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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成13ワ1105特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成13ワ15719特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成11ワ11856損害賠償請求事件 判例 特許
平成14ワ5107特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成12ワ17298損害賠償等請求事件 判例 特許
関連ワード 発明者 /  技術的思想 /  新規性 /  29条1項3号 /  頒布された刊行物 /  インターネット /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  技術的範囲 /  同一の発明 /  発明の詳細な説明 /  権利の濫用(権利濫用) /  出願経過 /  容易に想到(容易想到性) /  特許発明 /  実施 /  構成要件 /  差止請求(差止) /  侵害 /  販売数量(販売数) /  同意 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 16年 (ワ) 16483号 特許権侵害排除等請求事件
原告A
被告 ホワイトローズ株式会社
被告 有限会社ヤマカワ
被告 有限会社ルビ・ヨシムラ
被告 有限会社えちごよしいけ
被告4名訴訟代理人弁護士 渡邊敏
同 森利明
同補佐人弁理士 林宏
同 林直生樹
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2005/03/25
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の請求
1 被告ホワイトローズ株式会社は,別紙物件目録1ないし3記載の料理シートを製造し,販売し,頒布し,販売の申し出をしてはならない。
2 被告ホワイトローズ株式会社は,前項記載の各料理シート及び同料理シートを製造するための型刃等の機材を破砕した後に廃棄せよ。
3 被告ホワイトローズ株式会社は,原告に対し,3524万9000円及びこれに対する平成16年8月19日(同被告に対する訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告有限会社ヤマカワは,別紙物件目録1ないし3記載の料理シートを販売し,頒布し,販売の申し出をしてはならない。
5 被告有限会社ヤマカワは,前項記載の各料理シートを破砕した後に廃棄せよ。
6 被告有限会社ヤマカワは,原告に対し,1397万8000円及びこれに対する平成16年8月18日(同被告に対する訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
7 被告有限会社ルビ・ヨシムラは,別紙物件目録1ないし3記載の料理シートを販売し,頒布し,販売の申し出をしてはならない。
8 被告有限会社ルビ・ヨシムラは,前項記載の各料理シートを破砕した後に廃棄せよ。
9 被告有限会社ルビ・ヨシムラは,原告に対し,1090万7000円及びこれに対する平成16年8月15日(同被告に対する訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
10 被告有限会社えちごよしいけは,別紙物件目録1ないし3記載の料理シートを販売し,頒布し,販売の申し出をしてはならない。
11 被告有限会社えちごよしいけは,前項記載の各料理シートを破砕した後に廃棄せよ。
12 被告有限会社えちごよしいけは,原告に対し,375万8000円及びこれに対する平成16年8月15日(同被告に対する訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
1 本件は,料理シートに関する発明に係る特許権を有する原告が,別紙物件目録1ないし3記載の料理シートを製造,販売等する被告らに対し,上記各料理シートが,上記特許権に係る特許発明技術的範囲に属するとして,特許法100条1項,2項,102条3項等に基づき,同料理シートの製造,販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに損害賠償金の支払を求めた事案である。
2 前提となる事実(当事者間に争いのない事実及び証拠により容易に認定される事実。証拠により認定した事実については,該当箇所末尾に証拠を掲げた。) (1) 原告は,次のような内容の特許権(以下「本件特許権」という)を有する(甲1)。
ア 発明の名称 料理シート,及び料理用具 イ 出願日 平成13年9月26日 ウ 出願番号 2001-292830 エ 登録日 平成15年5月23日 オ 特許番号 第3433195号 (2) 本件特許権に係る明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の記載は次のとおりである(本判決末尾添付の本件特許権に係る特許公報(甲2。以下,「本件公報」という。)参照。また,請求項1に係る発明を「本件特許発明」という。)。
【請求項1】 柔軟な薄膜状体であって,熱伝導部である平面部とつまみ部によって構成され,熱伝導部の端を延長して平面部から突出させたつまみ部を構成し,つまみ部をつまみ上げることで調理中に調理物の変形を可能にした料理シート。
【請求項2】 上記,熱伝導部の周囲に切れ込みあるいは折り目を付けた側部を形成し,側部の一部を延長してつまみ部とした請求項1に記載した料理シート。
【請求項3】 前記の料理シートに,これを料理用具へ取り付け可能とするための取り付け手段を形成するか,取り付け用具を配した請求項1と2のいずれかに記載した料理シート。
【請求項4】 料理用具に請求項1と2のいずれかに記載した料理シートを取り付けるための取り付け手段を形成した料理用具。
(3) 本件特許発明構成要件に分説すると,次のとおりである(以下「構成要件A」などという。)。
A 柔軟な薄膜状体であって, B 熱伝導部である平面部とつまみ部によって構成され, C 熱伝導部の端を延長して平面部から突出させたつまみ部を構成し, D つまみ部をつまみ上げることで調理中に調理物の変形を可能にした E 料理シート。 (4) 被告ホワイトローズ株式会社(以下「被告ホワイトローズ」という。)は,別紙物件目録1ないし3記載の製品(以下,これらを「被告製品1」ないし「被告製品3」といい,併せて「被告各製品」と総称する。)を製造,販売し,被告有限会社ヤマカワ(以下「被告ヤマカワ」という。),被告有限会社ルビ・ヨシムラ(以下「被告ルビ・ヨシムラ」という。)及び被告有限会社えちごよしいけ(以下「被告えちごよしいけ」という。)は,被告各製品を販売等している。 3 争点 (1) 被告各製品が,本件特許発明技術的範囲に属するか ア 被告各製品が構成要件Cを充足するか(争点1) イ 被告各製品が構成要件Dを充足するか(争点2) ウ 被告製品3が構成要件Eを充足するか(争点3) (2) 本件特許発明が無効理由を有することが明らかであり,本件特許権に基づく権利行使が権利の濫用に当たるか(争点4) (3) 損害について(争点5)
争点に関する当事者の主張
1 被告各製品が構成要件Cを充足するか(争点1) (原告) 被告各製品は,平面部である熱伝導部の端を延長して平面部から突出させたつまみ部を有しているから,構成要件Cを充足する。
この点に関して,被告らは,構成要件Cの「熱伝導部の端を延長して平面部から突出させたつまみ部」とは,「平面部の両端を延長して,該平面部から隆起状態に突出させたもの」を意味すると限定解釈して,被告各製品が構成要件Cを充足しない旨主張する。
しかし,被告らの主張は根拠がない。本件特許発明に係る料理シートは,調理中に使用されるものであって,加熱中であるとは限らないし,加熱中であっても,菜箸を使うなどして平面状態のつまみ部を摘むことは可能である。図には,つまみ部が隆起したように記載されているものもあるが,これは,平面状態であったつまみ部が鍋等の側面の形状に合わせて隆起した状態になる様子を記載したものであって,当該図をもって,被告らのように解釈することはできない。
(被告ら) (1) 構成要件Cの「熱伝導部の端を延長して平面部から突出させたつまみ部」の意義 本件明細書の「特許請求の範囲」欄の記載は,前記第2,2(2)記載のとおりであり,本件明細書の「発明の詳細な説明」欄には次のア,イの記載があり,本件特許発明の審査経過は次のウないしオのとおりであり,本件特許発明に係る図面は本判決末尾添付の本件公報記載図面(以下「本件図面」という。)のとおりであるから,本件特許発明にかかる料理シートは,調理中すなわち加熱中の調理物をつまみ上げるための構成部分であって,つまみ部を突出させていることの意義は,調理中につまむのに適した状態にするためであると解される。そうすると,構成要件Cの「熱伝導部の端を延長して平面部から突出させたつまみ部」とは,本件図面の図1及び8に記載されたような「平面部の両端を延長して,該平面部から隆起状態に突出させたもの」を意味すると解される。
なお,本件公報の図2及び図4は,つまみ部が,熱伝導部と同一平面であり,隆起状態にないが,これらは,本件特許発明に該当するものではない。本件特許発明は,熱伝導部の端部(請求項2に係る発明は,熱伝導部の側部)を延長したものであるから,図1及び図8がこれに相当する。なお,図2及び図4においても,図3及び図5にあるとおり,使用時には熱伝導部の周囲に形成された側部(切れ込みあるいは折り目)によってつまみ部は隆起状態になっている。
ア 「柔軟な薄膜状体であって,熱伝導部である平面部とつまみ部によって構成され,熱伝導部の端を延長して平面部から突出させたつまみ部を構成し,つまみ部をつまみ上げることで調理中に調理物の変形を可能にした料理シート」(本件公報4欄3行ないし7行) イ 「柔らかく傷つきやすい料理であっても,つまみ部を摘んで持ち上げることにより,料理を痛めることなく形を整えたり,折り畳んだりすることが出来る。薄焼き卵で具を包み,力を入れても押さえても破けない。薄焼きにした卵やクレープ等の料理を,つまみ部2を持って料理シートごと移動すれば料理したものを痛めることがない。」(本件公報6欄14行ないし20行) ウ 本件特許発明の特許請求の範囲の記載は,出願当時の明細書においては,次のとおりであった(乙3)。
「柔軟な薄膜状体であって,熱伝導部である平面部とつまみ部によって構成され,熱伝導部の端を延長してつまみ部を形成し,つまみ部を持って料理を傷つけることなく形を整え,あるいは移動させることが出来るようにした料理シート」 エ 原告は,平成14年12月27日付けの拒絶理由通知(乙4)に対し,平成15年2月26日付意見書(乙6)を提出したところ,同意見書には次のように記載されている。
「本願発明は,調理の過程においてつまみ部を持って引き上げることで料理シートとともに調理物を変形し形を整えることを可能ならしめる機能を有するものであり,‥‥‥本願発明は調理中に変形させることを主な働きとしております。本願発明は,薄焼き卵のような,扱い方によっては極めて破れやすいものを傷つけることなく移動するという機能をも有しておりますが,付随的機能である‥‥‥」(乙6の2頁3ないし12行) 「本願発明に於ける【請求項1】は形状を表す表現が不十分と考えますので,段落【0016】と【0017】及び【図1】を根拠に補正し,『柔軟な薄膜状体であって,熱伝導部である平面部とつまみ部によって構成され,熱伝導部の端を延長して平面部から突出させたつまみ部を構成し,つまみ部をつまみ上げることで調理中に調理物の変形を可能にした料理シート』に変更いたします。」(乙6の2頁17行ないし21行) オ 原告は,本件特許発明の特許請求の範囲を現在のように補正した。
(2) 被告各製品が構成要件Cを充足するか 被告各製品はいずれも,つまみ部に相当する取っ手部が隆起しておらず,熱伝導部に相当する平面部と同一平面上にあるから,構成要件Cを充足しない。
2 被告各製品が構成要件Dを充足するか(争点2) (原告) 被告各製品は,調理中につまみ部をつまみ上げることで調理中に調理物の変形を可能としているから構成要件Dを充足する。
この点に関して,被告らは,構成要件Dの「変形」について,「形を変えることで,調理物を傷つけることなく形を整え美観を保ちながら料理を完成させる」ことを意味すると主張し,被告各製品は,取っ手部を持ち上げると平面部がゆがんで形を整え美観を保つことができないから構成要件Dを充足しないと主張する。
しかし,変形について上記のように解釈することには何らの根拠もない。
「形を変えることで,調理物を傷つけることなく形を整え美観を保ちながら料理を完成させる」というのは,本件特許発明の作用効果の部分であって,「変形」の意味に関するものではない。また,平面部がゆがむことによって形を整え,美観を保つことができないといえるかどうかは,主観の問題である。なお,小孔を施してある被告製品3を用いてもオムレツを作ることができる(甲13)。
(被告ら) (1) 構成要件Dの解釈 本件明細書の「発明の詳細な説明」欄には次のアないしオの記載があり,本件特許発明出願経過は前記1(1)ウないしオに記載のとおりであるから,構成要件Dの「調理中に調理物の変形を可能にした」の「変形」とは,単に形を変えるということでは足りず,形を変えることで,調理物を傷つけることなく形を整え美観を保ちながら料理を完成させることを意味すると解される。
ア 「本発明は料理シートに関するものであり,調理の過程及び終了時に傷つきやすい料理を傷つけることなく形を整えて美観を保ちながら料理を完成させ,あるいは傷つけることなく移動して盛り付けすることを可能とするものである。」(本件公報2欄4行ないし8行) イ 「調理の過程及び終了時に傷つきやすい料理を傷つけることなく形を整えて美観を保ちながら料理を完成させ,あるいは傷つけることなく移動して盛りつけできるための料理シート及び料理用具を供すること。」(本件公報3欄44行ないし48行) ウ 「切れ込みあるいは折り目3があるため熱伝導部1はどの位置でも曲げることが出来,焼き卵5がどんなに柔らかな場合であっても卵焼き器6の片側に寄せることが出来る。つまみ部を摘んで引き上げる際に側部4に切れ込みあるいは折り目3がないと料理シートの側部4が歪み,料理を傷つけるか熱伝導部1が自由に曲がらず作業がしづらい。」(本件公報4欄44行ないし50行) エ 「つまみ部2を摘んで持ち上げる作業だけで形を整える働きをし,形の整った卵焼きが作成できる。」(本件公報5欄8行ないし10行) オ 「柔軟な薄膜状体であって,熱伝導部である平面部とつまみ部によって構成され,熱伝導部の端を延長して平面部から突出させたつまみ部を構成し,つまみ部をつまみ上げることで調理中に調理物の変形を可能にした料理シートであるため次の効果を奏する。柔らかく傷つきやすい料理であっても,つまみ部を摘んで持ち上げることにより,料理を痛めることなく形を整えたり,折り畳んだりすることが出来る。薄焼き卵で具を包み,力を入れて押さえても破けない。薄焼きにした卵やクレープ等の料理を,つまみ部2を持って料理シートごと移動すれば料理したものを痛めることがない。」(本件公報6欄9行ないし20行) (2) 被告各製品が,構成要件Dを充足するか 被告各製品は,熱伝導部に相当する平面部及びつまみ部に相当する取っ手部が,すべて同一平面上に形成されており,平面部の側部に切り込みあるいは折り目がない。また,被告製品1及び2については,取っ手部が対角線の両端部分にあり,被告製品3については,取っ手部が円の直径の両端部分にあるため,取っ手をつまみ上げた場合に,平面部の側部が歪み,調理物を傷つけたり,調理物が拡散してしまうなど,調理物の形を整えることができない。さらに,被告製品3については,平面部に多数の小孔が穿設されており,オムレツ等が調理物であった場合には卵が上記小孔から漏れだしてオムレツを完成させることができない。
このように,被告各製品は,調理物を傷つけることなく形を整え美観を保ちながら料理を完成させることができないから,構成要件Dを充足しない。
3 被告製品3が構成要件Eを充足するか(争点3) (原告) 被告製品3は料理シートであるから,構成要件Eを充足する。
被告らは,被告製品を用いてオムレツを作ることができないと主張するが,小孔を施してある被告製品3を用いてもオムレツを作ることができる(甲13)。
(被告ら) 被告製品3には,平面部に多数の小孔が穿設されている。したがって,オムレツ等が調理物であった場合には卵が上記小孔から漏れだしてオムレツを完成させることができない。このように,被告製品3は,本件明細書に記載されている実施例の料理を完成させることができない製品であるから,構成要件Eの「料理シート」とはいえない。
よって,被告製品3は構成要件Eを充足しない。
4 本件特許発明が無効理由を有することが明らかであり,本件特許権に基づく権利行使が権利の濫用に当たるか(争点4) (被告ら) (1) 本件特許発明は,本件特許発明出願前に日本国内において頒布された刊行物である乙1ないし乙2に記載された発明であり,または,本件特許発明出願前に当業者が乙1,乙2に記載された発明に基づいて容易に発明することができたものであるから,特許法29条1項3号,2項に違反して特許されたものであり,同法123条1項2号の無効理由が存する。したがって,本件特許発明には無効理由が存在することが明らかであるから,本件特許権に基づく原告の請求は,権利の濫用に当たるものとして許されない。
(2) 乙1(特公昭59-43165号公報)について ア 特許法29条1項3号該当性について (ア) 構成要件Aとの対比 乙1に記載されている「調理用シート8」(以下「乙1に係る調理用シート」という。)は,柔軟性を有し,「ガラス織布にフッ素樹脂を充分に含浸し高温で焼きつけて製造したシート」であるから(乙1・2欄15行ないし21行),構成要件A「柔軟な薄膜状体」に当たる。
(イ) 構成要件Bとの対比 乙1に係る調理用シートは,プレート本体の内面に被着する部分が平面である。また,乙1に係る調理用シートを用いた調理作業について「プレート本体1の内面に被着して発熱体2からの熱を調理物に有効に作用させる為,良好な状態で行えることになる」(乙1・2欄26行ないし30行)と記載されているから,上記平面部分は,熱伝導部である。
乙1に係る調理用シートは,同シートを取り出すために使用される「把持部9,9」があるから(乙1・3欄6ないし13行),乙1に係る調理用シートがつまみ部を有することは明らかである。
したがって,乙1に係る調理用シートは,熱伝導部である平面部とつまみ部を有するから,構成要件Bの構成を有する。
(ウ) 構成要件Cとの対比 乙1に係る調理用シートのつまみ部に相当する「把持部9,9」は,「調理用シート8の一部を第1図及び第2図に点線で示す如くプレート本体1外に突出する位置まで延長して」構成されており(乙1・3欄6行ないし13行),平面部の端を延長して突出させたものである。
よって,乙1に係る調理用シートは,構成要件Cを充足する。
(エ) 構成要件Dとの対比 乙1に係る調理用シートは,前記(ア)記載のとおり,柔軟性を有し,「ガラス織布にフッ素樹脂を充分に含浸し高温で焼きつけて製造したシート」であり(乙1・2欄15行ないし21行),「調理時調理物を雑返した際にしわが寄る」(乙1・3欄23行ないし24行)と記載されていることから,つまみ部をつまみ上げた場合に調理中の調理物が変形される程度の柔軟性を有していることは明らかである。また,乙1に係る調理用シートの把持部9,9は,乙1の図1,2に示されているとおり,つまみ上げるのに適した形態及び大きさに形成されている。
よって,乙1にかかる調理シートが,つまみ部をつまみ上げることにより調理中に調理物を変形させることを可能にしたものといえる。
したがって,乙1に係る調理用シートは,構成要件Dを充足する。
(オ) 構成要件Eとの対比 乙1に係る調理用シートは調理用のシートであり,構成要件Eの「料理シート」に該当することは明らかである。よって,乙1に係る調理用シートは,構成要件Eを充足する。
イ 特許法29条2項該当性について 仮に,乙1に係る調理用シートについて,構成要件D「つまみ部をつまみ上げることで調理中に調理物の変形を可能にした」ことが明記されていないと解するとしても,乙1に係る調理用シートにおいて,料理シートの柔軟性,つまみ部の活用方法は,当業者が調理物の性質や調理方法に応じて適宜選択できる事項にすぎない。しかも,本件特許発明の作用効果は,当業者が予測し得る範囲のものにすぎない。
したがって,仮に,乙1に構成要件Dの構成について明記されていないとしても,本件特許発明は,乙1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に想到し得たものである。
(3) 乙2(実開昭55-23668号のマイクロフィルム)について ア 特許法29条1項3号該当性について (ア) 構成要件Aとの対比 乙2に記載された調理具(以下「乙2に係る調理具」という。)は,アルミ箔からなるものである(乙2・4頁9行目)。そして,構成要件Aの「柔軟な薄膜状体」については,「金属箔」であってもよいとされているから(本件公報4欄25行ないし26行),アルミ箔は,柔軟な薄膜状体に該当する。
よって,乙2に係る調理具は,構成要件Aを充足する。
(イ) 構成要件Bとの対比 乙2に係る調理具は,網目体に魚,肉等を載せて容器体開口部を閉じ,そのまま火に載せて焼くものであり(乙2・6頁3行目),乙2の第7図にも記載されているとおり,魚肉等が載る網目体部分は,平面であり,熱が伝わる部分であるから,熱伝導部である平面部に該当する。
乙2には「把手ハ部をそれぞれ両手でもって中央部に圧するようにすると,折目線イ箇所は,隆起し,B部は開口部となり三方壁を有する容器体を形成する」(乙2・5頁7行ないし11行)と記載され,「裏返したり,持ち上げる際には,把手ハの挿通孔ニに菜ばしの先きを挿入して取りだしたりすれば,至極簡単に操作できるようになっている」(乙2・6頁11行ないし14行)と記載されていることから,把手ハが,本件特許発明のつまみ部に該当することは明らかである。
以上から,乙2に係る調理具は,「熱伝導部である平面部とつまみ部」によって構成されているといえるから,構成要件Bを充足する。
(ウ) 構成要件Cとの対比 乙2には「A部下端には対向する把手ハが,前後計4把手突出する。」(乙2・5頁5行ないし6行)と記載されており,乙2の図6からも明らかなように,乙2に係る調理具の把手ハは,熱伝導部である網目体部の端を延長して,平面部から突出されていることは明らかである。
よって,乙2に係る調理具は構成要件Cを充足する。
(エ) 構成要件Dとの対比 乙2に係る調理具は,「アルミ箔」等からなるものである。また,乙2に係る調理具の「把手ハ」は,乙2の図6からもわかるように,乙2に係る調理具をつまみ上げるのに適した位置に設けられている。さらに,乙2の図7@ABD及び補正後の図7ABDから明らかなとおり,「網状総体上に魚肉等を載架し,C部を閉じてA部下端のCの凸部止め具をC’の凹部に嵌合して,容器体開口部を閉じ」た場合に,乙2に係る調理具の網状総体及びその内部の調理物が変形している。
このように,乙2に係る調理具は,アルミ箔であるというその材質と,「把手ハ」の形態,大きさ及びその設置位置からして,また,容器体開口部を閉じた場合に網状総体及びその内部の調理物が変形していることからして,把手ハをつまみ上げることで,調理中に調理物を変形させることが可能であることは明らかである。
以上から,乙2に係る調理具は,構成要件Dを充足する。
(オ) 構成要件Eとの対比 乙2に係る調理具は,料理に利用され,しかもアルミ箔からなるものであるから,料理シートであることは明らかである。
よって,乙2に係る調理具は,構成要件Eを充足する。
イ 特許法29条2項該当性について 仮に,乙2に係る調理具について,構成要件D「つまみ部をつまみ上げることで調理中に調理物の変形を可能にした」ことが明記されていないと解されるとしても,乙2に係る調理具において,調理シートの柔軟性,つまみ部の活用方法は,当業者が調理物の性質や調理方法に応じて適宜選択できる事項にすぎない。しかも,本件特許発明の作用効果は,当業者が予測し得る範囲のものにすぎない。
したがって,仮に,乙2に構成要件Dの構成について明記されていないとしても,本件特許発明は,乙2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に想到し得たものである。
(原告) (1) 乙1(特公昭59-43165号公報)について ア 特許法29条1項3号該当性について (ア) 構成要件Aとの対比 乙1には,乙1に係る調理用シートについて「調理用シートは上述のごとき耐熱性織布に限定させるものではなく,例えば金属シート,金属製の網等の金属基材」(乙1・6欄34行目)などと記載されているから,乙1に係る調理用シートが必ずしも柔軟性を有するとは限らない。
(イ) 構成要件Bとの対比 乙1に係る調理用シートが,熱伝導部である平面部を有することは認める。ただし,「調理用シートの場合,‥‥‥内面形状に合わせてプレス成形でき」(乙1・6欄40ないし42行)と記載されており,必ずしも平面部を有するとは限らない。
乙1に係る調理用シートは,構成要件Bのつまみ部を有しない。すなわち,乙1に係る調理用シートにおける把持部9,9は,使用後に調理器本体から取り出すために使用されるものであって(乙1・2欄31行),調理に用いるものではないから,構成要件Bの「つまみ部」には当たらない。
(ウ) 構成要件Cとの対比 前記(イ)に記載した事情から,乙1に係る調理用シートは構成要件Cを充足しない。
(エ) 構成要件Dとの対比 上記(ア)記載のとおり,乙1に係る調理用シートは,必ずしも柔軟性を有するとは限らない。むしろ,乙1には「調理用シートが柔軟性を有する場合,該シートを緊張状態に保つ保形手段を設けることによって,調理物の雑返しにより調理用シートにしわが寄らず,調理作業の行いやすいものになる。」と記載されているのであるから(乙1・7欄12行),乙1に係る調理用シートは,調理物を変形させることを可能とするためにシートに柔軟性も持たせているものではない。
よって,乙1に係る調理用シートは構成要件Dを充足しない。
(オ) 構成要件Eとの対比 乙1に係る調理用シートが構成要件Eを充足することは認める。
イ 特許法29条2項該当性について 本件特許発明は,卵焼きの形を美しく仕上げることが難しいという主婦の訴えに基づいてなされた発明である。被告らは,乙1に係る調理用シートから容易想到であると主張するが,結果論でそのように評価すべきでない。
(2) 乙2(実開昭55-23668号のマイクロフィルム)について ア 特許法29条1項3号該当性について (ア) 構成要件Aとの対比 乙2には,乙2に係る調理具について,「アルミ箔,または薄い金属板等で適当な大きさの板」(乙2・4頁下から5行目)と記載され,「左右把手をもって圧握すれば上面部をもって三方壁の容器体となり」(乙2・2頁下から4行目)と記載されているから,乙2に係る調理具の把手部が,つまみ上げることで調理中の調理物を変形させるための作業に使用できる程度に柔軟性を有しているとは考えがたい。
(イ) 構成要件Bとの対比 乙2の実用新案登録請求の範囲欄には,「箔,金属板よりなる表裏網状又は模様等の打ち抜き等の『袋状体部@』において折りたたみ線を有する両側部の網状部A体部には表裏共に対向する把手ハ及び‥‥‥『三方壁の容器体』となり,‥‥‥」と記載されているから,乙2に係る調理具は,はじめから立体の形状で使用されることを想定している。
乙2に係る調理具の把手部が,つまみ部に相当することは認めるが,前記(ア)記載のとおり,乙2に係る調理具は,必ずしも柔軟性を有しておらず,また,上記の記載から,把手部は,調理中に調理物を変形させるために設けられたものとは考えがたいから,乙2に係る調理具は構成要件Bを充足しない。
(ウ) 構成要件Cとの対比 乙2に係る調理具が,「平面部から突出させたつまみ部」に相当する「把手」を有することは認めるが,この把手は,圧握すれば上面部をもって三方壁の容器体となるものであって,構成要件Cを充足しているとはいえない。
(エ) 構成要件Dとの対比 被告らは,「網状総体上に魚肉等を載架し,C部を閉じてA部下端のCの凸部止め具をC’の凹部に嵌合して,容器体開口部を閉じ」た場合に,乙2に係る調理具の網状総体及びその内部の調理物が変形していると主張するが,上記のような場合に調理物が変形したことを示す根拠はない。
逆に,乙2の3頁下から3行目には,「従来魚を煮たりする際うっかりして,煮汁が焦げ付いたり,身崩れがして皿上に載せて供じるまでには,なかなか面倒なものであった。」と記載されており,更に,次頁の6行目に「この考案は簡単な手段によって上記の欠点を除去することを目的とする」と記載され,乙2の6頁下から4行目には,「裏返したり,持ち上げる際には把手ハの挿入孔ニに菜ばしの先を挿入して取り出したりすれば,至極簡単に操作できる」と記載されている。このような記載からは,乙2に係る調理具は,煮崩れ等の変形が起こらないようにするために上記網状総体を容器体に変形し,中に調理物を入れることで調理中に調理物が変形することを防いでいるのであって,本件特許発明が意図的に調理中の調理物を変形させようとしていることとは全く逆の方向性を持つ技術的思想に基づいた考案である。
(オ) 構成要件Eとの対比 前記(ア)(イ)のとおり,乙2に係る調理具が,料理シートであるということはできない。よって,乙2に係る調理具は構成要件Eを充足しない。
イ 特許法29条2項該当性について 本件特許発明は,卵焼きの形を美しく仕上げることが難しいという主婦の訴えに基づいてなされた発明である。被告らは,乙1に係る調理用シートから容易想到であると主張するが,結果論でそのように評価すべきでない。
5 損害について(争点5) (原告) (1) 被告ホワイトローズについて ア 被告ホワイトローズの被告各製品の製造,販売による損害 被告ホワイトローズは,被告各製品を販売することによって年間2847万円の売上げを得ている(単価2000円×1日販売数65組×365日×0.6)。同被告の訴え提起時の利益率は50%,本件特許権の権利残存期間が17年であるから,特許法102条3項によると,3024万9000円(2847万円×0.5×17年×1/8)が,同被告が被告各製品を販売したことにより,原告が被った損害の額である。
イ 信用回復に要する費用 本件特許発明に係る料理シートは,使い捨てとするべきであり,また,本件特許発明に係る料理シートの素材としては,ガラス繊維を使うべきではない。
ところが,被告ホワイトローズが,被告各製品を販売し,テレビ放映したために,本件特許発明に係る料理シートと,ガラス繊維による調理器具,洗って繰り返し使うという内容とを結びつけられてしまった。
原告が,被告ホワイトローズと同規模のテレビ放映を行って,上記誤ったイメージを訂正するためには,5000万円の費用を要するが,少なくともその1割に相当する500万円が信用回復に要する費用である。
ウ 小括 よって,被告ホワイトローズが被告各製品を製造販売したことによって原告が被った損害は,上記ア,イの合計額3524万9000円である。
(2) 被告ヤマカワについて ア 被告ヤマカワの被告各製品の販売による損害 被告ヤマカワは,被告各製品を販売することによって年間1022万円の売上げを得ている(単価2000円×1日販売数35組×365日×0.4)。
同被告の訴え提起時の利益率は57%,本件特許権の権利残存期間が17年であるから,特許法102条3項によると,1237万8000円(1022万円×0.57×17年×1/8)が,同被告が被告各製品を販売したことにより,原告が被った損害の額である。
イ 信用回復に要する費用 本件特許発明に係る料理シートは,使い捨てとするべきであり,また,本件特許発明に係る料理シートの素材としては,ガラス繊維を使うべきではない。
ところが,被告ヤマカワが,被告各製品を販売し,インターネットで情報を発信したために,本件特許発明に係る料理シートと,ガラス繊維による調理器具,洗って繰り返し使うという内容とを結びつけられてしまった。
原告が,上記誤ったイメージを訂正するためには,160万円の費用を要する。
ウ 小括 よって,被告ヤマカワが被告各製品を販売したことによって原告が被った損害は,上記ア,イの合計額1397万8000円である。
(3) 被告ルビ・ヨシムラについて ア 被告ルビ・ヨシムラの被告各製品の販売による損害 被告ルビ・ヨシムラは,被告各製品を販売することによって年間730万円の売上げを得ている(単価2000円×1日販売数25組×365日×0.4)。同被告の訴え提起時の利益率は60%,本件特許権の権利残存期間が17年であるから,特許法102条3項によると,930万7000円(730万円×0.6×17年×1/8)が,同被告が被告各製品を販売したことにより,原告が被った損害の額である。
イ 信用回復に要する費用 本件特許発明に係る料理シートは,使い捨てとするべきであり,また,本件特許発明に係る料理シートの素材としては,ガラス繊維を使うべきではない。
ところが,被告ルビ・ヨシムラが,被告各製品を販売し,テレビ放映したために,本件特許発明に係る料理シートと,ガラス繊維による調理器具,洗って繰り返し使うという内容とを結びつけられてしまった。
原告が,上記誤ったイメージを訂正するためには,160万円の費用を要する。
ウ 小括 よって,被告ルビ・ヨシムラが被告各製品を販売したことによって原告が被った損害は,上記ア,イの合計額1090万7000円である。
(4) 被告えちごよしいけについて ア 被告えちごよしいけの被告各製品の販売による損害 被告えちごよしいけは,被告各製品を販売することによって年間169万3000円の売上げを得ている(単価580円×1日販売数20組×365日×0.4)。同被告の訴え提起時の利益率は60%,本件特許権の権利残存期間が17年であるから,特許法102条3項によると,215万8000円(169万3000円×0.6×17年×1/8)が,同被告が被告各製品を販売したことにより,原告が被った損害の額である。
イ 信用回復に要する費用 本件特許発明に係る料理シートは,使い捨てとするべきであり,また,本件特許発明に係る料理シートの素材としては,ガラス繊維を使うべきではない。
ところが,被告えちごよしいけが,被告各製品を販売し,インターネットで情報を発信したために,本件特許発明に係る料理シートと,ガラス繊維による調理器具,洗って繰り返し使うという内容とを結びつけられてしまった。
原告が,上記誤ったイメージを訂正するためには,160万円の費用を要する。
ウ 小括 よって,被告えちごよしいけが被告各製品を販売したことによって原告が被った損害は,上記ア,イの合計額375万8000円である。
(被告ら) 原告の主張は,否認ないし争う。
当裁判所の判断
1 争点4(本件特許発明が無効理由を有することが明らかであり,本件特許権に基づく権利行使が権利の濫用に当たるか)について 本件については,事案の内容にかんがみて,争点4から判断する。
(1) 構成要件Aとの対比 乙1(特公昭59-43165号公報)には「8はプレート本体1の内面の内,調理に使用する範囲に載置,即ち着脱自在に被着した調理用シートで,例えばガラス織布にフッ素樹脂を充分に含浸し高温で焼きつけて製造したシート‥‥‥よりなり,耐熱性,非粘着性及び柔軟性を有する」(乙1・2欄15行ないし21行)と記載されており,乙1に係る調理用シートは「柔軟な薄膜状体」に該当する。
原告は,乙1に係る発明が,柔軟な薄膜状体以外の板状のシートをも想定している点を指摘するが,乙1に「柔軟な薄膜状体」の調理シートについての記載がある以上,これ以外の構成の調理シートについて記載があったとしても,乙1に特許法29条1項3号にいう発明が記載されているという点についての判断に,何ら影響するものではない。
上記のとおり,乙1に係る調理用シートは,構成要件Aを充足する。
(2) 構成要件Bとの対比(熱伝導部である平面部について) 乙1に係る調理用シートが熱伝導部である平面部を有することは乙1の記載上明らかであり,原告もこの点を争わない。なお,原告は,乙1に係る発明が,熱伝導部が平面以外の構成を有する調理シートをも想定している点を指摘するが,上記(1)において述べたとおり,乙1に併せて他の構成についての記載があっても,この点は,特許法29条1項3号該当性の判断に何ら影響しない。
(3) 構成要件B(つまみ部について),構成要件C,構成要件Dとの対比 構成要件BないしDとの関係で,乙1に係る調理用シートが,@熱伝導部の端を延長して平面部から突出させ,Aこれをつまみ上げることで調理中に調理物の変形を可能にしたという構成を有する「つまみ部」を有するか否かが争われているので,この点について判断する。
まず,上記@の点については,乙1(3欄6行ないし9行)には「調理シート8の一部を第1図及び第2図に点線で示す如くプレート本体1外に突出する位置まで延長して当該部分を把持部9,9とすれば」との記載があり,これに照らせば,乙1に係る調理用シートの把持部9,9が熱伝導部の端を延長して平面部から突出させたものであることは明らかである。
次に,上記Aの点については,前記(1)記載のとおり,乙1に係る調理用シートが柔軟性を有しており,調理シートをつまみあげるための把持部9,9を有することから,これをつまみ上げることで調理中に調理物の変形を可能にしたという構成を有するものということができる。乙1(3欄14行ないし20行)に,「調理用シート8の外周縁部をプレート本体1の内底面から内面側に跨る円弧面上に乗り上げたり‥‥‥することにより,調理用シート8の外周縁を中央部より高くしておけば,余剰の調理用たれ,油分のプレート本体1上への流出を防止できる」と記載されていることからも,乙1に係る調理用シートにおいて調理シートの外周縁部分を高くすることによって,調理物を中央に集めることが想定されているということができ,この調理シートの外周縁部分を高くする方法の一つとして,把持部9,9をつまみ上げることも,通常思いつく方法である。
なお,乙1には,「調理用シート8をプレート本体1の内面に被着させてある。‥‥‥このようなホットプレートにあっては,‥‥‥調理物の雑返しによっても調理用シート8にしわが寄ることもなくなり,‥‥‥調理作業上極めて好都合である」(3欄31行ないし40行)との記載があり,「当該部分を把持部9,9とすれば,調理用シート8を容易に取出すことができ,特に使用後直ちに取出す場合高温状態にあるプレート本体1に触れることなく調理用シート8を取出せ,安全である」(3欄9行ないし13行)と記載されていることから,乙1に係る発明の発明者としては,把持部9,9を,調理用シートを取り出す際の取っ手として考えていたことがうかがわれるが,乙1に係る調理用シートが,客観的に,把持部9,9をつまみ上げることで調理中に調理物の変形を可能にしたシートであることは前記のとおりである。乙1に上記記載があるからといって,乙1を見る者が乙1に係る調理用シートが上記Aの構成を有することを認識することについて,これを妨げる事情が存するとは認められない。
よって,乙1に係る調理用シートは,上記@Aの構成を有する。
そうすると,乙1に係る調理用シートが,熱伝導部である平面部を有することは前記(2)記載のとおりであるから,乙1に係る調理用シートは,構成要件B,C,Dを充足する。
(4) 構成要件Eとの対比 乙1に係る調理用シートが料理シートに当たることは乙1の記載上明らかであり,原告もこの点について争わない。
(5) 小括 そうすると,乙1に係る調理用シートは,本件特許発明構成要件AないしEのすべての構成を有するから,本件特許発明は,特許出願時より前に日本国内において頒布された刊行物(乙1)に記載された発明(乙1に係る調理用シート)と同一の発明であって新規性を有せず,特許法29条1項3号に違反して特許されたものとして,無効理由を有することが明らかである(同法123条1項2号)。したがって,原告の本件特許権に基づく請求は権利の濫用に当たり,許されない。
なお,原告は,本件特許発明の特許請求の範囲のうち構成要件Dの部分について,「つまみ部を必要に応じ繰り返しつまみ上げることで調理中に調理物の変形を可能にした」との記載に訂正請求する意思がある旨主張するが(平成16年12月12日付原告準備書面(1)),仮に上記訂正がなされたとしても,上記判断に影響はない。
2 結論 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の本件請求はいずれも理由がない。よって主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 三村量一
裁判官 鈴木千帆
裁判官 吉川泉