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関連審決 異議1999-70611
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成20行ケ10151審決取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10300審決取消請求事件 判例 特許
平成17ワ2649特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成22行ケ10221審決取消請求事件 判例 特許
平成15行ケ39審決取消請求参加事件 判例 特許
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  発明の詳細な説明 /  明瞭でない記載 /  技術的意義 /  実施 /  設定登録 /  拒絶理由通知 /  誤記の訂正 /  訂正の目的 /  請求の範囲 /  減縮 /  拡張 /  変更 /  釈明 /  独立特許要件 /  訂正明細書 /  取消決定 /  異議申立 /  追認 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 116号 特許取消決定取消請求事件
原告 三谷セキサン株式会社
訴訟代理人弁理士 鈴木正次、涌井謙一
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 鈴木憲子、大野覚美、茂木静代、幸長保次郎
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/07/17
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が平成11年異議第70611号事件について平成12年2月10日にした決定を取り消す。」との判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告は、特許第2789379号(本件特許)発明(名称「ボーリングデーターの表示方法」、平成2年8月9日出願、平成10年6月12日設定登録。本件発明)の特許権者である。本件特許については特許異議があり、異議手続において取消理由通知があり、その指定期間内の平成11年8月30日に訂正請求があった後、訂正拒絶理由通知があり、それに対して平成11年12月21日付けで手続補正書が提出されたが、平成12年2月10日、「特許第2789379号の請求項1ないし3に係る特許を取り消す。」との決定があり、その謄本は同年3月13日原告に送達された。
2 本件発明の要旨 (1) 訂正請求前のもの【請求項1】標準貫入試験におけるN値と、対応深度における掘削機の使用電流値とを対比して表示することを特徴としたボーリングデーターの表示方法 【請求項2】N値には、これに対応する土質名を深度別に対比付記した請求項1記載のボーリングデーター表示方法 【請求項3】標準貫入試験におけるN値と、対応深度における掘削機の使用トルク値とを対比して表示することを特徴としたボーリングデーターの表示方法 (2) 訂正後のもの 1 同一現場の標準貫入試験におけるN値と、対応深度における、杭穴掘削時の掘削機の使用電流値とを、掘削杭穴の深度別土質を把握して、杭穴掘削中に適切な対応をとるために、杭穴掘削と同時に対比して表示し、蓄積することを特徴としたボーリングデーターの表示方法 2 N値には、これに対応する土質名を深度別に対比付記した請求項1記載のボーリングデーター表示方法 3 同一現場の標準貫入試験におけるN値と、対応深度における、杭穴掘削時の掘削機の使用トルク値とを、掘削杭穴の深度別土質を把握して、杭穴掘削中に適切な対応をとるために、杭穴掘削と同時に対比して表示し、蓄積することを特徴としたボーリングデーターの表示方法 3 決定の理由の要点 (1) 訂正請求及び補正について (1)-1 訂正請求に対する補正の適否について 原告(特許権者)が行った訂正請求に対する補正は、
イ.訂正請求書中の訂正事項bについて、『「掘削機の使用電流値」とあるを「掘削時の掘削機の使用電流値」と訂正する。』を誤記の訂正を目的として、『請求項1にあっては「掘削機の使用電流値」とあるを「杭穴掘削時の掘削機の使用電流値」と訂正し、請求項3にあっては「掘削機の使用トルク値」とあるを「掘削時の掘削機の使用トルク値」と訂正する。』と補正し、
ロ.訂正請求書中の訂正事項cについて、『「掘削杭穴の深度別土質を把握するために、杭穴掘削と同時に対比して表示し、蓄積する」と訂正する。』を特許請求の範囲減縮を目的として、『「掘削杭穴の深度別土質を把握して、杭穴掘削中に適切な対応をとるために、杭穴掘削と同時に対比して表示し、蓄積する」と訂正する。』と補正し、
ハ.訂正請求書中の訂正事項dに関連して、全文訂正明細書の「課題を解決する為の手段」中「即ちこの発明は、同一現場の標準貫入試験におけるN値と、同一深度における、掘削時の掘削機の使用電流値とを、掘削杭穴の深度別土質を把握するために、杭穴掘削と同時に対比して表示し、蓄積することを特徴としたボーリングデーターの表示方法である。また、N値には、これに対応する土質名を深度別に対比付記したものである。次に他の発明は、同一現場の標準貫入試験におけるN値と、対応深度における、杭穴掘削時の掘削機の使用トルク値とを、掘削杭穴の深度別土質を把握するために、杭穴掘削と同時に対比して表示し、蓄積することを特徴としたボーリングデーターの表示方法である。」を、明瞭でない記載釈明を目的として、「即ちこの発明は、同一現場の標準貫入試験におけるN値と、同一深度における、杭穴掘削時の掘削機の使用電流値とを、掘削杭穴の深度別土質を把握して、杭穴掘削中に適切な対応をとるために、杭穴掘削と同時に対比して表示し、蓄積することを特徴としたボーリングデーターの表示方法である。また、N値には、
これに対応する土質名を深度別に対比付記したものである。次に他の発明は、同一現場の標準貫入試験におけるN値と、対応深度における、杭穴掘削時の掘削機の使用トルク値とを、掘削杭穴の深度別土質を把握して、杭穴掘削中に適切な対応をとるために、杭穴掘削と同時対比して表示し、蓄積することを特徴としたボーリングデーターの表示方法である。」と補正し、
ニ.訂正請求書中の訂正事項gについて、『「掘削時の杭穴内の土質名を推定し得る」と訂正する。』を明瞭でない記載釈明を目的として、『「杭穴掘削時の杭穴内の土質名を推定し得る」と訂正する。』と補正し、
ホ.訂正請求書中の訂正事項iについて、『「各杭穴の掘削中に適切な対応を取り、基礎における総耐力を正確に推定する・・・」と訂正する。』を明瞭でない記載釈明を目的として、『「また、深度別使用電流値又はトルク値を記憶蓄積したので、各杭穴の掘削中に適切な対応を取り、基礎における総耐力を正確に推定する・・・」と訂正する。』と補正するものであり、
当該訂正請求に対する補正イは、誤記の訂正に該当し、補正ロは、訂正請求書に添付した明細書又は図面を基準とし、特許請求の範囲減縮に該当するものであり、補正ハ〜ホは、いずれも、誤記の訂正及び減縮された特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るためのもので、明瞭でない記載釈明に該当するものであり、さらに、いずれの補正も、訂正請求書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内の補正であり、しかも、訂正請求書に添付した明細書又は図面における特許請求の範囲を実質上拡張し、又は変更するものではないから、訂正請求書の要旨を変更するものではなく、当該訂正請求に対する補正は、特許法120条の4第3項で更に準用する同法131条2項の規定に適合する。
(1)-2 訂正の要旨 訂正事項イ:特許請求の範囲を、特許請求の範囲減縮を目的として、次のように訂正する。
「1 同一現場の標準貫入試験におけるN値と、対応深度における、杭穴掘削時の掘削機の使用電流値とを、掘削杭穴の深度別土質を把握して、杭穴掘削中に適切な対応をとるために、杭穴掘削と同時に対比して表示し、蓄積することを特徴としたボーリングデーターの表示方法 2 N値には、これに対応する土質名を深度別に対比付記した請求項1記載のボーリングデーター表示方法 3 同一現場の標準貫入試験におけるN値と、対応深度における、杭穴掘削時の掘削機の使用トルク値とを、掘削杭穴の深度別土質を把握して、杭穴掘削中に適切な対応をとるために、杭穴掘削と同時に対比して表示し、蓄積することを特徴としたボーリングデーターの表示方法」 訂正事項ロ:特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、明瞭でない記載釈明を目的として、本件明細書の2頁16行〜3頁4行の「即ちこの発明は、同一現場の標準貫入試験におけるN値と、同一深度における、
掘削時の掘削機の使用電流値とを、掘削杭穴の深度別土質を把握するために、杭穴掘削と同時に対比して表示し、蓄積することを特徴としたボーリングデーターの表示方法である。また、N値には、これに対応する土質名を深度別に対比付記したものである。次に他の発明は、同一現場の標準貫入試験におけるN値と、対応深度における、杭穴掘削時の掘削機の使用トルク値とを、掘削杭穴の深度別土質を把握するために、杭穴掘削と同時に対比して表示し、蓄積することを特徴としたボーリングデーターの表示方法である。」という記載を、「即ちこの発明は、同一現場の標準貫入試験におけるN値と、同一深度における、杭穴掘削時の掘削機の使用電流値とを、掘削杭穴の深度別土質を把握して、杭穴掘削中に適切な対応をとるために、
杭穴掘削と同時に対比して表示し、蓄積することを特徴としたボーリングデーターの表示方法である。また、N値には、これに対応する土質名を深度別に対比付記したものである。次に他の発明は、同一現場の標準貫入試験におけるN値と、対応深度における、杭穴掘削時の掘削機の使用トルク値とを、掘削杭穴の深度別土質を把握して、杭穴掘削中に適切な対応をとるために、杭穴掘削と同時対比して表示し、
蓄積することを特徴としたボーリングデーターの表示方法である。」と訂正する。
訂正事項ハ:特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、明瞭でない記載釈明を目的として、本件明細書の3頁5〜9行の「N値と電流値又はトルク値とを対比表示」という記載を、「杭穴掘削時にN値と電流値又はトルク値とを対比表示」と訂正し、「明確になり、適切な対応をとることができる」という記載を、「明確になり、杭穴掘削時に適切な対応をとることができる」と訂正する。
訂正事項ニ:特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、明瞭でない記載釈明を目的として、本件明細書の5頁11〜16行の「深度別対比表示するので、グラフの変化傾向を読むことにより標準貫入試験における既知の土質名を基準にして掘削電流値の変化から杭穴内の土質名を推定し得る効果がある。従って、各杭穴共に深度方向の土質が明らかになる為に、基礎における総耐力を正確に推定する」という記載を、「杭掘削時に、深度別対比表示するので、グラフの変化傾向を読むことにより標準貫入試験における既知の土質名を基準にして掘削電流値の変化から、杭穴掘削時の杭穴内の土質名を推定し得る効果がある。よって各杭穴の表示を総合的にすれば、例えば基礎杭構築現場の全地層を高精度で推定できる効果がある。従って、各杭穴共に深度方向の土質が明らかになる為に、また深度別使用電流値又はトルク値を記憶蓄積したので、各杭穴の掘削中に適切な対応を取り、基礎における総耐力を正確に推定する」と訂正する。
(1)-3 訂正の適否 A.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張変更の存否 上記訂正事項イに係る訂正は、特許請求の範囲減縮を目的とするものであり、
しかもその訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、さらに、実質上特許請求の範囲拡張し、又は変更するものではない。
また、訂正事項ロ〜ニに係る訂正は、訂正事項イに関連してなされた明瞭でない記載釈明に該当し、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、さらに、実質上特許請求の範囲拡張し、又は変更するものではない。
B.独立特許要件の判断 イ.訂正明細書の請求項1〜3に係る発明 訂正明細書の請求項1及び2に係る発明は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された以下のとおりのものである(以下、「訂正後発明1」、「訂正後発明2」及び「訂正後発明3」という。)。
「1 同一現場の標準貫入試験におけるN値と、対応深度における、杭穴掘削時の掘削機の使用電流値とを、掘削杭穴の深度別土質を把握して、杭穴掘削中に適切な対応をとるために、杭穴掘削と同時に対比して表示し、蓄積することを特徴としたボーリングデーターの表示方法 2 N値には、これに対応する土質名を深度別に対比付記した請求項1記載のボーリングデーター表示方法 3 同一現場の標準貫入試験におけるN値と、対応深度における、杭穴掘削時の掘削機の使用トルク値とを、掘削杭穴の深度別土質を把握して、杭穴掘削中に適切な対応をとるために、杭穴掘削と同時に対比して表示し、蓄積することを特徴としたボーリングデーターの表示方法」 ロ.引用例記載の発明 訂正後発明1〜3に対して、異議手続における訂正拒絶理由通知で引用した、基礎工 1986年10月号 第14巻第10号(昭和61年10月15日発行)(株)総合土木研究所 p.104,105 (引用例)には、
a.「本工法は、打込み工法と同様に直接地盤に回転押込みさせるので、既成杭の先端に閉塞逆円錐体状で複数のカッターを設けた先端金具(写真-1参照)を取付けて、杭中空部に挿入したロッドを介して、先端金具と杭体を回転させることにより、搭載荷重及び先端金具の錐状効果と、先端より噴出される圧力水の効果を併用して、地盤を周辺に押付けながら回転押込みを行うと同時に、杭の貫入中は、自動計測記録装置Automatic Recording System(ARシステム)により、杭の回転押込み状況と先端地盤の性状を記録させることができる工法である。
2.2 自動計測記録装置(ARシステム) ARシステムは、杭が地中に回転押込みされながら自然貫入する状態での貫入状況と地盤抵抗を示す計測記録は、地盤の力学的性状を反映したものと考えられる。
ARシステムで自動計測される諸数値は次のものである(図-1参照)。
1) 杭の回転押込み深度 S(m) 2) オーガーの負荷電流 A(Amp) 3) 杭の回転数 R(rpm) 4) 杭の押込み時間 T(min) 5) 噴出水圧 P(kg/cm2) これらの数値を組合わせることにより、A,Tは土質柱状図との相関性が考えられ、下記の事項の判断が可能となる。
○貫入深度と貫入状況の測定 ○先端地盤性状の連続的な測定 ○支持層の確認と支持層への貫入量の測定 ○砂質土、粘性土の判断 ○地盤と透水性の関連性の測定 ○地盤変化に対応した測定 ○A,Tの数値からN値の推定 ○A,T,Pの数値から支持力の推定」 (104頁左欄下から7行〜右欄27行参照) b.「この記録により、杭先端地盤の状況と貫入状況を逐次連続的に把握して、
支持層地盤の位置を確認し、所定長を根入れしたことを計測記録して、支持地盤に杭を回転押込み定着させる。ARの記録は、設計図書に基づいた土質柱状図と対比して、支持層位置、根入れ長等の確認をし、杭長等の変更の資料として、その施工現場で役立つことができる記録である。」(105頁左欄下から8行〜最下行参照) c.「杭に先端金具を取付け、杭を回転させ、直接地盤に回転押込むという独特な方法で杭を貫入させ、地盤性状を把握できる」(105頁右欄2〜4行参照) という記載があり、これらの記載及び105頁図-1の自動計測記録(ARの記録)を参照すると、「杭の貫入中のオーガーの負荷電流、杭の押込み時間及び杭の回転数を自動計測し、対応深度における、オーガーの負荷電流、杭の押込み時間を杭の回転押込みと同時に自動計測記録装置(ARシステム)により計測記録し、この記録により、杭先端地盤の状況と貫入状況を逐次連続的に把握すると共に、同一現場の標準貫入試験におけるN値と、オーガーの負荷電流及び杭の押込み時間の数値から推定されたN値も、図-1のように表示し、ARの記録は、杭長等の変更の資料として、その施工現場で役立てるボーリングデーターの表示方法及び、標準貫入試験N値に対応する土質名を深度別に対比付記した表示方法」が記載されていると認められる。
ハ.訂正後発明1、2に対しての対比・判断 本件訂正後発明1、2と引用例に記載された発明(引用発明)とを比較すると、
引用発明の「オーガー」、「杭の貫入中」及び「オーガーの負荷電流及び杭の押込み時間の数値から推定されたN値」は、訂正後発明1、2の「掘削機」、「杭穴掘削時」及び「掘削杭穴の深度別土質」に相当し、また、引用発明における「オーガーの負荷電流値」と、訂正後発明1、2の「掘削機の使用電流値」は、対応深度における、杭穴掘削時の掘削機の、標準貫入試験におけるN値と対比して表示する「対比数値」であることで共通しており、さらに、引用発明におけるARの記録は、杭長等の変更の資料として、その施工現場で役立てるということは、蓄積することであるから、両者は、同一現場の標準貫入試験におけるN値と、対応深度における、杭穴掘削時の掘削機の対比数値とを、杭穴掘削と同時に対比して表示し、蓄積し、またN値には、これに対応する土質名を深度別に対比付記したボーリングデーターの表示方法の点で一致し、下記の点で相違している。
a.対比数値が、訂正後発明1、2では掘削機の使用電流値であるのに対し、引用発明では掘削機の負荷電流値である点。
b.同一現場の標準貫入試験におけるN値と、対応深度における、杭穴掘削時の掘削機の対比数値とを、杭穴掘削と同時に対比して表示し、蓄積するのは、訂正後発明1、2では、掘削杭穴の深度別土質を把握して、杭穴掘削中に適切な対応をとるためであるのに対し、引用発明では、そのような目的であるか否かはっきりしない点。
相違点aについて検討すると、原告は意見書で、訂正後発明1、2の「使用電流値」は、引用発明の「負荷電流値」とは異なり、「積算電流値」であると述べているが、特許請求の範囲においてそのような限定はない。仮に、使用電流値が積算電流値であったとしても、引用発明においても、負荷電流値と時間は同時に計測されており、引用発明の負荷電流値を、同時に計測された時間により積算電流値とすることは、当業者が容易になし得ることにすぎないから、引用発明の「負荷電流値」は、訂正後発明1、2の「使用電流値」に相当すると解される。
次に、相違点bについて検討すると、引用発明においても、杭貫入と同時に杭の回転押込み状況と先端地盤の性状を記録させ、この記録により杭先端地盤の状況と貫入状況を逐次連続的に把握しており、これを、杭穴掘削中に適切な対応をとるために使用することは、当業者が容易になし得ることにすぎない。
そして、全体として訂正後発明1、2の奏する効果も、引用発明から予測し得る程度のもので、格別顕著でない。
ニ.訂正後発明3に対しての対比・判断 本件訂正後発明3と引用発明とを比較すると、引用発明の「オーガー」、「杭の貫入中」及び「オーガーの負荷電流及び杭の押込み時間の数値から推定されたN値」は、訂正後発明3の「掘削機」、「杭穴掘削時」及び「掘削杭穴の深度別土質」に相当し、また、引用発明における「オーガーの負荷電流値及び杭の押込み時間」と、訂正後発明3の「掘削機の使用トルク値」は、対応深度における、杭穴掘削時の掘削機の、標準貫入試験におけるN値と対比して表示する「対比数値」であることで共通しており、さらに、引用発明におけるARの記録は、杭長等の変更の資料として、その施工現場で役立てるということは、蓄積することであるから、両者は、同一現場の標準貫入試験におけるN値と、対応深度における、杭穴掘削時の掘削機の対比数値とを、杭穴掘削と同時に対比して表示し、蓄積するボーリングデーターの表示方法の点で一致し、下記の点で相違している。
c.同一現場の標準貫入試験におけるN値と、対応深度における、杭穴掘削時の掘削機の対比数値とを、杭穴掘削と同時に対比して表示し、蓄積するのは、訂正後発明3では、掘削杭穴の深度別土質を把握して、杭穴掘削中に適切な対応をとるためであるのに対し、引用発明では、そのような目的であるか否かはっきりしない点。
d.対比数値が、訂正後発明3では掘削機の使用トルク値であるのに対し、引用例には使用トルク値に関しての記載がない点。
相違点cについては、訂正後発明1、2に対しての対比・判断で検討したとおりであり、また、相違点dについて検討すると、掘削機の使用トルク値は、掘削機の負荷電流値と回転数等のパラメータにより求めることができるものであり、引用発明において自動計測される諸数値の一つに杭の回転数(オーガー付きの杭であるから掘削機の回転数となる)があること、及び、本件特許公報2頁4欄17〜19行にも記載されているように、「トルク値と電流値とは一定の比較関係にあるので、
N値とトルク値についてもN値と電流値と同様の対比関係が成立する。」ことから、引用発明の負荷電流値に代えて使用トルク値を用いて表示することは、当業者が容易になし得る程度のことである。
そして、全体として訂正後発明3の奏する効果も、引用発明から予測し得る程度のもので、格別顕著でない。
ホ.独立特許要件判断のむすび したがって、訂正後発明1〜3は、いずれも、引用発明から、当業者が容易に発明できたものであり、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
C.訂正の適否のむすび 以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則6条1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法120条の4第3項で更に準用する特許法126条4項の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。
(2) 異議の申立てについての判断 (2)-1 本件発明 本件特許の請求項1〜3に係る発明(以下、「本件発明1」、「本件発明2」及び「本件発明3」という。)は、特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された次の事項により構成されるとおりのものである。
「【請求項1】標準貫入試験におけるN値と、対応深度における掘削機の使用電流値とを対比して表示することを特徴としたボーリングデーターの表示方法【請求項2】N値には、これに対応する土質名を深度別に対比付記した請求項1記載のボーリングデーター表示方法【請求項3】標準貫入試験におけるN値と、対応深度における掘削機の使用トルク値とを対比して表示することを特徴としたボーリングデーターの表示方法 」 (2)-2 引用例記載の発明 異議手続における取消理由通知において引用した引用例(基礎工 1986年10月号 第14巻第10号(昭和61年10月15日)(株)総合土木研究所 p.104,105)にはそれぞれ上記(1)-3のB.ロ.に記載したとおりの発明が記載されている。
(2)-3 本件発明1及び2に対しての対比・判断 本件発明1と引用発明とを比較すると、引用発明の「オーガー」は、本件発明1及び2の「掘削機」」に相当し、また、引用発明における「オーガーの負荷電流値」と、本件発明1及び2の「掘削機の使用電流値」は、対応深度における、標準貫入試験におけるN値と対比して表示する「対比数値」であることで共通しているから、両者は、標準貫入試験におけるN値と、対応深度における掘削機の対比数値とを対比して表示し、またN値には、これに対応する土質名を深度別に対比付記したボーリングデーターの表示方法の点で一致し、下記の点で相違している。
a.対比数値が、本件発明1及び2では掘削機の使用電流値であるのに対し、引用発明では、掘削機の負荷電流値である点。
相違点aについて検討すると、引用例においてもオーガーの負荷電流値と時間は同時に計測されており、これらの数値からN値を推定していることから、引用発明の「負荷電流値」は、本件発明1及び2の「使用電流値」に相当すると解される。
そして、全体として本件発明1及び2の奏する効果も、引用発明から予測し得る程度のもので、格別顕著でない。
(2)-4 本件発明3に対しての対比・判断 本件発明3と引用発明とを比較すると、引用発明の「オーガー」は、本件発明3の「掘削機」に相当し、また、引用発明における「オーガーの負荷電流値及び杭の押込み時間」と、本件発明3の「掘削機の使用トルク値」は、対応深度における、
標準貫入試験におけるN値と対比して表示する「対比数値」であることで共通しているから、両者は、標準貫入試験におけるN値と、対応深度における掘削機の対比数値とを対比して表示するボーリングデーターの表示方法の点で一致し、下記の点で相違している。
b.対比数値が、本件発明3では掘削機の使用トルク値であるのに対し、引用例には使用トルク値に関しての記載がない点。
相違点bについて検討すると、掘削機の使用トルク値は、掘削機の負荷電流値と回転数等のパラメータにより求めることができるものであり、引用発明において自動計測される諸数値の一つに杭の回転数(オーガー付きの杭であるから掘削機の回転数となる)があること、及び、本件特許公報2頁4欄16〜19行にも記載されているように、「トルク値と電流値とは一定の比較関係にあるので、N値とトルク値についてもN値と電流値と同様の対比関係が成立する。」ことから、引用発明の負荷電流値に代えて使用トルク値を用いて表示することは、当業者が容易になし得る程度のことである。
そして、全体として本件発明3の奏する効果も、引用発明から予測し得る程度のもので、格別顕著でない。
(2)-5 異議申立てに対する判断のまとめ したがって、本件発明1〜3は、いずれも、引用発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1〜3は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
(3) 決定のむすび 以上のとおりであるから、本件発明1〜3についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)4条1項及び2項の規定により、結論のとおり決定する。
原告主張の決定取消事由
1 取消事由1(訂正後発明1、2についての一致点の認定の誤り) 決定は、「対応深度における杭穴掘削時の掘削機の標準貫入試験におけるN値と対比して表示する対比数値であることは共通しており・・・ボーリングデーターの表示方法の点で一致している」と認定したが、誤りである。
すなわち、訂正後発明1、2における「杭穴掘削時の掘削機の使用電流値」とは、本件願書添付の第1図に「103A・sec」とあるように、積算電流値であるが、引用発明の負荷電流は、その深さにおける瞬間の負荷電流であるから、例えば深さ4mにおける負荷電流は深さ3m〜4m間のN値又は深さ4m〜5m間のN値とも比例しないから、「対比数値」ともいえない。
また、引用発明におけるオーガーの負荷電流は、オーガーと杭を回転して、かつ杭を貫入させる際に生じるすべての負荷電流であるから、例えば杭長が長くなるに伴って抵抗が増加するものである。しかも、杭周面摩擦力は計算値となるから、引用発明の表示は現に掘削中の杭には利用できず、隣接杭に利用できる程度である。
これに対し、訂正後発明1、2の使用電流値は、杭穴掘削時のデーター表示であるから、その杭穴に杭を貫入する際に、長さを調節するなど、直ちに利用することができるものである。
したがって、両者は表示方法を異にするものであるから、一致しない。
2 取消事由2(訂正後発明1、2についての相違点aの判断の誤り) 訂正後発明1、2は、杭穴掘削後に杭を貫入する方法であって、掘削時における掘削機の使用電流値を表示するのであるから、これを杭穴の深度と対応させることによって土質と一致する。これに対し、引用発明は、杭を掘削貫入する際の杭貫入時の負荷電流を表示するのであるから、オーガーの負荷、杭回転の負荷、杭貫入の負荷などが総合的に掛かることになり、土質によっては貫入負荷が著しく大きくなり、支持地盤と錯覚を生じるおそれもあるのであるから、N値と対比させても、土質を直接推定することはできない。この相違により、訂正後発明1、2では、掘削データーの表示により、杭の長さを変えることもできるが、引用発明では掘削時に貫入するので、その杭についてはデーターを有効に利用できない。
被告は「特許請求の範囲に特に限定がなく、杭穴を掘削した後杭を建て込むものや引用発明のように杭穴掘削と杭の建て込みを同時に行うものの両方を含むものと解される。」と主張するが、訂正後発明1、2は訂正明細書全文を見れば明らかなように、杭穴のみの掘削であり、杭を杭穴掘削と同時に貫入する工法ではない。当業界において、杭穴掘削といえば、杭穴を専ら掘削することをいい、杭穴掘削と同時に杭を貫入する場合には、中掘工法とか、引用例に明記されたようにTSロータリー工法として区別している。
また被告は、「引用例の負荷電流は、地盤強度に関係のない負荷電流を除いたものとなる」と主張するが、作業以外の負荷電流を正確に予測することは不可能である。
したがって、「相違点aについて検討すると、・・・引用発明の『負荷電流値』は、訂正後発明1、2の『使用電流値』に相当すると解される。」とした決定の判断は誤りであり、引用発明に基づいて訂正後発明1、2を容易に発明することができたということはできない。
3 取消事由3(訂正後発明1、2についての相違点b、及び訂正後発明3についての相違点cの判断の誤り) 引用発明の負荷電流は、上記主張のとおり幾多のファクターを含んでいる。例えば杭の回転抵抗は逐次変化し、杭の貫入中に正確に捕えることは不可能であり、表示の利用は各種計算を経て、貫入後に、当該杭の貫入状態が追認できるにすぎない。
したがって、「相違点bについて検討すると、引用発明においても、杭貫入と同時に杭の回転押込み状況と先端地盤の性状を記録させ、この記録により杭先端地盤の状況と貫入状況を逐次連続的に把握しており、これを、杭穴掘削中に適切な対応をとるために使用することは、当業者が容易になし得ることにすぎない。」とした決定の判断(訂正後発明3についての相違点cの判断でも引用されている。)は誤りである。
4 取消事由4(訂正後発明3についての相違点dの判断の誤り) トルク値の使用についても、使用電流値と一定の関係が認められる以上、取消事由2と同様に、引用例から訂正後発明3を容易に発明し得たということはできない。
したがって、「相違点dについて検討すると、・・・引用発明の負荷電流値に代えて使用トルク値を用いて表示することは、当業者が容易になし得る程度のことである。」とした決定の判断は誤りである。
5 取消事由5(本件発明についての進歩性の判断の誤り) 仮に訂正が認められないとしても、上記の主張のとおりの理由により、本件発明1〜3は引用発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。
したがって、「本件発明1ないし3は、いずれも、引用発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1ないし3は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。」とした決定の判断は誤りである。
決定取消事由に対する被告の反論
1 取消事由1に対して 決定は、「引用発明における『オーガーの負荷電流値』と、訂正後発明1、2の『掘削機の使用電流値』は、対応深度における、杭穴掘削時の掘削機の、標準貫入試験におけるN値と対比して表示する『対比数値』であることで共通しており」と説示しているのであって、「使用電流値」と「負荷電流値」に関しては、相違点aとして、「対比数値が、訂正後発明1、2では掘削機の使用電流値であるのに対し、引用発明では、掘削機の負荷電流値である点」を挙げており、「使用電流値」と「負荷電流値」を含めて一致しているとはいっていない。したがって、決定の一致点の認定に誤りはない。
また、引用発明において、自動計測されたデーターは当然コンピュータで処理されるので、自動計測とほぼ同時にデーターの表示が可能であり、訂正後発明1、2と引用発明の効果に差異はない。引用発明における「表示方法」は、訂正後発明1、2の「ボーリングデーターの表示方法」に相当するとした決定の一致点の認定に誤りはない。
2 取消事由2に対して 訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1には、単に「使用電流値」と記載されているのみであって、使用電流と時間の積を表示するという記載はなく、かつ、発明の詳細な説明の欄には、「電流記録値は、杭穴掘削時の電流測定値をそのまま描かせ、又は電流測定値のグラフを対比深度に合わせて貼着する。」(甲第3号証2頁27〜28行)と記載されている。願書に添付の第1図には「A・sec」とあるが、これは「クーロン」という電気量の単位を表し、原告が主張するように積算電流値であるならば、数値は増加するだけであるが、第1図では電流値が増減しており、第1図の記載を根拠とする原告の主張は理由がない。そして、当該技術分野において「使用電流値」という言葉自体が「電気量」等の特定の意味を有するものでもない。
また、訂正後発明1、2に関し、原告は、「杭穴掘削後杭を貫入する」ものと主張しているが、特許請求の範囲に特に限定がなく、杭穴を掘削した後杭を建て込むものや引用発明のように杭穴掘削と杭の建て込みを同時に行うものの両方を含むものと解される。また、引用例の「負荷電流(A)の取扱い K値:空回転の負荷電流 A値:掘進回転の負荷電流 A0値:A-K=A0 作業負荷電流」(105頁左欄1〜4行)との記載からみて、空回転の負荷電流Kとは、杭先端の掘削機が杭底地盤に接していない状態で回転する時の負荷電流のことであり、掘進回転の負荷電流Aとは、杭先端の掘削機が杭底地盤に接した状態で回転する時の負荷電流のことである。したがって、作業負荷電流A0は、杭の長さの変化等の地盤強度に関係のない負荷電流を除いたものとなる。
3 取消事由3に対して 引用発明において、自動計測されたデーターは当然コンピュータで処理されるわけであるから、自動計測とほぼ同時にデーターの採用が可能であり、「引用発明においても、・・・杭穴掘削中に適切な対応をとるために使用することは、当業者が容易になし得ることにすぎない。」とした相違点bについての決定の判断に誤りはなく、相違点cについての決定の判断にも誤りはない。
4 取消事由4に対して 原告も認めるように、使用トルク値についても、使用電流値と一定の関係が認められる以上、前記2で主張したのと同様に、「引用発明の負荷電流値に代えて使用トルク値を用いて表示することは、当業者が容易になし得る程度のことである。」とした相違点dについての決定の判断に誤りはない。
5 取消事由5に対して 取消事由1、2及び4について反論したのと同様の理由により、決定の認定、判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について (1) 決定は「引用発明における『オーガーの負荷電流値』と、訂正後発明1、2の『掘削機の使用電流値』は、対応深度における、杭穴掘削時の掘削機の、標準貫入試験におけるN値と対比して表示する『対比数値』であることで共通しており、」と認定し、また「両者は、同一現場の標準貫入試験におけるN値と、対応深度における、杭穴掘削時の掘削機の対比数値とを、杭穴掘削と同時に対比して表示し、・・・の点で一致し」と認定するとともに、「対比数値が、訂正後発明1、2では掘削機の使用電流値であるのに対し、引用発明では、掘削機の負荷電流値である点。」を相違点aとして認定した。
すなわち、決定は、「オーガーの負荷電流値」と「掘削機の使用電流値」とが相違する可能性を念頭に置きつつも、「対応深度における、杭穴掘削時の掘削機の、
標準貫入試験におけるN値と対比して表示する『対比数値』であることで共通」するゆえに、「両者は、同一現場の標準貫入試験におけるN値と、対応深度における、杭穴掘削時の掘削機の対比数値とを、杭穴掘削と同時に対比して表示」する点で一致すると認定したものである。
(2) 甲第4号証によれば、引用例には「ARシステムは、杭が地中に回転押込みされながら自然貫入する状態での貫入状況と地盤抵抗を示す計測記録は、地盤の力学的性状を反映したものと考えられる。」との記載があり(104頁右欄6〜9行)、図-1には「標準貫入試験N値」と、単位が「Amp」で表される「負荷電流」のグラフを記録したものが図示されており、負荷電流欄には「換算N値」もプロットされていることの記載があることが認められる。これらN値、換算N値及び負荷電流のグラフは、その大小関係において、同一傾向を示すことが認められ、引用発明の負荷電流とN値に一定の関係があることは明らかであるから、引用発明の負荷電流はN値との対比数値といえることは明らかであり、「対比数値」といえないとする原告の主張は理由がない。
(3) その余の取消事由1における原告の主張は、「オーガーの負荷電流値」と「掘削機の使用電流値」が相違することを前提とするものであり、決定もこの点を相違点aとして認定している。しかしながら、相違点aについての決定の判断の誤りをいう原告の主張が理由がないことは、後記のとおりであり、結局、取消事由1には理由がない。
2 取消事由2(相違点aの判断の誤り)について (1) 訂正後発明1、2と引用例との間の相違点aについての判断の誤りをいう原告の主張の根拠は、@訂正後発明1、2における「掘削機の使用電流値」が積算電流値であるのに対し、引用発明における「オーガーの負荷電流値」は瞬時電流値である、A引用発明では杭貫入時の負荷電流を表示しており、それにはオーガーの負荷、杭回転の負荷、杭貫入の負荷などが総合的に掛かるが、訂正後発明1、2は杭穴掘削後に杭を貫入するものであるから、引用例に記載の技術的事項は適用することができない、そして、Bこれらに起因して、訂正後発明1、2では、N値と対比させて、土質を直接推定することができるが、引用発明ではN値と対比させることも、土質を直接推定することもできない、というにあるので、これに即して以下判断する。
(2) 原告の主張@について判断する。
訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1には「杭穴掘削時の掘削機の使用電流値」とあるだけで、これが積算電流値であるとの記載はない。訂正明細書(甲第3号証)の記載をみるに、「ボーリングの際に土質により使用電流値が変化することが知られていたが、前記電流値のN値の相関関係については知られていなかった。」(1頁25〜26行)、「標準貫入試験における各深度のN値と、杭穴掘削時における対応深度の電流値又はトルク値とを対比表示する」(1頁末行〜2頁1行)、「N値と杭穴の掘削時における電流値又はトルク値とを深度別に対応させた」(2頁19〜20行)、「N値と電流値又はトルク値とを対比表示すれば、杭穴の各深度における土質状態が明確になり」(2頁12〜13行)、「電流記録値は、杭穴掘削時の電流測定値をそのまま画かせ、又は電流測定値のグラフを対比深度に合わせて貼着する。」(2頁27〜28行)、「N値のグラフ9と、電流値のグラフ10とは、・・・同一傾向を示している。」(2頁末行〜3頁1行)、及び「N値と電流値又はトルク値を、杭穴掘削時に深度別対比表示する」(3頁14〜15行)との記載のある一方、積算電流値である旨の記載はないことが認められる。そして、「電流値」とはそれ自体明確な用語であり、その単位が「アンペア」(「Amp」)であることも自明のことである。
一方、引用例には上記1(2)で認定したとおりの記載及び図示があり、N値、換算N値及び負荷電流のグラフは、その大小関係において、同一傾向を示すものであることも前示のとおりである。すなわち、引用発明の「負荷電流」と訂正後発明1、
2における「使用電流値」は、いずれもN値のグラフと同一傾向を示すものであり、杭穴の土質状態を明確にするものであるから、両者を異なるものと解さなければならない理由はない。
そうすると、訂正後発明1、2の「杭穴掘削時の掘削機の使用電流値」は、引用例記載の「負荷電流」同様、単位が「Amp」で表されるものと解するのが相当であり、これを「積算電流値」と解さなければならない理由はないというべきである。
原告は、本件の第1図に「103A・sec」の記載があると主張する。確かに甲第1号証の3によれば、同図(甲第3号証によれば、実施例に係る図面であることが認められる。)の電流記録値欄に「*10^3A・sec」との記載があることが認められ、これが「103A・sec」の意味であること、及び積算電流値の単位であるということができる。しかしながら、甲第1号証の3及び第3号証によれば、本件明細書及び本件の図面には、積算始期及び積算終期がいつであるのか一切記載がないことが認められるから、第1図の上記記載をもって、いかなる技術的意義を持つのか明らかではない。仮にそこに何らかの意義を認めるとしても、訂正後発明1、2をその意義に従って限定すべき根拠も認められないし、積算でない電流値であっても、その電流値はN値と同一の傾向を示すのは、前記説示のところから明らかであるから、訂正後発明1、2が積算でない電流値を包含するものと解さざるを得ない。
(3) 原告の主張Aについて判断する。
訂正後発明1、2の要旨によれば、訂正後発明1、2の発明につき「杭穴掘削後杭を貫入する」方法に限定して解することはできない。原告は、杭穴掘削といえば、杭穴を専ら掘削することをいうと主張するが、そのように認めるべき証拠はない。したがって、原告の主張Aは訂正後発明1、2の要旨に基づかない主張であり、理由がない。
仮に、訂正後発明1、2が「杭穴掘削後杭を貫入する」方法であるとしても、甲第4号証によれば、引用例には「負荷電流(A)の取扱い K値:空回転の負荷電流 A値:掘進回転の負荷電流 A0値:A-K=A 0 作業負荷電流」(105頁左欄1〜3行)、及び「N=0.45√T(A-K) T:1m当りの貫入時間 4.0 ・・・」(107頁左欄下から2行〜右欄2行)との記載があることが認められ、
作業負荷電流を表示することにより、引用発明においても、N値との対比を行うことは可能であるということができる。引用例図-1(105頁)においては、負荷電流のグラフと換算N値がほぼ一致していることからみても、同図のグラフにおける「負荷電流」は「作業負荷電流」であると認めることができ、「杭穴掘削後杭を貫入する」方法に引用発明を適用するのが不可能であると解すべき理由はない。
したがって、原告のAの主張も理由がない。
(4) 原告の主張Bについてみるに、前示のとおり、引用発明の負荷電流とN値は同一傾向を示すのであり、N値と対比させて土質を直接推定することもできるものである。したがって、原告のBの主張に理由がない。
(5) 以上のとおりであり、取消事由2も理由がない。
3 取消事由3(相違点b、cの判断の誤り)について 甲第4号証によれば、引用例には、「この記録により、杭先端の地盤の状況と貫入状況を逐次連続的に把握して、支持層地盤の位置を確認し、所定長を根入れしたことを計測記録して、支持地盤に杭を回転押込み定着させる。ARの記録は、設計図書に基づいた土質柱状図と対比して、支持層位置、根入れ長等の確認をし、杭長等の変更の資料として、その施工現場で役立つことができる記録である。」との記載(105頁左欄15〜末行)、及び「杭1本ごとにARの記録で管理し、正常な状態で回転押込みを行い、支持層中の状況と根入れ長を確認しながら施工した。よって、このARの記録ですべての杭を管理することにより、各杭ごとに載荷試験を行ったと同様の意味づけができるものと考えられる。」との記載(109頁左欄2〜7行)があることが認められる。
ここにおける「杭先端の地盤の状況と貫入状況を逐次連続的に把握」することは、訂正後発明1〜3における「掘削杭穴の深度別土質を把握」することと異なるものではなく、また上記記載の「支持層中の状況と根入れ長を確認しながら施工」することは、訂正後発明1〜3における「杭穴掘削中に適切な対応をとる」ことと異なるものではない。そうすると、相違点b、cについて判断するに当たり、決定が「引用発明においても、杭貫入と同時に杭の回転押込み状況と先端地盤の性状を記録させ、この記録により杭先端地盤の状況と貫入状況を逐次連続的に把握しており、これを、杭穴掘削中に適切な対応をとるために使用することは、当業者が容易になし得ることにすぎない。」と判断した点に誤りはなく、取消事由3も理由がない。
4 取消事由4(相違点dの判断の誤り)及び5(本件発明の進歩性の判断の誤り)について 取消事由4は取消事由2の主張を前提とするものであり、取消事由2に理由がない以上、これを前提とする取消事由4も理由はない。
取消事由5は、本件発明についての進歩性の判断の誤りを主張するものであるが、訂正後発明の独立特許要件についてした決定の認定、判断の誤りを主張する取消事由1ないし4と同様の根拠に基づくものであり、上記のとおり、これらの取消事由が理由のないものである以上、取消事由5も理由がない。
結論
以上のとおり、原告主張の決定取消事由は理由がないので、原告の請求は棄却されるべきである。
(平成13年7月12日口頭弁論終結)
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 塩月秀平
裁判官 橋本英史