運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成14ワ6035特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成12ワ17298損害賠償等請求事件 判例 特許
平成14ワ5107特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成15ワ5443特許権侵害差止等請求事件 平成15ワ8228損害賠償請求事件 判例 特許
平成16ワ16732特許権侵害差止請求事件 判例 特許
関連ワード 方法の発明 /  新規性 /  進歩性(29条2項) /  技術的範囲 /  先行技術 /  共有 /  実施料相当額 /  権利の濫用(権利濫用) /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  禁反言 /  特許発明 /  実施 /  間接侵害 /  構成要件 /  方法の使用 /  課題解決に不可欠(課題の解決に不可欠) /  業として /  差止請求(差止) /  侵害 /  損害額 /  実施料 /  対価 /  請求の範囲 /  変更 /  当事者参加 /  異議申立 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙1PDFを見る pdf
事件 平成 15年 (ワ) 5813号 製造販売禁止等請求事件
平成 16年 (ワ) 23633号 特許権侵害差止等請求事件
第1事件原告 マック株式会社 第2事件原告 更生会社佐藤工業株式会社 管財人 森本裕士
原告両名訴訟代理人弁護士 菊池武
同補佐人弁理士 富田徹男
同 豊田正雄第1事件・第2事件被告 株式会社演算工房 第1事件・第2事件被告訴訟代理人弁護士 大野聖二第1事件被告訴訟代理人弁護士 中道徹第1事件・第2事件被告補佐人弁理士 鈴木守
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2005/03/10
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 第1事件・第2事件被告は,別紙「物件目録」記載の製品を製造し,販売し,又は販売の申出をしてはならない。
2 第1事件・第2事件被告は,前項の製品を廃棄せよ。
3 第1事件被告は,第1事件原告に対し,936万2400円及びこれに対する平成15年3月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 第2事件被告は,第2事件原告に対し,140万4360円及びこれに対する平成16年11月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 第1事件原告及び第2事件原告のその余の請求をいずれも棄却する。
6 訴訟費用のうち,第1事件について生じたものはこれを5分し,その2を第1事件原告の,その余を第1事件被告の各負担とし,第2事件について生じたものはこれを2分し,各1を第2事件原告及び第2事件被告の各負担とする。
7 この判決のうち第1項,第3項及び第4項は,仮に執行することができる。
事実及び理由
原告らの請求
1 第1事件 (1) 主文第1項と同旨 (2) 主文第2項と同旨 (3) 第1事件被告は,第1事件原告に対し,4540万円及びこれに対する平成15年3月28日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 第2事件 (1) 主文第1項と同旨 (2) 主文第2項と同旨 (3) 第2事件被告は,第2事件原告に対し,2270万円及びこれに対する平成16年11月17日(「当事者参加の申出」と題する書面送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
1 第1事件原告及び第2事件原告は,多機能測量計測システムの発明に係る特許権(後記「本件第1特許権」)及びトンネル断面のマーキング方法の発明に係る特許権(後記「本件第2特許権」)を共有している。第1事件・第2事件被告は,別紙「物件目録」記載の物件(以下「被告製品」という。)を貸与等していた。本件は,第1事件原告及び第2事件原告が,被告製品の貸与等が原告らの上記各特許権を侵害する(本件第2特許権に関しては特許法101条4号間接侵害に該当する)と主張し,第1事件・第2事件被告は上記侵害行為により5億8099万7801円の利益を得ているとして,第1事件・第2事件被告に対し,被告製品の販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに,第1事件・第2事件被告が被告製品を貸与等したことによって生じた損害賠償金(うち平成16年2月28日までに生じた分。主位的に特許法102条2項による損害額を,予備的に同条3項による損害額を主張)について,第1事件原告が内金4540万円の支払を,第2事件原告が内金2270万円の支払を各求めた事案である。
2 前提となる事実(当事者間に争いのない事実及び証拠により容易に認定される事実。証拠により認定した事実については,該当箇所末尾に証拠を掲げた。) (1) 第1事件原告は,レーザー光線及び電荷結合素子を用いた自動測量機器の設計,製作及び販売並びにレンタル等を目的とする株式会社である(以下,「原告マック」という。)。
第2事件原告は,更生会社佐藤工業株式会社(登記簿上の本店富山市(以下略))の管財人である(以下「原告佐藤工業」という。また,第1事件原告と第2事件原告を併せて「原告ら」という。)。
第1事件・第2事件被告は,コンピュータソフトウエアの設計・製作及びその販売,建設用機器のレンタル業務等を目的とする株式会社である(以下,単に「被告」という。)。
(2) 原告らは,次の特許権(以下「本件第1特許権」という。)を各2分の1の持分で共有している。
ア(ア) 発明の名称 多機能測量計測システム (イ) 出願日 平成6年8月2日 (ウ) 出願番号 06-181473 (エ) 登録日 平成11年4月23日 (オ) 特許番号 第2919273号 イ 本判決末尾添付の本件第1特許権に係る明細書(以下「本件明細書1」という。)の特許請求の範囲請求項1の記載は次のとおりである(甲1の1。以下,同項に記載されている発明を「本件第1特許発明」という。)。
「測量対象となる対象部に対して測距,測角を行ない測距データと測角データとを得る測定装置と,該測定装置で得られた測距データと測角データとを受信して該測距データと測角データとに基づくデータ処理を実行するデータ処理端末とを備える多機能測量計測システムであって,前記測定装置は,一般測量に対応した測定を行う一般モードと,内空変位や天端沈下量を求めるために既に記憶されている測距データと測角データとに得られた測距データと測角データとを比較演算して特殊測量に対応した測定を行う特殊モードとを有し,前記データ処理端末は,前記測定装置に対して前記一般モードと前記特殊モードとのいずれかひとつのモードを指示する指示手段と,前記測定装置から測距データと測角データとを受信して前記指示手段により指示されたモードに応じたデータ処理により測量結果を得るデータ処理手段とを有することを特徴とする多機能測量計測システム」 ウ 本件第1特許発明構成要件に分説すると,次のとおりである(以下「構成要件A」などという。)。 A 測量対象となる対象部に対して測距,測角を行ない測距データと測角データとを得る測定装置と,該測定装置で得られた測距データと測角データとを受信して該測距データと測角データとに基づくデータ処理を実行するデータ処理端末とを備える多機能測量計測システムであって, B 前記測定装置は,一般測量に対応した測定を行う一般モードと,内空変位や天端沈下量を求めるために既に記憶されている測距データと測角データとに得られた測距データと測角データとを比較演算して特殊測量に対応した測定を行う特殊モードとを有し, C 前記データ処理端末は,前記測定装置に対して前記一般モードと前記特殊モードとのいずれかひとつのモードを指示する指示手段と,前記測定装置から測距データと測角データとを受信して前記指示手段により指示されたモードに応じたデータ処理により測量結果を得るデータ処理手段とを有すること を特徴とする多機能測量計測システム エ 本件明細書1には,本件第1特許発明の作用効果について,次のとおり記載されている(甲1の1。6頁左欄40ないし44行)。
一般測量と内空変位や天端沈下量を求める特殊測量とを行う際の測定装置を共通化して部品点数を削減するとともに,そのトータルコストを大幅に低減させることができる多機能測量計測システムを得られる効果がある。 (3) 原告らは,次の特許権(以下「本件第2特許権」といい,本件第1特許権と併せて「本件各特許権」という。)を各2分の1の持分で共有している。
ア(ア) 発明の名称 トンネル断面のマーキング方法 (イ) 出願日 平成元年9月14日 (ウ) 出願番号 01-238748 (エ) 登録日 平成10年8月28日 (オ) 特許番号 第2138035号 イ 本判決末尾添付の本件第2特許権に係る明細書(以下「本件明細書2」という。)の特許請求の範囲請求項1の記載は次のとおりである(甲2の1。以下,同項に記載されている発明を「本件第2特許発明」という。)。
「レーザー光を投射するレーザー発振器と光波によって距離を測定する光波測角測距儀とを,レーザー光の光軸と光波の光軸とが平行になるように一体としたレーザー光投射装置と;このレーザー光投射装置を支持して,鉛直方向および水平方向に駆動する駆動装置と;前記光波測角測距儀からの測角測距データとトンネル形状情報に基づいて前記駆動装置を作動させてレーザー光投射装置を鉛直方向および水平方向に移動させる演算制御装置と;を有し,前記レーザー光投射装置および前記駆動装置を切羽断面手前の位置に設置するとともに,予めその設置座標を知っておき,座標が既知の別の基準点を前記光波測角測距儀により視準し,この視準による前記設置座標からの測角測距データを得て,他方で,前記演算制御装置に与えられた計画トンネル線形および計画トンネル断面形状に基づいて,前記切羽断面上における作業基準点を設定し,前記演算処理装置で前記測角測距データに基づいて前記作業基準点に向けての前記設置座標からの鉛直角度および水平角度を演算し,その鉛直角度および水平角度で前記駆動装置を作動させてレーザー光投射装置を振って,前記作業基準点にレーザー光を投射させ,順次切羽断面上に作業基準点をレーザー光の照射によるマーキングを行うことを特徴とするトンネル断面のマーキング方法」 ウ 本件第2特許発明構成要件に分説すると,次のとおりである(以下「構成要件a」などという。)。 a レーザー光を投射するレーザー発振器と光波によって距離を測定する光波測角測距儀とを,レーザー光の光軸と光波の光軸とが平行になるように一体としたレーザー光投射装置と; b このレーザー光投射装置を支持して,鉛直方向および水平方向に駆動する駆動装置と; c 前記光波測角測距儀からの測角測距データとトンネル形状情報に基づいて前記駆動装置を作動させてレーザー光投射装置を鉛直方向および水平方向に移動させる演算制御装置と;を有し, d 前記レーザー光投射装置および前記駆動装置を切羽断面手前の位置に設置するとともに, e 予めその設置座標を知っておき, f 座標が既知の別の基準点を前記光波測角測距儀により視準し,この視準による前記設置座標からの測角測距データを得て, g 他方で,前記演算制御装置に与えられた計画トンネル線形および計画トンネル断面形状に基づいて,前記切羽断面上における作業基準点を設定し, h 前記演算処理装置で前記測角測距データに基づいて前記作業基準点に向けての前記設置座標からの鉛直角度および水平角度を演算し,その鉛直角度および水平角度で前記駆動装置を作動させてレーザー光投射装置を振って,前記作業基準点にレーザー光を投射させ, i 順次切羽断面上に作業基準点をレーザー光の照射によるマーキングを行うことを特徴とするトンネル断面のマーキング方法 エ 本件明細書2には,本件第2特許発明の作用効果について,次のとおり記載されている(甲2の1。4頁左欄9行ないし右欄2行)。
予め計算されたマーキングデータに基づいて,トンネル切羽断面手前の任意の位置に設置されたレーザー光投射装置によって,トンネル切羽断面上の全作業基準点が直接照射されるため,凹凸の激しい切羽断面上であっても,トンネル形状が真円でない場合やトンネル外周円の中心が切羽面上に無い場合であっても,またトンネル線形が曲線であっても正確にマーキングすることができる。本発明方法によってトンネル断面のマーキング行った場合には上記のような正確なマーキングができるため,余掘り・アタリを大幅に減少させることができ,経済的にトンネル掘削をすることができる。 (4) 被告製品について ア 被告は,平成16年3月16日まで,被告製品を製造,販売していた。
イ 被告製品による測量の概要は別紙「被告方法目録」記載のとおりである(以下,被告製品による測量の方法を「被告方法」という。)。
3 争点 (1) 被告製品が本件第1特許発明技術的範囲に属するか ア 被告製品が構成要件Aの「多機能測量計測システム」に該当するか(争点1) イ 被告製品が構成要件Bの「測定装置は,一般測量に対応した測定を行う一般モードと,内空変位や天端沈下量を求めるために既に記憶されている測距データと測角データとに得られた測距データと測角データとを比較演算して特殊測量に対応した測定を行う特殊モードとを有し」を充足するか(争点2) ウ 被告製品が構成要件Cの「指示手段」及び「データ処理手段」を有する「データ処理端末」を備えるか(争点3) (2) 本件第1特許発明が無効理由を有することが明らかであり,本件第1特許権に基づく権利行使が権利の濫用といえるか(争点4) (3) 被告が被告製品を製造,販売等する行為が本件第2特許権の間接侵害(特許法101条4号)に該当するか,特に,被告製品が「その方法の使用に用いる物であってその発明による課題の解決に不可欠なもの」に当たるか ア 被告方法が構成要件e「予めその座標を知っておき」を充足するか(争点5) イ 被告方法が構成要件f「座標が既知の別の基準点を前記光波測角測距儀により視準し,この視準による前記設置座標からの測角測距データを得て」を充足するか(争点6) ウ 被告方法が構成要件g「前記演算制御装置に与えられた計画トンネル線形および計画トンネル断面形状に基づいて,前記切羽断面上における作業基準点を設定し」を充足するか(争点7) エ 被告方法が構成要件h「前記演算処理装置で前記測角測距データに基づいて前記作業基準点に向けての前記設置座標からの鉛直角度および水平角度を演算し」を充足するか(争点8) (4) 本件第2特許発明が無効理由を有することが明らかであり,本件第2特許権に基づく権利行使が権利の濫用といえるか(争点9) (5) 損害の内容及び額(争点10)
争点に関する当事者の主張
1 争点1(被告製品が構成要件Aの「多機能測量計測システム」に該当するか) (原告ら) 被告は,被告製品の見積書において,「マンモス,光波測量機が必要ありません」と記載しており(甲13),同記載は,被告製品が一般測量に使用する光波測量機器と内空変位測定機を兼ねている旨述べているから,被告製品が多機能測量計測システムに該当することは明らかである。
被告は,一般測量を「一般的な測定装置による測量」と解した上で,被告製品は一般的な測定装置による測量を行わないから一般測量モードを有しておらず,したがって,一般モードと特殊モードを有する多機能測量計測システムに該当しない旨主張する。
しかしながら,一般測量とは,一般的な測量すなわち「マーキングの際に基準点を測量して測量装置の位置を割り出す際に行う測角と測距」を意味しているのであって,被告主張の解釈はとり得ない。
そして,被告製品の機能のうち少なくとも「任意点測量」は一般測量に該当する。任意点測量が一般測量に該当することは,被告作成の「SuperNATM Lite(簡易版)と他社製品との比較表(2)」(甲21の2頁)「任意点測量」欄に「無線のため一人で測量できる」旨記載されており,甲13に,被告製品があれば「光波測量機(一般測量に使う光波測量機)とマンモス(内空変位測定機)」は必要ない旨記載されていることからも明らかである。
被告製品が特殊モードを有していることは争いがないところ,通常の測角測距データが得られなければ特殊モードの計算ができないのであるから,被告製品において通常の測角測距(一般測量)機能がないということはあり得ない。原告らは,特殊測量の工程の一過程において測角測距を行っていることをもって一般測量であると主張するものではないが,被告製品においては,特殊測量の工程の一過程において,たまたま測角測距データを取得しているというのではなく,明らかに測角測距データの取得を目的として測量を指示していることから,一般測量を行っていると主張するものである。
(被告) 本件第1特許発明に係る計測システムは,「多機能測量計測システム」でなければならない。「多機能測量計測システム」の意義は一義的に明らかでないが,本件明細書1の記載(甲1の1。2頁左欄3ないし6行)から,「一般測量と特殊測量の双方の測量計測システムの機能を兼ね備えたシステム」を意味すると解される。
そして,「一般測量」とは,本件明細書1に,「一般測量対応のトータルステーションを用いてもトンネル内の内空変位や天端沈下量を測量することができない」(甲1の1。2頁左欄21ないし23行),「請求項1の発明は,上記の事情に鑑み,一般測量と内空変位や天端沈下量を求める特殊測量とを行う際の測定装置を共通化して部品点数を削減するとともに,そのトータルコストを大幅に低減することができる」(甲1の1。2頁左欄28ないし32行)との記載があることから,「一般的な測定装置による測量」ないし「一般測量対応のトータルステーションで測量できるもの」をいうと解釈できる。
ところが,被告製品は,トンネル施工のための測量の専用機であり,一般測量に使用することは予定されていないので,一般測量機能を有していない。したがって,「多機能測量計測システム」ということはできない。
原告らは,被告製品の「任意点測量」機能が一般測量に該当すると主張する。しかし,被告製品の任意点測量とは,別紙「被告製品の任意点測量」記載のとおりの内容であるから,一般測量すなわち,一般的な測定装置による測量に当たらない。
また,原告らは,特殊測量とは,一般測量によって得られた測角測距データを用いて計算を行うものであるから,特殊モードを有しているのに一般測量することを予定していない測定機はあり得ないかのように主張する。しかし,本件明細書1には,「一般測量対応のトータルステーションを用いてもトンネル内の内空変位や天端沈下量を測量することができないので,特殊測量を行う度に専用のトータルステーションを別に用意しなければならなかった。……請求項1の発明は,上記の事情に鑑み,一般測量と内空変位や天端沈下量を求める特殊測量とを行う際の測定装置を共通化して部品点数を削減するとともに,そのトータルコストを大幅に低減することができる」旨記載されている(甲1の1。2頁左欄21ないし32行)のであるから,特殊測量を行う際の測定装置が必ず一般測量の機能を有しているということはできないはずである。また,本件明細書1においては,特殊測量のフローチャートとして図9が記載されているが,図9には測角測距を行うステップを含めて「特殊測量」の処理としているのであるから,測角測距を行っていることをもって,一般測量を行っているということはできない。
よって,被告製品は,本件第1特許発明技術的範囲に属しない。 2 争点2(被告製品が構成要件Bの「測定装置は,一般測量に対応した測定を行う一般モードと,内空変位や天端沈下量を求めるために既に記憶されている測距データと測角データとに得られた測距データと測角データとを比較演算して特殊測量に対応した測定を行う特殊モードとを有し」を充足するか) (原告ら) 構成要件Bの「測定装置は,一般測量に対応した測定を行う一般モードと,内空変位や天端沈下量を求めるために既に記憶されている測距データと測角データとに得られた測距データと測角データとを比較演算して特殊測量に対応した測定を行う特殊モードとを有し」との構成は,測定装置が外部からの一般モードないし特殊モードの指示に基づいて,いずれのモードにも対応可能な構成であることを意味しているものである。
被告製品の測定装置に該当するトータルステーションには,「一般モード」「特殊モード」という名称のメニューはないが,上記トータルステーションは,外部コンピュータからの指示に基づいて,トンネル内空変位,天端沈下に対応することが可能な測量器であるから,被告製品は構成要件Bを充足する。被告製品が,一般測量に対応することが可能であることは,前記1で原告らが主張したとおりである。
この点に関し,被告は,被告製品の測定装置に該当するトータルステーションが,内空変位測定や天端沈下量測定の場合も含め,いかなる場合も測角測距を行うのみであるから,被告製品の測定装置は一般モードと特殊モードを有しない旨主張する。しかし,構成要件Bの意味は,前記のとおり,外部からの一般モード,特殊モードの指示に対応可能であることを意味するものである。本件明細書1に,「上述した実施例では,モードとして,一般測量と特殊測量との2つのモードについて説明したが,さらに,測角や測距の精度を測量対象に応じて段階的に分け,これによって作業要求に応じた測量結果を得るようにしても良い。」(甲1の1。5頁右欄下から2行目ないし6頁左欄上から3行目)との記載があることからも明らかなように,本件第1特許発明は,測角測距を行うという点で共通であっても,モードが異なり得ることを前提としているのであって,一般モードと特殊モードがいずれも測角測距を行うものであることを理由にモードが異ならないという被告の主張は当たらない。
(被告) 構成要件Bは,「測定装置は,……一般モードと……特殊モードとを有し」という構成であるから,被告製品が構成要件Bを充足するというためには,被告製品の測定装置に該当するトータルステーションが,一般モードと特殊モードという2つのモードを有している必要があると解釈される。このことは,本件明細書1に「請求項1の発明は,……一般測量と内空変位や天端沈下量を求める特殊測量とを行う際の測定装置を共通化して部品点数を削減するとともに,そのトータルコストを大幅に低減させることができる多機能測量計測システムを提供することを目的としている。」(甲1の1。2頁左欄28ないし32行)と記載されていることからも裏付けられる。
この点に関して,原告らは,構成要件Bの意味を,測定装置が外部からの一般モード,特殊モードの指示に対応可能であることを意味すると主張するが,特許請求の範囲の記載に基づかない主張である。
本件においては,前記1で被告が主張したとおり,被告製品は,一般測量機能を有しないから,被告製品において測定装置に該当するトータルステーションは,一般モードを有していない。また,被告製品のトータルステーションは,測角測距データを取得する機能を有しているにすぎず,内空変位,天端沈下の測定は行わないから(これらの測定を行うのは,トータルステーションに併設されるコンピュータである。),被告製品の測定装置であるトータルステーションが「特殊モード」を有しているとはいえない。
したがって,被告製品の測定装置であるトータルステーションは,一般モードと特殊モードの2つのモードを有しているとはいえないから,本件特許発明構成要件Bを充足しない。
3 争点3(被告製品が構成要件Cの「指示手段」及び「データ処理手段」を有する「データ処理端末」を備えるか) (原告ら) 被告製品においては,別紙「物件目録」記載のNATM-Box及びPDAがデータ処理端末に該当するところ,NATM-BoxはPDAからの指示を受けてトータルステーションに指示し,測量データの処理を行うから,被告製品は,指示手段及びデータ処理手段を有するデータ処理端末を備えている。
この点,被告は,本件第1特許発明においては,データ処理端末を単一の装置によって構成する旨の限定があるかのように主張するが,そのような限定はない。部品点数の削減によるトータルコストの低減は,内空変位計測器と一般の測量機器を兼ねることによって実現されるものであり,データ処理端末を単一の装置によって構成することによって実現されるものではない。
(被告) 本件第1特許発明構成要件Cにおいては,「一般モードと前記特殊モードとのいずれかひとつのモードを指示する指示手段」を備えている必要があるが,被告製品の測定装置には一般モードと特殊モードの2つのモードは存在しないから,これらのうちいずれかひとつのモードを指示する指示手段を備えているということはない。
また,本件第1特許発明構成要件Cにおいてはデータ処理端末自身が指示手段を備えている必要があるところ,被告製品においては,データ処理端末に該当するNATM-Boxは指示手段を備えていない(指示手段は,NATM-Boxとは別個に設けられているPDAである。)。この点,原告らは,NATM-Box及びPDAがデータ処理端末に当たる旨主張する。しかし,本件明細書1には本件第1特許権の目的として「部品点数を削減するとともに,そのトータルコストを大幅に低減させる」旨記載しているのであるから(甲1の1,2頁左欄30ないし31行),データ処理端末をあえて複数の装置によって構成したとしても本件第1特許発明技術的範囲に属する旨の原告らの主張は,明細書の記載に基づかない主張であり失当である。
したがって,被告製品は,本件第1特許発明構成要件Cの構成を有しない。
4 争点4(本件第1特許発明が無効理由を有することが明らかであり,本件第1特許権に基づく権利行使が権利の濫用といえるか) (被告) (1) 原告らの主張するように,一般測量を「マーキングの際に基準点を測量して測量装置の位置を割り出す際に行う測角と測距」をいうと解釈し,特殊モードとは,一般測量によって得られた測角測距データを用いて計算を行うものであるから,特殊モードを有しているのに一般測量することを予定していない測定機はあり得ないと解釈した場合には,本件第1特許発明は,本件第1特許権の出願前に存在していた内空変位測定及び天端沈下量測定を行える3次元測定システムである株式会社ソキア製のMONMOSと同一の構成であるから,新規性がなく,本件第1特許発明は明らかな無効理由を有しており,原告らの請求は権利の濫用である。
(2)ア 構成要件AとMONMOSの対比 MONMOSは,平成3年6月28日発行の日経コンストラクションに掲載されているところ(乙1),測角測距を行うNET2と呼ばれる測定機と,測角測距データに基づくデータ処理を行うコントロールターミナルSDR4Bとを有するから(乙2。7,9頁)構成要件Aを満たす。
また,MONMOSは,測角測距を行うから,原告らの主張するように測角測距を行うことをもって一般測量であるというのであれば,MONMOSは一般測量に対応した測定を行う一般モードを有する。
構成要件BとMONMOSの対比 乙1の記載から,MONMOSが内空変位及び天端沈下量を測定できることは明らかであるから,特殊測量にも対応可能である。
よって,MONMOSは,一般モードと特殊モードとを有するから,構成要件Bを満たす。
構成要件CとMONMOSの対比 カタログ(乙2)によれば,MONMOSのコントロールターミナルは「計算・表示・記憶・印字・解析」を行うことができ「SDR4Bは3-DステーションNET2に接続して使用,視準以外の操作をすべて集中コントロール」できるものであるから(乙2の9頁),コントロールターミナルは指示手段及びデータ処理手段を有する。よって,MONMOSは構成要件Cを満たす。
(3) 上記のとおり,本件第1特許発明は,特許出願前に存在していたMONMOSと同一であって新規性を有しておらず,無効理由を有することが明らかである。したがって,本件第1特許権に基づく権利行使は,権利の濫用として許されない。
(原告ら) (1) 被告は,本件第1特許権の出願前に存在したMONMOSを根拠に本件第1特許発明には新規性がない旨主張する。
被告の上記主張は,原告らが,一般測量によって得られた測角測距データを用いて計算を行うのが特殊測量であり,特殊モードを有しているのに一般測量することを予定していない測定機はあり得ないと解釈していることを前提とするようであるが,原告らはそのような主張をしておらず,被告の前提は誤っている。
(2) また,被告は,MONMOSが測角測距を行うことを根拠に,MONMOSが本件第1特許発明に係る測定装置と同じ構成を有する旨主張するが,MONMOSにおいて可能な測角測距は,内空変位や天端沈下量を求めるための測角測距のみであって,マーキングの際の基準点の測量(一般測量)まではできない。MONMOSに採用されているトータルステーションNET2は,プリズムを使用した測量の場合,実質的に30ないし100mまでしか測量できず,精度も低い(甲23)。そのため,MONMOSを導入したトンネル現場では更に他の一般測量機器を導入する必要があった。
5 争点5(被告方法が構成要件e「予めその座標を知っておき」の方法に該当するか) (原告ら) 本件第2特許発明構成要件eにおける「予めその設置座標を知っておき」とは,マーキング作業を行う前に予め知っておくことを意味するのであって,機械を設置する前から機械設置点の座標を決めておくことを意味しているものではない。測量用の光学装置は,その現在位置と測量対象の方角や距離から相手位置を割り出して作業(マーキング等)を行うものであって,現在位置を確認してから作業終了までの間に光学装置を移動させることは出来ない。仮に光学装置を移動させた場合には再度の位置確認が必要となる。本件第2特許発明構成要件eでは,このことを「予めその設置座標を知っておき」としているものである。
そして,被告製品は,マーキング作業を行う前に機械設置点の座標軸を予め確認する構成を有している。なお,被告は,機械設置点の座標測定を繰り返し行い得ることを被告製品の特徴として主張するが,「SuperNATM Manual digest version」(甲16)によれば,現実には,機械設定した後6時間以内に後方交会を行っていればマーキング作業の都度機械設置点の座標測定を行わないものと思われるから,被告方法についての被告の上記主張は,事実に反する。被告方法が,本件第2特許発明構成要件eを充足することは明らかである。
なお,マーキングのためには,どのような方法であるにせよマーキングに用いる機器以外の測量機器が必要であるところ,本件第2特許発明では測定機の設置座標を他の測量機器による測量によって知り,被告製品においては,後方交会法に用いる2つの基準点の座標を他の測量機器による測量により知っておきこれを用いて測定機設置座標を測定するというのであるから,本件第2特許発明と被告製品との違いは,他の測量機器を直接的に使用するか間接的に使用するかの差異でしかない。被告は,被告製品が後方交会法によって測定機の設置座標を知る手法を採用していることを根拠に本件第2特許発明技術的範囲に属しないと主張するようであるが,後方交会法自体は,従来からある一般的な手法である。本件第2特許発明出願時には,レーザー光投射装置の設置座標を正確に測定する作業は非常に複雑なものであったことから,本件第2特許発明の特許請求の範囲には,レーザー光投射装置の設置座標や基準点の座標を予め知っておく構成が記載されているものの,その後の技術の進歩によって,機械設置位置を後方交会法で簡単に知ることができるようになったものである。被告製品がかかる手法を採用していることをもって本件第2特許発明とは異なる新たな技術であるかのように主張しているにすぎない。
(被告) 構成要件eの「予めその設置座標を知っておき」とは,「機械を切羽断面手前の位置に設置する前に前もってその設置座標を知っておき」と解釈するのが自然である。
本件第2特許発明の特許請求の範囲には「座標が既知の別の基準点」との文言が使用されており,このように「別の」という語が使用されているのは基準点の他に既知の点があることを前提としており,基準点の他に既知の点とは機械設置点しか考えられないから,上記のような記載からも,機械設置点が機械設置前に既知であることが裏付けられる。さらに,本件明細書2には「レーザー光投射装置1及び駆動装置7は,図面に示すように,切羽断面18手前の位置に設置され,この設置座標P(X0,Y 0,Z 0)は,予め他の測量機器による測量により既知である。」と記載されており(甲2の1。2頁右欄41ないし44行),かかる記載は,上記のような解釈に合致する。原告らは,本件第2特許発明の出願時には,レーザー光投射装置の設置座標を正確に測定する作業は非常に複雑なものであったことから,本件第2特許発明の特許請求の範囲には,レーザー光投射装置の設置座標や基準点の座標を予め知っておく構成としたものである旨主張しており,この主張からも,原告らが,本件第2特許発明構成要件eを「機械を切羽断面手前の位置に設置する前に前もってその設置座標を知ってお」くという意味で記載したことは明らかである。
ところが,被告製品においては,測定機を設置した後に,基準点2点からの測角測距から後方交会法によって機械設置点の3次元座標を自動的に求める。機械設置点の座標軸を機械設置前に予め知っておくことを要する本件第2特許発明では,振動や地山の変動によって機械の設置位置がずれたような場合には,マーキング位置も誤ってしまうことになるが,基準点A点の視準と同時に機械設置点の座標軸を求める被告方法では,機械の設置位置を任意の場所に設定でき,トータルステーションが当初の設置位置からずれた場合にも正確なマーキングを行い得るという違いがある。
原告らは,「SuperNATM Manual digest version」(甲16)の記載を挙げて,被告製品では,機械を設定した後6時間以内に後方交会を行っていればマーキング作業の都度機械設置点の座標測定を行わないものであると主張するが,甲16に示す設定画面は定期的に後方交会を行う際の時間間隔を設定することができることを示すものであって,原告らの主張は失当である。
6 争点6(被告方法が構成要件f「座標が既知の別の基準点を前記光波測角測距儀により視準し,この視準による前記設置座標からの測角測距データを得て」を充足するか) (原告ら) (1) 被告方法においては,後方交会法を行う際に基準点からの視準による機械設置点座標からの測角測距データを得てマーキングの基準となる方向を検知する工程を有しており(別紙「被告方法目録」記載のステップ2),これは,構成要件fの「座標が既知の別の基準点を前記光波測角測距儀により視準し,この視準による前記設置座標からの測角測距データを得て」に該当する。
(2) この点に関して,被告は,被告方法におけるA点の視準は機械設置点座標を知るためであって,レーザー照射装置の方向を決定するためではなく,未知の機械設置点座標から既知の基準点A点を視準して測角測距データを得るのであるから,既知の機械設置点座標から既知の基準点を視準する構成要件fとは異なる旨主張する。しかし,基準点A点の視準が機械設置座標を求めるために利用されているとしても,レーザー照射装置の方向を決定するためにも利用されていることは明らかである。また,機械設置点座標が既知であるか未知であるかといった点には技術的意義はない。
また,被告は,被告方法においては基準点A点の方向角をゼロにして作業基準点までの水平角度を演算するため,水平角度の演算において基準点A点の座標を用いないから,基準点A点の測角測距データを得る工程を有しない旨主張する。
しかし,被告製品においては基準点A点の方向角度をゼロとして作業基準点までの水平角度を求めており,基準点A点の測角測距データが判明していなければ,基準点A点の方向角度をゼロにする作業は行い得ないのであるから,被告方法においても,基準点A点の測角測距データを得る工程を経ていることは明らかである。
さらに,被告は,上記のような原告らの主張が,特許異議申立事件における原告らの特許異議答弁書(乙5)の主張と矛盾する旨主張する。
しかし,被告の上記主張は,本件第2特許権に対する異議申立事件において引用された特開平2-210213号公報(乙3)に記載されたマーキング方法(以下「乙3に係るマーキング方法」という。)におけるB点,C点の視準が,被告方法における基準点2点の視準と同一視できることを前提としているところ,そもそも乙3に係るマーキング方法に用いられている装置は,レーザー光と測角測距装置とは独立してそれぞれの方向を向くものであって(電子セオドライト及び光波測距計を乗せた支持体レーザー自動発射装置がそれぞれ独立して別の基台に載せられており,レーザー自動発射装置にガルバノメーターと鏡が2組取り付けられている。),本件第2特許発明や被告方法とは全く構成を異にする装置によるマーキング方法である。したがって,被告の上記主張は,乙3に係るマーキング方法におけるB点,C点の視準が被告方法における基準点2点の視準と同一視できるとする前提が間違っている。乙3に係るマーキング方法においては,B点,C点の視準によって機械設置座標を求め,これとは別に電子セオドライトによって測角測距データを得てレーザ自動発射装置の向きを求めるのに対し,被告方法においては,2つの基準点の視準によって機械設置座標を求め,かつ,レーザ光照射装置の向きを求めるのであるから,乙3に係るマーキング方法におけるB点,C点の視準は,本件第2特許発明に係る構成要件fの視準と同視することはできないが,被告方法における2つの基準点の視準は,構成要件fの視準と同一視できる。
(被告) (1) 被告方法においては,基準点を視準して機械設置点座標からの測角測距データを得るステップを有していない。別紙「被告方法目録」記載のステップ2においては,機械設置点の座標を求めるために2つの基準点を視準するものであって,その後に,基準点までの測角測距データを得るために基準点を視準することはない。被告方法においては,上記のような工程を経るため,被告方法のステップ2においては,未知の機械設置点座標から,既知の基準点A点を視準することになるのであって,既知の機械設置点座標から既知の基準点を視準する構成要件fとは構成を異にする。
また,被告方法においては,後方交会法で機械設置点座標を求める際にレーザー照射装置が基準点を向き,この方向角をゼロにするため,レーザー照射装置の向きを求めるために測角測距データを得るステップは不要である。
(2) この点に関して,原告らは,基準点A点の視準が機械設置座標を求めるために利用されているとしても,レーザー照射装置の方向を決定するためにも利用されていることは明らかであるから本件第2特許発明における基準点の視準と被告方法におけるA点の視準は全く同じである旨主張する。
しかし,原告らは,本件第2特許権に対する特許庁の特許異議申立手続において,異議申立人が,既知の点B及びCを視準して機械設置位置を確定する内容の先行技術(特開平2-210213号公報。乙3)を指摘したところ,「本願発明の設置座標P……は,予め他の測量機器による測定により既知である……。したがって,甲第1号証のB点およびC点は,本願発明の既知の設置座標P……から同じく既知の別の基準点O……を睨むための対象点としての基準点O……とは全く関係がない。本願発明においては,既知の設置座標P……から……別の基準点Oを睨むときに得られる『測角測距離データ』を得ることが重要なのである。」旨の答弁書(平成8年12月2日付特許異議答弁書。乙5)を提出しており,機械設置座標を求めるための基準点の視準(被告方法によるA点の視準)とレーザー照射装置の向きを求めるための視準(本件第2特許権における基準点の視準)とは全く異なるものと述べている。特許異議申立事件における異議答弁書での原告らの上記主張によれば,被告方法においては,「座標が既知の別の基準点を前記光波測角測距儀により視準し,この視準による前記設置座標からの測角測距データを得る」という構成要件fの工程を有しないことになるのであるから,本件訴訟において,原告らが,被告方法におけるA点の視準と「座標が既知の別の基準点を前記光波測角測距儀により視準」することが同一であると主張することは,上記主張と矛盾するものであって,包袋禁反言の原則から許されない。
また,原告らは,機械設置点座標が既知であるか未知であるかは技術的意義を有しない旨主張する。しかし,機械設置点座標が既知の状態で基準点を視準する場合には,機械設置位置がずれたような場合に視準による測角測距データが不正確になるのに対し,機械設置点座標が未知の状態で基準点を視準し,当該視準によって機械設置点の座標を求める場合には,機械設置位置がずれるおそれがないため,測角測距データが正確になるという技術的意義を有する。
7 争点7(被告方法が構成要件g「前記演算制御装置に与えられた計画トンネル線形および計画トンネル断面形状に基づいて,前記切羽断面上における作業基準点を設定し」を充足するか) (原告ら) 被告は,被告製品の演算装置に該当するNATM-Boxに計画トンネル線形及び計画トンネル断面形状が与えられておらず,これらの情報を与えられているのは別紙「物件目録」記載の事務所PCであると主張するが,事務所PCから転送されるのかNATM-Boxから事務所PCに転送されるのかは定かではないものの,NATM-Boxにも計画トンネル線形及び計画トンネル断面形状の情報が存在している。
少なくとも,NATM-Box,事務所PC及びPDAを併せれば,本件第2特許発明の「演算制御装置」に該当することは明らかである。ネットワーク化の進んだ現在,一つの装置として記載されている構成を複数の装置にして同様の機能を持たせることは容易であり,そのような方法によって特許権の効力を回避することは許されない。
(被告) 本件第2特許発明構成要件c及びgによれば,演算制御装置は,計画トンネル線形及び計画トンネル断面形状が与えられ,作業基準点を設定し,レーザー光投射装置を鉛直方向及び水平方向に移動させる装置である。
ところが,被告製品においては,演算装置に該当するNATM-Boxには計画トンネル線形及び計画トンネル断面形状が与えられていない(これらの情報が与えられているのは事務所PCである。)。
したがって,被告方法は本件第2特許発明の「演算制御装置」を有しない。
8 争点8(被告方法が構成要件h「前記演算処理装置で前記測角測距データに基づいて前記作業基準点に向けての前記設置座標からの鉛直角度および水平角度を演算し」を充足するか) (原告ら) (1) 被告方法における水平角度の計算は,測角測距を行ったデータに基づいて,基準点A点を向いたときの角度をゼロとして,作業基準点までの角度を求めるものである。また,被告方法における鉛直角度の計算は,基準点から作業基準点までの鉛直角度ではなく,機械設置点を含む水平面から作業基準点までの角度を求めるものである(別紙「被告方法目録」のステップ4,5)。
水平角度の演算方法においては,基準点A点の測角測距データが判明していなければ,基準点A点の方向角度をゼロにする作業は行い得ないのであるから,被告方法においても,基準点A点の測角測距データに基づいて水平角度を演算していることは明らかである。
鉛直角度の演算方法については,基準点A点と機械設置点の3次元座標は明らかであるから,作業基準点までの鉛直角度を,基準点A点からの相対角度か,地球の水平面からの絶対角度かどうかの違いは,測量手法としての根本的な違いとはなり得ない。トータルステーションを備えたレーザー光投射装置であれば,機械設置点座標を含む水平面から基準点A点までの鉛直角度はトータルステーションに内蔵されている重力式鉛直方向検出装置により,誰でも見出せるものであって,格段の技術的意味はない。基準点からの鉛直角度を算出してこれに基づいて駆動させる場合でも,水平方向からの鉛直角度を算出してこれに基づいて駆動させる場合でも,結局同じ方向にレーザーを向かせることになるのであって,本質的な違いはない。本件第2特許発明構成要件hでは,鉛直角度の角度演算方法において何の限定もしていない。
よって,測角測距を行ったデータに基づいて,基準点A点を向いたときの角度をゼロとして作業基準点までの水平角度を求め,機械設置点を含む水平面から作業基準点までの角度を求める被告方法は,構成要件h「測角測距データに基づいて前記作業基準点に向けての前記設置座標からの鉛直角度および水平角度を演算」する方法に該当する。
(2) 被告は,レーザー光投射装置を駆動させる始点の差異(本件第2特許発明が基準点であるのに対し,被告方法においては現在の視準点である)を問題にしているが,このような差異は,格別の技術的意義を有するものではない。
(被告) (1) 本件第2特許発明構成要件hにおいては,機械設置座標からの基準点の測角測距データに基づいて作業基準点までの水平角度及び鉛直角度を演算している。
ところが,被告方法においては,水平角度については,基準点の方向角をゼロにするため,作業基準点の測角測距データに基づいて水平角度を演算しているとはいえない。鉛直角度の演算は,水平面からの鉛直角度を求めている点で異なる(別紙「被告方法目録」記載のステップ4)。
この点に関して,原告らは,本件第2特許発明構成要件hでは,鉛直角度の角度演算方法において何の限定もしていない旨主張するが,特許請求の範囲には「前記演算処理装置で前記測角測距データに基づいて前記作業基準点に向けての前記設置座標からの鉛直角度及び水平角度を演算し」と鉛直角度の演算方法について具体的に記載されており,前記作業基準点に向けての前記設置座標からの鉛直角度を演算する構成に限定しているというべきである。
また,本件第2特許発明構成要件hでは,基準点からの機械設置点の測角測距データに基づいて鉛直角度および水平角度を演算しているのに対し,被告方法では,基準点であるA点,機械設置点,作業基準点であるB点のそれぞれの座標に基づいて鉛直角度及び水平角度を演算しているという違いがある。
したがって,被告製品を用いたマーキングは,本件第2特許発明構成要件hを充足しない。
(2) 本件第2特許発明構成要件hにおいては,レーザー光投射装置が基準点を向いていることを前提に,基準点から作業基準点まで,構成要件hにおいて演算された鉛直角度及び水平角度でレーザー光投射装置を振る方法が記載されている。
ところが,被告方法においては,基準点であるA点に限らず,現在の視準点を始点として,前記のとおり,構成要件hとは異なる方法(別紙「被告方法目録」記載のステップ4)によって演算された鉛直角度及び水平角度でレーザー光投射装置を作業基準点まで振る(別紙「被告方法目録」記載のステップ5)。
したがって,被告方法は,構成要件hを充足しない。
この点に関して,原告らは,レーザー光投射装置を駆動させる始点の差異は,格別の技術的意義を有するものではない旨主張するが,他方で,原告らは,本件第2特許権に対する異議申立事件の特許異議答弁書(乙5)において,「本願発明の『設置座標P(X0,Y 0,Z 0)は,予め他の測量機器による測定により既知である』ものである。したがって,甲1号証のB点およびC点は,本願発明の『既知の設置座標P(X0,Y 0,Z 0)』から同じく既知の『別の基準点O(X 1,Y 1,Z 1)』を睨むための対象点としての『基準点O(X 1,Y 1,Z 1)』とは全く関係ない。」と記載している。
9 争点9(本件第2特許発明が無効理由を有することが明らかであり,本件第2特許権に基づく権利行使が権利の濫用として許されないか) (被告) (1) 本件第2特許発明は,特許出願前に存在していた一般的なマーキング方法の組合せであるから,進歩性がなく,本件第2特許発明は明らかな無効理由を有している。したがって,本件第2特許権に基づく原告らの請求は権利の濫用として許されない。
本件第2特許発明は,昭和61年9月1日に出版された「トンネルと地下」1986号9月号「シールド工法の自動化システム(5)」(乙7。73頁第4図)に記載されたレーザートランシット(以下「乙7に係るレーザートランシット」という。)と,昭和61年11月20日に公開された特開昭61-262611号公報(乙6)に記載された自動墨出し装置(以下「乙6に係る装置」という。)とを組み合わせた構成であって,進歩性を有しない。
乙7に係るレーザートランシットは測量に用いられる装置であるから,乙6に係る装置と組み合わせてマーキングを行うことは容易に想到できる。また,従来のレーザーを用いない水平角度の測角では,作業員が望遠鏡により視準して測量点を設置していたが(乙10),作業員の視準の代わりにレーザーを照射して省力化を図るという発想は極めて自然である。
(2) 乙7及び乙6の記載内容 ア 乙7には次のような記載がある。
「受光信号によりレーザトランシットの振り角駆動モータを作動し,受光器を追尾するように制御している。この水平方向および鉛直方向の振り角を読み取り,出力する。」(乙7。72頁右覧下から5行ないし2行) イ 乙6には次のような記載がある。
(ア) 「該レーザ光照射ガン(1)は二個のエンコーダ付モータ(2)(3)を介して基台(4)上に枢設され,3次元の自由度を持つもので,レーザ光照射ガン(1)を仰向方向に駆動する垂直回転側エンコーダ付モータ(2)を,基台(4)上に水平方向回動自在に駆動枢設する水平側エンコーダ付モータ(3)を介して枢着してなる。」(乙6。2頁右下欄9行ないし3頁左上欄1行) (イ) 「上記垂直および水平側エンコーダ付モータ(2)(3)はそれぞれマイクロコンピュータ(5)によりフィードバック制御されるものであり」(乙6。3頁左上欄1行ないし4行) (ウ) 「該マイクロコンピュータ(5)にはあらかじめ図面等から墨出し位置のデータが入力されており,レーザ光照射ガン(1)の位置入力値との演算により該マイクロコンピュータ(5)から照射位置に相当する駆動角度(θ1)(θ2)を両エンコーダ付モータ(2)(3)にそれぞれ出力するようになる。」(乙6。3頁左上欄4行ないし9行) (エ) 「測量における墨出し作業に際して,本発明装置はレーザー光照射装置を墨出しを必要とする壁面の前方に設置し」(乙6。2頁右上欄9ないし11行) (オ) 「第3図に示すごとく壁面(a)とレーザ光照射ガン(1)の距離をLとすると基点PからL1離れた墨出し点P’はレーザ光照射ガン(1)を変位角θ=tan-1L 1/L回転せしめて得られる」(乙6。2頁左下欄7ないし11行) (カ) 「この場合作業者は投光されたレーザ光スポットの近傍位置に待機しており,該スポット位置に印付けをすることにより,順次壁面の墨出し作業を続けることができる。」(乙6。2頁左下欄13行ないし同頁右下欄1行) (3) 乙7及び乙6と本件第2特許発明との対比 ア 構成要件a 前記(2)アの記載によれば,乙7に係るレーザートランシットは,レーザー光の光軸と光波の光軸が平行な構成を有するから,構成要件aに該当する。
構成要件b 前記(2)アの記載内容から,乙7に係るレーザートランシットは,「鉛直方向および水平方向に駆動する駆動装置」(構成要件b)を有しているといえる。
また,前記(2)イ(ア)記載のエンコーダ付モータ(2)(3)は,「レーザー光投射装置を支持して,鉛直方向および水平方向に駆動する駆動装置」に該当する。
構成要件c 前記(2)イ(イ)(ウ)記載のマイクロコンピュータ(5)は「前記駆動装置を作動させてレーザー光投射装置を鉛直方向および水平方向に移動させる演算制御装置」であり,マイクロコンピュータ(5)には,あらかじめ図面等から墨出し位置のデータが入力されており,レーザ光照射ガン(1)の位置入力値との演算により,照射位置に相当する駆動角度をエンコーダ付モータ(2)(3)に出力するのであるから,マイクロコンピュータ(5)は「測角測距データとトンネル形状情報に基づいて」レーザー光投射装置を移動させている。
そして,乙6に係る装置と乙7に係るレーザートランシットを組み合わせた場合には,上記測角測距データはレーザー光投射装置に設けられた光波測角測距儀から得られるから,乙6に係る装置と乙7に係るレーザートランシットを組み合わせると,構成要件cを満たす。
この点,原告らは,上記図面は,断面情報にすぎず,トンネル線形情報(本件明細書2第5図のような掘り進んだときの切羽面の軌跡情報)ではない旨主張する。しかし,乙6の記載は,「図面等から墨出し位置が入力されており」と記載されているだけで,図面等が平面であるとは記載されていない。図面は,トンネル工事における発破装薬位置のパターンを表示する際の墨出し位置のデータを求めるための情報であるから,本件第2特許発明におけるトンネル線形情報に相当する情報であることは明らかである。
構成要件d 前記(2)イ(エ)によれば,乙6に係る装置においてはレーザ光照射装置を,墨出しを必要とする壁面の前方に設置するから,乙6に係る装置は,構成要件dを満たす。
構成要件e 前記(2)イ(ウ)によれば,マイクロコンピュータ(5)にはレーザ光照射ガン(1)の位置が入力されていることが前提となっているから,乙6に係る装置は,構成要件eを満たす。
構成要件f 前記(2)イ(オ)によれば,乙6に係る装置では,変位角θの演算に基点Pまでの距離を用いていることから,基点Pの座標は既知であるといえる。また,同(オ)によれば,墨出し点P’はレーザ光照射ガン(1)を,基点Pから変位角θだけ回転させて得られるのであるから,基点Pを視準していることを前提としている。さらに,乙6に係る装置には,測角測距についての詳細な説明はないが,自動墨出しを行う際に測角測距データを取得することは当然の前提になっているといえる。なお,乙7に係るレーザートランシットを組み合わせた場合には,測角測距データはレーザー光投射装置に設けられた光波測角測距儀により得られるものである。したがって,乙6に係る装置は構成要件fを満たす。
この点に関し,原告らは,乙6に係る明細書の図3から,点Pが照射点であるから作業基準点ではないと主張する。しかしながら,「点P’はレーザ光照射ガン(1)を変位角θ=tan-1L 1/L回転せしめて得られる」(乙6号証2頁左下欄9ないし11行)と記載されていることからも明らかなとおり,点Pは,点P’にレーザー光を照射するための基準点である。点Pが基準点でありかつ照射点であったとしても問題はないし,上記式によって点P’が得られる以上,点Pの座標は既知である。本件明細書2(甲2の1)においても「b点を照射する場合には,a点を既知の基準点とすることにより,再度基準点Oを視準することなく,能率的に順次作業基準点b〜c〜……を照射できる」(甲2の1の3頁左欄28行ないし30行)と記載されている。
また,原告らは,前記(2)イ(オ)は,レーザー光照射ガン設置位置と,基点P,墨出し点P’が直角三角形であることを前提にしているとして,乙6に係る装置は,空間内における座標に基づく計算思想ではないと主張する。しかし,乙6号証に記載された発明は,測量技術に係るレーザー光利用による自動墨出し点をマーキングする技術であることは明らかである。乙6に係る明細書の第3図は,平面を用いて駆動角θの求め方を説明しているが,これは平面の例で説明するのがわかりやすいからであって,第3図の説明をもって,乙6に係る発明が,空間内の座標系に基づかないとするのは失当である。乙6に係る発明のエンコーダ付モータ(2)(3)は,仰角方向に駆動するモータ,水平方向に駆動するモータなのであるから,乙6に係る発明が空間内座標系でレーザー光照射ガンを駆動することは明らかである。
構成要件g 前記(2)イ(ウ)によれば,図面等はあらかじめマイクロコンピュータ(5)に与えられており,「図面等から墨出し位置のデータが入力され」という構成は「前記演算制御装置に与えられた計画トンネル線形および計画トンネル断面形状に基づいて,前記切羽断面上における作業基準点を設定し」(構成要件g)に該当する。
構成要件h 前記(2)イ(オ)記載の変位角θの演算は「測角測距データに基づいて前記作業基準点に向けての前記設置座標からの鉛直角度及び水平角度を演算し」(構成要件h)に当たる。また前記(2)イ(ウ)「該マイクロコンピュータ(5)から照射位置に相当する駆動角度(θ1)(θ 2)を両エンコーダ付モータ(2)(3)にそれぞれ出力する」の構成は,「その鉛直角度および水平角度で前記駆動装置を作動させてレーザー光投射装置を振って,前記作業基準点にレーザー光を投射させ」(構成要件h)に該当する。
構成要件i 前記(2)イ(カ)記載の構成は,構成要件iに該当する。
(4) 特許異議却下決定(乙11)との関係 特許庁は,株式会社フジタが,上記乙6及び乙7を指摘してした,平成8年2月8付特許異議申立てに対し,乙6及び乙7には本件第2特許発明の具体的な構成が開示されていない,乙6及び乙7では本件第2特許発明の効果(凹凸の激しい切羽断面また,トンネル線形が曲線であっても正確にマーキングできる)を期待できないとして,これを却下する決定をした(乙8の1・2,11)。
しかし,乙6及び乙7に,測角測距に関する当業者の通常の知識を合わせて読めば,具体的な構成が開示されていることは明らかである。また,乙6の墨出し装置は,トンネル中心点から所定の長さの紐を用いて作業基準点をプロットしていた従来技術と異なり,墨出し点を直接照射するので,凹凸の激しい切羽断面また,トンネル線形が曲線であっても正確にマーキングできるものである。
(5) 視準方向をレーザー光軸と平行あるいは一致させるという技術が本件第2特許発明の特許出願前から周知であったことについて ア 「トンネルと地下」昭和61年9月号の裏表紙にレーザーアイピースが掲載されているところ(乙13),このレーザーアイピースGLO2は,本件第2特許発明の特許出願前の昭和52年1月から販売されていたものである(乙12の2)。そして,このレーザーアイピースのカタログには,「照射されるレーザービームは非常に正確に望遠鏡接眼レンズの視線に一致したものとなり,観察されるターゲット上に正確に焦点の合った赤い輝点として投影されます。」との記載があり(乙12の1。2頁中欄),さらに,穿孔および切断のためのポイントのマーキングに使用できることが記載されている。
イ 「トンネルと地下」昭和61年9月号の裏表紙にレーザーセオドライトSLT20が掲載されているところ(乙13),このレーザーセオドライトSLT20の商品説明(乙14)には,「視準軸とレーザー光軸が一致していますので,目標を視準しながら,鮮明で最少径のレーザスポットを的確に照射できます。」と記載されている(乙14の「特長」の枠内左側)。
ウ 以上のとおり,本件第2特許発明出願前から,視準点とレーザー照射方向との距離が一定になるように,視準方向をレーザー光軸と平行あるいは一致させるという技術は周知であった。 (原告ら) 乙6に係る装置について,被告は,P点が本件第2特許発明の座標既知の基準点に対応するものであるかのように主張するが,乙6の第3図に壁面上のPからP’の相関関係がありその下には「P-P’-照射点」との記載があることから,P点は座標が既知の基準点ではなく,壁面に投射されたレーザー光であることがわかる。そして,乙6に係る装置では,トンネル断面が掘削されるたびにP点の位置が変化するので,その都度,レーザー光のトンネルセンターからの相対位置やカーブによる断面の傾きを計測しなければならない。また,乙6に係る装置では,P点からの相対的なレーザー照射角を求めている点から,トンネル線形情報に基づいたレーザー照射点でないことも明らかである。
この点に関して,被告は,点Pを照射点でありかつ基準点であるとし,同点の座標は既知であると主張するが,仮にそうであるとすれば,甲2の1の第5図の座標系内において点Pの座標軸と測定機設置位置の座標軸が既知なのであるから,いかなる位置関係においても変位角θを求められることになる。
また,そもそも,乙6に係る装置は,乙6に係る明細書の図3やθを求める式が直角二等辺三角形を前提とする平面における座標系に基づく式であることから,本件第2特許発明のような空間における座標系における計算思想ではない。被告は,乙6に係る装置の「図面等」がトンネル線形情報に当たると主張するが,トンネル線形情報とは甲2の1の第5図に記載されているような立体的なデータであり,乙6のように壁面という平面における図面データL1からは得られない情報である。
10 争点10(損害の内容及び額) (原告ら) (1) 本件各特許権について 被告が被告製品を貸与等したことによる本件各特許権の侵害により,原告らは,5億8099万7901円の損害を被った。
(2) 本件第2特許権について 本件第2特許権について,損害の詳細な主張は次のとおりである。
ア 主位的損害主張について 被告は,被告製品を貸与することで,平成15年1月1日から平成16年2月28日までの間に,次のとおり,5億8099万7901円の利益を受けている。原告らは,本件第2特許権を各2分の1の持分で共有しているから,特許法102条2項によれば,原告らは,それぞれ上記被告利益相当額の半額である2億9049万8950円の損害を被ったものと推定される。
(ア) 1日の貸与料金 被告製品の貸与料金は1月60万円(甲35)ないし56万6666円(甲46の1ないし4)であるから,1日の貸与料金は2万円である。
(イ) 貸与台数 a 原告らの主張 被告製品は,別紙「損害に関する原告ら主張一覧表」の「現場名」欄記載の103箇所の各トンネル工事現場に少なくとも1台ずつ貸与されている。
また,上記トンネル工事現場の中には,被告製品のほか,バックアップ用として,被告製品を構成するトータルステーションと同様の機能を有する「SuperNATM Backup」(甲10,13)を貸与しているところもあり,被告製品に加えて「SuperNATM Backup」を貸与している現場については,被告製品の設置されている場所と「SuperNATM Backup」の設置されている場所の2箇所で被告方法を行っていることになるから,被告製品が2台貸与されたものとして扱うべきである。
b 被告の主張に対する反論 @ 平成14年12月31日以前に買戻特約付で売買したとの主張について 被告は,別紙「損害に関する被告主張一覧表」の「現場名」記載の105箇所の各トンネル工事現場(同一覧表の番号欄の最後には103と記載されているが,29,30番の欄が2つあるため実質的には105箇所である。なお,別紙「損害に関する被告主張一覧表」の「現場名」欄記載の現場は,上記29番,30番に相当する工事現場を上下,海側山側とそれぞれ区別した点を除いて,別紙「損害に関する原告ら主張一覧表」と同一である。)のうち26箇所は,原告らが侵害の根拠とする特許法101条4号(平成14年法律第24号により新設)の施行日である平成15年1月1日より前に買戻特約付で売買したものであるから,当該売上については,被告の侵害行為によって受けた利益の額ということはできない旨主張する。
しかしながら,上記買戻特約付売買は,@当初,被告が被告製品を売り渡し,顧客が売買代金相当額を支払い,A顧客の使用期間が終了した際に,顧客が被告に対して被告製品を返還し,被告が顧客に対して上記売買代金から同期間の貸与料金相当額を差し引いた金銭を支払うというものである。そうすると,上記買戻特約付売買は,全体としてみれば,被告が被告製品を顧客に一定期間使用させ,顧客が被告に対して当該期間の使用の対価を支払うというものであるから,実質的には被告製品の貸与である。そうすると,平成15年1月1日以降,顧客が被告に対して被告製品を返還するまでの間は,本件第2特許権の侵害がなされているものというべきである。
A レーザー照射機能を有しない状態で被告製品を貸与等した旨の主張について 被告は,上記105箇所のうち25箇所については,被告製品を構成するトータルステーションにレーザー照射用装置であるGUS74レーザーを付けない状態で貸与等しており,かかる状態では被告方法を実施することはできないから,上記25箇所の現場については,被告が,被告製品が本件第2特許発明実施に用いられることを知りながら被告製品を貸与した(特許法101条4号)ということはできない旨主張して,上記25箇所の工事現場における被告従業員の作業報告書乙46ないし69を提出する。
たしかに,上記作業報告書には「照射機能なし」又は「外周照射なし」と記載されているが,このうち,「外周照射なし」と記載された工事現場については,アタリ取り,ロックボルト等の作業でレーザー照射機能を使用している可能性がある。
(ウ) 貸与期間 被告は,別紙「損害に関する原告ら主張一覧表」の「現場名」欄記載の103箇所の工事現場において,同一覧表「開始」欄記載の日から同一覧表「終了」欄記載の日まで,同一覧表「使用日数」欄記載の使用日数分,被告製品を貸与している。
(エ) 利益率 a 被告製品の利益率 @ 製造原価 被告製品を構成する各パーツ製品は,別紙「原価表」の「部品名」欄記載のとおりであるところ,各パーツ製品の単価は,同表の「価格(税抜き)」欄記載のとおり合計353万7104円である(甲21,47,49ないし59)。
なお,上記353万7104万円のうち28万1138円は人件費であるが,この人件費は次のように被告製品の開発費1台7万4419円とハードの組み付け費用1台20万6719円を合計して算出した。被告製品の開発にシステムエンジニア3名が6か月を費やして200台生産したと仮定して,システムエンジニア1人の月単価が82万6875円(甲48)であるから,7万4419円(82万6875円×3人×6か月÷200台)が1台当たりの開発費である。
ハードの組み付けは,システムエンジニア1人で1週間を費やしたと仮定して,20万6719円(82万6875円÷4)が1台当たりのハード組み付け費用である。
上記353万7104円の製品を5年間運用した場合,在庫金利を3%とすると,5年間で製造原価は406万7670円になる。
A メンテナンス・サポート費用 年間メンテナンス費用が20万円,年間0.5人月のサポートを行う場合には,5年間でメンテナンス費用が100万円(20万円×5年間),サポート人件費が206万7188円(82万6875×0.5×5年間)になる。
B 以上,製造原価(406万7670円),メンテナンス費用(100万円),サポート人件費(206万7188円)を合計すると,5年間の費用は713万4858円となる。これを1か月分に計算し直すと,被告製品1台を貸与するための1か月の費用は11万8914円(713万4858円÷60か月)となる。
C 被告製品を1台貸与することにより被告が受ける利益 前記(ア)記載のとおり,被告製品の1か月間の貸与料金は少なくとも56万6666円であるから,被告が,被告製品を1か月間貸与した場合の利益は,44万7752円(56万6666円-11万8914円)となり,1日1台当たり1万4925円(44万7752÷30)の利益を得ていることになる。
b 「SuperNATM Backup」の利益率 @ 製造原価 「SuperNATM Backup」は,被告製品を構成するトータルステーションよりも大幅に機器が省略されており,製造に要する人件費は半分で済むから,製造原価は315万7450円で済み,これに在庫金利3%を加味して製造原価は363万1068円である。
A メンテナンス・サポート費用 メンテナンス費用については,前記aAと同様である。
サポート人件費は,被告製品のメンテナンス人件費と兼ねることができるので,0円としてよい。
B 以上,製造原価(363万1068円),メンテナンス費用(100万円),サポート人件費(0円)を合計すると,463万1068円となる。
これを1か月分に計算し直すと,1か月の費用は7万7184円(463万1068円÷60か月)となる。
C 「SuperNATM Backup」を1台貸与することにより被告が受ける利益 「SuperNATM Backup」の1か月の貸与料金は28万円(甲35)であるから,被告が,「SuperNATM Backup」を1か月貸与した場合の利益は,20万2816円(28万円-7万7184円)となり,1日1台当たり6761円(20万2816円÷30日)の利益を得ていることになる。
(オ) 支保工率について 被告は,支保工(トンネル工事において,掘り取った後の空間において崩落を防ぐために建て込む,H型鋼を半円形に曲げたもの)が設置されている場合は,同設備がトンネルの外周を決定する定規の役割をするためレーザーマーキングをする必要がなく,レーザーマーキングを用いるのは,トンネルの長さのうち,支保工が設置されていない長さの部分だけである旨主張する。
しかし,支保工が設置されている区間にもレーザーマーキングは用いられる(甲16。18頁)。
仮に,支保工が設置されている区間については,発破設置位置の特定のために被告方法を用いないとしてもアタリ取り(トンネルの壁面が設計ラインより内側に突出した部分を特定する作業。被告第12準備書面6頁),ロックボルト(トンネルを前方に掘り進んだ後にトンネル壁面にコンクリートを吹き付けコンクリートが吹き付けられた壁面にロックボルトを打設する作業。同準備書面5頁),AGF照射等において被告方法を用いるはずである。
仮に,支保工が設置されている区間については,被告方法を用いないことがあり得るとしても,支保工のために被告方法を用いなかった現場は乙70,71,73,75,76,77,79の7つの現場のみである。
(カ) 被告製品貸与利益における本件第2特許権の寄与率 レーザーマーキング機能を有する点を除いて,被告製品とほぼ同様の機能を有する他業者の製品も存在するが(甲45),原告らの調査によると,上記他業者の製品は,平成15年1月1日から平成16年2月28日までトンネル掘削現場に納入実績がなく,価格も低い。
このことから,被告製品の中でもレーザーマーキング機能の寄与率が極めて高いことが明らかである。
(キ) 結論 被告製品1台を1日貸与した場合の利益1万4925円,「SuperNATM Backup」1台を貸与した場合の利益6761円に,別紙「損害に関する原告ら主張一覧表」記載の使用日数を掛けて合計すると,平成15年1月1日から平成16年2月28日までの被告利益は,5億8099万7901円になる。 イ 予備的損害主張について 特許法102条3項によれば,少なくとも本件第2特許権の実施により受けるべき実施料相当額が原告らの損害額である。
ウ 原告らの請求額 原告らは,本件第2特許権を各2分の1の持分で共有しているから,特許法102条2項によれば,原告らはそれぞれ,上記被告利益相当額の半額である2億9049万8950円の損害を被ったものと推定され(主位的損害主張),また,少なくとも上記実施料相当額(予備的損害主張)の半額の損害を被ったものである。
上記の損害額のうち,原告マックは4540万円及びこれに対する平成15年3月28日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,原告佐藤工業は2270万円及びこれに対する平成16年11月17日(「当事者参加の申出」と題する書面送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告) 被告は,本件各特許権についての原告らの損害の主張を争い,本件第2特許権についての原告らの主張について,次のとおり反論する。
(1) 主位的損害主張について ア 1日の貸与料金 被告製品の貸与料金は,1月18万円であるから(乙19,21ないし30),1日の貸与料金は6000円である。
原告らは,甲46の1ないし4を根拠に,被告製品の貸与料金は6か月で340万円であり,1日1台56万6666円であると主張する。しかし,乙46の2によれば,上記340万円の内訳として,「初期導入費」「施工管理システム基本システム費用」「施工管理システム損料」「切羽観察システム料」「返納整備費用」の費用項目があり,このうち被告製品の代金は「施工管理システム損料」の180万円にすぎない(乙101)。なお,上記費用項目のうち「初期導入費用」「施工管理システム基本システム費用」「返納整備費用」は,システム導入時又はシステム返却時に一時的に発生する費用であり,毎月発生する費用ではない。
このような費用項目まで貸与期間に乗じて売上を計算する計算方法は明らかに誤っている。
イ 貸与台数 (ア) 被告の主張 被告製品は,別紙「損害に関する被告主張一覧表」の「現場名」欄記載の105箇所の各トンネル工事現場のうち,「天端システム」欄に「6,000」と記載のある44箇所に各1台ずつ貸与されている。
残り61箇所のうち「天端システム」欄に「期日該当外」と記載されている26箇所については,平成14年12月31日以前に顧客に買戻特約付で販売したものである。原告らは,本件第2特許権については,平成14年法律第24号による改正後の特許法101条4号に基づいて特許権侵害を主張しているところ,同改正は平成15年1月1日から施行されたから(平成14年法律第24号附則1条1号,平成14年政令第306号),平成14年12月31日以前になされた上記26件の売買については,特許法101条4号の適用はなく,本件第2特許権の侵害ということはできないから,本件第2特許権との関係では,これらの売買による利益をもって特許法102条2項侵害行為によって受けた利益の額ということはできない。
残り35箇所のうち「天端システム」欄に「別システム」と記載されている25箇所については,被告製品を貸与しているものの,被告製品を構成するトータルステーションにレーザー照射用装置であるGUS74レーザーを付けない状態で納品しており(乙83ないし100),かかる状態では被告方法を実施することはできないから,上記25箇所の現場については,被告が,被告製品が本件第2特許発明実施に用いられることを知りながら,被告製品を貸与した(特許法101条4号)ということはできない。したがって,上記25箇所に対する貸与による利益は,本件第2特許権についての損害額の算定に用いるべきではない。
残り10箇所のうち「天端システム」欄に「未納入」と記載されている9箇所については,被告製品を貸与等していない。
残り1箇所(「天端システム」欄に「無償モニター納品」と記載されている)については,被告製品を無償モニターとして納入したものであって,被告は対価を得ていない。
(イ) 原告らの主張に対する反論 原告らは,上記105箇所のトンネル工事現場のうち「SuperNATM Backup」をも貸与している現場については,被告製品が2台貸与されたものとして扱うべきである旨主張する。
たしかに,平成13年ころまでは,「SuperNATM Backup」は,被告製品を構成するトータルステーションと同様の機能,レーザー照射機能を有していたが(甲10,13),平成14年3月ころ以降,「SuperNATM Backup」は,被告製品を構成するトータルステーションのレーザー照射用装置であるGUS74レーザーを備えない安価な製品に変更しているから(乙116,乙50の1,2),少なくとも,平成15年1月1日以降に貸与等された「SuperNATM Backup」を用いて被告方法を実施することはできない。
ウ 貸与期間 上記105箇所の工事現場のうち,被告製品を平成15年1月1日以降に貸与している44箇所については,別紙「損害に関する被告主張一覧表」の「開始」欄記載の日から同一覧表「終了」欄記載の日まで,同一覧表「使用日数」欄記載の使用日数分,被告製品を貸与している。
エ 支保工率について トンネル工事の工法には,@支保工を用いる工法とA支保工を用いない工法の2つがあるところ,本件第2特許発明は,Aの工法についての改良技術であり,@の工法で施工される場合には用いられないものである(本件明細書2の2頁左欄10ないし13行)。支保工が設置されている場合は,同設備がトンネルの外周を決定する定規の役割をするため,レーザーマーキングをする必要がない。このように,レーザーマーキングを用いるのは,トンネルの長さのうち,支保工が設置されていない区間部分だけであるから,被告製品の売上額から,支保工を実施するトンネル区間の割合を控除すべきである。乙82によれば,原告ら自身,支保工区間においては,マーキングを行わないことを前提として宣伝を行っている。
オ 利益率 原告らは,当初,被告利益は4540万円と主張していたが,後に,貸与による被告利益に計算し直したとして被告利益は7890万4019円であると主張した(甲37)。ところが,原告らは,第3回口頭弁論になって,さらに主張を変更し,被告利益は5億8099万7901円であるなどと主張しているのであるから,原告らの主張が全く根拠のない主張であることは明らかである。また,原告らの主張によれば,被告製品の貸与の利益率が80%に近いことになり,常識的に考えて,このような高い利益率はあり得ない。原告は,被告製品を構成するパーツ製品であるライカTCRA1103XRの価格を5年で割って,1か月3万6166円(217万円÷60か月)としているが,被告は,ライカTCRA1103XRを千代田測器株式会社から1月18万円(貸与期間6か月間の場合)で貸与を受けているから,ライカTCRA1103XRの価格は1月18万円である(乙112の1,2)。プリズムについても5年間で2個として計算しているが,2個では到底足りない。人件費についても,被告の社員数は,平成14年度で23名,平成15年度で43名であり,(乙101),役員を除くほとんどが開発担当であるから,開発人件費は原告ら主張のような低額ではない。そもそも,システムエンジニアの外注費は,1日8時間労働で8万円であり,残業代も考慮すると1日10万円は下らないから,1月20日稼働の場合は1月200万円を要し,原告ら主張のとおり,被告製品が200台生産されるとすると,開発,維持に要する人件費は,1台760万円にはなる。全体として,原告ら主張のパーツ製品は,最低価格の製品であり,被告製品においては,そのような低機能のパーツ製品を用いていない。さらに,原告らは,被告製品1台の5年間可動率100%で運用できる前提で計算しているが,トンネル工事現場という劣悪な環境下において,被告製品を,5年間,稼働率100%で運用するなどということは不可能である。
原告らは,特許法102条2項に基づいて損害賠償額を主張しているところ,同条の適用を求めるためには,権利者において損害の発生と侵害者が侵害行為により受けた利益の額について主張立証責任を負うと解するのが通説,判例であり,原告らは,この立証責任を全く果たしていないから,同条の適用は認められるべきではない。
さらに,原告佐藤工業に関しては,建設工事会社であり,本件第2特許権の実施品の製造販売を行っていないから,少なくとも,同原告には,被告が得ている利益と対比され得るような同種同質の利益を現実に失ったという損害が発生していないことは明らかである。
カ 被告製品貸与利益における本件第2特許権の寄与率 被告製品は,マーキング機能のほか,「後方交会」「任意点測量」等10種類もの機能を有している。また,支保工を設置する区間やトンネル線形が直線の区間においては,マーキング機能は使用しない。さらに,別紙「損害に関する被告主張一覧表」記載のとおり,マーキング機能を有しない製品も多数取引されており,本件第2特許発明を回避するために設計変更した被告製品の代替商品である「Cyber NATM」も多数取引されていることから,マーキング機能は,他の機能に比べて寄与率は大きくない。
そうすると,被告製品の売上における,本件第2特許発明の寄与率は,9.1%(100÷11機能)を超えるものではない。
この点に関して,原告らは,甲45記載のレーザーマーキング機能を有しない他業者の製品の納入実績がないことを前提に,レーザーマーキング機能の寄与率が高い旨主張するが,上記他業者とは計測ネットサービス株式会社であり,同社は,トンネル内空断面測定業務の請負を主たる業務とする会社であって(内空断面測定業務の受注が1件もないということはない。),システムの貸与を主たる業務としていないから,比較の対象にならない。
(2) 予備的損害主張について 被告製品の貸与による売上額は,別紙「損害に関する被告主張一覧表」の「該当売上」欄記載の合計1231万5789円である(乙28ないし79,101ないし111)。
そして,社団法人発明協会発行の「実施料率」(乙115)によれば,平成4年度から平成10年度までの建設技術の頭金なしの場合の実施料率の最頻値は3%,平均は3.5%であるから,本件第2特許発明については,実施料率を3%とするのが相当である。
さらに,前記(1)カ記載のとおり,被告製品における被告方法の寄与率は,9.1%を超えることはない。
当裁判所の判断
1 争点1(被告製品が構成要件Aの「多機能測量計測システム」に該当するか) (1) 本件第1特許発明の特許請求の範囲の記載及び弁論の全趣旨によれば,「多機能測量計測システム」とは,一般測量及び内空変位,天端沈下量測定等の特殊測量をなし得る測量システムの意味に解されるところ,被告製品が一般測量をなし得る構成かどうかについて争いがあるので,この点について判断する。
(2) 本件第1特許発明の特許請求の範囲の記載によれば,「一般測量」という文言は,通常行われる測量について,内空変位や天端沈下量を求めるための測量と区別するために「一般」を付して用いられているものと認められるから,「一般測量」とは「内空変位や天端沈下量を求めるための測量ではない,通常の測角測距」の意味と解される。
そして,証拠(甲13)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品は,内空変位や天端沈下量を求めるための測量ではない,通常の測角測距をなし得る装置と認められるから,被告製品は,一般測量をなし得る構成というべきである。
この点に関して,被告は,「一般測量」とは「一般的な測定装置による測量」ないし「一般測量対応のトータルステーションで測量できるもの」であるとして,被告製品はトンネル施工のための装置であって一般測量に使用することを予定していないから一般測量機能を有していないなどと,主張する。しかし,本件第1特許発明は,一般測量の機能を有する装置と特殊測量の機能を有する装置を共通化して一つの装置にする発明であるから,当該装置が一般測量以外の機能を有することは当然の前提となっているものであり,一般測量以外の機能を有する装置による測量は「一般測量」に該当しないことを前提とするような被告の主張を採用することはできない。
(3) 上記によれば,被告製品は,一般測量及び内空変位,天端沈下量測定等の特殊測量をなし得る測量システムといえるから,構成要件Aの「多機能測量計測システム」に該当する。
2 争点2(被告製品が構成要件Bの「測定装置は,一般測量に対応した測定を行う一般モードと,内空変位や天端沈下量を求めるために既に記憶されている測距データと測角データとに得られた測距データと測角データとを比較演算して特殊測量に対応した測定を行う特殊モードとを有し」を充足するか) (1) 「一般モード」とは,本件第1特許発明の特許請求の範囲の記載によれば,「一般測量に対応した測定を行う場合」をいうところ,前記1記載のとおり,被告製品のトータルステーションは一般測量に対応した測定を行うから,被告製品は「一般モード」を有する「測定装置」を有しているといえる。
(2) 本件第1特許発明の特許請求の範囲には,「特殊モード」について,「内空変位や天端沈下量を求めるために既に記憶されている測距データと測角データとに得られた測距データと測角データとを比較演算して特殊測量に対応した測定を行う」との記載があるから,「特殊モード」は,少なくともあらかじめ記憶されている測距データ,測角データと得られた測距データ,測角データとを比較演算する構成を含んでいるものと解される。
被告製品の「測定装置」はトータルステーションであるところ(弁論の全趣旨),トータルステーションにはデータを比較演算する機能がないから(弁論の全趣旨,別紙「物件目録」。比較演算する機能を有するのは,NATM-Box内のコンピュータである。),被告製品が「内空変位や天端沈下量を求めるために既に記憶されている測距データと測角データとに得られた測距データと測角データとを比較演算して特殊測量に対応した測定を行う」構成を有しているとはいえない。
この点に関して,原告らは,構成要件Bは測定装置が外部からの一般モード,特殊モードの指示に対応可能であることを意味するものである旨主張するが,構成要件Bの特許請求の範囲の記載から,原告ら主張のように解釈することはできない。なお,原告らは,本件明細書1に「実施例では,モードとして,一般測量と特殊測量との2つのモードについて説明したが,さらに,測角や測距の精度を測量対象に応じて段階的に分け,これによって作業要求に応じた測量結果を得るようにしても良い。」との記載があることを指摘するが,当該記載から原告ら主張のように解釈することはできない。
(3) したがって,被告製品の測定装置は「一般モード」は有するが,「特殊モード」は有しないから,被告製品が構成要件Bの「一般モード」と「特殊モード」を有する「測定装置」を有しているとはいえない。 3 争点3(被告製品が構成要件Cの「指示手段」及び「データ処理手段」を有する「データ処理端末」を備えるか) 上記2記載のとおり,被告製品の測定装置であるトータルステーションは「特殊モード」を有しないから,「前記一般モードと前記特殊モードのいずれかひとつのモードを指示する指示手段」を有しない。
したがって,被告製品は構成要件Cの「指示手段」及び「データ処理手段」を有する「データ処理端末」を備えているとはいえない。
よって,被告製品は構成要件Cを充足しない。
上記によれば,被告製品は本件第1特許発明構成要件のうち構成要件B,Cをいずれも充足しないから,本件第1特許発明技術的範囲に属するということはできない。
4 争点5(被告方法が構成要件e「予めその座標を知っておき」を充足するか) (1) 本件第2特許発明の特許請求の範囲には「前記レーザー光投射装置および前記駆動装置を切羽断面の手前の位置に設置するとともに,予めその設置座標を知っておき」との記載があるが,当該記載の意味につき,レーザー光投射装置及び駆動装置を設置した後,マーキング作業を行う前にその設置座標を知る場合も含まれるか,レーザー光投射装置及び駆動装置設置前にその設置座標を知っている構成に限られるかという点につき争いがあるので,この点について判断する。
(2) 前記(1)記載の特許請求の範囲の記載からは,レーザー光投射装置及び駆動装置を設置した後,その後の作業を行う前にその設置座標を知る場合も含まれると解するのが自然であって,レーザー光投射装置及び駆動装置設置前にその設置座標を知っている構成に限定して解釈すべき理由はない。
そもそも,本件第2特許発明において,レーザー光投射装置の機械設置位置座標を取得するのは,マーキングすべき作業基準点までの鉛直角度及び水平角度を演算するためであって,かかる演算をするにあたって,予め設置座標を知っておくことを意味していると解釈するのが自然である。本件第2特許発明は,トンネル施工における切羽断面上をレーザーによりマーキングする方法に関するものであり,トンネルを掘り進んでレーザー照射距離が限界に達した際にはレーザー光投射装置及び駆動装置の設置位置を切羽に近づける方向に移動させることを当然の前提としているところ,仮に,レーザー光投射装置及び駆動装置設置前にその設置座標を知っている構成に限られると解した場合には,レーザー光投射装置を移動させるたびに,次のレーザー光投射装置の設置位置座標を計測するための装置を用意しなければならないことになるが,レーザー光投射装置にその設置位置座標を計測する機能が備わっているにもかかわらず,そのような迂遠な作業を必要とする構成とは考えがたい。仮に,本件第2特許発明出願当時,レーザー光投射装置の設置位置座標を測定する作業が煩雑であったという事情があったとしても,特許請求の範囲の文言に照らせば被告主張のように限定して解釈する理由はない。
この点に関して,被告は,本件第2特許発明の特許請求の範囲に「座標が既知の別の基準点」と記載されていること,本件明細書2に「レーザー光投射装置1及び駆動装置7は,図面に示すように,切羽断面18手前の位置に設置され,この設置座標P……は,予め他の測量機器による測量により既知である。」と記載されている点を指摘するが,上記のうち前者の記載は前記判断と矛盾するものではない。後者の記載についても,前記事情に照らせば,前記判断を覆す事情に当たるとはいえない。
したがって,構成要件e「予めその座標を知っておき」には,レーザー光投射装置及び駆動装置を設置した後,マーキングする作業基準点までの鉛直角度及び水平角度を演算するにあたって予め機械設置点座標を知っておく場合も含まれる。
(3) 上記を前提に,被告方法が構成要件eを充足するかどうかを検討すると,被告方法(別紙「被告方法目録」参照)は,マーキング作業を行う前に,トータルステーションの設置位置の3次元座標を,基準点2点からの測角測距から後方交会法によって求めるから,被告方法は構成要件e「予めその座標を知っておき」の方法に該当する。
5 争点6(被告方法が構成要件f「座標が既知の別の基準点を前記光波測角測距儀により視準し,この視準による前記設置座標からの測角測距データを得て」を充足するか) (1) 被告方法においては,@トータルステーション設置座標を求めるために座標が既知の基準点A点を視準しており,当該作業とは別に基準点A点を視準するという作業は行わず,A基準点A点の方向角をゼロにして作業基準点までの水平角度を演算することから,被告方法が,構成要件f「座標が既知の別の基準点を前記光波測角測距儀により視準し,この視準による前記設置座標からの測角測距データを得て」を充足するかどうかについて争いがある。そこで,この点について判断する。
(2) トータルステーション設置座標を求めるために座標が既知の基準点A点を視準しており,当該作業とは別に基準点A点を視準するという作業は行わない点(上記@)について 弁論の全趣旨によれば,被告方法においては,機械設置点の3次元座標を,上記基準点2点からの測距,測角から後方交会法によって,NATM-Box内のコンピュータにより演算処理して求める構成を有している(別紙「被告方法目録」記載のステップ2)。上記構成において,座標が既知の別の基準点であるA点を測角測距儀により視準しているということができる。
この点に関して,被告は,機械設置座標を求めるための視準と機械設置点からA点までの測角測距データを得るための視準を区別すべきであると主張する。
しかし,特許請求の範囲には,「座標が既知の別の基準点を前記光波測角測距儀により視準し,この視準による前記設置座標からの測角測距データを得て」とのみ記載されており,「前記設置座標からの測角測距データを得るために,座標が既知の別の基準点を前記光波測角測距儀により視準し」とは記載されていないから,被告主張のように解する理由はない。
また,被告は,本件第2特許権に関する特許庁の特許異議申立手続において,異議申立人が,既知の点B及びCを視準して機械設置位置を確定する内容の先行技術(特開平2-210213号公報,乙3)を指摘したところ,原告らが,「本願発明の設置座標P……は,予め他の測量機器による測定により既知である……。したがって,甲第1号証のB点およびC点は,本願発明の既知の設置座標P……から同じく既知の別の基準点O……を睨むため対象点としての基準点O……とは全く関係ない。本願発明においては,既知の設置座標P……から……別の基準点Oを睨むとき得られる『測角測距離データ』を得ることが重要なのである。」旨の答弁書(平成8年12月2日付特許異議答弁書。乙5)を提出していることを指摘する。しかし,被告指摘の上記記載は,基準点Oの視準によって機械設置点から基準点Oの測角測距データを得る構成が重要であり,異議申立人が指摘した上記先行技術にはそのような構成がないことを述べるものであって,上記記載を被告主張のように解釈することはできない。
さらに,被告は,構成要件fでは機械設置点座標が既知の状態で基準点を視準するが,被告方法においては未知の状態で視準しており,両者は技術的意義が異なる旨主張する。しかし,前記4(2)記載のとおり,機械設置点座標が既知であるという構成の意味は,マーキングする作業基準点までの鉛直角度及び水平角度を演算するに当たって予め機械設置点座標を知っておくという程度に解釈されるから,基準点の視準と機械設置点座標の測定が同時である場合でも本件第2特許発明技術的範囲に属するというべきである。被告の主張は採用できない。
(3) 基準点A点の方向角をゼロにして作業基準点までの水平角度を演算する点(上記A)について 被告方法においては,基準点A点の方向角をゼロにして作業基準点までの水平角度を演算するものの,弁論の全趣旨によれば,基準点A点の方向角をゼロにするために,機械設置座標から基準点A点の測角測距データを用いており,当該データは,基準点A点を視準することによって得ているものと認められるから,構成要件fのうち「この視準による前記設置座標からの測角測距データを得て」の構成を有するというべきである。なお,被告方法においては,基準点A点の視準は,基準点A点の上記測角測距データを得るというだけでなく,機械設置点座標を知るという目的をも有しているが,このことは,上記判断に影響を与えるものではない。
6 争点7(被告方法が構成要件g「前記演算制御装置に与えられた計画トンネル線形および計画トンネル断面形状に基づいて,前記切羽断面上における作業基準点を設定し」を充足するか) 弁論の全趣旨によれば,被告方法においては,@事務所PCに計画トンネル線形及び計画トンネル断面形状が与えられ,ANATM-Boxが作業基準点までの鉛直角及び水平角を演算し,BNATM-Box内のコンピュータがレーザー照射装置を駆動させる指令を出していることが認められる。そうすると,事務所PC及びNATM-Boxの双方を併せて「演算制御装置」と全く同様の機能を果たしているということができるから,事務所PC及びNATM-Boxを本件第2特許発明の「演算制御装置」に該当すると解すれば,被告方法が構成要件g「前記演算制御装置に与えられた計画トンネル線形および計画トンネル断面形状に基づいて,前記切羽断面上における作業基準点を設定し」を充足するというべきである。
被告は,上記「演算制御装置」が,一つの装置であることを要する旨主張する。たしかに,本件第2特許発明の特許請求の範囲の文言上は,複数の装置であるようには記載されていないが,これは,典型的な場合を記載したにすぎず,装置が複数になる構成を排除しているものと解釈しなければならない理由はない。被告の主張は,採用できない。
7 争点8(被告方法が構成要件h「前記演算処理装置で前記測角測距データに基づいて前記作業基準点に向けての前記設置座標からの鉛直角度および水平角度を演算し」を充足するか) (1) 「前記測角測距データに基づいて前記作業基準点に向けての前記設置座標からの鉛直角度および水平角度を演算し」の解釈について 特許発明技術的範囲は,願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならないところ(特許法70条1項),甲2の1によれば,上記本件第2特許発明の特許請求の範囲には,「前記演算処理装置で前記測角測距データに基づいて前記作業基準点に向けての前記設置座標からの鉛直角度および水平角度を演算し,その鉛直角度および水平角度で前記駆動装置を作動させてレーザー光投射装置を振って,前記作業基準点にレーザー光を投射させ」と記載されている。
上記特許請求の範囲の記載からは,「作業基準点に向けての前記設置座標からの鉛直角度および水平角度」とは,設置座標に設置されているレーザー光投射装置の向いている方向から作業基準点までの鉛直角度及び水平角度のことを意味していると認められる。
したがって,構成要件hの「作業基準点に向けての前記設置座標からの鉛直角度および水平角度を演算し」とは,レーザー光投射装置の向いている方向から作業基準点までの鉛直角度及び水平角度を演算するという意味である。
レーザー光投射装置の向いている方向から作業基準点までの鉛直角度及び水平角度を演算する具体的方法については,基準点までの測角測距データに基づく旨の限定が付されているのみで,それ以外の限定はない。
(2) 被告方法が構成要件h「前記測角測距データに基づいて前記作業基準点に向けての前記設置座標からの鉛直角度および水平角度を演算し」を充足するか 弁論の全趣旨によれば,被告方法においては,NATM-Box内のコンピュータにおいて,基準点であるA点と作業基準点であるB点との機械設置点を中心とした水平角と,作業基準点であるB点と水平面との機器点を中心とした鉛直角(仰角)を演算により求め(別紙「被方法目録」記載のステップ4),鉛直角度については,上記A点からの相対角とするのではなく,水平面からの絶対角として,NATM-Box内のコンピュータの指令に基づいて,トータルステーションに備えられているレーザー照射装置を駆動装置により動かす(同ステップ5)という構成であると認められる。
上記構成によれば,水平角度については,レーザー光投射装置の向いている方向から作業基準点までの水平角度を,基準点までの測角測距データを用いて演算していることが明らかである。また,前記5(3)記載のとおり,被告方法においては,基準点A点の方向角をゼロにして作業基準点までの水平角度を演算しており,基準点A点の方向角をゼロにするために,基準点A点を視準することによって得たデータを用いているものと認められる。
鉛直角度については,上記構成によれば,レーザー光投射装置の向いている方向からではなく,水平面から基準点までの鉛直角度を,基準点までの測角測距データを用いることなく,作業基準点Bの座標にのみ基づいて演算しているというようにも考えられる。しかしながら,被告方法においては,この次の工程として,レーザー光投射装置を現在向いている方向から作業基準点Bまで駆動させるのであるから(同ステップ5),そのためには,水平面から作業基準点までの鉛直角度が判明しているだけでは足りず,レーザー投射装置が現在向いている方向から水平面までの鉛直角度を明らかにする必要があり,そのためには,基準点(レーザー照射装置が現在向いている方向)までの測角測距データが必要であるから,結局,レーザー照射射装置の向いている方向から作業基準点までの鉛直角度を,基準点までの測角測距データを用いて演算しているということができる。
(3) そうすると,被告方法においては,レーザー光投射装置の向いている方向から作業基準点までの鉛直角度及び水平角度を演算しているといえるから,本件第2特許発明構成要件hの構成を有しているということができる。
(4) 上記によれば,被告方法は本件第2特許発明構成要件e,f,g,hを充足するから(その余の構成要件を充足することについては,被告は争っていない。),本件第2特許発明技術的範囲に属する。
8 争点9(本件第2特許発明が無効理由を有することが明らかであり,本件第2特許権に基づく権利行使が権利の濫用といえるか) (1) 乙6,乙7によれば,乙6(特開昭61-262611号公報),乙7(シールド工法自動化システム編集幹事会「シールド工法の自動化システム(5)」トンネルと地下17巻9号743頁)に,前記第2,9の「被告主張」の(2)記載の記述があることが認められる。
しかしながら,次のとおり,乙6及び乙7を組み合わせることによって,本件第2特許発明容易に想到することができたとは認められない。
(2)ア 乙6(特開昭61-262611号公報)について 乙6には,駆動角度(変位角θ)を求める具体的方法として,機械設置点と基点Pと作業基準点P’が直角三角形を構成することを前提として,直角三角形の性質を利用して求める方法が記載されているのみである。本件第2特許発明は,機械設置点,基点,作業基準点の位置関係にかかわらず,基準点までの測角測距データを得て駆動角度を演算する方法(構成要件h)であるから,乙6に記載されているマーキング方法とは構成を異にする。このような相違点があるため,乙6に係る方法では,切羽断面が平面でない場合や,トンネル線形が曲線である場合などには,駆動角度(変位角θ)を求めることができない。
この点に関して,被告は,乙6に記載された直角三角形の性質を利用して駆動角度(変位角θ)を求める方法は一実施例にすぎず,乙6に記載された発明はこの実施例に限られるものではない,基点までの測角測距データを得て駆動角度を演算する方法が記載されていないのは,かかる方法が当業者にとって自明の事項であるからにすぎないと主張する。しかしながら,被告の上記主張を認めるに足りる証拠はなく,むしろ,測角測距データを得て駆動角度を演算する方法が自明であるなら,機械設置点,基点,作業基準点が直角三角形を構成する場合のみ,測角測距データによる演算を行わずに直角三角形の性質を利用して駆動角度(変位角θ)を求めるというのは不自然であるから,乙6に係る発明がなされた当時,測角測距データを得て駆動角度を演算する方法が当業者にとって自明であり,乙6に係る方法がそのような演算方法を念頭においたものであったとは考えられない。
イ 乙7(シールド工法自動化システム編集幹事会「シールド工法の自動化システム(5)」トンネルと地下17巻9号743頁)について 乙7は,乙6と本件第2特許発明の,上記ア記載の相違点を何ら補うものではない。
ウ 乙12の1,乙14について さらに,被告は,乙12の1,乙14に記載された,レーザーアイピース,レーザーセオドライトSLT20を指摘して,レーザー光の光軸と光波の光軸とが平行になるように一体とする構成(構成要件a)が本件第2特許発明当時周知であった旨主張するが,乙6には,構成要件aとは別の上記ア記載の相違点があり,乙12の1,乙14記載の技術は,この点を何ら補うものではない。
(3) 上記によれば,本件第2特許発明が無効理由を有することが明らかであるという被告の主張は理由がない。
(4) 以上に加え,弁論の全趣旨によれば,被告は,本件第2特許発明特許発明であること及び被告製品が本件第2特許発明実施に用いられることを知りながら,業として,本件第2特許発明による課題の解決に不可欠な被告製品を貸与等していると認められるから,被告が被告製品を貸与等する行為は,特許法101条4号間接侵害に該当するというべきである。
9 争点10(損害の内容及び額) (1) 被告製品の売上額について ア 1日の貸与料額 乙19,21,28,29,30の1,2によれば,被告製品1台の1か月当たりの貸与料は18万円と認められる。
原告らは,被告製品の貸与料を示す証拠として甲35,46の1ないし4を提出し,甲35には「SuperNATM-primary」の側に手書きで「60万/月」と記載され,甲46の1ないし4には,「マーキングシステム1式3400000」等と記載されていることから,被告製品1台の1か月当たりの貸与料金は60万円ないし56万6666円であると主張する。しかし,甲35の「60万/月」の記載は,原告マックの従業員による手書きのメモであって,客観性に乏しく,これをもって被告製品の貸与料を上記書面記載の金額と認めるには足りない。甲46の1ないし4は,被告と原告佐藤工業との間で,平成16年1月23日から同年2月16日ころの間に交わされた被告製品に関する見積書,注文請書等であるところ,見積内訳書(甲46の2)によれば,上記340万円の内訳は,「初期導入費」1式60万円,「施工管理システム 基本システム費用」1式140万円,「施工管理システム損料」6か月180万円,「切羽観察システム損料」6か月30万円,「返納整備費用」1式20万円,「値引き」-90万円であり,被告製品の貸与以外の製品,サービスの対価をも含んでいることが明らかであるから,原告らの主張は採用できない。なお,弁論の全趣旨によれば,甲46の1ないし4に係る取引においては,「施工管理システム損料」が被告製品の貸与料であり,これによれば,1台1月当たり30万円で貸与されていると認められるが,当該取引は,別紙「損害に関する原告ら主張一覧表」に記載された取引ではなく,当該1回の取引において被告製品の1月当たりの貸与料が30万円とされたことをもって,前記認定が左右されるものではない。
そうすると,被告製品1台の1日当たりの貸与料は6000円(18万円÷30)と認められる。
ただし,別紙「損害に関する認定一覧表」の「現場名」記載の各工事現場のうち,「納入の有無」欄に「納入(無償モニター)」と記載された工事現場については,当該貸与行為によって被告が対価を受けたことを認めるに足りる証拠はない。
イ 貸与台数 (ア) 証拠(乙49ないし69,70,71の1,72ないし79,83ないし85,86ないし101)及び弁論の全趣旨によれば,別紙「損害に関する認定一覧表」の「現場名」欄記載の各工事現場のうち,同表「納入の有無」欄に「納入」と記載された66箇所について,被告製品が1台ずつ納入されたものと認められる。
(イ) 「SuperNATM Backup」について 原告らは,被告製品に加えて「SuperNATM Backup」が貸与されている現場については2台分として算出すべきである旨主張する。しかし,証拠(乙116)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,平成13年ころ,顧客から,後方支援のために,被告製品のように天端に備え付ける装置ではなく,三脚で使用できる装置を要求され,当初は,被告製品を構成するトータルステーションをそのまま三脚に取り付けた装置を「SuperNATM Backup」として供給していたが,後方支援のためにはマーキングの必要がないこと,被告製品を構成するトータルステーションは,マーキング用のGUSレーザーが備え付けられているため高値であるとの意見があったことから,同年度の終わりころからGUSレーザーを有しない簡易な三脚用の装置を開発したものであり,このころ以降に納入した「SuperNATM Backup」は,レーザー機能を有していなかったものと認められる。したがって,原告らの上記主張は,採用できない。
(ウ) 平成14年12月31日以前に買戻特約付で売買したとの主張について 被告は,顧客において被告が納品した被告製品を用いて被告方法を実施している場合であっても,当該顧客との取引が買戻特約付売買であり,かつ,買戻特約付売買契約の締結日が,平成14年の特許法改正により新たに設けられた同法101条4号の施行日(平成14年法律第24号の施行日)である平成15年1月1日より前であった場合には,特許法101条4号間接侵害は成立しない旨主張する。
しかしながら,弁論の全趣旨によれば,被告と顧客との間の買戻特約付売買は,被告が顧客に対して売買代金と引替えに被告製品を引き渡し,被告製品の使用終了時に,被告が顧客から被告製品を買い戻し,上記売買代金から貸与料相当額を控除して顧客に支払うというものである。また,被告製品を貸与した場合と買戻特約付で売り渡した場合とで,被告製品使用期間中のメンテナンスやサポート,危険負担等の取決めが異なっているという事情は認められない。そうすると,上記買戻特約付売買契約は,実質的には,被告が被告製品を顧客に一定期間使用させ,顧客が被告に対しその期間の使用の対価を支払う旨の意思でなされているものと解すべきである。
したがって,買戻特約付売買の形をとっている場合であっても,実質的には,被告製品を貸与しているのと何ら変わりはなく,特許法101条4号間接侵害との関係では,顧客が被告製品を使用している期間を通じて,被告が,顧客に対し,被告製品を譲渡等しているものというべきである。
(エ) レーザー照射機能を有しない状態で被告製品を貸与等した旨の主張について 別紙「損害に関する認定一覧表」の「納入の有無」欄の「別システム」の後の( )内に記載の各乙号証によれば,同表「現場名」欄記載の各工事現場のうち,同表「納入の有無」欄に「別システム」と記載された28箇所については,GUS74レーザーを取り付けない状態の装置またはレーザー照射機能を有しないシステムを貸与しており,当該工事現場においては,被告方法が実施されることはない。そうすると,上記28箇所の工事現場においては,被告が本件第2特許発明に係る方法の使用に用いる物であってその発明による課題の解決に不可欠なものにつき,その物が本件第2特許発明実施に用いられることを知りながら譲渡等しているということはできないから,これらの工事現場に対する上記装置の貸与分を損害に含めることはできない。
この点に関して,原告らは,仮に発破のためにレーザーを照射しないとしても,アタリ取りやロックボルトの際にレーザーマーキングを用いる旨主張する。しかし,そもそもGUS74レーザーを備えていないトータルステーションで構成される装置が貸与されている現場においては,被告製品が貸与されているとはいえない上,本件第2特許発明技術的範囲に属するというためには,トンネル線形情報に基づいて作業基準点を設定する(構成要件g)方法でなければならないところ,トンネル線形情報とは関係なくレーザー照射部分(作業基準点)を定めるアタリ取りやロックボルトのためのレーザーマーキングは本件第2特許発明技術的範囲に属する方法とはいえない。
(オ) 被告製品を納入しているが,被告方法が実施されていないと認められる工事現場について 乙72によれば,別紙「損害に関する認定一覧表」の「現場名」欄記載の各工事現場のうち,同表「納入の有無」欄に「不使用」と記載された1箇所については,被告製品が納入されているものの,被告方法が実施されているとは認められない。かかる工事現場に対する上記装置の貸与をもって,損害の基礎とすることはできない。
(カ) その他 別紙「損害に関する認定一覧表」の「現場名」欄記載の各工事現場のうち,同表「納入の有無」欄に「未納入」と記載された9箇所については,被告製品が貸与されたことを認めるに足りる証拠がない。
ウ 貸与期間 別紙「損害に関する認定一覧表」の「開始終了時期の証拠」欄記載の証拠及び弁論の全趣旨によれば,同表「現場名」欄記載の各工事現場のうち,同表「納入の有無」欄に「納入」と記載された66箇所は,それぞれ同表「開始」欄記載の日から同表「終了」欄記載の日まで,同表「使用日数」欄記載の日数だけ貸与されていたものと認められる。
エ 支保工率について 被告は,支保工を設置する区間については,支保工が定規の役割を果たすから,被告方法は実施されない旨主張する。
しかし,支保工を設置する区間においても,トンネル線形が直線でない場合には被告方法は有用であり(乙82は,トンネル線形が直線の場合について記載したものである。),また,トンネル全区間のうちの一部において支保工を設置していたとしても,その余の区間において被告方法を用いる必要がある以上,被告方法を行い得ることが,被告製品の価値を高めていることに変わりはないから,被告の上記主張は採用できない。
オ 上記によれば,平成15年1月1日から平成16年2月28日の期間における被告製品の売上は,別紙「損害に関する認定一覧表」の「売上」の合計欄記載のとおり,9362万4000円と認められる。
(2) 主位的損害主張(特許法102条2項)について ア 原告佐藤工業の損害額について 弁論の全趣旨によれば,原告佐藤工業は建設会社であり,本件第2特許発明実施に用いる製品を製造,販売又は貸与しているとは認められないから,原告佐藤工業については,被告が被告製品を貸与することによって得た利益をもって,同原告の損害と推定することはできない。
イ 原告マックの損害額について (ア) 原告マックは,被告製品と同種のトンネル工事において使用するレーザーマーキング装置の貸与事業を行っていることが認められるところ,特許法102条2項により,被告が被告製品を貸与したことによって得た利益をもって,原告マックの損害と推定される。
(イ) 前記(1)オ記載のとおり,平成15年1月1日から平成16年2月28日までの間に被告が被告製品の貸与等により得た対価は,9362万4000円と認められる。
(ウ) 利益率 一般に,売買に比べて,貸与の場合は,同一の商品から複数回売上を得ることができ,利益率が高いということができるから,被告製品を貸与した場合の利益率は少なくとも貸与料の50パーセントを下ることはないと認められる。
この点に関して,原告らは,被告製品の製造原価,メンテナンス・サポート費用等を詳細に主張して被告製品1台を1日貸与した場合1万4925円の利益を得ている旨主張する。しかし,原告らが主張しているパーツ製品が被告製品に真実使用されているものであるか不明であり,人件費についても工数や単価など全て推測に基づくものであるから,原告らの主張を直ちに採用することはできない。
他方,被告は,乙112の1,2を提出して,千代田測器レンタルリース株式会社から1月当たり18万円で被告製品を構成するトータルステーションを借り受けているから,最低でも上記額が被告製品の貸与の原価(経費)であるかのような主張をする。しかし,前記(1)アのとおり,被告製品1台の貸与料金が,1月当たり18万円なのであるから,被告主張のとおりであれば,被告は,被告製品の貸与により何ら利益を得ていないことになり,不自然である。被告の主張は,採用できない。
(エ) 寄与率 弁論の全趣旨によれば,被告製品には,被告方法のほかアタリ取りやロックボルト,任意点測量等11の機能があることが認められる。
他方で,発破を仕掛けて掘り進むトンネル工事において,トンネル線形に沿って掘り進めるために適切な発破仕掛け位置を定めることは極めて重要な事項であるといえる。また,弁論の全趣旨によれば,被告は,被告製品と併行して,被告製品のトータルステーションからGUS74レーザーを取り除いた装置をも貸与しているところ,別紙「損害に関する認定一覧表」の「現場名」欄記載の各工事現場のうち,同表「納入の有無」欄に「納入」と記載された66箇所においては,被告方法を実施するために,わざわざGUS74レーザーを備え付けた装置の貸与を受けているものであって,被告方法に着目して貸与を受けているものと考えられる。
そうすると,被告製品の売上のうち,被告製品によるマーキング方法の寄与割合は,少なく見積もっても40%を下ることはない。
(オ) 小括 前記(1)記載のとおり,被告は,被告製品の貸与により合計9362万4000円の対価を得ており,前記(ウ)記載のとおり,被告製品の利益率は少なくとも50%を下ることはないと認められるから,被告製品の貸与により被告が受けた利益の額は,4681万2000円(9362万4000円×0.5)である。
そして,前記(エ)記載のとおり,被告製品の利益における被告方法の寄与割合は40%と認められるから,上記被告が受けた利益4681万2000円のうち1872万4800円(4681万2000円×0.4)が,本件第2特許権の侵害行為により被告が受けた利益の額であり,原告マックは,原告佐藤工業と本件第2特許権を持分各2分の1の割合で共有しているから,特許法102条2項に基づき原告マックの損害額として認め得る額は936万2400円(1872万4800円÷2)である。
(3) 予備的損害主張(特許法102条3項)について 前記(2)ア記載のとおり,原告佐藤工業については,損害に関する主位的損害主張は理由がないから,予備的損害主張について判断する。
前記(1)記載のとおり,被告が被告製品を貸与することによって得た売上は,9362万4000円である。
また,乙115(発明協会研究センター編「実施料率〔第5版〕」)によれば,建設技術の分野においては,平成4年ないし同10年度において,頭金無しの契約では,実施料率の平均が3.5%であり,契約数として最も多い実施料率が3%とされている。本件第2特許発明も建設技術に関する発明であるところ,更に同発明の内容,被告による被告製品貸与をめぐる契約の相手方企業,契約内容,被告製品の使用態様等の諸事情を併せ考慮すれば,本件第2特許発明についての実施料相当額は,被告製品の売上の3%と認めるのが相当である。
以上によれば,本件において,本件第2特許発明の特許権者が,本件第2特許発明実施によって受ける利益の額(特許法102条3項)は280万8720円であり,原告佐藤工業は,原告マックと本件第2特許権を持分各2分の1の割合で共有しているから,特許法102条3項に基づき原告佐藤工業の損害額として認め得る額は140万4360円(280万8720円÷2)である。
10 結論 以上によれば,原告らの請求のうち,本件第1特許権に基づく請求はいずれも理由がないが,本件第2特許権に基づき被告製品の製造販売等の差止め及び廃棄を求める点及び同特許権に基づく損害賠償請求の一部(原告マックにつき936万2400円の限度,原告佐藤工業につき140万4360円の限度)は理由がある。なお,廃棄請求について仮執行宣言を付するのは相当でない。
よって主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 三村量一
裁判官 古河謙一
裁判官 吉川泉