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関連審決 異議1999-73695
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審判番号(事件番号) データベース 権利
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平成15行ケ39審決取消請求参加事件 判例 特許
関連ワード 創作性(創作) /  頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  相違点の認定 /  周知技術 /  慣用技術 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  参酌 /  技術的意義 /  均等 /  実施 /  加工 /  設定登録 /  訂正の許否 /  誤記の訂正 /  請求の範囲 /  減縮 /  拡張 /  変更 /  釈明 /  訂正明細書 /  取消決定 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 351号 特許取消決定取消請求事件
原告 三洋電機株式会社
訴訟代理人弁理士 丸山敏之
同 宮野孝雄
同 北住公一
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 大森蔵人
同 槇原進
同 大野覚美
同 宮川久成
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/08/29
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成11年異議第73695号事件について平成12年8月3日にした決定を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、平成8年6月21日に出願され、平成11年1月22日に設定登録された、名称を「報知用振動発生装置」とする特許第2877758号発明(以下、この特許を「本件特許」といい、この発明を「本件発明」という。)の特許権者である。
本件特許につき特許異議の申立てがされ、平成11年異議第73695号事件として特許庁に係属したところ、原告は、平成12年3月14日、願書に添付した明細書(以下、単に「明細書」という。)の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の各記載を訂正する旨の訂正請求をした(以下、この訂正請求に係る訂正を「本件訂正」という。)。
特許庁は、同特許異議の申立てにつき審理した上、平成12年8月3日に「特許第2877758号の請求項1ないし6に係る特許を取り消す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし、その謄本は、同月21日、原告に送達された。
2 特許請求の範囲の記載 (1) 設定登録時の明細書の特許請求の範囲の記載 【請求項1】 永久磁石(30)を含む第1振動体(3)を、第1バネ体(1)によって固定部材(5)に支持された第1振動系と、前記永久磁石(30)の磁束と交差するように配置されたコイル(40)を含む第2振動体(4)を、第2バネ体(2)によって固定部材(5)に支持された第2振動系とを具え、
前記第1振動系は、固定部材(5)に振動を伝達して機器を振動させる振動源として使用され、前記第2振動系は、周波数が可聴範囲である音波を生成して外部に伝搬する音源として使用されることを特徴とする報知用振動発生装置。
【請求項2】 コイル(40)に接続され、設定された所定周波数の電流をコイル(40)に通電する通電部(6)を具えており、
通電部(6)には、コイル(40)に通電する電流の周波数を、第1振動系の固有振動数f01 に略一致する周波数、及び、第2振動系の固有振動数f 02 に略一致する周波数に切り替える切替回路が配備された請求項1に記載の報知用振動発生装置。
【請求項3】 第1振動体(3)は、衝突によって固定部材(5)に振動を伝達することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の報知用振動発生装置。
【請求項4】 第1振動体(3)または固定部材(5)には、振動の際に衝突する部分に緩衝材(7)を配備することを特徴とする、請求項3に記載の報知用振動発生装置。
【請求項5】 第1振動系及び第2振動系は、上面に開口部(52)を有する固定部材(5)に収容されている、請求項1乃至請求項4の何れかに記載の報知用振動発生装置。
【請求項6】 第1バネ体(1)は、固定部材(5)と第1振動体(3)とに固定される部分の間に、渦巻状の切込みが施されている、請求項1乃至請求項5の何れかに記載の報知用振動発生装置。
(2) 本件訂正に係る明細書(甲第3号証の2、以下「訂正明細書」という。)の特許請求の範囲の記載 【請求項1】 永久磁石(30)を含む第1振動体(3)を、第1バネ体(1)によって固定部材(5)に支持された第1振動系と、前記永久磁石(30)の磁束と交差するように配置されたコイル(40)を含む第2振動体(4)を、第2バネ体(2)によって固定部材(5)に支持された第2振動系とを具え、
前記第1振動体(3)は、永久磁石(30)と、該永久磁石(30)の一方の磁極に取り付けられ、前記第2振動系のコイル(40)の内側に位置するヨーク(32)と、永久磁石(30)の他方の磁極に取り付けられ周縁部には前記第2振動系のコイル(40)の高さ方向に延びてコイル外側を囲む垂直壁を有するヨーク(31)とによって構成されており、
前記第1振動系は、固定部材(5)に振動を伝達して機器を振動させる振動源として使用され、前記第2振動系は、周波数が可聴範囲である音波を生成して外部に伝搬する音源として使用されることを特徴とする報知用振動発生装置。
【請求項2】 コイル(40)に接続され、設定された所定周波数の電流をコイル(40)に通電する通電部(6)を具えており、通電部(6)には、コイル(40)に通電する電流の周波数を、第1振動系の固有振動数f01 に略一致する周波数、及び第2振動系の固有振動数f02 に略一致する周波数に切り替える切替回路が配備された請求項1の報知用振動発生装置。
【請求項3】 第1振動系及び第2振動系は、上面に開口部(52)を有する固定部材(5)に収容されている、請求項1又は請求項2に記載の報知用振動発生装置。
3 本件決定の理由 本件決定は、別添決定謄本写し記載のとおり、@訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明、同請求項2に記載された発明及び同請求項3に記載された発明(以下、順次、「本件訂正発明1」、「本件訂正発明2」、「本件訂正発明3」という。)は、いずれも本件特許出願前に米国において頒布された刊行物である米国特許第5528697号明細書(甲第4号証、以下「刊行物1」といい、そこに記載された発明を「刊行物発明」という。)及び実願昭62-40605号(実開昭63-149416号)のマイクロフィルム(甲第6号証、以下「刊行物3」という。)にそれぞれ記載された発明並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件訂正は、同法120条の4第3項において準用する126条4項の規定に適合しないので認められないとし、A本件発明の要旨を設定登録時の明細書の特許請求の範囲の記載のとおり認定した上、その請求項1〜6に記載された発明が、刊行物1及び特開平6-120866号公報にそれぞれ記載された発明並びに周知技術又は慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、同法113条2号に該当して取り消されるべきであるとした。
原告主張の本件決定取消事由
1 本件決定の理由における本件訂正の許否についての判断のうち、本件訂正が特許請求の範囲減縮誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、新規事項を追加するものではなく、実質的に特許請求の範囲拡張又は変更するものではないとの判断、本件訂正発明1〜3の要旨の認定、刊行物1の記載事項の認定、刊行物3の記載を摘記した部分の認定(決定謄本5頁12行目〜20行目)、本件訂正発明1〜3と刊行物発明との各一致点及び相違点の認定(同5頁29行目〜6頁26行目、8頁3行目〜21行目、9頁12行目〜19行目)、
本件訂正発明1と刊行物発明との相違点(2)についての判断(同7頁24行目〜38行目)、本件訂正発明2と刊行物発明との相違点(2)〜(4)についての判断(同8頁24行目〜9頁8行目)及び本件訂正発明3と刊行物発明との相違点(2)〜(5)についての判断(同9頁22行目〜30行目)は認める。
本件決定は、本件訂正の許否の判断において、本件訂正発明1〜3の構成に係る技術的意義及び刊行物3の記載事項を誤認して、本件訂正発明1〜3と刊行物発明との相違点(1)についての判断を誤った(取消事由)結果、本件訂正発明1〜3が、当業者において容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないから、本件訂正は認められないとの誤った判断をし、ひいて、本件発明の要旨の認定を誤って、本件特許が特許法29条2項の規定に反してされたとの誤った結論に至ったものであるから、本件決定は違法として取り消されるべきである。
2 取消事由(相違点(1)についての判断の誤り) (1) 本件決定は、本件訂正発明1と刊行物発明との相違点(1)として認定した「前記第1振動体(3)におけるヨーク(31)が、請求項1に係る発明(注、本件訂正発明1)にあっては、周縁部には前記第2振動系のコイル(40)の高さ方向に延びてコイル外側を囲む垂直壁を有するように構成されているものであるのに対し、刊行物1に記載された発明(注、刊行物発明)にあっては、リング形状ではあるが垂直壁を有するものとの明示がなされていない点」(決定謄本6頁18行目〜22行目)につき、「請求項1に係る発明において、ヨーク(31)が『垂直壁』を具備することによる技術的意義は、本件明細書(注、訂正明細書)【0009】欄を参酌すると『電磁力を効率よく発生させる』点にあることが認められる。しかしながら・・・コイルに作用する電磁力を均等化し効率よくすることは設計に当たって当業者が当然に考慮する技術的事項であり、この磁気特性においてヨークの周縁部にコイル外側を囲む『垂直壁』を設けてこれを達成することは、例えば上記刊行物3に開示されているように当業者が容易になし得ることと認められる」(決定謄本6頁30行目〜38行目)と判断した。
また、本件訂正発明2に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項2は、
本件訂正発明1に係る同請求項1の記載を、本件訂正発明3に係る同請求項3は、
同請求項1又は同請求項2の記載をそれぞれ引用するものであるところ、本件決定は、本件訂正発明2と刊行物発明との相違点(1)及び本件訂正発明3と刊行物発明との相違点(1)として、それぞれ上記本件訂正発明1と刊行物発明との相違点(1)と同一の相違点を認定し(同8頁10行目〜11行目、9頁13行目〜14行目)、当該各相違点につき、上記本件訂正発明1と刊行物発明との相違点(1)についてと同旨の理由により、当業者が容易にし得ることである旨判断した(同8頁24行目〜25行目、同9頁22行目〜23行目)。
しかしながら、本件決定のした上記本件訂正発明1と刊行物発明との相違点(1)についての判断は、以下のとおり、誤認に基づくものであり、したがって、本件訂正発明2と刊行物発明との相違点(1)についての判断及び本件訂正発明3と刊行物発明との相違点(1)についての判断も誤りである。
(2) ヨーク(31)の垂直壁構成の技術的意義の誤認 ア 本件決定は、上記のとおり、本件訂正発明1において、ヨーク(31)が「垂直壁」を具備すること(以下「垂直壁構成」という。)による技術的意義を、
電磁力を効率よく発生させる点にあるものとしたが、その認定は垂直壁構成の技術的意義を誤認するものである。
イ すなわち、訂正明細書(甲第3号証の2)に、「従来、音による報知手段及び振動による報知手段の両方を内蔵する機器においては、・・・音を発生する発音装置及び振動を発生する振動発生装置の2つをそれぞれ配備する必要があった。従って、1つの報知装置のみを使用するときよりも、機器内に広いスペースが必要であった」(【0003】項)、「本発明は、発音機能と振動発生機能を併せ持つ報知用振動発生装置を提供することを目的とする」(【0004】項)、「ある振動系が振動源として効果的に機能するには、100Hz前後の周波数で、できる限り大きく振動させることが望ましい」(【0012】項)との記載があるように、本件訂正発明1は、発音機能と振動発生機能とを併せ持ち、小さいスペースに収容することのできる報知用振動発生装置を提供することと、振動体をできる限り大きく振動させて、振動発生装置が振動源として効果的に機能するようにすることとを目的とする。
そして、訂正明細書に「振動体の振幅Gは、コイルのインダクタンスを無視すると、
|G|=(KBL)/{r2(k-mω2)2+K4B4L4ω2}1/2 で表わされる。ここで、Kは比例定数、Bは磁気ギャップ(33)内の磁束密度、Lはコイル(40)の有効長さ、rはコイル(40)の直流抵抗、且つωはコイル(40)に通電する電流の角周波数(=2πf)である。」(【0013】項、以下、この記載中の数式を「数式G」という。)と記載されているとおり、振動体の振幅は数式Gによって表されるから、振幅を大きくするためには、数式Gの右辺について、分子の値を大きくするか、分母の値を小さくする設計を行うことになる。しかしながら、比例定数K、磁気ギャップ内の磁束密度B、コイルの有効長さL、コイルの直流抵抗r、電流の角周波数ωの値はいずれもあらかじめ定まっており、これらの寸法や物性値を変更することは困難であるから、結局、振動体の質量mの値を大きくすることにより、数式Gの右辺の分母の値を小さくすることが考えられる。
本件訂正発明1のヨーク(31)に係る垂直壁構成につき、訂正明細書に「永久磁石(30)の他方の磁極に取り付けられ周縁部には前記第2振動系のコイル(40)の高さ方向に延びてコイル外側を囲む垂直壁を有するヨーク(31)」(【0005】項)との記載があるとおり、垂直壁構成は、ヨーク(31)のリング状基体の内周縁に垂直壁を追加した形状である。ヨーク(31)が単に磁気回路を形成することだけを目的とするのであれば、その形状は刊行物発明のようにリング状とすれば十分であるところ、ヨーク(31)のリング状基体に垂直壁を追加したのは、磁気回路を形成するとともに、振動体の質量を大きくするためにほかならない。すなわち、
本件訂正発明1のヨーク(31)に係る垂直壁構成は、振動系をできる限り大きく振動させるために、振動体の質量を大きくするという技術的意義を有するものであり、
本件決定の上記認定は、このような垂直壁構成の技術的意義を誤認したものである。
ウ 被告は、振動体の振幅Gが、振動体の質量mだけでなく、バネ体のバネ係数kによっても任意に設定できる旨主張するが、バネ体の形状、構造又は材質の変更が新たな創作を要求するので、バネ係数kも大幅に変更することは困難であり、変更が容易な質量mが振幅Gを支配することに変わりはない。質量mの値を大きくすることにより振幅Gを大きくすることは、当業者が直ちに理解できることである。
また、被告は、訂正明細書には、垂直壁が形成される前の上ヨークの形状につき何ら記載がないから、ヨーク(31)の垂直壁構成は、上ヨークから垂直壁となる部分を残してその周辺部を切除したものとも解することができると主張するが、訂正明細書(甲第3号証の2)の「コイル(40)の高さ方向に延びてコイル外側を囲む垂直壁を有するヨーク(31)」(【0005】項)との記載は、垂直壁の構造部分を備えた上ヨークを意味しており、垂直壁が、上ヨークから垂直壁となる部分を残してその周辺部を切除して形成されたとは到底理解できないのみならず、他に訂正明細書にそのようなことをうかがわせるような記載はない。
被告は、さらに、実願昭53-104502号(実開昭55-23864号)のマイクロフィルム(乙第1号証、以下「慣用例1」という。)及び実願昭54-134093号(実開昭56-52392号)のマイクロフィルム(乙第2号証、以下「慣用例2」という。)を引用して、本件訂正発明1のヨーク(31)に係る垂直壁構成が、漏洩磁束を小さくするように磁気ギャップの長さを設定して、電磁力を効率よく発生させるためのものであると主張するが、慣用例1、2には、本件訂正発明1にあるような振動体をできる限り大きく振動させるという技術課題について記載がなく、かつ、慣用例1、2に記載された発明は、コイルが振動しヨークが静止するものであって、本件訂正発明1とはコイルとヨークの振動態様が逆であるから、本件訂正発明1の垂直壁構成の技術的意義を認定するための論拠として、慣用例1、2は適切ではない。
(3) 刊行物3の記載事項の誤認 ア 本件決定は、上記のとおり、ヨークの周縁部にコイル外側を囲む垂直壁を設けることは、刊行物3に開示されているように当業者が容易にし得ると判断した。しかしながら、以下のとおり、刊行物3の記載事項を刊行物発明に適用することは困難であるのみならず、仮に、これを適用したとしても、本件訂正発明1の垂直壁構成に至ることはできないから、本件決定の上記判断は誤りである。
イ すなわち、刊行物発明は報知用振動発生装置であり、リング形状ヨーク29が、リングマグネット28及びポールピース26と一体となって自由に振動するものであるのに対し、刊行物3(甲第6号証)記載の発明は光ピックアップであり、フォーカシング用コイル17が振動(変位)し、磁気ヨーク35、36及び永久磁石33、34は固定基板11に固定されて振動せず、むしろ、光ピックアップの読取精度の向上のためには、磁気ヨーク35、36は振動してはならないものである。
したがって、リング形状ヨーク29の振動を目的とする刊行物発明の報知用振動発生装置と、磁気ヨーク35、36の振動を抑制する必要がある刊行物3記載の光ピックアップとでは、技術分野を異にしており、かつ、コイルとヨークの振動態様が逆であるから、刊行物3記載の発明を刊行物発明に適用することは困難である。
ウ のみならず、訂正明細書(甲第3号証の2)に「コイル(40)の高さ方向に延びてコイル外側を囲む垂直壁」(【0005】項)と記載されているとおり、報知用振動発生装置である本件訂正発明1の垂直壁はコイルの外側を一周して取り囲む筒形状であって、上記(2)のとおり、振動体の質量を大きくする作用効果を奏するものである。
これに対し、刊行物3記載の光ピックアップの磁気ヨーク35、36の小突出壁は、フォーカシング用コイル17の外側へ配置されるものの、磁気ヨーク35、36と同じ断片的な円弧状であって、コイルの外側を一周して取り囲むものではない。
さらに、刊行物3(甲第6号証)には、その考案の効果につき、「フオーカシング用の永久磁石33,34とトラツキング用の永久磁石39とを同一形状、同一着磁方向のものとすることができ、それだけ部品の種類を少なくすることができる。しかもフオーカシング用とトラツキング用とに互に離した別個の永久磁石を用いるためフオーカシング調整とトラツキング調整とが互に干渉するおそれはない」(10頁17行目〜11頁4行目)との記載があるが、この効果は、磁気ヨークを断片的な円弧状としたことによって奏するものであって、磁気ヨーク35、36の小突出壁とは関係がなく、同小突出壁の奏する作用効果については、刊行物3に記載がない。
したがって、刊行物3記載の発明と本件訂正発明1も技術分野が異なっており、また、刊行物3記載の発明の磁気ヨーク35、36に小突出壁を設けた構成は、本件訂正発明1の垂直壁構成と形状及び作用効果を異にするものであるから、
刊行物発明に刊行物3記載の磁気ヨーク35、36の小突出壁を適用しても、本件訂正発明1の垂直壁構成に至ることはできない。
被告の反論
1 本件決定の認定、判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
2 取消事由(相違点(1)についての判断の誤り)について (1) ヨーク(31)の垂直壁構成の技術的意義の誤認について 原告は、数式Gを根拠として、本件訂正発明1のヨーク(31)に係る垂直壁構成が、振動系をできる限り大きく振動させるために、振動体の質量を大きくするという技術的意義を有するところ、本件決定がこのような垂直壁構成の技術的意義を誤認したと主張する。
しかしながら、数式Gは、振動体の振幅Gが、振動体の質量m以外に比例定数K等の各種要因に依存することを示しているところ、訂正明細書(甲第3号証の2)には、質量m以外の要因が通常自由に設定することができないことは記載されていない。かえって、訂正明細書の「本実施形態の2つの振動系は、何れも1自由度振動系であり、その固有振動数f0は・・・f 0=(1/2π)(k/m)1/2 で表わされる。ここで、πは円周率、kはバネ体のバネ係数、且つmは振動体の質量である。従って、各振動系におけるバネ体のバネ係数と振動体の質量を適当に設定することにより、所望の固有振動数を得ることができる」(【0012】項)との記載によれば、固有振動数f0が、質量mだけでなくバネ体のバネ係数kによっても所望値に設定することができるのであるから、振幅Gもバネ係数kによって任意に設定できることは明らかである。結局、数式Gは、振動体の振幅と各種要因との一般的な関係を示すにとどまるものであって、数式Gにより、ヨーク(31)の垂直壁構成が振動体の質量mを大きくするために設けられたとすることはできない。
また、原告は、垂直壁構成が、振動体の質量を大きくするために、ヨーク(31)のリング状基体の内周縁に垂直壁を追加した形状であると主張するが、訂正明細書には、垂直壁が形成される前の上ヨークの形状につき何ら記載がないから、
ヨーク(31)が、垂直壁を追加したことにより、振動体の質量を大きくしたものと一義的に解釈することはできない。ヨーク(31)の垂直壁構成は、上ヨークから垂直壁となる部分を残してその周辺部を切除したものとも解することができるのであり、
その場合には、振動体の質量は減少することとなる。
したがって、ヨーク(31)の垂直壁構成が振動体の質量を大きくするという技術的意義を有するとの原告主張は誤りである。
なお、慣用例1(乙第1号証)に、「従来の固定磁気回路部14の構造によれば、・・・永久磁石22の中心線方向の長さ寸法l1・・・は可動コイル12の移動距離と該コイル12の軸線方向長さとの和に更に前記磁束分布の非平坦特性を見込んだ一定長αを加算した寸法に形成する必要がある。つまり永久磁束22の中心線方向の長さl1は磁束漏洩を補償する設計原理によって選定されており」(4頁11行目〜5頁5行目)との記載が、また、慣用例2(乙第2号証)に、「この考案の磁気回路は、トッププレートの振動板側の面に、磁気ギャップに沿って導磁突縁を形成したから、トッププレートの振動板に漏洩する磁束を収束し、磁気ギャップ中に導くことができ、振動板の駆動力を磁気ギャップ全域にわたって均一にすることができ、組立上も、かしめ加工だけでスピーカフレームと一体化できる」(4頁7行目〜14行目)との記載があるように、本件訂正発明1が属するボイスコイル形モータの分野においては、漏洩磁束が小さいほど磁束密度が均一化され、電磁力が効率よく発生できるので、磁気ギャップの長さは漏洩磁束を小さくするように設定すべきことが技術常識であり、この技術常識にかんがみれば、本件訂正発明1のヨーク(31)に係る垂直壁構成は、漏洩磁束を小さくするように磁気ギャップの長さを設定して、電磁力を効率よく発生させるためのものであると解釈するのが自然であるから、本件決定の「請求項1に係る発明(注、本件訂正発明1)において、ヨーク(31)が『垂直壁』を具備することによる技術的意義は・・・『電磁力を効率よく発生させる』点にあることが認められる」との認定に誤りはない。
この点につき、原告は、本件訂正発明1の垂直壁構成の技術的意義を認定するための論拠として、慣用例1、2は適切ではないと主張するが、ボイスコイル形モータという観点からみれば、本件訂正発明1と慣用例1、2とは技術分野を共通にするものであり、本件訂正発明1と慣用例1、2記載の発明とで、コイルとヨークの振動態様が逆であったとしても、そのことによって磁気回路が影響を受けるわけではないから、上記相違は、本件訂正発明1の垂直壁構成の技術的意義を検討するに当たって、慣用例1、2の記載を考慮することが不適切であるとする理由とはならない。
(2) 刊行物3の記載事項の誤認について ア 原告は、リング形状ヨーク29の振動を目的とする刊行物発明の報知用振動発生装置と、磁気ヨーク35、36の振動を抑制する必要がある刊行物3記載の光ピックアップとでは、技術分野を異にし、かつ、コイルとヨークの振動態様が逆であるから、刊行物3の記載事項を刊行物発明に適用することは困難であると主張する。
しかしながら、刊行物発明のリング形状ヨーク29と刊行物3記載の発明の磁気ヨーク35、36とは、いずれも磁気回路を形成するものであって、利用される分野が異なるとしても、ボイスコイル形モータという観点からみれば技術分野を共通にするものであり、漏洩磁束を防ぎ電磁力を効率よく発生させるという設計原理においても共通するものである。そして、刊行物発明のリング形状ヨーク29と刊行物3記載の発明の磁気ヨーク35、36とで、コイルとヨークの振動態様が逆であったとしても、そのことによって磁気回路が影響を受けるわけではないから、上記相違は、刊行物3記載の発明の磁気ヨーク35、36の小突出壁を刊行物発明のリング形状ヨーク29に組み合わせることが困難であるとする理由にはならない。したがって、
原告の上記主張は誤りである。
イ また、原告は、刊行物3記載の発明と本件訂正発明1とでは技術分野が異なり、刊行物3記載の発明の磁気ヨーク35、36に小突出壁を設けた構成は、本件訂正発明1の垂直壁構成と形状及び作用効果を異にするものであるから、刊行物発明に刊行物3記載の磁気ヨーク35、36の小突出壁を適用しても、本件訂正発明1の垂直壁構成に至ることはできない旨主張する。
しかしながら、本件訂正発明1のヨーク(31)も、刊行物発明のリング形状ヨーク29と同様、ボイスコイル形モータという観点からみれば、刊行物3記載の発明の磁気ヨーク35、36と技術分野を共通にするものである。また、刊行物3(甲第6号証)の「この構成によれば図においては第3磁気ヨーク35から第1磁気ヨーク31に向う磁束が発生し、また第4磁気ヨーク36から第2磁気ヨーク32に向う磁束が発生する。これら両磁束はフオーカシング用コイル17を流れる電流と作用し、フオーカシング用コイル17を中心軸12に沿つて同一方向に移動させる」(8頁末行〜9頁6行目)との記載によれば、刊行物3記載の発明の磁気ヨーク35、36が、フォーカシング用コイル17を上下方向へ移動させる機能を果たしていることが明らかであるから、磁気ヨーク35、36が円弧状に分割配置され、コイル17の全周を囲む形状ではないとしても、電磁力の発生を損なわない範囲で分割されたものにすぎず、これに設けられた小突出壁は、実質上コイル外側を囲む垂直壁といい得るものである。のみならず、刊行物発明のリング形状ヨーク29はコイル外側の全周を囲むものであるから、これに組み合せた小突出壁も必然的にコイル外側の全周を囲むリング形状となる。さらに、磁気ヨーク35、36に設けられた小突出壁の作用効果は、刊行物3にこれについて記載されていないとしても、本件訂正発明1のヨーク(31)に係る垂直壁構成と同様、技術常識上、漏洩磁束を小さくするように磁気ギャップの長さを設定して、電磁力を効率よく発生させるためのものであると解するのが自然である。したがって、原告の上記主張も誤りである。
当裁判所の判断
1 取消事由(相違点(1)についての判断の誤り)について (1) ヨーク(31)の垂直壁構成の技術的意義の誤認について ア 昭和61年3月20日総合電子出版社発行の白木学外1名著「図解・リニアサーボモータとシステム設計」(乙第3号証)には、「ボイスコイル形リニア直流モータ(ボイスコイルモータ:VCMともいわれる。以下,単にVCMという)は・・・ラウンドスピーカと構造原理が同じである。このVCMは,主に・・・可動コイルを,センターヨークに移動自在に装着し,可動コイルと対向する円筒状のステータヨークの内面に一方の磁極を向けた永久磁石を配設した構造となっている。したがって,可動コイルに正逆の電流を流すと,フレミングの左手の法則による駆動力が発生し,可動コイルを正逆方向に駆動できる。このVCMは・・・小形のものでは,簡単に構成できるため,多くの装置に採用されている。・・・なお,VCMでは,可動コイル形とすると負荷が軽くなり大きなメリットがあるが,可動マグネット形はわりと少ない。」(49頁〜50頁)との記載があり、この記載及び上記刊行物がリニアサーボモータに関する一般的な概説書であると認められることに照らすと、上記ボイスコイルモータは、一般的、かつ、汎用的に用いられる技術であり、可動コイル形のもののほか、可動マグネット形のものもあることが認められる。
そして、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載に係る本件訂正発明1の構成及び訂正明細書(甲第3号証の2)の「上記構成の報知用振動発生装置に対して、通電部がコイルに通電すると、永久磁石を具える第1振動体とコイルを具える第2振動体の間には、電流と磁界の相互作用による電磁力が働く。従って、電流値が周期的に変化する電流をコイルに通電することによって、第1振動系及び第2振動系には、それぞれ、前記電磁力を周期的な強制力とする強制振動が発生する。該強制振動により、音源として使用される振動系は、周波数が可聴範囲である音波を生成して外部に伝搬し、振動源として使用される振動系は、固定部材に振動を伝達して機器を振動させる」(【0006】項)との記載に照らすと、本件訂正発明1の第1、第2振動体の振動は、ボイスコイルモータの原理に基づくものであることが認められる。
他方、慣用例1(乙第1号証)には、「可動コイルと固定磁気回路とを具備してなるボイスコイル形モータ」(1頁実用新案登録請求の範囲)に関する発明が記載され、「従来の固定磁気回路部14の構造によれば、可動コイル12の移動方向・・・における磁束分布は永久磁石24の前・後端部における磁束漏洩、即ち可動コイル12中を流れる電流との電磁相互作用に寄与し得ない磁束流が多くこの結果として、・・・コイル位置と空隙磁束分布との関係は・・・平坦特性が欠如する。このために永久磁石22の中心線方向の長さ寸法l1・・・は可動コイル12の移動距離と該コイル12の軸線方向長さとの和に更に前記磁束分布の非平坦特性を見込んだ一定長αを加算した寸法に形成する必要がある。つまり永久磁束22の中心線方向の長さl1は磁束漏洩を補償する設計原理によって選定されており」(4頁11行目〜5頁5行目)との記載があり、また、慣用例2(乙第2号証)には、「マグネットの磁束を磁気ギャップに導き、磁気ギャップ中のボイスコイルに流れる音声電流と共に、振動板の駆動力を発生させる」(1頁15行目〜18行目)磁気回路、すなわち、ボイスコイルモータの原理からなる発明に関し、「この考案の磁気回路は、
トッププレートの振動板側の面に、磁気ギャップに沿って導磁突縁を形成したから、トッププレートの振動板に漏洩する磁束を収束し、磁気ギャップ中に導くことができ、振動板の駆動力を磁気ギャップ全域にわたって均一にすることができ、組立上も、かしめ加工だけでスピーカフレームと一体化できる」(4頁7行目〜14行目)との記載がある。これらの記載によれば、ボイスコイル形モータ(ボイスコイルモータ)の分野においては、磁気ギャップの端部でコイル電流との電磁相互作用に寄与しない磁束漏洩が多く、磁気ギャップ内の磁束分布の平坦性が損なわれるので、永久磁石(磁気ヨーク)の長さ、すなわち、磁気ギャップの長さは、磁束漏洩の影響を見込んだ上で平坦性が確保できる十分なものである必要があることは当業者の技術常識であり、慣用例2記載の発明において、トッププレート(上磁気ヨークに相当すると認められる。)の振動板側の面に、磁気ギャップに沿って形成した導磁突縁は、漏洩磁束を収束して磁気ギャップ中に導き、振動板の駆動力を磁気ギャップ全域にわたって均一にする作用を奏することが認められる。
イ ところで、訂正明細書(甲第3号証の2)には、「第1振動体(3)は、永久磁石(30)と・・・ヨーク(32)と、永久磁石(30)の他方の磁極に取り付けられ周縁部には前記第2振動系のコイル(40)の高さ方向に延びてコイル外側を囲む垂直壁を有するヨーク(31)とによって構成される」(【0005】項)、「永久磁石(30)を具える第1振動体(3)には、外部への磁界の漏れを防ぎ、且つ、電流と磁界の相互作用によって働く電磁力を効率よく発生させるために、永久磁石(30)の上下にそれぞれ上ヨーク(31)及び下ヨーク(32)が配備され、これにより磁気回路が形成される・・・上ヨーク(31)は、内周に垂直壁を有するリング体形状に形成され、且つ下ヨーク(32)は、中央に隆起部を有する円板形状に形成される。上ヨーク(31)の垂直壁と下ヨーク(32)の中央隆起部との間には、後記する第2振動体(4)が上下動可能となるような磁気ギャップ(33)が形成される」(【0009】項)との記載があるが、他に上ヨーク(31)の垂直壁構成の奏する作用効果につき直接言及した記載は見当たらない。
そして、上記各記載によれば、本件訂正発明1において、外部への磁界の漏れを防ぎ、電流と磁界の相互作用によって働く電磁力を効率よく発生させる作用効果を奏するものであるとされている上ヨーク(31)に垂直壁が形成されているのであるから、上記アの技術常識にかんがみ、上ヨーク(31)は、垂直壁構成によって磁気ギャップの長さを長くすることにより、上記作用効果を奏するものであること、すなわち、ヨーク(31)の垂直壁構成の技術的意義が、磁気ギャップ外への磁気漏洩を防いで電磁力を効率よく発生させることにあることは明白である。
したがって、ヨーク(31)の垂直壁構成の技術的意義に関する本件決定の認定に誤りはない。
ウ 原告は、慣用例1、2には、本件訂正発明1にあるような振動体をできる限り大きく振動させるという技術課題について記載がないこと、慣用例1、2に記載された発明は、コイルが振動しヨークが静止するものであって、本件訂正発明1とはコイルとヨークの振動態様が逆であることを理由として、慣用例1、2は、
本件訂正発明1の垂直壁構成の技術的意義を認定するための論拠として適切ではない旨主張する。
しかしながら、後記のとおり、本件訂正発明1においても、ヨーク(31)の垂直壁構成が、振動体をできる限り大きく振動させるという技術課題と関係するものであるとは認められない。また、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載に係る本件訂正発明1の構成及び訂正明細書(甲第3号証の2)の「通電部(6)がコイル(40)に通電する電流の周波数を約3kHzにすると、第2振動体(4)が第1振動体(3)よりも大きく振動して、専ら、音の発生による報知を実現できる」(【0014】項)との記載によれば、本件訂正発明1も、コイル(40)に約3kHzの周波数の電流を通電したときには、コイル(40)を含む第2振動体(4)が振動するものであることが認められる。のみならず、この点をおくとしても、上記のとおり、慣用例1、2記載の発明及び本件訂正発明1はボイスコイルモータの原理に基づくものであって、コイル電流と永久磁石(磁気ヨーク)による磁界との相互作用によって電磁力を発生する点において共通するところ、ボイスコイルモータに可動コイル形のもののほか、可動マグネット形のものもあることも上記のとおりであり、コイルが振動するものであるか、磁石及びヨークが振動するものであるかによって、このような電磁力の発生や、磁気ギャップ外への磁気漏洩を防ぐ課題があること等につき相違が生ずると解する理由は全くない。したがって、原告の上記主張は理由がない。
エ また、原告は、訂正明細書記載の数式Gに係る振動体の質量m以外の各種要因の値がいずれもあらかじめ定まっており、これらの値を変更することが困難であると主張し、この主張を前提として、本件訂正発明1のヨーク(31)に係る垂直壁構成が、振動系をできる限り大きく振動させるために、振動体の質量の値を大きくするという技術的意義を有すると主張する。
しかしながら、訂正明細書(甲第3号証の2)には、数式Gに係る振動体の質量m以外の各種要因の値が定まっており、これを変更することが困難である旨の記載は見当たらず、また、それが当業者にとって自明の事項であると認めるに足りる証拠もない。かえって、訂正明細書には、「本実施形態の2つの振動系は、
何れも1自由度振動系であり、その固有振動数f0は・・・f 0=(1/2π)(k/m)1/2で表わされる。ここで、πは円周率、kはバネ体のバネ係数、且つmは振動体の質量である。従って、各振動系におけるバネ体のバネ係数と振動体の質量を適当に設定することにより、所望の固有振動数を得ることができる」(【0012】項)、「機器の振動または音が使用者によって感知できさえすれば、各振動系の質量またはバネ係数を任意に設定できる」(【0016】項)との各記載があり、これらの記載によれば、数式Gに係る各種要因のうち、振動体の質量mの外、少なくともバネ体のバネ係数kの値を任意に設定し得ることが認められる。そうすると、本件訂正発明1において、ヨーク(31)の垂直壁構成が、振動系をできる限り大きく振動させるために、振動体の質量を大きくするという技術的意義を有するとの主張は、
その前提を欠くものであって、採用することができない。
(2) 刊行物3の記載事項の誤認について ア 刊行物1に、「図5を参照すると、ボイスコイル25は、ダイアフラム24の中心に取り付けられ、配線19により周波数信号源(図示せず)に接続される。ダイアフラム24は、その周部がケース18に取り付けられる。ユニット30は、端部でケース18に取り付けられるスプリング体27の中心に取り付けられる。ユニット30は、
ポールピース26、リングマグネット28及びリング形状ヨーク29より成り、ポールピース26がボイスコイル25の中心に位置されるよう配置される。」(決定謄本4頁9行目〜14行目)、「スプリング体27は、ボイスコイル25によって発生される磁界に応答してユニット30の移動を許容する手段である。配線19を介して2.1及び2.7KHzをボイスコイルに印加すると、ダイアフラム24の誘導振動に起因してブザー音を発生し、100〜200Hzを印加すると、スプリング体27上のユニット30の振動に起因して低周波振動を発生する。」(同頁25行目〜29行目)との各記載があることは当事者間に争いがなく、これらの記載及び刊行物1(甲第4号証)の図5の表示に上記「図解・リニアサーボモータとシステム設計」(乙第3号証)の記載を併せ考えれば、刊行物発明において、リング形状ヨーク29とポールピース26との間の磁界とボイスコイル25を流れる電流との相互作用により駆動力(電磁力)が生じ、ダイアフラム24の誘導振動とユニット30の振動とを発生させるものであること、それらの振動はボイスコイルモータの原理に基づくものであることが認められる。
イ 他方、刊行物3(甲第6号証)には、「可動基板を回動自在に、かつその回動軸心に沿つて移動自在に磁性材の固定基板上に取付け、その可動基板にその回動軸心から離されて読取用対物レンズを取付け、上記回動軸心を軸心とするフオーカシング用コイルを上記可動基板の上記固定基板側に取付け、・・・上記可動基板の・・・軸方向移動を・・・電磁駆動手段で行う光ピックアップ」(実用新案登録請求の範囲)に関する発明が記載されており、考案の詳細な説明には、「固定基板11上に中心軸12が立てられている。中心軸12に軸受13を介して可動基板14が回動自在に、かつ中心軸12上を移動自在に取付けられ・・・中心軸12から半径方向に離れて可動基板14に対物レンズ16が取付けられている」(6頁11行目〜末行)、
「可動基板14の固定基板11側に、中心軸12と同軸心的に円筒状フオーカシング用コイル17が取付られる」(7頁1行目〜3行目)、「第3図、第4図に示すように中心軸12に対し互に反対の位置において、フオーカシング用コイル17の内側と直接対向して第1、第2磁気ヨーク31,32が磁性材の固定基板11と一体に形成される。第1、第2磁気ヨーク31,32はフオーカシング用コイル17の周面に沿うように円弧状に形成されている。これら第1、第2磁気ヨーク31,32と対向し、フオーカシング用コイル17の外側において第1、第2永久磁石33,34が固定基板11上に取付けられる。第1、第2永久磁石33,34は固定基板11の厚さ方向に、かつ同一の向きに着磁されている。第1、第2永久磁石33,34上に第3、第4磁気ヨーク35,36が取付けられる。第3、第4磁気ヨーク35,36はフオーカシング用コイル17の外周面に沿うように円弧状とされ、かつそれぞれ第1、第2磁気ヨーク31,32とフォーカシング用コイル17を介して互いに対向している。この構成によれば図においては第3磁気ヨーク35から第1磁気ヨーク31に向う磁束が発生し、また第4磁気ヨーク36から第2磁気ヨーク32に向う磁束が発生する。これら両磁束はフオーカシング用コイル17を流れる電流と作用し、フオーカシング用コイル17を中心軸12に沿つて同一方向に移動させる」(8頁2行目〜9頁6行目)との各記載がある(なお、「第1、第2磁気ヨーク31,32は・・・第1、第2永久磁石33,34が固定基板11上に取付けられる。」との記載があることは、当事者間に争いがない。)。これらの記載及び図面第3、第4図によれば、刊行物3記載の発明において、円弧状の第1永久磁石33から垂直壁(小突出壁)を有する第3磁気ヨーク35を経て第1磁気ヨーク31に向かう磁束とコイル電流との作用により、また、第2永久磁石34から垂直壁(小突出壁)を有する第4磁気ヨーク36を経て第2磁気ヨーク32に向かう磁束とコイル電流との作用により、それぞれ電磁力が生じ、これらの電磁力がフォーカシング用コイル17を上下方向へ移動させていることが認められる。そうすると、第3、第4磁気ヨーク35、36は、コイル17の外周面に沿うように円弧状とされ、コイル17の全周を囲む形状ではないにせよ、電磁力の発生を損なわない範囲で分割されたものであることが明らかであり、また、上記「図解・リニアサーボモータとシステム設計」(乙第3号証)の記載に照らし、磁束とコイル電流との作用による電磁力によってコイル17が上下方向へ移動する動作が、ボイスコイルモータの原理に基づくものであることが認められる。
そして、刊行物3(甲第6号証)には、第3、第4磁気ヨーク35、36に設けられた垂直壁(小突出壁)の構成に係る技術的意義について特段の記載は見当たらないが、上記(1)のアのとおり、ボイスコイルモータの分野において、磁気ギャップの端部でコイル電流との電磁相互作用に寄与しない磁束漏洩が多く、磁気ギャップ内の磁束分布の平坦性が損なわれるので、永久磁石(磁気ヨーク)の長さ、すなわち、磁気ギャップの長さは、磁束漏洩の影響を見込んだ上で平坦性が確保できる十分なものである必要があることは技術常識であり、慣用例2(乙第2号証)記載の発明において、トッププレート(上磁気ヨーク)の振動板側の面に、磁気ギャップに沿って形成した導磁突縁が、漏洩磁束を収束して磁気ギャップ中に導き、振動板の駆動力を磁気ギャップ全域にわたって均一にする作用を奏することが認められることに照らすと、刊行物3の第3、第4磁気ヨーク35、36に設けられた垂直壁(小突出壁)が、磁気ギャップ外への磁気漏洩を防いで電磁力を効率よく発生させる作用を奏することは明らかである。
ウ そうすると、本件決定が、本件訂正発明1と刊行物発明との相違点(1)につき、刊行物3を引用し、ヨークの周縁部にコイル外側を囲む「垂直壁」を設けて、ギャップ間磁束密度の均一化、漏洩磁束の低減などを図ることにより、コイルに作用する電磁力を均等化し効率よくすることは、当業者が容易にし得るものと判断したことに誤りはない。
エ 原告は、刊行物発明の報知用振動発生装置と刊行物3記載の光ピックアップとでは、技術分野を異にし、コイルとヨークの振動態様が逆であるから、刊行物3記載の発明を刊行物発明に適用することは困難であると主張する。
しかしながら、報知用振動発生装置と光ピックアップとではその技術分野が異なるとしても、本件決定は、報知用振動発生装置として技術分野を同じくする本件訂正発明1と刊行物発明とを対比して相違点(1)を抽出した上、上記のとおり、刊行物3記載の発明が、本件訂正発明1及び刊行物発明と同じく、汎用的な技術であるボイスコイルモータの原理に基づくものであること、刊行物3記載の発明の垂直壁(小突出壁)がボイスコイルモータに共通の磁気ギャップ外への磁気漏洩を防ぐという技術課題の解決手段であることに基づいて、刊行物発明に刊行物3記載の発明の垂直壁(小突出壁)の構成を適用するものであり、その適用が困難であるとする事由はない。また、上記(1)のウのとおり、ボイスコイルモータにおいて、
コイルが振動するものであるか、ヨークが振動するものであるかによって、電磁力の発生や、磁気ギャップ外への磁気漏洩を防ぐという課題があること等につき相違が生ずると解する理由はない。そうすると、原告主張の理由によって、刊行物3記載の発明を刊行物発明に適用することが困難であるとすることはできない。
オ 原告は、さらに、刊行物3記載の発明と本件訂正発明1も技術分野が異なり、かつ、刊行物3記載の発明の磁気ヨーク35、36に垂直壁(小突出壁)を設けた構成は本件訂正発明1の垂直壁構成と形状及び作用効果を異にするものであるから、刊行物発明に刊行物3記載の垂直壁(小突出壁)を適用しても、本件訂正発明1の垂直壁構成に至ることはできないと主張する。
しかしながら、上記のとおり、本件訂正発明1と技術分野を同じくする刊行物発明に刊行物3記載の発明を適用することに困難はないから、刊行物3記載の発明と本件訂正発明1とが技術分野を異にするからといって、そのこと自体が、
刊行物発明に刊行物3記載の発明の垂直壁(小突出壁)を適用して本件訂正発明1の垂直壁構成に至ることを妨げるものとはなり得ない。また、刊行物3記載の発明の第3、第4磁気ヨーク35、36が円弧状であって、コイル17の全周を囲む形状ではないとしても、磁束とコイル電流との相互作用による電磁力の発生を損なわない範囲で分割されたものであることは上記イのとおりであり、そうであれば、第3、第4磁気ヨーク35、36に設けられた垂直壁(小突出壁)の、磁気ギャップ外への磁気漏洩を防いで電磁力を効率よく発生させる作用も、それが円弧状であることによって損なわれるものではない。そして、刊行物発明のリング形状ヨーク29に刊行物3記載の発明の垂直壁(小突出壁)を組み合せる際には、コイル外側の全周を囲むリング形状ヨーク29の全周にわたって垂直壁を形成するものとすることが自然であり、その結果、垂直壁もコイル外側の全周を囲むものとなるから、本件訂正発明1の「コイル外側を囲む垂直壁」の構成と形状が異なるものではない。さらに、本件訂正発明1の垂直壁構成が、振動体の質量を大きくするという技術的意義を有するとの原告主張が採用できず、磁気ギャップ外への磁気漏洩を防いで電磁力を効率よく発生させる作用効果を奏するものであることは、上記(1)のイ及びエのとおりであるところ、刊行物3記載の発明の垂直壁(小突出壁)も同様の作用効果を奏することは上記イのとおりであるから、両者は作用効果を異にするものでもない。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
2 以上のとおりであるから、原告主張の本件決定取消事由は理由がなく、他に本件決定を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 石原直樹
裁判官 宮坂昌利