関連審決 |
判定2007-600027
無効2008-800215 異議2003-70284 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成21ワ13824特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成21ワ1201特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成22ネ10089特許権侵害差止等請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
平成19ワ13121特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成21ネ10052特許権侵害差止等請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 創作性(創作) / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 公知技術 / 技術的範囲 / 発明の詳細な説明 / 実質的に同一 / クレーム / ライセンス / 対象製品 / 技術的意義 / 均等 / 均等侵害 / 置き換え / 置換 / 置換可能性 / 同一の作用効果 / 置換容易性 / 容易に想到(容易想到性) / 意識的除外(意識的に除外) / 禁反言 / 特許発明 / 実施 / 権原 / 構成要件 / 業として / 差止請求(差止) / 侵害 / 損害額 / 販売数量(販売数) / 不法行為(民法709条) / 請求の範囲 / 変更 / 異議申立 / |
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事件 |
平成
21年
(ワ)
18950号
特許権侵害差止請求事件
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茨城県つくば市<以下略> 反訴原告甲 同訴訟代理人弁護士弓削田博 東京都渋谷区<以下略> 反訴被告オリンパスメディカルシステムズ株式会社 同訴訟代理人弁護士古城春実 堀籠佳典 玉城光博 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2009/12/16 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1反訴原告の請求をいずれも棄却する。 2訴訟費用は反訴原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求1反訴被告は,別紙「反訴被告製品目録」記載の製品を製造し,販売し,又は販売のために展示してはならない。 2反訴被告は,その占有する前項の製品を廃棄せよ。 3反訴被告は,反訴原告に対し,1億円及びこれに対する平成21年6月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要等1本件は,名称を「蛍光電子内視鏡システム」とする発明につき後記特許権を有する反訴原告(以下「原告」という。)が,反訴被告(以下「被告」という。)に対し,その製造,販売する別紙「反訴被告製品目録」記載の製品(蛍光内視鏡観察システム。以下「被告製品」という。)が本件特許権を侵害するとして,特許法100条1項,2項に基づき,被告製品の製造,販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに,不法行為(特許権侵害)による損害賠償請求権に基づき,損害合計7億8120万円の一部請求として1億円及びこれに対する不法行為の後である平成21年6月11日(反訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2前提となる事実(証拠等を掲記した事実を除き,当事者間に争いがない。)(1)原告の特許権原告は,次の特許(以下「本件特許」といい,本件特許の請求項1に係る発明を「本件発明」という。また,本件特許出願の願書に添付した明細書及び図面を併せて「本件明細書」という。なお,本件特許公報〈甲2〉を別紙として添付する。)の特許権者である。 特 許 番 号第3309276号発明の名称蛍光電子内視鏡システム出願年月日平成11年3月17日登録年月日平成14年5月24日特許請求の範囲【請求項1】「蛍光内視鏡検査において,励起光(例えば,青)とそれ以外の光(例えば,緑と赤)を交互に組織に照射し,組織から反射してきた光を感受する白黒CCDの前に励起光は通過させないがそれ以外の光をすべて通す濾過フィルターをおいて,励起光(例えば,青)が組織に当たって蛍光(例えば,黄色)を発生させたタイミングで濾過フィルターを通過できた蛍光をCCDの3つあるチャンネル(赤,緑,青)の内1つのチャンネル(例えば,青)で受光し励起光から蛍光を取り出して,励起光以外の光(例えば,緑と赤)の時はCCDの残りの2つのチャンネル(例えば,緑と赤)にて背景の映像を拾い,送信後3つのチャンネルの信号を再構成しモニター上に蛍光の映像と背景の映像を融合させ,同時にかつ同じ画面で見るところを特徴とする光診断装置。」(2)構成要件の分説本件発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説した構成要件をそれぞれ「構成要件A」などという。)。 A蛍光内視鏡検査において,B励起光(例えば,青)とそれ以外の光(例えば,緑と赤)を交互に組織に照射し,C組織から反射してきた光を感受する白黒CCDの前に励起光は通過させないがそれ以外の光をすべて通す濾過フィルターをおいて,D励起光(例えば,青)が組織に当たって蛍光(例えば,黄色)を発生させたタイミングで濾過フィルターを通過できた蛍光をCCDの3つあるチャンネル(赤,緑,青)の内1つのチャンネル(例えば,青)で受光し励起光から蛍光を取り出して,E励起光以外の光(例えば,緑と赤)の時はCCDの残りの2つのチャンネル(例えば,緑と赤)にて背景の映像を拾い,F送信後3つのチャンネルの信号を再構成しモニター上に蛍光の映像と背景の映像を融合させ,同時にかつ同じ画面で見るところを特徴とするG光診断装置(3)被告製品ア被告は,遅くとも平成19年2月ころから,業として,被告製品を製造し,販売している(なお,被告製品の構成については争いがある。)。 イ被告製品は,本件発明の構成要件A,B,D,Gを充足している。 (4)本件特許登録後の特許庁における手続の経緯ア特許異議本件特許(請求項1,2)について,平成15年1月29日,特許法29条2項の規定に違反してされたものであることを理由として,平成15年法律第47号による改正前の特許法113条の規定に基づき,特許異議の申立て(異議2003-70284)がされたが,特許庁は,平成15年12月22日付けで,本件特許を維持する旨の決定をし,同決定は,平成16年1月24日に確定した。(甲1,乙6)イ特許無効審判被告は,平成20年10月22日,本件特許について無効審判請求をしたところ(無効2008-800215),特許庁は,平成21年6月19日,本件特許は特許法29条2項の規定に違反してされたもので,同法123条1項2号の規定により無効とすべきである旨の審決をした。(甲5,26)原告は,上記審決を不服として,知的財産高等裁判所に審決取消訴訟(同裁判所平成21年(行ケ)第10200号)を提起し,同訴訟は,現在,同裁判所に係属中である。(弁論の全趣旨)3争点(1)被告製品の構成(2)被告製品は,本件発明の技術的範囲に属するかア構成要件C該当性イ構成要件E該当性ウ構成要件F該当性エ均等侵害(3)特許法104条の3第1項に基づく権利行使の制限(4)損害額4争点に関する当事者の主張(1)争点(1)(被告製品の構成)についてア原告被告製品は,蛍光電子内視鏡観察システムであり,その構成を分説すると,次のとおりである。 a蛍光内視鏡検査においてb励起光R(390〜470nm(青))と照明光G1(540〜560nm(緑))と照明光G2(540〜560nm(緑))を交互に組織に照射し,c組織から反射してきた光を感受する白黒CCDの前に,励起光Rは通過させないが,500〜630nmの光を通す濾過フィルターをおいて,d励起光Rが組織に当たって蛍光Fを発生させたタイミングで,濾過フィルターを通過できた蛍光をCCDの時系列な3つの撮像タイミング(赤,緑,青)の内の1つの撮像タイミング(緑)で受光し,励起光Rから蛍光Fを取り出し,e照明光G1(緑)の時はCCDの時系列な3つの撮像タイミング(赤,緑,青)の内の赤の撮像タイミングにて背景の映像を拾い,また,照明光G2(緑)の時は,青の撮像タイミングにて背景の映像を拾い,f赤の撮像タイミングで得られた信号は,緑画像信号G1-1,G1-2,・・・として同時化メモリのRに書き込まれた後,マトリクス回路に出力され,緑の撮像タイミングで得られた信号は,蛍光Fの蛍光画像信号F-1,F-2,・・・として同時化メモリのGに書き込まれた後,マトリクス回路に出力され,青の撮像タイミングで得られた信号は,緑画像信号G2-1,G2-2,・・・として同時化メモリのBに書き込まれた後,マトリクス回路に出力され,その後,マトリクス回路において,赤の撮像タイミングで得られた緑画像信号G1-1,G1-2,・・・は1倍処理したG1’(R)と0.5倍処理した0.5G1’に変換され,蛍光画像信号F-1,F-2,・・・は1倍処理したF(G)に変換される一方で,緑画像信号G2-1,G2-2,・・・は不要な信号として排除され,その後,G1’(R),0.5G1’,F(G)は後処理回路に入力され,G1’(R)信号を赤の映像信号(R),F(G)信号を緑の映像信号(G),0.5G1’を青の映像信号(B)としてモニターに出力して,モニター上に蛍光の映像と背景の映像を融合させ,同時にかつ同じ画面で見るところを特徴とするg光診断装置イ被告(ア)原告が特定した被告製品の構成の内,構成fについては否認する。 構成fについて,反射光G2に基づく電気信号は,処理回路内のFIFO回路において遮断されるのであって,マトリクス回路において排除されるのではない。 (イ)なお,被告製品の詳細な構成は,別紙「反訴被告システム説明書」に記載のとおりである。すなわち,a自家蛍光内視鏡検査においてb励起光B(青,波長390〜470nm)と照明光G1,G2(共に緑,波長540〜560nm)とを,励起光B,照明光G1,照明光G2の順で交互に組織に照射し,c組織から反射してきた光を感受する白黒CCDの前に,励起光Bは透過させないが波長帯域500〜630nmの光を通す濾過フィルターを置いて,d〜f励起光Bが組織に当たって青の反射光及び蛍光を発生させたタイミングで,濾過フィルターを通過できた蛍光を,白黒CCDの時系列的な3つの撮像タイミング(T1,T2,T3)の内1つのタイミングT1で受光し,白黒CCDから出力されるタイミングT1の画像信号F(蛍光Fに基づく電気信号)は,処理回路で処理した後,映像信号Fとして処理回路の出力端子?から出力して,モニターのG端子に入力し,照明光G1及び照明光G2(共に緑)の時は,白黒CCDの3つの時系列の撮像タイミング(T1,T2,T3)の内のタイミングT2及びT3でそれぞれ反射光G1及び反射光G2を受光し,白黒CCDから出力されるタイミングT3の画像信号G2(反射光G2に基づく電気信号)は,処理回路に入力した後,FIFO回路において遮断し(書き込まず),白黒CCDから出力されるタイミングT2の画像信号G1(反射光G1に基づく電気信号)は,処理回路内のマトリクス回路において2つに分割され,1倍の強度を持った映像信号G1aと0.5倍の強度をもった映像信号G1bとして生成され,前者(映像信号G1a)を処理回路の出力端子?からモニターのR端子(赤)に,後者(映像信号G1b)を処理回路の出力端子?からモニターのB端子(青)にそれぞれ入力することによって,CCDのタイミングT1の出力信号(画像信号F)に基づき得られた蛍光の映像信号を緑の映像として,CCDのタイミングT2の出力信号(画像信号G1)に基づき得られた映像信号をマゼンタ(赤及び青の加色混合色)の映像として,モニター上で重ね合わせて表示し,同時かつ同じ画面上で見るようにしたg自家蛍光内視鏡観察システム(ウ)このように,被告製品の構成について原告の主張するところは正確ではないが,本件発明と対比する限度においては,原告が主張する被告製品の構成は,上記(イ)の構成と実質的に同一である。 (2)争点(2)(被告製品は,本件発明の技術的範囲に属するか)についてア構成要件C該当性(ア)原告組織から反射してきた光を感受する白黒CCDの前に置く濾過フィルターの構成について,被告製品の構成cでは「励起光Rは通過させないが,500〜630nmの光を通す濾過フィルター」であるのに対し,本件発明の構成要件Cでは「励起光は通過させないがそれ以外の光をすべて通す濾過フィルター」である。 本件発明の構成要件Cの「それ以外の光」とは,励起光以外のすべての光のことではなく(本件明細書の実施例において使用されている濾過フィルターも,励起光を除外したすべての光を通すものにはなっていない。),被観察物を観察するために励起光と共に用いる照明光であると解されるところ,被告製品の照明光G1,照明光G2の波長は,被告製品の構成bに記載されたとおり540〜560nmであり,また,被告製品の濾過フィルターは,上記のとおり,500〜630nmの光を通すものであるから,被告製品の照明光G1,照明光G2の波長をすべて通すものであることが明らかである。 したがって,被告製品の構成cは,本件発明の構成要件Cを充足する。 (イ)被告構成要件Cは,白黒CCDの前に置く濾過フィルターが「励起光は通過させないがそれ以外の光をすべて通す」ことを規定しているところ,被告製品の濾過フィルターは,通す光の波長帯域が500〜630nmであり,「それ(波長帯域が390〜470nmの励起光)以外の光をすべて通す」濾過フィルターではない。 したがって,被告製品の構成cは,構成要件Cを充足しない。 イ構成要件E該当性(ア)原告被告製品の構成eの「照明光G1(緑)」及び「照明光G2(緑)」は,励起光ではなく,照明光であるから,構成要件Eの「励起光以外の光(例えば,緑と赤)」に相当する。 被告製品では照明光G2(緑)の画像信号を不要な信号として排除しており,3つある撮像タイミングの信号の内2つの信号しか使っていないが,照明光G2(緑)と全く同じ照明光G1(緑)の画像信号をモニターの赤と青チャンネルに配信している。本件明細書に記載されている「CCDの3つのチャンネル」とは,「モニターのR,G,Bの3つのチャンネル」に対応するものであり,「CCDから電子信号化された映像の情報を3つあるモニターの端末に配信するルート」と解される(なお,「CCDのチャンネル」と「撮像タイミング」とは何の関連性もない。)から,被告製品においても,CCDの3つあるチャンネルの内,励起光で用いたチャンネル(緑)以外の残りの2つのチャンネル(赤,青)にて非励起光による背景の映像を拾っていることになる。 したがって,被告製品の構成eは,本件発明の構成要件Eを充足する。 (イ)被告構成要件Eは「CCDの残りの2つのチャンネル(例えば,緑と赤)にて背景の映像を拾い」と規定しているところ,被告製品では,CCDの3つの受光タイミング(T1,T2,T3)の内,タイミングT3で受光した光の画像信号G2は処理回路において遮断・廃棄し,モニター上で「背景の映像」を表示するための信号(映像信号)の生成には使用していない。すなわち,タイミングT3で受光した画像信号G2をCCDからモニターの入力端子まで配信する配信ルート(チャンネル)は存在せず,「CCDの残りの2つのチャンネル」の内の1つでしか「背景の映像を拾」っていない。 なお,本件発明の「CCDのチャンネル」とは,その内の1つで蛍光を「受光し」(構成要件D),残りの2つで「背景の映像を拾」う(構成要件E)というものであるから,信号配信ルート全体というよりは,信号配信ルートとして存在する3つのチャンネルの始点を指していると解される。そうすると,「白黒CCD」(構成要件C)を用いる本件発明における「CCDのチャンネル」とは,信号配信ルートとしての3つのチャンネルの始点であって,具体的には,白黒CCDにおける受光及び出力を時系列的な3つの撮像タイミングで分割したものを指すと解釈するのが相当であり,これに反する原告の解釈は,クレームの文理からして明らかに無理がある。 以上のとおり,被告製品は,構成要件Eを充足しない。 ウ構成要件F該当性(ア)原告a本件発明の構成要件Fは,「送信後3つのチャンネルの信号を再構成しモニター上に蛍光の映像と背景の映像を融合させ,同時にかつ同じ画面で見るところを特徴とする」であるところ,被告製品の構成fでは,「G1’(R)信号を赤の映像信号(R),F(G)信号を緑の映像信号(G),0.5G1’を青の映像信号(B)としてモニターに出力して,モニター上に蛍光の映像と背景の映像を融合させ,同時にかつ同じ画面でみるところを特徴とする」となっている。すなわち,被告製品においては,2つの撮像タイミングの映像信号しか用いていないが,R,G,Bの3つのチャンネルの信号を再構成してモニターに出力し,モニター上に蛍光の映像と背景の映像を融合させて,同時にかつ同じ画面で見るものである。 bなお,「CCDのチャンネル」について,被告の主張するように「撮像タイミング」であると解したとしても,本件発明の構成要件Fは,3つのチャンネルの信号をすべて用いて再構成することに限定されるものではなく(本件特許出願当時,色順次方式で照明光を照射し,ある撮像タイミングで得られた信号を複製し,2つ以上のモニターの端子に配信したり,他の撮像タイミングの信号を遮断したりすることは,通常の処理の範囲であり,当業者に周知の技術であった。),3つのチャンネルの信号を再構成し,少なくともモニター上に蛍光の映像と背景の映像を融合させ,同時にかつ同じ画面で見るものであれば足りると解される。 前記のとおり,被告製品においては,緑画像信号G2-1,G2-2,・・・は不要な信号として排除されているが,緑画像信号G1-1,G1-2,・・・及び蛍光画像信号F-1,F-2,・・・は変換され,背景の赤の映像信号(R),背景の青の映像信号(B)及び蛍光の緑の映像信号(G)としてモニターに出力され,モニター上に蛍光の映像と背景の映像を融合させ,同時にかつ同じ画面で見るものであるから,「送信後3つのチャンネルの信号を再構成しモニターに蛍光の映像と背景の映像を融合させ,同時にかつ同じ画面で見る」ものであるということができる。 cしたがって,いずれにしても,被告製品の構成fは本件発明の構成要件Fを充足している。 (イ)被告a「3つのチャンネルの信号を再構成し」とは,「CCDの3つの異なる撮像タイミングで受光した光(蛍光及び2つの反射光)に基づく3つの信号を3つのチャンネルで配信し,モニター上に映像として同時にかつ同じ画面で見られるよう表示すること」であると解されるところ,被告製品は,CCDのタイミングT3の信号を処理回路内で廃棄しており,蛍光の映像と背景の映像とを融合させてモニター上に表示するのに,CCDのタイミングT1の信号とCCDのタイミングT2の信号という2つのチャンネルの信号しか使用していないから,「送信後3つのチャンネルの信号を再構成し」ているものではない。 b本件発明に関して本件明細書が開示しているのは,3色(青,赤,緑)の照明光を照射し,青光のみを遮断する濾過フィルターを通して白黒CCDの3つの撮像タイミング(B,R,G)で得られる3つの画像信号(蛍光の画像信号,赤(R)の画像信号,緑(G)の画像信号)を,ビデオシステムセンターを介して各色に対応するモニターの入力端子(B,R,G)に入力することによって,蛍光の映像,赤の映像及び緑の映像をモニター上で融合させて見られるようにするということだけであり,本件明細書上,赤,緑,青の3つの撮像タイミングで得られる3つの信号の内の2つだけを「モニター上に蛍光の映像と背景の映像を融合させて」見るために用いることをうかがわせる記載は存在しない。また,特許請求の範囲に「3つの信号を再構成し」と記載されているときに,再構成に用いられる信号が「3つの信号」でなくてよいとする解釈は,技術的範囲の画定における構成要件解釈として,およそあり得ない。 したがって,構成要件Fについて,「3つのチャンネルの信号をすべて用いて再構成することに限定されるものではない」とする原告の解釈は失当である。 cちなみに,被告製品において,CCDのタイミングT3で得られる信号(画像信号G2)を捨て,照明光G1のCCDのタイミングT2で得られる信号(画像信号G1)のみを背景の映像を表示するために使用している(励起光以外の照明光として,ヘモグロビンの変化に影響を受けやすい緑色光1色(G)のみを用い,さらに,1つのタイミングで取った画像信号G1(緑の反射光の信号)を処理回路で2つに分け,モニターのB端子とR端子に入力している)のは,次のような理由による。 すなわち,被告製品では,モニターのG端子(緑)に蛍光,B端子(青)とR端子(赤)にG1の信号がそれぞれ入力されることにより,重ね合わせた映像において,蛍光が減弱した部位(病変部位)はマゼンタ(赤と青の加色混合色)に,減弱しない部位(正常部位)は明るい緑色に表示され,病変部位と正常部位とが人間の目で識別しやすいコントラストの高い補色関係(マゼンタと緑)の色調で表示されることになる。非励起光によって得られる映像と励起光により得られる蛍光映像とを重ねて表示するのは,生体組織の中でどの部分に病変部分があるかを識別しやすくするのが目的であるから,被告製品は,かかる目的にかんがみて,モニターの各端子(R,G,B)に入れる信号を工夫し,蛍光以外の2つの反射光で得られる2つの信号の内の1つをあえて捨てて視認判別性を優先させるという,本件発明とは異なる設計思想を採用しているのである。 また,一般的に,内視鏡観察時には被写体(生体)とCCDの間には相対的な動きが生じるため,表示される映像の色ずれを小さくしようとすれば,3つの異なるタイミングで撮像された画像信号を用いて映像を構成するよりは,2つの画像信号のみを用いる方が都合がよい。 さらに,被告製品において,白黒CCDから3つのタイミングで出力する信号の内の1つを利用しないにもかかわらず,励起光B,照明光G1,照明光G2を照射するのは,既存の3色フィルターに構造上の変更を加えるより,信号処理により1色分の信号を捨てるようにする方が容易だからである。特に,回転フィルターは,2色光照射とするために光を透過させる窓を塞ぐと,回転むらや放熱不良などの不具合が生じ,構造的な変更には最適設計・調整のための多大な労力を必要とするため,被告製品では,フィルターの構造自体は変更せずに,既存の3色フィルターの窓の1つを緑のフィルターに変えただけで使用し,不要な信号(画像信号G2)は信号処理の過程で捨てる構成としているのである。 このように,被告製品は,通常の装置に濾過フィルター等を付加するだけで簡便かつ安価な装置で明るい視野での蛍光内視鏡観察(フルオレセイン蛍光)ができることを一大特徴として標榜する本件発明とは,もともと設計思想を異にしている。 d以上のとおり,被告製品は,本件発明の構成要件Fを充足しない。 エ均等侵害(ア)原告a仮に,被告製品がCCDの2つの撮像タイミングと3つのチャンネルを使用していることによって,本件特許に対する文言侵害が認められないとしても,被告製品は,以下のとおり本件発明と均等である。 (a)第1要件(特許請求の範囲に記載された構成中の被告製品と異なる部分が特許発明の本質的部分でないこと)本件発明の本質的部分は,明るい背景の中で蛍光がどこで発生しているのかがはっきり分かるように,組織に励起光と非励起光とを交互に照射し,白黒CCDの前に励起光を完全に遮断する濾過フィルターを置き,濾過フィルターを通過できた蛍光の映像を3つあるチャンネルの1つに割り当て,非励起光の映像を残りの2つのチャンネルに割り当てて融合させ,同時にかつ同じ画面で見るところにある。 したがって,本件発明ではCCDの3つの撮像タイミングと3つのチャンネルを使用しているのに対し,被告製品ではCCDの2つの撮像タイミングと3つのチャンネルを使用している点が相違点と認められたとしても,この相違点は,本件発明の本質的部分ではない。 (b)第2要件(特許請求の範囲に記載された構成中の被告製品と異なる部分を被告製品におけるものと置き換えても,特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏すること)被告は,平成16年10月までは,励起光に青,非励起光に緑と赤の3色照明光を用いており,CCDの3つの撮像タイミングの信号をすべて用いていたが,その当時の被告製品は,明るさ・色彩・立体感のどれを取ってみても,現在の被告製品に勝るとも劣らない作用効果を発揮していた。 したがって,本件発明の構成(3色照明光とCCDの3つの撮像タイミングの信号を用いたシステム)について,被告製品におけるもの(2色の照明光とCCDの2つの撮像タイミングの信号を用いたシステム)に置き換えても,本件発明の目的は達成され,同一の作用効果を奏する。 (c)第3要件(特許請求の範囲に記載された構成中の被告製品と異なる部分を被告製品におけるものと置き換えることについて,被告製品の製造等の時点において,当業者が容易に想到することができたものであること)特開平10-201707号公報(乙35)の記載から,本件特許出願当時,色順次方式で照明光を照射し,ある撮像タイミングで得られた信号を複製して2つ以上のモニターの端子に配信したり,他の撮像タイミングの信号を遮断したりすることは,通常の処理の範囲であったことが明らかである。 したがって,当業者は,被告製品の製造時,本件発明の構成と被告製品の構成の相違点を被告製品の構成に置換することに容易に想到し得たものといえる。 (d)第4要件(被告製品が本件特許出願時の公知技術と同一のものではなく,また,本件特許出願時の公知技術から当業者が出願時に容易に推考できたものではないこと)被告は,平成19年2月1日発売の内視鏡スコープ「EVIS LUCERA上部消化管汎用ビデオスコープOLYMPUS GIF TYPE FQ260Z」及び「EVIS LUCERA大腸ビデオスコープOLYMPUS CF TYPE FH260AZシリーズ」について,同年1月17日に自ら作成したホームページ(乙36)の中で,「世界初の蛍光観察が可能な消化管ビデオスコープ」であるとして,その進歩性を強調している。すなわち,被告自身,被告製品について,本件特許出願時の公知技術と同一のものではなく,また,本件特許出願時の公知技術から当業者が容易に推考できたものでないことを明言している。 (e)第5要件(被告製品が本件特許出願手続においてクレームから意識的に除外されたものに当たる等の特段の事情もないこと)本件特許の出願手続上,被告製品の構成について,本件発明の技術的範囲から意識的に除外したなどの事情は存在しない。 被告は,原告が作成した異議意見書(甲9)及び判定上申書(甲8)の中から前後関係を無視して都合のよいところだけを引用して,本件発明の技術的範囲は3色の照明光を用いた通常の面順次式電子内視鏡にシャープカットフィルターを取り付けたものに限定すべきであるなどと主張しているにすぎない。 b以上のとおり,被告製品は,本件発明の均等物であって,本件発明の技術的範囲に属する。 (イ)被告a第1要件(相違点が本質的部分でないこと)特許発明の本質的部分とは,明細書の特許請求の範囲に記載された構成の内,当該特許発明特有の作用効果を生じさせる特徴的部分をいう。 本件明細書では,本件発明の特有の作用効果として,明るい画像をモニター上に表示することができる旨の記載があるが,当該効果を生じさせる手段として本件明細書に開示されているのは,3色の照明光を照射し,それによってCCDで得た3つの信号すべてを用いてモニター上に画像表示する態様のみであり,原告も,通常の面順次式蛍光内視鏡(白黒CCDが受光する3つのチャンネルの信号をルートを変えずにそのままモニターのRGB端子に入力する構成である。)の白黒CCDの前に濾過フィルターを置くだけの構成で蛍光画像を含む明るい画像が得られることを本件発明の最も重要な特徴として強調している。そして,CCDの2つの撮像タイミングで得られた2つの信号を用いて映像を構成するという点を除いて本件発明と構成がすべて一致する公知技術(甲6)が存在するのであるから,CCDの3つのチャンネルの信号すべてを用いること(更にいえば,3色の照明光を用いること)は,正に本件発明の本質的部分である。 よって,2色の照明光を用い,かつ,CCDの3つのタイミングで得られる信号の内2つの信号しか画像構成に用いていない被告製品と本件発明の相違点は,本件発明の本質的部分に係るものであって,均等法理の第1要件を満たさない。 b第2要件(置換可能性)置換可能性と呼ばれる要件が均等法理の第2要件とされるのは,特許発明の構成要件の一部(非本質的部分)を対象製品の対応する構成と置き換えても当該発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏することができれば,対象製品と特許発明の実施品が客観的に同一と認められるからである。 被告製品と本件発明は,上記のように本件発明の本質的な部分において構成が異なっているものであるから,第2要件を検討する必要はないが,その点をおくとしても,そもそも被告製品と本件発明は技術思想が大きく異なっている。すなわち,被告製品では,青の励起光に基づく画像信号をモニターのG(緑)端子に入力し,緑の非励起光に基づく画像信号をモニターのR(赤)及びB(青)端子に入力することで,重ね合わせた映像において,蛍光が減弱した部位(病変部位)はマゼンタに,減弱しない部位(正常部位)は明るい緑色に表示されるように構成されているが,マゼンタと緑はいわゆる補色関係にあり,そのコントラストの高さのゆえに,病変部位と正常部位とが人間の目で識別しやすいという効果が得られる。このように,被告製品は,あえて2色の照明光を用い,かつモニターの各端子(R,G,B)に入れる信号を工夫することによって,生体組織の中でどの部分に病変部分があるかを識別しやすくしているのであって,これは,本件発明とは全く異なる設計思想である。 そして,生体組織の吸収・反射特性は光の波長(色)によって異なるから,本件明細書に開示された装置構成において,照明光(非励起光)として緑色光のみを用いた場合,赤色光も用いた場合と比べて,表示される映像の色合いは異なり,被告製品のような視認判別性の高い色調表示にはならない。原告がこれまでに主張している「本特許の方法だと映像は青,緑,赤の3色から構成されているので,画質として通常の電子スコープによる通常のカラー映像とはなんら変わらない。」といった本件発明の効果は,青,赤,緑の3色の照明光を用いなければ得られないものである。 また,CCDの3つのタイミングで得られる信号の内2つの信号しか画像構成に用いないという被告製品の構成と,本件発明の構成とでは,色ずれという点でも相違が生じている。 かかる観点に照らしても,均等法理の第2要件を満たすとする原告の主張は失当である。 c第3要件(置換容易性)本件発明の構成は,通常の面順次式の装置と同様,CCDの赤のチャンネルの信号はモニターの赤(R)端子に,CCDの緑のチャンネルの信号はモニターの緑(G)端子に,CCDの青のチャンネルの信号はモニターの青(B)端子にそれぞれ入力されるというものであるのに対し,被告製品においては,CCDの3つのタイミングで得られた信号の内,非励起光に基づく1つの信号を処理回路内で廃棄し,もう1つの非励起光に基づく信号を処理回路内で2つに分割し,1倍の強度を持った映像信号と0.5倍の強度を持った映像信号を生成して,前者をモニターのR端子(赤)に,後者をB端子(青)に入力するという特別な構成が採られている。 本件発明の構成をこのような被告製品の構成に置き換えることは,当業者が容易に想到し得たものではない。原告は,特開平10-201707公報(乙35)を根拠として,均等法理の第3要件が満たされると主張するが,乙35には,被告製品のようにCCDの3つのタイミングで得られた3つの信号の内の1つを廃棄したり,別の1つの信号を2つに分割したりする態様は全く記載されていない。 したがって,均等法理の第3要件を満たすとする原告の主張は理由がない。 d第5要件(意識的除外等の特段の事情)原告は,本件特許の異議申立手続の異議意見書(甲9)において,「(本特許の映像は)緑と赤で受信した背景の映像と融合させている。」,「本特許の自家蛍光内視鏡写真は通常の面順次式にシャープフィルターを取り付けただけで,明るくて鮮明な画像が得られる。既に,述べたように蛍光の映像を青チャンネルで受信し,背景の映像を緑と赤のチャンネルで受信し,そして3つのチャンネルの信号を融合させているからである」,「蛍光の映像を青チャンネルで受信し,背景の映像を緑と赤のチャンネルで受信し,3つのチャンネルの信号を融合してモニターに映し出すことになる。・・・本特許の方法だと映像は青,緑,赤の3色から構成されているので,画質として通常の電子スコープによる通常のカラー映像とはなんら変わらない」などと主張している。また,原告は,判定の手続においても,「背景を拾うのに1チャンネルしか使用しないとすると得られる映像は2色しかなく明るさも色彩も悪くなってしまう」と主張している(甲8)。 上記の異議申立手続や判定における原告の主張は,明らかに本件発明がCCDからの3つの画像信号すべてをモニターの入力端子まで配信して画像を構成するものであることを前提としており(なお,上記の引用箇所が実施例に限定して言及したものであることを示す記載は,異議意見書や判定上申書の中には全く存在しない。),原告は,CCDからの3つの画像信号のすべてをモニター上の画像構成に用いない構成を特許請求の範囲から意識的に除外しているのであるから,均等法理の第5要件も満たさない。 eまとめ以上のとおりであるから,被告製品は,本件発明の構成と均等なものではなく,本件発明の技術的範囲に属さない。 (3)争点(3)(特許法104条の3第1項に基づく権利行使の制限)についてア被告(ア)刊行物記載の発明a特表平10-500588号公報(甲6)は,「積分された内部蛍光を使用して病気の組織の画像を映すための装置および方法」(発明の名称)に関するものであり,画像の検出装置としてCCDを用い,生体内の組織に異なる波長の光を照射して得られる蛍光の画像と再放射光の画像を組み合わせて表示画面上で一緒に表示することにより,病気の組織の部位を識別するという技術思想が示されているが,その実施形態(第4の実施形態の変形)として,次の(a)〜(f)の構成を有する光診断装置(g)の発明が記載されている。 (a)蛍光内視鏡検査において,(b)励起光(青)とそれ以外の光(赤)を交互に組織に照射し,(c)組織から反射してきた光を感受する白黒CCDの前に励起光は透過させないがそれ以外の光をすべて通す濾過フィルターをおいて,(d)励起光が組織に当たって蛍光を発生させたタイミングで濾過フィルターを通過できた蛍光をCCDの1つのチャンネルで受光し励起光から蛍光を取り出して,(e)励起光以外の光の時は,CCDの別のチャンネルにて背景の映像を拾い,(f)送信後2つのチャンネルの信号を再構成しモニター上に蛍光の映像と背景の映像を融合させ,同時にかつ同じ画面で見る,(g)光診断装置b特開平8-140929号公報(甲7)は,通常の内視鏡観察と蛍光診断とを容易に行うことができるように挿入部の先端に2つの固体撮像素子を設けた「蛍光診断用電子内視鏡装置」(発明の名称)に関するものであり,次の(a)〜(f)の構成を有する光診断装置(g)の発明が開示されている。 (a)蛍光内視鏡検査において,(b)励起光(青)と非励起光(緑及び赤)を交互に照射し,(c)組織から反射してきた光を感受する白黒CCD(第1の固体撮像素子)の前に励起光(400nm〜500nm)を通過させない蛍光透過用フィルター(520〜600nmの波長の光だけを透過するフィルター)を置いて,(d)励起光(青)が組織に当たって蛍光を発生させたタイミングでフィルターを通過した蛍光をCCDのRGBチャンネルの内のBチャンネルで受光し,励起光から蛍光を取り出し,(e)非励起光(赤,緑)の時は,CCDのRチャンネル及びGチャンネルで受光し,背景の映像を拾い,(f)送信後3つのチャンネルの信号(RGB信号)を,ビデオ回路(通常画像用ビデオ回路)及びビデオ信号切換回路を経て,モニター(モニタテレビ)に画像を表示するために,RGB3色のビデオ信号(蛍光の映像〔Bチャンネルのビデオ信号〕と背景の映像の信号〔Rチャンネル及びGチャンネルのビデオ信号〕)として出力するようにした,(g)光診断装置(蛍光診断用電子内視鏡装置)(イ)甲6発明に基づく想到容易a本件発明と甲6発明の対比本件発明と特表平10-500588号公報(甲6)に記載された発明(以下「甲6発明」という。)とを対比すると,両者は,「蛍光内視鏡検査において,励起光とそれ以外の光を交互に組織に照射し,組織から反射してきた光を感受する白黒CCDの前に励起光は通過させないがそれ以外の光をすべて通す濾過フィルターをおいて,励起光が組織に当たって蛍光を発生させたタイミングで濾過フィルターを通過できた蛍光をCCDの1つのチャンネルで受光し励起光から蛍光を取り出して,励起光以外の光のときはCCDの別のチャンネルにて背景の映像を拾い,送信後複数のチャンネルの信号を再構成しモニター上に蛍光の映像と背景の映像を融合させ,同時にかつ同じ画面で見るところを特徴とする光診断装置」である点において共通し,本件発明においては,CCDのチャンネルが3つあり,励起光をその内1つのチャンネルで受光し励起光から蛍光を取り出し,励起光以外の光のときはCCDの残りの2つのチャンネルで背景の映像を拾い,送信後3つのチャンネルの信号を再構成しているのに対し,甲6発明は,CCDのチャンネルが3つではなく,励起光以外の光のときはCCDの別の1つのチャンネルで背景の映像を拾い,送信後CCDの2つのチャンネルの信号を再構成している点において相違する。 b甲6発明に基づく想到容易(その1)上記の相違点は,要するに,本件発明においては,励起光及び照明光として合計3色を用い,蛍光と照明光の反射光とで合計3つのチャンネルの信号をモニター上の映像表示に使用するのに対し,甲6発明では励起光及び照明光として2色を用い,蛍光と照明光の反射光とで2つのチャンネルの信号をモニター上の映像表示に使用するということである。 しかし,甲6発明の第4の実施形態の変形に記載された装置において,背景の映像を1色の光に基づく1つのチャンネルの信号で構成するか,それとも2色の光に基づく2つのチャンネルの信号で構成するかは,当業者が目的に応じて適宜選択し得る設計事項にすぎない。そして,モニターにはRGB3つの入力端子があるから,蛍光の映像と背景の映像を病変部が識別できるように同時にモニター上に表示しようとするときに,RGB3色に対応するCCDの3つのチャンネルの信号を使用することは,ごく自然な発想であり,少なくとも当業者にとって,チャンネルを3つとし,3つのチャンネルの信号でモニター上に表示される映像を構成することは,容易に想到し得るところである。 また,甲6には,その第4の実施形態の変形について,「この変形において,内視鏡装置は,光源8がタイミングサイクルを通じて2以上の波長の光で病気の箇所を順次照明するように変更されている」と記載されており,2色以上である3色(励起光1色と励起光以外2色)を照射し,CCDの3つのチャンネルの信号を用いることが示唆されているし,同じ甲6に記載された第3の実施形態の付加的な変更においては,赤色の再放射画像,青色の再放射画像及び緑色の内部蛍光画像の3つを同時にかつ同じ画面でモニターに表示し,これによって正常な組織と異常な組織とを識別し得ること(正常な組織は白で表示され,炎症を起こした組織は赤みを帯びた色調を有し,異常な組織は紫を帯びた色調となる。)が記載されている。 そうすると,励起光とそれ以外の照明光から得られる蛍光及び反射光をCCDの3つのチャンネル(RGBの各チャンネル)で受光し,そこから出力される3つのチャンネルの映像信号をモニター上の表示に使用することは,甲6自体において示唆され,少なくとも動機付けが与えられているということができる。したがって,第4の実施形態の変形において,2色に代えて3色(励起光1色と励起光以外2色)を用い,その照射によって得られる蛍光及び再放射光をCCDの異なる3つのチャンネル(受光タイミング)で受光し,それら3つのチャンネルの信号を再構成しモニター上に蛍光の映像と背景の映像とを融合させ同時かつ同一画面で見るようにすることは,本件特許出願前に当業者が容易に想到し得たことである。 c甲6発明に基づく想到容易(その2)甲6発明の第4の実施形態の変形は,蛍光と背景光とをモニター上に融合(表示手段上で擬似カラー画像として表示するために画像を組み合わせること)させ,同時かつ同じ画面で見るという基本的な技術思想において本件発明と何ら異なるところがない。加えて,甲6には,「この変形において,内視鏡装置は,光源8がタイミングサイクルを通じて2以上の波長の光で病気の箇所を順次照明するように変更されている」として,2色以上である3色(励起光1色と励起光以外2色)を照射し,CCDの3つのチャンネルの信号を用いることが示唆されている。 一方,甲7には,甲6発明の第4の実施形態の変形に示唆されている3色照明(励起光1色と励起光以外2色)と同様に3色照明を行い,かつ,通常画像用ビデオ回路で撮像信号を処理してモニタテレビに画像を表示するためのRGB3色のビデオ信号に再構成する電子内視鏡装置が示されている。 そうであれば,当業者が,甲6記載の2以上の波長(3色を含み,励起光1色と励起光以外2色まで示唆している)を順次照明する光源と,励起光をカットするフィルタモジュールと,CCDセンサと,画像処理手段を具備した画像ボードと,RGBモニターとを備え,蛍光画像と背景画像を組み合わせた擬似カラー画像を表示する蛍光内視鏡において,甲7に記載された3色照明を行い,その内の1色を励起用とし,他の2色を背景用として,RGBモニター上に融合させて同時かつ同じ画面に擬似カラー画像として表示させるようにすることは,格別の創作力を要することではない。本件発明は,甲6発明に甲7記載の技術的事項を適用することにより,本件特許出願前に当業者が容易に想到し得たものである。 d効果本件発明の効果とされる「背景の中に蛍光を発しているところを特定しやすくするだけでなく,従来の蛍光だけの映像と比べて視野が明るく生検や粘膜切除などの操作が,蛍光をみながら簡単にできるほか,フィルムやカラープリンターでの写真の撮影も通常観察時と同じ条件でできる」ことも,蛍光と背景光とをモニター上に融合させ,同時かつ同じ画面で見るという基本的な技術思想において共通する甲6発明から予測できる効果の範囲を超えるものではない。 (ウ)甲7発明に基づく想到容易a本件発明と甲7発明の対比特開平8-140929号公報(甲7)に記載された発明(以下「甲7発明」という。)は,本件発明の構成要件A〜E,Gに相当する装置構成を備えている。 もっとも,甲7には,モニターへの表示に関して,CCDから通常画像用ビデオ回路に送信された3つのチャンネルの信号を,モニタテレビに画像を表示するためにRGB3色のビデオ信号として出力すること(f)については記載されているものの,ビデオ回路とモニタテレビとの間には,RGB3色のビデオ信号をモニタテレビに送る通常画像表示状態と,B信号だけをモニタテレビに送る蛍光画像表示状態とを選択することができるビデオ信号切り換え回路が「介挿」されることが記載されており,モニター上に表示する際に「蛍光の映像と背景の映像を融合させ同時にかつ同じ画面でみる」ようにすることについては積極的な記載がない。したがって,「蛍光の映像と背景の映像を融合させ同時にかつ同じ画面で見る」ことについては明示がないという点において,両者は相違するということができる。 b甲7発明に基づく想到容易(その1)甲7には,青の励起光による反射光を遮るために固体撮像素子(白黒CCD)の前方にフィルタを配し,RGBの3色光源を使用して白黒CCDにてRGB面順次方式の撮像を行い,固体撮像素子から出力されるRGB撮像信号をビデオ回路に入力し,ビデオ回路からRGB信号としてモニターへと出力する装置が示されている。そして,この装置において,第1の固体撮像素子から出力され,ビデオ回路に入力される信号は,3色の照明光を照射し,RGB面順次方式により撮像された撮像信号であり,ビデオ回路で処理されてモニタテレビに画像を表示するために出力されるビデオ信号も,RGB3色のビデオ信号である(Bチャンネルの信号は,青の励起光がフィルタでカットされている結果,蛍光画像の信号となっている。)。すなわち,甲7に示された装置において,蛍光映像表示は,ビデオ信号切り換え回路がビデオプロセッサから入力される固体撮像素子のRGB3色のビデオ信号の中からB信号(青色の照明光で照明されているときのビデオ信号)だけを選択して出力することによって行うものであるところ,この装置において,残りのビデオ信号(R,G)を遮断するか,又は,B信号同様に通過させるかは,単なる二者択一の選択事項の1つであるにすぎず,残りのビデオ信号(R,G)を通過させれば,通常画像用ビデオ回路が出力するRGB3色のビデオ信号は,そのままモニタテレビのRGBチャンネルに入力され,蛍光の映像と背景の映像とを表示場面上で融合させ同時にかつ同じ画面で見ることができる。 そうである以上,本件発明は,甲7記載の装置の使用に際して随時選択され得る形態にすぎず,そうでないとしても,同装置について当業者が適宜採用し得る構成であるというべきである。 c甲7発明に基づく想到容易(その2)本件発明は,本件特許権者である原告自身が特許異議の手続(異議2003-70284)で提出した平成15年7月10日付け意見書(甲9)において「他に,甲第1号証(注:異議における証拠で,特開平3-97441号公報)をはじめいくつかの特許出願では蛍光の映像と通常のカラー映像とを融合させる試みもあった。しかし,明るい画面にはなったが,蛍光の変化をreal timeにみることはできなかった。本特許の方法は蛍光内視鏡の問題点をはじめて解決できたといえる。通常使われている面順次式の電子内視鏡の器械に・・・シャープカットフィルターを取り付けただけで,繰り返しになるが,蛍光の映像を青チャンネルで受信し,背景の映像を緑と赤のチャンネルで受信し,3つのチャンネルの信号を融合してモニターに映し出すことになる。これで明るい背景の中でreal timeに蛍光がどのように変化しているのかよく分かる。多くて2色から構成されている他の方法で得られる蛍光の映像と違い,本特許の方法だと映像は青,緑,赤の3色から構成されているので,画質としては通常の電子スコープによる通常のカラー映像とはなんら変わらない」と強調していたことにも示されるように,「通常使われている面順次式の電子内視鏡の器械に・・・シャープカットフィルターを取り付けただけ」の構成であるということができる。 この点,甲7の蛍光観察用の固体撮像素子の撮影光路によって形成されている電子内視鏡装置の構成は,正に「通常使われている面順次式の電子内視鏡装置に蛍光透過用フィルターを取り付けた」構成であり,ビデオ信号切り換え回路は,この構成の上に「介挿」されるものにすぎない。 ここで,緑色の内部蛍光画像のみではなく蛍光以外の青色の再放射光の画像及び赤色の再放射光の画像も併せて表示装置に送り,表示画面上で画像を組み合わせて一緒に表示すること(すなわち,表示画面上で融合させ同時かつ同じ画面に表示すること)は,甲6に「第3の実施形態の装置の付加的な変更」として明示されている。のみならず,蛍光の画像と再放射光の画像を組み合わせて一緒に表示することは,甲6に基本的な技術思想として明示されているところである。 したがって,当業者にとって,甲7の装置を,ビデオ信号切り換え回路が「介挿」される前の,通常の面順次式の電子内視鏡装置に蛍光透過用フィルターを取り付けただけの構成に戻すことによって,RGB3色のカラー画像をモニタテレビに表示させるようにすることは,容易に想到し得たことである。 d効果本件発明の効果は,甲7発明から予測できる効果の範囲を超えるものではない。 (エ)以上のとおり,本件発明は,甲6発明,甲7発明又は両者の組合せにより,本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。 したがって,本件特許には,特許法123条1項2号所定の無効理由があるから,原告が,被告に対し,本件特許権を行使することは許されない(特許法104条の3)。 イ原告(ア)a甲6発明の第4実施形態の変形は,カラーCCDを使用する技術であり(なお,面順次照明方式の内視鏡装置において用いられるCCDは,必ずしも白黒に限られるものではなく,例えば乙20の第2実施例のように,カラーCCDが用いられる例も存在する。),励起光と非励起光を交互に照射し,CCDの前に励起光を遮断する濾過フィルターを置き,モニター上蛍光の映像と背景の映像を融合させる点は本件発明と同じであっても,白黒CCDを使用する本件発明とは内容的に異なる。 b甲6発明の第4実施形態の変形では,小さいCCD(種類の記載がない)で十分な蛍光を得るために,タイミングサイクルの大部分の期間を利用して青色の励起光を照射し,青色の励起光によって照明されている期間中には,低い分解能の蛍光の画像を得るために画像感知手段の感度を増加させる一方,赤色光/近赤外線(非励起光)を照射されているタイミングサイクル中の短い期間には,高い分解能の画像を得るために画像感知手段の感度を減少させている。そして,順次に得られた蛍光画像と非励起光画像を記憶し,同期化してモニター上に表示するようにしている。また,甲6発明において,非励起光は,蛍光画像を標準化(距離,角度,照明強度による影響を蛍光から取り除くため,蛍光を背景光で除算すること)するために使用されるものであり,非励起光による背景の映像の中で蛍光がどこに発生しているのかを知るために用いられるものではない。したがって,蛍光画像を標準化する非励起光として好ましいのは,組織の表面構造がよく再現できる波長の短い光ではなく,組織の表面構造がほとんど再現されない700nm以上の波長を含む長い赤色から赤外光とされる。 これに対し,本件発明では,内視鏡先端にある小さなCCDの感度を甲6発明の第4実施形態の変形のような特殊な方法で上げるのではなく,蛍光の映像そのものの明るさが弱くても,蛍光の映像とは異なる2色の背景の映像と融合させることで,蛍光が発生しているところが3色となり,明るくて鮮明な背景の中にどこで蛍光が発生しているのかがよく分かるというものである。また,本件発明においては,蛍光画像を標準化しなければならないとは考えられておらず,したがって,非励起光として赤色光を使用する必要もない。 cこのように,甲6発明の第4実施形態の変形と本件発明は,発明のコンセプトに大きな違いがあり,甲6発明の第4実施形態の変形に基づいて本件発明に想到することが容易であったとはいえない。 (イ)甲7には,蛍光の映像と背景の映像を融合させるという記述は一切なく,むしろ「蛍光透過用フィルタが配置されている方の個体撮像素子の出力信号が選択されているときには,被写体が青色の照明光で照明されているときのビデオ信号だけをモニターに入力させるビデオ信号切り換え手段を設けたことを特徴とする」との記載からすれば,蛍光の映像のみが得られるようにしていたことが分かる。すなわち,当業者は,本件発明のように,被写体が青色の照明光で照明されているときのビデオ信号だけでなく,緑と赤の照明光で照射されているときのビデオ信号も通常通りモニターに入力させると,うまくいくはずがないと考えていたと推測できる。 本件発明は,蛍光診断用画像は,1つのチャンネルで受像した1色の蛍光の映像と,残りの2チャンネルで受像した,蛍光とは異なる2色の背景の映像とを融合させ,同時にかつ同じ画面で見ることを可能にしたものであるが,本件特許出願時,当業者は,本件発明がもたらす効果を全く予想することができなかった。 したがって,甲7発明に基づいて本件発明に想到することが容易であったとはいえない。 (ウ)なお,特許庁は,異議2003-70284の異議決定(乙6)において,甲6発明及び甲7発明を発展させた特開平9-70384号公報(乙30)が,いずれもモニター上に蛍光の映像と背景の映像を融合させ,同時にかつ同じ画面で見るもので,検出器の前に励起光を除去するフィルターを置く点で本件発明と共通するものの,本件発明のように白黒CCDの3つあるチャンネルの内の1つのチャンネルで蛍光を受光し,残りの2つのチャンネルで背景の映像を拾うものではなく,本件発明が甲6及び甲7を発展させた乙30発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものということはできないと結論づけている。 また,被告は,特許庁の判定2007-600027(乙3)において本件発明の技術的範囲に属すると判定された「EVIS LUCERA上部消化管汎用ビデオスコープOLYMPUS GIF TYPE FQ260Z」,「EVIS LUCERA大腸ビデオスコープOLYMPUS CF TYPE FH260AZシリーズ」について,平成19年2月1日に「世界初の消化器用蛍光ビデオ内視鏡」として販売を開始しているが,その宣伝用のホームページの中で「自家蛍光は,極めて微弱な光であるため,通常の小型CCDで検出することは困難であり,従来はファイバースコープによる観察が主流でした」と述べている。このように,被告自ら,平成11年より前に電子スコープで自家蛍光観察に成功した本件発明について,当業者が容易に発明できたものでないことを認めている。 (エ)以上のとおり,甲6発明及び甲7発明は,本件特許の無効理由にはなり得ない。 本件発明は,蛍光の映像と背景の映像を融合させた初めての蛍光電子内視鏡システムであり,本件特許出願前,当業者が容易に想到し得なかった技術である。 (4)争点(4)(損害額)についてア原告(ア)本件特許権侵害による損害額は,以下のとおりである。 a被告は,遅くとも,本件特許の成立の後である平成19年2月から被告製品を製造・販売しているところ,被告製品の1セット(内視鏡ビデオスコープシステム「EVIS LUCERA SPECTRUM」,ビデオスコープ「EVIS LUCERA OLYMPUS GIF TYPE FQ260Z」及びカラービデオモニター「OEV191H」)当たりの販売価格は,1041万6000円である。 また,被告による被告製品の製造・販売数については,反訴提起までの約2年4か月間で少なくとも合計500セットであると考えられる。 b原告の被告に対する本件特許権のライセンスにおける料率は,被告製品の売上の15パーセントを下ることはない。 cそうすると,原告の損害額は,特許法102条3項の適用により,以下の計算式から算出される。 1041万6000円(単価)×500セット(販売数)×15%(ライセンス料率)=7億8120万円(ライセンス料相当額)(イ)よって,被告が原告に賠償すべき損害額は,合計7億8120万円であるところ,原告は,被告に対し,上記損害額の一部である1億円及びこれに対する平成21年6月11日(反訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 イ被告否認ないし争う。 第3当裁判所の判断1争点(1)(被告製品の構成)について(1)被告製品の構成について,原告は,a蛍光内視鏡検査においてb励起光R(390〜470nm(青))と照明光G1(540〜560nm(緑))と照明光G2(540〜560nm(緑))を交互に組織に照射し,c組織から反射してきた光を感受する白黒CCDの前に,励起光Rは通過させないが,500〜630nmの光を通す濾過フィルターをおいて,d励起光Rが組織に当たって蛍光Fを発生させたタイミングで,濾過フィルターを通過できた蛍光をCCDの時系列な3つの撮像タイミング(赤,緑,青)の内の1つの撮像タイミング(緑)で受光し,励起光Rから蛍光Fを取り出し,e照明光G1(緑)の時はCCDの時系列な3つの撮像タイミング(赤,緑,青)の内の赤の撮像タイミングにて背景の映像を拾い,また,照明光G2(緑)の時は,青の撮像タイミングにて背景の映像を拾い,f赤の撮像タイミングで得られた信号は,緑画像信号G1-1,G1-2,・・・として同時化メモリのRに書き込まれた後,マトリクス回路に出力され,緑の撮像タイミングで得られた信号は,蛍光Fの蛍光画像信号F-1,F-2,・・・として同時化メモリのGに書き込まれた後,マトリクス回路に出力され,青の撮像タイミングで得られた信号は,緑画像信号G2-1,G2-2,・・・として同時化メモリのBに書き込まれた後,マトリクス回路に出力され,その後,マトリクス回路において,赤の撮像タイミングで得られた緑画像信号G1-1,G1-2,・・・は1倍処理したG1’(R)と0.5倍処理した0.5G1’に変換され,蛍光画像信号F-1,F-2,・・・は1倍処理したF(G)に変換される一方で,緑画像信号G2-1,G2-2,・・・は不要な信号として排除され,その後,G1’(R),0.5G1’,F(G)は後処理回路に入力され,G1’(R)信号を赤の映像信号(R),F(G)信号を緑の映像信号(G),0.5G1’を青の映像信号(B)としてモニターに出力して,モニター上に蛍光の映像と背景の映像を融合させ,同時にかつ同じ画面でみるところを特徴とするg光診断装置と特定する。 これに対し,被告は,上記構成fについて,緑画像信号G2-1,G2-2,・・・(反射光G2に基づく電気信号)は処理回路内のFIFO(First In First Out)回路において遮断されるものであり,マトリクス回路(蛍光観察しやすい信号を作るため,CCDで撮像して得られた画像信号をマトリクス処理する回路)において排除されるのではない旨主張する。 ところで,被告製品の構成についての上記原告主張と被告主張の相違は,FIFO回路及びマトリクス回路を含むビデオシステムセンター内部における構成に関するものであるが,本件発明に係る特許請求の範囲には,CCDで受光した後の電気信号の処理に関する記載はなく,本件明細書の発明の詳細な説明中にも,「ビデオシステムセンターを通して」(「ビデオシステムセンターによって」,「ビデオシステムセンターを介して」)モニター上に画像を再構成する旨の記載(段落【0021】,【0028】,【0035】,【0043】,【0045】,【0046】,【図5】等)が存在するにすぎない(甲2)。そして,被告は,CCDで受光した後の緑画像信号G2-1,G2-2,・・・(反射光G2に基づく電気信号)がビデオシステムセンター内において不要な信号として排除されることは認めているのであるから,結局のところ,緑画像信号G2-1,G2-2,・・・(反射光G2に基づく電気信号)がビデオシステムセンター内の「処理回路」において遮断され,モニターに出力されないことについては,当事者間に争いがないということになる。 したがって,被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか否かを検討するに当たって,照明光G2の反射光(緑画像信号G2-1,G2-2,・・・)がビデオシステムセンター内のマトリクス回路で遮断されるか,FIFO回路で遮断されるかは,結論に影響を及ぼさないということに帰着する。 そこで,被告は,本件訴訟係属前,被告製品の構成が原告の主張するとおりであることを自認していたこと(乙1,2),本件訴訟において,被告製品のFIFO回路で緑画像信号G2が遮断されていることについての立証が十分にされているとはいい難いこと等にかんがみ,以下,被告製品は原告の主張する構成(特許庁における判定〈判定2007-600027〉の手続で認定されたものと同一の構成)を有するものであることを前提として,本件発明の技術的範囲に属するか否かを検討する。 2争点(2)(被告製品は,本件発明の技術的範囲に属するか)について(1)被告製品が本件発明の構成要件A,B,D,Gを充足していることは当事者間に争いがない。 (2)構成要件Eについてア本件発明の構成要件Eは,「励起光以外の光(例えば,緑と赤)の時はCCDの残りの2つのチャンネル(例えば,緑と赤)にて背景の映像を拾い」であるところ,被告製品の構成eの「照明光G1(緑)」及び「照明光G2(緑)」は,励起光ではなく,照明光であるから,本件発明の構成要件Eの「励起光以外の光(例えば,緑と赤)」に相当する。 イところで,構成要件Eは「CCDの残りの2つのチャンネル(例えば,緑と赤)にて背景の映像を拾い」であり,「CCDのチャンネル」(構成要件D,E)の技術的意義は,特許請求の範囲の記載からは必ずしも一義的に明確とはいえない。そこで,本件明細書及び添付図面の記載を見ると,段落【0021】には,「考察:実験に使った光源装置では,光源の前に三原色RGBのband pass filtersを置き,それを回転させて順次に三原色の光を作り出し,被観察物に照射する。そして,被観察物から順次に反射してくる三原色の光を内視鏡先端の白黒のcharge coupled device(CCD)にて受光し電気信号に変える。つまり,三原色の赤の時はCCDで受けた電気信号は赤チャンネルとして,緑の時は緑チャンネルとして,そして,青の時は青チャンネルとして扱い,送信後ビデオシステムセンターによってモニター上に画像を再構成している」との記載が,段落【0035】には,「白黒CCDでは,三原色の赤,緑,青は区別できず,暗いか明るいかで判別し電子信号化している。カラーの映像を作り出すためには,光源の前に三原色RGBのband pass filtersを置き,それを回転させて順次に三原色の光を送り,被観察物を照射する。赤の光が出た時には,被観察物から反射してくる光を内視鏡先端の白黒のCCDにて受光し赤チャンネルに,緑光の時は緑チャンネルに,そして,青光の時は青チャンネルに電気信号化して,送信後ビデオシステムセンターによってモニター上に画像を再構成している」との記載があり,【図6】には,赤色光を被観察物に照射したタイミングで反射光を白黒CCDで受けて電気信号に変換して出力する構成を赤(R)チャンネル,緑色光を被観察物に照射したタイミングで反射光を白黒CCDで受けて電気信号に変換して出力する構成を緑(G)チャンネル,青色光を被観察物に照射したタイミングで反射光を白黒CCDで受けて電気信号に変換して出力する構成を青(B)チャンネルとした図が示されている(甲2)。そして,構成要件D,Eの「CCD」が白黒CCDであり(構成要件C),白黒CCDが赤(R),緑(G),青(B)の異なる波長の画像信号を得るためには,赤,緑,青の各波長帯域の反射光を時分割で受光し,出力しなければならないことにかんがみると,構成要件D,Eの「CCDのチャンネル」とは,「白黒CCDの時系列的な各色の撮像タイミング(白黒CCDにおける受光・出力のタイミングを時系列的に分割したもの)」を意味するものと解するのが相当である。 この点,原告は,「CCDのチャンネル」について,モニターのR,G,Bの3つのチャンネルに対応するもので,撮像タイミングとは何の関連性もない旨を主張する。しかしながら,本件発明において,「CCDのチャンネル」は,その内の1つで蛍光を「受光し」(構成要件D),残りの2つで「背景の映像を拾」う(構成要件E)ものとされ,蛍光や反射光を受光するのはモニターではないのであるから,原告の上記解釈は採用することができない。 ウそして,被告製品の構成eは,「照明光G1(緑)の時はCCDの時系列な3つの撮像タイミング(赤,緑,青)の内の赤の撮像タイミング(CCDの赤のチャンネル)にて背景の映像を拾い,また,照明光G2(緑)の時は,青の撮像タイミング(CCDの青のチャンネル)にて背景の映像を拾い」というものであり,CCDの3つあるチャンネルの内,励起光で用いたチャンネル(緑)以外の残りの2つのチャンネル(赤,青)にて背景の映像を拾っているということができるから,本件発明の構成要件Eを充足するものと認められる。 なお,上記のとおり,本件発明の構成要件Eは,白黒CCDにおける撮像の仕方を規定したものであり,白黒CCDからの出力を受けたビデオシステムセンター内で行われる信号処理の内容とは関係がないから,仮に被告製品の構成が被告の主張するとおりのもの(別紙「被告システム説明書」のとおりの構成)であったとしても,上記判断を左右しない。 (3)構成要件Fについてア本件発明の構成要件Fは,「送信後3つのチャンネルの信号を再構成しモニター上に蛍光の映像と背景の映像を融合させ,同時にかつ同じ画面で見るところを特徴とする」であるところ,「3つのチャンネルの信号を再構成しモニター上に蛍光の映像と背景の映像を融合させ(る)」の技術的意義は,本件特許請求の範囲の記載からは必ずしも一義的に明らかではない。 イ(ア)そこで,本件明細書を見ると,「発明の詳細な説明」には次の記載がある。(甲2)a「実験に使った光源装置では,光源の前に三原色RGBのband pass filtersを置き,それを回転させて順次に三原色の光を作り出し,被観察物に照射する。そして,被観察物から順次に反射してくる三原色の光を内視鏡先端の白黒のcharge coupled device(CCD)にて受光し電気信号に変える。つまり,三原色の赤の時はCCDで受けた電気信号は赤チャンネルとして,緑の時は緑チャンネルとして,そして,青の時は青チャンネルとして扱い,送信後ビデオシステムセンターによってモニター上に画像を再構成している。」(段落【0021】)b「白黒CCDでは,三原色の赤,緑,青は区別できず,暗いか明るいかで判別し電子信号化している。カラーの映像を作り出すためには,光源の前に三原色RGBのband pass filtersを置き,それを回転させて順次に三原色の光を送り,被観察物を照射する。赤の光が出た時には,被観察物から反射してくる光を内視鏡先端の白黒のCCDにて受光し赤チャンネルに,緑光の時は緑チャンネルに,そして,青光の時は青チャンネルに電気信号化して,送信後ビデオシステムセンターによってモニター上に画像を再構成している。」(段落【0035】)c「この自家蛍光内視鏡システムに本発明の請求項1に記載の蛍光の映像と背景の映像を融合させ,同時にかつ同じ画面で見る方法を応用すれば,これらの問題を解決できる。具体的には,水銀ランプの前に青色励起フィルターと原色の赤と緑のフィルターを有するband pass filtersを置き,それを回転させ,順次に青,緑,赤の光を粘膜に照射する。通常観察の時はそのまま,粘膜から反射してくる光を,ファイバースコープで拾い,体外で高感度カメラで電子信号化し,ビデオシステムセンターを介して,モニター上に映像を再構築すればよい。蛍光観察の時は,光源の前にもう一枚励起光の青をよく通すが,赤と緑をある割合でカットする本発明の請求項2に記載の青の調整フィルターを入れ,かつ高感度カメラのCCDの前にも青を完全に遮断する黄色フィルター( )Kodak Wratten filter No.15を差し込めば,蛍光の映像と背景の映像を融合させたものが見える。」(段落【0040】)d「光源9の前でRGBのband pass filtersが回転している。R(赤)フィルター10,G(緑)フィルター11,B(青)フィルター12をそれぞれ通った光(太い矢印)が調整フィルター13を通して被観察物であるフルオレセインをつけた白紙14に当たって反射し,濾過フィルター15を通過して白黒CCD16に達し赤チャンネル17,緑チャンネル18,青チャンネル19に電子信号化される。この3つのチャンネルがビデオシステムセンター20を介してモニター21上で画像に再構築される。青チャンネル19は濾過フィルター15を通して励起光の青光からフルオレセインの黄色の蛍光を青の信号として取り出している。赤と緑のチャンネル17,18は調整フィルター13によってある割合でカットされた赤と緑の光で背景の映像を拾い,青チャンネル19の映像とモニター21上で再構築される。」(段落【0044】)e「本発明の請求項1に記載の蛍光の映像と背景の映像を融合させ,同時にかつ同じ画面で見る方法は,励起光と調整フィルターで調整した光を交互に被観察物に照射し,白黒ないしカラーのCCDの前に濾過フィルターをおいて,蛍光を励起光から取り出し,それを3つあるチャンネル(赤,緑,青)の内1つのチャンネル(例えば,青)で受光しかつ強調して,残りの2つのチャンネル(例えば,赤と緑)にて,調整フィルターで調整した光で背景の映像を拾い,送信後3つのチャンネルの信号を再構成しモニター上に画像にすることによって,背景の中に蛍光を発しているところを特定しやすくするだけでなく,従来の蛍光だけの映像と比べて視野が明るく生検や粘膜切除などの操作が,蛍光を見ながら簡単にできるほか,フィルムやカラープリンターでの写真の撮影も通常観察時と同じ条件でできるところにある。」(段落【0047】)fまた,実施例を示す【図6】においては,赤,緑,青の照明光が照射され,それに基づくCCDの3つのチャンネルの信号が,赤の映像,緑の映像,明るい青の映像(背景部分は黒の映像)を作り出す信号(すなわちRGB信号)として出力され,ビデオシステムセンターを介して,モニター上に映像として重ね合わせて表示される態様が示されている。 (イ)上記のとおり,本件発明は,青,赤,緑の3色の照明光を照射し,3つの照射光に基づいて得られる3つの信号(濾過フィルターで青色光をカットして得られる蛍光の信号,赤の信号及び緑の信号)のすべてをモニターに入力して映像表示に用いることによって明るい映像を表示する点を特徴の一つとするものであり,上記のような3色方式以外の構成(例えば,赤,緑,青の3つの撮像タイミングで得られる3つの信号の内の2つだけを「モニター上に蛍光の映像と背景の映像を融合させて」見るために用いるもの)は,本件明細書の詳細な説明及び図面には示されていない。 また,本件明細書には,3色の光を受光する「CCDの3つあるチャンネル(赤,緑,青)」とモニターの入力端子(赤,緑,青)との関係が,赤(R)-赤(R),緑(G)-緑(G),青(B)-青(B)という1対1対応の関係にある態様しか開示されておらず,これ以外の関係を示唆する記載も存在しない。 したがって,本件明細書の詳細な説明及び図面に記載されているのは,白黒CCDの前に濾過フィルターを置き,青,赤,緑の3色の照明光を照射して得られる信号を,青照射時の信号(蛍光の画像信号)はモニターの青の端子,赤照射時の信号(赤の画像信号)はモニターの赤の端子,緑照射時の信号(緑の画像信号)はモニターの緑の端子というように1対1対応の関係でモニターに入力することによって,3色の照明光により得られる3つの信号のすべてをモニター表示に用いる発明であると認められる。 (ウ)ち な み に , 原 告 は , 平 成 1 4 年 ( 2 0 0 2 年 ) に 発 表 し たFluorescein electronic endoscopy: a novel method for detection of early stage 「」と題する論文(甲10,乙gastric cancer not evident to routine endoscopy5。同論文には,「本研究に記載した方法に基づく機器は,日本・・・で特許出願中である」〈訳文〉と記載され,ここにいう特許出願とは,本件特許出願をいうものと認められる。)において,本件明細書の【図5】(濾過フィルターとCCDにて蛍光の映像と背景の映像を融合させFi て,同時にかつ同じ画面で見る方法のシステム模式図)と同一の図(gure12. Schematic diagram of fluorescence electronic endoscopic system. White p)について,次の aper stained with fluorescein was used as the observed objectように説明している。 A black and white charge-coupled device (CCD) behind the objective lens of 「the endoscope (GIF-XQ 200, Olympus) picks up the photons of light reflected from tissue and generates electronic signals for, sequentially, red (R), green (G), andblue (B) reflected light. The video processor (CV-200, Olympus) receives these3 electronic signals and reconstructs them on a color television monitor. (Fig. 1」 2)(訳文:内視鏡の対物レンズの後方に配置される白黒CCD(オリンパス製GIF-XQ 200)は,生体から反射されてくる光を受光し,赤(R),緑(G),青(B)の反射光の信号を順次出力する。ビデオプロセッサー(オリンパス製CV-200)は,これら3つの信号の入力を受け,それらをカラーテレビモニター上に再構成する。)また,原告は,同論文において,同じ実験装置で調整フィルターを付けたもの(本件特許の請求項2に相当するもの)について,次のように説明している。 Reconstruction of the R,G, and B channels on the monitor results in an image 「that shows the stains to be white (bright blue + green + red) and the paper yellow」 (only green+ red) (Fig.13)(訳文:R,G,Bチャンネルをモニター上に再構成することによって,映像は,(フルオレセイン)染色部分が白く(明るい青+緑+赤),白紙部分が黄色く(緑+赤のみ)表示されることになる(図13)。)したがって,原告自身によるこれらの説明に照らしても,本件発明の内容が上記(イ)のとおり3色の照明光により得られる3つの信号のすべてをモニター表示に用いる発明であることが裏付けられるというべきである。 ウ(ア) さらに,原告は,平成15年7月10日付け「特許異議申立に対する意見書」(甲9)において,本件発明について,次のとおり主張している。 a 「特開平9-70384(判決注:「特表平10-500588」〈本件訴訟における甲6〉の誤記と認める。以下,b項も含めて同様である。)・・・では青励起光を組織に照射すると組織から自家蛍光が生じる。その際,腫瘍からの自家蛍光は正常組織と比べて弱くしかも緑領域の方が赤の領域よりもその差が優位に大きいという性質(特開平9-70384,)を利用して,まずシャープカットフFig.1a-dィルターを用いて青の励起光を完全にカットし,さらに残った蛍光を緑と赤に分けて受信した後に同じモニター上に合成する。そうすると腫瘍が赤く,正常組織が緑に見えるというわけである。・・・特開平9-70384と本特許との根本的な違いは,本特許の映像は青,緑,赤3色から構成されているのに対し,特開平9-70384では映像は赤と緑の2色しかないという点である。」b「本特許の自家蛍光内視鏡の映像は青チャンネルで腫瘍と正常組織は発する緑も赤も含めた自家蛍光強さの差として受信し(特開平9-70384,を参考にすると腫瘍の部分からの自家蛍光は弱Fig.1a-dい青に,正常な組織からの自家蛍光は強い青に),そしてさらに緑と赤で受信した背景の映像と融合させている。・・・このように,特開平9-70384の自家蛍光内視鏡写真は蛍光の映像のみであるのと,赤と緑(写真では電子的に緑を青にかえている)の2色しかないので,値段も高く操作性も悪い高感度カラーCCDを使用しているにもかかわらず,映像としてもまだ大分暗い。・・・それに比べて,本特許の自家蛍光内視鏡写真は通常の面順次式にシャープフィルターを取り付けただけで,明るく鮮明な画像が得られる。既に,述べたように蛍光の映像を青チャンネルで受信し,背景の映像を緑と赤のチャンネルで受信し,そして3つのチャンネルの信号を融合させているからである。」c「本特許の方法は蛍光内視鏡の問題点をはじめて解決できたといえる。通常使われている面順次式の電子内視鏡の器械に・・・フィルターを取り付けただけで,繰り返しになるが,蛍光の映像を青チャンネルで受信し,背景の映像を緑と赤のチャンネルで受信し,3つのチャンネルの信号を融合してモニターに映し出すことになる。・・・多くて2色から構成されている他の方法で得られる蛍光の映像と違い,本特許の方法だと映像は青,緑,赤の3色から構成されているので,画質としては通常の電子スコープによる通常のカラー映像となんら変わらない。特別な器械はいらないのでもちろんコストも安い。」(イ)このように,原告は,上記引用箇所において,本件発明の映像は青,緑,赤の3つのチャンネルの信号(3色)から構成されているので,赤と緑の2色しかない甲6(特表平10-500588)発明に比べて優れている旨を繰り返し主張していたことが認められる。 エ上記イ,ウのとおり,本件明細書の記載及び特許異議手続における原告の主張内容からすれば,本件発明の構成要件F「送信後3つのチャンネルの信号を再構成し」とは,CCDの3つのチャンネルの信号をすべて用いてモニター上に映像として再構成することをいい,また,そのような構成に限定されるものと認めるのが相当である。 この点,原告は,本件発明の構成要件Fについて,CCDの3つのチャンネルの信号をすべて用いて再構成することに限定されない旨の主張をするが,同主張は,特許異議手続における前示の経緯に照らし,いわゆる禁反言の法理に反するものとして許されないというべきである。 オそこで,被告製品について検討するに,被告製品においては,前示のとおり,CCDの緑チャンネルで受光した反射光G2(緑画像信号G2-1,G2-2,・・・)はビデオシステムセンター内において不要な信号として排除され,背景の映像信号としてモニターに出力されていないのであるから,CCDの3つのチャンネルの信号のすべてを用いてモニター上に映像として再構成しているとはいえない。 したがって,被告製品は,本件発明の構成要件Fを充足するものとは認められない。 (4)均等侵害についてア前示のとおり,被告製品は,少なくとも本件発明の構成要件Fを充足しないから,本件特許権に対する文言侵害は認められないが,原告は,被告製品について,本件発明の構成と均等である旨主張するので,以下,検討する。 イ特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であっても,?当該部分が特許発明の本質的部分ではなく,?当該部分を対象製品等におけるものと置き換えても,特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって,?そのように置き換えることに,当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が,対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり,?対象製品等が,特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから同出願時に容易に推考できたものではなく,かつ,?対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは,上記対象製品等は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である(最高裁平成10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁)。 ウこれを本件についてみるに,原告は,前記認定のとおり,特許異議(異議2003-70284)の手続において,本件発明が甲6発明から容易に想到できたものでないことを主張するに当たって,甲6発明のような従来技術(モニター上に蛍光の映像と背景の映像を融合するに際し,2色で構成する技術)との根本的な差異として,本件発明における映像は青,緑,赤の3色から構成されている点を強調していたのであるから,被告製品のように3つの撮像タイミングで得られる3つの信号の内の2つだけをモニター上の画像構成に用いる技術については,これを特許請求の範囲から意識的に除外したものと認めるのが相当である。 したがって,被告製品については,少なくとも均等法理の第5要件にいう「特段の事情」の存在が認められるから,本件発明の構成と均等であるとはいうことはできず,原告の主張する均等侵害も認めることはできない。 3結論以上のとおり,被告製品は本件発明の技術的範囲に属するものと認めることはできないから,原告の請求は,その余の点について検討するまでもなく,いずれも理由がない。 よって,原告の請求をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 岡本岳 |
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裁判官 | 鈴木和典 |
裁判官 | 坂本康博 |