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審判番号(事件番号) データベース 権利
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関連ワード 周知技術 /  技術的範囲 /  特許発明 /  実施 /  構成要件 /  設定登録 /  目的の範囲 /  訂正審判 /  誤記の訂正 /  請求の範囲 /  減縮 /  拡張 /  変更 /  訂正明細書 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10070号 審決取消請求事件
原告エイディシーテクノロジー株式会社
訴訟代理人弁護士三木浩太郎,弁理士毛利大介
被告特許庁長官中嶋誠
指定代理人江畠博,山田洋一,小池正彦,田中敬規
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/01/25
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が訂正2005−39065号事件について平成18年1月6日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1原告の求めた裁判主文と同旨の判決。
第2事案の概要本件は,特許権者である原告が,訂正審判の請求をしたところ,請求は成り立たないとの審決がされたため,同審決の取消しを求めた事案である。
1特許庁等における手続の経緯(1)原告は,発明の名称を「番組サーチ装置および番組サーチ方法」とする特許(特許番号第3130501号。請求項の数8。以下「本件特許」という。)の特許権者である。
本件特許は,昭和63年6月6日に出願した特願昭63-138679号の一部を平成10年3月10日に新たな特許出願(特願平10-58567号)とし,平成12年11月17日に設定登録を受けたものである(甲1)。
(2)本件特許について特許異議の申立てがされ(異議2001-72106号事件として係属),原告は,平成14年9月26日,上記手続において,明細書の訂正(特許請求の範囲の請求項1,2,5及び6を削除し,その余の請求項の項数を繰り上げるとともに,その記載を訂正することを内容とする。)を請求したところ,特許庁は,平成16年12月17日,「訂正を認める。特許第3130501号の請求項1〜4に係る特許を取り消す。」との決定をした(甲2)。
(3)原告は,平成17年4月20日,上記決定に対する取消訴訟(平成17年(行ケ)第10375事件)の係属中に,明細書の特許請求の範囲について,請求項1,2,5ないし8を削除し,その余の請求項の項数を繰り上げるとともに,後記2(2)記載のとおり訂正する旨の訂正審判の請求をした(訂正2005-39065号事件として係属)ところ,特許庁は,平成18年1月6日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同月18日,その謄本を原告に送達した。
2特許請求の範囲の記載(1)特許査定時のもの(甲1)【請求項1】少なくとも複数週間分のテレビ放送の内容と日付とチャンネルと放映開始時刻とを含む情報が電子化されて予め記憶された記憶手段と,毎週キーを備え,所望の番組を指定するための指定手段と,該指定手段により指定された番組をサーチするものであって,該サーチの後,上記毎週キーが操作されると,上記記憶手段内に記憶された翌週以降の番組の中から,既にサーチされた上記番組と同一のものをサーチするサーチ手段とを備えたことを特徴とする番組サーチ装置。
【請求項2】請求項1に記載の番組サーチ装置において,受信されたテレビの放送内容から,特定の放送内容を抽出するチューナと,上記サーチ手段によってサーチされた番組の放映開始時刻になると,その放送内容を上記チューナに抽出させる放送内容出力手段とを備えたことを特徴とする番組サーチ装置。
【請求項3】少なくともテレビ放送の内容とチャンネルと放映開始時刻とを含む情報が電子化されて予め記憶された記憶手段と,所望の番組内容を指定するための指定手段と,上記記憶手段に記憶されているテレビ放送の内容のなかから,上記指定手段により指定された内容と同一の番組を,異なる時間帯の番組よりサーチするサーチ手段と,受信されたテレビの放送内容から,特定の放送内容を抽出するチューナと,上記サーチ手段によってサーチされた番組の放映開始時刻になると,その放送内容を上記チューナに抽出させる放送内容出力手段とを備えたことを特徴とする番組サーチ装置。
【請求項4】請求項2または3に記載の番組サーチ装置において,上記チューナが抽出した放送内容を録画するためのビデオ録画装置を備えており,上記記憶手段が,少なくともテレビ放送の内容とチャンネルと放映開始時刻と放映終了時刻とを含む情報が電子化されて予め記憶されたもの,であり,上記放送内容出力手段が,上記サーチ手段によってサーチされた番組に関して上記記憶手段に電子化されて記憶された情報に基づき,その番組の放映開始時刻になると,その放送内容を上記チューナに抽出させ,その番組の放映終了時刻まで上記ビデオ録画装置に録画させるものであることを特徴とする番組サーチ装置。
【請求項5】少なくとも複数週間分のテレビ放送の内容と日付とチャンネルと放映開始時刻とを含む情報を電子化したものを予め記憶しておき,所望の番組の指定を受けると,該番組をサーチし,該サーチの後,毎週キーが操作されると,上記記憶された翌週以降の番組の中から,既にサーチされた上記番組と同一のものをサーチすることを特徴とする番組サーチ方法。
【請求項6】請求項5に記載の番組サーチ方法において,上記サーチされた番組の放映開始時刻になると,その放送内容をチューナに抽出させることを特徴とする番組サーチ方法。
【請求項7】少なくともテレビ放送の内容とチャンネルと放映開始時刻とを含む情報を電子化したものを予め記憶しておき,所望の番組内容が指定されると,上記記憶されているテレビ放送の内容のなかから,上記指定された内容と同一の番組を,異なる時間帯の番組よりサーチし,該サーチされた番組の放映開始時刻になると,その放送内容をチューナに抽出させることを特徴とする番組サーチ方法。
【請求項8】請求項6または7に記載の番組サーチ方法において,少なくともテレビ放送の内容とチャンネルと放映開始時刻と放映終了時刻とを含む情報を電子化したものを予め記憶しておき,該記憶された情報に基づき,その番組の放映開始時刻になると,その放送内容を上記チューナに抽出させ,その番組の放映終了時刻までビデオ録画装置に録画させることを特徴とする番組サーチ方法。
(2)訂正審判請求書添付の訂正明細書のもの(甲4添付の全文訂正明細書)上記1(2)のとおり,上記(1)の特許査定時の特許請求の範囲の請求項1,2,5及び6を削除し,その余の請求項の項数を繰り上げる(請求項1は上記(1)の請求項3であり,請求項2は上記(1)の請求項4である。)とともに,その記載を訂正することを内容とする(下線部分はその訂正箇所であり,主として訂正事項bがこれに該当する。)。
【請求項1】少なくともテレビ放送の内容とチャンネルと放映開始時刻とを含む情報が電子化されて予め記憶された記憶手段と,上記記憶手段に記憶されている情報に基づき,番組がチャンネルと時間とに対応した位置に配置された番組表であって,その日の番組表の一部を出力する番組表出力手段と,上記番組表出力手段によって出力された番組表上を上記チャンネルの方向及び上記時間の方向それぞれ独立にカーソルを移動させて所望の番組内容を指定するための指定手段と,上記番組表出力手段が出力する番組表を,上記カーソルの移動に伴い移動後の上記カーソル位置に応じた上記番組表に更新させると共に,上記カーソルの移動に伴い上記カーソルの位置情報をRAMに記憶させてその情報を更新させる更新手段と,毎週キーが操作された場合には,上記RAMに記憶された上記カーソルの位置情報に基づき,上記記憶手段に記憶されている翌週以降のテレビ放送の内容のなかから,上記指定手段により指定された内容と同一の番組を,異なる時間帯の番組よりサーチするサーチ手段と,受信されたテレビの放送内容から,特定の放送内容を抽出するチューナと,上記サーチ手段によってサーチされた番組の放映開始時刻になると,その放送内容を上記チューナに抽出させる放送内容出力手段とを備えたことを特徴とする番組サーチ装置。
【請求項2】請求項1に記載の番組サーチ装置において,上記チューナが抽出した放送内容を録画するためのビデオ録画装置を備えており,上記記憶手段が,少なくともテレビ放送の内容とチャンネルと放映開始時刻と放映終了時刻とを含む情報が電子化されて予め記憶されたもの,であり,上記放送内容出力手段が,上記サーチ手段によってサーチされた番組に関して上記記憶手段に電子化されて記憶された情報に基づき,その番組の放映開始時刻になると,その放送内容を上記チューナに抽出させ,その番組の放映終了時刻まで上記ビデオ録画装置に録画させるものであることを特徴とする番組サーチ装置。
3審決の理由の概要審決の理由は,以下のとおりであるが,要するに,本件訂正は,実質上特許請求の範囲変更するものであるから,平成6年法律第116号による改正前の特許法126条2項の規定に適合しない,というものである。
( ) 訂正拒絶の理由1平成17年8月17日付で通知した訂正拒絶理由の概要は,次のとおりである。
ア 訂正事項aについて訂正事項aは,特許請求の範囲の請求項1,請求項2,請求項5〜8を削除するものであるから,特許請求の範囲減縮を目的とするものに該当する。
イ 訂正事項bについて訂正事項bは,特許査定時の明細書の特許請求の範囲の請求項3について,上記訂正事項aの訂正に伴い,項番を繰り上げて請求項1とするものであり,この点は,上記訂正事項aによって生じた項番の誤記の訂正を目的とするものに該当する。
また,訂正事項bは,特許査定時の請求項3には何ら記載のなかった「番組表出力手段」及び「更新手段」を新たに付加し,さらにその付加した事項に基づいて,「指定手段」及び「サーチ手段」の内容を新たに具体的に限定したものであるから,形式的(文言的)には(文言の追加という意味で)特許請求の範囲減縮を目的とするものといえるとしても,特許査定時の請求項3に記載された事項によって構成される発明の具体的な目的の範囲を逸脱してその技術的事項を変更するものであり,実質上特許請求の範囲変更するものであることは明白である。
ウ 訂正事項cについて訂正事項cは,特許査定時の特許請求の範囲の請求項4について,上記訂正事項aの訂正に伴い,項番を繰り上げて請求項2とするものであるから,上記訂正事項aの訂正に伴って生じた項番の誤記の訂正を目的とするものに該当する。
また,訂正事項cは,請求項2(特許査定時の請求項4)が請求項1を引用するものであるから,上記イにおいて検討したように,請求項1(特許査定時の請求項3)についての訂正が実質上特許請求の範囲変更するものである以上,請求項2(特許査定時の請求項4)についての訂正も実質上特許請求の範囲変更するものであることは明白である。
エ したがって,上記訂正は,特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号。以下「平成6年改正法」という。)附則6条1項の規定によりなお従前の例によるとされる平成6年改正法による改正前の特許法126条2項の規定に適合しないので,当該訂正は認められない。
( ) 特許請求の範囲拡張変更についての審決の判断2ア 訂正事項bにおける,特許査定時の請求項3に係る発明に対し,「番組表出力手段」及び「更新手段」を新たに付加すると共に,「指定手段」及び「サーチ手段」にさらに限定を付して新たに請求項1とした点について,以下に検討する。
(ア) 「番組表出力手段」については,当該手段自体つまり番組表を出力すること自体が特許査定時の請求項3には何ら記載が無く,新たに構成要件を付加するものである。しかも,当該手段により表示される番組表の番組がチャンネルと時間とに対応した位置に配置されたものであること,その日の番組表の一部を出力するものであること等,特許査定時の請求項3には何ら示されていなかったものであるから,このような働きをする「番組表出力手段」の新たな付加は,それ自体,特許請求の範囲の技術事項を変更するものというべきである。
一方,明細書の段落【0004】には,特許査定時の請求項3に係る発明は「所望の番組の放送チャンネルおよび放映開始時刻を確実に知ることができ,且つサーチした番組を自動的に受信すること」をその目的とすることが示されているものの,この目的から,特許査定時の請求項3に係る発明が上記「番組表出力手段」を備えるものであるとは到底いえない。
すなわち,特許査定時の請求項3には,番組がどのように表示されるものであるかについては全く示されていなかったにも拘わらず,訂正によりそのことを具体的に示したものであるから,形式的(文言的)には(文言の追加という意味で)特許請求の範囲減縮を目的とするものといえるとしても,特許査定時の請求項3に係る「番組サーチ装置」の具体的な目的の範囲を逸脱してその技術事項を変更するものであり,実質上特許請求の範囲変更するものであることは明白である。
(イ) 「指定手段」については,特許査定時の請求項3には,単に,「所望の番組内容を指定するための」手段としてしか記載されていなかったものであり,これを新たに追加した上記「番組表出力手段」と関連付け,番組表上をチャンネルの方向及び時間の方向それぞれ独立にカーソルを移動させて番組内容を指定することについては,特許査定時の請求項3には何ら示されていなかったものであるから,このような指定の仕方を新たに限定すること自体,特許請求の範囲の技術事項を変更するものというべきである。
一方,明細書の段落【0004】には,特許査定時の請求項3に係る発明は「所望の番組の放送チャンネルおよび放映開始時刻を確実に知ることができ,且つサーチした番組を自動的に受信すること」をその目的とすることが示されているものの,この目的から,特許査定時の請求項3に係る発明における「指定手段」が,新たに付加した上記「番組表出力手段」と関連付けられてカーソル移動により番組内容を指定することまで導出されるものとは到底いえない。
すなわち,特許査定時の請求項3には,番組内容がどのように指定されるものであるかについては全く示されていなかったにも拘わらず,訂正によりそのことを新たに追加した上記「番組表出力手段」と関連付けた上で,具体的にカーソル移動により行うことを明示したものであるから,形式的(文言的)には(文言の追加という意味で)特許請求の範囲減縮を目的とするものといえるとしても,特許査定時の請求項3に係る「番組サーチ装置」の具体的な目的の範囲を逸脱してその技術事項を変更するものであり,「指定手段」の内容について実質上特許請求の範囲変更するものであることは明白である。
(ウ) 「更新手段」については,当該手段自体が特許査定時の請求項3には何ら記載が無く,新たに構成要件を追加するものである。しかも,当該手段により新たに追加した上記「番組表出力手段」が出力する番組表を,「指定手段」において新たに限定したカーソルの移動位置に応じた番組表に更新し,カーソルの位置情報をRAMに記憶させることなどは,特許査定時の請求項3には何ら示されていなかったことは明らかであるから,このような作用をする「更新手段」を新たに付加すること自体,特許請求の範囲の技術事項を変更するものというべきである。
一方,明細書の段落【0004】には,特許査定時の請求項3に係る発明は「所望の番組の放送チャンネルおよび放映開始時刻を確実に知ることができ,且つサーチした番組を自動的に受信すること」をその目的とすることが示されているものの,この目的から,特許査定時の請求項3に係る発明が上記「更新手段」を備えるものであるとは到底いえない。
すなわち,特許査定時の請求項3には,番組表の更新,さらにはカーソルの位置情報の更新については全く示されていなかったにも拘わらず,訂正によりそれらを具体的に示したものであるから,形式的(文言的)には(文言の追加という意味で)特許請求の範囲減縮を目的とするものといえるとしても,特許査定時の請求項3に係る「番組サーチ装置」の具体的な目的の範囲を逸脱してその技術事項を変更するものであり,実質上特許請求の範囲変更するものであることは明白である。
(エ) 「サーチ手段」については,特許査定時の請求項3には,単に,「上記記憶手段に記憶されているテレビ放送の内容のなかから,上記指定手段により指定された内容と同一の番組を,異なる時間帯の番組よりサーチする」手段としてしか記載されていなかったものであり,これを新たに追加した上記「更新手段」中の「カーソル」及び「RAM」と関連付けると共に,さらに「毎週キー」の操作により「翌週以降」の放送の内容の中からサーチすることについては,特許査定時の請求項3には何ら示されていなかったものであるから,このような限定自体,特許請求の範囲の技術事項を変更するものというべきである。
一方,明細書の段落【0004】には,特許査定時の請求項3に係る発明は「所望の番組の放送チャンネルおよび放映開始時刻を確実に知ることができ,且つサーチした番組を自動的に受信すること」をその目的とすることが示されているものの,この目的から,特許査定時の請求項3に係る発明における「サーチ手段」が,新たに付加した上記「更新手段」と関連付けられて「毎週キー」の操作により同一番組をサーチすることまで導出されるものとは到底いえない。
すなわち,特許査定時の請求項3には,何に基づいてどのような操作で番組をサーチするかについては全く示されていなかったにも拘わらず,訂正によりそのことを新たに追加した上記「更新手段」中の「RAM」に記憶された「カーソル」の移動位置情報に基づいて,新たに追加された「毎週キー」の操作により行うことを明示したものであるから,形式的(文言的)には(文言の追加という意味で)特許請求の範囲減縮を目的とするものといえるとしても,特許査定時の請求項3に係る「番組サーチ装置」の具体的な目的の範囲を逸脱してその技術事項を変更するものであり,「サーチ手段」の内容について実質上特許請求の範囲変更するものであることは明白である。
結局,訂正事項bにおける,特許査定時の請求項3に係る発明に対し,「番組表出力手段」及び「更新手段」を新たに付加すると共に,「指定手段」及び「サーチ手段」にさらに大幅な限定を付して新たに請求項1とした点は,特許査定時の請求項3には何ら記載のなかった「番組表出力手段」及び「更新手段」を新たに付加し,さらにその付加した事項に基づいて,「指定手段」及び「サーチ手段」の内容を新たに具体的に限定したものであるから,形式的(文言的)には(文言の追加という意味で)特許請求の範囲減縮を目的とするものといえるとしても,特許査定時の請求項3に記載された事項によって構成される発明の具体的な目的の範囲を逸脱してその技術的事項を変更するものであり,実質上特許請求の範囲変更するものであることは明白である。
イ 訂正事項cは,請求項2(特許査定時の請求項4)が請求項1を引用するものであるから,上記アにおいて検討したように,請求項1(特許査定時の請求項3)についての訂正が実質上特許請求の範囲変更するものである以上,請求項2(特許査定時の請求項4)についての訂正も実質上特許請求の範囲変更するものであることは明白である。
ウ したがって,上記訂正事項b,cの訂正は,実質上特許請求の範囲変更するものである。
( ) 審決のむすび3以上のとおりであって,本件審判の請求に係る訂正は,特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則6条1項の規定によりなお従前の例によるとされる上記改正法による改正前の特許法126条2項の規定に適合しない。
第3当事者の主張の要点1原告主張の審決取消事由(1)取消事由1(審判手続の法令違背)特許庁は,原告に上記第2の3(1)記載の理由を通知したものの,原告が拒絶理由について十分に弁明するための意見書を提出する機会を与えなかったから,審判手続には,特許法165条の規定に違反する瑕疵がある。
ア特許査定時の請求項に示されていなかった構成要件の付加は,特許請求の範囲減縮する手法の一つであり,新たな構成要件の付加そのものが,直ちに,特許請求の範囲の技術事項ないし当該特許発明技術的範囲変更することにはならない。
イ特許査定時の請求項3に記載のない「番組表出力手段」,「更新手段」を新たに付加し,また,「指定手段」,「サーチ手段」にさらに限定を付したことが,「実質上特許請求の範囲変更するものである」というためには,少なくとも特許査定時の請求項3に係る発明の技術的範囲と請求項1に係る発明の技術的範囲を対比検討し,具体的にいかなる点において後者が前者の範囲から逸脱しているか,すなわち,各構成の付加ないし限定が,訂正前の課題(目的)とは別個の,これと異なる課題(目的)を解決し,これによって訂正前の作用効果と異なる作用効果を奏するものであるかが示されなければならないのに,特許庁が通知した拒絶理由は,単に「実質上特許請求の範囲変更するものである」との結論を示しただけである。
ウ特許庁は,原告に明確かつ具体的な拒絶理由を通知せず,拒絶理由について十分に弁明するための意見書を提出する機会を与えないまま,審決をしたものであるから,審判手続には,特許法165条の規定に違反する瑕疵がある。
(2)取消事由2(訂正事項bについての判断の誤り)審決は,訂正事項bについて,「特許査定時の請求項3には何ら記載のなかった「番組表出力手段」及び「更新手段」を新たに付加し,さらにその付加した事項に基づいて,「指定手段」及び「サーチ手段」の内容を新たに具体的に限定したものであるから,形式的(文言的)には(文言の追加という意味で)特許請求の範囲減縮を目的とするものといえるとしても,特許査定時の請求項3に記載された事項によって構成される発明の具体的な目的の範囲を逸脱してその技術的事項を変更するものであり,実質上特許請求の範囲変更するものであることは明白である。」と判断したが,誤りである。
ア審決は,新たに付加した「番組表出力手段」,「更新手段」は特許査定時の請求項3に記載がなく,また,「指定手段」,「サーチ手段」に付加した限定も特許査定時の請求項3に記載がないから,このような新たな付加や限定は,それ自体,特許請求の範囲の技術事項を変更すると説示する。
(ア)「技術事項の変更」との用語は,特許法にないものであり,その内容は一義的に明確なものではない。
(イ)「技術事項」が構成要素ないし構成要件を意味するものであると解釈するとすれば,特許法126条,134条の2が規定する訂正は,法定の要件のもとに構成要素ないし構成要件変更するものであるから,常に「技術事項の変更」に当たることになるのであって,新たな付加及び限定が特許請求の範囲の技術事項を変更することは当然のことであり,訂正を拒絶する理由とはなり得ない。
(ウ)他方,「技術事項」が特許権の効力が及ぶ範囲,すなわち特許の技術的範囲を意味するものであると解釈するとすれば,「特許請求の範囲の技術事項を変更する」とは「特許請求の技術的範囲変更する」ことを意味し,特許法126条2項にいう「実質上特許請求の範囲変更する」ことと同義であると理解することができるが,訂正前の請求項に示されていなかった構成要件を付加することは,特許請求の範囲減縮する手法の一つであり,特許請求の範囲に新たな構成要件を付加したこと自体が,直ちに,実質上特許請求の範囲技術的範囲変更することに当たるものではないから,明らかに誤りである。
イまた,審決は,出願当初の明細書(以下「当初明細書」という。)の段落【0004】に,特許査定時の請求項3に係る発明は「所望の番組の放送チャンネルおよび放映開始時刻を確実に知ることができ,且つサーチした番組を自動的に受信すること」をその目的とすることが示されているものの,この目的から,特許査定時の請求項3に係る発明が「番組表出力手段」,「更新手段」を備えるものであるとはいえず,また,「指定手段」,「サーチ手段」に新たに付加した限定が導出されるものであるともいえないから,請求項1に係る発明が特許査定時の請求項3に係る発明の目的を逸脱すると説示する。
(ア)請求項1に係る発明が「特許査定時の請求項3に係る発明の目的を逸脱する」というためには,特許査定時の請求項3に係る発明の目的と請求項1に係る発明の目的とをそれぞれ具体的に認定した上,両発明の目的を直截に対比,検討すべきであるが,審決は,特許査定時の請求項3に係る発明の目的については,当初明細書の段落【0004】の記載のみに基づいて形式的に認定したに止まり,請求項1に係る発明の目的については何ら言及していないのであって,特許査定時の請求項3に係る発明の目的と請求項1に係る発明の目的とを具体的に対比,検討していない。
(イ)しかも,審決は,特許査定時の請求項3に係る発明の目的から請求項1に係る発明の構成要件を導出できるかといったおよそ見当違いの手法を用いて,「本件発明3の目的を逸脱する」か否かを判断している。
ウ特許法126条2項が,特許請求の範囲等の訂正が実質上特許請求の範囲拡張し,又は変更するものであってはならないとした趣旨は,第三者がある技術を実施していた場合に,訂正前の発明の技術的範囲には属していなかったのに,訂正後の発明の技術的範囲に属することになるという不測の損害を避け,明細書の記載を信頼する一般第三者の利益を保護することにあるから,「実質上特許請求の範囲変更する」とは,訂正後における特許権の及ぶ範囲が訂正前におけるそれよりも広いために,当初明細書の記載を信頼する一般第三者の利益を害する場合をいうと解すべきである。
そして,当初明細書の記載を信頼する一般第三者の利益を害するか否かを判断するためには,当該訂正により新たに付加又は限定を付した構成要件が第三者にとって自明であるか否か,より具体的には,新たに付加又は限定を付した構成が当初明細書に開示されているか否か,また,新たに付加又は限定を付した構成要件周知技術であるか否かなどが具体的に検討されなければならないところ,審決は,このような検討をすることなく,本件訂正は「実質上特許請求の範囲変更する」と判断したのである。
なお,本件訂正において新たに付加又は限定を付した各構成は,すべて当初明細書に記載されているから,明細書の記載を信頼する一般第三者の利益を害することにはならない。すなわち,「番組表出力手段」は例えば当初明細書の段落【0014】及び【0023】の記載に,「指定手段」は例えば当初明細書の段落【0015】の記載に,「更新手段」は例えば当初明細書の段落【0015】及び【0023】の記載に,「サーチ手段」は例えば当初明細書の段落【0017】及び【0025】の記載にそれぞれ基づくものである。
エ以上のとおりであって,審決は,特許査定時の請求項3に係る発明の目的と請求項1に係る発明の目的を具体的に対比,検討せず,また,本件訂正の前後において特許権の技術的範囲に差異を生じ,もって第三者に不測の損害を生ぜしめるか否かを実質的に判断しないものであって,明らかな誤りがある。
(3)取消事由3(訂正事項cについての判断の誤り)審決は,「訂正事項cは,請求項2(特許査定時の請求項4)が請求項1を引用するものであるから,・・・請求項1(特許査定時の請求項3)についての訂正が実質上特許請求の範囲変更するものである以上,請求項2(特許査定時の請求項4)についての訂正も実質上特許請求の範囲変更するものであることは明白である。」と判断したが,誤りである。
上記(2)のとおり,訂正事項bについての判断は誤りであるから,訂正事項cについての訂正もまた,実質上特許請求の範囲変更するものではなく,審決の上記判断も誤りである。
2被告の反論(1)取消事由1(審判手続の法令違背)に対して特許庁は,原告に上記第2の3(1)記載の理由を通知し,発送の日から30日という期間を指定して意見書を提出する機会を与えたものであって,通知した理由の趣旨は明確であるから,審判手続に特許法165条の規定に違反する瑕疵はない。
(2)取消事由2(訂正事項bについての判断の誤り)に対してア本件訂正において,「番組表出力手段」を備えることにより,番組を表形式で出力するという具体的な目的が,また,「更新手段」を備えることにより,該番組表を更新するという具体的な目的が付加されたことは特許請求の範囲の記載自体から明らかであり,さらに,「更新手段」,「サーチ手段」に付加した限定により,「毎週キーが操作されると,記憶手段内に記憶された翌週以降の番組の中から,同一の番組をサーチするため,一旦,ある番組をサーチすると,翌週以降に放映される同じ番組を簡単にサーチすることができる」(当初明細書の段落【0004】,【0029】)という具体的な目的ないし効果が新たに付加されたことも明らかである。
当初明細書には,特許査定時の請求項3に係る発明の目的について,「所望の番組の放送チャンネルおよび放映開始時刻を確実に知ることができ,且つサーチした番組を自動的に受信すること」,「当該番組サーチ装置の操作者などが所望の番組を見逃す危険性を低くする」と示されているだけであり,このような極めて一般的な目的から,請求項1における,番組を表形式でその一部を出力するという具体的な目的,該番組表を更新させるという具体的な目的及び「毎週キーという一種の専用キーで,一旦,ある番組をサーチすると,翌週以降に放映される同じ番組を簡単にサーチすることができる」という具体的な目的が直ちに導出されるということはできない。
そうである以上,請求項1において,「番組表出力手段」及び「更新手段」を新たに付加し,さらに,その付加した事項に基づき「指定手段」及び「サーチ手段」を新たに限定したことは,特許査定時の請求項3に記載された発明の具体的な目的の範囲を逸脱するというべきであって,本件訂正は,形式的には特許請求の範囲減縮を目的とするものといえるとしても,特許査定時の請求項3に記載された事項によって構成される発明の具体的な目的の範囲を逸脱してその技術的事項を変更するものであり,実質上特許請求の範囲変更するものである。
イ本件訂正は,特許査定時の請求項3を請求項1とし,訂正事項bのように訂正するものであり,特許査定時の請求項3に係る発明の目的は,「所望の番組の放送チャンネルおよび放映開始時刻を確実に知ることができ,且つサーチした番組を自動的に受信すること」,「当該番組サーチ装置の操作者などが所望の番組を見逃す危険性を低くすること」であるところ,請求項1に係る発明について,訂正明細書の段落【0004】には,特許査定時の請求項3に係る発明とほぼ同様の記載しかないものの,上記アのとおりの具体的な目的ないし効果が新たに付加されたことは明らかである。
そうすると,請求項1に係る発明は,特許査定時の請求項3に係る発明に対し,新たに「番組表出力手段」及び「更新手段」が付加されたことにより,特許査定時の請求項3に係る発明の目的に加え,新たに,番組を表形式で出力し,その番組表を更新するという(具体的な)目的が併せて付加されたものとなることは明らかであり,さらに,毎週キーという一種の専用キーで,一旦,ある番組をサーチすると,翌週以降に放映される同じ番組を簡単にサーチできるようにするという具体的な目的が付加されたものとなることは明らかであり,このような新たな構成要件の付加及び付加された構成要件に基づく他の構成要件の新たな限定は,特許査定時の請求項3に記載された発明の具体的な目的の範囲を逸脱するものというべきである。
ウ当初明細書及び図面には,第5図のステップ110(ROMから番組表を読み出す),ステップ120(カーソル位置に応じた領域のデータ及びカーソル位置データを出力),ステップ150(カーソル位置情報を番組表に応じて更新)等については示されているものの,請求項1において新たに付加された「番組表出力手段」,「更新手段」という構成要件については,その用語自体,当初明細書には何ら記載されていなかったものであって,訂正明細書の段落【0014】,【0015】において,上記ステップ110から120に至る処理を「番組表出力手段」,上記ステップ120から150に至る処理を「更新手段」として,それぞれ新たに定義し直し,明細書に初めて出現させたものである。
特許権が設定された後も,特許請求の範囲に記載されている構成要件以外の明細書の記載されている事項の全てが無条件に随時訂正可能であるとすると,特許権の設定登録時の特許請求の範囲の記載を信頼する一般第三者の利益を損なう場合があり得ることは明らかであり,明細書に記載されているからといって,必ずしもその全てが訂正可能であるとは限らない。
エ以上のとおりであって,審決が,訂正事項bについて,「特許査定時の請求項3には何ら記載のなかった「番組表出力手段」及び「更新手段」を新たに付加し,さらにその付加した事項に基づいて,「指定手段」及び「サーチ手段」の内容を新たに具体的に限定したものであるから,形式的(文言的)には(文言の追加という意味で)特許請求の範囲減縮を目的とするものといえるとしても,特許査定時の請求項3に記載された事項によって構成される発明の具体的な目的の範囲を逸脱してその技術的事項を変更するものであり,実質上特許請求の範囲変更するものであることは明白である。」と判断したことに誤りはない。
(3)取消事由3(訂正事項cについての判断の誤り)に対して訂正事項cは,請求項2(特許査定時の請求項4)が請求項1を引用するものであり,請求項1についての訂正が実質上特許請求の範囲変更するものである以上,請求項2についての訂正も実質上特許請求の範囲変更するものであることは明らかである。
したがって,審決が,「請求項2(特許査定時の請求項4)についての訂正も実質上特許請求の範囲変更するものであることは明白である。」と判断したことに誤りはない。
第4当裁判所の判断1取消事由2(訂正事項bについての判断の誤り)について便宜,取消事由2についてまず判断する。
(1)「番組表出力手段」及び「更新手段」についてア「番組表出力手段」(上記記憶手段に記憶されている情報に基づき,番組がチャンネルと時間とに対応した位置に配置された番組表であって,その日の番組表の一部を出力するための手段)について(ア)当初明細書(甲1)には,次の記載がある。
「【0014】次に,第4図に示す番組表の説明図,第5図,第6図に示すフローチャートに従って,録画予約カード1およびVTR3の各CPU31,51が実行する処理について説明する。録画予約カード1は,VTR3に装着されて電源が投入されると,第5図に示すカード側処理ルーチンを開始し,まず,カーソル位置の初期化等の処理を行なう(ステップ100)。カーソルの初期位置は,予め定めた原点であり,第4図に示す番組表では,最も小さな番号のチャンネルでかつ最も早い時間帯の番組(本実施例では番組A1)に対応した位置である。その後,ROM32から番組表を読み出し(ステップ110),このうちカーソル位置に応じた領域の番組データおよびカーソル位置のデータを入出力ポート38を介してVTR3に出力する処理を行なう(ステップ120)。即ち,テレビ受像機5には,番組表の全てを一度に表示することができないので,カーソルの位置を中心に一画面分の番組データを出力するのである。出力された番組データは,コネクタ30を介して一旦RAM53に記憶され,後でCPU51の制御により映像信号出力部70に送られ,ここで映像信号に変換された後,テレビ受像機5に出力される。続いて,録画予約カード1の表面に設けられたキーが操作されるのを待ち(ステップ130),その入力キーに応じてステップ140以下の処理に移行する。」「【0023】(1) まず,VTR3に録画予約カード1を装着し電源を投入すると,テレビ受像機5にその日の番組表の一部が,第4図に示すように,表形式で表示される。カーソルキー21ないし24を操作することにより,所望の番組を反転表示させることができ,現在表示されている領域の外に反転表示部を移動するようなカーソル操作がされた場合には,表示領域が更新される。尚,その日の番組表以外の番組表を表示させる処理は,特に説明しなかったが,専用のキーを設けてもよいし,カーソルキー21,22と他のキーとの組合せにより,前日もしくは翌日の番組表を表示するよう構成することも好適である。」(イ)上記(ア)の記載によれば,当初明細書に記載された番組サーチ装置は,「記憶手段に記憶されている情報に基づき,番組がチャンネルと時間とに対応した位置に配置された番組表であって,その日の番組表の一部を出力するための手段」,すなわち,「番組表出力手段」を有していることが明らかである。
イ「更新手段」(上記番組表出力手段が出力する番組表を,上記カーソルの移動に伴い移動後の上記カーソル位置に応じた上記番組表に更新させると共に,上記カーソルの移動に伴い上記カーソルの位置情報をRAMに記憶させてその情報を更新させるための手段)について(ア)当初明細書(甲1)には,次の記載がある。
「【0015】入力されたキーがカーソルキーの場合には,操作されたキー21ないし24のいずれかに応じたカーソルデータを出力し(ステップ140),RAM33に記憶されるカーソル位置情報を番組表の構成に応じて更新する処理を行なう(ステップ150)。例えば,カーソルが第4図に示す番組C3の位置にある場合に,上向き矢印のカーソルキー21が操作されたときには,そのデータをVTR3の映像信号出力部70に出力すると共に,録画予約カード1内のカーソル位置情報を番組C3から番組C2の位置に更新するのである。また,右向き矢印のカーソルキー24が操作された場合には,カーソル位置情報は,番組C3から番組D3の位置に更新される。以上の処理の後,ステップ120に戻り再びステップ120以下の処理を実行する。従って,カーソルが現在表示している領域の外に移動された場合には,ステップ120の処理により,表示される番組の領域も更新される。」「【0023】(1) まず,VTR3に録画予約カード1を装着し電源を投入すると,テレビ受像機5にその日の番組表の一部が,第4図に示すように,表形式で表示される。カーソルキー21ないし24を操作することにより,所望の番組を反転表示させることができ,現在表示されている領域の外に反転表示部を移動するようなカーソル操作がされた場合には,表示領域が更新される。尚,その日の番組表以外の番組表を表示させる処理は,特に説明しなかったが,専用のキーを設けてもよいし,カーソルキー21,22と他のキーとの組合せにより,前日もしくは翌日の番組表を表示するよう構成することも好適である。」(イ)上記(ア)の記載によれば,当初明細書に記載された番組サーチ装置は,「番組表出力手段が出力する番組表を,カーソルの移動に伴い移動後のカーソル位置に応じた番組表に更新させると共に,カーソルの移動に伴いカーソルの位置情報をRAMに記憶させてその情報を更新させるための手段」,すなわち,「更新手段」を有していることが理解できる。
ウそうであれば,訂正事項bに係る「番組表出力手段」,「更新手段」の内容は,いずれも,当初明細書に記載されているということができる。
(2)訂正事項bについてア当初明細書(甲1)には,次の記載がある。
「【従来の技術】テレビ番組は,通常,その放映開始時刻やチャンネルが不変であるため,毎週(あるいは毎日)見ている番組については,放映開始時刻やチャンネルを人が憶えておけばよい。しかしながら,その番組の前にスポーツ中継がある場合や,放映開始時刻が一定していない番組については,新聞やテレビ番組専門雑誌の番組欄を見て,チャンネル,放映開始時刻等を確認するのがよい。そして,その時刻になったらテレビのスイッチをONにしたり,チャンネルを合わせたり,あるいはビデオ録画装置に録画をしたりする。」(段落【0002】)「【発明が解決しようとする課題】しかしながら,番組欄で確認した番組をテレビ受像機に表示させるには,テレビの画面と番組欄とを突き合わせる必要があり,煩わしい。また,番組欄で所望の番組の放映開始時刻等を確認するのに失敗する場合がある。例えば,昨日の新聞の番組欄を今日の番組の番組欄と誤って見てしまったり,所望の番組が見つからなかったりする場合もある。後者の場合,その番組が放映されないのなら良いが,その週に限って,異なる時間帯や異なる曜日に放映されるために見つからない場合には,所望の番組を見逃してしまうことになる。
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり,請求項1および5に記載の番組表示装置は,所望の番組の放送チャンネルおよび放映開始時刻を確実に知ることができ,一旦,ある番組をサーチすると,翌週以降に放映される同じ番組を簡単にサーチすることができるようにすることを目的とする。そして請求項2および6に記載の本発明は,請求項1および5に記載の本発明の目的を達成し,且つサーチした番組を自動的に受信することを目的とする。本発明の請求項3記載の番組サーチ装置および請求項7記載の番組サーチ方法は,所望の番組の放送チャンネルおよび放映開始時刻を確実に知ることができ,且つサーチした番組を自動的に受信することを目的とする。請求項4および請求項8に記載の本発明は,サーチした番組を予約録画することを目的とする。」(段落【0003】,【0004】)「【発明の効果】・・・請求項3に記載の本発明によれば,サーチした番組を自動的に受信することができ,当該番組サーチ装置の操作者などが所望の番組を見逃す危険性を非常に低くすることができる。・・・」(段落【0029】)イ上記アの記載によれば,従来,新聞やテレビ番組専門雑誌の番組欄で確認した番組をテレビに表示させるには,テレビの画面と番組欄を突き合わせなければならなかったり,日を誤まる等して所望の番組の放映時刻等を確認するのに失敗するという不都合があったところ,このような不都合を解消し,所望の番組の放送チャンネル及び放映開始時刻を確実に知り,かつ,サーチした番組を自動的に受信することを可能にすることが,特許査定時の請求項3に係る発明の技術的課題(目的)であり,そのための構成が,特許査定時の請求項3に規定した番組サーチ装置の構成であるものと認められる。
ウそして,訂正事項bの「番組表出力手段」と「指定手段」は,特許査定時の請求項3における「記憶手段」と「指定手段」により実現される内容をより具体的に規定したものであり,「更新手段」と「サーチ手段」は,特許査定時の請求項3の「記憶手段に記憶されているテレビ放送の内容の中から,上記指定手段により指定された内容と同一の番組を,異なる時間帯の番組よりサーチするサーチ手段」により実現される内容をより具体的に規定したものであるから,訂正事項bの具体的内容は,いずれも,特許査定時の請求項3に係る発明の目的に含まれるということができる。
(3)そうであれば,訂正事項bは,特許査定時の請求項3に係る発明の目的を逸脱したということはできず,訂正事項bに係る訂正によって,実質上特許請求の範囲変更するものではない。
(4)被告の主張についてア被告は,当初明細書には,特許査定時の請求項3に係る発明の目的について,「所望の番組の放送チャンネルおよび放映開始時刻を確実に知ることができ,且つサーチした番組を自動的に受信すること」,「当該番組サーチ装置の操作者などが所望の番組を見逃す危険性を低くする」と示されているだけであり,このような極めて一般的な目的から,請求項1における,番組を表形式でその一部を出力するという具体的な目的,該番組表を更新させるという具体的な目的及び「毎週キーという一種の専用キーで,一旦,ある番組をサーチすると,翌週以降に放映される同じ番組を簡単にサーチすることができる」という具体的な目的が直ちに導出されるということはできないから,訂正事項bは,特許査定時の請求項3に記載された発明の具体的な目的の範囲を逸脱すると主張する。
しかしながら,発明の目的は特許請求の範囲の請求項において規定された構成によって達せられるものであり,新たに構成が付加されたり構成が限定されれば,目的も,それに応じて,より具体的なものになることは当然であって,訂正後の発明の構成により達せられる目的が訂正前の発明の構成により達せされる上位の目的から直ちに導かれるものでなければ,発明の目的の範囲を逸脱するというのであれば,特許請求の範囲減縮を目的とする訂正は事実上不可能になってしまうから,相当でない。そうであれば,訂正事項により付加,限定された構成により達成される内容が,訂正前の発明の目的に含まれるものであれば足りると解するのが相当であり,本件においては,上記(2)のとおり,訂正事項bの具体的内容は,いずれも,特許査定時の請求項3に係る発明の目的に含まれる。
被告の上記主張は,採用することができない。
イまた,被告は,請求項1に係る発明は,新たに「番組表出力手段」及び「更新手段」が付加されたことにより,特許査定時の請求項3に係る発明の目的に加えて,新たに,番組を表形式で出力し,その番組表を更新するという(具体的な)目的が併せて付加され,毎週キーという一種の専用キーで,一旦,ある番組をサーチすると,翌週以降に放映される同じ番組を簡単にサーチできるようにするという具体的な目的が付加されるから,このような新たな構成要件の付加及び付加された構成要件に基づく他の構成要件の新たな限定は,特許査定時の請求項3に記載された発明の具体的な目的の範囲を逸脱するものというべきであると主張する。
しかしながら,訂正事項bに係る「番組表出力手段」,「更新手段」の内容は,いずれも,当初明細書に記載されているものであって,訂正事項bの「番組表出力手段」と「指定手段」は,特許査定時の請求項3における「記憶手段」と「指定手段」により実現される内容をより具体的に規定したものであり,「更新手段」と「サーチ手段」は,特許査定時の請求項3の「記憶手段に記憶されているテレビ放送の内容の中から,上記指定手段により指定された内容と同一の番組を,異なる時間帯の番組よりサーチするサーチ手段」により実現される内容をより具体的に規定したものであるから,訂正事項bの具体的内容は,いずれも,特許査定時の請求項3に係る発明の目的に含まれるということができる。
被告の上記主張も,採用することができない。
ウさらに,被告は,請求項1において新たに付加された「番組表出力手段」,「更新手段」という構成要件については,その用語自体,当初明細書には何ら記載されていなかったものであって,訂正明細書の段落【0014】,【0015】において,上記ステップ110から120に至る処理を「番組表出力手段」,上記ステップ120から150に至る処理を「更新手段」として,それぞれ新たに定義し直し,明細書に初めて出現させたものであるところ,明細書に記載されているからといって,必ずしもその全てが訂正可能であるとは限らないと主張する。
しかしながら,特許請求の範囲減縮する場合には,新たな構成要件を付加したり,構成を新たに具体的に限定するのが通常であるから,新たな構成要素を付加したり,構成要素を新たに具体的に限定することが,直ちに,実質上特許請求の範囲変更することに当たるものでないことは明らかである。訂正事項bに係る「番組表出力手段」,「更新手段」の内容は,いずれも,当初明細書に記載されているものであって,訂正事項bの「番組表出力手段」と「指定手段」は,特許査定時の請求項3における「記憶手段」と「指定手段」により実現される内容をより具体的に規定したものであり,「更新手段」と「サーチ手段」は,特許査定時の請求項3の「記憶手段に記憶されているテレビ放送の中から,上記指定手段により指定された内容と同一の番組を,異なる時間帯の番組よりサーチするサーチ手段」により実現される内容をより具体的に規定したものであるから,明細書に接した第三者であれば,訂正が可能であることを予測することができるのであって,訂正事項bによる訂正が一般第三者の利益を損なうものとはいえない。
被告の上記主張は,採用の限りでない。
(5)上記(3)のとおり,訂正事項bは,特許査定時の請求項3に係る発明の目的を逸脱したということはできず,訂正事項bに係る訂正によって,実質上特許請求の範囲変更するものではないから,「特許査定時の請求項3に記載された事項によって構成される発明の具体的な目的の範囲を逸脱してその技術的事項を変更するものであり,実質上特許請求の範囲変更するものであることは明白である。」とした審決の判断は誤りであり,原告主張の取消事由2は理由がある。
2取消事由3(訂正事項cについての判断の誤り)について請求項2は,請求項1を引用するのであるから,上記1のとおり,請求項1についての訂正事項bによる訂正が実質上特許請求の範囲変更するものでない以上,請求項2についての訂正事項cによる訂正も実質上特許請求の範囲変更するものではない。
そうであれば,「請求項2(特許査定時の請求項4)についての訂正も実質上特許請求の範囲変更するものであることは明白である。」とした審決の判断は誤りであり,原告主張の取消事由3は理由がある。
第5結論以上のとおりであって,原告主張の審決取消事由2及び3は理由があるから,その余について判断するまでもなく,審決は取り消されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 高野輝久
裁判官 佐藤達文