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関連審決 訂正2005-39118
無効2004-80133
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成18行ケ10542審決取消請求事件 判例 特許
平成17ワ2649特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成19行ケ10300審決取消請求事件 判例 特許
平成20行ケ10151審決取消請求事件 判例 特許
平成22行ケ10221審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 技術的範囲 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  優先権 /  優先日 /  技術的意義 /  設定登録 /  訂正審判 /  誤記の訂正 /  請求の範囲 /  減縮 /  拡張 /  変更 /  釈明 /  合理的な理由 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10204号 審決取消請求事件
原告 株式会社フジクラ
訴訟代理人弁理士 棚井澄雄
同 高橋詔男
被告 日立電線株式会社
訴訟代理人弁理士 平田忠雄
同 岩永勇二
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/10/18
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2004-80133号事件について平成18年3月29日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は,原告が有する後記特許について,被告が無効審判請求をしたところ,特許庁が特許を無効とする旨の審決をしたことから,原告がその取消しを求めた事案である。
なお,上記審判請求については,特許庁が平成17年3月28日に特許を無効とする旨の審決をし,これに対し当庁が平成17年8月1日に特許法181条2項により上記審決を取り消す決定をしたことから,特許庁で再び審理されていたものである。
当事者の主張
1 請求の原因(1) 特許庁等における手続の経緯原告は,平成3年12月18日,名称を「光ファイバケーブル」とする発明について,平成2年12月18日にした特許出願(特願平2-411572号)に基づく優先権を主張して(優先権主張国 日本),特許出願(特願平3-353715号)をし,平成12年12月8日,特許第3138308号として設定登録を受けた(請求項1〜3。特許公報は甲10。以下「本件特許」という。)。
これに対し,被告は,平成16年8月30日付けで,本件特許について無効審判請求をしたので,特許庁はこれを無効2004-80133号事件として審理した上,平成17年3月28日,「請求項1〜3に係る発明についての本件特許を無効とする」旨の審決をした。そこで原告は,当庁に上記審決の取消しを求める訴えを提起し(平成17年(行ケ)第10453号),また,平成17年7月8日に特許庁に対し訂正審判を請求した(訂正2005-39118号)ところ,当庁は,平成17年8月1日,特許法181条2項により,上記審決を取り消す決定をした。
このようにして,特許庁は,再び無効2004-80133号事件について審理することとなり,また,原告が平成17年9月5日に上記訂正審判の請求書に添付されたとおりの訂正の請求をしたものとみなされた(以下「本件訂正」という。訂正2005-39118号事件はみなし取下げ。)ところ,特許庁は,平成18年3月29日,本件訂正を認めず,「特許第3138308号の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする」旨の審決(甲9)をし,その審決謄本は平成18年4月10日原告に送達された。
(2) 発明の内容ア 本件訂正前(以下,各請求項に記載されている発明を順に「訂正前発明1」などという。)【請求項1】多数の光ファイバを並列的に配置してテープ状に集合し,端部を一括融着接続する光ファイバケーブル(1)であって,前記光ファイバの少なくとも接続端部近傍に発生する曲りの曲率半径(R)が,光ファイバの波長帯(λ)においてλ/1.41よりも大きいことを特徴とする光ファイバケーブル。
【請求項2】1.3μm帯用シングルモード光ファイバにおいて,その光ファイバの接続端部近傍に発生する曲りが,曲率半径0.9m以上であって,かつ,最大許容接続損失値が0.5dB以下であることを特徴とする「請求項1」に記載の光ファイバケーブル。
【請求項3】1.55μm帯用シングルモード光ファイバにおいて,その光ファイバの接続端部近傍に発生する曲りが,曲率半径1.1m以上であって,かつ最大許容接続損失値が0.5dB以下であることを特徴とする「請求項1」に記載の光ファイバケーブル。
イ 本件訂正後(下線は訂正部分)【請求項1】多数の光ファイバを並列的に配置してテープ状に集合し,端部を一括融着接続する光ファイバケーブル(1)であって,前記光ファイバの少なくとも接続端部近傍に発生する曲りの曲率半径(R)が,光ファイバの波長帯(λ)においてλ/1.4よりも大きいことを特徴とする光ファイバケーブル。
【請求項2】1.3μm帯用シングルモード光ファイバにおいて,その光ファイバの接続端部近傍に発生する曲りが,曲率半径0.9m以上であって,かつ,最大許容接続損失値が0.5dB以下であることを特徴とする「請求項1」に記載の光ファイバケーブル。
【請求項3】1.55μm帯用シングルモード光ファイバにおいて,その光ファイバの接続端部近傍に発生する曲りが,曲率半径1.1m以上であって,かつ最大許容接続損失値が0.5dB以下であることを特徴とする「請求項1」に記載の光ファイバケーブル。
(3) 本件訂正の内容ア 訂正事項a「特許請求の範囲」の「請求項1」において,誤記の訂正を目的として,「λ/1.41」を「λ/1.4」に訂正する。
イ 訂正事項b「発明の詳細な説明」の段落【0009】において,明りょうでない記載の釈明を目的として,「λ/1.41」を「λ/1.4」に訂正する。
ウ 訂正事項c「発明の詳細な説明」の段落【0022】において,誤記の訂正を目的として,「曲率0.92」を「曲率0.9」に,「曲率半径は,0.92mと1.1m」を「曲率半径は,1.1mと0.9m」に,各訂正する。
エ 訂正事項d「発明の詳細な説明」の段落【0023】において,誤記の訂正を目的として,「【数3】1.3/0.92≒1.41 1.55/1.1≒1.41」を「【数3】1.3/0.9≒1.4 1.55/1.1≒1.4」に訂正する。
オ 訂正事項e「発明の詳細な説明」の段落【0024】において,誤記の訂正を目的として「λ/1.41」を「λ/1.4」に訂正する。
(4) 審決の内容審決の内容は,別添審決写しのとおりであり,その理由の要点は,次のとおりである。
ア 本件訂正事項a〜eは,誤記の訂正又は明りょうでない記載の釈明とはいえないから,平成6年法律第116号による改正前の特許法(以下「旧特許法」という。)134条2項ただし書に適合しない。しかも,本件訂正事項aは,実質上特許請求の範囲変更するものであるから,旧特許法134条5項によって準用される126条2項に適合しない。
〈判決注 旧特許法の規定は次のとおり〉第134条2項:第123条第1項の審判の被請求人は,前項又は第153条第2項の規定により指定された期間内に限り,願書に添付した明細書又は図面の訂正を請求することができる。ただし,その訂正は,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならず,かつ,次に掲げる事項を目的とするものに限る。
1 特許請求の範囲減縮2 誤記の訂正3 明りょうでない記載の釈明5項:第126条第2項から第4項まで,第127条,第128条,第131条,第132条第3項及び第4項並びに第165条の規定は,第2項の場合に準用する。
第126条2項:前項の明細書又は図面の訂正は,実質上特許請求の範囲拡張し,又は変更するものであってはならない。
イ 本件訂正前の特許請求の範囲「請求項1ないし3」には,特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されているとはいえないから,旧特許法36条5項2号の規定する要件を満たしていない。
〈判決注 旧特許法の規定は次のとおり〉第36条5項2号:特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載した項(以下「請求項」という。)に区分してあること。
(5) 審決の取消事由しかしながら,審決の判断には次のとおり誤りがあるから,審決は違法として取り消されるべきである。
ア 取消事由1(訂正事項cの訂正を認めなかった誤り)(ア) 訂正事項cが誤記の訂正に当たることにつき光ファイバの曲がりの「曲率」は,曲がりを有する光ファイバをセラミックV溝とセラミッククランプで把持し,光ファイバを回転させて基準線からのずれを2方向から測定し,得られた円の軌跡に対する近似円を作成し,この近似円の直径から算出することができる。かかる測定方法で30回測定した結果では,「曲率」の測定値が1.51+0.08,-0.10と大きくばらついている(Aの実験証明書。甲12)。
これは,100分の1位の数値に技術的意味がないことを示すものである。誤差が生じる要因として,測定装置の測定限界に基づく誤差と人的操作に基づく誤差(例えばV溝を刻設した基台に光ファイバを脱着する位置にずれが生じることによる誤差等)が挙げられるが,上記測定時の平成17年12月22日,23日の技術水準では,これ以上測定誤差を小さくすることは困難である。
本件特許の優先日である平成2年12月18日当時の「曲率」の測定の技術水準は,平成17年12月22日,23日の測定の技術水準より劣ることは当然であるから,本件特許の優先日における「曲率」の測定値は,100分の1位の数値に技術的意味がない。
したがって,本件特許の図面(甲10参照)の図5において,X点の曲率は「0.9」としか読みとることしかできないから,「発明の詳細な説明」の段落【0022】の「曲率0.92」が「曲率0.9」と同一の意味を表示するものであることは,客観的に明らかであり,「曲率0.92」を「曲率0.9」に変更することは,何ら新規な操作には当たらない。
してみれば,「発明の詳細な説明」の段落【0022】において「曲率0.92」を「曲率0.9」に訂正する訂正事項cは,誤記の訂正に当たるものである。訂正事項cは,誤記の訂正に当たらないとする審決の判断は誤りである。
なお,被告は,「10分の1位の数値にもばらつきが生じることになると考えられるから,「曲率0.92」を「曲率0.9」と訂正したとしても,技術的意味はないことになる。」と主張している。しかし,本件特許公報(甲10)には,従来技術の問題点として,「軸ずれが12μm程度の場合には,1.55μm用SM光ファイバでは1dB程度の大きな接続損失が生じている。」と記載されている(段落【0006】)。接続損失1dBを,本件特許の図面の図5の曲線A’に当てはめると,曲率はおおよそ1.3となるが,被告の主張するように,1/10位が意味がないとすると,曲率1.3は1と読むしかないことになる。一方,接続損失を0.5dBとするためには,同図の曲線A’から,曲率はおおよそ0.9となり,被告の主張するように,1/10位が意味がないとすると,曲率0.9は1と読むしかないことになる。従来技術の問題点として挙げられている接続損失1dBの場合の曲率が1であるのに対し,かかる問題を解決して接続損失を0.5dBとした場合の曲率も1では,光ファイバの少なくとも接続端部近傍に発生する曲がりの曲率半径を特定の範囲内にすることによって,形状的な曲がりあるいは曲がりぐせが主要因となって接続損失が生じるという問題を解決した本件発明が成立し得ないこととなる。このことから,1/10位の数値に本件発明の本質的意味があることは明らかである。
また,被告は,「原告が技術的意味がないと主張する100分の1位の数値を四捨五入する必然性が存在しない。」と主張している。しかし,測定値aを測定値bで割ったa/bが,測定技術から,1/10位にしか意味がなく,1/100位には意味がない場合であっても,計算上は小数点以下の無限の桁数まで計算が可能である。例えば,aが7.0,bが9.0と測定された場合,a/bは計算で0.777777……という数値が算出される。ここで,1/10位にしか意味がない場合,a/bは0.7か0.8ということになるが,この場合,より計算値に近い0.8を採用することは技術常識であって,計算値から遠い0.7を採用することはあり得ない。これは,グラフから数値を読み取る場合も同様である。グラフでは,0.7と0.8の間であって,0.7よりは0.8近くにプロットされている場合,0.8と読み取るのが技術常識であって,0.7と読み取ることはあり得ない。四捨五入するとはかかる意味を有するから,四捨五入する必然性が存する。
(イ) 平成18年1月4日付意見書の判断につき審決は,以上の(ア)で述べた点に関する被請求人(原告)の平成18年1月4日付意見書について判断しているが,その判断は,次のとおり誤っている。
審決は,本件特許の図面(甲10参照)の図5について,「そうすると,曲線A’がそもそも近似曲線であり,その近似曲線と接続損失値との交点からX軸に垂線を下ろして読み取られる曲率の値も当然に近似値にすぎないのであるから,当該曲率は,X軸の目盛り(目盛りが100分の1位で有ることは明らか,そうでなければ有効数字3桁の算出値を正確にプロットすることができない)のとおりに読み取ればよいのであって,それをあえて読取り値を10分の1位に丸めて有効数字を2桁にする操作が,測定誤差の観点からみても,誤記の訂正にあたるとはいえないというべきである。」と判断している(8頁下から11行〜4行)。確かに,目盛りが1/100位であることは明らかである。しかし,曲線A’そのものが近似曲線なのであり,平成17年12月22,23日当時の測定方法で測定しても上記(ア)のような大きな誤差を生じているのであるから,X点における曲率を0.92と読むことは意味がない。
審決は,「また,曲率の算出値は上記のとおり100分の1位まであって,それをX-Y座標上にプロットしたのであるから,被請求人が主張するような「図面からは10分の1位としか読めない」ということはあり得ず,しかも,当該主張は,訂正審判請求書における「『曲率0.9以下』への訂正は,曲率,曲率半径の数値を,1/100位を四捨五入して1/10位に統一し,明細書全体の整合性を図ったものである。」…との記載とも矛盾する(すなわち,「図面からは10分の1位としか読めない」のであれば,1/100位を四捨五入することは意味がない)。」と判断している(8頁下から3行〜9頁6行)。しかし,1/100位は意味がないから,曲率を意味のある数値とするために,図から1/100位を読み取って,これを四捨五入し,1/10位までの数値としているのである。「1/10位としか読めない」のであって,「1/10位しか読めない」のではない。1mm単位で目盛りが打ってある定規を用いて物の長さを測定するとき,目測で1mm未満の長さを読み取ってこれを四捨五入し,その物の測定値とすることは常識である。
審決は,「さらに,上記実験証明書によれば30回測定した曲率の測定値が1.51+0.08,-0.10と大きくばらついていることから,100分の1位の数値に技術的な意味が無い旨主張しているが,本件明細書に記載されたデータ(図5)と同様な測定方法により測定されたのか明らかでないこと,提示された曲率は算出されたデータであって測定値ではないこと,測定値である光ファイバ先端部の回転軌跡の直径のデータが示されておらず,その測定精度も不明であることなどからみて,上記実験証明書の結果と本件明細書に記載されたデータとを関連づけることに合理的理由が見当たらない。」と判断している(9頁7行〜14行)。しかし,上記(ア)で述べたように,本件特許の優先日当時の測定方法を用いて測定を行えば,測定値が大きくばらつくから,曲率の100分の1位の数値に技術的な意味が無いのは明らかである。また,光ファイバ先端部の回転軌跡の直径のデータは前記甲12に示してある。したがって,上記実験証明書の結果と本件特許の図面(甲10参照)の図5に記載されたデータとを関連づけることに合理的な理由が十分にある。
審決は,「また,有効数字の観点から考察しても,有効数字3桁の曲率0.92を有効数字2桁の曲率0.9に変更する訂正は誤記の訂正とはいえない。すなわち,測定値を読み取るルールによれば,有効数字0.92は0.915〜0.925の間に「真の値」があるという意味であり,また,有効数字0.9は0.85〜0.95の間に「真の値」があるという意味であるから,両者が意味する範囲はまったく異なる。
むしろ有効数字0.9の意味する範囲の方が有効数字0.92の範囲より広いのであるから,有効数字3桁の曲率0.92を有効数字2桁の曲率0.9に変更する訂正は数値範囲の拡張であるといえる。」と判断している(9頁15行〜23行)。しかし,「有効数字0.92」は0.915〜0.925の間に「真の値」があるという意味ではない。真の値は,0.90かもしれず,0.91かもしれず,0.93かもしれず,そもそも0.92と読み取ることに意味がないために0.9とするのである。
以上のとおり,平成18年1月4日付意見書に対する審決の判断は誤っている。
なお,被告は,「1/10位の数値を決定する限りにおいて,1/100位の数値に技術的意味があることが明白であり,X点における曲率を0.92と読むことは意味がないということにはならない。」,「原告が技術的意味がないと主張する1/100位をあえて読み取って,これを四捨五入すると技術的意味がある数値となるとする根拠が不明である。」などと主張している。しかし,上記(ア)で述べたとおり,0.9とするか1.0とするかを決定するために,1/100位を読み取るのであって,1/100位自体に意味があるのではない。
イ 取消事由2(訂正事項dの訂正を認めなかった誤り)上記アで述べたように,「曲率0.92」を「曲率0.9」に訂正することが認められるべきであるから,「発明の詳細な説明」の段落【0023】において「【数3】1.3/0.92≒1.41 1.55/1.1≒1.41」を「【数3】1.3/0.9≒1.4 1.55/1.1≒1.4」に訂正する訂正事項dも,誤記の訂正に当たるものである。したがって,訂正事項dは誤記の訂正に当たらないとする審決の判断は誤りである。
ウ 取消事由3(訂正事項eの訂正を認めなかった誤り)上記イで述べたように,「1.41」から「1.4」への訂正は,誤記の訂正に当たるから,「発明の詳細な説明」の段落【0024】において「λ/1.41」を「λ/1.4」に訂正する訂正事項eも,誤記の訂正に当たるものである。したがって,訂正事項eは誤記の訂正に当たらないとする審決の判断は誤りである。
エ 取消事由4(訂正事項aの訂正を認めなかった誤り)上記イで述べたように,「1.41」から「1.4」への訂正は,誤記の訂正に当たるから,「特許請求の範囲」の「請求項1」において「λ/1.41」を「λ/1.4」に訂正する訂正事項aは,誤記の訂正に当たるものである。
「λ/1.4」よりも大きい範囲は,「λ/1.41」よりも大きい範囲に包含されるから,この訂正は,実質上特許請求の範囲拡張し又は変更するものではない。
なお,被告は,「λ/1.4」について,「(λ/1.45)超〜λ/1.35」という意味であると主張するが,本件発明の技術的範囲を確定するに当たっては,「λ/1.4」は,あくまでλを1.4で割ったものであって,被告が主張するような「(λ/1.45)超〜λ/1.35」ではない。本件発明の技術的範囲を「(λ/1.45)超〜λ/1.35」と主張することは,技術的範囲拡張解釈するものとして許されない。
また,被告は,訂正事項aの訂正により,「請求項1」と「請求項3」の下限の関係が逆転するから,少なくともこの点において,訂正事項aは,実質上特許請求の範囲変更するものであると主張する。しかし,「請求項3」は,「請求項1」を引用しているから,「請求項3」の下限が「請求項1」の下限よりも広くなることはなく,訂正によりそれらの下限の関係が逆転することはない。
よって,訂正事項aは誤記の訂正に当たらず,実質上特許請求の範囲変更するものであるとする審決の判断は誤りである。
オ 取消事由5(訂正事項bの訂正を認めなかった誤り)上記エで述べたように,訂正事項aは,誤記の訂正に当たるから,「発明の詳細な説明」の段落【0009】において「λ/1.41」を「λ/1.4」に訂正する訂正事項bは,明りょうでない記載の釈明に当たるものである。したがって,訂正事項bは明りょうでない記載の釈明に当たらないとする審決の判断は,誤りである。
カ 取消事由6(訂正前発明1について「特許請求の範囲」には特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されているとはいえないと判断したことの誤り)(ア) 上記したところから明らかなように,本件特許の図面(甲10参照)の図5から読み取ったX点の曲率は0.9(波長1.55μm)であり,図4から読み取ったY点の曲率は1.1(波長1.3μm)である。そうすると,X点での曲率半径は1.1mとなり,Y点での曲率半径は0.9mとなる。かかる曲率半径を,本件特許公報(甲10)の段落【0023】記載の【数3】の式に当てはめると,1.3/0.9≒1.4,1.55/1.1≒1.4となる。
(イ) これに対し,審決は,訂正前発明1について,「しかしながら,上記の段落【0022】における(ハ),(ニ)のとおりであるとすれば,曲率半径(R)は,1.3μm帯用:1/1.1≒0.909,1.55μm帯用:1/0.92≒1.087となり,光ファイバの波長帯λ〔μm〕との間には,それぞれ1.3μm帯用:1.3/0.909≒1.430,1.55μm帯用:1.55/1.087≒1.426の関係が成立する。してみると,上記段落【0022】〜【0024】において導出されたλ/1.41は明らかに誤りであるから,これを用いた本件発明1の「曲率半径(R)が,光ファイバの波長帯(λ)においてλ/ 1.41よりも大きいこと」がいかなる技術的意義を有するのか不明であり,発明の構成が明確に把握できない。」と判断し(17頁下から1行〜18頁12行),本件訂正前の「特許請求の範囲」には,特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されているとはいえないとする。
(ウ) しかし,審決記載の上記各計算式において,曲率0.92,曲率半径0.909,1.087,波長帯と曲率半径との比1.430,1.426の1/100位以下は無意味な数値であり,波長帯と曲率半径との比は,上記(ア)のとおり1.4が正しい。したがって,審決における上記判断は誤りである。
キ 取消事由7(訂正前発明2について「特許請求の範囲」には特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されているとはいえないと判断したことの誤り)(ア) 本件特許公報(甲10)の段落【0022】〜【0024】によれば,1.3μm帯用シングルモード光ファイバにおいて,最大許容接続損失値が0.5dB以下となるためには,曲率半径は,1.3/1.4≒0.9以上であることが必要である。
(イ) しかるに,審決は,訂正前発明2について,「上記の本件明細書の段落【0022】〜【0024】によれば,1.3μm帯用シングルモード光ファイバにおいて,最大許容接続損失値が0.5dB以下を満たすためには,曲率半径は,λ(1.3)/1.41≒0.922以上でなければならないところ,本件発明2では「曲率半径0.9m以上」としており,両者の関係が明らかでない。さらには,…そもそもλ(1.3)/1.41なる関係式が誤りなのであるから,これを前提とした「曲率半径0.9m以上」がいかなる技術的意義を有するのか不明であり,かかる構成は不明りょうであるから,本件明細書の特許請求の範囲には,特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されているものとはいえず」と判断している(18頁下から15行〜5行)。
(ウ) しかし,これまで述べてきたように,「1.41」は,「1.4」の誤りであり,1.3/1.4≒0.9が正しいのである。したがって,訂正前発明2の「曲率半径0.9m以上」の技術的意義は明らかであり,「特許請求の範囲」は「特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されていなければならない」という要件を満たすものであるから,審決における上記判断は誤りである。
ク 取消事由8(訂正前発明3について「特許請求の範囲」には特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されているとはいえないと判断したことの誤り)(ア) 本件特許公報(甲10)の段落【0022】〜【0024】によれば,1.55μm帯用シングルモード光ファイバにおいて,最大許容接続損失値が0.5dB以下となるためには,曲率半径は,1.55/1.4≒1.1以上であることが必要である。
(イ) しかるに,審決は,訂正前発明3について,「上記の本件明細書の段落【0022】〜【0024】によれば,1.55μm帯用シングルモード光ファイバにおいて,最大許容接続損失値が0.5dB以下を満たすためには,曲率半径は,λ(1.55)/1.41≒1.099以上となり,一方,本件発明3では「曲率半径1.1m以上」としているから,大凡一致している。ところが,本件発明3は,本件発明1を引用する発明であって,本件発明1は上記()で述べたように,そもそもλ @(1.55)/1.41なる関係式が誤りなのであるから,これを前提とした「曲率半径1.1m以上」がいかなる技術的意義を有するのか不明であり,したがって,かかる構成は不明りょうであるから,本件明細書の特許請求の範囲には,特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されているものとはいえず」と判断している(19頁3行〜15行)。
(ウ) しかし,これまで述べてきたように,「1.41」は,「1.4」の誤りであり,1.55/1.4≒1.1が正しいのである。したがって,訂正前発明3の「曲率半径1.1m以上」の技術的意義は明らかであり,「特許請求の範囲」は「特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されていなければならない」という要件を満たすものであるから,審決における上記判断は誤りである。
ケ 取消事由9(仮に本件訂正が認められないとしても,訂正前発明1〜3について「特許請求の範囲」には特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されているとはいえないと判断したことの誤り)(ア) 本件特許公報(甲10)の段落【0022】に記載されている図4,図5から読み取った「曲率0.92」,「曲率1.1」は,いずれも有効数字2桁である。審決において散見される「0.92は有効数字3桁」(例えば,4頁15行)は,2桁の誤りである。かかる前提の上に,本件特許公報の段落【0023】の【数3】式について検討する。
(イ) 【数3】式は,波長を曲率半径で除したものであるが,曲率が上記の通り有効数字2桁であるから,その逆数である曲率半径や,曲率半径で波長を除した【数3】式の商も当然2桁で表されなければならない。
Y点の曲率半径は1/1.1=0.909090……となるから,有効数字の観点から0.91とすべきである。また,X点の曲率半径は1/0.92=1.0869565……となるから,有効数字の観点から1.1とすべきである。
そうすると,【数3】式は,正しくは1.3/0.91,1.55/1.1となり,段落【0023】の【数3】式は誤記である。この式の商は,2桁が有効数字であるから,【数3】式において,1.3/0.91を計算すると,1.4285714……となるが,正しくは1.4となる。同様に,【数3】式において,1.55/1.1を計算すると,1.4090……となるが,正しくは1.4となる。
【数3】式において,「1.41」を「1.4」に訂正することは,科学的又は技術的観点から必然的に導かれることであり,本件特許の図面(甲10参照)の図4,図5において,曲率を有効数字2桁で読み取った以上,【数3】式において,商を「1.41」から「1.4」に訂正することは,明細書,図面の記載からみて正しい内容であるということができる。さらに,「1.41」は,当然に「1.4」と同一の意味を表示するものであると客観的に認められるものである。
そうすると,「特許請求の範囲」の「請求項1」の「λ/1.41よりも大きい」は,「λ/1.4よりも大きい」が正しい。
(ウ) したがって,仮に本件訂正が認められないとしても,本件特許明細書及び図面の記載は明確であり,訂正前発明1〜3について,審決が,「特許請求の範囲」には特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されているとはいえないと判断したことは誤りである。
なお,被告は,「原告が有効数字2桁が正しいと主張するのであれば,「曲率0.92」は,0.915〜0.925の間に真の値があるということになり,前記ア〜クの主張と矛盾する。」と主張している。
しかし,原告の上記(ア)(イ)の主張は,あくまでも本件訂正が認められず,本件発明の内容が本件訂正前の内容であると仮定した場合の主張にすぎないから,前記ア〜クの主張と矛盾するものではない。
2 請求原因に対する認否請求原因(1)ないし(4)の事実は認めるが,(5)は争う。
3 被告の反論(1) 取消事由1に対しア 「訂正事項cが誤記の訂正に当たることについて」につき「曲率」の測定値が1.51+0.08,-0.10と大きくばらつく(Aの実験証明書。甲12)のであれば,10分の1位の数値にもばらつきが生じることになると考えられるから,「曲率0.92」を「曲率0.9」と訂正したとしても,技術的意味はないことになる。
しかし,原告が技術的意味がないと主張する100分の1位の数値を四捨五入する必然性が存在しない。なぜなら,切上げ,切捨てという手法もあるからである。また,そのような技術的意味がない100分の1位の数値を四捨五入した結果得られる10分の1位の数値にどのような技術的意味が存在するのかも不明である。
以上のとおり,「曲率0.92」が誤りで「曲率0.9」が正しく,「曲率0.92」が「曲率0.9」と同一の意味を表示するものであると客観的に認められるとはいえないから,訂正事項cは誤記の訂正とはいえない。
イ 「平成18年1月4日付意見書の判断について」につき原告は,「曲線A’そのものが近似曲線なのであり,平成17年12月22,23日当時の測定方法で測定しても大きな誤差を生じているのであるから,X点における曲率を0.92と読むことは意味がない」旨の主張をする。しかし,他方で,原告は,「曲率を意味のある数値とするために,図から1/100位を読み取って,これを四捨五入し,1/10位までの数値としている」旨の主張もしており,この主張からすると,図から「0.92」と読むか「0.95」と読むかで,「0.9」となるか「1.0」となるかの差異を生ずることになる。そうすると,1/10位の数値を決定する限りにおいて,1/100位の数値に技術的意味があることが明白であり,X点における曲率を0.92と読むことは意味がないということにはならない。
また,原告が技術的意味がないと主張する1/100位をあえて読み取って,これを四捨五入すると技術的意味がある数値となるとする根拠が不明である。原告は,「1mm単位で目盛りが打ってある定規を用いて物の長さを測定するとき,目測で1mm未満の長さを読み取ってこれを四捨五入し,その物の測定値とすることは常識である。」とも主張するが,目測で読み取った1mm未満の長さは,意味がある数値であり,意味がある数値を四捨五入することと,技術的意味がない1/100位の数値を1/10位の数値とすることとは,異なる。
原告は,「光ファイバ先端部の回転軌跡の直径のデータは甲12に示してある。したがって,上記実験証明書の結果と本件特許の図面(甲10参照)の図5に記載されたデータとを関連づけることに合理的な理由が十分にある。」と主張する。しかし,回転軌跡の直径のデータを示したからといって,審決で述べられている実験証明書の問題は解消されておらず,実験証明書の結果と本件特許の図面(甲10参照)の図5に記載されたデータとを関連づけることに合理的な理由があるとはいえない。
原告は,「「有効数字0.92」は0.915〜0.925の間に「真の値」があるという意味ではない。真の値は,0.90かもしれず,0.91かもしれず,0.93かもしれず,そもそも0.92と読み取ることに意味がないために0.9とするのである。」と主張する。しかし,原告は,上記のとおり1/100位に技術的な意味があるとも考えられる矛盾した主張をしている。また,「真の値は,0.90かもしれず,0.91かもしれず,0.93かもしれない」とすると,0.95かもしれず,そうすると,四捨五入すれば1.0となって,0.9が正しい値であるとの主張と矛盾する。
(2) 取消事由2に対し「曲率,曲率半径の数値を,1/100位を四捨五入して1/10位に統一すること」が誤記の訂正に当たらないことは,上記(1)のとおりであり,訂正事項dも誤記の訂正とはいえない。
(3) 取消事由3に対し上記(2)のとおり訂正事項dは誤記の訂正とはいえないから,これに基づく訂正事項eも誤記の訂正とはいえない。
(4) 取消事由4に対しア 上記(3)のとおり訂正事項eは誤記の訂正とはいえないから,これに基づく訂正事項aも誤記の訂正とはいえない。
イ 「1/100位を四捨五入して1/10位に統一し,明細書全体の整合性を図った」という本件訂正全体の趣旨からすると,訂正事項aにおける「1.4」は「1.35≦1.4<1.45」を意味するものと考えられるから,本件訂正前には権利範囲外であった「λ/1.44よりも大きい」もの等に対する権利行使も可能になる。したがって,訂正事項aは,実質上特許請求の範囲拡張又は変更するものである。
また,本件訂正前には,「請求項3」は曲率半径が1.1以上であるのに対し,「請求項1」は曲率半径が1.099(1.55/1.41)以上であったが,「請求項1」について「λ/1.41」を「λ/1.4」と訂正することにより,「請求項3」は曲率半径が1.1以上であるのに対し,「請求項1」は曲率半径が1.107(1.55/1.4)以上となる。このように,訂正により「請求項1」と「請求項3」の下限の関係が逆転するから,少なくともこの点において,訂正事項aは,実質上特許請求の範囲変更するものである。
さらに,「請求項2」,「請求項3」は,「請求項1」を引用しているから,「請求項1」についての訂正事項aが,実質上特許請求の範囲拡張又は変更するものである以上,「請求項2」,「請求項3」についても,実質上特許請求の範囲拡張又は変更するものである。
(5) 取消事由5に対し上記(4)のとおり訂正事項aは誤記の訂正とはいえないから,これに基づく訂正事項bは明りょうでない記載の釈明とはいえない。
(6) 取消事由6〜8に対し原告の主張は,認められない訂正に基づく主張であるから失当である。
(7) 取消事由9に対し原告が有効数字2桁が正しいと主張するのであれば,「曲率0.92」は,0.915〜0.925の間に真の値があるということになり,前記1(5)ア〜クの主張と矛盾する。
また,図5のX点から読み取った「曲率0.92」は,算出されたデータであって測定値ではないから,正確な値をそのまま読み取ればよいのであって,有効数字2桁が正しいとする合理的な理由が見当らない。してみると,【数式3】において,「1.41」が誤りで「1.4」が正しい数値であるとする根拠はない。
当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁等における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(訂正の内容),(4)(審決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。
2 取消事由1(訂正事項cの訂正を認めなかった誤り)について(1) 旧特許法134条2項ただし書2号は,「誤記の訂正」を目的とする場合には明細書又は図面を訂正することを認めている。ここでいう「誤記」というためには,訂正前の記載が誤りで訂正後の記載が正しいことが,当該明細書及び図面の記載や当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)の技術常識などから明らかで,当業者であればそのことに気付いて訂正後の趣旨に理解するのが当然であるという場合でなければならないものと解される。
(2) そこで,訂正事項cが上記(1)のような観点から「誤記の訂正」ということができるかどうかについて判断する。
ア 本件特許の本件訂正前の明細書(本件特許公報。甲10)の「発明の詳細な説明」段落【0022】〜 【0024】には,次のような記載がある。
「【0022】従ってこのような事情から,接続しようとする光ファイバどうしが互いに正反対方向に曲りを生じていたとしても,先のような接続損失に対する要件,即ち最大許容接続損失を0.5dB以下に設定するためには,少なくとも各光ファイバの曲り具合が図5から1.55μm帯用のものについては,点X:曲率0.92以下であり,・・・(ハ)また,図4から1.3μm帯用のものについては,点Y:曲率1.1以下であること,・・・(ニ)が必要となることが判明し,換言すれば,1.55μm帯と1.33μm帯に対して曲率半径は,0.92mと1.1mになり,光ファイバの波長帯λ〔μm〕との間には,それぞれ【0023】【数3】1.3/0.92≒1.411.55/1.1≒1.41【0024】の関係が成立する。すなわち曲率半径がλ/1.41以上であれば最大許容損失値を満足できることが判明した。」また,本件特許の図面(甲10参照)の図4は,1.3μm帯用光ファイバの曲率と接続損失の関係を記載したもので,互いに正反対に同一曲率で曲がったものどうしを接続させた場合を実線Aで示し,一方が当該曲率で曲がっていて他方は真っ直ぐなものを接続させた場合を実線Bで示している。本件特許の図面の図5は,1.55μm帯用光ファイバの曲率と接続損失の関係を記載したもので,互いに正反対に同一曲率で曲ったものどうしを接続させた場合を実線A’で示し,一方が当該曲率で曲がっていて他方は真っ直ぐなものを接続させた場合を実線B’で示している。
イ 以上の本件特許明細書及び図面の記載からすると,本件訂正前の「発明の詳細な説明」の記載は,@1.55μm帯用のものについては,図5から,曲率が0.92以下である場合に接続損失が0.5dB以下になり,1.3μm帯用のものについては,図4から,曲率が1.1以下である場合に接続損失が0.5dB以下になることが判明した,A1.55μm帯用のものについては,曲率半径が0.92m以下である場合に接続損失が0.5dB以下になるから,波長帯λ〔μm〕との間には,1.55/1.1≒1.41という式が成立する,B1.3μm帯用のものについては,曲率半径が1.1m以下である場合に接続損失が0.5dB以下になるから,波長帯λ〔μm〕との間には,1.3/0.92≒1.41という式が成立する,というものであると認められる。この記載は,(a)曲率は,1で曲率半径を除したものであるから,曲率と曲率半径は同じではないにもかかわらず,上記@のとおり図4,5から求めた曲率を,上記A,Bのとおりそのまま曲率半径として用いていること,(b)上記A,Bのとおり,1.55μm帯用のものについては,曲率半径0.92m以下であることが必要であるといいながら,式においては,1.55を1.1で除しており,1.3μm帯用のものについては,曲率半径が1.1m以下であることが必要であるといいながら,式においては,1.3を0.92で除していることの各点において,理解不能であるというほかない。したがって,「特許請求の範囲」の「請求項1」における「λ/1.41よりも大きいこと」は,その技術的な意義が不明であるというほかない。
もっとも,以上の記載をできるだけ合理的に理解すると,次のようにいうことができる。すなわち,上記A,Bの「曲率半径」は「曲率」の誤りであり,そうすると,曲率半径は,1.55μm帯用のものについては1/0.92≒1.087,1.3μm帯用のものについては1/1.1≒0.909となり,これらを各波長帯λ〔μm〕で除すると,1.55/1.087≒1.426≒1.43,1.3/0.909≒1.430≒1.43となる,ということができる。そして,このように理解した場合でも,「λ/1.43」という数値しか得られないから,「特許請求の範囲」の「請求項1」における「λ/1.41よりも大きいこと」は,やはり,その技術的な意義が不明であるというほかない。
なお,後記8のとおり,曲率,曲率半径等の有効数字は2桁でなければならない旨の原告の主張は採用することができない。本件特許明細書によれば,【数3】式により求めようとする数値(λ/曲率半径)は,図4及び図5により求められた損失が0.5dBとなる際の曲率となる条件を定めるために計算により求められる数値であるから,【数3】式により求められる数値はできるだけ正確に計算されることが望ましいのであり,本件特許の本件訂正前の明細書において,【数3】により求められた数値が小数点2位に近似して表示されていることからすると,上記のように小数点3位まで取って計算し,最終結果を小数点2位に近似して表示することが合理的である。
ウ 原告は,本件特許の優先日における「曲率」の測定値は,100分の1位の数値に技術的意味がないと主張し,甲12(原告の社員であるAが平成17年12月に行った実験結果を記載した書面)の実験結果によると「曲率」の測定値が1.51+0.08,-0.10と大きくばらついていることをその根拠とする。しかし,本件特許明細書及び図面には,「曲率」の測定値は100分の1位の数値に技術的意味がない旨の記載はないし,また,上記ア・イのとおり,1.55μm帯用のものについては,図5から,曲率「0.92」という100分の1位の数値を読み取って,それを基に,「λ/1.41」という「特許請求の範囲」の数値を算出している(もっとも,その過程は,上記イのとおり理解不能である。)。そうすると,本件特許の本件訂正前の明細書及び図面の記載から,「曲率」の測定値は100分の1位の数値に技術的意味がなく,「発明の詳細な説明」の段落【0022】における「曲率0.92」の記載は誤りで「曲率0.9」が正しいと認めることはできない。本件特許明細書及び図面の記載をできるだけ合理的に理解しても,上記イのとおり理解することしかできない。
エ さらに,甲12の実験結果は,平成17年9月5日に本件訂正の請求がされたものとみなされた後の平成17年12月に原告の社員が行った1実験の結果にすぎず,このような実験結果があるからといって「曲率」の測定値は100分の1位の数値に技術的意味がないことが,当業者にとって,本件特許の優先日より前から技術常識であったと認めることは到底できない。その他に,「曲率」の測定値は100分の1位の数値に技術的意味がないことが,当業者にとって,本件特許の優先日より前から技術常識であったと認めるに足りる証拠もない。
オ よって,本件特許明細書(本件特許公報)の「発明の詳細な説明」の段落【0022】における「曲率0.92」の記載は誤りで「曲率0.9」が正しいことが,本件特許の本件訂正前の明細書及び図面の記載や当業者の技術常識などから明らかで,当業者であればそのことに気付いて訂正後の趣旨に理解するのが当然であると認めることはできないから,「発明の詳細な説明」の段落【0022】における「曲率0.92」の記載は「曲率0.9」の誤記であると認めることはできない。
カ 以上のとおり,訂正事項cの訂正は誤記の訂正に当たらないとして訂正を認めなかった審決の判断に誤りはなく,取消事由1は理由がない。
3 取消事由2(訂正事項dの訂正を認めなかった誤り)について上記2で述べたように,「曲率0.92」を「曲率0.9」に訂正することは,誤記の訂正に当たることはなく,認められないから,本件特許明細書において,曲率,曲率半径等の100分の1位の数値を10分の1位に統一することが誤記の訂正に当たるということはできない。
そうすると,「発明の詳細な説明」の段落【0023】において「【数3】1.3/0.92≒1.41 1.55/1.1≒1.41」を「【数3】1.3/0.9≒1.4 1.55/1.1≒1.4」に訂正する訂正事項dは,誤記の訂正に当たるものではなく,認められない。したがって,訂正事項dは,誤記の訂正に当たらないとして訂正を認めなかった審決の判断に誤りはなく,取消事由2は理由がない。
4 取消事由3(訂正事項eの訂正を認めなかった誤り)について上記3で述べたように,「1.41」から「1.4」への訂正は,誤記の訂正に当たるものではなく,認められないから,「発明の詳細な説明」の段落【0024】において「λ/1.41」を「λ/1.4」に訂正する訂正事項eも,誤記の訂正に当たるものではなく,認められない。したがって,訂正事項eは,誤記の訂正に当たらないとして訂正を認めなかった審決の判断に誤りはなく,取消事由3は理由がない。
5 取消事由4(訂正事項aの訂正を認めなかった誤り)について上記4で述べたように,「λ/1.41」から「λ/1.4」への訂正は,誤記の訂正に当たるものではなく,認められないから,「特許請求の範囲」の「請求項1」において「λ/1.41」を「λ/1.4」に訂正する訂正事項aは,誤記の訂正に当たるものではなく,認められない。
また,前記2(2)で述べたとおり,本件特許明細書及び図面(甲10)の記載において,「λ/1.41」という数値はその技術的な意義が不明であったのであり,これが「λ/1.41」ではなく「λ/1.4」であれば技術的な意義を有すると理解できる記載があったということもできないから,「特許請求の範囲」の「請求項1」において「λ/1.41」を「λ/1.4」に訂正することは,本件訂正前の明細書及び図面に開示されていなかった新たな技術的な意義を持ち込むものであって,実質上特許請求の範囲変更するものであるということができる。
したがって,訂正事項aは,誤記の訂正に当たらず,実質上特許請求の範囲変更するものであるとする審決の判断に誤りはなく,取消事由4は理由がない。
6 取消事由5(訂正事項bの訂正を認めなかった誤り)について上記5で述べたように,訂正事項aは,誤記の訂正に当たらず,実質上特許請求の範囲変更するものであって,訂正は認められないから,「発明の詳細な説明」の段落【0009】において「λ/1.41」を「λ/1.4」に訂正する訂正事項bの訂正を,明りょうでない記載の釈明に当たるとして認めることはできない。その旨の審決の判断に誤りはなく,取消事由5は理由がない。
7 取消事由6〜8(訂正前発明1〜3について「特許請求の範囲」には特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されているとはいえないと判断したことの誤り)について原告の主張は,本件訂正が認められることに基づく主張であるところ,前記のとおり,本件訂正は認められないから,取消事由6〜8はいずれも理由がない。
8 取消事由9(仮に本件訂正が認められないとしても,訂正発明1〜3について「特許請求の範囲」には特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されているとはいえないと判断したことの誤り)について前記2(2)で述べたとおり,本件特許明細書及び図面(甲10)の記載において,「λ/1.41」という数値はその技術的な意義が不明であったから,本件訂正前の「特許請求の範囲」の「請求項1」には,特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されているとはいえない。
また,本件訂正前の「特許請求の範囲」の「請求項2」及び「請求項3」は,いずれも「請求項1」を引用しているから,「請求項2」及び「請求項3」についても,特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されているとはいえない。
この点につき,原告は,本件特許公報(甲10)の段落【0022】に記載されている図4,図5から読み取った「曲率0.92」,「曲率1.1」は,いずれも有効数字2桁であるから,その逆数である曲率半径や,曲率半径で波長を除した【数3】式の商も当然2桁で表されなければならない。そうすると,【数3】式は,正しくは1.3/0.91,1.55/1.1となり,この式の商は,いずれの式についても,1.4となる。「特許請求の範囲」の「請求項1」の「λ/1.41よりも大きい」は,「λ/1.4よりも大きい」が正しい旨主張する。しかし,「特許請求の範囲」の「請求項1」は,「λ/1.41」であって,「λ/1.4」ではない。また,前記2(2)アのとおり,本件特許明細書(本件特許公報。甲10)の記載では,【数3】式の商は「1.41」である。曲率の記載が有効数字2桁であるからといって,これらの「1.41」という明示の記載を無視して,「1.4」と解すべき理由はない。また,上記のように,本件特許明細書の記載では,曲率が有効数字2桁であるように記載されているにもかかわらず,【数3】式の商は有効数字3桁のように記載されていること,本件特許明細書の記載では,同じ波長を示す数値であるにもかかわらず,「1.55μm」,「1.3μm」,「1.33μm」といった有効数字の観点からすれば不統一な表記がされていること,他に本件特許明細書に有効数字を意識した数値表示がされていることをうかがわせる記載はないことからすると,本件特許明細書における数値の表記が有効数字を意識してされているとはいえないから,本件特許明細書の記載からは,曲率,曲率半径及び【数3】式の商について,有効数字2桁で表さなければならないとは解されない。したがって,原告の上記主張は,本件特許明細書及び図面の記載において,「λ/1.41」という数値はその技術的な意義が不明であったとの上記認定を覆すに足りるものではない。
よって,取消事由9は理由がない。
9 以上のとおりであるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 森義之
裁判官 田中孝一