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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成17ワ1199特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成11ワ101特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成12ワ17298損害賠償等請求事件 判例 特許
平成14ワ5107特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成8ワ1635特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
関連ワード 物の発明 /  新規性 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  公知技術 /  技術的範囲 /  同一の発明 /  発明の詳細な説明 /  優先権 /  警告 /  実施料相当額 /  援用権(援用) /  特許出願日 /  出願経過 /  参酌 /  意識的除外(意識的に除外) /  禁反言 /  特許発明 /  実施 /  権原 /  社会通念 /  加工 /  交換 /  間接侵害 /  構成要件 /  方法の使用 /  業として /  差止請求(差止) /  侵害 /  過失推定(過失の推定) /  損害額 /  逸失利益 /  販売数量(販売数) /  損失額 /  乗じた額 /  実施料 /  相当因果関係 /  不法行為(民法709条) /  実施権 /  専用実施権 /  通常実施権 /  独占的通常実施権 /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  拡張 /  変更 /  訂正明細書 /  要旨変更 /  審決確定(審決が確定) /  費用の額 /  異議申立 / 
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事件 平成 10年 (ワ) 12899号 特許権侵害差止等請求事件
平成 11年 (ワ) 13872号 請求事件
原告(反訴被告) シー・エム・エル・コストウルツイオー ニ・メカニーチェ・リーリ・エス・アール・エル (以下「原告シー・エム・エル」という。)
原告 大同興業株式会社 (以下「原告大同興業」という。)
原告両名訴訟代理人弁護士 牛田利治
同 澤由美
補佐人弁理士 菅原弘志
被告(反訴原告) 株式会社エスコ (以下「被告」という。)
訴訟代理人弁護士 徳永信一
補佐人弁理士 岡田全啓
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2001/10/09
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告は、別紙イ号装置目録記載の電動式パイプ曲げ装置を輸入、販売してはならない。
2 被告は、前項記載の電動式パイプ曲げ装置を廃棄せよ。
3 被告は、原告大同興業に対し、金1689万9619円及び内金1489万9619円に対する平成10年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告は、原告シー・エム・エルに対し、金308万3785円及びこれに対する平成10年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
6 被告の反訴請求を棄却する。
7 訴訟費用は、原告大同興業と被告との間に生じたものはこれを3分し、
その2を被告の、その余を原告大同興業の各負担とし、原告シー・エム・エルと被告との間に生じたものについては本訴反訴を通じてこれを3分し、その1を被告の、その余を原告シー・エム・エルの各負担とする。
8 この判決は、第3項及び第4項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
〔本訴請求〕 1 主文第1、2項同旨 2 被告は、原告大同興業に対し、金3921万6235円及び内金3521万6235円に対する平成10年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告は、原告シー・エム・エルに対し、金784万5641円及びこれに対する平成10年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
〔反訴請求〕 1 原告シー・エム・エルは被告に対し、金1046万7973円及びこれに対する平成11年11月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は、「電動式パイプ曲げ装置」の特許発明の特許権者である原告シー・エム・エルが電動式パイプ曲げ装置を輸入、販売する被告に対し、特許権に基づきその差止めを求めるとともに、実施料相当額につき不当利得返還請求をし、独占的通常実施権者である原告大同興業が被告に対し損害賠償を求めた事案である。
1 前提事実(末尾に証拠の掲記がない事実は、当事者間に争いがない。) (1) 本件特許権 ア 原告シー・エム・エルは、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その特許を「本件特許」、本件特許権に係る発明を「本件発明」という。)を有している。
特許番号 第1583708号 発明の名称 電動式パイプ曲げ装置 出 願 日 昭和57年3月16日(特願昭57-42496) 優先権主張 1981年3月16日イタリア国出願外2件 公 告 日 平成元年11月7日(特公平1-52091) 登 録 日 平成2年10月22日 イ 本件発明の特許登録時の特許請求の範囲第1項は次のとおりであった(特許登録時の特許請求の範囲が記載された特許公報(甲1)を以下「本件公報」という)。
「パイプを曲げるための電動式パイプ曲げ装置であって、
本体111、211と、
その本体に設けられたモータと、
そのモータの回転を減速する減速機と、
曲げ曲線に対応する曲げ外周面を有してその中心部で前記減速機の出力軸112に固定され、かつその曲げ外周面に沿ってパイプの曲げ断面に対応する保持溝114、214が形成された回転フォーマ113、213と、
その回転フォーマとの間でパイプを挟むように定位置に設置され、かつ前記回転フォーマの保持溝にほぼ対向してパイプを軸方向に滑らせつつ案内するガイド溝50、260を有するベンディングダイ118、218と、
そのベンディングダイを前記回転フォーマに対してパイプ径に対応する所定位置に位置させるベンディングダイ支持機構124、224と、
前記回転フォーマの外周部に設けられてパイプの曲げ開始部近傍を保持し、その回転フォーマの回転時にパイプを回転フォーマと一体的に保つパイプホルダ122、222と を含むことを特徴とする電動式パイプ曲げ装置。」 ウ 被告は、本件特許について無効審判(平成10年審判第35268号)を請求し、原告が同審判事件において特許請求の範囲の第1項を下記のとおり訂正することを含む訂正請求を行ったところ、特許庁は、平成12年4月17日、「訂正を認める。本件審判の請求は成り立たない。」とする審決をし(以下「本件審決」といい、この訂正を「本件訂正」という。)、同審決は確定した。
「パイプを曲げるための電動式パイプ曲げ装置であって、
本体(111、211)と、
その本体に設けられたモータと、
そのモータの回転を減速する減速機と、
曲げ曲線に対応する曲げ外周面を有してその中心部で前記減速機の出力軸(112)に固定され、かつその曲げ外周面に沿ってパイプの曲げ断面に対応する保持溝(114、214)が形成された回転フォーマ(113、213)と、
その回転フォーマとの間でパイプを挟むように定位置に設置され、かつ前記回転フォーマの保持溝にほぼ対向してパイプを軸方向に滑らせつつ案内するガイド溝(50、260)を有するベンディングダイ(118、218)と、
そのベンディングダイを前記回転フォーマに対してパイプ径に対応する所定位置に位置させるベンディングダイ支持機構(124、224)と、
前記回転フォーマの外周部に設けられてパイプの曲げ開始部近傍を保持し、その回転フォーマの回転時にパイプを回転フォーマと一体的に保つパイプホルダ(122、222)とを含み、前記ベンディングダイ(118、218)のガイド溝(50、260)が、パイプの送り方向に沿って延びており、かつそのガイド溝が、パイプ送入側の端部に形成された送入側ガイド部(C、245)と、パイプ送出側の端部に形成された送出側ガイド部(118a、246)と、それらの中間においてパイプに対し接触することなく一定のクリアランスを有して対向する逃がし部(118b、248)とを有し、かつその送出側ガイド部の溝底が送出側端に向って漸次パイプに近づくように形成されている ことを特徴とする電動式パイプ曲げ装置。」(下線部が本件審決において訂正が認められた部分である。) エ 被告は、本件特許について再度無効審判(無効2000-35572号)を請求し、原告シー・エム・エルが同審判事件において特許請求の範囲の第1項を下記のとおり訂正することを含む訂正請求を行ったところ、特許庁は、平成13年7月24日、「訂正を認める。本件審判の請求は成り立たない。」とする審決(以下「第2次審決」という。)をした。
「パイプを曲げるための電動式パイプ曲げ装置であって、
本体(111、211)と、
その本体に設けられたモータと、
そのモータの回転を減速する減速機と、
曲げ曲線に対応する曲げ外周面を有してその中心部で前記減速機の出力軸(112)に固定され、かつその曲げ外周面に沿ってパイプの曲げ断面に対応する保持溝(114、214)が形成された回転フォーマ(113、213)と、
その回転フォーマとの間でパイプを挟むように定位置に設置され、かつ前記回転フォーマの保持溝にほぼ対向してパイプを軸方向に滑らせつつ案内するガイド溝(50、260)を有するベンディングダイ(118、218)と、
そのベンディングダイを前記回転フォーマに対してパイプ径に対応する所定位置に位置させるベンディングダイ支持機構(124、224)と、
前記回転フォーマの外周部に設けられてパイプの曲げ開始部近傍を保持し、その回転フォーマの回転時にパイプを回転フォーマと一体的に保つパイプホルダ(122、222)とを含み、前記ベンディングダイ(118、218)のガイド溝(50、260)が、パイプの送り方向に沿って延びており、かつそのガイド溝が、パイプ送入側の端部に形成された送入側ガイド部(C、245)と、パイプ送出側の端部に形成された送出側ガイド部(118a、246)と、それらの中間においてパイプに対し接触することなく一定のクリアランスを有して対向する逃がし部(118b、248)とを有し、かつその送出側ガイド部の溝底が送出側端に向って漸次パイプに近づくように形成されていて、パイプの曲げ開始点が、曲げ開始時に前記ベンディングダイ(118、218)の送出側端よりも送入側ガイド部(C、245)側に位置し、パイプの曲げが行われるときにパイプとベンディングダイ(118、218)の送出側端との接触が送出側ガイド部(118a、246)に沿って徐々に進行するように構成されてい ることを特徴とする電動式パイプ曲げ装置。」(下線部が第2次審決において訂正(付加)が認められた部分である。) (2) 構成要件 本件発明(本件訂正後で第2次審決による訂正前のもの)は、次の構成要件に分説することができる。
A パイプを曲げるための電動式パイプ曲げ装置であって、
B 本体(111、211)と、
C その本体に設けられたモータと、
D そのモータの回転を減速する減速機と、
E 曲げ曲線に対応する曲げ外周面を有してその中心部で前記減速機の出力軸(112)に固定され、かつその曲げ外周面に沿ってパイプの曲げ断面に対応する保持溝(114、214)が形成された回転フォーマ(113、213)と、
F その回転フォーマとの間でパイプを挟むように定位置に設置され、かつ前記回転フォーマの保持溝にほぼ対向してパイプを軸方向に滑らせつつ案内するガイド溝(50、260)を有するベンディングダイ(118、218)と、
G そのベンディングダイを前記回転フォーマに対してパイプ径に対応する所定位置に位置させるベンディングダイ支持機構(124、224)と、
H 前記回転フォーマの外周部に設けられてパイプの曲げ開始部近傍を保持し、その回転フォーマの回転時にパイプを回転フォーマと一体的に保つパイプホルダ(122、222)とを含み、
I 前記ベンディングダイ(118、218)のガイド溝(50、260)が、パイプの送り方向に沿って延びており、
J かつそのガイド溝が、パイプ送入側の端部に形成された送入側ガイド部(C、245)と、
K パイプ送出側の端部に形成された送出側ガイド部(118a、246)と L それらの中間においてパイプに対し接触することなく一定のクリアランスを有して対向する逃がし部(118b、248)とを有し、
M かつその送出側ガイド部の溝底が送出側端に向って漸次パイプに近づくように形成されていることを特徴とする N 電動式パイプ曲げ装置。
(3) イ号装置 ア 被告は、平成6年(1994年)3月から、後記(4)記載の仮処分決定が発令された平成10年8月3日までの間、別紙イ号装置目録記載の電動パイプ曲げ装置(以下「イ号装置」という。)を販売した(なお、被告は、イ号装置目録記載「1 構造」の下線部を否認するが、イ号装置のベンディングダイが中央部が低く両側の端部に向かって徐々に傾斜した円弧状に形成されていることは認めている。)。
イ イ号装置は、商品としては、電動式直管ベンダー、ベンダーシュー(以下「シュー」という。)及びベンダー用ガイド(以下「ガイド」という。)から構成されている。電動式直管ベンダーは別紙イ号装置目録記載の本体(111、211)に、シューは同目録記載の回転フォーマ(113、213)に、ガイドは同目録記載のベンディングダイ(118、218)にそれぞれ該当する。被告は、電動式直管ベンダー、シュー及びガイドをカタログに掲載し、同時に又は個別に販売している。
ウ イ号装置は、本件発明の構成要件AないしG、I、L及びNを充足する。
(4) 本件仮処分 原告シー・エム・エルは、平成9年12月2日、本件特許権に基づき、被告に対して、大阪地方裁判所にイ号装置の販売禁止等の仮処分命令の申立てを行い(平成9年(ヨ)第3113号)、同裁判所は、平成10年8月3日、イ号装置の販売禁止等を命じる仮処分決定(以下「本件仮処分」という。)を発令した。
被告は、平成11年9月18日、大阪地方裁判所に対し、本件仮処分に対する異議を申し立てたが(平成10年(モ)第53331号)、原告シー・エム・エルは、同年11月4日、本件仮処分の申立てを取り下げた。
2 争点 〔本訴反訴共通〕 (1) イ号装置は本件発明の技術的範囲に属するか。
構成要件H該当性-パイプホルダ (本件発明の「パイプホルダ」の意義の解釈につき包袋禁反言の原則が適用されるか。) イ 構成要件J該当性-送入側ガイド部 ウ 構成要件K、M該当性-送出側ガイド部 (2) 本件特許には明らかな無効理由が存在するか。
ア 本件発明は、特開昭55-136519号公報(乙34、以下「乙34公報」といい、その発明を「乙34発明」という。)により当業者が容易に発明をすることができたか(特許法29条2項)。
イ 本件発明は、原告の平成元年6月20日付け手続補正が要旨変更(平成6年法律第116号による改正前の特許法〔以下「旧特許法」という。〕40条)に当たり、出願日が同日に繰り下がる結果、新規性を欠くか(特許法29条1項)。
〔本訴〕 (3) 電動式直管ベンダー、シュー、ガイド単体の販売について、直接侵害が成立するか。また、間接侵害(特許法101条1号)が成立するか。
(4) 原告大同興業の損害額及び原告シー・エム・エルの損失額
〔反訴〕 (4) 原告シー・エム・エルには、本件仮処分の申立てに当たり過失があるか。
(5) 被告の損害額
争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(イ号装置は本件発明の技術的範囲に属するか)について (1) 同ア(構成要件H該当性-パイプホルダ)について 【原告らの主張】 ア イ号装置のロックリング(別紙図面122(222)は、ロックリング係止杆300とパイプの曲げ開始点近傍とを拘束し、回転フォーマ(113、213)の回転時にパイプtを回転フォーマと一体的に保つ構造であるから、本件発明のパイプホルダに該当し、構成要件Hを充足する。
イ 被告は、原告シー・エム・エルが出願経過において、パイプホルダを「配置上の改良」「回動自在の構造」「直線的当接の機構」を備えるものに限定したと主張するが、本件発明の特徴は、本体、本体に設けられたモータ、モータの回転を減速する減速機、回転フォーマ、ガイド溝を有するベンディングダイ、ベンディングダイ支持機構、回転フォーマの回転時にパイプを回転フォーマと一体的に保つパイプホルダを結合して電動式パイプ曲げ装置とし、ベンディングダイのガイド溝に送入側ガイド部、送出側ガイド部、及びそれらの中間にパイプに対し接触することなく一定のクリアランスを有して対向する逃がし部を設け、送出側ガイド部の溝底が送出側端に向かって漸次パイプに近づくように形成した点にあり、パイプホルダは、曲げ加工の際にパイプと回転フォーマを一体化する補助的部材でしかない。原告シー・エム・エルは、出願経過において提出した意見書等で、パイプホルダに関し「パイプを支持する部位がパイプの曲げ開始点にはなく」と述べたが、これは、拒絶理由通知の引用例と対比して、本件発明においてはパイプを支持する部位がパイプの曲げ開始点にはなく、外側から好ましくない横圧を受けることがないことを説明したものであり、パイプホルダに関する被告が指摘するその余の陳述はいわばつけ足しにすぎず、特許性の維持に関わる限定的陳述をしたものではない。
したがって、パイプホルダについて包袋禁反言による限定解釈は成り立たない。
【被告の主張】 原告シー・エム・エルは、本件発明の出願経過の中で、拒絶査定を回避する目的で、意見書、審判請求理由補充書、手続補正書において、パイプホルダについて、@マトリックスの周縁から離れて張り出した基板に取り付けられ、もってパイプの曲げ開始近傍から離れた位置に配置される(配置上の改良)、A固定ピンによって水平方向に自由に回転できるよう取り付けられ、もって回動自在の構造を有する(回動自在の構造)、B少なくともパイプの直径よりも大きい長さでパイプに直線的に当接してパイプを支持している(直線的当接の機構)という三つの限定を加えたものである。したがって、本件発明の構成要件Hにいう「パイプホルダ」は、包袋禁反言の法理により前記3要件を備えたものに限定解釈されるべきであるが、イ号装置のロックリングは前記3要件を備えておらず、本件発明の構成要件Hを充足しない。
(2) 同イ(構成要件J該当性-送入側ガイド部)について 【原告らの主張】 イ号装置には、ガイド溝50(260)のパイプ送入部の端部に形成された送入側ガイド部C(別紙イ号装置目録添付図面第4図)があり、構成要件Jを充足する。
【被告の主張】 イ号装置のベンディングダイ(118、218)は、ガイド溝に凹の湾曲を設けた単純な形状を有し、形態上パイプ逃がし部と区別された送入側ガイド部を有しておらず、構成要件Jを充足しない。
(3) 同ウ(構成要件K、M該当性-送出側ガイド部)について 【原告らの主張】 ア 本件発明の構成要件K、Mにいう「送出側ガイド部」は、以下の特徴を備えるものであるところ、イ号装置のベンディングダイ(118、218)もこれらの特徴を備えているから、イ号装置は、本件発明の構成要件K、Mにいう「送出側ガイド部」を具備している。
(ア) パイプに対する面での接触 本件発明では、パイプの曲げが行われる前は、ベンディングダイとパイプとの接触は両端の点a、cのみで起き、送出側ガイド部が面でパイプに接触することはないが、パイプの曲げが行われる時は、ベンディングダイの送出側ガイド部が面でパイプに接触する〔平成11年9月13日付け訂正請求書添付の全文訂正明細書(甲23の2、以下「訂正明細書」という。)9頁19〜26行、10頁9〜15行、本件公報第8図、第12図、訂正明細書添付第7図(訂正前は本件公報第7図)〕。
イ号装置のベンディングダイは、中央部が低く両側の端部に向かって徐々に傾斜した円弧状を呈しているが、パイプの曲げが行われる前は、送入側端部と送出側端部の両端c、aのみがパイプに接触し、パイプの曲げが行われる時は、
送出側端部付近の一定区域が必ずパイプに接触するから、このパイプに接触する部分が送出側ガイド部に該当する。
(イ) 曲げ開始点の位置 本件審決7頁16〜22行には、「訂正後の特許請求の範囲第1項に記載された、送出側ガイド部の位置と機能は、特許請求の範囲には明記されていないが、本件訂正明細書及び図面の記載からみて、パイプの曲げ開始点が、曲げ開始時に前記ベンディングダイ(118、218)の送出側端よりも送入側ガイド部(C、245)側に位置し、パイプの曲げが行われるときにパイプとベンディングダイ(118、218)の送出側端との接触は送出側ガイド部に沿って徐々に進行するものであると解するのが相当である。」との記載があり、これは、曲げ開始時に送出側ガイド部をパイプに接触させるという本件発明の作用効果を奏するためには当然の構成であるから、「送出側ガイド部」があるというためには、パイプの曲げ開始点が、曲げ開始時にベンディングダイの送出側端よりも送入側端部に位置している必要がある。
イ号装置においても、パイプの曲げ開始点は「曲げ開始時にベンディングダイの送出側端aよりも送入側ガイド部C側に位置」しており、この点からも、イ号装置のベンディングダイは、送出側ガイド部を具備しているといえる。
イ 被告は、乙34公報にはイ号装置のベンディングダイと同一形状の「加圧片30」が記載されているから、本件発明の構成要件K、Mにいう「送出側ガイド部」は公知技術である乙34発明の加圧片を含まず、乙34発明の加圧片30と同一形状のベンディングダイを有するイ号装置も本件発明の構成要件K、Mを充足しない旨主張する。
しかしながら、乙34発明は、加圧片30によって管27を円筒セグメント10の溝11に押し付けてパイプを曲げるもので、本件発明とは別個の技術思想に基づくものである。イ号装置は乙34発明と相違し、その相違点は本件発明と乙34発明の相違点と同一であるから、イ号装置の一構成要素であるベンディングダイが乙34発明の一構成要素である加圧片と同一形状であることをもって、イ号装置が本件発明の構成要件K、Mを充足しないとはいえない。
【被告の主張】 原告シー・エム・エルは、本件訂正により、@送入側ガイド部、A送出側に向かって漸次パイプに近づくように形成された溝底を有する送出側ガイド部、B中間の逃がし部という特徴的構造を有するベンディングダイを有するよう特許請求の範囲を限定することにより本件特許が無効とされることを回避したのであるから、本件発明の技術思想の中心は、ベンディングダイの前記特徴的構造に凝縮しているはずであった。しかし、本件特許出願前の公知文献である乙34公報には、作業面において凹面状に湾曲し、かつ被曲げパイプに対応して丸く面取りをしたガイド溝を有し、ガイド溝の中央に作業中も被曲げパイプと接触しない逃げ部を有する加圧片30が開示されており、本件発明のベンディングダイは、乙34発明の加圧片30のごときものを含まないと解される。
イ号装置のベンディングダイは、乙34発明の加圧片と同一形状であり、
ガイド溝に凹の湾曲を設ける単純な形状を有し、凹の湾曲による逃がし部の両端にパイプとの接触部を有するが、それらはパイプ逃がし部と区別されないから、このようなベンディングダイを備えたイ号装置は、本件発明の構成要件K、Mを充足しない。
2 争点(2)(本件特許には明らかな無効理由が存在するか)について (1) 同ア(本件発明は乙34公報により進歩性を欠くか)について 【被告の主張】 前記1、(3)【被告の主張】のとおり、乙34公報には、イ号装置のベンディングダイと同一形状の加圧片が開示されている。本件発明がベンディングダイにつき構成要件IないしMの限定を加えることにより特許の無効を免れたこと、ベンディングダイの形状を除く構成は公知技術に含まれていたことによれば、原告らの主張のように、本件訂正後の本件発明のベンディングダイが公知技術と同一形状であるイ号装置のベンディングダイを含むならば、本件訂正後の本件発明は進歩性を欠くことになり、特許法29条2項に違反するのは明白である。
【原告らの主張】 発明は個々の構成要素を一体的に結合して所要の作用効果を生ぜしめるものであり、本件発明の一構成要素であるベンディングダイを公知資料の一構成要素である加圧片と対比して新規性欠如及び進歩性欠如を論じることはできない。本件発明と乙34発明が同一発明ではないことは、前記1、(3)【原告らの主張】イのとおりであり、本件発明には新規性がある。また、乙34公報には本件発明に想到できる契機の記載がないから積極的に進歩性が認められ、進歩性欠如が明白とはいえない。
(2) 同イ(原告シー・エム・エルの平成元年6月20日付け手続補正は要旨変更に当たり、本件発明の出願日が繰り下がる結果、本件発明は新規性を欠くか)について 【被告の主張】 原告シー・エム・エルが平成元年6月20日付け手続補正書(乙19)により、出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達前にした補正(以下「本件全文補正」という。)は、特許出願時の願書に添付された明細書(以下「当初明細書」という。)の特許請求の範囲に記載されたパイプ支持部材に関する技術的事項を削除し、特許請求の範囲拡張するものであるから、要旨変更(旧特許法40条)に当たる。
当初明細書における特許請求の範囲第1項のうち、パイプ支持部材に係る部分は「基板を介して前記マトリックスに連結されるとともに、曲げ加工の際前記マトリックスと前記副マトリックスと協働できるように前記基板に取り付けられたピンのまわりを自由に回転する補助装置としての機能を果たす直線の半円溝を有するパイプ支持部材」というものであり、@基板による連結、A回動自在の構造、B直線的な半円溝、C協働する補助部材という技術的事項を要素としていたが、同記載は、本件全文補正により「前記回転フォーマの外周部に設けられてパイプの曲げ近傍を保持し、その回転フォーマの回転時にパイプを回転フォーマと一体的に保つパイプホルダ122、222」と変更され、前記@〜Cは削除された。よって、本件発明の特許出願日は手続補正書の提出時である平成元年6月20日に繰り下がり、本件特許は、本件発明の公開公報を含む同日時点の公知文献によって新規性を欠き無効であることが明白である。
【原告らの主張】 当初明細書及び添付図面には、第1実施例(第1図)、第2実施例(第5図)及び第3実施例(第8図)が記載されていたが、本件全文補正後の明細書では、当初明細書の第1実施例が削除され、第2及び第3実施例がそれぞれ第2及び第1実施例として残された。しかし、各実施例の添付図面は同一であり、詳細な説明は同趣旨であるから、この状態で当初明細書の請求項1のパイプ支持部材に関する記載を「前記回転フォーマの外周部に設けられてパイプの曲げ開始部近傍を保持し、その回転フォーマの回転時にパイプを回転フォーマと一体的に保つパイプホルダ122、222」と補正しても技術的事項には変更がなく、補正後の記載は当初明細書の記載事項の範囲内である。
パイプホルダは回転フォーマの回転時にパイプと回転フォーマとを一体的に保持する補助的部材にすぎず、本件発明の目的、効果に照らし技術上格別の意味はないから、パイプホルダを前記のように補正しても、本件全文補正が要旨変更に当たることはない。
3 争点(3)(電動直管ベンダー、シュー、ガイド単体の販売による直接侵害又は間接侵害の成否)について 【原告らの主張】 (1) イ号装置を構成するのは、電動式直管ベンダー、シュー及びガイドであり、本件特許権の直接侵害は、原則としてこれらを一体的に(同時に)販売したときに成立する(以下、このような販売形態を「一体販売」という。)。ただし、被告がまず侵害品である完成品(電動式直管ベンダー+シュー+ガイド)を販売した後、侵害品の購入者に対して交換用の部品としてシュー、ガイドのみを販売した場合は、交換用の部品についても直接侵害が成立する。
(2) 電動用直管ベンダー本体は、特許法101条1号の「特許が物の発明についてされている場合において、業として、その物の生産にのみ使用する物」に該当するから、これを単体で販売したときには間接侵害が成立する。
原告大同興業の電動式パイプ曲げ装置及び部品の売上実績(平成8年6月〜平成10年7月)によれば、原告大同興業において、回転フォーマ・ベンディングダイと一体販売される電動式直管ベンダー本体の比率は0.9452であり、単体販売の比率は0.0548であり、被告の場合も同様の比率と推定される。
(3) シュー、ガイドが特許法101条1号の要件を充たさないとしても、直接侵害を行った被告が、その後に交換用部品として電動用のシュー、ガイド(被告は反訴状で電動用は全販売額の1/2であると主張する)だけを販売することは本件特許権の直接侵害に当たる。
原告大同興業の電動式パイプ曲げ装置及び部品の売上実績(平成8年6月〜平成10年7月)によれば、原告大同興業において、電動式直管ベンダー・回転フォーマ・ベンディングダイが一体販売される場合の回転フォーマ(シュー)の比率は0.5092であり、ベンディングダイ(ガイド)の比率は0.4457であり、被告の場合も同様の比率と推定される。
【被告の主張】 争う。シュー、ガイド単体の販売は、本件特許権の直接侵害間接侵害も構成しない。
4 争点(4)(原告大同興業の損害額及び原告シー・エム・エルの損失額)について 【原告らの主張】 (1) 原告大同興業の請求権 原告大同興業は、原告シー・エム・エルの日本総販売代理店又は総輸入元であり、遅くとも平成元年以降、日本国内で独占的に本件特許品を販売し、独占的通常実施権を許諾されていたから、被告によるイ号装置の輸入、販売は、原告大同興業の独占的通常実施権侵害する。独占的通常実施権者についても特許法103条(過失の推定)及び同法102条2項(損害の額の推定)が類推適用されるから、被告には原告大同興業の独占的通常実施権侵害について過失があるものと推定され、被告がイ号装置の輸入、販売によって得た利益の額が原告大同興業の損害額と推定される。
原告大同興業は、被告に対し、特許法102条2、3項に基づき、次の額を損害として請求する。
ア 電動式直管ベンダー(イ号装置本体) 電動式直管ベンダーについては、前記3、(1)、(2)のとおり、一体販売か単体の販売かを問わず、販売したもの全部が侵害となる。
(ア) 平成8年6月から平成10年7月まで(被告が販売額等を開示した期間)のイ号装置のカタログ番号であるEA276関連商品の売上金額は別紙第1表のとおりであるところ、これに基づき電動式直管ベンダーの被告の利益の額を算出すると、1150万4907円である(別紙修正後第2表(1)の48(行)・32(列)欄)。
a 平成9年8月から平成10年7月まで この期間における被告の利益額は、電動式直管ベンダーの売上額の43.5%(被告が反訴で主張する利益率)に当たる472万9755円である(別紙修正後第2表(1)の40・31欄)。
b 平成8年6月から平成9年7月まで この期間は為替相場の変動によって被告製品の輸入価格(原価)が変動するため利益額が変動する。この期間における被告の各月利益額は、前記a期間中の原価率(1-0.435=0.565)に為替相場率(前記a期間中の平均為替相場1ドル=129.90円に対する該当月の為替相場の率)を乗じて算出した当該月の原価率を1から引いた当該月の利益率を当該月の売上額に乗じた額であり、このようにして求めた平成8年6月から平成9年7月の利益額を合計すると677万5152円となる(別紙修正後第2表(1)の47・18欄)。
(イ) 平成6年3月から平成8年5月まで(被告が販売額等を開示しなかった期間)の電動式直管ベンダーの被告の利益額は465万5470円である(別紙修正後第2表(1)の58・33欄)。
a 平成7年12月から平成8年5月(本訴提起から遡って3年内) 平成7年12月から平成8年5月の利益額は、平成8年6月から平成10年7月(26月)の月平均利益額による。この期間の月平均利益額は、別紙修正後第2表(1)の利益合計額1150万4907円を26で割った44万2496円であり、平成7年12月から平成8年5月(6月)の利益額は265万4978円(442,496×6=2,654,978)である(別紙修正後第2表(2)の52・32欄)。
b 平成6年3月から平成7年11月まで 平成6年3月から平成7年11月までの期間の損害額は、別紙修正後第2表(1)で計算された平成8年6月から平成10年7月(26月)の売上高2476万8000円を月数で割った月平均売上高95万2615円(24,768,000÷26=952,615)に実施料率10%を乗じて求めた各月実施料相当額9万5262円に、この期間の月数(21月)を乗じた200万0492円である(別紙修正後第2表(2)の57・31欄)。
(ウ) 以上によれば、平成6年3月から平成10年7月までに被告が電動直管ベンダーを輸入、販売したことによる原告大同興業の損害額は1616万0377円(別紙修正後第2表(3))である。
イ シューによる額 (ア) 主位的主張 平成6年3月から平成10年7月までに、被告がシューを一体販売及び別売りしたことによる利益の額及び実施料相当額(10%)は、第6表9欄のとおり、586万4608円である(その算出根拠は別紙修正後第4表A(1)ないし(3)参照)。
(イ) 予備的主張 原告大同興業において、シュー全体の売上げのうち、電動式直管ベンダー及びガイドと一体的に販売されるものの比率は0.5092であり、被告も同様の比率であると推定される。被告が平成6年3月から平成10年7月までにシューを一体販売したことによる利益の額及び実施料相当額(10%)は、別紙修正後第4表A(4)、第6表10欄のとおり、298万6259円(全体×0.5092)である。
ウ ガイド (ア) 主位的主張 平成6年3月から平成10年7月までに、被告がガイドを一体販売及び別売りしたことによる利益の額及び実施料相当額(10%)は、別紙第6表15欄のとおり、174万7666円である(その算出根拠は別紙[訂正]修正後第4表B(1)ないし(3)参照)。
(イ) 予備的主張 原告大同興業において、ガイド全体の売上げのうち、電動式直管ベンダー及びシューと一体的に販売されるものの比率は0.4457であり、被告も同様の比率であると推定される。被告が平成6年3月から平成10年7月までにガイドを一体販売したことによる利益の額及び実施料相当額(10%)は、別紙[訂正]修正後第4表B(4)、第6表16欄のとおり、77万8935円(全体×0.4457)である。
エ 弁護士・弁理士費用 被告が本件特許権侵害行為を継続したため、原告らは本訴提起及び仮処分申立てを余儀なくされた。また、被告は無効審判事件を提起したため、原告シー・エム・エルはこれに対応する必要があった。原告らの間では、これらの手続に関する弁護士・弁理士費用は、日本国内の独占的通常実施権者である原告大同興業が負担することとされているので、弁護士・弁理士費用は同原告の損害となり、被告が負担すべき金額としては400万円が相当である。
オ 信用上の損害 原告大同興業は、原告製品が特許品であり日本国内で独占的販売しているのは同原告のみであるとして原告製品を販売してきたが、類似品である被告製品が市場に出回り、取引先から信用を失った。その信用低下による損害は1000万円を下らない。
カ よって、原告大同興業が被告の特許権侵害行為により被った損害は、
(ア) 主位的には、@電動直管ベンダー・シュー・ガイドの合計金2377万2651円(第6表17欄)、A弁護士・弁理士費用400万円、B信用損害1000万円の合計である金3777万2651円、
(イ) 予備的には、@電動直管ベンダー・シュー・ガイドの合計金1992万5571円(第6表18欄)、A弁護士・弁理士費用400万円、B信用損害1000万円の合計である金3392万5571円 である。
(2) 原告シー・エム・エルの不当利得返還請求権 ア 原告シー・エム・エルの不当利得返還請求権の額は、被告の全期間の売上額に対する実施料率10%を乗じた実施料相当額である。被告は日本国内で被告製品を販売することにより売価の約40%の利益を得ており、原価率は販売価格の約60%に上る。一般に、原価中メーカーの利益は30〜40%であるから、本件では、販売価格の18〜24%(原価率60%×メーカーの利益率30〜40%)がメーカーに帰属し、本件侵害行為がなければ、原告シー・エム・エルは被告の販売額の18〜24%に当たる利益を上げ得た。よって、実施料率は被告の販売額の10%を下らない。
イ 主位的主張 原告シー・エム・エルが被告の「電動用シュー全部+電動用ガイド全部+装置本体全部」の販売により被った損害は、平成8年6月〜平成10年7月分が金384万8805円(別紙修正後第5表(1)、第6表19欄)、平成6年3月〜平成8年5月分が金399万6836円(別紙修正後第5表(2)、第6表21欄)であり、合計金784万5641円である(別紙第6表23欄)。
ウ 予備的主張 原告シー・エム・エルが被告の「装置本体+シュー+ガイド」の一体販売及び別売りの装置本体の販売により被った損失は、平成8年6月〜平成10年7月分が金315万5466円(別紙修正後第5表(1)、第6表20欄)、平成6年3月〜平成8年5月分が金327万6853円(別紙修正後第5表(2)、第6表22欄)であり、合計643万2319円である(別紙第6表24欄)。
【被告の主張】 (1) 原告大同興業の損害賠償請求権について ア 被告の過失について 原告大同興業が有していた権利は通常実施権ないし独占的通常実施権という公示を伴わない債権的権利にすぎず、特許権侵害ないし専用実施権侵害に関する過失の推定を定めた特許法103条の適用はない。独占的通常実施権者に対する不法行為の成立には、侵害者の故意・過失の対象が、特許権侵害のみならず「独占的」販売権の侵害に向けられていることを要し、原告大同興業の損害賠償請求権が成立するには、被告が少なくとも原告大同興業が「独占的」販売権を有していることを知っていたことを要する。被告は、イタリア国の工具メーカーであるシー・ビー・シーから独占販売権の付与を得て、平成6年3月から本件商品を輸入しており、本件特許権の存在を知ったのは原告シー・エム・エルから警告書が送付された平成9年4月24日であった。そして、被告が、原告大同興業が本件特許権の独占的販売権を有していることを知り得たのは、本訴状の送達を受けてからであるから、被告は原告大同興業に対する損害賠償義務を負わない。
イ 原告大同興業の独占的販売権について 本件で原告らが提出した独占販売契約書(甲8)によれば、原告大同興業が原告シー・エム・エル製品の独占的販売権を取得したのは1997年(平成9年)1月以降であり、それ以前についても、原告大同興業が独占的販売権を有していたことを証する文書はないから、そのような事実は存在しない。
ウ 特許法102条2項の推定について 仮に、原告大同興業の損害賠償請求権が成立するとしても、特許法102条2項を類推適用して、被告がイ号装置の販売によって得た利益を全部原告大同興業の損害と推定することはできない。被告の売上高は、シー・ビー・シーの装置の簡便さと被告独自のカタログ販売によるところが大きく、原告大同興業のような代理店販売により獲得できるものではない。また、特許法102条2項の推定は、
イ号装置の販売による利益に限定され、シュー、ガイドの販売によって被告が得た利益には及ばない。
(2) 原告シー・エム・エルの不当利得返還請求権について 本件特許権にかかる実施料率が3%を超えることはあり得ないし(せいぜい2%である。)、特許法102条3項実施料相当額の算出には、本件特許権の侵害を構成し得るイ号装置の売上高のみを用いるべきである。
4 争点(4)(原告シー・エム・エルには、本件仮処分申立てに当たり過失があるか)について 【被告の主張】 イ号装置は本件特許権を侵害せず、また、本件特許は無効であるから、本件仮処分は取消しを免れ得なかった。これらの事情は、原告シー・エム・エルにおいて調査を尽くせば事前に知り得たことであり、かかる検討、調査を怠って仮処分命令申立てを行った同原告には過失がある。
【原告シー・エム・エルの主張】 イ号装置は本件特許権を侵害し、本件特許に無効理由はない。
5 争点(5)(被告の損害額)について 【被告の主張】 (1) 逸失利益 本件仮処分の決定がされた平成10年8月3日からこれが取り下げられた平成11年11月4日までの約14か月間、被告はイ号装置の販売ができず、付属品の売上も激減した。同販売停止期間中に被告がイ号装置等を販売して得られた利益は、846万7973円を下らない。
ア イ号装置本体(電動直管ベンダー、品番・EA276GE) 本件仮処分が発令されるまでの1年間(平成9年8月〜平成10年7月)に被告が販売したイ号装置本体の利益率は43.5%、年売上高は1087万3000円、月平均売上高は90万6800円であるから、本件仮処分によってイ号装置が販売停止となった14か月間の逸失利益は552万2412円である。
イ 三脚スタンド、フットスイッチ 三脚スタンド、フットスイッチはイ号装置の専用付属品であるが、本件仮処分が発令されるまでの1年間に被告が販売したこれらの製品の平均利益率は40%以上、年売上高は108万2000円、月平均売上高は9万0166円であるから、本件仮処分による三脚スタンド、フットスイッチにかかる逸失利益は50万4933円を下らない。
ウ シュー、ガイド これらは、イ号装置を使用する上で必要な部品であり、イ号装置の販売停止により売上が大幅に減少した。本件仮処分が発令されるまでの1年間におけるシュー及びガイドの平均利益率は35%以上、年売上高は1195万4100円、
月平均売上高は99万6175円である。
シュー及びガイドは手動式ベンダーと共通の部品であるが、手動式ベンダーとイ号装置の販売数量は年間ほぼ同数であるから、前記月平均売上高の半額がイ号装置の販売が停止していた14か月の売上高の減少分と推定される。よって、
本件仮処分によるシュー及びガイドにかかる逸失利益は244万0628円を下らない。
(2) 異議申立てに要した費用 100万円 (3) 本訴提起に要する弁護士費用 100万円 【原告シー・エム・エルの主張】 イ号装置本体、フットスイッチ、三脚スタンド、シュー及びガイドの利益率は認め、その余は争う。
当裁判所の判断
1 争点(1)(イ号装置は本件発明の技術的範囲に属するか)について (1) 同ア(構成要件H該当性-パイプホルダ)について ア イ号装置の構造、作動態様を示すものとして当事者間に争いのない別紙イ号装置目録の記載(争いのある部分を除く。)及び同目録添付第1図、第2図によれば、イ号装置には、回転フォーマ(113、213)の切欠部にロックリング係止杆300が設けられ、ロックリング(122、222)によりロックリング係止杆300とパイプの曲げ開始部近傍とを拘束し、回転フォーマ(113、213)の回転時にパイプtを回転フォーマ(113、213)と一体的に保つこと、
ロックリング122(222)のうちパイプを保持する部分は、回転フォーマ113(213)の外周部にあることが認められる。
これによれば、イ号装置のロックリング(122、222)及びロックリング係止杆300は、「回転フォーマの外周部に設けられてパイプ曲げ開始部近傍を保持し、その回転フォーマの回転時にパイプを回転フォーマと一体的に保つパイプホルダ」に該当するものというべきであるから、イ号装置は本件発明の構成要件Hを充足する。
イ 被告は、原告シー・エム・エルが本件発明出願経過中、パイプホルダにつき、@配置上の改良、A回動自在の構造、B直線的当接の機構という限定を加えたから、本件発明の構成要件Hにいう「パイプホルダ」は、包袋禁反言の法理により、前記3要件を備えたものに限定解釈されるべきであると主張するので、検討する。
(ア) 特許発明技術的範囲は、願書に添付した明細書の特許請求の範囲によって定めなければならず、特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するに当たっては、明細書の特許請求の範囲以外の部分の記載及び図面を考慮するものとされている(特許法70条1項、2項)。また、明細書の特許請求の範囲以外の部分及び図面を考慮してもなお特許請求の範囲に記載された用語の意義が多義的であり、あるいは不明確な場合には、その解釈に当たり、出願経過において出願人が示した認識や意見を参酌することも許されるものというべきである。
さらに進んで、特許出願手続において出願人が特許請求の範囲から意識的に除外するなど、特許権者の側においていったん特許発明技術的範囲に属しないことを明示的に承諾した場合のほか、出願経過中の手続補正書や意見書、特許異議答弁書等において、特許庁審査官の拒絶理由又は特許異議申立の理由に対応して特許請求の範囲記載の意義を限定する陳述を行い、それが特許庁審査官ないし審判官に受け入れられた結果、これらの拒絶理由又は異議理由が解消し、特許をすべき旨の査定ないしと特許を維持すべき旨の決定がされたような場合には、その特許権に基づく侵害訴訟において、特許権者が前記陳述と矛盾する主張をすることは、
一般原則としての信義誠実の原則ないしは禁反言の原則に照らして許されないと解するのが相当である。
なぜなら、出願経過における手続補正書や意見書、特許異議答弁書等の出願書類(包袋)は、何人も閲覧又は謄本の交付を請求することができる(特許法186条)のであり、出願人の前記のような行動や陳述は、一般第三者において、特許請求の範囲が限定されたものと理解するのが通常であり、第三者のこのような理解に基づく信頼は保護すべきものと解されるからである。
(イ) そこで、上記の観点から本件特許出願の経過をみるに、次の事実が認められる。
a 原告シー・エム・エルは、昭和57年3月16日、本件発明につき特許出願をしたが、当初明細書の特許請求の範囲第1項は「曲げ加工の際に生ずる引っ張り応力を受けやすい材料で形成されたパイプを180°の角度までパイプの搬入、移動、加工スピードに関し最良の状態で曲げることができる携帯型の電子機械制御式パイプ曲げ装置であって、ほぼ平行六面体の形状で内部に駆動モーター減速機を有する本体と、前記駆動モーター減速機により駆動され、円周上に半円溝を有するプーリ状のマトリックスと、このマトリックスが曲げ加工の際回転するに伴ない被曲げパイプを保持しかつ曲げ加工を行なえるよう前記マトリックスの半円溝に対面する半円溝を有すると共に前記マトリックスと協働する副マトリックスと、
この副マトリックスを支持するとともに、この副マトリックスを前記マトリックスに対して遠ざけたり近付けたりすることによって、被曲げパイプの直径に応じてこの副マトリックスを前記マトリックスから正しい位置に位置せしめる装置と、基板を介して前記マトリックスに連結されると共に、曲げ加工の際前記マトリックスと前記副マトリックスと協働できるように前記基板に取り付けられたピンのまわりを自由に回転する補助装置としての機能を果たす直軸の半円溝を有するパイプ支持部材とから成るを特徴とする携帯型の電子機械制御式パイプ曲げ装置。」というものであった(甲10、乙25)。
b 本件特許出願については、昭和60年5月24日付けで、実開昭51-161442号公報(第1引用例)に基づいて当業者が容易に発明できたとして拒絶理由通知が発せられた(乙11)。これに対し、原告シー・エム・エルは、
昭和60年10月9日付け意見書(乙12)により、「…本発明の曲げ装置においては、パイプがマトリックスの外周に接して曲げ加工を受けるとき、パイプを支持する部位はパイプの湾曲開始点に無く、それよりパイプ送入側に離れた副マトリックス上の位置と、同開始点よりパイプ先行側へ離れた半円溝を直線状に有する前記パイプ支持部材における位置とである。(し)かして本発明においては、被曲げパイプがマトリックス外周に沿って湾曲される区間では、全く曲がりの外側から望ましくない横圧を受けることがなく、またパイプを移動させるための引張力がパイプの湾曲される区間に集中することがない。従って曲げ加工の終わったパイプに延伸や偏平化が生じていない。これに対して引用例の実開昭51-161442号公報の湾曲装置は、少なくともパイプの湾曲開始点において回転弧状盤上に被加工管を圧接するガイドローラ2を配設しており、本発明における構成上の前記改良点を何ら示唆していない。」(3頁14行〜4頁12行)と陳述するとともに、同日付け手続補正書(乙13)により特許請求の範囲の記載の補正等を行った。しかし、特許庁審査官は、同年11月12日付けで、本件発明は、第1引用例に加え、昭和38年3月20日日刊工業新聞社発行・橋本明著「プレス曲げ加工」156〜157頁(第2引用例)に基づき当業者が容易に発明できたとの理由で拒絶査定をした(乙14)。
c 原告シー・エム・エルは、昭和61年4月14日付けで拒絶査定に対する審判を請求し(乙15)、同年5月13日付け審判請求理由補充書(乙16)を提出した。同審判請求理由補充書には、本願発明の要旨につき、@「…マトリックスの周縁を越えて延出された基板上に前記駆動軸に平行な固定ピンを介して回動自在に取り付けられ(た)……パイプ支持部材」(乙16・3頁15〜18行)、A「前記パイプ支持部材が前記半径方向の直線からパイプの先行側に離れた位置で被曲げパイプに、少なくともパイプの直径より大きい長さで直線的に当接してこれを保持し」(同4頁7〜11行)の記載があり、拒絶査定に承服できない理由として、第1引用例について「加工材の末端保持具4は固定的で、本願発明におけるように被加工管に対して回動自在の構造を有せず、この引用例は本願において前記特許請求の範囲第1項に記載された改良点を全く開示も示唆もしておらず」(同7頁1〜5行)、第2引用例について「…この第152図において、しごきロール4及びパイプ保持具2はいずれもパイプ5の曲げられる範囲内に配置され、それぞれダイス1の半径方向の上に位置されており」(同7頁18行〜8頁1行)という各記載があった。
原告シー・エム・エルは、同日付けで手続補正書(乙17)を提出し、当初明細書の特許請求の範囲第1項に前記@Aを加えるなどの補正をしたが、
特許庁審判官は、昭和63年11月28日付けで、明細書及び図面の記載が不備であるため旧特許法36条3項及び4項に規定する要件を満たしていないとして拒絶理由通知を発した(乙18)。
d 原告シー・エム・エルは、平成元年6月20日付け意見書に代わる手続補正書(乙19、本件全文補正)により明細書全文及び図面を補正し、特許請求の範囲のうち第1項を第2、1、(1)、イのとおり補正するとともに、発明の詳細な説明のうち、〈従来の技術と解決課題〉の項に、「本発明の課題は、マンドレル等の芯材を使用することなく、薄肉パイプを迅速かつ良好に曲げることのできる電動式パイプ曲げ装置を提供することにある。」と記載し(本件公報4欄29〜32行)、〈課題を解決するための手段〉の項では、「この課題を解決するために本発明に係る装置は、回転フォーマとベンディングダイを有し、全体としての構成要素は以下のとおりである」(同4欄34行〜36行)として、(a)本体、(b)モータ、(c)減速機、(d)回転フォーマ、(e)ベンディングダイ、(f)ベンディングダイ支持機構を挙げ、このうち、(d)回転フォーマ、(e)ベンディングダイ及び(f)ベンディングダイ支持機構の説明として「(d)回転フォーマ:パイプ曲げ曲線に対応する円弧状当の外周面を有する。そして、その中心部において減速機の出力軸に固定される。また上記外周面に沿ってパイプ断面に対応する保持溝が形成される。
(e)ベンディングダイ:回転フォーマとの間でパイプを挟むように定位置に設置される。また回転フォーマの保持溝にほぼ対向するガイド溝を有し、このガイド溝は曲げ工程においてパイプを軸方向に滑らせつつ案内する。(f)ベンディングダイ支持機構:ベンディングダイをパイプ径に対応する所定位置に位置させる。この支持機構として、例えばベンディングダイを回転フォーマの回転軸と平行な軸線まわりに回動可能に支持する態様もあるし、この支持機構とパイプとの間にベンディングダイを楔状に挿入し、狭圧状態で保持する態様もある。」とし、〈作用・効果〉の項に、「このようなパイプ曲げ装置においては、パイプが回転フォーマに巻込まれる際、ベンディングダイを滑りつつ通過させられることにより、パイプに対しほぼその弾性域内で適切な引張応力が与えられつつ、曲げ成形される。その結果、薄肉パイプであっても、曲げの外側が過度に伸ばされて薄くなったり、内側が過度に圧縮されてシワになったり、あるいはパイプ断面が偏平になったりすることがほとんどなく、良好にかつスピーディに曲げ加工を行なうことができる。」(同5欄16〜20行)と記載した。特許庁は、これを受けて、平成元年11月7日出願公告を行い、平成2年5月11日付けで、「原査定を取り消す。本願の発明は特許をすべきものとする。」という審決をした(乙20)。
e 前記拒絶査定において引用例とされた公知技術のうち、第1引用例の実開昭51-161442号公報(乙7)には、外周部に被加工材が嵌り込む溝が形成された回転弧状盤と、外周部に被加工材が嵌り込む溝が形成されたガイドローラとを備え、これらの回転弧状盤とガイドローラで被加工材を挟んで回転弧状盤を回転させることにより被加工材を曲げる金属管棒湾曲装置が記載されているが、
同公報に示されたガイドローラは被加工材である金属管を軸方向に滑らせつつ案内するものではなく、回転弧状盤の溝との間で金属管棒の上下左右を挟んで強圧するものであるから、本件発明の構成要件Fの構成とは異なっている。また、第2引用例の公刊物(乙8)156、157頁と第152図には、円盤状のダイスのまわりにしごきロール及びパイプ保持具が配置され、レバーを回して、しごきロールによりパイプをダイスの外周溝面に押圧して巻き付けて曲げるパイプ曲げの技術が示されているが、本件発明の構成と比較すると、構成要件Eの回転フォーマに相当するダイスが存在する程度で、その他は異なっている。
(ウ) 前記認定の事実によれば、原告シー・エム・エルが本件発明の特許出願経過中に意見書等でパイプホルダ(本件全文補正前のパイプ支持部材)に関して述べた部分は、拒絶理由通知ないし拒絶査定で引用された公知技術と対比して、
本件発明はパイプを支持する部分がパイプの曲げ開始点にはなく、曲げ開始点の両側に分散されており、曲がりの外側から好ましくない横圧を受けることがないということを主張したほかは、本件全文補正前のパイプ支持部材について特許請求の範囲第1項の記載に即して引用例との差異を述べたにすぎず、特にパイプ支持部材の構造についてそれ以外のものを排除する意思を示したものとはいえない。そして、
パイプ支持部材(パイプホルダ)は、本件全文補正により当初明細書では「基板を介して前記マトリックスに連結されると共に、曲げ加工の際前記マトリックスと前記副マトリックスと協働できるように前記基板に取り付けられたピンのまわりを自由に回転する補助装置としての機能を果たす直軸の半円溝を有するパイプ支持部材」とされていたのが、「前記回転フォーマの外周部に設けられてパイプの曲げ開始部近傍を保持し、その回転フォーマの回転時にパイプを回転フォーマと一体的に保つパイプホルダ(122、123)」とされたものであるから、前記意見書等でパイプ支持部材について述べた部分のうち上記補正で変更された点に関するものは、補正後の特許請求の範囲の解釈を限定する理由はない(なお、本件全文補正が要旨変更に該当しないことは後記判示のとおりである。)。本件発明は、パイプホルダに関する前記のような変更にもかかわらず、特許要件を満たすものとして特許されたものであるから、出願経過における意見書等でのパイプホルダに関する出願人の陳述は、出願人が特許庁審査官の拒絶理由又は特許異議申立の理由に対応して特許請求の範囲記載の意義を限定するなどの陳述を行い、それが特許庁審査官ないし審判官に受け入れられた結果、特許をすべき旨の査定がされた場合に当たるものとは認められない。
よって、被告の禁反言の法理による限定解釈の主張は採用できない。
(2) 同イ(構成要件J該当性-送入側ガイド部)について ア 本件発明の構成要件Jにいう「送入側ガイド部」について、訂正明細書の特許請求の範囲には、「パイプ送入側の端部に形成された送入側ガイド部(C、
245)」と記載され、その形状について限定はない。発明の詳細な説明には、
〈課題を解決するための手段〉の項に、(e)ベンディングダイについて、「回転フォーマの保持溝にほぼ対向するガイド溝を有し、このガイド溝は曲げ工程においてパイプを軸方向に滑らせつつ案内する」という記載があり(甲23の2・4頁1〜2行)、〈作用・効果〉の項に、「パイプが回転フォーマに巻込まれる際、ベンディングダイを滑りつつ通過させられることにより、パイプに対しほぼその弾性域内で適切な引張応力が与えられつつ、曲げ成形される。」という記載がある(同4頁9〜11行)。また、〈実施例〉の項には、第2実施例の説明として、「この逃がし部118bの送入側端部が送入側ガイド部cとされている。」(同9頁21〜22行)、「全区間a-cにおいて、送出側ガイド部118aに僅かながら下り傾斜があるので、パイプtが回転フォーマ113とベンディングダイ118との間に装着された場合、そのベンディングダイ118とパイプtの接触は両端の点a、cのみで起こる。」(同9頁24〜27行)という記載があり、本件公報第8図にベンディングダイの送入側が点cのみでパイプに接触している状態が示されている(甲1)。
上記訂正明細書の記載を考慮すると、構成要件Jにいう「送入側ガイド部」とは、ベンディングダイのガイド溝のうち、被曲げパイプを送入側で保持するとともに、回転フォーマの回転に従い、パイプをベンディングダイに送り込む機能を果たすものをいい、第2実施例のように、弓形に湾曲した送入側の端部が点のみでパイプに接触するものも「送入側ガイド部」に含まれると解するのが相当である。
イ 前記第2、1、(3)の事実及び証拠(甲28)によれば、イ号装置のベンディングダイは、中央部が最も低く両側の端部に向かって徐々に上り傾斜した円弧状の凹湾曲横断面を有しているが、パイプをガイド溝50に装着したとき、ベンディングダイの送入側端部が点のみでパイプに接触し、回転フォーマの回転に従い、
パイプをベンディングダイに送り込む機能を有することが認められるから、イ号装置においては、ベンディングダイの送入側端部が本件発明の構成要件Jにいう「送入側ガイド部」に当たるということができ、イ号装置は本件発明の構成要件Jを充足する。
(3) 同ウ(構成要件K、M該当性-送出側ガイド部)について ア 「送出側ガイド部」の意義について (ア) 本件発明の構成要件K、Mにいう「送出側ガイド部」について、訂正明細書の特許請求の範囲には、「パイプ送出側の端部に形成された送出側ガイド部(118a、246)」、「かつ送出側ガイド部の溝底が送出側端に向って漸次パイプに近づくように形成されている」との記載があるが、それ以上に形状についての限定はない。
(イ) 訂正明細書発明の詳細な説明には、次の記載がある。
a 〈作用・効果〉の項に、「パイプが回転フォーマに巻込まれる際、
ベンディングダイを滑りつつ通過させられることにより、パイプに対しほぼその弾性域内で適切な引張応力が与えられつつ、曲げ成形される。」との記載がある(甲23の2・4頁9〜11行)。
b 〈実施例〉の項には、第2実施例の説明として、「…回転フォーマ113がさらに回転すると、……ベンディングダイ118とパイプPとの接触は点cでは引き続き行われる一方、パイプtとベンディングダイ118の点aとの接触は、送出側ガイド部118aに沿って徐々に進行する。」との記載があり(同10頁9〜12行)、「パイプtの曲げが開始されると、……パイプtは送出側ガイド部118aによってある程度の横圧力を受けつつ進行する。このため、第12図に示すように、曲げ加工前のパイプ断面dは曲げ作用下で一時的に卵形断面eに変形すると考えられるが、この送出側ガイド部118aの作用は徐々に生じ、またパイプtに生ずる応力はほぼ弾性限界内であるのでベンディングダイ118からパイプtが解放されれば、元の円形断面dに復帰する。」(同10頁13〜19行)と記載されている。
c 本件公報第12図には、送出側ガイド部で卵形断面に変形したパイプがベンディングダイから送出された後に円形断面dに戻っている図が示されている(甲1)。
(ウ) 本件審決(甲31)には、「訂正後の特許請求の範囲第1項に記載された、送出側ガイド部の位置と機能は、特許請求の範囲には明記されていないが、本件訂正明細書及び図面の記載からみて、パイプの曲げ開始点が、曲げ開始時に前記ベンディングダイ(118、218)の送出側端よりも送入側ガイド部(C、245)側に位置し、パイプの曲げが行われるときにパイプとベンディングダイ(118、218)の送出側端との接触は送出側ガイド部に沿って徐々に進行するものであると解するのが相当である。」との記載がある(甲31・7頁16〜22行)。
(エ) 上記(ア)ないし(ウ)によれば、本件発明において、ベンディングダイの送出側ガイド部の溝底を送出側端に向かって漸次パイプに近づくように形成したことの意義は、ベンディングダイを滑りつつ通過する被曲げパイプに弾性限界内で適切な引張応力を与えるべく、送出側ガイド部をパイプに対して面状に接触させ、パイプ曲げが行われるときにパイプとベンディングダイの送出側端との接触が送出側ガイド部に沿って徐々に進行するようにしたところにあり、その結果、本件発明においては、送出側端よりも送入側ガイド部側でパイプの曲げが開始されることになるものと推認される。したがって、ベンディングダイの溝底が送出側端に向かって漸次パイプに近づくよう形成されており、その部分が前記作用効果を果たしていれば、その部分が「送入側ガイド部」や「パイプ逃がし部」と形態上区別されていない場合でも、構成要件K、Mにいう「送出側ガイド部」に当たるということができる。
イ イ号装置のベンディングダイの溝底は、中央部が最も低くその両側部分が徐々に高くなるよう傾斜した円弧状の凹湾曲横断面を呈していることは、前記(2)、イのとおりであり、溝底が送出側端に向かって漸次パイプに近づくよう形成されているということができる。
また、証拠(甲25の写真22・23、甲33の1〜11)によれば、イ号装置によって銅製パイプを曲げた場合、ベンディングダイの送出側端の約5分の1の範囲にパイプから剥落した銅が付着する結果となったこと、イ号装置のベンディングダイのガイド溝に塗料を塗った上でパイプの曲げ加工を行った場合も、送出側端の約5分の1の部分において塗料が剥がれる結果となったことが認められ、これによれば、イ号装置でパイプの曲げを行う場合には、ベンディングダイの送出側端約5分の1の部分が面状にパイプに接触することによりパイプに押圧力をかけているものと推認される。
さらに、証拠(甲25の写真18〜20)によれば、イ号装置によりパイプを曲げた場合、回転フォーマのうちパイプの曲げ開始点を示す0点は、被曲げパイプのうち銅の剥落が始まっている箇所、すなわち、送出側ガイド部に接触した箇所よりも相当程度送入側ガイド部側(上流側)に位置していることが認められ、
パイプの曲げ開始はベンディングダイの送出側端よりも送入側ガイド部側で始まっているものと推認される。
以上によれば、イ号装置のベンディングダイのうち送出側端約1/5の部分は、被曲げパイプに面状で接して押圧力を加え、送出側端よりも送入側ガイド部側でパイプの曲げを開始させる機能を有するから、本件発明の構成要件K、Mにいう「送出側ガイド部」に該当し、イ号装置は、本件発明の構成要件K、Mを充足する。
ウ この点について、被告は、乙34公報にイ号装置のベンディングダイと同一形状の加圧片30が記載されていることによれば、本件発明の構成要件K、Mにいう「送出側ガイド部」は、公知技術である前記加圧片と同一形状を有するイ号装置のベンディングダイを含まない旨主張する。
乙34によれば、乙34公報に記載された金属管曲げ装置は、二又レバー28における加圧片30の長さと位置は、作業起点位置において一方の移行部Aが、管27に対して垂直にかつ円筒セグメントの軸14に対して半径方向に延びる平面E1内に実質的に位置するように設計されており(乙34・6頁左下欄8〜13行)、二又レバー28に対して時計回り方向で比較的大きな力を加えると直ちに加圧片30は管27に沿って滑り始めて該管を(円筒セグメント10の)溝11内へ曲げ始めることが認められる(同6頁右下欄5〜8行)。加えて、乙34公報に、加圧片30の曲げ開始側端面33がパイプの曲げ開始点Aと一致している図(FIG.1)が示されていることを考慮すれば、乙34発明は、パイプを円筒セグメント(回転フォーマ)に固定した後、加圧片(ベンディングダイ)でパイプの上を沿うように押圧するパイプ曲げ方法に係るパイプ曲げ装置の発明というべきであり、同発明のパイプ曲げ方法は、可動ベンディングダイの中にパイプを滑り込ませ、ベンディングダイの送出側ガイド部をパイプに面状に接することによりパイプを曲げるという、前記イで認定した本件発明のパイプ曲げ方法とは異なるパイプ曲げ方法というべきである。したがって、乙34発明の加圧片30の形状がイ号装置のベンディングダイの形状に似ていることをもって、イ号装置のベンディングダイが、本件発明の構成要件K、Mにいう「送出側ガイド部」から除外されるということはできず、被告の主張は失当である。
(4) 以上によれば、イ号装置は別紙イ号装置目録記載のとおりの構造であって、本件発明の技術的範囲に属するものというべきである。
なお、原告シー・エム・エルは、被告からされた本件特許についての無効審判請求事件において、更に訂正請求を行い、平成13年7月24日、特許庁は「訂正を認める。本件審判の請求は成り立たない。」との審決(第2次審決)をしたことは、第2、1、(1)エのとおりであるところ、本件口頭弁論終結時においては、同審決が確定したか否かは明らかでない。この訂正は、訂正明細書の特許請求の範囲第1項に更に「パイプの曲げ開始点が、曲げ開始時に前記ベンディングダイ(118、218)の送出側端よりも送入側ガイド部(C、245)側に位置し、
パイプの曲げが行われるときにパイプとベンディングダイ(118、218)の送出側端との接触が送出側ガイド部(118a、246)に沿って徐々に進行するように構成されている」との要件が付加されたものである。しかるところ、前記(2)イ、(3)イで認定した事実によれば、イ号装置は、前記訂正で付加された部分の構成をも具備しているものと認められる。したがって、第2次審決による訂正を前提としても、イ号装置は本件発明の技術的範囲に属するものというべきである。
2 争点(2)(本件特許には明らかな無効理由が存在するか)について (1) 同ア(乙34公報による新規性進歩性欠如)について 被告は、本件発明がベンディングダイの形状を限定することにより特許無効を免れたこと、乙34公報にイ号装置のベンディングダイと同一形状の凹湾曲面を有する加圧片の記載があることによれば、訂正後の本件発明は新規性進歩性を欠くことが明白であると主張する。
しかしながら、前記1、(3)、ウのとおり、乙34発明は、パイプを円筒セグメント(回転フォーマ)に固定した後、加圧片(ベンディングダイ)でパイプの上を沿うように押圧するパイプ曲げ方法に係るパイプ曲げ装置の発明であり、前記イで認定した本件発明のパイプ曲げ装置とは異なる技術であるから、本件発明が乙34発明と同一の発明ということはできず、本件特許には特許法29条1項違反の無効理由はない。
また、乙34公報は、「管の曲げ半径(R1)を決定する溝を外周に有しかつ該溝には管を溝に対して接線方向に保持するための対応受けを所属せしめた1つの扁平な円筒セグメントと、該円筒セグメントを中心にして同心的に旋回可能なレバーとから成り、該レバーが前記円筒セグメント軸に対して平行に延びる軸を有し、該軸に作業面を有する加圧片が配置されており、前記作業面が、前記の円筒セグメント軸と加圧片軸とに平行に延びる平面内で、半径(R0)を有するほぼ半円形の凹面状横断面を有している」(2頁右下欄1〜12行)金属管の曲げ装置を改良し、「軟銅管及び硬銅管並びに真鍮管及び鋼管を、できるだけ小さな比率R1:D0で確実に、かつ扁平化をできるだけ回避するように、しかも低い所要力で曲げ加工できるようにする」(4頁右下欄2〜6行)ことを目的とし、課題解決手段として、「加圧辺が円筒セグメント軸と加圧片軸とに対して垂直に延びる平面(T-T)内で付加的に凹面状に形成」(4頁右下欄7〜8行)したことを開示しているにすぎないから、パイプが回転フォーマに巻き込まれる際、ベンディングダイを滑りつつ通過させられるという本件発明の特徴的構成を想到する動機付けとなる部分は開示も示唆もされていないし、そこから「パイプに対しほぼその弾性域内で適切な引張応力が与えられつつ、曲げ成形される結果、薄肉パイプであっても曲げの外側が過度に伸ばされて薄くなったり、内側が過度に圧縮されてシワになったり、あるいはパイプ断面が偏平になったりすることがほとんどなく、良好にかつスピーディに曲げ加工を行うことができる」という前述の本件発明の作用・効果も予測することができるともいえない。よって、乙34公報により、本件特許に特許法29条2項にいう進歩性が存在しないことが明白であるとはいえない。
(2) 同イ(本件全文補正は要旨変更に当たり、出願日が平成元年6月20日に繰り下がる結果、本件発明が新規性を欠くといえるか)について ア 旧特許法40条は、「願書に添附した明細書又は図面について出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達前にした補正がこれらの要旨を変更するものと特許権の設定の登録があった後に認められたときは、その特許出願は、その補正について手続補正書を提出した時にしたものとみなす。」と規定し、同法41条は、「出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達前に、願書に最初に添附した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において、特許請求の範囲を増加し又は変更する補正は、
明細書の要旨を変更しないものとみなす。」と規定していた。したがって、旧特許法の下において、出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達前に提出した手続補正書により明細書の特許請求の範囲を補正することは、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内である限り、要旨の変更にならないのである。
イ 本件発明の出願当初明細書における特許請求の範囲第1項は、前記1、(1)、イ、(イ)、aのとおりであり、本件全文補正後(本件特許登録時)の特許請求の範囲第1項は、前記第2、1、イのとおりであるところ、両者を対比すると、本件全文補正後の明細書の特許請求の範囲第1項の電動式パイプ曲げ装置(=携帯型の電子機械制御式パイプ曲げ装置)は、本体、モータ(=駆動モーター)、
減速機、回転フォーマ(=マトリックス)、ベンディングダイ(=副マトリックス)、ベンディングダイ支持機構(=「副マトリックスを支持するとともに…副マトリックスをマトリックスから正しい位置に位置せしめる装置」)、パイプホルダ(=パイプ支持部材)という構成からなるものであるが、これらの構成要素は、各括弧書き内に示したとおり、当初明細書の特許請求の範囲においても発明の構成要素として記載されていたものであり、これらの構成要素のうちの回転フォーマ、ベンディングダイ、ベンディングダイ支持機構及びパイプホルダの構成として本件全文補正後の特許請求の範囲に記載されているところも、当初明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明並びに図面にすべて開示されているといえる。本件全文補正後の特許請求の範囲のパイプホルダの構成は、当初明細書の特許請求の範囲における「基板を介してマトリックス(=回転フォーマ)に連結される」、「基板に取り付けられたピンのまわりを自由に回転する」、「直軸の半円溝を有する」といった構造上の具体的な限定がなくなり、「回転フォーマの外周部に設けられてパイプの曲げ開始部近傍を保持し、その回転フォーマの回転時にパイプを回転フォーマと一体的に保つパイプホルダ(122、222)」とされたものであるから、当初明細書におけるパイプ支持部材(パイプホルダ)の構造上の限定がなくなったという意味では当初明細書の特許請求の範囲に比べて本件全文補正後の特許請求の範囲の方が技術的範囲が広がっているといえる。しかし、本件全文補正後のパイプホルダの構成中、「回転フォーマの外周部に設けられて」いる点及び「パイプ曲げ開始部近傍を保持し」という点は、いずれも当初明細書の第1図、第5図、第8図に示されており、「回転フォーマの回転時にパイプを回転フォーマと一体的に保つ」という点は当初明細書の第3図、第7図、第10図に示されており、ずべて当初明細書及び図面に記載されているものと認められる(甲10)。
また、本件全文補正(乙19)により、当初明細書の第1実施例が削除され、当初明細書の第2実施例が第2実施例、第3実施例が第1実施例に変更されたが、これら2つの実施例の説明の趣旨は、当初明細書(甲10)と本件全文補正後の明細書(甲1)との間で内容に変化がなく、本件全文補正後の第1実施例を示す第1図ないし第7図は、それぞれ当初明細書の第8、第9、第13、第14、第15、第16図と同じであり、第2実施例を示す第8ないし第12図は、それぞれ当初明細書の第5、第6、第11、第12、第7図と同じである。
しかも、当初明細書(甲10)の発明の詳細な説明には、「この発明の主な目的は、望ましくない不均一の伸びを生ずることなくパイプを180°の角度まで曲げることができ、また曲げるパイプの材料が伸び応力の影響を受け易いものでも…最良の状態で曲げることができる…パイプ曲げ装置を提供することである」(4頁右上欄19行〜左下欄5行)、「この発明の更に別の目的は、曲げるパイプを保持して送ることができるのみならず、曲げ加工の際生ずる伸び応力に特に影響を受け易い材料でできたパイプを曲げることができる曲げ装置の主曲げ部材に対する溝付きの対面溝部材を提供することである。」(4頁右下欄5〜10行)と記載されていることが認められ、前記1、(3)で認定したとおり、特殊な形状の溝を有するベンディングダイ(=当初明細書の特許請求の範囲における「副マトリックス」)を使用することにより、曲げパイプのシワ、破損、平坦化を防ぐという本件発明の主たる目的や本質的特徴は、当初明細書において、既に開示されていたというべきである。
ウ 以上によれば、本件全文補正は要旨変更に当たるものではなく、出願日の繰り下がりはないというべきであるから、被告の主張は採用できない。
3 争点(3)(電動式直管ベンダー、シュー、ガイド単体の販売により、本件特許権の直接侵害又は間接侵害が成立するか)について (1) 証拠(乙35、36)によれば、被告は、電動式直管ベンダー、シュー及びガイドを別個にカタログに掲載し、その電動式直管ベンダーの欄に「シュー・ガイドは別売りです。」と記載していることが認められ、これによれば、エンドユーザーがイ号装置を使用するには、電動式直管ベンダー、シュー及びガイドの3点を購入して組み合わせる必要があると推認される。電動式直管ベンダー(別紙イ号装置目録では本体に該当)、シュー(同じく回転フォーマに該当)及びガイド(同じくベンディングダイに該当)は、いずれもイ号装置の構成の一部のみを備えたものであり、それだけでは本件発明の構成要件を充足しないが、少なくとも3点が同時に販売される場合には、共にイ号装置を構成するものとして、本件特許権を侵害するものというべきである。
(2) 他方、特許が物の発明についてされている場合において、業として、その物の生産にのみ使用する物を生産し、譲渡し、貸し渡し、若しくは輸入し、又はその譲渡若しくは貸渡しの申出をする行為は、当該特許権を侵害する行為とみなされるところ(特許法101条1号)、ここでいう「その物の生産にのみ使用する物」とは、社会通念上経済的、商業的ないしは実用的な他の用途がないことをいい、他の用途があるというためには、抽象的ないしは試験的な使用の可能性があるだけでは足りないというべきである。
これを電動式直管ベンダー、シュー及びガイドについて検討すると、電動式直管ベンダーはイ号装置の本体であって他の経済的、実用的な用途を有しないから、イ号装置の生産にのみ使用されるものとして、その輸入、販売は特許法101条1号にいう間接侵害に当たる。他方、シュー及びガイドは、電動式直管ベンダーと手動式直管ベンダー(これは本件発明の構成要件を充足しない。)に共通する部品であり(乙35、36)、電動式直管ベンダーと組み合わせてイ号装置の部品として使用する以外に、手動式直管ベンダーと組み合わせて使用するという、実用的な他の用途があるというべきである。本件発明は、その特許請求の範囲の記載から明らかなとおり、「本体に設けられたモータ」を有する「電動式パイプ曲げ装置」の発明であるから、手動式直管ベンダーを用いた製品は本件発明に係るものでないことはいうまでもない。
(3) 以上によれば、電動式直管ベンダーの販売は、それがシュー、ガイドと同時にされる場合には、共にイ号装置を構成するものとして直接本件特許権を侵害する行為に当たり、単体で販売される場合も、本件発明に係る物の生産にのみ使用する物の譲渡として間接侵害(特許法101条1号)に該当するといえる。
これに対し、シュー及びガイドは、電動式直管ベンダーと同時に販売される場合には、共にイ号装置を構成するものとして直接本件特許権を侵害する行為に当たるが、電動式直管ベンダーとは別に単体で販売される場合には、直接本件特許権を侵害する行為に当たらないのはもとより、本件発明に係る物の生産にのみ使用する物の譲渡にも当たらないといわざるを得ない。
4 争点(4)(原告らの損害額)について (1) 同ア(原告大同興業の請求権)について ア 独占的通常実施権者に対する特許法103条の類推適用について (ア) 特許法103条は、「他人の特許権又は専用実施権侵害した者は、その侵害の行為について過失があったものと推定する。」と規定するが、これは、特許発明についてはその存在及び内容が公示されているから、業として新たに製品の製造、販売を行い又は新たに方法の使用を行おうとする者は、その製品又は方法が他人の特許権を侵害するか否かを公示に基づいて調査することが可能であり、そのような調査を行うべきものであるとして、その製品又は方法が、他人の特許権又は専用実施権侵害するものである場合には、調査を怠ったか、調査に基づいて適切な判断をしなかった旨の過失があると推認するものである。このように、
右推定規定の根拠は、特許発明の存在及び内容が公示されていることにあり、それが何人の権利であるかが公示されていることにはないから、特許発明の権利者として公示されない独占的通常実施権者の法的利益の侵害行為についても、右規定を類推適用するのが相当である。
(イ) 原告シー・エム・エルと原告大同興業の独占供給契約書(甲8の1・2、甲36)には、1996年(平成8年)11月22日に原告シー・エム・エル代表者のサインがされ、同年12月17日に原告大同興業代表取締役のサインがされていること、同契約書には、@原告大同興業は原告シー・エム・エルが製造した管曲げ加工機器のみを販売することし、原告シー・エム・エルの文書による許可なしにいかなる管曲げ加工機器の販売もしない旨の条項(第1条のa)、A原告シー・エム・エルは、原告大同興業に対し、日本におけるすべてのエルコリーナ(原告シー・エム・エルの商標)製品の販売について独占的権利を保証し、この契約期間中は、同契約のすべての条件が尊重される限り、他のいかなる会社に対しても日本向けの独占販売契約を与えない旨の条項(第2条)、B同契約の期間は1997年(平成9年)1月1日から同年12月31日までであり、それ以降は年単位で自動的に更新される旨の条項(第17条)が存在することが認められる。
しかし、原告シー・エム・エル代表者Aの2001年3月19日付け宣言書(甲35の1・2)には、原告シー・エム・エルは1994年(平成6年)1月以降、日本特許第1583708号(本件特許)の機械を原告大同興業にのみ販売し、原告大同興業に対して日本における排他的販売権を許諾してきた旨の陳述部分が存在する。さらに、証拠(甲34、37〜42)によれば、原告大同興業のパンフレットには、原告シー・エム・エルの日本総代理店であり、業務提携先である旨の記載があること、原告大同興業は、1989年(平成元年)1月、原告シー・エム・エルからエルコリーナマルチフォームエレクトリカ(本件特許の実施品、以下「本件実施品」という。)を輸入し、原告大同興業が平成4年4月ころ作成した本件実施品のパンフレットにも、「エルコリーナベンダー総輸入元」と記載されていること、原告大同興業は、平成5年10月及び平成6年1月にも、原告シー・エム・エルから本件実施品の部品を輸入していたことが認められ、原告シー・エム・エル代表者の宣言書の陳述部分を裏付ける事実が存在することが認められる。
同宣言書は、本訴提起後にして前記契約書作成から5年以上後に作成されたものであるが、前記のとおり、同宣言書の陳述内容を裏付ける事実が証拠上認められることに加え、同宣言書がイタリア国公証人に対する宣誓供述書であることを考慮すると、単にその作成時期のみをもって信用性がないということはできず、遅くとも、原告シー・エム・エルは平成6年1月以降は、原告大同興業に対し、本件特許の独占的通常実施権を許諾していたと推認するのが相当である。
(ウ) したがって、被告は、平成6年3月以降の行為について、原告大同興業の独占的通常実施権侵害することに過失があったものと推定され、同日以降の損害額について賠償責任を負うというべきである。
独占的通常実施権者に対する特許法102条2項の類推適用について 特許法102条2項が設けられた目的は、侵害行為がなかったならば権利者が得られたであろう利益という仮定の事実に基づく推論という事柄の性質上、
侵害行為との因果関係の存在、損害額算定の基礎となる各種の数額等を証明することに困難を生じる場合が多いことから、侵害行為により侵害行為者が得た利益の額を被害者の逸失利益額と推定することによって権利者の損害証明の方法の選択肢を増やして被害の救済を図るとともに、侵害行為者に推定覆滅のための証明をする余地を残して、権利者に客観的に妥当な逸失利益の回復を得させる点にあるものと解され、この点では特許発明実施による市場利益を独占し得る地位にあることにおいて特許権者や専用実施権者と異ならないから、独占的通常実施権侵害による損害の賠償請求の場合においても、特許法102条2項を類推適用し得るものと解するのが相当である。
ウ 特許法102条2項、3項に基づく原告大同興業の損害額 (ア) 電動式直管ベンダー(イ号装置本体、品番・EA276GE) 前記3のとおり、電動式直管ベンダーは、シュー及びガイドと共に販売される場合には、イ号装置を構成するものとして本件特許権を侵害し、単体で販売される場合も、本件特許権の間接侵害(特許法101条1号)を構成する。よって、電動式直管ベンダーについては、全販売数量をもとに特許法102条2項に基づく損害額を算定することができる。
a 平成8年6月から平成10年7月まで(被告が販売額を開示した期間) (a) 平成9年8月から平成10年7月まで 証拠(乙37)及び弁論の全趣旨によれば、平成9年8月から平成10年7月までの被告の電動式直管ベンダーの売上額は、1087万3000円であると認められ、これに被告が反訴において主張し、原告らが援用する利益率43.5%を掛けると、被告が得た利益の額は472万9755円となる(別紙修正後第2表(1)40・31欄)。
(b) 平成8年6月から平成9年7月まで 証拠(乙37)によれば、平成8年6月から平成9年7月までの各月の被告の電動式直管ベンダーの売上額は、別紙修正後第2表(1)39・4〜17欄記載のとおりであり、その合計額は1389万5000円であることが認められる。
また、証拠(乙39)によれば、平成9年8月から平成10年7月(a期間)の平均為替相場は1ドル=129.90円であり、平成8年6月から平成9年7月までの各月の為替相場(米ドル)は別紙修正後第2表(1)42・4〜17欄記載のとおりであることが認められるから、このa期間の平均為替相場に対する平成8年6月から平成9年7月までの各月の為替変動率は同表(1)44・4〜17欄のとおりとなり、各月における被告の原価率は、前記a期間の原価率0.565(1-0.435=0.565)に上記為替変動率を乗じた同表(1)45・4〜17欄のとおりであると推認される。
したがって、この期間における被告の利益率は、1から各原価率を引いた率である同表(1)46・4〜17欄記載のとおりとなり、この期間における被告の利益の額は、同表(1)47・18欄のとおり、677万5152円と推認される。
b 平成6年3月から平成8年5月まで (a) 平成7年12月から平成8年5月まで(本訴提起から遡って3年内) 前記aのとおり、被告は、平成8年6月から平成10年7月までの26か月間で合計金1150万4907円の利益を得ているが、前記のとおり、
被告が継続的に相当の利益を得ていたことを考慮すると、特段の事情がない限り、
被告は、平成7年12月から平成8年5月までの期間も同程度の利益を得ていたものと推認され、これを覆すに足りる証拠はない。したがって、平成7年12月から平成8年5月までの6か月間における被告の利益の額は、別紙修正後第2表(2)52・32欄のとおり、265万4978円(11,504,907÷26×6=2,654,978.53)と推認される。
(b) 平成6年3月から平成7年11月まで 前記a(a)、(b)の事実によれば、被告の平成8年6月から平成10年7月までの26か月間における電動式直管ベンダーの売上高は2476万8000円である(別紙修正後第2表(1)39・32欄)。 前記のとおり、被告が継続的に利益を得ていたことを考慮すると、特段の事情がない限り、被告は平成6年3月から平成7年11月までの21か月間も同程度の売上を得ていたものと推認され、この事実を覆すに足りる証拠はない。よって、被告の平成6年3月から平成7年11月までの21か月間の売上高は2000万4923円と推定され(24,768,000÷26×21=20,004,923.07)、原告大同興業はこの売上高に対する実施料相当損害金の損害賠償を求めることができる。
社団法人発明協会発行「実施料率」(乙42)によれば、「金属加工機械」のイニシャルペイメント条件のないものに係る昭和63年から平成3年までの実施料率の最頻値は2%であり、平均実施料率は3.75%であることが認められる。ところで、特許法102条3項の定める「その特許発明に対し受けるべき金銭の額に相当する額」の算定に当たっては、当該技術分野の平均的な実施料率のみならず、当該特許発明の価値、当事者間の競合関係その他の具体的事情を考慮すべきものである。本件発明は、前記認定によれば、従来のパイプ曲げ装置を改良したものであり、本件訂正によりベンディングダイを送入側ガイド部、送出側ガイド部、逃がし部という特徴的構成を有するものに限定したこと、本件発明の効果としては、薄肉パイプであっても曲げによって外側が伸ばされて薄くなったり、内側がシワになったりパイプ断面が偏平になったりすることがほとんどなく、良好かつスピーディに曲げ加工を行うことができるものであること、その他本件に顕れた諸般の事情を考慮すると、原告大同興業が受けるべき実施料相当額は、イ号装置の販売額の5%と認めるのが相当である。
以上によれば、平成6年3月から平成7年11月までの21か月間の実施料相当額は、この期間の売上高2000万4923円の5%に当たる100万0246円となる。
c 以上によれば、平成6年3月から平成10年7月までの被告の電動式直管ベンダーの輸入、販売により原告大同興業が被った損害の額は、1516万0131円となる。
(イ) シュー(品番EA276G-4〜16、EA276G-4B〜16B)、ガイド(品番EA276G-21〜27) 前記3のとおり、シュー及びガイドは、電動式直管ベンダーと同時に購入される場合に限り、共にイ号装置を構成するものとして本件特許権を侵害するが、単体で販売される場合には、直接本件特許権を侵害する行為に当たらないことはもとより、本件発明に係る物の生産にのみ使用される物の譲渡にも当たらない。
被告が販売したシュー及びガイドのうち、全体の1/2がイ号装置に用いられることは、被告の自認するところであるが、そのうち、電動式直管ベンダーと一体として販売されたものの数量及び金額を明らかにする証拠はない。
しかし、エンドユーザーがイ号装置を使用するには、電動式直管ベンダー、シュー及びガイドの3点を購入して組み合わせる必要があるのは前記3、(1)のとおりであるから、イ号装置に使用されるシュー及びガイドは、電動式直管ベンダーと一体して販売されるものが相当の割合を占めるものと推定される。加えて、
原告大同興業は、同原告では、回転フォーマ(シュー)のうち一体販売されるものの割合が0.5092、ベンディングダイ(ガイド)のうち一体販売されるものの割合が0.4457であると主張するところ、この率は、同原告の電動式パイプ曲げ装置及び部品の売上実績(平成8年6月〜平成10年7月)に基づくものであり信憑性が認められる。
以上によれば、原告大同興業と被告の販売方法の違いを考慮しても、
イ号被告に使用されるシュー及びガイド(全販売数量の2分の1)の40%は、電動式直管ベンダーと一体として販売されたものとみるのが相当であるから、シュー及びガイドについては、その全販売量の2分の1に対応する利益の額(売上額に被告が反訴において主張し、原告らがこれを援用する利益率35%を掛けた額)の40%が、本件特許権の侵害により原告大同興業が被った損害額として相当な額(特許法105条の3)というべきである。
a 平成8年6月から平成10年7月まで (a) 平成9年8月から平成10年7月まで @ シュー 証拠(乙37)によれば、この期間のシューの売上額は1023万2450円であり、電動式直管ベンダー用に販売されたものの売上額はその2分の1の511万6225円となる。被告がこの期間に電動式直管ベンダー用のシューの販売により得た利益の額はその35%であり、本件特許権の直接侵害(電動直管ベンダーとの一体販売)に当たるシューの販売により原告大同興業が被った損害額は、その40%である71万6271円(5116225×0.35×0.4=716,271.5)となる。
A ガイド 証拠(乙37)によれば、この期間のガイドの売上額は297万5650円であることが認められ、このうち電動式直管ベンダー用に販売されたものの売上額はその2分の1の148万7825円となる。被告がこの期間に電動式直管ベンダー用のガイドの販売により得た利益の額はその35%でり、本件特許権の直接侵害(電動直管ベンダーとの一体販売)に当たるガイドの販売より原告大同興業が被った損害額は、その40%である20万8295円(1,487,825×0.35×0.4=208,295.5)である。
B 以上によれば、この期間におけるシュー及びガイドの販売により原告大同興業が被った損害額は、92万4566円である。
(b) 平成8年6月から平成9年7月まで @ シュー 証拠(乙37)によれば、平成8年6月から平成9年7月までの被告のシューの売上額は1092万1000円であることが認められ、このうち電動用直管ベンダー用に販売されたものの売上額はその2分の1である546万0500円となる。また、前記(ア)、a、(b)によれば、平成8年6月から平成9年7月までの各月の利益率は、別紙修正後第4表A(1)41・4〜17欄のとおりと推認されるから、被告がこの期間に電動式直管ベンダー用のシューの販売により得た利益の額は、同表41・18欄のとおり、228万0219円となり、本件特許権の直接侵害に当たるシューの販売により原告大同興業が被った損害は、その40%である91万2087円(2,280,219×0.4=912,087.6)である。
A ガイド 証拠(乙37)によれば、平成8年6月から平成9年7月までの被告のガイドの売上額は331万1000円であることが認められ、このうち電動用直管ベンダー用に販売されたものの売上額はその2分の1である165万5500円となる。また、前記(ア)、a、(b)によれば、平成8年6月から平成9年7月までの各月の利益率は、[訂正]修正後第4表B(1)40・4〜17欄のとおりと推認されるから、被告がこの期間に電動式直管ベンダー用のシューの販売により得た利益の額は、同表41・18欄のとおり、69万2959円となり、本件特許権の直接侵害に当たるシューの販売により原告大同興業が被った損害は、その40%である27万7183円(692,959×0.4=277,183.6)である。
B 以上によれば、この期間におけるシュー及びガイドの販売により原告大同興業が被った損害額は、118万9270円である。
b 平成6年3月から平成8年5月まで (a) 平成7年12月から平成8年5月まで(本訴提起から遡って3年内) @ シュー 前記a、(a)(b)の各@によれば、被告は、平成8年6月から平成10年7月までの26か月間で、本件特許権の直接侵害(電動直管ベンダーとの一体販売)に当たるシューの販売により合計162万8358円の利益を得たものである。前記のとおり、被告が継続的に相当の利益を得ていたことを考慮すると、
特段の事情がない限り、被告は、平成7年12月から平成8年5月までの間も同程度の利益を得ていたものと推認され、これを覆すに足りる証拠はない。したがって、平成7年12月から平成8年5月までの6か月間において被告が本件特許権の直接侵害に当たるシューの販売により得た利益の額は、37万5774円(1,628,358÷26×6=375,774.92)と推認される。
A ガイド 前記a、(a)(b)の各Aによれば、被告は、平成8年6月から平成10年7月までの26か月間で、本件特許権の直接侵害(電動直管ベンダーとの一体販売)に当たるガイドの販売により48万5478円の利益を得たものである。前記のとおり、被告が継続的に相当の利益を得ていたことを考慮すると、特段の事情がない限り、被告は、平成7年12月から平成8年5月までの間も同程度の利益を得ていたものと推認され、これを覆すに足りる証拠はない。したがって、平成7年12月から平成8年5月までの6か月間において被告が本件特許権の直接侵害に当たるガイドの販売により得た利益の額は、11万2033円(485,478÷26×6=112,033.38)と推認される。
B 以上によれば、この期間におけるシュー及びガイドの販売により原告大同興業が被った損害額は48万7807円である。
(b) 平成6年3月から平成7年11月まで @ シュー 前記a(a)、(b)の事実によれば、被告の平成8年6月から平成10年7月までの26か月間におけるシューの売上高は2115万3450円であり(別紙修正後第4表A(1)32・33欄)、このうち電動用直管ベンダー用に販売されたものの売上額はその2分の1である1057万6725円となり(同表33・33欄)、本件特許権の直接侵害に当たるシューの販売に係る売上額はその40%である423万0690円となる。
前記のとおり、被告が継続的に利益を得ていたことを考慮すると、特段の事情がない限り、被告は平成6年3月から平成7年11月までの21か月間も同程度の売上を得ていたものと推認され、この事実を覆すに足りる証拠はない。よって、被告の平成6年3月から平成7年11月までの21か月間における本件特許権の直接侵害に当たるシューの販売に係る売上額は341万7095円(4,230,690÷26×21=3,417,095.76)と推定され、原告大同興業はこの売上高に対する実施料相当損害金の損害賠償を求めることができる。
前記(ア)、b、(b)によれば、原告大同興業が受けるべき実施料相当額は、イ号装置の販売額の5%と認めるのが相当であるから、平成6年3月から平成7年11月までの21か月間のシューの販売に係る実施料相当額は、この期間の売上高341万7095円の5%に当たる17万0854円(3417095×0.05=170,854.75)となる。
A ガイド 前記a(a)、(b)の事実によれば、被告の平成8年6月から平成10年7月までの26か月間におけるガイドの売上高は628万6650円であり(別紙[訂正]修正後第4表B(1)32・33欄)、このうち電動用直管ベンダー用に販売されたものの売上額はその2分の1である314万3325円となり(同表33・33欄)。本件特許権の直接侵害に当たるガイドの売上額はその40%である125万7330円となる。
前記のとおり、被告が継続的に利益を得ていたことを考慮すると、特段の事情がない限り、被告は平成6年3月から平成7年11月までの21か月間も同程度の売上を得ていたものと推認され、この事実を覆すに足りる証拠はない。よって、被告の平成6年3月から平成7年11月までの21か月間における本件特許権の直接侵害に当たるガイドの売上額は101万5535円(1,257,300÷26×21=1,015,535.76)と推定され、原告大同興業はこの売上高に対する実施料相当損害金の損害賠償を求めることができる。
前記(ア)、b、(b)によれば、原告大同興業が受けるべき実施料相当額は、イ号装置の販売額の5%と認めるのが相当であるから、平成6年3月から平成7年11月までの21か月間のシューの販売に係る実施料相当額は、この期間の売上高101万5535円の5%に当たる5万0776円(1,015,535×0.05=50,776.75)となる。
B 以上によれば、この期間におけるシュー及びガイドの販売により原告大同興業が被った損害額は22万1630円である。
c 以上によれば、平成6年3月から平成10年7月までの被告のシュー及びガイドの販売により原告大同興業が被った損害の額は、282万3273円となる。
(ウ) 以上によれば、原告大同興業の特許法102条2項による損害額は、1798万3403円となる。
なお、原告大同興業は、遅くとも平成6年1月以降、本件特許について独占的通常実施権者となり、特許権者である原告シー・エム・エルに実施料を支払っており、後記(2)のとおり、原告シー・エム・エルも被告に対して実施料相当額の損害賠償を請求していることによれば、原告大同興業が被告に請求し得る金額は、前記1798万3404円から、平成6年3月から平成10年7月までの売上高に対する実施料相当額(5%)を控除した額とするのが相当である。
前記(ア)、b、(b)のとおり、被告の平成8年6月から平成10年7月までの26か月間における電動式直管ベンダーの売上高は2476万8000円である(修正後第2表(1)39・32欄)。このように、被告に恒常的な売上があったことを考慮すると、被告には平成6年3月から平成8年5月までの27か月間においても同程度の売上があったものと推定され、この期間の売上高は、平成8年6月から平成10年7月までの26か月間の月平均売上高の27か月分に当たる2572万0615円(24,768,000÷26×27=25,720,615.38)と推定される。以上によれば、平成6年3月から平成10年7月までの被告の電動式直管ベンダーの売上高は、平成8年6月から平成10年7月までの売上高2476万8000円と、平成6年3月から平成8年5月までの推定売上高2572万0615円の合計である5048万8615円と推定され、実施料相当損害額は、その5%である252万4430円(50,488,615×0.05=2,524,430.75)となる。
また、前記(イ)、b、(b)のとおり、被告の平成8年6月から平成10年7月までの26か月間における本件特許権の直接侵害に当たるシューの売上額は423万0690円となり、この期間における本件特許権の直接侵害に当たるガイドの売上額は125万7330円となる。前記のとおり、被告には平成6年3月から平成8年5月までの27か月間においても同程度の売上があったものと推定されるから、この期間の売上高は、いずれも前記平成8年6月から平成10年7月までの売上高の26分の27となり、シューが439万3408円(4,230,690÷26×27=4,394,308.84)、ガイドが130万5688円(1,257,330÷26×27=1,305,688.84)となる。
以上によれば、平成6年3月から平成10年7月までにおける被告の本件特許権の直接侵害に当たるシュー及びガイドの売上高は1118万7116円(4,230,690+1,257,330+4,393,408+1,305,688=11,187,116)と推定され、実施料相当額は、その5%である55万9355円(11,187,116×0.05=559,355.8)となる。
よって、実施料相当額の合計は308万3785円となり、原告大同興業が被告に請求し得る額は、1798万3404円から308万3785円を控除した1489万9619円となる。
エ 弁護士・弁理士費用 証拠(甲8の1・2、36)によれば、原告両名間の契約では、本件訴訟追行に関する費用、責任は原告大同興業が負担することとなっている(3条b)ことが認められるところ、本件事案の性質、内容、訴訟の経過、認容額等を考慮すれば、被告の本件特許権侵害行為と相当因果関係のある弁護士・弁理士費用の額は、200万円と認めるのが相当である。
オ 信用損害 原告大同興業は、被告のイ号装置輸入、販売によって、取引先から信用を失い、信用低下による損害を被ったと主張するが、そのような事実を認めるに足りる証拠はない。
カ 以上によれば、原告大同興業が被告に対して請求できる損害額は、合計1689万9619円となる。
(2) 原告シー・エム・エルの損失について ア 前記(1)、アで認定した事実によれば、原告シー・エム・エルは、原告大同興業を通じて、本件特許の実施品であるエルコリーナベンダーを平成元年から日本で販売し、遅くとも平成6年3月以降、原告大同興業に対して本件特許権について独占的通常実施権を許諾していたことが認められ、本件特許の特許権者である原告シー・エム・エルには、被告の特許侵害行為により独占的通常実施権者である原告大同興業による実施品の販売料が減少し、その分について約定実施料の喪失が生じたものと推定される。
よって、原告シー・エム・エルは、被告に対し、被告がイ号装置を輸入、販売していた平成6年3月から平成10年7月までの売上高に対する実施料相当額を不当利得として返還請求することができる。
イ 前記(1)、ウ、(ア)、b、(b)のとおり、原告シー・エム・エルが受けるべき実施料相当額は、電動式直管ベンダー及び一体販売に係るシュー及びガイドの販売額の5%と認めるのが相当であるところ、平成6年3月から平成10年7月までの被告の売上に対する実施料相当損害額は、前記(1)、ウ、(ウ)のとおり、308万3785円となる。
4 争点(4)(原告シー・エム・エルには、本件仮処分の申立てに当たり過失があるか)及び争点(5)(被告の損害額)について 争点(4)及び争点(5)に関する被告の主張は、イ号装置が本件特許権を侵害しないことを前提とするものであるところ、この前提が成り立たないことは前示のとおりであるから、争点(4)及び争点(5)について検討する必要をみない。
5 以上によれば、原告らの本訴請求は、主文掲記の限度で理由があり、被告の反訴請求は理由がない。
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 阿多麻子
裁判官 前田郁勝