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関連審決 不服2004-18268
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成20行ケ10151審決取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10300審決取消請求事件 判例 特許
平成17ワ2649特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成22行ケ10221審決取消請求事件 判例 特許
平成15行ケ39審決取消請求参加事件 判例 特許
関連ワード 産業上利用(29条1項柱書) /  物の発明 /  方法の発明 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  相違点の認定 /  周知技術 /  技術常識 /  発明を特定する事項 /  均等 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  拒絶査定不服審判 /  拒絶査定 /  誤記の訂正 /  請求の範囲 /  減縮 /  拡張 /  釈明 /  異議申立 / 
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事件 平成 19年 (行ケ) 10082号 審決取消請求事件
X 原告
被告特許庁長官 肥塚雅博
指定代理人高見重雄,後藤時男,森川元嗣,大場義則
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/11/07
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が不服2004-18268号事件について平成19年1月22日にした審決を取り消す。
第2事案の概要1特許庁における手続の経緯本件は,特許出願をした原告が,拒絶査定を受けて,不服審判の請求をしたが,審判請求不成立の審決を受けたので,その審決の取消しを求めた事案である。
特許庁における手続の経緯は,次のとおりである。
( ) 原告は,平成11年12月15日,発明の名称を「矯正視力測定器」とする1発明について特許出願をした(甲4)。
( ) 原告は,平成16年7月2日付けで拒絶査定を受けたので,同年8月6日,2拒絶査定不服審判の請求をした(不服2004-18268号事件として係属)。
これに対し,特許庁は,平成19年1月22日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は同年2月10日に原告に送達された。
なお,原告は,上記審判請求の日である平成16年8月6日付けの手続補正書(甲5)により,本件出願に係る明細書の特許請求の範囲を補正した(以下,同補正後の明細書を「本件明細書」,同補正を「本件補正」という。)。
2発明の要旨( ) 本件補正前の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである。
1「【請求項1】1複数の球面レンズ2をレンズの度の強さの順に並べ,それぞれのレンズにピンホール板3を重ねることができるようにした矯正視力測定器。」(以下「本願発明」という。)( ) 本件補正後の特許請求の範囲請求項1の記載は,次のとおりである。
2「【請求項1】度の異なる複数の球面レンズを嵌め込んだ球面レンズ板とピンホール板との2種類の板のみを光学素子として備え,ピンホール板を任意の球面レンズに重ねられるようにし,これら2種類の光学素子のみを用いて視力を測るようにした矯正視力測定器。」(以下「本願補正発明」という。)3審決の理由の要点( ) 審決は,以下のとおり,本件補正は,特許請求の範囲減縮,請求項の削除,1誤記の訂正,明りようでない記載の釈明を目的とするものでないので,特許法17条の2第4項の規定に違反しているから却下すべきものであり,本件補正前の本願発明は,特開平11-267100号公報(以下「刊行物1」という。)に記載された発明(以下「刊行物1発明」という。)及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。
( ) 本件補正について2ア本件補正の内容本件補正は,上記2( )の請求項1から同( )の請求項1へ補正するものである。
12イ補正の目的の適否の判断球面レンズに関し,旧請求項1の「複数の球面レンズ2をレンズの度の強さの順に並べ,」という記載を,新請求項1で「度の異なる複数の球面レンズを嵌め込んだ球面レンズ板」とする補正は,複数の球面レンズをレンズの度の強さの順に並べること以外の様々な並べ方を含むものとなり,旧請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものでないから,特許請求の範囲減縮に当たらない。したがって,当該補正は,特許法第17条の2第4項第2号に規定する「特許請求の範囲減縮」を目的とするものに該当しない。また,当該補正が,請求項の削除(第1号)を目的とするものにも,誤記の訂正(第3号)を目的とするものにも,明りようでない記載の釈明(第4号)を目的とするものにも該当しないことは明らかである。
ウむすび以上のとおり,本件補正は,特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであり,特許法第159条第1項で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
( ) 本願発明について3ア本願発明上記2( )の請求項1のとおりである。
1イ刊行物1発明刊行物1には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【発明の属する技術分野】本発明は,左右のレンズ室の視野窓内に複数の光学素子 (ア)を配置して被検眼の屈折力を自覚的に測定する自覚式検眼装置に関し,特に光学素子の配置に(段落【0001】) 特徴を有する自覚式検眼装置に関する。」「図2に示すように,検眼装置は,左右のレンズ室1,2と図示しない操作盤とをコ(イ)ード3にて接続して構成されている。各レンズ室1,2には視野窓4が設けられており,本検眼装置から所定距離隔てて配置した図示しない視表を,視野窓4内に重ねて配置した光学素子を通して被検者に見せ,視表が最もよく見える光学素子を選定すること等によって被検眼の屈折力等を測定するものである。ここで左右のレンズ室1,2は相互に対象構造をなしており,以下実施形態においては一方のレンズ室1(以下,単に「レンズ室1」とする)についてのみ説明する。レンズ室1には,図1に示すように,被検者に近い順に(被検眼を符号Eにて示す),第1のターレット板10,第2のターレット板20,第3のターレット板30,第1のレコス板40,2枚のロータリシリンダレンズ50,51,第2のレコス板60が並設されている。このうち第1〜第3のターレット板10〜30,第1及び第2のレコス板40,60の周縁には複数の開口部が互いに均等間隔で設けられており,各開口部にて種々の光学素子等が保持されている。これら第1〜第3のターレット板10〜30,第1及び第2のレコス板40,60は回転軸5を中心として回転可能とされており,この回転によってそれぞれに保持されて(段落【0017】〜 いる光学素子のうち任意の光学素子が視野窓4内に配置される。」【0018】)「次に,各ターレット板に配置された光学素子について詳細に説明する。第1のター (ウ)レット板10は比較的強度のレンズ度数の球面レンズを主に保持するもので,図3に示すように,その周縁には開口部11が8つ形成されている。そして図4に示すように,2つの開口部11は視野開放のために開放されて「開口」12を構成し(なお開口部11に0Dの球面レンズを入れても「開口」12を構成することができる),他の6つの開口部には「-24D」から「+24D」までの8D間隔の6つの球面レンズ13が保持されている。また第2のターレット板20は比較的中度のレンズ度数の球面レンズを主に保持するもので,その周縁には図示なき8つの開口部11が形成されている。そして図4に示すように,1つの開口部は視野開放のために開放されて「開口」を構成し,他の7つの開口部には「-4D」から「+3D」までの1D間隔の7つの球面レンズが保持されている。第3のターレット板30は比較的弱度のレンズ度数の球面レンズを主に保持するもので,その周縁には図示なき8つの開口部が形成されている。そして図4に示すように,1つの開口部は視野開放のために開放されて「開口」を構成し,他の7つの開口部には「-0.375D」から「+0.5D」までの「0.125D」(段落【0020】〜【0022】) 間隔の7つの球面レンズが保持されている。」「第1のレコス板40は検眼の補助に用いる光学素子を主に保持するもので,その周(エ)縁には図示なき8つの開口部が形成されている。そして図4に示すように,1つの開口部は視野開放のために開放されて「開口」を構成し,他の7つの開口部には視野遮蔽のための「遮光板」,両眼視用偏光チャートに対応した「45°偏光板」,同じく両眼視用偏光チャートに対応した「135°偏光板」,斜位テスト等に用いる「赤のマドックスレンズ」,抑視や複視検査に用いる「赤/緑フィルター」,絞り効果によって矯正視力の目安を探るための「ピンホール」,複視検査に用いる「6Uプリズムレンズ/10Iプリズムレンズ」(「U」はディオプターUP方向,「I」はディオプターIN方向であり,以下同じ)がそれぞれ保持されてい(段落【0023】) る。」上記記載事項や図面からみて,刊行物1では,ターレット板に複数の球面レンズをレンズの度の強さの順に並べて保持し,レスコ板にピンホールを保持しており,これらの光学素子を視野窓内に重ねて配置できる構造であることが明らかであるから,刊行物1には,「複数の球面レンズをレンズの度の強さの順に並べ,それぞれのレンズにピンホールを重ねることができるようにした自覚式検眼装置。」の発明(以下,「刊行物1発明」という。)が記載されている。
ウ対比本願発明と刊行物1発明とを対比すると,刊行物1発明の「球面レンズ」,「ピンホール」は,それぞれ本願発明の「球面レンズ2」,「ピンホール板3」に相当することが明らかであり,また,刊行物1発明の「自覚式検眼装置」と本願発明の「矯正視力測定器」とは,「自覚式検眼装置」である点で共通することも明らかであるから,したがって,両者は,「複数の球面レンズ2をレンズの度の強さの順に並べ,それぞれのレンズにピンホール板3を重ねることができるようにした自覚式検眼装置。」である点で一致し,次の点で相違する。
(相違点)本願発明は,矯正視力測定器であるのに対し,刊行物1発明は,自覚式検眼装置である点。
エ判断上記相違点について検討する。
矯正視力測定において,球面レンズなどを用いて視力を矯正した後に,ピンホール板の挿入前後の視力をそれぞれ測定することは,技術常識であることを照らし併せると,刊行物1(【0023】)の「絞り効果によって矯正視力の目安を探るための「ピンホール」」なる記載は,矯正後の視力をピンホールを用いて測定することを表現していることが明らかであるから,刊行物1の自覚式検眼装置を矯正視力測定器として用いることは,当業者が適宜為し得ることにすぎない。したがって,本願発明の構成は,刊行物1発明及び技術常識に基いて当業者が容易に想到し得ることであり,本願明細書に記載の作用効果も,刊行物1発明及び技術常識から当業者であれば予測できる範囲のものである。
審判請求人は,平成16年8月6日付け審判請求書において,「球面レンズとピンホールとを重ねるだけで矯正視力を測れる」(第2頁第5行〜第6行)という画期的なものだと主張しているが,本願発明は,矯正視力を測定する方法の発明ではなく,矯正視力を測定する物の発明であり,特許請求の範囲に記載された物の発明は,当業者であれば容易に想到し得たことは,上記に示した通りである。仮に,矯正視力を測定する方法の発明とした場合を考えてみると,まず,人間を診断する方法に該当し,特許法第29条第1項柱書の「産業上利用することができる発明」の要件に該当しない蓋然性が高い(特許庁「特許・実用新案審査基準」社団法人発明協会発行第部特許要件第1章産業上利用することができる発明2.1「産業上利用IIすることができる発明」に該当しないものの類型の項目を参照)。そして,レンズにピンホールを重ねあわして矯正視力を得ることは,周知技術(例えば,特開平1-154022号公報,実願昭50-79142号(実開昭51-158236号)のマイクロフィルムなどを参照。)であるから,矯正視力を測定する方法の発明であっても,当業者であれば容易に想到し得たことである。
オむすび以上のとおり,本願発明は,刊行物1発明及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。したがって,本願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
第3原告の主張審決は,本件補正の適否についての判断を誤り(取消事由1),本願発明と刊行物1発明との相違点の認定を誤り(取消事由2),相違点についての判断を誤った(取消事由3)ものであって,違法であるから,取り消されるべきである。
1取消事由1(本件補正の適否についての判断の誤り)( ) 審決は,「旧請求項1の『複数の球面レンズ2をレンズの度の強さの順に並1べ,』という記載を,新請求項1で『度の異なる複数の球面レンズを嵌め込んだ球面レンズ板』とする補正は,複数の球面レンズをレンズの度の強さの順に並べること以外の様々な並べ方を含むもの」となったとし,特許請求の範囲減縮に当たらないと判断したが,誤りである。
本願発明の特許請求の範囲の記載は,構成として球面レンズとピンホールとを含むので検眼機を含むことになるので,これを避けるため,本願補正発明の特許請求の範囲のように改めたのである。その結果,本願発明においては,円柱レンズと球面レンズとを用いて矯正視力を測る検眼機が除外されているのであるから,本願発明の特許請求の範囲減縮されていることになる。
一方,「度の強さの順に並べ」という形容句の有無は,特許請求の範囲減縮に影響を及ぼすものではない。
( ) しかし,被告が原告の主張を争うので,原告は,次のとおり,被告原告双方2の主張を取り入れた新たな特許請求の範囲を提案する。この特許請求の範囲であれば,減縮されているのが一目瞭然である。
「請求項1複数の球面レンズ2をレンズの度の強さの順に並べ,それぞれのレンズにピンホール板3を重ねることができるようにし,これら2種類の光学素子のみで屈折異常を矯正するようにした矯正視力測定器。」2取消事由2(本願発明と刊行物1発明の相違点認定の誤り)( ) 上記のとおり,本件補正は適法であるから,本願発明についての進歩性を検1討すべきところ,審決は,本願発明についての進歩性を検討しているので失当であるが,本願発明の進歩性についての認定判断についての取消事由も検討する。
( ) 刊行物1発明の認定の誤り2ア審決は,刊行物1発明を,「複数の球面レンズをレンズの度の強さの順に並べ,それぞれのレンズにピンホールを重ねることができるようにした自覚式検眼装置。」と認定したが,誤りである。
刊行物1発明の構成である球面レンズとピンホールとの2つで検眼ができるわけではなく,球面レンズと円柱レンズの2つで検眼を行うのであり,刊行物1には,円柱レンズについての詳細な記載がある。そもそも,刊行物1に記載されているのは,検眼機のレンズ室を小さくするための工夫に係る技術であって,刊行物1には,「球面レンズ・円柱レンズ・ピンホール等の多種の光学部品を持ち,それらを必要に応じて重ね合わせる構造を備えた自覚式検眼装置」の発明が記載されているとするのが正しい。
このように,刊行物1発明は,球面レンズと円柱レンズとで検眼を行うものであって,本願発明のように「球面レンズにピンホールを重ねて検眼する」ものではない。
イ被告は,一般に,円柱レンズは,乱視の判定に使用するから,屈折検査や矯正視力測定において,乱視の判定をしない場合,円柱レンズが含まれない球面レンズの板付レンズのみを用いて測定する場合もあると主張するが,乱視を矯正しなければ完全矯正視力を得ることはできないから,被告の上記主張は,失当である。
刊行物1に記載された矯正視力測定方法は,従来法であるということができるのであり,検眼機は,その一部において本願発明の構成と同様の構成を備えているが,本願発明と同じ手順で矯正視力を測っているのではなく,従来法で測っているのである。したがって,刊行物1発明は,本願発明とは関係がない。
ウ審決は,「自覚式検眼装置」である点を一致点とし,「本願発明は,矯正視力測定器であるのに対し,刊行物1発明は,自覚式検眼装置である点。」で相違すると認定したが,誤りである。
検眼は,視力を測りながら行うものであって,完全矯正に達したときに視力を測れば,屈折異常の内容と矯正視力とを知ることができるから,自覚式検眼装置は,矯正視力測定機でもあり,「矯正視力が測れる」という点では,刊行物1発明の「自覚式検眼装置」も本願発明の「矯正視力測定器」も共通しており,両発明は,「矯正視力が測れる」点で一致し,「矯正視力の測り方」で相違するものというべきである。
なお,本願発明は屈折異常の内容を知ることができないので,自覚式検眼装置ではない。
( ) 本願発明と刊行物1発明の相違点認定の誤り3審決は,「本願発明と刊行物1発明とを対比すると,刊行物1発明の『球面レンズ』・・・は,・・・本願発明の『球面レンズ2』・・・に相当することが明らかであ」るとと認定したが,誤りである。
検眼機の必須光学素子は,粗度数球面レンズと微度数球面レンズと円柱レンズとであり,微度数球面レンズが必須であり,ピンホールは必須ではない。一方,本願発明の必須光学素子は,粗度数球面レンズとピンホールである。
刊行物1発明の「球面レンズ」と本願発明の「球面レンズ2」は,名称が同じであるというにすぎない。
3取消事由3(相違点についての判断の誤り)( ) 審決は,相違点についての判断において,「矯正視力測定において,球面レ1ンズなどを用いて視力を矯正した後に,ピンホール板の挿入前後の視力をそれぞれ測定することは,技術常識である」と認定した。
しかし,審決は,一方で,刊行物1について,「複数の球面レンズをレンズの度の強さの順に並べ,それぞれのレンズにピンホールを重ねることができるようにした自覚式検眼装置。」と認定しているのに,他方で,「球面レンズなど」という用語を用いて,「円柱レンズ」以外のものを含めているから,論理矛盾を犯しており,失当である。
( ) 審決は,「本願発明の構成は,刊行物1発明及び技術常識に基いて当業者が2容易に想到し得ることであり,本願明細書に記載の作用効果も,刊行物1発明及び技術常識から当業者であれば予測できる範囲のものである。」と判断したが,誤りである。
審決は,「レンズにピンホールを重ねあわして矯正視力を得ることは,周知技術(例えば,特開平1-154022号公報,実願昭50-79142号(実開昭51-158236号)のマイクロフィルムなどを参照。)である」と認定したが,そもそも,これら2つの文献には「矯正視力」という言葉の記載がないから,「矯正視力を得る」と認定することはできない。
当業者は,眼鏡作成の手順として,まず完全矯正眼鏡を作り,それを参考にして客の眼鏡使用状況を考慮しながら,レンズの度を加減し,客の生活に最適の眼鏡を提供するのであり,当業者が,円柱レンズを取り除いてピンホールを入れることはない。矯正眼鏡から円柱レンズを取り除いてピンホールを重ねても矯正視力を得られるとは限らないし,苦心して作った矯正眼鏡を壊して不完全な眼鏡にして視力を測っても意味がないからである。円柱レンズを用いないで検眼を行うことは当業者には考えられないことである。
したがって,当業者が本願発明に容易に想到することはない。
( ) 従来の技術常識において,球面レンズと円柱レンズとで完全矯正し,そのと3きに矯正視力を得るものとされてきたところ,平成14年4月発行「臨床眼科」56巻4号の図2において,従来法と比較して本願発明に係る矯正視力測定法が有効であることが示されている。したがって,審決は,本願発明の顕著な作用効果を看過したものである。
また,被告は,乙1ないし4を挙げて周知の事実から相違に想到し得たというが,そのような証拠の存在にもかかわらず本願発明と同様の発明が出現しなかったことは,本願発明が容易に思いつくものではないことを証明している。
第4被告の主張審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1取消事由1(本件補正の適否についての判断の誤り)に対して本願発明の特許請求の範囲において,「球面レンズ板とピンホール板との2種類の板のみを光学素子として備え,・・・これら2種類の光学素子のみを用いて視力を測るようにした」と限定しているので,この点からみれば特許請求の範囲減縮されたとみる余地はある。しかし,本願発明の特許請求の範囲において,本願発明の「複数の球面レンズ2をレンズの度の強さの順に並べ」という文言を削除した点は,本願発明が「複数の球面レンズ2をレンズの度の強さの順に並べ」るものに限定されていたのを,本願発明においてそのような限定を有しないものとし,複数の球面レンズをレンズの度の強さの順に並べること以外の様々な並べ方を含むものとなることから,この点からみれば特許請求の範囲拡張されている。したがって,本願発明を全体としてみれば,本件補正は,本願発明を減縮するものとはいえない。
2取消事由2(本願発明と刊行物1発明の相違点認定の誤り)に対して( ) 刊行物1発明の認定の誤りに対して1刊行物1の段落【0001】,【0017】,【0018】,【0020】〜【0023】の記載及び図面によると,ターレット板に複数の球面レンズ(例えば,第1のターレット板10に複数の比較的強度のレンズ)をレンズの度の強さの順に並べて保持し,レコス板(例えば,第1のレコス板40)にピンホールを保持しており,これらの光学素子(例えば,比較的強度のレンズとピンホール)を視野窓内に重ねて配置できる構造が記載されているから,刊行物1発明,すなわち,「複数の球面レンズをレンズの度の強さの順に並べ,それぞれのレンズにピンホールを重ねることができるようにした自覚式検眼装置。」の発明が記載されているとした審決の認定に誤りはない。
原告は,刊行物1は,球面レンズと円柱レンズとで検眼を行うものであって,本願発明のように「球面レンズにピンホールを重ねて検眼する」ものではないと主張する。
しかし,本願発明は,「1複数の球面レンズ2をレンズ度の強さの順に並べ,それぞれのレンズにピンホール板3を重ねることができるようにした矯正視力測定器。」と記載されているのであって,「球面レンズにピンホールを重ねて検眼する」とは記載されてはおらず,これに対応して,刊行物1には,「複数の球面レンズをレンズの度の強さの順に並べ,それぞれのレンズにピンホールを重ねることができるようにした自覚式検眼装置。」の発明(刊行物1発明)が記載されているとしたものであって,「球面レンズにピンホールを重ねて検眼する」という事項は,刊行物1発明を特定する事項でも本願発明を特定する事項でもない。
また,一般に,円柱レンズは,乱視の判定に使用するから,屈折検査や矯正視力測定において,乱視の判定をしない場合,円柱レンズが含まれない球面レンズの板付レンズのみを用いて測定する場合もある(例えば,昭和60年7月1日株式会社医学書院発行「眼科検査法ハンドブック」第1版の74頁〜77頁〔乙1。以下「乙1刊行物」という。〕,実願昭49-076442号(実開昭51-6791号)のマイクロフィルム〔乙2。以下「乙2刊行物」という。〕参照)。刊行物1の自覚式検眼装置を用いた屈折検査においても,乱視の判定をしない場合,円柱レンズと粗度数球面レンズと微度数球面レンズを組み合わせることが必須ではない。
( ) 本願発明と刊行物1発明の相違点認定の誤りに対して2ア刊行物1発明の「球面レンズ」と本願発明の「球面レンズ2」は,共に光を屈折させることができる凹又は凸の球面形状のレンズであり,また,刊行物1の「ピンホール」は,板にピンホール(針孔)が形成されたものであることは明らかであって,刊行物1発明の「ピンホール」と本願発明の「ピンホール板3」は,ともに光を絞ることができる針孔を形成した板であるから,審決において,刊行物1発明の「球面レンズ」,「ピンホール」は,それぞれ本願発明の「球面レンズ2」,「ピンホール板3」に相当するとした点に誤りはない。
イ本願明細書の段落【0001】,【0010】の記載によれば,本願発明の矯正視力測定器は,被験者に視力表を読ませて矯正視力を測定する検眼器であるから,自覚式検眼装置であり,審決において,刊行物1発明の「自覚式検眼装置」と本願発明の「矯正視力測定器」とは,「自覚式検眼装置」である点で共通するとした点に誤りはない。
3取消事由3(相違点についての判断の誤り)に対して( ) 一般にピンホールは,ピンホール挿入後の矯正された視力を測定する光学素1子として,矯正視力測定の一工程で用いるものであって,レンズを用いて視力を矯正した後に,ピンホールの挿入前後の視力をそれぞれ測定することは,普通に行われていることであるから(例えば,特開平10-14874号公報〔乙3。以下「乙3刊行物」という。〕参照),矯正視力測定において,球面レンズなどを用いて視力を矯正した後に,ピンホール板の挿入前後の視力をそれぞれ測定することは,技術常識である。そして,この技術常識に照らし併せると,刊行物1の「絞り効果によって矯正視力の目安を探るための『ピンホール』」(段落【0023】)は,球面レンズなどのレンズと重ねあわせることにより矯正された視力を測定することに用いることは明らかであるから,刊行物1の自覚式検眼装置を矯正視力測定器として用いることは,当業者が適宜なし得ることである。
( ) 原告は,従来,円柱レンズを用いて矯正視力を得ていたことを前提にして,2円柱レンズを用いない矯正視力測定器である本願発明の作用効果を主張するが,従来,円柱レンズが含まれない球面レンズの板付レンズのみを用いて屈折検査や矯正視力測定をすることは技術常識であるから(乙1,乙2刊行物),原告の上記主張は,失当である。
( ) 原告は,円柱レンズを用いないで検眼を行うことは当業者には考えられない3旨主張する。
しかし,円柱レンズが含まれない球面レンズの板付レンズのみを用いて検眼を行うことが,普通に行われており(例えば乙1,乙2刊行物参照),また,円柱レンズを用いないで検眼を行うことが,本願発明を特定する事項でもないから,原告の主張は失当である。
第5当裁判所の判断1取消事由1(本件補正の適否についての判断の誤り)について( ) 原告は,本件補正について,本願補正発明においては,円柱レンズと球面レ1ンズとを用いて矯正視力を測る検眼機が除外されているので特許請求の範囲減縮されている旨主張する。
しかし,本願発明に係る特許請求の範囲には,「複数の球面レンズ2をレンズの度の強さの順に並べ」との記載があるところ,本願補正発明に係る特許請求の範囲にはこの記載がないから,「複数の球面レンズ2をレンズの度の強さの順に並べ」という構成を要件としていないものといわざるを得ない。そうすると,本願補正発明は,複数の球面レンズの並べ方を問わないことになるから,この点において,特許請求の範囲拡張されたことは明らかであって,本件補正は,特許法17条の2第4項2号に規定する特許請求の範囲減縮を目的とするものではない。
そして,このように,「複数の球面レンズ2をレンズの度の強さの順に並べ」という構成を要件としていないことによって特許請求の範囲拡張されることになる以上,本願発明から,円柱レンズと球面レンズとを用いて矯正視力を測る検眼機が除外されるかどうかを論ずるまでもなく,特許請求の範囲減縮を目的とするものということができないものである。
( ) 原告は,本件補正について,「度の強さの順に並べ」という形容句の有無は,2特許請求の範囲減縮に影響を及ぼすものではない旨主張する。
しかし,上記のとおり,「複数の球面レンズ2をレンズの度の強さの順に並べ」という構成を除くことによって,本願補正発明は,複数の球面レンズの並べ方を問わないことになるから,特許請求の範囲減縮に影響を及ぼすことは明らかである。
( ) したがって,本件補正は,特許法17条の2第4項1号に規定する請求項の3削除に当たらない。のみならず,本件補正の目的が,同3号に規定する誤記の訂正,同4号に規定する明りょうでない記載の釈明のいずれにも該当するとは認められないから,本件補正は,同法17条の2第4項に規定する要件を満たさない。したがって,本件補正を却下した審決の判断に誤りはない。
( ) なお,原告は,本件訴訟において新たな特許請求の範囲を提案する旨主張す4るが,現行法上,特許請求の範囲を含めた明細書の補正は所定の要件の下でのみ許されるのであり,補正をし得る場ではない審決取消訴訟の審理中に本件明細書の補正の提案をしても,それ自体,何の意味も有しないから,検討するまでもなく,原告の上記主張は,失当である。
2取消事由2(本願発明と刊行物1発明の相違点認定の誤り)について( ) 刊行物1発明の認定の誤りについて1ア刊行物1に,前記第2の3( )イの記載があることは,当事者間に争いがな 3いところ,同記載によると,刊行物1には,自覚式検眼装置に関する発明が記載されていること,同装置は,第1ないし第3のターレット板及び第1のレコス板を有し,これらに保持される光学素子は視野窓内に重ねて配置されるものであること,第1ないし第3のターレット板には度数の異なる6ないし7枚の球面レンズが,第1のレコス板には「ピンホール」が保持されることが認められる。
そして,同刊行物の図4をみると,検眼装置の光学素子の配置を示す図であるが,第1のターレット板10の開口部のうち6つの開口部には「-24D」から「+24D」までの8D間隔の6つの球面レンズ13が,第2のターレット板20の開口部のうち7つの開口部には「-4D」から「+3D」までの1D間隔の7つの球面レンズが,第3のターレット板30の開口部のうち7つの開口部には「-0.375D」から「+0.5D」までの「0.125D」間隔の7つの球面レンズが度数の順に保持されていることが認められる。
そうすると,刊行物1には,「複数の球面レンズをレンズの度の強さの順に並べ,それぞれのレンズにピンホールを重ねることができるようにした自覚式検眼装置。」が記載されているものである。
イ原告は,刊行物1には,「球面レンズ・円柱レンズ・ピンホール等の多種の光学部品を持ち,それらを必要に応じて重ね合わせる構造を備えた自覚式検眼装置」の発明が記載されている旨主張する。
確かに,刊行物1の段落【0023】,【0034】の記載も加味すれば,刊行物1には,原告主張の発明が記載されているということができる。しかし,審決の認定するように,「複数の球面レンズをレンズの度の強さの順に並べ,それぞれのレンズにピンホールを重ねることができるようにした自覚式検眼装置。」という発明を把握することもできるのである。このように,一つの特許公報等の刊行物から複数の発明が認定されることは,しばしば経験するところであるところ,審決が,本願発明に最も近似した技術として,そのうち一方を認定したとしても,その認定に誤りがない限り,これを誤りということはできない。
ウ原告は,刊行物1発明の構成である球面レンズとピンホールとの2つで検眼ができるわけではなく,球面レンズと円柱レンズの2つで検眼を行うものである旨主張する。
しかし,本願発明の特許請求の範囲には,「複数の球面レンズ2をレンズの度の強さの順に並べ,それぞれのレンズにピンホール板3を重ねることができるようにした矯正視力測定器。」と記載されているから,本願発明は,「複数の球面レンズ2」に「ピンホール板3」を重ねることができるようにしたことを特徴とする発明であって,「球面レンズにピンホールを重ねて検眼する」という検眼の方法に関するものではない。
物の発明である本願発明との対比においては,刊行物1発明としては,「複数の球面レンズ2をレンズの度の強さの順に並べ,それぞれのレンズにピンホール板3を重ねることができるようにした」構成を認められれば必要にして十分であり,「球面レンズにピンホールを重ねて検眼する」という検眼の仕方が可能であるとしても,それは,本願発明を特定する事項ではない。
エ原告は,刊行物1に記載されているのが「球面レンズ・円柱レンズ・ピンホール等の多種の光学部品を持ち,それらを必要に応じて重ね合わせる構造を備えた自覚式検眼装置」であるとの前提で,刊行物1に記載されているのは,検眼機のレンズ室を小さくするための工夫に係る技術であって,本願発明とは,技術課題が異なっているとも主張する。
しかし,上記のとおり,その前提が誤っているから,原告の上記主張は,その余の点について検討するまでもなく,失当である。
オ原告は,「自覚式検眼装置」である点を一致点とし,「本願発明は,矯正視力測定器であるのに対し,刊行物1発明は,自覚式検眼装置である点。」で相違するとした審決の認定を争い,両発明は,「矯正視力が測れる」点で一致し,「矯正視力の測り方」で相違する旨主張する。
証拠(甲8,乙1)によれば,検眼装置において「自覚式」とは,被験者が自覚的に応答することにより検眼するものをいうと認められる。
ところで,本件明細書には,「被験者は屈折異常が矯正された状態になるため,視力表を読ませれば矯正視力の値を得ることができる。」(段落【0006】),「被験者に視標を見せて最適のレンズを選ばせ,そのレンズの上にピンホール板を重ねて,視力表を読ませるだけであるから,検査には時間がかからず,また専門的知識も必要とせずに簡単に矯正視力を測ることができる。」(段落【0010】)との記載があり,同記載によれば,被験者は自ら視力表をみることにより視力検査を行うものであるから,本願発明も「自覚式」の検眼装置に包含されるものである。
したがって,本願発明も刊行物1発明も,「自覚式検眼装置」である点で一致するとし,その上で相違点を抽出した審決の認定に誤りはない。
カ原告は,本願発明は屈折異常の内容を知ることができないので,自覚式検眼装置ではないと主張する。
しかし,上記のとおりの本件明細書の記載によれば,本願発明は,最適のレンズと,そのレンズの上にピンホール板を重ねることで,被験者において屈折異常が矯正された状態になり,視力表を読ませれば矯正視力の値を得ることができるというのであるから,屈折異常の内容を知ることができるか否かにかかわらず,被験者が自覚的に応答することにより検眼する自覚的検眼装置である。したがって,原告の上記主張は,失当である。
( ) 本願発明と刊行物1発明の相違点認定の誤り3原告は,本願発明の必須光学素子は,粗度数球面レンズとピンホールであるから,刊行物1発明の「球面レンズ」と本願発明の「球面レンズ2」は名称が同じであるというにすぎず,審決が,刊行物1発明の「球面レンズ」が本願発明の「球面レンズ2」に相当すると認定したのは誤りである旨主張する。
しかし,本願発明は,前記のとおり,「複数の球面レンズ2をレンズの度の強さの順に並べ,それぞれのレンズにピンホール板3を重ねることができるようにした矯正視力測定器。」というものであり,「複数の球面レンズ2」が「粗度数球面レンズ」に限定されるものではない。
したがって,刊行物1発明の「球面レンズ」と本願発明の「球面レンズ2」とは,正にいずれも「球面レンズ」である点で一致しているものであるから,原告の上記主張は,失当である。
( ) 以上によれば,審決の,本願発明と刊行物1発明の相違点の認定に誤りはな4い。
3取消事由3(相違点についての判断の誤り)について( ) 原告は,相違点についての判断において,「矯正視力測定において,球面レ1ンズなどを用いて視力を矯正した後に,ピンホール板の挿入前後の視力をそれぞれ測定することは,技術常識である」とした審決の認定を争うので,検討する。
ア昭和33年2月20日医歯薬出版株式会社発行「眼科臨床検査法」8頁(乙4)には,「特殊視力検査」の項の「針孔視力」について,「針孔板を装用すると,光学的または病的原因による視力減退が改善されることがある。・・・散瞳眼の健常視力の有無・・・を検するには2〜4mm径の針孔板を眼前に装用し,さらに必要があればレンズを重ねて矯正する。」(8頁7行目〜13行目)との記載があるところ,同文献が昭和33年2月に公刊された「眼科臨床検査法」という書籍で,本願発明に係る技術分野に係る専門書籍であることを考慮すると,本件出願時には,散瞳眼の健常視力の有無を検査するために,被験者の眼前に,レンズとピンホールとを装用して矯正した視力を測定する視力検査が周知の技術事項となっていたものと認められる。
イ特開平1-154022号公報(甲2)には,「一方,検眼の時,レンズを換えるばかりでなくピンホール板を用いることがあるがピンホールの直径によっては多少の屈折異常,調節異常があったとしてもそれらを矯正せずに良好な視力を得られる場合である。これを利用すると像をより明瞭にみる事が出来るが視野が極めて狭小になり,実用は不可能と言っても過言でない。・・・上述の問題を解決するために,本発明は孔もしくは無着色部分を設けた有色透明部材の孔もしくは無着色部分をヒトの瞳孔に対応させるようにし,前記有色透明部材を眼鏡レンズに重合させた眼鏡を提供する。」(1頁右欄末行〜2頁左欄12行目)との記載が,甲3公報には,考案の名称を「白内障等視力低下に対する眼鏡用レンズ」とし,「眼鏡レンズの一部を残して回りを着色コーテイングすること」(実用新案登録請求の範囲),考案の詳細な説明に,「本考案は眼鏡レンズの視綜部分を残して周囲を着色コーテングすることにより視力を集中しより良く見える様にすることであります。」との記載があり,第1図において着色コーテイングしない部分が小孔として図示されていることが認められる。
また,原告作成の用語解説(甲8)には,「ピンホール効果・・・レンズLを通して物体Aの像Bを映すとき,ピンホールPを光軸に置いて,利用する光をレンズの中心近くの光に制限すると,レンズの焦点距離とは無関係にはっきりした像を結ぶ。これをピンホール効果といいます。屈折異常の人が眼鏡をかけなくても,小さい穴(たとえば,テレホンカードやJRイオカードのパンチ穴)を通して見ると,はっきり見ることができます。目を細めて見るのも,この効果を利用したものです・・・本器の球面レンズが0 25D刻みになっていなくとも,また,本器が円柱.レンズを備えていなくとも,矯正視力が測れるのは,このピンホール効果を利用しているからです。」(3頁14項)との記載がある。
さらに,乙3刊行物には,「【従来の技術】・・・このような自覚検査では,通常,両眼それぞれについて完全矯正度数を求めた後に,その矯正度数による視力値を確認する視力検査を行う。この視力検査を行ったときに,例えば視力値0.7の所定の視力値に満たない場合がある。このような場合,得られた完全矯正度数に問題があることや,角膜や網膜等の視機能に異常があることがある。」(段落【0002】〜【0003】),「【発明が解決しようとする課題】このような時に,経験の浅い検者では,的確な判断ができず,正確な処方結果を得られないことがあった。また,ピンホ-ル検査を行い適切な処理を行うには,検眼の高度な知識が要求され,検眼知識の浅い検者にはその判断が難しい。本発明は,得られた完全矯正度数による矯正視力が十分でない場合に,経験の浅い検者でも的確な処方が行うことができる検眼装置を提供することを技術課題とする。また,ピンホ-ル検査の結果を的確に判断し,必要な処理を容易に施すことができる検眼装置を提供することを技術課題とする。」(段落【0004】〜【0005】),「ピンホ-ル検査で視力が上がるときは,完全矯正が不十分であった可能性があるので,完全矯正検査をやり直す。」(段落【0039】)との記載がある。
ウ上記イの記載に,上記ア認定の事実を併せ考えると,本願出願時において,矯正視力測定の一環としてピンホール効果を利用した検査を行い,ピンホール挿入の前後の視力を測定することは,当業者の技術常識であったものと認められる。
エ一方,刊行物1には,前記のとおり,「第1のレコス板40は検眼の補助に用いる光学素子を主に保持するもので,その周縁には図示なき8つの開口部が形成されている。そして・・・開口部には・・・絞り効果によって矯正視力の目安を探るための『ピンホール』・・・が・・・保持されている。」(段落【0023】)との記載があるから,上記ウをも併せ考慮すれば,刊行物1発明の「自覚式検眼装置」に代えて,本願発明の「矯正視力測定器」とすることは,当業者が容易に想到し得たことというべきである。
( ) 原告は,審決が,一方で,刊行物1について,「複数の球面レンズをレンズ2の度の強さの順に並べ,それぞれのレンズにピンホールを重ねることができるようにした自覚式検眼装置。」と認定しているのに,他方で,「球面レンズなど」という用語を用いて,「円柱レンズ」以外のものを含めているから,論理矛盾を犯している旨主張する。
しかし,一般に,進歩性の有無を判断するに当たっては,同一又は近接する技術分野における従来技術中に,当該発明の構成要素に係る技術が存在するかどうかを検討し,当該発明の構成要素が複数の技術として存在する場合には,当業者が,上記複数の技術を組み合わせて当該発明の構成に容易に想到し得るかどうかを検討するのが,審判,特許異議申立てや取消訴訟事件において行われる常套の検討方法であり,かつ,合理性の認められるところである。
これを本件についてみると,本願発明の構成との対比において,刊行物1には,「複数の球面レンズをレンズの度の強さの順に並べ,それぞれのレンズにピンホールを重ねることができるようにした自覚式検眼装置。」の発明(刊行物1発明)が記載されているとし,「矯正視力測定器」という相違点に係る本願発明の構成に想到することが容易か否かの判断を導くに当たって,ピンホール効果を利用することが技術常識である旨を認定しているのであるから,論理矛盾を犯しているとはいえない。
( ) 原告は,当業者は,眼鏡作成の手順として,まず完全矯正眼鏡を作り,それ3を参考にして客の眼鏡使用状況を考慮しながら,レンズの度を加減し,客の生活に最適の眼鏡を提供するのであり,当業者が,円柱レンズを取り除いてピンホールを入れることはない,円柱レンズを用いないで検眼を行うことは当業者には考えられない旨主張する。
しかし,本件において議論されているのは,物の発明である本願発明の構成の進歩性であって,「眼鏡作成の手順」とか,「完全矯正眼鏡を作り,それを参考にして客の眼鏡使用状況を考慮しながら,レンズの度を加減し,客の生活に最適の眼鏡を提供する」といったこととは無関係であり,当業者が円柱レンズを用いないで検眼を行うことがあるか否かとも関係がない。
原告の上記主張は,物の発明である本願発明をあたかも方法の発明であるかのように主張するものであって,失当というほかない。
( ) 原告は,従来の技術常識において,球面レンズと円柱レンズとで完全矯正し, 4そのときに矯正視力を得るものとされてきたところ,平成14年4月発行「臨床眼科」56巻4号(甲7)の図2において,従来法と比較して本願発明に係る矯正視力測定法が有効であることが示されているから,審決は,本願発明の顕著な作用効果を看過した旨主張する。
しかし,前記のとおり,刊行物1発明は,「複数の球面レンズ2をレンズの度の強さの順に並べ,それぞれのレンズにピンホール板3を重ねることができるようにした」との点で本願発明と一致し,本願発明は「矯正視力測定器」であるのに対して,刊行物1発明では「自覚式検眼装置」である点で相違するのみであるから,刊行物1発明は,本願発明の本質的な特徴となっている構成において一致しているということができるので,作用効果において本願発明と格別の差異があるとはいい難く,前記のとおり,相違点である「矯正視力測定器」とすることが当業者にとっての容易に想到し得るものである以上,本願発明の奏する作用効果は,刊行物1発明及び技術常識から予測できる範囲のものというほかない。
また,原告は,乙1ないし4刊行物の存在にもかかわらず本願発明と同様の発明が出現しなかったことは,本願発明が容易に思いつくものではないことを証明している旨主張する。
しかし,前記のとおり,相違点に係る本願発明の構成は,当業者が容易に想到し得たものであり,そうである以上,仮に本願発明と同様の発明が出現しなかったという事情があったとしても,進歩性の判断を左右するに足りない。
( ) そうすると,本願発明の進歩性を否定した審決の認定判断に誤りはない。
54以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,原告の請求は棄却を免れない。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 宍戸充
裁判官 柴田義明