 工程2において加えられる硝酸ミコナゾールが工程1の溶液に溶解しているとしても、工程1において加えられているリドカインの作用により、硝酸ミコナゾールは遊離のミコナゾールに変化し、その遊離のミコナゾールが工程3において加えられるクロタミトンに改めて溶解しミコナゾールとクロタミトンの溶液が得られる旨の控訴人の主張」とそれぞれ改める。
(控訴人の当審における主張に対する判断)一 控訴人は、原判決が、本件発明の構成要件について製法プロセスを加えて解釈すべきであると判示したことを前提として、それが特許法70条1項の規定に反するものであって、本件発明の技術的範囲を不当に狭く解釈するものである旨主張する。しかし、控訴人の主張に係る原判決の判示部分は、本件発明が組成物の発明であることを前提とした上で、「構成要件aの溶液及び構成要件bの外用基剤という原料を規定することによって構成されて」いることから、構成要件aの溶液が構成要件bの外用基剤とは別の原料として存在しなければならないという意味で、「構成要件bの外用基剤とは別に構成要件aの溶液が調製されていなければならない」と判示しているのであって、構成要件について製法プロセスを加えて解釈すべきであるとしたものではないことは、その判示自体から明らかである。したがって、控訴人の主張は、その前提を欠くものであって、失当である。
二1 控訴人は、本件明細書及び審査過程の書類において、一般式(T)で表わしうる化合物をクロタミトンに溶かした溶液に、他の基剤成分が混在していてはならないとする何らの記載も、また、示唆もない旨主張する。しかし、一般式(T)で表わしうる化合物を、溶解剤としては新規なクロタミトン等に溶解させてから、その溶液を外用基剤で製剤化するという点に本件発明の意義があり、このことからすれば、右溶液は、外用基剤に当たる成分からは独立して調製されなければならず、
したがって、外用基剤に当たる成分が混在する状態の物質は、構成要件aの溶液には当たらないことは、原判決の事実及び理由の第三 争点に対する判断の一4(三)のとおりである。控訴人の主張は、原判決の事実及び理由の第三 争点に対する判断の一2及び3の認定に係る本件明細書の記載及び本件特許出願の過程(とりわけ、本件明細書の「この発明では、ハッカ油、サリチル酸メチル、サリチル酸モノグリコールエステル(判決注・「サリチル酸モノグリコールエステス」と記載されているが、右は誤記と認める。)、ベンジルアルコール、クロタミトンを用いるものであるが、通常の外用剤の製剤のごとくこれらの化合物を用いた外用基剤に一般式(T)の化合物を添加しても、結晶の析出がみられ、所望の外用剤が得られない。この発明の製剤は、一般式(T)の化合物を予めそれを溶解するに足る量のハッカ油などに溶解し、その後外用基剤を用いて調製することが必要である。」(原判決の事実及び理由の第三 争点に対する判断の一2(三)参照))との記載に照らし、採用することができない。
2 控訴人は、硝酸ミコナゾールは、ほとんどの溶媒に対して極めて難溶又は不溶性である旨主張するところ、甲第一七号証には、硝酸ミコナゾールとミコナゾールの各種溶媒に対する溶解性の実験結果が記載されている。しかし、同証には、被控訴人製剤(一)、(二)の製造工程1の溶融液ないし溶解液に対する硝酸ミコナゾールの溶解性についての記載はないから、同証は、被控訴人製剤(一)、(二)の製造工程2においては、硝酸ミコナゾールが工程1の溶融液ないし溶解液に溶解するとの認定を左右するものではない。
また、控訴人は、被控訴人製剤を抽出処理して分析した結果によれば、クロタミトンを含む油相中に表示のミコナゾールの配合量のほぼ一〇〇パーセントが含まれていることが明らかにされている旨主張するところ、甲第一五、第一六、第二二号証には、被控訴人製剤(一)、(二)を飽和食塩水ないし精製水を加える等して遠心分離する等の処理に付して水相と油相ないし「クロタミトン相」と称するクロタミトンを含む相に分離した場合に、ミコナゾールが後者の相に含まれていることが判明した旨の実験結果が記載されている。しかし、右油相ないし「クロタミトン相」と称するクロタミトンを含む相が、右処理がされる以前から被控訴人製剤(一)、(二)にそのような状態の相として存在していたものと認めるに足りる証拠はない。また、被控訴人製剤にはクロタミトンと水以外にも、多数の他の成分が含まれていることはその製造工程から明らかであるから、右油相ないし「クロタミトン相」と称するクロタミトンを含む相には、多数の他の成分が含まれていることが推認される。そうすると、ミコナゾールが、右各相に含まれているとしても、そのことをもって、多数の他の成分とは関係なく、ミコナゾールが右各相、ひいては被控訴人製剤中においてクロタミトンに溶解していることの証左とすることはできないし、他に控訴人の主張を認めるに足りる証拠はない。
3 控訴人は、難溶性化合物を溶かす場合、溶解性の高い溶媒、例えば、クロタミトンを後から加える方法を採ったとしても、結局のところ、クロタミトンが含まれる安定した溶解状態の溶液を作ることになるのであり、本件発明の技術的範囲に含まれる旨主張する。しかし、右主張は、本件明細書の「この発明では、ハッカ油、
サリチル酸メチル、サリチル酸モノグリコールエステル、ベンジルアルコール、クロタミトンを用いるものであるが、通常の外用剤の製剤のごとくこれらの化合物を用いた外用基剤に一般式(T)の化合物を添加しても、結晶の析出がみられ、所望の外用剤が得られない。この発明の製剤は、一般式(T)の化合物を予めそれを溶解するに足る量のハッカ油などに溶解し、その後外用基剤を用いて調製することが必要である。」との記載に反するものであるから、採用することができない。
結論
よって、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法67条61条を適用して、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結日 平成一一年三月三〇日)
裁判長裁判官 清永利亮
裁判官 山田知司
裁判官 宍戸充