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関連審決 審判1996-19723
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成14ワ12410損害賠償請求事件 判例 特許
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平成12ワ12728特許権侵害差止請求事件 判例 特許
平成11ワ12586特許権侵害差止等請求事件 平成13ワ3381特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成12ワ6322特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
関連ワード 技術的思想 /  周知技術 /  慣用技術 /  公知技術 /  技術的範囲 /  発明の詳細な説明 /  対象製品 /  均等 /  均等論 /  置き換え /  置換 /  置換可能性 /  同一の作用効果 /  置換容易性 /  容易に想到(容易想到性) /  特許発明 /  実施 /  構成要件 /  差止請求(差止) /  侵害 /  損害額 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  異議申立 / 
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事件 平成 11年 (ワ) 1743号 特許権に基づく製造販売禁止等請求事件
原告 株式会社マルヤス右代表者代表取締役 【A】 右訴訟代理人弁護士 松本司
同 松本好史右補佐人弁理士 【B】
同 【C】
被告 株式会社プラコー右代表者代表取締役 【D】 右訴訟代理人弁護士 内田修
同 内田敏彦
同 松吉威夫
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2000/05/30
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
一 被告は、別紙被告物件説明書記載の装置を製造、販売してはならない。
二 被告は、前項の装置を廃棄せよ。
三 被告は、原告に対し、金七二〇〇万円及びこれに対する平成一一年三月二日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
事案の概要等
一 事案の概要 本件は、被告が製造、販売する別紙被告物件説明書記載のインフレーション成形装置(以下「被告装置」という。)が、原告の有する特許権に係る特許発明技術的範囲に属するとして、原告が被告に対し、特許権に基づく侵害行為の差止等及び損害賠償を求めた事案である。
二 争いのない事実 1 原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その発明を「本件発明」という。)を有する。
(一) 登録番号 第二〇五一四五五号 (二) 発明の名称 自動引き取り制御可能なインフレーション成形装置 (三) 出願日 昭和六二年七月二一日(特願昭六二ー一八二九九九号) (四) 出願公告日 平成六年二月二三日(特公平六ー一三一九〇号) (五) 登録日 平成八年五月一〇日 (六) 訂正審決日 平成一〇年一月五日(平成八年審判第一九七二三号) (七) 特許請求の範囲 別添特許公報(以下「本件公報」という。)及び平成八年一一月一九日付け補正した審判請求書(以下「本件訂正請求書」という。)の該当欄記載のとおり。
2 本件発明の構成要件を分説すると、次のとおりである。
A 次の構成を有するインフレーション成形装置において、
@ 原料が送り込まれる加熱シリンダー A 該加熱シリンダー内に回転可能に収納されるスクリュー B 該スクリューを回転させるモーター C 該加熱シリンダーの中で熱せられた融解原料を整流してアダプタへ送り出すアミ D 該アダプタの出力側に設けられたインフレーションダイス E 該インフレーションダイスから押し出された製品を引き取るピンチローラ F 製品の幅を制御する幅チューブレギュレーター B@ 原料を加熱シリンダーへ送り込む途中で原料の重さを計る計量釜 A 該計量釜の原料取り込み側に該計量釜が下限設定値を計量した時にオンし、かつ該計量釜が上限設定値を計量した時にオフする原料開閉シリンダー B 計量釜の上限設定値がオンしてからオフになる瞬間から、下限設定値がオンになる瞬間までの単位原料消費時間を精密計測し、この値から押し出し量を算出し、これとあらかじめ設定されている製品の断面積の値とから引取速度を算出して、該ピンチローラの駆動モーターに駆動信号を与える自動引取速度制御盤 C 自動引き取り制御可能なインフレーション成形装置。
3 本件特許権の訂正した明細書(以下「本件明細書」という。)には、本件発明の作用効果として、以下のとおり記載されている。
原料を取り込んでいる時間を、計量釜の上限設定値がオンしてからオフになる瞬間から、下限設定値がオンになる瞬間までの単位原料消費時間として精密計測し、この測定値をもとに引き取り速度を制御するようにしているため、正確、
かつ簡単にインフレーション成形を自動引き取り制御できるようになる。(本件公報8欄6〜10行、本件訂正請求書2頁B参照) 4 被告は、被告装置を製造、販売している。
5 被告装置は、本件発明の構成要件A、B@、A及びCを充足する。
三 争点 1 被告装置の構成は、本件発明の構成要件BBを充足するか。
2 被告装置の構成は、本件発明と均等の範囲にあるものとして、その技術的範囲に属するか。
3 原告の損害額 四 当事者の主張 1 争点1(文言侵害)について 【原告の主張】 (一) 被告装置の構成は、次のように分説できる。
a 次の構造を有するインフレーション成形装置において、
@ 原料を加熱、混練して溶融樹脂にする押出機4 A 該押出機4内に回転可能に収納されるスクリュー5 B 該スクリュー5を回転されるモーター6 C 該押出機4の中で加熱された溶融樹脂を整流してアダプタ8へ送り出すアミ7 D 該アダプタ8の出力側に設けられ、溶融樹脂を円筒状薄膜樹脂Aにするインフレーションダイス9 E 該インフレーションダイス9から押し出された円筒状薄膜樹脂Aを引き取るピンチローラ10 F 円筒状薄膜樹脂Aの幅を制御する幅チューブレギュレーター11 b@ 原料タンク1から原料を供給する途中でその重量を測定することができる重量センサー21を備えたホッパー2 A 原料重量データ(w)の値が、ホッパー2から押出機4への原料送込過程において下限設定値を下回ったときに、連絡通路Rを開き(原料が原料タンク1からホッパー2に供給される)、かつ原料重量データ(w)の値が、原料タンク1からホッパー2への原料供給過程において上限設定値を超えたときに、連絡通路Rを閉じる(原料が原料タンク1からホッパー2に供給されないようにする)該ホッパー2の原料取り込み側に配置された原料開閉シリンダー3 BT ホッパー2の原料重量データ(w)を短時間周期(〇・三秒間隔)で終始継続して読みとり、原料重量データ(w)の値が、上限設定値を超える値から次第に減少する過程で三回連続して上限設定値以下の値を示すと、原料重量データ(w)の〇・三秒間隔での継続測定を開始し、これを順次記憶する。
そして、四〇個の原料重量データ(w)が記憶されれば、これの算術平均値である「平均重量データ(m)」を算出して記憶し、五〇個の最新平均重量データ(m)が記憶されると最小自乗法を利用して直近一五秒間における原料平均押出速度を求め、これを一時間当たりの原料押し出し量に換算して「押出量データ(q)」として記憶する。
U 三秒ごとに最新データに基づいて押出量データ(q)を求め、その度に記憶されている押出量データ(q)を算術平均して平均押出量(Q)を下限設定値未満となるまで算出し、これと予め設定されている製品の厚さ、幅及び係数とから引取速度を算出して、該ピンチローラの駆動モータに駆動信号を与える自動引取速度制御装置12。
c 自動引き取り制御可能なインフレーション成形装置 (二) 被告装置の本件発明の構成要件BB該当性 (1) 被告装置の構成bBTの「原料重量データ(w)の値が、上限設定値を超える値から次第に減少する過程で三回連続して上限設定値以下の値を示すと、
原料重量データ(w)の〇・三秒間隔での継続測定を開始」することは、本件発明の構成要件BBの「計量釜の上限設定値がオンしてからオフになる瞬間から」単位原料消費時間の計測を開始することに相当する。
被告装置の「原料重量データ(w)の値が、上限設定値を超える値から次第に減少する過程」とは本件発明の「計量釜の上限設定値がオンしてからオフになる」ことに相当し、また、被告装置の「三回連続して上限設定値以下の値を示すと」原料重量データ(W)の測定を開始することは、本件発明のオフとなる「瞬間」に相当するからである。
なお、被告装置では「三回連続」して上限設定値以下の値を示すことが測定開始の条件となっているが、これは測定の精度を高めるためになされるコンピュータ制御では慣用の手段にすぎない。
(2) 被告装置の構成bBUの「三秒ごとに最新データに基づいて押出量データ(q)を求め、その度に記憶されている押出量データ(q)を算術平均して平均押出量(Q)を下限設定値未満となるまで算出」することは、本件発明の構成要件BBの「下限設定値がオンになる瞬間まで」の単位原料消費時間を精密計測することに相当する。
被告装置では、上限設定値と下限設定値との間で、三秒ごとに平均押出量(Q)を求め、より精密な計測に基づく引取速度の制御をしようとしているが、右は設計上の微差又は付加にすぎない。
(三) よって、被告装置は本件発明の技術的範囲に属する。
【被告の主張】 (一) 被告装置の構成の分説について (1) bBTについて 被告装置においては、原料重量データ(w)の〇・三秒間隔での継続測定は、被告装置の稼働中は常時行われており、原告の主張する被告装置の構成の分説bBTに示されるような条件で開始されるのは、原料重量データ(w)の〇・三秒間隔での順次記憶に他ならない。
したがって、被告装置の構成の分説bBT中の「〇・三秒間隔での継続測定を開始し、これを順次記憶する。」を、「〇・三秒間隔での順次記憶を開始する。」と訂正すべきである。
(2) bBUについて @ 被告装置においては、被告物件説明書第三の二4に記載のとおり、
押出量データ(q)は、単に一個の最新データに基づいて演算により求められるものではなく、最新の五〇個の平均重量データ(m)に基づき最小自乗法により求めた「直近一五秒間における原料平均押出速度」を一時間当たりの平均押出速度(単位時間当たりの原料押出量)に換算して得られるものである。
また、右押出量データ(q)は、別紙被告物件説明書記載のとおり、その算定の基礎になる五〇個分の平均重量データ(m)のうち、五分の四に相当する四〇個の平均重量データ(m)は前回も用いた比較的新しいデータを使用することにより、最小自乗法を利用して、三秒ごとに、一時間当たりの原料押出量としての押出量データ(q)を算出するものであるから、この押出量データ(q)は各算出時点における移動平均値に基づくものである。このような被告装置における押出量データ(q)の算出方法に対し、算出基礎となる全データが、毎回、新しいものに入れ替わり、完全に入れ替わった最新のデータのみに基づいて押出量データ(q)を求めるという方式も考えられるので、これと明確に区別するために、被告装置における押出量データ(q)は「移動平均値」に基づくものである旨明記することが必要である。
したがって、原告の主張する被告装置の構成bBU中「三秒ごとに最新のデータに基づいて押出量データ(q)を求め」は、「三秒ごとに最新の五〇個の平均重量データ(m)から算出された移動平均値に基づく押出量データ(q)を求め」と訂正すべきである。
A 被告装置においては、八個を超える押出量データ(q)を算術平均することはないから、この点を明確にするために、原告の主張する被告装置の構成bBU中の「記憶されている押出量データ(q)を算術平均して」とあるのを、
「押出量バッファ(BP)の押出量データ記憶領域(記憶容量:データ八個分)に記憶されている押出量データ(q)を算術平均して」と訂正すべきである。
B 被告装置においては、原料重量データ(w)の値が下限設定値未満となる瞬間まで平均押出量(Q)の算出を行うことは滅多になく、通常は、原料重量データ(w)の値が次第に減少していく過程で下限設定値に達する前である「下限設定値未満になる直前三秒の間」のあるタイミング(時点)で最後の平均押出量(Q)の算出を終える。また、被告装置における制御装置12のCPUは、平均押出量(Q)と引取速度の算出及び駆動モータへの駆動信号の伝達を繰り返し行っている。
したがって、原告の主張する被告装置の構成bBU中の「平均押出量(Q)を下限設定値未満となるまで算出し」を、「平均押出量(Q)を算出し」と訂正するとともに、「駆動信号を与える自動引取速度制御装置12」とあるのを、
「駆動信号を与え、原料重量データ(w)が下限設定値未満となる瞬間以前三秒の間に平均押出量(Q)を算出するまで、前記の各算出(平均押出量(Q)と引取速度の算出)及び駆動モータへの駆動信号の伝達を繰り返すCPUにより動作する速度制御装置12」と訂正すべきである。
(二) 被告装置の本件発明の構成要件BBの非充足 被告装置は、本件発明の構成要件BBのうち、単位原料消費時間を精密計測する点、すなわち、「計量釜の上限設定値がオンしてからオフになる瞬間から、下限設定値がオンになる瞬間までの単位原料消費時間を精密計測し、」という技術事項を具備していない。
(1) 本件発明の構成要件BBにいう「計量釜の上限設定値がオンしてからオフになる瞬間から、下限設定値がオンになる瞬間までの単位原料消費時間を精密計測し、」なる技術事項は、原料の重量を計測する計量釜に原料タンクから原料が供給されて原料の重量が上限設定値を超えた後、押出機への原料送入により原料が減少していく過程で原料の重量が再度上限設定値を示す瞬間(これが起点である。)から、さらに原料が減少して下限設定値を示す瞬間(これが終点である。)までの時間、言い換えれば上限設定値と下限設定値の差に相当する重量の原料(これが「単位原料」である。)が押出機によって消費される時間(「単位原料消費時間」)を精密に計測することを意味する。
(2) これに対し、被告装置では、原料重量データ(w)は被告装置の稼働中は電源オンの後、〇・三秒間隔で終始継続してCPUにより読み取られている。
しかし、計量釜内に供給され押出機へ送り込まれていく原料は、その重量が、原料の比重変動や外的要因による押出量の変化など様々な要因により不規則に変動するものであるから、このような原料重量の変動は、右〇・三秒間隔の読み取り周期に同期するはずもない。したがって、被告装置においては、計量釜に原料タンクから原料が供給されて原料の重量が上限設定値を超えた後、押出機への原料送込により原料が減少していく過程で原料の重量が再度上限設定値を示す瞬間(本件発明における測定の起点に相当)と、原料重量データ(w)の〇・三秒毎の読み取りタイミングとが正確に一致することはほとんどない。
同様に、被告装置においては、押出機への原料送込により原料が減少していく過程で原料の重量がさらに減少して下限設定値を示す瞬間(本件発明における測定の終点に相当)と、原料重量データ(w)の〇・三秒間隔毎の読み取りタイミングとが正確に一致することも滅多にない。すなわち、被告装置においては、
「計量釜の上限設定値がオンしてからオフになる瞬間」及び「下限設定値がオンになる瞬間」の原料重量データ(w)をCPUにより読み取るようには制御されていないし、また、右各瞬間の時刻を計時するようにも制御されていない。
したがって、被告装置は、本件発明の構成要件BBにいう「計量釜の上限設定値がオンしてからオフになる瞬間から、下限設定値がオンになる瞬間までの単位原料時間を精密計測し、」なる技術事項を具備していない点で本件発明と相違する。
【原告の反論】 (一) 構成bBTについて 原告は、被告装置の構成bBTの特定の冒頭で「ホッパー2の原料重量データ(w)を短時間周期(〇・三秒間隔)で終始継続して読みとり、」と特定主張しており、被告装置の稼働中継続測定が行われていることを明記している。そして、順次記憶される原料重量データは、〇・三秒間隔で終始継続して読みとられるデータのうち「原料重量データ(w)の値が、上限設定値を超える値から次第に減少する過程で三回連続して上限設定値以下の値を示す」とき以降に継続測定が開始された原料重量データである。
すなわち、原告は、記憶される原料重量データがいつの時点で測定が開始されたデータかとの観点から特定しているものである。
(二) 構成bBUについて 原告は、「最新データ」を一個のものと主張しているわけではなく、被告の主張と同じ意味で特定している。このことは、原告の被告装置の構成bBTの特定の記載からも明らかである。
また、押出量データがいくつ記憶されているかは、本件発明との対比において必要な被告装置の特定、即ち、右を特定の中に入れることにより被告装置が本件発明の技術的範囲に属するか否かとは関係しない。
さらに、被告装置は、原料重量データ(w)が下限設定値未満の値になると原料の重量に関係するデータはすべて抹消されるので、それ以後は平均押出量(Q)の算出は不可能となる。原告は、被告装置の右構成を「平均押出量(Q)を下限設定値未満となるまで算出し」と特定したのであり、これが下限設定値未満になる瞬間以前の三秒間の幅を持つことは差し支えない。
2 争点2(均等)について 【原告の主張】 (一) 仮に、被告装置の構成bBが、本件発明の構成要件BBを文言上は充足しないとしても、右相違は本件発明の本質的部分の相違ではなく、被告装置は本件発明と均等の範囲にある。
(1) 均等の要件にいう本質的部分とは、特許請求の範囲に記載された特許発明の構成のうちで当該特許発明特有の作用効果を生じる部分、換言すれば、右部分が他の構成に置き換えられるならば、全体として当該特許発明技術的思想とは別個のものと評価されるような部分をいう。
本件発明の本質的部分は、計量釜での原料の重量を計測する場合、この重量が減少過程、即ち、原料重量データ(w)の値が、上限設定値を超える値から次第に減少する過程にある間に計測するという部分であり、右構成により「単位原料消費時間として精密計測し、この測定値をもとに引き取り速度を制御するようにしているため、正確、かつ簡単にインフレーション成形を自動引き取り制御できるようになる。」という本件発明特有の作用効果を奏するものである。すなわち、
前記のとおり、原料の供給が停止した段階では計量釜の重量は上限設定値を超えていることから、本件発明は、単位原料消費量を精密に計測するため、計量釜の原料の重量が減少傾向にある特定の期間の減少した重量値を測定する方式を採用したのである。本件発明では右の特定の期間の開始の瞬間としては一般的な上限設定値(一度、上限設定値となってから、再び上昇設定値となった瞬間)とし、終了は下限設定値としたが、右の計測開始の瞬間を上限設定値、終了は下限設定値としたこと自体は本質的部分ではない。どのような瞬間を採用しようが、原料重量が減少過程にあるなら、その過程中の特定の期間での原料重量を測定すれば、精密計測は可能であるからである。
被告装置も、原料重量が減少する過程において、計測の開始時を設定しているから、本件発明の本質的部分を採用している。被告装置では本件発明のように「計量釜の上限設定値がオンしてからオフになる瞬間」からではなく、「原料重量データ(w)の値が、上限設定値が超える値から次第に減少する過程で三回連続して上限設定値以下の値を示す瞬間」から原料重量データ(w)の計測を開始するという相違はあるが、右は、本質的な部分の相違ではない。
(2) 置換可能性容易想到性について 被告製品の構成bBに置換しても、本件発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏する。
そして、被告装置のbBの構成、すなわち、計測期間の設定は、コンピュータにおける一般的な信号検出の方式であり、当業者である被告が被告装置の製造の時点において容易に想到することができる技術である。
(二) よって、仮に被告装置が本件発明の特許請求の範囲に対して文言侵害が成立しないとしても、均等なものとして本件発明の技術的範囲に属する。
【被告の主張】 (一) 本質的部分について そもそも、均等論適用の関係で問題とされる特許発明の本質的部分を把握するに当たっては、単に特許請求の範囲に記載された一部を形式的に取り出すのではなく、当該特許発明の実質的価値を具現する構成が何であるかを実質的に探求して判断すべきである。そして、当該特許発明の実質的価値は、公知技術では達成し得なかった目的を達成し、公知技術では生じさせることができなかった特有の効果を生じさせる技術的思想を、具体的な構成をもって開示した点にあるといえるから、当該特許発明の本質的部分とは、明細書の特許請求の範囲に記載された構成のうち、公知技術では生じさせることができなかった当該発明特有の作用効果を生じさせる技術思想の中核をなす特徴的部分であると理解すべきである。
原告は、原料が減少過程にある間に重量を計測するという構成が本件発明の本質的部分であると主張するが、原料が減少傾向にある間に計測することは、
原料重量の計測技術として当業者に周知の常套手段であることから、この構成による効果自体は、公知技術で生じさせることができなかった特有の効果ではなく、右部分が、均等論適用の関係で問題とされる本件発明の本質的部分ではあり得ない。
本件発明の本質的部分は、本件発明の構成要件BBにいう「計量釜の上限設定値がオンしてからオフになる瞬間から、下限設定値がオンになる瞬間までの単位原料消費時間を精密計測し、」なる技術事項と、本件発明の構成要件BAの「該計量釜の原料取り込み側に該計量釜が下限設定値を計算した時にオンし、かつ該計量釜が上限設定値を計量した時にオフする原料開閉シリンダー」とを上限設定値及び下限設定値を介して有機的に関連づけた構成部分である。これに対し、被告装置は、下限設定値に至るまでの間、三秒間隔で平均押出量(Q)と引取速度の算出を繰り返し行い、常時、引取速度を制御しており、本件発明の構成要件BBにいう「計量釜の上限設定値がオンからオフになる瞬間から、下限設定値がオンになる瞬間までの単位原料消費時間を精密計測し、」なる技術事項を具備していない。
したがって、被告装置が、本件発明の本質的部分を有していないことは明らかである。
(二) 置換可能性容易想到性について 置換可能性容易想到性に関する原告の主張は否認する。
(三) よって、本件発明が被告装置の構成と異なる部分は、本件発明の本質的部分であり、また、置換可能性置換容易性もないから、均等論適用の要件を欠く。
3 損害について 【原告の主張】 被告は、平成八年二月二一日から平成一一年二月二〇日までの間に、被告装置を約一五億円分製造、販売し、少なくとも七二〇〇万円の利益を得ている。
右行為は被告の故意又は過失に基づく。
【被告の主張】 争う。
当裁判所の判断
一 争点1(文言侵害)について 1 本件明細書には、次のとおりの各記載があることが認められる(甲二)。
(一) (問題点を解決するための手段)として、「本発明によると、原料を加熱シリンダーへ送りこむ途中に計量釜と原料開閉シリンダーと自動引き取り速度制御盤とを配置し、計量釜の上限設定値と下限設定値とで原料開閉シリンダーをオン、オフさせるとともに、計量釜の上限設定値がオンしてからオフになる瞬間から下限設定値がオンになる瞬間までこの間を計測する。すなわち1sの単位原料を消費する時間を精密計測する。これから引き取り速度を算出するようにしたものである。」(本件公報3欄末行〜4欄8行)との記載 (二) 実施例として、「計量釜2は計量の設定を上限値(たとえば5s)と下限値(たとえば4s)と2つ決め、下限値に達したら開閉シリンダー3をオンにして開き原料を計量釜2の中へ取り込み、上限値に達したら開閉シリンダー3をオフにして閉じ原料の取り込みを中止する。そして、計量釜の上限設定値がオンしてからオフになる瞬間から下限設定値がオンになる瞬間までこの間を計測する。すなわち1sの単位原料を消費する時間を精密計測する。その値を自動引取速度制御盤12の中のCPUへ入力する。この速度制御盤12にはあらかじめ原料の比重と裕度とが設定されている。」(同4欄21〜32行)、「計量釜2を用い1sの原料をエアシリンダーで段階的に原料1を供給する。この計量釜2に上限と下限を設け下限がオンすればエアーシリンダーが動作し、原料を供給し、上限がオンしてから1秒後にエアーシリンダーが停止する。計量釜2の設定は上限5s、下限4sとすれば良く1sの間でエアーシリンダーが開閉する。(差が1sあれば良い。)計測は計量釜2の上限がオンしてからオフになる瞬間に動作し、下限がオンになる瞬間に停止する。この間の時間を正確に計測すれば1sの原料が何秒かかつたかが判るこの時間をデータに入れる(時間は1/10秒まで判る)。」(同4欄40〜50行)との記載 (三) (本発明の効果)として、「この発明によれば原料を取りこんでいる時間を、計量釜の上限設定値がオンしてからオフになる瞬間から、下限設定値がオンになる瞬間までの単位原料消費時間として精密計測し、この測定値をもとに引き取り速度を制御するようにしているため、正確、かつ簡単に押し出し成形を自動引き取り制御できるようになる。」(同8欄6〜10行、本件訂正請求書2頁B)との記載 2 本件発明の構成要件Bの「原料を加熱シリンダーへ送り込む途中で原料の重さを計る計量釜と、該計量釜の原料取り込み側に該計量釜が下限設定値を計量した時にオンし、かつ該計量釜が上限設定値を計量した時にオフする原料開閉シリンダーと、計量釜の上限設定値がオンしてからオフになる瞬間から、下限設定値がオンになる瞬間までの単位原料消費時間を精密計測し、この値から押し出し量を算出し、これとあらかじめ設定されている製品の断面積の値とから引取速度を算出して、該ピンチローラの駆動モーターに駆動信号を与える自動引取速度制御盤」との構成は、前記のような本件明細書の記載に照らすと、ピンチローラーの駆動モーターに駆動信号を与える自動引取速度制御盤において引取速度を算出する基礎となるデータを得るために、原料を加熱シリンダーへ送り込む途中に設置された計量釜に設けられた重量計が、原料の供給によりあらかじめ定められた上限設定値を計測して原料開閉シリンダーを閉塞(オフ)した後に、いったん上限設定値を超えた原料が消費されることによって再び上限設定値を下回った瞬間(起点)から、さらに原料が消費されてあらかじめ定められた下限設定値を計測して原料開閉シリンダーを開放(オン)する瞬間(終点)までの時間を精密計測するという構成をとったものということができる。
3 当事者間に争いのない被告製品の構成を記載した別紙被告製品説明書によれば、被告製品における引取速度の制御は、以下のとおりの方法により行われているものということができる。
(一) 被告装置は、原料タンク1から原料を供給される途中でその重量を計測することができる重量センサー21を備えたホッパー2、原料タンク1とホッパー2とを連結する連通路Rに配設され、該連通路Rを開閉するシリンダー3、動作制御用のCPUを内蔵する制御装置12を備える。
(二) 重量センサー21(ロードセル)は原料の重量を常時計測してアナログデータとして出力しており、このデータはデジタルデータに変換されて(原料重量データ(w))、〇・三秒間隔で制御装置12のCPUにより終始継続して読み取られている。
原料重量データ(w)の値が、あらかじめ定められた上限設定値を超える値から次第に減少する過程で三回連続して上限設定値以下の値を示すと、その値はデータ数四〇個分の記憶領域を有する重量データバッファ(BW)に〇・三秒間隔で順次記憶される。既に四〇個のデータが記憶されている状態で新たなデータ入力があった場合は、最も古いデータを消去して新しいデータが記憶される。
原料重量データ(w)の値が、あらかじめ定められた下限設定値未満の値になると、引取速度を制御するために各種のバッファメモリに記憶していた原料の重量に関するデータはすべて抹消(メモリー・クリア)されるとともに、それ以降の原料重量データ(w)は、重量データバッファ(BW)に記憶されないようになる。
(三) 制御装置12のCPUは、重量データバッファ(BW)に四〇個分の原料重量データ(w)が記憶されているか否かを〇・三秒間隔で継続的にチェックし、これが記憶されていればその算術平均を算出して「平均重量データ(m)」として、データ数五〇個分の記憶領域を有する平均重量バッファ(BM)に順次記憶する。既に五〇個分のデータが記憶されている状態で新たなデータの入力があった場合には、最も古いデータを消去して新しいデータが記憶される。
(四) 制御装置12のCPUは、平均重量バッファ(BM)に五〇個分の平均重量データ(m)が記憶されているか否かを〇・三秒間隔で継続的にチェックし、
これが記憶されていることが確認されると、縦軸に各データの値、横軸にその発生時間をそれぞれ目盛りしたグラフ上に、当該時点において記憶されている五〇個の平均重量データ(m)をプロットした場合における、これら五〇個の点の並び具合(集合形態)に近似する一本の右下がり直線を最小自乗法に基づく演算により求め、当該直線の傾きを一時間当たりの原料押出量(s/h)に換算して、押出量データ(q1)を算出する。爾後、三秒ごとに右演算を繰り返し行い、順次それぞれの時点における移動平均値としての平均押出量データ(q2)、(q3)、・・・・・・を算出する。
これら平均押出量データ(q1)、(q2)、・・・・・・は、データ数八個分の記憶領域を有する押出量バッファ(BP)に順次記憶される。既に八個分のデータが記憶されている状態で新たなデータの入力があった場合には、最も古いデータを消去して新しいデータが記憶される。
(五) 制御装置12のCPUは、押出量バッファ(BP)に新たな押出量データ(q)が記憶されるごとに、その算術平均としての平均押出量(Q)を算出し、
この値とあらかじめ設定されている製品の厚さ、幅及び係数とから引取速度を算出して、駆動モータ13の回転速度を制御する。
(六) 制御装置12のCPUは、これらの引取速度の制御とは無関係に、原料重量データ(w)の値をチェックし、あらかじめ定めた上限設定値を超えたときに連通路Rを閉じ、下限設定値を下回ったときに連通路Rを開くという形で連通路R開閉の制御を行う。
4(一) 右に述べた被告装置における引取速度の制御方法について、その引取速度を算出するための基礎となるデータの計測(記憶)開始時点及び終了時点に着眼してみると、次のとおりであるということができる。
(1) 原料の重量自体は、重量センサー21(ロードセル)により常時計測されており、これをデジタルデータに変換した原料重量データ(w)は、〇・三秒間隔で制御装置12のCPUにより読み取られている。
右原料重量データ(w)の重量データバッファ(BW)への記憶は、
制御装置12のCPUが読み取った原料重量データ(w)の値が、あらかじめ定められた上限設定値を超える値から次第に減少する過程で、三回連続して上限設定値以下の値を計測した時に開始される。すなわち、現実に重量データバッファ(BW)に最初に記憶されるデータは、重量センサー21で常時計測されている原料重量が上限設定値を超える過程から次第に減少して再び上限設定値を計測した時点から見れば、最小で〇・六秒、最大で〇・九秒遅れた時点の重量データということになる。
(2) また、原料重量データ(w)の重量データバッファ(BW)への記憶は、右(1)で述べた時点から、〇・三秒間隔で継続して行われるが(記憶データ数が四〇個を超えると、最も古いデータが消去されて新しいデータが記憶される。)、
制御盤のCPUがあらかじめ定められた下限設定値未満の値の原料重量データ(w)を計測すると、各種メモリに記憶されていた原料の重量に関するデータ(重量データ(w)の他、平均重量データ(m)、押出量データ(q))はすべて抹消されるとともに、それ以降の原料重量データ(w)は重量データバッファ(BW)に記憶されなくなる。
すなわち、現実に原料重量データバッファ(BW)に最後に記憶されるデータは、重量センサー21で常時計測されている原料重量が下限設定値を計測した時点から見れば、同時点のデータである場合も可能性としては存在しないことはないが、一般的にいえば、右計測時点から遡ること〇・三秒の間におけるいずれかの時点のデータであり、その分布は同時間帯中に均等に存在するということになる。なお、引取速度制御の基礎となる最終の原料重量データ(w)という観点からすれば、被告装置においては、前記の構成より三秒間隔で平均押出量(Q)を算定しているから、右計測時点から遡ること三秒の間におけるいずれかの時点のデータということになる(その後に記憶された原料重量データ(w)は、重量データバッファ(BW)に一旦記憶されるものの、平均押出量(Q)算定の基礎データとして使用される前にメモリクリアされることとなる。)。
(二) 右のとおり、被告装置においては、計量釜の原料重量から見れば、その計測開始時は「計量釜の上限設定値がオンしてからオフになる瞬間」と一致することはあり得ず、また、その計測終了時が「下限設定値がオンになる瞬間」と一致することもほとんどあり得ない(ごく稀に生じる可能性があるにすぎない。)ということができる。
5 この点原告は、被告装置が「三回連続して上限設定値以下の値を示すと」原料重量データ(w)の測定を開始することは、本件発明の「計量釜の上限設定値がオンしてからオフになる瞬間から」「単位時間原料を精密計測」する(構成要件BB)ことに相当し、同様に、被告装置の「三秒ごとに最新データに基づいて押出量データ(q)を求め、その度に記憶されている押出量データ(q)を算術平均して平均押出量(Q)を下限設定値未満となるまで算出」することは、本件発明の構成要件「下限設定値がオンになる瞬間までの単位原料消費時間を精密計測」する(同)ことに相当すると主張する。
しかし、前記1、2で述べたとおり、本件明細書の特許請求の範囲及びそれ以外の部分の記載からすれば、本件発明の構成要件BBの構成は、原料を加熱シリンダーへ送り込む途中に設置された計量釜に設けられた重量計が、原料の供給によりあらかじめ定められた上限設定値を計測して原料開閉シリンダーを閉塞(オフ)した後に原料が消費されて再び上限設定値を下回った瞬間から、さらに原料が消費されてあらかじめ定められた下限設定値を計測して原料開閉シリンダーを開放(オン)する瞬間までの時間を精密計測する構成を備えることが必須であるというべきであり、右3、4で述べたところからすれば、被告装置がそのような構成を備えていないことは明らかである。さらにいえば、本件特許権の特許請求の範囲の記載から、本件発明は、計量釜に原料を供給するための構成である原料開閉シリンダーにおいて、原料の供給を停止・開始するための指標である、あらかじめ設定された計量釜の上限設定値及び下限設定値と関連付けて、その計測期間を上限設定値を計測した時点から下限設定値を計測した時点までとし、さらに、単純に計量釜の重量計が上限設定値を計測して開閉シリンダーが閉塞(オフ)された瞬間から、下限設定値を計測して原料開閉シリンダーを開放(オン)された瞬間までの時間を計測するのではなく、原料の供給によりあらかじめ定められた上限設定値を計測して原料開閉シリンダーを閉塞(オフ)した後に、いったん上限設定値を超えた原料の重量が、消費されることによって再び上限設定値を下回った瞬間から、 さらに原料が消費されてあらかじめ定められた下限設定値を計測して原料開閉シリンダーを開放(オン)する瞬間までの時間を精密計測することによって、正確に一定の重量の原料が消費される時間を計る構成としたことにその特徴があるというべきであって、その単位原料消費時間の精密計測の開始時点及び終了時点は、本件発明の中核的要素であるということができる。
すなわち、本件発明においては、一定重量の原料が消費される時間を精密に計測したデータに基づいて引取速度を算出するという構成を採用していることから、その消費された原料の重量を精密に計測するために、測定開始時点の原料重量と測定終了時点の原料重量を厳密に規定しなければならないことになる。これに対し、被告装置においては、ごく短い一定時間間隔において継続的に原料重量を測定し、これに基づいて引取速度を算定しているのであるから、その測定開始時点及び測定終了時点は、それほど重要な意味を持たないことになる。したがって、被告装置においては、測定開始時点及び測定終了時点における原料重量を厳密に規定する必要はなく、現に、前記のとおり、被告装置においては、測定開始時点の原料重量は上限設定値と、測定終了時点における原料重量は下限設定値と、厳密には一致しない構成となっているのである(ごく稀に下限設定値は一致することがあり得るにすぎない。)。
右の点からすれば、被告装置における引取速度の制御方法は、本件発明とはその技術的思想において異なるというべきであって、右相違点を設計上の微差又は付加ということはできない。
6 よって、被告装置の製造、販売が、本件特許権を文言上侵害するものということはできない。
二 争点2(均等)について 1 前記のとおり、本件発明と被告装置は、本件発明が、「計量釜の上限設定値がオンしてからオフになる瞬間から、下限設定値がオンになる瞬間までの単位原料消費時間を精密計測し、この値から押し出し量を算出し、これとあらかじめ設定されている製品の断面積の値とから引取速度を算出して、該ピンチローラの駆動モーターに駆動信号を与える自動引取速度制御盤」を構成要件とするのに対し、被告装置が、前記一3記載の構成により引取速度を制御している点が異なる。
2 ところで、特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品と異なる部分が存する場合において、右対象製品が特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして特許発明技術的範囲に属するものとされるには、右異なる部分が特許発明の本質的部分でないことを要するものと解するのが相当である(最高裁判所第三小法廷平成一〇年二月二四日判決・民集第五二巻一号一一三頁参照)。そして、ここにいう本質的部分とは、特許請求の範囲に記載された構成のうちで、当該特許発明特有の課題解決手段を基礎付け、特有の作用効果を生じさせるための部分をいい、
公知技術では達成し得なかった目的を達成し、公知技術では生じさせることができなかった作用効果を生じさせる技術的思想の中核をなす特徴的部分を指すものと解すべきである。
3 原告は、本件発明の特徴的部分は、計量釜での原料重量を計測する場合、
この重量が減少過程、すなわち原料重量データ(w)の値が上限設定値を超える値から次第に減少する過程にある間に計測するという部分であり、本件発明の構成を被告装置のように置換しても、右本質的部分を利用していることには変わりがなく、本件特許権の特許請求に記載された構成と、被告装置との異なる部分は、本件発明の本質的部分ではないと主張する。
そこで検討すると、
(一) 証拠(乙1)によれば、本件発明の出願日(昭和六二年七月二一日)より以前である昭和五九年三月一〇日に公開された特許公開公報(特公昭五九ー四三七三二号公報)は、コンスタントフィードウェアについての発明に係るものであり、その特許請求の範囲に「計量ホッパー内の被排出物の重量が下限設定値になるまでは前記重量の減少変化に応じて前記計量ホッパーから定流量排出されるように排出装置への制御信号を制御する」と記載されており、また、同公報の発明の詳細な説明中には、「制御装置本体(8)は、計量ホッパー(2)内の被排出物の重量Wが第2図のように上限設定値WU〜下限設定値WLの間にある場合には、第2のスクリューフィーダ(4)から計量ホッパー(2)への補給を中止して、計量装置(1)から求まる重量Wの単位時間当りの減少重量が設定された一定排出量となるように、または排出開始からの排出総重量が目標値に近づくように、前記モーター制御装置(5)へ出力する制御信号を調節して第1のスクリューフィーダ(3)のモータ(6)の回転速度が制御される・・・・・・」と記載されていることが認められる。
また、証拠(乙2)によれば、本件発明の出願日より以前である昭和六一年五月ころに発行された雑誌「食品機械装置」一九八六年五月号には、連続定量供給装置が紹介されており、その説明中には、「本システムは、供給システム全体(フィーダ、ホッパー、原料)の重量から、原料切り出し後のシステム重量を差し引いた減量分を正確に計量、制御することにより、必要な原料の供給を行う方式。
コントローラーが供給システムの実際の重量減と任意に設定した重量減(すなわち必要とされる原料供給量)とを連続比較して、実際の重量減(すなわち供給量)を常に一定高精度に保持する。」と記載されていることが認められる。
これらの各事実からすれば、少なくとも本件発明の出願時においては、
本件発明の対象となるインフレーション成形装置を含むコンスタントフィードウェア装置の分野において、計量ホッパー(計量釜)内の原料が消費されて減少していく過程において、その重量を継続的に測定し、その測定値に基づいて排出側の装置のモーターを制御し、もって原料使用量をコントロールするという方法は、当業者に慣用された周知技術であったものと認められる。
(二) また、証拠(乙3、乙4)によれば、原告は、本件特許出願の拒絶査定に対する不服審判事件において提出した平成五年四月二八日付審判請求理由補充書において、本件発明の構成の重要点として、「原料消費時間についての計測の起点が『計量釜の上限設定値がオンしてからオフになる瞬間』と規定され、終点が『下限設定値がオンになる瞬間』と規定されているので、上記の一定で正確な重量減少に要する時間が、非常に精密に計測できることである。」(三頁一五〜一九行)と主張し、また、本件特許出願の特許異議申立事件において提出した平成七年五月一二日付特許異議答弁書においても、右と同旨の主張をしたほか、「変動する”単位時間当たりの押出量(いわゆる押出速度)”を如何にリアルタイムに精密・正確に計測するか」がこの分野での制御の重要点である旨指摘した上で、「押出量は、そもそも、原料をブレンドした場合とか、押出機のスクリュの摩耗とか、
押出機の周辺温度が変化した場合とか等の原料条件・押出条件によりその都度変動するもので、最初から一律に設定しておくことはできないものであり、上記変動に応じて常に押出速度を正確に把握できる構成が必要となるものであるが、これを実現するには、単にロードセルを用いた計量が必要なばかりではなく、このロードセルに計時手段をどのように組合せるかという点が非常に重要になる。とくに、押出機が稼働している状態においてここに供給した原料の減少量について計測する場合には、常時減少過程にある状態のものについての計測開始点となる上限設定値を、
どのように正確に検出するか、が重要となっている。これには、上限設定値よりも多い目に供給して上限設定値通過時を把握する構成がどうしても必要となる。本願発明は、この課題を、上記要件B(注・本件における構成要件B@)、C(同構成要件BA)及びD(同構成要件BB)が有機的に関連し合う構成によって解決し得たものである。」として、本件発明における具体的な計時方法について説明した上で、「以上述べた通り、上限設定値及び下限設定値が設定された計量釜と開閉シリンダーと計時手段とが有機的に関連し合う構成によって、初めて、正確な一定重量の減少量(すなわち上限設定値から下限設定値までの重量減少量)の消費時間が”精密に”計測できることとなっている。」と主張していたことが認められる。
(三) 右各事実から明らかなとおり、原料の減少過程において、原料重量を計測し、この値に基づいて押出量(排出量)を制御する方法は、本件発明の出願当時には、本件発明の対象となるインフレーション成形装置を含むコンスタントフィードウェア装置の分野における当業者に周知の慣用技術であったものと認められ、
原告も、本件特許権の出願過程において、本件発明の構成要件Bの各構成を有機的に関連付けたことに本件発明の特徴がある旨自認しているということができる。
したがって、本件発明の本質的部分を、原告が主張するように、計量釜での原料重量を計測する場合、この重量が減少過程、すなわち原料重量データ(w)の値が上限設定値を超える値から次第に減少する過程にある間に計測するという部分であるとすることができないのは明白であり、むしろ、前記一で説明したとおり、本件発明が一定の重量の原料(上限設定値から下限設定値までに消費した重量)を消費する時間を精密計測したデータに基づいて引取速度を制御するという構成を採用していることから、その計測開始、終了時点を、正確に上限設定値、下限設定値となった時点とすることが必須の構成要素とされているものと解され、右構成部分がまさに本件発明の本質的部分であると解するのが相当である。
4 そうすると、前記一3記載のとおりの方法により押出量を制御している被告装置の構成が本件発明と異なる点は、本件発明の本質的部分に係るものということができるから、被告装置は本件発明と均等の範囲にあるということはできず、原告の均等の主張は理由がない。
三 よって、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(平成一二年三月二一日口頭弁論終結)
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 高松宏之
裁判官 水上周