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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成12行ケ91取消決定取消請求事件 判例 特許
平成18行ケ10386審決取消請求事件 判例 特許
平成20行ケ10350審決取消請求事件 判例 特許
平成14行ケ119特許取消決定取消請求事件 判例 特許
平成17行ケ10185審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 新規性 /  進歩性(29条2項) /  同一技術分野(同一の技術分野) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  相違点の判断 /  周知技術 /  公知技術 /  発明の詳細な説明 /  特許出願日 /  数値限定 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  構成要件 /  設定登録 /  発明の範囲 /  訂正審判 /  請求の範囲 /  訂正明細書 /  審決確定(審決が確定) / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 154号 審決取消請求事件
原告 中部飼料株式会社
訴訟代理人弁理士 岡田英彦、福田鉄男、池田敏行、岩田哲幸、中村 敦子
被告 三友機器株式会社
被告 新興商事株式会社
被告ら訴訟代理人弁理士 鈴木正次、涌井謙一
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/10/01
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が平成10年審判第35198号事件について平成13年2月28日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告らの負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 主文と同旨 2 被告ら 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、発明の名称を「生牛糞尿の急速発酵堆肥化法」とする特許第2581882号(平成4年12月11日出願、平成8年11月21日設定登録。以下「本件特許」という。)の特許権者である。
被告らは、平成10年5月8日、本件特許の無効審判を請求し、平成10年審判第35198号として審理され、平成11年8月27日、本件特許を無効とする旨の審決があった(第1次審決)。
原告は、第1次審決の取消しを求める訴訟を提起し(東京高等裁判所平成11年(行ケ)第353号)、その訴訟中に訂正審判の請求(訂正2000-39028号)をしたところ、平成11年4月24日に訂正を認める審決(本件訂正審決)があり、その審決が確定したことにより、東京高等裁判所は、第1次審決を取り消した。
特許庁は、上記訂正審判の審決により訂正された後の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)につき再度審理した結果、平成13年2月28日、「特許第2581882号発明の特許を無効とする。」旨の審決をし、その謄本を同年3月19日原告に送達した。
2 本件発明の要旨(本件訂正審決による訂正後の請求項1)【請求項1】 生牛糞尿を発酵槽内で攪拌しつつ好気的発酵させる堆肥化法において、槽内の堆積物を均一に好気的発酵できる程度に攪拌できる攪拌羽根を有するとともに外部から酸素供給可能な密閉式発酵槽に、80%〜85%の水分の生牛糞尿と油脂が吸着された廃棄白土とのみを、生牛糞尿が80〜90重量%及び廃棄白土が20〜10重量%の配合比で投入し、生牛糞尿と廃棄白土のみからなる当該混合物を、発酵槽内に酸素を供給しつつ、前記攪拌羽根により5分間作動10分間停止を繰り返す間欠攪拌を行い、前記油脂が発酵されることにより生ずる発酵熱により、生牛糞尿中の水分を蒸発させて好気的発酵を促進して、当該混合物の投入後8〜12時間以内に発酵槽内の混合物の温度を70〜80℃とすることを特徴とする生牛糞尿の急速発酵堆肥化法。
3 審決の理由の要旨 審決は、別紙審決の理由写し(以下「審決書」という。)のとおり、本件発明は、刊行物1(特開昭54-111469号公報、審判甲第1号証、本訴甲第5号証)に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明の特許は、特許法29条2項の規定に違反してなされたものであり、無効とすべきものであると認定判断した。
原告主張の取消事由の要点
審決は、本件発明と刊行物1に記載された発明との一致点の認定を誤り(取消事由1)、相違点の認定判断を誤った(取消事由2)結果、本件発明の進歩性を否定したものであって、違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について (1) 審決は、本件発明と、刊行物1に記載された発明とを対比し、
「両者は、『生牛糞尿を発酵槽内で好気的発酵させる堆肥化法において、外部から酸素供給可能な発酵槽に、生牛糞尿と油脂が吸着された廃棄白土とを投入し、生牛糞尿と廃棄白土のみからなる当該混合物を、発酵槽内に酸素を供給しつつ、前記油脂が発酵されることにより生ずる発酵熱により、生牛糞尿中の水分を蒸発させて好気的発酵を促進する生牛糞尿の発酵堆肥化法』である点で一致」する(審決書5頁24ないし29行、下線付加)、
と認定したが、誤りである。
(2) 刊行物1には、生牛糞尿を発酵槽内で好気的発酵させる堆肥化法において、外部から酸素供給可能な発酵槽に、生牛糞尿と、油脂が吸着された廃棄白土と、水分調整剤を投入し、生牛糞尿と廃棄白土と水分調整剤からなる混合物を、発酵槽内に酸素を供給しつつ、前記油脂が発酵されることにより生ずる発酵熱により、生牛糞尿の水分を蒸発させて好気的発酵を促進する牛生糞尿の発酵堆肥化法が記載されているといえるにとどまり、生牛糞尿と廃棄白土とのみを投入し、生牛糞尿と廃棄白土のみ からなる混合物を、発酵槽内に酸素を供給しつつ、前記油脂が発酵されることにより生ずる発酵熱により、生牛糞尿の水分を蒸発させて好気的発酵を促進する点は、記載されていない。
(3) このように、本件発明と、刊行物1に記載の発明とは、生牛糞尿と廃棄白土とのみを投入するか、これらに加えて水分調整剤を投入するかの点で明確に相違するにもかかわらず、審決は、両発明は生牛糞尿と油脂が吸着された廃棄白土とのみを投入する点においても一致すると誤認したものである。
そして、審決は、相違点を誤って一致していると認定したため、相違点について検討することなく、本件発明は「特許を受けることができない」と誤って結論したものであり、取消しを免れない。
2 取消事由2(相違点の認定判断の誤り)について (1) 相違点(B)について ア 審決は、本件発明と刊行物1に記載の発明との相違点(B)として、「本件発明は『生牛糞尿が80〜90重量%及び廃棄白土が20〜10重量%の配合比』としているのに対し、刊行物1には生牛糞尿と廃棄白土の配合比がこのような範囲に限定することは記載されていない点」で異なる(審決書5頁36ないし38行)と認定したが、誤りである。
イ 本件発明は、単に、「生牛糞尿が80〜90重量%及び廃棄白土が20〜10重量%の配合比」とするものではなく、生牛糞尿と油脂が吸着された廃棄白土とのみを、生牛糞尿が80〜90重量%及び廃棄白土が20〜10重量%の配合比で投入するものである。
刊行物1には、生牛糞尿と油脂が吸着された廃棄白土を、水分調整剤とともに使用することが記載されていても、生牛糞尿と廃棄白土のみを、前者が80〜90重量%、後者が20〜10重量%の配合比で投入することは記載されていない。単に配合比だけに着目して「生牛糞尿が80〜90重量%及び廃棄白土が20〜10重量%の配合比で投入すること」のみを相違点とするのは誤りである。組成物において、組成とその配合比とは一括して判断されるべきであるからである。2成分のみからなる場合に、当該2成分の配合比が規定されている状態と、当該2成分以外に第3成分の存在している場合に、2成分の配合比が規定されている状態とでは、たとえ、2成分の配合比が一致していたとしても、組成物全体としては全く異なる。
したがって、本件発明と刊行物1に記載の発明は、「本件発明が、『生牛糞尿と油脂が吸着された廃棄白土とのみを、生牛糞尿が80〜90重量%及び廃棄白土が20〜10重量%の配合比で投入する』のに対し、刊行物1にはそのような組成が記載されていない点」において相違しているというべきである。
ウ 刊行物1には、廃吸着剤の有機性廃棄物に対する配合量は同量〜1/10程度に調整することが記載されている。また、その実施例には、廃吸着剤として廃白土を、生乳牛糞に対しては、10重量%(実験番号2)、19重量%(実験番号3)、又は、20重量%(実験番号5)含有させたことが記載されている。
しかし、いずれの実験番号の組成物も、廃吸着剤と生乳牛糞以外に水分調整剤としての発酵済乳牛糞を含有している。
刊行物1記載の発明では、発酵効率を向上させるために水分調整剤として発酵済乳牛糞を加えているのであるから、発酵済乳牛糞が添加されていない場合には、より高い配合比で廃棄白土が必要となることが、当業者にはごく当然に理解される。
そうすると、これらの実施例における数値は、生牛糞尿と廃棄白土とのみを使用する場合における指標となる数値とはなりえない。また、当業者において、少なくともこれらの数値を超えることが必要であることが理解される以上、逆に、生牛糞尿と廃棄白土とのみを使用する場合に、廃棄白土を全体の10重量%〜20重量%とするという本件発明の配合組成を否定する記載となっている。
したがって、刊行物1の記載から、本件発明において、生牛糞尿と廃棄白土とのみとの配合比を本件発明の範囲に設定することは、当業者が容易に想到し得ることであるとした審決は、誤っている。
(2) 相違点(D)について ア 審決は、本件発明と刊行物1に記載の発明との相違点(D): 本件発明と、刊行物1に記載された発明は、「本件発明が『投入後8〜12時間以内に発酵槽内の混合物の温度を70〜80℃とする』のに対し、刊行物1にはこのような温度設定について記載されていない点、で相違する。」(審決書6頁3ないし5行)、
について、「本件発明の『投入後8〜12時間以内に発酵槽内の混合物の温度を70〜80℃とする』との規定は、発酵堆肥化法の効果を判断する指標となるものと認められるが、本件明細書の記載から明らかなように、定量的に本件発明の発酵堆肥化法の効果を示すものではなく、それ自体で、刊行物1記載の発酵堆肥化法との差異を示すに足りる程の明示の指標を何ら規定しているわけではないから、これをもって、刊行物1に記載されている公知の発酵堆肥化法に、当業者が容易に想到できない程度の技術的寄与をしたものと評価することはできない。」(審決書9頁3ないし10行)と認定判断したが、誤りである。
イ 「投入後8〜12時間以内に発酵槽内の混合物の温度を70〜80℃とする」との点は、本件特許請求の範囲に記載されている。
特許請求の範囲は、特許としての保護を求める範囲であると同時に、その発明の構成に欠くことができない事項のみを記載すべきものである。そして、特許請求の範囲は、「発明の要旨」を示すものとして、新規性進歩性等の特許性を判断する場合の基準とされるものである。したがって、本件特許請求の範囲に記載されている「投入後8〜12時間以内に発酵槽内の混合物の温度を70〜80℃とする」ことを本件発明の構成要件として認定した上で、当該構成要件自体が、刊行物1に記載の発明から容易に発明することができたか否かが判断されなければならない。審決はかかる判断をしておらず、判断しないままに本件発明は特許を受けることができないと結論しており、取消しを免れない。
ウ 審決は、また、「本件発明は・・・水分率80〜90重量%の生牛糞尿と油脂吸着廃棄白土を、生牛糞尿が80〜90重量%及び廃棄白土が20〜10重量%の配合比で投入し、5分間作動10分間停止を繰り返す間欠撹拌を行い、好気的発酵を行うことにより、『投入後8〜12時間以内に発酵槽内の混合物の温度を70〜80℃とする』という効果を得るものである、すなわち、本件発明は、密閉式発酵槽において、一定水分範囲の生牛糞尿と廃棄白土を特定の配合比で、酸素を供給しながら間欠撹拌して好気的発酵を行うことにより、上記した効果を得るものであると認められ、そして、上記した効果にかかる事項が特許請求の範囲に規定されているものである。」(審決書7頁下6行ないし8頁8行)として、本構成要件を、本件発明の他の構成要件から導き出される効果であると認定したうえで、「訂正明細書には、・・・どのような生牛糞尿とどのような廃棄白土を、どのような配合比で混合し、どのような条件で発酵させた場合に、『投入後8〜12時間以内に発酵槽内の温度を70〜80℃とする』のか具体的に記載されておらず、本件発明の上記した発酵原料、発酵条件の規定を満たす場合とこれを満たさない場合との『投入後8〜12時間以内に発酵槽内の混合物の温度を70〜80℃とする』ことの対比は、上記発酵原料、発酵条件の規定が臨界的意義を有するものであることを明らかにするほど十分になされているとは認められない。」(審決書8頁9ないし29行)として、本件発明の効果を否定している。
しかし、本件発明の効果は、訂正明細書(甲第2号証)の段落【0027】に、
「本発明によれば、・・・発酵熱により生牛糞尿の水分を活発に蒸発可能な程度まで上昇させることができるため、水分調整剤を一切使用することなく、生牛糞尿を直接堆肥化装置で発酵堆肥化処理可能となっている。また、生牛糞尿と油脂が吸着された廃棄白土の混合物の温度は、発酵熱により投入後8〜12時間後に、70〜80℃となるため、毎日発生する生牛糞尿を容易に連続処理することができる。この結果、計画的かつ短期間で堆肥生産が可能となり、また衛生的でもある。・・・したがって、牛の牧場における生牛糞尿を連続的かつ円滑に機械処理可能となって、作業効率を著しく改善することができる。」と記載されているとおり、刊行物1から予測することができない格別顕著なものである。
すなわち、従来、糞尿の堆肥化においては、発酵槽へ糞尿を投入すると、発酵温度が下がってしまって、適正な発酵温度に到達して良好な発酵状態が得られるまでは、次の糞尿を投入することができないという問題があった。特に、水分率が高く、繊維質が多くて難発酵性の生牛糞尿においては糞尿投入による温度低下が大きいため、この温度低下が生牛糞尿を連続(連日)発酵堆肥化する場合の大きな問題であった。
しかし、本件発明によれば、生牛糞尿を含む混合物を投入後、8ないし12時間後に70ないし80℃の発酵適正温度に到達し、その後良好な発酵状態が維持されるために、翌日には(前回投入時から24時間後には)発生した糞尿を連続的に投入しても、全体として良好な発酵状態を継続させることができるのである。
刊行物1記載の発明は、水分調整剤を投入した場合においても、堆積発酵において混合物投入後2〜3日後に初めて70℃付近に到達するものであり、本件発明のように、連日発生する生牛糞尿の連続(連日)処理を到底達成することができない。
このように、本件発明によれば、刊行物1記載の発明、及びこの発明に周知技術を組み合わせたとしても到底達成することができない有利な効果を奏するものであり、審決の認定判断は誤りである。
被告らの反論の要点
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について 刊行物1(甲第5号証)の特許請求の範囲(1)には、「有機性廃棄物を発酵処理して有機肥料を製造するに当り、油脂製造の脱色工程で排出される廃吸着剤を混入して好気発酵することを特徴とする有機肥料の製造法。」と記載されている。
上記記載における有機性廃棄物とは、「人糞、家畜糞、家禽糞等」をいい(同号証361頁右欄2ないし7行、及び実施例1、2)、当然「牛糞尿」を含む。また、上記記載における廃吸着剤とは、「油脂製造の脱色工程から排出される廃吸着剤」であって、例えば、油分を吸着した廃白土が用いられる(同号証2頁左上欄17行ないし左下欄6行、及び実施例1、2)。
上記記載に鑑み、刊行物1記載の発明は水分調整されない生牛糞尿からの堆肥化方法において本件発明と一致するとした審決の認定は、至当である。
2 取消事由2(相違点の認定判断の誤り)に対して (1) 相違点(B)について ア 原告は、相違点(B)についての審決の認定判断が誤りであると主張するが、原告の主張は、技術の本質を敢えて判断することなく、構成上の差異をあたかも技術思想上の差異としたもので、その誤りは明らかである。
イ 刊行物1の技術思想は、「生牛糞尿に廃棄白土を加えて好気性発酵処理する技術」と、「生牛糞尿を水分調整し、廃棄白土を加えて好気性発酵処理する技術」である。
しかして後者の水分調整の例として水分調整剤を加えたにすぎない。
ウ 廃棄白土の量をみるに、刊行物1の実施例において、生牛糞尿に対し、
10.2重量%ないし20.3重量%加えていることは、原告も認めていることである。
したがって、本件発明は刊行物1記載のものをそのまま利用したにすぎないので、容易に想到し得るとした審決に誤りはなく、至当である。
刊行物1のような記載がなくとも、好気性発酵ともなれば、空気を十分に供給することと、好気性菌繁殖の栄養分を付与することは、当業者ならば当然行うことである。いわんや、刊行物1のような示唆があれば、直ちにそのように実施することは当然であり、このようにすることは何ら高度の技術ではない。
エ ちなみに、原告が問題視している「水分調整剤」は、発酵済乳牛糞であって、単に水分を調整することのみを目的としており、発酵には無関係である。このようなことは、当業者の常識であって、生牛糞尿などの処理における思想を左右するものではない。
(2) 相違点(D)について ア 原告は、「投入後8〜12時間以内に発酵槽内の混合物の温度を70〜80℃とする」という点は、本件発明の構成要件であり、本来、当該構成要件自体が、刊行物1記載の発明から容易に発明することができたか否かが判断されなければならないところ、審決は、かかる判断をしておらず、判断しないままに本件発明は「特許を受けることができない」と結論しており、取消しを免れないと主張する。
しかし、前記投入後の時間と温度は、訂正前の明細書中の実施例の項に、「この結果、発酵槽内の牛糞尿と廃棄白土との混合物は、微生物によって好気的発酵可能となり、投入後8〜12時間後には、この混合物の温度は70〜80℃になる」(甲第2号証、段落【0020】)と記載されていたものを、訂正により、特許請求の範囲に加えられたものである。
訂正前の本件明細書の「この結果」との記載は、実施例の結果であって、実施例の「効果の記載」にほかならない。
原告は、前記投入後時間と、温度が構成要件として認められたのを奇貨として、
公知例からの発明容易性(進歩性)の判断をしなかったとして、審決を非難し、取消しを免れないとしているが、上記のとおり効果の記載である以上、公知例からの発明の容易性について検討する必要はなく、審決の判断には誤りがなく、極めて至当であるということができる。
また、前記「投入後8〜12時間以内に発酵槽内の混合物の温度を70〜80℃とする」との規定は、時間、温度共に幅があるところ、このように幅があるのは、
1条件の実験における結果の差と認められるが、設定条件(生牛糞尿の質、水分率その他)は一定でも、外的条件が異なれば、更に異なるであろうことが予測される。
したがって、結果(効果)は本来構成要件としてなじまないものであり、いわんや公知例と比較し、発明の容易性を判断するようなものではない。
さらに、本件発明は、「生牛糞の急速発酵堆肥化法」であるから、これを達成するために行うべき条件「例えば発酵槽、生牛糞尿の水分率、生牛糞尿と廃棄白土の配合比及び酸素の供給条件」などが構成要件となり、この構成要件が一致すれば、結果は一定の範囲内に収ることになる。
すなわち、前記中「発酵槽、生牛糞尿の水分率、生牛糞尿と廃棄白土の配合比」がその中核をなすものであり、酸素供給条件は、当業者が永年に亘り実施してきた経験に基づき適宜選定すべき事項であり、発酵に必要な酸素を供給すれば足りる事項である。本件発明は、微生物の栄養源として優れた廃棄白土を提案したものと認められる。
しかるに、本件発明の特許出願日(平成4年12月11日)より、はるか以前に出願され、公開された発明(すなわち、刊行物1、昭和53年2月17日出願、昭和54年8月31日公開)があった。この刊行物1記載の発明と本件発明は、技術分野が同一である(国際特許分類は共にC05F、刊行物1及び、乙第1号証(本件公開公報)参照)。
元来、同一技術分野であって、同一目的を達成する技術思想において、発明の構成要件に数値的限定を付加することは、容易に発明されると認められる。唯一例外とされるのは、前記数値に臨界的効果があり、かつ公知技術から容易に予測することができない場合に限られる。
ところが、本件発明は、刊行物1の特許請求の範囲(1)に記載された発明と同一技術思想であり、数値限定に臨界的意義が認められないのみならず、刊行物1の実施例中の数値と一致又は近似した数値を利用している。
前記事実のみを検討するも、本件発明は技術思想が高度とは言えず、公知の発明から当業者が容易に発明し得ないということはできない。
イ 原告は、審決は、「投入後8〜12時間以内に発酵槽内の混合物の温度を70〜80℃とする」との構成要件が刊行物1に記載されている公知の発酵堆肥化法に当業者が容易に想到し得ない程度の技術的寄与をしたものと評価をすることはできないとし、当該構成要件が寄与する本件発明の効果(毎日発生する生牛糞尿を容易に連続処理できる)を判断していない、と主張する。
しかしながら、審決は、前記構成要件について「発酵堆肥化法の効果を判断する指標となるものと認められるが、本件明細書の記載から明らかのように、定量的に本件発明の発酵堆肥化法の効果を示すものではなく、それ自体で、刊行物1記載の発酵堆肥化法との差異を示すに足りる程の明示の指標を何ら規定しているわけではないから、これをもって、刊行物1に記載されている公知の発酵堆肥化法に、当業者が容易に想到できない程度の技術的寄与をしたものと評価することはできない」(審決書9頁5ないし11行)として詳細に評価しており、当該評価は的確かつ至当である。
ウ しかも、刊行物1においても、発酵日数はほぼ7日で終了しており(刊行物1第4図)、本件発明における「堆肥化に要する期間はほぼ20日程度であり」(甲第2号証、段落【0023】)と大差はない。
元来技術は、同1条件で行った場合に同一結果が生じるのであるから、刊行物1に記載された技術思想から、本件発明の実施例と近似した実施は、容易にできる。
本件発明の実施例のみが、予想もできない効果をもたらすとは考えられない。
エ 本件発明の効果について、原告は、本件発明では、水分調整剤を一切使用することなく、生牛糞尿を直接堆肥化装置で発酵堆肥化処理可能となっている、
と主張する。
しかし、刊行物1の特許請求の範囲(1)は正に水分調整剤を使用しない技術思想の発明である。また、刊行物1には、「本発明は以上の如く構成されているので、連日に亘つて発生する余剰汚泥や糞尿、或はその他の有機性廃棄物は、その水分率に応じて、廃吸着剤単独或はこれと水分調整剤を加えることにより、効果的な好気発酵を安定して行ない得る様になつた。」と記載されている(甲第5号証4頁右上欄5ないし10行)。したがって、本件発明と同一技術思想である。
オ 堆肥化装置は、本件発明の出願前から当業者間で普通に使用されていた(甲第2号証(訂正明細書)の段落【0002】に明記)。本件発明は、その出願よりはるかに以前(10年以前)から知られていた廃棄白土を使用する堆肥化方法を、その出願前から公知の堆肥化装置で堆肥化する方法であって、何らの進歩性も認められない。
したがって、前記効果は本件発明の特有の効果ではない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について (1) 原告は、本件発明と刊行物1記載の発明とが、「生牛糞尿」と「廃棄白土」のみからなる混合物を発酵させる点で一致するとした審決の認定は誤りであるとし、その理由として、刊行物1には、「生牛糞尿」と「廃棄白土」と「水分調整剤」からなる混合物を発酵させる生牛糞尿の発酵堆肥化法が記載されているものの、「生牛糞尿」と「廃棄白土」のみからなる混合物を発酵させる生牛糞尿の発酵堆肥化法は記載されていない、と主張する。
(2) 甲第5号証によれば、刊行物1(特開昭54-111469号公報)には、「有機肥料の製造法」との名称の発明が開示され、その特許請求の範囲及び発明の詳細な説明には、以下の記載があることが認められる(下線付加)。
(a)「特許請求の範囲 (1)有機性廃棄物を発酵処理して有機肥料を製造するに当り、油脂製造の脱色工程で排出される廃吸着剤を混入して好気発酵することを特徴とする有機肥料の製造法。
(2)有機性廃棄物を発酵処理して有機肥料を製造するに当り、該廃棄物の水分率より低い水分率に調整された有機性廃棄物と、油脂製造の脱色工程で排出される廃吸着剤とを混入して好気発酵することを特徴とする有機肥料の製造法。
(b)「近年・・・人糞、家畜糞、家禽糞等・・・の処理は環境保全上の重大な問題になっている。本明細書ではこれらを一括して有機性廃棄物と称すが、これら廃棄物特に人糞を含む動物糞尿については、これを肥料化して利用しようとする機運が高まり、好気性発酵によって粒状堆肥やコンポストを製造する研究も進められている 」(1頁右下欄1ないし11行) (c)「他方油脂製造の脱色工程から排出される廃吸着剤の処理について・・・資源の有効利用上何らかの改善策が望まれていた。」(2頁左上欄下4行ないし右上欄2行) (d)「本発明はこれらの事情に着目してなされたものであって、前記有機性廃棄物の処理と廃吸着剤の処理を相互にうまく利用することによって肥料発酵 の効率を向上すると共に、廃吸着剤の新しい用途を開発しようとするものである。」(2頁右上欄3ないし7行) (e)「前記目的を達成し得たとは、発酵処理すべき有機性廃棄物中に、油脂製造の脱色工程で排出される廃吸着剤を混入して好気性発酵を行わせる点に要旨があり、又ここに得られる発酵効率を一層向上させる為に提供されるとは、前記発酵原料に対して、前記廃棄物の水分率より低い水分率に調整された有機性廃棄物 を添加して好気性発酵を行わせる点に要旨が存在する。」(2頁右上欄8ないし16行) (f)「廃吸着剤としては、油脂製造手段の如何にかかわらず、又その前工程及び後工程の如何にかかわらず実施された脱色工程の廃棄物で、油脂分を吸着している吸着物の廃棄物であり限り全て使用できるが、もっとも入手し易いのは天然漂白土(ソーラー土及び酸性白土等)、活性白土・・・である」(2頁右上欄下2行ないし左下欄6行) (g)「とは・・・。」(2頁右下欄8ないし16行) (h)「実施例1 下記組成の原料を準備した。(イ)発酵原料:生の乳牛糞・・・(ロ)水分調整剤:・・・(ハ)廃吸着剤:廃白土」 (3頁左上欄下1行ないし右上欄8行) (i)刊行物1(公開特許公報)の第1頁の書誌事項の欄には「発明の数 2」と 記されていることが認められる。
(3) 上記各記載によれば、刊行物1には、特許請求の範囲の第1項及び第2項に記載のとおり、構成の異なる次の2発明が記載されているものと認められる。
第1発明: 「有機性廃棄物(すなわち、生乳牛糞。上記(b)、(h))を発酵処理して有機肥料を製造するに当り、油脂製造の脱色工程で排出される廃吸着剤(すなわち、油脂が吸着された廃棄白土。(c)、(f)、(h))を混入して好気発酵することを特徴とする有機肥料(すなわち、堆肥。上記(b))の製造法。」 第2発明: 「有機性廃棄物(生乳牛糞)を発酵処理して有機肥料を製造するに当り、油脂製造の脱色工程で排出される廃吸着剤(すなわち、油脂が吸着された廃棄白土。
上記(c)、(f)、(h))に加えて、有機性廃棄物(生乳牛糞)の水分率より低い水分率に調整された有機性廃棄物(すなわち、水分調整剤。上記(e)、(g)、(h))を混入して好気発酵することを特徴とする有機肥料(堆肥)の製造法。」 (4) 刊行物1記載の上記2発明のうち、第1発明は、本件発明と同様に、
「生牛糞尿」と「廃棄白土」のみからなる混合物を発酵させて有機肥料(堆肥)を製造するものであることは、明らかである。
したがって、原告主張の取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(相違点の判断の誤り)について 相違点(D)について判断する。
(1) 本件発明が、その特許請求の範囲に記載のとおりの「生牛糞尿の急速発酵堆肥化法」を要旨とするものであることは、当事者間に争いがないところ、これを構成要件に分説すると以下のとおりである。
@ 牛糞尿を発酵槽内で攪拌しつつ好気的発酵させる堆肥化法において、
A 槽内の堆積物を均一に好気的発酵できる程度に攪拌できる攪拌羽根を有するとともに外部から酸素供給可能な密閉式発酵槽に、
B 80%〜85%の水分の生牛糞尿と油脂が吸着された廃棄白土とのみを、
生牛糞尿が80〜90重量%及び廃棄白土が20〜10重量%の配合比で投 入し、
C 生牛糞尿と廃棄白土のみからなる当該混合物を、発酵槽内に酸素を供給しつつ、前記攪拌羽根により5分間作動10分間停止を繰り返す間欠攪拌を行い、
D 前記油脂が発酵されることにより生ずる発酵熱により、生牛糞尿中の水分 を蒸発させて好気的発酵を促進して、当該混合物の投入後8〜12時間以内に発酵槽内の混合物の温度を70〜80℃とする E ことを特徴とする生牛糞尿の急速発酵堆肥化法。
(2) 審決は、上記本件発明の構成要件Dの「投入後8〜12時間以内に発酵槽内の混合物の温度を70〜80℃とする」との規定を、本件発明と刊行物1に記載の発明との相違点(D)と認定し(審決書5頁3ないし5行)、この相違点についての判断において、
「本件発明は、・・・酸素供給可能な攪拌式密閉発酵槽に、水分率80%〜85%の生牛糞尿と油脂吸着廃棄白土を、生牛糞尿が80〜90重量%及び廃棄白土が20〜10重量%の配合比で投入し、5分間作動10分間停止を繰り返す間欠攪拌を行い、好気的発酵を行うことにより、『投入後8〜12時間以内に発酵槽内の混合物の温度を70〜80℃とする』という効果を得るものである」(審決書7頁33行ないし8頁4行)と認定し、次いで、刊行物1に記載の発明について、「刊行物1には『発酵槽内で好気発酵を行ない、好気性バクテリアによって廃吸着剤中の高カロリー源である油分を分解させると共に・・・有機物を分解させ、これらの分解反応によって発生する熱を利用して水分の蒸発を促進させる。』(3頁左上欄1ないし5行)、『廃白土を併用した発酵では、発酵温度も高く且つ高温を持続する期間も長い。』(3頁左下欄下から4、3行)、『短期間の発酵処理でよく、安価な発酵肥料が得られ』(4頁左下欄9、10行)と記載され、具体的には、発酵日数1日で50〜60℃、その後、発酵温度は上昇し最高温度約68℃に達することが示されている(第1、3図参照。)。以上の事実によれば、刊行物1では、生牛糞尿等の有機性廃棄物に油脂吸着廃棄白土を併用して発酵槽内で好気発酵を行うことにより、発酵温度も高く、高温を持続する期間も長く、短期間の発酵処理で安価な発酵肥料が得られるものであると認められる。」(審決書8頁30行ないし9頁4行)と認定し、
これらの認定に基づいて、本件発明は「刊行物1に記載されている公知の発酵堆肥化法に、当業者が容易に想到できない程度の技術的寄与をしたものと評価することはできない。」(審決書9頁9ないし11頁)として、本件発明の進歩性を否定したことが認められる。
(3) しかしながら、刊行物1には、前示のとおり、構成の異なる2発明、すなわち、「生牛糞尿」と「廃棄白土」のみの混合物を発酵させて堆肥を製造する第1発明と、「生牛糞尿」と「廃棄白土」と「水分調整剤」との混合物を発酵させて堆肥を製造する第2発明とが記載されているところ、審決は、以下のとおり、第1発明と第2発明を区別することなく本件発明と対比し、その結果、本件発明の進歩性の判断を誤ったものである。
ア 刊行物1中のその他の記載 甲第5号証によれば、刊行物1には、前記(a)ないし(i)の記載に加え、以下の記載が存在すること、あるいは、存在しないことが認められる(下線付加)。
(j)「一般的に得られている動物糞尿・・・の水分率は80〜90%であり、時には90%以上にも及ぶ程である。従ってそのままでは好気性発酵処理を施すことが困難であり、例えば下記の方法が提案されている。
(1)動物糞尿・・・を予備脱水する方法。
(2)同上を予備乾燥する方法。
(3)おが屑や籾殻等の有機性乾燥物を加える方法。
そしてこれらいずれの方法も水分率を50〜65%程度に調整してから発酵させる ことを目標としている」(1頁右下欄13行ないし2頁左上欄3行) (k)「本発明のもっとも効果的な実施方法は、原料となる有機性廃棄物の一部を前記(1)〜(3)の方法、或いはその他適当な改善方法で処理して水分率を低下させ、
これを残部の有機性廃棄物に混入すると共に、前記廃吸着剤をも添加して発酵の準備を行う。次いで発酵槽内で好気発酵を行ない・・・水分率の更に低いが得られる。・・・。」(2頁右下欄15行ないし3頁左上欄10行) (l) 実施例1には、実験番号1ないし3として、第1表に記載の原料を発酵させたところ、第1図のように発酵が進行し、第2表に示される性状の堆肥が得られたことが記載され、実施例2には、実験番号4及び5として第3表の原料を発酵させたところ、第2図のように発酵が進行し、第4表に示される性状の堆肥が得られたことが記載されている。
これら実施例1及び2において、実験番号2、3及び5では、「生乳牛糞」、
「廃白土」及び「水分調整剤」(発酵済みの乳牛糞)が原料として仕込・発酵されていることから、これらの実験は、前記第2発明に従う実施例と認められる。実験番号1及び4では、「廃白土」が使用されていないことから、いずれも比較例と認められる。
なお、刊行物1に記載の実施例は、上記実施例1及び2が全てであり、水分調整剤を使用ぜず、「生乳牛糞」と「廃白土」のみの混合物を発酵させる、前記第1発明の構成に従う実施例は、全く記載されていないことが認められる。
イ 以上認定した事項によれば、刊行物1には、前記2発明のうち、第2発明(「生牛糞尿」と「廃棄白土」と「水分調整剤」との混合物を発酵させる発明)は、第1発明(「生牛糞尿」と「廃棄白土」のみの混合物を発酵させる発明)よりも優れた結果を与えることが明確に記載され、その実施例においても、第2発明の実施例のみが開示され、水分調整剤を使用しない第1発明の実施例は全く記載されていないことが明らかであるから、上記のような刊行物1の記載に接した当業者は、甲第1号証に記載された発明を実施しようとする際、あるいは、これを更に改良しようとする際に、優れた結果を与えるとされている第2発明の構成を採用するのが自然である。
しかも、本件発明は、単に、刊行物1に記載された第1発明の構成をそのまま採用するものではなく、発酵に「密閉式発酵槽」(構成要件A)を使用し、「5分間作動10分間停止を繰り返す間欠撹拌」(構成要件C)を行うことにより、生牛糞尿と廃棄白土のみからなる「混合物の投入後8〜12時間以内に発酵槽内の混合物の温度を70〜80℃とする」(構成要件D)との発酵を実現したものであるところ、刊行物1には、第1発明をこのような条件で実施することについては、なんら具体的に記載されていないばかりでなく、これを示唆する記載も存在しない。また、このようなことが、周知技術として当業者に知られていたと認めるべき証拠もない。
しかも、本件発明に従う発酵は、以下のとおり、刊行物1において第1発明より良好な結果を与えるとされている第2発明より、良好に進行するものと認められる。
すなわち、刊行物1の実施例1及び2の実験2、3及び5では「生牛糞尿」、
「廃棄白土」及び「水分調整剤」の混合物が発酵されていることから、これらが本件第2発明の実施例と認められることは前示のとおりである。そして、これらの実験における発酵温度の経時変化は、刊行物1の第1図及び第2図に示されるとおりであり、発酵温度の最高値は70℃程度であること、最高温度に達するまでの期間は1日(実験番号3)ないし2日以上(実験番号2及び5)を要していることが認められる。これに対し、本件発明では、発酵温度は原料の投入後「8〜12時間以内」に「70〜80℃」(構成要件D)となるから、本件発明の方が明らかに優れているものと認められる。なお、本件発明の堆肥化法が、牧場で毎日発生する牛糞尿の処理に使用されることを考慮すると、このように、原料の投入後「8〜12時間以内」に充分高い発酵温度に達する本件発明は、「毎日発生する生牛糞尿を容易に連続的に処理可能」(本件訂正明細書、段落【0023】)とするものであることが明らかである。このような効果は、本件技術分野においては、格別顕著なものということができる。
このように、本件発明によれば、刊行物1でより優れた結果が得られるとされている第2発明よりも良好に発酵が進行することが明らかであるところ、本件全証拠によっても、本件発明の前記@ないしDの構成を採用することにより、このような結果が得られることを当業者が予測し得たものと認めるべき事情を見出すことはできない。
したがって、刊行物1の記載に接した当業者が刊行物1の記載及び周知技術に基づいて本件発明の構成に容易に想到し得たということはできず、また、本件発明の効果を予測することが可能であったということもできない。 (4) 被告らは、相違点(D)の「投入後8〜12時間以内に発酵槽内の混合物の温度を70〜80℃とする」との点は、発明の効果についての記載であるから、
本件発明の進歩性の判断に際しては、検討する必要がない旨主張する。
しかしながら、本件発明は、「生牛糞尿の急速発酵堆肥化法」、すなわち「方法」に関するものであって、「物」(例えば、「発酵装置」、「堆肥」)に関するものではないところ、「方法」に関する本件発明において、「投入後8〜12時間以内に発酵槽内の混合物の温度を70〜80℃とする」との要件(構成要件D)が、当該方法を実施する条件を実質的に規定するものであることは、明らかである。したがって、進歩性の判断に際し、このような構成要件を無視することが許されるものではない。
もっとも、本件発明において、構成要件Dは、本件発明の他の構成要件を反映する(例えば、構成要件Bにかかる牛生糞尿と廃棄白土の特定の配合比を選択し、あるいは、構成要件Cのような間欠撹拌を行う結果を反映する)ものであるから、その限りにおいて、効果を規定するとの側面を有するものと認められる。しかしながら、上記のとおり、構成要件Dは本件発明の方法を実施する条件の一つを規定しているものであり、他の構成要件A、B、Cと相互に関連しあっている以上、このような特定の構成要件が、効果を規定するとの側面を有するとしても、そのことから、進歩性の判断に際して当該構成要件を無視することが正当化されるものではない。
被告らの主張は、採用することができない。
(5) 被告らは、元来、発明の構成要件に数値的限定を付加することは、数値に臨界的効果があり、公知技術から容易に予測できない場合以外は、容易であり、
本件発明は、刊行物1の実施例中の数値と一致又は近似した数値を利用しているから、刊行物1に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである旨、主張する。
しかしながら、本件発明の構成が、刊行物1の記載に基づいて当業者が容易に想到し得るものでないことは前示のとおりである。しかも、本件発明は、刊行物1記載の発明に単に数値的限定を付したものでもない。
被告らの主張は採用することができない。
(6) 被告らは、刊行物1においても、発酵日数はほぼ7日で終了し(刊行物1第4図)、本件発明における「堆肥化に要する期間はほぼ20日程度」(甲第2号証、段落【0023】)であるから大差はない旨、及び、技術は同1条件で行った場合に同一結果が生じるのであるから、刊行物1に記載された技術と近似した本件発明が予想もできない効果をもたらすとは考えられない旨、主張する。
しかしながら、刊行物1の第4図は、単に発酵時のアンモニアガスの濃度変化を示すにすぎない。同図に示される実験では、第3表に示される原料が仕込まれ、第3図のように発酵が進捗しているところ、このうち、刊行物1の実施例(前示のとおり第2発明の実施例である)を示す実験番号5では、生乳牛糞4.0Kg当り4.50Kgもの大量の水分調整剤(発酵済乳牛粉)が使用されている。仮に、この実験番号5の発酵の進捗が、被告らの主張のとおり本件発明と大差ないものであると仮定しても、本件発明は、水分調整剤を全く使用しないにもかかわらず、水分調整剤を大量に使用する実験番号5とその効果に大差がないのであるから、そのような効果が顕著といえることは明らかである。また、そのような効果が、当業者に予測し得ないものであることは、前示のとおりである。
よって、被告らの主張は採用することができない。
3 結論 以上のとおり、原告主張の取消事由2は理由があるから、審決を取り消すこととし、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 古城春実
裁判官 田中昌利