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関連審決 無効2005-80065
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審判番号(事件番号) データベース 権利
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事件 平成 17年 (ワ) 2649号 特許権侵害差止等請求事件
原告 コニシ株式会社
訴訟代理人弁護士 井上洋一坂口博信
訴訟代理人弁理士 奥村茂樹
被告 アイカ工業株式会社
訴訟代理人弁護士 三木浩太郎
訴訟代理人弁理士 足立勉
補佐人弁理士 毛利大介
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2006/07/20
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は,別紙物件目録記載の製品(以下「被告製品」という )を製造し,。
販売し,又は販売の申出をしてはならない。
2 被告は,原告に対し,27万7200円及びこれに対する平成17年3月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は,発明の名称を「水性接着剤」とする後記特許権を有する原告が,被() , 告による被告製品 水性接着剤 の製造販売は同特許権を侵害すると主張して被告に対し,被告製品の製造販売の差止めを求めるとともに特許権侵害不法行為に基づく損害賠償(訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を含む)を請求している事案である。 。
1 前提事実(末尾に証拠の掲記のない事実は当事者間に争いがない )。
( ) 原告は,次の特許権〔以下 「本件特許権」といい,その特許を「本件 1 ,特許」と,本件特許の請求項1の発明を「本件発明」と,本件発明に係る明細書(平成14年法律第24号による改正前の「特許請求の範囲」を含む明細書である )を「本件明細書」という 〕を有している。 。。
特 許 番 号 第3522729号発 明 の 名 称 水性接着剤出 願 日 平成14年2月4日公 開 日 平成14年10月31日(「 」 。) 優 先 日 平成13年2月16日 以下 本件優先日 という登 録 日 平成16年2月20日特許請求の範囲 【請求項1】シード重合により得られる酢酸ビニル樹脂系エマルジョンからなり且つ可塑剤を実質的に含まない水性接着剤であって,測定面が金属製の円錐-,,. 円盤型のレオメーターを用い 温度23℃ 周波数01Hzの条件でずり応力を走査して貯蔵弾性率G′を測定したとき,その値がほぼ一定となる線形領域における該貯蔵弾性率G′の値が120〜1500Paであり,且つ測定面が金属製の円錐-円盤型のレオメーターを用い,温度7℃の条件でずり速度を0から200(1/s)まで60秒間かけて一定の割合で上昇させてずり応力τを測定したとき,ずり速度200(1/s)におけるずり応力τの値が100〜2000Paである水性接着剤 ( 請求項2】ないし【請求項 。【5】省略)( ) 本件発明は,次の構成要件に分説するのが相当である。 2A シード重合により得られるB 酢酸ビニル樹脂系エマルジョンからなり且つC 可塑剤を実質的に含まないD 水性接着剤であって,E 測定面が金属製の円錐-円盤型のレオメーターを用い,温度23℃,周波数0.1Hzの条件でずり応力を走査して貯蔵弾性率G′を測定したとき,その値がほぼ一定となる線形領域における該貯蔵弾性率G′の値が120〜1500Paであり,F 且つ測定面が金属製の円錐-円盤型のレオメーターを用い,温度7℃の条件でずり速度を0から200(1/s)まで60秒間かけて一定の割合で上昇させてずり応力τを測定したとき,ずり速度200(1/s)におけるずり応力τの値が100〜2000Paである水性接着剤。
なお,以下,一般的な貯蔵弾性率G′及びずり応力τと区別する趣旨で,測定面が金属製の円錐-円盤型のレオメーターを用い,温度23℃,周波数0.1Hzの条件でずり応力を走査して貯蔵弾性率G′を測定したとき,その値がほぼ一定となる線形領域における該貯蔵弾性率G′の値を「貯蔵弾性率G′a ,測定面が金属製の円錐-円盤型のレオメーターを用い,温度7 」℃の条件でずり速度を0から200(1/s)まで60秒間かけて一定の割合で上昇させてずり応力τを測定したとき,ずり速度200(1/s)におけるずり応力τの値を「ずり応力τa」ともいう。
( ) 無効審判請求及び訂正審判請求の経緯 3被告が請求人となり,原告を被請求人として提起した本件特許の請求項1ないし5に係る発明についての無効審判請求事件(無効2005-80065)において,平成18年3月7日,本件特許を無効とする旨の審決がなされた(乙26 。原告は,同審決の取消しを求めて知的財産高等裁判所に審 )決取消訴訟を提起した(甲34 。)原告は,平成18年4月7日付けで,特許法126条1項1号(特許請求の範囲減縮 ,同条項2号(誤記の訂正 ,同条項3号(明りょうでない ))記載の釈明)を理由とする訂正審判請求を行った後,更に同年5月8日付け, ( ,。, で 特許請求の範囲減縮する訂正審判請求を行った 甲29 35 以下最後の訂正審判請求を「本件訂正審判請求」といい,その訂正審判請求書に()「」 添付された訂正明細書 甲第35号証添付訂正明細書 を 本件訂正明細書という 。本件訂正明細書における本件発明の特許請求の範囲は次のとお 。)りである(下線部は本件訂正審判請求における訂正箇所 。)重合開始剤として過酸化水素を用いシード重合により得られる酢酸ビニル樹脂系エマルジョンからなり且つ可塑剤を実質的に含まない水性接着剤であって,測定面がチタン製円錐-ステンレス製円盤型のレオメーターを用い,温度23℃,周波数0.1Hzの条件でずり応力を走査して貯蔵弾性率G′を測定したとき,その値がほぼ一定となる線形領域における該貯蔵弾性率G′の値が230〜280Paであり,且つ測定面がチタン製円錐-ステンレス製円盤型のレオメーターを用い,温度7℃の条件でずり速度を0から200(1/s)まで60秒間かけて一定の割合で上昇させてずり応力τを測定したとき,ずり速度200(1/s)におけるずり応力τの値が1200〜1450Paである水性接着剤。
( ) 被告の行為4被告は,商品名「アイカエコエコボンドA-1400」のうち,ロット番号C034181031及びD054122042の水性接着剤を,業として製造販売していた(甲5,6,弁論の全趣旨 。)2争点( ) 本件特許は以下の各事由により特許無効審判により無効とされるべきも 1のであり,特許法104条の3第1項により本件特許権に基づく権利行使は許されないか。
ア 本件明細書は,構成要件Eの貯蔵弾性率G′及び構成要件Fのずり応力τの数値を調整する具体的手段について,当業者が実施できるように記載(() されているか 特許法等の一部を改正する法律 平成14年法律第24号による改正前の特許法 以下 改正前特許法 という 36条4項 争 (「 」 。))。(点1)イ 本件明細書は,貯蔵弾性率G′及びずり応力τの所定の数値と押し出し性や垂れ性について所望の効果が得られることとの関係についていわゆるサポート要件を具備しているか(特許法36条6項1号 (争点2))。
ウ 本件発明の特許請求の範囲(請求項1)は,構成要件Eを満たさず,本件発明の効果を奏せず,本件発明の課題を解決することができないものを含み,未完成発明といえるか(特許法29条1項柱書 (争点3))。
エ 本件明細書の発明の詳細な説明は,ずり応力τの値と,押し出し性や耐垂れ性という課題との関係について,当業者が本件発明の技術的意義を理解するために必要な事項が記載されているといえるか(改正前特許法36条4項 (争点4))。
「」 。 オ 構成要件F中の 温度7℃の条件でとの記載が技術的に明瞭であるかまたこの点について,本件明細書の発明の詳細な説明に当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているか(特許法36条6項1,2号,改正前特許法36条4項 (争点5))。
カ 本件特許の補正手続は出願当初の明細書に記載した事項以外の事項を追加したもので違法であるか(改正前特許法17条の2第3項 (争点6))。
,() キ 本件発明は 本件優先日前に頒布された刊行物 乙2の5及び乙2の6に開示された技術と同一であり,かつ,公然実施されていた発明であるか(特許法29条1項 (争点7))。
ク 本件発明は,本件優先日前に頒布された刊行物(乙2の6)に開示された技術に基づき,当業者が容易に発明できるものであるか (争点8)。
ケ 本件発明は,本件優先日前に公然知られ公然実施され,刊行物に記載され頒布された被告製造に係る水性接着剤(商品名アイカアイボンA-370。以下「A-370」という )に基づき当業者が容易に発明できたも 。
のであるか (争点9)。
コ 本件発明は,本件優先日前に被告が製造していた水性接着剤(商品名アイカアイボンA-1400。以下「A-1400」という )と同一であ。
るか,又は同水性接着剤に基づき当業者が容易に発明できたものであるか(特許法29条1項,2項 (争点10))。
,() ( ) 被告は 本件優先日前に被告が製造していた水性接着剤 A-1400 2について,特許法79条所定の先使用による通常実施権を有するか (争点。
11)( ) 被告製品は本件発明の技術的範囲に属するか (争点12) 3 。
( ) 原告の損害(争点13) 4
争点に関する当事者の主張
1 争点1(本件明細書は,構成要件Eの貯蔵弾性率G′及び構成要件Fのずり応力τの数値を調整する具体的手段について,当業者が実施できるように記載されているか(改正前特許法36条4項 )について)【被告の主張】( ) 本件明細書の発明の詳細な説明には,構成要件E及びFを実現する方法 1についての具体的な記載がなく,本件発明を当業者がその実施をすることができるように記載されているということはできないから,本件明細書は改正前特許法36条4項に規定する要件を満たさず,本件特許は同法123条1項4号に該当する無効事由がある。
( ) すなわち,本件明細書の段落【0007】には「…シード重合により得 2られる酢酸ビニル樹脂系エマルジョンからなる水性接着剤であっても,貯蔵弾性率G′とずり応力τを特定の範囲に調整すると,ノズル付き容器に充填した場合,冬場であっても手で容易に押し出すことができるだけでなく,比較的高温下で垂直面に適用した場合でも垂れにくいことを見い出した 」と。
記載され,段落【0046】には「貯蔵弾性率G′及びずり応力τは,シードエマルジョンの種類や添加量,シード重合に用いる酢酸ビニルの添加量,前記酢酸ビニル以外の重合性不飽和単量体の種類,添加量,添加時期及び添加方法,保護コロイドや界面活性剤の種類及び添加量,重合開始剤(触媒)の種類,添加量,添加時期及び添加方法,前記添加剤の種類や添加量,重合,。, 温度 重合時間などの重合条件を適宜選択することにより調整できる 特にG′a及びτaを前記所定の範囲にするためには,重合開始剤の種類,添加量,添加時期及び添加方法,保護コロイドや界面活性剤の種類及び添加量などが重要であるが,これらに限らず,上記の種々条件を適宜選択することにより,G′a及びτaを前記所定の範囲内に調整することが可能である 」。
と記載されているが,上記記載において多数挙げられた諸要素を具体的にどのように調整すれば,貯蔵弾性率G′a及びずり応力τaの値を本件請求項の数値範囲内に調整できるかについては何ら記載がない。上記のような多数の要素の組合せについて,貯蔵弾性率G′a及びずり応力τaのそれぞれを所定の範囲内とする調整方法を見いだすためには膨大な実験が必要となり,到底当業者が行い得るものでない。
( ) 本件明細書に記載されている本件発明の実施例は,上記多数の諸要素を 3組み合せたものがわずか3つ記載されているにすぎず,かつ同実施例は構成要件E及びFのごく一部に止まる。すなわち,構成要件Eの内容たる「貯蔵弾性率G′の値が120〜1500Pa」のうち230〜280Paの範囲内,構成要件Fの内容たる「ずり応力τの値が100〜2000Pa」のうち1200〜1450Paの範囲内に止まる。
( ) さらに,上記各実施例は,いずれも酢酸ビニル以外のモノマー〔n-ブ 4チルアクリレート(BA 〕を配合したものであり,酢酸ビニル以外のモノ )マーを配合しない水性接着剤についての実施例が全く記載されていない。したがって,酢酸ビニル以外のモノマーを配合しない水性接着剤については,より一層,当業者による実施が不可能である。
( ) 原告は,本件発明の構成要件E及びFは,本件明細書の実施例を追試す 5ることにより容易に実施でき,また段落【0046】を参考にすることにより,貯蔵弾性率G′a及びずり応力τaの値を適宜調整することが可能であると主張する。
しかし,本件発明では,貯蔵弾性率G′aとずり応力τaという調整すべきパラメータが2つ存在しており,このようにともにレオロジーのパラメー,,【】 タであって 相互に関連性があるものの場合 本件明細書の段落 0046に挙げられた諸要素を変化させると,2つのパラメータが両方とも変化してしまうのが通常である。そのため,2つのパラメータのそれぞれを所望の値に調整することは非常に困難である。
したがって,本件発明においては,貯蔵弾性率G′aとずり応力τaという2つのパラメータを,同時に,実施例1ないし3以外の所望の値に調整する具体的な手段が記載されなければ,単に本件明細書の実施例及び技術常識参酌しても実施可能ということはできない。
原告は,数十回の試行錯誤によって貯蔵弾性率G′aとずり応力τaを調整し得るとも主張するが,本件明細書に具体的な調整手段が全く記載されていない以上,2つのパラメータを同時に所望の値に調整することは,数十回程度の試行錯誤では不可能であり,それ以上の膨大な実験が必要である。このように当該発明を実施するために,当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤や複雑な実験等を行わせる必要がある場合は,当該明細書の記載は実施可能要件を欠如するというべきである。
さらに,原告は,被告による追試は,乙第2号証の5(昭61-252280号公開特許公報。以下「乙2の5公報」という )及び同号証の6(特 。
。「 」 。) 開2000-302809号公開特許公報 以下 乙2の6公報 というの追試に該当せず,むしろ本件明細書の段落【0046】を参考にして,保護コロイドの種類及び量,重合開始剤(触媒)の量を変更したものである旨主張する。
,,, 被告は 後記7記載のトレース品C-6Y C-22Yを乙2の5公報にK-14Y,K-16Y,K-19Yを乙2の6公報にそれぞれ記載されている特許発明実施品であると主張しているのではなく,その開示する技術内容に属するものであると主張していることは,後記7のとおりである。すなわち,保護コロイドであるポリビニルアルコール(以下「PVA」ともいう )の種類,保護コロイドの量,重合開始剤の種類及び量は,いずれも乙 。
2の5公報と乙2の6公報に記載があり,これらのトレース品は,各公報の記載に基づき,実施例を変更したものであって,本件明細書を参考にしたものではない。
他方,本件明細書の段落【0046】には,保護コロイドの種類,保護コロイドの量及び重合開始剤(触媒)の量については何ら具体的に記載されていない。
したがって,上記トレース品は本件明細書の段落【0046】を参考にして実現したものであるとの原告の主張は推測にすぎない。
さらに,原告は,被告が本件発明の技術的範囲に属する被告製品を現に製造販売しているから,その実施が可能であるとも指摘するが,被告製品は,被告が独自に開発した製造方法により製造したものである。そもそも,本件明細書には,本件明細書の実施例の範囲外の大部分については,これを実施できるように記載されていないのであるから,本件明細書の実施例以外の水,。 性接着剤を製造することについて 本件明細書の記載は何ら参考にならないまた,被告製品は,本件明細書の実施例とは異なるものであるから,原告の上記主張は反論たり得ない。
また,被告は,実施例が3つであることをもって記載不備の理由としているものではない。本件発明のようにその技術的範囲が極めて広範である場合には,発明の内容をより具体的に把握できるように内容の異なる実施例を多数挙げて当該発明の技術的範囲全般を裏付けるべきであるのに,ごく一部の記載しかない点をもって,記載不備であると主張しているのである。
原告の「記載要件違反が存しても,結果的に本件発明の技術的範囲に属するものが製造されていれば足りる 」との主張は問題のすり替えである。 。
【原告の主張】( ) 本件発明の構成要件E及びFに関しては,当業者であれば,本件明細書 1の実施例1ないし3(段落【0055】ないし【0057 )及び比較例の】記載と,発明の詳細な説明の段落【0024】及び【0046】の記載を総合的に照らし合わせれば,少なくとも数回ないしは数十回の試行錯誤によって,容易に貯蔵弾性率G′aとずり応力τaとを調整し得る。
すなわち,本件明細書のこれらの記載によれば,重合開始剤の添加方法が従来技術との大きな差であることが認められるのであるから,当業者は重合開始剤の添加方法によって,どのように貯蔵弾性率G′a及びずり応力τaが変動するかを検討する。重合開始剤の添加方法が異なるだけで他の因子が同一のものは,実施例1と比較例2である。重合開始剤の一括添加と連続添加を組み合わせた実施例1によれば,重合開始剤を連続添加するだけの比較例2に比べて,貯蔵弾性率G′aは高くなり,ずり応力τaは低くなることが分かる。一般に,シード重合で得られたエマルジョンは,貯蔵弾性率G′が低く,ずり応力τが高いという構造上の特徴を有しているが,シード重合の際に重合開始剤の添加方法を工夫することにより,従来のものと異なった構造のエマルジョンを設計し得ることが分かるのである。したがって,重合開始剤の添加方法は,本件発明における貯蔵弾性率G′aとずり応力τaに大きく関係することは当業者であれば直ちに分かる。
次に,本件明細書の段落【0046】に記載されている主たる変動要因の因子は,保護コロイドである。保護コロイドとは,実施例及び比較例ではPVAのことを意味している。PVAの種類のみが異なる例は,比較例2と比較例3である。この両者を対比すると,比較例2に比べて,比較例3のほうが分子量の小さいPVAを用いていることが分かる(PVA B-05は重合度500のポリビニルアルコールであり,PVA B-17は重合度1700のポリビニルアルコールである 。そうすると,分子量の小さい保護 。)コロイドを用いると,貯蔵弾性率G′a及びずり応力τaともに,低くなることが分かる。
また,本件明細書の段落【0046】に記載されている主たる変動要因の因子は,界面活性剤である。界面活性剤は,実施例及び比較例に直接記載されてはいないが,EVAエマルジョンに含まれていることは,当業者の技術常識である。すなわち,EVAエマルジョンは乳化重合により製造されるものであるため,基本的に界面活性剤である乳化剤が含まれている。そして,乳化剤の種類及び量は,製造会社のノウハウとされており,一般には公開されていないが,製造会社各社によって異なるものが用いられている。EVAエマルジョンのみが相違する実施例1と実施例2を比較すると,実施例1のほうが,実施例2に比べて貯蔵弾性率G′aが高く,ずり応力τaが低くなっている。したがって,界面活性剤としては,実施例1で使用した界面活性剤のほうが,実施例2で使用した界面活性剤よりも本件発明の課題に沿うものであることが分かる。
また,重合開始剤の種類による貯蔵弾性率G′a及びずり応力τaの変動を理解するためには,重合開始剤の種類のみが異なる例を対比する必要がある。重合開始剤の種類が異なるのは,ペルオキソ2硫酸アンモニウムを使用している比較例1と過酸化水素を使用している比較例2である。また,比較例1のほうが大きい分子量の保護コロイドを用いており,本来,貯蔵弾性率G′a及びずり応力τaが高くなるはずであるのに,ずり応力τaは高くなっているものの,貯蔵弾性率G′aは低くなっている。貯蔵弾性率G′aを,, 高くすることが本件発明の課題に沿うものであるから 重合開始剤としてはペルオキソ2硫酸アンモニウムよりも,過酸化水素を用いたほうが好ましいことが分かる。このことは,本件明細書の段落【0022】と符合する。
このように,当業者は,重合開始剤の添加方法,保護コロイド及び界面活性剤の種類といった各因子の変更が,貯蔵弾性率G′a及びずり応力τaにどのような影響を及ぼすかについて本件明細書の記載に基づき十分理解し得るのである。
したがって,本件明細書には,構成要件E及びFを実現ないし調整するための具体的手段が記載されており,その記載に基づいて当業者が本件発明を容易に実施し得るものである。
( ) 被告が乙2の5公報及び乙2の6公報記載の特許発明実施例の追試と 2,,,, 称して作成したトレース品C-6Y C-22Y K-14Y K-16YK-19Yは,これらの特許発明の追試に相当するものではない。つまり,これらはエチレン-酢酸ビニル共重合体エマルジョンをシードエマルジョンとして,酢酸ビニルモノマーを重合するという基本技術に基づき種々の変更を施したものである。そして,この変更は,先行技術を参考にしたというよりも,むしろ本件明細書の記載を参考にしたものと解されるのである。なぜなら,変更を施した後記7記載の相違点A1,A3及びB1は保護コロイド,【】 の種類及び量を変更したものであるがこれは本件明細書の段落 0046に記載されている。また,後記7記載の原告が主張する相違点A6及び相違点B5は,重合開始剤(触媒)の量を変更したものであるが,これも本件明細書の段落【0046】に記載されている。すなわち,これらの追試実施品は,本件明細書の記載を参考にして本件発明の構成要件E及びFを実現ないし調整したものということができる。
上記各トレース品の番号が飛び番になっているのは,欠番についてはうまく製造できなかったものと推定されることによれば,本件発明は,数回ないしは数十回の試行錯誤によって,当業者が容易に実施し得るものであるということができる。
( ) また,被告は,本件発明の技術的範囲に属する被告製品を製造販売して 3おり,この点からも,本件発明は本件明細書の記載に基づいて当業者が容易になし得るものであるということができる。
( ) 本件明細書では原告が最良と思う実施例が3つ挙げられており,実施例 4の記載が3つであることを理由とした本件明細書は実施可能要件を欠如するとの被告の主張は失当である。
( ) また,被告は,実施例にはいずれもn-ブチルアクリレートを配合した 5もののみが記載されており,n-ブチルアクリレートが配合されていない実施例が記載されていないから,当業者はn-ブチルアクリレートを配合せずに本件発明を容易に実施することはできないとも主張している。
しかし,本件発明の技術的範囲に属する被告製品にはn-ブチルアクリレ,,。, ートが配合されておらず 被告は容易にこれを製造し 販売している またトレース品C-6Y及びC-22Yにはn-ブチルアクリレートが配合されていないが,被告は容易に本件発明の技術的範囲に属する水性接着剤を得ている。
( ) 以上のように,被告が被告製品やトレース品等を製造していることにも 6よれば,本件明細書は,当業者が容易に本件発明を実施し得るように記載されており,改正前特許法36条4項に規定する実施可能要件を満たすものである。
2 争点2(本件明細書は,貯蔵弾性率G′及びずり応力τの所定の数値と押し出し性や垂れ性について所望の効果が得られることとの関係についていわゆるサポート要件を具備しているか(特許法36条6項1号 )について)【被告の主張】( ) 本件特許は,いわゆるパラメータ特許であるので,特許請求の範囲の記 1,, 載が明細書のサポート要件に適合するためには 発明の詳細な説明においてパラメータの範囲と得られる効果(性能)との関係の技術的な意味が,特許出願時において具体例の開示がなくとも当業者に理解できる程度に記載するか,又は特許出願時の技術常識参酌して,当該パラメータの範囲内であれば,所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に,具体例を開示して記載することを要する。
( ) しかしながら,本件明細書は,サポート要件に適合していない。 2ア まず,貯蔵弾性率G′aを120〜1500Paの範囲に設定し,ずり応力τaを100〜2000Paという範囲に設定することと,押し出し性や垂れ性という効果との関係の技術的な意味が,本件明細書に,具体例の開示がなくとも当業者に理解できる程度に記載されているとは認められない。
イ 本件明細書において,貯蔵弾性率G′aやずり応力τaと,押し出し性や垂れ性という効果との関係を具体的に示すように見えるものは,実施例1ないし3と比較例1ないし3のみである。実施例1ないし3における貯蔵弾性率G′aの値は,230〜280Pa,ずり応力τaの値は,1200〜1450Paという非常に狭い範囲にあり,それぞれ構成要件Eの120〜2000Pa及び構成要件Fの100〜2000Paという広大な範囲のうちのごく一部でしかない。したがって,本件明細書は,実施例1ないし3の記載のみをもって,貯蔵弾性率G′aが120〜1500Pa,ずり応力τaが100〜2000Paの範囲内であれば,所望の効果が得られると当業者において認識できる程度に具体例を開示して記載されているとは到底いえない。
ウ 本件明細書の実施例1ないし3と比較例1ないし3というわずかな具体例のみをもって,構成要件Eにおける貯蔵弾性率G′aの下限値120Pa,上限値1500Paを定めることはできないし,構成要件Fにおけるずり応力τaの下限値100Pa,上限値2000Paを定めることはできない。すなわち,実施例1ないし3の貯蔵弾性率G′aの値である270Pa,230Pa,280Paと,比較例1及び3の貯蔵弾性率G′aの値である100Pa,80Paとの間には,120Pa以外にも他の下限値を設定することはいくらでも可能であるし,貯蔵弾性率G′aの値が実施例1ないし3よりも高い比較例は存在しないから,貯蔵弾性率G′a120Pa,1500Paが,所望の効果を得られる範囲を画する境界値であるとは到底いえない。
また,実施例1ないし3のずり応力τaの値である1250Pa,1450Pa,1200Paと,比較例1及び2のずり応力τaの値である2400Pa,2100Paとの間には,2000Pa以外の上限値を設定することはいくらでも可能であるし,ずり応力τaの値が実施例1ないし3よりも低い比較例は存在しないから,ずり応力τa100Pa,2000Paが,所望の効果が得られる範囲を画する境界値であるとは到底いえない。
( ) そうすると,本件明細書に接する当業者において,貯蔵弾性率G′aの 3値が120〜1500Paであり,且つずり応力τaの値が100〜2000Paの範囲にあれば,押し出し性及び垂れ性について所望の効果(性能)が得られると認識できる程度に,本件明細書に具体例を開示して記載しているとはいえず,本件明細書の特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するということはできない。
【原告の主張】争う。
((),, 3 争点3 本件発明の特許請求の範囲請求項1 は 構成要件Eを満たさず本件発明の効果を奏せず,本件発明の課題を解決することができないものを含み,未完成発明といえるか(特許法29条1項柱書 )について)【被告の主張】( ) 本件発明は「シード重合により得られる酢酸ビニル樹脂系エマルジョン 1」() からなり且つ可塑剤を実質的に含まない水性接着剤 構成要件AないしDであり,上記「シード重合」とは樹脂エマルジョン中でモノマーを重合させることをいう(段落【0012 。】)そして,本件発明の構成要件AないしDは,酢酸ビニル以外のモノマーを配合した水性接着剤と,これを配合しない水性接着剤をその技術的範囲に含むものである。
被告は 本件明細書の実施例2に忠実に従って ただし 構成要件Fの 温 ,(,「度7℃の条件で」の点を除く ,トレース品1-1,同1-2を作成し, 。)また,本件明細書の実施例2の記載を基本としつつ,酢酸ビニル以外のモノマー(n-ブチルアクリレート)を加えないようにした点のみ相違するトレース品2-1,同2-2をそれぞれ作成した(乙2の7 。),, その結果 トレース品1-1及び1-2の貯蔵弾性率G′aが243Pa233Paであるのに対し,n-ブチルアクリレートを加えないトレース品2-1及び2-2の貯蔵弾性率G′aは,それぞれ17.4Pa,11.6Paであった。
,, さらに n-ブチルアクリレートを加えたトレース品1-1及び1-2は保持率〈注,保持率(%)=[低温(5℃)接着強さ(MPa)/常態接着強さ(MPa ]×100〉がそれぞれ89%,86%であるのに対し,n )-ブチルアクリレートを加えないトレース品2-1及び2-2の保持率は,それぞれ38%,34%であり,本件明細書の段落【0040】に記載された「保持率の値が,60%以上,好ましくは80%以上である水性エマルジョンが得られ」るとの記載内容に明らかに反し,低温(5℃)において安定して使用できる水性接着剤ではない。
また,n-ブチルアクリレートを加えないトレース品は,低温(5℃)条件下での成膜で白濁し,本件明細書の段落【0042】の「透明な皮膜が形成されるという特徴」を満たさない。
【】, 「 」 本件明細書の段落 0004 によれば 本件発明が 通年で使用できる水性接着剤を提供することを課題としていることは明らかであるが,n-ブチルアクリレートを加えないトレース品は,JISにおいて通年用の水性接着剤の最低造膜温度として定める2℃以下の基準を満たしておらず,低温接着強さ,保持率が大きく劣るため 「通年で使用できる」という上記課題を ,解決し得ていない。
( ) 以上要するに,本件発明の技術的範囲に含まれる酢酸ビニル以外のモノ 2マーを配合しない水性接着剤(例えば,n-ブチルアクリレートを加えないトレース品)は,本件発明の構成要件Eを充足せず,また,その成膜温度は明らかに高く,低温接着強さが劣るため,本件発明の作用効果を奏することができず,本件発明の課題を解決することができない。したがって,本件発明は未完成であり,特許法29条1項柱書違反の無効事由がある。
【原告の主張】被告は,本件明細書の実施例2に代えて,n-ブチルアクリレートを用いない以外は実施例2と同一の方法で水性接着剤を得たところ,その貯蔵弾性率G′aが構成要件Eの範囲外となり,n-ブチルアクリレートを用いない場合は本件発明の効果を奏せず,本件発明の課題を解決することができないから,本件発明は未完成であると主張する。
しかし,上記主張は,本件発明の実施例を変更すると本件発明の課題を解決するものが得られず,本件発明の効果を奏しない場合があるという当然のことを主張しているにすぎず,これを根拠に未完成発明であるというのは失当である。
トレース品2-1及び2-2は,被告の主張によれば本件発明の構成要件Eを充足しない以上,本件発明の技術的範囲に属するものではない。
本件の場合,実施例を追試すれば,本件発明の課題を解決でき,本件発明の効果を奏するものが得られるのであるから,本件発明が未完成でないことは明らかである。
4 争点4(本件明細書の発明の詳細な説明は,ずり応力τの値と,押し出し性や耐垂れ性という課題との関係について,当業者が本件発明の技術的意義を理解するために必要な事項が記載されているといえるか(改正前特許法36条4項 )について)【被告の主張】( ) 本件明細書の段落【0004】には従来技術の問題点について 「通常 1 ,の保護コロイドを用いた乳化重合により得られる酢酸ビニル系エマルジョンからなる可塑剤含有水性接着剤…は,…貯蔵弾性率G′が高いため垂直面や天井に塗布しても垂れにくいという特徴を有している。これに対して,シード重合により得られる酢酸ビニル樹脂系エマルジョンからなる水性接着剤は,一般に貯蔵弾性率G′が低く,ずり応力τが高いという粘弾性上の特徴を有している 」と記載されている。 。
( ) しかし,乙第2号証の27(以下「A意見書」という )に論じられて 2 。
いるように,貯蔵弾性率G′と垂れ性との関係は理論的に説明できないのである。
,「。 A意見書は 垂れるという表現は通常は流れるということを表している流動性を記述するレオロジー量は粘性である。ここで採用している貯蔵弾性率G′は変形性(流れるのではなく形が変わるという性質であり,固体を想定している)を記述するものであり,物理量としては垂れやすさとは関係しない 「貯蔵弾性率G′は変形に対する抵抗を表し,ずり応力τは流動に 」,対する抵抗を表している。一般論として,変形しやすく流動しにくいことは物質の力学的性質として考えにくい。このような性質を持った材料は非常に特異であり,その特異性に関する定量的記述がなければ,これは単なる矛盾した表現と見なされても仕方がない 」と,本件明細書の段落【0004】 。
の記載内容は技術的に矛盾するものであると結論づけている。
( ) また,本件明細書の段落【0044】には,ずり応力τaの再現性につ 3いて 「ずり速度(dγ/dt)が200(1/s)を越えると(例えば, ,500(1/s)であると ,ずり応力τaの再現性が低下する。…ずり速 )度を200(1/s)まで一定の割合で連続的に上げるのに要する時間が60秒よりも短すぎると,ずり応力τaの再現性が低下する 」と記載されて。
いる。
しかし,上記記載についてA意見書は 「レオロジー測定においてこのよ ,うな不安定なデータが得られるときは必ず何らかの理由があるはずであり,この原因を記述しておかないとここで採用している測定プログラムでレオロジー的性質を定量的に表すことができない可能性がある。つまり,製品としての接着剤の物性が不安定なのか,この測定法だけでは表現できないレオロジー現象,たとえばチクソトロピーなどが発現しているのかでその解釈が全く違ってくる 」とし,本件発明の構成要件Fの測定方法とずり応力τaと 。
を理論的に結びつける上で本件明細書の段落【0044】の記載は不十分であると結論づけている。
( ) さらに,本件明細書の段落【0045】には,貯蔵弾性率G′と垂れ性 4の関係について「G′aが120Pa未満であると,特に夏場において,垂直面や天井などに接着剤を塗布した場合に垂れやすく,接着剤を必要としない箇所が汚染される。また,τaが2000Paを超える場合には,特に寒冷地や冬場において,ノズル付き容器を手で押して接着剤を押し出そうとしても接着剤が出にくく,作業性に劣る 」と記載されているが,この記載に 。
ついてもA意見書は 「貯蔵弾性率G′で垂れ性を論じることに疑問があ ,る 」とし,貯蔵弾性率G′は物理量としては垂れやすさとは関係しないと 。
結論づけている。
( ) また,A意見書は 「レオロジー量の定義からすると,弾性率と垂れ性 5,あるいは押し出し性が直接的に関連するとは考えないのが,一般的である…新しい観点というからにはその基本となる理論やメカニズムを明確にしなければならない。その記述がない以上,技術としての信頼性に問題がある 」。
とし,更に本件発明について,( )垂れ性,押し出し性を支配するのは粘性 1であり,動的粘弾性関数を用いてこれに言及するのであれば,必ず損失弾性率(粘性の性質)の数値も必要になること,( )一点の周波数での貯蔵弾性 2率G′では流動性については何もいえないこと,( )本件発明では線形粘弾 3性領域(低ひずみ領域)の値を請求しているが,低ひずみの値は流れていないあるいは大きな流動が起こっていない状態の性質を記述するものであり,垂れ性と貯蔵弾性率は異なった状態を対象としていることになるので,同一に論じることはできないこと,( )垂れ性と押し出し性には異なったせん断 4速度での粘度が係わっており,したがって,本件発明のように一点のせん断速度だけで規定することはできないこと,( )本件発明では,200(1/ 5s)での粘度だけを指定していて極めて不十分であり,流動挙動全貌を記述することができていないことを指摘し,そもそも本件明細書の記載によっては,ずり応力τの値と押し出し性や耐垂れ性という課題との関係を理解できないと結論づけている。
( ) さらに,後記6の【被告の主張】のとおり,本件明細書の段落【005 65】に記載された方法並びにこれと同様の平成15年11月14日付け手続補正書と共に提出した実験証明書(乙2の28)に記載された方法は,ずり応力τの測定条件に問題があり,これによって得られたずり応力τaの値は信頼性がないものであるから,本件明細書の段落【0069】表1のデータ並びに上記実験証明書の各実験データによっても,ずり応力τaの値を制御することと,押し出し性や垂れ性の関係は理解できない。
( ) 以上要するに,本件明細書の発明の詳細な説明は,レオロジーの理論並 7びに現に原告が行った実験によっても,ずり応力τaの値と,押し出し性や耐垂れ性という課題との関係を理解できるように記載されていないので,当業者において本件発明の技術的意義を理解することができない。よって,実施可能要件(改正前特許法36条4項)を満たしておらず,本件特許権は同法123条1項4号に該当し無効とすべきである。
【原告の主張】( ) 本件明細書の実施例に準拠して,段落【0046】の記載を参考にし, 1種々の変更を施すことにより当業者が本件発明の範囲内の水性接着剤を適宜得ることができることは,前記1【原告の主張】において述べたとおりである。
したがって,本件明細書が改正前特許法36条4項実施可能要件を満たしていることは明らかである。
( ) 本件発明は,本件明細書の段落【0005】及び【発明が解決しようと 2する課題】に記載されているとおり,従来,シード重合で得られたエマルジョンでは両立が困難であった垂直面での垂れにくさと容器からの押し出しやすさとを解決したものである そしてこの解決手段として 構成要件E 貯 。, , (蔵弾性率G′aに関する要件)と構成要件F(ずり応力τaに関する要件)とを採用したものである。
被告は,本件発明の課題とG′a及び との関係が理解できないと主張 τaするが,本件明細書には「G′aが120Pa未満であると,特に夏場において,垂直面や天井などに接着剤を塗布した場合に垂れやすく,接着剤を必。, , 要としない箇所が汚染される また τaが2000Paを超える場合には特に寒冷地や冬場において,ノズル付き容器を手で押して接着剤を押し出そうとしても接着剤が出にくく,作業性に劣る (段落【0045 )と記載 。」】されているように,G′aは垂れ性に関係しておりτaは押し出し性に関係していることが明示されている。
また,本件明細書の段落【0069】の表1中,実施例1ないし3と比較例1ないし3を対比することにより,貯蔵弾性率G′aは垂れ性に関係しており,ずり応力τaは押し出し性に関係していることは容易に理解できる。
( ) 被告は,A意見書の,垂れ性を支配するのは粘性であるから貯蔵弾性率 3で議論するのは不適切であるとの見解を根拠に,垂れ性と貯蔵弾性率との関係が理解できないと主張している。しかし,A意見書には物質の変形と流動を学問的に考察する際の一つのアプローチの仕方が述べられているにすぎず,特許請求の範囲において物質の特徴を表現するのにどのような特性値を用いるのが適切で,その特性値がどのような作用効果と関係しているかが明細書に記載されているか否かに関する見解ではない。
貯蔵弾性率G′aが一定の範囲内にあれば垂れにくいということは実施例等で実証されているのであるから,この関係が学問的に不適切であるとするA意見書の見解は,現実の水性接着剤が適用される現場に則したものではない。現実の種々の状態をすべてレオロジー解析技術では説明しきれないのである。
5 争点5(構成要件F中の「温度7℃の条件で」との記載が技術的に明瞭であるか。またこの点について,本件明細書の発明の詳細な説明に当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているか(特許法36条6項1,2号,改正前特許法36条4項 )について)【被告の主張】( ) ずり応力τaの測定時の条件に関する本件発明の構成要件Fの「温度7 1℃の条件で」との記載は,技術的意味が不明確である。
すなわち,本件明細書の段落【0055】には「ずり応力τの測定に際しては試料を4℃で24時間養生しており,また,測定器の設定温度を4℃とすることにより,測定時の摩擦熱により,測定時における試料の実際の温度を7℃とすることができる 」と記載されているが,摩擦熱で温度上昇が起 。
こっているとすると,測定中常に発熱があるので,短時間で7℃まで上昇しその後一定になるという挙動は考えにくく,理論的に「測定時の摩擦熱により,測定時における試料の実際の温度を7℃とすること」はできない。
また,原告が乙第2号証の1(平成15年11月14日付け手続補正書)と共に提出した同号証の28(本件発明の発明者実施の実験証明書)には,ずり応力測定時の条件として「測定に際しては試料を4℃で24時間以上養生し,測定器の設定温度を4℃としたが,測定時の摩擦熱によって,測定時における試料の実際の温度は7℃となる 」として,原告の行った実験が本 。
件明細書の段落【0055】に記載された方法と同一の方法で行った旨記載されている。
しかし,同実験証明書に記載されたずり応力τaの測定データによれば,ずり応力τaの測定時における温度は,測定開始時はいずれも8℃付近で,測定が進むにつれて温度は低下してゆき,測定終了時にはいずれも6℃付近となっているのであるから,本件明細書の段落【0055】に記載された内容を実現し得ていない。
すなわち,構成要件Fは,理論的にも実験によっても実現できないものであり,かつこれを実現するための具体的方法は本件明細書に何ら記載されていない。
( ) 本件特許は,平成15年9月4日,特許法29条1項3号,同条2項に 2該当するほか,本件明細書及び図面が下記の点で改正前特許法36条4項及び特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていないとの理由で,拒絶理由通知を受けた。
「( ) 本願請求項では 『貯蔵弾性率』及び『ずり応力』の測定方法に係 1,,(【】 ) る記載がなく 本願明細書の発明の詳細な説明の欄 段落 0055には,当該測定方法に係る一応の記載はあるが,当該方法では,被測定物が接着剤であることに鑑み技術的常識からみて,接着剤に接する面の種別によって,その相互の親和性等により同一の被測定物であっても測定値が変化するものと認められる。
しかるに,本願明細書には,当該測定方法における測定面の素材種別等に係る記載がなく,してみると,当該記載がない本願明細書の記載では,発明を当業者が実施できる程度に記載されておらず,また,本願請求項の記載では,発明が明確でないものと認められる。
( ) 本願請求項では 『貯蔵弾性率』と『ずり応力』とが独立した別異 2,の物性値として記載されているが,技術的常識からみて,特定の測定条件下(温度,ずり速度(即ち剪断力)等)で『ずり応力』と歪み量に基づき直接的かつ一義的に『貯蔵弾性率』は算出できるものであり,貯蔵弾性率とずり応力とが,歪み量等を定数とする実質的な反比例等の直接的相関関係を有するものである(省略)から,両者が独立した物性値であるものとは認められず,従って,本願請求項の記載では,発明が明確になっているものとは認められない 」。
上記拒絶理由通知に対し 原告は 平成15年11月14日付け意見書 乙 ,, (2の30)において,貯蔵弾性率G′a並びにずり応力τaの値を,本件発明の請求項記載の範囲とすることが本件発明の特徴であることを強調し,同日付け手続補正書(乙2の1)によって,構成要件C,E及びFの各要件を追加し,これにより特許査定を受けたものである。
このように,本件発明の本質的部分は,構成要件E及びFにあるにもかかわらず,上記( )のとおりずり応力τaの測定条件である「温度7℃の条件 1で」という要件は理論的にも現実的にも実現不可能なものであるから,上記補正によっても拒絶理由( )は治癒されていない。よって,本件明細書の記 1載は,発明を当業者が実施できる程度に記載されておらず,また,発明が明確でないから,本件明細書は特許法36条6項1号及び2号並びに改正前特許法36条4項に規定する要件を満たしておらず,本件特許は特許法及び改正前特許法123条1項4号に該当し,無効とすべきものである。
【原告の主張】( ) ずり応力τaを測定する際の温度条件を7℃にしたのは,本件明細書に 1「, , , また τaが2000Paを超える場合には 特に寒冷地や冬場においてノズル付き容器を手で押して接着剤を押し出そうとしても接着剤が出にくく,作業性に劣る (段落【0045 )と記載されているように,冬場で 。」】のノズル付き容器からの水性接着剤の押し出し性を意識したことによる。そして,本件明細書には,ずり応力τaを「温度7℃の条件で」測定することが,段落【0008 【0044 【0055 【0056】及び【00 】,】,】,57】に記載されている。したがって,7℃での測定条件の技術的意義は明確である。
( ) 被告は,原告が本件特許の審査段階で提出した乙第2号証の28では, 2ずり応力τa測定中に温度が8℃から6℃まで変動しているので,現実に7℃で測定できていないとも主張する。
しかし,測定温度を7℃に設定しても,測定機器の精度や雰囲気によってその温度は若干変動するのであり,7℃±1℃程度の変動を捉えて7℃で測定できていないとすることは,技術常識に反する針小棒大な主張であり失当である。
乙第2号証の7の一部をなす試験証明書の作成者である英弘精機株式会社においても,ずり応力τaの測定を7℃の条件で行っているのであるから,このようなことは当業者が容易になし得ることである。被告の主張は,ハーケ社製のレオメーターには温度制御機能が搭載されている点を見落としたものであり,誤っている。
( ) 以上のとおり「温度7℃の条件で」ずり応力τaを測定し得ることは, 3本件明細書,乙第2号証の7及び同号証の28から当業者にとって自明のことである。また,冬場での容器からの押し出し性を意識して「7℃」に設定したことによれば,本件発明の構成要件Fの記載は何ら不明瞭でもなく,当業者が容易に実施し得ないものでもない。
6 争点6(本件特許の補正手続は出願当初の明細書に記載した事項以外の事項を追加したもので違法であるか(改正前特許法17条の2第3項 )について)【被告の主張】,(), ( ) 原告は 平成15年11月14日付け手続補正書 乙2の1 において 1本件発明を構成要件AないしFのとおりに補正したが,その際,構成要件E及びFのレオメーターの材質に関し「測定面が金属製の」との記載を追加しているが,出願当初明細書にはレオメーターの「測定面が金属製の」という事項は全く記載されていない。
なお,平成12年12月28日以降に審査が行われるものに適用される審査基準では,当初明細書等に記載した事項には 「当初明細書の記載から自 ,明な事項」も含むとされているが 「測定面が金属製の」という事項は,同 ,審査基準にいう「当初明細書の記載から自明な事項」には当たらない。
すなわち,乙第2号証の3によれば,レオメーター用のコーンプレートの材質として,ポリアセタールやポリカーボネートといった非金属の材料が存することは明らかであるし,さらに,本件明細書に記載されているハーケ社製のレオメーターに上記非金属のコーンプレートを使用できることも明らかである。
したがって,レオメーターの測定面として金属以外に様々な材質のものが存在していたのであるから 「測定面が金属製の」という事項は「当初明細 ,書の記載から自明な事項」ではない。
,, () ( ) また 前記手続補正書において原告が提出した材質証明書 乙2の4 2には,コーンプレート及びベースプレートの材質としてチタンとステンレスのみしか記載されていないにもかかわらず,原告は,それよりもはるかに広い上位概念である「金属」に補正している。しかし,チタンとステンレスのみの記載から「金属」を導き出すことは自明ではないから,この点においても「測定面が金属製の」という事項を追加する補正は,適法な補正要件を満たしていない。
( ) さらに,本件明細書の特許請求の範囲の記載はハーケ社製の装置に限定 3されておらず 「円錐-円盤型のレオメーター」であるから 「測定面が金 ,,属製の」なる文言が新規事項の追加となるか否かは 「円錐-円盤型のレオ ,メーター」全般について判断すべきである。
原告は,ハーケ社製の「円錐-円盤型のレオメーター」と他社製の「円錐-円盤型のレオメーター」を区別して議論するが,上記のとおり,これらを区別する理由はなく,本件優先日前に現に「円錐-円盤型のレオメーター」に使用する非金属の円錐プレート及び円盤プレートが存在したのであるから 「測定面が金属製の」を追加する補正が新規事項の追加に当たることは ,明らかである。
( ) また,原告は 「測定面が金属製の」という文言は,測定試料に悪影響 4,を与えない測定面であることを示したものであって,測定器の常識的事項に言及したものであるから 「測定面が金属製の」という記載を追加する補正 ,は,当業者の自明事項であって,当初明細書の記載の範囲内であると主張する。
しかし,かかる事項が常識的事項であるという事実はない。さらに,測定試料を吸収しない材質には樹脂,ガラス,セラミックス等多数存在する。
すなわち,すべての金属が一律に使用可能で,金属以外の材料はすべて使用不能とはいえないのであるから 「測定面が金属製」が測定器の常識的事 ,項でない以上 「測定面が金属製の」という記載を追加する補正は自明事項 ,ではない。
( ) よって,本件特許の補正手続は,改正前特許法17条の2第3項に規定 5する補正要件を満たしていないから,本件特許は同法123条1項1号に該当し,無効とすべきである。
【原告の主張】( ) 当初明細書には貯蔵弾性率G′a及びずり応力τaを測定するにはハー 1ケ社製のレオメーターで円錐-円盤型のレオメーターを用いることが記載されていた。
ハーケ社製の円錐プレート(コーンプレート)及び円盤プレートには非金属製のものはないから,被告の主張はその前提が誤っており理由がない。そしてハーケ社製の円錐プレート及び円盤プレートは,チタン製やステンレス製等の金属製のものであるから 「測定面が金属製の」という記載を追加す ,る補正は,当初明細書の記載の範囲内であり,改正前特許法17条の2第3項の規定に違反しない。
( ) また,被告は,乙第2号証の4によればハーケ社製の円錐プレート及び 2円盤プレートにはチタン製とステンレス製しか存在しないのにこれを含む金属製という広い概念に補正して「測定面が金属製の」とすることも,当初明細書の記載の範囲内でなされたものではないと主張する。しかし,ハーケ社製のレオメーターは測定機器であり,チタン製であろうとステンレス製であろうと,また,仮にアルミ製であろうと,同一の測定値となるように構成して使用するものである 「測定面が金属製の」という文言は,測定試料に悪 。
影響を与えない測定面であることを示したものであり,測定器の常識的事項に言及したものである。
( ) したがって 「測定面が金属製の」という記載を追加する補正は,当業 3,者の自明事項であって,当初明細書の記載の範囲内であり,改正前特許法17条の2第3項の規定に違反しない。
7 争点7(本件発明は,本件優先日前に頒布された刊行物(乙2の5及び乙2の6)に開示された技術と同一であり,かつ,公然実施されていた発明であるか(特許法29条1項 )について)【被告の主張】( ) 本件優先日前に頒布された刊行物である乙2の5公報の特許請求の範囲 1は次のとおりである。
「酢酸ビニルを主体とする単量体100重量部に対して固形分換算で8〜30重量部のエチレン含有量10〜30重量%のエチレン-酢酸ビニル共重合体エマルジョンをシードとして用い,保護コロイドとして平均重合度300〜2300,平均ケン化度80〜89モル%のポリビニルアルコールを5〜15重量部用いてエマルジョン型シード重合を行なうことによりえられる酢酸ビニル系重合体エマルジョンからなる紙工用接着剤 」。
そして,同公報には,実施例1として,次のとおり記載されている。
実施例1蒸留水100重量部およびポリビニルアルコールとしてゴーセノールGH-17(ケン化度88モル%,重合度1700)5.5重量部を4つ口フラスコに仕込み,80℃に加温して溶解させたのち,エチレン-酢酸ビニル共重合体エマルジョンとしてスミカフレックスS-400(不揮発分55%含), 。 有 40重量部を添加し 72℃で攪拌速度を200rpmにして調整した.,. , 蒸留水1重量部に過酸化水素水0 5重量部 酒石酸0 2重量部を添加し溶解させたものに直ちに酢酸ビニルモノマー100重量部の滴下を開始し,5時間で滴下を終了した。さらに80℃で2時間熟成させたのち,ジブチルフタレート(以下,DBPという)20重量部添加し,30分後に冷却して酢酸ビニル系重合体エマルジョンをえた 」。
( ) 被告は,上記実施例1の製造方法に従って,水性接着剤であるトレース 2品C-6Y,C-22Yを製造した。
なお,同トレース品の製造方法は,基本的には上記実施例1に従いつつ,一部については,原料入手の都合その他の理由により,同実施例1の製造方法として記載された以外の内容を適用し,また,同実施例1における任意的な要件を除いたものである。
実施例1との相違点は,以下の相違点A1ないし相違点A4のとおりである。
ア 相違点A1ポリビニルアルコール(PVA)として,乙2の5公報の実施例1に記載されたゴーセノールGH-17の代わりに,株式会社クラレ製の商品名クラレポバール224,商品名クラレポバール220E,商品名クラレポバール217EE,及び電気化学工業株式会社製の商品名デンカボパールB-24Nを使用した。
,, , しかしながら これらのPVAは 乙第2号証の8から明らかなとおり乙2の5公報の「前記保護コロイドとして使用するポリビニルアルコールとしては,平均重合度300〜2300,平均ケン化度80〜89モル%の部分ケン化型のポリビニルアルコールを用いるのが好ましい 」との記。
載を満たすものである。
イ 相違点A2エチレン-酢酸ビニル共重合体エマルジョン(EVA)として,乙2の5公報の実施例1に記載されたスミカフレックスS-400の代わりに,電気化学工業株式会社製の商品名デンカEVAテックス#59を使用した。
しかしながら,これらのEVAは,乙2の5公報の「前記シードとして用いるエチレン-酢酸ビニル共重合体エマルジョンは…10〜30重量%の範囲で用いるのが好ましい 」との記載を満たすものである。 。
ウ 相違点A3乙2の5公報の実施例1では,単量体100重量部に対して,ポリビニルアルコールの配合量が5.5重量部であるのに対し,トレース品C-6Yの製造においては,単量体100重量部に対して,ポリビニルアルコー,, ルの配合量が10重量部であり トレース品C-22Yの製造においては単量体100重量部に対して,ポリビニルアルコールの配合量が12重量部である。
しかしながら,これらは乙2の5公報の「酢酸ビニルを主体とする単量体100重量部に対して前記エチレン-酢酸ビニル共重合体エマルジョンを固形分換算で8〜30重量部および保護コロイドとして前記ポリビニルアルコール5〜15重量部を用いるのが好ましい 」との記載を満たすも 。
のである。
エ 相違点A4乙2の5公報の実施例1では,可塑剤(DBP)を添加しているのに対し,トレース品C-6Y,C-22Yでは可塑剤を添加していない。
しかしながら,同公報の特許請求の範囲において可塑剤の添加は要件とされていないこと,同公報に「0〜30重量部の範囲で添加するのが好ましい 」と記載されていることから,配合量が0である場合を含むと解さ 。
れること,及び可塑剤を添加する前に本重合反応は終了していると考えられること等から,そもそも乙2の5公報の発明において可塑剤を添加するのは任意的な条件にすぎない。
したがって,トレース品C-6Y,C-22Yは,乙2の5公報の実施例1そのものではないが乙2の5公報に係る発明の技術的範囲に属する。
( ) トレース品C-6Y,C-22Yは,本件発明の構成要件をすべて備え 3ている。
ア 上記トレース品の製造工程では,エチレン-酢酸ビニル共重合体エマルジョン中で酢酸ビニルをシード重合している。よって,構成要件Aと一致する。
イ 上記トレース品は,その製造工程から,明らかに酢酸ビニル樹脂系エマルジョンからなるものである。よって,構成要件Bと一致する。
ウ 上記トレース品は,可塑剤を配合していない。よって,構成要件Cと一致する。
エ 上記トレース品は,紙工用接着剤に関する特許公報である乙2の5公報に基づき製造したものであるから,水性接着剤である。よって,構成要件Dと一致する。
オ 上記トレース品の貯蔵弾性率G′aを本件発明の構成要件Eの条件で測定し,また,ずり応力τaを構成要件Fの方法で測定した結果,同トレース品の貯蔵弾性率G′aは,それぞれ218.4Pa,478.3Paで,,., 。 あり ずり応力τaは それぞれ714 8Pa 1227Paであったこれらの測定方法及び数値は,構成要件E及びFと一致する。
,, ( ) したがって 乙2の5公報が開示する技術内容である上記トレース品は 4本件発明と同一であり,乙2の5公報は,本件優先日前に公開されていたのであるから,本件発明は,その優先日前に公然知られ,優先日前に刊行物に記載され,公然実施されていた発明である。
( ) 本件優先日前に頒布されていた刊行物である乙2の6公報の特許請求の 5範囲は,次のとおりである。
「 請求項1】エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂系エマルジョン中で酢酸 【ビニルをシード重合して酢酸ビニル樹脂系エマルジョンを製造する方法であって,酢酸ビニルを系内に添加しつつシード重合を行う工程と,前記工程の前工程又は後工程として,酢酸ビニル以外の重合性不飽和単量体を系内に添加する工程を含む酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの製造方法
【】 , 請求項2 酢酸ビニル以外の重合性不飽和単量体を系内に添加する工程を酢酸ビニルを系内に添加しつつシード重合を行う工程の前工程として行う請求項1記載の酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの製造方法
【請求項3】酢酸ビニル以外の重合性不飽和単量体の使用量が,酢酸ビニル100重量部に対して0.05〜10重量部の範囲である請求項1又は2記載の酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの製造方法
【請求項4】酢酸ビニル以外の重合性不飽和単量体として,アクリル酸エステル類,メタクリル酸エステル類,ビニルエステル類及びビニルエーテル類から選択された少なくとも1種の単量体を用いる請求項1〜3の何れかの項に記載の酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの製造方法
【請求項5】請求項1〜4の何れかの項に記載の製造方法により得られる酢酸ビニル樹脂系エマルジョンからなる水性接着剤。
cm )/常 【請求項6】保持率(%)=[低温(5℃)接着強さ(kgf/2(kgf/ ]×100の値が60%以上である請求項5記 態接着強さ cm )2載の水性接着剤。
【請求項7】可塑剤を実質的に含まない請求項5又は6記載の水性接着剤。
【】 。」 請求項8 木工用である請求項5〜7の何れかの項に記載の水性接着剤そして,同公報の段落【0051】には,実施例1として,次のとおり記載されている。
実施例1攪拌機,還流冷却器,滴下槽及び温度計付きの反応容器に水505重量部を入れ,これにポリビニルアルコール(PVA ( 株)クラレ製,クラレ )(),. , ポバールPVA224 55重量部酒石酸0 7重量部を加えて溶解させ80℃に保った。PVAが完全に溶解した後,エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョン(EVAエマルジョン (電機化学工業(株)製,デンカ )スーパーテックスNS100,固形分濃度55重量%)を125重量部添加。,() した 液温が80℃まで上がったところで n-ブチルアクリレート BAを6重量部添加し,5分間攪拌した。この混合液に,触媒(35重量%過酸化水素水1重量部を水22重量部に溶解させた水溶液)と,酢酸ビニルモノマー285重量部とを,別々の滴下槽から2時間かけて連続的に滴下した。
滴下終了後,さらに1.5時間攪拌し,重合を完結させて,酢酸ビニル樹脂系エマルジョンを得た 」。
( ) 被告は,乙2の6公報に記載された実施例1の製造方法に従って,水性 6接着剤であるトレース品K-14Y,K-16Y,K-19Yを製造した。
同トレース品の製造方法は,基本的には乙2の6公報の実施例1の製造方法に従いつつ,一部については,原料入手の都合その他の理由により,それ以外の内容を適用した。同実施例1との相違点は,以下の相違点B1ないし相違点B4のとおりである。
ア 相違点B1乙2の6公報の実施例1では,PVAとしてクラレポバール224を使用しているのに対し,上記トレース品では他のPVAを使用している。
しかしながら これらのPVAは乙2の6公報の段落 0021 ポ ,, 【】 「リビニルアルコールとしては,特に限定されず,一般に酢酸ビニル樹脂系エマルジョンやエチレン-酢酸ビニル共重合樹脂系エマルジョンを製造する際に用いられるポリビニルアルコールを使用でき」との記載を満たすものである。
イ 相違点B2乙2の6公報の実施例1では,EVAとしてデンカスーパーテックスNS-100を使用しているのに対し,上記トレース品の製造においては,EVAとして,電気化学工業株式会社製の商品名デンカEVAテックス#59を用いている。
しかしながら,このEVAは,乙2の6公報の段落【0017 「この】エマルジョンを構成するエチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂としては,特に限定されないが,通常,エチレン含有量が5〜40重量%程度の共重合樹脂が用いられる。なかでも,エチレン含有量が15〜35重量%の範囲にある共重合樹脂は,特に低い成膜温度を与えると共に,接着強さも優れるため好ましい 」との記載を満たすものである。 。
ウ 相違点B3乙2の6公報の実施例1では,全樹脂(全固形分)中のEVAの含有量が16.6重量%であるのに対し,上記トレース品では,全樹脂(全固形分)中の含有量をそれぞれ21.2重量%,21.3重量%,21.3重量%としている。
しかしながら,これは,乙2の6公報の段落【0018 「エチレン-】酢酸ビニル共重合樹脂の量は,得られる酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの全樹脂(全固形分)中の含有量として,例えば3〜40重量%,好ましくは5〜30重量%,さらに好ましくは10〜25重量%程度である 」と。
の記載を満たすものである。
エ 相違点B4乙2の6公報の実施例1では,PVAの配合量が55重量部であるのに対し,全体のスケールが2分の1である上記トレース品においてPVAの配合量は20ないし21重量部である。
しかしながら,これは,乙2の6公報の段落【0022 「ポリビニル】アルコールの量は,シード重合の際の重合性や接着剤としたときの接着性などを損なわない範囲で適宜選択できるが,一般には,得られる酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの全樹脂(全固形分)中の含有量として,例えば2〜40重量%,好ましくは5〜30重量%,さらに好ましくは8〜25重量%程度である 」との記載を満たすものである。 。
したがって,上記トレース品は,乙2の6公報の実施例1そのものではないが,乙2の6公報に係る発明の技術的範囲に属するものである。
( ) 上記トレース品は,本件発明の構成要件をすべて備えている。 7ア 上記トレース品の製造工程では,エチレン-酢酸ビニル共重合体エマルジョン中で酢酸ビニルをシード重合している。よって,構成要件Aと一致する。
イ 上記トレース品は,その製造工程から,明らかに酢酸ビニル樹脂系エマルジョンからなるものである。よって,構成要件Bと一致する。
ウ 上記トレース品は,可塑剤を配合していない。よって,構成要件Cと一致する。
エ 上記トレース品は,水性接着剤に関する特許公報である乙2の6公報に基づき製造したものであるから,水性接着剤である。よって,構成要件Dと一致する。
オ 上記トレース品の貯蔵弾性率G′aを本件発明の構成要件Eの条件で測定し,また,ずり応力τaを構成要件Fの方法で測定した結果,上記トレ, .,., ース品の貯蔵弾性率G′aは それぞれ284 7Pa 328 1Pa423.0Paであり,ずり応力τaは,それぞれ1066Pa,1232Pa,1543Paであった。
,。 これらの測定方法及び数値は 本件発明の構成要件E及びFと一致する,, ( ) したがって 乙2の6公報が開示する技術内容である上記トレース品は 8本件発明と同一であり,乙2の6公報は,本件優先日前に公開されていたのであるから,本件発明は,その優先日前に公然知られ,優先日前に刊行物に記載され,公然実施されていた発明である。
【原告の主張】( ) 乙2の5公報の実施例1とトレース品C-6Y,C-22Yは,被告が 1自認するようにA1ないしA4の4点の相違点があり,乙2の5公報の実施例1の追試とは認められないものである。
被告は,このような作為的な変更を伴っていても,トレース品C-6Y,C-22Yは乙2の5公報に係る発明の技術的範囲に属するので,乙2の5公報に記載されたものと認められると主張する。しかし,乙2の5公報に係る発明に更に追加の構成要件を付加した改良発明は,乙2の5公報に記載された発明ではないが,当該改良発明品は乙2の5公報に係る発明の技術的範囲には属する。乙2の5公報に係る発明の構成要件を更に限定した内容の選択発明は,乙2の5公報に記載された発明ではないが,当該選択発明品は乙2の5公報に係る発明の技術的範囲には属する。すなわち,被告の主張は先行発明と後行発明の同一性の問題と,後行発明品が先行発明の技術的範囲には属するか否かの問題とを混同しており,その主張自体誤りである。
( ) また,相違点は被告が挙げる点のみではない。 2ア 相違点A5トレース品C-6Yは,乙2の5公報の実施例1に比べて,酢酸ビニルモノマーの配合量に比べて水の配合割合が1.7倍も多くなっている。トレース品C-22Yは,乙2の5公報の実施例1と比較すると,酢酸ビニルモノマーの配合量に対して,水の配合割合が1.7倍,エチレン-酢酸ビニルエマルジョン(EVA)の配合割合が1.25倍多くなっている。
さらに,トレース品C-6Y,C-22Yと乙2の5公報の実施例1で得られるエマルジョンとは,その粘度が全く異なる。すなわち,前者の粘度は46.9Pa・s又は82Pa・sであるのに対して,後者の粘度は1700cP(=1.7Pa・s)である。したがって,水の配合割合が多くなっているのは粘度調整のためではない。
イ 相違点A6トレース品C-22Yは,乙2の5公報の実施例1に比べて,酢酸ビニルモノマーの触媒である過酸化水素水が多くなっている。すなわち,トレース品C-22Yは酢酸ビニルモノマー100重量部に対して過酸化水素水が0.75重量部であるが,乙2の5公報の実施例1は0.5重量部となっている。
ウ 相違点A7乙2の5公報の実施例1で得られたエマルジョンは,その粘度が1700cP(=1.7Pa・s)である。
これに対して,トレース品C-6Yの粘度は46.9Pa・sで,トレース品C-22Yの粘度は82Pa・sである。
エマルジョンにおいて粘度が相違するということは,エマルジョン粒子間及びエマルジョン粒子と保護コロイド間の相互作用の強弱に差があるということであり,粒子間等の科学的又は物理的結合が異なることを示す。
以上のとおり,トレース品C-6Y及びC-22Yは,乙2の5公報の実施例1とは相違点が7点もあり,全くその追試となっていない。特に,得られたエマルジョンの粘度が全く異なり,別異の粒子間等の結合状態となっている。
したがって,トレース品C-6Y及びC-22Yは,乙2の5公報の実施例1に記載されていたと認められるエマルジョンではないから,トレース品C-6Y及びC-22Yの貯蔵弾性率G′a及びずり応力τaが本件発明の構成要件E及びFを充足していたとしても,本件発明の新規性を阻却する理由にはならない。
( ) 乙2の6公報の実施例1とトレース品K-14Y,K-16Y,K-1 39Yは,被告が自認するようにB1ないしB4の4点の相違点があり,乙2の6公報の実施例1の追試とは認められないものである。
被告は,相違点B1ないしB4のような変更を伴っていても,上記トレース品は乙2の6公報に係る発明の技術的範囲に属するので,乙2の6公報に記載されたものと認められると主張する。しかし,このような主張が誤りであることは前記( )のとおりである。1( ) さらに,相違点は被告が挙げる点のみではない。 4ア 相違点B5上記トレース品は酢酸ビニルモノマーの量が乙2の6公報の実施例1の,,. 半量となっているのに これの重合触媒である過酸化水素水の量は 約14ないし約2.9倍も使用している。すなわち,上記トレース品は,乙2の6公報の実施例1に比べて,モノマー量に対し約2.8ないし5.8倍もの重合触媒を使用していることになる。
イ 相違点B6乙2の6公報の実施例1で得られたエマルジョンは,その粘度が55.0Pa・sである。
これに対して,トレース品K-14Yの粘度は62.1Pa・s,トレース品K-16Yの粘度は74.5Pa・s,トレース品K-19Yの粘度は81.2Pa・sである。
以上のとおり,上記トレース品には相違点が6点もあり,全く追試となっていない。上記トレース品のエマルジョンの構造は,乙2の6公報の実施例1とは相違し,全く別異のものである。
したがって,上記トレース品は,乙2の6公報の実施例1に記載されていたと認められるエマルジョンではないから,上記トレース品の貯蔵弾性率G′a及びずり応力τaが本件発明の構成要件E及びFを充足していたとしても,本件発明の新規性を阻却する理由にはならない。
8 争点8(本件発明は,本件優先日前に頒布された刊行物(乙2の6)に開示された技術に基づき,当業者が容易に発明できるものであるか)について【被告の主張】( ) 乙2の6公報は,本件発明の構成要件E及びFの記載がない点で,本件 1発明と相違する。
( ) しかし,本件優先日前に頒布された刊行物である乙第2号証の25( 第 2 「」), , 30回塗料入門講座テキスト には 本件発明における貯蔵弾性率G′が接着剤に近い技術範囲である塗料のレオロジー測定において従来より利用されてきたパラメータであることを示す記載があり,また,同じく本件優先日前に頒布された刊行物である乙第2号証の26( レオロジー工学とその応 「用技術 )には,本件発明と同様のパラメータであるずり応力が,接着剤を 」含む分散系において従来利用されてきたことが記載されている。
したがって,接着剤のような分散系において,本件発明で採用されている貯蔵弾性率G′やずり応力τは,周知のパラメータにすぎない。
( ) また,本件発明で採用されているパラメータの測定装置や測定条件も周 3知の事項,あるいはそれに当業者の設計事項を加えたものにすぎない。乙第2号証の26の刊行物には,レオロジーの測定にレオメーターを用いることが記載されているから,レオメーターを用いて測定することは周知の事項にすぎない また 乙第2号証の25の刊行物の記載によれば せん断速度 単 。, , (位rad/s)に関して,押し出し性を良くするためには高せん断速度での粘度を低くし,垂れにくくするためには低せん断速度での粘度を高くするということは周知の事項にすぎないということができる。
このように,本件発明は,これら周知の事項を基に,高せん断速度での粘度を周知のパラメータであるずり応力τに置き換えるとともに,低せん断速度での粘度を周知のパラメータである貯蔵弾性率G′に置き換えたものにすぎない。
パラメータを,実質的に同様の挙動を示す周知のパラメータに置き換えることは,当業者が容易にできる事項であるから,本件発明は,乙2の6公報に基づき当業者が容易に発明できるものである。
【原告の主張】乙2の6公報には,本件発明の構成要件E及びFを導き出せる記載や示唆は全くない。
乙第2号証の25及び同号証の26には,塗料に関する一般的レオロジーの説明として,@刷毛さばきが良く,垂れにくい塗料は,高せん断速度で低粘度で,低せん断速度で高粘度のものがよい,A熱硬化性塗料の代表的な物性値として貯蔵弾性率G′があり,これで架橋密度を求め得ること,B垂れは,低せん断領域での現象である,C分散系塗料のレオロジー測定では,せん断速度依存性又は動的粘弾性測定での周波数依存性が重要である,Dレオロジーの測定にレオメーターを用いることができることが記載されているだけである。
これらに基づいて本件発明の構成要件E及びFを導き出すことはできないから(具体的にいえば,水性接着剤の垂れ防止のために,貯蔵弾性率G′aを一定の範囲内にすればよいという構成要件Eに関して,また,容器のノズルから水性接着剤を押し出しやすくするためには,ずり応力τaを一定の範囲内にすればよいという構成要件Fに関して,何の示唆もない ,本件発明はこれら 。)各刊行物の記載に基づいて当業者が容易に想到することができるとはいえない。
9 争点9(本件発明は,本件優先日前に公然知られ公然実施され,刊行物に記載され頒布された被告製造にかかる水性接着剤(A-370)に基づき当業者が容易に発明できたものであるか)について【被告の主張】( ) 被告は,本件優先日より前に,酢酸ビニル樹脂系エマルジョンからなる 1水性接着剤A-370を製造販売していたが,A-370に乙2の5公報又は乙2の6公報記載の技術内容を適用すれば,当業者において容易に本件発明を推考し得るものである。
( ) A-370の原料は酢ビモノマー,PVA,A-400BA,水道水, 2過酸化水素であり,水道水,PVA,A-400BA,過酸化水素を順に加えた後,酢ビモノマーと過酸化水素を滴下することによって製造するものである。
ア 本件発明とA-370は,次の点で一致する。
(ア) A-370は,水道水,PVA,A-400BA(酢酸ビニル樹脂系エマルジョン ,過酸化水素を順に加えた後,酢ビモノマーと過酸化 )水素を滴下することによって製造するものであるから,A-400BAをシードとし,シード重合により酢酸ビニル樹脂系エマルジョンを得るものである。したがって,A-370は,本件発明の構成要件A及びBに一致する。
(イ) A-370は,乙第2号証の22に記載された原材料及び製造工程から明らかなとおり水性接着剤である。したがって,A-370は本件発明の構成要件Dに一致する。
(ウ) A-370の貯蔵弾性率G′a及びずり応力τaの値は,貯蔵弾性率G′aが247.7Paであり,ずり応力τaが1188Paであった。この値は構成要件E及びFに規定された範囲内である。よって,本件発明の構成要件E及びFにも一致する。
イ 一方,A-370は,可塑剤であるテキサノールを含んでいる。したが,, 「 」 って A-370は 本件発明の構成要件C 可塑剤を実質的に含まないとは相違する。
しかし,水性接着剤において可塑剤を添加するか否かは,水性接着剤の用途等に応じて当業者が適宜設計する事項にすぎない。
すなわち,本件明細書の段落【0002】には「従来,酢酸ビニル樹脂系エマルジョンは,木工用,紙加工用,繊維加工用等の接着剤や塗料など。, , に幅広く使用されている しかし そのままでは最低造膜温度が高いため多くの場合,揮発性を有する可塑剤…を添加する」と記載されているが,「そのままでは」とは,酢酸ビニル樹脂系エマルジョンからなる木工用,紙加工用,繊維加工用等の水性接着剤であって,可塑剤を添加しないものを意味していることは明らかである。したがって,同記載は,従来技術として,可塑剤を添加しない水性接着剤と,可塑剤を添加した水性接着剤とが両方存在し,最低造膜温度を低くしたい場合に,可塑剤を付加的に添加するということを意味するものである。つまり,可塑剤は,水性接着剤の用途等に応じて,添加する場合もあれば添加しない場合もある,任意的な設計事項にすぎないものである。
したがって,A-370に基づきつつ,任意的な成分にすぎない可塑剤を除き,本件発明に至ることは当業者にとって容易である。
( ) また,本件優先日前に公開された乙2の5公報及び乙2の6公報には, 3それぞれ,酢酸ビニル樹脂系エマルジョンからなる可塑剤を含まない水性接着剤が記載されている。乙2の6公報の実施例1ないし8には,いずれも可塑剤を含まない水性接着剤の製造方法が記載されている。このように,そもそも可塑剤を配合しない水性接着剤を製造することは,本件優先日以前から広く知られた周知技術である。
そして,A-370と,乙2の5公報又は乙2の6公報に記載された発明の対象は,ともに水性接着剤であるから,技術分野,機能作用が共通する。
さらに,A-370と乙2の5公報又は乙2の6公報に記載された水性接着剤とは,いずれも本件発明の構成要件(Cを除いて)を充足している点で共通しており,非常に近似したものである。
したがって,A-370に,乙2の5公報及び乙2の6公報に記載された技術内容を適用し(すなわち,可塑剤を含まないようにして)本件発明に至ることは当業者にとって容易である。
( ) 原告は,乙第2号証の22(A-370の製品標準書)は公然実施され 4たものでも頒布された刊行物でもないと主張するが,A-370が公然実施されこれが掲載されたカタログ及びチラシが頒布されていれば足りるのであるから,反論にならない。
また,原告は,A-370がシード重合により得られることは,当業者であっても知り得ないと主張するが,譲渡があった場合は,譲受人は製品を自由に点検し,分解し,破壊し,又は分析することができ,これによって発明の内容を知ることができるので,譲渡人において内容を秘する意図があるとし得ない以上,本件優先日前に販売されていれば,公然実施に当たるのである。
本件についても,A-370を購入した者においてこれを分析すれば,これが本件発明の構成要件Aを充足することは十分知り得るものであるから,A-370は販売により公然実施されたものであると解すべきである。
さらに,原告は,A-370は可塑剤を含有しており,本件発明の構成要件Cを具備しないと主張する。
しかし,この点は既に主張したとおり容易に想到可能である。
また,原告は,乙第2号証の22からは,A-370の製造方法が不明であるから,構成要件E及びFを充足することは何ら証明されていないと主張する。
しかし,乙第2号証の22記載の各原料名(左欄)及び製造方法(右欄)によれば,A-370の製造工程は,保護コロイドとしてのPVA,シードとしてのA-400BA(酢酸ビニル樹脂系エマルジョン)を順次添加し,その後,酢酸ビニルモノマーと過酸化水素を滴下するものであることが記載されているから,A-370が,本件構成要件A,B及びDの「シード重合によって得られる酢酸ビニル樹脂系エマルジョンからなる…水性接着剤」であることは明らかである。よって,原告の主張は理由がない。
【原告の主張】( ) 被告は,A-370の内容について,乙第2号証の22(A-370の 1製品標準書)に記載された内容を引用しつつ特定しているが,同書証の内容が黒塗りされていることからも明らかなとおり,これは,公然知られたものでも公然実施されたものでも,頒布された刊行物でもない。したがって,A-370の内容を,乙第2号証の22の記載を引用しつつ,公然知られた又は公然実施されたものであるとして特定すること自体,誤っている。
( ) A-370の内容を特定するには,乙第2号証の14ないし21の記載 2に基づき,そしてA-370を入手した当業者が知り得る範囲内で特定しなければならない。そうすると,どのような分析方法によれば,容易に知り得るのかが全く説明されていないから,構成要件Aの「シード重合により得られる」との点は当業者であっても知り得ない事項である。よって,A-370の販売により,A-370がシード重合で得られたものであるとして公然実施されたことになるとの被告の主張は失当である。
( ) また,A-370は可塑剤を含有しており,この点で本件発明の構成要 3件Cを具備しない。
( ) 被告は,本件発明の構成要件E及びFに関して,乙第2号証の7を提示 4して乙第2号証の22記載の方法で得られたA-370の貯蔵弾性率G′aが247.7Paで,ずり応力τaが1188Paであると主張している。
また,被告は,乙第2号証の22記載の方法を変更し,A-370の原料であるA-400BAから可塑剤であるテキサノールを抜き,更にA-370を製造する際にも可塑剤であるテキサノールを抜いたもの(無可塑品i)の貯蔵弾性率G′aが292.9Paで,ずり応力τaが1374Paであるなどと主張し,構成要件E及びFを具備しているとする。
しかし,乙第2号証の7にはA-370をどのようにして得たのかの処方が全く開示されていない。また,乙第2号証の22に基づいてA-370を製造したとしているが,乙第2号証の22には各原料の詳細及び配合量が黒塗りされておりその処方は全く不明であるし,その原料であるA-400BA及びA-300BAの内容も全く不明である。
すなわち,A-370の製造処方が全く不明であるから,A-370が本件発明の構成要件E及びFを備えていることは客観的に証明されていない。
( ) 以上のとおり,A-370は,本件発明の構成要件A,C,E及びFを 5具備していないものである。また,乙2の5公報及び乙2の6公報には,本件発明の構成要件E及びFに関して何らの記載も示唆もない。したがって,A-370と乙2の5公報及び乙2の6公報をいかに組み合わせても,本件発明を導き出すことはできない。よって,当業者が容易に本件発明に至ることはできず,被告の主張は失当である。
10 争点10 本件発明は 本件優先日前に被告が製造していた水性接着剤 A (, (-1400)と同一であるか,又は同水性接着剤に基づき当業者が容易に発明できたものであるか(特許法29条1項,2項 )について)【被告の主張】( ) 本件発明は,以下のとおり,本件優先日前に公然実施された被告製造に 1,, 係る水性接着剤A-1400と同一であるから 特許法29条1項に該当しまた,本件発明は,同水性接着剤に基づき当業者が容易に発明できたものであるから,特許法29条2項に該当する。
( ) 被告は,本件優先日(平成13年2月16日)より前に,A-1400 2(エチレン-酢酸ビニルエマルジョン(EVA)をシードとし,酢酸ビニルモノマーのみを添加してシード重合したものであるため,以下 「A-14,00(EVAシード重合タイプ 」という )を独自に発明した。 )。
ア 被告は,遅くとも平成12年5月1日には,EVAをシードとして酢酸ビニルを重合した後,更にEVAを添加する「ブレンドタイプ」の水性接,。, 着剤を完成し その水性接着剤に品番A-1400を付した この時点でA-1400(EVAシード重合タイプ)は,水性接着剤に要求される要件を満たしており,水性接着剤として完成していた。
イ A-1400(EVAシード重合タイプ)は,本件優先日より前に被告により第三者に販売され,公然実施されていた。
すなわち,被告は,平成13年1月31日にA-1400(EVAシード重合タイプ)を出荷し,納入している。
ウ A-1400(EVAシード重合タイプ)は,本件優先日より前に業として使用されていた。
すなわち,平成12年10月30日の時点で,2社がA-1400(EVAシード重合タイプ)を使用していた。
(略)( ) したがって,本件優先日前に公然実施されていたA-1400(EVA 3シード重合タイプ)は,本件発明と形式的・文言的には同一である(特許法29条1項 。)また,A-1400(EVAシード重合タイプ)は,本件発明の構成要件全部を形式的に充足しているのであるから,当業者がA-1400(EVAシード重合タイプ)に基づき本件発明を発明することは容易である(同法29条2項 。),, , ( ) よって 本件特許は 特許無効審判により無効とされるべきものであり 4特許法104条の3第1項により,原告は本件特許権に基づく権利行使を許されないものである。
【原告の主張】( ) 被告は,乙第4号証の各枝番に記載されている「A-1400」を便宜 1的に「A-1400(EVAシード重合タイプ 」と呼んでいるが,正確に )は「アイカアイボンA-1400 (A-1400)である。また,A-1 」400がEVAシード重合タイプであることは否認する。
( ) A-1400の内容を特定する根拠となる書証は,ほとんどが閲覧制限 2,。 の申立てがなされており それ以外の書証は主たる部分が黒塗りされている乙第4号証の23は,本件優先日前に作成されたものではない。すなわち,被告が提出する証拠は,後記の乙第4号証の15及び同号証の16を除いて,, いずれも公然と知られていたものではないから これらの記載を引用しつつ公然知られた又は公然実施されたものであるとして,特定すること自体誤っている。
( ) 被告が提出した書証のうち,本件優先日前に公然と知られていた可能性 3があるものは,乙第4号証の15及び同号証の16のみである。
これらに基づいて知り得ることは,A-1400が可塑剤を含んでいないこと 構成要件C 酢酸ビニル樹脂系エマルジョン系接着剤であること 構 (),(成要件B ,水性接着剤であること(構成要件D)のみである。また,A- )1400を入手したとしても,それは現物であるから,商品説明書である乙第4号証の15及び製品安全データシートである乙第4号証の16に記載されている以上のことは記載されているはずがない。
とすると,構成要件Aの「シード重合により得られる」との点は,当業者であっても知り得ないものである。
( ) 被告は,本件発明の構成要件E及びFに関して,平成12年12月26 4日当時の製造指示書,製造記録に基づいてA-1400を製造して,貯蔵弾性率G′a及びずり応力τaを測定した結果(乙4の23)に基づき,本件発明の構成要件E及びFを具備していると主張する。しかし,平成12年12月26日当時の製造記録は証拠として提出されておらず,この当時のA-1400の製造処方は全く不明であるから,同製品が本件発明の構成要件E及びFを備えていることは,客観的に全く証明されていない。
したがって,A-1400が本件発明の構成要件E及びFを備えているとの被告の主張は客観性に欠け,信用できない。
11 争点11(被告は,本件優先日前に被告が製造していた水性接着剤(A-), ) 1400 について 特許法79条所定の先使用による通常実施権を有するかについて【被告の主張】被告は 本件優先日である平成13年2月16日より前に A-1400 E ,,(VAシード重合タイプ)を独自に発明し,かつ同日より前から継続して,これを製造し,また,第三者に販売していた。
A-1400(EVAシード重合タイプ)は,本件発明の構成要件全部を形式的・文言的に充足する。
A-1400(EVAシード重合タイプ)と,A-1400(アクリルエマルジョンとエチレン-酢酸ビニル共重合体エマルジョンの混合物をシードとするアクリルシード重合タイプ。すなわち,被告製品として特定されているA-1400である )とは,シード重合の際に用いられる原料が異なるだけであ 。
り,構成要件Aの「シード重合により得られる」との文言を形式的には充足す,, ( ) , るから 被告は A-1400 アクリルシード重合タイプ の実施について特許法79条による通常実施権を有する。
【原告の主張】( ) 原告は,A-1400は,酢酸ビニルエマルジョンとエチレン-酢酸ビ 1ニルエマルジョンとがブレンドされた水性接着剤であり,シード重合されたものではないと考える。
ア 乙第4号証の1(化成品開発起案書)に,所見としてシード重合技術の確立は難易度の高いものであると述べられている。平成12年4月4日付けで難易度が高いと認められていたシード重合技術が,その1か月弱後である平成12年5月1日に完成したとは,技術常識的に考えられない。したがって,第1ステップと位置づけられているブレンド系のものが平成12年5月1日に完成したと考えるのが自然である。
イ 乙第4号証の2(開発計画書)の実行履歴の箇所にはブレンドタイプとシード重合とが明確に区別されて記載されている。また,乙第4号証の14の実行履歴の箇所にも,ブレンドタイプとシード重合とが明確に区別されている。
ウ 乙第4号証の4(平成12年5月1日付けアイカアイボンA-1400検討書)には,酢酸ビニルエマルジョンとエチレン-酢酸ビニルエマルジョンを8:2の混合比でブレンドしたものをA-1400として品番登録したことが記載されている。
エ 乙第4号証の5(設計審査報告書)及び同号証の7(設計検証報告書)は,件名は「シード重合技術の確立 「ブレンドタイプの無可塑酢ビの 」,開発」と記載されているが,黒塗り部分がほとんどであり,どのような製,。 造処方で得られた どのような物性を持つものなのかが全く理解できないまた 乙第4号証の17ないし22は無可塑酢酸ビニルエマルジョン ブ ,,(レンドタイプ)に関する製造指示書であるが,やはり黒塗り部分がほとんどであり,どのような製造処方で得られた,どのような物性を持つものなのか,全く理解できない。
オ 乙第4号証の3には,ブレンドという用語は使用されていない。乙第4号証の6,同号証の8ないし13,同号証の15及び16には,ブレンドという用語もシード重合という用語も使用されていない。
以上,5点の理由から,A-1400は,酢酸ビニルエマルジョンとエチレン-酢酸ビニルエマルジョンを8:2の混合比で混合して得られた水性接着剤であることは明らかである。
( ) また,被告が平成12年4月10日に特許出願した甲第17号証(特開 2。「 」 。), 2001-294833公報 以下 甲17公報 という に係る発明はその特許請求の範囲に「酢酸ビニル樹脂系エマルジョンにガラス転移点が-10℃以下のエチレン・酢酸ビニル共重合系樹脂エマルジョンが配合されていることを特徴とする接着剤組成物 」とあるように,酢酸ビニルエマルジ 。
ョンとエチレン-酢酸ビニルエマルジョンとを混合した接着剤組成物に関する説明である。
そして,その実施例として,酢酸ビニルエマルジョン:エチレン-酢酸ビニルエマルジョンを 250部:36部実施例1 250部:73部 実 ,(),(施例2)及び250部:109部(実施例3)の割合で混合したものが記載されている。比率は約8:1,約8:2,約8:3で,最低造膜温度が2℃以下となっている。
したがって,特に実施例2は,乙第4号証の4記載の混合比で混合して得られた最低造膜温度が2℃以下の水性接着剤であるA-1400に完全に符合するのである。
ゆえに,甲17公報に係る特許の出願時期・内容から,A-1400は,混合して得られた水性接着剤であると認められる。
( ) 被告が特許権者となっている甲第18号証の公報(特開2004-20 34007公報。以下「甲18公報」という )は 「アクリル樹脂系エマル 。,ジョンならびにエチレン・酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの混合体をシードとして,酢酸ビニルモノマーを乳化重合して調整されたことを特徴とする接着剤組成物 」に関する特許公報であり,エチレン-酢酸ビニルエマルジョ 。
ンとアクリルエマルジョンの混合エマルジョン中で,酢酸ビニルをシード重。,, 合して接着剤組成物を得る発明が記載されている してみれば 被告製品はこの発明を実施して得られたものと認められる。
甲18公報に係る発明は,平成14年12月25日に特許出願されたものである。本件優先日である平成13年2月16日以前に発明が完成していたものとは,常識的に考えられない。
( ) 以上のとおりであるから,被告が本件優先日前に製造販売していたA- 41400は,本件発明の構成要件A,E及びFを備えていたものとは認められない。また,本件優先日後に完成された被告製品は,本件発明の構成要件A,E及びFを備えていたものと認められる。したがって,本件優先日において,被告は,被告製品に係る内容を発明していないから,先使用権を有しないことは明白である。
12 争点12(被告製品は本件発明の技術的範囲に属するか)について【原告の主張】被告製品の構成は,別紙物件目録のとおりであるところ,同目録記載a-1(重合開始剤として過酸化水素を用いシード重合により得られること)は,本件発明の構成要件Aを充足する。
被告が主張する製品のように被告製品を特定したいのであれば,被告は,被告製品の製造処方を開示すべきである。
【被告の主張】本件発明は,特許請求の範囲の記載が全面的又は部分的に抽象的ないし機能,,, 的であって それだけでは課題の解決を示したものということができず また特許請求の範囲に記載した発明範囲が発明の詳細な説明に記載した発明範囲より広く,特許請求の範囲構成要件の全部が公知であるか又はこれに準ずるものであるから,本件発明の構成要件Aは,本件明細書に記載された実施例1ないし3(段落【0055】ないし【0057 )に基づき,】A-1 シード重合におけるシードとしてEVAエマルジョンのみを使用しA-2 酢酸ビニルモノマーを添加する前に,他のモノマー(BA)を添加しA-3 シード重合後に何ら後添加を行わないものと解釈されるべきである。
(略)ゆえに,被告製品は,本件発明の構成要件A(A-1ないしA-3)を充足しない。
13 争点13(原告の損害)について【原告の主張】( ) 以上のとおり,被告製品は本件発明の技術的範囲に属し,その製造販売 1は本件特許権を侵害するところ,被告は,故意又は過失により,本件特許権を侵害したから,原告に対し,本件特許権侵害行為によって原告に被らせた損害を賠償する義務がある。
( ) 原告の損害額2被告が製造販売した被告製品は,被告が過去に製造販売したアイカエコエコボンドA-1400のうちロット番号C034181031及びD054122042のものである(なお,これらの被告製品が,構成要件E及びFを充足することは,甲第5号証及び同第6号証より明らかである 。。)水性接着剤は釜で生産されるため,釜の大きさで1ロットの数量が決定される。被告は,6トン釜で水性接着剤を生産しているから,1ロットで生産。, , される水性接着剤の数量は6トンであるそして 生産された水性接着剤はその多くが袋入り3kg品として出荷されている。袋入り3kg品の価格は1100円であるから,水性接着剤の価格は少なくとも300円/kgである。なお,容量の多少によって1kg当たりの値段は異なるが,平均価格は少なくとも300円/kgである。そうすると,1ロット当たり少なくとも180万円の売上げになり,2ロットで少なくとも360万円の売上げになる。被告は,上記ロット番号の水性接着剤を平成16年度に販売しており,その利益は7.7%であるから,少なくとも27万7200円の利益を得ている。
そして,被告が得た利益は,原告が被った損害と推定される(特許法102条1項)から,損害賠償請求額は27万7200円となる。
【被告の主張】争う。
当裁判所の判断
1 争点1(本件明細書は,構成要件Eの貯蔵弾性率G′及び構成要件Fのずり応力τの数値を調整する具体的手段について,当業者が実施できるように記載されているか)について( ) 改正前特許法36条4項の定めるいわゆる実施可能要件は,明細書の発 1明の詳細な説明に,当業者が容易にその実施をできる程度に発明の構成等が記載されていない場合には,発明が公開されていないことに帰し,自己の発明を公開することにより産業の発達に寄与した者に対しその代償として一定期間当該発明を独占的,排他的に実施し得る権利(特許権)を付与するという特許制度の前提を欠く事態を招くことから,これを明細書の記載要件としたものである。
したがって,物の発明については,その物をどのように製造するかについての具体的な記載がなくても明細書の記載及び図面並びに出願時の技術常識に基づき当業者がその物を製造することができるような特段の事情のある場合を除き,発明の詳細な説明にその物の製造方法が具体的に記載されていなければ,実施可能要件を満たすものとはいえないというべきである。
そして,本件のような数値の範囲を限定した特許については,当業者に対し,複数の数値を所定の範囲内に調整するために過度の試行錯誤を強いることなく実施し得る場合でなければ,実施可能要件を充足するということはできない。
そこで,まず,本件明細書の発明の詳細な説明の記載が,本件特許の出願時における技術水準を有する当業者が実施することが可能な程度に記載されているか否かについて検討する。
( ) 本件明細書の発明の詳細な説明には,次のとおりの記載がある。 2ア 「 発明の属する技術分野】本発明は,手作業による塗布性等に優れた 【酢酸ビニル樹脂系エマルジョンからなる水性接着剤と,該水性接着剤をノズル付き容器内に充填したノズル付き容器入り水性接着剤に関する (段。」落【0001 )】イ 「 従来の技術】従来,酢酸ビニル樹脂系エマルジョンは,木工用,紙 【加工用,繊維加工用等の接着剤や塗料などに幅広く使用されている。しかし,そのままでは最低造膜温度が高いため,多くの場合,揮発性を有する可塑剤,有機溶剤などの成膜助剤を添加する必要がある。前記可塑剤とし,, てフタル酸エステル類などが使用されるが 昨今の環境問題の高まりからフタル酸エステル類が環境に対して好ましくないとの指摘もあり,安全性の高い可塑剤などへの代替が検討されている。しかし,可塑剤は本質的にVOC成分(Volatile Organic Compounds;揮発性有機化合物)であり,特に住宅関連に使用される接着剤では,VOC成分が新築病(シックハウス症候群)の原因物質ではないかと見方もある 「そこで,可塑剤を含 。」まない酢酸ビニル樹脂系エマルジョン系接着剤が検討されているが,木工用に使用できるほどの高接着強度を発現し,しかも冬季など低温下で成膜できる技術は近年まで全く見当たらなかった (段落【0002 ) 。」】「特開平11-92734号公報には,エチレン含有量が15〜35重量%であるエチレン-酢酸ビニル共重合樹脂系エマルジョンに酢酸ビニルをシード重合してなる酢酸ビニル樹脂系エマルジョンを含む木工用接着剤が開示されている 「また,特開2000-239307号公報には, 。」エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂系エマルジョン中で酢酸ビニルをシード重合して酢酸ビニル樹脂系エマルジョンを製造する方法において,酢酸ビニルを系内に添加しつつシード重合を行う工程と,前記工程中に酢酸ビニル以外の重合性不飽和単量体を前記酢酸ビニルとは独立して系内に添加する工程とを含む酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの製造方法が開示されている。さらに,WO00/49054には,エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂系エマルジョン中で酢酸ビニルをシード重合して酢酸ビニル樹脂系エマルジョンを製造する方法において,酢酸ビニルを系内に添加しつつシード重合を行う工程と,前記工程の前工程又は後工程として,酢酸ビニル以外の重合性不飽和単量体を系内に添加する工程を含む酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの製造方法が開示されている。これらの技術によれば,可塑剤を含まなくても,優れた低温成膜性及び接着強度が得られるだけでなく,低温養生時においても高い接着強さが得られるというこれまでにない優れた性能が得られる (段落【0003 ) 。」】「一方,シード重合ではなく通常の保護コロイドを用いた乳化重合により得られる酢酸ビニル系エマルジョンからなる可塑剤含有水性接着剤のうち,ノズル押出し用又は刷毛塗り用に用いられるものは,一般にずり応力τが低いため容器のノズルから容易に押し出して使用できるとともに,貯蔵弾性率G′が高いため垂直面や天井に塗布しても垂れにくいという特徴を有している。これに対して,シード重合により得られる酢酸ビニル樹脂系エマルジョンからなる水性接着剤は,一般に貯蔵弾性率G′が低く,ずり応力τが高いという粘弾性上の特徴を有している。そのため,ロールコーターを用いて塗布する場合のロール塗工性には優れるものの (i)ノ,ズル付きの容器に充填し,手で容器を押して接着剤を出し,所望の箇所に適用しようとした場合,内容物が出にくいという問題 (ii)垂直面や天,井に適用すると垂れやすいという問題がある。前者の問題は特に冬場などの低温下において顕著であり,後者の問題は夏場などの比較的高温下で起こりやすい。前者の問題(押出し性)を解消するためには粘度を低くすることが考えられるが,粘度を低くすると後者の問題(垂れ性)が一層顕著になる。また,逆に粘度を高くして垂れ性を改善すると,今度は押出し性が著しく低下する。すなわち,冬場の使用適性を上げると夏場に使いにくくなり,夏場の使用適性を上げると冬場に使いにくくなるというジレンマがある。このように,シード重合により得られる酢酸ビニル樹脂系エマルジョンからなる水性接着剤では,押し出し易さと垂れにくさを両立することは一般に困難であり,通年で使用できるものは無かった (段落【0。」004 )】ウ 「 発明が解決しようとする課題】従って,本発明の目的は,シード重 【合により得られる酢酸ビニル樹脂系エマルジョンからなる水性接着剤であっても,容器のノズル先から容易に押し出すことができるとともに,保形性に優れ,比較的高温下において垂直面に適用しても垂れにくい水性接着剤,及び該水性接着剤をノズル付き容器内に充填したノズル付き容器入り水性接着剤を提供することにある(段落【0005 ) 。」】「,, , 本発明の他の目的は 上記の特性に加え 可塑剤を全く含まなくても優れた低温成膜性及び接着強度を備え,しかも低温養生時においても高い接着強さ(低温接着強さ)を示す水性接着剤,及び該水性接着剤をノズル付き容器内に充填したノズル付き容器入り水性接着剤を提供することにある (段落【0006 ) 。」】エ 「 課題を解決するための手段】本発明者らは,上記課題を解決するた 【め,酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの粘弾性特性について鋭意研究を重ねた結果,シード重合により得られる酢酸ビニル樹脂系エマルジョンからなる水性接着剤であっても,貯蔵弾性率G′とずり応力τを特定の範囲に調整すると,ノズル付き容器に充填した場合,冬場であっても手で容易に押し出すことができるだけでなく,比較的高温下で垂直面に適用した場合でも垂れにくいことを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成されたものである (段落【0007 ) 。」】オ 「 発明の実施の形態 「重合開始剤は,重合の初期(例えば,使用す 【】」る酢酸ビニルモノマーの半量を系内に添加するまでの期間)に,全使用量,。 」 の60重量%以上 特に65重量%以上を系内に添加するのが好ましい(段落【0024 )】「上記の方法により得られる酢酸ビニル樹脂系エマルジョンは,可塑剤を全く含まない状態であっても,優れた低温成膜性(例えば,最低成膜温度が0℃未満)と高い接着強度を示すだけでなく,低温養生時における接着強さの大幅な低下を阻止し,高い低温接着強さを示すという特徴を有する。例えば,下記式保持率(%)=[低温(5℃)接着強さ(MPa)/常態接着強さ(MPa)]×100で表される保持率の値が,60%以上,好ましくは80%以上である水性エマルジョンが得られ,条件によっては,前記保持率の値が90%以上にも達する水性エマルジョンが得られる。前記保持率が80%以上である水性エマルジョンは,例えば,酢酸ビニル以外の重合性不飽和単量体を系内に添加する工程を,酢酸ビニルを系内に添加しつつシード重合を行う工程の前に設けることにより得ることができる (段落【0040 ) 。」】「また,上記の方法により得られる酢酸ビニル樹脂系エマルジョンは,,。 」 被着体に塗布した場合 透明な皮膜が形成されるという特徴をも有する(段落【0042 )】「貯蔵弾性率G′及びずり応力τは,シードエマルジョンの種類や添加量,シード重合に用いる酢酸ビニルの添加量,前記酢酸ビニル以外の重合性不飽和単量体の種類,添加量,添加時期及び添加方法,保護コロイドや界面活性剤の種類及び添加量,重合開始剤(触媒)の種類,添加量,添加時期及び添加方法,前記添加剤の種類や添加量,重合温度,重合時間などの重合条件を適宜選択することにより調整できる。特に,G′a及びτaを前記所定の範囲にするためには,重合開始剤の種類,添加量,添加時期及び添加方法,保護コロイドや界面活性剤の種類及び添加量などが重要であるが これらに限らず 上記の種々条件を適宜選択することにより G′ ,, ,a及びτaを前記所定の範囲内に調整することが可能である (段落【0。」046 )】カ 「 発明の効果】本発明の水性接着剤は,シード重合により得られた水 【性接着剤であっても,ノズル先から容易に押し出すことができ,しかも比較的高温下において垂直面に適用しても垂れにくいという効果を奏する。
従って,ノズル押出し用や刷毛塗り用として好適に使用できる。また,接着剤がシード重合により得られる酢酸ビニル樹脂系エマルジョンからなるため,可塑剤を全く含まなくても,優れた低温成膜性及び接着強度を備える。さらに,モノマーを特定の方法で添加して得られるエマルジョンを用,()。 」 いたものは 低温養生時においても高い接着強さ 低温接着強さ を示す(段落【0053 )】キ 「実施例1攪拌機,還流冷却器,滴下槽及び温度計付きの反応容器に水505重量,, ()(() 部を入れ これに ポリビニルアルコール PVA 電気化学工業 株製,デンカポバールB-17)50重量部,酒石酸0.5重量部を加えて溶解させ,80℃に保った。PVAが完全に溶解した後,エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョン(EVAエマルジョン (電気化学工業)(株)製,デンカスーパーテックスNS100,不揮発分55重量%)を130重量部添加した。液温が80℃まで上がったところで,n-ブチルアクリレート(BA)を7重量部添加し,5分間攪拌した。さらにこの混合液に,触媒(35重量%過酸化水素水)0.5重量部を添加した後,触媒(35重量%過酸化水素水0.5重量部を水22重量部に溶解させた水溶液)と,酢酸ビニルモノマー285重量部とを,別々の滴下槽から2時間かけて連続的に滴下した。滴下終了後,さらに1.5時間攪拌し,重合を完結させて,酢酸ビニル樹脂系エマルジョンを得た。この酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの貯蔵弾性率G′(23℃)及びずり応力τ(7℃)を粘弾性測定装置(ハーケ社製,レオメーターRS-75;円錐-円盤型のレオメーター)により測定した結果,G′a及びτaは,それぞれ,270Pa及び1250Paであった (後略 (段落【0055 ) 。)」】「実施例2EVAエマルジョンとして,NS100の代わりにスミカフレックスS-401(住友化学工業(株)製,不揮発分55重量%)を130重量部用いた以外は実施例1と同様の方法により酢酸ビニル樹脂系エマルジョンを得た。この酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの貯蔵弾性率G′(23℃)及びずり応力τ(7℃)を粘弾性測定装置(ハーケ社製,レオメーターR),, S-75 により実施例1と同様にして測定した結果 G′a及びτaはそれぞれ,230Pa及び1450Paであった (後略 (段落【00 。)」56 )】「実施例3攪拌機,還流冷却器,滴下槽及び温度計付きの反応容器に水505重量,, ()(() 部を入れ これに ポリビニルアルコール PVA 電気化学工業 株製,デンカポバールB-17)50重量部,酒石酸0.5重量部を加えて溶解させ,80℃に保った。PVAが完全に溶解した後,エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョン(EVAエマルジョン (電気化学工業)(株)製,デンカスーパーテックスNS100,不揮発分55重量%)を130重量部添加した。液温が80℃まで上がったところで,n-ブチルアクリレート(BA)を7重量部添加し,5分間攪拌した。さらにこの混合液に,触媒(35重量%過酸化水素水)0.3重量部を添加した後,触媒(35重量%過酸化水素水0.5重量部を水22重量部に溶解させた水溶液)と,酢酸ビニルモノマー285重量部とを,別々の滴下槽から2時間かけて連続的に滴下した。なお,酢酸ビニルモノマー滴下開始後30分の時点で,触媒(35重量%過酸化水素水)0.3重量部を系内に添加した。前記触媒と酢酸ビニルモノマーの滴下終了後,さらに1.5時間攪拌し,重合を完結させて,酢酸ビニル樹脂系エマルジョンを得た。この酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの貯蔵弾性率G′(23℃)及び及びずり応力τ(7℃)を粘弾性測定装置(ハーケ社製,レオメーターRS-75)により実施例1と同様にして測定した結果,G′a及びτaは,それぞれ,280Pa及び1200Paであった(後略 (段落【0057 ) 。)」】「比較例1攪拌機,還流冷却器,滴下槽及び温度計付きの反応容器に水505重量,, ()(() 部を入れ これに ポリビニルアルコール PVA 電気化学工業 株製,デンカポバールB-24T)50重量部,炭酸水素ナトリウム1重量部を加えて溶解させ,80℃に保った。PVAが完全に溶解した後,エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョン(EVAエマルジョン (電気)化学工業(株)製,デンカスーパーテックスNS100,不揮発分55重量%)を130重量部添加した。液温が80℃まで上がったところで,n-ブチルアクリレート(BA)を7重量部添加し,5分間攪拌した。この混合液に,触媒(ペルオキソ2硫酸アンモニウム1重量部を水22重量部に溶解させた水溶液)と,酢酸ビニルモノマー285重量部とを,別々の滴下槽から2時間かけて連続的に滴下した。滴下終了後,さらに1.5時間攪拌し,重合を完結させて,酢酸ビニル樹脂系エマルジョンを得た。この酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの貯蔵弾性率G′(23℃)及び及びずり応力τ(7℃)を粘弾性測定装置(ハーケ社製,レオメーターRS-75)により実施例1と同様にして測定した結果,G′a及びτaは,それ,。 ()」(【 】) ぞれ 100Pa及び2400Paであった 後略 段落 0058「比較例2攪拌機,還流冷却器,滴下槽及び温度計付きの反応容器に水505重量,, ()(() 部を入れ これに ポリビニルアルコール PVA 電気化学工業 株製,デンカポバールB-17)50重量部,酒石酸1重量部を加えて溶解させ,80℃に保った。PVAが完全に溶解した後,エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョン(EVAエマルジョン (電気化学工業(株) )製,デンカスーパーテックスNS100,不揮発分55重量%)を130重量部添加した。液温が80℃まで上がったところで,n-ブチルアクリレート(BA)を7重量部添加し,5分間攪拌した。この混合液に,触媒(35重量%過酸化水素水1重量部を水22重量部に溶解させた水溶液)と,酢酸ビニルモノマー285重量部とを,別々の滴下槽から2時間かけて連続的に滴下した。滴下終了後,さらに1.5時間攪拌し,重合を完結させて,酢酸ビニル樹脂系エマルジョンを得た。この酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの貯蔵弾性率G′(23℃)及びずり応力τ(7℃)を粘弾性測定装置(ハーケ社製,レオメーターRS-75)により実施例1と同様にして測定した結果,G′a及びτaは,それぞれ,180Pa及び2100Paであった (後略 (段落【0059 ) 。)」】「比較例3攪拌機,還流冷却器,滴下槽及び温度計付きの反応容器に水505重量,, ()(() 部を入れ これに ポリビニルアルコール PVA 電気化学工業 株製,デンカポバールB-05)25重量部,ポリビニルアルコール(PVA (電気化学工業(株)製,デンカポバールB-17)25重量部,酒 )石酸1重量部を加えて溶解させ,80℃に保った。PVAが完全に溶解した後,エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョン(EVAエマルジョン (電気化学工業(株)製,デンカスーパーテックスNS100,不揮 )発分55重量%)を130重量部添加した。液温が80℃まで上がったところで,n-ブチルアクリレート(BA)を7重量部添加し,5分間攪拌した。この混合液に,触媒(35重量%過酸化水素水1重量部を水22重量部に溶解させた水溶液)と,酢酸ビニルモノマー285重量部とを,別々の滴下槽から2時間かけて連続的に滴下した。滴下終了後,さらに1.,, 。 5時間攪拌し 重合を完結させて 酢酸ビニル樹脂系エマルジョンを得たこの酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの貯蔵弾性率G′(23℃)及びずり() ( , ) 応力τ 7℃ を粘弾性測定装置 ハーケ社製 レオメーターRS-75,,, により実施例1と同様にして測定した結果 G′a及びτaは それぞれ80Pa及び1600Paであった (後略 (段落【0060 ) 。)」】( ) 上記の本件明細書の発明の詳細な説明の記載によると,従来,揮発性を 3有する可塑剤を含まない酢酸ビニル樹脂系エマルジョンからなる水性接着剤であっても,エチレン-酢酸ビニル共重合体エマルジョン中で酢酸ビニルをシード重合して製造する方法によって得られる水性接着剤であれば,優れた低温成膜性及び接着強度を得ることはできたが,他方,シード重合により得られる酢酸ビニル樹脂系エマルジョンからなる水性接着剤は,可塑剤含有水性接着剤と比較して,一般に冬場にはノズル付き容器から押し出しにくく,夏場には垂直面や天井に塗った場合に垂れやすい,という欠点があり,通年で使用できるものはなかったところ,本件発明は,シード重合により得られる酢酸ビニル樹脂系エマルジョンからなる水性接着剤であっても,容器のノズル先から容易に押し出すことができる押し出し性と,比較的高温下において垂直面に適用しても垂れにくい耐垂れ性を両立した水性接着剤を提供することを目的とするものである。そして,この目的を達成するための手段として,まず,水性接着剤の貯蔵弾性率G′とずり応力τを特定範囲に調整すると,ノズル付き容器に充填した場合に,冬場であっても押し出しやすく,高温下であっても垂れにくいことを見いだし,この知見に基づいて,本件発明に係る水性接着剤は,特許請求の範囲の【請求項1】に規定するとおりの構成,すなわち,測定面が金属製の円錐-円盤型のレオメーターを用い,温度23℃,周波数0.1Hzの条件でずり応力を走査して貯蔵弾性率G′aを測定したとき,その値がほぼ一定となる線形領域における該貯蔵弾性率G′aの値が120〜1500Paであり,かつ,測定面が金属製の円錐-円盤型のレオメーターを用い,温度7℃の条件でずり速度を0から200(1/s)まで60秒間かけて一定の割合で上昇させてずり応力τaを測定したとき,ずり速度200(1/s)におけるずり応力τaの値が100〜2000Paとする水性接着剤を提供することとしたものである。
そして,本件明細書には,貯蔵弾性率G′a及びずり応力τaの数値の調整方法に関して 「重合開始剤の種類,添加量,添加時期及び添加方法,保 ,護コロイドや界面活性剤の種類及び添加量など」が特に重要であるとの記載(【 】),,「,(, があり 段落 0046 さらに 重合開始剤は 重合の初期 例えば使用する酢酸ビニルモノマーの半量を系内に添加するまでの期間)に,全使用量の60重量%以上,特に65重量%以上を系内に添加するのが好ましい 」とされており(段落【0024 ,このような重合開始剤の添加時期 。】 )及び量に関する記載がある。
また,本件発明について,実施例及び比較例を含めてすべてn-ブチルア,, (), クリレートが添加されているが 実施例は ポリビニルアルコール PVA酒石酸,水を加えて溶解させ,PVAが完全に溶解した後,エチレン-酢酸ビニル共重合体エマルジョン(EVAエマルジョン)を添加した後,n-ブチルアクリレートを添加し 更に触媒35重量%過酸化水素水 を全量 実 ,( )(施例1及び2)ないし2分の1(実施例3)添加し,その後,過酸化水素水を水に溶解させた水溶液からなる触媒と,酢酸ビニルモノマーを滴下し重合させ(実施例1ないし3 ,あるいはこの時点で,残りの触媒を添加し(実 )施例3)て重合する方法が開示されており,比較例とは用いる触媒が異なる(),(,) 比較例1 ポリビニルアルコールの種類が異なる 比較例1 比較例3等の相違点があるほか,比較例ではすべて,触媒を酢酸ビニルモノマーと同時に連続的に滴下しており,実施例のように一括して添加していないという相違点のあることが認められる。
このように,本件発明は,耐垂れ性と押し出し性を両立するという課題を解決することを目的とするものであり,その目的を達成するために重要なことは,垂れ性を規定する貯蔵弾性率G′と,押し出し性を規定するずり応力τの値を,構成要件E及びF所定の値に調整することにあることは,上記のとおり明らかであり,その点が本件発明の最大の特徴であるということができる。
そうである以上,本件明細書に,構成要件E及びF所定範囲の貯蔵弾性率G′a及びずり応力τaを備える水性接着剤について,当業者が特別な知識を付加することなく,また,当業者に過度の試行錯誤を強いることなく,本件明細書の記載と技術常識に基づいて製造できるように記載されていなければ,本件明細書は実施可能要件を充足することにはならない。
( ) ところで,下記証拠によれば,本件発明における貯蔵弾性率G′a及び 4ずり応力τaの調整手段につき,原告は,審査段階で,下記アの拒絶理由通知に対して下記イのとおりの意見書を提出していたことが認められる。
ア 本件発明に係る特許出願について,平成15年9月4日付けで以下の理由による拒絶理由通知が発せられた(乙3。なお,拒絶理由3については省略する 。。)「1.この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。
2.この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記・請求項 1-7・引用文献等 1-5・備考上記1-5の各引例には,それぞれ,シード重合型エチレン-酢酸ビニル共重合体水性エマルジョンからなる,可塑剤非含有型のものを含む木工用ないし紙工用等に有用な接着剤組成物が記載されている。
本願の上記各請求項記載の発明と上記各引例記載の発明とを比較すると,本願発明では,貯蔵弾性率及びずり応力に係る規定が存するのに対して,各引例には,当該物性に係る具体的記載がない点でのみ一応相違するかに見える。
しかしながら,本願発明に係るエマルジョンの製造方法及び上記各引例記載の発明に係るエマルジョンの製造方法を比較すると,実質的な差異が存するものとは認められず,してみると,上記各引例記載のものも本願所定の貯蔵弾性率及びずり応力に係る物性を有するものと認められる。
従って,本願の上記各請求項記載の発明と上記各引例記載の発明との間に実質的な差異があるものとは認められない 」。
なお,引用文献は,特開平11-092531号公報(引用文献1 ,)特開平11-092734号公報(引用文献2 ,特開昭61-2522 )80公報(引用文献3。乙2の5公報 ,特開2000-23907号公 )報(引用文献4 ,特開2000-302809号公報(引用文献5。乙 )2の6公報 ,高分子学会高分子辞典編集委員会編,新版高分子辞典,株 ),,()。 式会社朝倉書店 1988年11月25日 390 引用文献6 であるイ 原告は,上記拒絶理由通知に対し,平成15年11月14日付けの手続補正書と共に同日付けの意見書を提出した(乙2の30 。同意見書には)次の記載がある。特許庁審査官は,これらによって本件特許出願について拒絶理由が解消されたとして,特許査定した。
「 4)新規性及び進歩性について ((4-1)本願発明の背景と発明完成に至るまでの経緯」「シード重合ではなく通常の保護コロイドを用いた乳化重合により得られる酢酸ビニル系エマルジョンからなる可塑剤含有水性接着剤のうち,ノズル押出し用又は刷毛塗り用に用いられるものは,一般に容器のノズルから容易に押し出して使用できるとともに,垂直面や天井に塗布しても垂れにくいという特徴を有しています。しかし,近年,環境問題等から,可塑剤を含まない接着剤が求められるようになりました。そこで,可塑剤を含まなくても木工用に使用できるほどの高接着強度を有し,しかも低温下で成膜できる接着剤を得ようと種々検討がなされ,その結果,このような特性を有する接着剤としてシード重合により得られる酢酸ビニル樹脂系エマルジョンからなる水性接着剤が開発されました(前記引用文献1,2,4及び5等 。)このシード重合により得られる酢酸ビニル樹脂系エマルジョンからなる接着剤は,比較的大粒径のシードをベースとした粒子と,比較的小粒径の酢酸ビニルホモ粒子とが共存することによって流動性が上がり,低粘度化が可能であるため,ロールコーターを用いて塗布する場合のロール塗工性に優れるという特徴を有しています」「一方,その反面 (中略 ,従来のシード重合により得られる酢酸ビ ,)ニル樹脂系エマルジョンからなる水性接着剤では,押し出し易さと垂れにくさを両立することは一般に困難であり,通年で使用できるものはありませんでした。
そこで,本発明者はこのシード重合による酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの粘弾性について検討を重ねた結果,流体が垂直面に塗布された際の垂れ性に,流体の持つ弾性の性質が大きく関与することを見出しました。そして,耐垂れ性の確保はその流体の特定条件下での貯蔵弾性率を調整することにより可能となりました 」。
「すなわち,本発明のポイントは,耐垂れ性及び押出し性を次元の異なる2つの性質である貯蔵弾性率(弾性の性質)とずり応力(粘性の性質)とで規定していることにあります。そして,上記着想に基づいてさらに検討を加えた結果,特定の製造法を採用することにより,上記2つの特性を両立する酢酸ビニル樹脂系エマルジョンを得ることができました 」。
「貯蔵弾性率及びずり応力で,耐垂れ性及び容器のノズルからの押出し性を規定するのは,従来にない全く新しい観点であり,このような耐垂れ性と押出し性を双方満足する無可塑型酢酸ビニル樹脂系エマルジョンからなる水性接着剤は,従来存在していなかったものであります 」。
「 4-3)本願発明と引用文献との対比 (本願発明と引用文献1〜5に記載の発明とを対比すると,引用文献1〜5には,無可塑剤型酢酸ビニル樹脂系エマルジョンからなる水性接着剤において,押し出し性と耐垂れ性とを両立するという本願発明の課題については全く記載が無く,しかも本願発明の特徴である(A)G′aが120〜1500Paであり且つ(B)τaが100〜2000Paであるという要件を充足する水性接着剤について一切開示も示唆もない点で,両者は明確に相違します 」。
「従来のシード重合により得られる酢酸ビニル樹脂系エマルジョンからなる水性接着剤は,前記(A)G′aが120〜1500Paであり且つ(B)τaが100〜2000Paであるという要件を充足しません 」。
「このような本願発明の水性接着剤と従来のシード重合による酢酸ビニル樹脂系エマルジョンからなる水性接着剤との物性(G′a及びτa)の違いは,エマルジョンの製造方法の違いに起因します。本願明細書の段落0046に記載されているように,貯蔵弾性率G′a及びずり応力τaを前記所定の範囲にするためには,重合開始剤の種類,添加量,添加時期及び添加方法等を適宜選択することにより調整できますが,特に,重合開始剤を重合初期に多量に(例えば全使用量の60重量%以上)使用することにより,G′a及びずり応力τaが前記所定の範囲に入る水性接着剤を調整することができます(段落0024,実施例1〜3 。)重合開始剤を重合初期に多量に系内に添加することにより押出し性と耐垂れ性とを両立できる理由は,必ずしも明らかではありませんが,以下のように推測されます。
前述したように,シード重合により得られる酢酸ビニル樹脂系エマルジョンからなる接着剤は,比較的大粒径のシードをベースとした粒子と,比較的小粒径の酢酸ビニルホモ粒子とが共存することによって流動性が上がり,低粘度化が可能となります。また,シードエマルジョンを利用しない通常重合品に比べ,一般に貯蔵弾性率G′が低く,ずり応力τが高い傾向になります(括弧内省略 。ところが,触媒(重合開始剤)を重合初期に )比較的多量に添加すると,ラジカルが多く発生し,このラジカルが保護コロイド(ポリビニルアルコール等)分子鎖同士の架橋や保護コロイド-エマルジョン粒子間の結合を適度に生成させます。そして,エマルジョン粒子と保護コロイド(高分子溶液)間の相互作用が向上した結果,本願発明のような所定のG′a値及びτa値を有する押し出しやすく垂れにくい水性接着剤が得られるものと推測されます(括弧内省略 。より詳細には,)従来のシード重合品では,応力に対して各粒子・水溶性高分子鎖は比較的自由に運動できるので,小さな応力でも流れやすく,垂直面に塗布する程度で垂れてしまいます。これに対して,本願発明のシード重合品では,緩やかな架橋構造が存在するため,運動の自由度が従来のシード重合品よりも低くなる 弾性が応力に対する抵抗力として働く 結果 小さな応力 垂 (),(直面)では流れにくく(垂れにくく ,手で容器を押す程度の比較的大き )な応力で初めて流れるようになります(括弧内省略 。なお,手で容器を)押す程度の比較的大きな応力が働く場合には,弾性が応力に対する抵抗力として寄与する領域を外れているため,押出し性は損なわれません。そのため,耐垂れ性と押出し性とを両立しうる接着剤を得ることが可能になったものと考えられます。
,, 引用文献1〜5には 押し出し性と耐垂れ性とを両立するという課題も重合初期に重合開始剤を多く存在させることや系内で緩やかな架橋構造を形成することについても,何ら開示も示唆もするところもないので,これらの文献の記載から本願発明の水性接着剤は得られず,またそれを想起することもできません 」。
,, , ( ) 上記意見書の記載のとおり 原告は 本件特許出願の審査過程において 5可塑剤を含まない水性接着剤につき,押し出し性及び耐垂れ性というような相矛盾するとも思われる性質を貯蔵弾性率G′及びずり応力τを構成要件E及びF所定の特定の範囲に調整することによって両立し得ることを初めて見いだしたのが本件発明であること,そして,特に,重合開始剤(触媒)を重合初期に多量に(例えば全使用量の60重量%以上)使用することによって貯蔵弾性率G′a及びずり応力τaを所定の範囲に調整することができると主張していたことが認められる。
( ) ところが,本件発明の特許請求の範囲の記載は,触媒の添加方法につい 6ては何らの限定もしていない 本件明細書の段落 0024 においても 重 。【】「合開始剤は,重合の初期(例えば,使用する酢酸ビニルモノマーの半量を系内に添加するまでの期間)に,全使用量の60重量%以上,特に65重量%以上を系内に添加するのが好ましい 」と記載されてはいるものの,それ以 。
外の製造方法を排除する旨の記載はなされていない。
他方において 本件明細書の詳細な説明の欄には 段落 0024 と 0 ,,【】【046】に,貯蔵弾性率G′aとずり応力τaの2つの数値を調整する主要な要素を示す記述があるが,実施例として具体的な発明の実施の形態が記載されている以外には,貯蔵弾性率G′aとずり応力τaの2つの数値を調整する具体的手段を示す記載はない。
そして,製造方法が開示されている実施例は3件にすぎず,その内容は,,() , 前記( )のとおり 重合開始剤 触媒に35重量%過酸化水素水を用いて 3これを重合初期に多量(全量又は2分の1)に一括添加した後,過酸化水素水を水に溶解させた水溶液からなる触媒と酢酸ビニルモノマーを連続滴下して重合させ,あるいはこの時点で残りの触媒を添加して重合する場合のみであって,当業者が触媒を重合の初期に多量に用いないで本件発明を実施しようとした場合に,本件明細書の段落【0046】に記載されている多くの要素をどのように調整すればよいのかについては,本件明細書の発明の詳細な。, , 説明の記載中にはこれを示唆するものもない なお 比較例についてみれば比較例2は貯蔵弾性率G′a,比較例3はずり応力τaにおいて,本件発明の所定の数値の範囲内に入ってはいる。しかし,一般に比較例とは,当該発明の実施例に比較して効果の劣る従来技術に基づく発明を記載し,当該発明の従来技術との差異を明確にするために記載するものであるから,比較例間の細かな差異をもって,発明の実施形態を開示していると認めることは困難であるというべきである したがって当業者において 重合初期に触媒 過 。, , (酸化水素水)を多量に使用しない場合に,貯蔵弾性率G′a及びずり応力τaを調整する手段が本件明細書に開示されているものと理解することは困難であるというべきである。現に,本件においても貯蔵弾性率G′a及びずり応力τaという2つの数値を所定の範囲に調整するために,製造条件をどのように変更すればよいのかは,本件明細書上全く触れられていない。
また,本件明細書に記載がなくても,当業者が触媒(過酸化水素水)を重合の初期に多量に使用しない場合において,本件特許出願当時の技術常識に基づいて貯蔵弾性率G′a及びずり応力τaの値を所定の範囲内に調整することができると認めるに足りる特段の事情もない。
以上によれば,本件明細書の記載によっては,触媒(過酸化水素水)を重合の初期に多量に使用しないという製造方法を用いる場合において,当業者において,特別な知識を付加することなく,また,当業者に過度の試行錯誤を強いることなく,貯蔵弾性率G′a及びずり応力τaの値を構成要件E及びF所定の範囲内に調整する具体的手段について,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえず,改正前特許法36条4項所定のいわゆる実施可能要件を充足するとは認められないというべきである。
原告は,本件明細書では原告が最良と思う実施例が3つ挙げられており,この記載により当業者が本件発明を容易に実施し得ると主張する。しかし,本件発明の本質的特徴は,貯蔵弾性率G′a及びずり応力τaの各数値を従来の水性接着剤とは異なる数値に調整する点にのみあるというべきであるところ,そのように調整された数値による水性接着剤が具体的にどのような構造,組成を有するものであるかは本件明細書によっても明確でない。将来において,当業者が上記実施例とは異なって重合初期に触媒(過酸化水素水)を多量に使用しないような製造方法を用いて,貯蔵弾性率G′a及びずり応力τaを本件発明所定の数値に調整した水性接着剤が製造されたとしても,そのように製造された物の構造,組成が本件明細書に具体的に記載された物の構造,組成と同じであるとはにわかに認められない。このように,本件明細書に実施例として開示されたもの,すなわち,重合当初に触媒(過酸化水素水)を多量に使用する方法で製造する場合に,貯蔵弾性率G′a及びずり応力τaを本件発明の構成要件E及びFの所定の範囲内に調整することが当業者にとって実施が可能であったとしても,そのような製造方法に限定されない広範な種々の水性接着剤を包含する本件発明が実施可能要件を充足しているということはできない。したがって,原告の上記主張は採用できない。
( ) また,原告は,被告が製造したトレース品は乙2の5公報及び乙2の6 7公報に記載された実施例の追試というよりは,本件明細書の記載を参考にしたものであると主張して,本件明細書の記載と,当業者の技術常識によれば当業者が本件発明を実施することは可能であると主張する。しかし,トレース品C-6Y及びC-22Yの変更点は,保護コロイドの種類及び量,シー,, ドとなるエチレン-酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの種類 水の配合割合とトレース品K-14Y,K-16Y,K-19Yの変更点は,保護コロイドの種類及び量,シードとなるエチレン-酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの種類及び量,触媒の量等と,いずれも多岐にわたっており,かつ,本件発明の実施例とも違う原料を用いていることによれば,被告がいかなる技術常識に基づいてこれらのトレース品を製造できたのかは明らかではなく(原告において,そのことを示唆するような立証もなされていない ,製造方法に関。)して被告独自のノウハウが使用された可能性は高いというべきである。よって,これらのトレース品の貯蔵弾性率G′a及びずり応力τaが本件発明の構成要件E及びF所定の範囲内にあるとしても,その一事をもって,本件発明が実施可能要件を充足すると認めることはできない。したがって,原告のこの点に関する主張も採用できない。
,, () ( ) 以上によれば 本件明細書は 重合の初期に重合開始剤 過酸化水素水 8を多量に添加する場合はともかく,それ以外の方法によって製造された水性接着剤も本件発明に包含される以上,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているということはできない。
したがって,本件特許は,改正前特許法36条4項に規定する実施可能要件を満たしていないから,同法123条1項4号に該当し,特許無効審判に,, より無効とすべきものと認められるから特許法104条の3第1項により原告は,被告に対し,本件特許権に基づく権利行使をすることはできないというべきである。
( ) なお,原告は本件訂正審判請求をしているところ,前提事実記載のとお 9り,本件訂正明細書記載の特許請求の範囲においては,重合開始剤(触媒)の種類を過酸化水素水に限定したものの,なお,重合開始剤(触媒)の添加方法について何ら限定していないから,本件発明の構成要件Eの貯蔵弾性率G′a及び構成要件Fのずり応力τaを同構成要件所定の数値の範囲内に調整する手段の記載がなされていない場合が広範に含まれていることには変わりがない。したがって,仮に本件訂正審判請求が認められたとしても,やはり改正前特許法36条4項に規定する実施可能要件を満たしていないことに変わりはないから,同法123条1項4号に該当し,無効とすべきものであると解するのが相当であり,やはり被告に対し本件特許権に基づく権利行使をすることができないことになる。
2 したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告の本件請求は理由がないから,主文のとおり判決する。
追加
(別紙)物件目録酢酸ビニル樹脂系エマルジョン形水性接着剤商品名「アイカエコエコボンドA-1400」(a)以下のような水性接着剤。
(a-1)重合開始剤として過酸化水素を用いシード重合により得られること。
(a-2)酢酸ビニル樹脂系エマルジョンからなること。
(a-3)可塑剤を実質的に含まないこと。
(b)前記水性接着剤の特性は以下のとおり。
(b-1)貯蔵弾性率G′aの値が230〜280Paであること。
(b-2)ずり応力τaの値が1200〜1450Paであること。
(c)前記貯蔵弾性率G′aの値及び前記すり応力τaの値の測定方法は,以下のとおり。
(c-1)測定面がチタン製円錐-ステンレス製円盤型のレオメーターを用い,温度23℃,周波数0.1Hzの条件でずり応力を走査して貯蔵弾性率G′を測定したとき,その値がほぼ一定となる線形領域における貯蔵弾性率G′の値を,前記(b-1)でいう貯蔵弾性率G′aの値とすること。
(c-2)測定面がチタン製円錐-ステンレス製円盤型のレオメーターを用い,温度7℃の条件でずり速度を0から200(1/s)まで60秒間かけて一,()定の割合で上昇させてずり応力τを測定したときずり速度2001/sにおけるずり応力τの値を,前記(b-2)でいうずり応力τaの値とすること。
以上
裁判長裁判官 田中俊次
裁判官 西理香
裁判官 西森みゆき
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