審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成12ワ7221特許権侵害差止請求事件 | 判例 | 特許 |
平成12ワ2091特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成12ワ12728特許権侵害差止請求事件 | 判例 | 特許 |
平成12ワ7510特許権侵害差止請求事件 | 判例 | 特許 |
平成12ワ16531特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 物の発明 / 方法の発明 / 製造方法 / 進歩性(29条2項) / 寄せ集め / 公知技術 / 技術的範囲 / 発明の詳細な説明 / 分割出願 / 登録実用新案 / 権利の濫用(権利濫用) / 原出願日 / 出願経過 / 参酌 / 均等 / 均等侵害 / 置き換え / 置換 / 置換可能性 / 置換容易性 / 容易に想到(容易想到性) / 禁反言 / 特許発明 / 交換 / 構成要件 / 業として / 差止請求(差止) / 侵害 / 損害額 / 拒絶理由通知 / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
12年
(ワ)
27714号
特許権に基づく製造販売禁止等請求事件
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原告 株式会社プラネット 訴訟代理人弁護士 五十嵐 芳男 補佐人弁理士 阿部 美次郎 被告 株式会社並木製作所 訴訟代理人弁護士 保田 眞紀子 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2002/01/28 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
1 被告は,別紙物件目録記載の金属製装身具ネックレスを製造,販売してはならない。 2 被告は,別紙物件目録記載の金属製装身具ネックレスを廃棄せよ。 3 被告は,原告に対して,1890万円及びこれに対する平成13年1月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 |
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事案の概要
本件は,原告が,金属製装身具ネックレスを製造及び販売している被告に対して,被告の同行為が原告の有する特許権を侵害するとして,被告の上記行為の差止めと損害賠償金の支払等を求めている事案である。 1 争いのない事実等 (1) 原告は,下記のとおりの特許権(以下「本件特許権」といい,別紙特許公報写しの「特許請求の範囲」欄の請求項1の発明を「本件発明1」といい,請求項7の発明のうち,「止め具」を請求項1に記載されたものとしたものを「本件発明2」という。)を有している。 記 特許番号 第3114868号 発明の名称 止め具及び紐止め装置 原出願日 平成10年8月10日 分割出願日 平成11年7月6日 登録日 平成12年9月29日 特許請求の範囲 別紙特許公報(以下「本件公報」という。)写しの特許請求の範囲請求項1及び請求項7記載のとおり(以下,同公報掲載の明細書を「本件明細書」という。) (2)ア 本件発明1を構成要件に分説すると,次のAないしFのとおりとなる。 A 外殻体と弾性体とを含む止め具であって, B 前記外殻体は,孔と中空部とを有し,前記中空部の内壁面が球面状の連続体であり, C 前記孔は,前記外殻体の外部から前記中空部へ通じており, D 前記弾性体は,通孔部を有するOリング状部材であって,前記中空部の内部に内蔵され,その外周が前記中空部の前記内壁面に圧接しており, E 前記通孔部は,前記孔に通じており, F 前記弾性体は,前記外殻体の前記孔を通って,前記外殻体の内部に導入される 止め具 イ 本件発明2を構成要件に分説すると,次のAないしCのとおりとなる。 A 止め具と紐部材とを含む紐止め装置であって, B 前記止め具は,請求項1に記載されたものであり, C 前記紐部材は,前記止め具の前記外殻体を貫通し,前記弾性体によって弾性的に保持される 紐止め装置 (3) 被告は,業として,金属製装身具ネックレスを製造,販売している(以下,被告が製造,販売している金属製装身具ネックレスを「被告製品」という。)。 被告製品の構造については,当事者間に争いがある。 原告は,別紙物件目録のとおりであると主張する。 これに対し,被告は,別紙物件目録のうち,3(1)Fの「弾性材1dの外縁部(殻体の内面と接する側)は,殻体1cの孔1aよりも,内側に入っている。」の部分,3(2)の「通孔部1gに係留されている。」の部分,図2,図3,図6を否認し,物件目録の上記3(2)の「通孔部1gに係留されている。」の部分について,被告製品の装飾チェーンは,球形中空状弾性材1dの端面1bの内縁部1fに係留されている旨主張する。 (4) 被告製品は,本件発明1の構成要件AないしC,E及び本件発明2の構成要件Aをそれぞれ充足する。 2 争点及び当事者の主張 〔本件発明1について〕 (1) 構成要件Fの充足性 (原告の主張) ア 構成要件Fの解釈(主位的主張) 本件明細書の構成要件Fに係る部分(以下単に「構成要件F」という。 以下同じ。)は,「前記弾性体は,前記外殻体の前記孔を通って,前記外殻体の内部に導入される」と記載されているが,以下のとおりの理由から,同記載は,本件発明に係る物の製造方法を,何ら限定したものではない。 (ア) 本件発明は,「物」の発明であって,製造方法の発明ではないから,本件発明と被告製品とは,物として対比されれば足りる。 (イ) 構成要件Fは,製造方法的要件として要求される経時的要素を含んでいないから,上記構成要件を製造方法的要件と解すべきではない。 (ウ) 本件明細書の発明の詳細な説明欄には「このOリング形状の弾性体21に,針金等を用いた引っ掛け手段を引っ掛け,外殻体10の孔15または16を通って,Oリング形状の弾性体21を,外殻体10の内部に導入することができる。」【0012】と記載されているが,同記載は,本件発明の実現可能性を,具体的な一例を挙げて説明したものである(なお,ピンセット等の適当な治具を用いて,弾性体21を,外殻体10の内部に押し込み,導入することもできる。)。 イ 構成要件Fの解釈(予備的主張) 仮に,本件発明1の構成要件Fは本件発明の製造方法を限定したものだと解したとしても,以下のとおり,同構成要件は,弾性体が外殻体に挿入される時期については何ら限定を加えておらず,弾性体が外殻体の形成前に導入される場合も含まれると解すべきである。 (ア) 一般的には,製造方法の発明は,一定の目的に向けられた系列的に関連のある数個の行為又は現象によって成立するもので,経時的な要素を包含するものと解されるところ,本件発明1の構成要件Fは,「弾性体は,前記外殻体の前記孔を通って,前記外殻体の内部に導入される」と記載され,経時的要素はない。 (イ) 被告は,本件発明の審査時において原告が平成12年8月28日付けで特許庁に提出した意見書(以下「本件意見書」という。乙2)の記載から,本件発明における弾性体の装着時期は,外殻体の形成後に限定される旨主張する。 しかし,本件意見書中の被告指摘部分は,本件発明1の構成要件Fは,本件発明1の構成要件B及びCと相まって,ロウ付けに伴う弾性体の蒸発という問題点を生じることなく,外殻体の内部に弾性材を入れる構造が実現できる旨を表明したものであって,弾性体の装着時期を外殻体の形成後に限るという趣旨を述べたものではない。 ウ 被告製品との対比 (ア) 本件発明の構成要件Fは,製造方法を限定する趣旨ではない。したがって,被告製品が,殻体の成型前に,殻体となる貴金属製パイプの中に弾性材となるシリコン製の弾性材チューブを一体に嵌合して素材とし,これを軸周りに間欠的に回転させながら軸方向に間欠的に移動させる間に金型により間欠的にプレスして,殻体の中に弾性材を圧着した止め具を連接して形成し,これを連接部分から切り離して製造していたとしても,被告製品は本件発明1の構成要件Fを充足する。 (イ) 仮に,本件発明の構成要件Fが,何らかの製造方法を限定する趣旨に解されたとしても,少なくとも弾性体が外殻体に挿入される時期を限定するものではない。したがって,被告製品においては,弾性材を殻体の孔から内部へ挿入していると評価すべきであるから(本件発明と被告製品とは,弾性材の殻体への導入時期が違うにすぎない。),被告製品は,本件発明1の構成要件Fを充足する。 (被告の反論) ア 構成要件Fの解釈(主位的主張に対して) 構成要件Fは,止め具の製造方法の一過程を記載したものであり,本件発明に係る物の製造方法を限定したと解するのが素直な解釈である。 イ 構成要件Fの解釈(予備的主張に対して) 構成要件Fの「前記弾性体は,前記外殻体の前記孔を通って,前記外殻体の内部に導入される」の意義は,まず外殻体を形成し,その後完成した外殻体の孔を通して,Oリング状の弾性体(の通孔部)に,針金等を用いた引っ掛け手段を引っ掛けて,Oリング状の弾性体を外殻体の中空部へ導入することであり,弾性体を外殻体に挿入する時期を外殻体の形成後に限定していることを指すと解すべきである。その理由は以下のとおりである。 (ア) 弾性体が導入される「前記外殻体」とは,特許請求の範囲欄の「孔と中空部とを有し,前記中空部の内壁面が球面状の連続体」を指すのであるから,外殻体は,既に形成されたものと解すべきであるのは当然である。 また,本件明細書の発明の詳細な説明欄には,【0012】で「このOリング形状の弾性体21に,針金等を用いた引っ掛け手段を引っ掛け,外殻体10の孔15または16を通って,Oリング形状の弾性体21を,外殻体10の内部に導入することができる。」と記載されていることから,既に形成されたものを指すと解すべきである。 (イ) 本件発明の審査の過程で,原告が特許庁に提出した本件意見書(乙2)には「外殻体に弾性体を内蔵させる構造は従来より種々提案されておりましたが,弾性体を外殻体の孔を通って,外殻体の内部に導入する構造ではありませんでした。このため,従来は,外殻体を2つに割り,この半割状の外殻体片の間に弾性体を挟み込んだ状態で,2つの半割状外殻体片を,はんだ付け,ロウ付け等の手段によって接合せざるを得ませんでした。しかし,この種の止め具は微小部品であり,上述のような製造,組立プロセスを実行することは,極めて困難でした。また,このような製造,組立プロセスを採用せざるを得ないためにコストアップを招いておりました。更に,ロウ付けのために,外殻体の内部に入れる弾性体として,金属材料に限らざるを得ませんでした。(中略)2つの半割状外殻体片を,はんだ付け,ロウ付け等の手段によって接合した場合は,接合部分において,美観を損ない,商品価値を著しく低下させてしまいます。本件発明においては,構成要件B『弾性体はOリング状部材であって,外殻体の孔を通って,前記外殻体の内部に導入される』ことになりますので,本願明細書段落0008に記載しますように,『弾性体に,針金等を用いた引っ掛け手段を引っ掛け,外殻体の内部に導入することができる。』ことになり,上述した従来の問題点を解決できることになります。 しかも,本発明において,構成要件A『外殻体は連続体』でありますので,従来と異なって,接合による外観の悪化を招くことも,商品価値の低下を招くこともありません。」と記載されている。したがって,構成要件Fにおける弾性体の装着時期は,外殻体の形成後であると限定され,形成前及び形成時は排除されていると解すべきである。 ウ 被告製品との対比 (ア) 被告製品は,殻体の成型前に,殻体となる貴金属製パイプの中に弾性材となるシリコン製の弾性材チューブを一体に嵌合して素材とし,これを軸周りに間欠的に回転させながら軸方向に間欠的に移動させる間に金型により間欠的にプレスして,殻体の中に弾性材を圧着した止め具を連接して形成し,これを連接部分から切り離して製造する。すなわち,貴金属製パイプの内部に一体として嵌合された弾性材チューブが殻体の形成と同時に球形中空状の弾性材となって殻体の内部に装着される。なお,被告製品においては,弾性材と殻体の孔との大きさから,弾性材を殻体の孔からその内部へ挿入することは不可能である。 (イ) 構成要件Fは,外殻体の形成後に,外殻体と別異に形成されたOリング状の弾性体を外殻体の孔を通してその中空部へ導入するとしているのに対して,被告製品は,殻体形成後にその孔から別途形成した球形中空状弾性材を導入するのではなく,貴金属製パイプの内部に一体として嵌合された弾性材チューブが,球状のデザインパーツの殻体の形成と同時に球形中空状弾性材となって殻体内部に装着されるのであって,両者は明白に相違する。 (ウ) したがって,被告製品は構成要件Fを充足しない。 (2) 構成要件Dの充足性(文言侵害の有無) (原告の主張) ア 構成要件Dの「Oリング状」の意義 構成要件Dにおける「Oリング状」とは,通孔部を有するものを広く包含し,筒状のものも含まれるし,また,厚み(孔の通る方向)についての限定はないと解すべきである。理由は以下のとおりである。 なお,弾性体21がOリング状であるかどうかは,本件明細書の【0012】で「弾性体21は,外殻体10の内部に挿入する以前は,Oリングの形状を有している。」と記載されていることから明らかなように,外殻体10の内部に挿入される前の状態で判断しても差し支えない。 (ア) 本件公報の図1ないし図3には,被告が主張するような円形断面の環状パッキングに近い形状のものが図示されているが,他方,図8及び図9には円形断面の環状パッキングの両側に,半球状弾性体を組み合わせた構造が図示され,さらに,図4及び図18には図1ないし図3に図示された弾性体よりも厚く,かつ,厚み方向の中央部で,孔径の拡大された通孔部22を有する弾性体が図示されている。そして,本件明細書及び図面には,弾性体の厚みについて限定した記載はない。したがって,構成要件Dにおける「Oリング状」とは,「円形断面の環状パッキング」のみを指すのではなく,通孔部を有するものを広く包含すると解すべきである。 これに対し,被告は,本件公報の図4,図8及び図9について,1つの弾性体21の形状を検討するに当たり,複数枚の弾性体を積層させたものを1つの弾性体のように理解するのは妥当でない旨主張する。しかし,原告は複数枚の弾性体を積層させたものを1つの弾性体のように理解したのではなく,図8,図9に円形断面の環状パッキングと,半球状弾性体の2種類が図示されていること,図4に厚みの異なる複数枚の弾性体21,24,27が図示されていること,及び,図18に図1ないし図3に図示された弾性体よりも厚く,かつ,厚み方向の中央部で,孔径の拡大された通孔部22を有する弾性体が図示されていることから,弾性体は「円形断面の環状パッキング」のみを指すのではないことは明らかであり,この点の被告の主張は失当である。 (イ) 被告は,原告が本件意見書(乙2)に「ホールダは管状であり,しかも横方向ウエブを有するので,当業者の認識する『Oリング』の一般概念から遊離しております。このため,技術的概念として,このホールダを『Oリング状部材』と呼ぶことには無理があると思料します。」と記載した点をとらえ,上記記載からすれば,被告製品の弾性材のような筒状は,Oリング状ではないということになるから,原告が本訴において,これに反する主張をすることは禁反言の原則に反する旨主張する。 しかし,本件意見書の記載は,特開昭57-55102号公報に記載されたホールダの具体的構造に着目し,同ホールダは管状体に横方向ウエブ18aを設けた構造であるので,Oリングの概念には入らないというものであって,管状そのものが一般的にOリングの概念に含まれないという趣旨ではない。すなわち,本件意見書における「ホールダは管状であり,しかも横方向ウェブを有する」との部分の意味は,ホールダが管状であること及び横方向ウェブを有することの2つの条件を満たす(アンド条件)ということであり,上記意見書では,上記公報記載のホールダは,この2つの条件を満たすことから,Oリングの概念には入らないと述べたのであって,管状一般がOリングの概念から遊離するというわけではない。 よって,被告製品の弾性材をOリング状に相当する筒状であると主張することは,何ら禁反言の原則に反するものではない。 (ウ) 被告は,構成要件Dの「Oリング状」を,市販されている「Oリング」の形状と限定して解すべきであると主張する。 しかし,本件意見書には,市販の「Oリング」は,本件発明における弾性体として利用できるOリング状部材の「典型的例」と記載されているのであるから,本件発明における弾性体として利用できるOリング状部材には,市販の「Oリング」以外のものも含まれていることは文言上明らかである。また,構成要件Dでは,Oリング「状」部材と記載されているのであって,市販の「Oリング」とは区別されているのであるから,「Oリング状」を市販されている「Oリング」の形状と限定して解さなければならない記載はない。 また,「Oリング状」は「Oリング」とは異なる。「状」という語は「すがた,ありさま,ようす,さま,おもむき,ふう」を意味することから,「Oリング状部材」は,「Oリングのような形状をした部材,Oリングに似た形状の部材」を意味し,輪状のものであればすべて含まれると解すべきである。 イ 構成要件Dの「弾性体」の意義 被告は,構成要件Dにおける「弾性体」について,種々の限定がされるべきであると主張するが,いずれも失当である。すなわち,「弾性体」は,@その外周部が外殻体の中空部の最も径の大きい中央部に接着していると限定されるべきではないし(本件明細書及び本件公報の図面には,弾性体の外周部が外殻体の中空部の最も径の大きい中央部に接着している構造のみが開示されているのはなく,その球形外表面の大部分が殻体の内壁面全体に圧着しているものも図8,9で図示されている),Aその外径は,外殻体の中央部の内径より大きいものであると限定されるべきでないし,Bその通孔部の内径は外殻体の孔の内径より小さいものであると限定されるべきでないし,Cその通孔部の内径は通孔部のいずれの部分でも同一であると限定されるべきではない。 ウ 被告製品との対比 被告製品の弾性材は,厚み(孔の通る方向)が本件公報の図面に示されたものよりも大きくなっている。そして,弾性材の厚み(孔の通る方向)を大きくすれば,弾性材は殻体に挿入されたときに球形中空状になることは自明であり,被告製品の弾性材も,殻体の内部に挿入する以前では筒状である。 したがって,被告製品は構成要件Dを充足する。 (被告の反論) ア 構成要件Dの「Oリング状」の意義 構成要件Dにおける「Oリング状」とは,円形断面の環状パッキングと同じ形状のみを意味するのであって,筒状を含まないと解すべきである。その理由は以下のとおりである。 (ア) 本件特許出願に対する拒絶理由通知において引用された特開昭57-55102号公報に記載された「管状の弾性体のホールダ」について,原告は本件意見書の中で「ホールダは管状であり,しかも横方向ウエブを有するので,当業者の認識する『Oリング』の一般概念から遊離しております。このため,技術的概念として,このホールダを『Oリング状部材』と呼ぶことには無理があると思料します。」と述べ,管状とOリング状が異る形状であることを明確に認めている。本件意見書の上記記載に照らすならば,管状と同視し得る筒状の弾性材は,Oリング状ではないということになる。原告が,本訴において,被告製品における弾性材をOリング状であると主張することは禁反言の原則に反し,許されない。 この点,原告は,本件意見書においては,管状体に横方向ウエブを設けたホールダはOリングの概念には入らないと述べたにすぎない旨主張する。しかし,そのような趣旨を述べるのであれば,単に「横方向ウエブを有する(管状の)ものはOリング状部材と呼べない」と表現すれば足りるのであり,わざわざ「しかも」と付言し前段の主張を強調していることに鑑みれば,本件意見書の趣旨は,管状とOリング状とは異ることを述べたと理解すべきであり,原告の上記主張は失当である。 (イ) 本件明細書の【0012】には「 弾性体21は,外殻体10の内部に挿入する以前は,Oリングの形状を有している。」と記載され,また,本件意見書には「本発明における弾性体として利用できるOリング状部材の典型的例は,市販の『Oリング』であります。一般的な市販の『Oリング』は,断面円形状です。 (中略)弾性体として,市販の『Oリング』を用いた止め具において,市販の『Oリング』の(略)。」「特に,弾性体として,市販の『Oリング』を用いた典型的態様では,(中略)市販の『Oリング』が(略)」と記載されている。したがって,弾性体21は,市販されているOリングの形状と当業者が認識する形状であるというべきである。 そして,一般的に「Oリング」とは,漏止めに用いられる円形断面の環状パッキングを意味し(乙8),また,市販のOリングの形状(乙7の5,6。 検乙1)に照らすならば,当業者間では「Oリング状」とは孔の通る方向(縦方向)に厚みが小さい,又は横方向の外径に比べ厚みの縦方向の長さが極めて小さい円形断面の環状と認識されている。 (ウ) 本件公報の図4については本件明細書の【0017】で「複数枚の弾性体21,24,27」と,図8および図9については本件明細書の【0026】及び【0027】で「弾性体21,24,27」とそれぞれ記載されており,これらは,請求項4の複数の弾性体が積層されている止め具を図示しているものである。1つの弾性体21の形状を検討するときに,複数枚の弾性体を積層させたものを1つの弾性体として評価することは許されず,原告の主張は失当である。 (エ) 本件公報の図18について,本件明細書の【0040】で「実質的に,図1に示したと同様の構成を有する止め具115」,【0041】で「止め具115に内蔵された弾性体21」,【0042】で「通孔部22を中間部で膨らませ,両側の出口部で絞った孔形を有する。」と,それぞれ記載されている。当該弾性体は,特異な形状の孔を有することに特色を持つとはいえ,図1に示したのと同様の構成を有する止め具である以上,当業者の認識するOリングの概念を逸脱すべきでない。弾性体は,孔の形状は別論として,市販のOリングの概念に包含される,外径より厚みが極めて小さいものであると解すべきである。 イ 構成要件Dの「弾性体」の意義 構成要件Dにおける「弾性体」は,@その外周部が外殻体の中空部の最も径の大きい中央部に接着していなければならないこと,Aその外径は,外殻体の中央部の内径より大きくなければならないこと,Bその通孔部の内径は外殻体の孔の内径より小さくなければならないこと,Cその通孔部の内径は通孔部のいずれの部分でも同一でなければならないことが必要であると解すべきである。 ウ 被告製品との対比 (ア) 被告製品の弾性材の形状は,球形中空状である。また,同弾性材の孔の外縁部は殻体の孔に接し,端面は中心部に向かって殻体の中央部に落ち込むようにテーパ状になっている。 なお,被告製品の弾性材が殻体の内部に装着される以前の形状は,2メートルの長いチューブ状であり,また,上記弾性材を一旦殻体の内部に装着した後に殻体を壊して取り出したときの上記弾性材の形状は,横方向の外径と厚みの縦方向の長さがほぼ等しい筒状である。被告製品における弾性材は,Oリング状ではない。 (イ) 被告製品の弾性材は,@その球形外表面の大部分が殻体の内壁面全体に圧着していること,Aその外径は殻体の内径より小さいこと,Bその通孔部の内径は殻体の孔の内径より小さいとは限らないこと,Cその通孔部の殻体中空部の中央部の内径は孔の内縁部の内径より大きいことから,構成要件Dの「弾性体」に該当しない。 (ウ) したがって,被告製品は構成要件Dを充足しない。 (3) 構成要件Dの充足性(均等侵害の有無) (原告の主張) 仮に,本件発明の「Oリング状部材」を被告が主張するように円形断面の環状パッキングに限定して解したとしても,被告製品の弾性材は,以下のとおりの理由から,「Oリング状部材」の均等物といえる。 ア 本件発明の本質的部分について 弾性体がOリング状部材であることは,本件発明の本質的部分ではない。 イ 置換可能性について Oリング状の弾性体を被告製品における弾性材に置き換えても,本件発明の目的を達することができる。 ウ 置換容易性について 弾性体がOリング状であっても,また,球形中空状であっても,通孔部を有する部材であることは構成上の相違がないから,Oリング状の弾性体を球形中空状の弾性材に置換することは,当業者であれば容易に想到できたといえる。 (被告の反論) 被告製品の弾性材は,以下のとおかりの理由から,本件発明の「Oリング状部材」の均等物とはいえない。 ア 弾性体をOリング状部材とすることは本件発明の本質的部分である。 イ Oリング状の弾性体を被告製品における球形中空状の弾性材に置換することは,当業者にとって容易でない。構成要件Dが構成要件Fと密接不可分であることに鑑みれば,置換容易とはいえない。 (4) 権利の濫用の有無 (被告の主張) 本件特許には,以下のとおり,進歩性欠如の無効理由が存在することが明らかであるので,原告の本件特許権に基づく請求は権利の濫用に当たり許されない。 ア 公知文献の存在 (ア) 実公平4-37457号公報(公告日 平成4年9月3日。乙第10号証)には,装飾用鎖玉について,実用新案登録請求の範囲欄に「軸心上に2つの貫通孔を設けた鎖玉の中空体内に樹脂材を充填して,この樹脂材に,前記貫通孔の軸心と一致する糸通し孔を貫設し,糸通し孔の縁が貫通孔の縁内に入り込み,前記貫通孔の縁に対する隔離縁を形成したことを特徴とする装飾用鎖玉。」が,考案の詳細な説明欄及び図面に「外殻体(中空体1)と弾性体(樹脂体5)を含む止め具(鎖玉A)であって,外殻体は孔(貫通孔3)と中空部を有し,当該中空部の内壁面は球面状の連続体となっており,前記孔は,前記外殻体の外部から前記中空部へ通じており,前記弾性体は通孔部(糸通し孔7)を有する部材であって,前記中空部の内部に内蔵され,その外周が前記中空部の前記内壁面に圧接しており,前記通孔部は前記孔に通じている止め具(鎖玉)」が記載されている。 (イ) 登録実用新案第3042071号公報(発行日 平成9年10月7日。乙第11号証)には,装身用鎖の留め具につき「止め具(留め具)の外殻体(1aおよび1b)は孔(貫通孔3a)と中空部を有し,中空部の内壁面が球面状の連続体であり,孔は外殻体の外部から中空部へ通じており,弾性体(弾性部材4,6,7)は通孔部を有し,中空部の内部に内蔵されており,弾性体の通孔部は外殻体の孔に通じており,紐部材(装身用鎖2)は,止め具の外殻体を貫通し,弾性体によって弾性的に保持されている装身具」が記載されている。 (ウ) 特開昭57-55102号公報(公開日 昭和57年4月1日。乙第12号証)の明細書及び図2,4,9には,本件発明と同じ技術分野の装身具における留めがねにつき,「外殻体(ハウジング14a)の中空部の内部に内蔵され,その外周が中空部の内壁面に圧接し,外殻体の孔(ハウジングの開放端14c)を通して,中空部内に導入可能であって,外殻体の孔に通じている通孔部(孔18b)を有する弾性体(可撓性材料からなるホールダ18)を有する止め具」が記載されている。 (エ) 実開昭59-97606号公報(公開日 昭和59年7月2日。乙第13号証)の明細書及び図面には,ネックレスなどの装身具につき,「外殻体(保持管2)は孔と中空部を有する連続体であって,孔は外殻体の外部から中空部へ通じており,弾性体(ゴム管あるいは合成樹脂管2a)は通孔部を有し,外殻体の内部に内蔵され,その外周が中空部の内壁面に圧接しており,弾性体の通孔部は外殻体の孔に通じており,紐部材(鎖1)は外殻体を貫通し,弾性体によって弾性的に保持されている紐止め装置」が記載されている。 (オ) 実公昭61-24087号公報(公告日 昭和61年7月19日。乙第14号証)の明細書及び図面には,ネックレスなどの装身具につき「外殻体(小玉1)は孔と中空部(小径孔2)を有し,外殻体は連続体であり,孔は外殻体の外部から中空部へ通じており,弾性体(ゴム管5)は中空部の内部に内蔵され,その外周が中空部の内壁面に圧接しており,弾性体の通孔部(内径孔6)は外殻体の孔に通じており,弾性体は外殻体の孔を通って外殻体の内部に導入される止め具と,紐部材(化粧鎖8)は,止め具の外殻体を貫通し,弾性体によって弾性的に保持されている装身具」が記載されている。 (カ) 特公平4-25801号公報(公告日 平成4年5月1日。乙第15号証)の明細書及び図面には,「通孔部を有するOリング状の弾性体(駒4)」がネックレスとして使用されていることが記載されている。 イ 上記公知文献記載の技術と本件発明との対比 (ア) 本件発明の「外殻体」について 本件発明の「連続体である」点は,乙第10,11,13及び14の各号証に示されており,「外殻体が中空部を有し,前記中空部の内壁面が球面状である」点は,乙第10及び11の各号証に示されており,「外殻体が孔を有し,前記孔は,外殻体の外部から前記中空部へ通じている」点は,乙第10ないし14の各号証に示されている。 (イ) 本件発明の「弾性体」について 本件発明の「弾性体が通孔部を有するOリング状部材である」点は,乙第15号証に示されており,上記各構成要件の「弾性体が外殻体の中空部の内部に内蔵され,その外周が前記中空部の前記内壁面に圧接している」点は,乙第10及び12ないし14の各号証に示されており,「弾性体の通孔部が,外殻体の孔に通じている」点は,乙第10ないし14に示されており,「弾性体は,外殻体の孔を通って,外殻体の内部に導入される」点は連続体として形成された孔を有する外殻体の内部に弾性体を装着するには当該孔を通して導入せざるを得ないので,当然の事柄であるのみならず,乙第12及び14号証にも示されている。 (ウ) 本件発明2の「紐止め装置」について(便宜,発明2について記載する。) 本件発明2の「紐部材が,止め具の外殻体を貫通し,弾性体によって弾性的に保持される」点は,乙第11,13及び14の各号証に示されており,また,弾性体が紐部材を保持するときに,弾性的に保持するのは,弾性を有する物体である以上当然のことである。 (エ) 以上のとおり,本件発明はすべて乙第10ないし15号証に記載され,出願前公知の技術であったことが認められ,また,これらがいずれも装身具の留めがねに関する技術である。特に,本件発明の弾性体の形状・構成に関して言及すれば,ネックレスの駒として外殻体の外で使用されているOリング状の弾性材を外殻体の内の弾性体として採用すること又は穴部を有する周知の弾性体であるOリングを弾性体として採用することは,当業者であれば容易に想到し得る技術であって,これら公知技術を組み合わせることによって公知技術の有する効果の総和以上の効果が得られるとは認められない。また,本件発明の「弾性体は,前記外殻体の前記孔を通って,前記外殻体の内部に導入される」との部分は,連続体として形成された孔を有する外殻体の内部に弾性体を装着するには当該孔を通して導入する他に手段がないのであって(原告自身が認めているところである。),当然の事柄にすぎない。 したがって,本件発明は,各公知技術の単なる寄せ集めとして当業者が極めて容易に想到することができたものであって,特許法29条2項に該当すること明らかである。 (原告の反論) 本件特許には,以下のとおり,進歩性欠如の無効理由は存在しない。 ア 乙第10号証の考案と本件発明との相違点 (ア) 乙第10号証の考案では,「金や銀等の索材によって球状に形成された中空体の鎖玉同士あるいは中空体の鎖玉と真珠玉とを交互に配置して,双方の貫通孔に対する糸の挿通により,環状のネックレス,数珠,ブレスレット等に形成」との記載から明らかなように,装飾用鎖玉は,単に糸を挿通させるものであって,糸に弾性的に保持され,係留されるものではない。また,乙第10号証は,「鎖玉の中空体における糸通し孔を,この素材に対する貫通孔ではなく,充填材に貫通する孔とすることで,糸切れや糸の汚れを確実に防止できる装飾玉を提供すること」を目的とするものである。このように,乙第10号証の考案は,解決の課題において,本件発明と相違する。 (イ) 乙第10号証の考案では,中空体の「貫通孔の内部に樹脂材を充填」すべきであるとするものであるのに対し,本件発明では,孔から離間させ,弾性体の通孔部を,孔に通じさせる構造を採用すべきであるとしている点で相違する。 (ウ) 乙第10号証の考案では,糸通し孔の孔径は,鎖玉の中空体に設けられた貫通孔よりもかなり小さくならざるを得ず,糸通し孔内を挿通させるものは錦糸等の細い糸に限定されているのに対して,本件発明では,外殻体の内径に対応した比較的太い紐状部材を通すことができる点で相違する。 (エ) 乙第10号証の考案では,一旦,樹脂材を注型した後は,樹脂材を交換することは不可能であり,樹脂材は,あらかじめ開けられた糸通し孔の孔径に適合した線型の糸を通すことができるだけであるのに対して,本件発明では,止め具は,別々の独立の部材である外殻体と,弾性体とを組み合わせてあるので,紐部材の太さ等に合わせて,弾性体を選択し,又は交換することが可能である点で相違する。 (オ) 乙第10号証の考案では,中空体の内部に樹脂材が注射器又は空気利用ディスペンサーにより充填され,一体化されているので,樹脂材には,中空体の内壁面に圧接する「弾性体」としての機能がほとんど期待できず,また,Oリング状部材ということもできない点において,本件発明と相違する。 (カ) 乙第10号証の考案では,装飾用鎖玉は,「糸の挿通」をもって数珠状に連結されるものであるが,これを仮に本件発明の紐止め装置に転用した場合,紐部材を樹脂材によって保持するためには,紐部材と樹脂材とを強く圧接させる必要があるが,樹脂材は脆いので,紐部材を引っ張って樹脂材の内部で移動させた場合,樹脂材が壊れるおそれがある。したがって,乙第10号証に開示された技術を本件発明に転用しても,本件発明の課題を達成することはできない。 イ 本件発明は,以下のとおり,乙第10ないし15号証に記載された各技術を組み合わせても,当業者が容易に推考できたものとはいえない。 (ア) 乙第10号証と乙第12号証との組合せ a 乙第10号証では,中空体(外殻体)の貫通孔の内部に樹脂材を充填することが必要である。これに対して,本件発明では,弾性体を外殻体の孔の内部に充填するのではなく,孔から離間させ,弾性体の通孔部を孔に通じさせる。本件発明と乙第10号証との上記相違点は,乙第10号証の技術に乙第12号証の技術を組み合わせることによっては解消し得ない。 b 乙第10号証は,鎖玉の貫通孔の内部に樹脂材を充填することによって,糸切れや糸の汚れを確実に防止できる装飾玉を提供せんとするものである。 他方,乙第12号証は,ハウジング(14a)の貫通孔の内部には,ホルダ18を入れない構造を開示している。したがって,乙第10号証に,乙第12号証を組み合わせたとすると,乙第10号証の本来の目的を達成することができなくなる。 c 乙第10号証は,本件発明の「弾性体は前記中空部の内部に内蔵され,その外周が前記中空部の前記内壁面に圧接している」との構成要件を充たしていない。他方,乙第12号証は,本件発明の「外装体は,中空部の内壁面が球面状である」との構成要件及び「弾性体は,Oリング状部材」との構成要件を充たしていない。乙第12号証の「弾性体」を乙第10号証に組み合わせたとしても,本件発明の「弾性体は,Oリング状部材であって,前記中空部の内部に内蔵され,その外周が前記中空部の球面状の内壁面に圧接している」との構成には想到し得ない。 d 乙第10号証は,鎖玉あるいは真珠玉を糸に係留せずに,糸に沿って自由に移動できる関係で数珠状に連結することを前提としている。乙第12号証は,「第1及び第2の留めがね部品13,16は頭部16bを孔13b中に強制的に押し込むことにより結合される。」。このように両者では,2つの部材の結合関係が相反する関係にある。したがって,乙第10号証及び乙第12号証の各技術に共通性がなく,両者を組み合わせる動機付けが存在しない。 (イ) 乙第10号証と乙第14号証との組合せ a 乙第14号証の図3には,金属小玉1の大径孔3の中に大径孔3より僅かに短いゴム管5を押入れる構造が開示されているだけである。したがって,乙第10号証と乙第14号証の弾性体との組み合わせからは,「外殻体は,中空部の内面が球面状」とし,「弾性体は,その外周が前記中空部の球面状の内壁面に圧接している」構成には想到し得ない。 b 乙第10号証は,鎖玉の貫通孔の内部に樹脂材を充填することによって,糸を,樹脂材に摺接させ,糸切れや糸の汚れを確実に防止できる装飾玉を提供せんとするものである。他方,乙第14号証は,金属小玉1の大径孔3の中に大径孔3より僅かに短いゴム管5を押入れる構造であるから,化粧鎖は,金属小玉1の小径孔2に摺接する。したがって,乙第10号証に,乙第14号証を組み合わせたとしても,乙第10号証の本来の目的を達成することができなくなる。 (ウ) 乙第11号証と乙第12号証との組合せ a 乙第12号証には,ハウジング14aが球状体となる得ることを示唆する記載は一切存在しない。これに対して,乙第11号証は,球状体である留め具の内部に弾性部材を内蔵させる場合の技術を開示するものであって,管状部材の組合せに係るものではない。したがって,乙第11号証と乙第12号証の弾性体との組合せからは,「外殻体は,中空部の内面が球面状」とし,「弾性体は,その外周が前記中空部の球面状の内壁面に圧接している」との構成は想到し得ない。 b 管状のハウジング14aを用いることを前提とする乙第12号証の技術を,球状体を用いることが前提の乙第11号証に組み合わせることが,推考容易であるとはいえない。 c 本件発明と乙第11号証との間の「連続体」と「半球部の接合体」との相違点は,乙第11号証に乙第12号証の弾性体を組み合わせても,これを埋めることができない。 (エ) 乙第11号証と乙第14号証との組合せ a 乙第14号証の図3には,金属小玉1の大径孔3の中に大径孔3より僅かに短いゴム管5を押入れる構造が開示されているだけである。大径孔3の内面は,円筒状であり,「外殻体は,中空部の内壁面が球面状」でなければならない本件発明の構成要件を満たしていない。したがって,乙第11号証と乙第14号証の弾性体との組み合わせからは,「外殻体は,中空部の内面が球面状」とし,「弾性体は,その外周が前記中空部の球面状の内壁面に圧接している」構成は想到し得ない。 b 乙第14号証に,弾性体が記載されている点を考慮し,乙第12号証を乙第11号証に組み合わせたとしても,本件発明と乙第11号証との間に生じる相違点,すなわち,「連続体」と「半球部の接合体」との相違点を埋めることができない。 (オ) 乙第15号証と乙第10号証及び第11号証との組合せ 乙第15号証は,宝石類2と宝石類2の間毎に,Oリング状の駒4を介装する連珠宝飾品を開示しているが,Oリング状の駒4は,むき出しで用いられており,Oリング状の駒4と結合されるべき外殻体は記載されていない。乙第15号証には,本件発明における「外殻体」,「弾性体は,外殻体の中空部の内部に内蔵」される点,及び「弾性体はその外周が中空部の内壁面に圧接」する点の記載はない。したがって,乙第15号証を,乙第10号証及び乙第11号証に組み合わせたとしても,本件発明に想到し得ないことは明らかである。 (5) 損害額 (原告の主張) 被告は,平成12年10月1日から同年12月25日までの間に,被告製品を単価900円で,少なくとも4万2000個製造,販売した。 被告製品の製造,販売による被告の利益率は50パーセントである。被告は,被告製品の製造,販売により少なくとも1890万円の利益を得ている。 したがって,原告の被った損害額は1890万円である。遅延損害金は訴状送達の日の翌日である平成13年1月17日から請求する。 (被告の主張) 争う。 〔本件発明2について〕 (6) 構成要件Cの充足性 (原告の主張) ア 構成要件Cの解釈 被告は,構成要件Cにおいては,紐部材の係留位置は,外殻体の中空部の最も径の大きい中央部1か所であると限定されるべきである旨主張する。しかし,構成要件Cは,「前記紐部材は,前記弾性体によって弾性的に保持される」というものであり,被告の主張のように限定される理由はない。 イ 被告製品との対比 被告製品は,構成要件Cを充足する。なお,被告製品において,紐部材が弾性材1dの通孔部1gの内部に導入された場合,弾性材の各1fの部分は潰れてしまい,それによって,弾性材の内側の中央部が通孔部の方へせり出してくるから,紐部材は弾性材の通孔部全体で保持され,係留位置も1か所となる。 (被告の反論) ア 構成要件Cの解釈 構成要件Cは,「前記紐部材は,前記止め具の前記外殻体を貫通し,前記弾性体によって弾性的に保持される」と記載されている。以下のとおりの理由から,同構成要件において,「紐部材」は,外殻体の中空部の内壁面の最も径の大きい中央部に内接したOリング状の弾性体の通孔部で係留され,その位置は,外殻体の中空部の最も径の大きい中央部1か所であると解すべきである。 すなわち,構成要件Cの意義は明確ではないので,本件明細書の発明の詳細な説明欄の記載を参酌して,その意義を確定すべきである。ところで,発明の詳細な説明欄の【0007】には「本発明にかかる止め具は,主として,紐の係留に用いられる。」,【0008】には「外殻体の孔を通して,外殻体の内部に導入された紐を,弾性体の通孔部に導くことができる。この場合,紐の内径と,弾性体の通孔部の内径とを適当に選定することにより,弾性体の弾力性を利用して,通孔部を通る紐に摩擦抵抗を生じさせ,紐を任意の長さに係留することができる。」,【0014】には「紐部材31は,(中略)弾性体21の通孔部22を貫通する。」,【0015】,【0034】及び【0037】には「紐部材31の外径と,弾性体21の通孔部22の内径とを適当に選定することにより,弾性体21の弾力性を利用して,通孔部22を通る紐部材31に摩擦抵抗を生じさせ,紐部材31を任意の長さに係留することができる。」,【0044】には「紐部材31は(中略)中間部が止め具1に備えられた弾性体22より,弾力的に保持されている。」と,また,弾性体を複数積層したものの説明について【0020】には「凸凹を有する通孔部22,25,28の外壁と紐部材31が,密着する。」と,それぞれ記載されている。これらの記載からすれば,「紐部材を弾性的に保持している」とは,弾性体の通孔部の外壁全体で紐部材を係留しているということになる。 イ 被告製品との対比 被告製品においては,紐部材の係留は,殻体の2つの孔各1aに接する球形中空状の弾性材の2つの孔各1bの内縁部各1fでされており,係留位置は弾性材の孔の内縁部2か所である。 したがって,被告製品は構成要件Cを充足しない。 (7) その他の主張 (原告の主張) 構成要件Bの充足性については前記(1)ないし(3)の,権利濫用の有無については前記(4)の,損害額については前記(5)の,原告の各主張のとおりである。 (被告の反論) 構成要件Bの充足性については前記(1)ないし(3)の,権利濫用の有無については前記(4)の,損害額については前記(5)の,被告の各主張のとおりである。 |
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当裁判所の判断
〔本件発明1について〕 1 構成要件Fの充足性 (1) 構成要件Fの解釈 ア まず,原告は,本件発明は物の発明であるところ,構成要件Fの「前記弾性体は,前記外殻体の前記孔を通って,前記外殻体の内部に導入される」の記載は,製造方法に係る記載部分であるから,発明の技術的範囲を解釈するに当たり,同構成要件によって限定すべきではない旨主張する。 しかし,原告の同主張は,以下のとおりの理由から採用できない。 すなわち,特許発明の技術的範囲は,特許請求の範囲の記載に基づいて解釈すべきであるから,その解釈に当たって,特段の事情がない限り,明細書の特許請求の範囲の記載を意味のないものとして解釈することはできない。確かに,物の発明において,物の構造及び性質によって,発明の目的となる物を特定することができないため,物の製造方法を付加することによって特定する場合もあり得る。 そして,このように,特許請求の範囲に,発明の目的を特定する付加要素として,製造方法が記載されたというような特段の事情が存在する場合には,当該発明の技術的範囲の解釈に当たり,特許請求の範囲に記載された製造方法によって製造された物に限定することが,必ずしも相当でない場合もあり得よう。本件についてこれをみると,@本件発明の目的物である止め具は,その製造方法を記載することによらなくとも物として特定することができ,構成要件Fは,本件発明の目的物を特定するために付加されたものとはいえないこと,A本件特許出願に対して,平成12年8月4日付けで,拒絶理由通知が発せられ,原告は,これを受けて,平成12年8月28日,特許庁に対して手続補正書を提出し,同補正により,構成要件Fを追加したこと(乙25,26,弁論の全趣旨)等の経緯に照らすならば,構成要件Fは,本件発明の技術的範囲につき,正に限定を加えるために記載されたものであることは明らかである。 したがって,本件発明の技術的範囲は,構成要件Fに記載された方法によって製造された物に限定されるというべきである。 イ 次に,原告は,仮に,本件発明の技術的範囲は,構成要件Fに記載された方法によって製造された物に限定されるという解釈を前提としたとしても,構成要件Fは,弾性体が外殻体に挿入される時期に限定を加えたものではない旨主張する。 しかし,原告の同主張も,以下のとおりの理由から採用できない。 すなわち,構成要件Fは,「前記弾性体は,前記外殻体の前記孔を通って,前記外殻体の内部に導入される」と記載され,弾性体は外殻体の孔を通って外殻体の内部に導入されることが明確に規定されているところ,外殻体の形成前には外殻体の孔も存在しないのであるから,弾性体を,外殻体の形成前に,外殻体の孔を通して外殻体の内部に導入させることはあり得ない。したがって,原告の前記主張は採用の余地がない。 (2) 被告製品との対比 証拠(乙18)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品は,殻体の成型前に,殻体となる貴金属製パイプの中に弾性材となるシリコン製の弾性材チューブを一体に嵌合して素材とし,これを軸周りに間欠的に回転させながら軸方向に間欠的に移動させる間に金型により間欠的にプレスして,殻体の中に弾性材を圧着した止め具を連接して形成し,これを連接部分から切り離すという方法により製造されていることが認められる。 被告製品は,殻体形成後にその孔から別途形成した球形中空状弾性材を導入するのではなく,貴金属製パイプの内部に一体として嵌合された弾性材チューブが,球状のデザインパーツの殻体の形成と同時に球形中空状弾性材となって殻体内部に装着されるのであるから,構成要件Fを充足せず,本件発明の技術的範囲に含まれない。 2 構成要件Dの充足性(文言侵害の有無) (1) 構成要件Dの「Oリング状」の意義について ア 構成要件Dの「Oリング状」は,以下のとおりの理由から,「円形断面の環状パッキングの形状,又はこれと類似の形状」を意味し,「筒状」は含まれないと解すべきである すなわち,本件各証拠及び弁論の全趣旨によれば,@本件明細書のいずれをみても,「Oリング状」について,特別の意味で理解すべきとする記載箇所はないこと,A原告は本件意見書の中で,本件特許出願に対する拒絶理由通知において引用された特開昭57-55102号公報に記載された「管状の弾性体のホールダ」との相違に関して,「ホールダは管状であり,しかも横方向ウエブを有するので,当業者の認識する『Oリング』の一般概念から遊離しております。このため,技術的概念として,このホールダを『Oリング状部材』と呼ぶことには無理があると思料します。」「本発明における弾性体として利用できるOリング状部材の典型的例は,市販の『Oリング』であります。一般的な市販の『Oリング』は,断面円形状です。」と述べている点に照らすならば,原告は本件発明における「Oリング状」の意味を一般的な意味を念頭に置いて理解していたものと認めることができ,上記認定に照らすならば,構成要件Dの「Oリング状」は,一般的な意味として解釈するのが相当である。 そして,乙第8号証によれば,「Oリング」とは,一般に「漏止めに用いられる円形断面の環状パッキング」を指すことが明らかであること,「Oリング状」とは,「状」という文言が付加されていることから,「円形断面の環状パッキングの形状」及びこれと類似する形状を含めて理解するのが相当である。 イ これに対して,原告は,本件公報の図8及び図9には円形断面の環状パッキングの両側に,半球状弾性体を組み合わせた構造が図示されていること,図4及び図18には図1ないし図3に図示された弾性体よりも縦方向の厚みが長い弾性体が図示されていることから,本件発明の「Oリング状」とは,「円形断面の環状パッキング」のみを指すのではなく,通孔部を有するものを広く包含していると解すべきであると主張する。 しかし,構成要件Dの「Oリング状」についての前記の判断に照らして原告の主張は採用できない(のみならず,図4,図8及び図9に図示された例は,複数の弾性体の組合せからなるものであるところ,本件発明における弾性体の形状については,組合せを構成する各弾性体の形状を基礎として判断するのが相当であるというべきであること,また,図18に図示された弾性体は,原告が本件特許の出願経過において除外されたたものというべきでことから,これらの点に鑑みても,原告の主張は失当である。)。 したがって,原告のこの点の主張は採用できない。 (2) 被告製品との対比 証拠(甲3の2,乙7の3,4,7,8,17及び18,乙17の1ないし6)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品において,弾性材は,@殻体に内蔵されていない状態では,中心部が空洞の円柱状(筒状)であり,その高さは直径の長さと同程度であり,高さ方向で切断したときの断面は長方形であること,A殻体に内蔵された状態では,上記の円柱がその上下の部分が内側に曲がった形状(球形中空状)であり,高さ方向に切断したときの断面は上記の長方形が弓のように曲がった形状であることが認められる。 そうすると,被告製品の弾性材の形状は,円形断面の環状パッキングの形状又はこれと類似した形状ではないので,被告製品の弾性材を「Oリング状」ということはできない。被告製品は構成要件Dを文言上充足しない。 3 構成要件Dの充足性(均等侵害の有無) (1) 置換容易性について ア 本件明細書の特許請求の範囲の記載並びに本件明細書の発明の詳細な説明欄には「前記外殻体は,孔と,中空部とを有し,前記中空部の内壁面が球面状の連続体である。」(2頁3欄37行目ないし38行目),「前記弾性体は,前記外殻体の前記孔を通って,前記外殻体の内部に導入される。」(2頁3欄42行目ないし44行目),「弾性体はOリング状部材でなるから,弾性体に,針金等を用いた引っかけ手段を引っ掛け,外殻体の内部に導入することができる。当然のことであるが,弾性体は,外殻体の孔を通って,外殻体の内部に導入される。」(2頁4欄8行目ないし12行目),及び「このOリング形状の弾性体21に,針金等を用いた引っ掛け手段を引っ掛け,外殻体10の孔15または16を通って,Oリング形状の弾性体21を,外殻体10の内部に導入することができる。」(2頁4欄37行目ないし41行目)と記載されていることに照らすならば,本件発明においては,外殻体が連続体であり,外殻体に弾性体を導入するために,外殻体の孔から弾性体を通すことが必要であることを前提として,「Oリング状部材」を用いたものであることが認められる。 これに対して,前記1(2)の事実,証拠(甲3の2,乙4の1及び2,7の1ないし4及び7ないし18,17の1ないし6)及び弁論の全趣旨によれば,@被告製品においては,弾性材を殻体の内部に導入する方法は,殻体の成型前に,殻体となる貴金属製パイプの中に弾性材となるシリコン製の弾性材チューブを一体に嵌合して素材とし,これを軸周りに間欠的に回転させながら軸方向に間欠的に移動させる間に金型により間欠的にプレスして,殻体の中に弾性材を圧着した止め具を連接して形成し,これを連接部分から切り離すというものであって,殻体の成型後に,弾性材を殻体の孔から通すことが必要でないことを前提として,円柱状の弾性材を用いたものであること,A被告製品における弾性材の形状は中心部が空洞の円柱状であること,外径は内径の約3倍の大きさであること,弾性材の高さ及び直径とも,殻体の内側部分より若干小さい程度であること,殻体の孔の直径は弾性体の内径より若干大きく,外径よりかなり小さいこと,弾性材は柔軟性が高いとはいえないことが認められ,これらのことから,殻体の成型後には,弾性材を殻体の孔から挿入することは不可能であると推測される。 イ そうすると,本件発明の構成要件Dと被告の前記構成との間には,それぞれの構成を採用するための目的,作用効果,解決のための時期,手段の選択のいずれにおいても異なるところ,構成要件Dにおける「通孔部を有するOリング状部材」を「殻体の成型前に,殻体となる貴金属製パイプの中に弾性材となる円柱状のシリコン製の弾性材チューブ」に置換することが,当業者にとって容易であるということはできないというべきである。 (2) したがって,被告製品の弾性材は,本件発明のOリング状の弾性体の均等物ということはできず,被告製品は,本件発明の技術的範囲に含まれない。 〔本件発明2について〕 上記のとおりの理由から,被告製品は,本件発明2の構成要件Bを充足しない。 〔結語〕 以上のとおり,その余の点について判断するまでもなく,原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
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追加 | |
物件目録1図面の説明図1金属製装身具〔デザインパーツ(止め具)と装飾チェーン(紐部材)からなるもの〕の正面図図2デザインパーツ(止め具)の斜視図図3デザインパーツ(止め具)の透視斜視図図4デザインパーツ(止め具)の平面図図5デザインパーツ(止め具)の透視平面図図6デザインパーツ(止め具)の縦断面図図7デザインパーツ(止め具)の横断面図2符号の説明1デザインパーツ(止め具)1a殻体(外殻体)の孔1b弾性材(弾性体)の端面1c殻体1d弾性材1f弾性材の孔の内縁部1g弾性材の通孔部6装飾チェーン(紐部材)3構造の説明(1)デザインパーツ(止め具)の構造A球状の殻体(外殻体)1cと弾性材(弾性体)1dとを含んでおり,B殻体1cは,孔1aと,中空部を有し,当該中空部の内壁面が球面状の連続体であり,C孔1aは殻体1cの外部から中空部へ通じており,D弾性材1dは,通孔部1gを有する中空状部材であって,殻体1cの中空部に内蔵され,その球形外表面の大部分が殻体1cの中空部の内壁面に圧接しており,E通孔部1gは孔1aに通じており,F弾性材1dの内縁部1fの内径D3は,殻体1cの孔1aの内径D1及び通孔部1gの内径D2より小さい。弾性材1dの外縁部(殻体の内面と接する側)は,殻体1cの孔1aよりも,内側に入っている。 (2)装飾チェーン(紐部材)の構造装飾チェーン(紐部材)6は,デザインパーツ(止め具)1の球状殻体を貫通し,球形中空状弾性材1dの通孔部1gに係留されている。 (3)装身具の構造,作用図1において,装飾チェーン(紐部材)6の中間部にデザインパーツ(止め具)1が掛け止められている。装飾チェーン(紐部材)6は金属(金)チェーンである。装飾チェーン(紐部材)6は,一端側に穴開きプレート7を有する。プレート7は,結合部材8によって,デザインパーツ(止め具)1の止め輪9に掛け止められている。装飾チェーン(紐部材)6またはデザインパーツ(止め具)1の一方を矢印a方向か,または矢印b方向にずらすことによって,装飾チェーン(紐部材)6の長さを調整することができる。 図面 |
裁判長裁判官 | 飯村敏明 |
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裁判官 | 谷有恒 |
裁判官 | 佐野信 |