関連審決 | 無効2001-35085 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成20行ケ10151審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成19行ケ10300審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成17ワ2649特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成22行ケ10221審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成15行ケ39審決取消請求参加事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 技術的思想 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 技術的範囲 / 技術的手段 / 発明の詳細な説明 / 抵触 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 構成要件 / 設定登録 / 誤記の訂正 / 請求の範囲 / 減縮 / 拡張 / 変更 / 釈明 / 訂正要件 / |
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事件 |
平成
14年
(行ケ)
139号
審決取消請求事件
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原告 株式会社豊田自動織機 訴訟代理人弁護士 永島孝明 同 伊藤晴國 同 山本光太郎 訴訟代理人弁理士 恩田博宣 被告 カルソニックカンセイ株式会社 訴訟代理人弁理士 岩ア幸邦 同 中村友之 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2005/01/19 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求める裁判
1 原告 (1) 特許庁が無効2001-35085号事件について平成14年2月12日にした審決を取り消す。 (2) 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文同旨 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「揺動斜板式圧縮機におけるピストン」とする特許第2924621号の特許(平成5年12月27日出願(以下「本件出願」という。),平成11年5月7日設定登録。以下「本件特許」という。請求項の数は2である。)の特許権者である。 被告は,本件特許の請求項1について特許異議の申立てをしたが,原告は,その審理の過程で,平成12年7月31日,特許請求の範囲(請求項1)の文言の訂正を含む明細書(以下,図面を含め「本件明細書」という。)の訂正(以下「本件訂正」という。)を請求し,特許庁は,平成12年8月22日,本件訂正を認めた上で,上記請求項1に係る特許を維持する旨の決定をした。 被告は,平成13年2月28日,本件特許の請求項1を無効とすることについて審判を請求した。特許庁は,この請求を無効2001-35085号事件として審理し,その結果,平成14年2月12日,「特許第2924621号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をし,同月25日,その謄本を原告に送達した。 2 特許請求の範囲【請求項1】 (1) 本件訂正前 「回転軸に傾動可能に支持された斜板の両面とシリンダボア内に収容された片頭ピストンの首部との間に介在されたシューを介して斜板の回転運動を片頭ピストンの往復直線運動に変換すると共に,クランク室内の圧力と吸入圧との片頭ピストンを介した差により斜板の傾角を制御する揺動斜板式圧縮機において, ピストンの中心軸線に関して斜板の回転方向側及び反対側の少なくとも一方の片頭ピストンの頭部の周面側には,ピストンの中心軸線側に向けて凹ませた肉取り部を設け,該肉取り部を前記ピストンの頭部の周面が前記シリンダボアの内周面に押し付けられる領域から外れた位置に形成した揺動斜板式圧縮機におけるピストン。」(以下「本件訂正前発明」という。) (2) 本件訂正後(下線部が訂正個所である。) 「回転軸に傾動可能に支持された斜板の両面とシリンダボア内に収容された片頭ピストンの首部との間に介在されたシューを介して斜板の回転運動を片頭ピストンの往復直線運動に変換すると共に,クランク室内の圧力と吸入圧との片頭ピストンを介した差により斜板の傾角を制御する揺動斜板式圧縮機において, 一体構成のピストンの中心軸線に関して斜板の回転方向側及び反対側の少なくとも一方の片頭ピストンの頭部の周面側には,ピストンの中心軸線側に向けて凹ませた肉取り部を設ける一方 ,前記 ピストン の中心軸線 に関して 斜板 の半径方向側における 片頭 ピストン の頭部 の周面部 において ,往復動時 に前記 シリンダボア の内周面 から 押し付け力に対する 反力 を受けるように した揺動斜板式圧縮機におけるピストン。」(以下「本件訂正発明」という。) 3 審決の理由 別紙審決書の写し記載のとおりである。要するに,@本件訂正のうち,請求項1の「肉取り部を設け,該肉取り部を前記ピストンの頭部の周面が前記シリンダボアの内周面に押し付けられる領域から外れた位置に形成した」を「肉取り部を設ける一方,前記ピストンの中心軸線に関して斜板の半径方向側における片頭ピストンの頭部の周面部において,往復動時に前記シリンダボアの内周面から押し付け力に対する反力を受けるようにした」とする訂正(以下「本件訂正b」という。)は,「特許請求の範囲の減縮」,「誤記の訂正」あるいは「明りょうでない記載の釈明」のいずれをも目的とするものとはいえず,また,「実質上特許請求の範囲を拡張」するものであるから,平成15年法律第47号による改正前の特許法(以下「改正前特許法」という。)120条の4第2項ただし書の規定及び同法120条の4第3項で準用する126条3項の規定にそれぞれ違反してなされたものであり,A本件訂正発明は,実願平3-18046号(実開平4-113791号)のマイクロフィルム(以下「引用例1」という。)及び特開平4-228882号公報(以下「引用例2」という。)に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件訂正発明に係る特許は無効とされるべきものである,とするものである。 |
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原告主張の取消事由の要点
審決は,本件訂正bが訂正要件に該当しないと誤って認定判断し,しかも本件訂正発明の進歩性の判断を誤ったものであり,これらの誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法として取り消されるべきである。 1 訂正要件適合性(改正前特許法120条の4第2項ただし書)の認定判断の誤り (1) 審決は,「訂正前における「肉取り部を設け,該肉取り部を前記ピストンの頭部の周面が前記シリンダボアの内周面に押し付けられる領域から外れた位置に形成した」の規定は,肉取り部を形成した位置が限定されており,「位置」の概念であるのに対し,訂正後における「肉取り部を設ける一方,前記ピストンの中心軸線に関して斜板の半径方向側における片頭ピストンの頭部の周面部において,往復動時に前記シリンダボアの内周面から押し付け力に対する反力を受けるようにした」の規定は,反力を受けるようにしたと限定されており,「力」の概念である。 従って,両者は,技術思想の概念を異にするものである。」(審決書12頁16〜24行)と判断している。 しかし,本件訂正前発明において「位置」という言葉を使用し,本件訂正発明において「反力」という言葉を使用したからといって,直ちに両者が「技術思想の概念を異にするものである」ということにはならない。すなわち,本件訂正前発明における「該肉取り部を・・・押し付けられる領域から外れた位置に形成した」とは,分力f2に対する反力を受ける片頭ピストンの頭部の周面部,つまり斜板の半径方向側における片頭ピストンの頭部の周面部に,肉取り部を設けることなくその周面部を残すことを意味しているのであり,本件訂正bは,このことを「肉取り部を設ける一方,・・・斜板の半径方向における片頭ピストンの頭部の周面部において,・・・押し付け力に対する反力を受けるようにした」と表現したものであるから,訂正前と訂正後とで「技術思想の概念を異にする」ということにはならないのである。また,本件訂正発明も,「片頭ピストンの頭部の周面部において」という文言において「位置」関係を明確にしているのであるから,この点でも,訂正前と訂正後とで「技術思想の概念を異にするものである」ということにはならない。 しかも,被告は,本件無効審判の審理において,本件訂正前発明における「ピストンの頭部の周面が前記シリンダボアの内周面に押し付けられる領域」が,「斜板の半径方向側の範囲を指すものである。したがって,肉取り部に関する後段の記載は,前段の記載について単に繰り返し述べているにすぎない」ことを認めているのであって,このことからすれば,訂正前と訂正後の請求項1が「技術思想の概念を異にする」という論理は成り立たない。 (2) また,審決は,米国特許第3057545号明細書(本訴甲第4号証・審判甲第2号証。以下「甲4刊行物」という。)のFig.7及び8に示された双頭ピストンを片頭ピストンであると仮定した上で,それらの図面の上下の部分(斜板の半径方向のピストンの頭部の周面)にも肉取り部が形成されているので,本件訂正前発明の規定は充足しないが,本件訂正発明の規定を充足することになり,本件訂正bは特許請求の範囲を拡張することになると判断している(審決書12頁25行〜13頁8行)。 しかし,本件訂正前発明の規定の充足性は,肉取り部が斜板の回転方向側又はその反対側の片頭ピストンの頭部の周面側に形成されているかどうかによって判断されなければならないところ,Fig.8(Fig.7はピストンの頭部の断面図ではないので,これを議論の対象とすること自体失当である。)については,その左右向きの肉取り部が,斜板の回転方向とその反対方向のピストンの頭部の周面側に形成されており,その肉取り部は斜板の半径方向のピストンの頭部の周面に及んでいないから,このような左右向きの肉取り部を有する片頭ピストンは,審決のいう中央部上向きの2つの肉取り部とは関係なく,本件訂正前発明の規定を充足するのである。 そして,Fig.8のピストンを片頭ピストンと仮定した場合には,中央部上向きの肉取り部に関係なく,片頭ピストン自体が斜板の半径方向における頭部の周面においてf2に対する反力を受けているので,本件訂正発明の規定も充足するのである。 したがって,Fig.8に示されたピストンの中央部上向きの2つの肉取り部(凹部)が本件訂正前発明の規定を充足しないが,本件訂正発明の規定を充足することを理由として,本件訂正bが特許請求の範囲を拡張すると結論付ける審決の判断は誤りである。 2 訂正要件適合性(改正前特許法120条の4第3項で準用する126条3項)の認定判断の誤り (1) 審決は,「訂正前の特許請求の範囲の請求項1に記載される「肉取り部を設け,該肉取り部を前記ピストンの頭部の周面が前記シリンダボアの内周面に押し付けられる領域から外れた位置に形成した」の記載において,肉取り部は,押し付けられる領域である,ピストンの中心軸線に関して斜板の半径方向側における片頭ピストンの頭部の周面部を外れた位置だけでなく,ピストンの回転方向側における片頭ピストンの頭部のシリンダボアの内周面に押し付けられる領域である周面部近傍をも外れた位置に形成される,換言すれば,ピストンの中心軸線に関して斜板の半径方向側における片頭ピストンの頭部の周面部だけでなく,ピストンの回転方向側における片頭ピストンの頭部の周面部近傍においても,往復動時に前記シリンダボアの内周面から押し付け力に対する反力を受けるようにする,と解するのが相当である。しかしながら,訂正後の特許請求の範囲の請求項1の「肉取り部を設ける一方,前記ピストンの中心軸線に関して斜板の半径方向側における片頭ピストンの頭部の周面部において,往復動時に前記シリンダボアの内周面から押し付け力に対する反力を受けるようにした」の記載には,ピストンの回転方向側における片頭ピストンの頭部の周面部近傍においても,往復動時にシリンダボアの内周面から押し付け力に対する反力を受けるようにした構成要件はない。したがって,訂正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は,往復動時にシリンダボアの半径方向側における内周面のみから押し付け力に対する反力を受けるようにしたものをも含むものとなっているので,上記訂正は実質上特許請求の範囲を拡張するものと認められる。」(審決書15頁13〜33行)と判断している。 しかし,この判断は,次のとおり誤りである。 (2)ア 審決は,本件訂正前発明において,「ピストンの頭部の周面がシリンダボアの内周面に押し付けられる領域」が特定できることを前提としているが,実施例の記載及び図によっても,実施例毎に分力Qに起因して押し付けられる領域が異なるので,かかる領域を明確に特定することは困難である。このように「押し付けられる領域」が明確に特定できない以上,「ピストンの回転方向側における片頭ピストンの頭部の周面部近傍(分力Qに対する反力を受ける片頭ピストンの頭部の周面部近傍)」が,本件訂正前発明の要件になっていたと認定することはできない。 イ 本件明細書の段落【0009】や実施例の記載などからすれば,本件明細書においては,片頭ピストンの頭部の斜板の回転方向側の周面を,本件訂正前発明における「ピストンの頭部の周面がシリンダボアの内周面に押し付けられる領域」であると考えていなかったと見るのが自然な解釈である。 ウ 斜板の回転方向側の周面が「押し付けられる領域」に含まれるとすると,本件明細書の第1ないし第6実施例において,その「押し付けられる領域」の位置はまちまちであるから,結局,各実施例に共通する,回転方向側におけるピストン頭部の周面の全て(すなわち,ピストン頭部の半周)を「押し付けられる領域」と解釈せざるを得ないことになる(これは,審決のいう「回転方向側における片頭ピストンの頭部の周面の近傍」ではあり得ない。)。そうすると,この「回転方向側のピストン頭部の周面の全て」において肉取り部を形成しないという要件に,本件訂正前発明の「肉取り部を回転方向側及び反対側の少なくとも一方の片頭ピストンの頭部の周面側に設ける」という要件を加えると,肉取り部を回転方向の反対側の片頭ピストンの頭部の周面に設けて,回転方向側のピストンの頭部の周面の全てを残すという第1実施例の片頭ピストンの構成のみが本件訂正前発明に抵触することになるが,このような結論は,実施例の解釈として採用できないものである。 エ 前記第3の1(1)のとおり,被告は,本件無効審判の審理において,本件訂正前発明の「押し付けられる領域」が斜板の半径方向側の範囲を指すことを認めている。このことは,当業者が,本件訂正前発明の「押し付けられる領域」は「分力f2が働く斜板の半径方向の領域」を意味するとの認識を持っていたことを示すものであり,審決の前記判断は,当業者の解釈から大きく乖離するものであって,誤りである。 オ 本件訂正は,特許異議の審理の過程で,特許庁から,本件訂正前発明の「該肉取り部を前記ピストンの頭部の周面が前記シリンダボアの内周面に押し付けられる領域から外れた位置」が特定できないので不明瞭であるとの取消理由通知を受けたため,その「押し付けられる領域」について,「斜板の半径方向における片頭ピストンの周面部において」という限定を与えて,不明瞭となることを避けたものである。 なぜなら,本件明細書の発明の詳細な説明の記述及び図から明らかなように,少なくとも分力f2が働く半径方向側の片頭ピストンの頭部の周面部には肉取り部を形成しない,換言すれば,その部位には周面部を残しておくというのが本件訂正前発明の要旨だからである。本件訂正において用いた「押し付け力に対する反力を受ける」という文言は,シリンダボアの周面からピストンの頭部の周面に働く力,つまり分力f2に対する反力(Fa,Fb)から「押し付けられる」を言い換えたものに過ぎないし,全ての実施例において,片頭ピストンの頭部の周面で肉取り部が形成されていない部分(周面部が残されている部分)として共通している周面部は,斜板の半径方向における片頭ピストンの頭部の周面部だけである。 このように,本件訂正は,肉取り部が形成されない部分を特定し,この点を明瞭にしたものであって,特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。 3 本件訂正発明の進歩性に関する判断の誤り 引用例1及び2に記載された各発明並びに本件出願当時の技術水準のいずれにおいても,本件訂正発明において提案された「片頭ピストンの頭部の何処に肉取り部を形成し,片頭ピストンの頭部の何処に肉取り部を形成せずに周面部を残すか」という課題を解決する技術的手段及び構成の開示又は示唆は存在しない。したがって,本件出願当時の当業者は,引用例1の発明と引用例2の発明を含む本件出願当時の技術水準とを組み合わせることによって,本件訂正発明に容易に想到することはできないのであり,それによる効果も予測し得るものではない。 よって,本件訂正発明は,引用例1及び2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとした審決の判断は誤りである。 |
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被告の反論の要点
1 訂正要件適合性(改正前特許法120条の4第2項ただし書)の認定判断の誤りについて 本件訂正は,「位置」という技術概念を「力」という技術概念に変更している。両者の技術概念,技術的思想は,別異であって,全く共通性のないことは明らかである。訂正後の発明が訂正前の発明を減縮したものといえるためには,両者間に少なくとも技術的思想の共通性がなければならないことはいうまでもない。 また,甲4刊行物のFig7及び8で示されているものは,斜板の半径方向側に肉取り部が設けられ,そこにおいて押し付け力に対する反力を受けるような構成となっている。この構成は,本件訂正前発明の技術的範囲に含まれないが,本件訂正発明の技術的範囲には含まれることが明らかである。 したがって,本件訂正bが特許請求の範囲の減縮を目的とするものとはいえないとする審決の認定判断は,正当であって,誤りはない。 2 訂正要件適合性(改正前特許法120条の4第3項で準用する126条3項)の認定判断の誤りについて 原告は審決の認定判断を批判するが,本件訂正が「特許請求の範囲の減縮」や「誤記の訂正」あるいは「明りょうでない記載の釈明」を目的とするものでなく,もともと違法であることは明らかであり,審決は,この違法に加えて,本件訂正がさらに改正前特許法126条3項にも違反することを重ねて認定判断したものと理解できる。しかるに,原告は,本件訂正が「特許請求の範囲の減縮」,「誤記の訂正」あるいは「明りょうでない記載の釈明」に当たることについて,何ら主張立証をすることなく,審決の改正前特許法126条3項についての認定判断を論難しているに過ぎず,失当である。 3 本件訂正発明の進歩性に関する判断の誤りについて 本件訂正発明は引用例1及び2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとした審決の認定判断に誤りはない。 |
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当裁判所の判断
1 訂正要件適合性(改正前特許法120条の4第2項ただし書)について (1) 本件訂正前発明の特許請求の範囲は,前記第2の2(1)記載のとおりであり,その「ピストンの中心軸線に関して斜板の回転方向側及び反対側の少なくとも一方の片頭ピストンの頭部の周面側には,ピストンの中心軸線側に向けて凹ませた肉取り部を設け,該肉取り部を前記ピストンの頭部の周面が前記シリンダボアの内周面に押し付けられる領域から外れた位置に形成した」という文言からすれば,それは,「斜板の回転方向側及び反対側の少なくとも一方の片頭ピストンの頭部の周面側」に設けられる肉取り部が,「ピストンの頭部の周面がシリンダボアの内周面に押し付けられる領域から外れた位置」に形成されることを規定したものといえる。このように,本件訂正前発明においては,特許請求の範囲の文言上,片頭ピストンの頭部の周面側に設けられる肉取り部は,上記「押し付けられる領域から外れた位置」に形成するとされているのであり,肉取り部を「押し付けられる領域」には形成しないと限定することによって,肉取り部を形成する箇所を特定しているものであることは明らかである。 そうすると,仮に,上記「押し付けられる領域」が,原告の主張するように,分力f2が作用する斜板の半径方向側の周面のみを意味するとすれば,本件訂正前発明において,「斜板の回転方向側及び反対側の少なくとも一方の片頭ピストンの頭部の周面側」に設けられる肉取り部は,斜板の半径方向側におけるシリンダボアの内周面から押し付け力(f2に対する反力)を受ける部分には形成されることがないことになる。 (2) これに対し,本件訂正bによる訂正後の本件訂正発明においては,「斜板の回転方向側及び反対側の少なくとも一方の片頭ピストンの頭部の周面側には,ピストンの中心軸線側に向けて凹ませた肉取り部を設ける一方,前記ピストンの中心軸線に関して斜板の半径方向側における片頭ピストンの頭部の周面部において,往復動時に前記シリンダボアの内周面から押し付け力に対する反力を受けるようにした」として,肉取り部を「押し付けられる領域から外れた位置」に形成するとの要件が削除されたため,その特許請求の範囲の文言上,ピストンの中心軸線側に向けて凹ませた肉取り部が「押し付けられる領域」にまで及んで形成されることを排除しない規定となっているものである。 したがって,例えば,斜板の回転方向側及び反対側の少なくとも一方の片頭ピストンの頭部の周面側に設けられた肉取り部が,斜板の半径方向側におけるシリンダボアの内周面から押し付け力(f2に対する反力)を受ける部分にまで食い込んだ形で形成されたものは,本件訂正前発明では,その構成要件である「肉取り部が・・・押し付けられる領域から外れた位置に形成した」に該当しないものとして,その技術的範囲に含まれないのに対し,「押し付けられる領域」には形成されないとの限定のない本件訂正発明においては,その技術的範囲に含まれ得ることになることが明らかである。 そうすると,甲4刊行物について論ずるまでもなく,本件訂正bは,特許請求の範囲を拡張するものであることが明らかであって,改正前特許法120条の4第2項ただし書き所定の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものとはいえず,また,「誤記の訂正」あるいは「明りょうでない記載の釈明」を目的としたものともいえないというべきである。 (3) 原告は,審決が,訂正前と訂正後とで,「技術思想の概念を異にするものである」と説示している点をとらえて,それが誤りであることをるる主張する。 しかし,前記のとおり,本件訂正前発明の特許請求の範囲の記載によれば,「肉取り部を設け,該肉取り部を前記ピストンの頭部の周面が前記シリンダボアの内周面に押し付けられる領域から外れた位置に形成した」として,肉取り部を形成する箇所を「押し付けられる領域から外れた位置」に限定しているのに対し,本件訂正発明においては,「肉取り部を設ける一方,前記ピストンの中心軸線に関して斜板の半径方向側における片頭ピストンの頭部の周面部において,往復動時に前記シリンダボアの内周面から押し付け力に対する反力を受けるようにした」として,肉取り部の形成位置を具体的に限定することなく,斜板の半径方向側における片頭ピストンの頭部の周面部において,押し付け力に対する反力を受けるようにすることを規定したものであるから,本件訂正前発明と本件訂正発明とでは,肉取り部の位置を規定するか,あるいは反力を受ける位置を規定するかという点で,構成要件の内容をなす要件の設定の仕方が別異のものとなっていることは明らかである(なお,原告は,被告が「押し付けられる領域」が斜板の半径方向側の範囲を指すものであることなどを認めていると主張するが,「押し付けられる領域」がピストン周面のどの範囲を指すと見るかということは,本件訂正の前後で上記のとおり要件の設定の仕方が異なるものとなっていることとは関係のない問題であり,原告主張の点は上記のように判断することの何ら妨げとなるものではない。)。審決は,この点の差異をとらえて「技術思想の概念を異にする」と表現したものと解されるのであって,表現の当否はともかくとして,その判断自体に何ら誤りがあるとはいえないし,しかも,審決は,上記「技術思想の概念を異にする」ということのみから,本件訂正bが訂正要件を欠くと結論付けたものではなく,本件訂正発明と本件訂正前発明との技術的範囲の相違を検討して,本件訂正発明が訂正前と比べて特許請求の範囲を拡張することになると判断しているものであって,原告の上記主張は理由がない。 また,原告は,審決が,甲4刊行物のFig.7及び8に示されたピストンの図に基づいて,本件訂正bが特許請求の範囲を拡張すると結論付けたことは誤りであると主張する。 確かに,原告が主張するように,甲4刊行物のFig.8のピストンを片頭ピストンと仮定した場合,その図示されたところだけから見れば,同図の左右向きの2つの肉取り部が本件訂正前発明の肉取り部に相当し,本件訂正前発明の構成要件を充足し得ると考えることができる。しかし,審決は,本件訂正前発明においては,肉取り部が「押し付けられる領域から外れた位置」に形成されると規定されているために,「肉取り部をピストンの頭部の周面がシリンダボアの内周面に押し付けられる領域,即ち,斜板の半径方向側の周面に形成した」ものは,その規定を充足しないのに対し,本件訂正発明においては,斜板の半径方向側における片頭ピストンの頭部の周面部において,シリンダボアの内周面から押し付け力に対する反力を受けることができればよいので,その要件を充足する限り,肉取り部を斜板の半径方向側の周面部にまで形成したものも,本件訂正発明の要件を満たすことになるという,本件訂正bによる訂正の前後で構成要件の充足の有無が異なる結果となることを説明するために,そのように斜板の半径方向側の周面部に肉取り部(凹部)を形成し,かつ,斜板の半径方向側の周面部において押し付け力に対する反力を受ける形状を持ったものの例として,甲4刊行物に記載されたピストンの形状を例示的に示したものに過ぎないと解される。そして,本件訂正発明においては,本件訂正前発明のような肉取り部の形成位置についての限定がされないこととなったため,その構成要件の充足性の有無について,審決が指摘する上記差異が生じることは,前記のとおりであり,審決の上記判断に誤りはない。 したがって,甲4刊行物のFig.8のピストンが,その図示されたところだけから見る限り,本件訂正前発明の肉取り部に相当する肉取り部を有しており,本件訂正前発明の構成要件を充足するとしても,そのこと自体は,本件訂正bによる訂正の前後で,構成要件の充足性の有無が異なる結果となるとの上記判断を何ら左右することになるものではない。 (4) 以上検討したところからすれば,本件訂正bは,特許請求の範囲を拡張するものであって,特許請求の範囲の減縮を目的とするものとはいえず,また,誤記の訂正や明りょうでない記載の釈明を目的とするものともいえないから,この訂正は,改正前特許法120条の4第2項ただし書の規定に違反してされたものであるとした審決の判断に誤りはない。 2 そうすると,その余の点について検討するまでもなく,本件訂正は,その要件を欠くことが明らかであり,本件訂正発明は無効とすべきであって,審決には,これを取り消すべき事由を認めることはできない。 よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 佐藤久夫 |
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裁判官 | 若林辰繁 |
裁判官 | 瀬順久 |