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関連審決 不服2002-6379
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成18行ケ10485審決取消請求事件 判例 特許
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平成19行ケ10300審決取消請求事件 判例 特許
平成22行ケ10402審決取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10261審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 産業上利用(29条1項柱書) /  反復(反復可能性) /  反復実施 /  技術的思想 /  方法の発明 /  製造方法 /  29条1項3号 /  頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  引用発明の認定 /  発明特定事項 /  一致点の認定 /  周知技術 /  上位概念 /  発明の詳細な説明 /  優先権 /  技術的意義 /  置き換え /  置換 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  拒絶査定不服審判 /  拒絶査定 /  請求の理由 /  誤記の訂正 /  請求の範囲 /  減縮 /  変更 /  釈明 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10174号 審決取消請求事件
原告 イーオーエス ゲゼルシャフト ミット ベシュ レンクテル ハフツング イレクトロ オプティ カル システムズ
訴訟代理人弁理士 池田憲保,福田修一,山本格介
同(復) 佐々木敬
被告 特許庁長官 肥塚雅博
指定代理人 野村康秀,徳永英男,井出隆一,大場義則
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/09/26
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 不服2002−6379号事件について特許庁が平成17年12月6日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
請求
主文と同旨の判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等本件は,特許出願をした原告が,拒絶査定を受けて,不服審判の請求をしたが,審判請求不成立の審決を受けたので,その審決の取消しを求めた事案である。
特許庁における手続の経緯は,次のとおりである。
( ) 原告は,平成8年4月1日,発明の名称を「3次元物体の製造方法および装 1置」とする発明について特許出願(特願平8-第79054号,優先権主張1995年3月30日ドイツ国。以下「本件出願」という。)をした(甲2)。
( ) 原告は,平成14年1月11日付けで拒絶査定を受けたので,同年4月12 2日,拒絶査定不服審判の請求をした(不服2002-6379号事件として係属)。
( ) これに対し,特許庁は,平成17年12月6日,「本件審判の請求は,成り 3立たない。」との審決をした(その謄本は同月21日に原告に送達された。)。
なお,原告は,次のとおり,拒絶査定の前後に,それぞれ補正をしている。
@ 平成13年9月5日付けの手続補正書(甲3)により,本件出願に係る明細書を補正した(この1回目の補正後の明細書,すなわち,次の2回目の補正前の明細書を「本件明細書」という。)。
A 平成14年5月8日付けの手続補正書(甲4)により,本件出願に係る明細書の特許請求の範囲の請求項11及びその明細書における関係部分を補正した(以下「本件補正」という。)。
2 発明の要旨( ) 本件明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである。 1「【請求項1】 成形対象物体の横断面に相当する複数のポイントで材料粉末からなる複数の層を電磁あるいは粒子放射を用いて順次連続して固化することにより3次元物体を製造する装置において,予め定められた高さ位置で上記物体を支持する上面を有する支持手段と,材料粉末が固化の際に接着する物質から予め作成され上記上面上に置かれた安定した基板と,上記基板を上記支持手段の上記上面に除去可能に設置する手段と,上記上面の上記高さ位置を変化させる高さ調節手段と,上記材料粉末の層を上記基板上あるいは上記基板上に形成された別の材料層上に供給する手段と,上記材料粉末の層を上記対象物体の横断面に相当する上記ポイントで照射する照射手段とを有することを特徴とする3次元物体を製造する装置。」(以下「本願発明」といい,後出の「本願発明11」と区別して「本願発明1」ということもある。)( ) 本件補正の前と後の特許請求の範囲の請求項11の記載は,次のとおりであ 2る(下線部が補正に係る部分)。
〈本件補正前〉「材料粉末からなる複数の層を順次連続して固化することにより3次元物体を製造する方法において,上記材料粉末が固化される際に接着する物質からなる安定した基板を形成するステップと,上記基板を上記物体の支持手段に除去可能に固定するステップと,上記材料粉末の層を上記基板上に供給するステップと,電磁あるいは粒子放射の照射により上記対象物体の横断面に相当するポイントで上記材料粉末を固化するステップと,上記物体を完成するために供給および固化のステップを繰り返すステップとを有することを特徴とする3次元物体を製造する方法。」〈本件補正後〉「材料粉末からなる複数の層を順次連続して固化することにより3次元物体を製造する方法において,上記材料粉末が固化される際に接着する物質からなる安定した基板を形成するステップと,上記基板を上記物体の支持手段に除去可能に固定するステップと,上記材料粉末の層を上記基板上に供給するステップと,電磁あるいは粒子放射の照射により上記対象物体の横断面に相当するポイントで上記材料粉末を固化するステップと,上記物体を完成するために供給および固化のステップを繰り返すステップと,前記安定した基板を上記物体に付属させるステップとを有することを特徴とする3次元物体を製造する方法。」(以下「本願発明11」という。)3 審決の理由の要点審決は,次のとおり,本願発明11に係る本件補正を却下するとともに,本願発明1は,特開平2-128829号公報(甲5。以下「刊行物1」という。),米国特許第5173220号明細書(甲7。以下「刊行物3」という。)及び特表平7-501765号公報(甲8。以下「刊行物4」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。
( ) 補正の適否1「補正の目的についての検討この補正は,請求項11に係る『3次元物体を製造する方法』の発明を特定するために必要な事項について,補正前の請求項11が,『上記材料粉末が固化される際に接着する物質からなる安定した基板を形成するステップ』,『上記基板を上記物体の支持手段に除去可能に固定するステップ』,『上記材料粉末の層を上記基板上に供給するステップ』,『電磁あるいは粒子放射の照射により上記対象物体の横断面に相当するポイントで上記材料粉末を固化するステップ』,及び,『上記物体を完成するために供給および固化のステップを繰り返すステップ』を有するものであったところ,更に,『前記安定した基板を上記物体に付属させるステップ』を追加するものである。
しかしながら,追加する『前記安定した基板を上記物体に付属させるステップ』は,発明を特定するために必要な事項であるその他のステップのいずれかを,例えば,概念的により下位の事項とすることなどによって,限定するものには当たらない。
したがって,この補正は,発明を特定するために必要な事項を『追加』することから,特許請求の範囲減縮を目的とするものではあるものの,請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を『限定』するものではないから,特許法17条の2第4項2号に掲げる『特許請求の範囲減縮(36条5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて,その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)』を目的とするものであるとは認められない。
また,この補正は,明らかに,請求項の削除,誤記の訂正,又は明りようでない記載の釈明を目的とするものでもない。
まとめこの補正は,特許法17条の2第4項各号に掲げるいずれの事項をも目的とするものではないから,特許法159条1項において準用する同法53条1項の規定により,却下すべきものである。」( ) 本願発明1の要旨 2省略(判決注:前記2( )に同じ)1( ) 原査定の拒絶理由 3「本願発明に関する原査定の拒絶の理由の概要は,本願発明は,その優先権主張日前に日本国内において頒布された以下の刊行物1〜4に記載された発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というにある。
刊行物1: 特開平2-128829号公報(判決注:本訴甲5)刊行物2: 特開平4-255327号公報(判決注:本訴甲6)刊行物3: 米国特許第5173220号明細書(判決注:本訴甲7)刊行物4: 特表平7-501765号公報(判決注:本訴甲8)」( ) 引用刊行物の記載 4刊行物1には,以下の記載がある。 ()「4-1ア:『光により硬化する光硬化性流動物質を容器内に収容し,該流動物質中に光照射を行いつつ,該照射箇所を前記容器に対し水平及び垂直方向に造形対象の形状に応じて相対移動させ,所望形状の固体を基盤上面に形成する光学的造形法であって,前記流動物質中に浸漬される支部部材に対し,可撓性を有するシート状部材を着脱自在に固定して前記基盤面を形成し,該シート状部材上に前記固体形成を行い,該固体形成後に前記シート状部材を撓ませて,前記固体から該シート状部材を剥離することを特徴とする光学的造形法。』(特許請求の範囲の第1項)イ:『本装置を用いて,所望形状の固体造形を行なうには,まず,光硬化性流動物質(A)を容器内に収容し,ベースプレート(2)を,上方からの光照射により流動物質(A)上面から該ベースプレート(2)上のシート状部材(6)上面に及ぶ連続した硬化部分が得られる深さとなるように流動物質(A)中に沈め,位置決めする。その後,流動物質の硬化に必要なエネルギレベルの光を光源から発し,光収束器(4)でもって該光を点状に収束させつつ選択的に光照射を行い,流動物質(A)上面からシート状部材(6)上面に及ぶ硬化部分(b)を形成する。…前記硬化部分を形成したと同じ深さとなるようベースプレート(2)を沈降させ,前述と同様の光収束器(4)を介する集中光照射を選択的に行うことにより,前記硬化部分上に新たにこれに連続する硬化部分を得る。更に,これらベースプレート(2)の沈降と,光照射による硬化部分の形成を繰り返し行ない,シート状部材(6)の上面に所望形状の固体(B)を形成する。』(第3ページ上右欄末行〜下右欄第5行)ウ:『本発明造形法は,上述のように,支持部材上,又は容器底壁上に着脱自在に取り付けられた可撓性を有するシート状部材の上面に所望形状の固体形成を行なうことを特徴とするものであり,この特徴を備える限りにおいて,光照射に基づく種々の造形法に適用されるもので」 ある。』(第5ページ上右欄第8〜13行)刊行物3には,以下の記載があるものと認める。
()「4-2エ:『1.挿入物を備える3次元物品を製造する方法であって,指定の上部作用面を有する材料からなり,放射ビームに曝されると物理的状態を変更し得る; 材料の容器を用意し,該作用面を放射ビームに選択的に曝すことにより,3次元物品の一部分を形成して,物品の第1の層を形成し,;部分的に形成された物品を材料中に降下させることにより,材料の更なる部分で,部分的に形成された3次元物品を被覆し;部分的に形成された3次元物品の上に挿入物を置くことにより,挿入物を固定し;放射ビームに作用面を選択的に曝すことにより,3次元物品の形成を継続し;被覆と曝露のステップを繰り返して,物品中に少なくとも部分的に含まれている挿入物を備える3次元物品を構成する複数の連続層を形成する,ことからなる3次元物品を製造する方法。
2.請求項1に記載の方法において,材料が液体で構成される方法。
3.請求項1に記載の方法において,材料が光反応性ポリマーで構成される方法。
4.請求項1に記載の方法において,材料が粉末で構成される方法。』( .〜 .)Claim1 4オ:『立体造形( )技術は,固体材料の薄い層を,一層ずつ上に,連続的に stereolithography形成することにより,固体物品を製造する方法である。固形材料は,液体又は粉体材料を,エネルギー源に選択的に部分的に曝すことにより形成される。材料としては,例えば,加熱により溶融又は融解する金属又はプラスチックの粉末,…紫外線への曝露で硬化又は重合する液体光反応性樹脂がある。…好ましい具体例は,紫外線硬化可能な液体光反応性ポリマーが使用される。』(第2欄第58行〜第3欄第3行)カ:『立体造形( )機械は,支持体( )(32)又は物品 stereolithography support structure(20)の最初の層を形成するようにプログラムされている。この予備支持体(32)は,物品(20)を基台( )に接着させるための犠牲的構造( )として役立 platform sacrificial structureつ。…支持体又は物品の部分が製造された後,機械が停止され,挿入物(26)が,部分的に形成された3次元物品の中又は上に,置かれ又は位置決めされる。それから立体造形( )プロセスが継続され,挿入物が物品中に固定されるよう,残りの層が挿入 stereolithographic物の周りに構築される。』(第4欄第11〜23行)」( ) 「刊行物4には,以下の記載がある。 4-3省略」( ) 刊行物に記載の発明と本願発明との対比及び相違点の検討 5「( ) 刊行物1,3に記載された発明 5-1刊行物1には,『種々の3次元光造形法』に適用できる装置の発明が記載されており,摘示ア〜ウから,『容器内に収容した光硬化性流動物質中に浸漬される支部部材に対し,可撓性を有するシート状部材を着脱自在に固定して基盤面を形成し,位置決めされた深さの該シート状部材上の流動物質に選択的に光照射を行って硬化部分を形成し,次いで,硬化部分を形成したと同じ深さとなるよう基盤を沈降させ,選択的に光照射を行い,硬化部分上に新たにこれに連続する硬化部分を得る工程を繰り返すことにより,所望形状の固体形成を行い,該固体形成後に前記シート状部材を撓ませて,前記固体から該シート状部材を剥離することを特徴とする光学的造形装置』の発明が記載されていると認められる。
また,刊行物3には,液体,粉末等の材料を層状に連続的に形成することにより物品を製造する3次元造形技術に適用する装置の発明が記載されているものと認められ,摘示エ〜カから,作用面を放射ビームに選択的に曝すことにより,物品の第1の層を形成し,部分的に形成された物品を材料中に降下させることにより,材料の更なる部分で,部分的に形成された3次元物品を被覆し,被覆とビーム曝露のステップを繰り返して,3次元物品を構成する複数の連続層を形成するに当たり,基台の上に『支持体( )(32)』を形成した後,立体 support structure造形( )を行うことにより,『物品(20)を基台( )に接着させる』 stereolithography platformことが記載されている。
( ) 本願発明と刊行物1,3に記載された発明との対比 5-2刊行物1に記載される『基盤』及び刊行物3に記載される『基台( )』は,本願発 platform明における『支持手段』に相当し,しかも,高さ調節手段によって,高さ変化され,高さ調節されるものであると認められ,support 刊行物1に記載される『シート状部材』及び刊行物3に記載される『支持体()』は,いずれも,その上に成形物品が直接形成される場所であることから,本願発 structure明における『基板』に相当するものであって,しかも,それらの上で材料が固化されて複数の層を順次連続して形成することにより3次元物体が製造されるのであるから,上記『シート状部材』及び『支持体( )』はいずれも,材料が固化の際に接着する物質から成 support structureり,かつ,基板上あるいは基板上に形成された別の材料層の上に材料層を供給手段から供給する前に予め作成されたものであると認められ,更に,刊行物1に記載される『光照射』及び刊行物3に記載される『放射ビーム(曝露)』は,本願発明における『電磁あるいは粒子放射』に相当するものと認められるから,本願発明と刊行物1,3に記載された発明とは,『成形対象物体の横断面に相当する材料からなる複数の層を電磁あるいは粒子放射を用いて順次連続して固化することにより3次元物体を製造する装置において,予め定められた高さ位置で上記物体を支持する上面を有する支持手段と,材料が固化の際に接着する物質から予め作成され上記上面上に置かれた基板と,上記上面の上記高さ位置を変化させる高さ調節手段と,上記材料の層を上記基板上あるいは上記基板上に形成された別の材料層上に供給する手段と,上記材料の層を照射する照射手段とを有する3次元物体を製造する装置。』において一致し,『材料』が,本願発明においては,『材料粉末』と特定されている点(相違点1),『基板』が,本願発明においては,『安定した基板』と特定されている点(相違点2),基板の支持手段の上面への設置が,本願発明においては,『除去可能に設置する』と特定されている点(相違点3),及び,材料の層への電磁あるいは粒子放射の照射及び『照射手段』が,本願発明においては,『対象物体の横断面に相当する複数のポイントで』行う照射手段である点(相違点4),で相違する。
( ) 相違点についての検討 5-3( ) 相違点1について 5-3-13次元物体を製造する装置において,成形材料として,粉末状のものを使用することは,刊行物3の摘示エ,オや,刊行物4の摘示キ,クに示されるように,周知慣用のことであり,また,材料の形状の特定により,3次元物体を製造する装置として格別の差異があるものとも認められないから,相違点1は,当業者が適宜選択しうる程度のことである。
( ) 相違点2について 5-3-2刊行物1,3に記載された発明においても,基板の上に,複数の層を順次連続して形成することにより3次元物体が製造されるのであるから,基板は,『安定』しているものであると認められるから,一応の相違点2は,実質的なものではない。
この点,請求人は,審判請求書の請求の理由において,本願発明における『『安定した基板』とは硬く強固でしっかりした基板を意味する』と主張しているが,本願の当初明細書には,基板について,『硬く』,『強固』又は『しっかり』であることについては何らの記載もないから,請求人のこの主張は根拠がないものである。
また,本願の当初明細書において,『安定』についての記載は,段落0020の『焼結した成形材料からなる予め焼結された平板13を利用することによって,製造時間の短縮に加え,成形物体の第1層に安定した基盤を提供できるという利点がある。これにより,成形物体のゆがみあるいは変形が減少する。』だけであり,他に,『安定』の語がみられないものであるところ,段落0020の記載は,文理上,『基板』が『安定』したものであることを何ら意味するものではない。
したがって,請求人の主張は採用しない。
( ) 相違点3について 5-3-33次元物体を製造する装置において,その上に,複数の層を順次連続して形成することにより3次元物体を製造するための基板を,除去可能に設置することは,刊行物1の摘示アに示されるところであるから,相違点3は当業者が適宜採用し得る程度のことである。
( ) 相違点4について 5-3-4刊行物1,3に記載された発明においては,『光照射』及び『放射ビーム』を『選択的』に適用する手段が設けられており,この『選択的』とは,3次元物体の物体の製造の技術分野においては,刊行物の4の摘示クに『層のいかなるポイントをも照射することができる』と示されているように,複数のポイントで照射することができる手段を意味することは,当業者に明らかであるから,一応の相違点4は実質的なものではない。」まとめ ()6「相違点1〜4は,いずれも,実質的な相違点でないか,当業者が容易に想到することができたものであり,しかも,明細書の記載をみても,本願発明が,相違点1〜4を発明を特定するための事項として備えることにより,特に予期できない顕著な効果が奏されるものとも認められない。」むすび ()7「したがって,本願発明1は,刊行物1,3及び4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。」
原告の主張
審決は,本件補正についての判断を誤り(取消事由1),本願発明1と刊行物記載の発明との相違点を看過し(取消事由2),相違点についての判断を誤った(取消事由3)ものであって,違法であるから,取り消されるべきである。
1 取消事由1(本件補正についての判断の誤り)( ) 審決は,本件補正に関し,「追加する『前記安定した基板を上記物体に付属 1させるステップ』は,発明を特定するために必要な事項であるその他のステップのいずれかを,例えば,概念的に下位の事項とすることなどによって,限定するものには当らない。」(2頁下から第2段落)と認定したが,誤りである。
本件補正に係る請求項11,すなわち,「材料粉末からなる複数の層を順次連続して固化することにより3次元物体を製造する方法において,上記材料粉末が固化される際に接着する物質からなる安定した基板を形成するステップと,上記基板を上記物体の支持手段に除去可能に固定するステップと,上記材料粉末の層を上記基板上に供給するステップと,電磁あるいは粒子放射の照射により上記対象物体の横断面に相当するポイントで上記材料粉末を固化するステップと,上記物体を完成するために供給および固化のステップを繰り返すステップと,前記安定した基板を上記物体に付属させるステップとを有することを特徴とする3次元物体を製造する方法。」(下線部分は補正部分)は,あらかじめ定められた平板が焼結された物体の一部を形成する場合に言及したものであり,このため,平板を後処理のステップで対応する物体に付属させること,すなわち,平板を正確な寸法に切断することを,「前記安定した基板を上記物体に付属させるステップ」と表現しているのである。
本件補正前の請求項11は,本件明細書の発明の詳細な説明に,「成形工程が終了すると,物体支持体2はコンテナの上端から突出するように上昇され,予め焼結された平板13はその上に成形された物体50とともに取り外される。続いて,物体50は平板13から金のこを用いて分離され,後処理される。」(段落【0019】)と記載されているように,「物体50は平板13を金のこを用いて分離され,後処理される」場合だけでなく,「上記した方法の変更は可能である。たとえば,上記の金属焼結装置は鋳型インセットの製造に利用される。鋳型インセットが平坦な基盤面を有する場合,予め焼結された平板13は焼結された物体の一部を形成することになる。平板13は後処理のステップによって対応する物体に付属される。
これは,たとえば,鋭利な金のこを用いて平板13を正確な寸法に切断することによって行われる。この場合,予め焼結された平板は次の組み立て過程に用いることはできない。」(段落【0021】)に記載されているように,平板13を物体に付属させ,その一部として残す場合を含んでいたところ,本件補正において,段落【0021】に記載されているように,平板13を物体に付属させ,物体の一部として残す場合に限定しているのであり,特許請求の範囲減縮を目的とするものであることは明らかである。
( ) このように,本願発明の実施形態をも考慮して解釈すれば,「前記安定した 2基板を上記物体に付属させるステップ」を追加する本件補正は,「上記物体を完成させるために供給および固化のステップを繰り返すステップ」を概念的に下位に限定したものであり,安定した基板を物体に付属させるステップによって,物体を最終的に完成させることを意味しているのであるから,本件補正前の請求項11に記載した発明特定事項を限定するものであって,特許法17条の2第4項の規定に違反するものではない。
2 取消事由2(相違点の看過)( ) 「材料粉末」について 1審決は,本願発明と刊行物1,3記載の発明を対比するに際し,本願発明が「材料粉末」の構成であり,刊行物1,3記載の発明が「光硬化性流動物質」の構成である点について,「材料」である点で一致し,その「材料」が,「本願発明においては,「材料粉末」と特定されている点」(相違点1)で相違すると認定したが,誤りである。
本願発明は,「材料粉末」から3次元物体を製造する装置を対象とし,「材料粉末」における当該装置に特有の問題点を解決する手段を提供する3次元物体を製造する装置を前提としており,「材料粉末」であることに技術的意義があるのであって,この「材料粉末」を「材料」に一般化できるものではない。
審決は,「材料粉末」を「材料」に一般化し,相違点1において,「材料粉末」と特定されているか否かということにし,「材料粉末」と「光硬化性流動物質」との相違を摘示していないことから明らかなとおり,「材料」の概念の中に,「材料粉末」のみならず「光硬化性流動物質」をも含めることによって,本願発明の「材料粉末」に伴う問題点,技術的思想,特有の構成を無視するものである。
( ) 「上記材料の層を上記基板上あるいは上記基板上に形成された別の材料層上 2に供給する手段」についてア 本願発明は,「材料粉末」だけを固化することを前提とした装置であり,材料粉末以外を含む概念ではなく,材料粉末に特定されているのであって,刊行物1,3記載の発明のような「光硬化性流動物質」を固化する装置を対象とするものではないし,光硬化性流動物質に関する技術を包含するものではない。
一方,刊行物1は,容器内に収容された光硬化性流動物質の中で,硬化部分を形成する際に,ベースプレートを沈降させているだけである。つまり,材料である光硬化性流動物質が容器内に収容されているだけであるから,このように液体中で固化する装置においては,固化前の材料を層の態様で供給する手段が存在せず,そのような手段の記載がないことは明らかである。刊行物3も,液体中において3次元物体を製造する装置が記載されており,材料となるのは,液体であって,粉末を層の形で供給すること,及び,粉末を層の形で供給する場合に生じる課題について何の示唆もないことは,刊行物1と同様である。
したがって,刊行物1及び3は,光硬化性流動物質の層を順次供給する必要性及びその手段について,全く開示していないし,まして,材料粉末の層を供給する手段について何ら示唆していないことも明白である。
イ 被告は,例えば,特開昭61-202845号公報(乙4。以下「乙4公報」という。),特開平2-36931号公報(乙6。以下「乙6公報」という。),特開平1-115620号公報(乙7。以下「乙7公報」という。)には,粉粒体や液状の材料について,層の態様で材料を供給するという周知技術が記載されているとの理由で,刊行物1,3記載の発明についても,材料粉末を供給する構成が読み取れる旨主張する。
しかし,乙4公報は,スプレーガンを用いて粉粒体を吹き付け,薄膜を形成することが記載されているが,スプレーガンを用いた薄膜を形成した場合における問題点等については全く示唆されていない。また,乙6公報及び乙7公報には,液状の材料供給が層状に行われることについて記載があるとしても,液状の材料供給によって,他の材料層が移動してしまうという問題が生じることについての記載はない。
したがって,上記公報から,材料粉末の供給に伴う特有の課題を見出すことは不可能であり,刊行物1及び3に,光硬化性流動物質の層を順次供給する必要性及びその手段について記載があるとすることはできない。
3 取消事由3(相違点についての判断の誤り)( ) 相違点1について 1ア 審決は,相違点1について,「3次元物体を製造する装置において,成形材料として,粉末状のものを使用することは,刊行物3の摘示・・・や,刊行物4の摘示・・・に示されるように,周知慣用のことであり,また,材料の形状の特定により,3次元物体を製造する装置として格別の差異があるものとも認められないから,相違点1は,当業者が適宜選択しうる程度のことである。」(8頁最終段落〜9頁1行)と判断したが,誤りである。
イ 本願発明は,材料を静的に容器内に保持するのではなく,材料を動的に移動させるために,材料粉末の層を供給する手段を設けた場合に生じる課題及び問題点を解決して,材料粉末に特有の効果を奏することができるのである。
一方,刊行物1は,ベースプレートを材料である流動物質中に沈降させる技術において,固化した部分が流動物質で移動したり,固化した部分が材料中で移動したりすることによって成形物体にゆがみあるいは変形が生じることについて何も開示もしておらず,刊行物3も同様である。
したがって,材料が動的に移動すること,及び,材料が動的に移動することによる影響について何らの記載も示唆もない刊行物1,3記載の発明から,「材料粉末」を固化する構成の本願発明に容易に想到することはできない。
( ) 相違点2について 2ア 審決は,相違点2について,「刊行物1,3に記載された発明においても,基板の上に,複数の層を順次連続して形成することにより3次元物体が製造されるのであるから,基板は,『安定』しているものであると認められるから,一応の相違点2は,実質的なものではない。」(9頁3行〜6行)と判断したが,誤りである。
イ 相違点2の「安定した基板」に係る本願発明の構成は,「材料粉末が固化の際に接着する物質から予め作成され上記上面上に置かれた安定した基板」であるが,この記載からも明らかなとおり,「基板」は,@材料粉末が固化の際に接着する物質からなり,A予め作成され,B上記上面上に置かれ,C安定したものである。
@及びAの記載は,予め作成された基板が,成形対象物体と同一物質によって形成され,当該成形対象物体の一部となり,成形物体の第1層に対して安定した基盤となることを意味するものであるから,本願発明にいう「基板」は,単に,成形物体と同一物質によって形成されているため,「硬く」,「強固」,又は,「しっかり」したものであればよいのではなく,材料粉末の層を供給する手段に対しても「安定した」もの,すなわち,「安定した層を形成する」ものである。
ウ 一方,刊行物1に,光硬化性流動物質を固化する場合,「所望形状の固体を保持する基盤面,例えば容器の底壁又は容器内で移動可能に設置されるベースプレート等と,前記固体とが強固に固着している場合があり,これにより基盤面と固体との分離に手間取り,固体を破損することもあるという問題があった。」(2頁上右欄12行〜17行)との記載からも明らかなとおり,基盤面と固体との分離の際,固体が破損することもあり得るため,基盤面と固体とは,強固に固着していないことが望ましいのであり,刊行物1は,基盤面と固体とが容易に剥離できるように,可撓性を有する薄板のシート状部材が,ベースプレート上面に取り付けられているのである。したがって,刊行物1記載の発明においては,「安定した基板」が基盤面に形成されては困るのである。
エ したがって,刊行物1,3に記載された発明において,基板の上に複数の層を順次連続して形成することにより3次元物体が製造されるからといって,そのことから,基板が「安定」していると認定するのは論理の飛躍であり,審決は,本願発明に係る「基板」の物理的意義及び本願発明の技術的思想を無視しているものである。
( ) 相違点3について 3審決は,「3次元物体を製造する装置において,その上に,複数の層を順次連続して形成することにより3次元物体を製造するための基板を,除去可能に設置することは,刊行物1の摘示アに示されるところであるから,相違点3は当業者が適宜採用し得る程度のことである。」(9頁下から第3段落)と認定したが,誤りである。
刊行物1の摘示アには,「光により硬化する光硬化性流動物質を容器内に収容し,該流動物質中に光照射を行いつつ,該照射箇所を前記容器に対し水平及び垂直方向に造形対象の形状に応じて相対移動させ,所望形状の固体を基盤上面に形成する光学的造形法であって,前記流動物質中に浸漬される支部部材に対し,可撓性を有するシート状部材を着脱自在に固定して前記基盤面を形成し,該シート状部材上に前記固体形成を行い,該固体形成後に前記シート状部材を撓ませて,前記固体から該シート状部材を剥離することを特徴とする光学的造形法。」(特許請求の範囲の第1項)との記載があるが,可撓性を有するシート状部材について記載しているだけであり,粉末材料を供給する供給装置に対して安定な基板を設けることについて何の記載もない。
被告の主張
審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1 取消事由1(本件補正についての判断の誤り)について本件補正は,平成18年法律第55号による改正前の特許法17条の2第1項3号の規定による明細書の補正であるところ,同条4項には,「前項に規定するもののほか,第1項第2号及び第3号に掲げる場合において特許請求の範囲についてする補正は,次に掲げる事項を目的とするものに限る。
第36条第5項に規定する請求項の削除二 特許請求の範囲減縮(第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて,その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」と規定されているとおり,単なる「特許請求の範囲減縮」ではなく,「(第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて,その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」もののみを許容する旨規定している。
本件補正は,物を製造する方法の発明において,発明を特定するために必要な事項を新たに「追加」するものであって,特許請求の範囲減縮を目的とするものではあると認められるものの,請求項11に記載した発明を特定するために必要な事項を「限定」するものではないから,特許法17条の2第4項2号にいう特許請求の範囲減縮を目的とするものであるとはいえない。
2 取消事由2(相違点の看過)に対して( ) 「材料粉末」について 1ア 刊行物3には,液体,粉末等の材料を層状に連続的に形成することにより物品を製造する3次元造形技術に適用する装置の発明が記載されているものと認められ,この点は,原告も争っていない。
刊行物1,3記載の発明は,「3次元光造形」又は「3次元造形」に適用する装置であり,それぞれ,「光硬化性流動物質」又は「液体,粉末等の材料」を使用するものである。そして,「光硬化性流動物質」が「3次元光造形」の成形の原材料の一つであることは明らかであるから,「光硬化性流動物質」から,上位概念として,「材料」を認定することは当然であるし,また,「液体,粉末等の材料」から,上位概念として,「材料」を認定することは論理上当然のことである。したがって,本願発明と刊行物1,3に記載された発明を対比するときに,前者における「材料粉末」と後者における「材料」とを対比して検討することは必須不可欠であって,これ以外に一致点の認定手法はあり得ない。
したがって,審決が,「材料粉末」を「材料」に一般化している,「材料」の概念の中に,「材料粉末」のみならず「光硬化性流動物質」をも含めることによって,本願発明の「材料粉末」に伴う問題点,技術的思想,特有の構成を無視しているとする原告の主張は,失当である。
( ) 「上記材料の層を上記基板上あるいは上記基板上に形成された別の材料層上 2に供給する手段」について例えば,特開昭61-202845号公報(乙4。以下「乙4公報」という。)には,粉粒体や液状の材料を「薄膜状に展延」して形成すること(特許請求の範囲,第2ページ上右欄第3行〜下左欄第7行)が,特開平2-36931号公報(乙6。
以下「乙6公報」という。)には,流体媒質,すなわち液状の材料を「流体層」として形成すること(特許請求の範囲第1,2,13,16,20,34,37項)が,特開平1-115620号公報(乙7。以下「乙7公報」という。)には,光硬化性樹脂若しくはコンポジット材の液体を「薄膜状」に供給すること(特許請求の範囲)が,具体的に記載されているから,層の態様で材料を供給するのは,材料粉末を供給する場合に限られものではない。
3 取消事由3(相違点についての判断の誤り)に対して( ) 相違点1について 1前記2( )のとおり,3次元物体を製造する装置において,層の態様での材料の 2供給は,粉末に特有の供給方法ではなく,刊行物1,3には,材料の層を供給する手段が記載されているといえるのであるから,刊行物1記載の発明における「光硬化性流動物質」を置換して,又は,刊行物1発明における「液体,粉末等の材料」の中から,刊行物3や刊行物4に示されるように,3次元物体を製造するための成形材料として,周知慣用の「材料粉末」を選択することは,当業者が適宜選択し得るる程度のことである。
( ) 相違点2について 2本願発明における「安定した基板」は,材料も,硬さや供給手段に対する安定などの特定を捨象したものであるから,「可撓性」であることをもって,「安定した基板」と相反する概念に基づくものであるとはいえない。そして,刊行物1に記載された可撓性シートは,その上に,多数の層を順次して形成することにより,3次元物体の形状を正確に形成することができるのであるから,基板として「安定」しているものであると認められるものであって,審決の相違点2についての検討には誤りはない。
なお,「安定した基板」の材料に関して,「基板上に接着される物質と同一の物質からなり」,「予め作成された基板が,成形対象物体と同一物質によって形成され」るという原告の主張は,本願発明に関する本願明細書の特許請求の範囲の記載に基づかない主張である。
( ) 相違点3について 3原告の相違点3についての主張は,相違点2に係る「安定した基板」の主張を前提とするものであるが,その前提が誤りであることは,前記( )のとおりである。2
当裁判所の判断
1 取消事由1(本件補正についての判断の誤り)について( ) 本件補正は,請求項11について,「材料粉末からなる複数の層を順次連続 1して固化することにより3次元物体を製造する方法において,上記材料粉末が固化される際に接着する物質からなる安定した基板を形成するステップと,上記基板を上記物体の支持手段に除去可能に固定するステップと,上記材料粉末の層を上記基板上に供給するステップと,電磁あるいは粒子放射の照射により上記対象物体の横断面に相当するポイントで上記材料粉末を固化するステップと,」に続く記載である「上記物体を完成するために供給および固化のステップを繰り返すステップとを有することを特徴とする3次元物体を製造する方法。」を,「上記物体を完成するために供給および固化のステップを繰り返すステップと,前記安定した基板を上記物体に付属させるステップとを有することを特徴とする3次元物体を製造する方法。」(下線部が補正部分)と補正するものである。
( ) 上記によれば,請求項11は,3次元物体を製造する方法の発明として,@ 2「安定した基板を形成するステップ」,A「その基板を支持手段に固定するステップ」,B「材料粉末の層をその基板上に供給するステップ」,C「その材料粉末を固化するステップ」,D「物体を完成するために供給および固化のステップを繰り返すステップ」との構成を有するものであるところ,本件補正により,Dのステップの後に,新たに「前記安定した基板を上記物体に付属させるステップ」を追加するものである。
ところで,上記追加に係る「前記安定した基板を上記物体に付属させるステップ」は,@ないしDのステップとは無関係であり,請求項11の全体を減縮するものではあるが,@ないしDのいずれかのステップを減縮するものではない。
そうすると,本件補正は,平成18年法律第55号による改正前の特許法17条の2第4項2号に規定する「特許請求の範囲減縮(第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて,その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」にいう「第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定する」場合には当たらないと解するのが相当である。
したがって,本件補正を却下すべきものとした審決の判断に誤りはない。
2 取消事由2(相違点の看過)について( ) 「材料粉末」について 1ア まず,審決は,本願発明と「刊行物1,3に記載された発明」とを対比させているので,何をもって「刊行物1,3に記載された発明」としているのかについて検討すると,審決は,「刊行物1,3に記載された発明」に関して,次のとおり説示している。
「刊行物1には,『種々の3次元光造形法』に適用できる装置の発明が記載されてお (ア)り,摘示ア〜ウから,『容器内に収容した光硬化性流動物質中に浸漬される支部部材に対し,可撓性を有するシート状部材を着脱自在に固定して基盤面を形成し,位置決めされた深さの該シート状部材上の流動物質に選択的に光照射を行って硬化部分を形成し,次いで,硬化部分を形成したと同じ深さとなるよう基盤を沈降させ,選択的に光照射を行い,硬化部分上に新たにこれに連続する硬化部分を得る工程を繰り返すことにより,所望形状の固体形成を行い,該固体形成後に前記シート状部材を撓ませて,前記固体から該シート状部材を剥離することを特徴(7頁第2段落) とする光学的造形装置』の発明が記載されていると認められる。」「刊行物3には,液体,粉末等の材料を層状に連続的に形成することにより物品を製(イ)造する3次元造形技術に適用する装置の発明が記載されているものと認められ,摘示エ〜カから,作用面を放射ビームに選択的に曝すことにより,物品の第1の層を形成し,部分的に形成された物品を材料中に降下させることにより,材料の更なる部分で,部分的に形成された3次元物品を被覆し,被覆とビーム曝露のステップを繰り返して,3次元物品を構成する複数の連続層を形成するに当たり,基台の上に『支持体 (32)』を形成した後,立体()support structure造形( )を行うことにより,『物品(20)を基台( )に接着させる』こ stereolithography platform(同頁第3段落) とが記載されている。」「本願発明と刊行物1,3に記載された発明とは,『成形対象物体の横断面に相当す(ウ)る材料からなる複数の層を電磁あるいは粒子放射を用いて順次連続して固化することにより3次元物体を製造する装置において,予め定められた高さ位置で上記物体を支持する上面を有する支持手段と,材料が固化の際に接着する物質から予め作成され上記上面上に置かれた基板と,上記上面の上記高さ位置を変化させる高さ調節手段と,上記材料の層を上記基板上あるいは上記基板上に形成された別の材料層上に供給する手段と,上記材料の層を照射する照射手段とを(8頁9行〜20行)有する3次元物体を製造する装置。』において一致・・・する。」イ そこで,審決の上記推論の手法について検討するに,刊行物1は特開平2-128829号公報であり,刊行物3は米国特許第5173220号明細書であって,別個に頒布された独立の刊行物であるから,特許法29条1項柱書きとその3号を適用する場合はもちろんのこと,同条2項を適用する場合における同条1項3号にいう「特許出願前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載された発明」とするためには,引用発明とする技術が両者にそれぞれ開示されていることが必要であり,一方に存在しない技術を他方で補って併せて一つの引用発明とすることは,特段の事情がない限り,許されないものといわなければならない。
ウ この観点から刊行物1及び3をみると,まず,刊行物1には,審決の認定す容器内に収容した光硬化性流動物質中に浸漬される支部部材に対し,可撓性を るように,「有するシート状部材を着脱自在に固定して基盤面を形成し,位置決めされた深さの該シート状部材上の流動物質に選択的に光照射を行って硬化部分を形成し,次いで,硬化部分を形成したと同じ深さとなるよう基盤を沈降させ,選択的に光照射を行い,硬化部分上に新たにこれに連続する硬化部分を得る工程を繰り返すことにより,所望形状の固体形成を行い,該固体形成後に前記シート状部材を撓ませて,前記固体から該シート状部材を剥離することを特徴とする光」が記載されている。 学的造形装置エ 一方,刊行物3の記載は,次のとおりである。
1.挿入物を備える3次元物品を製造する方法であって,指定の上部作用面を有す (ア) 「る材料からなり,放射ビームに曝されると物理的状態を変更し得る材料の容器を用意し,;該作用面を放射ビームに選択的に曝すことにより,3次元物品の一部分を形成して,物品の第1の層を形成し,;部分的に形成された物品を材料中に降下させることにより,材料の更なる部分で,部分的に形成された3次元物品を被覆し 部分的に形成された3次元物品の上に挿入物を ;置くことにより,挿入物を固定し 放射ビームに作用面を選択的に曝すことにより,3次元物品 ;の形成を継続し 被覆と曝露のステップを繰り返して,物品中に少なくとも部分的に含まれてい ;る挿入物を備える3次元物品を構成する複数の連続層を形成する,ことからなる3次元物品を製造する方法。
2.請求項1に記載の方法において,材料が液体で構成される方法。
3.請求項1に記載の方法において,材料が光反応性ポリマーで構成される方法。
(請求項1〜4) 4.請求項1に記載の方法において,材料が粉末で構成される方法。」ステレオリソグラフィー(判決注: ,立体造形)技術は,固体材料(イ) 「 stereolithographyの薄い層を,一層ずつ重なり合うように連続的に形成することにより固体物品を製造する方法である。固体材料は,液体又は粉末状材料の部分を,エネルギー源に選択的に曝すことにより形成される。材料としては,例えば,加熱されると粉末の溶融又は融解を引き起こす金属やプラスチック粉末,曝されると二次化学物質に硬化する化学反応性材料,又は紫外線に曝される」(2欄58行〜67行) と硬化又は重合する液体光反応性ポリマーがある。
図 を参照すると,紫外線レーザー(10)のプログラム可能なビームが,エネルギ(ウ) 「 1ー源の役割を果たし,紫外線硬化液体材料(14)の表面(12)上を移動して,液体の選択された部分(16)を固体にする。これにより,固体ポリマーが液体の表面に形成される。・・・紫外線ビームを移動させて材料を選択的に硬化するという,第一の層を作成した方法と同様に,物体の第二の層が次に作成される。物体(20)の各層は限定された厚みを有し,レーザービーム(30)の侵入の深さは有限であって且つ制御可能であるから,順次形成される層はその直下の層に付着し,固体構造(20)が形成される。上記処理は,物体全体が完成するまで続けられ」(3欄20行〜42行) る。
ステレオリソグラフィー装置は,支持体(32)又はパーツ(20)の初期の層を作成(エ) 「するように,プログラムされている。この予備支持体(32)は,パーツ(20)をプラットホームに接着させる犠牲構造としての役目を果たす。パーツ(20)の初期部分は,挿入物(26)を支持,配列させ,挿入物を固定し,部分的に形成されたポート内に挿入物(26)を正確に位置づける役目を果たす。・・・3次元物体の最後の層が液体の表面に描かれると,物体は取り外され,典型的には,最後の硬化工程及び支持体除去工程を受ける。しかしながら,この硬化工程は任意であり,用いられる材料の種類による。もし,最終硬化工程が望ましい場合,この硬化工程は通常,パーツに紫外線エネルギーを大量に浴びせるか,パーツをオーブンで加熱して,」(4欄11行〜36行)この熱手段により更なる重合化及び最終硬化を達成する。
審決が摘示し,原告が提出する抄訳を検討した限りでは,紫外線硬化液体材料以外の(オ)。
材料を利用したステレオリソグラフィー装置の実施例の記載はないエ 以上の記載によると,刊行物3には,紫外線硬化可能な液体光反応性ポリマー(光硬化性流動物質)について,選択的に紫外線(光)照射を行って硬化部分を形成し,硬化部分上に新たにこれに連続する硬化部分を得る工程を繰り返すことにより,所望形状の固体形成を行うという3次元造形技術が記載されていることが認められる。また,「 。」請求項1に記載の方法において,材料が粉末で構成される方法材料としては,例えば,加熱されると粉末の溶融又は融解を引き起こす(上記ウ(ア)),「金属やプラスチック粉末,曝されると二次化学物質に硬化する化学反応性材料・・・があ」(上記ウ(イ))との記載があり,3次元造形のために粉末の材料を利用する る。
こともできる旨の記載がある。
そうすると,刊行物1に開示されている材料は「光硬化性流動物質」であり,刊行物3に開示されている材料は「液体,粉末等の材料」であって,両者は明らかに異なるものであるから,刊行物1に開示のない「粉末等の材料」を構成部分とする「刊行物1,3に記載された発明」を観念し,これを特許法29条1項3号にいう発明とすることは許されない(なお,両者の上位概念として便宜上「粉末等の材料」という概念を用いたとしても,これによって,相違点が実質上消失することはないのであるから,より上位概念化等の作業によって看過された相違点については,別途,相違点として判断の対象として検討しなくてはならないのであるが,後述のように,本件ではそのような検討はされていない。)。
オ 加えて,刊行物3には,上記のとおり,「液体,粉末等の材料」に関する記載があるが,唯一の実施例は,紫外線硬化液体材料を利用した立体造形装置であるところ,このような立体造形装置において,装置の適用材料につき,液体材料から粉末材料に置き換えただけで,流動性のある液体材料中と同様に,粉末を利用した立体造形装置として作動をし得るのか,具体的にいうと,粉末材料中で「浸漬される支部部材」を「沈降」させ得るものか,また,他に何の技術的操作を伴うこともなく,粉末材料中で「支持部材」を順次「沈降」させただけで,「硬化部分を形成したと同じ深さとなるよう」な,水平な表面を有する「粉末材料の層」が供給され得るものか明らかでなく,当業者が反復実施して目的とする技術効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして記載されていないことが明らかであり,実質的にも,刊行物3の「粉末等の材料」の記載をもって,「刊行物1,3に記載された発明」の構成部分とすることはできないことになる。
カ したがって,本願発明と「刊行物1,3に記載された発明」との対比において,相違点1に係る「『材料』が,本願発明においては,『材料粉末』と特定されている点」で相違するとし,争点を「粉末」と特定しているか否かに限局する審決の認定は誤りであり,本願発明においては「材料粉末」であるのに対し,刊行物1に記載された発明においては,「光硬化性流動物質」である点で相違するものとしなければならない。
キ この点について,被告は,刊行物1,3記載の発明は,「3次元光造形」又は「3次元造形」に適用する装置であり,それぞれ,「光硬化性流動物質」又は「液体,粉末等の材料」を使用するものであるとした上で,本願発明と刊行物1,3に記載された発明を対比するときに,前者における「材料粉末」と後者における「材料」とを対比して検討することは必須不可欠であって,これ以外に一致点の認定手法はあり得ない旨主張する。
被告の上記主張は,刊行物3に,「液体,粉末等の材料」を利用する旨の記載があることに基づくものであるが,仮に,刊行物3にそのような記載があっても,この記載は刊行物1にはないのであるから,「光硬化性流動物質」と「液体,粉末等の材料」との選択が可能な「刊行物1,3に記載された発明」は,審決又は被告の創出したものであって,特許法29条1項3号にいう「特許出願前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載された発明」といえないことが明らかである。
結局,審決は,刊行物1記載の発明を基本としつつ,被告が自ら認めるとおり,刊行物1,3記載の発明が「光硬化性流動物質」又は「液体,粉末等の材料」を使用するものであるとすることによって,「光硬化性流動物質」と「液体,粉末等の材料」とを一つのまとまりとして取り扱い,「材料」の上位概念をもって一致点とした際に,その「材料」の中に,「光硬化性流動物質」のみならず「材料粉末」をも含めてしまったため,本願発明について,進歩性の有無を判断すべき相違点を看過する結果となったものといわざるを得ない。
( ) 「上記材料の層を上記基板上あるいは上記基板上に形成された別の材料層上 2に供給する手段」についてア 前記記載によれば,刊行物1では,あらかじめ材料である光硬化性流動物質が容器内に収容されており,流動物質中のベースプレートの位置を調整しながら,選択的に光照射を行い,ベースプレート上のシート状部材上面に存在する光硬化性流動物質を部分的に硬化させるというものであって,元来,材料である光硬化性流動物質が容器内に収容されているだけである。後記( )オのとおり,刊行物1記載 3の発明における「材料の層」の供給操作は,水平面を有する流体中で支持手段を鉛直方向へ沈降させることのみによるものであり,粉末材料を供給する際のような層厚調整等のための別途の平面形成操作を必要とするものではないのである。以上のことは,刊行物3の光硬化性流動物質についても同様である。
イ 被告は,乙4,6,7公報により,粉粒体や液状の材料を「薄膜状に展延」して形成することなどの技術が開示されているから,層の態様で材料を供給するのは,材料粉末を供給する場合に限られるものではない旨主張する。
しかし,ここで問題とされているのは,組合せの容易性ではなく,刊行物1,3に,「上記材料の層を上記基板上あるいは上記基板上に形成された別の材料層上に供給する手段」が開示されているか否かであって,層の態様で材料を供給する技術が別途存在するか否かではない。
( ) 以上のように,審決は,引用発明の認定を誤った違法があり,その結論に明 3らかな影響があって,取り消されるべきものであるが,事案にかんがみ,この誤りが進歩性の認定判断の結論にどのような影響を与えるかについて,考察を加えることとする。
ア 本願発明の特許請求の範囲には,「材料粉末からなる複数の層を電磁あるいは粒子放射を用いて順次連続して固化する」,「材料粉末が固化の際に接着する物質から予め作成され上記上面上に置かれた基板」,「材料粉末の層を上記基板上あるいは上記基板上に形成された別の材料層上に供給する手段」との記載があるところ,「材料粉末」とは,文字どおり,「粉末の材料」であり,電磁あるいは粒子放射を用いて固化するが,その際,下の基板と接着することが認められる。
イ 本件明細書をみると,発明の詳細な説明には,次の記載がある。
(ア) 「【発明の属する技術分野】本発明は,ある材料からなる複数の層を順次連続して固化することにより3次元物体を製造する装置に関する。本発明はさらに,それに対応する製造方法に関する。」(段落【0001】)(イ) 「【従来技術】ドイツ特許第4300478号は,対象物体の横断面に相当する複数のポイントで材料粉末の複数の層を電磁放射を用いて順次連続的に固化することにより3次元物体を製造するための,選択的レーザー焼結として公知の方法,およびこの方法を実施するための対応する装置を開示している。この公知の装置では,成形される物体は,装置の一部であるところの金属の台上で作成される。しかしながら,対象物体の各層を焼結,あるいは固化する方法は,台上に最初の粉末層を供給することで開始することができない。なぜならば,この層中の固化した複数の領域は横方向で支持されないため,続く粉末層を供給する際に用いられるワイパーにより金属台上で移動されるからである。したがって,通常,少なくとも一つ,あるいはむしろ複数の粉末層の全体がレーザービームによって完全に固化され,対象物体のための基部が形成される。」(段落【0002】)(ウ) 「【発明が解決しようとする課題】しかしながら,金属台に供給された第1層全体を完全に固化するためには,そのための長い処理時間が余分に必要であり,これは物体の全製造時間を相当増加させる。本発明の目的は,上記の欠点を回避することのできる改善された方法および装置を提供することにある。本発明のさらなる目的は,物体の製造時間が減少するように従来の方法および装置を修正することにある。」(段落【0003】〜【0004】)(エ) 「【課題を解決するための手段】本発明によれば,対象物体の横断面に相当する複数のポイントで材料粉末からなる複数の層を電磁あるいは粒子放射を用いて順次連続して固化することにより3次元物体を製造する装置は,予め定められた高さ位置で物体を支持する上面を有する支持手段,材料粉末が固化の際に接着する物質から予め作成され,前記上面上に置かれる基板,前記基板を前記支持手段の上面に除去可能に設置する手段,前記上面の高さ位置を変化させる高さ調節手段,材料粉末の層を前記基板上あるいは該基板上に形成された材料層上に供給する手段,および該材料粉末の層を対象物体の横断面に相当するポイントで照射する照射手段とを有する。」(段落【0005】)ウ 以上の記載によると,@従来の粉末による3次元物体製造装置においては,装置の一部である金属製の台の上で成形を開始すると,金属台上に最初に粉末層として供給され,電磁照射により固化した複数の各部分は,その上に次の粉末層を供給する際に,粉末層供給手段であるワイパーの動作によって,台上で横方向の力を受けるところ,最初に固化した部分は,台上,横方向には拘束されず,横方向の移動に対抗し得る支持がないから,台上で横方向の移動が生じ,結果的に,固化した部分相互の位置関係,固化した部分の金属台に対する相対的位置関係においてズレを生じ,3次元物体としてゆがみを生ずるという問題があったこと,Aこれを回避するために,最初に供給される粉末層を一つの粉末層全体として固化して,対象物体の基部とすることが通常であったが,第1層を完全に固化するために長い時間を要するから,物体の全製造時間を増加させるという問題があったこと,B本願発明は,上記の欠点を改善するとともに,物体の製造時間を減少するように従来の方法及び装置を修正することを目的とする発明である。
そうすると,本願発明は,「材料粉末が固化の際に接着する物質から予め作成され,前記上面上に置かれる基板」との構成を具備することによって,最初に供給された粉末層が基板上で固化される際,当該基板と接着するため,台上でズレが生じるのを防止することができ,かつ,この基板を予め作成しておくことで物体の製造時間を減少することができるというものであるから,3次元物体を製造する装置において,「材料粉末」における特有の問題点を解決する手段を提供するを前提としているものであり,「材料粉末」であることに技術的意義があるものと認められる。
エ 一方,刊行物1には,審決の認定するとおり,次の記載がある。
「光により硬化する光硬化性流動物質を容器内に収容し,該流動物質中に光照射を行い (ア)つつ,該照射箇所を前記容器に対し水平及び垂直方向に造形対象の形状に応じて相対移動させ,所望形状の固体を基盤上面に形成する光学的造形法であって,前記流動物質中に浸漬される支部部材に対し,可撓性を有するシート状部材を着脱自在に固定して前記基盤面を形成し,該シート状部材上に前記固体形成を行い,該固体形成後に前記シート状部材を撓ませて,前記固体から該シート状部材を剥離することを特徴とする光学的造形法。」(特許請求の範囲の第1項)「本装置を用いて,所望形状の固体造形を行なうには,まず,光硬化性流動物質(A)を(イ)容器内に収容し,ベースプレート(2)を,上方からの光照射により流動物質(A)上面から該ベースプレート(2)上のシート状部材(6)上面に及ぶ連続した硬化部分が得られる深さとなるように流動物質(A)中に沈め,位置決めする。その後,流動物質の硬化に必要なエネルギレベルの光を光源から発し,光収束器(4)でもって該光を点状に収束させつつ選択的に光照射を行い,流動物質(A)上面からシート状部材(6)上面に及ぶ硬化部分(b)を形成する。・・・前記硬化部分を形成したと同じ深さとなるようベースプレート(2)を沈降させ,前述と同様の光収束器(4)を介する集中光照射を選択的に行うことにより,前記硬化部分上に新たにこれに連続する硬化部分を得る。更に,これらベースプレート(2)の沈降と,光照射による硬化部分の形成を(3頁上右 繰り返し行ない,シート状部材(6)の上面に所望形状の固体(B)を形成する。」欄末行〜下右欄5行)オ 上記記載によれば,刊行物1では,あらかじめ材料である光硬化性流動物質が容器内に収容されており,流動物質中のベースプレートの位置を調整しながら,選択的に光照射を行い,ベースプレート上のシート状部材上面に存在する光硬化性流動物質を部分的に硬化させるというものであって,刊行物1記載の発明における「材料の層」の供給操作は,水平面を有する流体中で支持手段を鉛直方向へ沈降させることのみによるものであり,粉末材料を供給する際のような層厚調整等のための別途の平面形成操作を必要とするものではない。
以上のことは,刊行物3の光硬化性流動物質についても同様である。
( ) そうすると,本願発明は,「材料粉末」から3次元物体を製造する装置を対 4象とし,「材料粉末」における当該装置に特有の技術課題を解決しようとするものであって,「光硬化性流動物質」から3次元物体を製造する装置には,このような技術課題が存在せず,広義でみれば共通の技術分野といえるとしても,「材料粉末」と「光硬化性流動物質」とでは,具体的な技術内容にかなりの隔たりがあるから,審決の相違点1における「3次元物体を製造する装置において,成形材料として,粉末状のものを使用することは,刊行物3の摘示・・・や,刊行物4の摘示・・・に示されるように,周知慣用のことであり,また,材料の形状の特定により,3次元物体を製造する装置として格別の差異があるものとも認められないから,相違点1は,当業者が適宜選択しうる程度のことである。」などといえないことは,明らかである。
3結論以上のとおり,本件において正しい結論を導くためには,本願発明の技術課題とするところについて明確な理解をした上で,改めて,一致点と相違点を認定し,本願発明の進歩性を検討しなければならないことになるものである。
そうすると,原告の取消事由2の主張は理由があり,取消事由3について判断するまでもなく,本件審決は取消しを免れない。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 宍戸充
裁判官 柴田義明