審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成11ワ8435特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成11ワ5323特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成12ワ9657特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成19ワ10364特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成11ワ8434特許権侵害差止請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 無償の通常実施権 / 協議 / 共同開発 / 技術的範囲 / 債務不履行 / 契約の解除 / 存続期間 / 対象製品 / 不存在 / 信義則 / 実施 / 業として / 差止請求(差止) / 侵害 / 損害額 / 不法行為(民法709条) / 同意 / 実施権 / 通常実施権 / 対価 / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
8年
(ワ)
25323号
損害賠償請求事件
平成 9年 (ワ) 24877号 事件 |
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原告(反訴被告) 株式会社カネコ化学 右代表者代表取締役 【A】 右訴訟代理人弁護士 高木 肇 同 佐藤克也 同 吉澤敬夫 被告(反訴原告) ディップソール株式会社 右代表者代表取締役 【B】 右訴訟代理人弁護士 外立憲治 同 間宮 順右訴訟復代理人弁護士 文永智子 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 1999/10/15 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
一 原告(反訴被告)は、別紙第一目録記載の物件を製造し、販売してはならない。 二 原告(反訴被告)は、その占有に係る別紙第一目録記載の物件及びその半製品(別紙第一目録記載2の構成を備えているが、製品として完成していないもの)を廃棄せよ。 三 原告(反訴被告)は、被告(反訴原告)に対し、金一二万五〇〇〇円及びこれに対する平成九年一一月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。 四 本訴のうち、特許権に基づく差止請求権不存在確認請求及び不法行為に基づく損害賠償債務不存在確認請求に係る部分を却下する。 五 原告(反訴被告)のその余の請求をいずれも棄却する。 六 被告(反訴原告)のその余の請求を棄却する。 七 訴訟費用は、本訴反訴を通じて一〇分し、その九を原告(反訴被告)の負担とし、その余を被告(反訴原告)の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
一 本訴請求1 原告(反訴被告)が、別紙特許目録記載一ないし三の各特許権について、平成五年三月一日付け許諾契約に基づき、右各特許権の存続期間中、国内全域における無償の通常実施権を有することを確認する。 2 原告(反訴被告)の別紙第一目録記載の物件の製造販売について別紙特許目録記載一の特許権に基づく被告(反訴原告)の原告(反訴被告)に対する差止請求権が存在しないこと及び原告(反訴被告)が別紙第一目録記載の物件を製造販売して原告(反訴被告)の右特許権を侵害した不法行為に基づく原告(反訴被告)の被告(反訴原告)に対する損害賠償債務が存在しないことを確認する。 3 被告(反訴原告)は、原告(反訴被告)に対し、金八六六六万二五〇〇円及び内金五〇六六万二五〇〇円に対する平成九年一月一一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。 二 反訴請求1 主文一、二項と同旨。 2 原告(反訴被告)は、被告(反訴原告)に対し、金二七五万円及びこれに対する平成九年一一月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。 |
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事案の概要
一 争いのない事実等1 原告(反訴被告、以下「原告」という。)は、洗浄剤及び接着剤等の製造販売を業とする株式会社であり、被告(反訴原告、以下「被告」という。)は、各種化学工業薬品の製造販売を業とする株式会社である。 2 被告は、別紙特許目録記載一ないし三の特許権(以下、同目録記載一の特許権を「本件特許権」といい、その特許請求の範囲の請求項1の発明を「本件発明」という。)を有する。 3 原告と被告は、平成五年三月一日、被告が原告に対し、フラックス・油脂類の洗浄剤の製造を委託し、原告が右委託に係る洗浄剤を製造し、被告がこれを買い取って販売するというOEM取引に関する基本契約(以下「本件契約」という。)を締結した。本件契約の契約書には、次の趣旨の条項がある(以下、本件契約の契約書の条項を「本件契約第1条」などという。)。 第1条(本件契約の目的) 被告は、原告に対し、次条に定めるところにより、別紙商品目録に記載するフラックス・油脂類の洗浄剤及びその同等製品(以下これを総称するときは「本製品」という。)の製造を委託し、原告はこの委託に基づいて各製品を製造し、被告に納入し、被告は完成した本製品を原告から買い取るものとする。 第8条(販売権及び製造権)1 被告は、本製品に関し、販売地域を問わず、販売権を有するものとする。ただし、本件契約に基づき原告に対しては、販売地域を問わず、非独占的、非譲渡的販売権を許諾するものとする。 2 本件契約は、原告が、本製品と同一の製品及び本製品と同様あるいは類似の製品を独自に製造し、自社の商標を付して、販売することを妨げるものではない。ただし、本製品と同一の製品の製造、販売の場合には、別紙商品目録に原告の商品名を記載するものとする。 第10条(工業所有権)1 本件契約に基づき製造販売される本製品に関し、被告は、自ら研究開発した技術の工業所有権の登録を行うことができるものとする。 2 本製品に関する工業所有権の使用は、被告より原告に対して非独占的、非譲渡的に許諾されるものとする。原告が、本製品に関し、改良をなした場合は、被告はこれを無償にて使用できるものとする。 第16条(基本契約及び個別契約の効力)1 本件契約は、解除又は期間満了により終了した場合においても、本件契約に基づき締結された個別契約の効力が生じている限りは、本件契約に定めるところにより処理するものとし、又、本件契約の解除あるいは終了においても、第8条、第10条及び第11条の規定は依然として効力を有し、被告及び原告を拘束するものとする。 第18条(本件契約の有効期間) 本件契約の有効期間は、その締結の日から一年間とし、期間満了の三か月前までに双方のいずれからの書面による申し出がない限り、自動的に更新されるものとし、以後も同様とする。 4 原告と被告は、平成六年二月一日、本件契約に関する覚書(以下「本件覚書」という。)を締結した。本件覚書には、次の趣旨の条項がある。 第1条 本件契約書の第1条に基づく別紙商品目録に記載すべき製品として別紙第二目録のものを確認する。 別紙第二目録記載の各商品(以下、これらを「SC-五一シリーズ」という。)は、イソプロピルブロマイド(以下「IPB」という。)を主成分とするフラックス・油脂類の洗浄剤である。 5 被告は、平成五年三月からSC-五一シリーズの販売を始め、平成六年ころからは、SC-五一シリーズのほかに、ノルマルプロピルブロマイド(以下「NPB」という。)を主成分とするフラックス・油脂類の洗浄剤を販売している(以下、被告が販売しているNPBを主成分とするフラックス・油脂類の洗浄剤を「SC-五二シリーズ」という。)。SC-五一シリーズ及びSC-五二シリーズは、 本件発明の実施品である。 6 被告は、SC-五一シリーズについて、本件契約に基づき、平成五年三月から平成八年七月まで原告にその製造を委託していたが、平成八年八月一日以降、その製造委託を中止した。また、被告は原告に対し、SC-五二シリーズの製造を委託したことはない。 7 原告は、SC-五一シリーズを、「K-1」等の名称で販売していたが、その後、NPBを主成分とするフラックス・油脂類の洗浄剤を「K-3-N」の商品名で製造販売するようになり、業として別紙第一目録記載の物件(以下「イ号物件」という。)を製造販売している(甲三二の一ないし三、弁論の全趣旨)。イ号物件は、本件発明の技術的範囲に属する。 二 本訴事件は、原告が、被告に対し、原告は本件契約によりSC-五二シリーズの独占的製造権を付与され、被告はその製造を原告に委託する義務があるから、SC-五二シリーズの製造を原告に委託しなかった被告の行為は右製造委託義務に違反するとして、債務不履行による損害賠償を求めるとともに、本件契約により別紙特許目録記載の各特許権について通常実施権の許諾を受けたとして、右通常実施権の存在確認並びにイ号物件の製造販売について本件特許権に基づく差止請求権及び不法行為による損害賠償債務の不存在確認を求める事案である。 反訴事件は、被告が、原告に対し、イ号物件の製造販売が本件特許権を侵害するとして、イ号物件の製造販売の差止等とともに不法行為による損害賠償を求める事案である。 |
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争点及びこれに関する当事者の主張
一 被告は原告に対し、SC-五二シリーズの製造を委託する義務を負うかどうか。 1 原告の主張(一) 原告は、平成四年九月、IPBを主成分とするフラックス・油脂類の常温洗浄用の洗浄剤の製造販売を開始し、その売り込みのため被告を訪問したところ、右洗浄剤に興味を持った被告から右洗浄剤を改良し、蒸気洗浄でも使用できる洗浄剤を共同開発し、共同特許を取得することを提案され、同年一一月三〇日、右洗浄剤の主成分がIPBであること、IPBと同様にNPBでも同程度の洗浄効果があることなど「IPB又はNPBを主成分として、フロンや塩素系溶剤に代わる代替洗浄剤の開発が可能である」という原告の基本発明を被告に開示し、被告との間で、 右基本発明に基づいてIPB及びNPBを主成分とするフラックス・油脂類の洗浄剤を共同開発し、共同特許を取得することを合意した。その後、原告と被告との共同開発の成果により、IPB及びNPBを主成分とするフラックス・油脂類の洗浄剤に関する発明である本件発明がされた。 原告は、平成五年一月一一日、被告から本件発明を被告単独名義で特許出願すると告げられたことから、右の共同特許取得の合意に反すると抗議したところ、被告は、単独名義の特許出願の見返りとして右洗浄剤の製造権をすべて原告に与える旨約した。 被告は、平成五年一月二五日、本件発明を被告の単独名義で特許出願した。 以上のとおり、本件発明は、原告の基本発明に基づいて開発されたものであり、 被告は、原告の基本発明と商品開発の功績に報いるべく、単独で特許出願したことの見返りとして、IPB及びNPBを主成分とするフラックス・油脂類の洗浄剤の独占的製造権を原告に付与する趣旨で、平成五年三月一日、原告との間で本件契約を締結したものである。 本件覚書において、本件契約第1条の「別紙商品目録に記載するフラックス・油脂類の洗浄剤」として確認されているのは、SC-五一シリーズのみであるが、 IPB及びNPBを主成分とするフラックス・油脂類の洗浄剤は、いずれも原告の基本発明に基づいて開発されたもので、原告、被告とも本件契約締結当時、被告が将来NPBを主成分とするフラックス・油脂類の洗浄剤を商品化するであろうことを認識し、視野に入れて本件契約を締結したのであり、しかも、IPBとNPBとは化学的性質が基本的に同一であり、被告も当初からIPBとNPBを同列において本件発明の研究開発を行っていたのであるから、NPBを主成分とするフラックス・油脂類の洗浄剤は、本件契約第1条の別紙商品目録の製品であるSC-五一シリーズの「同等製品」に当たる。 したがって、本件契約においては、被告の販売するSC-五二シリーズのすべてを原告に製造委託する旨の合意が成立したというべきであるから、被告は、原告に対して、SC-五二シリーズのすべてを原告に製造委託する義務を負っている。 (二) 仮に、本件契約の内容として原告の無条件での独占的な製造権が認められないとしても、本件契約は、右のような経緯で、原告の基本発明と商品開発の功績に報い、特許権の放棄に対する対価を補償する趣旨で締結されたものであるから、特許権放棄の対価に匹敵する程度の期間である五年間、被告は、SC-五二シリーズのすべてを原告に製造委託すべき信義則上の義務があるというべきである。 (三) なお、本件契約は、右のような趣旨で締結されたものであるから、本件契約第18条の有効期間の定めは例文と解すべきであり、被告がIPB又はNPBを主成分とする洗浄剤の販売を継続している限り、被告から本件契約の一方的解約又は更新拒絶をすることは信義則上許されないというべきである。 2 被告の主張(一) 本件契約において、被告の販売するSC-五二シリーズのすべてを原告に製造委託する旨の合意が成立したことは否認し、信義則上被告にそのような義務があるとの主張は争う。 (1) 被告は、原告が売り込みに来た洗浄剤の主成分がIPBであるとの開示を受けたが、それは、本件発明のきっかけとなったにすぎない。被告は、多大の費用と労力をかけて単独で本件発明を行ったのであり、これに対して原告は何らの技術的、 資金的な支援、協力等をしていない。 しかし、被告は、原告の洗浄剤が右研究開発のきっかけとなったことを評価して、本件契約を締結し、SC-五一シリーズの製造を原告に委託したのである。 以上のとおり、本件契約は、原告の基本発明の功績に報い、被告単独での特許出願に原告が同意したことの見返りとして締結されたものではない。 (2) 本件契約において、原告の独占的製造権を認めた条項はない。 本件契約第8条1項は、「本製品」に関し、被告は原告に対して、非独占的、非譲渡的な販売権を許諾しているにすぎないし、「本製品」に関する工業所有権の使用についても、本件契約第10条2項では、被告から原告に対して、非独占的、非譲渡的に許諾されているにすぎない。 (二) NPBを主成分とするフラックス・油脂類の洗浄剤が本件契約第1条の「同等製品」であることを否認する。 IPBとNPBは化学的性質が異なり、本件契約締結当時には、NPBを主成分とするフラックス・油脂類の洗浄剤は開発に着手すらされていなかったのであるから、原告、被告とも本件契約の製造委託の対象として、NPBを主成分とするフラックス・油脂類の洗浄剤を予定していなかったことは明らかである。また、本件覚書が締結された当時、NPBを主成分とするフラックス・油脂類の洗浄剤であるSC-五二Aがすでに商品化されていたにもかかわらず、本件覚書では、本件契約の別紙商品目録がSC-五一シリーズに限定されており、原告、被告間においてSC-五二Aは、本件契約の「本製品」としては認識されていなかった。したがって、 NPBを主成分とするフラックス・油脂類の洗浄剤は、本件契約第1条の「同等製品」ではない。 (三) 被告は、原告に対し、平成八年一一月七日付けの通知書により、本件契約第18条に基づく契約期間の更新拒絶の意思表示をし、この意思表示は同月八日、原告に到達した。 したがって、本件契約は、平成九年二月二八日の経過により、期間満了により終了したのであるから、被告は、原告に対して、SC-五二シリーズのすべてを原告に製造委託する義務を負っていない。 なお、本件契約の更新拒絶が信義則上許されないとの主張は争う。 二 原告は、別紙特許目録記載一ないし三の各特許権について通常実施権を有するかどうか。 1 原告の主張 本件契約第10条は、一項で被告が「本製品」について工業所有権の登録を行うことを規定し、二項で原告がその工業所有権について無償の通常実施権を有することを規定しているところ、別紙特許目録記載一ないし三の各特許権は、いずれも本件契約第10条1項に基づき被告が登録を行ったものである。 本件契約第16条では、本件契約第10条の規定は本件契約が終了した後も効力を有し、当事者を拘束することが規定されている。 したがって、原告は、本件契約第10条2項により右各特許権について通常実施権を有する。 2 被告の主張(一) 本件契約第10条2項では、被告から原告に対し「本製品」に関する工業所有権の使用が許諾されているが、これは、同条一項を受けて、原告が本件契約に従って「別紙商品目録」に記載される「本製品」を製造販売するための必要不可欠な前提として、その限りにおいて、「本製品」に関して被告が開発した技術に関する工業所有権の使用を原告に許諾したにすぎない。 (二) 本件契約第16条1項は、解除又は期間満了により契約が終了した場合に、 契約終了時に製造中又は販売中の製品について、その製造販売が終了するまでの間、その製造販売に必要な限度で第10条が依然として効力を有することを規定したものである。 したがって、本件契約の終了後に原告が新たに行う製造販売行為についてまで本件契約第10条の効力が及ぶわけではない。 三 原告によるイ号物件の製造販売が本件特許権の侵害となるかどうか。 1 原告の主張(一) イ号物件は本件発明の技術的範囲に属するから、その製造販売は本件発明の実施行為となるが、前記二1のとおり、原告は本件特許権について通常実施権を有するから、原告によるイ号物件の製造販売は本件特許権の侵害とはならない。 (二) 本件契約第8条2項では、被告は、原告が「本製品」のみならず、「本製品と同等あるいは類似する洗浄剤」一般を独自に製造販売することを許諾しており、 右の「本製品と同等あるいは類似する洗浄剤」にはNPBを主成分とするフラックス・油脂類の洗浄剤(イ号物件)が含まれるところ、本件契約第16条では、本件契約第8条の規定は本件契約が終了した後も効力を有し、当事者を拘束することが規定されているから、本件契約は、原告がイ号物件を独自に製造販売することを契約期間以後も認めており、これは、イ号物件について本件特許権の存続期間中原告に無償の通常実施権を付与したことを意味する。 したがって、原告によるイ号物件の製造販売は本件特許権の侵害とはならない。 2 被告の主張(一) 原告が本件特許権について通常実施権を有しないことは、前記二2のとおりである。 (二) 本件契約第8条2項は、「本製品と同様あるいは類似の製品」に係る被告の工業所有権の実施を原告に許諾した規定ではなく、原告が「本製品」について被告から製造委託を受け、その販売権を付与された場合でも、当該製造委託の対象となる「本製品」と競争関係に立ち得る製品、即ち「本製品と同様あるいは類似の製品」について、原告が独自の技術を利用して独自に製造し、自らの名称を付して販売することは禁止されないことを規定したものである。 しかし、イ号物件は、本件発明を利用して開発されたものであり、原告が独自に開発したものではない。 したがって、原告がイ号物件を製造販売することは、本件契約第8条2項により許容されるものではない。 四 原告の損害(本訴請求)1 原告の主張(一) 被告は、本件契約に基づき又は信義則上、SC-五二シリーズの製造を原告に委託すべき義務があるのに、これに違反して、次のとおり、SC-五二シリーズを製造販売した。 平成六年一月から一二月分 一万九八〇〇キログラム平成七年一月から一二月分 三万七〇七五キログラム平成八年一月から一二月分 一一万二〇〇〇キログラム平成九年一月から一二月分 一二万キログラム合 計 二八万八八七五キログラム(二) 原告は、被告からSC-五二シリーズの製造の委託を受けることにより、一キログラム当たり三〇〇円の利益を得たはずであるから、SC-五二シリーズの製造を原告に発注しない被告の債務不履行により、原告は、次のとおり合計八六六六万二五〇〇円の損害を被ることになる。 288,875 × 300 = 86,662,500 2 被告の主張 原告の主張を争う。 五 被告の損害(反訴請求) 1 被告の主張 原告は、SC-五一シリーズの原告ブランド商品である「K-1」及び「K-2」を平成六年度に年間合計約六トン、平成七年度に年間合計約四トン製造販売しており、年間平均約五トンの「K-1」及び「K-2」を製造販売し、一キロ当たり三〇〇円の利益を得ていた。 原告は、平成八年一月ころから平成九年一〇月までの間、右「K-1」及び「K-2」に代えてイ号物件を製造販売しており、これにより右期間に少なくとも合計二七五万円の利益を得た。被告は、この利益の額に相当する損害を被った。 2 原告の主張 原告は、平成八年一〇月以降、年間五〇〇〇キログラム程度の「K-3-N」なる商品名の洗浄剤を製造販売しているが、平成九年一〇月より前の「K-3-N」はニトロエタンではなくニトロメタンを用いたものであり、イ号物件とは異なる。 原告がイ号物件の製造販売を始めたのは、平成九年一〇月六日以降であり、同年一〇月より前にイ号物件を製造販売したことはない。 原告が「K-3-N」の製造販売により一キログラム当たり三〇〇円の利益を得ていることは認める。 |
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当裁判所の判断
一 争点一について1 前記第二の一の事実に証拠(甲一の一、甲二一の一ないし五、甲二六、乙二六ないし二八、原告代表者、証人【C】、証人【D】、証人【E】)と弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。 (一) 原告は、平成四年ころ、フラックスにじみ防止剤やフラックスの洗浄剤を製造販売しており、原告代表者【A】(以下「【A】」という。)とスメルター株式会社の【C】(以下「【C】」という。)が右商品の営業活動を行っていた。 (二) 【A】と【C】は、平成四年一〇月二九日、原告商品の売り込みのために被告の市原工場を訪れ、フラックスにじみ防止剤やフラックスの洗浄剤の商品説明を行い、同年一一月五日、被告の東京営業所においても右商品説明を行った。 (三) その後、【A】は、被告担当者から原告のフラックスの洗浄剤が蒸気洗浄を行う金属洗浄剤として使用できるかどうかをテストするため右洗浄剤のサンプルを送付してほしいと依頼を受け、平成四年一一月二二日、二五日及び二八日、被告研究所の【F】宛に右洗浄剤のサンプルを送付した。なお、そのころは、まだ右洗浄剤の主成分がIPBであることを被告に開示していなかった。 被告担当者は、【A】から送付された右サンプルの洗浄剤が蒸気洗浄を行う金属洗浄剤として使用できるかどうかをテストしたが、右サンプルの洗浄剤は、加熱したり、これに金属片を入れたりすると激しく反応してガスが発生したり金属片を溶解したりしてしまい、金属洗浄剤としては全く使用できないものであった。 (四) 【A】は、被告担当者に対し、平成四年一一月三〇日、原告のフラックスの洗浄剤の成分がIPBであることを開示した。 (五) 被告は、右開示を受けた後、IPBを主成分とする金属洗浄剤の開発を進めたが、その際の課題は分解性の高いIPBを安定化するための安定剤の開発であった。【A】は、平成四年一二月八日、一一日及び平成五年一月七日にも、原告のフラックスの洗浄剤のサンプルを被告研究所の【F】宛に送付したが、そのほかには、右安定剤の開発について、被告に対する技術的又は資金的な援助等を一切しておらず、被告は自ら労力と費用をかけ、単独で右安定剤の開発を行った。そして、 平成五年一月、IPBの安定化技術に目途がついたので、被告は、同月二五日、右洗浄剤に係る本件発明の特許出願をした。 (六) 【A】と被告担当者は、平成五年一月一一日、被告の開発したIPBを主成分とするフラックス・油脂類の洗浄剤の製造販売に関する契約締結について交渉を行ったが、その日は交渉がまとまらず、その後、被告から原告に契約書案が送られ、同月二六日に再度、契約締結に関する交渉が行われ、おおよそ本件契約のとおりの内容で、原告、被告間に右洗浄剤の製造販売に関する合意が成立した。 (七) 被告は、平成五年二月二三日、IPBを主成分とする洗浄剤に配合する安定剤の種類等を最終的に確定して、右洗浄剤の商品化を完了し、その商品名を「SC-五一」として、右合意に基づき、同年三月二日から原告に右洗浄剤の製造委託を開始した。右製造委託は、具体的には、被告が配合済みの安定剤を原告に供給し、 原告があらかじめ被告によって定められた割合でIPBと安定剤を混合して洗浄剤を製造するというものであり、被告は原告に対し安定剤の成分を開示しなかった。 (八) 原告と被告は、右のとおり平成五年三月二日に「SC-五一」の製造委託が開始された後、同月一日付けで本件契約を締結したが、本件契約締結時には、本件契約の対象となる別紙商品目録の記載はされず、平成六年二月一日に締結された本件覚書において、本件契約の別紙商品目録の商品としてSC-五一シリーズが確認された。 (九) 被告は、平成五年九月ころ、SC-五二シリーズの商品化を完了し、その製造販売を始めた。SC-五二シリーズも、SC-五一シリーズと同様に、被告が単独で研究開発し、商品化したものであった。 (一〇) 本件契約中には、原告、被告間のOEM取引の対象となるフラックス、油脂類の洗浄剤の独占的な製造販売権を原告に付与する旨の条項はない。 2 右1認定の事実を前提として、本件契約により原告がSC-五二シリーズの独占的製造権を付与されたかどうかについて判断する。 (一) 原告は、被告は、平成五年一月一一日、本件発明を単独で特許出願することの見返りとして本件発明に係る洗浄剤の独占的製造権を原告に付与することを約しており、本件契約は、原告の基本発明と商品開発の功績に報い、原告が被告の単独での特許出願に同意を与えたことの見返りとして、IPB及びNPBを主成分とするフラックス・油脂類の洗浄剤の独占的製造権を原告に付与する趣旨で締結されたものであると主張し(前記第三の一1(一))、原告代表者は代表者尋問においてこれに沿う供述をし、同人の陳述書(甲二六)にも同旨の記載がある。 (二) しかし、右1認定の事実によると、本件発明並びにその実施品であるSC-五一シリーズ及びSC-五二シリーズの研究開発及び商品化は、被告が自らの労力と費用をかけて単独で行ったものであり、原告は、IPBがフロンや塩素系溶剤に代わる洗浄用溶剤となり得るとのアイデアを提供したものの、右研究開発及び商品化に当たっては、原告の洗浄剤のサンプルを数回送付したほかは、技術的、資金的な協力等をしていないことが認められ、これらの事実に照らすと、被告が本件発明を単独で特許出願するについて原告の同意が必要であったとは考えられない。また、本件契約の締結に至る経過は、右1のとおり、平成五年一月一一日、原告、被告間で被告の開発したIPBを主成分とする洗浄剤の製造販売に関する契約交渉が行われたがまとまらず、その後に被告から契約書案が送付され、同月二六日に再度契約交渉が行われてほぼ本件契約の内容どおりの合意が成立し、同年三月に本件契約が締結されたというものであるところ、被告が平成五年一月一一日に単独での特許出願の見返りとして原告に右洗浄剤の独占的製造権を与えることを約し、そのような趣旨のものとして本件契約が締結されたのであれば、そのような重要な事項は、本件契約の契約書に明記されるはずであるが、本件契約中には、原告が被告に対し、別紙商品目録に記載するフラックス・油脂類の洗浄剤及び同等製品の製造を委託する(第1条)とあるだけで、右洗浄剤の独占的製造権を原告に付与する旨の条項は存在しない。 以上述べたところに加え、本件契約の締結交渉に当たった被告側の責任者である証人【E】は、被告が原告に右洗浄剤の独占的製造権を与える旨約したことはないと明確に証言していることを併せ考慮すると、原告代表者の右供述及び右陳述書の記載は信用することができず、他に本件契約が原告に右洗浄剤の独占的製造権を付与する趣旨で締結されたものと認めるに足りる証拠はない。 (三) したがって、原告が本件契約により対象製品であるフラックス・油脂類の洗浄剤の独占的製造権を付与されたとは認められないから、被告は原告に対しSC-五二シリーズの製造を委託する義務があるとは認められない。 また、右に判示したところによると、被告がSC-五二シリーズのすべてを原告に製造委託すべき信義則上の義務があるというべき事情は認められない。 3 以上のとおりであるから、原告の本訴請求のうち、債務不履行による損害賠償請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がない。 二 争点二について1 証拠(甲一の一、乙一の一、二)と弁論の全趣旨によると、本件契約の有効期間は、契約締結の日から一年間であるが、自動更新条項(本件契約第18条)により、平成九年二月二八日が本件契約の期間満了の日であったこと、被告は原告に対し、平成八年一一月七日付けの通知書により、本件契約の契約期間の更新を拒絶する旨の意思表示をしたこと、右意思表示は、平成八年一一月八日、原告に到達したことが認められる。 原告は、本件契約の更新拒絶は信義則上許されないと主張する(前記第三の一1(三))が、前記一2に判示したところによると、右更新拒絶が信義則上許されないとするべき事情は認められないから、右主張は採用できない。 したがって、本件契約は、本件契約第18条に基づき、平成九年二月二八日の経過をもって期間満了により終了したものと認められる。 2(一) 原告は、本件契約第10条2項により、別紙特許目録記載一ないし三の各特許権について通常実施権を有するところ、右第10条の規定は本件契約第16条により本件契約が終了した後も効力を有し、当事者を拘束する旨規定されているから、原告は本件契約終了後も右通常実施権を有すると主張する(前記第三の二1)。 (二) 前記第二の一3のとおり、本件契約第10条2項は、「本製品に関する工業所有権の使用は、被告より原告に対して非独占的、非譲渡的に許諾されるものとする。」と規定しているところ、前記第二の一の事実に証拠(甲一の一)を総合すると、本件契約は、「本製品」、すなわち、SC-五一シリーズ及びその同等製品について被告が原告に製造を委託することを目的とするOEM取引基本契約であり、 右委託に関する取決めをしているものと認められるから、本件契約第10条2項は、原告が被告から委託を受けて「本製品」を製造し、それを販売することが被告が有する工業所有権の実施行為となるとしても、被告は、原告に対してその実施を許諾する旨の条項であると認められる。 本件契約第8条2項は、本件契約は、原告が、本製品と同一の製品及びそれと同様あるいは類似の製品を独自に製造し、自社の商標を付して販売することを妨げるものではないと規定しているが、右認定の本件契約の目的及び本件契約第8条2項の「妨げるものではない」という文言からすると、本件契約第8条2項は、本件契約が原告に対して競業行為を禁じるものではないことを規定したにとどまり、原告に対して本製品と同一の製品又はそれと同様若しくは類似の製品を独自に製造販売することを保証するものとは認められない。また、本件契約第10条2項は、「本製品に関する」と規定しており、本件契約第8条2項の「本製品と同一の製品及びそれと同様あるいは類似の製品」という文言とは明らかに異なる文言を用いている。さらに、右一で認定した本件契約締結に至る事実経過からすると、本件契約第8条2項が規定する原告独自の製造販売が、被告が有する工業所有権の実施行為となる場合に、被告が原告に対して、その実施を許諾しなければならないような実質的な関係があるとも認められない。そうすると、本件契約第8条2項が規定する原告独自の製造販売が、被告が有する工業所有権の実施行為となる場合に、本件契約第10条2項によって、被告が原告に対して、その実施を許諾しているとは認められない。 なお、前記第二の一7のとおり、原告は、本件発明の実施品であるSC-五一シリーズを「K-1」等の名称で製造販売していたのであるが、証拠(乙三二)と弁論の全趣旨によると、原告は、被告から配合済みの安定剤の供給を受け、あらかじめ被告によって定められた割合でIPBと安定剤を混合して洗浄剤を製造した上、 これを一旦被告に納入し、被告から供給を受けて「K-1」等の名称で製造販売していたものと認められる。そうすると、これらの洗浄剤の製造販売は、原告が独自に行っていたものというよりも、製造委託により製造したものの供給を受けて販売していたというべきであるから、原告が独自に行っていた本製品と同一の製品等の製造販売行為について本件発明の実施が許諾されていたものということはできず、 その他、原告が独自に行っていた本製品と同一の製品等の製造販売行為について本件発明の実施が許諾されていたというべき事例は認められない。 そして、他に、原告が被告から委託を受けて「本製品」を製造し、それを販売する場合以外に、被告が原告に対して、本件契約第10条2項によって、被告が有する工業所有権の実施を許諾したものというべき事情は認められない。 (三) 本件契約第16条1項は、本件契約が解除され又は期間満了により終了した場合に、第10条の規定が依然として効力を有し、当事者を拘束すると規定しているが、本件契約第10条第2項が、右認定のとおり、原告が被告から委託を受けて「本製品」を製造し、それを販売する場合に被告が有する工業所有権の実施を許諾する旨の条項であることからすると、本件契約に基づいて製造委託がされた「本製品」で、原告が製造中又は販売中のものについては、本件契約が終了したとしても、その製造販売が終わるまでの間、その製造販売に必要な限度で本件契約第10条2項の効力を存続させることを規定したものと解するのが相当である。 なお、原告は、本件契約第16条1項は前段と後段に分かれており、前段が製造中又は販売中の「本製品」の後始末に関する規定であり、後段はそれとは別に、 第8条、第10条などが契約終了後において継続的に効力を有する旨規定したものであると主張する。しかし、前記第二の一3のとおり、本件契約第16条1項は、 前段で「本件契約は、解除又は期間満了により終了した場合においても、本件契約に基づき締結された個別契約の効力が生じている限りは、本件契約に定めるところにより処理するものとし」と規定し、後段では「本件契約の解除あるいは終了においても、第8条、第10条及び第11条の規定は依然として効力を有し、被告及び原告を拘束するものとする。」と規定しているところ、証拠(甲一の一)によると、本件契約は、原告、被告間のOEM取引基本契約であり、これに基づいて個別契約が結ばれることが予定されていること(本件契約第2条)、本件契約は、基本契約として個別契約の内容を補充する規定が置かれていること(例えば、本件契約第3条ないし第7条など)が認められ、これによると、右前段の「本件契約に定めるところにより処理するものとする」との規定は、本件契約終了の場合も、個別契約の効力が生じている限り、その内容は本件契約の規定により補充され、契約の成立(第3条)から製造(第4条)、納入(第5条)、代金支払(第7条)まで本件契約に従って処理されることを定めたものと解される。そうすると、本件契約が終了したときに製造中又は販売中の「本製品」の事後処理を定めているのが右前段だけであり、右後段は事後処理に関する規定ではないとすると、本件契約が終了したときに製造中又は販売中の「本製品」に関して工業所有権の使用に係る権利処理が何ら規定されていないことになり、不都合な結果を生じることになる。したがって、原告の右主張は採用できない。 (四) 右(一)のとおり、本件契約は、平成九年二月二八日に終了したものである。 また、前記第二の一6のとおり、被告は、平成八年八月一日以降、原告に対する本件契約に基づく製造委託を中止したのであるから、本件契約に基づいて製造委託がされた「本製品」で、いまだ原告において製造中又は販売中のものが存するとは認められない。 そうすると、原告が、本件契約第10条2項、第16条により、別紙特許目録記載一ないし三の各特許権について、通常実施権を有するとは認められないから、原告の本訴請求のうち、通常実施権の確認請求は理由がない。 三 争点三について1 イ号物件が本件発明の技術的範囲に属すること、原告が業としてイ号物件の製造販売をしていることは、前記第二の一7のとおりであるから、原告によるイ号物件の製造販売は本件発明の実施に当たる。 2 原告は、本件特許権について通常実施権を有すると主張する(前記第三の三1(一))が、これが認められないことは、前記二で判示したとおりである。 3 原告は、本件契約第8条2項により本件特許権について通常実施権を付与されているから、イ号物件の製造販売は本件特許権の侵害とはならないとも主張する(前記第三の三1(二))。 しかし、本件契約において工業所有権について規定しているのは第10条であって、本件契約第8条2項は、特許権について規定したものではない。また、本件契約第8条2項の規定を考慮して、本件契約第10条2項を解釈したとしても、原告が、本件特許権について通常実施権を有するとは認められないことは、前記二で判示したとおりである。したがって、原告の右主張は採用できない。 4 また、仮に、本件契約に基づき、原告が、「本製品」について通常実施権を有するとしても、NPBを主成分とするフラックス・油脂類の洗浄剤は、次のとおり、本件契約第1条の「同等製品」に含まれないから、原告は、イ号物件について通常実施権を有しない。 (一) 前記第二の一の事実に、前記一1認定の事実、証拠(乙二六ないし二八、証人【D】、同【E】)と弁論の全趣旨を総合すると、NPBとIPBは、分子構造や化学的性質において類似点があるものの、別の物質であり、NPBを主成分とするフラックス・油脂類の洗浄剤とIPBを主成分とするフラックス・油脂類の洗浄剤とでは、主成分のみならず、安定剤の成分や分量に違いがあり、被告では、別々に商品化されたこと、本件契約当時、原告と被告の間において、SC-五一シリーズの製造委託について、協議が行われていたが、NPBを主成分とするフラックス・油脂類の洗浄剤(SC-五二シリーズ)の製造委託については、何ら協議されておらず、その後も、被告は、原告に対して、SC-五二シリーズの製造を委託したことはないこと、本件覚書において、別紙商品目録は、別紙第二目録のようになったが、IPBを主成分とするフラックス・油脂類の洗浄剤といっても、さまざまな種類のものが考えられ、別紙第二目録記載の商品に限定されないこと、以上の事実が認められる。以上の事実からすると、本件契約第1条の「同等製品」に、別紙第二目録記載の商品以外のIPBを主成分とするフラックス・油脂類の洗浄剤が含まれる余地はあるが、NPBを主成分とするフラックス・油脂類の洗浄剤が含まれるとまで認めることはできない。 (二) なお、前記第二の一の事実と前記一1認定の事実に証拠(甲一二の一、二)を総合すると、本件発明は、IPBを主成分とするフラックス・油脂類の洗浄剤とNPBを主成分とするフラックス・油脂類の洗浄剤の双方を対象とするものであり、被告は、平成五年一月二五日より前に、双方の洗浄剤の効果について実験を行った上、同日、本件発明について特許の出願をしたことが認められる。しかし、そうであるからといって、右(一)で認定した事実の下では、本件契約第1条の「同等製品」に、NPBを主成分とするフラックス・油脂類の洗浄剤が含まれるとまで認めることはできない。 5 以上によると、原告によるイ号物件の製造販売は、本件特許権の侵害行為となるものと認められるから、被告は、特許法100条1項、二項に基づき、右侵害行為の差止請求権並びにイ号物件及びその半製品の廃棄請求権を有する。 したがって、被告の反訴請求のうち、イ号物件の製造販売の差止請求並びにイ号物件及びその半製品の廃棄請求は理由がある。 また、本訴のうち、イ号物件の製造販売について被告の本件特許権に基づく差止請求権の不存在確認請求に係る部分は、被告から右差止請求について給付訴訟が提起され、これについて判断がされる以上、訴えの利益を有しないというべきであるから、本訴のうち右不存在確認請求に係る部分は、確認の利益を欠き、却下を免れない。 四1 右三で認定判断したとおり、原告によるイ号物件の製造販売は本件特許権を侵害するものであり、原告は右侵害について過失があったものと推定される(特許法103条)から、原告は、右侵害行為により被告が被った損害を賠償する責任がある。 2 そこで、被告の損害額について判断する。 (一) 前記第二の一の事実に証拠(乙二三)と弁論の全趣旨を総合すると、原告は、平成八年一月ころからNPBを主成分とするフラックス・油脂類の洗浄剤を「K-3-N」の商品名で製造販売していること、被告が平成九年一〇月ころ入手した原告製造に係る「K-3-N」なる商品名のフラックス・油脂類の洗浄剤は、 1-ブロモプロパン(九六重量パーセント)、ニトロメタン(二重量パーセント)及びブチレンオキサイド(二重量パーセント)を含むものであり、ニトロエタンを含んでいないことが認められ、右認定の事実に弁論の全趣旨を併せ考慮すると、原告が平成八年一月ころから平成九年九月までの間に「K-3-N」の商品名で製造販売していた洗浄剤はイ号物件とは異なる組成を有する物であり、原告がイ号物件の製造販売を行ったのは、平成九年一〇月以降であることが認められ、これに反する証拠はない。 (二) 弁論の全趣旨によると、原告の平成九年一〇月以降のイ号物件の販売量は年間五〇〇〇キログラム程度であり、原告はイ号物件の製造販売により一キログラム当たり三〇〇円の利益を得ているものと認められる。 (三) 被告は、原告が平成八年一月から平成九年一〇月までの間にイ号物件を年間五〇〇〇キログラム程度製造販売していたと主張し、反訴請求において右期間の損害賠償を求めているところ、右(一)認定のとおり、原告がイ号物件を製造販売したのは、右期間のうち平成九年一〇月の一か月間だけであると認められる。そして、 右(二)認定のとおり、イ号物件の製造販売量は年間五〇〇〇キログラム程度であり、その製造販売により原告は一キログラム当たり三〇〇円の利益を得たものであるから、原告が平成九年一〇月の一か月間にイ号物件を製造販売したことによって得た利益の額は、次のとおり合計一二万五〇〇〇円であると認められ、特許法102条2項により被告は同額の損害を被ったものと推定される。 5,000×300×1/12=125,0003 以上によると、被告の反訴請求のうち、特許権侵害の不法行為による損害賠償請求は、一二万五〇〇〇円及びこれに対する不法行為の後である平成九年一一月一九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。 4 また、弁論の全趣旨によると、本訴のうち、イ号物件を製造販売して本件特許権を侵害した不法行為に基づく損害賠償債務の不存在確認請求に係る部分は、被告の反訴に係る損害賠償請求に対応する債務の不存在確認を求めるものであると認められるところ、右債務不存在確認請求に係る部分は、被告から右債務について給付訴訟が提起され、その給付請求について判断がされる以上、訴えの利益を有しないというべきであるから、本訴のうち右債務の不存在確認請求に係る部分は確認の利益を欠き、却下を免れない。 五 以上の次第で、本訴のうち、差止請求権の不存在及び損害賠償債務の不存在の各確認請求に係る部分は却下し、通常実施権の確認を求める請求及び損害賠償請求は理由がないから棄却し、反訴のうち、イ号物件の製造販売の差止め及び廃棄を求める請求はいずれも理由があり、不法行為による損害賠償請求は主文三項掲記の限度で理由があるから、これらを認容し、その余は棄却することとし、主文のとおり判決する。なお、仮執行宣言は相当でないので付さないこととする。 |
裁判長裁判官 | 森義之 |
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裁判官 | 榎戸道也 |
裁判官 | 岡口基一 |