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関連審決 無効2003-35521
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成15ワ5443特許権侵害差止等請求事件 平成15ワ8228損害賠償請求事件 判例 特許
平成12ワ17298損害賠償等請求事件 判例 特許
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平成14ワ2473損害賠償等請求事件 判例 特許
関連ワード 技術的思想 /  頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  公知技術 /  上位概念 /  技術的範囲 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  明細書の記載要件 /  明瞭でない記載 /  実質的に同一 /  警告 /  ライセンス /  権利の濫用(権利濫用) /  文言解釈 /  置き換え /  容易に想到(容易想到性) /  禁反言 /  特許発明 /  実施 /  加工 /  間接侵害 /  構成要件 /  専用品 /  のみ用いる /  一般に流通 /  課題解決に不可欠(課題の解決に不可欠) /  差止請求(差止) /  侵害 /  組成した物 /  供した設備 /  損害額 /  相当因果関係 /  不法行為(民法709条) /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  減縮 /  拡張 /  変更 /  異議申立 / 
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事件 平成 15年 (ワ) 16706号 特許権侵害差止等請求事件
原告 株式会社天木
同訴訟代理人弁護士 小南明也
同補佐人弁理士 竹中一宣
被告 株式会社岩福セラミックス
同訴訟代理人弁護士 高橋美博
同補佐人弁理士 西山聞一
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2005/02/17
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の請求
1 被告は,別紙物件目録1記載の瓦を製造し,販売し,若しくは販売の申出をしてはならない。
2 被告は,別紙物件目録2記載の瓦を製造し,販売し,若しくは販売の申出をしてはならない。
3 被告は,別紙物件目録3記載の瓦を製造し,販売し,若しくは販売の申出をしてはならない。
4 被告は,その占有に係る別紙物件目録1ないし3記載の各瓦を廃棄せよ。
5 被告は,その占有に係る別紙物件目録4ないし6記載の各金型を廃棄せよ。
6 被告は,原告に対し,5000万円及びこれに対する平成15年8月3日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
原告は,安定駒利用の耐震,耐風瓦工法に関する特許権を有する者である。
本件において,原告は,被告の製造販売する屋根瓦が原告の有する特許権をいわゆる間接侵害するものであると主張して,特許法101条3号,4号,100条に基づき,被告に対し,別紙物件目録1ないし3記載の各瓦の製造販売の差止め並びに前記各瓦及び別紙物件目録4ないし6記載の各金型の廃棄を求めるとともに,特許法102条1項に基づき5000万円の損害賠償を求めている。
1 判断の前提となる事実(当事者間に争いがないか,該当箇所掲記の各証拠によって容易に認められる。) (1) 当事者 原告は,瓦の製造販売等を業とする株式会社である。
被告は,粘土瓦の製造卸等を業とする株式会社である。
(2) 原告の特許権(甲1の1) 原告は,下記の特許権(以下「本件特許権」という。)の特許権者である。
ア 発明の名称 安定駒利用の耐震,耐風瓦工法 イ 特許番号 第2905776号 ウ 出願日 平成10年6月3日 エ 出願番号 特願平10-154909号 オ 登録日 平成11年3月26日 (3) 本件特許権に係る明細書(平成12年7月7日付け訂正請求による訂正後のもの。以下「本件明細書」という。本判決末尾添付の特許公報(甲1の2,3。
以下「本件公報」という。)参照)の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,請求項1記載の特許発明を「本件特許発明」という。)。
「【請求項1】 屋根地に多数本の横棧及び縦棧をクロス状に配置する棧の布設工程と,この布設工程で配置された横棧に屋根瓦の尻側裏面に設けた引掛けを係止するとともに,縦棧に屋根瓦の尻側裏面に設けた安定駒の差込み側の側面を当接する屋根瓦の係止工程と,この係止工程において縦棧を安定駒の差込み側の側面に当接する際に,当該安定駒の底面が横棧に直接当接して安定的に葺工される安定駒当接工程と,で構成されている安定駒利用の耐震,耐風瓦工法」 (4) 本件特許発明構成要件に分説すれば,次のとおりである(以下,それぞれを「構成要件A」のようにいう。
A 屋根地に多数本の横棧(以下「横桟」と表記する。)及び縦棧(以下「縦桟」と表記する。)をクロス状に配置する桟の布設工程と, B この布設工程で配置された横桟に屋根瓦の尻側裏面に設けた引掛けを係止するとともに, C 縦桟に屋根瓦の尻側裏面に設けた安定駒の差込み側の側面を当接する屋根瓦の係止工程と, D この係止工程において縦桟を安定駒の差込み側の側面に当接する際に,当該安定駒の底面が横桟に直接当接して安定的に葺工される安定駒当接工程と, E で構成されている安定駒利用の耐震,耐風瓦工法 (5) 本件特許権についての無効審判請求事件等の経緯は,次のとおりである(甲23の3,24の3,乙1の5,24,8,27の2,32) ア 平成11年12月14日,特許異議が申し立てられ(異議平11-074703号),平成13年3月2日,平成12年7月7日付け訂正請求を認めた上で特許を維持する旨の決定がされた(確定)。
イ 被告は,平成15年12月24日,無効審判を申し立てた(無効2003-35521号)。原告は,平成16年3月24日,訂正請求を行ったところ(甲23の3),平成16年4月22日発送で,同年3月24日付け訂正請求を認めるが本件特許権を無効とすべき旨の無効理由通知がされた。原告は,これに対し,答弁書及び意見書を提出するとともに,同年6月14日付けで訂正請求を行った(甲24の3)。同年6月14日付け訂正請求については,同年7月23日発送で,訂正拒絶理由通知がされた。
(6) 被告の製造販売する別紙物件目録1ないし3記載の各瓦(以下,総称して「被告各製品」という。)(甲5の1,2,10) ア 被告は,平成13年ころから,別紙物件目録1記載の瓦(以下「イ号物件」という。)及び別紙物件目録2記載の瓦(以下「ロ号物件」という。)を,「防災瓦 福太郎」という商品名で,製造販売している。
イ号物件の構成は,別紙物件目録1添付の第1図ないし第4図記載のとおりである。
ロ号物件の構成は,別紙物件目録2添付の第1図ないし第4図記載のとおりである。
イ 被告は,別紙物件目録3記載の瓦(以下「ハ号物件」という。)を,「緩勾配対応防災瓦 緩太郎」という商品名で,製造販売している。
ハ号物件の構成は,別紙物件目録3添付の第1図ないし第4図記載のとおりである。
2 本件の争点 (1) 被告各製品の具体的な構成(争点1) (2) 被告各製品を屋根上に設置する工法は本件特許権の構成要件を充足するか(争点2) (3) 被告各製品の製造等は,本件特許権の間接侵害に該当するか(争点3) (4) 本件特許権に無効理由があることが明らかか(争点4) (5) 被告各製品を屋根上に設置する工法は公知技術実施であり,これに対する本件特許権に基づく権利行使が許されないか(争点5) (6) 本件特許権に基づく権利行使が,禁反言を理由として許されないか(争点6) (7) 差止め・廃棄の必要性(争点7) (8) 損害の内容及びその額(争点8) 3 争点に関する当事者の主張 (1) 被告各製品の具体的な構成(争点1) (原告の主張) ア イ号物件の構成は,以下のとおりである(別紙物件目録1添付の第1図ないし第4図参照)。なお,切欠段面Eと安定突起Fの差込C側側面F1との区別は明確にできないのであって,両者は同一側面を指すものである。
@ 引掛けH1,H2 瓦本体Aの裏面の尻側(葺設された状態では,屋根の上方,すなわち棟側にあたる。第2図の下側)には,横桟に掛止するように,2個の逆三角形状の引掛けH1,H2が形成されている。
A 尻側裏面中央平坦部G 瓦本体Aの裏面の尻側(第2図の下側)における,引掛けH1,H2より頭側寄りに略水平状を呈する尻側裏面中央平坦部Gが形成される。
B 安定突起F 瓦本体Aの裏面の尻側で,引掛けH1より差込C側(第2図右側)には,逆三角形状の安定突起Fが形成されている。
C 尻差込側裏面部D 瓦本体Aの裏面の尻側で安定突起Fより差込C側(第2図右側)の尻差込側裏面部Dに縦桟当接平坦面D1が形成される。
D 釘孔I 瓦本体Aを横桟に固定する釘(又は釘ビス)を通過させて屋根下地側へ打ち込むための釘孔Iを形成している。
イ ロ号物件の構成は,以下のとおりである(別紙物件目録2添付の第1図ないし第4図参照)。
@ 引掛けH1,H2 瓦本体Aの裏面の尻側(第2図の下側)には,横桟に掛止するように,2個の逆三角形状の引掛けH1,H2が形成されている。
A 尻側裏面中央平坦部G 瓦本体Aの裏面の尻側(第2図の下側)における,引掛けH1,H2より頭側寄りに略水平状を呈する尻側裏面中央平坦部Gが形成される。
B 安定突起F 瓦本体Aの裏面の尻側で,引掛けH1より差込C側(第2図右側)には,逆三角形状の安定突起Fが形成されている。
C 尻差込側裏面部D 瓦本体Aの裏面の尻側で安定突起Fより差込C側(第2図右側)の尻差込側裏面部Dに縦桟当接平坦面D1が形成される。
縦桟当接平坦面D1の安定突起F側側部には,切欠段面E1,平坦面E2によって段差が形成される。
D 釘孔I 瓦本体Aを横桟に固定する釘(又は釘ビス)を通過させて屋根下地側へ打ち込むための釘孔Iを形成している。
ウ ハ号物件の構成は,以下のとおりである(別紙物件目録3添付の第1図ないし第4図参照)。なお,切欠段面Eと誘導突起Jの差込C側側面J1との区別は明確にできないのであって,両者は同一側面を指すものである。
@ 引掛けH1,H2 瓦本体Aの裏面の尻側(第2図の下側)には,横桟に掛止するように,2個の逆三角形状の引掛けH1,H2が形成されている。
A 尻側裏面中央平坦部G 瓦本体Aの裏面の尻側(第2図の下側)における,引掛けH1,H2より頭側寄りに略水平状を呈する尻側裏面中央平坦部Gが形成される。
B 安定突起F 瓦本体Aの裏面の尻側で,引掛けH1より差込C側(第2図右側)には,逆三角形状の安定突起Fが形成されている。
安定突起Fにおける差込C側側面F1は傾斜面を呈する。
C 尻差込側裏面部D 瓦本体Aの裏面の尻側で安定突起Fより差込C側(第2図右側)の尻差込側裏面部Dに縦桟当接平坦面D1が形成される。
D 誘導突起J 瓦本体Aの裏面の尻側で安定突起Fと縦桟当接平坦面D1の間に誘導突起Jを形成し,縦桟当接平坦面D1に縦桟を誘導する役割を果たす。
E 釘孔I 瓦本体Aを横桟に固定する釘(又は釘ビス)を通過させて屋根下地側へ打ち込むための釘孔Iを形成している。
F 引掛けH1,H2の周囲の凹部G1 引掛けH1,H2の周囲に凹部G1を形成している。
(被告の主張) ア イ号物件の構成が,別紙物件目録1添付の第1図ないし第4図記載のとおりであることは認める。原告主張に係る構成の説明@ないしDについては,以下のとおり認否する。
@ 認める。
A 「略水平状を呈する」という部分を削除すべきである。
B 原告主張に加え,「安定突起Fの差込C側側面F1は,傾斜面を形成している。」旨の構成の説明を追加すべきである。
C 原告主張に加え,「尻差込側裏面部Dに縦桟当接平坦面D1を形成し,縦桟当接平坦面D1の安定突起F側側部に安定突起Fの差込C側側面F1と面一に形成され,傾斜面として形成された切欠段面Eを形成する。」旨の構成の説明を追加すべきである。なお,切欠段面Eは縦桟当接平坦面D1の形成の結果,形成されたものであり,安定突起Fの差込C側側面F1と面一に形成されているとしても,その境界は明確であり,面形成の趣旨を異にしている。
D 認める。
イ ロ号物件の構成が,別紙物件目録2添付の第1図ないし第4図記載のとおりであることは認める。原告主張に係る構成の説明@ないしDについては,以下のとおり認否する。
@ 認める。
A 「略水平状を呈する」という部分を削除すべきである。
B 原告主張に加え,「安定突起Fの差込C側側面F1は,傾斜面を形成している。」旨の構成の説明を追加すべきである。
C 原告主張に加え,「傾斜面として形成された切欠段面E1,略平坦面で形成されたE2によって段差が形成される。」旨の構成の説明を追加すべきである。
D 認める。
ウ ハ号物件の構成が,別紙物件目録3添付の第1図ないし第4図記載のとおりであることは認める。原告主張に係る構成の説明@ないしFについては,以下のとおり認否する。
@ 認める。
A 「略水平状を呈する」という部分を削除すべきである。
B 認める。
C 原告主張に加え,「縦桟当接平坦面D1を形成し,縦桟当接平坦面D1の安定突起F側側部に傾斜面として形成された切欠段面Eが形成される。」旨の構成の説明を追加すべきである。
D 「誘導突起Jを形成し」と「縦桟当接平坦面D1に縦桟を誘導する役割を果たす。」との間に,「誘導突起Jの差込C側側面J1と切欠段面Eは面一に連続形成され,」旨の構成の説明を追加すべきである。なお,切欠段面Eは縦桟当接平坦面D1の形成の結果,形成されたものであり,誘導突起Jの差込C側側面J1と面一に形成されているとしても,その境界は明確であり,面形成の趣旨を異にしている。
E 認める。
F 認める。
(2) 被告各製品を屋根上に設置する工法は本件特許権の構成要件を充足するか(争点2) (原告の主張) ア 被告各製品を屋根上に設置する工法(以下「被告工法」という。)は,次のとおりである。
工程@ 屋根地に多数本の横桟及び縦桟をクロス状に配置する桟の布設工程 工程A 工程@で配置された横桟に屋根瓦(被告各製品)の尻側裏面に設けた引掛けを係止する工程 工程B 縦桟に屋根瓦(被告各製品)の尻側裏面に設けた安定駒の差込み側の側面を当接して屋根瓦(被告各製品)を係止する工程 工程C 工程Bの係止工程の際に,安定駒の底面を横桟に当接させる工程 イ 被告工法のうち,工程@は構成要件Aを,同Aは構成要件Bをそれぞれ充足する。
ウ 被告工法のうち,工程BCは,次のとおり構成要件C及び同Dを充足する。
(ア) イ号物件 a 縦桟木の側面は,安定突起Fの差込C側側面F1に当接し,安定突起Fの下端F2は横桟に当接しているのであるから,構成要件C及び同Dを充足する。
b イ号物件は,高さ約12ないし13ミリメートル以下の縦桟木を用いた場合に,屋根地に最も安定した状態で葺設することができる構造となっている。そして,屋根地に最も安定した状態で葺設した場合には,@縦桟の側面が,その安定突起Fの差込C側側面F1に当接し,A安定突起Fの下端F2が横桟に当接する,ことが明らかである。なお,それよりも大きい高さ(例えば15ミリメートル)の縦桟木を用いた場合は,左右両側から瓦本体が持ち上げられた状態となり,瓦本体Aの尻側(手前側)は横桟に接することなく宙に浮いた状態となって,引掛けHの横桟に対する引っ掛かりの程度が極めて悪くなる。そのため,横桟の上に安定して葺設することができない状態となり,被告がパンフレット等で宣伝する防災瓦の機能を果たすことができない。
したがって,イ号物件における安定突起Fは,本件特許発明の「安定駒」に該当し,「安定駒の差込み側の側面を当接する屋根瓦の係止工程」(構成要件C),「安定駒の底面が横桟に直接当接して安定的に葺工される安定駒当接工程」(構成要件D)を充足する。
(イ) ロ号物件 a 縦桟木の側面は,安定突起Fの差込C側側面F1に当接し,安定突起Fの下端F2は横桟に当接しているのであるから,構成要件C及び同Dを充足する。
b ロ号物件は,高さ約12ないし13ミリメートル以下の縦桟木を用いた場合に,屋根地に最も安定した状態で葺設することができる構造となっている。そして,屋根地に最も安定した状態で葺設した場合には,@縦桟の側面が,その安定突起Fの差込C側側面F1に当接し,A安定突起Fの下端F2が横桟に当接する,ことが明らかである。なお,高さ約15ミリメートルの縦桟木を用いた場合は,左右両側から瓦本体が持ち上げられた状態となり,瓦本体Aの尻側(手前側)の一部は横桟に接するが,引掛けHの横桟に対する引っ掛かりの程度が極めて悪い。しかしながら,この場合でも,@縦桟の側面が,切欠段面E1に当接し,A安定突起Fの下端F2が横桟に当接する,ことが明らかである。そして,切欠段面E1,平坦面E2,安定突起Fは一体として形成されていることから,これら全体を本件特許発明の「安定駒」とみることが可能である。それよりも高い縦桟木を用いた場合は,横桟の上に安定して葺設することができない状態となり,被告がパンフレット等で宣伝する防災瓦の機能を果たすことができない。
したがって,ロ号物件における安定突起F(及び一体として形成されている切欠段面E1,平坦面E2)は,本件特許発明の「安定駒」に該当し,「安定駒の差込み側の側面を当接する屋根瓦の係止工程」(構成要件C),「安定駒の底面が横桟に直接当接して安定的に葺工される安定駒当接工程」(構成要件D)を充足する。
(ウ) ハ号物件 a 縦桟木の側面は,誘導突起Jの差込C側側面J1に当接し,安定突起Fの下端F2は横桟に当接しているのであるから,構成要件C及び同Dを充足する。安定突起Fと誘導突起Jは溝Kを介している一体の部材であり,全体として「安定駒」に該当する。
b 安定突起F,溝K及び誘導突起Jは,本件特許発明の「安定駒」に該当する。
誘導突起Jは,縦・横桟工法を用いる場合に,縦桟当接平坦面D1に縦桟を誘導する機能を有する点及び瓦の上からかけられた力による瓦のガタつき等を防止するという機能を有する点において,イ号物件における安定突起Fと全く同じ部材である。したがって,縦桟の側面に当接させるという点及び横桟の表面に当接させるという点からは,本件特許発明の「安定駒」に該当する。
誘導突起Jと安定突起Fは,本件特許発明の「安定駒」と同一の機能を有するものであるが,ハ号物件においては,両者は,一応別部材として形成されている。しかしながら,誘導突起Jと安定突起Fをあえて別部材として形成しなければならない技術的合理性は全く存在しないし,溝K(幅の奥行きは僅か数ミリメートル程度である。)を設けなければならない理由も存在しない。そもそも,被告がイ号物件及びロ号物件の構成を,ハ号物件の構成に変更した理由・目的は,原告からの警告状に対して特許侵害を回避しようとした点だけである。これは,ハ号物件の構成に設計変更する旨の回答がなされた経緯からも明らかである。以上から,溝Kを介しているといえども,誘導突起J及び安定突起Fは実質的には一体の部材であり,全体として本件特許発明の「安定駒」に該当することは明らかである。
切欠段面Eと誘導突起Jの差込C側側面J1は実質的に同一側面を指すものであるから,縦桟が誘導突起J,すなわちハ号物件の「安定駒」に当接していることは明らかである。また,イ号物件の安定突起Fと同様の機能を果たすハ号物件の安定突起Fについて,その下端F2が横桟に当接しないことは有り得ない。
エ 被告各製品は「防災瓦(耐震,耐風瓦)」であり,これを用いた瓦工法は,安定突起F(本件特許発明における「安定駒」に相当する。)を利用したものであるから,構成要件Eを充足する。
オ したがって,被告工法は,本件特許発明技術的範囲に属する。
(被告の主張) ア 原告主張の被告工法に対する認否 被告各製品は,原告主張の被告工法のうち工程BCのとおりに屋根上に設置されているものではないし,安定駒利用の耐震・耐風瓦工法ではない。
イ 原告主張の被告工法のうち工程@が構成要件Aを,同Aが構成要件Bをそれぞれ充足することは認める。
ウ 本件特許発明は,公知技術の組み合わせでしかないことを考えれば,厳格に文言解釈を行うべきであり,その技術的範囲実施例に限定されるべきである。そして,特許請求の範囲の文言上も面として表現していること,面とは一定の広がりを示すものであり線ではないこと,実施例も縦桟と安定駒側面は面と当接していること(本件明細書の【図4】【図7】)から,一定の広がりのある面として当接することが本件特許発明技術的範囲というべきである。そして,原告の主張する本件特許発明の効果(耐震,耐風の効果)を有するとすれば,点や線で縦桟が安定駒に当接してもそのような作用効果が生ずることはなく,面として当接していなくてはならない。
エ 被告各製品は,いずれも縦桟の上面は尻差込側裏面部の縦桟当接平坦面D1に当接し,側面は当接せず,角部が切欠段面Eに当接しているにすぎず,安定突起Fの側面F1に当接していないことはもとより,葺設状態においては,安定突起Fの下端F2は横桟に当接していない。
また,ロ号・ハ号物件は,瓦単体においても安定突起Fの下端F2が横桟に当接するような構成になっていない。イ号物件も当初は金型の誤りがあり,本件瓦裏面横桟当接部から延長された仮装線上に安定突起Fの下端F2があったとしても,葺設状態においては安定突起Fの下端F2は横桟に当接していない(なお,被告は,その後,金型を是正している。)。
オ 縦桟・横桟を併用する場合において,標準工法は横20ミリメートル,縦15ミリメートルを予定しているところであり,被告各製品も同様である。被告は,これを前提に,縦桟の上面を葺き水平の平坦部D1(縦桟当接平坦面D1)及び縦桟の角部を切欠段面Eに当接させることにより,安定性及び施工精度を増すように設計するとともに,葺設状態における瓦本体Aにあっては,桟B側が桟コバB1の下部B2が隣の瓦本体Aの縦桟で下方支持された差込Cの上面に当接し,差込Cが縦桟で下方支持される二点支持状態としている。そしてこの場合,安定突起Fについては,イ号物件について安定突起Fが縦桟当接平坦面D1に縦桟を誘導する役割以外には格別の作用はない。一方,横桟工法のみの場合,横桟と尻側裏面中央平坦部Gを当接させていて,この場合,差込側の下が空き,葺き上げた瓦の上に人が乗るとガタつきが生じるため,それを解消し,かつ,職人等が乗ることによるガタつき・踏割れ等を防止するため安定突起Fを設けている。このように,安定突起Fを横桟に当接させないのは,焼物である瓦の行儀の誤差(焼物である以上,歪み等の誤差が生じ,画一的精度を得ることは製造上,極めて困難である。)があり,本件特許発明のような安定駒と尻側裏面中央平坦部と桟コバの三点支持は,かえってガタつきが生じるし,ねじれが生じることになるから,むしろ安定突起下端F2と尻側裏面中央平坦部Gについて同一平面上にとらず,安定突起Fを横桟に当接させないようにしているのである。一方,ロ号・ハ号物件の安定突起Fは,縦横桟工法に使用するときは何の役割も果たさないのであって,横桟工法に使用する場合にイ号物件と同様の役割を果たすにすぎない。そして,被告各製品における尻側裏面中央平坦部Gは,縦桟を使用しない工法の場合,横桟に接する平面を設けることで,耐風・耐震の効果を強化するために形成されている。
カ したがって,被告各製品は,構成要件C及び同Dを充足しない。以下,被告各製品について詳論する。
(ア) イ号物件 a 金型作成段階での誤りから,安定突起Fの下端F2は,尻側裏面中央平坦部Gから延長された仮想線上に位置している。しかし,葺設状態においては,安定突起Fの下端F2は横桟に当接しない。さらに,イ号物件においては,尻差込側裏面部Dにおいて縦桟の上面を当接させるため葺き水平の平坦部D1(縦桟当接平坦面D1)及び縦桟当接平坦面D1の安定突起F側側部に切欠段面Eを形成し,切欠段面Eを傾斜面として,安定突起Fの差込C側側面F1と面一にすべく連続形成されていることから,縦桟を使用する場合において,縦桟は安定突起Fの差込C側側面F1に当接せず,切欠段面Eに当接し,しかも縦桟の側面ではなく角部が当接している。
b 原告は「イ号・ロ号物件は,高さ約12ないし13ミリメートル以下の縦桟木を用いた場合に,屋根地に最も安定した状態で葺設することができる構造となっている。」と主張するが,「屋根地に最も安定した状態で葺設する」状態とはいかなる状態のことを意味するのか,その意味内容が判然としない。考えられるのは,耐震・耐風という防災の面から安定しないということか,ガタつくことから安定しないというガタつきを防止するということか,いずれかと思われる。
前者の耐震・耐風という防災の面から安定性を論じているとした場合,イ号・ロ号物件がいわゆる防災瓦であることの由縁はツメ構造にあり,引掛けHや瓦本体Aの尻側の横桟当接によって耐震・耐風機能をもたらすとしているのではない。原告主張の「尻側裏面中央平坦部Gの横桟への当接,安定突起Fの側面F1の縦桟への当接,安定突起Fの下端F2の横桟への当接」が耐震・耐風機能の面において多大な効果を果たすことはない。
後者のガタつき防止の面から安定性を論じているとした場合,原告の主張するように「尻側裏面中央平坦部Gのみならず,安定突起Fの下端F2を横桟に当接させる」ことは,野地が水平な部分が少なく,不陸な部分が多いことに加え,瓦のゆがみ等の関係でかえって瓦の葺設にガタつきが出ることになる。すなわち,縦桟当接平坦面D1に縦桟を当接させ,差込Cが縦桟で下方支持させることの方が安定しているのであって,ガタつき防止の面から安定性を論じているとすれば,的外れな議論である。
c 縦桟の高さ5ミリメートルといった意図して極端な縦桟によった場合はともかく,その余は縦桟の側面が切欠段面Eに当接する(正確には縦桟の側面ではなく,角部が当接する)ことはあっても,安定突起Fの差込C側側面F1に当接していないことは明白である。イ号物件は,たまたま切欠段面Eと安定突起Fの差込C側側面F1とを面一に形成したにすぎないものであって,安定突起Fの差込C側側面F1に縦桟の側面が当接することはない。
d 安定突起Fの下端F2が横桟に当接することが明らかとはいえず,たまたま当接しているとしたら,行儀の誤差の関係でしかない。
(イ) ロ号物件 a 安定突起Fの下端F2は,尻側裏面中央平坦部Gから延長された仮想線と一致せず,安定突起Fの下端F2は横桟に当接するよう形成されていない。
すなわち,尻側裏面中央平坦部Gから延長された仮想線上に安定突起Fの下端F2は位置せず,葺設状態において安定突起Fの下端F2は横桟に当接しない。
さらに,ロ号物件は,尻差込側裏面部Dにおいて縦桟上面を当接させるために葺き水平の平坦部D1(縦桟当接平坦面D1)を形成し,縦桟当接平坦面D1の安定突起F側側部に切欠段面Eを形成し,切欠段面Eを傾斜面としているが,安定突起Fにおける差込C側側面F1と面一でないことから,縦桟を使用する場合において,縦桟は安定突起Fの尻差込C側側面F1に当接せずに切欠段面Eに当接し,しかも縦桟の側面ではなく角部に当接する。
b 縦桟の高さについての原告の主張に対する反論は,前記(ア)bで述べたとおりである。
c 縦桟の高さ5ミリメートルといった意図して極端な縦桟によった場合はともかく,イ号物件と同様,縦桟は切欠段面E1に当接する(正確には縦桟の側面ではなく,角部が当接する。)にすぎない。また,ロ号物件の構成においては,安定突起Fの差込C側側面F1と切欠段面E1が同一面を形成していないことは明らかである。イ号物件のように切欠段面Eを形成した状況においては,縦桟当接平坦面D1の形成並びに縦桟当接平坦面D1及び切欠段面E部分と瓦本体Aの表面凹部との距離が短く厚みがなくなる結果,亀裂や破損のおそれがあったことから,被告はロ号物件に,切欠段面E1及び平坦面E2を形成したものである。
d 安定突起Fの下端F2が横桟に当接することが明らかとはいえない。金型の図面や行儀の誤差の生じない石膏を用いて作成した瓦によれば,縦桟の高さが5ミリメートルであったとしても,尻側裏面中央平坦部Gが横桟に当接するのであるから,尻側裏面中央平坦部Gの線を安定突起F方向に仮想線として引いた場合に,安定突起Fの下端F2が横桟に当接することはない。
(ウ) ハ号物件 a 安定突起Fの下端F2は横桟に当接するよう形成されていない。すなわち,尻側裏面中央平坦部Gから延長された仮想線上に安定突起Fの下端F2は位置せず,葺設状態において安定突起Fの下端F2は横桟に当接しない。
さらに,ハ号物件は尻差込側裏面部Dにおいて縦桟上面を当接させるために葺き水平の平坦部(縦桟当接平坦面D1)を形成し,縦桟当接平坦面D1の安定突起F側側部に切欠段面Eを形成しているが,安定突起Fにおける尻差込C側側面F1とは面一でないことから,縦桟は安定突起Fの差込C側側面F1に当接せず,切欠段面Eに当接し,しかも縦桟の側面ではなく角部が当接する。また,安定突起Fと縦桟当接平坦部D1との間に誘導突起Jを形成し,誘導突起Jにおける差込C側側面J1と切欠段面Eを面一にすべく連続形成されることから,縦桟を使用する場合において,誘導突起Jは縦桟当接平坦面D1に縦桟を誘導する役割を果たし,縦桟は誘導突起Jにおける差込C側側面J1に当接せず,切欠段面Eに当接し,しかも縦桟の角部が当接する。
b 安定突起の本来の機能は,職人が瓦の上に載った場合等において,安定突起Fの下端F2が横桟に当接して瓦のガタつき,踏割れ等の破損を防止することにある。一方,原告は,イ号物件を原告が予定する縦横桟工法に使用する場合には,安定突起Fはガタつき防止の機能を有せず,単に誘導突起の機能しかないと主張する。したがって,イ号物件においては,縦横桟工法において安定突起Fが誘導突起の機能を有するから,ハ号物件の誘導突起Jも同じ誘導機能を有するとして,誘導突起Jが安定突起Fと同じ部材であるとするのは,論理の飛躍である。
また,縦桟を縦桟当接平坦面D1に誘導するには,ロ号物件のE部分を高くした方が,誘導しやすいことは自明である。しかし,瓦の製造工程は,粘土にて本件J型瓦に形成し,何ら凹凸のない粘土による原形について,金型で押し出し,突起を形成していくものであるから,突起部分の面積が大きくなればなるほど,その周囲の粘土は粗くなり,亀裂や破損を起こしやすくするため,粘土を粗くしないため溝Kを設けているのである。したがって,溝Kを設けて安定突起Fと誘導突起Jを別に形成する理由はある。
c ハ号物件の安定突起Fは横桟に当接するように作成されていない。
(原告の再反論) ア 切欠段面Eに当接しているとの点について イ号物件においては切欠段面Eと安定突起Fの差込C側側面F1の区別は明確にできないことから,切欠段面Eと安定突起Fの差込C側側面F1は,同一側面を指しているものとしか理解できない。
そもそも,構成要件C「縦桟に屋根瓦の尻側裏面に設けた安定駒の差込み側の側面を当接する屋根瓦の係止工程」における「安定駒の差込み側の側面」を「縦桟に当接する係止工程」とは,葺設後の状態を指すものではない。瓦を葺設する過程において,位置決めのために「安定駒の側面」を縦桟木の側面に当接させるという意味である。これは,縦桟木自体が,「瓦を棟方向に順次葺設するに際し,墨付け又は水糸をガイドに瓦を葺き上げていくとともに,各瓦の引掛けをそれぞれ横桟に係止する。以後は,前記と同様に順次葺設されていき屋根全体が葺き上げられる。以上の如く,瓦を棟方向に葺き上げる際に,屋根地に縦桟に相当するガイド部材がないことから,水糸等をガイドに順次葺設する工法であり,手間,熟練を要すること,また水糸では風,人物の接触によりぶれることがあり不安定であること,等の問題」(本件明細書の段落【0002】)を解決するための部材であることから明らかである。また,「以上のようにして横・縦桟の取付けが終了した場合,通常前記軒先瓦に続いて次の瓦を葺工するが,この場合,縦桟の側面に安定駒の差込み側の側面を当接する。‥‥‥また原則として,縦桟は横桟の一定位置で,かつ屋根地の各所に設けられているので,水糸及び熟練を要さず,各瓦を所定位置に,かつ筋が通った状態で美麗に葺工できることと,この屋根地の各部位で,それぞれ葺工作業が個別にできる等の特徴があり有益である。」(同【0013】),「請求項1の発明は,‥‥‥最も簡単な操作により瓦の主として棟方向への葺設の簡便化かつ確実化を図り,かつ葺き上げ精度の向上が図れる」(同【0019】)と記載されているとおりである。
ところが,被告は,イ号物件における安定突起Fについては,「縦横桟工法に使用する場合に,縦桟当接平坦面D1に縦桟を誘導するだけの役割しかない」と主張しているから,瓦を葺設する際に,安定突起Fが,縦桟に誘導する機能を有する点は否定できない事実である。そして,安定突起Fが瓦を縦桟に誘導する機能を有するということは,安定突起の側面を使って,そこに縦桟を接触させて縦方向(棟方向)の位置決めをする工程が必須であり,安定突起Fの側面部分は,その位置決めのための部材として必要不可欠ということである。
前記のとおり,本件特許発明における「安定駒の差込み側の側面」を「縦桟に当接する係止工程」とは,瓦を葺設する過程において「安定駒の側面」を縦桟木の側面に当接しながら位置決めをするというものである。したがって,切欠段面Eに関する被告の主張は,それが安定突起Fの差込C側側面F1と明確に区別できることを前提とする点及び安定突起Fの差込C側側面F1を用いて縦桟を誘導していることを認めている点において,いずれにしても失当である。
イ 尻側裏面中央平坦部Gについて 被告のパンフレット(甲5の1,6の2)には,尻側裏面中央平坦部Gについて「フラット加工 桟木との接点をフラットにすることにより,安定性を向上させました。」と記載するにとどまり,さらに,同パンフレットは縦・横桟工法に用いることを前提とした記載がなされているにもかかわらず,横桟工法の場合にのみ機能するとは記載されていない。
尻側裏面中央平坦部Gを横桟に当接させないで葺工すると,瓦が浮き上がった状態となり,引掛けHの横桟に対する引掛かり状態がかなり悪く,およそ防災瓦として必要な安定性が得られないのである。ハ号物件のパンフレット(甲10)には,尻側裏面中央平坦部Gについて「動かない安定性 瓦裏面の構造に加えて,安定駒と二重性能で屋根に安定して張りつき,瓦のガタつきや傷みの心配がありません。台風や地震などに,特に安全性能を発揮します。」と記載されており,安定突起Fが「安定駒」に該当すること,屋根(要するに横桟木)に安定して張り付くことを認めた記載がなされている。
三点支持の場合にガタつきが生じ,ねじれが生じることになること及び安定突起Fを横桟に当接させないことでそのガタつき,ねじれを回避できることについて,被告は何ら合理的な説明をしていない。
ウ 縦桟木の高さが15ミリメートルであるとする点について 縦桟木の高さは,安定駒(被告各製品における安定突起)の高さとの関係で,その都度選択されるのであり,特に一定の高さでなければならないという基準は存在しない。そして,既に実験によって証明したとおり,被告各製品は縦桟木を15ミリメートルとした場合には,左右両側から瓦本体が持ち上げられ,横桟に接することなく宙に浮いた状態となって,引掛けHの横桟に対する引っ掛かりの程度が極めて悪くなる。そのため,横桟の上に安定して葺設することができない状態となり,被告がパンフレット等で宣伝する防災瓦の機能を果たすことは不可能である。
(3) 被告各製品の製造等は,本件特許権の間接侵害に該当するか(争点3) (原告の主張) ア 特許法101条3号 被告各製品は通常の瓦ではなく,優れた耐風性・耐震性・防水性を宣伝文句として販売されている「防災瓦」であり,特許法101条3号の適用に関しても,その「防災目的」という被告各製品の特性を考慮する必要がある。「防災瓦」の特徴は,地震や台風時に,通常瓦に比較して,瓦のガタつき,横ズレ,縦ズレ,崩落などを防止できるという作用効果が発揮できる点にある。よって,「防災」を用途とする性質上,葺き上がり工事が終了した時点で,瓦自体が,地震や強風等に耐えられるよう,安定的に屋根に張り付き,固定されていなければならない。すなわち,「防災瓦」が,その防災機能を十二分に発揮するためには,その瓦自体の構造に最も適合した瓦工法を採用する必要がある。その瓦が防災機能を果たすために予定している瓦工法を採用しない場合は,瓦の浮き上がりやガタつき・ズレが生じることになり,防災瓦としての目的を十分に果たすことはできず,その機能を発揮できないから,結局,経済的・商業的・実用的な観点からは,当該防災瓦が当初予定している用途に用いていないことに帰着する。
被告各製品を用いた瓦工法が本件特許発明構成要件を全て充足することは既に述べたとおりであり,本件特許発明の方法以外では,被告各製品に「防災瓦」としての効果を発揮させることはできない。よって,被告各製品は,本件特許発明実施にのみ使用する物である。なお,被告は,被告各製品を,横桟のみを用いた工法(「引掛け工法」)に用いることができる旨主張するが,被告各製品は,縦桟を利用することにより,地震や強風による横ズレをも防ぐ目的で製造販売されている防災瓦である以上,その最も適合する工法は縦横桟工法である。
したがって,被告各製品は,本件特許発明の工法の使用にのみ用いる物であるから,特許法101条3号によって,被告各製品を製造,販売等する行為は,本件特許権を侵害するものとみなされる。
イ 特許法101条4号 本件特許発明は,安定駒の差込み側の側面を,縦桟の側面に当接することで,瓦の縦方向の位置決めが極めて容易になるとともに,安定駒の底面を横桟に直接当接させることで,瓦を安定的に葺工させ,そのぐらつき(ガタ)が回避できる。これによって,瓦の飛散防止,耐震性向上,雨仕舞の向上が図れるとするものである。
被告各製品は,このような本件特許発明課題の解決に不可欠なものである。すなわち,被告各製品は,高さ12ないし13ミリメートル以下の縦桟木を用いた場合に,安定突起Fの差込C側側面F1が縦桟に当接する際に,安定突起Fの底面F2が横桟に当接する。同時に,引掛けHが横桟に十分に引っ掛かり,瓦本体が浮き上がることなく屋根地に安定して張り付く構造を有した「防災瓦」である。したがって,被告各製品の構造の瓦は,本件特許発明課題の解決に不可欠なものである。
「日本国内において広く一般に流通しているもの」とは,それが特注品ではなく,市場において一般に入手可能な状態にある規格品,普及品であるということである。この点,被告各製品は,防災という機能・目的を果たすため,縦桟・横桟を用いることを前提とした特殊な構造(縦桟当接平坦面D1など)を有する「防災瓦」であり,「広く一般に流通しているもの」ではないことは明らかである。
原告は被告に対して警告を発し,複数回の通知のやり取りを経ているから,被告は,本件特許発明の内容及び被告各製品が本件特許発明実施に用いられることを熟知している。すなわち,被告は,「その物がその発明の実施に用いられることを知りながら」との主観的要件を満たす。
現行の特許法101条4号は,平成14年の法改正(平成14年法律第24号)により新たに設けられたものであるが,上記によれば,改正法の施行日である平成15年1月1日以降,被告各製品を製造,販売等する行為は特許法101条4号により本件特許権を侵害するものとみなされる。
(被告の主張) ア 特許法101条3号 被告各製品は,縦桟・横桟を使用して葺工する場合に限らず,横桟のみを使用して葺工する場合にも使用されるものであり,原告主張に係る被告工法のみに使用される瓦ではない。
被告各製品において防災機能を果たす主たる要素は,ツメ構造にある。
そして,尻側裏面中央平坦部Gの横桟への当接,安定突起F1・F2の縦・横桟への当接が防災機能,すなわち耐震,耐風機能に多大な効果を果たすということはない。したがって,被告各製品の用途は,本件特許発明の方法以外では被告各製品に防災瓦としての効果を発揮させることはできないとの主張は誤りである。そして,被告各製品の本来の用途はむしろ現実に多く使われている横桟工法であり,仮に縦・横桟工法に使用するとしても,がたつき防止のための安定性からみて縦桟の高さが15ミリメートル以上のものがその予定された用途というべきである。
イ 特許法101条4号 「発明による課題の解決に不可欠なもの」との要件は,特許法101条3号の「にのみ用いる」という専用品の要件を外した場合の間接侵害規定が特許権の不当な拡張にならないようにするために設けられたものであるから,請求項に記載された発明の構成要素であっても,その発明が解決しようとする課題とは無関係に従来から必要とされていたものは,「発明による課題の解決に不可欠なもの」には該当しない。それを用いることにより初めて,発明の解決しようとする課題が解決されるような部品,道具,原料等が「発明による課題の解決に不可欠なもの」に該当する。これを本件についてみると,本件特許発明の解決しようとする課題は,瓦全体ではなく,縦桟の側面の安定駒の差込側側面の当接及び安定駒底面の横桟当接であり,その要素は安定駒にあるところ,安定駒は従来から存在していた。しかも,技術としても,安定駒の側面の縦桟当接も安定駒の横桟当接も従来から存在していたのであるから,安定駒を用いることにより初めて「発明の解決しようとする課題」が解決されるような部品,道具,原料ではない。したがって,被告各製品は,本件特許発明課題解決に不可欠なものではない。
「日本国内において広く一般に流通しているもの」とは,市場において,一般に入手可能な状態にある規格品,普及品であることを意味し,その趣旨は,そのような物の生産,譲渡等まで間接侵害行為に含めると取引の安全性の確保という観点から好ましくない点にある。これを本件についてみると,安定駒や引掛けを付設した瓦は,従前から日本国内に多数みられ入手が可能であるところ,これらの瓦についても,本件特許発明実施することが可能である。被告各製品のみが安定突起や引掛けを付しているわけではなく,安定突起や引掛けを付した瓦は,他に入手不可能なものではないのであるから,被告各製品は日本国内に広く一般に流通しているものであって,特許法101条4号に該当しない。
被告各製品の大部分は横桟工法に使用されていることに照らせば,被告には「他者により特定の発明の実施に用いられる」ことの認識はないのであって,「その物がその発明の実施に用いられることを知りながら」の要件に該当しない。
警告書の送付は,本件特許権の存在の認識の証明になりえても,「その発明の実施に用いられることを知りながら」の要件の証明にはならない。
(4) 本件特許権に無効理由があることが明らかか(争点4) (被告の主張) 本件特許権には,以下に述べるとおり,明白な無効理由が存在し,原告による特許権行使は権利の濫用に当たるものとして許されない。
進歩性欠如(特許法29条2項違反) 本件特許発明と特開平8-302910号公報(甲2の2,乙15。以下「引用例1」という。)に開示された発明とは,屋根地側に縦横桟を並列固定する方法である点と,瓦裏面の差込側に形成した突起の差込側の側面を縦桟に当接する点及び耐震,耐風瓦工法である点で一致するが,前記突起の側面に縦桟を当接する際に,突起の底面が横桟の表面に当接しない点で相違する。
しかし,本件公報には,安定駒の側面を縦桟に当接させる際に,安定駒の底面を横桟に直接当接させることによる作用効果が全く明記されておらず,縦桟に安定駒側面を当接することによる作用効果及び安定駒底面を横桟に直接当接することによる作用効果が別々に記載されている。具体的には,縦桟に安定駒側面を当接することによる作用効果として記載されているのは,棟方向への瓦の葺設の簡便化かつ確実化を図ると同時に,葺き上げ精度の向上を図ることであるが,これは横桟に安定駒が当接しているか否かとは無関係の効果で,引用例1による効果とまさに同一である。
また,安定駒底面を横桟に直接当接することによる作用効果として記載されているのは,瓦裏面の横桟当接部と横桟の表面との確実な当接を図って,屋根瓦の飛散防止,耐震性向上,雨仕舞の向上を図ることと推測されるが,これは縦桟に安定駒の側面が当接しているか否かとは無関係の効果で,縦桟が瓦裏面に当接せずに突起が横桟に当接すること及び瓦裏面の横桟当接部が横桟に当接するために発揮される効果であると推測されるところ,このような効果があるか疑問である。そして,仮にこの効果が認められるとしても,実願昭53-116115号(実開昭55-33325号)のマイクロフィルム(乙16。以下「引用例2」という。)及び実願平2-25339号(実開平3-115721号)のマイクロフィルム(乙17。以下「引用例3」という。)には,横桟に瓦の裏面及び突起を当接させて横揺れを防止する瓦が記載されているし,仮にこの効果が横桟当接部が平坦状であることによる効果であったとしても,引用例3には瓦裏面の横桟当接部を平坦状にした安定駒を有する瓦が明記されている。したがって,前記効果があったとしても,本件特許発明構成要件Cについての効果は公知の個々の技術について当然予測される効果の単なる集合の域を出ない。
なお,「原則として縦桟と横桟とを兼用して使用できる」との効果は,引掛けが係止可能で,屋根瓦の尻側裏面に縦桟が当接せずに安定駒の底面が横桟に当接する範囲内でのことであって,条件付きであれば,引用例1のものであっても,前記の効果を奏することは明白である。なぜなら,「縦桟2は,‥‥‥表面1aと瓦10の瓦本体10’の尻側裏面10aとで形成される空間Hに設けられる構成」であるから,空間Hにおける安定駒103側の高さより横桟1の高さが低ければ兼用可能なだけのことであって,「原則として縦桟と横桟とを兼用して使用できる」ということではない。よって,「横桟の表面に安定駒の底面が直接当接する」から「原則として縦桟と横桟とを兼用して使用できる」と直接的に導き出すことはできず,これらを関連づける事項も何ら明記されていないため,「原則として縦桟と横桟とを兼用して使用できる」ことは,本件特許発明による格別な効果ではない。
したがって,本件特許発明は,引用例1ないし3の記載に基づき,当業者であれば容易に想到できる程度のものにすぎず,特に構成要件Cによる各効果も,仮にそのような効果があったとしても,引用例1ないし3の個々の技術について当然予測される効果の単なる集合の域を出ないものであって,本件特許発明による顕著な効果とはいえない。
上記のとおり,本件特許発明は,特許法29条2項の規定に違反して特許されたものであって,同法123条1項2号所定の無効理由を有することが明らかである。
明細書の記載要件違反(特許法36条4項1号違反) 本件特許発明は,本件明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づき,当業者がその方法を使用できるように記載されておらず,具体的には本件特許発明構成要件Cに対応する技術手段が,発明の詳細な説明中に単に抽象的,機能的に記載してあるだけで,それを具現化すべき材料,工程などが不明瞭であり,しかも構成要件Cに対応する個々の技術的相互の関係が理解できないため,当業者が本件特許発明実施をすることができない。
上記のとおり,本件明細書にはその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されているとはいえず,かつその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないので,特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。したがって,本件特許発明が,同法123条1項4号所定の無効理由を有することは明らかである。
ウ 訂正請求の不適法(平成15年法律第47号による改正前の特許法120条の4第2項1号違反) 本件特許権に対しては,平成11年12月14日,特許異議が申し立てられ(異議平11-074703号),平成13年3月2日,平成12年7月7日付け訂正請求を認めた上で特許を維持する旨の決定がされたが,同訂正請求は平成15年法律第47号による改正前の特許法120条の4第2項1号(以下,「特許法120条の4」については,同様である。)に違反してなされたものである。
すなわち,出願当初の明細書において,「縦桟に安定駒を側面係止する」とは「縦桟の側面に安定駒の側面を当接させる」ことを意味していた。これに対し,訂正後の本件明細書においては,「縦桟に安定駒を側面係止する」の意味が「縦桟に屋根瓦の尻側裏面に設けた安定駒の差込み側の側面を当接する」に訂正されたものと推定される。しかし,本件明細書の実施例に記載の「縦桟に安定駒の差込み側の側面を当接する」ことは,例えば安定駒の差込み側の側面を傾斜面とした場合に該側面が縦桟の角部に当接することも含まれることになり,「縦桟の側面に安定駒の差込み側の側面を当接する」こと,すなわち「縦桟の側面と安定駒の差込み側の側面が面接触する」ことより上位概念となる。
よって,「縦桟と安定駒との側面係止」とは,「縦桟の側面と安定駒の差込み側の側面との当接」のことであり,その上位概念である「縦桟に安定駒の差込み側の側面を当接する」との訂正は,「特許請求の範囲減縮」を目的とするものではなく,許されない。
上記のとおり,本件特許発明は,特許異議手続において明細書が120条の4第2項1号に違反して訂正されたものであって,平成15年法律第47号による改正前の特許法123条1項8号所定の無効理由を有することが明らかである。
エ 平成16年6月14日付け訂正請求に係る訂正によっては無効理由が解消しないことについて 本件特許権について,被告は,平成15年12月24日,無効審判を申し立て(無効2003-35521号),原告は,平成16年6月14日付けで訂正請求を行っているところ(甲24の3),同訂正請求に係る訂正によっては無効理由は解消しない。
すなわち,引用例1の発明に使用する屋根瓦における凸部は,その差込み側の側面を縦桟木に当接するため,平成16年6月14日付け訂正請求に係る訂正後の特許請求の範囲(以下「本件訂正後特許発明」という。)と同様に,縦桟木は横桟木の表面と屋根瓦の尻側裏面とで形成される空間に設けられることになり,また,図面上,引用例2の屋根瓦における凸部の底面が横桟木に当接していないとしても,本件訂正後特許発明においても,係止工程時には「安定駒」の底面は横桟の表面に当接していないのであるから,引用例1の発明も本件訂正後特許発明と同一の効果を発揮するものと認められる。つまり,本件訂正後特許発明における安定駒の側面と縦桟の当接状態の構成は,引用例1における凸部と縦桟木の当接状態の構成とまさに同一であり,したがって,引用例1における【図5】に記載の屋根瓦でも,揺動防止及び浮き上がり防止を図ることができると考えられる。
次に,引用例2及び3には,桟木に当接する突起を設けた引掛桟瓦が記載され,これはまさに本件訂正後特許発明における安定駒の底面が横桟の表面に当接する構成と同一であり,引用例2及び3の突起が当接することにより,摩擦によるズレ防止を図ることができると考えられる。
以上のとおり,引用例1における瓦の凸部を,引用例2及び3における横桟に当接する突起に置き換えて,本件訂正後特許発明に使用する瓦のように,差込み側の側面が縦桟の側面に,底面が横桟の表面に当接する突起を設け,縦桟を横桟の表面と屋根瓦の尻側裏面とで形成される空間に設けて浮き上がり防止を図ることが可能な工法に使用する屋根瓦にして,揺動防止,浮き上がり防止及び摩擦によるズレ防止を図ることは,当業者であれば容易に想到し得る程度のことにすぎず,上記3つの効果による相乗効果も認められない。
したがって,本件訂正後特許発明は,引用例1ないし3に基づき「独立して特許を受けることができる」ものではないので,上記訂正請求は許されないものであり,また,訂正後の特許請求の範囲においても無効理由が存在することが明らかである。
(原告の主張) ア 進歩性欠如(特許法29条2項違反)について (ア) 本件特許発明は,縦桟工法における従来技術(甲2の2。引用例1と同じ)の問題点(瓦を縦桟木に載置することから,縦桟木が朽ちたり,損傷した場合の問題点)を解消し,「最も簡単な操作により瓦の主として棟方向への葺設の簡便化かつ確実化を図り,かつ葺き上げ精度の向上を図る」(本件明細書の【課題を解決するための手段】欄の段落【0006】,【発明の効果】欄の【0019】)ものである。
本件特許発明においては,「縦桟2は,安定駒103の底面103bが横桟1の表面1aに当接した際,表面1aと瓦10の瓦本体10’の尻側裏面10aとで形成される空間Hに設けられる構成である」(本件明細書の【実施例】欄の段落【0017】,本件明細書の【図4】参照。)。したがって,「瓦10の浮き上がり防止,換言すると底面103b(本件明細書における「横桟当接部101」との記載は誤記であり,明瞭でない記載であるので,訂正請求を行った。)と横桟1の表面1aとの確実な当接を図り,瓦10の飛散防止,耐震性向上,雨仕舞の向上に利用でき」(本件明細書の【実施例】欄の段落【0017】),「安定駒の底面(本件公報における「引掛けの横桟当接部」との記載は誤記であり,明瞭でない記載であるので,訂正請求を行った。)と横桟の表面との確実な当接を図り,屋根瓦の飛散防止,耐震性向上,雨仕舞の向上が図れる」のである(本件明細書の【発明の効果】欄の段落【0019】)。
本件特許発明においては,安定駒の差込み側の側面(本件明細書の【図4】の左側側面103a)を縦桟(の側面)に当接させることで瓦の横方向のずれを規制することができる。このこと自体は前記従来技術と同様である。しかし,その当接に際して,縦桟は横桟の表面1aと瓦本体の尻側裏面10aとで形成される空間(本件明細書の【図4】の空間H)に設けられ,安定駒の底面103bを横桟の表面に直接当接させる。すると,瓦(本件明細書の【図4】)の左側は安定駒の底面によって支えられるので,瓦を縦桟木の上に載置する場合と比較して,瓦の荷重は安定駒の底面にかかることになり,力点の位置がその分だけ低くなる。
しかも,仮に,地震,強風などで瓦に対して水平方向(横方向)の力がかかったとしても,安定駒側面の縦桟側面に対する当接(これは,前記従来技術における瓦の横ずれ規制と同一である。)に加えて,瓦のいわば脚である安定駒の底面(いわば足裏に該当する。)と横桟表面の摩擦力によっても,横方向のずれを規制することができる。したがって,長い脚を採用するという点で,従来技術と比較して横方向のずれ規制の面で最大限の効果を発揮することができるのである。
さらに,地震,強風などで瓦に対する垂直方向(上下方向)の力がかかったとしても,瓦のいわば脚である安定駒が横桟の表面に当接する構成,すなわち最も脚の長い構成を採用しているため,浮き上がりを防止することもできるのである(仮に浮き上がったとしても,縦桟の高さを超えるような上下動がない限り,安定駒の底面が縦桟に乗り上げることは回避できる。これは,足がぶら下がった状態よりも地に足がついている場合の方が安定していることからも容易に理解できる。)。
すなわち,本件特許発明は,従来から用いられていた縦桟工法(構成要件A)・引掛け工法(構成要件B)において,縦桟に対する載置(すなわち縦桟に対する荷重負担)の問題点を回避するものであり,縦桟に屋根瓦の尻側裏面に設けた安定駒の差込み側の側面を当接する屋根瓦の係止工程(構成要件C)に際して,安定駒の底面が横桟に直接当接する安定駒当接工程(構成要件D)を採用し,横ずれ規制のみならず,浮き上がり防止を図った「安定駒利用の耐震,耐風瓦工法」(構成要件E)である。つまり,構成要件Cと構成要件Dの組み合わせが,本件特許発明の課題解決手段を基礎づける技術的思想の中核をなす特徴的部分(本質的部分)である。
(イ) 引用例1には,本件特許発明の本質的部分たる構成の内,構成要件Dは記載されていないし,浮き上がり防止の点は示唆もされていない。本件特許発明では,縦桟上に瓦を載置させたこの従来技術と比較して,安定駒が横桟の表面に当接する構成,すなわち瓦の脚に該当する安定駒の長さを最大にする構成を採用しているため,横方向のずれを最大限に規制することができ,また,大地震や台風などによって屋根上の瓦を上下,左右に揺動させるような力がかかった場合にも,浮き上がり,縦桟木への乗り上がりが防止できるという特異な作用効果を奏するものである。なお,この点は,特許異議事件において,特許庁が同旨の判断を示したとおりである(甲1の3)。
引用例2においては,引掛工法に用いる瓦の裏面に,同裏面の最低面と同レベルの高さの突起を形成することが記載されている。すなわち,(下向きに凸の湾曲面に形成される)瓦の裏面に突起を設けることで,瓦を葺いた状態で,湾曲面が桟木上をローリングするように横揺れしやすいことを回避するということである。瓦の湾曲形状から,それを葺いた場合にぐらつくことを回避するために突起を設けるというただそれだけのことであり,これは,「本考案の引掛桟瓦は,その突起若しくは突面が桟木に当接し,いわゆる二点支持の状態となるので,全く横揺れを生ずる心配がなく,極めて安定性の高い瓦の屋根葺きを可能にした効果が得られる。」との明細書の記載から明らかなように,従来周知の安定駒が記載されているにすぎない。この従来技術においては,本件特許発明の本質的部分である,構成要件Cと構成要件Dの組み合わせについては全く記載されていない。そこに記載された安定性の高い屋根葺きというものは,屋根を葺く際に,瓦が横揺れしないというだけのことであり,本件特許発明における,屋根を葺いた後の横ずれ規制効果,浮き上がり防止効果を最大限に発揮して耐震性,耐風性を図るという技術思想については全く示唆されていないのである。
引用例3においても,引用例2と同様に,引掛工法に用いる瓦の裏面に,瓦の揺動を防ぐための脚片3(引用例3の明細書の第1図)を設けることが記載されているにすぎない。すなわち,従来周知の安定駒が記載されているだけのことである。この従来技術においても,本件特許発明の本質的部分である,構成要件Cと構成要件Dの組み合わせについては全く記載されておらず,耐震性,耐風性を図るという技術思想については全く示唆されていないのである。
(ウ) 以上のとおり,本件特許発明は,瓦工法における従来技術(引掛工法,縦桟工法,安定駒)を有機的に結び付けたことにより顕著な作用効果を奏するものであり,この有機的組合せ自体に本質的部分が存するのである。そして,本件特許発明の瓦工法は,「最も簡単な操作により瓦の主として棟方向への葺設の簡便化かつ確実化を図り,かつ葺き上げ精度の向上を図ること」ができるだけでなく,「屋根瓦の飛散防止,耐震性向上,雨仕舞いの向上が図れる」という顕著な作用効果が得られる。
明細書の記載要件違反(特許法36条4項1号違反)について 否認する。本件特許発明の内容は極めて明確であり,本件明細書には当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分な記載がなされている。
ウ 訂正請求の不適法(特許法120条の4第2項1号違反)について 否認する。訂正は適法である。
エ 平成16年6月14日付け訂正請求に係る訂正によっては無効理由が解消しないとの被告主張について 否認する。
(5) 被告各製品を屋根上に設置する工法は公知技術実施であり,これに対する本件特許権に基づく権利行使が許されないか(争点5) (被告の主張) 構成要件A及び同Bは,公知技術として既に存在していた。さらに,安定駒の底面を横桟に直接当接させる工程及び安定駒利用の耐震,耐風瓦工法についても公知技術として存在していた。とすれば,構成要件Cも公知技術の組み合わせでしかない。
したがって,屋根工事業者が被告各製品を使用して瓦を葺設し,その際,たまたま縦桟の高さが低く,しかも瓦の行儀の関係で安定突起の下端が横桟に当接することが起こったとしても,単に公知技術により葺設しているにすぎないものであって,いわば公知技術実施したというにすぎない。このような公知技術実施に対し,特許権を行使することは許されない。
(原告の主張) 被告各製品の使用に対する本件特許権に基づく権利行使が,公知技術実施に対する権利行使を理由として許されないとの被告の主張は,否認する。
(6) 本件特許権に基づく権利行使が,禁反言を理由として許されないか(争点6) (被告の主張) 原告は,本件特許発明に関しては「全瓦連をはじめとする全国の屋根工事業者に原則として無償供与する」旨を発表している。全瓦連をはじめとする屋根工事業者に無償供与する以上,屋根工事業者がいかなる瓦を使って本件特許発明実施したとしても,特許権侵害を主張しないことを意味するのであって,間接侵害品についても特許権侵害を主張しないことを表明したものである。
しかも,原告は,上記のとおり表明して,特許異議申立てをできにくくしている。
したがって,このような経緯の中で取得された本件特許権に基づく請求は,禁反言の趣旨に照らし,権利の濫用として許されない。
さらに,上記の表明に照らし,直接侵害は成立しないのであって,直接侵害が成立しない本件においては,間接侵害も成立しないというべきである。
(原告の主張) 原告は,本件特許発明について,全国の屋根工事業者に原則として無償で実施させ,屋根瓦の製造業者に対してはライセンス供与をするつもりであったものである。原告が本件特許権に基づく権利行使をすることが禁反言によって許されないとの被告の主張は否認する。
(7) 差止め・廃棄の必要性(争点7) (原告の主張) ア 被告は,被告各製品の製造,販売をしているから,今後も,本件特許権の侵害を継続するものであり,原告は,被告に対して,侵害停止請求権を有する。
よって,原告は,被告に対し,被告各製品の製造,販売,販売の申出(譲渡等のための展示を含む。)の差止めを求める。
イ 原告は,被告に対し,侵害行為を組成した物の廃棄として,その占有する被告各製品の廃棄を求める。
被告各製品は,被告工場内に存在する押出機によって,粘土を金型の上に搬送し,成形し,その後焼成して製造するものである。したがって,被告は,被告各製品を製造する際に用いる別紙物件目録4ないし6記載の各金型を,被告各製品の製造に必須の物件として占有していることは明らかである。よって,原告は,被告に対し,侵害行為に供した設備の除却として,前記各金型の廃棄を求める。
(被告の主張) 差止め・廃棄の必要性は否認する。
(8) 損害の内容及びその額(争点8) (原告の主張) ア 被告は,イ号物件及びロ号物件を平成13年以降製造販売しており,本訴を提起した平成15年7月中旬までの期間に,1か月当たり10万枚以上の割合で販売しているものと推測される。よって,約2年6か月の間の販売枚数は,少なく見積もっても300万枚を下らない。
原告は,イ号物件及びロ号物件の競合品であり,本件特許発明実施に不可欠な瓦を1枚当たり85円ないし90円程度で販売している。この利益は少なく見積もっても1枚当たり約30円である。
したがって,特許法102条1項により,少なく見積もっても9000万円(=300万枚×30円)を,原告が受けた損害額と計算することが可能である。
イ 原告は,本訴遂行のため弁護士費用の負担を余儀なくされたのであり,被告の不法行為相当因果関係にある弁護士費用相当額は,前記金額の少なくとも約10パーセントに相当する1000万円である。
ウ 原告は,被告に対し,前記ア及びイの合計1億円の内5000万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成15年8月3日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を請求する。
(被告の主張) 損害の主張は否認する。
(9) 請求のまとめ よって,原告は,被告に対し,次の各請求をする。
ア 特許法101条3号,4号,100条1項に基づき,イ号物件ないしハ号物件(別紙物件目録1ないし3記載の各瓦)の製造販売の差止め(請求の趣旨1ないし3) イ 特許法101条3号,4号,100条2項に基づき,イ号物件ないしハ号物件(別紙物件目録1ないし3記載の各瓦)及びその金型(別紙物件目録4ないし6記載の各金型)の廃棄(請求の趣旨4,5) ウ 特許法101条3号,4号,102条1項に基づき,損害賠償5000万円及びこれに対する平成15年8月3日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払(請求の趣旨6)
当裁判所の判断
1 争点1(被告各製品の具体的な構成)について (1) イ号物件の具体的な構成 ア 甲3の1,5の1,2,6の2,3,乙7の1,13,検乙1の1ないし8,4によれば,イ号物件の具体的な構成は,次のとおりと認められる(別紙物件目録1添付の第1図ないし第4図参照)。
@ 引掛けH1,H2 瓦本体Aの裏面の尻側(第2図の下側)には,横桟に掛止するように,2個の逆三角形状の引掛けH1,H2が形成されている。
A 尻側裏面中央平坦部G 瓦本体Aの裏面の尻側(第2図の下側)における,引掛けH1,H2より頭側寄りに尻側裏面中央平坦部Gが形成される。
B 安定突起F 瓦本体Aの裏面の尻側で,引掛けH1より差込C側(第2図の右側)には,逆三角形状の安定突起Fが形成されている。安定突起Fにおける差込C側側面F1は,傾斜面を形成している。
C 尻差込側裏面部D 瓦本体Aの裏面の尻側で安定突起Fより差込C側(第2図の右側)の尻差込側裏面部Dに縦桟当接平坦面D1が形成される。縦桟当接平坦面D1の安定突起F側側部に安定突起Fにおける差込C側側面F1と面一に形成され,傾斜面として形成された切欠段面Eを形成する。
D 釘孔I 瓦本体Aを横桟に固定する釘(又は釘ビス)を通過させて屋根下地側へ打ち込むための釘孔Iを形成している。
イ なお,原告は,切欠段面Eと安定突起Fの差込C側側面F1との区別は明確にできないのであって,両者は同一側面を指すものであると主張する。しかし,切欠段面Eは,傾斜面である尻差込側裏面部Dに縦桟当接平坦面D1を形成することによって形成されるものであり,一方,安定突起Fは傾斜面である尻差込側裏面部Dに突起物として形成されたものである。したがって,切欠段面Eと安定突起Fの差込C側側面F1とは同一面を形成するように設計されたものではない。そして,甲3の1の写真8,9,甲11の写真9,10,甲12の写真6,10によれば,切欠段面Eと安定突起Fの差込C側側面F1とは別々の面として区別できることが認められる。したがって,両者は同一側面を指すとの原告主張は採用できない。
(2) ロ号物件の具体的な構成 甲3の2,5の1,2,6の2,3,乙7の2,11,検乙2の1ないし8,5によれば,ロ号物件の構成は,以下のとおりであることが認められる(別紙物件目録2添付の第1図ないし第4図参照)。
@ 引掛けH1,H2 瓦本体Aの裏面の尻側(第2図の下側)には,横桟に掛止するように,2個の逆三角形状の引掛けH1,H2が形成されている。
A 尻側裏面中央平坦部G 瓦本体Aの裏面の尻側(第2図の下側)における,引掛けH1,H2より頭側寄りに尻側裏面中央平坦部Gが形成される。
B 安定突起F 瓦本体Aの裏面の尻側で,引掛けH1より差込C側(第2図の右側)には,逆三角形状の安定突起Fが形成されている。安定突起Fの差込C側側面F1は,傾斜面を形成している。
C 尻差込側裏面部D 瓦本体Aの裏面の尻側で安定突起Fより差込C側(第2図の右側)の尻差込側裏面部Dに縦桟当接平坦面D1が形成される。
縦桟当接平坦面D1の安定突起F側側部には,傾斜面として形成された切欠段面E1と略平坦面で形成された平坦面E2によって段差が形成される。
D 釘孔I 瓦本体Aを横桟に固定する釘(又は釘ビス)を通過させて屋根下地側へ打ち込むための釘孔Iを形成している。
(3) ハ号物件の具体的な構成 ア 甲4,10,乙7の3,12,検乙3の1ないし8,6によれば,ハ号物件の構成は,以下のとおりであることが認められる(別紙物件目録3添付の第1図ないし第4図参照)。
@ 引掛けH1,H2 瓦本体Aの裏面の尻側(第2図の下側)には,横桟に掛止するように,2個の逆三角形状の引掛けH1,H2が形成されている。
A 尻側裏面中央平坦部G 瓦本体Aの裏面の尻側(第2図の下側)における,引掛けH1,H2より頭側寄りに尻側裏面中央平坦部Gが形成される。
B 安定突起F 瓦本体Aの裏面の尻側で,引掛けH1より差込C側(第2図の右側)には,逆三角形状の安定突起Fが形成されている。安定突起Fの差込C側側面F1は傾斜面を形成している。
C 尻差込側裏面部D 瓦本体Aの裏面の尻側で安定突起Fより差込C側(第2図の右側)の尻差込側裏面部Dに縦桟当接平坦面D1が形成される。縦桟当接平坦面D1の安定突起F側側部に傾斜面として形成された切欠段面Eが形成される。
D 誘導突起J 瓦本体Aの裏面の尻側で安定突起Fと縦桟当接平坦面D1の間に誘導突起Jを形成し,誘導突起Jの差込C側側面J1と切欠段面Eは面一に連続形成される。
E 釘孔I 瓦本体Aを横桟に固定する釘(又は釘ビス)を通過させて屋根下地側へ打ち込むための釘孔Iを形成している。
F 引掛けH1,H2の周囲の凹部G1 引掛けH1,H2の周囲に凹部G1を形成している。
イ なお,原告は,切欠段面Eと誘導突起Jの差込C側側面J1との区別は明確にできないのであって,両者は同一側面を指すものであると主張する。しかし,切欠段面Eは,傾斜面である尻差込側裏面部Dに縦桟当接平坦面D1を形成することによって形成されるものであり,一方,誘導突起Jは傾斜面である尻差込側裏面部Dに突起物として形成されたものである。したがって,切欠段面Eと誘導突起Jの差込C側側面J1とは同一面を形成するように設計されたものではない。そして,甲25によれば,切欠段面E,誘導突起Jの差込C側の側面J1及び安定突起Fの差込C側の側面F1の各々が別々の面として区別できることが認められる。
したがって,切欠段面Eと誘導突起Jの差込C側側面J1とは同一側面を指すとの原告主張は採用できない。
2 争点2(被告各製品を屋根上に設置する工法は本件特許権の構成要件を充足するか)について (1) 被告各製品が本件特許発明構成要件A及び同Bを充足する瓦であることは,当事者間に争いがない。
(2) 構成要件Dの文言解釈 ア 本件特許発明における安定駒利用の耐震,耐風瓦工法は,D「この係止工程において縦桟を安定駒の差込み側の側面に当接する際に,当該安定駒の底面が横桟に直接当接して安定的に葺工される安定駒当接工程と,」を構成要件としている。この構成要件の文言によれば,@瓦の安定駒の差込み側が縦桟に当接すること及びA瓦の安定駒の底面が横桟に当接することが必要である。そして,A瓦の安定駒の底面が横桟に当接することについては,横桟は瓦の尻側裏面に当接するものであることから(本件明細書の【実施例】欄の段落【0016】においても,「尻側裏面10aに設けられた横桟当接部101」が記載されている。),瓦の尻側裏面の横桟当接部が平坦形状である場合(被告各製品の尻側裏面中央平坦部Gがこれに該当する。),同横桟当接部から延長された仮想線上に,安定駒の底面が位置する必要があるものと解するのが相当である。
一方,縦桟と瓦との関係をみると,本件明細書の【発明が解決しようとする課題】欄において,「(従来の技術文献として挙げられる)文献(1),(2)は,瓦に特別な係止手段(係止凹部)を設ける必要があるので,在来の瓦製造に関する機器,作業の有効利用ができないこと」が記載され(本件明細書の段落【0005】),本件特許発明はかかる課題をも解決するものであるところ,前記文献(1),(2)は,縦桟との係止手段を備えるものであること(甲2の1,2),本件特許発明においては,縦桟を瓦の裏面に当接することは構成要件となっていないこと,本件明細書の【実施例】欄には,「縦桟2は,安定駒103の底面103bが横桟1の表面1aに当接した際,表面1aと瓦10の瓦本体10’の尻側裏面10aとで形成される空間Hに設けられる構成であるので,瓦10の浮き上がり防止,換言すると横桟当接部101と横桟1の表面1aとの確実な当接を図り,瓦10の飛散防止,耐震性向上,雨仕舞の向上に利用できる」(本件明細書の段落【0017】)と記載されていて,縦桟は瓦の裏面に当接することを予定していないことに照らし,B本件特許発明の工法に使用される瓦は,縦桟と当接する係止手段(係止凹部)を備えていない瓦を対象としているものと解するのが相当である。
イ ところで,原告は,本件特許発明構成要件C「縦桟に屋根瓦の尻側裏面に設けた安定駒の差込み側の側面を当接する屋根瓦の係止工程と,」において,「安定駒の差込み側の側面」を「縦桟に当接する係止工程」とは,瓦葺設後の状態ではなく,瓦を葺設する過程において「安定駒の側面」を縦桟木の側面に当接しながら位置決めをすることを指すものと解すべきと主張する。しかし,このような解釈は,本件明細書の【発明の実施の形態】欄の「この場合,縦桟の側面に安定駒の差込み側の側面を当接する。この際,当該安定駒の底面が横桟に直接当接する構成であり,例えば,隣接瓦間に隙間,ガタが生じない構成とする。」(段落【0013】)との記載や,【実施例】欄の「安定駒103の差込み側の側面103aを縦桟2に当接する構成」(段落【0016】)との記載に照らし,採用できない。
【参照・被告準備書面(5)14頁】 ウ したがって,構成要件Dを充足する瓦は,@瓦の安定駒の差込み側が縦桟に当接すること,A瓦の安定駒の底面が横桟に当接すること(すなわち,横桟当接部から延長された仮想線上に,安定駒の底面が位置すること),B縦桟と当接する係止手段(係止凹部)を備えていないことを満たす必要があるものと解するのが相当である(以下,それぞれを「構成要件D@」のようにいう。)。
(3) イ号物件が構成要件Dを充足するか ア イ号物件は,尻側裏面に,イ号物件を横桟に載置するための尻側裏面中央平坦部Gを有している。そして,被告が誤って作成したというイ号物件の金型においては,安定突起Fの下端F2が,尻側裏面中央平坦部Gから延長された仮想線上に位置していることについて,当事者間に争いがない。
そこで,構成要件Dの充足性を検討すると,本件特許発明の「横桟当接部」と「安定駒」は,イ号物件においては「尻側裏面中央平坦部G」と「安定突起F」に相当するので,少なくとも被告が誤って作成した金型に基づくイ号物件は,構成要件DAを充足するものである(なお,被告は,誤りを正した金型の形状を示すものとして,乙13を提出するところ,乙13によれば,安定突起Fの下端F2は,尻側裏面中央平坦部Gから延長された仮装線上に位置していないことが認められる。)。
イ 一方,イ号物件においては,尻差込側裏面部Dにおける安定突起Fの差込C側に縦桟当接平坦面D1を形成し,縦桟当接平坦面D1と,安定突起Fの差込C側側面F1と縦桟当接平坦面D1の間に位置する切欠段面Eとで溝を形成している。そして,イ号物件においては,前記溝に縦桟を組み込ませるのであって(甲5の1参照),その際,縦桟は縦桟当接平坦面D1と切欠段面Eに当接することになる。
したがって,イ号物件における縦桟当接平坦面D1は,縦桟に当接する係止凹部に該当するのであって,イ号物件は,構成要件DBを充足しないものである。そして,切欠段面Eは,縦桟当接平坦面D1を形成することによって形成されるものであるから,安定突起Fの差込C側側面F1とはいえないのであって,イ号物件は,構成要件D@を充足しないものである。
ウ ところで,原告は,イ号物件が構成要件D@Aを充足するものとして証拠を提出するのでこれを検討する。
(ア) 甲3の1(特に写真8,9)によれば,縦桟が安定突起Fの差込C側の側面F1に当接しているとはいえず,むしろ縦桟が当接しているのは切欠段面Eであり,切欠段面Eと安定突起Fの差込C側の側面F1とは別々の面として区別できることが認められる(なお,被告は,イ号物件の金型の誤りを正した旨主張するところ,甲3の1によれば,安定突起Fの下端F2が横桟に当接しているとは認め難く,葺設された状態での当該イ号物件は,構成要件DAを充足するものではない。)。
(イ) 原告は,イ号物件は,高さ約12ないし13ミリメートル以下の縦桟木を用いた場合に,屋根地に最も安定した状態で葺設することができる構造となっていて,この場合,構成要件D@Aを充足すると主張する(甲9,11ないし14,18)。しかし,原告が安定性を欠いた状態として提出する甲11(特に写真9,10)及び安定的に葺設した状態として提出する甲12(特に写真6,10)のほか,甲9,13,14,18を子細に検討すると,縦桟が安定突起Fの差込C側の側面F1に接しているものとは認め難い。
エ したがって,イ号物件は,構成要件D@Bを充足しない(上記認定を覆すに足りる証拠はない。)。
(4) ロ号物件が構成要件Dを充足するか ア ロ号物件は,尻側裏面に,ロ号物件を横桟に載置するための尻側裏面中央平坦部Gを有している。そして,乙11によれば,安定突起Fの下端F2は,尻側裏面中央平坦部Gから延長された仮装線上に位置していないことが認められる。
そこで,構成要件Dの充足性を検討すると,本件特許発明の「横桟当接部」と「安定駒」は,ロ号物件においては「尻側裏面中央平坦部G」と「安定突起F」に相当するので,ロ号物件は,構成要件DAを充足しないものである。
イ 一方,ロ号物件においては,尻差込側裏面部Dにおける安定突起Fの差込C側に平坦面E2を形成した上で,平坦面E2の差込C側に縦桟当接平坦面D1を形成し,縦桟当接平坦面D1と,平坦面E2との間に位置する切欠段面E1とで溝を形成している。そして,ロ号物件においては,前記溝に縦桟を組み込ませるのであって(甲5の2参照),その際,縦桟は縦桟当接平坦面D1と切欠段面E1に当接することになる。
したがって,ロ号物件における縦桟当接平坦面D1は,縦桟に当接する係止凹部に該当するのであって,ロ号物件は,構成要件DBを充足しないものである。そして,切欠段面E1は,縦桟当接平坦面D1を形成することによって形成されるものである上に,切欠段面E1と安定突起Fとの間には平坦面E2が介在することに照らし,安定突起Fの差込C側側面F1とはいえない。したがって,ロ号物件は,構成要件D@を充足しないものである。
ウ ところで,原告は,ロ号物件が構成要件D@Aを充足するものとして証拠を提出するのでこれを検討する。
(ア) 甲3の2(特に写真8,9)によれば,縦桟が安定突起Fの差込C側の側面F1に当接しているとはいえず,むしろ縦桟が当接しているのは切欠段面E1であること,切欠段面E1と安定突起Fの差込C側の側面F1との間には平坦面E2があり,各々が別々の面として区別できることが認められる。また,同証拠によれば,安定突起Fの下端F2が横桟に当接しているとも認め難い。
(イ) 原告は,ロ号物件は,高さ約12ないし13ミリメートル以下の縦桟木を用いた場合に,屋根地に最も安定した状態で葺設することができる構造となっていて,この場合,構成要件D@Aを充足すると主張する(甲15ないし17)。しかし,前記各証拠を子細に検討しても,縦桟が安定突起Fの差込C側の側面F1に当接していること及び横桟が安定突起Fの下端F2に当接していることは認め難い。
エ 原告は,安定突起F及び一体として形成される切欠段面E1,平坦面E2が本件特許発明の「安定駒」に該当すると主張する。しかし,本件特許発明における「安定駒」は,構成要件D「この係止工程において縦桟を安定駒の差込み側の側面に当接する際に,当該安定駒の底面が横桟に直接当接して安定的に葺工される安定駒当接工程と,」に照らせば,その側面に縦桟が,その底面に横桟が当接するものであると解される。また,本件明細書の【発明が解決しようとする課題】欄において「瓦に特別な係止手段(係止凹部)を設ける必要がある」(段落【0005】)ことを解決課題としていることに照らせば,「安定駒」は,瓦を安定的に葺工するためにその底面が横桟に直接当接する突起物を意味するものと解される。したがって,安定突起Fのみが「安定駒」に該当するというべきであり,別個の面を形成していることが明らかな切欠段面E1及び平坦面E2を一体のものとして捉えることは許されず,原告の主張は採用できない。
オ したがって,ロ号物件は,構成要件D@ないしBを充足しない(上記認定を覆すに足りる証拠はない。)。
(5) ハ号物件が構成要件Dを充足するか ア ハ号物件は,尻側裏面に,ハ号物件を横桟に載置するための尻側裏面中央平坦部Gを有している。そして,乙12によれば,安定突起Fの下端F2は,尻側裏面中央平坦部Gから延長された仮装線上に位置していないことが認められる。
そこで,構成要件Dの充足性を検討すると,本件特許発明の「横桟当接部」と「安定駒」は,ハ号物件においては「尻側裏面中央平坦部G」と「安定突起F」に相当するので,ハ号物件は,構成要件DAを充足しないものである。
イ 一方,ハ号物件においては,尻差込側裏面部Dにおける安定突起Fの差込C側に誘導突起Jを形成し,誘導突起Jの差込C側に縦桟当接平坦面D1を形成し,縦桟当接平坦面D1と,誘導突起Jの差込C側側面J1と縦桟当接平坦面D1との間に位置する切欠段面Eとで溝を形成している。そして,ハ号物件においては,前記溝に縦桟を組み込ませるのであって,その際,縦桟は縦桟当接平坦面D1と切欠段面Eに当接することになる。
したがって,ハ号物件における縦桟当接平坦面D1は,縦桟に当接する係止凹部に該当するのであって,ハ号物件は,構成要件DBを充足しないものである。そして,切欠段面Eは,縦桟当接平坦面D1を形成することによって形成されるものである上に,切欠段面Eと安定突起Fとの間には誘導突起Jが介在するのであるから,安定突起Fの差込C側側面F1に縦桟が当接するとはいえない。したがって,ハ号物件は,構成要件D@を充足しないものである。
ウ ところで,原告は,ハ号物件が構成要件D@Aを充足するものとして証拠を提出するのでこれを検討する。
甲25によれば,縦桟が安定突起Fの差込C側の側面F1に当接しているとはいえず,むしろ縦桟が当接しているのは切欠段面Eであること,切欠段面Eと安定突起Fの差込C側の側面F1との間には誘導突起Jがあり,切欠段面E,誘導突起Jの差込C側の側面J1及び安定突起Fの差込C側の側面F1の各々が別々の面として区別できることが認められる。また,甲25によれば,安定突起Fの下端F2が横桟に当接しているとも認め難い。
エ 原告は,安定突起F,溝K及び誘導突起Jは,本件特許発明の「安定駒」に該当すると主張する。しかし,本件特許発明における「安定駒」は,前記(4),エのとおり,瓦を安定的に葺工するためにその底面が横桟に直接当接する突起物を意味するものと解されること,さらに誘導突起Jは,縦桟を縦桟当接平坦面D1に誘導するためのものであるから,安定突起Fのみが「安定駒」に該当するというべきであり,別個の構造物を形成していることが明らかな安定突起F,溝K及び誘導突起Jを一体のものとして捉えることは許されず,原告の主張は採用できない。
オ したがって,ハ号物件は,構成要件D@ないしBを充足しない(上記認定を覆すに足りる証拠はない。)。
3 争点3(被告各製品の製造等は,本件特許権の間接侵害に該当するか)について 既に述べたとおり,被告各製品を屋根上に設置する工法は,本件特許発明構成要件を充足しない。したがって,被告各製品は,本件特許発明間接侵害品に該当しない。
4 争点4(本件特許権に無効理由があることが明らかか)について 上記2及び3において判断したとおり,被告各製品の製造等は本件特許権を間接侵害するものとは認められず,その点において原告の請求はすでに理由がないものというべきであるが,本件事案にかんがみ,本件特許権が無効理由を有することが明らかかどうかについても検討する。
(1) 本件特許発明進歩性欠如(特許法29条2項違反)による無効 ア 本件特許権の出願前に頒布された刊行物 (ア) 乙15によれば,本件特許権の出願前の刊行物である特開平8-302910号公報(引用例1)には,次の事項が記載されている。
「屋根面の勾配方向所要間隔に横方向に延在する横桟木を配設するとともに,この横桟木の上に勾配方向に延在する縦桟木を横方向所要間隔に配設し,他方,瓦の裏面後部に,横桟木に対する係止用凸起と縦桟木の側面に当接係合し得る凸部もしくは切欠段面による係合部とを形成しておいて,前記係止用凸起を横桟木に係止させるとともに,前記係合部を縦桟木の一方の側面に沿わせるか係合させるようにして載置し,縦桟木と横桟木とに沿って各瓦を屋根の勾配方向および横方向に並べて葺設することを特徴とする瓦の葺設工法」(【請求項1】) 「図5の実施例は,瓦(10)の裏面後端部の凸部(13)を,その外側に縦桟木(3)を位置させて葺くようにした場合を示している。この実施例の場合においても,縦桟木(3)の上に載接する部分は載接状態を安定させるために平坦部(14)として形成されており,その内側に縦桟木(3)の側面に当接し得る凸部(13)が設けられている。」(段落【0026】) (イ) 乙16によれば,本件特許権の出願前の刊行物である実願昭53-116115号(実開昭55-33325号)のマイクロフィルム(引用例2)には以下の事項が記載されている。
「(1)引掛桟瓦において,その裏面における桟木当接位置に,同裏面の最低面と同レベルの高さの突起若しくは突面を形成して成る引掛桟瓦」(実用新案登録請求の範囲) 「本考案の引掛桟瓦は,その突起若しくは突面が桟木に当接し,いわゆる二点支持の状態となるので,全く横揺れを生ずる心配がなく,極めて安定性の高い瓦の屋根葺きを可能にした効果が得られる。」(考案の詳細な説明の6頁) イ 本件特許発明と引用例1の対比 本件特許発明と引用例1に記載された発明とを比較すると,引用例1の「屋根面」,「横桟木」,「縦桟木」「瓦の裏面後部」,「係止用凸起」,「凸部による係合部」,「前記係合部を縦桟木の一方の側面に沿わせるか係合させる」及び「瓦の葺設工法」は,それぞれ本件特許発明の「屋根地」,「横桟」,「縦桟」,「屋根瓦の尻側裏面」,「引掛け」,「安定駒」,「縦桟に安定駒の差込み側の側面を当接する」及び「瓦工法」に相当する。
したがって,両発明は,本件特許発明における構成要件A「屋根地に多数本の横棧及び縦棧をクロス状に配置する桟の布設工程と,」,構成要件B「この布設工程で配置された横桟に屋根瓦の尻側裏面に設けた引掛けを係止するとともに,」,構成要件C「縦桟に屋根瓦の尻側裏面に設けた安定駒の差込み側の側面を当接する屋根瓦の係止工程と,」及び構成要件E「で構成されている安定駒利用の耐震,耐風瓦工法」において一致する。そして,係止工程で係止された縦桟と安定駒との側面係止の際に,本件特許発明は,構成要件D「当該安定駒の底面が横桟に直接当接して安定的に葺工される安定駒当接工程」を有しているのに対し,引用例1に記載された発明は,このような工程を有していない点で相違する。
ウ 本件特許発明容易想到性 (ア) そこで,上記相違点を当業者が容易に想到できたものであるかを検討すると,引用例2に記載された発明の「引掛」,「桟木」及び「突起若しくは突面」は,それぞれ,本件特許発明の「引掛け」,「横桟」及び「安定駒」に相当するから,引用例2には,瓦が横桟に載置される際に,瓦の裏面と安定駒の底面が横桟に当接すると,いわゆる二点支持の状態となるので,横揺れを生ずる心配がなく,安定性の高い瓦の屋根葺きが可能となる旨の技術が開示されているというべきである。したがって,横桟と縦桟を併用して瓦を葺工する工法において,係止工程で係止された縦桟と安定駒との側面係止の際に,瓦を安定的に葺工するために,安定駒の底面を横桟に直接当接することは,当業者が容易に想到できたことであるというべきである。
(イ) この点に関して,原告は,本件特許発明の本質的部分は,構成要件Cと構成要件Dの組み合わせにあり,瓦工法における従来技術(引掛工法,縦桟工法,安定駒)を有機的に結び付けたことにより顕著な作用効果を奏するものであり,この有機的組合せ自体に発明の本質的部分が存すると主張する。
そこで,本件明細書の記載をみると,【発明の実施の形態】欄の段落【0013】には,「この際,当該安定駒の底面が横桟に直接当接する構成であり,例えば,隣接瓦間に隙間,ガタが生じない構成とする。これにより在来の横桟のみによる葺工法と同様な施工効果が発揮できる構造にする。」との記載があり,【発明の効果】欄の段落【0019】には,「請求項1の発明は,屋根地に多数本の横・縦桟をクロス状に配置し,この横桟に瓦の尻側裏面に設けた引掛けを係止するとともに,縦桟に瓦の尻側裏面に設けた安定駒の差込み側の側面を当接する際に,安定駒の底面が横桟に直接当接して安定的に葺工される構成である。従って,最も簡単な操作により瓦の主として棟方向への葺設の簡便化かつ確実化を図り,かつ葺き上げ精度の向上が図れること,又は原則として縦桟と横桟とを兼用して使用できること,等の特徴がある。また引掛けの横桟当接部と横桟の表面との確実な当接を図り,屋根瓦の飛散防止,耐震性向上,雨仕舞の向上が図れる特徴がある。」との記載がある。
前記認定事実によれば,本件特許発明において,上記相違点の構成を設けたことによる作用効果は,引用例2において開示されている効果と同様のものであり,公知の技術を組み合わせたことによって新たな別の作用効果を奏するに至ったとはいうことはできず,そのような作用効果の開示もされていない。そして,このような組み合わせを行うこと自体は,当業者が容易に想到できたものというべきである。
(ウ) したがって,本件特許発明は当業者が容易に想到できたものであって,進歩性に欠け,特許法29条2項に違反されて特許されたものであり,無効理由のあることが明らかというべきである。
エ 平成16年6月14日付け訂正請求に係る訂正により無効理由が解消するかどうかについて 特許に無効理由が存在することが明らかであるときは,その特許権に基づく差止め,損害賠償等の請求は,特段の事情がない限り,権利の濫用に当たり許されない(最高裁平成10年(オ)第364号同12年4月11日第三小法廷判決・民集54巻4号1368頁)。
本件特許権について,被告は,平成15年12月24日,無効審判を申し立て(無効2003-35521号),原告は,平成16年6月14日付けで特許請求の範囲減縮すること等を目的とするものとして訂正請求を行っているところ(甲24の3),同訂正請求に係る訂正によっては無効理由が解消するならば,前記特段の事情があるということになる。そこで,同訂正請求に係る訂正によって無効理由が解消するかどうかについて検討する。
(ア) 本件訂正後特許発明と引用例1の対比 平成16年6月14日付け訂正請求に係る訂正後の特許請求の範囲(本件訂正後特許発明)と引用例1に記載された発明との共通点は,上記イに記載したのと同じである。そして,係止工程で係止された縦桟と安定駒との側面係止の際に,@本件訂正後特許発明は,構成要件D「当該安定駒の底面が横桟に直接当接して安定的に葺工される安定駒当接工程」を有しているのに対し,引用例1に記載された発明は,このような工程を有していない点で,A縦桟に屋根瓦の尻側裏面に設けた安定駒の差込み側の側面を当接した際,本件訂正後特許発明は,構成要件C’「この縦桟を横桟の表面と屋根瓦の瓦本体の尻側裏面とで形成される空間に設けて浮き上がり防止を図る」のに対し,引用例1に記載された発明は,縦桟を横桟の表面と屋根瓦の瓦本体の尻側裏面とで形成される空間に設けていない点で,相違する。
(イ) 本件訂正後特許発明容易想到性 そこで,上記相違点を当業者が容易に想到できたものであるかを検討すると,相違点@については,前記ウ記載のとおり,当業者が容易に想到できたものである。
相違点Aについては,本件訂正後特許発明の「この縦桟を横桟の表面と屋根瓦の瓦本体の尻側裏面とで形成される空間に設ける」という構成は,縦桟の高さを,瓦本体の尻側裏面と横桟表面との間の距離と同じかそれよりも低くすることであって,このことは,安定駒の底面を横桟に当接する場合,当業者が当然になし得る設計的事項である。また,本件訂正後特許発明の前記構成を設けて「浮き上がり防止を図る」ことは,安定駒の底面と横桟を当接した状態を表現したにすぎないことである。
したがって,本件訂正後特許発明についても,当業者が容易に想到できたものであって,進歩性に欠けるものというべきであるから,平成16年6月14日付け訂正請求に係る訂正によっては,本件特許権の無効理由は解消しない。
5 結論 以上によれば,被告各製品を屋根上に設置する工法は本件特許権の構成要件を充足するものではないから,被告各製品の製造等は本件特許権の間接侵害に該当するものではなく,また,本件特許権には無効理由のあることが明らかであり本件特許権に基づく権利行使は権利の濫用に該当する。したがって,原告の本訴請求は,その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 三村量一
裁判官 古河謙一
裁判官 吉川泉