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審判番号(事件番号) データベース 権利
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関連ワード 技術的思想 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  慣用技術 /  公知技術 /  技術的範囲 /  発明の詳細な説明 /  分割出願 /  実施料相当額 /  存続期間 /  対象製品 /  出願経過 /  均等 /  置き換え /  置換 /  置換可能性 /  同一の作用効果 /  容易に想到(容易想到性) /  意識的除外(意識的に除外) /  特許発明 /  実施 /  権原 /  構成要件 /  構成要件充足性 /  業として /  侵害 /  損害額 /  実施料 /  設定登録 /  拒絶査定不服審判 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  減縮 /  変更 /  異議申立 / 
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事件 平成 15年 (ワ) 27382号 損害賠償請求事件
原告 日綜産業株式会社
同訴訟代理人弁護士 矢野義宏
同補佐人 天野泉
同 石川憲
被告 三伸機材株式会社
同訴訟代理人弁護士 中島和雄
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2004/10/15
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求の趣旨
被告は,原告に対し,5438万5824円及びこれに対する平成15年12月11日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は,工事用可搬式歩廊の発明に係る特許権を有していた原告が,被告に対し,被告の製造賃貸した工事用可搬式歩廊が原告の特許発明構成要件を文言上充足するか又はこれと均等なものとして,その技術的範囲に属すると主張して,特許権に基づき損害賠償を求めている事案である(なお,原告の有していた特許権は,存続期間満了により,既に消滅している。)。
被告は,これに対して,被告の製造賃貸した工事用可搬式歩廊は原告の特許発明技術的範囲に属しないと主張して,原告の請求を争っている。
1 前提となる事実(当事者間に争いのない事実及び該当箇所掲記の各証拠によって容易に認められる事実) (1) 当事者 原告は,産業機器,化学プラント機器及び足場用機械装置等の製造販売等を業とする株式会社である。
被告は,建設機械器具及び仮設材料の販売並びに賃貸等を業とする株式会社である。
(2) 原告の特許権 原告は,下記の特許権を有していた(甲1,2。以下「本件特許権」という。)。
発明の名称 工事用可搬式歩廊 特許番号 第2132357号 登 録 日 平成9年10月3日 出願番号 特願平4-255493 分割の表示 特願昭58-140207の分割 出 願 日 昭和58年7月31日 公開番号 特開平6-93714 公 開 日 平成6年4月5日 存続期間 平成15年7月31日満了 (3) 本件特許権の設定登録に至る経緯(甲1,2,乙1,弁論の全趣旨) 本件特許権は,次のような経緯を経て設定登録された。
昭和58年7月31日 原出願(特願昭58-140207号) 平成4年8月31日 分割出願(特願平4-255493号) 平成8年5月16日 特許異議決定 平成8年5月28日 拒絶査定 平成8年6月27日 拒絶査定不服審判請求(審判平8-10511号) 平成8年7月29日 手続補正書提出 平成9年5月26日 審決(請求認容) 平成9年10月3日 設定登録 (4) 本件特許権に係る明細書の特許請求の範囲の記載(争いがない) 本件特許権に係る明細書(以下「本件明細書」という。本判決末尾添付の特許公報(甲1。以下「本件公報」という。)参照)の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,この発明を「本件特許発明」という。)。
「被構築物の梁材等の水平支持材間に架設あるいは吊設されて作業者の歩行あるいは諸作業を可能にする歩廊において,当該歩廊は主歩廊と主歩廊の一端あるいは両端に長さ調節自在に副わせて保持した副歩廊とからなり,主歩廊と副歩廊は一対の枠体と枠体の内側間に連設された足場板とからなり,主歩廊と副歩廊の枠体には折り畳み自在な手摺が附設され,副歩廊の枠体端部には連結金物が取り付けられ,更に前記水平支持材には副歩廊を固定する固定装置が設けられ,前記固定装置は水平支持材に着脱自在に定着されるクランプと,このクランプに設けたボルトと,このボルトに介装されたナットと,ボルトに対してナットを介して高さ調整自在に固着されたプレートと,このプレートに保持されて副歩廊の枠体下端を上記プレートと協働して挟持するクリップとで構成させたことを特徴とする工事用可搬式歩廊」 (5) 構成要件の分説 本件特許発明構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,それぞれを「構成要件A」のようにいう。なお,括弧内の符号は本件公報の図(主として図12,19)の符号に対応する。)。
A 被構築物の梁材等の水平支持材間に架設あるいは吊設されて作業者の歩行あるいは諸作業を可能にする歩廊において, B 当該歩廊は主歩廊(10)と主歩廊の一端あるいは両端に長さ調節自在に副わせて保持した副歩廊(20)とからなり, C 主歩廊と副歩廊は一対の枠体(11)・(21)と枠体の内側間に連設された足場板(12)・(22)とからなり, D 主歩廊と副歩廊の枠体には折り畳み自在な手摺(80)・(90)が附設され, E 副歩廊の枠体端部には連結金物(30)が取り付けられ, F 更に前記水平支持材には副歩廊を固定する固定装置(60)が設けられ, G 前記固定装置は水平支持材に着脱自在に定着されるクランプ(61)・(100)と,このクランプに設けたボルト(62)・(101)と,このボルトに介装されたナット(62a)・(103)・(104)と,ボルトに対してナットを介して高さ調整自在に固着されたプレート(63)・(105)と,このプレートに保持されて副歩廊(20)の枠体(21)下端を上記プレートと協働して挟持するクリップ(64)・(10b)とで構成させたことを特徴とする, H 工事用可搬式歩廊 (6) 被告の製造賃貸した製品(争いがない) 被告は,業として,「セイフティロード」という名称の別紙物件目録1,2記載の工事用歩廊を貸し渡していた(以下,別紙物件目録1記載の製品を「被告製品1」,同目録2記載の製品を「被告製品2」といい,両者を併せて「被告各製品」という。)。
被告各製品の構造は,別紙物件目録添付の第1図ないし第17図記載のとおりである。ただし,第14図ないし第17図はオプション器具である「カサ上げ金具(H300型)」の斜視図,平面図,長手側面図及び短手側面図であり,第13図は「カサ上げ金具(H300型)」を装備した状態を示す。
(7) 被告各製品の本件特許発明構成要件充足性(争いがない) 被告各製品は,本件特許発明構成要件のうち,構成要件AないしF及びHを充足する。
2 本件における争点 (1) 被告各製品が本件特許発明構成要件を文言上充足するか(争点1)。
(2) 被告各製品が本件特許発明の構成と均等といえるか(争点2)。
(3) 原告の損害額(争点3) 3 争点に関する当事者の主張 (1) 争点1(被告各製品が本件特許発明構成要件を文言上充足するか。)について (原告の主張) ア 被告各製品の構成について 本件特許発明構成要件に対応させて,被告各製品に共通の構成を分説すれば,次のとおりである。
@ 被構築物の梁材等の水平支持材間に架設あるいは吊設されて作業者の歩行あるいは諸作業を可能にする歩廊において, A 当該歩廊は主歩廊(10a)と主歩廊の一端あるいは両端に長さ調節自在に副わせて保持した副歩廊(20a)とからなり, B 主歩廊と副歩廊は一対の枠体(11a)・(21a)と枠体の内側間に連設された足場板(12a)・(22a)とからなり, C 主歩廊と副歩廊の枠体には折り畳み自在な手摺(30a)・(40a)が附設され, D 副歩廊の枠体端部には連結金物(m)が取付けられ, E 更に前記水平支持材には副歩廊を固定する固定装置(60a。被告のいう「カサ上げ金具」)が設けられ, F 前記固定装置は水平支持材に着脱自在に定着されるクランプ(61a)と,このクランプに設けたボルト(62B)と,このボルトに介装されたナット(62A)と,ボルトに対してナットを介して高さ調節自在に固着されたプレート(63a)と,このプレートに保持されて副歩廊(20a)の枠体(21a)下端を上記プレートと協働して挟持するクリップ(64a)とで構成させたことを特徴とする, G 工事用可搬式歩廊 イ 被告各製品が本件特許発明技術的範囲に属すること (ア) 被告各製品の構成は,本件特許発明構成要件AないしHをすべて充足する。
被告各製品においては,「カサ上げ金具」はオプション器具として利用されているが,「カサ上げ金具」を装備した状態において本件特許発明における一体としての工事用可搬式歩廊に対応するものであり,同状態において本件特許発明構成要件をすべて充足するから,本件特許発明技術的範囲に属する(被告が後記(被告の主張)イの(イ)で主張する「カサ上げ金具」の構成は,認める。)。
(イ) ところで,本件特許発明構成要件Gの固定装置(60)において,ボルト(62)とナット(62a)とクリップ(64)は,スペーサ(65)に固着されたプレート(63)と結合されている(本件公報の図12)。
他方,被告各製品の構成Fの固定装置(60a。被告のいう「カサ上げ金具」)において,ボルト(62B)とナット(62A)とクリップ(64a)は,角パイプ(70)側と結合されているのであって,形式的には相違している(「カサ上げ金具」と本件特許発明の固定装置の相違点に関する被告の主張は,認める。)。
しかし,被告各製品のプレート(63a)と角パイプ(70)は,ボルト(B)で結合されているから両者一体であり,角パイプ(70)が高さ調整されれば必然的にプレート(63a)も高さ調整され,クリップ(64a)も同様に高さ調整される。したがって,これらは一体として,副歩廊を定着させるものであるから,当該クリップ(64a)をプレート(63a)に設けようと,角パイプ(70)に設けようと,作用効果は本件特許発明と同じであり,被告各製品は,本件特許発明構成要件Gを充足する(本件特許発明のスペーサ(65。本件公報の図12参照)と被告各製品における角パイプ(70)は,同一の作用効果を有するから,実質同一の構成とみて差し支えない。)。
なお,前述したように,角パイプ(70)はプレート(63a)にボルト(B)で固定されているから,角パイプ(70)の基端側はプレート(63a)の一部をなすものともいえるので,この場合には,被告各製品のボルト(62B)もクリップ(64a)も,プレート(63a)に固着,保持されたものといえる。
なお,「カサ上げ金具」には,被告主張のとおり「H300型」と「H600型」の2種類があるが,両者は,梁の上面から副歩廊の下端までの高さを150〜300oに調整するか,450〜600oに調整するかの差にすぎないから,本件特許発明との対比をする上で両者をそれぞれ別途に検討する必要はない。
(ウ) 本件特許発明のプレート(63)も被告各製品のプレート(63a)も,ともに梁材の巾員に対応して固定装置を梁材に固定するためのいわゆるスペーサとしての機能を有している。
本件特許発明のスペーサ(65)と被告各製品の角パイプ(70)はともに,2枚のプレート(63,63a)間の巾員を一定に固定する機能を有している(なお,本件特許発明では,スペーサ(65)は特許請求の範囲に記載されていないが,本件公報における実施例には,スペーサが設けられているもの(図12)と,設けられていないもの(図19)が示されているところであって,スペーサを設ける場合には,それが1本であっても,2本であってもかまわない。2本の場合,梁材上で,両側から2つの歩廊が対向して連結設置される場合に,それぞれのスペーサがそれぞれの歩廊を支えることになり,機能的である。)。
この意味で,本件公報の図12の実施例における本件特許発明のプレート(63)及びスペーサ(65)を,被告各製品におけるプレート(63a)及び角パイプ(70)と比較すると,両者ともに,各部材がバラバラになることなく連結して歩廊を乗せる長方形の台座としての機能を有している。なお,本件特許発明ではスペーサ(65)がプレート(63)に固着されている点で異なるが,その固着の方法は構成要件上限定されていないものであるところ,被告各製品においては,角パイプ(70)はプレート(63a)にボルト(B)締めされ,梁材の巾員によって角パイプ間の巾員が異なる仕組みであるが,このような構成を採用することによって格別それ以上の作用効果を奏するものではなく(単に,梁材の巾員によりクランプ間の巾員が規定されることによる結果にすぎない。),結局,両者ともに,長方形の部材構成で歩廊を載せる台座の機能を有する点で変わりがない。
したがって,両者のクリップ(64,64a)の設置場所の違い(本件特許発明実施例ではプレート上,被告各製品では角パイプ上)を除けば,本件特許発明のプレート(63)及びスペーサ(65)と,被告各製品のプレート(63a)及び角パイプ(70)は,同様の作用効果を有するものである。
ちなみに,本件公報の図19に示された実施例は,スペーサ(65)を備えていないものであるが,この場合,枠体(21)の下端を支えるものが必要となり,その役割を果たすものがプレート(105)である。すなわち,プレート(105)が枠体(21)の下端を支え,クリップ(10b)と協働して枠体(21)の下端を挟持するものであって,この場合のプレート(105)は,被告各製品の角パイプ(70)に相当するものであり,これを板状にするか角パイプ状にするかは自由であり,設計事項にすぎない。
(エ) 構成要件Gの「プレートに保持されて副歩廊の枠体下端を上記プレートと協働して挟持するクリップ」とは,要するに,プレート(63)自体が直接枠体(21)の下端を挟持するという意味ではもちろんなく,また,クリップ(64)が必ずプレート(63)上に存在しなければならないというものでもなく,要するにクリップがプレートに「保持」されてプレートと「協働」する関係にあれば足りるものである。すなわち,本件公報の図12から明らかなとおり,プレート(63)がボルト(62)を介して上下動(高さ調整)したときに,クリップ(64)も上下動し,その結果,クリップ(64)が枠体(21)の下端を押さえ込むものであって,プレート(63)自体が直接枠体(21)の下端を挟持するものではない。したがって,被告各製品のプレート(63a)も,クリップ(64a)を角パイプ(70)の横に設置することによりこれを保持して,これと協働して枠体下端を挟持する機能を有することは,構成要件Gと同様である。
(オ) 被告は,作用効果を低下させる以外に他に何らすぐれた作用効果を伴わないのに,専ら権利侵害を免れるために,ことさら,クリップ(64a)をプレート(63a)に設けず,角パイプ(70)に設けるという,本件特許発明の比較的重要性の少ない事項を省略した技術を用いたものというべきである。
(被告の主張) ア 被告各製品の構成について 原告主張の被告各製品の構成については,構成@ないしE及びGは認めるが,Fは否認する。なお,被告製品1と被告製品2は,主歩廊の長さ及び重量が異なるだけで,本件特許発明と構成を対比する上では,同一の製品とみて差し支えない。
イ 被告各製品が本件特許発明技術的範囲に属しないこと (ア) 被告各製品の構成@ないしE及びGが,本件特許発明の構成AないしF及びHを充足することは認める。
(イ)a 被告各製品において,本件特許発明構成要件Gの「固定装置」と対比すべき器具は,建設現場において左右の梁に伸縮歩廊本体である「セイフティロード」を架け渡す際に,梁からカサ上げして固定する必要のある場合のオプションとして使用されることのある器具であって,被告はこれを「カサ上げ金具」と呼称する(以下,この器具を「本件カサ上げ金具」という。)。本件カサ上げ金具は,カサ上げ固定の必要のある場合にのみ使用され,カサ上げの必要のない場合にはこれを使用することなく,「セイフティロード」を直接梁の上面に載置し,別紙物件目録添付の第14図ないし第17図に記載された器具とは全く異なる「締付金具」で梁に固定する。実際,被告のリース事業において,本件カサ上げ金具は「セイフティロード」とは別個のリース商品として扱い,リース料も別々に定めて各別に請求している。
b 本件カサ上げ金具には,梁の上面から副歩廊の下端までの高さを150〜300oに調整する「H300型」と450〜600oに調整する「H600型」の2種類がある。
c 本件カサ上げ金具の「H300型」の構成は,別紙物件目録添付の第14図ないし第17図記載のとおりであって(第13図は,これを装備した状態を示す。),構成要件的に分説すれば,次のとおりである。
@ 梁に着脱自在に定着されるクランプ(61a)と, A このクランプに設けたボルト(62B)と, B このボルトに介装されたナット(62A)と, C ボルトに対してナットを介して,梁の上面からその上面までの高さを150〜300oに調節自在に固着された,断面形状が一辺40oの正方形で肉厚が2oの角パイプ(70)と, D この角パイプの側面に固着されて角パイプ上面と同じ上面高さで水平直角方向に突出するように形成された板状部材と, E この板状部材に保持されて副歩廊(20a)の枠体(21a)下端を上記板状部材と協働して挟持するクリップ(64a)と, F 上記角パイプの端部上面にはボルト(B)で固着されて,対となる他側の角パイプとの間隔を広狭自在に平行保持するスぺーサたるプレート(63a) G とから成る「カサ上げ金具」 d 本件カサ上げ金具の「H600型」の構成は,クランプとボルトの間の接続関係が同「H300型」と異なっており,その点が,別紙物件目録添付の第13図ないし第17図と異なるが,その余の構成は,前記各図面記載のとおりであって,構成要件的に分説すれば,次のとおりである。
@ 梁に着脱自在に定着されるクランプ(61a)と, A このクランプの上面にその下端が溶接された円筒状のパイプと, B この円筒状パイプの上端に溶接されたナットと, C このナットにその下端が固着されたボルト(62B)と, D このボルトの上部に介装されたナット(62A)と, E ボルトに対してナットを介して,梁の上面からその上面までの高さを450〜600oに調節自在に固着された,断面形状が一辺40oの正方形で肉厚が2oの角パイプ(70)と, F この角パイプの側面に固着されて角パイプ上面と同じ上面高さで水平直角方向に突出するように形成された板状部材と, G この板状部材に保持されて副歩廊(20a)の枠体(21a)下端を上記板状部材と協働して挟持するクリップ(64a)と, H 上記角パイプの端部上面にはボルト(B)で固着されて,対となる他側の角パイプとの間隔を広狭自在に平行保持するスぺーサたるプレート(63a) I とから成る「カサ上げ金具」 (ウ) 本件特許発明においては,構成要件Gを備えた固定装置の存在を不可欠とするものと解するべきである。これに対して,被告各製品においては,「固定装置」に対応する本件カサ上げ金具は,不可欠の構成ではなく,被告各製品の使用態様により必要とされることのある独立したオプション器具にすぎない。
したがって,構成要件Gと本件カサ上げ金具との具体的な構成の対比を行うまでもなく,被告各製品は,本件特許発明技術的範囲に属しない。
(エ) 仮に,被告各製品に本件カサ上げ金具を装備する態様において,その全体が一体として,本件特許発明構成要件Hの「工事用可搬式歩廊」に該当すると解されるとしても,被告各製品に装備される本件カサ上げ金具は,本件特許発明構成要件Gを充たさないから,被告各製品は,本件特許発明技術的範囲に属しない。
a 本件カサ上げ金具の「H300型」「H600型」双方に共通の,構成要件Gとの相違点 本件特許発明構成要件Gにおいては,「ボルト」に対して「ナット」を介して高さ調節自在に固着されるのは「プレート(63)」であるのに対し,被告各製品の本件カサ上げ金具においては,「プレート(63a)」ではなく「角パイプ(70)」である点が相違する。「プレート(63a)」は「ボルト」に対して「ナット」を介して固着されておらず,「角パイプ」に「ボルト(B)」で固着されて単なるスペーサとして機能しているにすぎない。
本件特許発明構成要件Gにおいては,「クリップ(64)」は「ボルト」に対して「ナット」を介して高さ調整自在に固着された「プレート(63)」に保持されて副歩廊の枠体の下端を「プレート」と協働して挟持する構成であるのに対し,被告各製品の本件カサ上げ金具においては,「クリップ」は「角パイプ」の側面に固着されて「角パイプ」上面と同じ上面高さで水平直角方向に突出するように形成された板状部材に保持されて,副歩廊の枠体下端をこの板状部材と協働して挟持している点で相違する。
b 本件カサ上げ金具の「H600型」に固有の,構成要件Gとの相違点 本件カサ上げ金具の「H600型」には,上記aのほかに,次の相違点が認められる。すなわち,本件特許発明構成要件Gにおいては,「ボルト(62)」は「クランプ(61)」に設けられているが,「H600型」においては,「ボルト」は「クランプ」に設けられておらず,「クランプ」の上面に円筒状のパイプが溶接されており,「ボルト」は,この円筒状パイプの上端に溶接された「ナット」に固着されている。
(オ) 被告各製品のプレート(63a)が角パイプ(70)とボルト(B)で結合されていようと,プレートと角パイプはあくまでも独立別個の部材であり,別個の機能を有するものである。また,被告各製品のプレート(63a)は,構成要件Gの「プレート」と呼称は同一であるものの,クリップを保持してこれと協働して副歩廊枠体下端を挟持する機能を有しておらず,2本の角パイプ間の単なるスペーサとしての機能しか有していない。原告の主張は,機能の全く異なる被告各製品のプレート(63a)を,本件特許発明構成要件Gの「プレート」に対応する部材であるかのような前提に立つもので,失当である。
(カ) 本件特許発明において,歩廊を載せる機能を有しているのは,対向する一対プレート(63)のみであり,プレート(63)とスペーサ(65)とが長方形の台座を形成しているとはいえない。また,特許請求の範囲に記載されていないスペーサ(65)の存在を前提とする原告の主張は失当である。
他方,被告各製品においては,2本の角パイプの上面に直角方向に枠体の下端を載置して固定するのであるから,本件特許発明の場合よりも,安定かつ堅牢な固定が得られるというすぐれた作用効果を奏する。
(2) 争点2(被告各製品が本件特許発明の構成と均等といえるか) (原告の主張) ア 均等主張1 (ア) 本件特許発明構成要件Gと被告各製品の構成Fとの相違点は,クリップ(64,64a)の設置位置の違い,すなわち,クリップは,本件特許発明ではプレート(63)に設置されるのに対し,被告各製品では角パイプ(70)上に設置されているところにある。
本件特許発明の本質的部分は,主歩廊と副歩廊と手摺と連結金物とを備えた歩廊と当該歩廊を水平支持材に固定する固定装置とを組み合わせた構成にある。すなわち,固定装置部分に着目すれば,本件特許発明の本質的部分は,長方形の台座のどこかにクリップ(64)を設けることにあり,その最善の状態がプレート(63)に設けることであり,スペーサ(65)(角パイプ70)に設けることは選択肢の1つである。したがって,クリップ(64)をプレート(63)に設けることは,実施例の1つではあっても,本件特許発明構成要件Gの本質的部分に該当するものではない。
そして,本件特許発明のボルト(62,101)も被告各製品のボルト(62B)も,共にプレート(63,63a)とスペーサ(65)・角パイプ(70)の高さを調整するものであり,本件特許発明のクリップ(64,10b)も被告各製品のクリップ(64a)も,共に副歩廊を定着させる目的,作用,効果は同じであるから,これらの部材の取付位置の相違部分は,本質的部分ではない。
(イ) 本件特許発明において,被告各製品におけるように,プレート(63)に置き換えてスペーサ(65)側にクリップ(64)を固定しても,被告各製品のクリップ(64a)と同一の作用効果を奏するものである。
(ウ) 各部材の取付位置を置き換えることは,被告各製品の製造時点において,当業者にとって単なる設計変更で,容易に想到できたものである。
(エ) 被告各製品全体の構成は,本件特許発明の出願時に公知ではなく,又は公知技術から当業者が容易に推考できたものではない。
(オ) 出願手続において,本件特許発明が,被告各製品の構成を特許請求の範囲から意識的に除外したという特段の事情もない。本件特許発明構成要件Gのクリップ(64)の設置位置については,プレート(63)に設けるのが常識的であり,かつ,有効であるにすぎず,スペーサ(65)に設けることを出願過程において意識的に除外したものではない。
(カ) したがって,被告各製品は,本件特許発明均等である。
均等主張2 (ア) 本件公報の図19で開示された構成をもとに本件特許発明と被告各製品とを対比すると,本件特許発明において,ボルト(101)に固着されるプレート(105)が板状であるのに対し,被告各製品にあっては,ボルト(62B)に固着される部材が四角柱状の角パイプ(70)である点で相違する。
(イ) ボルトに固着される部材を板状(本件特許発明)にするか四角柱状(被告各製品)にするかは,本質的な部分ではなく,両者は同一の作用効果を奏する。そして,板状にするか四角柱状にするかは単なる設計変更で当業者が容易に想到でき,被告各製品全体の構成が出願当時公知ではなく,四角柱状の角パイプを特許請求の範囲から意識的に除外したものということはできない。
(ウ) したがって,被告各製品は,本件特許発明均等である。
(被告の主張) ア 均等主張1について (ア)a 原告の主張は,特許請求の範囲に記載されていない実施例である本件公報の図12の「スペーサ(65)」を,あたかも特許請求の範囲の記載の一部であるかのごとく取り上げて,被告各製品と対比しているものであり,失当である。
b 本件特許権に係る出願は,被告による特許異議の申立てが理由のあるものとして決定されて,当該理由により拒絶査定となり,その後,審判における補正が容認された結果,登録が認められたものである。この補正前の明細書記載の発明は,本件特許発明構成要件Gを欠くものであったところ,前記異議決定の理由によれば,異議申立人の提示した引用例(米国特許第3889779号公報)と対比すると,「出願人も認める通り」構成要件AないしD及びHにおいて一致し,構成要件E及びFの点が相違するが,構成要件E及びFはいずれも慣用手段にすぎず,進歩性がないとするものであった。そこで,原告は,構成要件Fの「固定装置」を明細書・図面に記載の具体的な構造の装置に限定する構成要件Gを追加する補正を行って,特許査定を得たものである。
したがって,本件特許発明の最重要の本質部分は,固定装置の具体的構造である構成要件Gにある。
そして,構成要件Gの本質部分は,ボルトに対してナットを介して高さ調整自在に固着されたプレートがクリップを保持してクリップとプレートが協働して副歩廊枠体下端部を挟持するという特徴的な構成にある(この点,高さ調整手段に関しては,梁材に対するボルトの固定手段としてクランプを使用すること,ボルトに対するナットの位置決めにより高さ調節することはいずれも慣用手段であって,このような構成部分は本質的部分ではあり得ない。)。これに対して,被告各製品の構成Fは,そのような構成を備えていないのであるから,本件特許発明と被告各製品とは,発明の本質的部分において相違している。
(イ) 被告各製品において,副歩廊の枠体の下端は,2本の平行な角パイプの各上面上に直角方向に載置されて固定される。したがって,ボルトに対してナットを介して固着されたプレート上に載置されて固定されるにすぎない本件特許発明の場合よりも,安定的かつ堅牢に固定し得るから,被告各製品の構成Fの作用効果は,本件特許発明構成要件Gの作用効果と同一ではない。よって,置換可能性は認められない。
被告各製品のプレート(63a)は純然たるスペーサの機能のみを有するのに対し,本件特許発明のプレート(63)は,その上に副歩廊の枠体下端を載置しかつクリップと協働して固定する機能を有するもので,スペーサとしての機能は有していない。したがって,本件特許発明のプレート(63)と被告各製品のプレート(63a)は,単に「プレート」と共通に呼称されているものの,基本的に機能を異にする部材であり,対応関係は全くない。
被告各製品におけるプレート(63a)はスペーサであって,それ以外の機能はないところ,角パイプ(70)の方がプレート(63a)のスペーサとしての機能を有するとの原告主張は本末を転倒していて,失当である。
(ウ) 前記(ア)の出願経過に照らせば,原告は,特許異議決定において,引用例からの進歩性がないとされたのを,構成要件Fの「固定装置」を構成要件Gの具体的構成のものに限定する補正を行って特許請求の範囲減縮することによって特許査定を得たものである。かかる経緯からすれば,原告は,構成要件G以外の構成を有する固定装置を特許請求の範囲から意識的に除外したとみるべきである。
均等主張2について (ア) 本件特許発明の本質的部分は,前記ア(ア)で述べたとおりであるから,原告主張の相違点を対比しても,均等の成立はあり得ない。
(イ) 被告各製品においてクリップを保持してクリップと協働して枠体の下端を挟持するのは,板状部材であって,角パイプ(70)ではない。また,この板状部材は,本件特許発明のプレートのように,ボルトに対してナットを介して固着されているものではないから,その点でも構成は異なる。また,被告各製品において,枠体下端を載置するのは,角パイプ(70)であって,本件特許発明のようにプレートではないから,安定かつ堅牢に固定でき,作用効果も異なる。
したがって,プレート(105)と角パイプ(70)とでは,その機能及び作用効果において差異があるから,構成要件Gの本質的部分の相違であって,かつ,置換可能性がなく,また,被告各製品の構成Fは,本件特許発明の出願過程において意識的に除外されたか,または,外形的にそのように解される行動を取ったものと解されるのであって,原告の主張は失当である。
(3) 争点3(原告の損害額) (原告の主張) ア 被告は,昭和61年9月ころ,被告各製品を製品化し,「セイフティロード SAFETY ROAD」という名称を付して,レンタルを開始し,原告は,その結果,損害を被った。
イ 被告は,被告製品1を1068台,被告製品2を328台の合計1396台を保有し,原告は,65型を3225台,95型を4446台の合計7671台を保有している。
ウ 原告は,被告に対し,平成12年12月1日から平成15年7月31日(本件特許権の権利消滅日)までの期間について,特許権侵害による損害賠償として,別紙損害一覧記載のとおり,4807万5870円の支払を求める。
エ 原告は,被告に対し,平成5年12月1日から平成12年11月30日までの期間について,不当利得返還請求として,実施料相当額の630万9954円の支払を求める。その詳細は,次のとおりである。
(ア) 平成12年12月から平成15年7月までの32か月間の被告各製品の推定賃貸料合計額 4807万5870円 (イ) 同期間の平均1か月の推定賃貸料合計額 150万2370円 48,075,870円÷32月≒1,502,370円 (ウ) 平成5年12月1日から平成12年11月30日までの84か月間の推定賃貸料合計額 1億2619万9080円 1,502,370円×84月=126,199,080円 (エ) 実施料相当額5%による不当利得額 630万9954円 126,199,080円×5%=6,309,954円 (被告の主張) 原告の主張は,争う。
当裁判所の判断
1 被告各製品が本件特許発明構成要件を文言上充足するか(争点1)。
(1) 被告各製品の構成 当事者間に争いのない事実,乙2,3及び弁論の全趣旨によれば,被告各製品の構造は,別紙物件目録添付の第1図ないし第17図記載のとおりである。ただし,第14図ないし第17図は,オプション器具である本件カサ上げ金具(H300型)の斜視図,平面図,長手側面図及び短手側面図であり,第13図は本件カサ上げ金具(H300型)を装備した状態を示す。
本件カサ上げ金具を装備した状態における被告各製品の構成を,本件特許発明構成要件に対応した形で分説すれば,以下のとおりである。
@ 被構築物の梁材等の水平支持材間に架設あるいは吊設されて作業者の歩行あるいは諸作業を可能にする歩廊において, A 当該歩廊は主歩廊(10a)と主歩廊の一端あるいは両端に長さ調節自在に副わせて保持した副歩廊(20a)とからなり, B 主歩廊と副歩廊は一対の枠体(11a)・(21a)と枠体の内側間に連設された足場板(12a)・(22a)とからなり, C 主歩廊と副歩廊の枠体には折り畳み自在な手摺(30a)・(40a)が附設され, D 副歩廊の枠体端部には連結金物(m)が取付けられ, E 更に前記水平支持材には副歩廊を固定する「カサ上げ金具」(60a)が設けられ, F-1(本件カサ上げ金具」が「H300型」の場合) 前記カサ上げ金具は, a 梁に着脱自在に定着されるクランプ(61a)と, b このクランプに設けたボルト(62B)と, c このボルトに介装されたナット(62A)と, d ボルトに対してナットを介して,梁の上面からその上面までの高さを150〜300oに調節自在に固着された,断面形状が一辺40oの正方形で肉厚が2oの角パイプ(70)と, e この角パイプの側面に固着されて角パイプ上面と同じ上面高さで水平直角方向に突出するように形成された板状部材と, f この板状部材に保持されて副歩廊(20a)の枠体(21a)下端を上記板状部材と協働して挟持するクリップ(64a)と, g 上記角パイプの端部上面にはボルト(B)で固着されて,対となる他側の角パイプとの間隔を広狭自在に平行保持するスぺーサたるプレート(63a)とで構成させたことを特徴とする, F-2(「カサ上げ装置」が「H600型」の場合) 前記カサ上げ金具は, a 梁に着脱自在に定着されるクランプ(61a)と, b このクランプの上面にその下端が溶接された円筒状のパイプと, c この円筒状パイプの上端に溶接されたナットと, d このナットにその下端が固着されたボルト(62B)と, e このボルトの上部に介装されたナット(62A)と, f ボルトに対してナットを介して,梁の上面からその上面までの高さを450〜600oに調節自在に固着された,断面形状が一辺40oの正方形で肉厚が2oの角パイプ(70)と, g この角パイプの側面に固着されて角パイプ上面と同じ上面高さで水平直角方向に突出するように形成された板状部材と, h この板状部材に保持されて副歩廊(20a)の枠体(21a)下端を上記板状部材と協働して挟持するクリップ(64a)と, i 上記角パイプの端部上面にはボルト(B)で固着されて,対となる他側の角パイプとの間隔を広狭自在に平行保持するスぺーサたるプレート(63a)とで構成させたことを特徴とする, G 工事用可搬式歩廊 (2) 被告各製品の本件特許発明構成要件の文言上の充足性 ア 被告各製品の構成@ないしE及びGが,本件特許発明の構成AないしF及びHを充足することについては,当事者間に争いがない。
被告各製品における本件カサ上げ金具は、オプション器具であって,必須の器具ではないところ(当事者間に争いがない。),被告は,本件カサ上げ金具を欠いた状態での被告各製品が本件特許発明構成要件Gを充足しないことは明らかであるから,被告各製品は本件特許権を侵害しないと主張する。しかし,本件カサ上げ金具を装備した状態での被告各製品が,本件特許発明構成要件Gを充足するのであれば,かかる状態における被告各製品の使用は,本件特許権を侵害するものであるから,以下,被告各製品の構成F(本件カサ上げ金具を装備した状態)が本件特許発明構成要件Gを充足するか否かを,検討する(以下の検討は,本件カサ上げ金具が「H300型」,「H600型」のいずれである場合も同様である。)。
イ 本件特許発明構成要件Gの「固定装置」において,「ボルトに対してナットを介して高さ調整自在に固着されるもの」は「プレート」であり,副歩廊の枠体下端は「プレート」とこれに保持された「クリップ」との協働により挟持されている(本件公報の図12,図19参照)。
これに対して,被告各製品(本件カサ上げ金具を装備した状態)において,「ボルトに対してナットを介して高さ調整自在に固着されるもの」は「角パイプ」である。そして,副歩廊の枠体下端は「角パイプ」及び「角パイプ」の側面に固着されて「角パイプ」上面と同じ上面高さで水平直角方向に突出するように形成された「板状部材」の双方の上に載置され,「板状部材」とこれに保持された「クリップ」との協働により挟持されている。
ウ したがって,被告各製品は,本件特許発明構成要件Gに規定された「固定装置」を有しないものであって,構成要件Gを充足しない。
エ この点に関して,原告は,被告各製品の構成が本件特許発明の構成と実質上同一であると主張するが,「実質上同一」と称することにより,文言上構成要件を充足しない被告各製品について,均等成立のための要件を無視して特許発明技術的範囲に属すると主張することは許されない。したがって,原告の上記主張は,上記の各点において被告各製品が本件特許発明の構成を充足しないことを前提とした上で,被告各製品が本件特許発明の構成と均等であることを主張しているものとして,争点2(被告各製品が本件特許発明の構成と均等といえるか。)に関する判断として,検討する。
2 被告各製品が本件特許発明の構成と均等といえるか(争点2)。
(1) 特許請求の範囲に記載された構成中に他人が製造等する製品(以下「対象製品」という。)と異なる部分が存在する場合であっても,@ 上記部分が特許発明の本質的部分ではなく,A この部分を対象製品におけるものと置き換えても,特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって,B 上記のように置き換えることに,当業者が,対象製品の製造等の時点において容易に想到することができたものであり,C 対象製品が,特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから同出願時に容易に推考できたものではなく,かつ,D 対象製品特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは,上記対象製品は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明技術的範囲に属するものと解するのが相当である(最高裁平成6年(オ)第1083号同10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁参照)。
そこで,本件において,上記1に記載した相違部分の存在にもかかわらず,上記@ないしDの要件(以下,それぞれの要件を「要件@」などという。)を満たすことにより,被告各製品が本件特許発明の構成と均等なものとして,その技術的範囲に属するということができるかどうかを検討する。
(2) 均等主張1について 原告は,本件特許発明においては,固定装置におけるボルトとクリップが「スペーサに固着されたプレート」と結合されているのに対し,被告各製品に装備された本件カサ上げ金具においては,ボルトとナットとクリップが「角パイプ」側に結合されている点で,形式的に相違すると主張する。
上記のとおり,原告は,本件特許発明と被告各製品との相違点を抽出するに際し,「スペーサ」を本件特許発明の構成に含めている。しかし,「スペーサ」は特許請求の範囲に記載されていない上,本件明細書においては,「スペーサ」が設けられていない実施例も現に示されている。したがって,「スペーサ」が本件特許発明の構成に含まれることを前提とした相違点の抽出は,失当であるから,前記の点を本件特許発明と被告各製品との相違点として均等の成立をいう原告の主張は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。
(3) 均等主張2について ア 原告は,本件特許発明においては,ボルトに対してナットを介して高さ調整自在に固着され,保持したクリップと協働して副歩廊の枠体下端を挟持するものは,「プレート」であるのに対し,被告各製品に装備された本件カサ上げ金具においては,「角パイプ」及び「角パイプ」の側面に固着された「板状部材」である点を指摘するところ,本件特許発明の構成及び前記1(1)で認定した被告各製品の構成に照らせば,前記相違点が認められるので,以下,要件@ないしDを検討する。
イ 要件@ (ア) まず,本件明細書の記載(甲1)によれば,本件特許発明が解決しようとした問題点及び本件特許発明の提示する解決方法は,概ね以下のとおりであることが認められる。
a 従来の技術として,段落【0002】には,「船舶あるいは建物等の被構築物の構築にあっては,所謂作業足場の確保や作業者の歩行路確保のために船腹に突出するピースや建物の梁材等の水平支持材間に歩廊が架設されたりあるいは吊設されたりする。」と記載されている。
b 発明が解決しようとする課題として,段落【0004】には,「歩廊を架設等する水平支持材間の距離は,一定でなく,長かったり短かったりするので,歩廊を構成する支持桁1や足場板3は少なくとも水平支持材間距離より大なるものとしなければならないとともに多種類の長さの足場板3や支持桁1部材を用意しなければならない。」と記載されている。また,段落【0009】には,「そこで,本発明は,工事現場のスペースを有効に利用し容易に設置でき,且つ工事現場の作業用通路として自在に継ぎ足し,また,接続して縦横無尽に連続的な通路もしくは足場として使用できるユニット化した桟橋状の可搬式歩廊を提供することを目的としてなしたものである。」と記載されている。
c 課題を解決するための手段として,段落【0010】(補正後のもの)には,「上記の目的を達成するため,本発明の構成は,被構築物の梁材等の水平支持材間に架設あるいは吊設されて作業者の歩行あるいは諸作業を可能にする歩廊において,当該歩廊は主歩廊と主歩廊の一端あるいは両端に長さ調節自在に副わせて保持した副歩廊とからなり,主歩廊と副歩廊は一対の枠体と枠体の内側間に連設された足場板とからなり,主歩廊と副歩廊の枠体には折り畳み自在な手摺が附設され,副歩廊の枠体端部には連結金物が取り付けられ,更に前記水平支持材には副歩廊を固定する固定装置が設けられ,前記固定装置は水平支持材に着脱自在に定着されるクランプと,このクランプに設けたボルトと,このボルトに介装されたナットと,ボルトに対してナットを介して高さ調整自在に固着されたプレートと,このプレートに保持されて副歩廊の枠体下端を上記プレートと協働して挟持するクリップとで構成させたことを特徴とするものである。」と記載されている。
d 実施例を示す図12の説明として,段落【0064】には,「この固定装置60は,副歩廊20の一対の桁部材21のそれぞれの下端を水平支持材の上に定着させるように構成されているとともに,各固定装置60は,副歩廊20の横巾が予め設定されているので,その巾に合うように両固定装置60間にスペーサ65を配して一体的に構成されている。」と記載されている。
実施例を示す図19の説明として,段落【0093】には,「‥‥‥梁bの上面に断面形状C型の保持金物100を介してねじ桿等の固定取付金物101を鉛直に建てて固定し,該固定取付金物101の外周には,ねじ102が刻設してあって,該ねじ102に螺合させたナット103,104の間に,桁部材11,21を載せるための支持金物105と桁部材11,21の下端をつかむクランプ部材10bを位置させ,ナット104の締め付けにより桁部材11,21が固定保持されるようにしたものである。」と記載されている。
e 発明の効果として,段落【0105】(補正後のもの)には,「E水平支持材に固定装置が設けられているから,歩廊が水平支持材に着脱自在に固定できる。この場合,固定装置はボルトに対し高さ調整自在に固着されたプレートを備え,このプレート上に副歩廊の枠体下端が支持されているから,副歩廊を水平支持材の上方に隙間をあけて配置でき,これにより副歩廊に邪魔されることなく水平支持材たる,例えば梁材の外周に配筋,その他の工事ができる。更にプレートの高さ調整はナットを介して簡単に調整でき作業性が良い。」と記載されている。
(イ) 出願経過 甲1,2,乙1及び弁論の全趣旨によれば,出願経過について以下のとおり認められる。
a 本件特許発明の公開時,特許請求の範囲の請求項1には,「被構築物の梁材等の水平支持材間に架設あるいは吊設されて作業者の歩行あるいは諸作業を可能にする歩廊において,当該歩廊は主歩廊と主歩廊の一端あるいは両端に長さ調節自在に副わせて保持した副歩廊とからなり,主歩廊と副歩廊は一対の枠体と枠体の内側間に連設された足場板とからなり,主歩廊と副歩廊の枠体には折り畳み自在な手摺が附設され,副歩廊の枠体端部には連結金物が取り付けられ,更に前記水平支持材には副歩廊を固定する固定装置が設けられている工事用可搬式歩廊」と記載されていた。
b 被告は,本件特許発明について,特許異議を申し立てた。これに対し,本件特許発明と米国特許第3889779号は,主歩廊と主歩廊に長さ調整自在に副わせて保持した副歩廊とからなり,主歩廊と副歩廊は一対の枠体と枠体との間に連設された足場板とからなり,主歩廊と副歩廊の枠体には折り畳み自在な手摺が附設されている点で一致し,副歩廊の枠体端部の連結金具及び水平支持材における固定装置を有する点で相違していること,工事用可搬式歩廊,いわゆる足場において,その枠体端部に連結金具を設けること及び水平支持材に歩廊を固定するための固定装置を設けることは,いずれも慣用手段にすぎないこと,本件特許発明は,前記米国特許及び慣用手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められることを理由として,異議の申立ては理由があるものと決定された。そして,平成8年5月28日発送で,本件特許発明につき,上記の理由により,拒絶査定がされた。
c 原告は,前記拒絶査定に対し,拒絶査定不服審判を申し立て,一方,平成8年7月29日提出で,特許請求の範囲の請求項1の「‥‥‥固定装置が設けられ」の次に,「前記固定装置は水平支持材に着脱自在に定着されるクランプと,このクランプに設けたボルトと,このボルトに介装されたナットと,ボルトに対してナットを介して高さ調整自在に固着されたプレートと,このプレートに保持されて副歩廊の枠体下端を上記プレートと協働して挟持するクリップとで構成させたことを特徴とする」とするなどの補正(平成6年法律第116号による改正前の特許法17条の3の規定による補正)を行った。
d 前記拒絶査定不服審判は,平成9年5月26日,請求が認められ,本件特許権は,同年10月3日,設定登録された。
(ウ) 検討 本件特許発明において,固定装置は,水平支持材に副歩廊を固定する装置であるものと認められる。そして,複数のボルトとナットを利用して所定の高さに板状の物体(本件では副歩廊がこれに該当する。)を固定することは慣用技術と考えられるところ,原告は,固定装置の構成を具体的に記載する補正を行った上で,本件特許権の登録査定を受けている。したがって,本件特許発明は,複数のボルトとナットを利用して板状の物体を固定するという慣用技術があるなかで,長さ調節自在等の機能を兼ね備えた副歩廊を,水平支持材に対し,着脱自在に,また,容易な作業によって所定の高さに固定できるようにした点において,発明の本質が認められるものというべきである。そして,固定装置についていえば,固定方式自体は慣用技術であることに照らし,構成要件Gに示された複数のボルトとナットを利用した固定の具体的な方式それ自体が,本件特許発明の本質的部分に該当するものというべきである。すなわち,副歩廊と水平支持材とが複数のボルトをいわば支柱として連結されるとともに,副歩廊とボルトとの固定は,2つの部材(クリップとプレート)との間に副歩廊を挟み込むことによって行うという具体的方式によって,着脱自在に,かつ,容易な作業によって,副歩廊を所定の高さに固定できるようにしたことに本質的部分があるというべきである。
他方,被告各製品においては,水平支持材に,クランプを定着させ,クランプに設けたボルトとボルトに介装されたナットによって高さ調整自在に固着された角パイプを複数設け,これら角パイプと直交する方向上に副歩廊を載置して角パイプの上面上に設置された板状部材とクリップとで副歩廊を所定の位置に固定するものである。すなわち,複数のボルトをいわば支柱として水平支持材に連結されるのは角パイプであり,複数の角パイプはスペーサたるプレートを介在させることによって同一面を形成するように安定固定され,その面と直交するように副歩廊を載置し,一方,副歩廊を角パイプとスペーサたるプレートによって構成された面上に固定する手段として,角パイプの側面に固着されて角パイプ上面と同じ上面高さで水平直角方向に突出するように形成された板状部材とこれに保持されたクリップとで挟み込む方式を用いるものである。
したがって,本件特許発明と被告各製品とを対比すると,被告各製品は,角パイプとスペーサたるプレートによって構成された面上に直交する方向に副歩廊を載置する方式によって副歩廊を所定の位置に設置するところに本質があり,ボルトをいわば支柱として複数の支点を設け,各支点においては,ボルトに設置された2つの部材によって副歩廊を挟み込んで固定する本件特許発明とは,技術的思想を異にするものである。
この点に関して,原告は,本件特許発明の固定装置における本質的部分は,プレート(63)とスペーサ(65)とから構成される長方形の台座のどこかにクリップ(64)を設けることにある旨主張する(本件公報の図12参照)。
しかし,本件特許発明の特許請求の範囲にはスペーサは一切記載されていないのであるから,スペーサの存在を前提とする構成が本質的部分であるということはできない。さらに,本件明細書の【発明の詳細な説明】欄をみると,課題を解決するための手段として,固定装置に関しては特許請求の範囲における記載と同旨の記載がされているにとどまること(段落【0010】),実施例を示す図12の説明においても,固定装置は各支点単位に考えられていて,スペーサはこれを連結して一体に構成するものではあるが,スペーサにより構成される長方形の台座上に副歩廊の桁部材を載置するという技術思想は開示されていないこと(段落【0064】),実施例を示す図19の説明においては,「桁部材11,21を載せるための支持金物105」との記載があるが,面状の支持金物を形成したとしても,図19によれば,同支持金物は桁部材と平行な長手を有するものであって,載置というよりも,あくまでもクリップとの協働により副歩廊の枠体下端を挟持するための部材であって,副歩廊と直交する部材の上面に副歩廊を載置するという技術思想は開示されていない(段落【0093】)。
上記によれば,本件特許発明と被告各製品は,技術思想を異にするものであって,本件特許発明と被告各製品の相違点は,特許発明の本質的部分に係るものというべきである。
したがって,被告各製品の構成が本件特許発明均等なものとして,本件特許発明技術的範囲に属するということはできない。
ウ 要件D 上記イ(イ)認定のとおり,本件特許発明に係る特許異議決定及び拒絶査定通知において,本件特許発明における固定装置が慣用技術であるとの判断が示され,その後,固定装置の構成を具体的に記載する補正を行うことによって本件特許権が成立した経緯に照らせば,原告は,本件特許発明における固定装置の構成を,補正によって具体的に記載した内容に意識的に限定したものというべきである。
したがって,構成要件Gとは異なった構成の固定装置を有する被告各製品について,均等は成立しない。
エ よって,要件@及びDが認められないから,その余の点について判断するまでもなく,均等をいう原告の主張は失当である。
3 結論 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は,理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 三村量一
裁判官 古河謙一
裁判官 吉川泉