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関連審決 審判1992-9151
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審判番号(事件番号) データベース 権利
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平成20行ケ10151審決取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10300審決取消請求事件 判例 特許
平成17ワ2649特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成22行ケ10221審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 特許を受ける権利 /  承継 /  援用権(援用) /  不存在 /  拒絶査定 /  訂正審判 /  請求人適格 /  誤記の訂正 /  変更 /  釈明 /  原告適格 /  代理権 /  職権調査 / 
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事件 平成 5年 (行ケ) 197号
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1994/06/07
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が平成4年審判第9151号事件について平成5年9月1日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告主文と同旨の判決2 被告「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決
請求の原因
1 特許庁における手続の経緯 原告は、名称を「食品の防腐方法」とする発明について、昭和59年2月23日、特許出願をした(昭和59年特許願第31513号、以下「本件特許出願」という。)ところ、平成4年4月22日、拒絶査定を受けた。原告は、上記拒絶査定に対する審判請求書(以下「本件審判請求書」という。)の審判請求人欄を「株式会社上野製薬応用研究所」と誤記したまま、同年5月20日、審判を請求した(以下「本件審判請求」という。)ところ、特許庁は、この請求を平成4年審判第9151号事件として審理した結果、平成5年9月1日、上記請求を却下する、との審決をし、この審決書謄本は、平成5年10月27日、原告訴訟代理人に送達された。
2 審決の理由の要点 本件審判請求書には、審判請求人として「株式会社上野製薬応用研究所」、審判請求代理人として原告訴訟代理人の記載があるところ、本件審判請求は、請求人適格を欠く者からなされた不適法な請求であり、その欠缺は補正することができないから、特許法135条により却下すべきものである。
なお、審判請求代理人は、審判長からの「本願の出願人と本件審判請求人が相違している」点についての求釈明に対し、平成4年9月11日付けの回答書で、「株式会社上野製薬応用研究所」の記載は、「上野製薬株式会社」の誤記である旨回答し、同時に審判請求人を「株式会社上野製薬」と補正した「訂正審判請求書」(案)を提出した。これに対し、審判長は、平成4年10月8日付けの手続補正指令書(方式)で「審判請求人の名称を正確に記載した適正な審判請求書」の提出を求め、併せて「株式会社上野製薬応用研究所の不存在を証明する書類、および上野製薬株式会社の存在を証明する書類」の提出を求めたところ、審判請求代理人は、
平成4年11月19日付けで「株式会社上野製薬応用研究所も存在するため、不存在を証明する書類を提出することはできない」旨の上申書及び登記簿抄本を添付した「審判請求人の名称を上野製薬株式会社と訂正した審判請求書」を提出した。しかし、審判請求人の名称を「株式会社上野製薬応用研究所」から「上野製薬株式会社」に補正することは、前記の上申書の記載からも単なる誤記の訂正とはいえず、
請求人を実質的に変更する補正であり、請求の要旨を変更するものであるから、特許法131条2項に違反し、認めることはできない。
3 審決の取消事由 本件審判請求書の審判請求人欄の「株式会社上野製薬応用研究所」は原告の誤記であることが記録上明白であるのに、補正を許すことなく、本件審判請求を株式会社上野製薬応用研究所がした請求であるとして、これを不適法却下した審決は違法であり、取消しを免れない。すなわち、本件審判請求は、原告の出願に係る本件特許出願に関するものであり、同出願代理人として、原告の原告訴訟代理人に対する委任状が特許庁に提出されていたところ、この委任状における委任事項の範囲は、
本件特許出願の拒絶査定に対する審判請求も含まれているところである。そして、
本件審判請求書には、前記のとおり、審判請求人の名称こそ誤記したものの、特許出願の番号、発明の名称、代理人の住所、氏名が正確に記載されていたのである。
もし、仮に株式会社上野製薬応用研究所が審判請求人であるならば、審判請求代理人の代理権限を称する書面として、上記研究所の原告訴訟代理人宛の委任状が提出されているはずである。しかるに、このような委任状の提出はない。したがって、
以上の関係記録から認められる事実に照らすと、本件審判請求書の審判請求人欄の「株式会社上野製薬応用研究所」なる記載は、原告の名称の誤記であることが一見して明白であるから、本件審判請求の申立人が原告であることに疑問の余地はないというべきである。
しかるに、本件審決は、本件審判請求の申立人を株式会社上野製薬応用研究所であるとして申立人の認定を過った結果、審判請求人適格を欠くとしたものであるから、違法であり取消しを免れない。
請求の原因に対する認否及び被告の主張
請求の原因1のうち、原告が審判請求人の名称を「株式会社上野製薬応用研究所」と誤記して本件審判請求をしたとの点は争うが、その余は認める。同2は認める。同3のうち、本件審判請求が本件特許出願に係るものであることは認めるが、
その余は争う。
本件審判請求は、本件特許出願人であって当該出願の拒絶査定の名宛人である原告又は原告から特許を受ける権利承継した者であるとは認められない請求人「株式会社上野製薬応用研究所」によって請求されたものであり、このことは、上記請求人が、本件審判請求書に記載された住所に実在する法人であって原告とは別人格の法人であることから明らかである。したがって、上記請求人の名称が誤記によるものであるとは認められない。
なお、審判請求人の訂正の適否については、当事者の名称の訂正(更正)という点において共通性を有する特許登録名義人の更正の登録申請手続が参考となるところ、該手続においては、更正の事実を証明することができる書面の添付を必要とする(特許登録令35条、同38条)。しかして、その際に必要な添付書面として、
登録された住所に登録名義人の名称(更正前の名称)と同一の者が存在しなかったことを証明する書面(不存在証明書等)の添付が求められている。してみれば、本件審判請求人の訂正が認められるためには、上記の取扱いに準じて、訂正される請求人の名称に該当するものが存在しないことを要するものと判断するのが相当である。これを本件についてみると、請求人「株式会社上野製薬応用研究所」についてかかる証明書は提出されていないのである。したがって、上記請求人の名称を原告に訂正することは、当事者の変更に当たり、請求人の同一性を害するものであるから、特許法131条2項に違反して許されないものである。
したがって、審決に原告主張の違法はない。
証拠(省略)
理 由1 本件特許出願について、平成4年4月22日、拒絶査定があったこと、上記拒絶査定に対して、原告訴訟代理人から、同年5月20日、審判請求人欄に「株式会社上野製薬応用研究所」と記載した本件審判請求書が提出されたこと、特許庁は、
この請求を平成4年審判第9151号事件として審理した結果、平成5年9月1日、前記の本件審決の理由の要点に記載した理由をもって、本件審判請求を却下する旨の審決をし、この審決書謄本が平成5年10月27日、原告訴訟代理人に送達されたこと、以上の各事実は当事者間に争いがない。
2 上記の本件審決の理由の要点によれば、本件審決は、本件審判請求の請求人を株式会社上野製薬応用研究所であるとした上、同研究所は、本件特許出願に対する拒絶査定についての審判請求人としての適格を欠くとの理由に基づき、同研究所を名宛人として本件審判請求を却下する旨の審決をしたものと解される。そこで、原告適格の有無は職権調査事項であることに鑑み、まず、原告が、株式会社上野製薬応用研究所を名宛人とする本件審決の取消しを求める適格を有するか否かについて検討する。
審決取消訴訟の原告適格を有する者は、当該審判請求事件の「当事者、参加人」等で(特許法178条2項)、かつ、当該審決の取消しについて法的利益を有する者と解するのが相当であるから、まず、原告が本件審判請求事件の「当事者、参加人」等に該当するか否かについて検討する。
いずれも成立に争いのない甲第1号証、同第2号証の1、2及び同第3号証によれば、原告訴訟代理人は、本件特許出願について、原告を代理して拒絶査定に対する審判の請求等を行うことの授権を内容とする原告の住所、名称及び代表者名を記載した平成1年5月29日付け委任状を添付して同年6月27日付けで特許庁長官に対し、代理人受任届を提出したこと、原告訴訟代理人は、平成4年5月20日付けの本件審判請求書に、審判事件の表示として「特願昭59―31513号拒絶査定に対する審判事件」、発明の名称として「食品の防腐方法」、審判請求人として「住所 大阪府大阪市<以下略>(住居表示の変更に伴う住所変更)、名称 株式会社上野製薬応用研究所(この記載は当事者間に争いがない。)代表者 A」、代理人として原告訴訟代理人の住所、氏名をそれぞれ記載して提出したものであること、株式会社上野製薬応用研究所が上記記載の住所地に実在しているが、本件審判請求に当たり、同研究所から特許庁に宛て、本件審判請求の代理権を原告訴訟代理人に対して授権したことを証する書面の提出はなかったこと、以上の各事実が認められ、他にこれを左右する証拠はない。
そこで上記認定の事実を基礎にして、本件審判請求事件における審判請求人の確定の問題について検討するに、特許出願に対する拒絶査定は、特許出願に係る発明に特許権を付与しない旨の行政処分であって、これにより不利益を受けるのは当該特許出願人自身であるから、通常、当該特許出願人以外の第3者が拒絶査定を争う利益を有するものではなく、このような観点から、特許法121条1項は、拒絶査定に対する審判請求人を「拒絶すべき旨の査定を受けた者」に限定しているところである。そうすると、以上のような拒絶査定を巡る利害関係に照らすと、拒絶査定を受けた出願人以外の第3者が当該拒絶査定に対して審判を請求するというには、
通常、かかる請求の利益を基礎付ける特段の事情が存するものと解するのが相当であるところ、株式会社上野製薬応用研究所は、本件特許出願の出願人ではなく、本件全証拠を検討しても同研究所が本件審判請求を行う利益を有することを窺わせる特段の事情を認めるに足る何らの証拠も見いだし得ないばかりか、同研究所から特許庁に対し、原告訴訟代理人に本件審判請求を委任する旨の委任状の提出すらないのである。したがって、これらの点からすると、同研究所を本件審判請求人としてみることは、審判を求める実質的利益の有無及び審判請求に必要な手続の履践状況の各観点からみて、極めて不自然といわざるを得ないものである。
これに対して、原告は本件特許出願に対し拒絶査定を受けた者であるから、審判を請求する利益を有する上、
原告から原告訴訟代理人に対する本件特許出願の拒絶査定に対する審判請求について授権を含む内容の委任状が本件審判請求前に既に特許庁に提出されていたことの各事実が存し、これに前記説示のとおり、株式会社上野製薬応用研究所を本件審判請求人とみることには重大な疑問が存したことを勘案すると、本件審判請求書の審判請求人欄の前記記載のみを根拠に、同研究所を本件審判請求人とみることは相当ではなく、本件審判請求書の前記審判請求人の名称の記載は、原告の名称の明白な誤記であると認めるのが相当であるというべきである。
この点について、審決は、株式会社上野製薬応用研究所が原告の住所地と同一場所に実在したことを理由に、かかる場合には誤記とは認められない旨摘示するが、
かかる判断は妥当ではないというべきである。すなわち、まず、本件審判請求書の審判請求人の名称が明白な誤記に当たるか否かの判断は、当該特許出願事件の出願から審判請求に至る経緯を踏まえながら関係記録を総合的に観察して決すべきものであるところ、このような観点に基づくと、前述した本件特許出願に対する拒絶査定の取消しを求めることについての利害関係の存否、本件特許出願事件における出願代理人選任の有無及び本件審判請求書の記載状況等に照らすと、上記の誤記とされる法人が不存在である旨の証明のないとの一事をもって、本件審判請求書の請求人欄の記載が明白な誤記であるとの前記判断を左右することは到底困難といわざるを得ない。したがって、誤記とされる法人の不存在を証する資料の提出がない場合には誤記とは認められず、訂正は許されないとする審決の判断基準は硬直に過ぎ、
また、この点の根拠として被告が援用する登録名義人の更正の登録申請手続に関する特許登録令35条及び38条も登録名義人の氏名の更正の場合に必要とされる資料を被告の前記判断基準のように限定しているものとは解されないから、これらの規定を根拠に上記の判断基準を正当化することはできないというべきである。してみると、本件審判請求書の審判請求人欄の「株式会社上野製薬応用研究所」なる記載は、原告の名称の明白な誤記と認めるべきであり、原告は、本件審判手続を提起した請求人であって、特許法178条2項にいう「当事者」に該当することが明らかである。
そこで、進んで、審決取消しの利益の有無について検討するに、特許庁は本件審判請求事件の請求人を株式会社上野製薬応用研究所であると確定したことを踏まえ、その請求は不適法である旨の本件審決をしたことによって、本件審判請求事件の処理は終了したものであるとの見解を採っていることは本訴における被告の答弁からみて明らかなところである。そうだとすると、本件審判請求は原告からなされた請求であるとして(この場合に、請求人適格を具備することは疑問の余地がない。)、拒絶査定の内容の当否について審理を期待することは困難であるというべきであるから、本件審決の存在は、原告が上記のような審理を受ける上での法的な障害に当たるといって差し支えがないというべきである。したがって、原告は、本件審決の取消しを求める法的利益を有するというべきである。
以上の次第であるから、原告は、本件審決の取消しを求める原告適格を有する者というべきである。
3 そこで、本件審決の当否について検討するに、本件審判請求書の審判請求人欄の「株式会社上野製薬応用研究所」なる記載は、原告の名称の明白な誤記であることは、前項に詳述したとおりである。そうすると、前記の名称の訂正は審判請求書の要旨を何ら変更するものではなく、したがって、本件審判請求は、原告からなされたものとして取り扱うべきものである。
してみると、本件審判請求は、拒絶査定を受けた本件特許出願人からなされたものであるから、これが請求人適格を有することはいうまでもないところであり、かかる審判請求を出願人以外の第3者である株式会社上野製薬応用研究所からされたものであると速断して、請求人適格を欠く不適法は請求であるとして却下した本件審決の判断に誤りがあることは明らかである。
以上の次第であるから、本件審決は審判請求人を誤認した結果、本件審判請求を本件特許出願人以外の第3者からされた不適法な請求であるとしたものであるから、
違法であり、取消しを免れない。
4 よって本訴請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して主文のとおり判決する。
裁判官 竹田
裁判官
裁判官 関野杜滋子
裁判官 田中信義