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関連審決 不服2002-13509
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成12行ケ91取消決定取消請求事件 判例 特許
平成20行ケ10350審決取消請求事件 判例 特許
平成20行ケ10352審決取消請求事件 判例 特許
平成18行ケ10386審決取消請求事件 判例 特許
平成13行ケ154審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 発明者 /  技術的思想 /  創作性(創作) /  頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  引用発明の認定 /  一致点の認定 /  公知技術 /  試行錯誤 /  技術常識 /  先行技術 /  数値限定 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10782号 審決取消請求事件
原告帝人株式会社
訴訟代理人弁理士三原秀子
被告特許庁長官中嶋誠
指定代理人内藤真徳
同 阿部寛
同 岡田孝博
同 大場義則
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/09/12
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が不服2002-13509号事件について平成17年9月20日にした審決を取り消す。
第2当事者間に争いのない事実1特許庁における手続の経緯原告は,平成7年6月19日,発明の名称を「異形断面を有する呼吸気体流通用可撓性樹脂導管」とする特許出願(特願平7-151496号,以下「本願」という。)をしたが,平成14年6月12日付けの拒絶査定を受けたので,これを不服として審判を請求し,上記請求は,不服2002-13509号事件として,特許庁に係属した。原告は,その後,平成17年3月2日付けの拒絶理由通知を受けたので,同年5月10日付けで願書に添付した明細書を補正する手続補正をした(以下,この補正を「本件補正」といい,本件補正後の本願に係る明細書及び図面を「本願明細書」という。)。特許庁は,上記事件につき,審理の結果,平成17年9月20日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下,単に「審決」という。)をし,その謄本は,同年10月4日,原告に送達された。
2特許請求の範囲本件補正後の請求項1の記載は次のとおりである(以下,この発明を「本願発明」という。)。
「呼吸用気体発生手段に接続されることを目的とする外径20mm以下の導管の内面に凹凸構造を持つ異形断面を有する呼吸気体流通用可撓性樹脂導管において,該凹凸構造が導管内面に長手方向に連続した1〜8個の凹凸部よりなり,該樹脂が縦弾性率が300〜1000kgf/mm の素材であり,且2つ該導管外径に対する凹部の肉厚の比が0.09以上,0.15以下である異形断面を有する呼吸気体流通用可撓性樹脂導管。」3審決の理由別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願発明は,本願出願前に頒布された刊行物である特公昭63-30027号公報(以下「引用例」という。
甲1)に記載された発明(以下「引用発明」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,としたものである。
審決は,上記判断をするに当たり,引用発明の内容,本願発明と引用発明との一致点・相違点を,それぞれ次のとおり認定した。
(1)引用発明「患者とレスピレータとを接続する呼吸回路に用いられる蛇腹の山部5が螺旋状に連続した蛇腹管6であり,その内腔9に呼気ガスまたは吸気ガスを通す,管の潰れによる閉塞を防止し軽量でフレキシブルな呼吸回路用導管」(2)一致点「呼吸用気体発生手段に接続されることを目的とする導管の内面に凹凸構造を持つ異形断面を有する呼吸気体流通用可撓性導管において,該凹凸構造が導管内面に長手方向に連続した1〜8個の凹凸部よりなる異形断面を有する呼吸気体流通用可撓性導管」である点。
(3)相違点ア導管の外径に関し,本願発明では20mm以下であるのに対し,引用発明では明らかでない点(以下「相違点1」という。)。
イ導管の材質に関し,本願発明では樹脂からなり,該樹脂が縦弾性率が300〜1000kgf/mm の素材であるのに対し,引用発明では明らか2でない点(以下「相違点2」という。)。
ウ導管外径に対する凹部の肉厚の比に関し,本願発明では0.09以上,0.15以下であるのに対し,引用発明では明らかでない点(以下「相違点3」という。)。
第3原告主張の取消事由の要点審決は,引用発明の認定及び本願発明と引用発明の対比を誤ったことにより,本願発明と引用発明との一致点の認定を誤り,また,本願発明と引用発明との相違点及び本願発明の効果についての判断を誤ったものであるから,違法として取り消されるべきである。なお,審決における相違点1〜3の各認定は認める。
1取消事由1(一致点の認定の誤り)(1)引用発明の認定の誤り引用例には,レスピレータ等に使用される呼吸回路として,キンキング防止,フレキシブル性の観点から蛇腹管が使用されているが,独立した波形が多数形成されているもの,あるいは連続する螺旋状の波形が形成されているものは,可撓性に富み軽いという利点を有する一方で,伸びやすく,コンプライアンスが大きいという欠点を有することが記載されている(1頁2欄17行〜2頁3欄5行)。すなわち,上記タイプの蛇腹管は,強い外力を受けた場合には変形しやすく,潰れやすいという欠点を有し,キンキング防止効果が不十分であることが示されている。
本願発明と直接関連するのは,上記のうち,「連続する螺旋状の波形が形成されているもの」であるが,引用例には,課題の解決手段として,蛇腹管の主管部外面の螺旋状の山部5と直管7の内壁が固着した2重管構造の構成を有する導管が記載されており(3頁5欄4行〜12行,5頁第2図),蛇腹管の山部と直管内壁を固着することで,曲がりに対する追従性を損なわずに,潰れなどの変形が小さく,キンキング防止に極めて大きな効果を実現するものである(3頁6欄18行〜24行)。
このように,引用例には,呼吸回路用導管に関し,「患者とレスピレータとを接続する呼吸回路に用いられる蛇腹の山部5が螺旋状に連続した蛇腹管6であり,その内腔9に呼気ガスまたは吸気ガスを通す」ことが記載されているものの,それのみでは「管の潰れによる閉塞」に対する効果が不十分であることが記載されているというべきであるから,審決が引用発明を前記第2,3(1)のとおりであると認定したのは,誤りである。
(2)本願発明と引用発明の対比の誤りア審決は,引用発明の蛇腹管6について,「蛇腹の山部5は蛇腹管内面に存在する1つの凹凸構造ということができる」と認定した。
しかし,引用発明の蛇腹管6の山部5は,外面の構造であって,内面の構造ではない。
また,引用発明の蛇腹管6には,螺旋状の蛇腹としての山部5を構成したときに生じる窪みが内面に存在するものの,そこには凹部が存在するにとどまり,凸部が存在しない。本願発明では,チューブ内面に1個以上の突起部を持つ凹凸構造があり,これによりチューブ内孔の完全閉塞を防止している(本願明細書の段落【0005】)のに対し,引用発明では,流路内面に閉塞を邪魔する凸構造が存在しないため,蛇腹管6を押し潰したり,2つ折りにしたりした場合に,流路内面の閉塞を防止することができない。
したがって,審決の上記認定は誤りである。
イ審決は,引用発明の蛇腹管6が,本願発明の「導管の内面に凹凸構造を持つ異形断面を有する」「導管」ということができると認定した。
しかし,異形断面の導管というのは,断面形状が円形ではない導管を指し,通常,かかる導管には蛇腹管は含まれないから,審決の上記認定は誤りである。
ウ審決は,引用発明の蛇腹管6の「凹凸構造が導管内面に長手方向に連続した」ものということができると認定した。
しかし,引用発明の蛇腹管6は,本願発明のような導管内面に長手方向に連続した凹凸部ではなく,導管内面に長手方向に対し斜め前方,すなわち螺旋状に連続した1個の凹部よりなるものである。
本願発明でいう長手方向に連続した凹凸構造とは,導管の長さ方向(ガスが流れる方向)にまっすぐに伸びる凹凸構造を指すのであり,引用発明のような螺旋構造を含むものではない。
したがって,審決の上記認定は誤りである。
エ審決は,引用発明の「フレキシブルな」「導管」が本願発明の「可撓性」「導管」に当たる旨認定したが,引用例の3頁5欄4行〜12行によれば,「フレキシブルな」との記載は,直管7についてのものであり,螺旋状の蛇腹についてのものでないから,審決の上記認定は誤りである。
(3)まとめ審決は,本願発明と引用発明との一致点を前記第2,3(2)のとおり認定したが,かかる認定は,上記(1)及び(2)のとおり,引用発明の認定及び本願発明と引用発明の対比を誤った結果,導き出されたものであって,誤りである。
2取消事由2(相違点及び効果についての判断の誤り)(1)相違点についてア審決は,相違点1〜3の条件を個別に検討し,当業者が適宜決定すべき事項である,あるいは技術的意義が見出せないと判断した。
しかし,下記イ〜エのとおり,相違点1〜3の数値範囲を個別に見ても,それぞれ予測容易ではない。
また,本願発明は,相違点1〜3に係る各構成を併せ持つことにより,柔軟性,軽量化を実現したものであり,個々の要件に類似する記載があったとしても,各要件が具備すべき適切な範囲は予測することはできず,引用発明から当業者が容易に見出し得るものではない。
イ審決は,相違点1について,「導管の外径は必要な呼吸用気体の流量等を勘案して適宜決定すべき事項であり,20mm以下と限定した点にも格別の技術的意義は見いだせない」と判断したが,相違点1に係る構成は,本願発明の異形断面を有する導管の構造を規定するものであり,柔軟性,軽量性等の課題からその上限を規定したものである。審決が言及する気体流量は,構造を規定する1つの要因とはなるが,これから導き出されるのは,最低限の内径であって,外径ではない。
ウ審決は,相違点2について,特開平6-15004号公報(甲5)を例示して,「導管の材質は要求される性質,コスト,製造の容易性等を勘案して適宜決定すべき事項であって,導管の材質として縦弾性率が300〜1000kgf/mm の樹脂素材を採用することは本願出願前にごく普通2に行われていることである」と判断したが,甲5記載のカニューラは,体内への挿入容易性,組織損傷防止,体内挿入後のトルク伝達性など,生体内に挿入して使用することを前提に可撓性や弾性率を決定したものであり,本願発明のように,異形断面に伴う潰れ防止などの構造維持や20mといった長い導管を使用した場合の柔軟性などを考慮したものではなく,かかる場合の条件を当業者が容易に予測することは困難である。
エ審決は,相違点3について,実公平3-46768号公報(甲2)を例示し,「つぶれ防止のために最小肉厚Tとチューブ半径Rとの比T/Rを1/2〜1/6(本願発明と同様に外径に対する凹部の肉厚の比に換算すれば,0.25〜0.08となる。)とすべきことが記載されている」としたが,本願発明は,甲2記載の体内に貯留した排液を排出する外科用のドレーンチューブとは異なり,呼吸用気体供給用の導管である。そして,導管外径に対する凹部の肉厚の比が小さすぎれば管の潰れによる閉塞を防止することができず,逆に大きすぎれば軽量化が達成できないことは技術常識であるから,呼吸気体流通用の導管としての適切な範囲があるのは自明であるが,かかる課題は,このパラメーターのみで決まるわけではなく,適切な範囲としてどのような数値範囲を選択するかは,試行錯誤の結果でしか決まらない。しかも,本願発明は,導管外径に対する凹部の肉厚の比に関し,0.09以上,0.15以下とするものであり,甲2のドレーンチューブの要件よりも厳しい条件である。
(2)効果について審決は,「本願明細書に記載された『折れ曲がり,押し潰れによる導管の閉塞による呼吸用気体の供給停止を未然に防止し安全性が確保できると同時に,導管自体の重量負担がなく,作業性の向上を図ることができる』という効果も,引用発明から,当業者が予測し得ることのできる範囲内のものであって,格別の効果ということもできない」と判断したが,誤りである。
導管の折れ曲がり,押し潰れによる導管の閉塞による呼吸用気体の供給停止防止と,導管自体の軽量化は,本願発明及び引用発明に共通する課題ないし効果ではある。しかし,本願発明は,使用者の作業性向上をも課題としており,酸素濃縮装置から長さ20m近くにも延長チューブを接続して利用する場合に求められるチューブの柔軟性及び重量に対する効果を有するものである(本願明細書の段落【0006】)。これに対し,引用発明は,人工呼吸器,麻酔器に使用される呼吸回路であって,使用者はベッド上に寝ているため,使用者の作業性向上という概念を有しない。
第4被告の反論の要点審決の認定・判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1取消事由1(一致点の認定の誤り)について(1)引用発明の認定の誤りについて原告が指摘する引用例の記載は,「管の潰れによる閉塞」に対する効果をさらに向上できることを意味するにすぎず,引用発明が「管の潰れによる閉塞」を防止できないことを示すものではない。
また,引用例には,この種の呼吸回路用導管では「管の潰れによる閉塞」を防止しなければならないという技術的思想が,開示されている(1頁2欄23行〜26行)。
したがって,引用発明が「管の潰れによる閉塞を防止」するものであるという審決の認定に誤りはない。
(2)本願発明と引用発明の対比の誤りについてア本願明細書には,「凹部,即ち突起の存在しない部分」(段落【0010】)との記載があり,また,導管内面に6つの凸部と6つの凹部のみが設けられた態様が図示されている(【図2】(a))から,導管内面の凸部でない部分は凹部であり,凹部でない部分は凸部であると解することができる。
引用発明の山部5は,蛇腹管6の内側から観察すると,凹んでいる状態であるから,凹部ということができる。また,蛇腹管6の両端間を連通するよう螺旋状に延びる山部5に隣接して,同様に螺旋状に延びる平坦な壁部分は,蛇腹管6の内側から観察すると,凹部である山部5に対し,相対的に出っ張っているから,凸部ということができる。そうすると,引用発明が凸部を有していないことを前提とする原告の主張は,失当である。
また,本願明細書によれば,本願発明の凹凸構造は,仮にチューブが折れ曲がったとしてもチューブ内孔が完全に閉塞することはなく(段落【0005】),呼吸気体を管の両端間で流通させるという技術的意義を有するところ,引用発明も,キンキング(管の潰れによる閉塞)防止に係る引用例の記載(1頁2欄17行〜2頁3欄5行)や蛇腹管6及び山部5の構造から見て,蛇腹管6が仮に折れ曲がったとしても,凹凸構造を構成する山部5内の空間及び平坦な壁部分は蛇腹管6の長手方向に連続して蛇腹管の両端部を連通し,流路が閉鎖されることがなく,本願発明の凹凸構造と同様の技術的意義を有することが明らかである。
なお,凹凸構造の位置に関し,引用例の蛇腹管6の内側から観察して,蛇腹管6の凹凸構造を構成する山部5及び平坦な壁部分が当該蛇腹管6の内面に存するといえるのは明らかであるから,凹凸構造が蛇腹管内面に存在するという認定にも誤りはない。
したがって,引用例の蛇腹管6が凹凸構造を有するといえるとした審決の認定に誤りはない。
イ引用例の蛇腹管6をその長手方向に垂直な断面で切断しその断面形状を想定すると,蛇腹管6の平坦な壁部分を基本とした円周の一部に,山部5の略半円状と考えられる膨出部がある形状,つまり円形ではない断面形状となり,原告のいう異形断面の定義に合致しているから,原告の主張は理由がない。
ウ本願明細書の特許請求の範囲の請求項1には,単に「凹凸構造が」「長手方向に連続した」「凹凸部よりな」ると記載されているのみで,導管の長さ方向にまっすぐに伸びるとの限定はなく,原告の主張は請求項1の記載に基づかないものである。
また,引用発明の凹凸構造を構成する山部5及び平坦な壁部分は,蛇腹管6の両端間を連通し,長手方向に連続するものということができるから,審決の認定に誤りはない。
なお,本願発明において凹凸構造が長手方向に連続することの技術的意義は,仮にチューブが折れ曲がったとしてもチューブ内孔が完全に閉塞することはなく,呼吸気体を管の両端間で流通させることにあるところ,引用発明の凹凸構造を構成する山部5内の空間及び平坦な壁部分が同様の技術的意義を有することは,上記アで指摘したとおりである。
エ前記(1)で指摘したように,引用例には,この種の呼吸回路用導管はフレキシブルな特性を持つことが開示されているのであるから,審決が,引用発明の蛇腹管6を可撓性としたことに誤りはない。
2取消事由2(相違点及び効果についての判断の誤り)について(1)相違点についてア引用例には,前記1のとおり,管の潰れによる閉塞を防止できかつ軽量でフレキシブルな特性を持つ呼吸気体流通用可撓性樹脂導管である引用発明が開示されているところ,その特性を達成するためのパラメーターの1つである導管材質の縦弾性率に,適切な範囲が存在することは明らかである。また,導管の外径に対する凹部の肉厚の比が小さすぎれば管の潰れによる閉塞を防止することができず,大きすぎれば軽量化が達成できないことも,自明である。さらに,導管の外径は,これと凹部の肉厚の比を算出する際に,必然的に考慮しなければならないものであり,呼吸用気体の必要な流量や導管の重量等を勘案して適宜決定できる事項である。
ところで,これらのパラメーターについて最適な数値範囲を実験等により特定することは,技術的思想である発明を具体的製品として商品化するに当たり,当業者が通常行う努力であるから,審決が説示するとおり,相違点1〜3に係るパラメーター及びそれらの数値範囲はいずれも,当業者であれば容易に想到できるものである。
そして,所望の特性を得るために複数のパラメーターが関係する場合には,いずれかのパラメーターを個別に特定したところで所望の特性が得られないことは自明であるから,それらを総合的に勘案して所望の特性を得るための最適な数値範囲を特定することも,当業者にとって技術常識である。
イ導管外径を20mm以下,導管材質の縦弾性率を300〜1000kgf/mm と,それぞれ特定したことの臨界的意義は,本願明細書には何ら2記載されていない。
また,導管外径に対する凹部の肉厚の比を0.09以上,0.15以下と特定したことに関しても,本願明細書には,比較例につき「柔軟性が悪い」あるいは「強度不足」旨の記載があるにとどまり,上記の点に臨界的意義が存するとはいえない(チューブが仮に折れ曲ったとしてもチューブ内孔の閉塞を防止するという本願発明の目的との関係では,原告も認めるように,管内の気体流量を特定する場合には最低限の内径が関与するものと考えられるが,本願発明では導管内径あるいは凸部の高さは特定されていない。)。
(2)効果について使用者の作業性向上という効果は,引用例に記載されているように軽量な特性を有する導管であれば,使用者の作業性が向上することは自明であるし,その効果自体が引用例に明記されていないことを理由として格別の効果であるということもできない。
(3)まとめ上記(1)及び(2)によれば,引用発明の呼吸回路用導管の強度を特定するために相違点1〜3に係るパラメーター及び数値範囲を採用して,本願発明とすることは,当業者が容易になし得たことであり,審決の判断に誤りはない。
第5当裁判所の判断1取消事由1(一致点の認定の誤り)について(1)引用発明の認定の誤りについて原告は,引用例には,呼吸回路用導管に関し,「患者とレスピレータとを接続する呼吸回路に用いられる蛇腹の山部5が螺旋状に連続した蛇腹管6であり,その内腔9に呼気ガスまたは吸気ガスを通す」ことが記載されているものの,それのみでは「管の潰れによる閉塞」に対する効果が不十分であることが記載されているから,審決における引用発明の認定(前記第2,3(1))が誤りである旨主張する。
ア引用例(甲1)には,次の記載がある。
(ア)「(先行技術およびその問題点)患者とレスピレータあるいは麻酔器とを接続するのに呼吸回路が用いられているが,呼吸回路にはキンキング(管の潰れによる閉塞)防止とフレキシブル性を重視するために主として蛇腹管が用いられている。従来より種々の蛇腹管が知られているが,代表的には次に述べるようなものがある。
(1)第1のタイプのものは,独立した波形が多数形成されているもの,あるいは連続する螺旋状の波形が形成されているものである。このタイプのものは可撓性に富み軽いが,伸びやすく,コンプライアンスが大きい。」(1頁2欄21行〜2頁3欄5行)(イ)「第2図に示すものは,主管部は蛇腹の山部5が螺旋状に連続した蛇腹管6であり,この蛇腹管6の山部5に沿つてフレキシブルな直管7の内壁を固着して蛇腹管6の外周壁と直管7の内周壁との間の空間8を副管部としたものである。本構成例では,蛇腹管6の内腔9に呼気ガスまたは吸気ガを通し,蛇腹管6と直管7とにより形成される通路8にネブライザー作動ガスまたは呼気弁作動ガスを通すことができる。」(3頁5欄4行〜12行)(ウ)「本発明の呼吸回路用導管は,主管部の外周壁を副管部の内周壁となるように設けられているため,副管部が設けられた部分が肉厚にならないので,シンプルで取り扱い易く,かつ軽量でフレキシブル性を損なわずにコンプライアンスが小さく,キンキング防止に極めて大きな効果を持つものである。」(3頁6欄18行〜24行)イ引用例の上記ア(ア)の記載によれば,第1のタイプの蛇腹管とされる「独立した波形が多数形成されているもの」及び「連続する螺旋状の波形が形成されているもの」は,患者とレスピレータあるいは麻酔器とを接続する呼吸回路に用いられ,キンキング(管の潰れによる閉塞)防止とフレキシブル性を重視するために用いられる「蛇腹管」の一例として記載されていることが明らかであるから,これらは,「管の潰れによる閉塞を防止し軽量でフレキシブルな呼吸回路用導管」として,記載されているものと理解することができる。
ウ原告は,引用例の上記ア(ア)の記載に関し,「伸びやすく,コンプライアンスが大きい」とは,強い外力を受けた場合に変形しやすく,潰れやすいという欠点を有し,キンキング防止効果が不十分であることを示している旨主張する。
一般に,コンプライアンスとは,「単位力下における線形物理系の変位」(マグローヒル科学技術用語大辞典改訂第3版)を意味するから,上記記載における「伸びやすく,コンプライアンスが大きい」とは,管の長手方向に変形しやすいことを意味するものと解される。これに対し,「潰れやすい」というのは,長手方向と直交する方向の変形についての性質であるから,原告の上記主張は採用することができない。
エ原告は,引用例の前記ア(イ)及び(ウ)の記載及び第2図によれば,「連続する螺旋状の波形が形成されているもの」は,蛇腹管の山部と直管内壁を固着した2重管構造の構成を有するようにすることで,曲がりに対する追従性を損なわずに,潰れなどの変形が小さく,キンキング防止効果を実現することが記載されており,「患者とレスピレータとを接続する呼吸回路に用いられる蛇腹の山部5が螺旋状に連続した蛇腹管6であり,その内腔9に呼気ガスまたは吸気ガスを通す」との構成のみでは,「管の潰れによる閉塞」に対する効果が不十分であることが示されている旨主張する。
しかし,引用例の前記ア(イ)及び(ウ)の記載に照らせば,引用例の第2図に示された蛇腹管は,前記イにおいて検討したキンキング(管の潰れによる閉塞)防止とフレキシブル性を重視するために用いられる「蛇腹管」の一例である「連続する螺旋状の波形が形成されているもの」を改良したものであり,「管の潰れによる閉塞」を防止する効果を有する蛇腹管について,「管の潰れによる閉塞」に対する効果をさらに向上させたものであるから,これをもって,「患者とレスピレータとを接続する呼吸回路に用いられる蛇腹の山部5が螺旋状に連続した蛇腹管6であり,その内腔9に呼気ガスまたは吸気ガスを通す」との構成のみでは「管の潰れによる閉塞」に対する効果が不十分であることを示すものということはできず,原告の上記主張は採用することができない。
(2)本願発明と引用発明の対比の誤りについてア原告は,引用発明の山部5は,外面の構造であって,内面の構造ではなく,また,引用発明には,凸部が存在せず,蛇腹管6を押し潰したり,2つ折りにしたりした場合に,流路内面の閉塞を防止することができない旨主張する。
(ア)本願明細書(甲3,4)には,導管内面の凹凸構造及び異形断面に関し,次の記載がある。
「……導管の内面に凹凸構造を持つ異形断面を有する……該凹凸構造が導管内面に長手方向に連続した1〜8個の凹凸部よりなり,……該導管外径に対する凹部の肉厚の比が0.09以上,0.15以下である異形断面を有する……」(請求項1)「……チューブを折り曲げたり押し潰したりすることで導管手段の気体流路が途中で閉塞し,呼吸気体の供給が困難になる。……この危険性を未然に防ぐ手段としては,……導管内面に突起部を有する異形断面チューブを用いる方法を採用することができる。……異形断面チューブとは,通常はチューブ断面が円形であるのに対して,該チューブ内面に1個以上の突起部を持つ凹凸構造を有するチューブであり,仮にチューブが折れ曲ったとしてもチューブ内孔が完全に閉塞することはなく,安全性の高いチューブである。」(段落【0003】〜【0005】)「本発明者はかかる問題について鋭意検討した結果,異形断面を有する呼吸気体流通用可撓性樹脂導管において,その外径に対する凹部の肉厚の比を0.15以下とすることにより,従来の市販品よりも柔軟でありかつ軽量化を達成した。更に折曲げに対する機械的強度を保持するためには,その外径に対する凹部の肉厚の比を0.09以上にすることが必要であることをみいだした。」(段落【0008】)「異形断面の構造は,導管内面に長手方向に連続した1から8個の凹凸部より構成される。凹部,即ち突起の存在しない部分の外壁または溝の底部の外壁の肉厚は,0.4〜0.9mmのものがよく,更に好ましくは0.5〜0.8mmのものがよい。」(段落【0010】)「異形断面構造は,導管内面に長手方向に連続した1から8個の突起または溝より構成される。図2は,本発明における異形断面を有する呼吸気体流通用可撓性樹脂導管の断面図の一例である。(a)は該導管の内径側に各6個の凹凸部からなる異形断面を有する呼吸気体流通用可撓性樹脂導管の断面図を,(b)は導管の内径側に各3個の凹凸部からなる異形断面を有する呼吸気体流通用可撓性樹脂導管の断面図を,(c)は導管の内径側に各4個の凹凸部からなる異形断面を有する呼吸気体流通用可撓性樹脂導管の断面図を示したものである。」(段落【0016】)また,本願明細書の図2(a),(b)及び(c)には,導管内面に,それぞれ6つ,3つ,4つの凸部及び同数の凹部が設けられた態様が,図示されている。
(イ)上記(ア)の記載等を総合すれば,本願明細書は,導管の内面に「突起部」を持つ構造を「凹凸構造」と呼び,「突起の存在しない部分」を「凹部」と呼んでいることが認められるが,突起部の形状について格別の限定ないし説明はないから,導管内面の「凸部」でない部分が「凹部」であり,「凹部」でない部分が「凸部」であると解するのが相当である。
上記理解を前提に,引用発明について検討するに,山部5は,蛇腹管6の内側から見ると凹んでいるから,「凹部」に当たるということができ,山部5に隣接する平坦な壁部分は,蛇腹管6の内側から見ると山部5に対し相対的に突起した部分であるから,「凸部」に当たるということができる。
(ウ)本願明細書の前記(ア)で認定した記載によれば,本願発明が導管の内面に凹凸構造を設けている技術的意義は折れ曲がりによる閉塞を防止することにあることが認められる。
一方,引用例の前記(1)アで認定した記載及び第2図によれば,引用発明が山部5及びこれと隣接する平坦な壁部分を有する蛇腹管構造を採用しているのは,キンキング(管の潰れによる閉塞)防止を目的とするものであって,本願発明の導管内面の凹凸構造と同様の技術的意義を有することは明らかである。
(エ)なお,凹凸構造の位置に関し,引用発明の蛇腹管6の内側から観察して,蛇腹管6の凹凸構造を構成する山部5及び平坦な壁部分が当該蛇腹管6の内面に存することは明らかである。
(オ)上記(ア)ないし(エ)のとおりであるから,原告の主張は採用することができない。
イ原告は,異形断面の導管とは断面形状が円形ではない導管を指し,蛇腹管は含まないと主張する。
しかし,本願明細書が,断面が円形でなく,内面に凹凸構造を有する導管を「異形断面」の導管と呼んでいること,引用発明が,その断面が円形ではなく,内面に凹凸構造を有することは,いずれも上記アのとおりであるから,原告の主張は採用することができない。
ウ原告は,本願発明にいう「長手方向に連続した」凹凸構造とは,導管の長さ方向(ガスが流れる方向)にまっすぐに伸びる凹凸構造を指すのであり,引用発明のような螺旋構造を含むものではないと主張する。
しかし,本願明細書の前記ア(ア)で認定した記載等を総合すれば,請求項1の「凹凸構造が導管内面に長手方向に連続した1〜8個の凹凸部よりなり」との記載における「長手方向に」は「連続した」を修飾しているものと認められ,凹凸構造が「長手方向に沿って(平行に)設けられ」ないしは「長手方向に沿って平行に延びる」と限定して解釈すべき特段の事情は認められないから,原告の上記主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものであり,採用することができない。
そして,引用発明において,凹凸構造を構成する山部5及び平坦な壁部分が,蛇腹管6の両端間,すなわち長手方向にわたって連続形成されていることは明らかであって,「凹凸構造が長手方向に連続した1個の凹凸部よりなる」ということができる。
そうすると,本願発明と引用発明とは,「凹凸構造が長手方向に連続した1個の凹凸部よりなる」との点において一致するというべきである。
エ原告は,審決が,引用発明の「フレキシブルな」「導管」が本願発明の「可撓性」「導管」に当たる旨認定したが,引用例の3頁5欄4行〜12行によれば,「フレキシブルな」との記載は,直管7についてのものであり,螺旋状の蛇腹についてのものでないから,審決の上記認定が誤りである旨主張する。
しかし,引用例の前記(1)ア(ア)で認定した記載によれば,「管の潰れによる閉塞を防止し軽量でフレキシブルな呼吸回路用導管」として,蛇腹管が記載されているものと理解することができ,このことは原告が指摘する引用例の記載(前記(1)ア(イ)で認定した記載)により左右されるものではないから,原告の主張は採用の限りでない。
(3)まとめ引用発明の認定の誤り及び本願発明と引用発明の対比の誤りとして原告が主張するところは,上記(1)及び(2)のとおり,いずれも失当であり,これらを前提とする一致点の認定の誤りの主張も失当というべきである。
また,上記説示したところに鑑みれば,審決が本願発明と引用発明との一致点を前記第2,3(2)のとおり認定したことは,これを是認することができる。
したがって,原告主張の取消事由1は理由がない。
2取消事由2(相違点及び効果についての判断の誤り)について(1)相違点について原告は,相違点1〜3の数値範囲を個別に見ても,それぞれ予測容易ではなく,また,本願発明は,相違点1〜3に係る各構成を併せ持つことにより,柔軟性,軽量化を実現したものであり,個々の要件に類似する記載があったとしても,各要件が具備すべき適切な範囲は予測することはできず,引用発明から当業者が容易に見出し得るものではない旨主張する。
ア一般に,実験的に数値範囲を最適化又は好適化することは当業者の通常の創作能力の発揮というべきであるから,公知技術に対して数値限定を加えることにより,特許を受けようとする発明が進歩性を有するというためには,当該数値範囲を選択することが当業者に容易であったとはいえないことが必要であり,これを基礎付ける事情として,当該数値限定に臨界的意義があることが明細書に記載され,当該数値限定技術的意義が明細書上明確にされていなければならないものと解するのが相当である。
イそこで,本件について検討するに,本願明細書(甲3,4)には,実施例及び比較例について,次の記載がある。
(ア)「本発明者はポリ塩化ビニルを素材として,表1に示す外径,凹部肉厚サイズ,断面形状の異形断面を有する呼吸気体流通用可撓性樹脂導管の実施例1〜6及び比較例1〜4を製造した。」(段落【0017】)(イ)「実施例1から6はいずれも凹部肉厚/外径比が0.09〜0.13の値を示し,該導管の柔軟性が良く,20mの長さの導管を用いても患者に負担なく移動でき,しかも折れ曲がりによる空気流の遮断を防ぐことができた。」(段落【0019】)(ウ)「市販品である比較例1,3及び4は凹部肉厚/外径比が0.15よりも大きく,柔軟性が悪かった。」(段落【0021】)(エ)「また比較例2に示すように凹部肉厚/外径比が0.09よりも小さいくなると柔軟性はあるものの,折れ曲がり,押し潰れに対して機械的強度が不足していた。」(段落【0022】)(オ)「本願発明の異形断面を有する呼吸気体流通用可撓性樹脂導管を縦弾性率300〜1000kgf/mm の素材で形成することにより,大2幅な軽量化と同時に柔軟性を兼ね備えた異形断面を有する呼吸用気体流通導管を提供することが可能となった。」(段落【0023】)また,【表1】(段落【0018】)には,実施例1〜6及び比較例1〜4につき,外径,凹部肉厚,凹部肉厚/外径比,断面形状が記載され,また,比較例1〜4につき,備考として,「柔軟性が悪い」(比較例1,3及び4)又は「強度不足」(比較例2)と記載されている。
ウ本願明細書の上記イの記載等によれば,いずれの実施例及び比較例も外径(mmφ)が20mm以下であり,本願明細書のその余の記載を検討しても,外径が20mmを超える場合と本願発明とを比較した記載は見当たらないところであって,本願明細書において「外径20mm以下」という相違点1に係る本願発明の構成の臨界的意義ないし技術的意義が明らかにされているとは認められない。
そして,導管の外径は当業者が適宜決定し得る事項であるというべきであり,引用発明において相違点1に係る構成とすることは容易であるとした審決の判断は是認することができる。
エ本願明細書の前記イ(オ)の記載によれば,導管が「樹脂」からなり,「該樹脂が縦弾性率が300〜1000kgf/mm の素材」であるとい2う相違点2に係る本願発明の構成については,軽量化と柔軟性を兼ね備えるようにするとの意義があるとされていることがうかがえないではないものの,上記イの記載等を検討しても,実施例及び比較例において用いられた樹脂の縦弾性率は不明であり,段落【0011】を含め,本願明細書のその余の記載を検討しても,他の素材を用いる場合と本願発明とを比較した記載は見当たらないところであって,相違点2に係る構成の臨界的意義ないし技術的意義が明らかにされているとは認められない。
そして,導管の材質は,当業者が,要求される性質,コスト,製造の容易性等を勘案して,適宜決定し得る事項というべきであり,また,甲5には,本願発明の「300〜1000kgf/mm 」と重複する数値範囲で2ある20〜2000kgf/mm の弾性率を有するポリマーを,治療・診2断用のカテーテルに使用することが記載されており(段落【0021】),当該素材は本願出願前にごく普通に用いられていたものであることが認められる。
以上によれば,引用発明において相違点2に係る構成とすることは容易であるとした審決の判断は是認することができる。
なお,原告は,甲5記載のものは,体内への挿入容易性,組織損傷防止,体内挿入後のトルク伝達性など,生体内に挿入して使用することを前提に可撓性や弾性率を決定したものであり,本願発明のように,異形断面に伴う潰れ防止などの構造維持や20mといった長い導管を使用した場合の柔軟性などを考慮したものではない旨主張する。しかし,審決は,本願発明の「300〜1000kgf/mm 」と重複する数値範囲である20〜22000kgf/mm の弾性率を有するポリマーが本願出願前にごく普通に2用いられていたものであることを示すために,甲5を例示したにすぎないから,原告が指摘する事項は審決の判断の当否に影響するものではなく,採用の限りでない。
オ本願明細書の前記イ(ア)〜(エ)の記載及び【表1】並びに前記1(2)ア(ア)において認定した記載によれば,「導管外径に対する凹部の肉厚の比が0.09以上,0.15以下である」という相違点3に係る本願発明の構成については,柔軟性と機械的強度を両立できるという意義があるものとされていることがうかがえるが,導管の外径に対する凹部の肉厚比が小さすぎれば管の潰れによる閉塞を防止することができず,逆に大きすぎれば軽量化が達成できないことは,当業者には自明である(原告も,この点は認めている。)。
そして,甲2には,医療用具であるドレーンチューブの潰れを防止するために,最小肉厚Tとチューブ半径Rとの比T/Rを1/2〜1/6の範囲内とすべきことが記載され(実用新案登録請求の範囲,2頁4欄19行〜33行),これを外径に対する凹部の肉厚の比に換算すれば,本願発明の相違点3に係る構成と重複する「0.25〜0.08」となることが認められる。
してみると,本願発明の数値範囲は,導管の潰れを防止する目的で選択する数値範囲として,当業者が通常選択する範囲に含まれるものであり,これをさらに適切な範囲としたにすぎないことが認められる。
そうすると,当業者であれば,管の潰れによる閉塞の防止と軽量化とのバランスを勘案しつつ,引用発明において相違点3に係る構成とすることは容易であるというべきであり,これと同旨の審決の判断に誤りはない。
なお,原告は,本願発明は,甲2記載の体内に貯留した排液を排出する外科用のドレーンチューブとは異なり,呼吸用気体供給用の導管であり,しかも,導管外径に対する凹部の肉厚の比に関し,0.09以上,0.15以下とするものであって,甲2のドレーンチューブの要件よりも厳しい条件である旨主張する。しかし,審決は,本願発明の「導管外径に対する凹部の肉厚の比が0.09以上,0.15以下」との数値範囲が,当業者が適宜決定すべき事項であり,適切な範囲としたこと以上の格別の意義がないことを示すために,甲2を例示したにすぎないから,原告が指摘する事項は審決の判断の当否に影響するものではなく,採用の限りでない。
カ前記イの記載等を含め,本願明細書を検討しても,相違点1〜3に係る構成を併せたことの技術的意義が明らかにされているとは認められないところであり,本願発明の相違点1〜3に係る各構成により特定されるパラメーターは,それぞれが異なる観点から,当業者が適宜その数値範囲を検討し得るものであって,相互に密接に関連して当業者が予測できない新たな効果を奏するものであるということはできない。
そして,引用発明において相違点1〜3に係る各構成とすることが容易であるとした審決の判断に誤りがないことはすでに検討したとおりである。
したがって,本願発明は,相違点1〜3に係る各構成を併せ持つことにより,柔軟性,軽量化を実現したものであり,個々の要件に類似する記載があったとしても,各要件が具備すべき適切な範囲は予測することはできず,引用発明から当業者が容易に見出し得るものではないとの原告の主張も,採用することができない。
(2)効果について原告は,本願発明は,使用者の作業性向上をも課題としており,酸素濃縮装置から長さ20m近くにも延長チューブを接続して利用する場合に求められるチューブの柔軟性及び重量に対する効果を有するものであるのに対し,引用発明は,人工呼吸器,麻酔器に使用される呼吸回路であって,使用者はベッド上に寝ているため,使用者の作業性向上という概念を有しない旨主張する。
しかし,請求項1は,長さ20m近くにも延長チューブを接続して利用することや使用者を何ら規定していないから,原告の上記主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものである。
また,引用例には,軽量な特性を有する導管が記載されているのであるから,そのような導管を用いれば,軽量ではないものと比較して,使用者の作業性が向上すること,また,長さが長いほど向上の程度が大きいことは,当業者には自明である。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(3)まとめ以上検討したところによれば,相違点及び効果に関する審決の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由2は理由がない。
3結論以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,その他,審決に,これを取り消すべき誤りがあるとは認められない。
よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 大鷹一郎
裁判官 嶋末和秀