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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成19ワ6565特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成19ワ24878特許権差止請求権不存在確認請求事件 判例 特許
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事件 平成 18年 (ワ) 8725号 特許権等侵害差止請求事件
原 告X
訴訟代理人弁護 士和田宏徳
被 告ウエダ産業株式会社
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2008/05/29
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1被告は,別紙物件目録1ないし3記載の物件を製造し,使用し,譲渡し,貸し渡し,譲渡又は貸渡しの申出をしてはならない。
2被告は,原告に対し,3000万円及びこれに対する平成20年3月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3原告のその余の請求を棄却する。
4訴訟費用は,これを4分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
5この判決は,1項,2項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
全容
第1請求1被告は,別紙物件目録1ないし4記載の物件を製造し,使用し,譲渡し,貸し渡し,譲渡又は貸渡しの申出をしてはならない。
2被告は,原告に対し,3000万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成18年12月21日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要本件は,廃材用切断装置について2つの特許権(後記の本件特許権1及び2)並びに木製廃材切断機用刃について意匠権を有する原告が,1)被告の製造販売する廃材用切断機(後記のハ号物件)は,原告の本件特許権1及び2に係る特許発明技術的範囲に属し,その製造販売等の行為は,原告の本件特許権1及び2を侵害する,2)被告の製造販売する別の2つの廃材用切断機(後記のイ号物件及びロ号物件)は,パワーショベルに取り付けた状態で,原告の本件特許権2に係る特許発明技術的範囲に属し,かつ上記特許発明に係る物である廃材用切断装置の生産にのみ用いる物であるから,その製造販売等の行為は,特許法101条1号により,原告の本件特許権2を間接侵害する,3)被告の製造販売する廃材切断機用刃に係る意匠は,上記意匠権に係る意匠と類似し,その製造販売等の行為は,原告の意匠権侵害するとして,上記の2つの特許権(本件特許権1及び2)並びに意匠権に基づき,被告に対し,被告が製造販売する上記の廃材用切断機(イ号物件,ロ号物件,ハ号物件)及びその刃につき,?@製造販売等の差止め,?A特許権及び意匠権侵害による損害賠償金3000万円の支払(内金請求。遅延損害金は訴状送達の日の翌日である平成18年12月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による。)を求めた事案である。
第3前提となる事実(次の事実は,当事者間に争いがないか,弁論の全趣旨により認めることができる。)1特許権原告は,次の各特許の特許権者である(以下,これらの特許をそれぞれ「本件特許1」「本件特許2」,その特許権をそれぞれ「本件特許権1」「本件特許権2」,その特許出願の願書に添付された明細書をそれぞれ「本件明細書1」「本件明細書2」という。)。
(1)本件特許権1発明の名称廃材用切断装置出願日平成13年3月12日登録日平成16年5月14日特許番号特許第3553514号特許請求の範囲は別紙特許公報(甲2)のとおり。
(2)本件特許権2発明の名称廃材用切断装置出願日平成13年9月27日登録日平成16年9月3日特許番号特許第3593514号特許請求の範囲は別紙特許公報(甲4)のとおり。
2本件特許発明1及び2の構成要件の分説(1)本件特許1本件特許1の特許請求の範囲の請求項1(以下「本件発明1」という。)は,次のとおり分説することができる。(以下,その記号に従って「構成要件A」などという。以下同じ。)A:ホルダー1の先部に略湾曲状とされた両側一対の受片2が所定間隔をおいて並設され,B:該受片2間には略半円形状の可動刃4が嵌合自在に軸着され,C:該可動刃4はその弧状外周縁に沿って鋸歯状刃体6が形成され,D:該可動刃4には流体圧シリンダ8が接続され,E:上記該受片2の基端部には各々固定掴持片3が立設されると共に,F:該固定掴持片3に対応すべく可動刃4の背部に掴持片7が形成されてなることを特徴とする,G:廃材用切断装置。
(2)本件特許2本件特許2の特許請求の範囲の請求項1(以下「本件発明2」という。)は,次のとおり分説することができる。
H:ホルダー1の先部に略湾曲状とされた両側一対の受片2が所定間隔において並設され,I:該受片2間には外周縁に鋸歯状刃体6を備えた略半円形状の可動刃4が嵌合自在に軸着されると共に,J:該可動刃4には流体圧シリンダ8が接続されてなる廃材用切断装置であって,K:上記受片2に対向すべくその基端部に所要の角度をもって両側一対の被切断物掛止用掛止片10が拡開状に配設されてなることを特徴とする,L:廃材用切断装置。
3意匠権(1)本件意匠権原告は,次の意匠の意匠権者である(以下,この意匠を「本件意匠」,その意匠権を「本件意匠権」という。)。
出願日平成14年8月20日登録日平成15年7月11日意匠番号意匠第1183428号意匠に係る物品木製廃材切断機用刃登録意匠は別紙意匠公報(甲6)のとおり。
(2)本件意匠の構成本件意匠の構成は,次のとおりである。
M:正面視上部が弧状となっている。
N:正面視上部の外周縁に沿って,孔が複数設けられている。
O:正面視下部が弧状となっている。
P:正面視下部の外周縁に鋸歯状刃が設けられている。
Q:正面視左部に柄が設けられている。
4被告の行為被告は,別紙物件目録1ないし4記載の各物件(以下,順に「イ号物件」「ロ号物件」「ハ号物件」「ニ号物件」といい,同目録の各別紙図面を順に「イ号図面」(上の図面をいい,下の参考図は除く),「ロ号図面」「ハ号図面」「ニ号図面」という。ただし,同目録1及び2の「3図面符号の説明」の「1:ホルダー」については争いがある。)を製造販売し又はしていた(なお,販売数及び販売時期については争いがある。)。
5ニ号物件に係る意匠(以下「ニ号意匠」という。)の構成ニ号意匠は,ニ号図面のとおりであり,次の構成を備えている。
m:正面視上部が弧状となっている。
n:正面視上部の外周縁に沿って,孔が複数設けられている。
o:正面視下部が弧状となっている。
p:正面視下部の外周縁に鋸歯状刃が設けられている。
q:正面視左部(背面視右部)に柄が設けられている。
第4争点1イ号物件についてイ号物件の構成及びパワーショベルに取り付けた場合の本件発明2の技術的範囲の属否(間接侵害の成否)2ロ号物件についてロ号物件の構成及びパワーショベルに取り付けた場合の本件発明2の技術的範囲の属否(間接侵害の成否)3ハ号物件について(1)ハ号物件の構成(2)ハ号物件の本件発明1の技術的範囲の属否(3)ハ号物件の本件発明2の技術的範囲の属否(4)ハ号物件についての本件特許1及び2の実施許諾の有無4ニ号物件について本件意匠とニ号意匠の類否5損害発生の有無及び損害額第5争点に対する当事者の主張1イ号物件の構成及びパワーショベルに取り付けた場合の本件発明2の技術的範囲の属否(間接侵害の成否)(前記第4の1の争点)(1)原告の主張アイ号物件の構成イ号物件は,次の構成を有する。
h1:ホルダーの先部に略湾曲状とされた両側一対の受片が所定間隔をおいて並設され,i1:受片間には外周縁に鋸歯状刃体を備えた略半円形状の可動刃が嵌合自在に軸着され,k1:受片に対向すべくその基端部に所要の角度をもって両側一対の被切断物掛止用掛止片が拡開状に配設されているイ号物件は,パワーショベルに取り付けた状態では,別紙物件目録1(イ号)の別紙図面の下の「参考図」のとおり,可動刃を動作させるために,可動刃にパワーショベルのバケットシリンダが接続される。バケットシリンダは,流体圧シリンダでできている。そのため,イ号物件を取り付けたパワーショベルにおいては,次の構成も備える。
j1:可動刃に流体圧シリンダが接続されたl1:廃材用切断装置イ構成要件の充足イ号物件の構成h1,i1,k1は,それぞれ本件発明2の構成要件H,I,Kと同じである。
また,構成j1,l1は,それぞれ本件発明2の構成要件J,Lと同じである。
そして,イ号物件は,パワーショベルに取り付けて廃材用切断装置としてのみ用いる物であるから,特許法101条1号の「物の生産にのみ用いる物」に当たる。
構成要件Hの「ホルダー」について(構成h1におけるホルダーの有無)被告は,イ号物件はホルダーを備えていないと主張する。しかし,本件明細書2に「1は後記するパワーショベル14の多関節アーム15の取付け自在とされたホルダー」とあることから明らかなとおり,本件発明2の「ホルダー」は,パワーショベルへの取り付け機能を含まないものであると限定的に解釈しなければならない理由はなく,パワーショベルへの取り付け機能を備えるものも当然に含んでいる。よって,イ号物件の受片等が設置された本体フレームは,本件発明2の構成要件Hの「ホルダー」に当たる。
被告は,本件明細書1の図4において「ホルダー」と「取付材」が分離された断面図が示されていることから,「ホルダー」は油圧ショベルと分離回転する機能を持たせることを目的としたものであると主張するが,上記図4は,単なる一実施例を示したものにすぎず,本件発明1及び2の特許請求の範囲における「ホルダー」につき,油圧ショベルと分離回転する機能を備えることを目的とするものに限定する旨の記載はない。
構成要件Kの「掛止片」について(揺動型に限定されるかどうか)被告は,イ号物件における掛止片は固定型であり,揺動型である本件発明2の構成要件Kの「被切断物掛止用掛止片」に当たらないと主張するが,本件明細書2において,「被切断物掛止用掛止片」が揺動型に限られる旨の記載は一切ないので,固定型の掛止片も当然,本件発明2の構成要件Kの「被切断物掛止用掛止片」に該当する。
被告は,本件明細書2に「若干揺動自在に軸着」という記載があり,跳ね上がり防止目的の記述があることから,「掛止片」は揺動型に限定されると主張するが,掛止片が固定型であったとしても,「受片に対向すべく所要の角度をもって配設される」ものであり,掛止片により被切断物の跳ね上がりを防止し,被切断物から可動刃を容易に抜き去ることができるので,上記の明細書の記載から,掛止片が揺動型に限定されると解することはできない。
本件明細書2の「若干揺動自在に軸着」の記載は単なる一実施例を示したものにすぎない。
構成要件Jの可動刃と流体圧シリンダの接続について被告は,イ号物件における可動刃は,パワーショベルのバケットシリンダにHリンク及びサイドサポートリンクを介して連結されているので,パワーショベルに取り付けた状態で,イ号物件の可動刃には流体圧シリンダが接続されたものではないと主張する。
しかし,本件明細書2において「8は可動刃4を可動せしめるべくその背部下端に取付け部材9を介して接続された油圧シリンダ」と記載されていることから明らかなとおり,可動刃と流体圧シリンダは,直接接続されている必要はなく,部材を介しても流体圧シリンダの動きを可動刃に伝える形で接続されていれば足りる。よって,イ号物件の可動刃は,パワーショベルに取り付けた状態では,流体圧シリンダが接続されているということができる。
(2)被告の主張アイ号物件の構成の認否イ号物件の構成は,別紙「イ号物件の商品化の販売装着図」(乙1)のとおり,本件発明2と異なる。
構成h1については,イ号物件には「ホルダー」はなく,切断機本体は,アームに対して,ブラケットピン又はUボルトで着脱される。
構成i1は認める。
構成k1については,本件明細書2に記載の掛止片は揺動型であるのに対し,イ号物件は,受片と掛止片は溶接一体構造であり,掛止片は固定型である点で異なる。その余の点は認める。
構成j1については,可動刃はHリンクにピンで連結され,サイドサポートリンク,Hリンクを介してバケットシリンダに接続されている(そのため,可動刃を直接油圧シリンダに接続した場合に比して,切断開口幅が約2ないし2.5倍の100ないし120度となる)。イ号物件のように可動刃をバケットシリンダに接続しない場合は,可動刃を動かすために,ホルダー部分に流体継手を介して,別個の油圧シリンダを取り付けることが必要となる。
構成要件の充足についてイ号物件が本件発明2の構成要件Hを充足することは否認する。イ号物件には「ホルダー」がない。
イ号物件が本件発明2の構成要件Iを充足することは認める。
イ号物件が本件発明2の構成要件Kを充足することは否認する。本件発明2の掛止片は揺動型で切断時に切断開口幅が狭くなり作業性が低下するのに対し,イ号物件の掛止片は固定型である点で異なる。
イ号物件が本件発明2の構成要件J,Lを充足することは否認する。イ号物件は,パワーショベルに取り付けた状態では,可動刃は,サイドサポートリンク,Hリンクを介してバケットシリンダに接続されているのであって,本件発明2の可動刃が取付け部材9を介して油圧シリンダ8に連結され,その基端は受片2の基端部に枢着されているのとは異なる。また,イ号物件は,可動刃に流体圧シリンダが接続された廃材用切断装置という構成は有していない。
イ号物件は,廃材切断装置のみに用いるという認識で製造販売しているのではなく,切断機本体で切断物のかき上げ,かきおろし,受片と可動刃で切断物を掴んで運搬するのに用いられるので,パワーショベルに取り付けて廃材用切断装置としてのみ用いる物ではなく,特許法101条1号の「物の生産にのみ用いる物」に当たらない。もっとも,イ号物件は,単独では使用不可であり,パワーショベルに装着して初めて使用できるのに対し,本件発明2は地上にセットして油圧ホースを接続するだけでも切断可能である。
構成要件Hの「ホルダー」について(構成h1におけるホルダーの有無)原告は,「ホルダー」はパワーショベルへの取り付け機能を備えるものも当然に含んでいると主張する。しかし,本件明細書1の図4において,ホルダーと取付材が回転ピン,軸受金で回転支持されていることからすれば,「ホルダー」は,取付材に対し回転できる構造を意図されており,油圧ショベルに対して切断装置を回転自在に支持することを目的としたもので,油圧ショベルへの取付機能を優先させたものではない。
本件発明1及び2の発明者である原告の父は,?@地上に生えている木,竹材の切断は,切断機が180度回転して横向きにならないと切断できず,?A廃木の切断作業後,被切断物を掴む作業をするには,ホルダーを中心に180度回転させないと運転席から見えにくく作業が困難であることから,本件発明1及び2については,アームに対し,切断機部分がホルダーを介して360度旋回するものを想定していた。有限会社オカザキ(以下「オカザキ」という。)の製品のカタログでも,360度フリー旋回であることが強調されている。
構成要件Kの「掛止片」について(揺動型に限定されるかどうか)原告は,固定型の掛止片も本件発明2の構成要件Kの「被切断物掛止用掛止片」に該当すると主張するが,本件明細書2には,【0009】「基端部に若干揺動自在に軸着された両側一対の被切断物掛止用掛止片で,該各掛止片10は受片2との間に所要径の被切断物Aを掛止支持せしめるべく受片2に対して所要の角度をもって拡開状に設定せしめられている。…11は…上死点用ストッパーピン,12は…下死点用ストッパーピンである。」,【0003】「切断部位を中心として略V字形状に折曲して跳ね上がり,スムーズな切断がしづらいものである。」,【0006】「常に被切断物Aの性状や大小を問わずスムーズに」と記載され,構成要件Kでは掛止片が「所要の角度をもって」「拡開状に配設され」とされている。このように,被切断物の径の大小があっても,掛け止めができて跳ね上がりを防止できるというのであるから,構成要件Kの「掛止片」は揺動型に限定される。
本件発明1及び2の発明者である原告の父は,可動刃が作動開始して廃木を切断する際,掛止片も廃木を押しつけるようにして,可動刃と同じ方向に動き,切断作業が終了して可動刃が拡開すると,掛止片も同時に拡開する揺動型のものを想定していた。なお,揺動型は,可動刃が作業開始するとき,開口部が狭くなるため,径の大きな廃木の切断が困難であったり,切断作業中の可動刃が廃木に食い込んだのを抜き去るのが困難であったり,大きな根株,団子状の固まりの廃木の切断時に掛止片が変形するという欠点があった。
構成要件Jの可動刃と流体圧シリンダの接続について原告は,イ号物件の可動刃は,パワーショベルに取り付けた状態では,流体圧シリンダが接続されていると主張するが,イ号物件の可動刃は,油圧ショベル固有のシリンダで揺動しているのであり,ホルダーに別置きの流体圧シリンダで揺動させるものではない。
2ロ号物件の構成及びパワーショベルに取り付けた場合の本件発明2の技術的範囲の属否(間接侵害の成否)(前記第4の2の争点)(1)原告の主張アロ号物件の構成ロ号物件は,次の構成を有する。
h2:ホルダーの先部に略湾曲状とされた両側一対の受片が所定間隔をおいて並設され,i2:受片間には外周縁に鋸歯状刃体を備えた略半円形状の可動刃が嵌合自在に軸着され,k2:受片に対向すべくその基端部に所要の角度をもって両側一対の被切断物掛止用掛止片が拡開状に配設されているロ号物件は,パワーショベルに取り付けた状態では,可動刃を動作させるために,可動刃にパワーショベルのバケットシリンダが接続される。バケットシリンダは,流体圧シリンダでできている。そのためロ号物件を取り付けたパワーショベルにおいては,次の構成も備える。
j2:可動刃に流体圧シリンダが接続されたl2:廃材用切断装置イ構成要件の充足ロ号物件の構成h2,i2,k2は,それぞれ本件発明2の構成要件H,I,Kと同じである。
また,構成j2,l2は,それぞれ本件発明2の構成要件J,Lと同じである。
そして,ロ号物件は,パワーショベルに取り付けて廃材用切断装置としてのみ用いる物であるから,特許法101条1号の「物の生産にのみ用いる物」に当たる。
ウロ号物件に関する被告の主張については,前記1(1)ウないしオにおいてイ号物件について述べたとおりである。
(2)被告の主張アロ号物件の構成の認否ロ号物件の構成は,別紙「ロ号物件の正確な説明補足と甲第2号証図-4との根本的相違点」(乙2)のとおり,本件発明2と異なる。
構成h2については,ロ号物件には「ホルダー」はない。切断機本体は,アームに対して,ブラケットピン又はUボルトで連結固定される。
構成i2は認める。
構成k2については,本件明細書2に記載の掛止片は揺動型であるのに対し,ロ号物件は,受片と掛止片は溶接一体構造であり,掛止片は固定型である点で異なる。その余の点は認める。
構成j2については,可動刃はHリンクにピンで連結され,サイドサポートリンク,Hリンクを介してバケットシリンダに接続されている(そのため,可動刃を直接油圧シリンダに接続した場合に比して,切断開口幅が約2ないし2.5倍の100ないし120度となる。)。
構成要件の充足についてロ号物件が本件発明2の構成要件Hを充足することは否認する。ロ号物件には「ホルダー」はない。
ロ号物件が本件発明2の構成要件Iを充足することは認める。
ロ号物件が本件発明2の構成要件Kを充足することは否認する。本件発明2の掛止片は揺動型で切断時に切断開口幅が狭くなり作業性のが低下するのに対し,ロ号物件の掛止片は固定型である点で異なる。
ロ号物件が本件発明2の構成要件J,Lを充足することは否認する。ロ号物件は,パワーショベルに取り付けた状態では,可動刃は,サイドサポートリンク,Hリンクを介してバケットシリンダに接続されているのであって,本件発明2の可動刃が取付け部材9を介して油圧シリンダ8に連結され,その基端は受片2の基端部に枢着されているのとは異なる。また,ロ号物件は,可動刃に流体圧シリンダが接続された廃材用切断装置という構成は有していない。
ロ号物件は,廃材切断装置のみに用いるという認識で製造販売しているのではなく,切断機本体で切断物のかき上げ,かきおろし,受片と可動刃で切断物を掴んで運搬するのに用いられるので,パワーショベルに取り付けて廃材用切断装置としてのみ用いる物ではなく,特許法101条1号の「物の生産にのみ用いる物」に当たらない。もっとも,ロ号物件は,単独では使用不可であり,パワーショベルに装着して初めて使用できるのに対し,本件発明2は地上にセットして油圧ホースを接続するだけでも切断可能である。
ウロ号物件に関する被告の主張は,前記1(2)ウないしオにおいてイ号物件について述べたのと同じである。
3ハ号物件の構成(前記第4の3(1)の争点)(1)原告の主張ハ号物件は,次の構成を有する。
a3:ホルダーの先部に略湾曲状とされた両側一対の受片が所定間隔をおいて並設され,b3:受片間には外周縁に鋸歯状刃体を備えた略半円形状の可動刃が嵌合自在に軸着され,c3:可動刃には流体圧シリンダが接続されd3:受片に対向すべくその基端部に所要の角度をもって両側一対の被切断物掛止用掛止片が拡開状に配設されe3:受片の基端部に各々固定掴持片が起立形成されると共にf3:固定掴持片に対向すべく可動刃の背部に掴持部が形成されているg3:廃材用切断装置(2)被告の主張ハ号物件の構成は,別紙「ハ号物件と本件発明1,本件発明2,本件意匠の相違点」(乙4)のとおり,本件発明1及び2と異なる。
構成a3については,受片の形状がオカザキの製品と異なるので否認する。すなわち,ハ号物件の受片は,下部の開き幅が上部の開き幅の2倍以上で,切断物が容易に下に落下し,目詰まりしないのに対し,オカザキの製品の受片は,上下等間隔であるため,切断物が現実に目詰まりとなり,切断不可となる不具合が生じる。
構成b3,c3は認める。
構成d3は,本件発明2と掛止片の構造が異なるので否認する。すなわち,本件発明2の被切断物掛止片は,基端部が若干揺動自在に軸着されており,切断開始時,掛止片の先端部が約5〜10cm切断方向に下がるため,切断開口幅がより狭くなり,パワーショベルの運転室から当該部分がほとんど見えない状態で切断するため,切断物に対し作業性が著しく低下するが,ハ号物件の掛止片は固定型で,開口幅は常に一定である。本件発明2の掛止片は,上部が接続されていないため,切断時に変形破壊されるが,ハ号物件の掛止片は,上部が溶接一体構造で,切断物を離脱するため油圧シリンダを縮めたとき,掛止片が左右に拡がる変形破壊を防止する。
構成e3は,本件発明1と固定掴持片の構造が異なるので否認する。すなわち,本件発明1の固定掴持片は,シングルプレートが単純に2本立った構造であるが,ハ号物件の固定掴持片は,2本でも格子構造にして切断物の洩れ落下を防止する構造である。
構成f3は,本件発明1と掴持部の構造が異なるので否認する。すなわち,本件発明1の掴持部は,シングル構造であるが,ハ号物件の掴持部は,3本の格子型構造で切断物の落下を防止し,より多くの切断物を掴むことができる。
構成g3は否認する。廃材用切断装置ではなく,廃木材用切断装置である。
4ハ号物件の本件発明1の技術的範囲の属否(前記第4の3(2)の争点)(1)原告の主張ハ号物件の構成a3は本件発明1の構成要件Aと同じであり,ハ号物件の構成b3は本件発明1の構成要件B,Cと同じであり,ハ号物件の構成c3,e3,f3,g3は,それぞれ本件発明1の構成要件D,E,F,Gと同じである。よって,ハ号物件は,本件特許権1の技術的範囲に属する。
(2)被告の主張争う。
5ハ号物件の構成及び本件発明2の技術的範囲の属否(前記第4の3(3)の争点)(1)原告の主張ハ号物件の構成a3,b3,c3,d3,g3は,それぞれ本件発明2の構成要件H,I,J,K,Lと同じであるから,ハ号物件は本件特許権2の技術的範囲に属する。
(2)被告の主張争う。
6ハ号物件についての本件特許1及び2の許諾の有無(前記第4の3(4)の争点)(1)被告の主張被告は,実施許諾権を有するオカザキより,本件特許権1,2の実施について,本件意匠権の許諾と併せて1台10万円で許諾された。
すなわち,オカザキのY専務は,平成14年ころ,被告に,廃木切断機の新製品を製作したので販売してほしいと連絡し,被告は,当時のオカザキの社長(原告の実父)とY専務から詳しい商品説明を受け,被告は,カタログの製作配布,展示会への出展等を開始し,約3年間で6台販売した。しかし,上記の廃木切断機は使いにくいというクレームがあり,被告が平成16年12月にオカザキに廃木切断機を発注した際,オカザキから被告で製作してほしいとの要請を受け,ただし,販売1台につき10万円を支払うとの合意を口頭でした。
同合意に基づき,被告は,従業員をオカザキに派遣して,図面を受領し,製作ノウハウを協議し,写真を撮影した。もっとも,オカザキには完成図面はなく,改良が必要であったため,被告独自で形状が似ているものを設計した。
原告は,契約書がないことをもって合意を否認するが,オカザキと被告は約20年の付き合いがあり,約10年の取引歴があるが,その間,契約書を作成したことはなかった。オカザキは,ジャクティエンジニアリング株式会社(以下「ジャクティ社」という。)と裏取引して,同社に実施許諾したことから,原告は,被告との合意を否認するに至ったものである。
(2)原告の主張否認する。オカザキのY専務が被告に廃木切断機の製作を要請したことも,製作についての合意をしたこともない。そもそも原告と被告との間で実施許諾契約が成立していれば,実施料の支払についての連絡,履行がされているはずであるが,実施料の支払については,平成18年4月13日に原告代理人の弁護士から被告に対して特許権侵害警告書を送付し,そのやりとりの中で,被告がハ号物件の製造については合意が成立していると主張し,その後に初めて被告から乙6の1のファックスが送信されてきた。
なお,被告は,以前からオカザキの製品を販売しており,被告においてオカザキの製品のメンテナンスをしてもらうため,原告は被告に図面(ただし,完全に製造できる設計図ではなく部品ごとの図面)を渡したり,オカザキの製品の写真の撮影を認めたのである。
7本件意匠とニ号意匠の類否(前記第4の4の争点)(1)原告の主張ニ号意匠の構成mないしqは,本件意匠の構成MないしQとすべて同じであるから,ニ号意匠は本件意匠と同一又は類似である。
(2)被告の主張本件意匠とニ号意匠は,被告の平成19年6月5日付け準備書面(5)の3ページの比較表(別紙表1)のとおり,全体外形形状,亀裂の対策,ボルト穴数,刃の大きさ・形状,切断深さ,刃の取付寸法などの点で異なるので,類似ではない。
8損害発生の有無及び損害額(前記第4の5の争点)(1)原告の主張ア被告は,イ号物件について,平成16年9月から現在まで,少なくとも合計370台,ロ号物件について,平成16年9月から現在まで,少なくとも合計10台,ハ号物件について,平成16年5月から現在まで,少なくとも合計30台販売した。
イ原告は,独占的通常実施権を設定したオカザキを通じて,ジャクティ社に対し,本件特許1及び2につき,1台あたり10万円でライセンスをした。
しかし,かかる実施料は,事前に友好的な契約が行われた場合の金額であり,事後的に侵害が発覚した場合の相当実施料は少なくとも1台当たり20万円である。オカザキの実施製品において,最も価格が低い製品であっても,1台あたり20万円以上の販売利益があり,イ号物件等において,製品の販売価額から製造費及び納入費用を控除した利益額は,販売価格が約100万円と低い製品であっても30万円以上,販売価格が約400万円と高い製品であれば130万円以上であることからも,1台あたり少なくとも20万円の実施料は妥当な額である。
ウイ号物件については,370台販売されたので7400万円,ロ号物件については10台販売されたので200万円,ハ号物件については30台販売されたので600万円の合計8200万円が,特許法102条3項により,原告の被った損害である。仮に1台10万円が相当実施料であったとしても原告の損害は合計4100万円である。原告は,被告に対し,上記の損害の一部である3000万円の損害賠償を請求する。
エ本件においては,被告に対し,イ号物件等の製造・販売等の事実に関する売上台帳等につき文書提出命令が出されているが,被告は同命令に従わなかったので,原告が主張する上記アの事実は真実と認められるべきである。
オ原告に損害は発生していないという被告の主張は争う。
(2)被告の主張争う。原告が主張する被告の販売数は虚偽であり,被告は利益を得ていない。
イ号物件及びロ号物件は,本件発明1及び本件発明2と大きく形状が異なり,販売すれば購入者からのクレームが続出し,絶えず改良費用の発生を余儀なくされ,利益計上に至っていない。したがって,原告には損害は発生していない。
第6当裁判所の判断1イ号物件の構成及びパワーショベルに取り付けた場合の本件発明2の技術的範囲の属否(間接侵害の成否)(前記第4の1の争点)(1)イ号物件の形状ないし構造,構成要件Iの充足イ号物件が,イ号図面のとおりの形状ないし構造であること,原告の主張する構成i1を備え,構成要件Iを充足することについては争いがない。
(2)構成要件Hについてア構成要件Hの「ホルダー」の意義(ア)国語的な意味広辞苑(第6版)によると,「ホルダー」は「?@支えるもの。挟むもの。
?A保持者」とされている。本件発明2は「廃材用切断装置」の発明であるから,構成要件Hの「ホルダー」が,上記のうち?Aではなく?@の意味で使われていることは明らかである。
(イ)本件明細書2の記載本件明細書2の【発明の詳細な説明】には次の記載があることが認められる(甲4)。
【0009】【発明の実施の形態】「以下に,本発明の実施の形態を図面に示す一実施例に基づいて説明する。図1乃至図4は本発明の一実施例を示すもので,同図中,1は後記するパワーショベル14の多関節アーム15に取付け自在とされたホルダー,2は該ホルダー1の先部に所定間隔をおいて並列状に取付けられた両側一対の湾曲状受片,…4は両側受片2の中間部位に軸5を介して嵌合自在に軸着された略半円形状の可動刃,…10は前記両側の受片2に各々対応すべくその基端部に若干揺動自在に軸着された両側一対の被切断物掛止用掛止片で,…」【0010】「上述のごとく構成された切断装置は,図3に示すように,パワーショベル14の多関節アーム15先部に所要の取付け部材を介して取付け,…」(ウ)本件発明2の廃材用切断装置本件発明2に係る物は,本件発明2の構成要件L及び本件明細書2の【発明の名称】にあるとおり「廃材用切断装置」である。また,本件明細書2の【発明の詳細な説明】において,【0001】【発明の属する技術分野】「本発明は,主として木製廃材などを切断せしめるさいに使用する廃材用切断に関する。」と記載されている(甲4)。さらに,構成要件Iは「該可動刃には流体圧シリンダ8が接続されて」とある。
以上の本件明細書2の記載及び証拠(甲7,8,乙9ないし11,14,17,18)及び弁論の全趣旨によれば,本件発明2において想定されている廃材用切断装置は,可動刃を流体圧シリンダで作動させて,廃材を可動刃でもって切断するものであって,しばしばパワーショベルのアームの先端に取り付けて用いられるものと認められる。
(エ)本件発明2における「ホルダー」本件発明2の構成要件Hは「ホルダー1の先部に略湾曲状とされた両側一対の受片2が所定間隔をおいて並設され」構成要件Iは「該受片2間,には外周縁に鋸歯状刃体6を備えた略半円形状の可動刃4が嵌合自在に軸着され…」,構成要件Kは「上記受片2に対向すべくその基端部に…両側一対の被切断物掛止用掛止片10が拡開状に配設されて…」である。よって,本件発明2のホルダーは,先部に一対の受片が並設され,受片の間に可動刃が軸着され,掛止片が受片の基端部に配設されているものである。
(オ)本件発明2における「ホルダー」の意義前記認定のとおり,「ホルダー」の国語的な意味は,「支えるもの。挟むもの。」であること,本件発明2に係る廃材用切断装置は,しばしばパワーショベルのアームの先端に取り付けて用いるものであること,本件発明2の構成要件H,I,Kにおいて,「ホルダー」は,先部に一対の受片が並設され,受片の間に可動刃が軸着され,掛止片が受片の基端部に配設されてなるものであるとされていることからすれば,本件発明2における「ホルダー」は,切断装置のうち,少なくとも受片及びこれに配設された掛止片と可動刃の軸着部を支える部分(したがって,同切断装置がホルダーによって他の物(例えばパワーショベルのアーム)に取り付けられた場合には,切断装置の受片及びこれに配設された掛止片と可動刃の軸着部が当該他の物(例えばパワーショベルのアーム)に取り付けられた状態を保持することになる部分)と解される。
したがって,「ホルダー」は切断装置のうち,少なくとも受片及びこ,れに配設された掛止片と可動刃の軸着部を支える部分であると解すべきである。
(カ)本件明細書2に記載の実施例における「ホルダー」上記の本件明細書2の【発明の詳細な説明】によれば,本件明細書2に記載の実施例において,「ホルダー」は,パワーショベル14の多関節アーム15に取付け自在とされ,その先部に所定間隔をおいて両側一対の湾曲状受片2が並列状に取り付けられ,両側受片2の中間部位に軸を介して可動刃4が軸着され,受片2に対応すべくその基端部に掛止片10が軸着されていること,本件発明2の切断装置は,パワーショベル14の多関節アーム15先部に所要の取付け部材を介して取り付けられていることが認められる。
上記事実からすれば,本件明細書2に記載の実施例の「ホルダー」は,切断装置のうち,受片及びこれに配設された掛止片と可動刃の軸着部を含む切断装置全体を支えており,同切断装置がホルダーによってパワーショベルの多関節アームに取り付けられていることにより,受片及びこれに配設された掛止片と可動刃の軸着部を含めた切断装置全体をパワーショベルの多関節アームの先部に取り付けられた状態を保持しているものと認められる。
上記実施例における「ホルダー」は,パワーショベルのアームに取り付けられた状態において,切断装置の受片及びこれに配設された掛止片と可動刃の軸着部に限らず,切断装置全体についてパワーショベルの多関節アームの先部に取り付けられた状態を保持している(切断装置全体を支えている)が,上記は実施例にすぎないから,これをもって,「ホルダー」が切断装置全体を支えるものに限定されるとすることはできない。
そして,本件明細書2によっても,本件発明2における「ホルダー」の意義を更に限定すべき理由を見出すことはできない。
(キ)まとめ構成要件Hの「ホルダー」は,切断装置のうち,少なくとも受片及びこれに配設された掛止片と可動刃の軸着部を支える部分であれば足りると解される。
イイ号物件の構成要件Hの充足被告は,平成19年3月8日付け準備書面(1)の3ページの表(別紙表2)において,イ号物件は,「パワーショベルのアーム先端に直接取付材を装着し,この取付材が本体フレームをなし,この延長が受片?Aを形成し,この取付材内に鋸歯状刃物?Cや掴持片?B等を内蔵し」ていることを認めている。
なお,被告の技術者である従業員も,その陳述書(乙7,8)において,イ号物件は,「パワーショベルの多関節アームの先端に直づけした本体フレームに,可動刃?C,鋸歯状刃体?E等を内蔵し」ているものであることを認めている。
このように,被告は,被告が「取付材」とする部分は,パワーショベルのアーム先端に装着されることにより,イ号物件(受片及びこれに配設された掛止片と可動刃の軸着部が含まれている。)がパワーショベルのアームに取り付けられた状態を保持しているものであること,したがって,受片及びこれに配設された掛止片と可動刃の軸着部を支えているものであることを認めている。
したがって,イ号物件において,被告が「取付材」と呼んでいる部分は,受片及びこれに配設された掛止片と可動刃の軸着部を支えているものであるから,構成要件Hの「ホルダー」であるということができる。
イ号図面においては,被告が「取付材」と呼んでいる部分は,1として図示されている。被告は,イ号物件の構成要件Hの充足性について,「ホルダー」の有無以外の点については争っておらず,イ号図面においても明らかなとおり,イ号図面で1として図示されている部分は,その先部に受片2を有し,同受片は略湾曲状であり,両側一対で所定間隔をおいて並設されている。
よって,イ号物件は,「ホルダー」を有しており,「ホルダーの先部に略湾曲状とされた両側一対の受片2が所定間隔をおいて並設され」ている構成を有しているので,構成要件Hを充足する。
ウ被告の主張について被告は,1)本件明細書1の図4では,ホルダーと取付材が回転ピン,軸受金で回転支持されているので,「ホルダー」は,取付材に対し回転できる構造を有し,油圧ショベルに対して切断装置を回転自在に支持するものであり,2)このように解することが本件発明2の発明者の意図とも合致するし,3)オカザキの本件発明2の実施品もアームに対し切断機部分がホルダーにより回転可能なものであると主張する。
しかし,前記のとおり,本件発明2における「ホルダー」は,切断装置のうち,少なくとも受片及びこれに配設された掛止片と可動刃の軸着部を支える部分であれば足りると解される。被告が指摘する本件明細書1の図4は,本件発明1の一実施例にすぎず,本件発明2の実施例でもなく,本件発明2の構成要件の解釈に影響を与えるものではない。
そして,本件明細書2を精査しても,「ホルダー」が取付材に対し回転できる構造を有し,油圧ショベルに対して切断装置を回転自在に支持するものに限定され,回転機能を含まないものは「ホルダー」に含まれないことを示唆する記載はない。また,本件発明2の発明者が,本件発明2の「ホルダー」を回転機能を含むものに限定するという意図であったことを認めるに足りる証拠はないし,オカザキによる本件発明2の実施品において,「ホルダー」に該当する部分が回転機能を有するものであったとしても,それはあくまで一実施品にすぎないのであって,本件発明2の「ホルダー」が回転機能を有するものに限定される根拠とはならない。よって,被告の主張は理由がない。
(3)構成要件Kについてア本件明細書2の記載本件明細書2の【発明の詳細な説明】には,前記(2)ア(ア)の記載に加えて,次の記載があることが認められる(甲4)。
【0003】【発明が解決しようとする課題】「ところで,上述のごとく構成された従来例は,両側の受片間に鋸歯状の可動刃を嵌合せしめて挽き切り状に切断せしめるものであるから,比較的粘性の大な被切断物を切断せしめる場合には切断部位を中心として略V字形状に折曲して跳ね上がり,スムーズな切断がしずらいものである。また,一度に切断することが出来ない大径状の被切断物を二度切りして切断,即ち,可動刃により所要の深さに初期切断せしめたのち可動刃を抜き去り,再度切断作動せしめて切断する場合においても,被切断物に喰い込んだ可動刃の引き抜きが非常に面倒で煩しく,ひいては,切断能率の低下を招来せしめるものである。」【0004】「本発明は,かかる従来例の問題点を一挙に解決し,通常の被切断物のみならず,比較的粘性を有する被切断物,あるいは,一度に切断することが出来ない大径状の被切断物をも常に容易に,しかも,迅速,かつ確実に切断せしめることが出来る,廃材用切断装置を提供しようとするものである。」【0006】「そして,請求項1記載の発明に係る廃材用切断装置は,特に比較的粘性を有する被切断物Aを掛止片8に掛止支持せしめて跳ね上りを防止せしめ,また,一度に切断することが出来ない被切断物Aを掛止片10に掛止支持せしめつつ初期切断時の可動刃4を容易に抜き去ることが出来るものであって,常に被切断物Aの性状や大小を問わずスムーズに,しかも,迅速かつ確実に切断せしめることが出来る。」【0009】【発明の実施の形態】「…10は前記両側の受片2に各々対応すべくその基端部に若干揺動自在に軸着された両側一対の被切断物掛止用掛止片で,該各掛止片10は受片2との間に所要径の被切断物Aを掛止支持せしめるべく受片2に対して所要の角度をもって拡開状に設定せしめられている。
11は上記掛止片10に掛止して可動刃4の回動を制御せしめるべくその背部に突設された上死点用ストッパーピン,12は同基端部にフランジ13を介して突設された下死点用ストッパーピンである。…」【0010】「…即ち,図4に示すように,油圧シリンダ8の作動により軸5を中心として可動刃4を開作動せしめ,両側の受片2間に被切断物Aを横架状に支持せしめる。しかるのち,油圧シリンダ8の作動により可動刃4を閉作動せしめつつ両側の受片2間に嵌合せしめ,鋸刃状刃体6を被切断物Aに食込まてその逃げを防止せしめつつ切断せしめる。そして,例えば,比較的粘性を有する被切断物Aを切断せしめるさいに,その切断部位を中心として略V字形状に折曲して跳ね上ったさいには両側の掛止片10に掛止支持せしめつつスムーズに,しかも,迅速かつ確実に切断せしめることが出来る。また,一度に切断することが出来ない大径状の被切断物Aを二度切りして切断せしめるさいにおいても,被切断物Aを掛止片10に掛止支持せしめつつ初期切断時の可動刃4を容易に抜き去り,再度切断作動せしめて容易に,しかも,迅速かつ確実に切断せしめることが出来るものである。」【0013】【発明の効果】「請求項1記載の発明は上述のように構成されているから,通常の被切断物Aのみならず,比較的粘性を有する被切断物Aを掛止片8に掛止支持せしめて跳ね上りを防止せしめ,また,一度に切断することが出来ない被切断物Aを掛止片10に掛止支持せしめつつ初期切断時の可動刃4を容易に抜き去ることが出来るものであって,常に被切断物Aの性状や大小を問わずスムーズに,しかも,迅速かつ確実に切断せしめることが出来るものである。」イ本件発明2における「掛止片」の意義「掛止片」の字義からすれば,「掛止片」は「掛止する」機能を持つ部材であるものと解される。そして,前記に認定した本件明細書2の記載からすれば,本件発明2の掛止片は,切断しようとする廃材を掛止して,例えば,比較的粘性を有する廃材の跳ね上がりを防止したり,一度に切断することが出来ない大径状の廃材を二度切りする際に可動刃を抜いたりするものであるから,「掛止する」対象は,切断しようとする廃材と認められる。
そして,他に「掛止片」を限定すべき事情も認められないから,本件発明2の「掛止片」は,切断しようとした廃材を「掛止する」機能を持つものであれば足りるというべきである。
ウ被告の主張について被告は,1)本件明細書2の記載は掛止片が揺動型のものであること,2)本件発明2の発明者は,掛止片が揺動型のものを想定していたことから,構成要件Kの「掛止片」は揺動型のものに限定されると主張する。
確かに,前記で認定したとおり,本件明細書2には,「…10は前記両側の受片2に各々対応すべくその基端部に若干揺動自在に軸着された両側一対の被切断物掛止用掛止片で,…」「…11は上記掛止片10に掛止して可動刃4の回動を制御せしめるべくその背部に突設された上死点用ストッパーピン,12は同基端部にフランジ13を介して突設された下死点用ストッパーピンである。…」といった記載があり,掛止片が揺動型のものについての記載があるが,いずれも実施例の説明の部分における記載であって,掛止片が揺動型のものは本件発明2の一実施例にすぎない。
そして,掛止片が揺動型であろうと固定型であろうと,切断しようとした廃材を「掛止する」機能を有し得ることは自明であるから,本件発明2の「掛止片」を上記一実施例で示されているにすぎない揺動型に限定すべき理由はない。また,本件発明2の発明者は,掛止片を揺動型のものに限定していたと認めるに足りる証拠もない。よって,構成要件Kの「掛止片」が揺動型のものに限定されるという被告の主張は理由がない。
なお,被告は,本件明細書2の【発明の詳細な説明】の【0006】「…常に被切断物Aの性状や大小を問わずスムーズに,しかも,迅速かつ確実に切断せしめることができる。」という記載をもって,大小の大きさの被切断物に対応できるということは掛止片が揺動型であることの根拠とするようであるが,上記明細書の記載は,その前の記載において,径の大きな被切断物を切断する場合は二度切りが必要で,その際可動刃の被切断物からのスムーズな抜き去りの可否が問題となる旨記載しているという文脈からすれば,掛止片を揺動型にして,被切断物の大きさに合わせて,大小の被切断物に対応するという趣旨で記載されたものではなく,二度切りが必要な径の大きい被切断物についても,本件発明2の効果として,可動刃の被切断物からのスムーズな抜き去りを可能として,一度切りで足りる径の小さい被切断物と同様に,スムーズ,迅速かつ確実に切断できるという趣旨であることが明らかであるから,被告の主張は失当である。
エイ号物件の構成要件Kの充足被告は,イ号物件の掛止片が受片と共に溶接一体型であり固定型であるという前提で,原告が主張する構成k1を有することを認めている。
イ号図面において,掛止片は5で図示される。証拠(乙10,18)によれば,被告のパンフレットにおいて,イ号物件の掛止片に相当する部分は「ストッパー」という名前が付されており,「ノコギリ刃に噛み込んで離れない時は,全開にすると左右のストッパーにより離脱します。」と説明されている。また,証拠(乙14)によれば,イ号物件とほぼ同じ形状の図面の記載がある公開特許公報において,本件発明2の掛止片に相当する部分は「三日月状のストッパ30」とされているが,ストッパ30は,「切断が途中で中断したときや,切断後被切断物40が切断鋸刃20に附着したときは,図4に示すように,切断鋸刃20を上方に上げ,被切断物40を前記ストッパ30に当接させれば自動的に附着物や樹木等の被切断物40を除去できる。」と説明されている。
以上の事実によれば,イ号図面において5で図示される部材(被告のパンフレットの名称はストッパー)は,切断しようとする廃材が可動刃(ノコギリ刃)に噛み込んだとき,可動刃を上げた(全開にした)際に上記廃材を掛止する機能を有している(これにより可動刃から廃材を離脱させる役割を果たす)ものであるから,本件発明2の「掛止片」に該当する。
そして,前記のとおり,被告は,イ号物件の掛止片が受片と共に溶接一体型であり固定型であるという前提であれば,原告が主張する構成k1を有することを認めているから,イ号物件は,構成要件Kを充足する。
(4)構成要件J,Lについてア構成要件Jの解釈(ア)「シリンダー」の国語的意味広辞苑(第6版)によれば,「シリンダー」は「?@円筒。円柱。?A往復運動機関の主要部分の一つ。鋼製または鋳鉄製の中空円筒状で,その内部をピストンが往復して所要の仕事を行う。気筒。シリンドル。?Bハード・ディスクに記録されたデータを管理する区分の一つ。」とされている。
(イ)本件明細書2の記載本件明細書2の【発明の詳細な説明】には,前記記載に加えて,次の記載があることが認められる(甲4)【0005】【課題を解決するための手段】「…該受片2間には外周縁に鋸刃状刃体6を備えた略半円形状の可動刃4が嵌合自在に軸着されると共に,該可動刃4には流体圧シリンダ8が接続されてなる廃材用切断装置であって,…」【0008】「そして,請求項2記載の発明に係る廃材用切断装置は,流体圧シリンダ8の作動により可動刃4を介して掴持部7を固定掴持片3方向に可動せしめ…」【0009】【発明の実施の形態】「…8は可動刃4を可動せしめるべくその背部下端に取付け部材9を介して接続された油圧シリンダで,該油圧シリンダ8の基端部は受片2の基端部に枢着されている。」【0010】「…油圧シリンダ8の作動により軸5を中心として可動刃4を開作動せしめ…。しかるのち,油圧シリンダ8の作動により可動刃4を閉作動せしめつつ…」【0011】「…流体圧シリンダ8の作動により軸5を中心として可動刃4を閉作動せしめることにより…。しかるのち,…油圧シリンダ8の作動により可動刃4を開作動せしめることにより…」【0012】「なお,上記実施例において,可動刃4は油圧シリンダ8により作動せしめるものとされているが,これに限定されるものでなく,エアシリンダなどの流体圧シリンダを採択してもよいものである。」(ウ)「流体圧シリンダ」の意義前記認定によれば,「シリンダー」の国語的意味は,往復運動機関の主要部分の一つで,中空円筒状の内部をピストンが往復して所要の仕事を行うものであること,本件明細書2の記載によれば,「流体圧シリンダ」は,受片の間に軸着された可動刃に接続されて,可動刃を作動させる作用を有するものであること,本件明細書2に記載の実施例においても「流体圧シリンダ」に含まれる「油圧シリンダ」も,可動刃を軸を中心として開作動ないし閉作動させるものであることが認められるので,本件発明2の「流体圧シリンダ」は,「流体圧」により内部でピストンが往復して動力を生じさせて可動刃に伝え,可動刃を作動させる作用を有するものであると解される。
(エ)可動刃と流体圧シリンダの「接続」の意義「流体圧シリンダ」が上記のとおりの意味であると解され,上記のとおりの役割を果たすものであることからすれば,「流体圧シリンダ」が「可動刃」に対して,可動刃に動力を伝えて可動刃を作動させることができる方法で接続されていれば,「該可動刃4には流体圧シリンダ8が接続されてなる」ということができると解される。そして,本件明細書2には,可動刃と流体圧シリンダとの接続の方法について,直接的に接続されているものに限定するとか,他のものを介して間接的に接続されたものは含まないといった記載やこれを示唆する記載はないし,可動刃と流体圧シリンダとの接続が直接であっても間接であっても,流体圧シリンダからの動力を可動刃に伝え,可動刃を作動させるという作用をすることが可能であることは,当業者にとって自明であるから,本件発明2の構成要件Jの可動刃と流体圧シリンダとの「接続」を直接的な接続に限定して解釈しなければならない理由はない。
イイ号物件をパワーショベルに設置した場合の構成要件J,Lの充足イ号物件をパワーショベルの取り付けた場合,証拠(乙1,8,10,11,18)によれば,別紙「イ号物件の商品化の販売装着図」の中央右端の図のとおり,可動刃は,ピンによりHリンクに固定され,サイドサポートリンクを介して,バケットシリンダに接続されることになることが認められ,バケットシリンダは「流体圧シリンダ」であることについて争いがない。そして,可動刃と流体圧シリンダとの「接続」は,前記のとおり,他の物を介した間接的なものであっても「接続」に含まれ,イ号物件をパワーショベルに取り付けると廃材用切断装置となるので,イ号物件をパワーショベルに取り付けた場合,構成要件J,Lを充足する。
ウ被告の主張について(ア)被告は,イ号物件は,パワーショベルに取り付けた状態では,可動刃は,サイドサポートリンク,Hリンクを介してバケットシリンダに接続されているので,本件発明2の可動刃が取付け部材9を介して油圧シリンダ8に連結され,その基端は受片2の基端に枢着されているのとは異なるから,構成要件Jを充足しないと主張する。
確かに,イ号物件は,パワーショベルに取り付けた状態では,可動刃はサイドサポートリンク,Hリンクを介してバケットシリンダに接続されているが,前記のとおり,構成要件Jの「接続」は,直接接続されている場合に限定されるのではなく,流体圧シリンダの動力が可動刃に伝わるように接続されていれば足りるのであり,他の物も介した間接的な接続も含まれる。被告のいう可動刃が取付け部材9を介して油圧シリンダ8に連結され,その基端は受片2の基端に枢着されている接続態様は,本件明細書2に記載された一実施例にすぎず,本件発明2の内容が本件明細書2に記載された実施例に限定されるべき理由はないので,イ号物件をパワーショベルに取り付けた状態が,本件明細書2に記載の実施例と異なるからといって,構成要件Jを充足しない根拠とはならない。
(イ)被告は,イ号物件をパワーショベルに取り付けた状態では,イ号物件の可動刃は,油圧ショベル固有のシリンダで揺動しているのであり,本件発明2のように,ホルダーに別置きの流体圧シリンダで揺動させるものではないから,構成要件Jを充足しないと主張する。
しかし,構成要件Jの「流体圧シリンダ」は,前記のとおり,「流体圧」により内部でピストンが往復して動力を生じさせて可動刃に伝え,可動刃を作動させる作用を有するものであると解され,「該可動刃4には流体圧シリンダ8が接続されてなる」とは,「流体圧シリンダ」が「可動刃」に対して,可動刃に動力を伝えて可動刃を作動させることができる方法で接続されていればよいと解されるのであって,構成要件Iでは,可動刃は,受片間に軸着されていることが必要とされているのに対し,「流体圧シリンダ」については,本件発明2のいずれの構成要件においても,本件明細書2においても,油圧ショベルのシリンダとは別である,ホルダーや受片内に設置されたシリンダに限定され,それ以外の場所にあるシリンダは含まない旨の記載やこれを示唆する記載はない。本件明細書2には,その基端部が受片2の基端部に枢着された流体圧シリンダで可動刃を作動させる実施例の記載はあるが,本件発明2が同実施例の形態に限定されるべき理由はない。よって,この点に関する被告の主張は理由がない。
(ウ)被告は,イ号物件は,可動刃に流体圧シリンダが接続された廃材用切断装置という構成は有していないから,構成要件Lを充足しないと主張する。確かに,イ号物件それ自体は,可動刃に流体圧シリンダが接続された廃材用切断装置という構成は有しておらず,構成要件Lを充足しないが,前記のとおり,イ号物件をパワーショベルに取り付けた状態で可動刃に流体圧シリンダが接続された廃材用切断装置という構成を有し,構成要件J,Lを充足するので,被告の主張は理由がない。
(5)間接侵害の成否ア特許法101条1号の要件の充足以上のとおり,イ号物件がパワーショベルに取り付けられた状態,すなわちバケットシリンダに接続された状態のものは,本件発明2の構成要件H,I,J,K,Lをすべて充足するから,本件発明2の技術的範囲に属する物である。
被告は,イ号物件が別紙「イ号物件の商品化の販売装着図」のとおり,油圧パワーショベルに取り付けられて用いる物であることを認めている。
そして,証拠(甲7,乙10,11,18)によれば,イ号物件は,そのパンフレットにおいて,使用時の写真ないし絵としては,専らパワーショベルに取り付けられて廃材の切断に使用している状態の写真ないし絵が掲載されていることが認められる。そして,イ号物件それ自体は,動力を発生させるシリンダを有しておらず,また,可動刃を作動させて被切断物の切断を可能とし,イ号物件を被切断物のところに移動させて切断位置に維持するには,パワーショベルと接続して,パワーショベルの流体圧シリンダを用いて可動刃を作動させ,パワーショベルのアームによりイ号物件を被切断物のところに移動させて切断位置に維持することが必要であるから,イ号物件は,パワーショベルに取り付けられる以外の用途は想定できず,専らパワーショベルに取り付けられる物と認められる。
したがって,イ号物件は,パワーショベルに取り付けて,本件発明2の技術的範囲に属する物を製造することにのみ用いられるものであるから,業としてイ号物件を製造・販売することは,物の発明である本件発明2について,「業として,その物の生産にのみ用いる物の生産,譲渡」に該当し,特許法101条1号により,本件特許権2を侵害するものとみなされる。
イ被告の主張について被告は,イ号物件は,廃材切断装置のみに用いるという認識で製造販売しているのではなく,切断機本体で,切断物のかき上げ,かきおろし,受片と可動刃で切断物を掴んで運搬するのに用いられるので,パワーショベルに取り付けて廃材用切断装置としてのみ用いるものではなく,特許法101条1号の「物の生産にのみ用いる物」にはあたらないと主張する。
しかしながら,イ号物件をパワーショベルに取り付けたものは,切断物のかき上げ,かきおろし,受片と可動刃で切断物を掴んで運搬するという他の機能を有するとしても,廃材を切断する機能のある装置である以上,廃材用切断装置であって,本件発明2の技術的範囲に属する物である。そして,イ号物件が,イ号物件をパワーショベルに取り付けたもの,すなわち本件発明2の技術的範囲に属する物の生産にのみ用いる物であることは前示のとおりであるから,その業としての製造販売は本件特許権2を侵害するものとみなされるのである。
被告の主張は理由がない。
2ロ号物件の構成及びパワーショベルに取り付けた場合の本件発明2の技術的範囲の属否(間接侵害の成否)(前記第4の2の争点)(1)ロ号物件の形状ないし構造,構成要件Iの充足ロ号物件が,ロ号図面のとおりの形状ないし構造であること(ただし,ロ号物件のパワーショベルのアームへの具体的な取け付け方法及び掴脚に接続された油圧シリンダの有無を除く。),原告の主張する構成i2を備え,構成要件Iを充足することについては争いがない。
(2)構成要件Hについてア構成要件Hの「ホルダー」の意義については前記のとおりである。
イロ号物件の構成要件Hの充足被告は,平成19年3月8日付け準備書面(1)の3ページの表において,イ号物件は,「パワーショベルのアーム先端に直接取付材を装着し,この取付材が本体フレームをなし,この延長が受片?Aを形成し,この取付材内に鋸歯状刃物?Cや掴持片?B等を内蔵し」ていることを認めているが,「フォークワニラーV」すなわちロ号物件についても「同左」として,同じであることを認めている。
したがって,被告は,被告が「取付材」とする部分は,パワーショベルのアーム先端に装着されることにより,ロ号物件がパワーショベルのアームに取り付けられた状態を保持しているものであること,その延長が受片を形成し,鋸歯状刃物や掴持片を内蔵して本体フレームをなしており,切断装置それ自体を保持しているものであることを認めているということができる。前記のとおり,構成要件Hの「ホルダー」は,切断装置のうち,少なくとも受片及びこれに配設された掛止片と可動刃の軸着部を支える部分であるから,ロ号物件において,被告が「取付材」と呼んでいる部分は,構成要件Hの「ホルダー」であるということができる。
ロ号図面においては,被告が「取付材」と呼んでいる部分は1として図示されている。被告は,イ号物件の構成要件Hの充足性について,「ホルダー」の有無以外の点については争っておらず,ロ号図面においても明らかなとおり,ロ号図面で1として図示されている部分は,その先部に受片2を有し,同受片は略湾曲状であり,両側一対で所定間隔をおいて並設されている。
よって,ロ号物件は,「ホルダー」を有しており,「ホルダー1の先部に略湾曲状とされた両側一対の受片2が所定間隔をおいて並設され」ている構成を有しているので,構成要件Hを充足する。
ウ被告の主張については,イ号物件のところで述べたとおりである。
(3)構成要件Kについてア本件発明2における「掛止片」の意義については前記のとおりである。
イロ号物件の構成要件Kの充足被告は,ロ号物件の掛止片が受片と共に溶接一体型であり固定型であるという前提で,原告が主張する構成k2を有することを認めている。
前記のとおり,本件発明2の「掛止片」は,切断しようとした廃材を「掛止する」機能を持つものであれば足りる。
ロ号物件の掛止片は,ロ号図面では5で図示され,別紙「ロ号物件の正確な説明補足と甲第2号証図-4との根本的相違点」の右側の絵において,可動刃が被切断物たる廃材を切断した後,これを被切断物から抜き去るときに,受片から若干浮き上がった被切断物が「掛止片(固定型)」により掛止されて,その状態で可動刃が引き抜かれている場面が描かれており,被告自身,ロ号物件の掛止片は,被切断物を掛止して被切断物からの可動刃の引き抜きを容易にするものであることを認めている。したがって,ロ号物件の掛止片は本件発明2の「掛止片」に該当する。そして,前記のとおり,被告は,ロ号物件の掛止片が受片と共に溶接一体型であり固定型であるという前提であれば,原告が主張する構成k2を有することを認めており,構成k2は構成要件Kを充足するから,ロ号物件は,構成要件Kを充足する。
ウ被告の主張についてはイ号物件のところで述べたとおりである。
(4)構成要件J,Lについてア構成要件Jの解釈については前記のとおりである。
イロ号物件をパワーショベルに設置した場合の構成要件J,Lの充足ロ号物件をパワーショベルの取り付けた場合,証拠(甲7,乙2,8,11)によれば,ロ号図面及び別紙「ロ号物件の正確な説明補足と甲第2号証図-4との根本的相違点」の右側の絵のとおり,可動刃は,ピンによりHリンクに固定され,サイドサポートリンクを介して,バケットシリンダに接続されていることが認められ,バケットシリンダは「流体圧シリンダ」であることについて争いがない。そして,可動刃と流体圧シリンダとの「接続」は,前記のとおり,他の物を介した間接的なものであっても「接続」に含まれ,ロ号物件をパワーショベルに取り付けると廃材用切断装置となるので,ロ号物件をパワーショベルに取り付けた場合,構成要件J,Lを充足する。
ウ被告の主張についてはイ号物件のところで述べたとおりである。
(5)間接侵害の成否ア特許法101条1号の要件の充足以上のとおり,ロ号物件がパワーショベルに取り付けられた状態,すなわちバケットシリンダに接続された状態のものは,本件発明2の構成要件H,I,J,K,Lをすべて充足するから,本件発明2の技術的範囲に属する物である。
被告は,ロ号物件が別紙「ロ号物件の正確な説明補足と甲第2号証図-4との根本的相違点」のとおり,油圧パワーショベルに取り付けられて用いる物であることを認めている。
そして,証拠(甲7,乙11)によれば,ロ号物件は,そのパンフレットにおいて,使用時の写真としては,専らパワーショベルに取り付けられて廃材をフォークで運搬している状態の写真が掲載され,「一台のシリンダでフォークと切断」「まるで羊カンを切るが如くスンナリ,コロリと切ります!!」という文言が付されていることが認められる。そして,ロ号物件それ自体は,動力を発生させるシリンダを有しておらず,また,可動刃を作動させて被切断物の切断を可能とし,ロ号物件を被切断物のところに移動させて切断位置に維持するには,パワーショベルなどの重機と接続して,パワーショベルなどの重機の流体圧シリンダを用いて可動刃を作動させ,パワーショベルなどの重機のアームによりロ号物件を被切断物のところに移動させて切断位置に維持することが必要であるから,ロ号物件は,パワーショベルに取り付けられる以外の用途は想定できず,専らパワーショベルに取り付けられる物と認められる。
したがって,ロ号物件は,パワーショベルに取り付けて,本件発明2の技術的範囲に属する物を製造することにのみ用いられるものであるから,業としてイ号物件を製造・販売することは,物の発明である本件発明2について,「業として,その物の生産にのみ用いる物の生産,譲渡」に該当し,特許法101条1号により,本件特許権2を侵害するものとみなされる。
イ被告の主張についてはイ号物件のところで述べたとおりである。
3ハ号物件の構成及び本件発明1の技術的範囲の属否(前記第4の3(1)(2)の争点)(1)ハ号物件の形状ないし構造,構成要件B,C,Dの充足ハ号物件が,ハ号図面のとおりの形状ないし構造であること,構成b3,c3を備えていることについては争いがない。構成b3,c3は,本件発明1の構成要件B,Dを充足するから,ハ号物件は,本件発明1の構成要件B,C,Dを充足する。
(2)構成要件Aについてア構成要件Aの解釈(ア)本件明細書1の記載本件明細書1の【発明の詳細な説明】には次の記載があることが認められる(甲2)。
【0004】「本発明は,…主として木製廃材を確実に切断せしめることが出来る…,…廃材用切断装置を提供しようとするものである。」【0006】「そして,本発明のかかる廃材用切断装置は,両側の受片2に木製廃材などの被切断物Aを横架状に保持せしめつつ,流体圧シリンダ8の作動により刃体6が鋸歯状とされた可動刃4を受片2間に嵌合せしめ,鋸歯状刃体6を被切断物Aに食込ませてその逃げを防止せしめつつ確実に切断せしめることが出来るのみならず,…」【0008】「…即ち,図4に示すように,油圧シリンダ8の作動により軸5を支点として可動刃4を開作動せしめ,両側の受片2間に被切断物Aを横架状に保持せしめる。しかるのち,油圧シリンダ8の作動により刃体6が鋸歯状とされた可動刃4を閉作動せしめて受片2内に嵌合せしめ,鋸歯状刃体6を被切断物Aに食込ませてその逃げを防止せしめつつ切断せしめる。このさい,被切断物Aを受片2内に保持せしめつつ可動刃4により切断せしめるものであるから,木製廃材などの切断を常に確実に行うことが出来る。」【0011】【発明の効果】「請求項1記載の発明によれば以上の次第で,ホルダー1の先部に略湾曲状とされた両側一対の受片2が所定間隔をおいて並設され,該受片2間には略半円形状の可動刃4が嵌合自在に軸着され,該可動刃4はその弧状外周縁に沿って鋸歯状刃体6が形成され,可動刃4には流体圧シリンダ8が接続され,…ているから,両側の受片2間に被切断物Aを横架状に保持せしめつつ,流体圧シリンダ8の作動により刃体6が鋸歯状とされた可動刃4を受片2内に嵌合せしめ,鋸歯状刃体6を被切断物Aに食込ませてその逃げを防止せしめつつ確実に切断せしめることが出来るものであって,特に木製廃材などの被切断物Aを確実に切断せしめことが出来るのみならず,…」(イ)本件発明1における「受片」上記の本件明細書1の記載によれば,受片は,被切断物を横架状に保持し,流体圧シリンダの作動により可動刃を両側一対の受片の間に嵌合させて,可動刃を被切断物に食込ませて,その逃げを防止せしめつつ,確実に切断させるという作用を有するものであることが認められる。
そして,構成要件Aにおいて,受片は,略湾曲状で両側一対で所定間隔をおいて並設されていることを要し,構成要件Bにおいて,両側一対の受片の間に可動刃が嵌合自在に軸着されていることが要求されているが,受片が略湾曲状であるのは,被切断物を横架状に保持するためであり,受片が両側一対で所定間隔をおいて並設され,その間に可動刃が嵌合自在に軸着されているのは,被切断物が受片に保持されている状態で,可動刃を被切断物に食い込ませて,更に受片と受片の間の隙間ないし空間に可動刃が進入するようにし,こうして被切断物の逃げを防止して確実に切断できるようにするためであることが理解できる。
とすれば,本件発明1の受片は,被切断物を横架状に保持し,可動刃が被切断物を切断しようとするときに,被切断物の逃げを防止できる程度に略湾曲状にカールしていれば足りるのであり,可動刃が被切断物に食い込んで,更に受片と受片の間の隙間ないし空間に可動刃が進入することができる程度に,受片が両側一対で所定間隔をおいて並設され,その間に可動刃が嵌合自在に軸着されていれば,本件発明1の効果を発揮することは可能であるから,本件発明1の「受片」としては足りる。
そして,本件明細書1には,受片の形状を明細書に記載の実施例その他の一定の形状に限定する旨の記載や示唆はない。
構成要件Aの充足ハ号図面のとおり,ハ号物件は,ホルダーの先端に一対の受片を有し,同受片は所定間隔を置いて並設され,先端が略湾曲状であることが認められ,構成a3を備えていることが認められるところ(その形状自体は被告も争っていないものと思われる。),これらは構成要件Aを充足するから,ハ号物件は構成要件Aを充足する。
ウ被告の主張について被告は,別紙「ハ号物件と本件発明1,本件発明2,本件意匠の相違点」記載のとおり,ハ号物件の受片は,下部の開き幅が上部の閉開幅の2倍以上で,被切断物が容易に落下し,目詰まりしないが,オカザキの製品の受片は,上下等間隔で,切断物が現実に目詰まりして切断不可となり,このようにハ号物件とオカザキの製品とでは,受片の形状が異なるので,構成a3を備えていること及び構成要件Aの充足を否認する。
しかし,前記のとおり,本件発明1の「受片」は,被切断物を横架状に保持し,可動刃が被切断物を切断しようとするときに,被切断物の逃げを防止できる程度に略湾曲状にカールしていれば足り,可動刃が被切断物に食い込んで,更に受片と受片の間の隙間ないし空間に可動刃が進入することができる程度に,受片が両側一対で所定間隔をおいて並設され,その間に可動刃が嵌合自在に軸着されていれば足りる。
そして,被告は,ハ号物件において被切断物を横架状に保持し,可動刃が被切断物を切断しようとするときに,被切断物の逃げを防止できる程度に略湾曲状にカールしていることは争っておらず,可動刃が被切断物に食い込んで,更に受片と受片の間の隙間ないし空間に可動刃が進入することができる程度に,受片が両側一対で所定間隔をおいて並設され,その間に可動刃が嵌合自在に軸着されていることについても争っていない。本件発明1における「受片」の形状が,本件明細書1の実施例あるいはオカザキの製品の形状に限定されないことについては前記のとおりである。よって,被告の主張は理由がない。
(3)構成要件E,Fについてア構成要件E,Fの解釈(ア)本件明細書1の記載本件明細書1の【発明の詳細な説明】には,前記(1)アの記載に加えて次の記載があることが認められる(甲2)。
【0004】「本発明は,…被切断物等を掴持して移動せしめることが出来る,廃材用切断装置を提供しようとするものである。」【0006】「そして,本発明のかかる廃材用切断装置は,…流体圧シリンダ8の作動により可動刃4を介して掴持部7を固定掴持片3方向に可動せしめ,固定掴持片3との間に所要の被切断物Aやその切断片などを掴持せしめることが出来るものである。」【0009】「また,上述のごとく構成された切断装置は,被切断物Aの切断のみならず,被切断物Aやその切断片などを掴持せしめて移動せしめることが出来る。即ち,図5に示すように,流体圧シリンダ8の作動により軸5を支点として可動刃4を閉作動せしめることにより掴持部7と固定掴持片3との間を拡開せしめる。しかるのち,被切断物Aやその切断片などに固定掴持片3を当てがいつつ,油圧シリンダ8の作動により可動刃4を開作動せしめることにより掴持部7と固定掴持片3との間に掴持せしめ,所要の場所に移動せしめるものである。」【0011】【発明の効果】「請求項1記載の発明によれば以上の次第で,…可動刃4には流体圧シリンダ8が接続され,上記受片2の基端部には各々固定掴持片3が立設されると共に,該固定掴持片3に対応すべく可動刃4の背部に掴持部7が形成されているから,…流体圧シリンダ8の作動により可動刃4を介して掴持部7を可動せしめ,固定掴持片3との間に被切断物Aやその切断片などを確実に掴持して所要の場所に移動せしめることが出来るものである。」(イ)本件発明1における「固定掴持片」と「掴持部」上記の本件明細書1の記載によれば,本件発明1の固定掴持片と掴持部は,可動刃を開閉作動させることにより,固定掴持片と掴持部との間を開閉させて,被切断物や切断片等を固定掴持片と掴持部とで掴持する作用を行うものであることが認められ,こうして本件発明1に係る廃材用切断装置は,廃材の切断機能のみならず,廃材等の移動・運搬機能をも併せもつ点に本件発明1の作用効果がある。したがって,本件発明1の固定掴持片と掴持部は,掴持部を開閉させることにより,被切断物等を掴持することができるものであることを要する。
そして,構成要件Eは,固定掴持片が受片の基端部に各々立設されていることを要するものとし,構成要件Fは,掴持部が可動刃の背部に形成されて,固定掴持片に対応するものであることを要するとしている。
したがって,本件発明1の固定掴持片は,受片同様,両側一対で所定間隔をおいて受片の基端部に立設されているもので,可動刃の開閉により掴持部と共に掴持する機能を有するものであれば足りる。また,本件発明1の掴持部は,固定掴持片に対応するように可動刃の背部に形成されて,可動刃の開閉により固定掴持片と共に掴持する機能を有するものであれば足りる。
なお,本件明細書1には,固定掴持片及び掴持部について,一定の形状であるものに限定するとか,実施例の形状に限定する旨の記載や示唆はないし,実施例の形状ではなくても,固定掴持片と掴持部とで切断物等を掴持できるような形状であれば,技術的にも本件発明の作用効果を発揮することが可能であることは自明であるから,本件発明1の固定掴持片及び掴持部の形状は,本件明細書1に記載の実施例の形状に限定されることはな。 いイ構成要件E,Fの充足ハ号図面のとおり,ハ号物件は,受片の基端部に各々固定掴持片が起立形成され,同固定掴持片に対向するように,可動刃の背部に掴持部が形成されていることが認められるところ(その形状自体は被告も争っていないものと思われる。),これらは構成要件E,Fを充足するから,ハ号物件は構成要件E,Fを充足する。
ウ被告の主張について(ア)被告は,本件明細書1には,シングルプレートが単純に2本立った固定掴持片が記載されているところ,ハ号物件の固定掴持片は,2本でも格子構造で切断物の洩れ落下を防止する構造である点で異なるとして,構成e3及び構成要件Eの充足を否認する。
しかし,前記のとおり,本件発明1の固定掴持片は,受片同様,両側一対で所定間隔をおいて受片の基端部に立設されているもので,可動刃の開閉により掴持部と共に掴持する機能を有するものであれば足りる。そして,ハ号物件の固定掴持片が本件発明1の構成要件Eを充足することは前記のとおりであるから,被告の主張は理由がない。
(イ)被告は,本件明細書1には,シングル構造の掴持部が記載されているが,ハ号物件の掴持部は,3本の格子型構造で切断物の落下を防止し,より多くの切断物を掴むことができる点で異なるとして,構成f3及び構成要件Fの充足を否認する。
しかし,前記のとおり,本件発明1の掴持部は,固定掴持片に対応するように可動刃の背部に形成されて,可動刃の開閉により固定掴持片と共に掴持する機能を有するものであれば足りる。そして,ハ号物件の掴持部が本件発明1の構成要件Fを充足することは前記のとおりであるから,被告の主張は理由がない。
(4)構成要件Gについて被告は,ハ号物件は,廃材用切断装置ではなく,廃木材用切断装置であるとして,ハ号物件が構成g3を有することを否認し,構成要件Gの充足を否認する。
しかし,広辞苑(第6版)によれば,「廃材」は「使い道がないとして捨てられた材木や材料」とされており,「廃材」が「廃木材」を含むものであることは明らかであるから,「廃材用切断装置」は「廃木材用切断装置」を含んでいることも明らかである。したがって,ハ号物件は,「廃木材用切断装置」であるとしても,「廃材用切断装置」に含まれるものとして,「廃材用切断装置」であるということができ,構成g3を備えている。よって,ハ号物件は,構成要件Gを充足する。
(5)まとめ以上のとおり,ハ号物件は,本件発明1の構成要件A,B,C,D,E,F,Gをすべて充足するから,本件発明1の技術的範囲に属する。
4ハ号物件の本件発明2の技術的範囲の属否(前記第4の3(3)の争点)(1)ハ号物件の形状ないし構造,構成要件I,Jの充足ハ号物件が,構成b3,c3を備えていることについては争いはなく,構成b3,c3は,本件発明2の構成要件I,Jを充足するから,ハ号物件は,本件発明2の構成要件I,Jを充足する。
(2)構成要件H,Lについて被告は,ハ号物件が構成a3,g3を備えていることを否認し,構成要件H,Lの充足を否認する。しかし,ハ号物件が構成a3,g3を備えていることは前記のとおりであり,構成a3,g3はそれぞれ構成要件H,Lを充足するから,ハ号物件はそれぞれ構成要件H,Lを充足する。
(3)構成要件Kについて被告は,ハ号物件の掛止片が固定型であるのに対し,本件発明2の掛止片は揺動型であることから,構成d3を否認し,構成要件Kの充足を否認する。
しかし,本件発明2の「掛止片」は,切断しようとした廃材を「掛止する」機能を持つものであれば足り,揺動型に限定されないことについては前記のとおりである。
そして,ハ号物件の掛止片は,切断しようとした廃材を「掛止する」機能を持つものであることについては被告も争っていない。よって,ハ号物件は構成要件Kを充足する。
(4)まとめ以上のとおり,ハ号物件は,本件発明2の構成要件H,I,J,K,Lをすべて充足するから,本件発明2の技術的範囲に属する。
5ハ号物件についての本件特許1及び2の許諾の有無(前記第4の3(4)の争点)(1)証拠(各事実の末尾に記載)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
アオカザキとジャクティ社は,平成16年9月30日,本件特許2につき,オカザキがジャクティ社の実施を1台10万円の許諾料で実施許諾する旨の合意をした。合意にあたっては,ジャクティ社は,オカザキに対し,毎月月末に製造台数を報告する,毎年1月と6月に製造計画書を提出する,オカザキは,ジャクティ社の工場を予告なく立ち入り状況確認できるといった条項が設けられていた。(甲15)イ被告の従業員2名は,同年12月27日,オカザキを訪問し,オカザキの本件発明1,2の実施品である製品の写真を撮影させてもらった。
ウオカザキの代理人弁護士は,平成18年4月13日,被告に対し,イ号物件,ロ号物件,ハ号物件の製造販売行為が本件特許権1を侵害するとして,製造販売の中止を求める警告書を送付し,同警告書は同月14日に被告に到達した(甲9の1・2)。
エ被告は,同月17日,オカザキの代理人弁護士に対し,上記の警告書に対する回答書を送付した。その中で「余談ですが,オカザキ製の木材切断機は当社が全面的にPRして年間1台〜2台販売させてもらいました。特許商品だからと言って必ずしも売れない証左であります。」と述べた。(甲10)オ原告の代理人弁護士は,同月24日,被告に対し,イ号物件及びロ号物件が本件特許権2を侵害し,ハ号物件が本件特許権1,2を侵害し,これらの刃は本件意匠権侵害するものとして警告書を送付し,同警告書は同月25日に被告に到達した。(甲11の1・2)カ被告は,同年5月1日,原告の代理人弁護士に対し,イ号物件及びロ号物件は本件特許権2を侵害しない,ハ号物件は本件特許権1,2の「類似品」と判断される,これらの刃は本件意匠権侵害しないとの回答書を送付した。
その中で,被告は,ハ号物件について,カタログ掲載の1台を市場で試用したが期待した評価が得られないので,製作を中止している状態である,今後,もし,ハ号物件を製作するときには,「御社の上記特許権を使用させていただくことになりますので,よろしくお願いいたします。」と記載している。
また,被告は,「尚,オカザキ製のワニラーの製作販売は既に口頭誓約にて1台販売に付き特許料\100,000で合意しています。もし,契約破棄の場合は,一定期間おいた上で契約破棄通告をされたくお願い申し上げます。」「当社はワニラー製品に関し,約3年以上全国PRをして合計6台オカザキより購入して販売しました。使いこなしているのは,2社のみで,まだまだ改良の余地があり,当社の協力がなければ市場に通用する商品になり得ないと思われます。従来通り当社の協力を得ながら1台当たり\100,000でも受領された方が賢明と思われます。」と記載している。(甲12)キ原告の代理人弁護士は,同月31日,被告に対し,イ号物件及びロ号物件は本件特許権2を侵害しない,これらの刃は本件意匠権侵害しないという被告の主張に対し反論する書面を送付し,同書面は,同年6月1日,被告に到達した。なお,原告の代理人弁護士は,同書面の中で,ハ号物件については,被告が特許権侵害を容認したとして,ハ号物件の販売先,販売金額,販売数量等を書面で回答してほしい旨述べ,その他の被告が記載した事項については,本件とは無関係である旨述べている。(甲13の1・2)ク被告は,同月27日,オカザキに対し,「ワニラー製造販売の件」と題する書面をファックスした。同書面には次の記載がある。「頭書の件,1台製造販売に関し,1台当たり10万円を払う事で口頭契約しています。過日より,弁護士より一連の質問を受けているのは御承知の通りです。…●貴社製ワニラーの製造販売に関し,キャンセルの場合,一定の期間を設けてFAX書面で受領したくお願い申し上げます。6月24日までに試作機を1台販売していますが,キャンセルがなければ契約は実行します。●ビジネスの観点から見れば,貴殿は,当社を利用し,1台当たり10万円でも収入を得た方が得策かと思いますが,よく考えて下さい。●貴殿がNOかYESかにより,NOの場合,カタログ,PRは一切停止します。現在40頁の詳細版完成を目前にして,ワニラー分だけは作成していません。平成18年3月の簡易版のカタログ8頁に掲載していますが,年末までに改訂版を出す時には除外します。●YESの場合,契約書面の締結と共に,今後販売していくためには更なる改良をしないと販売は望めません。新しく追加する技術は当社の権利として容認して頂く事が契約の条件になります。」(甲14)ケ被告は,同年7月21日,オカザキに対し,「ワニラー1台分特許使用料税込100,000-請求して下さい」と記載した書面をファックス送信した。(乙6の1・2)コ原告は,同年8月25日,本件訴訟を提起した。
(2)以上に認定した事実によれば,原告ないし原告が代表取締役を務めるオカザキは,平成18年4月から一貫して,被告に対し,ハ号物件について,イ号物件,ロ号物件と共に,本件特許権1,2の侵害の事実を主張し,被告がハ号物件の本件特許権1,2の侵害の事実を争わない旨の回答及び許諾を要望する旨の文書を送付しても,販売数量,販売先等を開示するように求め,許諾するとの意向を示したことは一切なかったことが認められる。
他方で,被告は,平成18年5月1日付けの文書では,1台10万円の許諾料で許諾する旨の口頭での約束があったかのような記載をしている一方で,平成18年4月の最初の回答書からずっと一貫して本件特許1及び2の実施許諾を要望し,実施許諾した方がビジネスとしては得であるといった趣旨を記載した文書を送付し,文書の送付先も,当初は原告やオカザキの代理人弁護士に送付していたが,平成18年6月や7月には,実施許諾を求めるファックスをオカザキに直接送信するようになり,その後まもなく原告は本件訴訟を提起したという経緯が認められる。
なお,過去にオカザキが,ジャクティ社に対し,本件特許2につき許諾する旨の合意をした際は,合意書を作成し,かつ,販売台数の報告等の細かい条件も合わせて取り決められていたことが認められる。
これらの事実を前提とすれば,原告は,被告に対し,ハ号物件の製造販売について,本件特許1,2の実施を許諾した事実を認めることはできないというべきである。
(3)被告は,実施許諾につき口頭約束があった,平成16年にオカザキの専務が,本件特許1,2の実施品であるオカザキ製品について図面を示して説明し,写真も撮らせてくれたと主張する。
確かに,被告の従業員が平成16年にオカザキの工場を訪れて,本件特許1,2の実施品であるオカザキ製品の写真を撮影したことは認められるが,被告はオカザキ製品の販売を委託されていたことがあり,そのメンテナンス等に必要があったとすれば,特許の実施許諾自体はしていなくても,上記の程度の説明,写真の撮影をさせたことがあったとしても不自然であるとはいえない。
むしろ,オカザキは,ジャクティ社に対し,本件特許2につき許諾する旨の合意をした際は,合意書を作成し,かつ,販売台数の報告等の細かい条件も合わせて取り決められていたことからすれば,被告に対する許諾については,口約束だけで済ますことは考えられず,被告の主張は採用できない。
6ニ号意匠の構成及び本件意匠との類否(前記第4の4の争点)(1)本件意匠の構成ア本件意匠の構成本件意匠の構成は,前記第3の前提となる事実の3(2)に記載のとおりである。
イ本件意匠の具体的構成証拠(甲6)によれば,本件意匠は,上記の構成に加えて,次のとおりの構成も備えていることが認められる。
R正面視で全体が略楕円状で,上部の外周縁も下部の外周縁も緩やかな弧状となっている。
S正面視で一端部(右側),すなわち上部の外周縁の弧状と下部の外周縁の弧状との間の右端縁に直線部分がある。
T正面視で一端部(左側)に設けられている柄は凹状の湾曲状である。
U正面視で上部の外周縁に沿って11個の孔がほぼ等間隔で設けられており,孔は左端は柄の部分にまで存在し,右端は直線部分の途中にまで存在する。
V正面視で下部の外周縁に鋸歯状刃が設けられているが,底面視で,刃は左側(柄のある側)の方が右側(直線部分がある側)よりも横向きの寝ている状態で左側を向いており,左側から右側にかけて順に,縦向きの立った状態で真下を向いている状態になっている。
(2)ニ号意匠の構成アニ号意匠の形状及び構成ニ号意匠は,ニ号図面のとおりの形状であること,前記第3の前提となる事実の5のmないしqの構成を備えることについては争いがない。
イニ号意匠の具体的構成ニ号図面によれば,ニ号意匠は,上記のmないしqの構成に加えて,次の構成も備えていることが認められる。
r正面視で全体が略三角形状で,頂角は角のない弧状となっている。
s正面視で,頂角で交わる両側辺は直線状となっているが,底辺はきわめてゆるやかな弧状となっている。
t正面視で一端部(左側)に直線状の短い柄が設けられているが,柄はごくわずかに曲がっているように見える。
u正面視で角のない弧状となっている頂角及び両側辺の外周縁に沿って14個の孔がほぼ等間隔で設けられており,孔は左端は柄の部分にまで存在し,右端は側辺の下部,底辺に近い位置まで存在する。
v正面視で下部の外周縁に鋸歯状刃が設けられているが,刃は右側の方向に向いている。
(3)本件意匠とニ号意匠の類否本件意匠とニ号意匠は,前記のとおり,MないしQの構成とmないしqの構成において一致するが,RないしVの構成とrないしvの構成においては異なっており,一致するところがない。
そして,本件意匠は,全体的な形状については,Rのとおり,正面視で略楕円状で,Tのとおり,左端の柄の部分は凹状の湾曲状で,Sのとおり,右端縁にのみ直線部分があることから,全体としてみると,左端の柄の部分と右端の直線部分が目を引き,楕円を前提として,これの一端に柄を付して,他端を直線状にして楕円を欠けさせたような形状であるとの印象を受ける。
これに対し,ニ号意匠は,全体的な形状については,rのとおり,正面視で略三角形で,頂点は角のない弧状となっているものの,sのとおり,両側辺は直線で底辺はきわめてゆるやかな弧状となっており,tのとおり,柄は短くほぼ直線状であることからほとんど目立たず,全体としてみれば緩やかな三角形の形状であるとの印象を受ける。
このように,本件意匠とニ号意匠は,RないしVの構成とrないしvの構成において異なり,その結果,全体として受ける印象も,本件意匠は,楕円形の一端に柄を設け,他端は直線状に欠けさせた形状の印象を受け,ニ号意匠は,柄はほとんど目立たず,緩やかな三角形の形状であるとの印象を受けるというように,異なる印象を受けるので,その違いはもはや微差ということはできず,看過できない重大な相違点であるというべきである。
したがって,ニ号意匠は,本件意匠の類似の範囲にあるということはできず,ニ号物件は本件意匠権侵害しない。
(4)原告の主張について原告は,本件意匠の構成MないしQとニ号意匠の構成mないしqが一致することから,本件意匠とニ号意匠は類似であると主張する。しかし,前記認定のとおり,本件意匠とニ号意匠とは,RないしVの構成とrないしvの構成においてまったく異なり,その結果,両者はまったく異なる印象を受けるので,その違いは看過することはできず,両者は類似の範囲にあるということはできないので,原告の主張は採用できない。
7損害発生の有無及び損害額(前記第4の5の争点)(1)被告のイ号物件,ロ号物件,ハ号物件の販売数ア被告の販売数に関する原告の主張前記のとおり,原告は,被告によるイ号物件の平成16年9月から現在までの販売数は少なくとも合計370台,ロ号物件の平成16年9月から現在までの販売数は少なくとも合計10台,ハ号物件の平成16年5月から現在までの販売数は少なくとも合計30台であると主張している。
イ本件訴訟における経過(ア)原告は,上記の主張の立証のため,平成19年10月22日,イ号物件及びロ号物件について平成16年9月から現在までの,ハ号物件について平成16年5月から現在までの受注管理表,売上台帳,売上一覧表,請求一覧表又はこれらに相当する文書,若しくは電子ファイルのプリントアウト(以下「本件文書」という。)について,特許法105条1項により文書提出命令を申し立てた。
(イ)当裁判所は,上記の原告の申立てに理由があるものと認め,平成19年10月29日付けで,被告は,上記申立てに係る各文書について,同年11月13日までに提示せよとの決定をした(以下「本件文書提出命令」という。)。
(ウ)被告は,平成19年11月8日の第8回弁論準備手続において,本件文書について,同年12月10日までに可能な範囲で提出すると述べたが,結局提出しなかった。
(エ)被告は,平成19年12月19日の第9回弁論準備手続において,本件文書について,平成20年1月31日までに提出すると述べたが,結局提出しなかった。そのため,原告は,同年2月6日付け準備書面(10)により,被告は,本件文書の提出を拒む理由は全くなく,実際にもそれほど労苦なく提出できるにもかかわらず,敢えて提出を拒むので,文書提出命令に従わない場合の効果として,損害に関する原告の主張を真実と認めることを求めると主張した。
(オ)その後も,被告は,本件文書の提出をせず,かえって,平成20年3月1日付け準備書面(12)において,原告は被告の販売数について立証ができていない,原告の主張する被告の販売数は不合理である旨の主張をしている。
ウ真実擬制の可否について(ア)上記の経過のとおり,被告は,正当な理由がないにもかかわらず,本件文書提出命令に応じず,本件文書を提出しない。
なお,被告は,平成19年12月10日付け準備書面(8)添付の「売上明細表」を提出しているが,これは被告が新たに作成した一覧表にすぎない。そして,同表と本件文書との整合性については,原告が同月18日付け準備書面(9)で「売上明細表に記載されていない売上のごく一部である。」として挙げた3件に関して,同月19日の第9回弁論準備手続において営業日誌との関係が検討されたに止まるから,これをもって文書提出命令に応じない正当な理由とすることはできない。
(イ)本件文書である受注管理表,売上台帳,売上一覧表,請求一覧表又はこれらに相当する文書,若しくは電子ファイルのプリントアウトは,被告の作成に係る帳簿書類等であり,日々の取引に関する具体的事項が記載されているという帳簿書類等の性質からすれば,本件文書の記載に関して,原告が具体的な主張をすることは著しく困難というべきである。
また,原告が,本件文書である帳簿書類等の他に,被告のイ号物件ないしハ号物件の販売数の詳細が正確に記載された適当な文書を提出して,被告のイ号物件ないしハ号物件の販売数について立証することは著しく困難であるから,本件においては,本件文書により立証すべき事実を他の証拠により立証することは著しく困難である場合に該当する。
(ウ)よって,民事訴訟法224条3項により,被告のイ号物件,ハ号物件,ロ号物件の販売数については,原告の主張を真実であると認める。したがって,被告のイ号物件ないしハ号物件の販売数は,合計370台(イ号物件につき平成16年9月から現在まで),合計10台(ロ号物件につき平成16年9月から現在まで),合計30台(ハ号物件につき平成16年5月から現在まで)であると認められる。
(2)実施料の相当額原告は,独占的通常実施権を設定したオカザキを通じて,ジャクティ社に対し,本件特許2につき,1台あたり10万円で実施許諾したことが認められること,被告自身,ハ号物件について1台10万円の許諾料で実施許諾があったと主張していることからすれば,イ号物件,ロ号物件について本件特許2の実施許諾料及びハ号物件について本件特許1のみ,若しくは本件特許1及び2の実施許諾料は,いずれも1台あたり10万円と認めるのが相当である。
(3)原告の損害額被告は,前記のとおり,平成16年5月(ハ号物件)ないし同年9月(イ号物件及びロ号物件)から現在すなわち口頭弁論終結日である平成20年3月3日までに,少なくとも合計370台(イ号物件),10台(ロ号物件),30台(ハ号物件)を販売したと認められるので,これによる原告の損害は,3700万円(イ号物件),100万円(ロ号物件),300万円(ハ号物件)である(ただし,ハ号物件は平成16年5月から8月までは本件特許1のみの分である。)と認められる。
原告は,被告のイ号物件ないしハ号物件の平成16年5月ないし9月から平成20年3月3日までの製造販売による損害の賠償につき,内金として合計3000万円を請求している。また,遅延損害金の起算日は,その各月分の内訳が不明であって不法行為日が不明であるから,すべての不法行為の日又はそれより後であることが明らかな平成20年3月3日とすべきである。したがって,本件において,原告が被告に対して請求できる損害金としては,3000万円及びこれに対する平成20年3月3日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払の限度で認めるのが相当である。
8以上のとおり,原告の請求は,主文第1,2項記載の限度で理由があるからこれを認容し,その余の点は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山田知司
裁判官 村上誠子
裁判官 高松宏之