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関連審決 不服2007-11900
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成20行ケ10065審決取消請求事件 判例 特許
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平成20行ケ10196審決取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10307審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 製造方法 /  容易に実施 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  発明特定事項 /  実施可能要件 /  試行錯誤 /  技術常識 /  明確性 /  発明の詳細な説明 /  発明が明確 /  実質的に同一 /  参酌 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 20年 (行ケ) 10171号 審決取消請求事件
原告株式会社シンエイ・ハイテック
訴訟代理人弁護 士吉原省三
同 今野勝彦
訴訟代理人弁理 士大岩増雄
同 高瀬彌平
被告特許庁長官
指定代理人粟野正明
同 北村明弘
同 真々田忠博
同 徳永英男
同 小林和男
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2009/01/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2007-11900号事件について平成20年3月24日にした審決を取り消す。
争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯原告は,平成16年4月28日,発明の名称を「電子部品及びその表面処理方法」とする発明について,特許出願(以下「本願」という。)をし,平成16年10月29日及び平成18年4月14日に手続補正をしたが(甲3,7頁以下,甲4),平成19年3月19日に拒絶査定を受けたことから,同年4月25日,これに対する不服の審判(不服2007-11900号事件)を請求するとともに,同年5月23日に手続補正をした(請求項の数は2,この補正を「本件補正」といい,本件補正後の明細書を「本件補正後明細書」という。
甲6。なお,本願の出願当初の明細書を「本件明細書」という。)。
特許庁は,平成20年3月24日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「審決」という。)をし,その審決の謄本を平成20年4月8日に原告に送達した。
2特許請求の範囲本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,本件補正後の請求項1に係る発明を「本願発明1」といい,本件補正後の請求項2に係る発明と併せて「本願発明」という。)。
「【請求項1】はんだ付けされるはんだ付け部を有し,このはんだ付け部にはニッケル,パラジウム及び金の3層構造の表面処理がなされたコネクタ用接続端子において,上記パラジウム層及び金層は,上記パラジウム層の厚さが,0.007μm以上0.1μm未満の範囲,上記金層の厚さが,0.003μm以上0.01μm未満の範囲,かつ上記金層の厚さ<上記パラジウム層の厚さの関係を有すると共に,上記金層が上記パラジウム層を形成するパラジウムストライク表面を部分的にラップするように形成されていることを特徴とするコネクタ用接続端子。」3 審決の理由審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。要するに,?@本願発明1は,発明が明確ではないから,特許請求の範囲の記載が,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない,?A発明の詳細な説明及び図面は,当業者が本願発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないから,同法36条4項1号に規定する要件を満たしていない,?B本願発明1は,特開平10-313087号公報(以下「引用例1」という。甲1)に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び特開平4-193982号公報(以下「引用例2」という。甲2)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,同法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
なお,審決の認定した,本願発明1と引用発明との一致点及び相違点は,以下のとおりである。
ア 一致点はんだ付けされるはんだ付け部を有し,このはんだ付け部にはニッケル,パラジウム及び金の3層構造の表面処理がなされた接続端子において,上記パラジウム層及び金層は,上記パラジウム層の厚さが,0.007μm以上0.1μm未満の範囲,上記金層の厚さが,0.003μm以上0.01μm未満の範囲,かつ上記金層の厚さ<上記パラジウム層の厚さの関係を有し,かつ金層がパラジウム層を形成するパラジウムストライク表面に形成されている接続端子。
イ 相違点相違点1:接続端子の用途が,本願発明1においては,「コネクタ用」であるのに対し,引用発明においては,リードフレームである点相違点2:金層とパラジウム層との被覆の態様が,本願発明1においては,「上記金層が上記パラジウム層を形成するパラジウムストライク表面を部分的にラップするように形成されている」のに対し,引用発明においては,金層がパラジウム層を形成するパラジウムストライク表面に形成されているものの,「部分的にラップするように」と記載されていない点
当事者の主張
1 審決の取消事由に関する原告の主張審決には,以下のとおり,(1)特許法36条6項2号明確性の判断の誤り(取消事由1),(2)同条4項1号の実施可能要件の判断の誤り(取消事由2),(3)同法29条2項容易想到性の判断の誤り(取消事由3)がある。
(1) 取消事由1(特許法36条6項2号明確性の判断の誤り)審決は,「本件明細書の記載からは,本件発明の特徴である金ラップめっきについて,単なる金めっきとは異なる技術的意義が明らかではない。このため,金ラップめっきを行う『部分的にラップするように形成されている』との発明特定事項についても,単なる部分的に被覆するという以上の技術的意義も明らかでない。したがって,本願請求項1に係る発明は,不明確である。」(審決書5頁2行〜7行)と判断し,その理由として,?@本件明細書の段落【0016】〜【0018】に「金ラップめっき4(金めっき)」とあって,金ラップめっきと金めっきが併記されているので両者は同じものである疑いがあること,?A本件明細書の段落【0016】〜【0018】には金ラップめっきを行うことと金めっきを行うことの製造工程上の違いを明示していないこと,?B本件明細書の段落【0016】〜【0018】に示される金ラップめっきの厚さ条件が特許請求の範囲の金めっきの厚さ条件と同一であることを挙げる。
しかし,審決の上記判断は,以下のとおり誤りである。
ア以下の本件明細書(甲3)の記載から,本願発明1の「金ラップめっき」の意義は明確である。すなわち,「図5は,この発明の実施の形態1による電子部品の表面処理を示す原理図である。図5において,1〜4は,図1におけるものと同一のものである。図5では,金ラップめっき4は,パラジウムストライクめっき3の表面を部分的にラップするように形成されている。」(甲3の段落【0011】)。
「金ラップめっき4が,0.003〜0.02μmの厚さに形成され,金ラップめっき4の厚さ<パラジウムストライクめっき3の厚さの関係にあると,図5に示されるように,パラジウムストライクめっき3の核を覆うようになる。この状態では,はんだぬれ性のよい表面処理が得られる。
また,金ラップめっき4の上述の厚さでは,金色を発色しない。」(甲3の段落【0013】)。
以上によれば,本願発明1の「金ラップめっき」は,厚さが0.003〜0.02μmで,かつパラジウムストライクめっき層より薄く形成され,金めっきがパラジウムストライクめっきの核を部分的に覆い金色を発色しないように形成された金めっきを指す。本願発明1の「金ラップめっき」は,金めっきの一種であるが,パラジウムストライクめっきの核の表面を部分的に覆い金色を発色しないように形成されている点において通常の金めっきとは異なる技術的意義を有する。
よって,本願発明1の特徴である「金ラップめっき」の技術的意義が不明確であるとした審決の判断には誤りがある。
イまた,審決が挙げた?@ないし?Bの理由については,次のとおり,失当である。すなわち,?@本件明細書(甲3)の段落【0016】〜【0018】に「金ラップめっき4(金めっき)」と両者を併記したのは,金ラップめっきが金めっきの一種であることから当然であり,?A金ラップめっきは金めっきの一種であることから,両者の製造工程に重複した部分が存在するのも当然であり,製造工程の違いについては,金ラップめっきは,「通常市販されている濃度より薄い濃度に調合された金液に漬し,電流密度0.05〜0.1A/dm の条件で,金電解めっきを行い,厚さ0.2003〜0.02μmの金ラップメッキ4を形成する。」(段落【0018】)に記載があり,?B本願発明1の金層が金ラップめっきにより形成されるものであるから,金ラップめっきの厚さを金層の厚さとして特許請求の範囲に記載したものである。したがって,金ラップめっきの厚さ条件が特許請求の範囲の金めっきの厚さ条件と同一であることに問題はない。
以上のとおり,本願発明1の発明特定事項である「部分的にラップするように形成されている」という記載の意味は明確であるから,本願発明1の特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項2号の規定に違反するものではない。
(2) 取消事由2(特許法36条4項1号実施可能要件の判断の誤り)審決は,「本件明細書には,本願発明における特有の技術事項である金ラップめっきについて具体的めっき条件が記載されているとはいえず,また,当業者が容易に実施しうるともいえない。したがって,金ラップめっきを行う『部分的にラップするように形成されている』との発明特定事項を有する,本願の請求項1に係る発明は,当業者が実施しうる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明が記載されているとはいえない。」と判断し(審決書5頁18行〜24行),その理由として,「金の電流密度の値については,上記(本【0016】〜【0018】)に『電流密度0.05〜0.1A/dm2の条件で,』と記載されているところ,単に電流密度の値を0.05〜0.1A/dm に調整することで,形成されるめっきが金ラップめっきに2なるのか不明である。また,金液の濃度については,上記(本【0016】〜【0018】)に具体的値は記載されておらず,金ラップめっきの具体的条件とは,具体的にいかなる金液の濃度とすることを指すのか,不明である。」点を挙げる(審決書5頁10行〜17行)。
しかし,上記審決の判断は,以下のとおり誤りである。
ア本件明細書の記載本件明細書の段落【0016】〜【0018】には,本願発明のめっきの製造条件が次のとおり記載されている(甲3)。
「【0016】実施の形態1によれば,はんだ付けされる電子部品の金属母材を,順次,ニッケルめっき,パラジウムストライクめっき,金ラップめっきにより表面処理するので,鉛フリーで,かつはんだぬれ性がよく,金使用量を少なくして経済的な電子部品が得られる効果がある。
【0017】次に上述した電子部品の表面処理方法について具体的に説明する。上述したように,厚さ1〜3μmのニッケルめっき2,厚さ0.007〜0.1μmのパラジウムストライクめっき3(パラジウムストライク),及び厚さ0.003〜0.02μmの金ラップめっき4(金めっき)を形成し,かつ金ラップめっき4の厚さ<パラジウムストライクめっき3の厚さの関係になるようにすれば,はんだぬれ性の良好な表面処理を行うことができる。この3層の形成は,次のようにして行われる。まず,厚さ1〜3μmのニッケルめっき2が形成された母材1を,通常市販されている濃度より薄い濃度に調合されたパラジウム液に漬し,電流密度1〜10A/dm の条件で,パラジウム電解めっきを行い,厚さ0.0072〜0.1μmのパラジウムストライクめっき3を形成する。
【0018】次いで,このパラジウムストライクめっき3された母材1を,通常市販されている濃度より薄い濃度に調合された金液に漬し,電流密度0.05〜0.1A/dm の条件で,金電解めっきを行い,厚さ20.003〜0.02μmの金ラップめっき4を形成する。このパラジウムストライクめっき3及び金ラップめっき4は,パラジウム液の収容されたパラジウム槽及び金液の収容された金槽を含むめっきラインを,順次,電子部品を一定速度で連続して移動させることによって,形成することができる。パラジウム,金の液濃度及び電流密度により,それぞれ析出速度が変化するので,パラジウム,金の液濃度は,使用しているめっきライン(装置)性能に応じて設定される。」イ製造条件の記載について電流密度については,上記段落【0018】に「通常市販されている濃度より薄い濃度に調合された金液に漬し,電流密度0.05〜0.1A/dm の条件で,金電解めっきを行い,厚さ0.003〜0.02μmの2金ラップめっき4を形成する。」と記載されているとおり,0.05〜0.1A/dm の条件とすれば金ラップめっきを形成するのであるか2ら,「単に電流密度の値を0.05〜0.1A/dm に調整すること2で,形成されるめっきが金ラップめっきになるのか不明である。」という審決の判断は,誤りである。
金液の濃度については,本件明細書に,通常市販されている濃度より薄い濃度に調合された金液に漬すことが記載されているから,当業者であれば,「通常市販されている濃度より薄い濃度に調合された金液に漬し,電流密度0.05〜0.1A/dm の条件」で金液の濃度及び電流密度を2適宜調整し,かつ金色が発色しないようにして電解めっきすることによって,過度の試行錯誤を伴うことなく金ラップめっきとすることができる。
以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本願発明1を実施できる程度に明確かつ十分に記載されており,特許法36条4項1号の規定に違反するものではないから,実施可能要件がないとした審決の判断は誤りである。
(3) 取消事由3(特許法29条2項容易想到性の判断の誤り)ア相違点の看過審決は,引用発明について,「JIS0400:1998『電気めっき及び関連処理用語』によれば,『ストライクめっき』とは,『後工程で行われる被膜の析出を促進するための電着金属の薄膜』)をいうから,引用例1記載発明の『めっき厚0.05μmのPd層の上にさらに,めっき厚0.003μmのAu層』を形成することは,本願発明1の『金層が上記パラジウム層を形成するパラジウムストライク表面に形成されている』ことに対応する。」(審決書9頁18行〜23行)と認定した。
しかし,審決の上記認定は,以下のとおり誤りである。
引用例1においては,パラジウムめっき層の上に金めっき層が形成されている点の記載はあるが,パラジウムめっき層が金めっき層の析出を促進しているとの記載はない。ストライクめっきとは,「密着力の弱いめっき素材に対して行う処理で,めっき層をより強く素地に密着させるために行う一種の下地めっき」を意味するものであって(Y著「めっき作業入門」理工学社,甲9,24頁),下地めっきの一種である。下地めっきには,ストライクめっき以外のめっきも存在する。したがって,その次に形成されるめっき層の下地となるめっきであることから,直ちにストライクめっきであると認定することはできない。
以上のとおり,引用例1記載のパラジウムめっき層は,「ストライクめっき」に該当しない。
したがって,審決は,引用発明のパラジウム層がパラジウムストライクに相当すると認定した点に誤りがあり,この点において相違点の看過がある。
イ本願発明1と,引用例1及び2記載の発明の効果の相違審決は,「本願発明1の効果も引用例1〜2の記載から予測できるもので,顕著でない。」として,本願発明1は,容易想到であると判断した(審決書11頁16行,17行)。
しかし,上記判断は,以下のとおり誤りである。
本願発明1は,パラジウム層がパラジウムストライクを形成しているので,引用例1及び2に比して,めっきの密着性が優れている。
すなわち,ストライクめっきとは,「密着力の弱いめっき素材に対して行う処理で,めっき層をより強く素地に密着させるために行う一種の下地めっき」であり(甲9),ストライクめっき処理を施したものは,同様の処理を施さなかったものと比較して,めっきの密着力が優れている。したがって,ストライクめっき処理を施した本願発明1は,ストライクめっき処理を施していない引用発明に比しめっきの密着力が優れているという顕著な効果上の相違を有する。本願発明1は,引用発明に比較して,パラジウム層がパラジウムストライクを形成している点において構成上の差異を有し,かつその差異が顕著な効果上の差異をもたらすから,引用発明並びに引用例1及び2に基づいて当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。したがって,容易想到であると判断した審決には誤りがある。
2 被告の反論(1) 取消事由1(特許法36条6項2号明確性の判断の誤り)に対し原告の主張は,以下のとおり失当である。
ア 「部分的にラップするように形成」の明確性について特許請求の範囲の請求項1には,「上記金層が上記パラジウム層を形成するパラジウムストライク表面を部分的にラップするように形成されている」と記載されているが,「部分的にラップ」は,通常の技術用語ではなく,また,本件明細書にも「部分的にラップ」に関する定義は存在しない。願書(甲3)には,【図5】が添付されているが,同図は,金ラップめっきがパラジウムストライクめっきを部分的にラップするように形成されている状態を模式的に示したものにすぎないのであって(原告もその点を認めている。甲5,4頁参照),パラジウムストライクめっきの表面が現実にどのように形成されれば「部分的にラップするように形成され」るのかを理解することはできない。以上のとおり,「部分的にラップするように形成」という発明特定事項明確性を欠くとした審決の判断に誤りはない。
イ 「金ラップめっき」の明確性について特許請求の範囲の請求項1には,「金ラップめっき」が「金色を発色しないように形成されたもの」であることの記載はなく(甲6),本件明細書中にも,そのような記載はない(甲3)。また,「金色を発色しないように形成されたもの」について,本件明細書又は本件補正後明細書には,金ラップめっきが金色を発色しているかどうかを判定するための方法は記載されていない(甲3,6)。さらに,「パラジウムストライク表面」上に金のめっき層を形成する過程においては,「パラジウムストライク表面」の下地の上に徐々に金層が形成されていくにしたがって,表面の色が徐々に金色に変化することにかんがみると,金色を発色したか否かを判定する客観的な基準を示すことなく表面が金色に発色したか否かを判定することはできない。
そして,本願発明1の「部分的にラップするように形成された金層」は,その厚さが「0.003μm以上0.01μm未満の範囲」であることからすると,仮に,原告の主張するように,「パラジウムストライクめっきの核の表面を部分的に覆い金色を発色しないように形成された」ものが「金ラップめっき」に当たるとしても,その厚さを確定できる程度以上に金層が形成されていなければならないが,例えば,願書に添付した【図5】の原理図に示されるような程度の割合,密度でしか金層が形成されていないのでは,通常の意味での厚さを確定することは困難である。
(2)取消事由2(特許法36条4項1号実施可能要件の判断の誤り)に対し原告の主張は,以下のとおり,失当である。
すなわち,原告主張の「通常市販されている濃度より薄い濃度に調合された金液」が,どの程度の濃度のものであるのかについて,本件明細書又は本件補正後明細書中に具体的な記載はないし(甲3,6),出願時の技術常識に照らしても,どの程度の濃度のものを意味するのかを理解することは困難である。また,前記のとおり単に所定の厚さに金めっき層を形成するのみでは,「金ラップめっきがパラジウムストライクめっきを部分的にラップされるように形成されている状態」を達成することはできず,このような状態を達成するためには,製造条件の設定ないし制御が必要不可欠である。本件明細書又は本件補正後明細書には,具体的な設定条件や制御方法についての記載はないから(甲3,6),上記の特殊な製造条件及びその制御方法を確定するためには相当回数以上の試行錯誤が必要となる。
よって,本件補正後明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者が本願発明1を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものであるとはいえない。
なお,請求項1の「部分的にラップするように形成されている」の記載が不明確であることからも,発明の詳細な説明の記載は,当業者が本願発明1を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものであるとはいえない。
(3) 取消事由3(特許法29条2項容易想到性の判断の誤り)に対しア相違点の看過について(ア)本願発明1における「パラジウム層」又は「パラジウム層を形成するパラジウムストライク表面」について本願発明1の「パラジウムストライク」又は「ストライク」との用語に関して,本件明細書又は本件補正後明細書には,その定義をした記載がない(甲3,6)。また,本件明細書又は本件補正後明細書には,本願発明1の「パラジウム層」又は「パラジウム層を形成するパラジウムストライク表面」の具体的な態様が記載されているが,本願発明1の「ストライクめっき」又は「ストライク」との用語を,このような具体的な態様のもの又は製造方法によるものに限定して解釈すべき理由もない。むしろ,「ストライクめっき」又は「ストライク」との用語の定義としては,「密着力の弱いめっき素材に対してめっき層をより強く密着させるために行う一種の下地めっき」(甲9,24頁)又は「後工程で行われる皮膜の析出を促進するための電着金属の薄膜」(乙1,番号4033)というように,具体的なめっき層の材料,構造及び製造方法を特定することなく一般的に定義をすることが,本願出願時における技術常識であったといえる。そうすると,本願発明1の「パラジウム層」又は「パラジウム層を形成するパラジウムストライク表面」とは,その厚さが「0.007μm以上0.1μm未満の範囲」でかつ金層の厚さよりも小さく,「密着力の弱いめっき素材に対してめっき層をより強く密着させる」か,又は「後工程で行われる皮膜の析出を促進する」ように作用するものをいうと解すべきである。
(イ) 引用発明における「Pd層」について引用例1(甲1の段落【0008】,【0010】〜【0012】,【0014】),特開平10-237691号公報(乙2の段落【0035】〜【0038】)及び特開平9-266280号公報(乙3の段落【0014】,【0016】)の各記載を総合すると,引用例1に従来例2として記載された発明における「Pd層」は,1.0μmの厚さのNiめっき層上に電気めっき法によって形成され,かつ半導体チップの接合性,ワイヤボンディング性,はんだ付け性を確保する等の観点から,その厚さを0.05μmとしたものであり,乙2及び乙3の各記載を勘案すると,引用例1記載の「1.0μmの厚さのNiめっき層」は,気孔が存在することにより表面が粗面化しており,その上に電気めっき法により形成された厚さ0.05μmのPd層は,乙2及び乙3記載のパラジウムメッキ層又はPdストライクめっき層と同様,その下地のNiめっき層表面の気孔を詰めて表面粗度を均一化することによりその上に形成されるAu層の厚さを均一に保つように作用するものであるのみならず,上記Niめっき層と上記Au層との結合力を高めるように作用するものであるといえる。
これに対して,原告は,甲12の写真を根拠として,甲12のPdめっき層は,ニッケルメッキ層の表面粗度を均一化して最外郭めっき層の厚さを均一に維持するという乙2のパラジウムめっき層の作用を奏するものでないことは明らかであると主張する。しかし,同写真は,Niめっき層表面が粗面化しているか否か又は該Niめっき層上のPdめっき層が上記Niめっき層表面の表面粗度を均一化しているか否かを明確に判別し得るほど鮮明なものではないから,同写真を原告の上記主張の根拠とすることはできない。
また,仮に,甲12の上記写真からNiめっき層表面が粗面化しているか否か又は該Niめっき層上のPdめっき層が上記Niめっき層表面の表面粗度を均一化しているか否かの判別が可能であったとしても,当該写真からは,せいぜいそのニッケルメッキないしNiめっき層の膜厚が「平均0.81μm以上」であるといえるのみであって,引用例1(甲1)に従来例2として記載された発明における「1.0μmの厚さのNiめっき層」や,乙2記載の「0.01乃至10μmの厚さのニッケルメッキ層」と膜厚の点で一致するとまではいえないから,甲12に基づく原告の主張は,失当である。
(ウ) 本願発明1の「パラジウム層」と引用発明の「Pd層」との対比以上を前提として,本願発明1の「パラジウム層」と引用発明の「Pd層」とを対比すると,引用発明の「Pd層」は,厚さが0.05μmで,その上に形成されるAu層の厚さ(0.003μm)よりも厚く形成されたものであるから,本願発明1の「厚さが,0.007μm以上0.1μm未満の範囲,かつ金層の厚さ<パラジウム層の厚さの関係を有する」ような「パラジウム層」と膜厚の点で一致する。
また,引用発明の「Pd層」は,下地のNiめっき層表面の気孔を詰めて表面粗度を均一化するものであるのみならず,上記Niめっき層とAu層との結合力を高めるように作用するものであるところ,このようにNiめっき層とAu層との結合力が高まれば,該Niめっき層とAu層との密着性が高まることは自明であり,さらに,このことは,上記Pd層を形成することによる表面粗度の均一化と相まって,その後工程で行われる皮膜,すなわちAu層の析出を促進するように作用することも明らかである。したがって,作用の点においても,引用発明の「Pd層」と本願発明1の「パラジウム層」とは一致する。
以上のとおり,本願発明1の「パラジウム層」と引用発明の「Pd層」とは,膜厚の点においても,作用の点においても,一致するから,実質的には同一のものである。
また,引用発明の「Pd層」は,本願発明1の「パラジウム層」と実質的に同じものであり,当該パラジウム層上に形成されるめっき層との密着性においても特段異なるものではないので,本願発明1の効果を引用例1及び2の記載から予測されるものであって,格別顕著なものとはいえない。
イ 本願発明1の容易想到性について本願発明1の「パラジウム層」と引用発明の「Pd層」とは実質的に同一のものであるし,本願発明1の効果も引用例1及び2の記載から予測されるものであって,顕著なものではないため,引用発明及び引用例2に基づいて当業者が容易に本願発明1に想到し得たから特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした審決の判断に,誤りはない。
当裁判所の判断
当裁判所は,本願発明1の金層が「部分的にラップするように形成されていること」という発明特定事項明確性を欠くとした審決の判断に誤りはなく,また,明細書の発明の詳細な説明において,当業者が本願発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていると認めることはできないとした判断にも誤りはないと解する。
その理由は,以下のとおりである。
1 取消事由1(特許法36条6項2号明確性の判断の誤り)について(1)本願発明1の特許請求の範囲の「上記金層が上記パラジウム層を形成するパラジウムストライク表面を部分的にラップするように形成されている」中の「部分的にラップ」との記載は,通常の技術用語ではなく,本件補正後明細書中の発明の詳細な説明の記載(甲6)及び図面の記載によっても,その意義を明確に示した部分はない。
この点,原告は,?@本願発明の実施の形態1による電子部品ないしコネクタ用接続端子の表面処理を示す原理図である【図5】(甲3,7頁)について,「図5では,金ラップめっき4は,パラジウムストライクめっき3の表面を部分的にラップするように形成されている。」(甲6の段落【0011】)との記載,?A「金ラップめっき4」について,「金ラップめっき4が,0.003〜0.01μm未満の厚さに形成され,金ラップめっき4の厚さ<パラジウムストライクめっき3の厚さの関係にあると,図5に示されるように,パラジウムストライクめっき3の核を覆うようになる。この状態では,はんだぬれ性のよい表面処理が得られる。また,金ラップめっき4の上述の厚さでは,金色を発色しない。」(甲6の段落【0013】)との記載から,「金ラップめっきとは,厚さが0.003〜0.02μmで,かつパラジウムストライクめっき層より薄く形成され,金めっきがパラジウムストライクめっきの核を部分的に覆い金色を発色しないように形成された金めっきである」と主張する。
しかし,原告の上記主張は採用することができない。
すなわち,まず,上記【図5】は,原告自ら,平成19年5月23日付け手続補正書(方式)において,金ラップめっきがパラジウムストライクめっきを部分的にラップするように形成されている状態を模式的に示したものと説明している(甲5,4頁)とおり,模式図にすぎないから,同図によって,パラジウムストライクめっきがどのように覆われていた場合に「部分的にラップするように形成されている」と解すべきかを判断することはできない。
また,本願発明1の「部分的にラップするように形成され」ている金層は,その厚さが「0.003μm以上0.01μm未満の範囲」であるとされていることからすると,金層の厚さが基準であると解する余地もあるが,前記平成19年5月23日付け手続補正書(方式)において,原告自ら「上記の記述は部分的なラップが所定の金層の厚さによって必然的に達成されることを示したものではなく,・・・・」と説明していることに照らすならば(甲5,4頁),金層の厚さにより,「部分的にラップするように形成されている」ことの基準とすることもできない。
さらに,仮に原告が主張するように,パラジウムストライクめっきの核の表面を部分的に覆い「金色を発色しないように形成された」ことを基準とするとしたとしても,「パラジウムストライク表面」上に金のめっき層を形成する過程においては,金色でない「パラジウムストライク表面」の下地の上に層が形成されていくことによって,その表面の色が徐々に金色に変化するであろう点にかんがみると,金色を発色したか否かにより,「部分的にラップするように形成されている」ことの基準とすることもできない。
なお,原告は,前記の各主張を裏付けるものとして,実験報告書(甲10)を提出するが,「金ラップめっき」又は「Auラップめっき」が「金色を発色しないように形成された」もの,すなわち原告主張の本願発明1の金ラップめっきであるのかどうかも画像からは不明であり,同実験報告書(甲10)をもって,本願発明1の「金ラップめっき」の意味が明確にされているとすることはできない。
(2)以上のとおり,本願発明1の金層が「部分的にラップするように形成されていること」という発明特定事項について明確性を欠くとした審決の判断に誤りはない。
2取消事由2(特許法36条4項1号実施可能要件の判断の誤り)について(1) 本件補正後明細書の記載ア 本件補正後明細書(甲6)には,次の記載がある。
「【発明が解決しようとする課題】【0005】・・・接続端子,金属筐体などのはんだ付けされる電子部品は,鉛フリーで,しかもウイスカの発生がなく,はんだぬれ性がよく,耐腐食性がよく,さらに金使用量が少なく,めっき生産性の良いものが望まれる。・・・【0006】この発明は,上述のような課題を解決するためになされたものであり,鉛及びすずを含まず,ウィスカの発生が無く,かつはんだぬれ性のよい金属による安価な信頼性のよいコネクタ用接続端子及びその表面処理方法を得ることを目的にしている。」「【発明の効果】【0008】この発明は,以上説明したように,はんだ付けされるコネクタ用接続端子の金属母材を,順次,ニッケルめっき,パラジウムストライクめっき,金ラップめっきにより表面処理するので,鉛フリーで,ウィスカの発生が無く,かつはんだぬれ性がよく,金使用量を少なくして経済的なコネクタ用接続端子が得られる効果がある。」「【発明を実施するための最良の形態】【0009】実施の形態1.図1は,この発明の実施の形態1によるコネクタ用接続端子の表面処理を示す説明図である。
図1において,銅合金などからなる母材1上に,順次,ニッケルめっき2(ニッケル層),パラジウムストライクめっき3(パラジウム層),金ラップめっき4(金層)が3層に形成されている。」「【0011】図5は,この発明の実施の形態1によるコネクタ用接続端子の表面処理を示す原理図である。
図5において,1以上4は,図1におけるものと同一のものである。図5では,金ラップめっき4は,パラジウムストライクめっき3の表面を部分的にラップするように形成されている。・・・【0012】次に,実施の形態1によるコネクタ用接続端子の表面処理について説明する。
図1のニッケルめっき2は,母材配線を被覆するために1以上3μmの厚さに形成される。パラジウムストライクめっき3は,ニッケルめっき2上にあって,核を形成するように,0.007以上0.1μm未満の厚さに形成される。ストライク被覆が0.007μmより薄ければ,密着性が劣ると共に,0.1μm未満より厚すぎても同様に密着性が悪くなる。このため,密着性が確保される厚さの範囲である0.007以上0.1μm未満に形成される。
【0013】次いで,金ラップめっき4が,0.003μm以上0.01μm未満の厚さに形成され,金ラップめっき4の厚さ<パラジウムストライクめっき3の厚さの関係にあると,図5に示されるように,パラジウムストライクめっき3の核を覆うようになる。この状態では,はんだぬれ性のよい表面処理が得られる。また,金ラップめっき4の上述の厚さでは,金色を発色しない。
金ラップめっき4は,パラジウムストライクめっき3表面の保護(酸化などによる劣化に対する)を行うものである。このため,金ラップめっき4の厚さは,パラジウムストライクめっき3の核を覆うように,0.003μm以上にする必要がある。一方,はんだ付けを行う場合には,まず,最初にこの保護部分の金ラップめっき4が,はんだ中に拡散していき,清浄なパラジウム表面が顕われてはんだ付けされる。このとき,金ラップめっき4のめっき厚が,厚くなり金色が出る厚さ(約0.03μm以上)になると,金の拡散量が多くなり,最近のファインピッチ製品のはんだ付け時などには,はんだ中の金濃度が濃くなり,はんだ強度が低下する。したがって,金ラップめっき4の厚さを,金色を発色しない0.02μm以下に形成する必要がある。すなわち,金ラップめっき4の厚さを,0.003μm以上0.01μm未満の範囲に形成すれば,パラジウムストライクめっき3の核を覆うと共に,はんだ付け時のはんだ強度の低下も見られない。さらに,この金めっき厚さでは,金の消費量も少なく,また,めっき生産性もよく,経済的である。」「【0017】次に上述したコネクタ用接続端子の表面処理方法について具体的に説明する。
上述したように,厚さ1〜3μmのニッケルめっき2,厚さ0.007μm以上0.1μm未満のパラジウムストライクめっき3(パラジウムストライク),及び厚さ0.003μm以上0.01μm未満の金ラップめっき4(金めっき)を形成し,かつ金ラップめっき4の厚さ<パラジウムストライクめっき3の厚さの関係になるようにすれば,はんだぬれ性の良好な表面処理を行うことができる。この3層の形成は,次のようにして行われる。
まず,厚さ1以上3μmのニッケルめっき2が形成された母材1を,通常市販されている濃度より薄い濃度に調合されたパラジウム液に漬し,電流密度1乃至10A/dm の条件で,パラジウム電解めっきを行い,厚2さ0.007μm以上0.1μm未満のパラジウムストライクめっき3を形成する。
【0018】次いで,このパラジウムストライクめっき3された母材1を,通常市販されている濃度より薄い濃度に調合された金液に漬し,電流密度0.05乃至0.1A/dm の条件で,金電解めっきを行い,厚さ20.003μm以上0.01μm未満の金ラップめっき4を形成する。
このパラジウムストライクめっき3及び金ラップめっき4は,パラジウム液の収容されたパラジウム槽及び金液の収容された金槽を含むめっきラインを,順次,コネクタ用接続端子を一定速度で連続して移動させることによって,形成することができる。
パラジウム,金の液濃度及び電流密度により,それぞれ析出速度が変化するので,パラジウム,金の液濃度は,使用しているめっきライン(装置)性能に応じて設定される。」イ 本願発明1の内容上記記載によれば,本願発明1は,はんだ付けされるコネクタ用接続端子の表面について,所定の条件で形成された「金層が上記パラジウム層を形成するパラジウムストライク表面を部分的にラップするように形成されていること」により,鉛フリーで,ウイスカ(メッキ皮膜表面に発生するヒゲ状の金属結晶)の発生がなく,かつはんだぬれ性がよく,金使用量を少なくして経済的なコネクタ用接続端子を提供するといった課題解決を図ろうとするものであると認められる。
(2) 判断そこで,出願時の技術常識に照らして,本件補正後明細書に,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているかについて,以下検討する。
本件補正後明細書の段落【0017】及び【0018】の記載並びに甲10を総合すれば,本願発明1所定のめっきを形成するための製造条件として,めっき液の濃度,電流密度,液温の全部又は一部の組合せによる特定が不可欠であると解される。
しかるに,本件補正後明細書全体をみても,「金層が上記パラジウム層を形成するパラジウムストライク表面を部分的にラップするように形成」するための条件としては,電流密度及び金液の濃度についての記載がうかがえるにとどまる。そして,電流密度については,「電流密度0.05乃至0.1A/dm 」(段落【0018】)と記載されており,製造条件の一つが記2載されている。しかし,金液の濃度については,「通常市販されている濃度より薄い濃度に調合された金液に漬(す)」(段落【0018】)と記載がされているにすぎず,「通常市販されている濃度」がどの程度の濃度の範囲を指すかは,出願時の技術常識を踏まえても,当業者が理解できる程度に明確かつ十分に記載されているということはできない。また,その他の製造条件の記載はない。
(3)これに対し,原告は,実験報告書(甲10)を提出し,本件明細書の記載により,発明の実施は可能である旨主張する。
ア 甲10の実験は,次のようなものである。
「2.実験方法-1 【0017】【0018】の方法でめっきを形成する。
A(対象検体)めっき液濃度及びめっき条件パラジウムめっき液濃度 塩化Pdアンモニウム2.0g/□2電流密度 1.0A/dm液温 50℃パラジウムストライク厚 0.01μm金めっき液濃度 シアン化金カリウム 1.0g/□2電流密度 0.05A/dm液温 55℃金ラップめっき厚 0.003μm-2 引用例1の方法でめっきを形成する。
B(比較検体)めっき液濃度及びめっき条件パラジウムめっき液濃度 塩化Pdアンモニウム5.0g/□2電流密度 0.5A/dm液温 室温(25℃)パラジウムめっき厚0.05μm金めっき液濃度 シアン化金カリウム 2.0g/□2電流密度 0.05A/dm液温 室温(25℃)金フラッシュめっき厚 0.003μm」イ原告は,上記実験結果により,本件明細書の段落【0017】及び【0018】に基づいた製造条件の下で行ったA(対象検体)では,緑矢印で示す様に島状に粒を成し,表面に付着しており「金ラップめっき」を形成したのに対して,B(比較検体)では,青矢印で示す様に大きな固まりを成し全表面に均一に付着し「金フラッシュめっき」を形成したことが示された旨主張する。
しかし,本件補正後明細書全体をみても,本件補正後明細書にはパラジウムめっき液濃度及び金めっき液濃度について「通常市販されている濃度より薄い濃度に調合された」との記載があるのみで,それが「2.0g/□の濃度の塩化Pdアンモニウム」や「1.0g/□の濃度のシアン化金カリウム」であることの記載,開示はなく,液温についての記載もない。
以上のとおり,甲10記載の対象検体Aのめっき方法は,本件補正後明細書の段落【0017】及び【0018】に記載されているか,または記載されているに等しい方法であるとはいえず,本件補正後明細書の発明の詳細な説明において,当業者が本願発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていることを根拠づけるものと認めることは到底できない。
3 結 論以上によれば,本願発明1の特許請求の範囲の記載は特許法36条6項2号に規定する要件を満たしておらず,本件補正後明細書の発明の詳細な説明の記載は同条4項1号に規定する要件を満たしていないから,これと同旨の審決の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由1及び2は理由がないから,その余の原告の主張について判断するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである(なお,特許法36条6項2号及び同条4項1号の要件充足性については,本件補正後明細書の記載に基づいて判断すべきところ,審決は,「本件特許出願の出願当初の明細書(以下,本件明細書という)の記載を参酌して解釈すべきことになる」(審決書2頁19行目,20行目)としている点に誤りがあるが,審決の実質的な判断内容及び前記説示によれば,その誤りは審決の結論に影響を及ぼすものではない。)。
よって,原告の本件審決取消請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 齊木教朗
裁判官 嶋末和秀
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