運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成13ワ831特許権侵害差止等請求事件 平成13ワ6097特許権侵害差止請求事件 判例 特許
平成12ワ17298損害賠償等請求事件 判例 特許
平成14ワ5107特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成15ワ5443特許権侵害差止等請求事件 平成15ワ8228損害賠償請求事件 判例 特許
平成14ワ2473損害賠償等請求事件 判例 特許
関連ワード 有用性 /  方法の発明 /  新規性 /  29条1項3号 /  頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  慣用技術 /  公知技術 /  課題の共通性 /  技術的範囲 /  実施可能要件 /  技術的手段 /  先行技術 /  発明の詳細な説明 /  優先権 /  実施料相当額 /  権利の濫用(権利濫用) /  参酌 /  技術的意義 /  不存在 /  特許発明 /  実施 /  権原 /  間接侵害 /  構成要件 /  課題解決に不可欠(課題の解決に不可欠) /  具体的態様 /  侵害 /  損害額 /  実施料 /  不法行為(民法709条) /  請求の範囲 /  変更 /  当事者参加 /  補助参加 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙1PDFを見る pdf
事件 平成 15年 (ワ) 1068号 損害賠償請求事件
平成 15年 (ワ) 28605号 当事者参加申立事件
原告・被参加人(以下「原告」という。) X
訴訟代理人弁護士 奈良次郎
同 高田良爾
同 奈良輝久
同 清水建成
同 名越秀夫
補佐人弁理士 三浦光康
被告・被参加人(以下「被告」という。) アルパイン株式会社
訴訟代理人弁護士 鈴木和夫
同 鈴木きほ
同 大山滋郎
補佐人弁理士 野崎照夫
同 三輪正義
被告補助参加人 アイシン・エィ・ダブリュ株式会社
訴訟代理人弁護士 櫻林正己
補佐人弁理士 長谷照一
参加人 Z
訴訟代理人弁護士 小泉征一郎
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2005/03/30
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 参加人の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,原告及び参加人の負担とする。
事実及び理由
請求
1 原告の請求 被告は,原告に対し,133億9800万円及びこれに対する平成15年5月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 参加人の請求 (1)参加人と原告との間において,被告による別紙物件目録1記載の物件の製造販売につき,原告が特許第1955583号特許権及び特許第3116376号特許権の侵害を理由として被告に対して有する損害賠償請求権又は不当利得返還請求権133億9800万円のうち,30億1455万円は参加人が有することを確認する。
(2)原告は,被告に対し,原告が被告に対して有する前項記載の損害賠償請求権又は不当利得返還請求権133億9800万円のうち30億1455万円を平成15年3月27日参加人に債権譲渡した旨の通知をせよ。
(3)被告は,参加人に対し,30億1455万円及びこれに対する平成15年3月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
原告は,被告に対し,被告による別紙物件目録1記載の物件の製造販売が原告の有する後記特許権を侵害するとして,損害賠償請求(主位的請求)又は不当利得返還請求(予備的請求)の一部請求として133億9800万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。
参加人は,原告の被告に対する上記損害賠償請求権又は不当利得返還請求権の一部である30億1455万円について,原告から債権譲渡を受けたとして,@原告に対して,参加人が上記請求権30億1455万円を有することの確認,及び原告が被告に対して上記債権譲渡をした旨の通知をすることを求めるとともに,A被告に対して,上記30億1455万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。
1 争いのない事実等 (1)原告の特許権 原告は,次の各特許権(以下,併せて「本件各特許権」という。)を有する。
ア 本件特許権1 特許番号 第1955583号 発明の名称 ナビゲーション装置及び方法 出願日 平成2年8月21日 公告日 平成6年10月26日 登録日 平成7年7月28日 特許請求の範囲 別紙特許公報1の該当欄記載のとおり なお,以下では,本件特許権1に係る特許を「本件特許1」,同特許公報を「本件特許公報1」,同公報掲載の明細書を「本件明細書1」,本件特許公報1の特許請求の範囲に記載された各請求項記載の特許発明をそれぞれ「本件発明1(請求項1)」,「本件発明1(請求項2)」などといい,特許請求の範囲に記載された各請求項記載の特許発明を併せて「本件発明1」という。
イ 本件特許権2 特許番号 第3116376号 発明の名称 ナビゲーション装置及びナビゲーション方法 出願日 平成4年6月5日 登録日 平成12年10月6日 特許請求の範囲 別紙特許公報2の該当欄記載のとおり なお,以下では,本件特許権2に係る明細書を「本件明細書2」,本件明細書2の特許請求の範囲に記載された各請求項記載の特許発明をそれぞれ「本件発明2(請求項1)」,「本件発明2(請求項6)」などといい,特許請求の範囲に記載された各請求項記載の特許発明を併せて「本件発明2」という。
(2)構成要件の分説 本件発明1(請求項1)及び同(請求項15)並びに本件発明2(請求項1)及び同(請求項6)の各構成要件は,次のとおりに分説することができる。
ア 本件発明1(請求項1) (あ)記憶部,中央処理部,入力部,表示部を備え,移動するものに適用されるナビゲーション装置において, (い)前記入力部は,前記移動するものが現に進行している通路に関する情報を入力する手段を有し, (う)前記中央処理部は,前記入力手段が前記通路に関する情報を入力したときに,前記通路に関する情報に基づき,現に進行している前記通路を表す線を進行線として作成し,前記表示部に表示する進行線作成表示手段を備えることを特徴とする (え)ナビゲーション装置。
イ 本件発明1(請求項15) (さ)移動するものの移動状況に関する情報を生成し,この情報を表示画面に表示するナビゲーション方法において, (し)前記移動するものに装備された本体装置にて,前記移動するものが到達しようとする目標を設定し,且つ前記移動するものが現に進行している通路の形状と位置に関する情報を生成し, (す)前記表示画面に,前記移動するものが到達しようとする前記目標に関する情報と,前記通路の形状と位置に関する前記情報に基づいて作られた前記通路を表す線を進行線として表示し, (せ)前記進行線は,前記通路が変更されるたびに,前記表示画面上で更新されることを特徴とする (そ)ナビゲーション方法。
ウ 本件発明2(請求項1) A(a)移動体に装備され, (b)かつ入力部,中央処理部,記憶部,表示部を有し, (c)前記移動体の現在位置と移動目的地が前記中央処理部に与えられたとき,前記記憶部に記憶された地図データを用いて,前記移動目的地に到達できる経路を作成し,前記経路を前記表示部に表示するナビゲーション装置において, B 前記中央処理部は,前記移動体の現在位置と移動目的地が与えられたとき,前記経路を可能経路として2つ以上求める可能経路演算手段を有し, C 前記可能経路演算手段は,前記移動体の走行中において,刻々変化する前記移動体の前記現在位置を利用して2つ以上の前記可能経路を求め, D 前記移動体の走行中において前記表示部で2つ以上の前記可能経路が同時に表示されることを特徴とするナビゲーション装置。
エ 本件発明2(請求項6) E 移動体の現在位置と移動目的地が与えられたとき,用意された地図データを用いて,前記移動目的地に到達できる可能経路を2つ以上作成し, F 前記2つ以上の可能経路を使用者に対し同時に提示すると共に, G 前記移動体の走行中において,刻々変化する前記移動体の前記現在位置を利用して2つ以上の前記可能経路を求め, H これらの可能経路を使用者に対して同時に提示することを特徴とするナビゲーション方法。
(3)被告の行為 被告は,別紙物件目録1及びと共に,別紙物件目録2記載の各製品のうち,「争いの有無」欄に「○」のあるものを製造販売した(弁論の全趣旨)(以下,別紙物件目録1に係る製品を「被告製品A」と,別紙物件目録2に係る製品を「被告製品B」という。)。
なお,原告は,別紙物件目録1及び別紙物件目録2記載の各製品のうち,「争いの有無」欄に「○」のないものについても,被告が製造販売した旨主張するが,当該製品は特定がされておらず,原告の主張を認めることはできない。
2 争点 (1)被告製品は,本件発明1の技術的範囲に属するか。
具体的には,被告製品は,本件発明1の構成要件(う)及び(せ)の「進行線」を作成表示,更新するかどうか。
(2)被告製品は,本件発明2の技術的範囲に属するか。
具体的には,被告製品は,本件発明2の構成要件C,D,F,Gの「2つ以上の可能経路を表示する」かどうか。
(3)本件特許1には明らかな無効理由があるか。
(4)本件特許2には明らかな無効理由があるか。
(5)原告の損害額はいくらか。
(6)原告は参加人に対して本件各特許権の侵害を理由とする損害賠償請求権又は不当利得返還請求権の一部を債権譲渡したか。
争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(本件発明1の技術的範囲への属否)について (原告及び参加人(以下「原告ら」という。)の主張) (1)本件発明1における「進行線」の意義 ア 本件発明1(請求項1)における「進行線」は,「現に進行している通路に関する情報」に基づき作成され,「現に進行している通路を表す線」として表示される。
カーナビゲーションの地図データベースには,主要な形状情報として「道路データ(ノードとリンク)」と「背景データ」が存在する。カーナビゲーションでは,電波航法(GPS衛星)等によって車両の位置等に関する情報を得て,これと道路データ(ノードとリンク)とのマップマッチングを行い,地図上の車両が走行している道路を判定している。したがって,本件発明1の「現に進行している通路に関する情報」とは,GPS等により得られた情報を使用してマップマッチングを行い,現に進行している通路として特定された道路データ(ノードとリンク)と理解するのが相当である。
以上によれば,本件発明1の構成要件(う)の「前記通路に関する情報に基づき,現に進行している前記の通路の示す」線として作成される「進行線」とは,「GPSなどにより特定された現に進行している通路に関する情報である道路データ(ノード・リンク)に基づき,現に進行している通路を表す線と認識できるものとして作成されるもの」を指すと解釈すべきである。
イ 被告の主張に対する反論 (ア)被告は,本件発明1の「進行線」は地図表示とは別個に表示されなければならないと主張する。
しかし,本件明細書1には,進行線が地図表示と別個に表示されることについての記載も示唆もない。かえって,本件明細書1には,進行線の表示を他の地図表示と組み合わせ,地図と変わらなくすることができる旨記載されており,進行線が地図表示とは別個に表示されなければならないとの限定はない。
(イ)被告は,進行線の表示は線に限られると主張する。
しかし,本件明細書1には「道路地図中の一部の道路を表す線」などと記載されているように,「線」の概念に道路そのものを含めており,被告製品Aの進行線の表示態様(道路の正面斜視図)が本件発明1から除外される理由はない。
(ウ)被告は,進行線の実施態様は本件特許公報1の第9図ないし第11図に限られ,シティロケーションマップなどの三次元的な表示形式は進行線の表示に含まれないと主張する。
しかし,本件明細書1には,そのような限定はなく,かえって,発明の詳細な説明においては,「第9図と第10と第11図は,それぞれ,表示部における表示例を示す」,「進行線と交差線を異なる色又は異なる種類の線で表示する」,「進行線と交差線を異なる色又は異なる種類の線で表示する」として,進行線表示態様にバリエーションがあることを前提としている。「進行線」の具体的な表示態様は,本件特許公報1の第9図ないし第11図に限定されるものではなく,当然地図上の「通路」たる表示も含まれる。
(2)被告製品Aの構成要件該当性 ア 本件発明(請求項1)の構成要件該当性 被告製品Aの地図データベースはKIWIデータベースである。KIWIデータベースは,道路データ(ノードとリンク)と背景データ(ポリゴンデータ)とからなるが,被告製品Aにおいては,@一般地図における道路を表示するために道路データを使用し,A市街地図におけるすべての地図要素及び一般地図における道路以外の地図要素を表示するために背景データ(ポリゴンデータ)を使用している。
すなわち,被告製品Aのドライブレーンガイド表示(広域),シティロケーションマップ,バーチャルスケープ及びアーススケープ(以下,まとめて「3D表示」という。)における一般地図は,車両が現に進行している通路(進行線)が,車両の現在位置により特定された道路データにより作成され,この進行線が,その太さ,大きさ,長さ,位置,視覚などの点から,ドライバーが一瞥して地図中の他の道路と識別できるような「異なる種類の線」として表示されている。
したがって,被告製品Aは,本件発明1の「進行線」を作成表示するものであるから,本件発明1(請求項1)(なお,請求項2,6ないし10,12,13の技術的範囲にも属する。)の技術的範囲に属し,その製造販売は,同発明の実施となる。
イ 本件発明(請求項15)の構成要件該当性 本件発明1(請求項15)は,請求項15記載のナビゲーション方法を使用するナビゲーション装置を生産する方法の発明といえる。
したがって,被告による被告製品Aの製造販売行為は,本件発明1(請求項15)の実施に当たる。なお,本件発明1(請求項15)の従属項である同(請求項20ないし23,ないし29)の実施にも当たる。
仮にそうでないとしても,被告製品Aは,本件発明1(請求項15)の実施にのみ使用される物であるから,その製造販売は,特許法101条3号間接侵害に当たる。なお,被告製品Aは,本件発明1(請求項15)の従属項である同(請求項20ないし23,ないし29)の間接侵害にも当たる。
さらに,被告製品Aのうち,型番NV7-N555,NV8-N555,NVE-N555の各製品は,本件発明1(請求項15)の課題の解決に不可欠のものであるから,その製造販売は,特許法101条4号間接侵害に当たる。
同様に,本件発明1(請求項15)の従属項である同(請求項20ないし23,ないし29)の間接侵害ともなる。
(被告及び被告補助参加人(以下「被告ら」という。)の反論) (1)本件発明1の「進行線」の意義 本件発明1の「進行線」は,特許請求の範囲の記載からその技術的意義を明確にすることはできないから,発明の詳細な説明の記載を参酌して,その意義を確定する必要がある。
そして,本件明細書1の発明の詳細な説明の記載を参酌すれば,本件発明1の「進行線」は,従来の「地図表示方式」や「経路誘導方式」における「道路地図中の一部の道路を表す線」(地図表示方式)や「誘導経路」(経路誘導方式)とは異なる旨が記載されている。したがって,「進行線」とは,現在進行中の通路に従って進行したときの当該通路の前途の形状と位置について,「誘導経路」や「道路地図中の一部の道路を表す線」(地図表示)とは異なる別個の「線」として作成表示されるものであることが必要であり,その具体的態様は,本件特許公報1の第9図ないし第11図に開示されたとおりのものに限定されるべきである。
(2)被告製品Aとの対比 被告製品Aは,ナビゲーション方式として従来技術である「地図表示方式」において表示される地図上の道路に「誘導経路」を表示するという「経路誘導方式」を採用したものである。
すなわち,被告製品Aの3D表示は,平面地図のデータを座標変換することにより,遠近感のある地図として三次元表示された地図表示であって,「地図表示方式」における「道路地図中の一部の道路を表す線」及び「誘導経路」が表示されているものであって,「現在進行中の通路に従って進行したときの当該通路の前途の形状と位置」が,従来技術である「誘導経路」や「道路地図中の一部の道路を表す線」とは異なる別個の「線」として作成表示されているものではない。
また,被告製品Aの3D表示における道路の表示は,本件特許公報1の第9図ないし第11図の具体的態様と明らかに異なる。
したがって,被告製品Aの3D表示は,「進行線」を作成表示するものではなく,本件発明1(請求項1,15)の構成要件(う),(す)の「進行線」を具備しない。
よって,被告製品Aは,本件発明1の技術的範囲に属しない。
2 争点(2)(本件発明2の技術的範囲への属否)について (原告らの主張) (1)本件発明2の目的 従来型の経路誘導型ナビゲーション装置においては,その提供する情報は目的地に到達する最適な経路に関する情報のみが表示されるため,ドライバーに対して,経路に沿って走行することを強いることになり,ドライバーにとって心理的に強いストレスを与え,危険性を誘発する可能性があるとの欠点があった。これに対して,本件発明2は,複数経路の表示によりドライバーに経路選択の自由を与え,これによって,目的地への誘導というナビゲーション本来の目的と両立させながら,運転の危険性増加と特定ルートへの集中という従来の経路誘導型ナビゲーションシステムの弊害を除去するものである。
(2)構成要件Cの充足性 ア 本件発明2の「可能経路」は,「現在位置」から「移動目的地に到達できる経路」,すなわち「現在位置からスタートして移動目的地に到達することができる通路」と定義されている。被告製品Bにおける「誘導経路」は,移動体の現在位置と目的地との間に求められる「目的地に到達できる経路」であるから,被告製品Bが検索して表示する「誘導経路」は,本件発明2の「可能経路」に当たる。
イ 被告製品Bは,アクティブルートサーチ又はアクティブルートサーチUと称する機能を有するが,これは,「移動体の現在位置と目的地との間」に「新たな誘導経路」を求め,求められた「新たな誘導経路」が「走行中の誘導経路」(従前の誘導経路)と一致する場合には,「走行中の誘導経路」がそのまま表示され,これに従った誘導が行われるが,求められた「新たな誘導経路」が「走行中の誘導経路」と異なるときには,「新たな誘導経路」が10秒間「走行中の誘導経路」に付加されて同時に表示されるというものである。したがって,被告製品Bは,2つ以上の可能経路を求め,これを同時に表示するものである。
ウ また,被告製品Bにおいて2つの可能経路が同時表示されるのは10秒間であるが,ドライバーが運転中にルート選択のために迂回路を認識するのは0.2秒程度であり,10秒間の表示時間があれば,新旧の可能経路のいずれかを選択することができるから,ドライバーには十分な選択の機会が与えられている。したがって,10秒間の表示であっても「同時に表示する」を充足する。なお,本件明細書2には,2つ以上の可能経路が,目的地に到達するまで「継続的に」表示されることを示唆する記載は一切ないうえ,本件発明2の効果を奏するためには,2つ以上の可能経路を「継続的に」表示する必要性もなければ,有用性もない。すなわち,本件発明2の「可能経路が2つ以上示されれば,ドライバーの自由な判断により目的地に到達できる」との効果は,1回の同時表示でも経路選択の機会があれば実現できるから,「2つ以上の可能経路の表示」に意味があるのは,分岐点の手前までであり,「2つ以上の可能経路」を「継続的に」表示することは,本件発明2の効果を奏するために,論理的に必要でもないし,また,有用でもない。
エ 以上のとおり,被告製品Bは,「2つ以上の可能経路」を求め,これを同時に表示するものであるから,本件発明2(請求項1)の技術的範囲に属し,被告製品Bを製造販売する被告の行為は,同発明の実施となる。
(3)本件発明2(請求項6)について 本件発明2(請求項6)は,請求項6に記載のナビゲーション方法を使用するナビゲーション装置を生産する方法の発明といえる。
したがって,被告製品Bを製造販売する被告の行為は,本件発明2(請求項6)の実施となる。
仮にそうでないとしても,被告製品Bは,本件発明2(請求項6)の実施にのみ使用される物であるから,その製造販売は,特許法101条3号間接侵害に当たる。
さらに,被告製品Bのうち,型番NV7-N555,NV8-N555,NVE-N555,NV8-N555S,NVE-N555Sの各製品は,本件発明2(請求項6)の課題の解決に不可欠のものであるから,その製造販売は,特許法101条4号間接侵害に当たる。
(被告らの反論) (1)本件発明2と被告製品におけるナビゲーション方式の相違について ア 本件発明2の目的 本件発明2は,「移動体の現在位置と移動の目的地との間にこの目的地に到達できる経路を設定し,この経路をドライバーに提示して移動体の走行を支援するナビゲーション装置およびナビゲーション方法に関する」ものである。
従来型の「経路誘導型」のナビゲーション方式においては,「目的地に到達できる経路の設定・提示」として,1本の誘導経路が設定・提示されていた。
これに対して,本件発明2は,従来の「経路誘導型」とは異なり,「移動体の現在位置と移動の目的地との間にこの目的地に到達できる経路」を「2つ以上の可能経路」として複数本設定し,これをドライバーに提示して,ドライバーの自由な判断により,目的地まで誘導するという,新たな誘導システムを提供するものである。
イ 被告製品@におけるナビゲーション方式 被告製品Bのうち,型番NV8-N099SRの製品(以下「被告製品@」という。)は,本件発明2が除外する「経路誘導型」のナビゲーション方式を採用したものであり,「移動体の現在位置と目的地との間にこの目的地に到達できる経路」を「誘導経路」として1本設定し,これをドライバーに提示して,ドライバーが表示された「誘導経路」に沿って走行することによって目的地まで誘導するものである。以下では,被告製品@を例に挙げて本件発明2の技術的範囲に属しない旨主張するが,この主張は,他の被告製品Bについても当てはまる。
(2)構成要件Cの充足性「可能経路演算手段」について ア 構成要件Cは,「前記可能経路演算手段は,前記移動体の走行中において,刻々変化する前記移動体の前記現在位置を利用して2つ以上の前記可能経路を求め」と記載されている。すなわち,「可能経路演算手段」は,移動体の走行中において,刻々変化する移動体の現在位置を利用して「2つ以上の可能経路」を求めることが必要である。
これに対し,被告製品@は,経路誘導型のナビゲーション方式を採用したものであり,車両の走行中,その現在位置を利用して「1つの誘導経路」を求めるにすぎない。すなわち,被告製品@の「アクティブルートサーチU」機能は,車両の走行中,2分間隔で,あるいは交通渋滞情報が更新されたときで,かつ,アクティブルート探索ルーチンの起動条件がすべて成立した場合に限って,車両の現在位置を利用して,当該車両の現在位置から目的地に至るまでの1つの「新たな誘導経路」を求めるものであり,車両の走行中,「2つ以上の可能経路」を求めることはない。
したがって,被告製品@は,移動体の走行中において,刻々変化する移動体の現在位置を利用して「2つ以上の可能経路」を求める「可能経路演算手段」を有しないから,構成要件Cを充足しない。
イ また,構成要件Cの「可能経路演算手段」は,移動体の走行中において,刻々変化する移動体の現在位置を利用して可能経路を求めるものであるから,移動体の走行中,「常時」可能経路を求めるものでなければならない。そして,「常時」可能経路を求めるとは,少なくとも,本件発明2における「可能経路を基準にして運転を行えば,確実に目的地に到達できる。」などの効果が生じる程度の時間間隔で可能経路を求めるものでなければならない。
これに対し,被告製品@におけるアクティブルートサーチは,車両の走行中,2分間隔で,あるいは渋滞情報が更新されたときで,かつ,アクティブルート探索ルーチンの起動条件がすべて成立した場合に限って新たな1つの誘導経路を求めるものであり,自動車が相当高速で移動するものであることを考慮すると,本件発明2の上記効果を奏する程度に,刻々変化する移動体の現在位置を利用して可能経路を求めていないことは明らかである。
したがって,被告製品@は,移動体の走行中,「刻々変化する移動体の現在位置を利用して可能経路を求める可能経路演算手段」を有しないから,構成要件Cを充足しない。
(3)構成要件Dの「可能経路表示」について ア 構成要件Dは,「前記移動体の走行中において前記表示部で2つ以上の前記可能経路が同時に表示される」と記載されている。
これに対し,被告製品@のアクティブルートサーチは,車両の走行中,一定の条件下において,新たな誘導経路を1つ求めるものにすぎず,「2つ以上の可能経路」を求めるものではない。また,被告製品@の「迂回経路」表示は,「新たな誘導経路」が「走行中の誘導経路」と異なる場合に,「新たな誘導経路」のうち「走行中の誘導経路と異なる部分」を「迂回経路」として走行中の誘導経路に付加して表示するものにすぎない。
このように,被告製品@は,「刻々変化する前記移動体の前記現在位置を利用して求められた2つ以上の前記可能経路」を「同時に」表示するものではないから,構成要件Dを充足しない。
イ また,構成要件Dにおいては,移動体の走行中において,表示部で2つ以上の可能経路が目的地に到達するまで「継続的に」表示されなければならない。
本件発明2は,「移動体の現在位置と移動の目的地との間にこの目的地に到達できる経路」を「2つ以上の可能経路」として複数本設定し,これをドライバーに提示して,ドライバーの自由な判断により目的地まで誘導するものであり,その目的を達するためには,走行中,目的地に至るまで,「継続的に」2つ以上の可能経路が表示される必要があるからである。
これに対し,被告製品@は,目的地に至るまでの1つの誘導経路を継続的に表示し,これに従ってドライバーを誘導するものである。すなわち,被告製品@の「迂回経路」の表示は,移動体の走行中に,一定の探索条件下で求められた「新たな誘導経路」が「走行中の誘導経路」と異なるときに,アクティブルート探索ルーチンの表示条件がすべて成立した場合に限って,「新たな誘導経路」と「走行中の誘導経路」との相違部分を「迂回経路」として「走行中の誘導経路」に付加して10秒間だけ表示するものであり,その後,自動的に「走行中の誘導経路」は消去され,「新たな誘導経路」の表示に切り替わり,「新たな誘導経路」に従った誘導が行われる。
このように,被告製品@における「迂回経路」表示は,その車両走行中の走行経路探索処理において,上記誘導経路の探索起動条件及び表示上の諸条件がすべて成立するという限られた場合に表示されるものであって,その表示時間も最大僅か10秒間にすぎず,移動体の走行中,目的地に至るまで継続的に同時に表示されてドライバーを目的地に誘導するというものではない。
したがって,被告製品@は,「刻々変化する前記移動体の前記現在位置を利用して求められた2つ以上の前記可能経路」を,目的地に至るまで継続的に,同時に表示するものではないから,構成要件Dを充足しない。
3 争点(3)(本件特許権1の無効理由の有無)について (被告らの主張) 本件発明1の「進行線」は,特許請求の範囲の記載から当業者がその技術的意義を容易に把握することができない。したがって,前記1(被告らの主張)(1)のとおり,本件明細書1の「発明の詳細な説明」の記載を参酌し,その技術的意義を限定して解釈すべきである。しかし,「進行線」の意義について,このような限定的な解釈をしない場合,以下のとおり,本件特許権1には明らかな無効理由が存在する。
(1)平成2年改正前の特許法(以下「平成2年改正前特許法」という。)36条4項1号違反 本件発明1の「進行線」は,特許請求の範囲において「現に進行している前記通路を表わす線」(請求項1等)又は「前記移動するものが現に進行している通路の形状と位置に関する情報を生成し・・前記通路の形状と位置に関する前記情報に基づいて作られた前記通路に関する線」(請求項15等)として特定されている。
ナビゲーション装置の表示部の表示方式には,本件明細書1でも従来技術として挙げられている「地図表示方式」及び「誘導経路表示方式」があり,本件発明1の先行技術文献として,これらの表示方式に関する各技術文献(「地図表示方式」については,乙5の3,21,28,41,誘導経路表示方式については,乙23,42ないし44)が存在する。
本件明細書における「発明の詳細な説明」では「進行線」が上記従来技術と全く相違する特有の概念であると説明されている。しかし,上記先行技術文献では,「地図表示方式」での通路表示(道路表示)及び他の通路と区別して示した「誘導経路方式」の誘導経路表示が「現に進行している通路」を線として表示されているため,当業者において,本件発明1の「進行線」と先行技術文献に示される通路表示及び経路表示とがどのように相違するのかを区別することができない。すなわち,本件発明1の「進行線」を前記のとおり特許請求の範囲の記載どおりに解釈するならば,「進行線の表示」と上記先行技術文献における「地図表示上の道路表示」及び「誘導経路表示」とを明確に区別することができず,「進行線」の概念を含む本件発明1は,いずれも発明の詳細な説明に記載された発明以外の公知技術を含むものとなる。
したがって,本件発明1は,発明の詳細な説明に記載しない事項を特許請求の範囲としたことになるから,平成2年改正前特許法36条4項1号の規定に違反することが明らかである。
(2)平成2年改正前特許法36条4項2号違反 前記1(被告らの主張)(1)のとおり,本件発明1は,「進行線」の意義を,単なる地図表示上の通路や誘導経路とは異なる特殊な線として限定的に理解した場合,ナビゲーション装置の表示部に「進行線」を表示することにより,ドライバーが進行線と目標との位置関係を確認しながら,ドライバーの自由意志によって目標までの行き方を決めることができるという点に効果があるのであって,単に「現に進行している通路」を「線」として表示しただけでは,本件発明1の効果を奏することはない。
したがって,本件発明1は,特許請求の範囲に特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されているとはいえないから,平成2年改正前特許法36条4項2号の規定に違反する。
(3)小括 以上のとおり,本件特許1は,平成2年改正前特許法36条4項1号及び2号の規定に違反し,無効理由が存在することが明らかであるから,原告による本件特許権1に基づく権利主張は,権利濫用として許されない。
(原告らの反論) (1)平成2年改正前特許法36条4項1号について 本件発明1における「進行線」の意義は,前記1(原告の主張)(1)のとおりである。これに対し,被告らが従来技術の「地図方式」と主張する乙5の3,21,28,41は,道路データ(ノードとリンク)を使用していないから,「進行線」を作成表示するものではない。また,被告らが従来技術の「誘導経路表示」と主張する乙23,42ないし44は,始点から目的地までの経路検索を行い,その中から最適経路を選択して表示するものであり,「進行線」を作成表示するものではない。
このように,本件発明1の「進行線」は,従来技術の「地図表示」及び「誘導経路表示」と明確に区別することができ,これらとは異なるものであるから,本件特許1は,平成2年改正前特許法36条4項1号の規定に違反しない。
(2)平成2年改正前特許法36条4項2号について 被告らの主張を争う。本件発明1の「進行線」の意義を前記のとおり解釈するならば,本件発明1の効果を奏することができるから,被告らの主張は,その前提を誤っている。
4 争点(4)(本件特許権2の無効理由の有無)について (被告らの主張) (1) 無効理由1(新規性欠如) ア 乙11(特開平2-28800号公報)記載の発明(以下「乙11発明」という。)の内容 平成2年1月30日に頒布された乙11に記載された発明は,次のとおりである。
すなわち,操作部5からのライトペンの入力により候補ルート30が設定され,あるいは単に現在地と目標地とを結ぶことによって候補ルート30が設定されると(第3ステップS3),前記候補ルート30から一定距離範囲などの制限条件内にあるルートが検索される(第4ステップS4)。検索されたルートは,他のルートと線の種類を変えて表示され,又は他のルートが削除され,あるいは画面の色調を変えて表示される。これにより,制限条件に合う複数のルート(目的地に到達するルート)が他のルートと明確に区別されて表示される。
第5ステップS5では,前記制限条件に合う前記複数のルートの中から,交通情報や最短時間などの条件に合うものが推奨ルート31として検索されるとともに,次候補のルートが3種類程度検索されて記憶される。そして,前記推奨ルート31が他のルートに比較して太く表示される。
また,車両が走行しているときに,第8ステップS8で,交通情報に変更があった場合,あるいは操作部5の入力によって条件が変更されたときには,第5ステップS5へ移行し,前記条件が変更された時点での車両の現在位置と目的地とから,前記目的地に至る新たな候補ルート及び次候補ルートが再度検索される。
そして,再検索後の新たな推奨ルート43が他のルートに比較して太く表示される。
新規性の欠如 本件発明2(請求項1,6)は,乙11発明と同一であるから,特許法29条1項3号の規定に該当する。
(2)無効理由2(進歩性欠如) 本件発明2(請求項1,6)は,以下の理由により,進歩性を有しない。
進歩性の欠如(その1) (ア)乙9(特開昭63-163210号公報)記載の発明(以下「乙9発明」という。)の内容 昭和63年7月6日に頒布された乙9の特許請求の範囲1記載の発明は,「自動車を目的地まで誘導する自動車ナビゲーションシステムにおいて,出発地点から目的地までの径路の途中で複数回誘導径路を新たに求めなおすことを特徴とする自動車ナビゲーションシステム」であり,出発地点から目的地までの径路の途中で,複数回誘導径路を新たに求めなおすものである。そして,実施例に,車両が誘導径路を逸脱したときには,目的地に至る2つの径路である前方最短径路(L´)と後方最短径路(L)とを検索することが記載されている。
(イ)進歩性の欠如 乙9発明と本件発明2(請求項1)とを対比すると,乙9には,「走行中において表示部で2つ以上の目的地に到達できる径路が同時に表示される」(構成要件D)との構成が必ずしも明確ではない点で相違するほかは,同一である。また,乙9発明と本件発明2(請求項6)とを対比すると,乙9には,「2つ以上の目的地に到達できる径路を使用者に対して同時に提示する」(構成要件F及びH)との構成が必ずしも明確ではない点で相違するほかは,同一である。
そして,乙11を参照すれば,乙9発明において,車両の走行中に,検索された目的地に到達し得る2つの最短径路(L´)と(L)を,同時に表示し続けることは当業者にとって何ら困難ではない。
したがって,本件発明2(請求項1,6)は,乙11を参照することにより,乙9発明から当業者が容易に発明できたものである。
進歩性の欠如(その2) (ア)乙46(特開平2-118900号公報)に記載の発明は,「最短距離順もしくは所要最短時間順に少なくとも1つ以上の経路を探索し,探索した前記経路と前記経路を構成する道路を走行する上でのガイダンス情報とをあわせて表示することにより,運転者は各々の運転者の走行目的や運転技術にあった経路を表示内容に基づいて選択することができる。」というものであり,また,乙5の2(特開平1-130299号公報)に記載の発明は「任意の起終点が指示されたときに上記属性データを用いて少くとも上記起終点間の最短距離経路,最短時間経路及び最小費用経路が算出され,これら算出された経路がそれぞれ識別可能に表示される」というものである。
(イ)乙46及び乙5の2には,目的地に到達できる複数の経路を探索して,それぞれの探索経路を表示部に同時に表示する技術が開示されており,乙9発明は,車両が走行中に,目的地に到達できる2つの経路である前方最短径路(L´)と後方最短径路(L)を探索できるものとなっているから,乙46と乙5の2の少なくとも一方に記載された発明を参酌すれば,乙9発明において,目的地に到達することのできる2つの経路である前記前方最短径路(L´)と後方最短径路(L)を,表示部に同時に表示させ続けることは,当業者にとって何ら困難なことではない。
したがって,本件発明2(請求項1,6)は,乙46及び乙5の2を参照することにより,乙9発明から当業者が容易に発明できたものであり,特許法29条2項の規定に該当する。
進歩性の欠如(その3) (ア)乙10(特開昭62-95423号公報)には,車両が走行中に,目的地に到達できる新たな経路を再探索する発明が開示されている。
前記イのとおり,乙46と乙5の2には,目的地に到達できる複数の経路を探索して,この複数の経路を同時に表示する技術的事項が開示されている。
また,本件発明2の特許出願前に「移動体の走行中において,刻々変化する前記移動体の現在位置を利用して目的地に到達できる経路を求める」ことは,乙11,乙9及び乙10に記載されているように既に周知・慣用技術であり,さらには,「刻々変化する移動体の現在位置を利用して2つ以上の目的地に到達できる経路を求める」ことも,乙11と乙9に記載のように公知である。
(イ)本件発明2(請求項1,6)と,乙46及び乙5の2に記載された発明とを対比すると,乙46と乙5の2には,本件発明2の「移動体の走行中において,刻々変化する前記移動体の現在位置を利用して2つ以上の可能経路を求め」(構成要件C及びG)との構成が開示されていない点で相違するほかは,同一である。
そうすると,乙10と乙11及び乙9に記載された周知・慣用技術及び公知技術参酌すれば,乙46や乙5の2に記載されているように目的地に到達できる経路を複数探索し,且つその複数の経路を同時に表示するとの制御を,移動体の走行中において刻々変化する移動体の現在位置を利用して行うようにすることは,当業者にとって何ら困難なことではない。
したがって,本件発明2(請求項1,6)は,乙10及び乙11と乙9を参照することにより,乙46,乙5の2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであり,特許法29条2項の規定に該当する。
(3)無効理由3 ア 優先権主張 本件発明2は,平成4年6月5日に特許出願されたものであるが,この出願は平成3年6月5日に出願された特願平3-230743号(以下「基礎出願」という。)を優先権の基礎としている。
優先権の主張内容 乙48(基礎出願である特願平3-230743号の願書及び願書に添付された明細書並びに図面の写し)の特許請求の範囲には,「【請求項1】 記憶部,中央処理部,入力部,出力表示部を備えるナビゲーション装置において,現在地と目的地を設定,入力したときに,現在地から目的地に至ることが可能な経路(以下可能経路という)を2つ以上求める手段,当該の経路を表示する手段を備えることを特徴とするナビゲーション装置。」及び「【請求項3】 記憶し,処理し,入力し,出力表示するナビゲーション方法において,現在地と目的地を設定,入力したときに,現在地から目的地に至ることが可能な経路を2つ以上求め,当該の経路を表示することを特徴とするナビゲーション方法。」が記載されており,これらの発明は,いずれも「現在地と目的地を設定,入力したときに」すなわち,初期の設定入力時に,可能な経路を2つ以上求めるものであり,本件発明2(請求項1)の構成要件C及び構成要件Gに記載の,「前記移動体の走行中において刻々変化する前記移動体の前記現在位置を利用して2つ以上の前記可能経路を求める」との構成を備えていない。
そして,基礎出願では,「刻々変化する移動体の現在位置を利用して2つ以上の可能経路を求める」技術的手段に関する説明はなく,どのようにして「刻々変化する移動体の現在位置を利用して2つ以上の可能経路を求める」のかの点が開示されていない。すなわち,基礎出願の明細書には,刻々変化する移動体の現在位置を利用して2つ以上の可能経路を求めて表示するための実施可能要件が欠如しており,基礎出願の出願時においては,「刻々変化する移動体の現在位置を利用して2つ以上の可能経路を求める」との発明に関しては未だ未完成であった。
したがって,基礎出願に記載されていない構成要件Cを有する本件発明2(請求項1)及び構成要件Gを有する本件発明2(請求項6)に関しては,その新規性及び進歩性判断の基準時を,本件発明2に係る特許出願時である平成4年6月5日とすべきである。
ウ 乙47(特開平3-219397号公報)記載の発明 乙47は,基礎出願の出願日の後で,かつ本件発明2の特許出願時である平成4年6月5日以前に頒布された刊行物である。
乙47記載の発明は,車両が最短距離経路503の表示から逸脱したときに,刻々変化する車両の現在位置を利用して新たな最短距離経路507を探索し,新たな最短距離経路507を,それまでの前記最短距離経路503と共に表示するものである。
エ 乙47による進歩性欠如 乙47によれば,「刻々変化する移動体の現在位置を利用して経路探索を行うこと」及び「刻々変化する移動体の現在位置を利用して探索された経路を,それ以前の経路と同時表示すること」が公知である。
したがって,乙47を,乙9に組み合わせることにより,又は乙47を,乙46,乙5の2に組み合わせることにより,あるいは乙47を,乙9,乙46,乙5の2,乙10に組み合わせることにより,当業者が本件発明2(請求項1,6)を容易に発明できたものといえるから,本件発明2(請求項1,6)は,特許法29条2項の規定に該当する。
(4)結論 よって,本件特許2(請求項1,6)は,新規性及び進歩性が欠如するから,特許法29条1項3号及び同法29条2項に該当する明らかな無効理由があり,本件特許権2に基づく原告の請求は,権利濫用に当たり,許されない。
(原告らの反論) (1)無効理由1(新規性欠如)について 乙11発明は,唯一の最適な誘導経路を表示して,ドライバーを目的地へ強制的に誘導するという従来の誘導経路表示方式のカーナビゲーション装置であって,現在位置から目的地までの経路(可能経路)を明示して,ドライバーを目的地まで誘導するという制約の下で,同時にドライバーに経路選択の自由を与えるという本件発明2とは,全く発想を異にする発明である。
したがって,本件発明2(請求項1,6)は,乙11発明と同一ではない。
(2)無効理由2(進歩性欠如)について ア 乙9発明について 乙9発明は,「最短経路」である「誘導経路」を新たに求めなおすことで,ドライバーが「経路をまちがった場合でも,正しい経路を新たに求めなおして,ドライバーが自分で判断しなくても,正しい経路に誘導する」ことを目的としたものであり,結局,唯一の最適な誘導経路を表示して,ドライバーを目的地へ強制的に誘導するという従来の誘導経路方式のカーナビゲーション装置であり,現在位置から目的地までの経路(可能経路)を明示して,ドライバーを目的地まで誘導するという制約の下で,同時にドライバーに経路選択の自由を与えるという本件発明2とは本質的な相違点がある。
イ 乙46記載の発明及び乙5の2記載の発明について 乙5の2記載の発明は,記憶手段の属性データを用いて任意に設定された起終点間の最短距離経路,最短時間経路及び最小費用経路を算出し,これらの経路をそれぞれ識別可能に表示するナビゲーション装置であるが,これら3種類の経路は,あくまでドライバーが指定した固定された起点と終点を結ぶ誘導経路である。また,乙46記載の発明も,ドライバーが入力した出発地と目的地を結ぶ1つ以上の誘導経路をガイダンス情報とあわせて表示する発明であって,これらの誘導経路は,あくまでドライバーが指定した固定された出発地と目的地を結ぶ経路にすぎない。
したがって,これらの発明は,本件発明2と大きく異なる。
ウ 乙10記載の発明について 乙10記載の発明は,「進行方向前方に渋滞等がある場合に,最も望ましい迂回路を運転者に知らせることのできる車両用走行誘導装置を提供することを目的」としたものであり,進むべきでない渋滞路を迂回するために,渋滞情報を受信した場合に最も望ましい誘導経路である迂回路を検索・表示するものであり,本件発明2と大きく異なる。
エ 小括 したがって,前記アないしウの発明を組み合わせることによって,本件発明2を容易に発明することができたとはいえない。
(3)無効理由3について ア 優先権主張について 「刻々変化する移動体の現在位置を利用して2つ以上の可能経路を求める」ことについては,基礎出願に記載があるから,本件発明2(請求項1,6)の新規性及び進歩性の判断時期は,基礎出願の出願日である平成3年6月5日とすべきである。
イ 乙47記載の発明について 仮に,本件発明2の新規性,進歩性の判断時期が出願日である平成4年6月5日であるとしても,本件発明2は,乙47に記載された発明により進歩性が欠如することはない。
すなわち,乙47に記載された発明は,「目的地から道路上の各地点への最短距離経路を記憶するために,初めに1度だけ目的地を基準にして探索を行うだけで走行予定経路を離脱したときでも常に現在地点から目的地への最短距離経路を出力することができる」という誘導経路の変更に関する発明であり,走行予定経路を離脱した地点から目的地までの「最短距離経路」(請求項1)又は「最適経路」(請求項2)という唯一の最適な誘導経路を表示して,ドライバーを目的地へ強制的に誘導するという従来の誘導経路方式のカーナビゲーション装置である。したがって,現在位置から目的地までの経路(可能経路)を明示して,ドライバーを目的地まで誘導するという制約の下で,同時にドライバーに経路選択の自由を与えるという本件発明2とは,課題の共通性もなく,全く異なるものである。
したがって,乙47に記載された発明と,乙9,乙46,乙11,乙5の2,及び乙10に記載された各発明を組み合わせたとしても,本件発明2を発明することは困難である。
5 争点(5)(原告の損害額)について (原告らの主張) (1)損害額 ア 被告は,遅くとも平成6年10月27日より平成15年5月19日までの間に,別紙物件目録1記載のとおり,被告製品Aを製造販売し,また,遅くとも平成12年10月7日より平成15年5月19日までの間に,別紙物件目録2記載のとおり,被告製品Bを製造・販売した。その売上金額は,次の金額を下らない。
被告製品A 合計1407億4500万円 被告製品B 合計 525億円 イ 被告製品においては,本件特許権1を侵害する基本的表示機能と,本件特許権2を侵害する「アクティブルートサーチII」は,極めて重要な機能であるから,その実施料相当額は,本件特許権1が被告製品Aの総売上金額の10%,本件特許権2が被告製品Bの総売上金額の5%を下らない。
したがって,実施料相当額は,それぞれ次のようになる。
本件特許権1を侵害する被告製品Aにつき 合計140億7450万円 本件特許権2を侵害する被告製品Bにつき 合計 26億2500万円 (2)不当利得額 被告は,本来原告に対して支払うべき上記実施料相当額を支払っていないことにより,少なくとも同額の利得を得ており,これにより原告は同額の損失を被っている。
(3)まとめ よって,原告は,被告に対し,本件各特許権侵害による不法行為に基づく損害賠償請求権(主位的)又は不当利得返還請求権(予備的)に基づく一部請求として133億9800万円及びこれに対する本訴状訂正申立書送達日の翌日である平成15年5月23日から支払済まで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
(被告らの認否) 争う。
6 争点(6)(債権譲渡の有無)について (参加人の主張) (1)日本国内外の多くの電子機器メーカーは,実施料を支払わずに原告の本件発明を利用してカーナビゲーション装置を製造販売し,多くの自動車メーカーは,自車にそのカーナビゲーション装置を搭載して使用し,いずれも原告の本件各特許権を侵害している。
(2)参加人は,原告から本件各特許権の内容及びその侵害状況について説明を受けて援助を要請され,その要請を受け入れることにした。
そして,参加人と原告は,平成15年3月27日,協力して本件各特許権を日本国内外で防御し,侵害を排除し,本件各特許権を活用した事業を推進していくことで合意した。
その報酬として,原告は,参加人に対し,平成15年3月27日,日本国内外のすべての特許権侵害者に対する損害賠償請求権及び本件各特許権の実施料その他本件各特許権から生ずる一切の債権について,その22.5パーセントを譲渡する旨合意した。
(3)よって,参加人は,被告に対し,原告から債権譲渡を受けた本件各特許権侵害による不法行為による損害賠償請求権(主位的)又は不当利得返還請求権(予備的)に基づく一部請求として30億1455万円及びこれに対する債権譲渡の日である平成15年3月27日から支払済まで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
また,原告は,参加人に対し,本件訴訟において被告に対して請求している損害賠償請求権又は不当利得返還請求権のうち22.5パーセントに相当する30億1455万円を債権譲渡したから,原告は被告に対してその旨を通知すべき義務がある。
(原告及び被告の認否) 参加人の主張を争う。
当裁判所の判断
1 争点(1)について (1)本件発明1(請求項1,15)の「進行線」の意義について 本件において,本件発明1(請求項1,15)の「進行線」の意義について,特許請求の範囲の記載から確定することはできない。
すなわち,「進行線」の意義について検討すると,本件発明1(請求項1)の構成要件(い)において「前記入力部は,前記移動するものが現に進行している通路に関する情報を入力する手段を有し,」と記載され,また,構成要件(う)の「前記中央処理部は,前記入力手段が前記通路に関する情報を入力したときに,前記通路に関する情報に基づき,現に進行している前記通路を表す線を進行線として作成し」と記載されていることからすれば,「進行線」とは,「移動するものが現に進行している通路に関する情報に基づいて作成される,移動するものが現に進行している通路を表す線」ということになるが,その技術的な意義は,特許請求の範囲の記載からは明らかではない。
そこで,本件明細書1の発明の詳細な説明の記載等を参照して,その意義を確定することとする。
発明の詳細な説明欄の記載 甲3によれば,以下の事実が認められる。
本件明細書1の発明の詳細な説明には,その内容が事実に即したものであるかはさておき,以下の記載がある。
(ア)従来の技術 a 「記憶装置,処理装置,入力装置,表示装置,センサー等を備える従来のナビゲーションシステムを,表示装置でドライバーに与えられる表示内容を基準にして大きく分類すると,以下の2つになる。
表示装置の画面において地図を表示し,地図の中に走行軌跡,現在位置,進行方向,目標,目標方向,指示コース等を表示する地図表示方式と,表示画面に地図を表示せず,目標方向と交差点における通路指示を示す矢印だけを表示する矢印表示方式の2つである。」(9欄3行〜11行) b 「上記の地図表示方式と矢印表示方式は,それぞれ,次のような問題を有している。
地図表示方式では,ドライバーは運転しながら提示された地図を見なければならないので,ドライバーに多くの注意を要求し,負担になることがある。また,情況によっては危険を招くおそれがある。そのため,走行中ドライバーが地図を見ることができないように表示画面を下方に設置したり,又は走行中には主要道路だけを表示するという対応が行われている。しかし,これらの対応は決して十分なものではなく,交通安全上の不安が残る。このような不安が存在する・・・。
矢印表示方式では次の2つの問題が存在する。表示画面における表示モードの1つとして目標方向を矢印で示すときは,矢印に従ってドライバーは心理的に早めに右左折し,その結果,例えば住宅街の中に迷い込むことが生じやすい。また,他の表示モードとして交差点で進路指示を行うときは,コース指示が前提にあるために,リアルタイムで収集した交通情報の提示のタイミングと,高齢者や女性に関して特に問題になるドライバーの受容性とが未解決な課題として残される。」(9欄12行〜33行) (イ)従来技術の問題点 「自動車はかなり速い速度で移動するので,表示画面に表示された道路地図上で,自車の現在位置を知っても,ドライバーにはあまり役に立たない。換言すれば,表示画面上で,点として表示される現在位置よりも,目標との位置関係を明らかにしながら,線としての移動状況を知ることの方が,走行中のドライバーの速度感覚,目標との相対的な位置関係及び方向関係の感覚に合致している。ドライバーにとって,線としての移動状況を把握することは,点としての移動状況を把握することよりも,無理がなく,自然である。また,線としての移動状況に関する情報は,利用可能な走行情報として価値が高い。更に自動車は,・・・通路に制約されて走行するので,現在位置としての点を追及するよりも,自車が現在進行する通路を,到達しようとする目標との位置関係を明確にしつつ,把握することの方がより実用的である。」(9欄45行〜10欄10行) (ウ)発明が解決しようとする課題 a 従来のナビゲーションシステムにおいては,「特に,ドライバーの心理的側面を考慮すると,走行開始前に目標に至る走行コースを一義的に決定し,その1つの固定的な走行コースを提示することは,ドライバーに強いストレスを与える。このストレス印加状態を避けるためには,ナビゲーションシステムとして,ドライバー自身が自主的に目標に至る進路を選択できるようにし,この選択に関する判断を優先させ得る装置構成が望ましい。」(10欄48行〜11欄5行) b 「本発明の目的は,・・・移動するものの線としての移動状況に関する情報を重視して,表示部の画面上『現に進行している通路を表す線』すなわち『進行線』という概念を導入することにより,必要且つ最小限の有用情報をドライバー等の使用者に与え,使用者に自主的な進路選択を行わせ,これにより極めて実用性の高いナビゲーション装置及び方法を提供することにある。」(11欄14行〜21行) c 「本発明の目的は,表示方式の観点で従来の地図表示方式及び矢印表示方式とは全く異なる新規且つ有用なナビゲーション表示方式を実現し,更に経路誘導方式とはナビゲーション原理が本質的に異なり,予め走行コースを設定せず,使用者自身の走行判断に基づき進路を選択しながら走行コースを独自に作っていくことが可能であるナビゲーション装置及び方法を提供することにある。」(11欄22行〜28行) (エ)課題を解決するための手段 a 「本発明は,記憶部に位置に関する座標や各種データを記憶し,入力部で所定の情報を入力したときに中央処理部が所定の処理を行い,表示部で必要な表示を行うナビゲーション装置及び方法において,発信機の発射信号の受信,衛星電波の受信,距離センサー及び方位センサーの検知,使用者による操作等のいずれか又はいくつかによって,現に進行している通路に関する情報が与えられたときに,この情報を入力部が入力し,進行線作成表示手段がその現に進行している通路を表す線(以下の説明では『進行線』という)を作成し,目標(目的地)に関する情報と共に,目標との関係を明らかにしつつ,表示部の画面に表示するように構成したナビゲーション装置及び方法である。」(11欄30行〜41行) b 「『現に進行している通路』とは,ナビゲーション装置の本体装置が装備された『移動するもの』が,現に進行している通路である。」(11欄43行〜45行) c 「この通路は,例えば,その始点が,交差点における右左折地点で定義され,終点が,交差点における右左折の後その後右左折することなく進行したときに到達する地点等で定義される通路である。前記終点は,行き止まり,突き当たり,描画可能または検索可能な地点,あるいは強制されて到達する地点などである。この現に進行している通路は,移動するものの進行が右左折を繰返して進むに伴い変化するものである。従って,原則的に,現に進行している通路の変化につれ,現に進行している通路が変化するときに,その都度,新しい現に進行している通路に関する情報を取得し,この現に進行している通路を表す線を作成し,これにより,表示部の画面に表示されている,現に進行している通路を表す線は,更新される。」(11欄45行〜12欄8行) d 「『現に進行している通路に関する情報』とは,最終的に,現に進行している通路の形状と位置のデータを得ることができる情報である。」(12欄8行〜11行) e 「表示画面に表示される進行線は,ドライバー等が右左折によって進行すべき通路を新たに選択するたびに更新される。」(12欄19行〜21行) f 「進行線は,先に従来技術の箇所で説明した,出発地と目標地(目的地)との間において進行開始前に予め一義的に決定される走行コースとは,概念的に顕著に異なるものである。また,単に表示部の画面に表示された道路地図中の一部の道路を表す線とも異なるものである。」(12欄24行〜29行) (オ)作用 a 「衛星電波,あるいは距離と方位を検知するセンサー等によって現在地を推定し,更に推定した現在地に基づいて軌跡を得て,軌跡と通路を対比して経過した通路を判定する場合には,通路の前方にあって,右左折をしないときに進行することになる通路が進行線として表示部に表示される。この例において,進行線を表示したときに,推定された現在地を,軌跡の終端として,又は進行線の始端として表示する。」(19欄12行〜19行) b 「交差点が特定され,交差点における進入の態様が検知され,あるいは使用者が進入の態様を入力したときに,進入した通路が進行線として表示される。」(19欄20行〜22行) イ 本件発明1における「進行線」の意義 以上認定した事実に基づき,本件発明1における「進行線」及び「進行線の作成表示,更新」の意義について判断する。
(ア)本件明細書1の記載によれば,「『現に進行している通路に関する情報』とは,『最終的に,現に進行している通路の形状と位置のデータを得ることができる情報』である。」と定義付けられているから,構成要件(う)の「前記通路に関する情報に基づき,現に進行している前記通路を表す線を進行線として作成」するとは,「最終的に,現に進行している通路の形状と位置のデータを得ることができる情報である」情報に基づき,「現に進行している通路を表す線」を「進行線」として作成すること,すなわち,通路に関する情報から現に進行している通路の形状と位置のデータを得て,現に進行している通路を表す線を進行線として作成することを意味するものと解される。
(イ)そして,本件明細書1の前記「発明の詳細な説明」によれば,「『現に進行している通路を示す線』すなわち『進行線』」における「通路」とは,始点と終点とが交差点における右左折地点など具体的な地点によって定義されていること,「現に進行している通路」とは,移動するものの進行が右左折をしないときに進行することになる通路であって,右左折を繰り返すのに伴って変化する通路であると記載されていること,「進行線」は,その変化の都度,新しい現に進行している通路に関する情報を取得し,当該新しく作成され,表示部に表示されている進行線が新しい進行線に更新されると記載されていること,「進行線」は,地図表示方式において表示画面に表示された道路地図中の一部の道路を表す線や出発地と目標地(目的地)との間において進行開始前に予め一義的に決定される走行コースとは異なるものであると記載されている。
これらの各記載に照らすならば,本件発明1における「進行線」とは,通路が,交差点等の具体的な地点である始点から終点までを指すと定義されているのであるから,移動するものが右左折をしないときに進行することになる通路を指すと解すべきである。
そうすると,本件発明1における表示部に表示された進行線は,右左折する度に新しく作成され,表示部に表示されている進行線が新しい進行線として,更新,表示されることを要するが,他方,移動するものが現に進行している通路を右左折しない限りは(ただし,進行線の終点に到達したときは除外する。),更新されないものであることが必要である。
(2)被告製品Aと本件発明1との対比 ア 被告製品Aの構成 証拠(甲7ないし9,17,30,31,36)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(ア)被告製品Aは,地図データベースとしてKIWIデータベースを使用している。KIWIデータベースにおける形状情報は,道路データと背景データとに分けて管理されており,道路データは,ノード,リンク,リンク列等の要素により構成されている。被告製品Aは,シティロケーションマップ及びドライブレーンガイド表示において,自車位置付近の一般地図及び市街地図を表示することができ,自車が進行するのに応じて,表示画面上の一般地図及び市街地図はスクロールが可能である。被告製品Aは,一般地図では,道路データを用いて道路を作成・表示し,背景データを用いて施設,街区,水域など道路以外の地図要素を作成・表示しているのに対し,市街地図では,背景データを用いて道路及びそれ以外の地図要素のすべてを作成・表示している。また,被告製品Aのシティロケーションマップ及びドライブレーンガイド表示における一般地図は,平面地図データを座標変換することにより,三次元的に描画された遠近感のある地図として作成・表示されている。
(イ)上記のとおり,被告製品Aは,シティロケーションマップ及びドライブレーンガイド表示における一般地図を,道路データ及び背景データを用いて作成・表示している。そして,一般地図のうち道路の作成・表示に用いられる道路データは,道路の形状と位置のデータを得ることができる情報に当たるといえる。また,一般地図には,自車が現に進行している道路が表示されている。
しかし,被告製品Aでは,「自車が現に進行している通路を表す線」は,自車が現に進行している通路を具体的な地点である始点及び終点で特定した上で,それを線状に作成・表示するものではなく,表示画面上の一般地図に表示される道路からなる道路データに基づいて作成・表示しているのである。また,被告製品Aの上記一般地図は,自車が進行するのに応じてスクロールすることが可能であるから,自車が現に進行している通路の表示は,自車が右左折をすることとは関係なく更新される。
イ 対比 以上によれば,被告製品Aのシティロケーションマップ及びドライブレーンガイド表示における一般地図に表示される,自車が現に進行している道路は,「道路地図中の一部の道路」を示すものとして作成・表示されているということができるから,本件発明1にいう「進行線」には当たらない。なお,被告製品Aの上記一般地図は,遠近感のある地図として作成・表示されるが,そのことは,上記判断を左右するものではない。
そして,弁論の全趣旨によれば,原告が,シティロケーションマップ及びドライブレーンガイド表示における一般地図のほかに,被告製品Aにおける進行線の表示であると主張するバーチャルスケープ及びアーススケープにおける一般地図についても,シティロケーションマップ及びドライブレーンガイド表示における一般地図と同様に,自車が現に進行している道路は,「道路地図中の一部の道路」を表す線として作成・表示されていると認められるから,本件発明1にいう「進行線」には当たらない。
ウ 小括 以上のとおり,被告製品Aは,本件発明1にいう「進行線」を作成・表示することはないから,本件発明1の技術的範囲に属しない。
よって,被告による被告製品Aの製造販売は,原告の有する本件特許権1の侵害とはならない。
2 争点(2)について (1)本件発明2(請求項1)の「前記表示部で2つ以上の前記可能経路が同時に表示される」の意義について 本件明細書2の発明の詳細な説明の記載等を参照して,その意義を確定することとする。
発明の詳細な説明欄の記載 甲4によれば,以下の事実が認められる。
本件明細書2の発明の詳細な説明には,その内容が事実に即したものであるかはさておき,以下の記載がある。
(ア)技術分野 「本発明は,・・・特に,移動体の現在位置と移動の目的地との間にこの目的地に到達できる経路を設定し,この経路をドライバーに提示して移動体の走行を支援するナビゲーション装置およびナビゲーション方法に関する。」(3欄36行〜40行) (イ)背景技術 a 従来技術に関連して,従来の「経路誘導型のナビゲーション装置では,表示装置の画面に,移動の目的地(以下移動目的地という)に到達する最適な経路に関する情報が表示される。目的地に到達する最適経路は,走行を開始する前にナビゲーション装置に含まれる計算機に対して移動体の現在位置と移動目的地を入力することにより,計算機で自動的に算出される。走行中ドライバーは表示画面に表示された経路に関する情報によってガイドされながら目的地に至るまで自動車の運転を行う。しかし従来の経路誘導型の装置ではドライバーの能力やロケータの誤差と経路指示のタイミングに関し困難があり実用性の点で十分ではなかった。」(3欄45行〜4欄5行) b 「経路誘導型ナビゲーション装置が提供する情報は,ドライバーに経路に沿って走行することを強いるので,ドライバーにとって心理的に強いストレスを与え,危険性を誘発する可能性がある。」(4欄15行〜19行) c 「本発明の目的は,従来のナビゲーション装置の問題に鑑み,ドライバーにとって情報価値が高く,ストレスを与えず,実用的で安全性の高いナビゲーション装置およびナビゲーション方法を提供することにある。」(4欄22行〜25行) (ウ)発明の開示 「この可能経路演算手段は,移動体の走行中において刻々変化する移動体の現在位置を利用して2つ以上の可能経路を求め,移動体の走行中において表示部で2つ以上の可能経路が同時に表示されるように構成される。」(4欄37行〜40行) (エ)発明を実施するための最良な形態 a 「更新時において可能経路を求めたときに,可能経路が1つしかない場合がある。この場合,可能経路を表示装置3に表示すると,経路誘導型と同一となる。そこで,この場合には,更新前の表示を保持することにする。」(7欄45行〜49行) b 「また1つしか存在しない可能経路が,右左折を必要としない通路,または通路状況が複雑でない通路,またはロケータ7の誤差が小さく右左折すべき交差点で危険を誘発しない通路であるときには,更新して表示することも可能である。」(7欄49行〜8欄3行) c 「通路について,渋滞,事故等の情報が得られるときには,これらの情報を資料として,可能経路の選択を行う。かかる動的な情報が得られないときには,通常の所要時間が利用される。」(8欄4行〜7行) d 「自動車の現在位置が移動目的地に到達していない限り,当該現在位置は,自動車の移動に従って変化していく。現在位置が変化する場合には,常に,新しい現在位置と移動目的地との間で可能経路を求める必要がある。」(8欄8行〜12行) e 「上記の各構成に基づいて,本発明に従えば,次の効果が発揮される。
自動車等の移動体の現在位置と移動目的地が入力されると,目的地に到達することのできる2つ以上の可能経路が表示装置の画面に表示されるので,これらの可能経路を基準にして運転を行い走行を行えば,確実に目的地に到達することができる。この場合には,経路は1つではなく,2つ以上の複数の可能経路が表示されるので,ドライバーは厳密に1つの経路に従う必要がなく,またコンピュータに対して高負担となる方向規制のある通路に関してもあえてこれを可能経路に組み込むことをしなくても,現場においてドライバーの自由な判断に基づいて1つの可能経路から他の可能経路へ進路をとるという要領に従えば,方向規制のある通路を利用することも可能にし,軽い気分でナビゲーション装置を利用することができる。また可能経路を利用した運転は,道路の実際の状況をドライバーが判定しながら行うことができ,ドライバーの心理状態に即した利便性を備えている。」(10欄37行〜11欄4行) イ 本件発明2の「前記表示部で2つ以上の前記可能経路が同時に表示される」ことの意義 以上認定した事実に基づき,本件発明2の「前記表示部で2つ以上の前記可能経路が同時に表示される」の意義について判断する。
本件発明2は,移動体の現在位置と目的地との間に目的地に到達し得る経路を設定し,これをドライバーに提示して走行を支援するナビゲーション装置及び方法に関するものである。@本件発明2は,従来の経路誘導型ナビゲーション装置が,目的地までの1つの経路のみを表示するため,ドライバーに心理的に強いストレスを与えるという問題点があったのに対して,従来の経路誘導型のものとは異なり,目的地に到達し得る2つ以上の経路(可能経路)を求め,移動体の走行中に表示画面に「2つ以上の可能経路が同時に表示される」ように構成されたものであること,A移動体の移動によって現在位置が変化したときは,常に新しい現在位置と目的地との間で可能経路を求め,可能経路を更新する必要があるが,更新時に新しい可能経路を求めたとき,可能経路が1つしかない場合には,これを表示すると経路誘導型のナビゲーション装置及び方法と同一となるので更新前の表示を保持するものとすること(ただし,この場合でも,更新前の表示を保持せず,更新して表示することも可能であること),B本件発明2の「経路は1つではなく,2つ以上の複数の可能経路が表示されるので,ドライバーは厳密に1つの経路に従う必要がなく,・・・自由な判断に基づいて1つの可能経路から他の可能経路へ進路をとるという要領に従えば,・・・軽い気分でナビゲーション装置を利用することができる」との効果を「2つ以上の複数の可能経路が表示される」ことにより達成させるものとしていること等の記載に照らすならば,本件発明2のナビゲーション装置及び方法においては,1つの可能経路しか求められず,かつ,可能経路を更新するようにしたという例外的な場合を除く外,通常の使用状態において表示画面に継続的に「可能経路が2つ以上表示される」ものであることを要すると解すべきである。
以上のとおり,構成要件Dの「前記表示部で2つ以上の前記可能経路が同時に表示される」とは,移動体の走行中における通常の使用状態において継続的に表示部に2つ以上の可能経路が同時に表示されることを意味するものと解される。
(2)被告製品Bと本件発明2との対比 ア 被告製品Bの構成 証拠(甲5,28,33)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(ア)被告製品Bは,車両の現在位置と目的地(行き先)との間の経路(ルート)を複数探索し,表示装置に表示される地図上にドライバーが選択した経路を誘導経路として1本表示し,ドライバーが誘導経路に沿って走行することにより,目的地まで誘導するナビゲーション装置である。
(イ)被告製品Bのうち,型番NV8-N099SRの製品は,「アクティブルートサーチU」と称する,以下のような機能を有する。
a 車両の走行中,2分間隔で又は渋滞情報が更新されたときで,かつ,アクティブルート探索ルーチンの探索起動条件がすべて成立した場合に,車両の現在位置を利用して,当該車両の現在位置から目的地に至るまでの新たな誘導経路を1つ求める。
b 上記aで求められた「新たな誘導経路」が「走行中の誘導経路(現在の誘導経路)」と一致する場合には,「走行中の誘導経路」がそのまま表示装置に表示され,これに従った誘導が行われる。
c 上記aで求められた「新たな誘導経路」が「走行中の誘導経路」と異なるときで,かつ,アクティブルート探索ルーチンの表示条件がすべて成立した場合には,「新たな誘導経路」のうち「走行中の誘導経路」と異なる部分が,「迂回経路」として,「走行中の誘導経路」に付加されて10秒間だけ表示される。
d 「迂回経路」が10秒間表示された後,自動的に「走行中の誘導経路」は消去され,「新たな誘導経路」だけが表示され,これに従った誘導が行われる。ただし,「迂回経路」が表示されている10秒間にドライバーが「走行中の誘導経路」を選択した場合には,「新たな誘導経路(迂回経路)」は消去され,「走行中の誘導経路」だけが表示され,「走行中の誘導経路」に従った誘導が行われる。
(ウ)被告製品Bには,型番NV8-N099SR以外にも「アクティブルートサーチU」の機能を備えている製品がある。また,被告製品Bには,「アクティブルートサーチ」と称する機能を備えている製品があるが,「アクティブルートサーチ」の機能は,基本的には「アクティブルートサーチU」と同様である。
イ 対比 (ア)被告製品Bは,本件明細書2に記載された従来の経路誘導型のナビゲーション装置と同じく1つの誘導経路を表示してドライバーを目的地まで誘導するものである。そして,被告製品Bの「アクティブルートサーチU」は,車両が走行中の誘導経路のほかに迂回経路を表示する機能を有するが,迂回経路が表示されるのは,渋滞情報が更新された場合等で,しかも,新たに探索した誘導経路が走行中の誘導経路と異なるときであり,表示方法も,新たな誘導経路の走行中の誘導経路と異なる部分が迂回経路として走行中の誘導経路に付加して10秒間表示されるというものである。
したがって,「アクティブルートサーチU」の機能を備えた被告製品Bは,車両の走行中における通常の使用状態においては,表示画面に目的地に到達し得る1つの誘導経路を表示するナビゲーション装置であり,継続的に目的地に到達し得る経路(可能経路)を2つ以上同時に表示するものではないから,本件発明2(請求項1)の構成要件Dの「前記表示部で2つ以上の前記可能経路が同時に表示される」を充足しない。
また,「アクティブルートサーチ」の機能は,基本的には「アクティブルートサーチU」の機能と同じであるから,「アクティブルートサーチ」を備えた被告製品Bも,本件発明2(請求項1)の構成要件Dの「前記表示部で2つ以上の前記可能経路が同時に表示される」を充足しない。
(イ)本件発明2(請求項6)は,「2つ以上の可能経路を使用者に対し同時に提示する」こと(構成要件F,H)を特徴とするナビゲーション方法であるが,本件明細書2(甲4)の記載によれば,上記の「2つ以上の可能経路を使用者に対し同時に提示する」とは,本件発明2(請求項1)の構成要件Dの「前記表示部で2つ以上の前記可能経路が同時に表示される」と同義であると解される。
したがって,被告製品Bは,本件発明2(請求項6)の構成要件F,Hを充足しない。
ウ 小括 以上のとおり,被告製品Bは,本件発明2(請求項1,6)の技術的範囲に属しない。
よって,被告による被告製品Bの製造販売は,原告の有する本件特許権2の侵害とはならない。
3 参加人の請求について 参加人は,被告による被告製品A(被告製品Bを含む。)の製造販売が原告の有する本件各特許権の侵害となることを前提として,原告から,原告の被告に対する上記侵害を理由とする損害賠償請求権及び不当利得返還請求権の22.5パーセントを譲り受けたと主張する。
しかし,前記1,2で認定判断したとおり,被告による被告製品A(被告製品Bを含む。)の製造販売は原告の有する本件各特許権の侵害とはならないから,原告が被告に対し,上記侵害を理由とする損害賠償請求権及び不当利得返還請求権を取得することはない。
したがって,参加人の前記主張はその前提を欠き,失当であるから,参加人が被告に対して上記損害賠償請求権又は不当利得返還請求権の一部支払を求める本訴請求は理由がない。同様に,参加人の原告に対する上記損害賠償請求権及び不当利得返還請求権の一部を有することの確認請求も理由がない。
さらに,参加人は,原告が上記損害賠償請求権及び不当利得返還請求権の一部を参加人に譲渡する旨合意したから,当該債権譲渡の合意に基づき,原告は被告に対して当該債権譲渡をした旨を通知すべき義務があると主張する。しかし,仮に参加人と原告との間に上記債権譲渡の合意が存在したとしても,前示のとおり,当該債権譲渡の目的である原告の被告に対する上記損害賠償請求権及び不当利得返還請求権は当初から存在しないから,上記債権譲渡の合意は目的の不存在により無効というべきである。
したがって,参加人が原告に対して債権譲渡の合意により債権譲渡の通知を求める本訴請求は,理由がない。
4 結語 以上の次第で,原告及び参加人の各請求はいずれも理由がない。よって,主文のとおり判決する。
裁判官 榎戸道也
裁判官 山田真紀
裁判長裁判官 飯村敏明