関連審決 |
無効2006-80128
訂正2007-390054 訂正2007-390140 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成23行ケ10186審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成19ワ35324特許権侵害差止請求事件 | 判例 | 特許 |
平成17ワ2649特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成20行ケ10151審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成19行ケ10300審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 公然実施(29条1項2号) / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 発明特定事項 / 技術常識 / 発明の詳細な説明 / 警告 / 参酌 / 技術的意義 / 容易に想到(容易想到性) / 特許発明 / 実施 / 設定登録 / 拒絶理由通知 / 訂正審判 / 誤記の訂正 / 請求の範囲 / 減縮 / 変更 / 釈明 / 独立特許要件 / 訂正明細書 / |
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事件 |
平成
19年
(行ケ)
10414号
審決取消請求事件
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原告X 被告伊 藤超短波株式会社 訴訟代理人弁理 士牛久健司 同 井上正 同 高城貞晶 訴訟代理人弁護 士原口健 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2008/07/23 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1原告の請求を棄却する。 2訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求特許庁が無効2006-80128号事件について平成19年11月13日にした審決を取り消す。 第2事案の概要本件は,原告が有する,発明の名称を「低周波治療器」とする後記特許の請求項1及び2(本件特許発明1,2)について,被告が無効審判請求をしたところ,特許庁がこれを無効とする旨の審決をしたことから,特許権者である原告がその取消しを求めた事案である。 争点は,後記訂正請求の適否,本件特許発明1及び2がその出願当時公然実施されていた被告製造の「低周波治療器 Trio300」に係る発明との関係で進歩性(特許法29条2項)を有するか等,である。 なお,原被告の本件特許に関する訴訟としては,既に東京地裁平成16年(ワ)第4339号損害賠償請求事件(原告x・被告伊藤超短波株式会社,平成17年6月17日判決言渡〔請求棄却 )及びその控訴審である知財高裁平 〕成17年(ネ)第10096号損害賠償請求控訴事件(控訴人x・被控訴人伊, 〔〕), 藤超短波株式会社 平成17年10月26日判決言渡 控訴棄却があるがそのほか原告が本訴提起後の平成19年12月16日にした訂正審判請求(訂正2007-390140号)に関し特許庁が平成20年4月16日にした審決(請求不成立)の取消訴訟(知財高裁平成20年(行ケ)第10173号審決取消請求事件)が当庁に係属中である。 第3当事者の主張1 請求の原因(1) 特許庁等における手続の経緯ア原告は,平成10年1月14日,名称を「低周波治療器」とする発明について特許出願(特願平10-37878号)をし,平成15年7月4日に特許第3446095号として設定登録を受けた(請求項の数2,以下「本件特許」という。特許公報は甲2 。)イこれに対し被告から,平成18年7月13日,本件特許の請求項1及び2に係る発明について特許無効審判請求がなされ,同請求は無効2006,,, -80128号事件として審理されたが 特許庁は 平成19年3月5日本件特許の請求項1,2に係る発明についての特許を無効とする旨の審決をし,その謄本は平成19年3月14日原告に送達された。 ウそこで原告は,平成19年4月9日,知的財産高等裁判所に対し上記審(()), 決の取消しを求める訴えを提起し 平成19年 行ケ 第10124号その後の平成19年5月7日,特許庁に対し訂正審判請求(訂正2007-390054号)したところ,同裁判所は,平成19年5月30日,特許法181条2項により上記審決を取り消す旨の決定をした。 エ上記決定により前記無効2006-80128号事件は再び特許庁で審理されることとなり,原告は,平成19年6月13日に訂正請求書(甲29)を,平成19年9月17日に訂正の手続補正書(甲30)をそれぞれ提出したが,特許庁は,平成19年11月13日,上記補正は許可せず訂正は認めないとした上 「特許第3446095号の請求項1,2に係る ,発明についての特許を無効とする」旨の審決をし,その謄本は平成19年11月22日原告に送達された。 オなお原告は,本訴係属中である平成19年12月16日に再び訂正審判請求(訂正2007-390140号)をしたが,特許庁は,平成20年4月16日 「本件審判の請求は,成り立たない 」との審決をし,これに , 。 対し原告は同審決の取消しを求める訴え(知財高裁平成20年(行ケ)第10173号審決取消請求事件)を提起し,現に係属中である。 (2) 発明等の内容ア 登録時(平成15年7月4日)の発明の内容本件特許の特許請求の範囲は,請求項1及び2から成るが,そこに記載された発明(以下,順次「本件特許発明1」及び「本件特許発明2」とい,「」。) ,。 い これらを総称して 本件特許発明 というは 次のとおりである「 請求項1】プログラム制御のためのMPUと,パルストランスから 【刺激パルスを発生する手段,および前記刺激パルスの様態を表示する手段を備えた低周波治療器において,前記刺激パルスは前記パルストランスのセンタータップに所定の設定電圧を印加した上で,一次巻線の両端を交互に駆動することによる二次側の誘起電圧によって発生し,前記刺激パルスの出力電流値を数値表示するためのLCDと,前記出力電流値を手入力するためのプッシュボタンと,を備え,また前記MPUが前記パルストランスの駆動電圧を数値で設定するためのD/A変換器および前記MPUが前記パルストランスの駆動電流を数値で読み込むためのA/D変換器を有し,また前記パルストランス一次側回路に電流検出抵抗を設置し,前記抵抗の両端電圧を増幅器を介して前記A/D変換器の入力信号とすることで,前記パルストランスの一次電流値を得る,また設定電流は前記プッシュボタンによって増加又は減少して設定され,前記D/A変換器から前記パルストランスに前記設定電圧(V)として出力する,一方,前記MPUの記憶装置には,前記駆動電圧の数値と前記一次電流値(I1)および既に記憶されている前記パルストランスの特性値テーブルが有り,前記特性値テーブルには前記設定電圧(V)毎の数値を有し,当該数値には,下記式(1)を使用する場合は無負荷励磁電流(IO)と短絡電流(1次電流I1S,2次電流I2S)を含み,また下記式(2)を使用する場合は定数(α)と無負荷励磁電流(IO)を含み,MPUのプログラムは前記設定電圧(V)を設定する毎に,駆動電圧と一次電流から前記特性値テーブルを参照して,前記低周波治療器の出力電流となる前記パルストランスの二次電流の波高値(I2)を下記式(1)または式(2)を用いて計算し,その数値を前記LCDに表示することで,前記刺激パルスの出力電流値を正確に把握することを特徴とする低周波治療器。 式(1) I2=I2S/(I1S-IO)×(I1-IO)式(2) I2=α(I1-IO ,ただしα=定数」 )「 請求項2】前記パルストランスの二次回路に,整流・平滑回路およ 【び出力制御回路を設け,前記整流・平滑回路には整流用ダイオードと正負の電圧を貯えるための平滑コンデンサを有し,また前記出力制御回路には前記MPUからの出力信号で駆動されるリレーとホトカプラを有し,前記MPUは,前記リレーによって出力モードを切り替え,また前記平滑回路の出力を前記ホトカプラで制御して,プラス波形およびマイナス波形からなる出力波形を人体に供給することで,前記刺激パルスの出力を一次側とは絶縁された状態で制御することを特徴とする請求項1に記載の低周波治療器 」。 イ 平成19年6月13日付け訂正請求の内容上記内容は訂正事項1〜4から成り,訂正事項1,2は請求項1に関するもの,訂正事項3,4は明細書〔0004〕及び〔0010〕の訂正であるが,訂正後の請求項1は次のとおりである(下線が順次訂正事項1,2。以下「本件訂正」という 。。)「 請求項1】プログラム制御のためのMPUと,パルストランスから 【刺激パルスを発生する手段,および前記刺激パルスの様態を表示する手段を備えた低周波治療器において,前記刺激パルスは前記パルストランスのセンタータップに所定の設定電圧を印加した上で,一次巻線の両端を交互に駆動することによる二次側の誘起電圧によって発生し,前記刺激パルスの出力電流値を数値表示するためのLCDと,前記出力電流値を手入力するためのプッシュボタンと,を備え,また前記MPUが前記パルストランスの駆動電圧を数値で設定するためのD/A変換器および前記MPUが前記パルストランスの駆動電流を数値で読み込むためのA/D変換器を有し,また前記パルストランス一次側回路に電流検出抵抗を設置し,前記抵抗の両端電圧を増幅器を介して前記A/D変換器の入力信号とし,前記設定電圧の周期に依らずパルスの立ち上がり時刻から常に一定時間(To)経過後に一次電流を前記入力信号から読み込むことで,前記パルストランスの一次電流値を得る,また設定電流は前記プッシュボタンによって増加又は減少して設定され,前記D/A変換器から前記パルストランスに前記設定電圧(V)として出力する,一方,前, () 記MPUの記憶装置には 前記駆動電圧の数値と前記一次電流値 I1および既に記憶されている前記パルストランスの特性値テーブルが有り,前記特性値テーブルには前記設定電圧(V)毎の数値を有し,当該数値は無負荷励磁電流(Io)と定数(α)であり,前記無負荷励磁電流(Io)は前記パルストランスの無負荷時の一次電流であり,また,前記定数(α)は,事前試験を行い,前記無負荷励磁電流(Io)を求めた上で下記式からαを求めることで算出する計算値のことであり,MPUのプログラムは前記設定電圧(V)を設定する毎に,駆動電圧と一次電流から前記特性値テーブルを参照して,前記低周波治療器の出力電流となる前記パルストランスの二次電流の波高値(I2)を下記式を用いて計算し,その数値を前記LCDに表示することで,前記刺激パルスの出力電流値を正確に把握することを特徴とする低周波治療器。 I2=α(I1-IO ,ただしα=定数」 )(。「」 ウ 平成19年9月17日付け手続補正 訂正請求の補正 以下 本件補正という )の内容。 上記補正は,前記イの訂正に係る請求項1をさらに次のように補正するものである(二重下線が該当部分 。)「 請求項1】プログラム制御のためのMPUと,パルストランスから 【刺激パルスを発生する手段,および前記刺激パルスの様態を表示する手段を備えた低周波治療器において,前記刺激パルスは前記パルストランスのセンタータップに所定の設定電圧を印加した上で,一次巻線の両端を交互に駆動することによる二次側の誘起電圧によって発生し,前記刺激パルスの出力電流値を数値表示するためのLCDと,前記出力電流値を手入力するためのプッシュボタンと,を備え,また前記MPUが前記パルストランスの駆動電圧を数値で設定するためのD/A変換器および前記MPUが前記パルストランスの駆動電流を数値で読み込むためのA/D変換器を有し,また前記パルストランス一次側回路に電流検出抵抗を設置し,前記抵抗の両端電圧を増幅器を介して前記A/D変換器の入力信号とし,前記一次巻線の駆動信号のパルスの立ち上がり時刻から一定時間(To)経過後に一次電流を前記入力信号から読み込むことで,前記パルストランスの一次電流値を得る,また設定電流は前記プッシュボタンによって増加又は減少して設定され,前記D/A変換器から前記パルストランスに前記設定電圧(V)として出力する,一方,前記MPUの記憶装置には,前記駆動電圧の数値と前記一次電流値(I1)および既に記憶されている前記パルストランスの特性値テーブルが有り,前記特性値テーブルには前記設定電圧(V)毎の数値を有し,当該数値は無負荷励磁電流(Io)と定数(α)であり,前記無負荷励磁電流(Io)は前記パルストランスの無負荷時の一次電流であり,また,前記定数(α)は,事前試験を行い,前記無負荷励磁電流(Io)を求めた上で下記式からαを求めることで算出する計算値のことであり,MPUのプログラムは前記設定電圧(V)を設定する毎に,駆動電圧と一次電流から前記特性値テーブルを参照して,前記低周波治療器の出力電流となる前記パルストランスの二次電流の波高値(I2)を下記式を用いて計算し,その数値を前記LCDに表示することで,前記刺激パルスの出力電流値を正確に把握することを特徴とする低周波治療器。 I2=α(I1-IO ,ただしα=定数」 )(3) 審決の内容ア 審決の詳細は,別添審決写しのとおりである。 その理由の要点は,?@本件補正は訂正事項の内容を実質的に変更するものであるから許可することはできない,?A訂正事項は願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえないから,本件訂正は許されない,?B本件特許発明は本件特許の出願前に公然実施された「低周波治療器 Trio300 (以下「Trio300」という )に 」。 係る発明に基づいて容易に発明をすることができたから特許法29条2項により特許を受けることができない,というものである。 イなお審決は,Trio300 に係る発明の内容,本件特許発明1及び2とTrio300 に係る発明との一致点と相違点を,別添審決写しのとおり認定した。 (4)審決の取消事由しかしながら,審決には以下の誤りがあるから,違法として取り消されるべきである。 ア 取消事由1(本件訂正を認めなかった誤り)審決は,本件特許発明の訂正を認めず,本件特許発明を訂正以前の発明特定事項のみで事実認定しているため,違法である。 本件特許発明に追加されるべき発明特定事項は1次変換式I =α I ,「(2-I )右辺の1次電流値(I )の取得条件が,?@前記一次巻線の駆動 1O 1信号のパルスの出力後一定時間(To)経過後一次電流を前記MPUの読み込みタイミングで前記入力信号から読み込むことであり,また,1次変換式のパラメータの算出方法は,?A前記無負荷励磁電流(I )は,前記Oパルストランスの無負荷時の一次電流であり,さらに,?B前記定数(α)は,事前試験を行い,前記無負荷励磁電流(I )を求めた上で下記式[O注:上記1次変換式]からαを求めることで算出する計算値のことであり 」であるが,審決は,これら3つの発明特定事項?@,?A,?B(以下, ,順次「本件発明特定事項?@」〜「本件発明特定事項?B」という )をすべ 。 て見逃している。 原告は,本訴提起後,前記のとおり,平成19年12月16日付けで訂正審判請求をしたところ,これに対する訂正審判(訂正2007-390140)に係る訂正拒絶理由通知書(甲20)において,特許庁の審判官は本件特許発明の訂正を認めており,残りの審理は独立特許要件における進歩性の判断のみとなっている。つまり,本件の審決に記載された本件特許発明は,訂正発明としてその要旨が変更されているので,審決は違法である。 イ取消事由2(Trio300 に係る発明についての認定の誤りないし相違点の看過)審決は,Trio300 に係る発明には本件発明特定事項?@,?A,?Bに関して全く記載,図示,教示又は示唆がされていないことを看過している。 また,審決は,本件発明特定事項?@について 「MPUの読み込みタイ ,ミング」は集積回路上の技術的な制約から誰も観察できないことを事実として認定していない。 ウ 取消事由3(相違点についての判断の誤り)(ア)審決は 「ここで,出力トランスの一次電流に無負荷励磁電流に相当 ,するオフセットがあること,オフセットを除いた一次電流値と二次電流値が比例関係にあることは技術常識である(17頁8行〜10行)と 。」するが,本件特許発明の技術分野はパルストランスの1次2次間の波形の伝送であるのに対し,審決記載の「技術常識」を基礎付ける文献(飯「」 , 高成男ほか 絵とき電気機器 昭和61年2月・株式会社オーム社発行以下「本件引用文献」という。甲12)において前提とされたパルストランスは特性解析のための等価回路が異なる一般変圧器の専門分野であるから,当該「技術常識」を本件特許発明に組合せて対比することは特許庁の審査基準に反するし,仮に上記のような「技術常識」があったとしても,変圧器の比例定数は巻線比であり,本件特許発明の比例定数(α)の算出方法(本件発明特定事項?B参照)とは異なるものである。 また,上記比例定数(α)を算出する際の1次電流値(I )は,本1件発明特定事項?@に記載した算出方法と同じであり,読み込み時間の制約を受けるため,変圧器の巻線比の算出方法の場合とは明らかに異なっている。 したがって,審決の認定する上記「技術常識」は,トランスの周波数応答における解析結果のみに止まるのに対し,本件特許発明の課題はパルストランスの実時間での過渡応答であるため 本件特許発明に上記 技 ,「術常識」を参酌することは誤りである。 (イ)また審決は 「このことは,本件特許出願より相当以前に発行された ,甲第12号証において,負荷時の一次全電流I ,励磁電流Io,一次1負荷電流I ’の関係が『I =Io+I』で表されていること…から 1 1 1 ’も明らかである(17頁11行〜15行)とするが,審決のいう「甲 。」第12号証」すなわち本件引用文献の上記記載は,一般のトランスの静特性(定常状態)についてのみいえることであって,本件発明は,理論解析のための等価回路が変圧器とは違う,パルストランスの動特性(過渡状態)を課題にしたものであるから,それぞれの等価回路にキルヒホッフの第1法則を適用しても,パルストランスの場合は3つの見掛けのコンデンサがあるため上記関係式は成立しない。 (ウ)審決は 「本件特許発明1における『IO』すなわち『無負荷励磁電 ,流』は,一次巻線及び二次巻線の物理的特性が既定のものであれば,出力設定値に応じて一義的に定まるものであることは明白である (17」頁18行〜20行)とするが,無負荷励磁電流は「無負荷時の一次電流である (本件特許に係る明細書段落【0009 ,甲2)と明記されて 」 】, 。 いるのであるから 出力設定値が同じであっても一義的には定まらないなぜなら,一次電流である以上,無負荷励磁電流も一次巻線の駆動信号の開始からの時間に依存してその値が変化するからである。審決は,電磁誘導の法則で二次側に誘起電圧が発生する期間内の一次電流値は,時刻によってその値が変わるという事実を認めていないのである。 (エ)審決は「一次巻線及び二次巻線の物理的特性が同一である場合,設定電圧が与えられれば,一次電流値と二次電流値との対応関係は同一である(17頁下12行〜下10行)とする。しかし,そもそも,本件発 。」明の二次電流値は時間的な要素を含まない波高値つまりピーク値であるが,物理的特性が同じであっても電磁誘導現象である限り,そのピーク値を発生させるための1次電流値の変化量は時間とともに変わり,やがては消滅するものであるから,どの時刻の変化量を採用したかにより,その予測すべき波高値と一次電流値との対応関係は必ずしも同一にはならない。審決の上記摘示は,本件発明の技術原理をまったく理解しておらず,発明の構成として,単位時間当たりの変化量として一次電流値には時間的な要素が必ず必要であるという,発明が特定する事実を認めていない。 (オ)審決は 「P1/1000」及び「P2/10」を 「α(定数 」及 , ,)び「-αIO」のそれぞれと,数値的にみても同等の値とすることにより,本件特許発明1の相違点に係る構成とすることは,当業者が容易に。」(), 到達し得ることというべきである17頁下6行〜下3行 とするがそうであるとしても,本件発明が開示され得るわけではない。また直接に逆アセンブルされた数値を見ただけでは,それを背景とする技術思想が不明であり,またその数値の算出方法も全く不明であるから,この審決の論理付けは採用すべきものではない。 (カ)なお,特許庁は,平成20年4月16日,原告が平成19年12月16日になした訂正審判請求(訂正2007-390140号)に対し,同訂正に係る発明には無効事由があるとする旨の審決をしたが,同審決の摘示する無効事由についての判断には,阻害事由の存在を看過するなどの誤りがある。 2 請求原因に対する認否請求原因(1)ないし(3)の各事実はいずれも認めるが,同(4)は争う。 3 被告の反論審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。 (1) 取消事由1,2に対しア 本件補正につき原告は,平成19年9月17日付け手続補正書(本件補正)により,本件訂正による訂正事項を,訂正事項1について「前記設定電圧の周期に依らず」及び「常に」を削除し 「パルス」を「前記一次巻線の駆動信号の ,パルス」と補正することを求めた。 そもそも審判請求書の補正はその要旨を変更するものであってはならないとされている(特許法131条の2第1項 。これは特許無効審判にお )ける訂正の請求についてもあてはまる(特許法134条の2第5項 。)訂正請求書における請求の趣旨には訂正請求の目的そのものが記載されているから,請求の趣旨に記載の事項は正に訂正請求の要旨に当たる。本件訂正で訂正が求められた訂正事項1は 「特許請求の範囲の請求項1に ,『また前記パルストランス一次側回路に電流検出抵抗を設置し,前記抵抗の両端電圧を増幅器を介して前記A/D変換器の入力信号とすることで,前記パルストランスの一次電流値を得る 』とあるのを 『また前記パルス ,,トランス一次側回路に電流検出抵抗を設置し,前記抵抗の両端電圧を増幅器を介して前記A/D変換器の入力信号とし,前記設定電圧の周期に依らずパルスの立ち上がり時刻から常に一定時間(To)経過後に一次電流を前記入力信号から読み込むことで,前記パルストランスの一次電流値を得る 』と訂正する 」というものであるから,請求の趣旨の具体的内容を表 ,。 現したものであり,その同一性や範囲を変更することは要旨を変更するものとして許されない。 そして,訂正事項1において「前記設定電圧の周期に依らず ( 常に一 」「定時間(TO)経過後に」を修飾する)を削除するということは,前記設定電圧の周期によっては異なる場合もあり得ることを含むように訂正事項1を補正することを意味する。また 「常に」を削除することも,常には ,そうではない例外もあり得ることを含むように訂正事項1を補正することを意味する。さらに 「パルス」を「前記一次巻線の駆動信号のパルス」 ,に補正することは,何を指すのか不明な「パルス」という用語を「前記一次巻線の駆動信号のパルス」という特定のパルスを指すように訂正事項1を補正するものである。 このような補正は訂正事項1の内容を実質的に変更することに外ならず,訂正請求書の要旨を変更するものであるというべきものである。 したがって,本件補正を訂正請求書の要旨を変更するものとして許可しないと判断した審決に誤りはない。 イ 本件訂正につき上記のとおり,訂正事項1には 「設定電圧の周期に依らずパルスの立 ,ち上がり時刻から常に一定時間(To)経過後に」という表現が含まれている。 しかし,本件明細書および図面には 「周期に依らず」とか 「常に一定 ,,時間」とかという表現も説明も存在しない。わずかに,明細書(甲2)の段落【0010】に 「今後パルス幅が変化しても出力モードが変わらな ,い限り読み込み時間(To)は一定である 」との記載がみられるだけで 。 ある。しかし,この文章の反対解釈によると,出力モードが変われば読み込み時間(To)は一定とは限らないということになり 「常に一定時間 ,(To)経過後に」と矛盾することになる。すなわち明細書中の上の引用文は「常に一定時間(To)経過後に」の根拠にならないし,かえってそうではない場合もあることを示唆するものである。また,パルス幅が変化することと周期が変化することは必ずしも因果関係にはないから(パルス幅が変化しても周期が変化しない場合もあるし,周期が変化する場合もあり得る ,明細書中における上の引用文は「周期に依らず」の根拠にもな )らないのである。 図3に関して,段落【0010】に「パルスの出力後,一定時間(図3のTo)の経過後,一次電流を図3の53および54のタイミングで,図1の入力信号6から読み込む36 」なる記載があるが,図3及びこの記 。 載は,せいぜい前回と今回の設定電圧Vn,Vn-1に関してタイミングを示す符号として同じ数字53,54が使われていることが示されているにすぎず 「周期に依らず「常に一定時間(To 」ということまでも表 ,」,)わすものではない。かえって図3では,一定時間を示す符号Toは1箇所にしか記載されていないので,他の箇所については明示の記載はないといわざるを得ない。 次に パルスの立ち上がり時刻から についていうと 明細書にはパ 「 」,,「ルスの出力後 (段落【0010】の上記の引用文)という表現は記載さ 」れていても 「パルスの立ち上がり時刻から」という表現は記載されてい ,ない。図3には多くのパルスが図示され(上記「パルス」が図3に図示さ),, れたどのパルスを意味するのかも不明であるこれらのパルスにおいて一のパルスの立ち上がりと他のパルスの立ち下がりは同時刻に生起してい,「」,「()」 るように見えるので周期に依らず常に一定時間 To 経過後に一次電流を読み込む「読み込み時間(To 」の開始が,パルスの立ち下 )がりではなく立ち上がりであるとは必ずしもいうことはできず 「パルス ,の立ち上がり時刻」とは限らないことになる。すなわち,図3を参照しても,設定電圧の周期に依らず「パルスの立ち上がり時刻から」常に一定時間(To)経過後に一次電流を読み込むとは理解できないのである。 以上のようにして,訂正事項1において加入された文によって表わされる内容は,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものではないから,特許法134条の2第5項において準用する同法126条第3項の規定に適合しない。 さらに,本件特許発明1を規定する請求項1には,パルスという用語は「刺激パルス」しか存在しない。訂正事項1における「パルスの立ち上がり時刻から」における「パルス」が刺激パルスを指すのか,それとも図3に示される他のパルスを意味するのか(他のパルスを意味するとしたらどのパルスを指すのか)不明である。このため 「パルスの立ち上がり時刻 ,から常に一定時間(To)経過後に「一次電流を前記入力信号から読み 」,込む」技術的意義が不明である。 したがって,訂正事項1が特許請求の範囲の減縮を目的とするものということはできず,誤記の訂正や明りょうでない記載の釈明を目的とするものともいえず,訂正事項1は,特許法134条の2第1項ただし書き各号のいずれの事項を目的とするものにも該当しない。 したがって,本件訂正を認めなかった審決に誤りはない。 (2) 取消事由3に対しア以下のとおり,下記a,bの事実を前提とすれば,Trio300 に係る発明に基づいて本件特許発明1を容易に想到し得ることは明らかである。 記a.Trio300 に係る発明においては,パルストランスの一次電流を計測し,この検出した一次電流値Aiと,あらかじめ求めてメモリに記憶しておいたパラメータP1,P2とを用いて,2次電流を計測することなく,次式から二次電流Apを計算する。 …式?Bb. 出力トランスの一次電流には無負荷励磁電流に相当するオフセットがあること,無負荷励磁電流は一次電圧に応じて変化すること,及びオフセットを除いた一次電流値と二次電流値が比例関係にあることは周知の技術である。 イ以上の事実を前提として,低周波治療器における二次電流値算出ルーチンを設計しようとするコンピュータ技術者は,式?Bで表わされるパラメータP1,P2を用いる場合もあれば,式?Bを次の式?Eのように変形してパラメータP1,P3を用いる場合もあるであろう。 …式?E但しP3=P2/P1この式?Eは,本件特許発明1の式(2 ,I2=α(I1-IO (ただ ))しα=定数)と同じである。 式?Bないし式?Eはきわめて簡単な一次式なのであるから,どのようなパラメータを用いるか(P1,P2を用いるか,P1,P3を用いるか)は単なる設計的事項にすぎない。なお,式?Bにおける数値1000と10は桁合わせのためのものであり,Trio300 において,パラメータとして式?EのP3ではなく,式?BのP2を用いているのは,計算を簡単にするためである(式?EではP1×P3の乗算が必要であるが,式?Bではこの乗算は不要である 。。)コンピュータ技術者がCPUを用いて機器の制御を行う場合に 数式 一 ,(次関数でなく,二次関数等であっても)の演算に代えて,または数式のパラメータについて,事前の計算により,又は事前の実験によりデータを求めておき,これをルックアップテーブルにあらかじめ格納しておくことも周知の技術である。 以上のようなコンピュータ技術者の予想される振舞い,周知慣用の技術を考慮すると,本件特許発明1の式(2)における定数αおよび無負荷励磁電流IOをあらかじめ求めてテーブルとして格納しておき,これらのパラメータを用いて二次電流の波高値(I2)を式(2)の計算により求めることは,当業者がきわめて普通に行うことにすぎない。 したがって,本件特許発明1は,Trio300 に係る発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとする審決に違法はない。 第4 当裁判所の判断1 請求原因(1) 特許庁等における手続の経緯(2) 発明等の内容(3) 審 ( ),(),(決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。 なお,甲14(平成19年12月16日付け訂正審判請求書添付の全文訂正明細書)によれば,訂正に係る請求項1の記載は次のとおりである(下線部分が訂正部分)「 請求項1】プログラム制御のためのMPUと,パルストランスから刺激 【パルスを発生する手段,および前記刺激パルスの様態を表示する手段を備えた低周波治療器において,前記刺激パルスは前記パルストランスのセンタータップに所定の設定電圧を印加した上で,一次巻線の両端を交互に駆動することによる二次側の誘起電圧によって発生し,前記刺激パルスの出力電流値を数値表示するためのLCDと,前記出力電流値を手入力するためのプッシュボタンと,を備え,また前記MPUが前記パルストランスの駆動電圧を数値で設定するためのD/A変換器および前記MPUが前記パルストランスの駆動電流を数値で読み込むためのA/D変換器を有し,また前記パルストランス一次側回路に電流検出抵抗を設置し,前記抵抗の両端電圧を増幅器を介して前記A/D変換器の入力信号とし,前記一次巻線の駆動信号のパルスの出力後一定時間(To)経過後一次電流を前記MPUの読み込みタイミングで前記入力信号から読み込むことで,前記パルストランスの一次電流値を得る,また設定電流は前記プッシュボタンによって増加又は減少して設定され,前記D/A変換器から前記パルストランスに前記設定電圧(V)として出力する,一方,前記MPUの記憶装置には,前記駆動電圧の数値と前記一次電流値(I )および既に記憶されている前記パルストランスの特性値テーブルが1有り,前記特性値テーブルには前記設定電圧(V)毎の数値を有し,当該数値は,無負荷励磁電流(Io)と定数(α)であり,前記無負荷励磁電流(Io)は,前記パルストランスの無負荷時の一次電流であり,また,前記定数(α)は,事前試験を行い,前記無負荷励磁電流(Io)を求めた上で下記式からαを求めることで算出する計算値のことであり,MPUのプログラムは前記設定電圧(V)を設定する毎に,駆動電圧と一次電流から前記特性値テーブルを参照して,前記低周波治療器の出力電流となる前記パルストランスの二次電流の波高値(I )を下記式を用いて計算し,2その数値を前記LCDに表示することで,前記刺激パルスの出力電流値を正確に把握することを特徴とする低周波治療器。 I =α(I -Io ,ただしα=定数」21)2 取消事由1(本件訂正を認めなかった誤り)について(1) 原告は 審決が本件特許発明の訂正を認めず 本件特許発明を本件訂正 平 , ,(成19年6月13日付け訂正請求書に記載された訂正)以前の発明特定事項,。 のみで認定したことは違法である旨主張するので この点について検討する(2)ア審決の認定に係る本件訂正の内容は次のとおりである(当事者間に争いがない 。。)「 1)訂正事項1 (特許請求の範囲の請求項1に『また前記パルストランス一次側回路に電流検出抵抗を設置し,前記抵抗の両端電圧を増幅器を介して前記A/D変換器の入力信号とすることで,前記パルストランスの一次電流値を得る 』,とあるのを,『また前記パルストランス一次側回路に電流検出抵抗を設置し,前記抵抗の両端電圧を増幅器を介して前記A/D変換器の入力信号とし,前記設定電圧の周期に依らずパルスの立ち上がり時刻から常に一定時間(TO)経過後に一次電流を前記入力信号から読み込むことで,前記パルストランスの一次電流値を得る 』,と訂正する。 …」イ以上によれば,本件訂正における訂正事項1は,パルストランスの一次電流値を得る方法について,本件訂正前の構成に 「前記設定電圧の周期 ,に依らずパルスの立ち上がり時刻から常に一定時間(To)経過後に一次電流を前記入力信号から読み込む」ことを付加するものであると認められる。 この点,本件特許の明細書(甲2)をみると,請求項1には「刺激パルス」との言葉はあるものの,発明の詳細な説明の段落【0008】には,「図3は本発明の動作を示すタイミングチャート図である。…人体抵抗2の両端には51に示す正負の刺激パルスが出力される。また52はトランスの一次電流で生じた電流検出抵抗4の両端電圧の波形である。図において,53と54はそれぞれプラス波形およびマイナス波形の電流値をMPUが読み込むタイミングを示す。… (3頁左欄23行〜32行)との記 」載があり,また図3には「刺激パルス」として例示された51のほかに数種の波形が掲示されていることが認められ,これらによればパルスは必ずしも一様でないことがうかがわれるところである。そうすると,上記訂正事項1における 「パルス」がいかなる意味のパルスを指すものであるの ,か,また「パルスの立ち上がり時刻」というのが,具体的にいかなるタイミングを意味するのかは,その記載上必ずしも明らかではないといわざるを得ず,パルスの立ち上がり時刻と一次電流を入力信号から読み込むこととの技術的関連性もまた明らかにならないものといわざるを得ない。 そうすると,上記訂正事項1の記載をもってしては,パルストランスの,, 一次電流値を得るための構成を限定したものとはいい難く 訂正事項1は特許請求の範囲の減縮を目的とするものとは認められないし,また,同記載は誤記の訂正や明りょうでない記載の釈明を目的とするものでもないから,訂正事項1は,特許法134条の2第1項ただし書き各号のいずれの事項を目的とするものとも認められない。 したがって,審決が,本件訂正は認められないとして,訂正前の請求項の記載に基づき本件特許発明を認定したことに誤りがあるということはできないから,原告の上記主張は採用することができない。 (3)また原告は,平成19年12月16日付けで原告が請求した訂正審判の手続(訂正2007-390140)において,特許庁の審判官が訂正拒絶理由通知書(甲20)の中で本件特許発明の訂正を認めた結果,本件の審決に記載された本件特許発明は,訂正発明としてその要旨が変更されたとも主張するが,訂正審判手続における拒絶理由通知書の記載いかんにより,登録された特許発明の要旨が変更を受けるものではないから,原告の上記主張はそれ自体失当といわざるを得ない。 ちなみに,上記訂正審判事件に対する平成20年4月16日付け審決(甲28)によると,上記訂正審判請求は,特許法126条5項の規定するいわゆる独立特許要件を満たさないことを理由として 「本件審判の請求は,成 ,り立たない 」とされたことが認められる。そうすると,上記訂正審判請求 。 に係る訂正は結果として認められていないのであるから,平成19年12月16日付けで行った訂正審判請求書に添付された全文訂正明細書(甲14)における特許請求の範囲の記載等を前提に,これとの関係で容易想到性を論じることもまた,平成19年11月13日になされた本件審決の判断対象となっていない事項についての違法をいうものであり,原告の上記主張は失当といわなければならない。 ( ) 3 取消事由2 Trio300 に係る発明についての認定の誤りないし相違点の看過について原告は,審決が Trio300 に係る発明には本件発明特定事項?@〜?Bに関して全く記載,図示,教示又は示唆がされていないことを看過しているなどとして,審決には Trio300 に係る発明についての認定を誤り,又は相違点を看過した誤りがある旨主張する。 しかし,原告が主張する発明特定事項?@〜?Bとは,前記のとおり,発明事項?@は,1次変換式I =α(I -I )における右辺の1次電流値(I )の取2 1O 1得条件につき 「前記一次巻線の駆動信号のパルスの出力後一定時間(To) ,経過後一次電流を前記MPUの読み込みタイミングで前記入力信号から読み込むこと」であり,同?A及び?Bは,1次変換式のパラメータの算出方法につき,?A「前記無負荷励磁電流(I )は,前記パルストランスの無負荷時の一次電O流であり ,さらに,?B「前記定数(α)は,事前試験を行い,前記無負荷励 」磁電流(I )を求めた上で下記式[注:上記1次変換式]からαを求めるこOとで算出する計算値のこと」である。そして,これらのうち発明特定事項?Aは審決が相違点として認定しているものであるから,これを看過したということはできない。また,発明特定事項?@及び?Bは,甲13(平成19年12月16日付け審判請求書)2頁〜3頁の「訂正事項」の記載から明らかなように,原告が平成19年12月16日付けで行った訂正審判請求において追加した構成であって,平成19年11月13日になされた本件審決が認定した本件特許請求の範囲には含まれていない事項であるから,認定の際に考慮すべき事項ということはできない。 そうである以上,審決が相違点を看過し,又は Trio300 に係る発明の認定を誤ったことになるものではなく,審決に所論の違法はない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 4 取消事由3(相違点についての判断の誤り)について(1) 原告は,審決が,本件特許発明と Trio300 に係る発明との相違点について,。 容易想到とした判断は誤りである旨主張するので この点について検討する(2) 本件特許発明1につきア Trio300 に係る発明の内容は,前記第3,1,(3)によれば,次のようなものである(争いがない 。。)「プログラム制御のためのCPUと,出力トランス(T1)から刺激パルスを発生する手段,及び前記刺激パルスの様態を表示するLCDを備えた低周波治療器において,前記刺激パルスは前記出力トランス(T1)のセンタータップに直流電圧制御回路(Q108,Q110)により所定の設定電圧を印加した上で,一次巻線の両端を交互に駆動することによる二次側の誘起電圧によって発生し,前記刺激パルスの出力電流値を数値表示するためのLCDと,前記出力電流値を手入力するためのUPキー,DOWNキーとを備え,また前記CPUが前記出力トランス(T1)の駆動電圧を数値で設定するためのD/A変換器及び前記CPUが前記出力トランス(T1)の駆動電流を数値で読み込むためのA/D変換器を有し,また前記出力トランス(T1)の一次側回路に電流検出抵抗(R108-R113)を設置し,前記電流検出抵抗(R108-R113)の両端電圧を増幅器を介して前記A/D変換器の入力信号とすることで,前記出力トランス(T1)の一次電流値(Ai)を得るようにし,また設定電流は前記UPキー,DOWNキーによって増加又は減少して設定され,前記D/A変換器から前記出力トランス(T1)に駆動電圧の出力設定値として出力する一方,前記CPUの記憶装置には係数テーブルがあり,前記係数テーブルは前記出力設定値毎の数値を有し,当該数値は,パラメータ1(P1)とパラメータ2(P2)を含み,CPUのプログラムは,前記出力設定値を設定する毎に,前記出力設定値と一次電流からパラメータ1(P1)とパラメータ2(P2)を参照して,下記の式を使用して実出力電流値(Ap)を計算し,その数値をLCDに表示するようにした低周波治療器。 (式) Ap=P1/1000×Ai-P2/10」イ以上によれば,Trio300 に係る発明は,治療に応じて刺激パルスの出力波形や電流値を変えることができる,パルストランスを用いた低周波治療器に関するものであり,パルストランスのセンタータップに所定の設定電圧を印加した上で,一次巻線の両端を交互に駆動することにより,二次側, 。 に誘起電圧を生じさせ 人体に正負の刺激パルスを出力させるものであるそして,Trio300 に係る発明も,本件特許発明と同様,パルストランスの一次側駆動回路に電流検出回路を設置することで,トランス本来の絶縁性能を損なうことなく,出力電流であるトランスの二次電流を正確に求めることを可能にしており,上記の点で本件特許発明と同様の意義を有するものと認められる。 ウ一方,本件特許発明は,前記第3,1,(2)によれば,次のとおりである。 (ア)「 請求項1】プログラム制御のためのMPUと,パルストランスか 【ら刺激パルスを発生する手段,および前記刺激パルスの様態を表示する手段を備えた低周波治療器において,前記刺激パルスは前記パルストランスのセンタータップに所定の設定電圧を印加した上で,一次巻線の両端を交互に駆動することによる二次側の誘起電圧によって発生し,前記刺激パルスの出力電流値を数値表示するためのLCDと,前記出力電流値を手入力するためのプッシュボタンと,を備え,また前記MPUが前記パルストランスの駆動電圧を数値で設定するためのD/A変換器および前記MPUが前記パルストランスの駆動電流を数値で読み込むためのA/D変換器を有し,また前記パルストランス一次側回路に電流検出抵抗を設置し,前記抵抗の両端電圧を増幅器を介して前記A/D変換器の入力信号とすることで,前記パルストランスの一次電流値を得る,また設定電流は前記プッシュボタンによって増加又は減少して設定され,前記D/A変換器から前記パルストランスに前記設定電圧(V)として出力する,一方,前記MPUの記憶装置には,前記駆動電圧の数値と前記一次電流値(I1)および既に記憶されている前記パルストランスの特性値テーブルが有り,前記特性値テーブルには前記設定電圧(V)毎の数値を有し,当該数値には,下記式(1)を使用する場合は無負荷励磁電流(IO)と短絡電流(1次電流I1S,2次電流I2S)を含み,また下記式(2)を使用する場合は定数(α)と無負荷励磁電流(IO)を含み,MPUのプログラムは前記設定電圧(V)を設定する毎に,駆動電圧と一次電流から前記特性値テーブルを参照して,前記低周波治療器の出力電流となる前記パルストランスの二次電流の波高値(I2)を下記式(1)または式(2)を用いて計算し,その数値を前記LCDに表示することで,前記刺激パルスの出力電流値を正確に把握することを特徴とする低周波治療器。 式(1) I2=I2S/(I1S-IO)×(I1-IO)式(2) I2=α(I1-IO ,ただしα=定数」 )(イ)「 請求項2】前記パルストランスの二次回路に,整流・平滑回路お 【よび出力制御回路を設け,前記整流・平滑回路には整流用ダイオードと正負の電圧を貯えるための平滑コンデンサを有し,また前記出力制御回路には前記MPUからの出力信号で駆動されるリレーとホトカプラを有し,前記MPUは,前記リレーによって出力モードを切り替え,また前記平滑回路の出力を前記ホトカプラで制御して,プラス波形およびマイナス波形からなる出力波形を人体に供給することで,前記刺激パルスの出力を一次側とは絶縁された状態で制御することを特徴とする請求項1に記載の低周波治療器 」。 (ウ) そして,本件特許発明に係る明細書(甲2)には次の記載がある。 a産業上の利用分野「 0001】【【産業上の利用分野】本発明は,パルストランスを用いた低周波治療器に関し,特に例えば治療に応じて刺激パルスの出力波形や電流値を変える,様態表示付き低周波治療器に関する 」。 b従来技術・発明が解決しようとする課題「 0002】【【従来の技術】従来,刺激パルスの強さは出力端の可変抵抗器で変更していた。また,出力電流の大きさはレベラーで表示していた。また,プッシュボタンの押された回数で出力するものもあるが,出力電流の大きさは概略的に表示するものである。 【0003】【発明が解決しようとする課題】しかしながら,出力電流の大きさを概略的に表示するだけでは,他人や過去の治療記録との比較や照合ができず,刺激パルスの大きさを正確に把握したいという問題があった。それには,パルストランスの二次回路に電流検出回路を設置すれば良いが,それではトランス。 , の一次・二次間の絶縁性能が犠牲になる また絶縁性能を確保するためには設置回路自体が複雑・高価になる。本発明は,上記問題点に鑑みてなされたもので,パルストランスの絶縁性能を損なわず,刺激パルスの電流値を正確に把握することで治療効果の高い低周波治療器を提供することを目的とする 」。 c課題を解決するための手段「 0004】【【課題を解決するための手段】上記従来技術の課題を解決するための本発明の構成は,プログラム制御のためのMPUと,パルストランスから刺激パルスを発生する手段,および前記刺激パルスの様態を表示する手段を備えた低周波治療器において,前記刺激パルスは前記パルストランスのセンタータップに所定の設定電圧を印加した上で,一次巻線の両端を交互に駆動することによる二次側の誘起電圧によって発生し,前記刺激パルスの出力電流値を数値表示するためのLCDと,前記出力電流値を手入力するためのプッシュボタンと,を備え,また前記MPUが前記パルストランスの駆動電圧を数値で設定するためのD/A変換器および前記MPUが前記パルストランスの駆動電流を数値で読み込むためのA/D変換器を有し,また前記パルストランス一次側回路に電流検出抵抗を設置し,前記抵抗の両端電圧を増幅器を介して前記A/D変換器の入力信号とすることで,前記パルストランスの一次電流値を得る,また設定電流は前記プッシュボタンによって増加又は減少して設定され,前記D/A変換器から前記パルストランスに前記設定電圧(V)として出力する,一方,前記MPUの記憶装置には,前記駆動電圧の数値と前記一次電流値(I1)および既に記憶されている前記パルストランスの特性値テーブルが有り,前記特性値テーブルには前記設定電圧(V)毎の数値を有し,当該数値には,下記式(1)を使用する場合は無負荷励磁電流(IO)と短絡電流(1次電流I1S,2次電流I2S)を含み,また下記式(2)を使用する場合は定数(α)と無負荷励磁電流(IO)を含み,MPUのプログラムは前記設定電圧(V)を設定する毎に,駆動電圧と一次電流から前記特性値テーブルを参照して,前記低周波治療器の出力電流となる前記パルストランスの二次電流の波高値(I2)を下記式(1)または式(2)を用いて計算し,その数値を前記LCDに表示することで,前記刺激パルスの出力電流値を正確に把握することを特徴とするものである。 式(1)I2=I2S/(I1S-IO)×(I1-IO)式(2)I2=α(I1-IO ,ただしα=定数」 )d作用「 0005】【【作用】パルストランスの駆動回路に電流検出回路を設置することで,トランス本来の絶縁性能を損なうことなく,出力電流であるトランスの二次電流が正確に求められる 」。 e実施例「 0006】【【実施例】以下,図面に従い本発明を説明する。図1は本発明の低周波治療器の実施例を示す回路図である。図1において,第一の実施例では,通常,リレー19の接点は信号20側に接続されており,昇圧トランス1の二次側出力は導子電極を経由して直接人体部位2と接続される。2は回路的に接続した人体抵抗である。一方,トランス1の一次側には,パルス駆動電源15と信号用電源30があり,制御される全ての回路はトランスの二次側回路とは全く絶縁されている。また一次側には回路の制御用MPU10がある。11はMPUの動作用発振子であり,パルス幅,周期,その他必要な時間管理の基本クロックのもとになる。MPUは,メモリーとしてROMおよびRAM,A/D変換器,D/A変換器および入出力ポートを持っている。また図示していないがMPUには表示装置として,パルス幅,周期,タイマー時間および電流値等の数値表示,およびエラーや警告等の文字列を表示するLCDが接続されている。 【0007】人体への刺激パルスは,昇圧トランスのセンタータップ3へ所定の設定電圧を印加した上で,一次巻き線の両端を交互にドライブすることによる二次側の誘起電圧によって発生する。回路信号はプログラムで制御される。図1において,トランス電圧の設定データはMPU内のD/A変換器でアナログ値に変換され,出力ポート9から増幅器14を経て,トランスの。 , 設定電圧としてセンタータップ3に出力される またトランスの駆動方法はパルス幅・周期および駆動時間をプログラムで管理された信号7と信号8を周期毎に交互に駆動し,正負一対の刺激パルスを得る。信号7を駆動すると正(上)パルス,また信号8を駆動すると負(下)パルスを得る。…また図1においてトランスの一次電流は,電流検出抵抗4で電圧値に変換され,増幅器5からMPUのA/D変換器の入力信号6となり,MPUへディジタル値が読み込まれる。 【0009】図5は計算式の説明のため,トランスの一次電流と二次電流の関係を示す図である。図において,出力抵抗R(r=R)のときの一次電流をI ,二次電流をI とする。またトランスの二次側短絡時(r=0)の1 2一次電流をI,二次電流をIとする。また無負荷時(r=∞)の一次1S 2S電流をIoとする。それぞれの電流の関係は,図のように直線と見なせるので,三角形の相似条件から次式が成立する。 I /(I -Io)=I/(I-Io)21 2s1S,() ()。 従って I =I/ I-Io × I -Io ………式(1)となる22s1S 1または更に,無負荷励磁電流(Io)は短絡電流(I)に比べ,十分小1Sさいと仮定すれば,I =α(I -Io)………………式(2)ただしα=定21数と置ける。従って,トランスの設定電圧(V)毎に無負荷電流(Io)と短絡電流(I,I)を測定して,MPUの記憶装置に特性値テーブ1S2Sルとして格納する。または事前試験を行い,トランスのIoを求めた上,前述した式(2)からαを求め特性値テーブルを作る。予めMPUが記憶したト1S2ランスの特性値テーブルとなる無負荷電流(Io)と短絡電流(IとI)を,説明のためグラフ図形として図6に表示する。 S【0012】次に,第二の実施例を説明する。第二の実施例では,図1において,リレー接点は信号21に接触し,トランスの出力は整流・平滑回路に接続される。平滑コンデンサ24および25はそれぞれプラス波形およびマイナス波形を出すためのものであり両コンデンサの両端では倍電圧が発生する。また平滑回路の出力はそれぞれホトカブラ26および27で一次側とは絶縁された状態で制御される。またホトカプラはMPUからのポート出力16と17で駆動される。…」f発明の効果「 0015】【【発明の効果】本発明によれば,二次側に絶縁のための複雑な電流検出回路は必要としない。また,トランス駆動回路に電流検出回路を置くだけで,ト, 。,, ランス絶縁された状態で 二次電流の大きさが測定できる また 二次側に出力パルス幅を長くするため平滑回路を設置する場合も,一次側の検出抵抗で同様に出力電流が測定できた。また,プログラム処理のため,常に出力状態の監視を行い,有益な情報処理機能を備えた,安全性の高い低周波治療器を提供できる 」。 (エ)以上によれば,本件特許発明は,治療に応じて刺激パルスの出力波形や電流値を変えることができる,パルストランスを用いた低周波治療器に関するものである。そして,本件特許発明1は,パルストランスのセンタータップに所定の設定電圧を印加した上で,一次巻線の両端を交互に駆動することにより,二次側に誘起電圧を生じさせ,人体に正負の刺激パルスを出力させるものであり,本件特許発明2は,上記本件特許発明1において,二次回路に整流・平滑回路及び出力制御回路を設け,平滑回路の出力をホトカプラで制御して,刺激パルスの出力を一次側とは絶縁された状態で制御することを特徴とするものである。その上で,本件特許発明は,パルストランスの一次側駆動回路に電流検出回路を設置することで,トランス本来の絶縁性能を損なうことなく,出力電流であるトランスの二次電流を正確に求めることを可能にし,もって,治療効果の高い低周波治療器を提供するという意義を有するものである。 エそして,Trio300 と本件特許発明1とを対比した一致点及び相違点は前記第3,1,(3),イのとおりであるが,改めて本件特許発明と Trio300に係る発明を対比すると,両者は,駆動電圧と一次電流の値から特性値テーブルを参照して二次電流の値(パルストランスの二次電流の波高値)を把握しようとするものであるが,その際に用いる計算式が異なるものということができる。 (ア)すなわち,本件特許発明では,MPUの記憶装置に 「前記駆動電圧 ,の数値と前記一次電流値(I1)および既に記憶されている前記パルストランスの特性値テーブル」があるところ,前記特性値テーブルが有する設定電圧(V)毎の数値は「定数(α)と無負荷励磁電流(IO 」)を含むものであり,MPUのプログラムは 「前記設定電圧(V)を設 ,定する毎に,駆動電圧と一次電流から前記特性値テーブルを参照して,前記低周波治療器の出力電流となる前記パルストランスの二次電流の波高値(I2 」を計算するに当たり,次の式(以下「式?@」という )を ) 。 用いるものである。 (式?@) I2=α(I1-IO) ただしα=定数なお,上記式?@において,出力抵抗R(r=R)のときの一次電流がI1,二次電流がI2,無負荷時(r=∞)の一次電流がIOである。 (イ) これに対し,Trio300 に係る発明では,CPUの記憶装置に 「係数テ ,ーブル」があり 「係数テーブル」が有する設定電圧(V)毎の数値は ,「パラメータ1(P1)とパラメータ2(P2 」を含むものであり, )CPUのプログラムは 「前記出力設定値を設定する毎に,前記出力設 ,定値と一次電流からパラメータ1(P1)とパラメータ2(P2)を参照して,実出力電流値(Ap 」を計算するに当たり,本件特許発明に ),(「」。) おける上記式(1)ないし式(2)ではなく 次の式 以下 式?A というを用いるというものである。 (式?A) Ap=P1/1000×Ai-P2/10なお,上記式?Aにおいて,実出力電流値Apは本件特許発明における二次電流の波高値(I2)に相当し,Aiは一次電流値(I1)に相当するものである。 オところで,昭和61年2月に発行された平易な解説書である本件引用文献(絵とき電気機器,甲12)には,次の記載がある。 「…図32・4は,二次巻線の両端に負荷を接続した場合で,変圧器の負荷時という….同図において,二次巻線には次のような二N2次負荷電流が流れる.2E=── I2Zこのによって,二次巻線には新たにの起磁力が生じ,こI N I2 22れが主磁束φを打ち消すように働く.そこで主磁束φが打ち消されな1’ 1いように,一次巻線には新たな電流が流入して,一次巻線に I Nの起磁力が生じ,+=0となる.このの電 IN IN II1’ 2211 ’ 1’流を一次負荷電流という.したがって,負荷時の一次全電流は次のようになる.I1101 ’III =+… (112頁1行〜10行) 」「…一次負荷電流ととの間には,+=0IIN IN I1’ 2 11 ’ 22であるから,巻数比をaとすると,次のようになる.12NI=-──=-──〔A〕 II1’ 2a N2… (115頁下4行〜下2行) 」これによれば,一般に,変圧器(トランス)の一次電流に無負荷励磁電流に相当するオフセットがあること(=+,またオフセットIII101 ’)を除いた一次電流値と二次電流値は巻線比による比例関係にあることは技術常識であると認められる。 カそして,これを前提に式?@をみると,IOはオフセットの値に相当し,オフセットを除いた一次電流と二次電流が巻線比に依存する比例関係にあるという上記技術常識を数式により表現したものであることは明らかである。 ,(), 他方 式?AにおいてAp=0 すなわち二次電流が0 になる場合とは() ,, 一次電流 Ai が100×P2/P1のときであり その場合の式?Aは次のように表現することができる。 0=(P1/1000)×(100×P2/P1)-(P2/10)なお,P2/10=(P1/1000)×(100×P2/P1)そして,これに上記技術常識を併せ考慮すると,上記変形後の式?Aは,,, 100×P2/P1が本件特許発明の無負荷励磁電流IOに相当し またP1/1000は本件特許発明のαに相当するものと認められ,これを換言すると,100×P2/P1はオフセットの値に相当し,P1/1000という定数により,オフセットを除いた一次電流と二次電流が巻線比に依存する比例関係にあるという上記技術常識を数式により表現したものということができる。 そうすると,式?@と式?Aは,表現は異なるものの,一次電流値と二次電流値との関係を表すものとして等価であり,簡単な数学的操作により相互に変換できるのであるから,二次電流の波高値の計算に式?@を用いた点に技術的困難性を見出すことはできない。 したがって,本件特許発明1は,Trio300 に係る発明に基いて,同発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。 キ(ア)以上に対し,原告は,本件引用文献(甲12)に記載された変圧器と本件特許発明のパルストランスとでは特性解析のための等価回路が異なると主張するが,前記のとおり,本件特許発明1と Trio300 に係る発明におけるパルストランスの回路部分に相違点はないから,変圧器とパルストランスの等価回路の差異を挙げることは当を得ないというべきである。また,変圧器もパルストランスも,その電流変換原理は通常のトランスと変わるところはないのであって,たとえ用いる等価回路の細部において異なるとしても,オフセットを除いた一次電流値と二次電流値が比例関係にあることは異ならないから,上記回路の違いは前記認定を左右するものではない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 (イ)また原告は,無負荷励磁電流は出力設定値が同じであっても一義的には定まらない旨主張するところ,この主張は,本件特許発明においては無負荷励磁電流を実測して前記式?@におけるIOを決定することに技術的意義があることをいうものと理解することができるが,前記のとおり,本件特許発明1と Trio300 に係る発明におけるパルストランスの回路部分に相違点はなく,これが一致すれば無負荷励磁電流の値,巻線比及びこれに基く一次電流値と二次電流値の比例関係もまた一致することは明らかであるから,同一回路を前提とする以上は,式?@及び式?Aの技術的意義に差異を見出すことはできない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 (ウ)さらに原告は,本件特許発明における一次・二次電流は時間的要素を含むものである旨主張するが,本件特許発明に係る請求項その他の明細書(甲2)の記載上,時間的要素について配慮すべき事項について特に指摘するところがなく,このような主張は請求項の記載に基づくものではない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 (エ)その他,原告は,平成19年12月16日付け訂正審判請求における訂正事項である本件発明特定事項を付加した構成を前提に,上記比例関係における変圧器の比例定数と本件特許発明の比例定数は異なるとか,パルストランスの動特性ないし一次電流値が時刻により変化することを考慮すべきとか,同訂正審判請求に係る審決は阻害事由を看過した, , 誤りがあるなどと主張するが それ以前になされた本件審決においては容易想到性の判断において本件発明特定事項を考慮することができないことは明らかであるから,原告の主張は前提において誤りがあるといわざるを得ない。 , 。 したがって その余の原告の主張はいずれも採用することができない(3) 本件特許発明2につきTrio300 に係る発明の内容のうち,本件特許発明2における付加的な構成部分に対応する部分,これと本件特許発明2とを対比した一致点及び相違点は前記第3,1,(3),イのとおりであるところ,本件特許発明2と Trio300に係る発明との相違点は本件特許発明1と Trio300 の相違点と同一である。 そして,上記相違点が容易想到であることは前記(2)に述べたとおりであるから,本件特許発明2についても,Trio300 に係る発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。 5 結論以上によれば,原告主張の取消事由はすべて理由がない。 よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 中野哲弘 |
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裁判官 | 森義之 |
裁判官 | 澁谷勝海 |