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関連審決 無効2004-80125
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成17ワ2649特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
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関連ワード 頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  同一技術分野(同一の技術分野) /  容易に発明 /  周知技術 /  技術的範囲 /  実施可能要件 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  共有 /  着想 /  抵触 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  権原 /  加工 /  構成要件 /  差止請求(差止) /  侵害 /  損害額 /  逸失利益 /  不法行為(民法709条) /  請求の範囲 / 
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事件 平成 16年 (ワ) 12180号 特許権侵害差止等請求事件
原告 第一高周波工業株式会社
同訴訟代理人弁護士 北村行夫
同 中島龍生
同 大井法子
同 杉浦尚子
同 吉田朋
同 雪丸真吾
同 芹澤繁
同 亀井弘泰
同 清田佳子
同補佐人弁理士 樋口盛之助
被告 ジエミツクス株式会社
被告 丸三機械建設株式会社
上記被告2名訴訟代理人弁護士 村林隆一
同 井上裕史
被告 トルクシステム株式会社
同訴訟代理人弁護士 高橋恭司
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2006/01/30
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告ジエミツクス株式会社は,別紙物件目録記載の製品を製造し,輸入し,譲渡し,貸し渡し,譲渡及び貸渡しの申出をし,又は,譲渡及び貸渡しのために展示してはならない。
2 被告らは,別紙物件目録記載の製品を使用してはならない。
3 被告ジエミツクス株式会社は,その占有する第1項記載の製品及び半製品を廃棄し,同製品の製造に用いる設備を除却せよ。
4 被告ジエミツクス株式会社は,原告に対し金2950万円及びこれに対する平成16年6月18日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員(ただし,内金180万円及びこれに対する上記年5分の割合による金員については被告丸三機械建設株式会社と連帯して,内金420万円及びこれに対する上記年5分の割合による金員については被告トルクシステム株式会社と連帯して,内金1150万円及びこれに対する上記年5分の割合による金員については被告丸三機械建設株式会社及び被告トルクシステム株式会社と連帯して)を支払え。
5 被告丸三機械建設株式会社は,原告に対し金1330万円及びこれに対する平成16年6月18日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員(ただし,内金180万円及びこれに対する上記年5分の割合による金員については被告ジエミツクス株式会社と連帯して,内金1150万円及びこれに対する上記年5分の割合による金員については被告ジエミツクス株式会社及び被告トルクシステム株式会社と連帯して)を支払え。
6 被告トルクシステム株式会社は,原告に対し金1570万円及びこれに対する平成16年6月18日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員(ただし,内金420万円及びこれに対する上記年5分の割合による金員については被告ジエミツクス株式会社と連帯して,内金1150万円及びこれに対する年5分の割合による金員については被告ジエミツクス株式会社及び被告丸三機械建設株式会社と連帯して)を支払え。
事案の概要
本件は,高周波ボルトヒータについての特許権を有している原告が,被告ジエミツクス株式会社(以下「被告ジエミツクス」という。)に対し,別紙物件目録記載の製品を製造し,販売し,及び使用する同被告の行為が,原告の有する特許権を侵害するとして,特許法100条1項に基づく同製品の製造,販売及び使用等の差止め,同条2項に基づく同製品及び半製品の廃棄並びに同製品の製造に用いる設備の除却並びに民法709条に基づく損害の賠償及び遅延損害金(本訴状送達の日の翌日である平成16年6月18日から支払済みに至るまで民法所定年5分の割合による)の支払を求め,被告丸三機械建設株式会社(以下「被告丸三」という。)及び被告トルクシステム株式会社(以下「被告トルクシステム」という。)に対し,同製品を使用する同被告らの行為が,原告の有する特許権を侵害するとして,特許法100条1項に基づく同製品の使用の差止め並びに民法709条に基づく損害の賠償及び遅延損害金(本訴状送達の日の翌日である平成16年6月18日から支払済みに至るまで民法所定年5分の割合による)の支払を求めた事案である。
1 争いのない事実等(証拠を掲げない事実は争いがない。) (1) 原告の有する特許権 原告は,以下の特許権(以下「本件特許権」といい,その各請求項に記載された発明を,請求項の番号に対応させて,「本件発明2」ないし「本件発明4」という。また,本件特許権に係る特許を,同様に,「本件特許2」ないし「本件特許4」という。)の持分を有している(なお,原告は,共有者である三菱重工業株式会社から,平成16年5月1日,同社の本件特許権の持分に基づく損害賠償請求債権の譲渡を受けた。)。
特許番号 第2882962号 発明の名称 高周波ボルトヒータ 出願日 平成5年1月7日 登録日 平成11年2月5日 特許請求の範囲 請求項2「金属製ボルトの軸心方向に穿孔された孔内に挿入されるヘアピン状の誘導加熱コイルと,同コイルの往復路線間に設けられた磁性体とを備え,かつ同コイルの内部に水を流すようにした高周波ボルトヒータにおいて,前記誘導加熱コイル表面に耐熱性絶縁物を施したことを特徴とする高周波ボルトヒータ。」 請求項3「前記誘導加熱コイルと高周波トランス間の接続に柔軟性を持たせた部材であるフレキシブルケーブルを用いることを特徴とする請求項1または2記載の高周波ボルトヒータ。」 請求項4「前記金属製ボルトのナット装着ネジ部に相当する部位を,前記磁性体を省略した磁性体省略部である非加熱部としたことを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の高周波ボルトヒータ。」 (2) 構成要件の分説 本件発明2ないし4を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下「構成要件2A」などという。)。
ア 本件発明2の構成要件 2A 金属製ボルトの軸心方向に穿孔された孔内に挿入されるヘアピン状の誘導加熱コイルと, 2B 同コイルの往復路線間に設けられた磁性体とを備え, 2C かつ同コイルの内部に水を流すようにした高周波ボルトヒータにおいて, 2D 前記誘導加熱コイル表面に耐熱性絶縁物を施したこと 2E を特徴とする高周波ボルトヒータ イ 本件発明3の構成要件 3A 前記誘導加熱コイルと高周波トランス間の接続に柔軟性を持たせた部材であるフレキシブルケーブルを用いていること 3B を特徴とする本件発明2の高周波ボルトヒータ ウ 本件発明4の構成要件 4A 前記金属製ボルトのナット装着ネジ部に相当する部位を,前記磁性体を省略した磁性体省略部である非加熱部としたこと 4B を特徴とする本件発明2又は本件発明3の高周波ボルトヒータ (3) 被告らの行為 被告ジエミツクスは,別紙物件目録記載の製品「高周波ボルトヒータ」(以下「イ号物件」という。なお,イ号物件各部の名称及びイ号物件の構成に「整合トランス(マッチングトランス)」と「接続部(トランス2次側)」とが含まれるか否かについては争いがある。)と,高周波電源装置,冷却水装置,高周波トランス,付属ケーブル,付属ホースなどをセットにした一式装置(以下「被告製品」という。)を「JETTER」なる品名のもと,定格消費電力ごとに「JETTER-C20型(20kW)」等の名称を付して製造・販売しており,また,被告製品を使用してボルトの緩め工事,締付け工事も行っている。
被告丸三及び被告トルクシステムは,被告製品を使用してボルトの緩め工事,締付け工事を行っている。
なお,イ号物件のボルト孔内に挿入される部分の長さ,径は,作業対象となるボルト孔によって種々あり得る。
(4) 無効審判の経緯 被告ジエミツクスは,平成16年8月20日,本件特許について,特許庁に対し,無効審判を請求した(無効2004-80125号)。
特許庁は,平成17年7月28日,本件特許権のうち,請求項1ないし5に係る発明についての特許を無効とする審決をした。
2 争点 (1) イ号物件は,本件発明2ないし4の技術的範囲に属するか。
(2) 本件特許2ないし4には,発明の進歩性欠如の無効理由が存在するか。
(3) 本件特許4は,明細書の記載につき無効理由が存在するか。
(4) 原告の損害額はいくらか。
3 争点に関する当事者の主張 (1) 争点(1)(イ号物件は,本件発明2ないし4の技術的範囲に属するか。)について (原告の主張) イ号物件は,本件発明2ないし4の構成要件をいずれも充足し,本件発明2ないし4の作用効果を奏するから,本件発明2ないし4の技術的範囲に属する(なお,請求項3及び請求項4で引用している請求項1記載の高周波ボルトヒータについては,本件特許権行使の対象外である。)。
ア イ号物件は,次の構成を備えている。
外径が概ね6mm〜10mm程度の細い銅パイプによって先端側をターンさせ,ボルトに穿孔された孔の長さがボルトの種類によって異なるため,全長は,例えば,約556mm〜1036mmなどの長さで全体がヘアピン状をなす往復線路を形成し,該往復線路の銅パイプにガラスクロスチューブ(絶縁物)を被せるとともに,この往復線路の間に,磁性体を挟んだ箇所と磁性体を挟まない箇所(磁性体省略部)を設けて誘導加熱コイルを形成している。磁性体を挟まない磁性体省略部は,前記ヘアピン状コイルの根元(後端)に近い部位である。
上記加熱コイルは,ヘアピン状をなす上記銅パイプの後端(2つある。)に,当該パイプの内部に冷却水を流通させるための冷却水給排用管と2つの給電端子板が設けられているとともに,全体がガラスクロステープ(耐熱性絶縁物)の巻付けにより耐熱絶縁被覆されて,外径が各ボルト孔の径に合うように,例えば,約17.5mm〜24mmなどとされ,全長が前述の例でいえば556mm〜1036mmの範囲にある複数種の高周波ボルトヒータに形成されている。
上記の高周波ボルトヒータが,上記の例のように,外径が17.5〜24mmの範囲内,全長が約566〜1036mmの範囲内の,太さ(外径)と長さが異なる複数種のボルトヒータに形成されている場合には,金属製ボルトの軸心方向に設けた仕様の異なるボルト孔(内径が通常約19mm〜26mm,深さが約566〜1036mmの範囲内。)に,上記の複数のボルトヒータの中から選択した高周波ボルトヒータを挿入し,このボルトヒータに高周波電流を流すことにより,ボルト孔内面を高周波誘導加熱することができる。この径と長さは,ボルトの孔の形状によって無数の種類となる。
イ イ号物件の前記具体的構成を,本件発明2ないし4の構成要件に即して分説すると,下記のとおりである。
(ア) 本件発明2に対応するイ号物件の構成2(以下「構成2a」などという。) 2a 金属製ボルトの軸心方向に穿孔されたボルト孔内に挿入されるヘアピン状の誘導加熱コイルである, 2b 同コイルの往復路線間に挟まれた磁性体を備えている, 2c 同コイルの内部に冷却水が流通されるようにした高周波ボルトヒータである, 2d 同コイル表面にガラスクロステープによる耐熱性絶縁物を施している, (イ) 本件発明3に対応するイ号物件の構成3 3a 前記誘導加熱コイルと高周波トランス間の接続部材に,フレキシブルなケーブルを用いている, 3b 上記構成2のすべてを備えた高周波ボルトヒータ (ウ) 本件発明4に対応するイ号物件の構成4 4a 高周波ボルトヒータのうち前記ヘアピン状コイルの根元近くの金属製ボルトのナット装着ネジ部に相当する部位を,前記磁性体を省略した非加熱部としている 4b 上記構成2又は上記構成3のすべてを備えた高周波ボルトヒータ ウ 前記各構成を具備したイ号物件は,金属製ボルトの軸心方向に穿孔された孔内に挿入される高周波ボルトヒータであるから,金属製ボルトの軸心方向に設けられたボルト孔内に挿入しそのコイルに高周波電流を流すと,当該ボルトを急速加熱して伸長させる作用を奏する。
そして,イ号物件は,コイル表面に耐熱性,絶縁性のガラスクロステープを被覆しているので,コイルとボルト孔表面とのショートを防止している。
また,イ号物件は,その給電端子と高周波トランスとをフレキシブルなケーブルで接続して取扱い操作性の向上を図っている。
さらに,イ号物件は,磁性体を設けない非加熱部をナット装着ネジ部に対応する部位に設定しているので,ナット装着ネジ部が余分に加熱されるのを防ぐことができる。
エ 本件特許権の侵害 以上のとおり,イ号物件は,本件発明2ないし4におけるすべての構成要件を具備し,かつ,本件発明2ないし4の「高周波ボルトヒータ」と同じ作用効果を奏するものであるから,本件発明2ないし4のそれぞれの技術的範囲に属する。
したがって,被告らの前記各行為は原告の本件特許権を侵害する。
(被告らの反論) イ号物件は本件発明2ないし4の技術的範囲に属さない。
(2) 争点(2)(本件特許2ないし4には,発明の進歩性欠如の無効理由が存在するか。)について (被告らの主張) 本件発明2ないし4は,本件特許出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,本件特許2ないし4には,特許法123条1項2号所定の無効理由がある。
また,本件特許2ないし4について,特許無効審判(無効2004-80125号)において,本件特許権の請求項1及び5に記載された特許とともに,既に,無効とする旨判断されている。
よって,本件特許2ないし4は,「特許無効審判により無効にされるべきもの」であるから,特許法104条の3により,その権利の行使は認められない。
ア 乙2の2の文献に記載された発明と本件発明2ないし4の対比 (ア) 乙2の2の文献に記載された発明 本件特許出願前に公開された乙2の2の文献(米国特許公報特許番号2,810,053号,以下「乙2の2文献」という。)には,以下の各記載がされている。
a 「この発明は高周波誘導加熱,より具体的には小径穴の表面を加熱するための誘導子の技術に属している。」(訳文1欄本文1行目ないし2行目) b 「本発明は,これらの難題に打ち勝ち,様々な加熱目的のための小径穴を首尾よく加熱する高周波誘導子を熟考する。発明に従って,金属加工物の中に穴,開口,内径の表面を,一定の間隔で平行に伸びた一対の導体脚(以下レグと表現),加工物対面表面である遠くの表面,および上記表面の空間に略等しい直径でかつ略半円形横断面を持ち,その表面を間隔を持って回り込む様に配置された磁性材料,から成る加熱用高周波誘導子が提供されている。」(同1欄本文13行目ないし22行目) c 「Eで示される磁性材料はレグ14の間に配置され,開口穴10を概略満たし,加工物対面表面18を除いたレグ14の表面19を部分的に取り囲む様な略半円形横断面を持っている。」(同2欄行目28ないし31行目) d 「誘導子Bは,1対の間隔をもって平行に伸ばしたレグ14を含むヘアピン形状導電体から成っている。(レグ14は)下端でベース15により電気的に接続されて居る。示されるように,導電体14と15は,高周波誘導加熱技術において従来的である水又は同類の流体などの冷却メディアを通す中空の内部16を持っている。」(同2欄9行目ないし15行目) e 「示されるように,レグ14と15は,穴10の表面11によって,近い間隔をおいて配置された関係の表面18を置くためにそれなりの間隔をおいて配置される。間隔がより近くなるにつれて,加工物Aに対する電気的結合は,より大きくなる。しかしその様な間隔は,誘電子Bは加熱中に加工物Aに接触させないと云う必要性に関連して制限されるべきである。これは,特に,加熱中の穴10に対しても同じである。」(同2欄18行目ないし25行目) f 「高周波電流は,電源Dから回転可能な接点Cを通じて,誘電子に供給される。」(同3欄6行目ないし8行目) g 「発明の別の目的は,加熱作用を補助する,レグの間に置かれた磁性材料,1対の平行して伸びているレグから成っている新しく,改善された高周波誘導子の供給である。」(同1欄34行目ないし37行目) (イ) 以上から,乙2の2文献に記載された発明(以下「引用発明2」という。)は,以下のとおりである。
2a’ 金属製加工物2に穿孔された孔内に挿入されるヘアピン状の誘導加熱コイル14と, 2b’ 同コイルの往復路線間に設けられた磁性体Eとを備え, 2c’ かつ同コイルの内部に水を流すようにした誘導加熱コイルにおいて, 2d’ 前記誘導加熱コイルBは,加熱中に加工物Aに接触しない構成を有し, 2e’ 前記誘導加熱コイルと高周波トランス間を接続した構成を有し, 2f’ 前記金属加工物が存在しない部分に相当する部位を,前記磁性体を省略した磁性体省略部である非加熱部としたことを特徴とする 2g’ 高周波誘導子 (ウ) 本件発明2と引用発明2との対比 a 引用発明2の構成2a’と,本件発明2の構成要件2Aは,以下の相違点1を除き,同一である。
[相違点1]本件発明2では,発明の対象物が「高周波ボルトヒータ」に限定されているため,誘導加熱コイルは,「金属製のボルトの軸心方向に穿孔された孔内に挿入される」とされているところ,引用発明2では,誘導加熱コイルが加熱する対象は,「金属製加工物」とされ,「高周波ボルトヒータ」に限定されておらず,よって,誘導加熱コイルが「孔内に挿入される」点は同じであるが,「金属製のボルトの軸心方向に穿孔された孔内」に限定されていないこと。
b 引用発明2の構成2b’と,本件発明2の構成要件2Bは,同一である。
c 引用発明2の構成2c’と,本件発明2の構成要件2Cは,同一である。
d 引用発明2の構成2d’と,本件発明2の構成要件2Dは,以下の相違点2を除き,同一である。
[相違点2]本件発明2では,加熱中に,誘導加熱コイルとボルトが電気的に接触することを防止するために,コイル表面に「耐熱性絶縁物」を備える構成が記載されているが,引用発明2では,乙2の2文献に「誘導子Bは加熱中に加工物Aに接触させないと云う必要性」があるとの記載は存在するが,そのための具体的な方法としては,誘導加熱コイルと加工物の孔との間隔に留意する点が指摘されているのみであること。
e 引用発明2の構成2g’と,本件発明2の構成要件2Eとの相違点は,引用発明2が一般的に「高周波誘導子」であるのに対して,本件発明2の被加熱の対象物を「ボルト」に限定した「高周波ボルトヒータ」である点で,前記相違点1と同一である。
(エ) 本件発明3と引用発明2との対比 a 引用発明2の構成2e’と,本件発明3の構成要件3Aは,誘導加熱コイルと高周波トランスを接続する点で同一であるが,下記の相違点3がある。
[相違点3]本件発明3では,誘導加熱コイルと高周波トランス間の接続部材は,柔軟性を持たせた「フレキシブルケーブル」に限定されているが,引用発明2では,かかる限定がないこと。
b 引用発明2の構成2a’ないし2d’及び2g’と,本件発明3の構成要件3Bは,前記相違点1及び2を除き同一である。
(オ) 本件発明4と引用発明2との対比 a 引用発明2の構成2f’と,本件発明4の構成要件4Aは,磁性体省略部である非加熱部が存在する点で同一であるが,下記相違点4がある。
[相違点4]本件発明4では,磁性体省略部が,「金属製ボルトのナット装着ネジ部に相当する部位」に限定されているが,引用発明2では,かかる限定がないこと。
b 引用発明2の構成2a’ないし2e’及び2g’と,本件発明4の構成要件4Bは,前記相違点1ないし3を除き同一である。
イ 相違点について (ア) 相違点1について a 乙2の1の文献(実願平3-22545(実開平4-111186号)のマイクロフィルム,以下「乙2の1文献」という。)には,以下の記載がある。
(a) 「本考案は,・・・(中略)・・・ボルトの軸心穴に大容量電力を投入できるとともに,高周波誘導加熱によりボルトを効率よく短時間で加熱することができるボルト加熱用高周波加熱トーチを提供することを目的とする。」(【0004】) (b) 「本考案ボルト加熱用高周波加熱トーチにおいては,ボルトの軸心穴の内面から管状導体により高周波誘導加熱を行うことにより,ボルト自体が直接発熱するため効率の良い加熱が行われる。このとき内部導体に流れる電流によって管状導体外側の磁束が打消されないように,内部導体による磁束を高透過率コアで吸収する。」(【0006】) (c) 「・・・管状導体1の内部には,水冷のため管状とされ銅等の良導体金属よりなる内部導体2が挿入され,その先端が管状導体1の先端と接続されている。」(【0008】) b 乙2の1文献に記載された考案(以下「引用考案1」という。)の「高周波加熱トーチ」は,管状導体1と内部導体2に高周波電流を印加して,その誘導加熱により管状導体1の外側のボルト軸心孔の内面を加熱するものであるから,引用発明2の「高周波誘導加熱コイル」の一種である。
しかも,その被加熱物が「ボルト」に限定されているから,「高周波ボルトヒータ」であり,当該高周波加熱トーチは,「金属製ボルトの軸心方向に穿孔された孔内に挿入される」とされているから,前記相違点1の構成は,引用考案1に記載されている。
c 引用発明2も引用考案1も「高周波誘導加熱コイル」である点では同一であるから,その技術分野は全く同一である。
しかも,引用発明2の「高周波誘導コイル」も,引用考案1の「高周波加熱トーチ」も,被加熱物に穿孔された小孔内に挿入される構成が全く同一であり,また,導体(コイル)間に磁性体を備えて加熱を補助している点,導体(コイル)を管状としてその中に冷媒を通すことで,導体(コイル)を冷却している構成も同一である。
よって,当業者にとって,引用発明2に,引用考案1を適用することは容易である。
d したがって,相違点1の構成は,引用発明2に引用考案1を適用することにより,当業者が容易に想到するものであることは明らかである。
e なお,引用考案1には,誘導加熱コイルを「ボルトヒータ(ボルト加熱用高周波加熱トーチ)」として用いる技術思想が開示されているから,仮に,引用考案1の実施例や登録請求の範囲の構成が実施できないとしても,当業者としては,引用考案1に記載された上記技術思想に接すれば,引用発明2の誘導加熱コイルをボルトヒータに適用することを容易に想到するといえる。
したがって,引用考案1に記載された構成の「加熱トーチ」では,ボルトを加熱できないから,相違点1の構成は,引用発明2に引用考案1を適用して当業者が容易に想到するものではないとの原告の反論は理由がない。
(イ) 相違点2について a 乙2の1文献には,以下の記載がある。
(d) 「管状導体1の外表面にはボルトの軸心穴の内面に接触しても接地しないように耐熱絶縁塗膜4が被覆されている。」(【0008】) b 引用考案1の(d)の「ボルトの軸心穴の内面に接触しても接地しないように」とは,「加熱中に,誘導加熱コイルとボルトが電気的に接触することを防止する」と同一であり,また,「耐熱絶縁塗膜」とは,「耐熱性絶縁物」と同一であるから,前記相違点2の構成は,引用考案1に記載されている。
当業者にとって,引用発明2に引用考案1の構成を適用することが容易であることは,前記のとおりであり,また,コイルと金属製加工物が電気的に接触することを防止するために,「耐熱性絶縁物」を一方の表面に備えることは,乙2の4や乙2の6など多くの文献にも記載されている当業者の技術常識にすぎない。
すなわち,誘導加熱コイルは,そのコイルに電流を流して被加熱体の加熱を行うものであるから,コイルが被加熱体に接触してショート(接地)してはならないため,誘導加熱コイル表面に絶縁体を施すことが慣用されてきたのであり,また,誘導加熱コイル及び被加熱体は発熱によって高温になるため,当該絶縁体は耐熱性材料が用いられてきたのである。
よって,相違点2の構成は,引用発明2に引用考案1を適用することにより,また,技術常識から,当業者が容易に想到するものにすぎない。
(ウ) 相違点3について 誘導加熱コイルと高周波トランスとを接続する部材として,従来電気機器の配線に用いられている,柔軟性のある「ケーブル」を使用することは,当業者の技術常識であって,何らその適用を阻害する事由はない。
したがって,相違点3の構成は,引用発明2に技術常識を適用することにより,当業者が容易に想到するものにすぎないことは明白である。
(エ) 相違点4について 引用発明2の磁性体Eは,「開口穴10を概略上満たし」と記載されているように,金属加工物に対応する部分に備えられ,金属加工物が存在しない部分に相当する部位は,磁性体が省略されている(乙2の2Fig.1(別紙図面Fig.1。
以下「図面1」という。))。そして,磁性体は,並行した誘導加熱コイル間で磁束が打ち消し合うことを防止するために配置されているのであるから,これが配置されていない磁性体省略部が非加熱部であることは自明である。
そもそも,「ボルトヒータ」とは,大径ボルトを緩めたり,締め付けたりする場合に,ボルトにあらかじめ穿孔した小孔内にヒータを挿入し,当該ボルトを加熱することにより,ボルトを焼き伸ばして作業を行うためのものである。そして,当該ボルトを効率的に加熱するには,ボルト部分の必要部分のみを積極的に加熱するべきであること及びナットを不必要に加熱しないことが,当業者にとって自明であるから,磁性体を配置する部分をボルトに対応した位置とすることは,当業者にとって容易に想到する事項にすぎない。
したがって,相違点4の構成は,引用発明2に技術常識を適用することにより,当業者が容易に想到するものにすぎない。
ウ 以上のとおり,引用発明2と本件発明2ないし4の各相違点は,いずれも引用考案1に記載された技術事項又は技術常識にすぎない。
よって,当業者は,引用発明2に,引用考案1に記載された技術事項及び技術常識を適用することによって,容易に本件発明2ないし4に想到することができるから,本件発明2ないし4は,その出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとき(特許法29条2項)に当たり,特許法104条の3により,本件発明2ないし4についての特許権の行使は認められない。
(原告の反論) ア 引用発明2の構成に関する被告らの誤り (ア) 引用発明2の2e’の構成について 「高周波電源」と「高周波トランス」とは同義ではなく,高周波電源には整合トランス(高周波トランスもこの一種である。)を含んでいないものもあるから,乙2の2文献における「高周波電流は,電源Dから回転可能な接点Cを通じて誘導子に供給される」の記載をもって,直ちに「誘導加熱コイルと高周波トランス間を接続した構成を有し」ということはできない。
(イ) 引用発明2の2f’の構成について 乙2の2文献には,「金属加工物が存在しない部分に相当する部位を,前記磁性体を省略した磁性体省略部である非加熱部としたこと」を示す記載はない。
逆に,乙2の2文献には「磁性材料Eの軸方向の長さが,穴10の軸方向の長さ,すなわち加工物Aの厚さより多少大きいことに気を付けるべきである」(訳文3欄1行目ないし3行目)と明記されている。この記載部分には,「金属加工物Aが存在しない部分に相当する部位」にも「磁性体Eがある」構成が示されているのであって,2f’の構成が乙2の2文献に開示されているとは到底いえない。
イ 引用発明2と本件発明2ないし4との相違点の把握に関する被告らの誤り (ア) 相違点4について 本件発明4では磁性体省略部が存し,かつ,その部位が「金属製ボルトのナット装着ネジ部に相当する部位」であるとされているのに対し,前記のとおり,引用発明2では磁性体省略部という概念が全くなく,むしろ,磁性体は,加熱対象物より大きく(長く)なることが想定されている。
(イ) そのほかの相違点について a 引用発明2には,「誘導子と加工物を相対的に回転させる」(乙2の2訳文1欄本文24行目ないし25行目),「誘導子Bは・・・何か適当な方法で,望まれた回転速度で,回転する。」(同3欄5行目ないし6行目),図面1のC(回転コンタクト)の記載があり,誘導子を回転させない状態での使用は開示されていないのに対し,本件発明2ないし4は,ボルトヒータの回転を構成要件としないのであるから,この点で大きな相違がある。
b また,引用発明2は,「小径穴の表面を加熱するための誘導子の分野」のものであるが,より具体的には,「種々の熱処理目的のため小径穴を首尾よく加熱する高周波誘導子」を意図したものであり,それ以外の適用例についての記載もない。したがって,本件発明2ないし4のように,小径の長い穴を持つボルトの熱膨張のための加熱を企図したものでないことは,明らかである。
そして,引用発明2では,「熱処理目的のための小径穴の誘導子による加熱」であることから,穴表面を均一に加熱するために「誘導子と加工物を相対的に回転させる」手段(乙2の2訳文1欄24行目ないし25行目)を採用しており,また,そのために,「誘導子Bが加工物Aと接触してはいけない必要性」において,誘導子(コイル)と加工物の孔との間隔に留意すべき点が指摘されているのである。
このように,本件発明2ないし4と引用発明2とでは,根本的に解決しようとする課題・目的が異なる。そのため,本件発明2ないし4と引用発明とを対比すると,前記の点のほかにも以下のような相違点がある。
引用発明2では,乙2の2Fig.2(別紙図面Fig.2。以下「図面2」という。) に関し,「Eで示された磁性材料はレグ14の間に配置され,(加工物の)開口穴10を概略満たし,加工物対面表面18を除いたレグ14の表面19を部分的に取り囲む様な略半円形横断面を持っている」(乙2の2訳文2欄28行目ないし31行目),「(磁性材料Eを形成する)薄層体20の外径は,加熱動作中の誘導子Bの回転に十分な機械的クリアランスが許す限り,開口穴10の直径を大体は一杯に満たす必要がある」(同2欄43行目ないし45行目)と記載されるように,「磁性体E」が小径の穴の内部で,2本のレグ14を,穴表面と対向面を除いて包接した状態で,穴内径のほぼ一杯に配置されている。すなわち,引用発明2は,金属加工物の小径穴内表面の熱処理のための加熱を目的とし,その磁性体の配置も,加工物の小径穴内の空間(空気)を少なくすることによってレグ14に高周波電流が流れることにより生じる磁束を通りやすくし,穴内表面に誘導される二次電流(うず電流)の伝送効率を高め,穴表面の熱処理に必要な高温の加熱を狙ったものであるが,本件発明2ないし4は,ボルトにあけられた細長い孔の中に入れた「高周波ボルトヒータ」による誘導加熱作用によってボルトの熱膨張(伸長)を得ることを目的としているので,2本のコイルの間に磁性体を単に挟持させ,2本のコイル間での磁束の干渉を回避してボルト内に強い磁束を生じさせ,これによりボルトの熱膨張に足りる誘導電流を発生させているのである。
ウ 被告らの主張する各相違点についての反論 (ア) 相違点1について a 引用考案1を引用発明2に適用することは当業者に容易想到とする被告らの主張は,乙2の1文献に記載されている構成の「加熱トーチ」では,ボルト側に誘導電流(二次電流)が生じず,ボルトを加熱することができない,という事実を無視した空論である。
b 本件特許権の「高周波ボルトヒータ」によりボルト側が発熱して膨張(伸長)する原理は,ボルト孔内にある磁性体を挟んだヘアピン状のコイル導体に,高周波電源から一次電流が流れると,各導体について,磁性体とボルトとを通る磁束が生じ,ボルト側を通る当該磁束によってボルトに二次電流(誘導電流)が流れ,ボルトが発熱して熱膨張するというものである。
これに対し,引用考案1の「加熱トーチ」は,管状導体1とそれと同軸上の内部導体2と該内部導体2の周りに外嵌された(環状)コア9(磁性体)とにより構成されたものであるから,上記両導体1,2に高周波電流が印加されても,この電流による磁束はすべてコア9を通る磁束となって,ボルトの側に前記高周波電流による磁束を生起させることができないため,誘導電流(二次電流)によってボルトを発熱させて伸長させることは不能なのである。
このように,引用考案1の「加熱トーチ」は,コア9のみに磁束が生じるだけでボルト側に通る磁束は全く生じない。コア9に磁束が生じても,そのコア9は導電性のない磁性体であるから,磁束による電流も生じない。当該コア9の発熱は,磁気ヒステリシス損失の熱だけであるが,この熱も,通電中に上記両導体1,2に流通される冷却水によって冷却されてしまい,当該コア9にボルトの加熱に利用できるような熱が生じることはない。
c このように,ボルトに二次電流を誘導することができない引用考案1の「加熱トーチ」は,「高周波誘導加熱コイルの一種」とは到底いえず,本件発明2ないし4の「高周波ボルトヒータ」とは全く異なるものであることは明らかである。
d また,引用発明2と引用考案1とは,課題が全く異なる技術思想であり,その機能・作用も全く異なるものであるから,これらを組み合わせ,かつ,解決しようとする課題を実際に解決できる技術手段である本件発明2ないし4を想起することが,当業者に容易とは到底いえない。
すなわち,乙2の2文献には,「金属加工物の小径穴の内面熱処理のための加熱用のヘアピン状コイルについて」の開示しかなく,一方,乙2の1文献には,「高周波誘導加熱によりボルトを効率よく短時間で加熱することができるボルト加熱用高周波加熱トーチを提供することを目的とする」旨の記載はあるが,そのために構成された「加熱トーチ」の形態(構造)は,ヘアピン状コイルではない形態のコイルであって,ボルトの誘導加熱をすることもできないコイルであるから,目的及びコイル形態が互いに全く異なっている引用発明2に引用考案1を適用すること自体,当業者に容易想到とは到底いえない。
以上より,相違点1の構成は,引用発明2に引用考案1を適用して当業者が容易に想到するとする被告らの主張には理由がない。
(イ) 相違点2について a 乙2の1文献には,「管状導体1の外表面にはボルトの軸心穴の内面に抵触しても接地しないような耐熱絶縁塗膜が被覆されている」との記載がある。しかし,前記のとおり,引用考案1の「加熱トーチ」は,ボルト穴の内面(壁)に二次電流を生起させてそこを発熱させる加熱機構のものではない。のみならず,コア9の熱も磁束によるヒステリシス損の熱だけであるところ,管状導体1と内部導体2には通電中に冷却水が流通するので,その熱も冷却されてしまうから,「加熱トーチ」の絶縁塗膜に耐熱性は不要である。
これに対し,本件発明2ないし4においてコイル表面に施される耐熱性絶縁物は,コイル表面とボルト孔内面のショート(接地)を防ぐ機能では引用考案1のそれと等価であるが,耐熱性は二次電流によってコイルよりもはるかに高い温度(コイルは内部通水で冷却されている)に昇温(例えば400℃程度以下)するボルト孔の発熱に対する耐熱性であるから,引用考案1の冷却される管状導体1の熱に対する耐熱絶縁塗膜とは,耐熱の相手方と耐熱性能とが全く異なる。
したがって,高周波電流が印加されるものの,本件発明2ないし4の「高周波ボルトヒータ」のようにボルト(孔)に対する誘導電流による発熱作用が全くなく,また,通電時に導体自体の発熱も冷却される引用考案1の「加熱トーチ」に用いられる耐熱絶縁塗膜は,本件発明2ないし4における耐熱性絶縁物を示唆するとはいえない。
b また,乙2の4の文献と乙2の6の文献の「耐熱性絶縁物」は,コイルの変形防止を目的としてコイルの剛体化を図るときに用いる電気絶縁材,及び,高周波誘導溶解炉に用いるコイル(このコイルは,コイル導体が螺旋環状に密集しているのでコイル導体同士の電気絶縁を必要とし,かつ,その絶縁は溶解炉に用いるコイルであるから耐熱性を必要とする。)に用いる電気絶縁材に関する記載である。これらはいずれも,本件発明2ないし4のような,ボルトの軸心方向に穿孔された細くて深い孔に挿入され当該ボルト孔の内面を加熱してそのボルトを伸長させるために用いる細長い棒状をなす「ヘアピン状の高周波ボルトヒータ」に係わる事項ではなく,また,このような「ヘアピン状の高周波ボルトヒータ」が必要とする耐熱絶縁物を示唆するものではない。
c よって,相違点2が,引用発明2に引用考案1を適用することにより,また,技術常識を適用することにより,当業者に容易想到とする被告らの主張には理由がない。
(ウ) 相違点3について a 「高周波ボルトヒータ」では,一例として20kWの消費電力で125Armsもの大電流を流すので,一般電気機器用の柔軟性ケーブルの技術常識はそのまま適用できない。
乙2の4の文献にも,「コイルは通常整合装置の整合トランスの二次端子に接続して使用される。したがって,コイル本体とトランスの二次端子を接続するリード部が必要」,「リード部のインピーダンスが大きいと,リード部での電圧降下が大きく,抵抗も増加するので,加熱電力の伝達が悪く,効率も低下する。」,「リード部のインピーダンスを低くするには,・・・(中略)・・・幅広銅帯を用い,薄い絶縁板を往復路線間に挟み,往復リード導体で囲まれる断面積を小さくするほどよい。」と記載されていることから明らかなように,コイルとトランスの二次側の接続には「リード部」が必要であるが,その「リード部には幅広銅帯を用いること」が高周波誘導加熱の分野における技術常識であるから,高周波誘導加熱コイルの技術分野においては,一般電気機器分野の技術常識である柔軟性のあるケーブルを使用することが技術常識とはいえない。
b また,乙2の7の文献,乙2の8の文献は,いずれも,高周波誘導加熱コイルの技術分野ではない,公知の「シーズヒーター」に関するものであるから,本件発明における「高周波ボルトヒータ」と整合トランスの接続に使用するフレキシブルなケーブルを示唆するものでもない。
(オ) 相違点4について a 引用発明2においては,前記のとおり,「磁性材料Eの軸方向の長さが,穴10の軸方向の長さ,すなわち加工物Aの厚さより多少大きいことに気を付けるべきである。」(乙2の2訳文3欄1行目ないし3行目)とされるように,磁性体Eが加工物Aの穴10の深さ全域だけでなく,それからはみ出した部位にも配置されている。
本件発明4において,「磁性体を省略した(設けない)磁性体省略部である非加熱部」は,「ボルト穴におけるボルトのナット装着ネジ部に相当する部位」に設定するものであるから,被告らがいうように,「加工物A(加熱対象の実体)が無い空間」に「磁性体が設けられない」とする思想とは全く異なる技術思想である。
b そもそも,ボルトの中心に穿孔された小径で深い孔に,その孔の深さに応じた長さのヘアピン状の誘導加熱コイルを挿入して,当該ボルト孔の内面を加熱しようとする着想自体が全くなかった本件特許権の技術背景においては,そのボルト孔の全長の中で加熱したくない部位を加熱しないように,「高周波ボルトヒータ」における磁性体の配置位置について工夫を施すことが,当業者にとって自明であるとか技術常識であるなどといえるはずもない。
c 被告らは,「上記非加熱とするために,当該部分を磁性体省略部としたこと」について,乙2の2文献等多くの公知文献から明らかであるとするが,いずれの文献にも,「『非加熱』としたい部分に対応する部分を『磁性体省略部』とする」という技術思想は示されていない。
すなわち,乙2の2,乙2の4,乙2の9の各文献に記載されているのは,いずれも磁性体を配置して高周波誘導加熱する技術思想であって,結果的に磁性体から外れる部分が加熱されないというにすぎず,被加熱物の加熱したくない部分に対応する磁性体を,その非加熱部の長さに合わせてあえて省略するという技術思想は示されていない。
エ まとめ 以上から明らかなように,引用発明2と本件発明2ないし4との各相違点は,引用考案1等に記載された技術事項や技術常識には当らず,よって,当業者といえども,引用発明2に引用考案1等に記載された技術事項や技術常識を適用しても,本件発明2ないし4を容易に想到することはできない。
したがって,本件発明2ないし4に,特許法29条2項に該当する無効理由はなく,同法104条の3により,権利行使が許されなくなるものではない。
(3) 争点(3)(本件特許4は,明細書の記載につき無効理由が存在するか。)について (被告らの主張) ア 本件特許権に係る明細書(以下「本件明細書」という。)における発明の詳細な説明の記載は,当業者が容易にその実施をすることができる程度に,その構成を記載しているとはいえず,また,本件明細書における特許請求の範囲の記載も,特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項を記載したといえないから,それぞれ平成6年法律第116号による改正前の特許法36条4項及び同条5項2号の要件を欠くという無効理由が存在する(同改正前の特許法123条1項3号。以下,同改正前の条文については,「改正前の特許法」として示す。)。
発明の詳細な説明における実施可能要件の欠如 本件明細書における発明の詳細な説明では,請求項4に係る磁性体省略部の位置について,「金属製ボルトのナット装着ネジ部に相当する部位」,「ナット15の装着ネジ部に相当する部位」との記載がある。
しかし,高周波ボルトヒータは,金属製ボルトの中心孔に挿入されるものにもかかわらず,常に一定の位置に挿入されるわけではない。すなわち,高周波ボルトヒータと金属製ボルトとの相対位置は,挿入する都度,あるいは,挿入する相手である複数の金属製ボルトの個々について,当該金属製ボルトの長さ,種類が変わるごとに異なる。また,金属製ボルトとナットとの位置関係も相対的であり,ボルトの長さ,フランジの厚さ,ナットの厚さ・形状により異なるものであるから,そもそも「ナット装着ネジ部」が金属製ボルトのどの位置になるかも特定できるものではない。
さらに,本件明細書の図面3では,金属製ボルトのナット装着ネジ部が金属製ボルトの上部と下部の2箇所に設けられているにもかかわらず,実施例では,高周波ボルトヒータの磁性体省略部がコイルの上部に1箇所設けられる構成が示されているにすぎず,この点からも,磁性体省略部を高周波ボルトヒータのどの位置に設置すべきかを特定することができない。
よって,本件明細書における発明の詳細な説明には,「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に,その発明の目的,構成及び効果」が記載されているとはいえず,改正前の改正前の特許法36条4項の要件を欠くという無効理由が存在する。
ウ 特許請求の範囲における不特定 本件明細書における特許請求の範囲の請求項4では,高周波ボルトヒータの誘導加熱コイルの往復路線間に設けられるべき磁性体に関し,その磁性体を省略する磁性体省略部の位置を,高周波ボルトヒータとは別体である金属製ボルトのナット装着ネジ部に相当する部位として特定している。
しかし,イで述べたとおり,金属製ボルトの特定の部位をもって高周波ボルトヒータにおける磁性体省略部の部位を特定することは不可能であり,そもそも「ナット装着ネジ部」が金属製ボルトのどの位置になるかも特定できるものではない。
したがって,本件明細書の特許請求の範囲の請求項4には,「特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項」が記載されているとはいえず,改正前の特許法36条5項2号の要件を欠くという無効理由が存在する。
(原告の反論) ア 本件特許の「高周波ボルトヒータ」を適用するタービン車室などに使用されているボルトは,一般的な機械装置類に使用されるボルトに比べると概して大きい外径,長尺である。もちろん,ボルトの外径や長さは,使用される対象や部位によって区々であり,したがって,それに応じて各ボルトの軸心方向に穿孔された孔の内径,深さも区々である。
このようにサイズが区々な大形ボルトに穿孔された内径,深さが様々に異なるボルト穴に適用するための「高周波ボルトヒータ」としては,単一仕様(太さ,長さなど)の「高周波ボルトヒータ」ではなく,ヒータ部の外径及び長さが異なる複数種類の「高周波ボルトヒータ」を必要とする。
そして,加熱対象となるタービン車室などのボルトやボルト孔に関する寸法などの情報は,タービンメーカーの設計図などに記載されているので,このボルトやボルト孔情報に基づいて,本件発明4における個々の「高周波ボルトヒータ」の寸法,仕様は,一義的に決定でき,それぞれのボルト孔に適応するものとして「高周波ボルトヒータ」が設計,製作される。
上記のように太さや長さが異なる複数の「高周波ボルトヒータ」において,それぞれのボルトヒータを適用するサイズの異なるボルト孔における加熱を避けたいナット部分を,当該ボルト孔が穿孔されている「ボルトのナット装着ネジ部」とし,ヒータ側はその「ネジ部に相当する部位」と表現することにより,サイズ違いの各高周波ボルトヒータが適用できる相手側の種々のボルトを基準にし,「非加熱部とする磁性体省略部」を「ネジ部に相当する部位」としてヒータ側に特定することは,何ら不自然ではない。
よって,本件発明4に係る特許請求の範囲において,磁性体省略部を「金属製ボルトのナット装着ネジ部に相当する部位」とすることは,当該ボルトヒータにおける部位の特定として十分明白である。
イ また,本件明細書の図面上,上下にナットがあるボルト12のボルト孔に,高周波ボルトヒータ10を適用したものであるが,当該ボルトヒータ10は,ボルト孔内で下方のナット装着部には届いていない。仮に,前記ボルトヒータ10が下方のナット装着部に届く長さであれば,当該ヒータ10の下方のナット装着ネジ部に相当する部位も磁性体を省略した非加熱部とするのが,上記記載から容易に導き得る構成である。
したがって,本件特許に係る発明の詳細な説明は,当業者の容易実施可能要件を損なうものではない。
(4) 争点(4)(原告の損害額はいくらか。)について (原告の主張) ア 被告ジエミツクスのイ号物件製造販売による損害(特許法102条1項による推定) 被告ジエミツクスは,遅くとも平成13年9月ころからイ号物件を要素とする被告製品を製造・販売しているところ,同月から本訴提起までの間に,同製品を少なくとも3台販売した。
原告が本件特許権を使用した製品を製造販売する場合,1台の定価は平均しておよそ1200万円であり,1台の製造販売に要する費用として製造原価,製造費,販売管理費などを控除すると,利益率はおよそ30%である。したがって,原告の損害額は,以下のとおりとなる。
1200万円×30%×3台=1080万円 なお,被告製品はイ号物件なくしては成り立たないものであるから,寄与割合は考慮しない(以下も同様である。)。
イ 被告ジエミツクスのイ号物件を使用した施工による損害(同法102条2項による推定) 被告ジエミツクスは,遅くとも平成13年9月ころからイ号物件を要素とする被告製品を使用して,ボルトの締付けあるいは緩め工事を施工している。施工件数は,同月から本訴提起までの間に少なくとも2件である。
同被告が施工した同工事については,1件当たりの施工代金が平均しておよそ200万円と推定され,1件の工事に要する費用として人件費等を控除すると,利益率はおよそ30%と推定される。したがって,原告の損害額は,以下のとおりとなる。
200万円×30%×2件=120万円 ウ 被告丸三のイ号物件を使用した施工による損害(同法102条2項による推定) 被告丸三は,遅くとも平成15年3月ころからイ号物件を要素とする被告製品を使用して,ボルトの締付けあるいは緩め工事を施工している。施工件数は,同月から本訴提起までの間に少なくとも3件である。
同被告が施工した同工事については,1件当たりの施工代金が平均しておよそ200万円と推定され,1件の工事に要する費用として人件費等を控除すると,利益率はおよそ30%と推定される。したがって,原告の損害額は,以下のとおりとなる。
200万円×30%×3件=180万円 この損害については,被告製品を被告丸三に販売あるいは引き渡した被告ジエミツクスも,共同不法行為者として連帯して損害賠償の責任を負う。
エ 被告トルクシステムのイ号物件を使用した施工による損害(同法102条2項による推定) 被告トルクシステムは,遅くとも平成14年3月ころからイ号物件を要素とする被告製品を使用して,ボルトの締付けあるいは緩め工事を施工している。
施工件数は,同月から本訴提起までの間に少なくとも7件である。
同被告が施工した同工事については,1件当たりの施工代金が平均しておよそ200万円と推定され,1件の工事に要する費用として人件費等を控除すると,利益率はおよそ30%と推定される。したがって,原告の損害額は,以下のとおりとなる。
200万円×30%×7件=420万円 この損害については,被告製品を被告トルクシステムに販売あるいは引き渡した被告ジエミツクスも,共同不法行為者として連帯して損害賠償の責任を負う。
オ 被告らとの競合による原告の逸失利益(民法709条) 被告らの本件特許権侵害行為により,遅くとも平成13年9月ころから,締付け・緩め工事の受注について,原告と被告らとが競合する状態が発生した。これにより原告は,自ら受注はできたものの値下げを余儀なくされるという損害を受けた。
締付け・緩め工事の受注について,発注者への確認で判明している件数は,本訴提起までの間に7件である。原告は,これら1件につき平均しておよそ50万円の値下げを強いられた。したがって,この点による原告の損害額は,以下のとおりとなる。
50万円×7件=350万円 カ 本件特許権侵害調査費用 原告は,平成10年5月ころ,当時出願中の本件特許権の被告らによる侵害行為を発見後,施工主や発注者,関係業者などに問い合わせ,あるいは,原告従業員が現場に赴き,全国にある被告らのイ号物件を使用した各販売・施工を可能な限り調査した。この調査に要した費用は,合計で500万円を下らない。
キ 弁護士及び弁理士費用 原告が本件特許権侵害に関して,被告らとの事前交渉及び本件訴訟に要した弁護士及び弁理士費用は,合計で300万円を下らない。
(被告らの反論) 原告の主張はいずれも争う。
当裁判所の判断
本件においては,事案の内容にかんがみ,争点(2)から判断する。
1 争点(2)(本件特許権には,発明の進歩性欠如の無効事由が存在するか。)について (1) 乙2の1文献の記載事項 乙2の1文献(実願平3-22545(実開平4-111186号)のマイクロフィルム)には,以下の記載がある。
ア 「【産業上の利用分野】本考案はボルト加熱用高周波加熱トーチに関する。」(【0001】) イ 「【従来の技術】大型構造物締付用ボルトの締付け又は緩め時におけるボルトの加熱には,従来可燃ガスによる加熱又は電気抵抗による加熱が用いられており,電気抵抗による加熱トーチとしては,図4縦断面図に示すように,ボルトの軸心に明けた穴に挿入される金属外筒21内に耐熱性絶縁物被覆の抵抗線22が収納されたものがある。しかしながら,従来用いられているガス加熱では,温度制御が困難でありしばしば過熱してボルトを損傷することがある。また図4に示す抵抗線による加熱トーチでは,抵抗線22によって金属外筒21を加熱し,その熱の輻射及び対流によってボルトを加熱するため効率が悪く,また細い金属外筒21内に大電力を通じることが不可能なため加熱時間が多く必要である。」(【0002】,【0003】) ウ 「【考案が解決しようとする課題】本考案は,このような事情に鑑みて提案されたもので,ボルトの軸心穴に大容量電力を投入できるとともに,高周波誘導加熱によりボルトを効率よく短時間で加熱することができるボルト加熱用高周波加熱トーチを提供することを目的とする。」(【0004】) エ 「【課題を解決するための手段】そのために本考案は,ボルトの軸心穴に挿入され高周波加熱する加熱トーチであって,ボルトの軸心穴に挿入される外径を有する管状導体と,上記管状導体の内部に同軸的に挿入され先端が同管状導体先端と接続された内部導体と,上記両導体の基端に付設された電源端子と,上記内部導体の周りに外嵌された高透磁率コアとを具えたことを特徴とする。」(【0005】) オ 「【作用】本考案ボルト加熱用高周波加熱トーチにおいては,ボルトの軸心穴の内面から管状導体により高周波誘導加熱を行うことにより,ボルト自体が直接発熱するため効率の良い加熱が行われる。」(【0006】) カ 「【実施例】(中略)管状導体1の外表面にはボルトの軸心穴の内面に接触しても接地しないように耐熱絶縁塗膜4が被覆されている。」(【0008】) キ 「管状導体1及び内部導体2の基端には電源端子5及び電源端子6がそれぞれ付設されて,高周波電源7に接続されており」(【0009】) ク 「電源端子5,6から・・・(中略)・・・高周波電力を供給すると,管状導体1に発生した磁束による誘導加熱により,スタッドボルト10が短時間で加熱されて膨張し」(【0010】) (2) 乙2の2文献の記載事項 乙2の2文献(米国特許公報特許番号2,810,053号)には,以下の記載がある。
ア 発明の名称として,「小径穴用高周波誘導子」(訳文1欄表題) イ 「この発明は高周波誘導加熱,より具体的には小径穴の表面を加熱するための誘導子の技術に属している。」(同1欄本文1行目ないし2行目) ウ 「本発明は,これらの難題に打ち勝ち,様々な加熱目的のための小径穴を首尾よく加熱する高周波誘導子を熟考する。
発明に従って,金属加工物の中に穴,開口,内径の表面を,一定の間隔で平行に伸びた一対の導体脚(以下レグと表現),加工物対面表面である遠くの表面,および上記表面の空間に略等しい直径でかつ略半円形横断面を持ち,その表面を間隔を持って回り込む様に配置された磁性材料,から成る加熱用高周波誘導子が提供されている。」(同1欄本文13行目ないし22行目) エ 「発明の主要な目的は,小さい直径穴,開口,または内径を容易かつ効率的に加熱する新しく,改善された高周波誘導子の供給である。」(同1欄本文31行目ないし33行目) オ 「発明の別の目的は,加熱作用を補助する,レグの間に置かれた磁性材料,1対の平行して伸びているレグから成っている新しく,改善された高周波誘導子の供給である。」(同1欄本文34行目ないし37行目) カ 「誘導子Bは,1対の間隔をもって平行に伸ばしたレグ14を含むヘアピン形状導電体から成っている。(レグ14は)下端でベース15により電気的に接続されて居る。示されるように,導電体14と15は,高周波誘導加熱技術において従来的である水又は同類の流体などの冷却メディアを通す中空の内部16を持っている。」(同2欄9行目ないし15行目) キ 「Eで示された磁性材料はレグ14の間に配置され,開口穴10を概略満たし,加工物対面表面18を除いたレグ14の表面19を部分的に取り囲む様な略半円形横断面を持っている。」(同2欄28行目ないし31行目) ク 「動作中は,誘導子Bは,図1に例示するように穴10内に置かれる。・・・(中略)・・・高周波電流は,電源Dから回転可能な接点Cを通じて,誘導子に供給される。これらの高周波電流は,穴10の表面11に流れる,高周波電流を誘導する磁界を生成する。これらの高周波電流は穴10の表面11を急速に加熱する原因になる。」(同3欄4行目ないし10行目) ケ 「現在の誘導子は,少しの知られている高周波誘導コイルによっても違った形で加熱出来なかった相対的に長い直径の開口に小径穴を加熱する時に極めて申し分ないと判明した。」(同3欄16行目ないし19行目) また,図面1(Fig.1),図面2(Fig.2)には,被加熱体である加工物Aの穴10内にヘアピン形状の伝導体からなる高周波誘導子B(14,15)が置かれた構成,ヘアピン形状の高周波誘導子Bの往復線路である1対のレグ14,14間に,磁性材料Eが備えられた構成,ヘアピン形状の高周波誘導子Bの内部に冷却媒体を通すための中空部16が設けられた構成が,それぞれ図示されている。
(3) 乙2の2文献に記載された引用発明2の構成 ア 乙2の2文献の「加熱用高周波誘導子」は,前記(2)ク記載のとおり,高周波電流が供給されると,穴10の表面11に流れる高周波電流を誘導する磁界を生成させ,加熱するから,「誘導加熱コイル」ということができる。
また,乙2の2文献の「加熱用高周波誘導子」は,小径孔の表面を加熱するため(前記(2)アないしウ),前記(2)カ及び図面1記載のとおり,ヘアピン形状となっている。
よって,乙2の2文献の「加熱用高周波誘導子」は,「金属製加工物に穿孔された孔内に挿入されるヘアピン状の誘導加熱コイル」に相当する。
イ 乙2の2文献の磁性材料は,前記(2)キ及び図面1,2記載のとおり,レグ14の間に配置されているから,これら磁性材料は,「コイルの往復路線間に設けられた磁性体」に相当する。
ウ 乙2の2文献の「導体14,15」は,前記(2)カ及び図面1,2からすれば,水を通す中空の内部16を備えている。そうすると,乙2の2文献の「加熱用高周波誘導子」は,「コイルの内部に水を流すようにした誘導加熱コイル」に相当する。
エ 乙2の2文献の「加熱用高周波誘導子」は,前記アのとおり,高周波電流が供給されると,穴10の表面11に流れる高周波電流を誘導する磁界を生成させ,加熱するから,「高周波加熱装置」に相当する。
オ したがって,乙2の2文献に記載された引用発明2は,以下の構成を有する発明ということができる。
「金属製加工物に穿孔された孔内に挿入されるヘアピン状の誘導加熱コイルと,同コイルの往復路線間に設けられた磁性体とを備え,かつ同コイルの内部に水を流すようにした高周波加熱装置」 (4) 本件発明2ないし4と引用発明2との対比 ア 本件発明2と上記認定の引用発明2とを対比すると,以下の点において相違する。
[相違点1]本件発明2は,「高周波ボルトヒータ」であり,誘導加熱コイルが,「金属製ボルトの軸心方向に穿孔された孔内に挿入される」とされているのに対し,引用発明2は,「高周波ボルトヒータ」に限定されておらず,誘導加熱コイルが「孔内に挿入される」点は同じであるが,「金属製ボルトの軸心方向に穿孔された孔内」に限定されていない点 [相違点2]本件発明2では,加熱中,誘導加熱コイルとボルトが電気的に接触することを防止するために,コイル表面に「耐熱性絶縁物」を備える構成が記載されているが,引用発明2では,「誘導加熱コイル表面に耐熱性絶縁物を施し」ていない点 イ 本件発明3と引用発明2との対比 本件発明3と上記認定の引用発明2とを対比すると,前記相違点1及び2のほか,以下の点において相違する。
[相違点3]本件発明3が,「前記誘導加熱コイルと高周波トランス間の接続に柔軟性を持たせた部材であるフレキシブルケーブルを用いる」のに対し,引用発明2が,高周波トランスの存在を明記しておらず,誘導加熱コイルと当該高周波トランス間の接続に,柔軟性を持たせた部材であるフレキシブルケーブルを用いていない点 ウ 本件発明4と引用発明2との対比 本件発明4と上記認定の引用発明2とを対比すると,前記相違点1ないし3のほか,以下の点において相違する。
[相違点4]本件発明4が,「前記金属製ボルトのナット装着ネジ部に相当する部位を,前記磁性体を省略した磁性体省略部である非加熱部とした」のに対し,引用発明2は,「金属製ボルトのナット装着ネジ部に相当する部位を,磁性体を省略した磁性体省略部である非加熱部とし」ていない点 エ なお,原告は,上記以外の相違点として,引用発明2では誘導子を回転させない状態での使用は開示されていないのに対し,本件発明2ないし4はボルトヒータの回転を構成要件としないのであるから,この点で相違がある旨を主張する。
しかし,当業者にとって,乙2の2文献から,高周波誘導加熱コイルに相当する誘導子を,回転させることなく金属加工物の小径穴内表面を加熱するという技術思想を認識できることは明らかであるから,引用発明2と本件発明2ないし4との相違点として,回転の有無を認定する必要性は認められない。また,仮に,この点を相違点として把握したとしても,誘導子を回転させるか否かは,孔の内面の全周に対してより均一な加熱を行うべき必要性の有無に応じて,当業者が適宜選択する設計的事項というべきであって,当該加熱コイルを回転させないことにより本件発明2ないし4の進歩性が裏付けられるものでもない。したがって,いずれにしても原告の上記主張を採用する余地はない。
また,原告は,乙2の2文献に記載された高周波誘導加熱コイルは,金属加工物の小径穴内表面の熱処理のための加熱を目的とするものであり,本件発明2ないし4のように,小径の長い孔を持つボルトの熱膨張のための加熱を企図したものでないから,解決しようとする課題・目的が本件発明2ないし4と異なると主張し,このことを前提として,前記相違点1ないし4以外の相違点を指摘する。
しかし,本件発明2ないし4の技術課題とされる金属製ボルトの軸心方向に穿孔された孔内の加熱が,引用発明2の技術課題とされる金属加工物の小径穴内表面の加熱に含まれるものであることは,当業者にとって明らかというほかなく,これが異なるとする原告の主張は,合理的根拠を欠く独自の見解といわなければならない。また,仮に,本件発明2ないし4の具体的な課題や目的が引用発明2に明示されていないとしても,そのことによって引用発明2に基づく容易想到性が否定されるものでもない。したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告の上記主張も採用することができない。
(5) 各相違点についての判断 ア 相違点1について (ア) 相違点1は,乙2の2文献に記載された引用発明2が,高周波ボルトヒータに限定されていない点及び誘導加熱コイルが挿入される孔内について金属製ボルトの軸心方向に穿孔された孔内に限定されていない点であるが,これらの点は,いずれも,乙2の1文献に記載された引用考案1において開示されていると認められる。
すなわち,乙2の1文献には,前記(1)アのとおり,ボルトを加熱する手段として,高周波加熱を用いることが記載され,また,前記(1)エのとおり,高周波加熱のための加熱トーチがボルトの軸心穴に挿入されることが記載されており,ボルトの軸心穴に挿入した導体に電流を流すことにより当該ボルトに対し高周波加熱を行うという技術思想が開示されていると認められる。
(イ) そして,引用考案1の技術分野と引用発明2の技術分野とは,金属加工物に対し高周波加熱を行うという同じ技術分野に属するものであるといえるし,引用発明2には,金属製加工物に穿孔された孔内に挿入される,ヘアピン形状の誘導加熱コイルが開示されているのであるから,当業者にとって,引用発明2に対し,引用考案1に開示されたボルトの軸心穴に挿入した導体に電流を流すことにより当該ボルトに対し高周波加熱を行うという技術思想を適用することに,困難はないというべきである。
(ウ) したがって,相違点1の構成は,引用発明2に,引用考案1を適用することにより,当業者が容易に想到し得るものであるということができる。
(エ) 原告は,引用考案1の「加熱トーチ」では,ボルトに二次電流を誘導できないことから,引用発明2に引用考案1を適用して本件発明2に想到することは困難である旨主張する。
たしかに,前記(1)エ及びキに記載された,管状導体とその内部に同軸的に挿入され先端が同管状導体と接続された内部導体の両基端に,高周波電源を接続して電流を流した場合,実際には,前記(1)クに記載されているような管状導体からの磁束の発生は起こらないものと解される。これは,乙2の1文献の「加熱トーチ」が,管状導体1と同軸上の内部導体2と該内部導体2の周りに外嵌されたコア9から構成されたものであって,両導体に高周波電流が印加されても,この電流による磁束はコア9のみに生じ,ボルト側に磁束を生起させることができないためであると考えられる。
しかしながら,乙2の1文献には,ボルトの軸心穴に挿入した導体に電流を流すことにより高周波加熱を行うという技術思想は明確に開示されており,引用考案1及び引用発明2は,いずれも,金属部材の孔の内面の加熱を高周波誘導加熱で行うという技術分野に属する技術として共通しているということができる。
そして,高周波加熱そのものは,乙2の3の文献(雑誌「Metal Treating 1968年8-9月号」中の論文「Coil Design for High Frequency Induction Heating」1968年発行),乙2の4の文献(「工業加熱」昭和63年11月発行,以下「乙2の4文献」という。),乙2の6の文献(「工業電気加熱ハンドブック」昭和43年10月発行,以下「乙2の6文献」という。),乙2の9の文献(「特公昭63-49879号公報」,以下「乙2の9文献」という。)に示されているように周知の技術である。
そうすると,乙2の1文献において,実際には高周波加熱を実施することが困難な構成しか開示されていないとしても,当業者であれば,引用発明2に,引用考案1に開示されたボルトの軸心穴に挿入した導体に電流を流すことにより当該ボルトに対して高周波加熱を行うという技術思想を適用することに困難性はないというべきであり,原告の前記主張は,採用することができない。
(オ) また,原告は,引用発明2と引用考案1とは,課題が全く異なる技術思想であり,その機能・作用も全く異なるものであるから,これらを組み合わせて本件発明2ないし4を想起することが当業者に容易とはいえないと主張する。
しかし,引用発明2と引用考案1とが,金属加工物に対し高周波加熱を行うという同一の技術分野に属することは,前記(イ)のとおりであるし,引用発明2に開示された金属製加工物に穿孔された孔内に挿入されるヘアピン形状の誘導加熱コイルに,引用考案1に開示されたボルトの軸心穴に挿入した導体に電流を流すことにより高周波加熱を行うという技術思想を適用することに,何ら困難性がないことも,同様であるから,原告の上記主張は,採用することができない。
(カ) したがって,相違点1の構成は,引用発明2に,引用考案1を適用することにより,当業者が容易に想到するものであるということができる。
イ 相違点2について (ア) 乙2の1文献には,前記(1)カの記載からすれば,管状導体がボルトの軸心穴の内面に接触しても接地しないよう,同導体に耐熱絶縁塗膜を被覆すること,すなわち,高周波ボルトヒータにおいて,ボルトの軸心穴の内面との接地を防止することを目的として,孔内に挿入される部材である管状導体の外周面に,耐熱性絶縁物を施すことが開示されており,当該管状導体が高周波加熱コイルに相当することは明らかであるといえる。
(イ) そうすると,前記ア(イ)のとおり,引用発明2に引用考案1を適用することに困難性はないというべきであるから,乙2の2文献に記載されたヘアピンコイル状高周波ヒータに,引用考案1を適用し,その導電体表面に耐熱性絶縁物を施すことは,当業者が容易になし得るというべきである。
(ウ) 原告は,ボルト(孔)に対する誘導電流による発熱作用が全くなく,また,通電時に導体自体の発熱も冷却される引用考案1の「加熱トーチ」に用いられる耐熱絶縁塗膜は,本件発明2ないし4における耐熱性絶縁物を示唆するとはいえないとして,引用発明2に,引用考案1を適用することにより,本件発明2ないし4の構成を想起することは,当業者に容易とはいえないと主張する。
しかし,原告が主張するように,引用考案1の「加熱トーチ」において,開示された実施例にボルトに対する誘導電流による発熱作用が全くなく,また,通電時に導体自体の発熱も冷却されるため,実際には絶縁塗膜に耐熱性が不要であるとしても,乙2の1文献には,管状導体がボルトの軸心穴の内面に接触しても接地しないよう,同導体に耐熱絶縁塗膜を被覆するという技術思想は明確に開示されている。また,熱の発生する部位と発生した熱の温度に応じて耐熱絶縁塗材料を選択しなければならないのは自明のことであるから,通常の耐熱絶縁素材の中から,当該ボルト孔内面の昇温に耐え得る耐熱絶縁素材を選択することは,当業者が適宜なし得ることにすぎない。そして,引用発明2に引用考案1を適用することに困難性のないことは,前記のとおりであるから,当業者であれば,乙2の2文献に記載されたヘアピンコイル状高周波ヒータに,引用考案1を適用し,その導電体表面に耐熱性絶縁物を施すことは,容易になし得るというべきである。したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
ウ 相違点3について (ア) 高周波電流を流すための回路において,高周波トランスを用いることは,乙2の4文献,乙2の6文献に記載されているように,周知の技術であり,また,電気機器の接続にフレキシブルケーブルを用いることも,乙4の5の文献(特公平3-32191公報,以下「乙4の5文献」という。)に記載されているように,周知の技術であるといえる。
そうすると,引用発明2に引用考案1を適用した上,高周波電流の電源として高周波トランスを用い,「前記誘導加熱コイルと高周波トランス間の接続に柔軟性を持たせた部材であるフレキシブルケーブルを用いる」構成を採用することは,当業者であれば容易に想到するというべきである。
(イ) 原告は,コイルとトランスの二次側の接続には「リード部」が必要であるところ,高周波誘導加熱コイルの技術分野においては,「リード部には幅広銅帯を用いること」が技術常識であるから,一般電気機器分野の技術常識である柔軟性のあるケーブルを使用することは,高周波誘導加熱の分野の技術常識とはいえないと主張する。
しかし,乙4の5文献において,従来技術として,高周波誘導加熱のリード部において,フレキシブルケーブルをコイルと高周波トランスの接続に用いることが記載されているように,リード部において,フレキシブルケーブルをコイルと高周波トランス(整合トランス)の接続に用いることは,高周波誘導加熱分野の技術常識に属すると認められる。
しかも,本件明細書の発明の詳細な説明には,リード部に幅広銅等を用いるような特殊なフレキシブルケーブルを用いることは何ら記載されておらず,通常のフレキシブルケーブルを用いる構成しか示されていないのであるから,本件発明3が,上記のような特殊なフレキシブルケーブルを使用することを前提として,高周波誘導加熱分野の技術常識の範疇に属さないということもできない。したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
(ウ) また,原告は,「高周波ボルトヒータ」では,大電流を流すので,一般電気機器用の柔軟性ケーブルの技術常識はそのまま適用できないと主張する。
しかし,電気機器の接続において,使用される電力に応じてケーブルを選択しなければならないのは自明のことであるから,通常のフレキシブルケーブルの中から,当該機器の電力に耐え得るケーブルを選択することは,当業者が適宜なし得ることにすぎず,従来の技術常識に属するというべきである。したがって,この点に関する原告の主張も,採用する余地がない。
エ 相違点4について (ア) 乙2の4文献の「磁性材料の利用」の項には,「磁性材料は,その他の部分より磁束が通りやすいので,磁性材料をコイルの適当な位置に部分的に取付け使用して,被加熱材を貫通する磁束分布を調節できる」(65頁右欄最下行ないし66頁左欄2行目)との記載があり,磁性体を取り付けることにより加熱させる部分を調節できることが示されているが,このことは同時に,当業者にとって,加熱をあまり望まないような部位には磁性体を取り付けないようにして,磁束分布,加熱分布を調節することも開示されているということができる。
また,乙2の9文献には,「それぞれの巻回導体部cにコアkoを付加することによって小径筒体Wの内壁には巻回導体部cの対向面にほぼ対応する焼入れ層hを形成し,かつ焼入れ層それぞれの間には非焼入れ部Nを残そうと図る」(4欄20行目ないし25行目)との記載があり,誘導加熱コイルにコアを設けることで磁束を集中して,コアを設けた部分に対応する被加熱体部分の加熱を良好にし,コアを設けない部分に対応する被加熱体部分を非加熱状態にすることが開示されている。
さらに,乙4の6の文献(実公昭30-8856公報)には,「(歯車の)歯の谷部1内にその谷部と相似形の誘導加熱線輪2を谷部1の面と小間隔を距てゝ対向せしめると共に該誘導加熱線輪の内側に於いて該線輪の谷部1の底面3に対する部分及該線輪の谷部両側面4,4の隅角部5,5より下方に対する部分に数個に分割された鉄心6,7,8,9,10等を配置し而も之等鉄心の厚さを図のように適当に互いに相違せしめこの誘導加熱線輪を以て谷部波面を加熱急冷するものである。本考案装置に於いては誘導加熱線輪2の磁束は鉄心6,7,8,9,10内にその厚さに比例して集中するものであって即ち隅角部5,5を通る磁束の一部は鉄心6,7,10,9により隅角部5,5と内角部11,11との間に吸引され該鉄心6,7,10,9等の厚さの相違により隅角部5,5と内角部11,11との間の熱容量にほぼ比例して分布され又他の鉄心8の作用により11,11間の底面3を通る磁束の密度を大となし得るものである。従てこの結果・・・(中略)・・・谷部1の全面の加熱深度が均一となると共に13,13部分の加熱を殆ど除去することができる」(1頁左欄下から5行目ないし同頁右欄17行目)との記載があり,高周波加熱で焼入れする必要のない部分に焼入れが施されないように,誘導加熱線輪(誘導加熱コイル)の内側に設ける強磁性体の位置及び厚さを調整して,磁束の分布を加減する高周波表面加熱装置が記載されている。また,焼入れを必要としない部分に対応する位置には磁性体がないことも示されている。
以上からすれば,誘導加熱コイルにおいて加熱しようとする部分に磁性体を設け,加熱が必要でない,あるいは,加熱を望まない部分には磁性体を設けないようにすることは,従来から周知の技術であるといえる。
なお,上記説示に照らして,乙2の2等の文献に,被加熱物の加熱したくない部分に対応する磁性体を,その非加熱部の長さに合わせてあえて省略するという技術思想は示されていないという原告の主張が,採用できないことは明らかである。
(イ) そこで,次に,相違点1ないし3に係る構成を有する引用発明2に対し,前記(ア)の周知技術を適用して,金属ボルトのナット装着ネジ部に相当する部位を磁性体を省略した磁性体省略部である非加熱部とし,本件発明4に至ることが,当業者にとって容易になし得るものかどうかについて検討する。
「ボルトヒータ」とは,大径ボルトを緩めたり,締め付けたりする場合に,ボルトにあらかじめ穿孔した小孔内にヒータを挿入し,当該ボルトを加熱してボルトを焼き伸ばすことにより,ナットと被締付体との間に間隙を生じさせて緩めを容易にする,あるいは,締め付け後に冷却して所定の締付け力を得るものである。そして,効率的に当該ボルトを加熱して緩め又は締付け作業を行うためには,ナット装着ネジ部は,何ら伸長させる必要がないことが明らかであり,しかも,ボルトやナットは,そのピッチの変化によって,緩め,締付けとも困難となったり,更にはどちらも不能となるといった事態が生じるから,できる限り膨張,収縮,その他の変形が生じないようにすべきことは,当業者にとって当然の技術常識といえる。
このように,ボルト部分の必要部位のみを積極的に加熱するべきであること,ナット装着ネジ部やナットを不必要に加熱しないことは,当業者にとって技術常識である以上,ボルトのナット装着ネジ部に相当する部位を非加熱部とすること,そのために前記(ア)の周知技術を適用して同 部位を磁性体省略部とすることは,当業者であれば容易に想到し得たことである。
そうすると,引用発明2である高周波加熱装置を,引用考案1のようにボルト加熱に用いる際に,伸長を必要とする部分のみを加熱させて,ボルトのナットの装着ネジ部に相当する部位を非加熱部とするために,誘導加熱コイルにおける加熱したい部分に磁性体を設け,加熱したくない部分には磁性体を設けないようにするという前記周知技術を適用して,本件発明4のように,ボルトのナット装着ネジ部に相当する部位を磁性体を省略した磁性体省略部である非加熱部とすることは,当業者が容易に想到し得たというべきである。
(6) 以上検討したところによれば,本件特許2ないし4は,いずれも特許法29条2項に該当する事由があり,同法123条1項2号の規定に基づき特許無効審判により無効にされるべきものと認められるから,原告は,被告らに対し,本件特許2ないし4に基づき,その権利を行使することができない。
2 結論 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないから,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 清水節
裁判官 山田真紀
裁判官 片山信