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関連審決 審判1998-1693
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成20行ケ10151審決取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10300審決取消請求事件 判例 特許
平成17ワ2649特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成22行ケ10221審決取消請求事件 判例 特許
平成15行ケ39審決取消請求参加事件 判例 特許
関連ワード 29条1項3号 /  発明の詳細な説明 /  参酌 /  実施 /  拒絶査定 /  誤記の訂正 /  請求の範囲 /  減縮 /  変更 /  釈明 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 17号 審決取消請求事件
原告 【A】
訴訟代理人弁理士 中畑孝
被告 特許庁長官【B】
指定代理人 【C】
同 【D】
同 【E】
同 【F】
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/01/15
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が平成10年審判第1693号事件について平成11年9月17日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 主文と同旨 2 被告 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、平成4年12月28日、名称を「コアレスペーパーロールの製法とこれに用いる装置」とする発明につき特許出願をし(特願平4-359869)、
平成7年6月7日、出願公告されたが、特許異議の申立てがあり、原告は、平成8年6月3日付け手続補正書により、本件特許出願の願書に添付された明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲【請求項1】ないし【請求項3】の補正(以下「第1回補正」という。)をしたが、平成9年12月24日、補正却下の決定及び拒絶査定がされた。原告は、平成10年2月5日、拒絶査定に対する不服の審判を請求し、同年3月9日付け手続補正書により、【請求項3】を削除するとともに、【請求項1】及び【請求項2】の補正(平成6年法律第116号附則6条1項の規定により明細書の補正についてはなお従前の例によるとされ、平成5年法律第26号による改正前の特許法(以下「旧法」という。)161条の3第3項において準用する旧法64条1項の規定に基づくもの。以下「本件補正」という。)をした。特許庁は、同請求を平成10年審判第1693号として審理した結果、平成11年9月17日、本件補正を却下するとともに「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年12月15日、原告に送達された。
2 本件明細書の特許請求の範囲【請求項1】の記載(以下、この発明を「本願発明」という。) (1) 出願公告された本件明細書(以下「公告明細書」という。)のもの ペーパー巻取用の巻取軸を加熱して巻取りに供し、この巻始端に水又は接着剤液を塗布して巻取りを進行させ、上記巻始端に塗布された水又は接着剤液を上記加熱巻取り軸により乾燥して巻芯部に保形層を形成するコアレスペーパーロールの製法。
(2) 本件補正に係る本件明細書(以下「補正後明細書」という。)のもの(公告明細書と比較して補正された部分には下線を付す。) ペーパー巻取用の巻取軸を加熱して巻取りパート における 巻取りに供し、
このペーパー巻始端に水又は接着剤液を塗布して巻取りを進行させ、上記巻始端に塗布された水又は接着剤液を上記加熱巻取り軸により乾燥してペーパー巻芯部に保形層を形成するコアレスペーパーロールの製法において、上記巻取 りが 完了 した ペーパーロール を上記巻取 りパート のペーパーロール 排出側 に設けられた 巻取軸抜 き取りパートヘ 転出 して 巻取軸 の抜去 を行ない 、該抜去 された 巻取軸 をグリッパー にて吊上 げて 上記巻取 りパート の上方 に配された 加熱 パート へ供給 して 上記加熱 を行ない 、該加熱 パート にて 加熱 された 巻取軸 を上記 グリッパー にて 上記巻取 りパートに供給 し上記巻取 りを 行わせるようにした コアレスペーパーロール の製法 。
3 審決の理由 審決の理由は、別添審決書写し記載のとおり、本件補正が公告明細書の本願発明を変更する補正であって旧法17条の3第1項(注、「第3項」は誤記と認める。以下同じ。)に違反するから、同法159条1項において準用する同法54条1項により却下し、そうすると、本願発明は公告明細書記載のものとなり、特開平4-55250号公報記載の発明と同一であるから、特許法29条1項3号により特許を受けることができないというものである。
原告主張の審決取消事由
審決は、本件補正が旧法17条の3第1項所定の特許請求の範囲減縮を目的とするものであるのにその判断を誤り(取消事由1)、本件補正の却下に先立って補正等の機会を与えなかったものであるから(取消事由2)、違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(特許請求の範囲減縮についての判断の誤り) (1) 本件補正は、公告明細書の本願発明に、「上記巻取りが完了したペーパーロールを上記巻取りパートのペーパーロール排出側に設けられた巻取軸抜き取りパートヘ転出して巻取軸の抜去を行ない、該抜去された巻取軸をグリッパーにて吊上げて上記巻取りパートの上方に配された加熱パートヘ供給して上記加熱を行ない、
該加熱パートにて加熱された巻取軸を上記グリッパーにて上記巻取りパートに供給し上記巻取りを行なわせるようにした」という構成(以下「構成A」という。)を付加すること(以下「補正a」という。)を補正の一部とするものであるところ、
審決は、「ところで、構成Aは巻取軸をグリッパーにより3つのパート間を移動させて循環使用する一連の工程(以下、「工程A」という。)に関するものである。
しかるに、公告時の発明には『巻取軸を加熱して巻取りに供する』との構成はあるものの、工程Aに関連する構成は何もない。従って、構成Aが明細書に記載された事項であっても、公告時の発明に工程Aに関連する構成が何もない以上、補正aは公告時の発明を変更する補正、即ち、特許法(注、旧法)第17条の3第1項で規定する、特許請求の範囲減縮誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれにも該当しない補正である。」(審決書3頁10行目〜4頁3行目)と判断しているが、公告明細書の本願発明は構成Aと密接な関連を有しているから、構成Aの付加は公告明細書の特許請求の範囲減縮に当たるというべきである。
(2) 公告明細書(甲第2号証)の特許請求の範囲【請求項1】には、「ペーパー巻取用の巻取軸を加熱して巻取りに供し」と記載されているとおり、巻取軸を加熱する要件と、この加熱した巻取軸を巻取りに供する要件を必須の構成としている。巻取りに供された巻取軸は、抜去されて加熱及び巻取りに供されるものであって、ペーパーロールに巻取軸を挿入したまま市場に供されるものでないことは自明のことである。構成Aは、巻取軸の加熱供給手段の具体例として公告明細書に記載されており、本件補正は、この具体例を公告明細書の特許請求の範囲【請求項1】に付加したものであり、かつ、公告明細書の【請求項1】には、構成Aに関連する構成が存在する。すなわち、構成A中、「巻取軸をグリッパーにて吊上げて上記巻取りパートの上方に配された加熱パートヘ供給して上記加熱を行ない」の構成は、
公告明細書の特許請求の範囲【請求項1】中の「ペーパー巻取用の巻取軸を加熱し」の構成に関連し、構成A中、「加熱された巻取軸を上記グリッパーにて上記巻取りパートに供給し」は、【請求項1】中の「巻取軸を加熱して巻取りに供し」の構成に関連し、構成A中、「上記巻取りを行なわせる」は、【請求項1】の「この巻始端に水又は接着剤液を塗布して巻取りを進行させ」の構成に関連する。また、
巻取軸の加熱供給の前提として抜去工程を伴うことは、自明のことである。
仮に、公告明細書の特許請求の範囲【請求項1】に構成Aに関連する構成が記載されていないとしても、構成Aは、ロールの巻心部に保形層を形成する上で発明の中核的構成を成す「ペーパー巻取用の巻取軸を加熱して巻取りに供し・・・巻取りを進行させ」の構成を更に具体的に限定し、その目的の達成に資するものであるから、【請求項1】に構成Aを付加する本件補正は、公告明細書の本願発明の目的に照らし、特許請求の範囲減縮に当たるというべきである。
したがって、公告時の本願発明に構成Aに関連する構成は何もないとした上で本件補正を特許請求の範囲変更とした審決の判断は誤りである。
2 取消理由2(補正等の機会を付与しなかった違法) 本件においては、【請求項1】ないし【請求項3】を補正した第1回補正に対し、従属請求項である【請求項3】の変更を理由とする補正却下及び拒絶査定が同時にされた。原告は、【請求項3】が補正却下の理由となったため、拒絶査定に対する不服の審判を請求するとともに、補正却下の理由である【請求項3】を削除し、【請求項1】及び【請求項2】を補正する本件補正を行ったところ、本件補正に対しては、審判手続において何らの抗弁の機会が与えられることなく、本件補正の却下及び請求不成立の審決が同時にされた。拒絶査定に対する不服の審判における補正却下に対しても、当該審判中において不服を申し立てる機会を付与することが必要であると解されるが、本件においては、本件補正却下に対する抗弁の機会が与えられておらず、審決には、補正却下に先立って補正等の機会を付与しなかった違法がある。
被告の反論
1 取消事由1(特許請求の範囲減縮についての判断の誤り)について (1) 巻取軸に巻き取られるペーパーの巻始端に接着剤液を塗布してロールを形成するだけの従来のコアレスペーパーロールの製法においては、塗布された接着剤液が周囲の巻層に含浸し、巻取りに要する短い時間内では十分に乾燥せず、巻取軸を抜去した後も巻芯部の層に水分を含んだまま残留してロール中心孔のつぶれを生ずるという問題点があった。公告明細書の本願発明は、この課題の解決を目的とするものであって、公告明細書の本願発明の構成を採用することにより、軸孔から巻取軸を抜去した後もこの軸孔が健全に保形されたコアレスペーパーロールを製造することができるという作用効果を奏するものである。すなわち、公告明細書の本願発明においては、巻芯部に乾燥された保形層を形成するという工程をもって、コアレスペーパーロールの製法が完結しているのである。補正後明細書の本願発明の工程に照らすと、構成Aは、ペーパーロールが完成した後に巻取軸を抜去しこれを次の巻取りに供するまでの工程に係るものであり、巻取りが完了した後の完成したペーパーロールとその巻取軸に対する操作を行うものである。補正後明細書の本願発明では、ペーパーロールの完成後の工程を、「巻取軸抜き取りパート」、「加熱パート」及び「巻取りパート」という三つのパートから構成するが、公告明細書の本願発明の構成には、巻取りが完了した後の工程は含まれておらず、同工程に係る構成Aに関連するものは何もない。このように、公告明細書の本願発明には、構成Aの付加を特許請求の範囲減縮と解すべき構成が存在しないから、公告明細書の本願発明に構成Aを付加することを含む本件補正は、公告明細書の特許請求の範囲減縮することを目的とするものに該当しない。
(2) 構成Aが公告明細書に記載されているからといって、それが公告明細書の本願発明の実施例であるとはいえない。また、構成Aが公告明細書の本願発明の構成に関連するからといって、構成Aが公告明細書の本願発明の構成を限定したものであるとはいえない。公告明細書の本願発明の構成には、巻取軸の抜去工程は含まれておらず、抜去工程や加熱工程をどのようにするかは何ら問題とされていない。
仮に、公告明細書の本願発明が抜去工程や巻取軸の加熱工程を伴うものであるとしても、補正後明細書の本願発明のように、巻取軸の抜去を巻取軸抜取りパートで行うことは自明ではないし、まして、これを巻取りパートのペーパーロール排出側に設けられた巻取軸抜き取りパートで行うこと、さらには、抜去された巻取軸をグリッパーで吊り上げて巻取りパートの上方に配された加熱パートヘ供給して加熱を行ない、加熱パートで加熱された巻取軸をグリッパーで巻取りパートに供給することは自明ではない。
(3) 補正後明細書の本願発明は、巻取軸を抜去した後も接着剤液が巻芯部の層に水分を含んだまま残留してロール中心孔のつぶれを生ずるという課題の解決を目的とするとともに、巻取軸にペーパーを巻き取り、巻取り済みペーパーロールから巻取軸を抜去し、抜去巻取軸を回収して加熱部へ供給して加熱し、加熱済巻取軸を加熱部から上記ペーパー巻取り部へ供給するという一連の工程を、環状サイクルをもって合理的に遂行し、コアレスペーパーロールの生産の自動化と生産性の向上に寄与することを目的とするものであるが、後者の目的は公告明細書に何ら記載されておらず、補正後明細書の本願発明は、発明の目的等において、公告明細書のものを逸脱しているから、本件補正が特許請求の範囲減縮を目的とするものということはできない。
2 取消理由2(補正等の機会を付与しなかった違法)について 原告は、本件訴訟の第2回弁論準備手続において、審決取消事由として本件補正却下の違法のみを主張すると陳述しているから、取消事由2の主張は、これに反して許されず、また、時機に後れた攻撃防御方法であるという点においても、これを主張することは許されない。さらに、本件補正は、拒絶査定に対する不服の審判においてされているから、補正却下に先立ってその理由を出願人に告知すべき法令上の根拠はない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(特許請求の範囲減縮についての判断の誤り)について (1) 審決(甲第1号証)は、「ところで、構成Aは巻取軸をグリッパーにより3つのパート間を移動させて循環使用する一連の工程(以下、『工程A』という。)に関するものである。しかるに、公告時の発明には『巻取軸を加熱して巻取りに供する』との構成はあるものの、工程Aに関連する構成は何もない。従って、
構成Aが明細書に記載された事項であっても、公告時の発明に工程Aに関連する構成が何もない以上、補正aは公告時の発明を変更する補正・・・である。」(3頁10行目〜4頁3行目)と認定判断する。
しかしながら、公告明細書(甲第2号証)の特許請求の範囲【請求項1】には、「ペーパー巻取用の巻取軸を加熱して巻取りに供し」と記載されているが、
同【請求項1】には、準備されるべき巻取軸について何ら限定が付されていないのであるから、公告明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載を参酌して巻取軸の意味を解釈すべきである。公告明細書(甲第2号証)には、「【0019】上記巻取軸4の供給手段としてグリッパー12を備える。後に図9に基づき説明するように、上記グリッパー12は巻取軸4を回収する軸抜去位置と上記供給位置間において往復動可能であり、軸抜去位置と供給位置間に加熱パートHを設け前記巻取りが進行している間この加熱パートHにおいて、次に供給される巻取軸4の加熱を行なう。【0020】而してグリッパー12はこの加熱パートHにおいて待機し、この加熱位置から供給位置へ下降し、供給位置にて巻取軸4を開放し駆動ロール1、2間に供給するのである。」(4欄40行目〜末行)、「【0026】図8、図9に示すように、上記軸受け15、17間に横架された巻取軸4はその両端を前記グリッパー12によりクランプして吊上げ、駆動ロール1、2の上方に配した加熱パートHへ持ち来す。【0027】図9に示すように上記グリッパー12は巻取軸抜去パートBから巻取軸4を回収して加熱パートHに供給し、更に加熱済の巻取軸4を加熱パートHから巻取パートAに供給する手段である。」(5欄43行目〜末行)との記載があり、これらの記載及び図9によれば、構成Aは公告明細書に記載されていると認められる。
そうすると、本件補正は、公告明細書に記載された事項である構成Aを付加するものであり、公告明細書の特許請求の範囲【請求項1】において限定のなかった「巻取軸」を「工程Aにおいて抜去された巻取軸」に限定するものであって、
特許請求の範囲減縮に当たるということができる。
(2) 被告は、公告明細書の本願発明は、巻取りが完了するまでの工程を規定したものであり、その後の工程である構成Aに関連する構成は何もないと主張する。
しかしながら、公告明細書(甲第2号証)の発明の詳細な説明にも、「【0001】【産業上の利用分野】この発明は芯管を有しないコアレスペーパーロール、例えばコアレストイレットペーパーロールの製法とその製造装置と巻取軸に関する。」(2欄2行目〜5行目)と記載されている。コアレスペーパーロールを製造するためには、巻芯部に保形層を形成し、かつ、「コアレス」にしなければならないから、公告明細書の本願発明は、得られた保形層にペーパーを巻く工程に加え、
ペーパー巻取終了後に巻取軸を抜去する工程を含んでいるというべきである。
また、公告明細書(甲第2号証)には、「【0010】又巻取軸を前記構成とすることによりぺーパーロールより巻取軸を抜去して再度巻取手段に供給する工程中において、軸両端に電極対を充てがうのみで再加熱作業が適正且つ容易に遂行できる。」(3欄33行目〜36行目)、「【0036】又巻取軸を前記構成とすることによりぺーパーロールより巻取軸を抜去して再度巻取手段に供給する工程中において、軸両端に電極対を充てがうのみで再加熱作業が適正且つ容易に遂行できる。」(7欄9行目〜12行目)と記載され、これらの記載によれば、巻取軸を循環使用する一連の工程を、再加熱作業が適正かつ容易に遂行することができるという本願発明の作用効果の前提としていることが認められる。したがって、公告明細書の本願発明の構成は、上記一連の工程を排除していないと解される。そうすると、保形層にペーパーを巻く工程、巻取軸を抜去する工程、その抜去工程と巻取軸を加熱する工程をつなぐ工程が公告明細書の特許請求の範囲【請求項1】に明示的に記載されていなくとも、それらの工程である構成Aを公告明細書の本願発明の構成に付加することが、特許請求の範囲減縮に当たらないというべきでないことは明らかである。
(3) 被告は、仮に公告明細書の本願発明が巻取軸の抜去工程及び加熱工程を伴うものであるとしても、補正後明細書の本願発明のように、巻取軸の抜去を巻取軸抜取りパートで行うことは自明ではなく、公告明細書の本願発明の構成には、構成Aにおける「巻取軸抜き取りパート」、「加熱パート」及び「巻取りパート」の工程は含まれていないと主張する。
しかしながら、公告明細書(甲第2号証)には、「【0023】而して、
図5に示すように巻終端を接着したペーパーロール5’は巻取軸4の抜き取りパートへ転出する。」(5欄20行目〜22行目)、「【0033】斯くして通電加熱された巻取軸4は前記の通り、グリッーパー12にてクランプされ所定のタイミングを以て加熱パートHから巻取パートに供給されるのである。」(6欄39行目〜42行目)との記載がある。前記のとおり、構成Aの付加は公告明細書の特許請求の範囲【請求項1】において限定の付されていない「巻取軸」の要件について、これを「工程Aにおいて抜去された巻取軸」に限定するものであり、上記公告明細書の記載によれば、工程Aを構成する各パートが公告明細書の特許請求の範囲に明示的に記載されていなくとも、本件補正が特許請求の範囲減縮ということの妨げとなるものではない。
なお、「パート」の用語は、公告明細書の発明の詳細な説明において使用されているものであり、補正によりその用語を特許請求の範囲に記載することに問題はなく、また、公告明細書(甲第2号証)の特許請求の範囲【請求項1】には、
「ペーパー巻取用の巻取軸を加熱して巻取りに供し」と記載されており、「加熱」と「巻取り」の工程を単に区別する「パート」の用語を使用することは、両工程の内容以上に特段の意味を有するものではないから、この点においても、本件補正が特許請求の範囲減縮であるということに問題はない。
(4) 以上のとおりであるから、本件補正が特許請求の範囲減縮とはいえず公告明細書の本願発明を変更するものであるとした審決の認定判断は、誤りというべきである。
(5) 被告は、補正後明細書の本願発明は、巻取軸を抜去した後も接着剤液が巻芯部の層に水分を含んだまま残留してロール中心孔のつぶれを生ずるという課題の解決を目的とするとともに、巻取軸にペーパーを巻き取り、巻取り済みペーパーロールから巻取軸を抜去し、抜去巻取軸を回収して加熱部へ供給して加熱し、加熱済巻取軸を加熱部から上記ペーパー巻取り部へ供給するという一連の工程を、環状サイクルをもって合理的に遂行し、コアレスペーパーロールの生産の自動化と生産性の向上に寄与する目的を有するとした上、後者の目的は公告明細書に何ら記載されていないから、補正後明細書の本願発明は、発明の目的等において、公告明細書を逸脱していると主張する。
しかしながら、公告明細書(甲第2号証)には、「【0008】【作用】この発明によればぺーパーの巻始端に塗布した水又は接着剤液を上記加熱巻取軸にぺーパーを巻取ってロールを形成する間、速やかに乾燥して巻芯部、即ち、巻取軸が抜去された孔の周囲に層間結合が強化され適度に剛性が付与された層を形成して軸孔を保形し、この軸孔から巻取軸を抜去後もこの軸孔を健全に保形する。【0009】上記によってコアレスペーパーロールの中心に径の大きな軸孔を確実に形成し、この軸孔をぺーパーホルダーの軸挿入孔として有効に適用できる。【0010】又巻取軸を前記構成とすることによりぺーパーロールより巻取軸を抜去して再度巻取手段に供給する工程中において、軸両端に電極対を充てがうのみで再加熱作業が適正且つ容易に遂行できる。」(3欄23行目〜36行目)、「【0035】【発明の効果】この発明によれば、トイレットペーパーロールの如きロールの巻芯部(巻取軸が挿入された軸孔の周り)に適度な剛性を付与した保形層を形成し、これにより上記軸孔を保形し、巻取軸を抜去後もこの軸孔を健全に保形することができ、これをトイレットに設置するぺーパーホルダーの軸挿入孔として有効に適用できる。これによってつぶれを惹起しない大口径の軸孔を持った、所謂コアレスペーパーロールが適切に量産できるようになったものである。【0036】又巻取軸を前記構成とすることによりぺーパーロールより巻取軸を抜去して再度巻取手段に供給する工程中において、軸両端に電極対を充てがうのみで再加熱作業が適正且つ容易に遂行できる。」(6欄49行目〜7欄12行目)との記載があり、これらの記載によれば、コアレスペーパーロールの製法である一連の工程を環状サイクルで行うことが認められる。また、公告明細書(甲第2号証)には、「【0006】その手段として、ぺーパー巻取用の巻取軸を所要温度に加熱して巻取りに供し、この巻始端に水又は接着剤液を塗布して巻取りを進行させ、上記巻始端に塗布された水又は接着剤液を上記加熱巻取軸にて乾燥し、巻芯部に剛性を付与するようにしたコアレスペーパーロールの製法を提供する。」(3欄13行目〜18行目)との記載があり、この記載及び前記【0035】の「これによってつぶれを惹起しない大口径の軸孔を持った、所謂コアレスペーパーロールが適切に量産できるようになったものである。」との記載によれば、公告明細書の本願発明は、環状サイクルを含んでコアレスペーパーロールを適切に量産する製法であることが認められる。そのような量産製法において、製造工程を合理的に遂行し、生産の自動化と生産性の向上に寄与し、コストダウンを達成することは、当然のことであるから、本件明細書の特許請求の範囲【請求項1】について、公告明細書の発明の詳細な説明に記載されている一連の工程を付加するとともに、これに伴う当然の目的等を発明の詳細な説明に記載することは、公告明細書の本願発明の目的等を変更することにはならない。
2 以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由1は理由があり、この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、その余の点につき判断するまでもなく、審決は取消しを免れない。
よって、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民訴法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 長沢幸男
裁判官 宮坂昌利