審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成20行ケ10151審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成19行ケ10300審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成17ワ2649特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成22行ケ10221審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成15行ケ39審決取消請求参加事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 技術的思想 / 新規性 / 進歩性(29条2項) / 寄せ集め / 公知技術 / 技術的範囲 / 発明の詳細な説明 / 明瞭でない記載 / 実質的に同一 / 対象方法 / 均等 / 置換 / 同一の作用効果 / 容易に想到(容易想到性) / 特許発明 / 実施 / 交換 / 構成要件 / 差止請求(差止) / 侵害 / 拒絶査定 / 拒絶理由通知 / 訂正審判 / 誤記の訂正 / 請求の範囲 / 減縮 / 拡張 / 変更 / 釈明 / 異議申立 / |
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事件 |
昭和
55年
(ワ)
1971号
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 1983/05/25 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨1 被告は、別紙目録記載のドアヒンジを製造し、販売し、販売のために展示をしてはならない。 2 被告は、その製造にかかる前項記載の物件を廃棄せよ。 3 訴訟費用は被告の負担とする。 4 仮執行の宣言二 請求の趣旨に対する答弁 主文第1項と同旨 |
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当事者の主張
一 請求の原因1 原告は、次の特許権(以下、「本件特許権」といい、その発明を「本件発明」という。)を有する。 発明の名称 ドアヒンジ出願日 昭和四七年八月一八日公告日 昭和五二年五月二七日登録日 昭和五三年一月三〇日特許番号 第八九四八一八号2 本件発明の特許出願の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の記載は次のとおりである。 「側柱に取り付けられるフランジとドアに取り付けられる係合部を有するドアヒンジに於て、前記フランジの側部に設けられた内側に肩部を有するソケツトと中央に穿設された小孔とを含む基部と、該基部のソケツトに嵌合する内側底部にテーパ状のカム面と小孔を設けた開口を有するカムと、前記開口に回転可能に挿入される前記カムのカム面と対をなすカム面を有する下部と該下部の上部に設けられた非円形の棒とを含むカム従動部と、上下より前記カム従動部の棒を挿入し得る少なくとも1つの開口を有する係合部とより成ることを特徴とするドアヒンジ。」3 本件発明の構成要件及び作用効果は次のとおりである。 (一) 構成要件(1) 側柱に取り付けられるフランジとドアに取り付けられる係合部を有するドアヒンジであること(2) 前記フランジの側部に設けられた内側に肩部を有するソケツトと中央に穿設された小孔とを含む基部を有すること(3) 該基部のソケツトに嵌合する内側底部にテーパ状のカム面と小孔を設けた開口を有するカムを有すること(4) 前記開口に回転可能に挿入される前記カムのカム面と対をなすカム面を有する下部と該下部の上部に設けられた非円形の棒とを含むカム従動部を有すること(5) 上下より前記カム従動部の棒を挿入し得る少くとも一つの開口を有する係合部を有すること(二) 作用効果 本件発明は、前記構成を採用したことにより次の作用効果を奏する。 (1) 右ドアにも左ドアにも使用することができる。 (2) 自動的にドアを閉じることができる。 (3) 組立が容易で、かつ作動が円滑で確実となる。 4 被告は、別紙目録記載のドアヒンジ(以下、「被告製品」という。)を製造し、販売し、販売のために展示している。 5 被告製品の構成及び作用効果は次のとおりである(番号及び記号は別紙目録記載のものを指す。)。 (一) 構成(1)′ 側柱に取り付けられるフランジ111とドア114に取り付けられる係合部113を有するドアヒンジ100であること(2)′ 前記フランジ111の側部に設けられた内側に肩部119cを有するソケツト119を含む基部118を有すること(3)′ 該基部118のソケツト119の下半分に嵌合し、上端部にテーパ状のカム面130を有し、また、小孔127aを設けた開口129を有するカム123を有すること(4)′ 前記ソケツト119の上半部に回転可能に挿入され、前記カム123のカム面130と対をなすカム面157を下部に有し、また、前記カム面157より下方に突出した円形の下部が前記開口129に回転可能に挿入される非円形の棒150を含むカム従動部155を有すること(5)′ 上下より前記カム従動部の棒150を挿入し得る少くとも一つの開口148を有する係合部145を有すること(二) 作用効果 被告製品は、前記構成を採用したことにより、本件発明と同様の作用効果を奏する。 6 本件発明の構成要件(1)ないし(5)と被告製品の構成(1)′ないし(5)′との対比(一) (1)と(1)′との対比(1)と(1)′とは同一である。 (二) (2)と(2)′との対比 被告製品の構成(2)′は、本件発明の構成要件(2)のうちの、ソケツトを備え、その内側に肩部を有する、という構成と同一であり、その結果、カムを簡単な手法によりソケツト内に固定できる、という本件発明と同一の作用効果を奏する。 ところで、被告製品には、本件発明の構成要件(2)のうちの、基部の中央に穿設された小孔を有する、という構成に相当する構成はない。しかしながら、右の小孔を欠落させたにすぎない被告製品は、本件発明の構成要件の一部を省略した、いわゆる省略発明又は改悪発明といわれるものに該当し、本件発明の均等の範囲に含まれる。 すなわち、被告製品は、本件発明と同一の技術思想に基づきながら、本件発明の構成要件中比較的重要度の低いカムを叩き出すための小孔を基部中央に設けるという構成をあえて省略したもので、右省略により、被告製品では、万一カム123が破損した場合、他の部品と交換する際には、カム123を簡単に叩き出すことはできず、この点で本件発明の作用効果を不完全ないし改悪せしめている。しかも、本件特許出願は、昭和四八年七月一一日に公開されており、昭和五二年七月二〇日付で被告が特許異議申立を行つていることからも本件発明について被告が知つていたことは明白で、被告製品の製造にあたり、小孔を欠落させることは極めて容易になし得ることであり、被告は、本件特許権の権利侵害の責任を免れるために意図的に小孔を設けるという構成を省略したものと推認される。 右のような特別の条件下においては、被告製品に小孔を基部中央に設けるという構成が欠落していても本件発明の均等の範囲に含まれる。 (三) (3)と(3)′との対比 本件発明では、ソケツトの全部にカムが嵌合し、該カムの内側底部にカム面を設けているのに対し、被告製品では、ソケツト119の下半部にカム123を嵌合し、該カム123の上端部にカム面130を設けている、という点に相違がある。 しかしながら、カム面が互いに対となるカム面と協動してドアの開放時にドアが上昇し、ドアが閉鎖位置に向つて動かされると、重力及びカム面の相互作用によりドアが自動的に閉鎖し落下するという作用効果の点において変るところがない。作用効果が同一であるが故にカム面の位置を変えることは可能である。 (四) (4)と(4)′との対比 本件発明では、非円形棒を嵌着したカム従動部の下部にカムの内側底部に設けたカム面と対をなすカム面を設け、該カム従動部をカムの開口に挿入しているのに対し、被告製品では、非円形棒150の円形下部が下方に突出しているカム従動部の下部にカム面130と対をなすカム面157を設け、該カム従動部155をソケツト119の上半部に挿入するとともに、前記非円形棒150の円形下部をカム123の開口129に挿入している、という点に相違がある。 しかしながら、カム従動部155の非円形棒150を延長せしめてその円形部分を開口129に挿入し、該円形部分と開口129の内壁面との接触並びにカム従動部155の円筒面156とソケツト119の内壁面との接触によつてカム従動部155を回転可能に保持することと、本件発明のようにカム従動部の円筒面と開口の内壁面との接触によりカム従動部を回転可能に保持することとを比較してみても、 その作用効果において何ら変るところがない。被告製品では、単に本件発明の円筒面の代りに非円形の棒150の円形部分を置換したにすぎない。右のような置換はいずれも作用効果において同一であるが故に可能であり、当業者であれば本件明細書の特許請求の範囲の記載から当然想到し得る程度のものである。 (五) (5)と(5)′との対比(5)と(5)′とは同一である。 (六) 以上のように、被告製品には本件発明の基部中央に穿設した小孔を有する、という構成はなく、またカム面の位置、カム機構、カム従動部の構造等に本件発明の構成要件とは相違する点もあるが、全体として、被告製品は本件発明と均等であり、その技術的範囲に属する。 7 仮に、原告の改悪発明論が採用されないとしても、左記の理由により、被告製品は本件発明の技術的範囲に属するものである。 (一) 本件発明の構成要件(2)中の小孔の存在は本件発明の登録出願時には当該技術分野において公知の技術であり、特許発明とは元来出願時の技術水準を超える有用な技術的思想であるから故特許されたものであることを鑑みると、かような公知技術は何人も使用し得る自由な技術であり、特許請求の範囲を解釈するに当り、公知技術を参釈して本件発明の技術的範囲からかような自由技術を除外して解釈しても第三者に何ら不測の事態を生ぜしめるものではない。 (二) 右小孔を設けたことの作用効果は、万一カムが破損した場合に、カムをソケツトから叩いて抜き出すためのものであるから、構成要件(2)中の他の構成、 すなわち、ソケツトがその内側に肩部を有する、という構成がもたらすソケツト内にカムを単に挿入するだけでカムはソケツト内にしつかりと固定される、という本件発明の本質的作用効果とは全く関連がない。換言すれば、小孔及びその作用効果は本件発明の他の構成要件及びその作用効果とは別個のものであり、本質的なものではなく、しかも他の構成要件と協動して本件発明に係るドアヒンジの組立ての容易性及び作動が円滑で確実であるという作用効果を奏するものでもない。また、小孔は本件発明の構成要件(3)、(4)、(5)により得られる本件発明の本質的効果である右ドア又は左ドアに使用するように逆にでき、右又は左のドアのいずれにおいても自動的にドアを閉じることができるということとも全く関連がない。 しかして、小孔及びその作用効果は本件発明の他の構成要件及びその作用効果とは別個のものであり、本件発明による本質的な右記載の作用効果とは区別さるべきものである。しかも、他の構成要件と協働して本件発明の本質的作用効果を奏するものではない。 したがつて、被告製品の構成(2)′が小孔を欠くものであつても、構成要件(2)を充足する。 8 よつて、原告は、被告に対し、被告製品の製造、販売、販売のための展示の差止及び被告製品の廃棄を求める。 二 請求の原因に対する認否1 請求の原因1ないし4の事実は認める。但し、同3(二)記載の作用効果は本件発明に特有のものではない。 2 同5(一)の事実は認め、(二)の事実は争う。 3 同6(一)、(五)の事実は認める。同(二)ないし(四)の事実中、本件発明の構成要件と被告装置の構成との間に原告主張の相違があることは認めるが、その余の事実は否認する。 4 同7の事実は否認する。 三 被告の主張1 原告は、カムを叩いてソケツトから抜き出すための小孔を欠落している被告製品を、本件発明の構成要件の一部を省略した、省略発明又は改悪発明に該当するとし、被告製品に前記小孔が欠落していても本件発明の均等の範囲に含まれ、被告製品は本件発明の技術的範囲に属するものであると主張している。 しかしながら、省略発明又は改悪発明を特許発明と均等であるとしてその技術的範囲に属するものとすることは、特許発明の技術的範囲を明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて解釈し、発明の構成要件の一部を欠如しているから権利侵害の問題を生じないと判断して当該製品の製造販売を開始した者に対して、後日権利侵害の責任追及を許すことになり、これでは、製造業者等は特許請求の範囲の記載に準拠して製造販売の開始の可否を判断することができなくなる。また、各構成要件の重要性を評価して本質的構成要件と附随的構成要件とに分ける場合、この重要度の判断基準が客観的に明確でなく、特許発明の技術的範囲が浮動し易い。 要するに、省略発明又は改悪発明の主張は、法的安定性を害する恐れが相当にあるものであり、現行法体系のもとでは、排斥されて然るべきである。 したがつて、「フランジの基部の中央に穿設された小孔」の構成が、本件発明の基本的な構成要件であるか、又は附随的な構成要件であるかはともかくとして、これが本件発明の構成要件であることには変わりがないから、この構成要件を欠く被告製品は、本件発明の技術的範囲に属しない。 2 本件発明と被告製品とでは、構成要件(3)、(4)と構成(3)′、(4)′間の各構成の相違により、作用効果においても次のような差異がある。 (一) 本件発明のドアヒンジでは、フランジを側柱に取付け、係合部をドアに取付けてドアの開閉に使用されるのであるが、通常、係合部はドアの重心上にではなく、ドアの一方側端部に取付けられ、ドア重心に対して一側に片寄らせて配置される。そのため、カム面の協働動用によつてドアが回動迫り上り作動中、ドアの偏倚荷重に起因する大きな曲げモーメントが、カムの下部内周面のうちドア重心より遠い方の部位と、カムの上部内周面のうちドア重心に近い方の部位とを支点として生じることになり、これら部位に摺接するカム従動部の下端部、即ちカム面の縁部やカム従動部の上端部は、上下斜め方向への大きな外力を受けるのである。この外力は、カム面の縁部により大きな悪作用をなし、ドアの回動迫り上りと自重閉鎖が長期にわたつて反覆繰り返されるうちに、該カム面縁部が次第に歪曲ないし圧潰変形、あるいは摩損することになり、これはカム従動部やカムの寿命を短くすることになる。 (二) これに対して、被告製品では、ドア114の回動迫り上りや自動閉鎖作動中において働くドア114の前記偏倚荷重に起因する大きな曲げモーメントは、開口129の下部内周面のうちドア114の重心より遠い方の部位とソケツト119の上部内周面のうちドア重心に近い方の部位とを支点として生じることになり、これら部位に摺接する非円形棒150の円形下部とカム従動部155の上端部分とが、前記上下斜め方向の外力を受けることになる。 このように、被告製品では、本件発明のドアヒンジとは異なり、ドアの偏倚荷重によつてヒンジ部分に大きな曲げモーメントが生じても、カム従動部155の下端部、即ちカム面157の縁部は、該モーメントによる上下斜め方向の大きな外力を受けることがないので、それによる歪曲や圧潰変形あるいは摩減に対して的確に防護されることになり、カム従動部155やカム123の寿命が長くなる。 以上のように、被告製品は、本件発明の構成要件(3)、(4)との間に存する構成上の差異により、カム従動部やカムの長寿命化、耐久性の向上という格別の作用効果を有するものであるから、被告製品と本件発明とが均等物であるとする原告の主張は、この点で失当である。 3 仮に、省略発明又は改悪発明論が採用されるとしても、被告製品についてこれを適用することは認められない。 その理由は以下のとおりである。 (一) 省略発明又は改悪発明(以下単に省略発明という。)が、発明の技術的範囲に属するとするためには、少なくとも次の要件の全部を満足することが必要である。 (イ) 省略発明が特許発明と同一の技術思想に基づきながら、特許発明の構成要件のうちで比較的重要度の低いものを省略したものであること。 (ロ) 特許発明が既に公知であるため、これに基づいて省略することが極めて容易であること。 (ハ) 省略することによつて、特許発明よりも効果が劣ることが明白であること。 (ニ) 省略された構成要件以外の構成要件、すなわち、残存の構成要件によつても公知技術に比べて、作用効果上特に優れたものがあること。 (二) そこで、被告製品が本件発明の省略発明ないし改悪発明になるか否か考察する。 (1) 被告製品は前記要件(イ)を欠いている。 本件発明の願書に最初に添付した明細書の特許請求の範囲では、「小孔」は、 「底部中心部に孔を穿設したソケツト……」と表現され、出願当初の段階から本件発明の構成要件の一つとして記載されていたものである。そして、本件出願に対しては、「明細書及び図面の記載が不備であるから、特許法第36条第4項及び第五項に規定する要件を満たしていない」との拒絶理由通知が出され、出願人たる原告は、これに対して意見書に代わる手続補正書を提出して明細書の全文訂正をしたが、その際にも前記の「孔」を「小孔」として本件発明の構成要件の一つとして特許請求の範囲中に維持することにしたのである。 実際上、本件発明のドアヒンジでは、カムが摩耗や損傷等したときには、それをソケツトから抜き取り、新規なものと交換する必要がある。このヒンジ分解操作にあたつて、係合部を非円形棒の上部より取り外すこと、及びカム従動部をカムの開口より抜き取ることは比較的容易であるが、使用時においてドアの全重量を単独で受け、基部のソケツト内面と圧接し、これに堅く密着しているカムをソケツトより抜き取ることは実際上容易でない。 本件発明の小孔は、まさにこのカムの抜き取りを容易にするために形成されたもので、この小孔があることからカムのソケツトからの抜き取りが簡単になされ、係合部の取外し、カム従動部の抜き取り、カムの補修交換、ヒンジの再度の組立という一連の分解操作、組立作業が容易にかつ能率よく進められるのであり、「組立及び調整が容易であり、……操作が容易であり、しかも、使用に際しては極めて実用的であるドアヒンジを提供する」という、本件発明の目的の一つが達成されるのであつて、「小孔を基部に穿設すること」は、本件発明にとつて必要不可欠の構成要件の一つである。 したがつて、原告の省略発明成立の主張はこの点で失当なものである。 (2) 被告製品は前記要件(ハ)を欠いている。 (1) 本件発明では、フランジの側部に設けた基部には、上面に開口したソケツトを設け、該ソケツトの底面中央部には小孔を穿設してある。また、該ソケツトに嵌合されるカムの内側底部にはテーパー状のカム面を設け、その中央部に小孔を穿設してある。 このような構造を採用しているため、本件発明のドアヒンジでは、ドアが閉鎖状態にあるとき、周囲の空気中に浮遊している塵埃や水分が前記ソケツト底部の小孔を通つてカム底部の小孔に進入付着する。そして、ドアが開放状態にあるときには、前記塵埃等は小孔を通過し、カム従動部の上昇によつて形成されたカムの中空部内に進入し、該カム内底部のカム面やカムの内周面下部に沈下付着する。当該塵埃等は、ドアの開閉作動が繰り返されるに件ない、カム従動部のカム内での回動と上下動が反覆されることによつて、カムのカム面やカム従動部のカム面、カムの内周面下部等を擦り減らし、摩損させる原因となり、カムやカム従動部の寿命の短縮ひいてはドアヒンジ全体の耐久性を低下させる。また、付着塵埃等は、カム従動部の回動や上下動に対する抵抗要素として作用し、その円滑な作動を妨げることになる。 (2) これに対して、被告製品のドアヒンジでは、カム123の底部小孔127aに連通する小孔をソケツト119の底部に何等穿設していないので、カム123の小孔127aを通つて塵埃等がカム123の中空部内に進入してカム面130等に付着することが全くない。そのため、本件発明のように付着塵埃の摩損作用によるカム従動部155やカム123の寿命短縮がありえず、耐久性に優れている。 (3) このように、被告製品は、本件発明の構成要件の一つである「ソケツトの底面中央部に小孔を穿設すること」を省略しているのであるが、この省略によつて、「ソケツトからのカムの抜取りが簡単になされ、係合部の取外し、カム従動部の抜取り、カムの補修交換、ヒンジの再組立、という一連の分解操作、組立作業が容易かつ能率よく進められる」との本件発明の効果が得られない反面、「カム底部の小孔からの塵埃等の侵入付着がありえず、そのため、カム従動部やカムの寿命の短縮がなく、耐久性が向上する」との、本件発明には到底期待できない格別の作用効果を奏するものである。 また、被告製品は、構成要件(3)、(4)と被告製品の構成(3)′、(4)′間に存在する請求の原因6(三)、(四)記載の差異に基づき、カム従動部やカムの長寿命化、耐久性の向上という格別の作用効果を有する。 このように、被告製品は、小孔の省略によつて本件発明に比して効果が明白に劣るものになつている、とはいえないので、被告製品は本件発明の省略発明には該当しない。 (3) 被告製品は前記要件(二)を欠いている。 小孔以外の本件発明の構成要件よりなる発明(本件発明の省略発明になるかどうか検討されている発明)は、構成上、本件発明の出願前の公知技術の単なる寄せ集めに過ぎないものであり、また、作用効果上においても、各公知技術が奏する作用効果の総和を越えるものではない。 すなわち、本件発明の構成要件(2)中、「ソケツトがその内側に肩部を有すること」という構成は、出願前公知の実公昭四三―一四二五一号公報(昭和四三年六月一七日公告)で開示された構成と実質的に同一のものであり、したがつて、右構成に由来する本質的効果として原告が主張する「組立が容易であり、かつ作動が円滑で確実であること」は、本件発明に特有の効果ではない。また、構成要件(3)、(4)も出願前公知である前掲公報及び米国特許第二九〇四八二四号明細書に開示された構成と実質的に同一のものか、これより当業者が容易に想到できた程度のものであり、また、これら構成要件より由来する本質的効果として原告が主張する「自動的にドアを閉じること」は、本件発明に特有の効果ではない。そして、構成要件(5)も、出願前公知であるイギリス特許第三一七五五〇号完全明細書、フランス特許第八三九五〇八号明細書に開示された構成と実質的に同一のものであるか、それより当業者が容易に想到しうる程度のものに過ぎないものであり、 上下逆転装置による左右転用の点も格別目新しい効果ではない。これに対し、本件発明の構成要件(2)中、「フランジの基部の中央に穿設された小孔」を設けるという構成は、本件発明の出願前に公知公用ではなく、これを当業者が容易に想到しうる関連技術も存しないので、本件発明において特有の構成というべきものである。 しかして、公知技術にはない格別の作用効果を何等奏さない発明(小孔以外の本件発明の構成要件よりなる発明)に対して、これを本件発明の省略発明であるとして、特許権による保護を与えることは、特許にあたつて新規性及び進歩性を要求する特許法の趣旨からいつて、到底許されないことである。 |
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証拠関係(省略)
理 由一 請求の原因1ないし4、5(一)の事実は当事者間に争いがない。 二 右当事者間に争いのない本件発明の特許請求の範囲の記載と成立に争いのない甲第二号証(本件特許公報。別添特許公報と同じ。)によると、本件発明の構成要件は、請求の原因3(一)の(1)ないし(5)からなるものと認められる。 三 被告製品が別紙目録記載のとおりであること、被告製品には、本件発明の構成要件(2)のうちの、基部の中央に穿設された小孔を有する、という構成に相当する構成がないことは当事者間に争いがない。 この点について、原告は、被告製品は本件発明と同一の技術思想に基づきながら、本件発明の構成要件中比較的重要度の低いカムを叩き出すための基部の中央に穿設された小孔を有する、という構成を権利侵害の責任を免れるためにあえて省略したもので、いわゆる省略発明ないし改悪発明といわれるものに該当し、本件発明の均等の範囲に含まれる旨主張する。 そこで、右主張について検討するに、右主張は、いわゆる省略発明論ないし改悪発明論(不完全利用論、不完全実施論、改悪実施論ともいう。)によつて、本件発明の構内に欠くことができない事項として本件明細書の特許請求の範囲に記載された事項のうち、基部の中央に穿設された小孔を有する、という点を被告製品が具備していなくても、被告製品はなお本件発明の技術的範囲に属すると評価すべきであると主張するものと解される。 しかしながら、特許法が特許請求の範囲には発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項のみを記載しなければならない旨規定し(同法第36条第5項)、右違反は拒絶査定の理由及び特許無効の理由になるものとしていること(同法第49条第3号、第123条第1項第3号)、発明の構成に欠くことができない事項として如何なる事項を明細書の特許請求の範囲に記載するかは出願人の自由であり、かつ出願人は、出願後であつても出願公告決定謄本の送達前であれば、願書に最初に添附した明細書又は図面に記載した事項の範囲内で、特許請求の範囲を増加し減少し又は変更する補正もなすことができ(同法第41条)、かかる記載に基づいて特許庁における審査を経て出願公告がなされ、出願人は出願公告により仮保護の権利を取得し、登録により特許権を取得すること、特許発明の技術的範囲はかかる特許請求の範囲の記載に基づいて定めることとされていること(同法第70条)、一方、出願公告決定謄本の送達後においては、明細書又は図面の補正をすることは原則として許されず、補正ができる場合においても、その範囲は、異議申立の理由等において示された事項について、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに限られ、しかも、明細書又は図面の訂正は実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであつてはならない、とされ(同法第64条、第126条第2項)、特許登録後の訂正審判についても、右と同趣旨の規定が設けられており(同法第126条第1項、第二項)、以上要するに、出願公告決定謄本送達以降の特許請求の範囲の拡張的変更は厳に禁示されていること、特許権の効力は類似のものにまでは及ばず、特許権侵害が認められるためには、対象物件(対象方法)が特許発明の構成要件を全て充足すると評価され、同一と評価されることが必要であること、などからすれば、発明の構成に欠くことができない事項として、ある事項を特許請求の範囲に記載しておきながら、権利を行使する段階に至つて、右事項は当該発明の構成要件のうち比較的重要な事項ではないと主張し、当該発明の特許請求の範囲の記載の一部を無視し、その拡張的変更を許容したのと同じ結果を生ずるような主張をなすことが許されないことは明らかであり、また、対象物件(対象方法)が当該発明の構成要件に対応する構成の一部を欠いていても、それが比較的重要な事項でない限り対象物件に具現された構成と当該発明との同一性を失うものではない、と解することは、技術思想としての特許発明の一体性を無視し、特許発明との同一性が認められる物(方法)のみを侵害品(侵害方法)として認め、その製造、販売等を禁示しようとする特許法の趣旨にも反する。 したがつて、省略された事項が当該発明にとつて重要な事項であるか否か、当該事項を省略することが容易になし得るか否か、当該事項を権利侵害を免れるために意図的に省略したものであるか否か等の事実について検討するまでもなく、省略発明論ないし改悪発明論は現行法上採用するに値するものということはできない。原告の右主張は主張自体理由がない。 また、原告は、予備的主張として、本件発明の構成要件(2)中の小孔の存在は本件発明の登録出願時には当該技術分野における公知の技術であつたこと、右小孔は本件発明の他の構成要件と協働して本件発明の本質的作用効果を奏するものではなく、それらとは別個の構成、作用効果を奏するものであること等の理由をあげて、小孔に関する事項を本件発明の構成要件から除外してその技術的範囲を解釈すべきである旨主張している。 しかしながら、右主張は前記と同一の理由により採用し得ない。 原告の右主張はいずれも失当である。 以上のように、被告製品は本件発明の構成要件(2)を充足するとはいえないので、その余の点について判断するまでもなく本件発明の技術的範囲に属するものとはいえない。 四 よつて、被告製品が本件発明の技術的範囲に属することを前提とする原告の本訴請求は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第89条の規定を適用して、主文のとおり判決する。 |
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追加 | |
目録別紙図面に示し左に説明する構造を有するドアヒンジ一図面の説明第1図はドアヒンジを示す斜視図、第2図は第1図の線2―2に沿う断面図、第3図は第2図と同様の図面であるがドアが開放位置にある場合を示す。第4図は第2図の線4―4に沿う断面図、第5図は右開きドア状態にある第1図のドアヒンジの正面図、第6図は第1図のドアヒンジのヒンジ部分の展開図、第7図は第1図のドアヒンジのカム部分を示す展開図である。また、第8図乃至第12図には被告の製造販売に係る他の型式のドアヒンジを示す。 二構造の説明(番号は別紙図面記載の番号を指す。)第1図乃至第7図中、ドアヒンジ100はドアの側柱に取り付けるフランジ111及びドア114に取り付けられ且つ前記フランジと協働する帯状板113とからなつている。フランジ111は平坦な後壁117を有し、該後壁からは上方に開口するソケツト119を備えた基部118が設けられる。前記ソケツト119は上側円筒形開口119aからなり、肩部119c、底面119d、後壁117に平行で前記開口119aの面より肩部119cの分だけ後壁117より離れた垂直面119eを形成する一部円筒形の部分119bが下方に伸びる。カム123がソケツト119の下半部に嵌合される。 カム123は開口119a内に受け入れられている上側の円筒形部分124及びソケツト119の下側の部分119bに受け入れられている一部円筒形の部分125を有している。カム123の下側の部分125はソケツト119の垂直面119eに接触する垂直面126と、底壁120にのつている底壁127と、肩部119cにのつている水平壁128を有している。カム123は中空であり、上方に開口する軸方向の開口129及び小孔127aを有する。カム123の上端面にはカム面130が形成され、これはカムの軸を通る垂直面につき対称的であり且つ後壁117に垂直になつている。カム面130は後壁に近接して底部台座131と底部台座より伸びる一対の上方に傾斜するカム面132と、後壁117に最も遠い上方の台座133とを有する。 帯状板113はドア114に取り付けるための腕140及び該腕にあるねじ孔142を有する。腕140の一端には環状の中心部分145があり、窪み146を有し、キヤツプ147を受容する。環状の中心部分145には非円形の軸方向の通し孔148が形成される。孔148内には上部が非円形の棒150を摺動挿入する。 棒150の下端は円形でカム従動部155の通し孔154を通してカム面157より下方に突出させ開口129に回転可能に嵌合させる。カム従動部は外部の円筒形状の面156を有し、カム123のカム面130に合致するよう下端面にカム面157を有しソケツト119の上半部に回転可能に挿入されている。 第1図の帯状板113は左開きドアに取付けられる状態を示すが、第5図の場合には右開きドアに取付けられる状態を示す。カム面130及び157が正合状態にある閉鎖しているドアを開けるとき、ドアはカム面130及び157の相互作用によつて上昇する。ドアが全開するまでドアを上昇させると、カム面130の上部及びカム面157の下部にある台座がドアを開位置に保持する。しかしドアが閉位置に向つて動かされると、重力及びカム面によりドアが自動的に閉鎖し同時に落下する。帯状板113を右ドアとして使用するには、前記帯状板を持ち上げてフランジ111から離し、棒150を孔148から引出すようにカム従動部155を引き抜く。次に、帯状板113をそれ自体逆にし、第5図のように腕140が左に伸びるようにする。キヤツプ147を環状中心部分145から取り外して反対側に取り付ける。 次に棒150を孔148に挿入しカム従動部155をカム123のカム面130と合わせるよう棒150の下端を開口129に挿入する。 別紙図面に示すドアヒンジは右ドアまたは左ドアに使用するよう逆にでき、また右または左のドアのいずれにおいても自動的にドアを閉じる。また、ドアを全開したとき全開位置に残り、ドアを閉鎖したとき閉位置に残る。 第1図乃至第7図に示すドアヒンジ100は帯状板113が偏位した型、すなわち腕140のドア114取付面が環状の中心部分145に対して偏位させた形状のもので、被告のカタログによれば品番FB―七〇一―二、同七〇一―三、同七〇一―四の三種があり、取付け高さにより若干の寸法の相違がある。 第8図に示すドアヒンジ100aは第1図乃至第7図のドアヒンジ100とほぼ同様であるが、帯状板113aが平坦な型、すなわち腕140aのドア取付面が環状の中心部分145aに対して平坦な形状のもので被告のカタログによれば、品番FB―七〇一―一のドアヒンジである。カム機構は第1図乃至第7図のドアヒンジと全く同一である。 第9図のドアヒンジ100bは第1図乃至第7図のドアヒンジ100と同様の偏位型のドアヒンジであるが腕140bが短い型式のものであり、被告のカタログによれば、品番FB―七〇二―二、同七〇二―三の二種があり、取付け高さにより若干の寸法の相違がある。カム機構は右記載のものと全く同様である。 第10図のドアヒンジ100cは第9図のものと同様であるが腕140cが平坦な型式のものである。被告のカタログによれば、品番FB―七〇二―一のドアヒンジである。 第11図及び第12図に示すドアヒンジ100dはカム機構については右記載の各ドアヒンジと全く同様であるが、 帯状板113のかわりに係合部201がフランジ111dに嵌合装着されるようになつており、係合部201の面201aがドアの表面でなくドア114の縁部114aに取付けるようになつている縁部取付型のドアヒンジである。係合部201には開口201bを設け、これを通してビス等により面201aに設けた孔を介してドア114に取付ける。被告のカタログによれば、品番FB―七一一のドアヒンジである。 <12361―001><12361―002><12361―003><12361―004><12361―005><12361―006><12361―007><12361―008><12361―009><12361―010><12361―011><12361―012><12361―013><12361―014><12361―015><12361―016> |
裁判官 | 牧野利秋 |
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裁判官 | 川島貴志郎 |
裁判官 | 大橋寛明 |