運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
昭和54ネ825 判例 特許
平成19ワ507特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成15行ケ39審決取消請求参加事件 判例 特許
平成12ワ9657特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成15ワ23943特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
関連ワード 発明者 /  産業上利用(29条1項柱書) /  技術的思想 /  方法の発明 /  製造方法 /  物を生産する方法 /  容易に実施 /  進歩性(29条2項) /  公知技術 /  技術的範囲 /  試行錯誤 /  発明の詳細な説明 /  出願分割 /  分割出願 /  クレーム /  抵触 /  援用権(援用) /  出願経過 /  均等 /  均等論 /  同一の作用効果 /  禁反言 /  特許発明 /  実施 /  加工 /  構成要件 /  業として /  差止請求(差止) /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  拡張 /  変更 /  要旨変更 /  管轄 /  異議申立 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙1PDFを見る pdf
事件 昭和 56年 (ワ) 9453号
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 1984/06/28
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨1 被告は別紙目録記載の方法を使用してクリーム状油脂組成物を製造し、販売し、又は販売のために展示してはならない。
2 被告は被告の保管に係る別紙目録記載の方法を使用して製造したクリーム状油脂組成物を廃棄せよ。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 第一、二項につき仮執行宣言二 請求の趣旨に対する答弁 主文同旨。
当事者の主張
一 請求原因1 原告は、次の特許権(以下これを「本件特許権」といい、その発明を「本件発明」という)を有する。
発明の名称 クリーム状油脂組成物の製造法出願 昭和四二年三月一一日(特願昭五一―一二七八〇〇、特願昭四二―一五二五〇の分割)公告 昭和五五年一一月七日(特公昭五五―四三七三九)特許法64条による補正 昭和五六年七月二八日登録 昭和五七年一〇月二八日(第一一九二六九号)特許請求の範囲「上昇融点五℃以上の食用油脂中に該油脂に対しそれぞれレシチンを〇・二〜三・五%、シュガーエステルを〇・一〜二・五%添加、均一に分散させて得られる乳化性油脂組成物に牛乳、脱脂乳(又は乳固形分若しくは脱脂乳固形分を含む水溶液)を添加乳化し水中油型エマルジヨンとすることを特徴とするクリーム状油脂組成物の製造法。」2 本件発明の構成要件及び作用効果は次のとおりである。
(一) 構成要件(1) 上昇融点五度C以上の食用油脂中に(2) 該油脂に対しそれぞれ レシチン〇・二〜三・五% シユガーエステル〇・一〜二・五%を添加し(3) 均一に分散させて得られる乳化性油脂組成物に、
(4) 牛乳又は脱脂乳(若しくは乳固形分若しくは脱脂固形分を含む水溶液)を添加乳化し(5) 水中油型エマルジヨンとして(6) クリーム状油脂組成物を製造する方法。
(二) 作用効果 生クリームは、牛乳を遠心分離して得られる天然の油脂組成物であるが、高価であるのみならず、原材料である牛乳の採取時期、乳牛に与えた飼料の種類や品質及び牛乳を生クリームに加工する際の処理条件の相違など多くの要因によつて、その品質に甚だしい振れが生じる。更に一般的にいつて、生クリームを起泡させた起泡物はやや軟弱で、これを用いて行つたデコレーシヨンは比較的短期間に変形する。
本件発明は、この欠点の克服という課題を解決し、安価で、一定した品質の、風味のすぐれた実用的なクリーム状の油脂組成物を製造する方法である。
3 被告は、昭和五五年一二月以来引続き、別紙目録記載の方法(以下「被告方法」という)を使用してクリーム状油脂組成物(以下「被告製品」という)を業として製造、販売し、又は販売のために展示している。
4 被告方法の構成及び作用効果は次のとおりである。
(一) 構成(1)′ 上昇融点五度C以上の食用油脂を六五度Cないし七〇度Cに加熱攪拌しながら、該油脂に対して乳化剤として約〇・六六六%のレシチンと約〇・二二二%のモノグリセライドを加え溶解して油相を調整し、
(2)′ この油脂の調整とは別に脱脂粉乳溶解機を作動させて、水・脱脂粉乳その他の必要とする原材料よりなる水相に対し〇・四%(前記油脂に対し約〇・四九%)のシュガーエステルと〇・一四五%のリン酸塩とを仕込み、攪拌しながら加熱して六五度Cの水相を調整し、
(3)′ この(2)′の水相を加熱して攪拌しながら、これに(1)′の油相を加え、高速攪拌して予備乳化し、
(4)′ その後常法に従つて均質化した後、滅菌及び冷却して、クリーム状油脂組成物とする方法(二) 作用効果 被告方法は本件発明と同一の作用効果を奏している。
5 被告方法は本件発明の技術的範囲に属する。
(一) 被告方法と本件発明との同一点(1) 原材料 被告方法に用いられる原材料は、すべて本件発明の構成要件である原材料と同一である。
すなわち、被告方法に用いられる原材料である食用油脂、レシチン、シユガーエステル、脱脂乳その他の必要とする原材料を含む水溶液は、それぞれ本件発明に用いるすべての原材料である「上昇融点五度C以上の食用油脂」「該油脂に対し〇・二ないし三・五%のレシチン」「同〇・一ないし二・五%のシユガーエステル」「牛乳・脱脂乳(又は乳固形分若しくは脱脂乳固形分を含む水溶液)」に該当する。
被告方法に用いられる原材料には、本件発明に明記された構成要件であるすべての原材料のほか、モノグリセライド及びリン酸塩を含んでいるが、これら原材料の付加使用は、いずれも油相調整ないし水相調整のために用いられる常用ないし慣用手段であつて、被告方法と本件発明との同一性を害するものではない。
(2) 生産物 生産物は、被告方法も本件発明も全く同一である。
(3) 課題及び作用効果 被告方法が解決している課題及び奏する作用効果は、いずれもそれぞれ本件発明の課題及び作用効果と同一である。
(4) 相違する点 本件発明が(a) まず油脂中にレシチン及びシユガーエステルを添加して均一に分散せしめ、
(b) 次に脱脂乳等を添加乳化して水中油型エマルジヨンとするのに対し、
被告方法が(a) まず油脂中にレシチンを含む乳化剤を添加して均一に分散せしめ、
(b) 別にシユガーエステル及び脱脂紛乳と水等を添加して加熱攪拌し、
(c) 次に(a)の生成物を(b)の生成物に混合し、常法により水中油型エマルジヨンとする。
という点が不一致である。
(二) 以上のとおり、被告方法と本件発明とは、原材料も生産物も全く同一で、
同一の課題を解決し、奏する作用効果においても何ら異なるところはなく、ただ加工の順序ないし原材料添加の順序を異にするのみである。
(三) 本件発明の本質的特徴は、乳化剤として一定の量的範囲におけるレシチンとシユガーエステルの併用にある。
このことは、本件公報(甲第三号証)の「これら合成クリームを開発するに際し、最も問題となるのはその起泡性、殊に保型性の維持である。」(第四欄三行目以下)、「本発明は敢然生クリームに代替し又はそれと混用しうる液状クリーム状組成物(合成クリーム)の開発を目指し組織的な研究を試みた結果、意外にも乳化剤としてレシチンとシユガーエステル(蔗糖のモノー又はジー高級脂肪酸エステル)を併用した場合に限り、油脂と牛乳、脱脂乳等の乳固形分を含む水溶液とが安定なO/W型液状乳化物を形成し、この乳化物はトツピングクリーム又はコーヒー用クリームとして平均的な生クリームに比し遜色のない―場合によつてはそれに優る―実用的な合成クリームが得られることを見出した。」(第四欄一二行目以下)、「しかるに驚くべきことに独りレシチンとシユガーエステルの組み合わせのみが適度の起泡性(オーバーラン)と優れた造花性及び保型性を与えた」(第八欄九行目以下)、「本発明クリーム状組成物中におけるレシチン及びシユガーエステルの量は組成物に所期の作用効果を与えるため重要である」(第九欄二七行目以下)、及び「以上述べた如く、本発明は一定の量的範囲におけるレシチンとシユガーエステルの併用が生クリーム類似の乳化油脂組成物に対し生クリームと類似する安定な乳化状態及び適当な起泡性及び/又は分散性を与える事実の発見に基づき完成されたもので、生クリームの供給の逼迫が予想される今日、国民の食生活上有意義な発明であると信じる。」(第一〇欄四一行目以下)の記載によつて明らかである。
(四) 本件発明の要素の関係位置の変更可能性及びその自明性 そもそも本件発明は、物を生産する方法の発明ではあるが、化学的方法ではなく、物理的な方法である。「上昇融点五度C以上の食用油脂中に該油脂に対しそれぞれレシチンを〇・二ないし三・五%、シユガーエステルを〇・一ないし二・五%添加、均一に分散させて得られる乳化性油脂組成物に、牛乳、脱脂乳(又は乳固形分若しくは脱脂乳固形分を含む水溶液)を添加乳化し水中油型エマルジヨンとする」過程において、化学的変化は生ぜず、専ら物理的な過程によつてクリーム状油脂組成物が生産されることは常識に属する。ゆえに、原材料の添加の順序を転換しても、事実上なんら結果に影響しないこともまた常識である。
したがつて、本件公報の中に、本件発明の、生クリームに代替し又はそれと混用し得る液状クリーム状組成物の開発上の障害の克服という課題を解決し、トツピングクリーム又はコーヒー用クリームとして平均的な生クリームに比し遜色のない実用的な合成クリームの生産という作用効果を奏するためには、従来公知公用の技術のほかに、乳化剤として一定量のレシチン及びシユガーエステルを併用することのみが肝要であるということが開示してあれば、本件特許出願当時(昭和四二年三月一一日当時)の当業者ならば、一見して明白に、本件発明では、レシチン及びシユガーエステルが組成物中で油脂に対し一定の割合で分散又は溶解していることだけが重要であり、両種乳化剤を原始的に原料油脂中に存在することを必要としないことを推知し得ることは疑問の余地がない。
(五) 以上のとおり、被告方法と本件発明とは原材料に施す手段、順序に相違があるが、同一の課題を解決し、同一の作用効果を奏するばかりか、右相違は本件発明の本質的特徴に属さず、また、原材料に施す手段、順序の変更は特許出願当時の当業者が本件公報の内容から一見明白に知り得たところであるから、右相違は単なる設計上の微差にすぎず、両者は均等である。
よつて、原告は、被告に対し、本件特許権に基づき、被告方法を使用しての被告製品の製造、販売、販売のための展示の差止及び被告製品の廃棄を求める。
二 請求原因に対する認否1 請求原因1の事実は認める。
2 同2(一)の事実は認め、同2(二)の事実は不和。
3 同3の事実は認める。
4 同4(一)の事実は認め、同4(二)の事実は否認。
5 同5は争う。
三 被告の主張1 本件発明は、特願昭四二―一五二五〇号(以下「甲発明」という)を分割して出願されているところ、甲発明出願当時、甲発明及び本件発明に極めて近接する先行の公知技術が多数存在していた。このことは乙第一ないし第七号証の雑誌及び公報により明らかである。したがつて、かかる極めて近接する公知技術の存する本件発明の技術的範囲の解釈には右事情を十分参しやくすべきであり、その解釈をみだりに拡大することは許されない。
2 被告方法は、油相に対しては親油性の乳化剤(レシチン及びモノグリセライド)を加えて油相を調整し、他方、水相に対しては親水性の乳化剤(シユガーエステル)とリン酸塩を加えて水相を調整し、その水相に油相を加えて高速攪拌することにより予備乳化させるので、乳化作用が極めて円滑に行われて容易にクリーム状油脂組性物を製造することができると共に、特に綿実油蒸留モノグリセライドの添加によりクリームコシをしつとりとさせ、微水添牛油蒸留モノグリセライドの添加によりオーバランを高め、更にリン酸塩の添加により乳化状態の安定性を増し、かつ、クリームの口溶けを良くすることができるのである。
3 本件発明は油脂中にレシチンとシユガーエステルとの双方の乳化剤を添加することを必須の要件としている。
(一) 本件発明は、その特許請求の範囲において、原料油脂中に双方の乳化剤を添加することを明確に限定し、かつ、実施例においても、油脂中にレシチンとシユガーエステルとを添加するもののみが記載されている。
(二) また、出願経過からみても前記のことを必須の要件としていることがわかる。
すなわち、本件発明は、前記のとおり甲発明より分割出願されたものであるが、
甲発明の原始出願明細書(乙第八号証)にはクリーム製造用の中間物の製造方法のみを請求していたが、昭和四五年七月二一日付手続補正書(乙第二二号証の二)によりクリームの製造方法を第二項として付加し、次いで昭和四六年四月二八日付手続補正書(乙第二二号証の三)により中間物の製造方法のみに限定し、更に昭和四六年六月一四日付手続補正書(乙第二二号証の四)によりクリームの製造方法のみに変更し、またまた昭和五〇年八月一六日付手続補正書(乙第九号証)により再び中間物の製造方法とクリームの製造方法との二項に変更して、昭和五一年二月二六日に公告された。しかし再び同年一〇月二六日付手続補正書(乙第二二号証の五)によりクリームの製造方法を削除して中間物の製造方法のみに限定すると共に、クリームの製造方法分割出願して本件発明として特許されたという経過がある。
これによれば、本件発明は、甲発明の目的物である原料油脂中に両乳化剤を添加、均一に分散させて得られる乳化性油脂組成物だけを中間物とするクリーム状油脂組成物の製造法に関する発明であることは明らかであるが、右甲発明の目的物にして本件発明の出発物である乳化性油脂組成物がそのように、原料油脂中に両乳化剤を添加、均一に分散させて得られる乳化性油脂組成物に限定されることは、右甲発明の特許請求の範囲の記載に明らかであるばかりでなく、右出願過程において原告が提出した以下の書面によつても明らかである。
たとえば、拒絶理由通知に対する原告の昭和四五年六月一六日付意見書(乙第一八号証)には、(1)「本方法は、反対に油にレシチンとシユガーエステルとを加えて溶解するもので、使用に当つてはその油(レシチン等含有)に水分(乳)を加えて水中油型エマルジヨンとするものである。」(一頁八行ないし一一行目)、
(2)「本発明では油にレシチンとシユガーエステルとを先づ混合するから後で水中油型にしてもその起泡性が優れているのである。」(一頁一六行ないし一八行目)、
(3)「この結果から本件のように特定割合で脂肪にレシチン及びシユガーエステルを加えることが必須であることが判る。」(五頁九行ないし一一行目)、(4)「(実験)Hは乳化剤を水に分解又は溶解させたもので、乳化剤は適当量でも添加方法が異なると、ホイツプ性のあるクリームにならなかつた。」(七頁一六行ないし一八行目)と記載され、また、拒絶理由通知に対する原告の昭和四五年一二月二一日付意見書(乙第一九号証)には、「本願のようにレシチンとシユガーエステルとの使用量がそれぞれ〇・二〜三・五%/油及び〇・一〜二・五%/油の各範囲内で、而も之等を先づ油に組み合わされないかぎり起泡性が得られない。」(五頁四行ないし七行目)と記載されている。そのほかにも、原告は出願の手続過程で同種のことを述べている。
(三) もつとも、甲発明の公報(甲第二号証)第九欄三六行ないし四〇行目には「この後者の製品では勿論両乳化剤が組成物中で油脂に対し一定の割合で分散又は溶解していることだけが重要であり、両種乳化剤が原始的に原料油脂中に存在することを必要としない。」という記載がある。
しかし、かかる記載は前掲原始明細書には記載がないばかりか、甲発明の分割である本件発明の公報からはわざわざ削除されている。
また、右記載は要旨変更であるとの異議申立人の主張に対して、原告は昭和五二年五月二八日付答弁書(乙第一一号証)において、「昭和五二年一〇月二六日(実際は五一年一〇月二六日)付手続補正書を以て公報明細書第九欄三〇〜四二行及び特許請求の範囲第(2)項の記載を削除した。従つて要旨変更を云々する本項の主張に対し格別弁論する必要性は消滅したものと愚考する。」(四六頁一二行ないし一六行目)を述べ、別の異議申立に対する昭和五二年五月二三日付特許異議答弁及び証拠補充書(乙第一四号証の一部)において「出願人は既述の如く本願公報「特許請求の範囲」第(2)項を削除したので、申立人の指摘する部分は本願の要旨と関係がない(本願の要旨は原料油脂に一定の量的範囲のLE及びSEを含ませることだけである)。即ち、該部分は要旨外の任意的付記的事項として挿入されているだけである。従つてそれが要旨変更の疑問を生じることもあり得ない。」(二七頁一八行ないし二八頁七行目)と述べている。更に、異議申立人の「原始的云々」の記載が「明細書の記載に不備な点があるため、特許法第36条第4項及び第五項の規定により特許を受けることができない」との主張に対する昭和五四年二月一日付決定は「さらに、発明の詳細な説明中に一部不適切な記載があるとしても、本願特許請求の範囲が前記のとおり補正されたこととも関連して、明細書全体の記載をみれば、格別本願発明の要旨を不明確にするものとは認められない」と認定して異議申立は理由がないと決定している。また、右と同様の異議申立に対する同日付の他の決定においても「また本願公報第九欄三九―四二行の記載は、本願特許請求の範囲が前記のように補正されたこととも関連して、本願明細書全体の記載をみれば格別本願発明の要旨を不明確にする記載とも認められない」と認定している。これは甲発明の請求の範囲が、補正により、油脂中にレシチンとシユガーエステルの双方を添加、分散させるクリーム状油脂組成物を製造するための乳化性油脂組成物の製造法に限定され、クリームの製造法である第二項を削除したからであつて、「原始的云々」の記載は、甲発明においては不適切なもの或いは邪魔にならないが無意味なものと判断されているのである。
したがつて、本件発明の技術的範囲の認定に右「原始的云々」の記載は何ら影響を及ぼすものではない。
4 本件発明と被告方法とを比較すると、被告方法は、原材料として上融離点五度C以上の食用油脂、油脂に対し約〇・六六六%のレシチン、油脂に対するものに換算すると約〇・四九%のシユガーエステル、脱脂乳その他の必要とする原材料を含む水溶液を使用している。したがつて、その材料中には本件発明に規定するレシチン、シユガーエステルが含まれている。
しかし、本件発明と被告方法とは、クリーム状油脂組成物の製造方法としてみると、両者は明確に相違している。すなわち、本件発明においては油脂に対し双方の乳化剤を添加してまず乳化性油脂組成物を造り、その乳化性油脂組成物に水相を添加して乳化するのに対し、被告方法においては、油脂に対し親油性のレシチンを加えて油相を調整し、それとは別に水溶液に対し親水性のシユガーエステルを加えて水相を調整し、最後に水相に対し油相を加えて乳化するのであるから、被告方法は本件発明と均等でないことは明らかである。
5 被告方法は本件発明とは技術思想を異にし、しかも、被告方法は本件発明の技術的範囲には包含されないものであるから、仮に被告方法が本件発明から発明力を要することなく容易に実施できたとしても被告方法をもつて本件発明と均等ということはできない。
6 原告が甲発明の出願過程において本件発明が原料油脂中に両乳化剤を添加するものに限定されていることを再三にわたり明言していることは前記3記載のとおりであり、また甲発明の出願中前後七回にわたる補正が行われ、試行錯誤の末要旨変更の非難を免かれるため最終的にはクリームの製造方法を削除して中間物の製造方法のみに止めたこと及び分割出願した本件発明の明細書には「原始的云々」の字句を除いたことから見れば、原告が本件発明及び甲発明は原料油脂中に両乳化剤を添加するものに意識的に限定したものであることが明白である。このように原告が出願の際意識的に限定したものに均等理論を適用してその技術的範囲拡張せんとすることは許されない。
7 甲発明は、その出願中に提出した意見書及び答弁書において、油脂中にレシチンとシユガーエステルとの双方の乳化剤を加えることが必須である旨を明記しているのであるから、甲発明の分割である本件発明において、水相と油相とに別々に乳化剤を加える被告方法が均等であるという原告の主張は禁反言の法理からしても許されない。
因みにそのように「油脂中に両乳化剤を添加、分散させて」得られる乳化性油脂組成物(甲発明目的物)に限定してクリーム状油脂組成物製造用の中間物を得ることは、乳業・油脂両メーカーにとつて極めて重要な意味があり、右限定にはそれなりの理由が存するのである。すなわち、乳業メーカーが自社技術のみでクリーム状油脂組成物を製造しようとすると、その本来の業務と関係のなかつた油脂の乳化のための技術・設備の研究開発を要するが、甲発明の目的物の如き中間物を入手できれば、既存の技術・設備を利用して簡単にこれを製造し得るし、他方油脂メーカーからすれば、乳化性油脂組成物の製造は本来の業務に属するばかりでなく、単なる原料油脂の製造に比べ付加価値を高めて有利に販売し得る。しかもこの中間物はクリーム状油脂組成物に比べて極めて保存性経済性に富む利点がある。果たして、甲発明目的物(中間物)は昭和四〇年頃から現在まで「ベースオイル」の商品名で販売取引され、その需要が絶えないのである。
四 原告の反論1 乳化剤としてレシチンとシユガーエステルを併用したクリーム状組成物は、甲及び本件発明出願時未知の物であつた。甲発明も本件発明も、いずれも、まさに産業上利用することができる新規で進歩性のある発明であり、特許要件を具備した瑕疵のない完全な発明である。被告の引用する乙第一ないし第七号証は、いずれも乳化剤としてシユガーエステルとレシチンを併用したクリーム状組成物の技術には全然触れていないから、何ら被告の主張を裏づけるものではない。
2 乙第一八号証の被告の主張する部分中の実験Hは、乳化剤を水に分散又は溶解させたものと油脂とを乳化させたものであつて乳固型を欠くから本件発明の対象ではなく、したがつて本件発明の実験例とはいえないものである。したがつて、かかる誤つた実験に基づく主張は甲発明及び本件発明の本質に対しいかなる影響をも与えるものではないし、この瑕疵は右両発明が特許されたことにより既に治ゆされている(なお、水を用いてなした実験に基づく主張部分は意見書において取消されている)。また、乙第一九号証の被告の主張する部分も、乙第一八号証の誤つた実験に基づく結論であり、信憑に値しない。
3 甲発明の明細書中の「両種乳化剤が組成物中で油脂に対し一定の割合で分散又は溶解していることだけが重要であり、両種乳化剤が原始的に原料油脂中に存在することを必要としない」との記載の趣旨は、甲発明の出願当初の明細書(乙第八号証)にみられる。すなわち、右明細書には「発明者等は油脂、無脂乳固型、水或いは油脂と牛乳との乳化について種々研究した結果、適当な融点範囲の油脂と食用非イオン活性剤とを組合せて水中油型のエマルジヨンを作り、これをそのまま攪拌してもホイツプ性は良好であり」(二頁二行目以降)、「レシチンとシユガーエステルを組合せることにより、著しく改良される事を見出した。」(四頁九行目以降)との各記載があり、右記載は、ホイツプ性の良好な水中油型エマルジヨンを作るために適当な融点範囲の油脂と乳化剤としてレシチンとシユガーエステルとを組合せ使用すれば良いことを発明者が明瞭に意識していたことを示すものであつて、発明の本質がレシチンとシユガーエステルの併用にあることを物語つている。
また、本件発明の公報中には前記「原始的云々」の記載がないものの、甲発明の明細書中の右記載は当然のことを念のために揚げたまでのことであり、本件発明出願分割に際し公報に右当然のことを転記しなかつたからといつて、本件発明では「両種乳化剤が組成物中に油脂に対し一定の割合で分散又は溶解していることだけが重要」であることを否定する趣旨でもなければ、「両種乳化剤が原始的に原料油脂中に存在することを必要」とする趣旨でもない。このことは、本件公報中の各所に、乳化剤としてレシチンとシユガーエステルを併用した場合に限り、油脂と乳固形分を含む水溶液とが安定なO/W型(水中油型)液状乳化物を形成し、この乳化物によつて実用的な合成クリームが得られる旨を強調している事実(例えば、公報の第四欄一二行目以下、第八欄九行目以下、第九欄二七行目以下、第一〇欄四一行目以下等)によつて明らかである。
4 各異議申立人に対する原告の各答弁書(乙第一一、一四、二〇、二一号証)においても、甲及び本件発明の最終目的物質であるクリーム状油脂組成物を製造するに際して、レシチンとシユガーエステルの両種乳化剤を油脂中に添加しなければならないとする明確な記載はどこにも見当たらない。逆に、右各答弁書の記載に注目すれば、原告は、発明の本質が両乳化剤の添加手段に関しないものであることを明確に述べている。例えば(一)「但し、申立人の行つた添加方法(2)及び(3)による合成クリームが本願発明に基づく特許権の効力に抵触するや否やの問題は本審と全く関係のない問題であることを蛇足ながら付記する。」(乙第一四号証のうち昭和五二年五月二三日付特許異議答弁及び証拠補充書二四頁一行ないし四行目)、(二)「かつ、申立人自ら申立書第11項で主張する通り、乳化物の製造に際し乳化剤をどのようにして添加するかは自明の選択的事項である」(同証、二八頁五行ないし七行目)、(三)「実際にクリーム状乳化物を製造するための種々の具体的添加手段の実施が本願発明に基づく特許権の効力範囲に属するや否やの判断は当審の対象ではないので、以上蛇足ながら注記するものである。」(乙第二〇号証、三三頁終行ないし三四頁五行)、(四)「但し本願油脂組成物に係る発明の技術的範囲が、乳化剤の添加方法如何を問わないものであるか否かは既に述べた如く本審とは関係のない発明の技術的範囲認定上の問題である」(同証、三八頁一七行ないし三九頁一行目)、(五)「そしてこの乳化性油脂を使う代わりに例えば牛乳中に予めLEとSEを添加したものに油脂を加え乳化する合成クリーム製造法が本願発明の技術的範囲外に属するや否やの問題は本審判と全く関連のない発明の技術的範囲の解釈に関する問題である。」(乙第二一号証、一八頁一一行ないし一六行目)、(六)「なお、特許発明技術的範囲の解釈上不完全に発明を実施した場合、即ち、例えば油脂と牛乳の混合物に直接LEとSEを添加したり、或いは、予め油脂にLEを、牛乳にSEを夫々混合しておき一挙に乳化するような手段の採用が発明の技術的範囲外に属するや否やの問題の判断が専ら裁判所の管轄に属し、当審の所管外であることは既に本書前項中論じた通りである」(同証、二一頁一〇行ないし一八行目)の各記載にみられるように、原告は、両種乳化剤の添加手段が本件発明の技術的思想に全く関係のないものであり、自明の選択的事項であることを明確に陳述している。
5 甲発明の審理過程中異議の決定理由中の「さらに、発明の詳細な説明中に一部不適切な記載があるとしても、本願特許請求の範囲が前記のとおり補正されたこととも関連して、明細書全体の記載をみれば、格別本願発明の要旨を不明確にするものとは認められない。」という認定事項は、発明の詳細な説明中仮に異議申立人主張のとおり一部不適切な記載があるとしても、クレームが補正されたのであるから、もはやこの点について審究するまでもなく不明確ではない、と判断したことを意味するにとどまり、それ以上の意味を有するものではない。すなわち、発明の詳細な説明中に一部不適切な記載があるとの見解は異議申立人の単なる主張であつたにすぎず、審判官の判断ではなく、被告の主張には何の根拠もない。
6 禁反言は、甲が乙の表示を信じ、これに基づいて自己の地位を変更したときは、乙は後になつて自己の表示が真実に反していたことを理由としてそれをひるがえすことができないという原則である。これを本件についていえば、もし出願人が誤つた主張をし、特許庁が出願人の主張を信じて特許異議の決定及び特許査定をしたのであるならば、後になつて出願人(特許権者)は、第三者に対し、出願中の右の主張に反する主張をすることは禁反言の原則によつて許されないかもしれない。
しかし、本件においては、出願人は、一時は本件発明の本質から離れた誤つた実験の結果を信じて、錯誤により間違つた主張をしたが、後に本件発明に係る拒絶査定に対する審判の過程においてその誤りに気づき、明示的に右間違つた主張を撤回した。そのため、右撤回された主張は特許庁の特許異議の決定及び特許査定には何らの影響も及ぼさなかつたのである。ゆえに、本件においては禁反言則適用の余地は全くない。
五 被告の再反論 原告主張4(一)(三)(四)(五)(六)の各記載は、ただ本願発明の油脂中に両乳化剤を添加する方法と異なつた添加方法例えば両乳化剤の双方又は一方を水相中に添加する等の方法が本願発明に基づく特許権の技術的範囲に属するや否やは当審には関係がないと述べているだけであつて、被告としては逆に、甲発明が原料油脂中に両乳化剤を添加するものに限定されるものであることを明確にしたものと解されるのである。特に(三)の乙第二〇号証三三頁の記載の前には「本願発明は油脂中にLEとSEを一定量添加して乳加性油脂を製造する点にのみ限定されており」(同頁一八行ないし二〇行目)の記載があり、また、(五)の乙第二一号証一八頁の記載の前には「申立人が主張する乳化剤を油中に添加するか水相中に添加するかに関する議論は最早本申立の主題とはなり得ない。何故なら公報第(2)発明が昨年一〇月二六日付の手続補正書により削除された結果、本願発明の対象が第(1)発明たる乳化性油脂の製造法に限定されたからである。」(同頁五行ないし一一行目)との記載があることからも然りである。
なお、(二)の乙第一四号証のうちの昭和五二年五月二三日付特許異議答弁及び証拠補充書五行ないし七行目の記載は、訴外協同乳業株式会社の特許異議申立理由及び証拠方法補正書(乙第一三号証の一部)第一一項(八頁三行ないし一一頁三行目)に対する答弁で、同異議申立人が両乳化剤の添加方法を変えて実験を行つた結果、乳化剤の添加、溶解方法による品質の差は全くみられなかつたと主張したのに対して答えたにすぎず、本件発明の添加手段如何に関しては意味がないのである。
証拠(省略)
理 由一 請求原因1の事実(原告が本件特許権を有すること)は当事者間に争いがなく、右争いのない本件発明の「特許請求の範囲」の記載、成立に争いのない甲第三号証(本件発明の特許公報、別添特許公報に同じ。なお公告後に別添のとおり補正されており補正されたものを「本件公報」という)によれば、本件発明の構成要件は請求原因2(一)のとおりに分説しうること及び本件発明が同(二)記載の作用効果を有することが肯認される(請求原因2(一)の構成要件分説の点は被告の認めるところである)。
二 請求原因3の事実(被告が昭和五五年一二月以来、被告方法を使用して業として被告製品を製造、販売し、又は販売のため展示していること)は当事者間に争いがなく、右争いのない別紙目録の被告方法の記載によれば、請求原因4(一)のとおり分説するのが相当である(この点は被告の認めるところである)。
三 そこで、被告方法が本件発明の技術的範囲に属するか否かについて検討する。
被告方法は、油脂に対して乳化剤として約〇・六六六%のレシチンと約〇・二二二%のモノグリセライドを加え溶解して油相を調整し(構成(1)′)、別に脱脂粉乳溶解機を作動させて、水・脱脂粉乳その他の必要とする原材料よりなる水相に対し〇・四%(前記油脂に対し約〇・四九%)のシユガーエステルと〇・一四五%のリン酸塩とを仕込み、攪拌しながら、加熱して六五度Cの水相を調整し(構成(2)′)、この(2)′の水相を加熱して攪拌しながら、これに(1)′の油相を加え、高速攪拌して予備乳化する(構成(3)′)のに対し、本件発明は、油脂に対し、それぞれレシチン〇・二〜三・五%シユガーエステル〇・一〜二・五%を添加し(構成要件(1))、均一に分散させて得られる乳化性油脂組成物に(同(2))、牛乳、脱脂乳を添加乳化する(同(3))ものであつて、両者が相違していることは明らかである。
四 そこで、原告は両者が相違していることを前提として、被告方法と本件発明とのレシチン、シユガーエステルの両乳化剤の添加方法の相違は、単なる設計上の微差にすぎず、両者は均等であると主張する。
しかしながら、本件発明の特許請求の範囲及び本件公報に記載されたところを、
甲及び本件発明の出願経過等に照らして考えてみると、原告は本件発明についても、両乳化剤の添加方法を特許請求の範囲に記載された方法に意識的に限定したものと認めるのが相当であり、かかる場合に均等論を適用することは許されないから、結局原告の右主張は採用できない、すなわち、
1 本件公報(甲第三号証、成立に争いのない甲第四号証)の記載をみてみるに、
特許請求の範囲は「……食用油脂中に……レシチン……、シユガーエステルを……添加、均一に分散させて得られる乳化性油脂組成物に牛乳、脱脂乳……を添加乳化し……」(横点は裁判所が付記した)であり、その発明の詳細な説明中にも「本発明は敢然生クリームに代替し又はそれを混用しうる液状クリーム状組成物(合成クリーム)の開発を目指し組織的な研究を試みた結果、意外にも乳化剤としてレシチンとシユガーエステルを併用した場合に限り、油脂と牛乳、脱脂乳等の乳固形分を含む水溶液とが安定なO/W型液状乳化物を形成し」(第四欄一二行ないし一九行)たとしながらも、該知見に至る実験結果の摘録(二頁下段ないし四頁上段)をみると、その方法(実験操作)としては、ただ「乳化剤を所定量(同第一表掲記の対油添加量を指すものと解する)溶解した油脂組成物を四五%、原乳五〇%の割に配合し」(四頁上段)た方法のみを開示し、更に「両乳化剤の量はそれぞれ対油脂〇・二〜三・五%(重量)及び〇・一〜二・五%(重量)の範囲内でなければならない。」(第九欄二九行ないし三一行目)、「本発明を実施するには、上昇融点(rp)五℃以上の油を必要に応じ加熱しながらこれに所定量の両乳化剤を加え攪拌、分散させ、乳化性油脂組成物を作る。」(第一〇欄二八行ないし三一行目)、
「以上の如くして得た乳化性油脂組成物を牛乳又は脱脂乳(又は乳固形分と水)と混合、乳化後」(第一〇欄三五、三六行目)、「実施例 硬化大豆油(上昇融点三五℃)一〇〇部を六〇〜七〇℃加熱しつつ、これに精製大豆レシチン一・五部及びシユガーエステル〇・四部を加え、攪拌して溶解、分散させ、乳化性油脂組成物を得る。以上の乳化性油脂組成物五〇部と原乳又は脱脂乳五〇部とを混合乳化後」(第一一欄七行ないし一三行目)との各記載がみられ、被告方法の記載若しくはそれを示唆する文言はみあたらない。
2(一) 本件発明の出願から査定の経過が被告主張3(二)掲記のとおりであることは明らかに争いのないところであるが、その原出願(昭和四二年三月一一日出願)の特許請求の範囲は「上昇融点約五℃上の各種天然及び合成動植物性の油脂に対してレシチンを約〇・二〜三・五%シユガーエステルを約〇・一〜二・五%の範囲内で両者を組合せて添加することを特徴とする生クリーム用油脂の製造法」であつた(成立に争いのない乙第八号証)。
(二) 原告は昭和五〇年八月一六日付手続補正書で全文補正し、特許請求の範囲を「(1)上昇融点五℃以上の食用油脂中に該油脂に対しそれぞれレシチンを〇・二〜三・五%、シユガーエステルを〇・一〜二・五%添加、均一に分散させることを特徴とするクリーム状乳化油脂組成物の製造に適した乳化性油脂組成物の製造法。(2)上昇融点五℃以上の食用油脂中に該油脂に対しそれぞれレシチンを〇・二〜三・五%、シユガーエステルを〇・一〜二・五%添加、均一に分散させて得られる乳化性油脂組成物に牛乳、脱脂乳(又は乳固形分若しくは脱脂乳固形分を含む水溶液)を添加乳化し水中油型エマルジヨンとすることを特徴とするクリーム状乳化油脂組成物の製造法。」と改め、詳細な説明中に、「この後者の製品では勿論両種乳化剤が組成物中で油脂に対し一定の割合で分散又は溶解していることだけが重要であり、両種乳化剤が原始的に原料油脂中に存在することを必要としない。」(以下「原始的云々)の記載という)との文言を新たに加えた(成立に争いのない乙第九号証)。
(三)右出願は昭和五一年二月二六日公告された(成立に争いのない甲第二八号証)ものの、特許異議申立がなされたため原告は昭和五一年一〇月二六日付手続補正書で特許請求の範囲第二項を削除し(成立に争いのない乙第二二号証の五)、右第二項を本件発明として分割出願したが、「原始的云々」の記載は本件発明の公報からは除かれている(甲第三号証)。
3 また、原告は拒絶理由通知に対する昭和四五年六月一六日付意見書(成立に争いのない乙第一八号証)の中で特公昭四〇―五〇六〇号公報との差異を強調して、
「本方法は、反対に油にレシチンとシユガーエステルとを加えて溶解するもので、
使用に当つてはその油(レシチン等含有)に水分(乳)を加えて水中油型エマルジヨンとするものである」(一頁八行ないし一一行目)等油にレシチンとシユガーエステルをまず添加することを強調し、油に両乳化剤を添加した場合と水に添加した場合との実験を比較して本件発明の効果を裏付けている。
更に、拒絶理由通知に対する昭和四五年一二月二一日付意見書(成立に争いのない乙第一九号証)の中でも、「本願のようにレシチンとシユガーエステルとの使用量がそれぞれ〇・二〜三・五%/油及び〇・一〜二・五%/油の各範囲内で而も之等を先ず油に組み合わされないかぎり起泡性が得られない」(五頁四行ないし七行目)と記載している。
(なお、原告は昭和五二年五月二三日付特許異議答弁及び証拠補充書(成立に争いのない甲第二四号証、同乙第二〇号証)の中で「当時出願人の特許実務に関する理解が不充分であつたため、引用文献であつた特公昭四〇―五〇六〇号の内容につき要素の錯誤があり、誤つた理解に基き実験を為したが故である。よつて出願人は申立人の御指摘に従い、前記意見書(注、昭和四五年六月一六日付意見書)中水を用いてした実験結果に基く主張部分を取り消す」(三二頁六行ないし一二行目)と主張している。しかし、右意見書は拒絶理由通知に対するものであり、取消す旨の主張は公告後であるから時機に失したきらいがなくはないが、原告の右意見書提出当時の意思解釈としては参しやくすることができるというべきである。)4 更に各異議申立人の異議に対する答弁書中にも、
「(本願の要旨は原料油脂中に一定の量的範囲のLE及びSEを含ませることだけである)」(成立に争いのない乙第一四号証の昭和五二年五月二三日付特許異議答弁書及び証拠補充書、二七頁二〇行ないし二八頁二行目)、「但し、本願発明は油脂中にLEとSEを一定量添加して乳化性油脂製造する点にのみ限定されており」(乙第二〇号証、三三頁一八行ないし二〇行目、甲第二四号証、三三頁一八行ないし二〇行目)「本願発明の骨子は牛乳と乳化したとき生クリームに比肩しうる程の起泡性及び/又はコーヒー分散性を有する合成クリームを与えるような乳化性油脂を収得する目的で上昇融点五℃以上の油脂中に一定量的範囲内のLEとSEを配合する点に在り、就中特に枢要であるのは上記目的に関し油脂に対しLEとSEを配合することそれ自体である」(成立に争いのない乙第二一号証、一六頁一七行ないし二〇行目、一七頁一行ないし五行目)との各記載がみられる。
5 以上のとおり、出願人である原告は本件発明の特許請求の範囲(それは、前記分割前の甲発明のクレーム第二項であるが)に油脂中にレシチンとシユガーエステルを添加することを明記する一方で、詳細な説明中には油脂に両乳化剤を添加する方法のみを記載し、かつ分割前甲発明のクレーム第二項にかかわると思われる「原始的云々」の記載を除外しているばかりか、後に取消す旨を主張しているとはいえ意見書及び異議答弁書においても油脂に対し両乳化剤を添加することを強調していることに、前記本件発明の出願から査定の経過を総合すると、原告は本件発明を原料油脂中に両乳化剤を添加、均一に分散させて得られる乳化性油脂組成物(甲発明目的物)に牛乳、脱脂乳(又は固形分若しくは脱脂乳固形分を含む水溶液)を添加乳化する手段に意識的に限定したものというべきである。
6 原告は「原始的云々」の記載の趣旨は原始明細書にもみられ、また本件公報に記載のないのは当然のことなので記載しなかつたものであると主張している。
しかし、原始明細書(乙第八号証)あるいは本件公報(甲第三号証)の中に乳化剤としてレシチンとシユガーエステルを併用することに力点をおいた記載がみられるものの、右記載が乳化剤の添加方法につきいかなる手段をも示唆するものということはできず、したがつて、両乳化剤を油脂に添加する以外の方法を示唆する「原始的云々」の記載が原始明細書にみられるとか、特許請求の範囲を無視して、「原始的云々」の記載が当然のことであるとかいうことはできず、原告の右主張は採用できない。
のみならず、仮に「原始的云々」の記載の思想が原始明細書に開示せられ、又それが当業者の容易に相到し得るところであつたとしても、前記のとおり原告が本件発明の分割に当り、とくに本件特許に関しその明細書の記載から削除したことが本件特許請求の範囲につき意識的限定解釈を容れる重要な要素となつている本件においては、もはや原告は今更そのことを援用して本件特許の保護範囲をそこにまで及ぼすことはなし得ないものといわざるを得ない。
7 また、原告は両乳化剤の添加手段は発明の本質に関しないものであることを述べているとして原告の主張4の各答弁書の記載を引用し、前記乙第一四号証、乙第二〇号証、乙第二一号証によれば、各答弁書中に原告主張の記載のあることが認められるものの、右各記載は異議申立人の、水に両乳化剤を添加したり、レシチンを油脂にシユガーエステルを水中に添加したりしても油脂に両乳化剤を添加した場合と効果に変わりはないとの主張に対し、添加方法は特許請求の範囲に明確に記載されているので、
他の添加方法について異議答弁書で触れる必要はないとの趣旨を明確にしたにとどまるものと認めるのが相当であつて、かかる記載をもつて両乳化剤の添加手段が本件発明の本質に関しないものであるとはいえず、したがつて原告の右主張は採用できない。
五 よつて、原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。
追加
目録(1)上昇融点五度C以上の食用油脂を六五度Cないし七〇度Cに加熱攪拌しながら、該油脂に対して乳化剤として約〇・六六六%のレシチンと約〇・二二二%のモノグリセライドを加え溶解して油相を調整し、(2)この油相の調整とは別に脱脂粉乳溶解機を作動させて、水・脱脂粉乳その他の必要とする原材料よりなる水相に対し〇・四%(前記油脂に対し約〇・四九%)のシユガーエステルと〇・一四五%のリン酸とを仕込み、攪拌しながら加熱して六五度Cの水相を調整し、(3)この(2)の水相を加熱して攪拌しながら、これに(1)の油相を加え、高速攪拌して予備乳化し、(4)その後常法に従つて均質化した後、滅菌及び冷却して、クリーム状油脂組成物とする方法特許公報特許出願公告昭五五―四三七三九公告昭和五五年(一九八〇)一一月七日クリーム状油脂組成物の製造法特願昭五一―一二七八〇〇出願昭四二(一九六七)三月一一日特願昭四二―一五二五〇の分割発明者【A】和泉市<以下略>発明者【B】枚方市<以下略>発明者【C】豊中市<以下略>出願人不二製油株式会社大阪市<以下略>代理人弁理士【D】発明の詳細な説明本発明はクリーム状油脂組成物、殊に油脂と牛乳、脱脂乳又は乳固形分を含む水及び乳化剤を必須の要素として含み、攪拌により空気を抱きこんだ安定な泡状体を形成するか又は/及びコーヒー中に容易に分散可能な安定な水中油型液状油脂組成物を製造する方法に関するものである。
生クリームは牛乳を遠心分離して得られる天然の油脂組成物である。
このものは普通四〇%前後の乳脂肪を含み、共存する乳蛋白質の複雑な天然成分の相乗的効果によつて安定なO/W型エマルジヨンを形成している。したがつて、これはそのままコーヒー用クリームとして最高のものであるのみでなく、また攪き混ぜたとき適当に空気を抱きこむ性質を持つているので、ホイツプドトツピング用材料として風味的に最も優れたものである。しかしながら、生クリームは高価であるのみならず、原料である牛乳の採取時期、乳牛に与えた飼料の種類や品質及び牛乳を生クリームに加工する際の処理条件の相違など多くの要因によつてその品質に甚だしい振れを生じることが知られている。これらの要因とクリームの品質との相関は未だ殆んど解明されておらず、また採取時期の如く人工的には解決できないものもあるので、かかる振れを人為的に規制して一定の品質の生クリームを得るのは至難である。さらに一般的に云つて、生クリームを起泡させて得られる泡状体(トツピング)の物性は稍々軟弱で、これを用いて行つたデコレーシヨン(造花)が比較的に短時間内に変形する(業界でこれを「ダレる」という)ことが多い。
以上の生クリームに比し、食用油脂と水を界面活性剤を用いてO/W型に乳化して得られるエマルジヨン(イミテーシヨンクリーム)は生クリームに比し揺かに安価であり、かつ原料油脂と乳化剤との選択によつて、一定かつ任意の品質のものが得られ、さらにこの際生クリーム乳固型、牛乳、脱脂乳などの乳成分を添加することによつて風味の優れた実用的なクリーム様製品を収得できる可能性がある。
ところが、天然生クリーム中の乳化剤成分は極めて複雑であつて、人工の乳化剤で生クリーム類似の物性を再現しようとしても、容易には好ましい結果が得られない。また或る場合(例えばプロピレングリコール脂肪酸エステルと脂肪酸モノグリセライドを併用した場合)には一応良好な製品が得られるが、生クリームと混合すると奇妙にも特性が劣化する。特に、本邦で好まれる油分四〇〜五〇%程度の高油分クリーム様製品の場合、上述の状況は殊に真である。
恐らく以上の理由により、従来における乳化油脂組成物の研究は主としてシヨートニング、マーガリンの如き塑性油脂組成物に指向され、クリーム状の液状油脂組成物の研究には殆んど見るべきものがなかつた。例えば、米国特許第三〇九三四八一号は実質上乳化力及び界面活性を有しない蔗糖脂肪酸オリゴエステルを用いるシヨートニング等の可塑性油脂組成物のクリーミング性の改良について記載し、また川俣氏等(ニユーフードインダストリー四巻一二号二五〜三一頁(一九六二))は、シユガーエステル(蔗糖脂肪酸モノー又はジエステル)によるスポンジケーキなどの菓子類の品質改良効果について述べているが、本発明者の指向する水中油型のクリーム状油脂組成物については全く触れていない。さらに、昭和四〇年特許出願公告第五〇六〇号は油分含量五〇〜九〇%の水中油型エマルジヨンを得んがため、親油性乳化剤としてのグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン若しくはソルビツト脂肪酸エステル又はレシチン等の親水性乳化剤としての脂肪酸アルカリ塩又はシヨ糖脂肪酸エステル等の併用並びに当該乳化剤を分散又は溶解した水相中への油脂の添加を開示する。しかるに、本発明者が実際に同発明公報実施例三を追試した結果によると、グリセリン脂肪酸エステル(モノグリ)、ソルビタン脂肪酸エステル、ステアリン酸ナトリウム及びプロピレングリコールの組み合わせの中、プロピレングリコールは省略可能であるがステアリン酸カルシウムを省くとモノグリが凝固してしまつて実施不能となり、この点はステアリン酸カルシウムに代え、蔗糖脂肪酸エステルを用いても同様であつた。この結果を同公報の他の実施例でも共通してステアリン酸ナトリウムを併用している事実と併せ考えると、本発明は実質的に脂肪酸アルカリの併用を要件とするものと判断される。しかるに脂肪酸アルカリ、
即ち石鹸は食品添加物として許可されているものではないので、実用的には石鹸を使用しないで安定な乳化物を得る手段が開発されなければならない。しかし乍ら、
これら合成クリームを開発するに際し、最も問題となるのはその起泡性、殊に保型性の維持である。けだし天然クリームの起泡性には脂肪球を包囲する複雑な組成の薄膜と水相中に存在する蛋白質、糖類、非蛋白態窒素化合物等の複雑な成分との相互作用が干与していると考えられるだけに牛乳中に存在しない人工物質によつてその物性の再現を期待するのは非常に困難ないし無理と考えなければならない。
しかるに、本発明は敢然生クリームに代替し又はそれと混用しうる液状クリーム状組成物(合成クリーム)の開発を目指し組織的な研究を試みた結果、意外にも乳化剤としてレシチンとシユガーエステル(蔗糖のモノ―又はジ―高級脂肪酸エステル)を併用した場合に限り、油脂と牛乳、脱脂乳等の乳固形分を含む水溶液とが安定なO/W型液状乳化物を形成し、この乳化物はトツピングクリーム又はコーヒー用クリームとして平均的な生クリームに比し遜色のない―場合によつてはそれに優る―実用的な合成クリームが得られることを見出した。下表(第1表)はこの知見を得るに当り発明者等の行つた代表的な実験結果を摘録したものである。
第1表<12453-001><12453-002><12453-003>第1表の注油脂:植物性油脂I・V・五〇、ケン化価二〇五、酸価〇・〇八、融点(r・p)三二℃レシチン:昭和産業製大豆レシチンシユガーエステル:ニツトーエステル一〇〇五混合乳化剤:ニツトエステルSPモノグリセライド:M―一八〇〇(グリセロールモノステアレート)プロピレングリコールエステル:プロピレングリコール脂肪酸エステル(リケマールPS―一〇〇)ソルビタンエステル:ソルビタン脂肪酸エステル(スパン六〇)操作:乳化剤を所定量溶解した油脂組成物を四五%、原乳五〇%の割に配合し、ホモミキサーを用い七〇℃、一五分間予備乳化後、ホモゲナイザーにより八〇kg/cm2の圧力で本乳化し、乳化状態を検する。次いで七〇℃で一〇分間滅菌後直ちに一〇℃まで冷却し、冷蔵庫中一晩エージング後、起泡時間、オーバーラン、造花性及び保型性を観測する。
対照:生クリーム(油分四五%)上表が示す如く、レシチン、シユガーエステル、モノグリセライド、プロピレングリコールエステル、ソルビタンエステルからなる既存の代表的な食品用乳化剤の単独使用はいづれも目的上不適当であつた。例えば、レシチンは単独でも上記〇・二〜三・五%/油脂の範囲内で使用すれば一応の起泡性を持つ物が得られるが、製造時粘度が高すぎて作業が困難であるのみならず、生成物のオーバーランが低すぎる(二〇%以下)ため、起泡物は堅く実用にならない(実験一〜四)。また、周知の親油性乳化剤である脂肪酸モノグリセライドも単独で起泡性を与えるが、造花性が非常に悪い。かつ二〇℃、二〇時間放置後の保型性が極めて悪く、しかも離水現象を生じる(実験一一)。プロピレングリコール脂肪酸エステルはかなり良好な起泡性と造花性を与えるが、保型性が極めて悪く、かつ乳化物の粘度が極度に高いので作業が困難である(実験一二)。最後に、シユガーエステル単独でも少量添加(対油脂〇・三%)の場合(実験五)を除き、起泡性が全くない(実験六〜八)。
かつ、前者の場合でも造花性は不良である(実験六)。さらに添加量の増加に伴い転相現象を副生するに至る(実験六及び七)。
次に複数乳化剤の併用例について、先づレシチンとプロピレングリコール脂肪酸エステルの組み合わせでは乳化物が固化してしまい、それ以上の実験が不可能となつた(実験一八及び二〇)。脂肪酸モノグリセライドと同じくプロピレングリコールエステルとの組み合わせでは、一応の起泡性乳化物を与えたが、起泡物には保型性が全くない(実験一七)。さらにシユガーエステルと上記グリコールエステルとの併用も起泡性を全く与えなかつた(実験一六)。しかるに驚くべきことに独りレシチンとシユガーエステルとの組み合わせのみが適度の起泡性(オーバーラン)と優れた造花性及び保型性を与えた(実験九)。そしてこの結論は複雑な混合乳化剤(ニツトエステルSP※)を用いた実験によつても傍証された(製品は造花性及び保型性、殊に後者において著しく劣る。実験一五)。
※シユガーエステル、脂肪酸モノグリセライド、d―ソルビトール及びプロピレングリコールから成る製菓用配合乳化剤。
以上は起泡性クリーム状組成物についての実験であるが、同様の結果は起泡性を主眼とせず、むしろ乳化の安定性や媒質中への分散性を重視するコーヒー用クリームについても当てはまる(下記第2表参照)。即ち、シユガーエステル単独では八一℃の熱コーヒー中微かに油分々離(オイルオフ)及びフエザリングを生じ、一〇分後表面に膜状物を生じた(実験二一)。脂肪酸モノグリセライドを併用するとフエザリングは消滅したが、膜の生成は消滅せず(実験二四)、この結果はプロピレングリコール脂肪酸エステルの併用によつても殆んど同じであつた(実験二六)。
混合乳化剤ニツトエステルSPは比較的良好な結果を与えたが、依然として多少膜形成の欠陥を残す(実験二五)。しかるに、レシチンとシユガーエステルの併用のみはオイルオフ、フエザリング、膜形成等一切の欠点が認められず、優れたコーヒー用クリームを与えることが明らかである。
第2表<12453-004>第2表の注コーヒー:市販レギユラー(酸度中等品)シユガーエステル:ニツトエステル一〇〇五(HLB五)レシチン、モノグリセライド、混合乳化剤及びプロピレングリコールエステル:第1表と同じ操作:滅菌条件七五℃、一〇分、ホモゲナイザー圧七〇kg/cm2、冷却前一〇kg/cm2の圧力で再均質化を行つた以外は第1表に同じ。
本発明クリーム状組成物中におけるレシチン及びシユガーエステルの量は組成物に所期の作用効果を与えるため重要である。両乳化剤の量はそれぞれ対油脂〇・二〜三・五%(重量)及び〇・一〜二・五%(重量)の範囲内でなければならない。
即ち、レシチンの量が〇・二%以下では組成物の起泡性が悪くなり、また三・五%以上では起泡物が固くなり過ぎて食感を失う。またシユガーエステルの量が〇・一%以下では起泡物のオーバーラン及び生クリームと混ぜた場合のグレイニングが改善できず、従つて食感も悪い。かつ、コーヒー中への分散も不良となる。一方二・五%以上となると起泡性が悪化する。そして以上の量的範囲内ではトツピング用、
コーヒー用又は両用途兼用型の実用性があるクリーム状油脂組成物が得られる。
因みに、ここに云う″レシチン″とは粗製大豆油又は卵黄等より得られる商業用レシチンを指し、レシチンの他、類似の燐脂質及び油脂などの夾雑物を含むが、勿論純レシチンを用いても構わない。
本発明を実施するには、上昇融点(r・p)五℃以上の油を必要に応じ加熱しながらこれに所定量の両乳化剤を加え攪拌、分散させ、乳化性油脂組成物を作る。この際使用する油脂は前述の如く可食性のものであれば、どのような起源、来歴のものでもよいが、ホイツプ用クリームを得る目的には成るべくr・p一五℃以上のものが望ましい。
以上の如くして得た乳化性油脂組成物を牛乳又は脱脂乳(又は乳固形分と水)と混合、乳化後六〇〜七〇℃で一五分間程度滅菌し、三〇〜一五〇kg/cm2の圧力下にホモゲナイザーに掛け整粒すると良好なホイツプ用又はコーヒー用クリームとなる。
以上述べた如く、本発明は一定の量的範囲におけるレシチンとシユガーエステルの併用が生クリーム類似の乳化油脂組成物に対し生クリームと類似する安定な乳化状態及び適当な起泡性及び/又は分散性を与える事実の発見に基き完成されたもので、生クリームの供給の逼迫が予想される今日、国民の食生活上有意義な発明であると信じる。以下実施例を掲げ本発明実施の態様を述べる。但しこれは単に説明であつて発明の精神を限定するものではない。
実施例硬化大豆油(上昇融点三五℃)一〇〇部を六〇〜七〇℃に加熱しつつ、これに精製大豆レシチン一・五部及びシユガーエステル〇・四部を加え、攪拌して溶解、分散させ、乳化性油脂組成物を得る。
以上の乳化性油脂組成物五〇部と原乳又は脱脂乳五〇部とを混合乳化後(この際所望によりフレーバー、色素、加味剤等を添加してもよい)六〇〜七〇℃で一五分間滅菌し、次いで三〇〜一五〇kg/cm2の圧力でホモゲナイザーを通して均質化後冷却する。かくして得られた起泡性乳化油脂組成物は、そのままでもホイツプ用クリーム又はコーヒー用クリームとして使用できるが、これをさらに生クリームに配合すると、生クリームの起泡性を一層良化させることができる。
特許請求の範囲一上昇融点五℃以上の食用油脂中に該油脂に対しそれぞれレシチンを〇・二〜三・五%、シユガーエステルを〇・一〜二・五%添加、均一に分散させて得られる乳化性油脂組成物に牛乳、脱脂乳(又は乳固形分若しくは脱脂乳固形分を含む水溶液)を添加乳化し水中油型エマルジヨンとすることを特徴とするクリーム状油脂組成物の製造法。
補正の内容(一)明細書第四頁終行(公告公報明細書第三欄一六行)の「ステアリン酸ナトリウム」を「ステアリン酸カリウム」に訂正する。
(二)同書第五頁第二行(公告公報明細書第三欄一八行)の「ステアリン酸カルシウム」を「ステアリン酸カリウム」に訂正する。
(三)同書同頁第四行(公告公報明細書第三欄二〇行)の「ステアリン酸カルシウム」を「ステアリン酸カリウム」に訂正する。
(四)同書同頁第七行(公告公報明細書第三欄二三行)の「ステアリン酸ナトリウム」を「ステアリン酸カリウム」に訂正する。
裁判官 潮久郎
裁判官 紙浦健二
裁判官 徳永幸蔵