関連審決 | 不服2008-6398 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成20行ケ10151審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成19行ケ10300審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成17ワ2649特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成22行ケ10221審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成15行ケ39審決取消請求参加事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 反復(反復可能性) / 発明特定事項 / 周知技術 / 手続違反 / 技術常識 / 発明の詳細な説明 / 優先権 / 補正要件 / 明瞭でない記載 / 実施 / 加工 / 拒絶査定不服審判 / 拒絶査定 / 拒絶理由通知 / 新規事項追加(新規事項の追加) / 誤記の訂正 / 請求の範囲 / 減縮 / 釈明 / |
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事件 |
平成
22年
(行ケ)
10251号
審決取消請求事件
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原告X 被告 特許庁長官 同 指定代理人高木彰豊永茂弘紀本孝豊田純一 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2011/02/24 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求特許庁が不服2008-6398号事件について平成22年6月14日にした審決を取り消す。 第2事案の概要本件は, 原告が,下記1のとおりの手続において,原告の本件出願に対する拒絶査定不服審判の請求について,特許庁が,平成20年3月14日付け補正を却下した上,願書の特許請求の範囲を下記2の(1)から(2)へと補正する本件補正は,いわゆる新規事項を追加するものであるから,本件出願を拒絶すべき旨の査定は相当であって,同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。 1特許庁における手続の経緯2(1)出願手続(甲3,乙1,2,4)及び拒絶査定(乙3)本件出願当初の発明の名称:睡眠治療装置と,その脳波誘導方法を用いた脳波賦活方式,及び,サブリミナル学習システム平成19年6月14日付け補正後の発明の名称:脳波誘導睡眠治療装置平成20年3月14日付け補正後の発明の名称:サブリミナル学習システム出願番号:特願2006-113054号出願日:平成18年4月17日優先権主張日:平成17年11月7日手続補正日:平成19年6月14日(乙2。以下,同日付け手続補正書を「本件補正書」,これによる補正を「本件補正」というほか,本件出願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲及び図面(乙1)を「当初明細書」という。)拒絶査定:平成20年2月6日付け(以下「本件拒絶査定」という。)(2)審判手続及び本件審決審判請求日:平成20年3月14日(不服2008-6398号)審決日:平成22年6月14日審決の結論:本件審判の請求は,成り立たない。 審決謄本送達日:平成22年7月16日2本願発明の要旨当初明細書及び本件補正書の各特許請求の範囲の請求項1に記載された発明は,それぞれ以下の(1)及び(2)のとおりである。以下,(1)の発明を「本願発明」,(2)の発明を「本件補正発明」という。 (1)当初明細書(乙1)【請求項1】脳波誘導装置の実効率を高めるための脳波誘導方式であって,脳波誘導のための周波数に対して,休止間隔を加味するための1秒から60秒の波長を有する周波数帯域を複合したとともに,前記休止間隔と脳波誘導のための周波数は,さらに,特定の周波数帯域において,経過時間に応じて比較的大きく推移するとと3もに,反復し,前記特定の周波数帯域は,さらに,反復毎においても比較的小さく推移したことを特徴とした脳波誘導方式(2)本件補正書(乙2)【請求項1】全睡眠ステージの脳波を矯正する脳波誘導睡眠治療装置であって,脳波誘導の周波数は,δ-γ波帯域のいずれかにおいて推移して反復し,且つ,推移経路を反復毎に相違すべくした前記脳波帯域の推移変化手段,脳波誘導の休止周期は,ノンレム睡眠-δ波誘導時において使用者のレム睡眠誘発を促すためのタイムラグとして呼吸周期以下を含み,且つ,脳波誘導の周波数の推移終点に対してレム睡眠-α・β波誘導の呼吸周期の推移始点は,近似して成された反復手段,を備えたことを特徴とした脳波誘導睡眠治療装置3本件審決の理由の要旨本件審決の理由は,平成20年3月14日付け補正は,請求項の削除,特許請求の範囲の減縮,誤記の訂正及び明瞭でない記載の釈明のいずれをも目的とするものではないから,平成18年法律第55号による改正前の特許法17条の2(以下「法17条の2」という。)第4項各号のいずれの事項にも該当しないとして,これを却下した上で,本件補正は,いわゆる「新規事項」を追加するものであって,法17条の2第3項の要件を満たさないから,本件出願を拒絶すべき旨の査定は相当であり,原告の拒絶査定不服審判請求は成り立たない,としたものである。 4取消事由(1)本件審決の手続違反(取消事由1)(2)本件補正に係る判断の誤り(取消事由2)第3当事者の主張1取消事由1(本件審決の手続違反)について〔原告の主張〕(1)本件審決が新たな拒絶理由を前提としていることについて本件拒絶査定は,本件補正について,「ノンレム睡眠-δ波誘導時において使用4者のレム睡眠誘発を促す」との補正箇所及び「レム睡眠-α・β波誘導の呼吸周期の推移始点は,近似して成された反復手段」との補正箇所(以下,総称して「本件補正事項」という。)は,当初明細書に記載した事項の範囲のものではないと漠然と認定している。 これに対し,本件審決は,本件補正が新規事項の追加に該当するか否かについて判断する際,「「レム睡眠」あるいは「ノンレム睡眠」を「α波」,「β波」あるいは「δ波」と関連付けた記載」」について検討しており,これは,本件拒絶査定の漠然とした判断とは異なり,具体的な事項を付加して判断しているものである。 したがって,本件審決は,新たに取捨選択した具体的事項に基づいて本件補正の要件を判断しているものというべきであるから,本件拒絶査定において指摘していなかった新たな拒絶理由について判断したものというべきである。 (2)小括以上からすると,本件審決には,新たな拒絶理由について原告に通知し,反論の機会を与えるべきであったにもかかわらず,これを怠った手続上の重大な瑕疵が認められるから,取消しを免れない。 〔被告の主張〕(1)本件審決が新たな拒絶理由を前提としていることについて本件補正事項は,レム睡眠とα波及びβ波とを関連付けた記載であることは明らかであって,本件審決は,当初明細書の記載に,ノンレム睡眠とδ波とを関連付けた記載も,レム睡眠とα波及びβ波とを関連付けた記載もないことから,レム睡眠及びノンレム睡眠と,α波,β波,δ波とを関連付けた記載である本件補正事項について,当初明細書に記載されておらず,また自明に導かれることでもないと判断したものである。 したがって,平成19年8月31日付け拒絶理由通知(甲3。以下「本件拒絶理由通知」という。)を前提とする本件拒絶査定及び本件審決は,いずれも,本件補正事項について,当初明細書には記載されておらず,また自明に導かれることでも5ないことを指摘した上で,本件補正は,当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものでないとするものであって,本件拒絶査定の指摘は明白であり,漠然としているということはできないのみならず,本件審決が新たな拒絶理由を前提とするものでもないことは明らかである。 (2)小括以上からすると,本件審決には手続違反はない。 2取消事由2(本件補正に係る判断の誤り)について〔原告の主張〕(1)「ノンレム睡眠」及び「レム睡眠」を新規事項とした誤りについてア本願発明において,「ノンレム睡眠」及び「レム睡眠」については,睡眠時の脳波誘導が有する作用効果であり,本願発明を明確にする目的で記載したものであるから,かかる概念は,技術上,主要な意義を有するものではない。 仮に,「ノンレム睡眠」及び「レム睡眠」が,発明特定事項であったとしても,上記各事項は,当業者にとって周知事項(甲2。枝番を含む。以下同じ。)であるし,当初明細書の発明の詳細な説明【0025】の記載から当該事項を把握し,さらに,δ波誘導の作用を「ノンレム睡眠」,α・β波誘導の作用を「レム睡眠」と,一義的に構成と作用とを関連付けて理解することは当業者にとって自明である。 また,脳波の覚醒レベルに応じてノンレム睡眠かレム睡眠かを関連付けることも技術常識にすぎず,当業者は,当初明細書の発明の詳細な説明【0033】の「レム睡眠の直前の脳波が約0.5Hz(δ波低域)」との記載から,ノンレム睡眠とδ波の関係を把握すれば,反復時の直後にレム睡眠の効果が得られると理解できる。 したがって,本件審決は,技術常識を考慮せず,本願発明の主要部ではない周知事項について,新規事項であると誤った認定をしているものである。 イ以上からすると,「ノンレム睡眠」及び「レム睡眠」について,新規事項に該当するとした本件審決の判断は誤りである。 (2)α波,β波,δ波について換算を行わなかった判断の誤りについて6ア本件審決は,本件補正についての判断に当たり,当初明細書における「ノンレム睡眠」と「レム睡眠」に,下線を付加した上で引用している。 しかしながら,脳波の周波数を分かりやすく解釈するため,脳波の覚醒レベルに応じてノンレム睡眠かレム睡眠かを関連付けること,すなわち,α波,β波,δ波についてそれぞれ適宜換算することは技術常識(甲2)であるから,当初明細書のα波,β波,δ波に関する記載についても,かかる技術常識に基づいて適宜換算し,それぞれ「ノンレム睡眠」と「レム睡眠」に関する記載として判断すべきである。 イ前記技術常識に基づいて,当初明細書図3を参考に,同表1及び2について,脳波始点周波数及び脳波到達周波数を換算すると,脳波到達周波数の0.50Hzないし0.74Hzについてはδ波(ノンレム睡眠),脳波始点周波数の9Hz,19Hzないし38Hzについてはα・β波(レム睡眠)であることは明らかである。 なお,被告は,図3と表1及び2の記載は整合しないなどと主張するが,図3は,「睡眠治療装置における脳波」と「複合波による休止間隔の推移図」であり,表1及び2の記載とは,睡眠治療装置において整合する。被告の主張は誤りである。 ウ以上からすると,本件審決は,本願発明を特定するに当たり,当初明細書の内容及び技術常識を考慮すべきであったにもかかわらず,α波,β波,δ波の換算を怠り,本件補正について,新規事項の追加に該当するとしたものであって,誤りである。 なお,本願発明の審査過程において,引用文献と対比して審査した後に,本件審決において,事後的に脳波の周波数とα波,β波,δ波とを適宜換算するという技術常識を否定することは,手続違反にも該当するものというべきである。 (3)小括したがって,本件審決の本件補正に係る判断は誤りであるから,本件審決は取消しを免れない。 〔被告の主張〕(1)「ノンレム睡眠」及び「レム睡眠」を新規事項とした誤りについて7ア原告が指摘する当初明細書の発明の詳細な説明【0025】及び証拠(甲2)には,ノンレム睡眠とδ波誘導との関係,レム睡眠とα・β波誘導との関係は何ら記載されていない。 しかも,本件補正において,同補正発明の発明特定事項として,本件補正事項が加えられているのであるから,同発明は,ノンレム睡眠とδ波誘導及びレム睡眠とα・β波誘導とが,それぞれ何らかの関連を有するものとして記載されていると解すべきであるところ,当初明細書には,「レム睡眠」あるいは「ノンレム睡眠」を「α波」,「β波」あるいは「δ波」と関連付けた記載としては,レム睡眠直後の複合波のための周波数はδ波低域である約0.5Hzないし約0.25Hzから始まるのが好ましいことが記載されているにすぎない。 イしたがって,「ノンレム睡眠」及び「レム睡眠」は,本願発明の主要部ではないとはいえないし,δ波誘導の作用を「ノンレム睡眠」と,α・β波誘導の作用を「レム睡眠」と,一義的に構成と作用とを関連付けることが自明であるということもできない。 (2)α波,β波,δ波について換算を行わなかった判断の誤りについてア当初明細書の表1及び2には,左から2列目に脳波始点周波数としてのα・β波(レム睡眠)の数値,3列目に脳波到達周波数としてのδ波(ノンレム睡眠)の数値がそれぞれ記載されているにすぎず,原告主張の換算を裏付けることはできない。 また,当初明細書に添付された図面のうち,図3については,当初明細書の発明の詳細な説明【0035】において,「図3は,実際に睡眠中の脳波を誘導するための優勢脳波と,休止間隔の推移であり,休止間隔の帯域は約0.01-0.3Hzが用いられている」と説明されているところ,同図には,タイトルを脳波,縦軸を0ないし50Hz及び0ないし1Hzの周波数,横軸を時間とするグラフと,タイトルを複合波,縦軸及び横軸を時間とするグラフとが記載されているにすぎず,しかも,当該グラフは,上記表1及び2の記載と整合するものでもない。 8したがって,図3の記載を参考にしつつ,技術常識に基づいて,当初明細書の表1及び2の脳波始点周波数と脳波到達周波数とを換算しても,本件補正事項が明らかになるものではない。 イ以上からすると,仮に,α波,β波,δ波についてレム睡眠及びノンレム睡眠に適宜換算することが技術常識であったとしても,原告の主張は誤りであることは明らかである。 (3)小括したがって,本件審決の本件補正に係る判断に誤りはない。 第4当裁判所の判断1取消事由1(本件審決の手続違反)について(1)本件補正について本件拒絶査定は,本件補正について,本件補正事項は当初明細書に記載されたものではなく,また,自明に導かれるものということもできないと指摘した本件拒絶理由通知(甲3)を前提とするものである。 そこで,本件補正が補正要件を充足するものであったか否かについて,まず検討することとする。 ア本件補正発明においては,「脳波誘導の休止周期は,ノンレム睡眠-δ波誘導時において使用者のレム睡眠誘発を促すためのタイムラグとして呼吸周期以下を含み」との構成を有するところ,かかる構成によると,脳波誘導の休止周期は,呼吸周期以下を含むものであり,それは,「ノンレム睡眠-δ波誘導時において使用者のレム睡眠誘発を促す」ためのタイムラグとされているものである。 また,同発明は,「脳波誘導の周波数の推移終点に対してレム睡眠-α・β波誘導の呼吸周期の推移始点は,近似して成された反復手段,を備えた」との構成も有するところ,かかる構成によると,脳波誘導の周波数の推移終点に対して,「レム睡眠-α・β波誘導の呼吸周期の推移始点は,近似して成された反復手段」を有するものと解される。 9以上からすると,上記各構成は,いずれもレム睡眠,ノンレム睡眠及びα波,β波,δ波に関する特定をその内容とするから,本件補正が補正要件を充足するか否かについては,当初明細書における,レム睡眠,ノンレム睡眠及びα波,β波,δ波に関する記載を検討する必要がある。 イ当初明細書(乙1)には,レム睡眠,ノンレム睡眠及びα波,β波,δ波に関し,以下の記載がある。 (ア)特許請求の範囲【請求項21】脳波誘導方式は,脳波刺激のためのγ波からα波に推移する周波数に対して, 休止間隔のための0.4Hzから0.1Hzの範囲内で推移する周波数を複合するとともに,前記周波数の推移は,50±20秒の時間経過を要したのちに反復するとともに,さらに,反復毎に周波数帯域は推移変化したことを特徴とした脳波誘導方式【請求項22】脳波誘導方式は,脳波刺激のためのγ波からα波の周波数帯域に対して, 休止間隔のための0.9Hz-0.04Hzの範囲内の周波数帯域を複合するとともに,前記脳波刺激と前記休止間隔は,60±40秒の所要時間において推移変化し,さらに,反復するとともに,さらに,反復毎において,周波数帯域,又は,時間経過,は,推移変化したことを特徴とした脳波誘導方式【請求項23】脳波を賦活するための複合波を用いた方式であって, 前記複合波は,脳波誘導のためのγ波高域からα波低域に推移する周波数Aと,休止間隔のための0.4Hzから0.1Hzに推移する周波数Bを用いるとともに,前記周波数A-Bの推移は,45秒±15秒の時間を要するとともに,反復し,さらに,反復毎においても変化を加味するための減算を用いたことを特徴とした脳波誘導方式【請求項24】睡眠時の脳波誘導を長時間実施するための複合波を用いた脳波誘導方式であって,前記複合波は,脳波誘導のためのα波からδ波(0.5Hz)に推移する周波数Aと,休止間隔のための0.5Hzから0.01Hzに推移する周波数Bを用いるとともに,前記周波数A-Bの推移は,1ステージで80±10分の所要時10間を要するとともに,最大6回まで反復し,さらに,反復毎においてもステージに推移変化を加味したことを特徴とした脳波誘導方式【請求項25】脳波を賦活するための複合波を用いた脳波誘導方式であって,前記複合波は,脳波誘導のためのβ波前後の周波数帯域Aと,休止間隔のための0.85±0.75Hzの周波数帯域Bを用いるとともに,前記複合波は,60±40秒の時間を要して推移変化するとともに,反復し,さらに,反復毎においても相違する変化を加味するための6±4%づつ推移変化したことを特徴とした脳波誘導方式【請求項26】睡眠時に脳波誘導を長時間実施するための複合波を用いた脳波誘導方式であって,前記複合波は,脳波誘導のためのα波からδ波低域(0.5Hz)に推移する周波数Aと,休止間隔のための0.5Hzから0.01Hzに推移する周波数Bを用いるとともに, 前記周波数A-Bの推移は,1ステージで80±20分の所要時間で到達するとともに,最大6回まで反復し,さらに,反復毎においてもステージに推移変化を加味したことを特徴とした脳波誘導方式【請求項27】睡眠時のための脳波誘導手段を備えた脳波治療装置であって,脳波誘導のためのα波からδ波低域(0.5Hz)に推移する周波数Aを,脳波誘導手段を用いて脳波誘導出力するとともに,前記脳波誘導出力は,0.5Hzから0.01Hzに推移する周波数Bを複合したことによる休止間隔を有するとともに,前記周波数A-Bの推移は,1回で80±20分の時間を要して最高6回まで反復し,前記周波数A-Bはさらに6±2%づつ反復毎に加算されることを特徴とした脳波治療装置【請求項28】脳波治療装置は,脳波誘導手段,CPU本体とその内部プログラム,を備え,前記内部プログラムは,前記脳波誘導手段に対してγ-α波の脳波誘導のための周波数を脳波誘導出力するとともに,前記脳波誘導出力は,0.4Hz-0.1Hzの周波数を用いたことによる休止時間を有するとともに,前記休止時間と脳波誘導のための周波数は,50±30秒の時間経過と比例して推移するとともに,特定の範囲で反復し,さらに,前記特定の範囲は反復毎において,相違変化するため11の推移を加味したことを特徴とした脳波治療装置【請求項30】脳波治療装置は,脳波誘導手段,CPU本体とその内部プログラム,を備え,前記内部プログラムは,前記脳波誘導手段に対してβ-δ波のパルス波を出力するとともに,前記パルス波は,前記脳波誘導のための周波数に対して,呼吸数以下の休止時間を用いるための0.5-0.011Hzの周波数帯域を複合したことによる複合波形であるとともに,前記休止時間と脳波誘導のための周波数は,80±20分のステージの所要時間において推移変化するとともに,前記推移変化は,最大で6回のステージのための反復を行うとともに,さらに,反復毎においても前記周波数帯域が推移変化したことを特徴とした脳波治療装置【請求項31】脳波治療装置は,脳波誘導手段,CPU本体とその内部プログラム,を備え,前記内部プログラムは,前記脳波誘導手段に対してβ-δ波のパルス波を出力するとともに,前記パルス波は,前記脳波誘導のための周波数に対して,呼吸数以下の休止時間を用いるための0.5-0.01Hzの周波数帯域を複合したことによる複合波形であるとともに,前記休止時間と脳波誘導のための周波数は,80±20分のステージの所要時間において推移変化するとともに,前記推移変化は,最大で6回のステージのための反復を行うとともに,さらに,反復毎においても前記周波数帯域が推移変化するとともに,前記脳波誘導手段は,光刺激装置,ならびに音波刺激装置,ならびに電気刺激装置,とを複数接続できる出力端末を備え,前記パルス波を受けて,それぞれの刺激装置に適した波形に加工出力するための電圧電流の増幅回路を備えることを特徴とした脳波治療装置【請求項37】請求項32-35のいずれかに記載のサブリミナル学習システムにおいて,前記第1段階と前記第2段階は,それぞれ2回行うとともに,前記脳波誘導のための周波数は,第1段階の1回目はθ波前後,その2回目はδ波前後,第2段階の1回目はβ波前後,その2回目はα波前後であることを特徴としたサブリミナル学習システム(イ)発明の詳細な説明12a脳波誘導のための周波数を決定する際においては,θ波を用いると眠くなることがある。そのため,δ波,又はα波低域を代わりに用いることも可能であるが,利用者が十分に睡眠を取っておけば,この問題を回避することもできる。また,表示端末の仕様によってはチラツキが生じる問題があるが,具体的には実施例6で解説する(【0022】)。 b以下は睡眠時において脳波誘導を行う際の問題点と,脳波誘導方式について説明したものである。 入眠時から起床時までの睡眠中の脳波の状態は,深い眠りと浅い眠りを5回前後反復するステージがあり,さらに1回のステージは90分前後を要し,浅い眠りのためのレム睡眠と深い眠りのためのノンレム睡眠を約1:4の割合で構成されており,ステージ反復時に現れるレム睡眠の段階では,体内活動が急激に上昇し,脳波とともに呼吸数も高くなることが一般的に知られている。 そこで,脳波周波数に対して関係性を有する呼吸数の近似値以下の周波数を複合することで,脳波誘導の休止間隔を決定する。脳波誘導の実施時間は,脳波のための周波数が高くなるほど疲労しやすくなるため,実施間隔は前述の呼吸数以下という条件に加えて,連続的な刺激にならないように決定すべきである。また,睡眠中の呼吸数は,ノンレム睡眠時には約0.2Hz,レム睡眠時には約0.4Hzであるが,脳波誘導の実施時間と休止時間のそれぞれに適用することを考慮すれば,さらに1/2でも良い(実施例7参照)。 次に,ノンレム睡眠時の問題点を示す。 一般的に,レム睡眠とノンレム睡眠の平均的な割合は約1:4であるが,レム睡眠においてはノンレム睡眠の最も深い眠りの状態から突然始まるため,シミュレートされた脳波誘導においては,レム睡眠の誘発時間が実際には前後しなければならない。むしろ,ノンレム睡眠においては脳波誘導の効果量を最低値にして長めに取り,レム睡眠を自然誘発させることが望ましい。 また,レム睡眠の脳波誘導開始時においては,無造作なタイミングによる睡眠妨13害になる可能性があるため,直前の脳波周波数の推移を,休止間隔,又は複合波にそのまま継承することによって,人間工学的に軽減することが可能である。つまり,レム睡眠直前の脳波が約0.5Hz(δ波低域)であるので,レム睡眠直後の複合波のための周波数は約0.5Hz,ないし,約0.25Hzから始まるのが好ましい。 よって,実質レム睡眠時の脳波誘導は前半のラグを想定して,1:7±2でも良いと考えることができる。 また,睡眠時間の経過に伴い,覚醒レベルは徐々に高くなるので,脳波周波数,呼吸周波数の推移は,全体的に上昇しなければならない。 図3は,実際に睡眠中の脳波を誘導するための優勢脳波と,休止間隔の推移であり,休止間隔の帯域は約0.01-0.3Hzが用いられている(【0024】,【0025】,【0030】〜【0035】)。 c次の表1と表2は,7日間で反復する場合において,1日目と7日目の各ステージにおける脳波始点周波数,脳波到達周波数,休止間隔始点周波数,休止間隔終点周波数,ステージ時間(レム睡眠時間)を示す(【0038】)。 d光刺激の効果は,それに対する生体の反応が遅いため,β波のような高域の周波数になると実効率は著しく低下するものと思われる。 光刺激は,β波以上の高周波数は,点滅しているのが解らないため,効果が低い場合がある。また,低周波においては,光点灯時間が一定の場合には効果が殆ど消14えてしまうため,点灯時間は休止時間との比率から決定しなければならない。LEDを使用する場合は,有効電圧が4±2ボルト程度であるため,2ボルト程度のバイアス電圧を付加するか,あるいは波形の高さに最大出力時の1/3を付加する。 脳波誘導の実効率は,β波以下であれば2番目に高い(【0042】,【0048】)。 e起床直後の脳波は,まだ眠っている状態であり,適切な覚醒状態を促すために,α波より高い波長レベルによる最終的な誘導段階を設けるべきである。最終的な誘導段階では,γ波,β波,α波が満遍に刺激されるのが望ましい。 また,脳波誘導装置による脳波への連続的な刺激は,神経的な負担となり不快感を与えるため,あまりストレスにならないように呼吸動作の間隔と同調して休止時間を設けることにより,この問題を回避する必要がある。さらに厳密には,呼吸動作が予測できない状況であれば呼吸数以下の間隔を用いる。図6は,起床時において脳波誘導を万遍に行うことにより,脳波を賦活させるための実施間隔である。睡眠時においては,レム睡眠時とノンレム睡眠時には呼吸,心拍数ともに大きく変化することも考慮しなければならない。図7は実際にこの方法を用いて導いた脳波と休止間隔の推移である(【0055】,【0056】)。 fなお,【図1】ないし【図11】には,レム睡眠,ノンレム睡眠及びα波,β波,δ波に関する直接的な記載はない。 ウ前記イのとおり,当初明細書には,「レム睡眠」,「ノンレム睡眠」及び「α波」,「β波」,「δ波」について,それぞれ記載されているが,いずれの記載も,脳波誘導,脳波刺激と「α波」,「β波」,「δ波」の関係に関する記載や,「レム睡眠」,「ノンレム睡眠」に関する説明に係る記載にすぎない。 「レム睡眠」,「ノンレム睡眠」と,「α波」,「β波」,「δ波」とを関連付けた記載としては,発明の詳細な説明【0033】に「レム睡眠直前の脳波が約0.5Hz(δ波低域)であるので,レム睡眠直後の複合波のための周波数は約0.5Hz,ないし,約0.25Hzから始まるのが好ましい。」との記載があるが,これは,レ15ム睡眠直後の複合波のための周波数について,好ましい範囲を開示するものにすぎない。 したがって,本件明細書において,「レム睡眠」,「ノンレム睡眠」及び「α波」,「β波」,「δ波」に関する個別の記載は存在するが,本件補正事項,すなわち,「脳波誘導の休止周期は,呼吸周期以下を含むものであり,それは「ノンレム睡眠-δ波誘導時において使用者のレム睡眠誘発を促す」ためのタイムラグとしてのものであること」及び「脳波誘導の周波数の推移終点に対する「レム睡眠-α・β波誘導の呼吸周期の推移始点は,近似して成された反復手段」を備えるものであること」についても開示し,あるいはこれらを示唆する記載は見当たらない。 エ以上からすると,当初明細書には,本件補正事項に関する記載はなく,また,これを示唆する記載もないから,本件補正は,当初明細書に記載した範囲内においてしたものではないといわざるを得ない。 したがって,本件補正が,法17条の2第3項の要件を満たしていないとした本件審決の判断には,誤りはない。 この点について,原告は,本件審決は,「「レム睡眠」あるいは「ノンレム睡眠」を「α波」,「β波」あるいは「δ波」と関連付けた記載」について検討しており,これは,本件拒絶査定の漠然とした判断とは異なり,具体的な事項を付加して判断しているから,新たな拒絶理由について判断したものであるなどと主張する。 しかしながら,本件拒絶査定も,本件補正事項は,当初明細書に記載されておらず,自明に導かれることでもないことを理由とする(甲3,乙3)のであるから,本件審決と本件拒絶査定の判断とは,同一の理由に基づくものである。 本件審決は,本件補正事項が,いずれも「ノンレム睡眠」,「レム睡眠」と,「α波」,「β波」,「δ波」とを関連付けた技術思想を有することから,当初明細書において,上記各事項が開示されているかを検討する際,「ノンレム睡眠」,「レム睡眠」と,「α波」,「β波」,「δ波」とを関連付けた技術思想の有無を確認したものにすぎない。 16以上からすると,原告の主張は,その前提自体が誤りであって,採用できない。 (2)小括したがって,原告主張の取消事由1は,理由がない。 2取消事由2(本件補正に係る判断の誤り)について(1)「ノンレム睡眠」及び「レム睡眠」を新規事項とした誤りについて本件補正事項は,本件補正発明の特許請求の範囲の記載について,追加された構成であるから,同発明の内容を特定する技術事項である。 そして,取消事由1において先に述べたとおり,本件補正事項は,当初明細書により開示されていた事項ということはできないから,「ノンレム睡眠」及び「レム睡眠」について,同発明の作用効果にすぎず,周知技術であるとする原告主張は,その前提自体が誤りである。 この点について,原告は,「ノンレム睡眠」及び「レム睡眠」は,当業者にとって周知事項(甲2)であるし,当初明細書の発明の詳細な説明【0025】の記載あるいは【0033】の「レム睡眠の直前の脳波が約0.5Hz(δ波低域)」などからすると,当業者がレム睡眠,ノンレム睡眠と,α波,β波,δ波とを関連付けて,本件補正事項について理解することは自明であるなどと主張する。 しかしながら,原告指摘の医学事典(甲2)には,「レム睡眠」,「ノンレム睡眠」及び「脳波」についての解説が記載されているところ,同文献によると,睡眠時の脳波においてはδ波(0.5ないし3.5Hz)が支配的になるが,覚醒時はα波(8ないし13Hz),β波(14ないし25Hz)が現われるものであり,また,ノンレム睡眠時はθ波(4ないし7Hz),δ波が見られ,レム睡眠時は海馬にθ波が認められるということができるものの,本件補正事項,すなわち,「ノンレム睡眠-δ波誘導時において使用者のレム睡眠誘発を促す」こと及び 「レム睡眠-α・β波誘導の呼吸周期の推移始点は,近似して成された反復手段」であることについての記載はないのであるから,同文献をもってしても,本件補正事項が,当初明細書に接した当業者にとって,自明な事項であるということはできない。 17また,上記【0025】には,睡眠中の脳波の状態は,浅い眠りのためのレム睡眠と深い眠りのためのノンレム睡眠を反復するステージがあり,ステージ反復時に現れるレム睡眠の段階では,脳波とともに呼吸数も高くなることが開示されているにすぎず,本件補正事項に関する記載とは認められない。 さらに,上記【0033】の記載は,取消事由1において先に指摘したとおり,レム睡眠直後の複合波のための周波数について好ましい範囲を開示するものにすぎず,本件補正事項に関する記載とは認められない。 原告の主張は採用できない。 (2)α波,β波,δ波について換算を行わなかった判断の誤りについて本件補正発明において,本件補正事項に係る「ノンレム睡眠-δ波誘導時において使用者のレム睡眠誘発を促す」こと及び「レム睡眠-α・β波誘導の呼吸周期の推移始点は,近似して成された反復手段」であることについて,α波,β波,δ波の脳波の周波数を換算することにより,ノンレム睡眠,レム睡眠と何らかの関連を認めることができるとする原告主張を前提としても,既に述べたとおり,本件補正事項については,当初明細書に関連する記載が存在しないのであるから,同事項が新規事項に該当するとの判断を左右するものではない。 また,原告指摘の文献(甲2)においても, 本件補正事項が技術常識であるということができないことは,先に指摘したとおりである。 以上からすると,α波,β波,δ波について換算を行わなかった本件審決の判断に,誤りはない。 この点について,原告は,技術常識に基づいて,当初明細書の表1及び2の脳波始点周波数と脳波到達周波数とを換算して解釈すると,本件補正事項については,脳波到達周波数の0.50Hzないし0.74Hzはδ波(ノンレム睡眠),脳波始点周波数の9Hz,19Hzないし38Hzはα・β波(レム睡眠)との技術事項と合致しており,自明であるなどと主張する。 しかしながら,原告が睡眠治療装置に係るものと主張する同表1及び2の記載か18らすると,「脳波始点周波数」が,1日目に9ないし38Hz,7日目に9ないし34Hz,「脳波到達周波数」が,1日目に0.50ないし0.74Hz,7日目に0.49ないし0.73Hzであることが記載されているにすぎず,脳波始点周波数,脳波到達周波数がそれぞれどのような意味を有するのか自体,当初明細書からは不明である。 しかも,上記各表には,δ波(0.5ないし3.5Hz)未満の周波数や,β波(14ないし25Hz)以上の数値も記載されており,これらはいずれもα波,β波,δ波に属さないものである。 以上からすると,上記各表により,本件補正事項が開示されているものということはできない。 また,原告は,本願発明の審査過程において引用文献と対比して審理をしておきながら,事後的に,脳波の周波数と,α波,β波,δ波を適宜換算するという技術常識を否定することはできないとも主張する。 しかしながら,審査の過程において,引用文献と対比して判断することがあったとしても,補正により追加された事項が,当初明細書の全ての記載を総合することにより導かれる技術事項との関係において,新たな技術事項と認められるか否かに関する判断に際しては,補正事項との関係において別途判断されるべきものであることはむしろ当然である。 したがって,本件補正事項が,補正要件を充足しているか否かの判断に当たり,当初明細書において開示されている技術事項について判断した本件審決の手法に,誤りはない。 原告の主張は採用できない。 (3)小括したがって,原告主張の取消事由2も,理由がない。 3結論以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。 19 |
裁判長裁判官 | 滝澤孝臣 |
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裁判官 | 本多知成 |
裁判官 | 荒井章光 |