関連審決 |
審判1966-3935 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成20行ケ10151審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成19行ケ10300審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成17ワ2649特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成22行ケ10221審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成15行ケ39審決取消請求参加事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 技術的範囲 / 技術常識 / 発明の詳細な説明 / 特許発明 / 同意 / 設定登録 / 訂正審判 / 誤記の訂正 / 請求の範囲 / 拡張 / 変更 / 審決確定(審決が確定) / |
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事件 |
昭和
44年
(行ケ)
10号
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裁判所のデータが存在しません。 | |
裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 1973/12/25 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 この判決に対する上告のための附加期間を九〇日とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
原告は「特許庁が昭和四三年八月一七日同庁昭和四一年審判第三九三五号事件についてした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告は主文第一、第二項同旨の判決を求めた。 |
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請求原因
一 特許庁における手紙の経緯 原告(旧商号ソシエテ・デ・ユージーヌ・シミツク・ローン・プーラン)は、特許第二七五九四三号「流動性有機ポリシロキサン組成物」(昭和三四年二月五日出願、昭和三五年一一月二五日出願公告、昭和三六年五月一五日登録)(以下「本件特許」という。)の特許権者である。原告は昭和四一年六月一三日、特許庁に対し本件特許につき訂正審判を請求した(昭和四一年審判第三九三五号)。特許庁はこれに対し、昭和四三年八月一七日「本件審判の請求は成り立たない。」との審決をし、その謄本は同年九月一八日原告に送達された(出訴期間として三ケ月附加。)。 二 本件特許の特許請求の範囲別紙のとおり。 三 審決理由の要点 本件特許の特許請求の範囲は前項掲記のとおりである。 本件審判請求の趣旨は、本件特許の特許請求の範囲に「Rツーダツシユは炭素原子を一ないし一八原子含有するアリール基である」とある記載を「Rツーダツシユ・炭素原子を一ないし一八原子含有するアルキル基である」と訂正しようとするものである。 炭素原子一ないし五個を含有するアリール基が存在しないこと、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の項に「R゛は炭素原子を一ないし一八個含有するアルキル基またはアリール基である。」との記載があることは、請求人(原告)主張のとおりである。 しかし、特許請求の範囲の項には、発明の詳細な説明の項に記載したすべての発明を記載しなければならない理由はなく、その中の一部を選択して記載することができる。したがつて、本件発明の詳細な説明の項の記載にもとづいて、特許請求の範囲の項に記載することができる。 R゛の定義としては、少なくとも次の三つの場合が考えられる。 (イ)R゛は炭素原子を一ないし一八原子含有するアルキル基またはアリール基(ロ)R゛は炭素原子を一ないし一八原子含有するアルキル基(ハ)R゛は炭素原子を六ないし一八原子含有するアリール基してみれば、本件特許請求の範囲の前記記載が当然に(ロ)の誤記であるとはいえない。 ところで、明細書を訂正すべき旨の審決が確定すると、訂正後の明細書によつて特許出願、出願公告、特許をすべき旨の査定または審決および特許権の設定登録がされたものとみなされる効果が生ずるから、訂正はただちに第三者の利害に影響を及ぼす。さらに、特許法第70条の規定があるから、特許出願人は特許請求の範囲を記載するに当つて特別に細心の注意をするはずであり、しかも「アリール基」と「アルキル基」とは対立する別異の概念であるから、普通程度の注意をすれば誤記するはずがないと考えられる。また、本件特許請求の範囲の前記記載は前記(ハ)の誤記であると推認できないわけではない。これらの諸事情と特許法第70条の規定を総合的に考察すると、本件明細書の特許請求の範囲の項の記載内容では、R゛がアルキル基である場合については特許による保護を要求していないと解することが第三者の利益に合致すると解される。したがつて、本件明細書の特許請求の範囲の前記「アリール基」を「アルキル基」と訂正することは、本件特許による保護範囲を全面的に変更することとなり、これは特許法第126条第2項の「実質上特許請求の範囲を変更する」ことに該当する。 なお、請求人(原告)は、本件訂正がなされなければ、本件特許は無意味であり、無効とされるおそれがある、と主張するが、炭素原子を六ないし一八個含有するアリール基は実存するし、本件特許請求の範囲の前記記載を前記(ハ)のように訂正することも考えられるので、本件特許は無意味ではなく、無効とされるおそれもない。 よつて、本件訂正は許可することができない。 四 審決を取消すべき理由 本件訂正審判請求の趣旨が審決認定のとおりであることは争わないが、審決は特許法第126条第2項の解釈を誤つたもので違法である。 (一)特許請求の範囲の記載「A」が「B」の誤記であることが当業者にとつて明白である場合に、「A」を「B」に訂正することは、特許法第126条第2項にいう特許請求の範囲の実質上の変更に該当しない。これは、訂正に利害関係を有する当業者ならば、訂正前においても、「A」を「B」と読みかえて解釈するであろうからである。そして、特許請求の範囲の誤記が当業者にとつて明白であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけでなく、発明の詳細な説明の項の記載、技術文献の記載や技術常識をしんしやくして判断することができるものである。 (二)炭素原子を一ないし五個含有するアリール基は存在しないところ、本件明細書の発明の詳細な説明の項には、「R゛は炭素原子を一ないし一八個含有するアルキル基またはアリール基である。」との記載があり、有機の基のうち炭素原子数の下限が一であるのはアルキル基だけであるから、本件特許請求の範囲の「R゛は炭素原子を一ないし一八原子含有するアリール基である」との記載のうち「アリール基」は「アルキル基」の誤記であると認めなければならない。前記発明の詳細な説明中の炭素原子数は、アルキル基の炭素原子数だけを限定したものであつて、アリール基の炭素原子数を限定したものではない。したがつて、特許請求の範囲の前記記載のうち「炭素原子を一ないし一八原子」が「炭素原子六ないし一八原子」の誤記であると認めることはできない。仮にこのように認めるとすると、炭素原子数の下限を六原子とした理由の説明が明細書中にないから不合理である。したがつて、 特許請求の範囲の前記記載を合理的に解釈するためには、前記のとおり「アリール基」を「アルキル基」の誤記であると認めるほかに方法がない。 (三)そうだとすると、本件特許請求の範囲の前記記載のうち、「アリール基」が「アルキル基」の誤記であることは当業者にとつて明白であり、当業者ならば訂正前においても「アリール基」を「アルキル基」と読みかえて解釈するであろうから、「アリール基」を「アルキル基」と訂正することは、特許請求の範囲を実質上変更することにならない。したがつて、この誤記の訂正が特許法第126条第2項にいう特許請求の範囲の実質上の変更に該当するとした審決は違法であり、取り消されるべきである。 |
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被告の答弁
一 本件の特許庁における手続の経緯、本件特許の特許財求の範囲、審決理由の要点が原告主張のとおりであること、炭素原子を一ないし五個含有するアリール基は存在しないこと、本件明細書の発明の詳細な説明の項に原告主張の記載があること、有機の基のうち炭素原子数の下限が一であるのはアルキル基だけであることは認める。 原告が審決を取り消すべき事由とする主張のうち、(一)は争わないが、(二)および(三)は争う。 二 炭素原子数が一より少ないアルキル基またはアリール基は存在しないから、炭素原子数の下限を一に限定することには格別の意義がない。したがつて、前記発明の詳細な説明の「R゛は炭素原子を一ないし一八個含有するアルキル基またはアリール基」との記載は、「R゛は一八個以下の炭素原子を含有するアルキル基または一八個以下の炭素原子を含有するアリール基」と同意義である。また、特許請求の範囲の「R゛は炭素原子一ないし一八原子含有するアリール基である」との記載は、「R゛は一八個以下の炭素・子を含有するアリール基である」と同意義である。そうだとすると、これを「R゛は一八個以下の炭素原子を含有するアルキル基である」との趣旨に訂正することは、特許法第126条第2項にいう特許請求の範囲の実質上の変更に該当することが明らかであるから、審決には原告主張の違法はない。 |
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証拠(省略)
理 由一、本件に関する特許庁における手続の経緯、本件特許の特許請求の範囲、審決理由の要点が原告主張のとおりであること、本件訂正審判請求の要旨が審決認定のとおりであることは、当事者間に争いがない。 二、そこで原告主張の審決を取り消すべき事由の有無について判断する。特許法第126条第1項第2号は、明細書の「誤記の訂正」を許しているので、一見明細書における特許請求の範囲の特定の記載が明細書全体の記載からみて誤記であることが明らかなときは、これを本来書かれる筈であつた記載に訂正することが許されているように考えられる。しかし、同条第二項は、この誤記の訂正は「実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであつてはならない。」と規定しており、これは明細書の誤記を訂正することによつて特許発明の技術的範囲、したがつて特許権の効力の及ぶ範囲に拡張または変更が生じてはならない趣旨であることが明らかである。そして、特許発明の技術的範囲は、明細書の特許請求の範囲に基づいて定めなければならないものであるから(特許法第70条)、同条第二項にいう「実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するもの」であるか否かの判断は、明細書における特許請求の範囲の記載を基準としてなされなければならない(最高裁判所昭和四一年(行ツ)第一号同四七年一二月一四日判決参照)。したがつて、特許請求の範囲の記載に関する限り、誤記の訂正は、訂正前の記載が当然に訂正後の記載と同一の意味を表示するものと当時者その他一般第三者が理解する場合に限つて許されることになる。そして、発明の詳細な説明の項の記載は、この点の判断の資料となる限度においてのみしんしやくされると解さなければならない。これを本件についていえば、前示特許請求の範囲のうち「アリール基」という記載が、発明の詳細な説明の項の記載や化学常識をしんしやくすれば、当然にアルキル基を表示するものと当業者その他の第三者によつて理解される場合に限り、これをアルキル基に訂正することが許されるのである。 三 本件明細書の発明の詳細な説明の項に、「R゛は炭素原子を一ないし一八個含有するアルキル基またはアリール基である。」との記載があることは、当事者間に争いがない。そして、特許請求の範囲の項には、発明の詳細な説明の項に記載した発明をすべて記載するとは限らず、そのうちの一部を選択して記載することも可能であり、またしばしば行われることでもある。したがつて、この記載に基づいて特許請求の項に記載されるR゛の定義としては、少なくとも次の三者が考えられる。 (イ)R゛は炭素原子を一ないし一八個含有するアルキル基またはアリール基である(ロ)R゛は炭素原子を一ないし一八個含有するアルキル基である。 (ハ)R゛はアリール基である。 ところで、炭素原子を一ないし五個含有するアリール基は存在しないこと、有機の基のうち炭素原子の下限が一であるのはアルキル基だけであることは、当事者間に争いがない。 原告は、この化学常識を理由として、本件特許請求の範囲のR゛の定義は前記(ロ)の誤記であることが明らかである、と主張する。しかし、この化学常識は、 本件特許請求の範囲のR゛の定義が前記(イ)または(ハ)の誤記であると解することを妨げるものではない。そうだとすると、本件特許請求の範囲における「アリール基」の記載は、発明の詳細な説明の項の記載や化学常識をしんしやくしても、 当然に「アルキル基」を表示するものとして当業者その他の第三者に理解されるとは、到底認めることができない。 以上のとおりであるから、本件訂正は許されないことであり、審決には原告主張の違法はない。 四、よつて、原告の請求は失当であるから棄却し、行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条、第158条第2項を適用して、主文のとおり判決する。 |
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追加 | |
(別紙)特許請求の範囲線状のジオルガノポリシロキサン〔このジオルガノポリシロキサンは一般式R2Sio(この式に於てRは炭化水素基である)で表わされる単位の復数個から成りそしてこのポリシロキサンはその重量の少くとも0.1%の水酸基を含有するものとする〕と、このポリシロキサンの重量の0.5〜25%に当る一般式RダツシユSi(OCOR゛)3(この式に於いてRダツシユは低級アルキル基、アルケニル基、アリール基またはアリールアルキル基でありそしてR゛は炭素原子を一〜一八原子含有するアリール基である)で表わされる有機トリアシルオキシシランとから成ることを特徴とし、水の存在に於て硬化することができ、貯蔵中に安定である、水分を含まない流動性組成物。 |
裁判官 | 古関敏正 |
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裁判官 | 瀧川叡一 |
裁判官 | 宇野栄一郎 |