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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成13ワ1105特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成19ワ13121特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成12ワ12728特許権侵害差止請求事件 判例 特許
平成14ワ5107特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成16ワ14710特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
関連ワード 公知技術 /  先行技術 /  発明の詳細な説明 /  均等 /  置き換え /  置換 /  同一の作用効果 /  容易に想到(容易想到性) /  意識的除外(意識的に除外) /  実施 /  構成要件 /  差止請求(差止) /  侵害 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 13年 (ワ) 7138号 特許権侵害差止等請求事件
原告 スカラ株式会社
訴訟代理人弁護士 中山徹
同 柿沼太一
補佐人弁理士 鈴木正剛
同 村松義人
被告 株式会社モリテックス
訴訟代理人弁護士 松井一彦
同 中根宏
同 金森仁
同 亀井正照
補佐人弁理士 澤野勝文
同 川尻明
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2001/11/13
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は,別紙物件目録記載の拡大撮像装置を製造し,販売してはならない。
2 被告は,その保管する前項記載の拡大撮像装置及びその半製品を廃棄せよ。
3 被告は,第1項記載の拡大撮像装置を製造するための金型を廃棄せよ。
4 被告は,原告に対し,金1000万円及びこれに対する平成13年4月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は,拡大観察用の照明機構に関する特許権を有する原告が,被告に対し,被告による別紙物件目録記載の拡大撮像装置(以下「被告製品」という。)の製造販売が原告の特許権の侵害に当たると主張して,その製造販売の差止め,損害賠償等を求める事案である。
1 争いのない事実 (1) 原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,特許請求の範囲第1項記載の発明を「本件発明」という。また,本件特許に係る訂正後の明細書を「本件明細書」という。)を有している。
登録番号 特許第3007978号 発明の名称 拡大観察用の照明機構 出願日 平成2年12月11日 (特願平2-409719号) 公開日 平成4年8月5日 (特開平4-214523号) 登録日 平成11年12月3日 特許請求の範囲第1項 「選択的に発光可能とされた偏光用光源と非偏光用光源とを設け,そして,偏光用光源からの光については偏光化用偏光板を透過させるようにしてなる拡大観察用の照明機構であって,偏光用光源及び非偏光用光源は,環状に形成された光源を分けて形成した複数のブロックの各々であり,偏光化用偏光板の透過により形成された偏光を遮断する遮断用偏光板を被観察物と光学系との間に配してなる拡大観察用の照明機構。」 (2) 本件発明の構成要件を分説すると次のとおりである。
ア 選択的に発光可能とされた偏光用光源と非偏光用光源とを設け,そして,偏光用光源からの光については偏光化用偏光板を透過させるようにしてなる拡大観察用の照明機構であって, イ 偏光用光源及び非偏光用光源は,環状に形成された光源を分けて形成した複数のブロックの各々であり, ウ 偏光化用偏光板の透過により形成された偏光を遮断する遮断用偏光板を被観察物と光学系との間に配してなる エ 拡大観察用の照明機構。 (3) 被告は,遅くとも平成11年12月17日ころから,被告製品を製造販売してきた。
(4) 被告製品は,本件発明の構成要件ウ及びエを充足する。
2 争点 (1) 被告製品が構成要件ア及びイを充足するか(被告製品が構成要件ア及びイにいう「非偏光用光源」を有しているか)。
(2) 被告製品が本件発明と均等か。
(3) 損害の発生及び額 3 争点に関する当事者の主張 (1) 争点(1)について 【原告の主張】 ア 本件発明において,「偏光用光源」とは,その光源から照射された光に基づく直接反射光が,遮断用偏光板で遮断される向きに偏光化用偏光板で偏光化されて「特定の偏光」となる光を発する光源をいい,「非偏光用光源」は,その光源から照射された光に基づく直接反射光が,遮断用偏光板で遮断されない「特定の偏光でない光」となる光を発する光源をいう。言い換えると,撮像の段階で間接反射光を得ることを目的とする光源が偏光用光源であり,直接反射光+間接反射光を得ることを目的とする光源が非偏光用光源である。
本件発明における「非偏光」は,自然光には限定されず,遮断用偏光板を透過する「単なる偏光」を含むものである。
イ 被告製品において,外側LED121aは,それから照射された光に基づく直接反射光が第2偏光板215(遮断用偏光板)で遮断される向きに第1偏光板214(偏光化用偏光板)で偏光化されて「特定の偏光」となる光を発する光源であるから,本件発明にいう「偏光用光源」である。
一方,内側LED121bは,それから照射された光に基づく直接反射光が第2偏光板215(遮断用偏光板)で遮断されない向きに第2偏光板215(遮断用偏光板)で偏光化されて「単なる偏光」となる光を発する光源であるから,本件発明にいう「非偏光用光源」である。
ウ したがって,被告製品は,本件発明にいう「非偏光用光源」を有しており,被告製品は,本件発明の構成要件ア及びイを充足する。
【被告の主張】 本件発明において,「偏光用光源」とは,その光が偏光板を透過することにより偏光化されて被観察物に照射されるものをいい,「非偏光用光源」とは,その光が偏光化されることなく,非偏光(自然光)状態のまま被観察物に照射されるものをいう。
被告製品において,外側LED121aからの光は第1偏光板214を,内側LED121bからの光は第2偏光板215を,それぞれ透過することによって偏光化されて被観察物へ照射されるから,両者はいずれも「偏光用光源」である。
したがって,被告製品は本件発明にいう「非偏光用光源」を有しておらず,本件発明の構成要件ア及びイを充足しない。
(2) 争点(2)について 【原告の主張】 仮に,被告製品における外側LED121a及び内側LED121bがいずれも「偏光用光源」であったとしても,このような二つの「偏光用光源」を備える被告製品は,本件発明と均等というべきである。
すなわち,本件発明の本質的部分は,どのような光を用いて2種類の画像を撮像するかではなく,撮像のために必要となる2種類の光をどのような機構により発生させるかであるから,選択的に発光可能な二つの光源の一つが「非偏光用光源」であることは本件発明の本質的部分ではなく,「非偏光用光源」を「偏光用光源」と置き換えても本件発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏する。本件発明の先行技術である特開平3-135276号の公開特許公報(甲第7号証)及び本件明細書(甲第2号証)【0014】の記載によると,被告が被告製品を製造販売する時点において,上記のように置き換えることは当業者が容易に想到することができた。被告製品は,本件発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから出願時に容易に推考できたものではなく,本件発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もない。
したがって,被告製品における二つの光源がいずれも「偏光用光源」であったとしても,選択的に発光可能な二つの「偏光用光源」を備える被告製品は,本件発明と均等である。
【被告の主張】 本件発明において,選択的に発光可能な二つの光源の一つが「非偏光用光源」であることは,その本質的部分であり,「非偏光用光源」を「偏光用光源」と置き換えるならば,その光源からの光は偏光板を透過して偏光化され,非偏光(自然光)状態のまま照射されなくなるから,非偏光による照明を選択することができなくなり,本件発明と同一の作用効果を奏し得ない。
実際に,偏光用光源と非偏光用光源では光学要素が相違するため,偏光を照射するのと非偏光(自然光)を照射するのでは,表面皮膚観察に使用した場合に,前者はコントラストが大きく,表面のしわ等が鮮明に見えるのに対し,後者はコントラストが小さいが,皮膚の色が実際の肌の色に近く見えるという相違があることからも,被告製品は本件発明と均等ではあり得ない。
(3) 争点(3)について 【原告の主張】 被告が平成11年12月ころから製造販売した被告製品の売上げの合計は5億円を下らない。
被告が被告製品の製造販売から得た利益は,売上額の20%を下らないから,被告は被告製品の製造販売によって少なくとも1億円の利益を得た。
したがって,原告は,特許法102条2項により,同額の損害を被ったものと推定されるところ,このうち1000万円の支払を求める。
【被告の主張】 原告の主張を争う。
当裁判所の判断
1 争点(1)について (1) 被告製品が選択的に発光可能な外側LED121a及び内側LED121bの二つの光源を有していること,外側LED121aからの光は第1偏光板214を透過することにより,内側LED121bからの光は第2偏光板215を透過することにより,それぞれ偏光化して被観察物に照射されることは当事者間に争いがない。
(2) 証拠(甲第1,第2号証)によると,本件明細書の【発明の詳細な説明】に,次の記載があることが認められる。
ア 【課題を解決するための手段及び作用】として,「【0006】この照明機構は,偏光用光源からの光は偏光化用偏光板を透過することにより偏光化され,他方,非偏光用光源からの光は非偏光(自然光)状態のまま照射されるようになっている。したがって,偏光用光源と非偏光用光源を選択的に発光させることにより,偏光による照明または非偏光による照明を選択できる。」との記載 イ 【実施例】の中には,「【0016】これらの光源4(4a,4b)及び偏光化用偏光板7と遮断用偏光板8により形成された照明機構は,光源ランプ15a,15bを選択的に発光させるだけで,偏光照明と非偏光照明の選択を行える。すなわち,偏光用光源4aに対応する光源ランプ15aだけ発光させれば,偏光化用偏光板7を透過した偏光による照明が得られ,また,非偏光用光源4bに対応する光源ランプ15bだけ発光させれば,偏光化用偏光板7の開口19,19,・・・・・・を通過することにより自然光のままである光による照明を選択できる。」との記載 ウ 【発明の効果】として,「以上説明したこの発明による拡大観察用の照明機構は,偏光用光源からの光は偏光化用偏光板を透過することにより偏光化され,他方,非偏光用光源からの光は非偏光状態のまま照射されるようになっているので,偏光用光源と非偏光用光源を選択的に発光させるだけで,偏光による照明または非偏光による照明を選択でき,偏光板を動かしたり,偏光面回転手段を設けたりする従来技術に較べ,より単純で制作が容易な機構で済み,故障的要素も少なくすることができる。」との記載 これらの記載と前記第2,1(1)記載の特許請求の範囲第1項の記載を総合すると,本件発明は,偏光化用偏光板を透過することにより偏光化された偏光用光源と,非偏光用光源という選択的に発光可能な二つの光源を備えた拡大観察用の照明機構において,偏光を遮断する遮断用偏光板を被観察物と光学系との間に設けることによって,単純で制作が容易な機構で照明光の制御を行うものであると認められる。
証拠(甲第1,第2号証)によると,本件明細書において,上記アないしウのほかには,これらよりも「非偏光用光源」の意義を明確に述べた記載がないことが認められるところ,上記記載によると,「偏光用光源」とは,それからの光が偏光化用偏光板を透過することにより偏光化されて被観察物に照射されるものをいい,「非偏光用光源」とは,それからの光が,偏光化用偏光板を透過して偏光化されることなく,非偏光(自然光)状態のまま被観察物に照射されるものであると認められる。一般的な語句の用法としても,「偏光」が偏向している光を意味するとすれば,「非偏光」とは「偏光」の否定であり,偏向していない光を意味するものと解され,これは上記認定にも合致するものであって,これと異なる当業者における解釈があることを認めるに足りる証拠はない。
この点,原告は,本件発明にいう「偏光」は特定の方向に偏向している光を意味し,「非偏光」は特定の方向に偏向していない,すなわち特定の方向以外に偏向している光(「単なる偏光」を含む)を意味すると主張するが,上記のとおり,本件明細書中に,このような「非偏光」の意義を記載した箇所は存在せず,ほかに「非偏光」が原告主張の意義であることを裏付ける証拠もないから,原告の上記主張を採用することはできない。
(3) 以上によると,被告製品が有する二つの光源は,いずれも偏光板を透過することにより偏光化されて被観察物へ照射されるから,「偏光用光源」であり,被告製品は「非偏光用光源」を有しないから,被告製品が本件発明の構成要件ア及びイを充足するとは認められない。
2 争点(2)について 上記1のとおり,被告装置はそもそも非偏光用光源を持たず,二つの光源はいずれも偏光用光源であるところ,「非偏光用光源」を「偏光用光源」と置き換えると,非偏光による照明を選択すること自体ができなくなる。
前記のとおり,本件発明は,偏光用光源と非偏光用光源という選択的に発光可能な二つの光源を備えた拡大観察用の照明機構において,単純で制作が容易な機構で照明光の制御を行うことを発明の目的としているのであるから,非偏光用光源を有しないのでは本件発明の前提を欠くことになり,本件発明の目的を達することができない。同様に,本件発明の作用効果は,故障的要素の少ない,より単純で制作が容易な機構で,偏光による照明又は非偏光による照明を選択できるというところにあるから,非偏光による照明を選択できなければ本件発明の作用効果を奏することもない。
したがって,「非偏光用光源」を「偏光用光源」に置換することが可能であるとは認められないから,被告製品が本件発明と均等であるとする原告の主張は理由がない。
3 以上によると,その余の点につき判断するまでもなく,原告の本訴請求は,いずれも理由がないから,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。
追加
物件目録別紙図面第1図ないし第5図及び説明に示される拡大撮像装置における拡大観察用装置(商品名「CharmView」)図面の説明第1図被告製品の一部破断図を含む分解斜視図第2図被告製品の背面図第3図被告製品の取り付け面を示す図第4図被告製品の中間部材の分解図を含む前方から見た斜視図第5図被告製品の中間部材の後方から見た斜視図符号の説明100ケース│210円筒部材110持ち手部│211接続用突起111接続端子│212雄ネジ溝112スイッチ│213仕切り板113スイッチ│213a長楕円孔114スイッチ│213b短楕円孔120取り付け面│214第1偏光板121LED│214a凸切欠部121a外側LED│214b中央切欠部121b内側LED│215第2偏光板122a第1レンズ│215a外周切欠部122bCCD│216第2鏡筒123接続用板│216a第2レンズ123a係合部│300先端部材130撮像部│301雌ネジ溝200中間部材│303小孔構造の説明別紙第1図ないし第5図に示すようにaケース100と,このケース100の先端に取り付けられる中間部材200と,この中間部材200の先端に取り付けられる先端部材300とからなる拡大観察装置である。
bケース100は,略直方体形状として形成されており,図示せぬ所定のディスプレイ装置との接続を行うための接続端子111をその基端部に備えると共に,前面に1つのスイッチ112を後面に2つのスイッチ113,114をそれぞれ備えている持ち手部110と,この持ち手部110の先端部から曲折して形成されており,且つその先端に,撮像を行うに必要な光学要素が取り付けられる,円形に形成された取り付け面120を有している撮像部130とからなる。
c前記取り付け面120には,環状に配列された計15個のLED121と,水晶フィルター,赤外線カットフィルターを含む光学系122a,及び撮像のための像光を捉えるCCD122bをその内部に収納した第1鏡筒122が設けられており,且つ中間部材200との接続をなすための係合部123aを有する接続用板123が円形状に凸設されている。
d前記LED121は,3つで1組とされた3組計9個の外側LED121aと,2つで1組とされた3組系6個の内側LED121bとからなり,外側LED121aと内側LED121bは,スイッチ113の切り替えにより選択的に発光できるように構成されている。
e前記中間部材200は,略円筒形に形成されると共に,前記接続用板123との接続をなすための接続用突起211をその基端部内周面に備え,且つ前記先端部材300との接続をなすための雄ネジ溝212をその先端部外周面に備えた円筒部材210と,前記円筒形の軸に対して垂直となるようにして円筒部材210内に設けられた仕切り板213と,この仕切り板213の前方に前記円筒形の軸に対して垂直となるようにして取り付けられた第1偏光板214及び第2偏光板215と,仕切り板213から前後両方向に延設されると共に,内部に拡大用の第2レンズ216aを収納した第2鏡筒216とを備えている。
f仕切り板213には,係合部123aに接続用突起211を嵌合させることにより中間部材200を所定の位置関係で取り付け面120へ接続した場合に,それを通して外側LED121aが覗くような長円形状とされた長楕円孔213aと,それを通して内側LED121bが覗くような短円形状とされた短楕円孔213bとが穿設されており,外側LED121aからの光は長楕円孔213aを通過し,内側LED121bからの光は短楕円孔213bを通過するようになっている。
g第1偏光板214は,短楕円孔213bを通過した内側LED121bからの光を第1偏光板214と干渉させないようにするために,短楕円孔213bとそれぞれ対応する対称三方位置に切欠かれた凸切欠部214aと,像光を第1偏光板214と干渉させないようにするために,第1偏光板214の中央に,凸切欠部214aと一体となるようにして設けられた中央切欠部214bを備えている。
h第2偏光板215は,長楕円孔213aを通過した外側LED121aからの光を第2偏光板215と干渉させないようにするために,長楕円孔213aとそれぞれ対応する対称三方位置に切欠かれた3つの外周切欠部215aを備えており,且つ透過した光の偏光面が,第1偏光板214を透過した光の偏光面と互いに90度の角度をなすような位置関係とされている。
i外側LED121aからの光は,第1偏光板214を透過することにより偏光化すると共に,第2偏光板215を素通りして,被観察物へと照射されるようになっており,内側LED121bからの光は,第1偏光板214を素通りすると共に,第2偏光板215を透過して,被観察物へと照射されるようになっており,像光は,第2偏光板215へ至るようになっており,これを透過した場合に,第2レンズ216a及び光学系122aを介してCCD122bへ至るようになっている。
j先端部材300は略ドーム形状に形成され,且つその基端部内周面には,円筒部材210の雄ネジ溝212と螺合される雌ネジ溝301が形成されており,且つその先端部にはCCD122bの視野を確保するための小孔303が穿設されている。
第1図第2図第3図第4図、第5図
裁判長裁判官 森義之
裁判官 岡口基一
裁判官 男澤聡子