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関連審決 無効2000-35208
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成20行ケ10151審決取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10300審決取消請求事件 判例 特許
平成17ワ2649特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成22行ケ10221審決取消請求事件 判例 特許
平成15行ケ39審決取消請求参加事件 判例 特許
関連ワード 一致点の認定 /  相違点の認定 /  29条の2(拡大された先願の地位) /  上位概念 /  出願公開 /  発明の詳細な説明 /  優先権 /  国内優先権 /  実質的に同一 /  技術的意義 /  実施 /  構成要件 /  設定登録 /  新規事項追加(新規事項の追加) /  誤記の訂正 /  請求の範囲 /  減縮 /  拡張 /  変更 /  釈明 /  訂正明細書 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 75号 審決取消請求事件
原告 タキイ種苗株式会社
原告 株式会社テイエス植物研究所
原告 株式会社東海化成3名訴訟代理人弁理士 廣江武典
被告 アンドウケミカル株式会社
訴訟代理人弁理士 江原省吾
同 田中秀佳
同 白石吉之
同 城村邦彦
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/01/30
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が無効2000−35208号事件について平成13年1月9日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告ら 主文と同旨 2 被告 原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は、名称を「育苗ポット用樹脂成形体及びその製造装置」とする特許第2891987号発明(平成10年3月13日特許出願(国内優先権主張日・平成9年3月14日)、平成11年2月26日設定登録、以下、この特許を「本件特許」という。)の特許権者である。
原告らは、平成12年4月19日、被告を被請求人として、本件特許に係る願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本件発明1」という。)についての特許の無効審判の請求をし、無効2000-35208号事件として特許庁に係属したところ、被告は、同年7月31日に願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載及び発明の詳細な説明の記載を訂正する旨の訂正請求をした。
特許庁は、同審判請求について審理した上、平成13年1月9日に「訂正を認める。本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は同年2月2日に原告らに送達された。
2 訂正請求に係る明細書(以下「訂正明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1の記載 ほぼ正方形に開口した上端の上端開口部と、底部と、底部の周縁と上端開口部の周縁との間の側部とを備えたコップ形状を有し、かつ、所定の樹脂材料を主成分とした複数個の育苗ポットを縦横方向に整列させて平面配置したもので、相互に隣接する前記育苗ポットの上端開口部の周縁を構成するそれぞれの隣接対向辺に、
隣接する育苗ポット同士を微小な幅寸法でのみ連結する連接部を一体的に形成し、
各育苗ポットに土壌を収容した状態で所望の育苗ポットを、隣接する他の育苗ポットから引き千切ることにより前記連接部を破断可能としたことを特徴とする育苗ポット用樹脂成形体。
3 審決の理由 審決は、別添審決謄本写し記載のとおり、@訂正請求に係る各訂正事項は、
特許請求の範囲減縮、明りょうでない記載の釈明又は誤記の訂正を目的とするものであって、いずれも新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲拡張し、変更するものではないから、特許法134条2項及び同条5項において準用する同法126条2項から4項まで(注、「126条2項及び3項」の誤りと認められる。)に適合するので、当該訂正を認めるとし、A本件発明1の要旨を、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載のとおり認定した上、本件発明1は、本件特許出願の日前に出願され、本件特許出願後に出願公開された他の特許出願(特願平9-20674号)の願書に最初に添付した明細書又は図面(特開平10-215689号、審判甲第1号証・本訴甲第3号証、以下、この明細書を「先願明細書」といい、先願明細書に記載された発明を「先願発明」という。)に記載された発明と同一ということはできず、本件発明1についての特許は、特許法29条の2の規定に違反してされたものではないから、請求人(注、原告ら)の主張及び証拠方法によっては、本件発明1についての特許を無効とすることはできないとした。
原告ら主張の審決取消事由
1 審決の理由中、訂正請求に係る訂正を認めるとした判断、本件発明1の要旨の認定、先願明細書の記載を摘記した部分の認定(審決謄本4頁24行目〜5頁末行)、本件発明1と先願発明との一致点の認定は認める。
審決は、本件発明1の技術事項を誤認して、本件発明1と先願発明との相違点の認定及び当該相違点についての判断を誤り(取消事由)、両者が同一ということはできないとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されるべきである。
2 取消事由(相違点の認定及びこれについての判断の誤り) (1) 審決は、本件発明1と先願発明とが、「本件発明1が、複数個の育苗ポットがコップ形状を有し、かつ、複数個の育苗ポットを縦横方向に整列させて平面配置したもので、相互に隣接する前記育苗ポットの上端開口部の周縁を構成するそれぞれの隣接対向辺に、隣接する育苗ポット同士を微小な幅寸法でのみ連結する連接部を一体的に形成したものであるのに対し、先願発明は、複数個の育苗ポット(各ポット1)が上端開口部(上端開口縁2)に外方への張出し状をなす連結耳部6を有し、かつ、複数個の育苗ポットを縦横方向に整列させて平面配置したもので、複数個の育苗ポット(各ポット1)の側部(側壁3)の上端開口部(上端開口縁2)に外方への張出し状をなす連結耳部6を連結する連設部(連結部7)を一体的に形成したものである点」(審決謄本8頁10行目〜19行目)で相違する旨認定し、
かつ、当該相違点について、「本件発明1の、(@)複数個の育苗ポットがコップ形状を有し、かつ、複数個の育苗ポットを縦横方向に整列させて平面配置した育苗ポット用樹脂成形体と、先願発明の、(A)複数個の育苗ポットが上端開口部に外方への張出し状をなす連結耳部6を有し、かつ、複数個の育苗ポットを縦横方向に整列させて平面配置した育苗ポット用樹脂成形体とは・・・その構成を異にしており・・・両者はそれぞれの構成(@)、(A)を基本的に異にするものであり、その基本構成(@)、(A)において相違する以上・・・両者を同一ということはできない」(同9頁20行目〜10頁1行目)とし、本件発明1と先願発明の各構成が異なっているものとして、本件発明1と先願発明とが同一ということはできないと判断した。
(2) しかしながら、本件発明1の上記(@)「複数個の育苗ポットがコップ形状を有し、かつ、複数個の育苗ポットを縦横方向に整列させて平面配置した育苗ポット用樹脂成形体」の構成と、先願発明の上記(A)「複数個の育苗ポットが上端開口部に外方への張出し状をなす連結耳部6を有し、かつ、複数個の育苗ポットを縦横方向に整列させて平面配置した育苗ポット用樹脂成形体」の構成とは同一である。
審決が、これを同一でないとする根拠は、上記相違点についての判断において示された「『コップ』は、一般に・・・例えばガラスコップのように、周壁の上端開口部が切りっぱなし状態(大根切り状態)に形成されたものを指し・・・切りっぱなし状態にある周壁の上端開口部から外方向に張り出すフランジ若しくはフランジに類するものを一体形成したものは、特段の事情がない限り、通常、『コップ』とは呼ばない」(審決謄本9頁9行目〜16行目)との判断のみであるが、以下のとおり、この判断は誤りである。
すなわち、特開昭60-240634号公報(甲第9号証)、特開平6-144434号公報(甲第10号証)、特開平7-40472号公報(甲第11号証)、特開平7-89551号公報(甲第12号証)、平成9年2月10日発行の特開平9-39974号公報(甲第13号証)、同年11月18日発行の特開平9-295663号公報(甲第14号証)、アートナップ株式会社が1993年(平成5年)3〜10月販促ボックスキャンペーンのために頒布した「商品カタログ」(甲第15号証の1)、東罐興業株式会社が平成3年10月に作成した「コップカタログ」(甲第16号証の1)、水野産業株式会社の「1994年(平成6年)総合カタログ」(甲第17号証)及びプロマックス工業株式会社の「製品案内カタログ」(甲第18号証、なお、掲載商品は平成8年4月の時点で販売されていた。)には、「コップ」と表示されたプラスチック製又は紙製のコップが記載されており、「コップ」の語は、ガラス製のコップのみならず、プラスチック製又は紙製のコップをも含め、わん状をした「うつわ」のすべてを包括する上位概念であることが認められる。そして、上記各刊行物並びにいずれも昭和46年1月25日発行の意匠登録第320846号公報(甲第19号証の1)、意匠登録第320847号公報(同号証の2)、意匠登録第320849号公報(同号証の3)、同年4月20日発行の意匠登録第328606号公報(同号証の4)、昭和45年11月24日発行の意匠登録第315657号公報(同号証の5)及び昭和46年2月18日発行の意匠第登録323512号公報(同号証の6)には、周壁の上端開口部から外方向に張り出すフランジ若しくはフランジに類するものを一体形成したコップが記載されており、以上によれば、そのような形状のプラスチック製又は紙製のものを含むコップは、本件特許出願当時、周知であったというべきである。
したがって、審決の上記判断は誤りであり、「コップ」の語は周壁の上端開口部が切りっぱなし状態(大根切り状態)に形成されたものに限定されるものではないから、先願発明の上記(A)「複数個の育苗ポットが上端開口部に外方への張出し状をなす連結耳部6を有し、かつ、複数個の育苗ポットを縦横方向に整列させて平面配置した育苗ポット用樹脂成形体」の構成は、本件発明1の上記(@)「複数個の育苗ポットがコップ形状を有し、かつ、複数個の育苗ポットを縦横方向に整列させて平面配置した育苗ポット用樹脂成形体」の構成に含まれるものである。
(3) なお、本件発明1の「コップ形状」の構成が、周壁の上端開口部が切りっぱなし状態(大根切り状態)に形成されたものに限定されないことは、訂正明細書(甲第7号証)に、「以上で説明した育苗ポット用樹脂成形体1(注、本件発明1の育苗ポット用樹脂成形体)は、図7(a)(b)に示すような製造装置でもって製作することができる」(【0021】項)と記載された、特許請求の範囲の請求項2記載の製造装置及びこれによる製造の方法によっても明らかである。
すなわち、上記製造装置は、「樹脂成形体1の原型であるシート材を連接部3を残して各育苗ポット2ごとに切断することにより樹脂成形体1を製作する」(【0022】項)ものであり、その原型シート材は「真空成形により連続的に形成された」(特許請求の範囲の請求項2、【0009】項)ものである。そこで、仮に、本件発明1の育苗ポットの上端開口部が切りっぱなし状態(大根切り状態)に形成されるものとすると、原型シート材は、互いに隣接する育苗ポット2の側部同士が逆V字状に連続して一体に形成されていなければならないが、そのような原型シート材を真空成形に係る周知慣用の成型金型によって製造するためには、この逆V字状の部分に対応する成型金型部分は、同じく逆V字状で且つ先端部がカミソリ刃の様に鋭利に形成されていることが必須である。しかし、そのような成型金型を使用して薄肉のシート素材を原型シート材に連続的に真空成形しようとしても、各育苗ポットは、上記成型金型の鋭利な先端部に当たる上端開口部の周縁(隣接対向辺)の間で切断されてバラバラになってしまう。このため、上記成型金型の先端部を鋭利に形成することはできず、そうすると、各育苗ポットの上端開口部の周縁には、必然的に外方に張り出すフランジ状部が形成されることになる。したがって、本件発明1は、育苗ポットの上端開口部に外方向に張り出すフランジ状部が形成されたものも包含することが明らかである。
(4) 被告は、連結耳部(フランジ)は上端開口部の周縁から外方に張り出した部位であり、その連結耳部の外周縁に連接部が形成されることになるが、連結耳部の外周縁は「開口部の周縁を構成する・・・隣接対向辺」には当たらないから、
「開口部の周縁を構成する・・・隣接対向辺に・・・連接部を一体的に形成」することはできないとし、本件発明1が連結耳部を備えない構成であることは、その特許請求の範囲の記載から一義的に明らかである旨主張する。
しかしながら、本件発明1の「上端開口部」は、上端開口縁(内周縁)から周縁(外周縁)までを構成する部分として理解されるものであって、本件発明1が連結耳部を有する場合には、「上端開口部の周縁を構成する・・・隣接対向辺」に当たるものは、外方向に張出した連結耳部の周縁(外周縁)であることになる。
したがって、連結耳部の外周縁に連接部を一体形成した場合も、「開口部の周縁を構成する・・・隣接対向辺に・・・連接部を一体的に形成」するものであることは明らかであり、被告の上記主張は誤りである。
また、被告は、訂正明細書に記載された製造装置及びこれによる製造の方法によっても、必然的に外方に張り出すフランジ状部が形成されることに関し、本件発明1が必ず訂正明細書の特許請求の範囲の請求項2に記載された製造装置を用い、発明の詳細な説明に記載された態様で製造されなければならないとする合理的理由はないとか、形成されるものはバリ状のものであって、フランジ状部ではないと主張する。
しかしながら、上記のとおり、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項2記載の発明は、同請求項1記載の発明である本件発明1を製造するための製造装置に関する発明とされており、両発明にこのような関係があるから、一の願書で特許出願されているものである(特許法37条3号)。したがって、上記製造装置で製造された育苗ポット用樹脂成形体は、少なくとも本件発明1の実施態様の一つである。
また、バリとは予定外に形成されるものをいうのであって、上記のとおり、必然的に形成されるフランジ上部を「バリ状のもの」ということはできない。
被告の反論
1 審決の認定及び判断は正当であり、原告ら主張の取消事由は理由がない。
2 取消事由(相違点の認定及びこれについての判断の誤り)について (1) 原告らは、「『コップ』は、一般に・・・例えばガラスコップのように、
周壁の上端開口部が切りっぱなし状態(大根切り状態)に形成されたものを指し・・・切りっぱなし状態にある周壁の上端開口部から外方向に張り出すフランジ若しくはフランジに類するものを一体形成したものは、特段の事情がない限り、通常、『コップ』とは呼ばない」(審決謄本9頁9行目〜16行目)とした審決の判断が誤りであり、これに基づく相違点の認定及びこれについての判断も誤りであると主張するが、審決は、結局のところ、本件発明1が「切りっぱなし状態にある周壁の上端開口部から外方向に張り出すフランジ若しくはフランジに類するものを一体形成したものであるということはできない」(同頁17行目〜19行目)し、実質的に同一であるとすることもできない旨認定判断しているのであり、以下のとおり、その認定判断には誤りがない。
(2) すなわち、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載のとおり、本件発明1は、「ほぼ正方形に開口した上端の上端開口部と、底部と、底部の周縁と上端開口部の周縁との間の側部とを備えたコップ形状を有し、かつ、所定の樹脂材料を主成分とした複数個の育苗ポットを縦横方向に整列させて平面配置したもので、
相互に隣接する前記育苗ポットの上端開口部の周縁を構成するそれぞれの隣接対向辺に、隣接する育苗ポット同士を微小な幅寸法でのみ連結する連接部を一体的に形成」することを構成要件とするものである。
したがって、本件発明1の各育苗ポットは、連結耳部(フランジ)を有することを、その構成要件とはしていない。
また、本件発明1は、「相互に隣接する前記育苗ポットの上端開口部の周縁を構成するそれぞれの隣接対向辺」に、隣接する育苗ポット同士を微小な幅寸法でのみ連結する「連接部」を一体的に形成したものである。そこで、仮に、本件発明1が連結耳部(フランジ)を有する場合を想定すると、連結耳部は上端開口部の周縁から外方に張り出した部位であり、その連結耳部の外周縁に連接部が形成されることになる。しかしながら、連結耳部の外周縁は「開口部の周縁を構成する・・・隣接対向辺」には当たらないから、「開口部の周縁を構成する・・・隣接対向辺に・・・連接部を一体的に形成」することはできない。したがって、本件発明1が連結耳部(フランジ)を備えない構成であることは、その特許請求の範囲の記載から一義的に明らかである。
そうとすれば、審決の上記判断には、結論に影響を及ぼすべき誤りはないというべきである。
(3) また、原告らは、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項2に記載された製造装置に関する訂正明細書の記載を根拠として、本件発明1の育苗ポットの上端開口部が切りっぱなし状態(大根切り状態)に形成されるものとすると、その製造の際に、原型シート材を真空成形しようとしても、各育苗ポットは、成型金型の鋭利な先端部に当たる上端開口部の周縁の間で切断されてバラバラになってしまうので、上記成型金型の先端部を鋭利に形成することはできず、そうすると、各育苗ポットの上端開口部の周縁には、必然的に外方に張り出すフランジ状部が形成されることになる旨主張する。
しかしながら、本件発明1は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものであり、本件発明1が必ず同請求項2に記載された製造装置を用い、発明の詳細な説明に記載された態様で製造されなければならないとする合理的理由はない。
のみらなず、仮に、本件発明1を訂正明細書の特許請求の範囲の請求項2に記載された製造装置によって製造するとした場合、確かに、原型シート材を真空成形する際、育苗ポットの上端開口部の周縁と隣接する育苗ポットの周縁との間に、成型金型のつなぎ部分に対応したつなぎ部ができるが、金型設計技術上、このつなぎ部は微小な間隔幅のものであるにすぎず、このつなぎ部を連接部を残して1本の線(一枚刃)で切断するのであるから、上記つなぎ部の二分の一というごく微小なバリ状のものが上端開口部に形成されるだけである。当業者の常識からして、
このようなバリ状のものをフランジ状部とはいわない。
当裁判所の判断
1 取消事由(相違点の認定及びこれについての判断の誤り)について (1) 原告らは、審決がした本件発明1と先願発明との相違点の認定及びこれについての判断を争うが、先願発明が「複数個の育苗ポット(各ポット1)が上端開口部(上端開口縁2)に外方への張出し状をなす連結耳部6を有し、かつ、複数個の育苗ポットを縦横方向に整列させて平面配置したもので、複数個の育苗ポット(各ポット1)の側部(側壁3)の上端開口部(上端開口縁2)に外方への張出し状をなす連結耳部6を連結する連設部(連結部7)を一体的に形成した」(審決謄本8頁14行目〜19行目)構成を有すること自体を争うものではなく、当該先願発明の構成が、本件発明1の「複数個の育苗ポットがコップ形状を有し、かつ、複数個の育苗ポットを縦横方向に整列させて平面配置したもので、相互に隣接する前記育苗ポットの上端開口部の周縁を構成するそれぞれの隣接対向辺に、隣接する育苗ポット同士を微小な幅寸法でのみ連結する連接部を一体的に形成した」(同頁10行目〜14行目)構成に含まれる旨主張するものである。
そして、審決は、「『コップ』は、一般に・・・例えばガラスコップのように、周壁の上端開口部が切りっぱなし状態(大根切り状態)に形成されたものを指し・・・切りっぱなし状態にある周壁の上端開口部から外方向に張り出すフランジ若しくはフランジに類するものを一体形成したものは、特段の事情がない限り、
通常、『コップ』とは呼ばない」(審決謄本9頁9行目〜16行目)との判断を前提として、「本件発明1の、(@)複数個の育苗ポットがコップ形状を有し、かつ、
複数個の育苗ポットを縦横方向に整列させて平面配置した育苗ポット用樹脂成形体と、先願発明の、(A)複数個の育苗ポットが上端開口部に外方への張出し状をなす連結耳部6を有し、かつ、複数個の育苗ポットを縦横方向に整列させて平面配置した育苗ポット用樹脂成形体とは、上記のとおり、その構成を異にしており」(同頁20行目〜25行目)と認定したものであるが、以下のとおり、上記認定判断は採用することができない。
(2) すなわち、@特開昭60-240634号公報(甲第9号証)には、「通常のコップや湯呑み等(以下コップと総称する。)」(1頁右下欄9行目〜10行目)、「第1〜3図は、第1実施例を示す。このコップは、薄肉の紙もしくはプラスチックのような適度の可撓性と弾性を有する材料よりなり」(2頁右上欄7行目〜10行目)との各記載があり、その第1〜3図には、周壁の上端開口部から外方向に張り出すフランジを一体形成したコップが記載され、A特開平6-144434号公報(甲第10号証)には、「従来・・・紙製あるいはプラスチック性軟質コップは・・・開口部のフランジ・・・によって変形を防いでいる」(【0002】項)との記載があり、B特開平7-40472号公報(甲第11号証)には、「本発明によって形成された紙製の容器すなわちコップ2′が図1に示されている・・・補強縁4′もまた、・・・コップ2′の上部円周の回りに形成される」(【0017】項)との記載があり、その図1及び2には、周壁の上端開口部から外方向に張り出す補強縁(フランジ)を一体形成したコップ及び当該補強縁の断面図が記載され、
C特開平7-89551号公報(甲第12号証)には、「合成樹脂製の薄肉コップ」(特許請求の範囲の【請求項1】)との記載があり、その図3には周壁の上端開口部から外方向に張り出すフランジを一体形成したコップが記載され、D背表紙右下の「3.10」の記載に照らして、平成3年10月に作成したものと認められる東罐興業株式会社の「コップカタログ」(甲第16号証の1)には、「紙コップ」、
「プラストコップ」等の名称で、周壁の上端開口部から外方向に張り出すフランジを一体形成した、各種形状、大きさより成る紙製及びプラスチック製のコップが記載されている。さらに、いずれも昭和46年1月25日発行の、E意匠登録第320846号公報(甲第19号証の1)、F意匠登録第320847号公報(同号証の2)、G意匠登録第320849号公報(同号証の3)、H同年4月20日発行の意匠登録第328606号公報(同号証の4)、I昭和45年11月24日発行の意匠登録第315657号公報(同号証の5)、J昭和46年2月18日発行の意匠第登録323512号公報(同号証の6)には、それぞれ、意匠に係る物品を「コップ」として、周壁の上端開口部から外方向に張り出すフランジを一体形成したと認められるコップの意匠が記載されている。
これらの記載によれば、本件特許出願に係る優先権主張日(平成9年3月14日)当時、「コップ」と称される物品のうちには、紙製又はプラスチック(合成樹脂)製のものが存在すること、そして、それらを含めたコップの中には、周壁の上端開口部から外方向に張り出すフランジを一体形成したものが存在することが、いずれも周知の事項であったものと認められ、「コップ」との語は、一般に、
そのような材質、形状から成るものを含めて用いられていることが推認される。
そうすると、審決が「『コップ』は、一般に・・・例えばガラスコップのように、周壁の上端開口部が切りっぱなし状態(大根切り状態)に形成されたものを指し・・・切りっぱなし状態にある周壁の上端開口部から外方向に張り出すフランジ若しくはフランジに類するものを一体形成したものは、特段の事情がない限り、通常、『コップ』とは呼ばない」(審決謄本9頁9行目〜16行目)と判断したのは明らかに誤りであり、本件発明1の「複数個の育苗ポットがコップ形状を有し」との構成には、当該「複数個の育苗ポット」が、周壁の上端開口部から外方向に張り出すフランジ又はフランジに類するものを一体形成したコップの形状をしたものも含まれるというべきである。
そして、先願発明の「複数個の育苗ポット」に係る「上端開口部に外方への張出し状をなす連結耳部」は、上記「周壁の上端開口部から外方向に張り出すフランジ若しくはフランジに類するもの」に相当するものと認められる。また、先願明細書に、「この育苗用ポットは、各ポットの側壁上端に連結耳部があってこれが一種の補強縁としての役目を果すことと、複数のポット同士が連結耳部で連結されていて側壁の折れ曲りを相互に規制するように作用することとが相まって、形態保持性が高く」(審決謄本5頁1行目〜4行目)、「各ポット(1)の側壁(3)の上端開口縁(2)に僅かに外方への張出し状をなす連結耳部(6)を有し、隣接するポット(1)(1)同士が前記連結耳部(6)(6)の部分で分離可能に連結成形されている」(同頁17行目〜20行目)、「前記各ポット(1)の連結耳部(6)は、テーパ状をなす側壁(3)に対して交差角度(θ)が90°〜105°の角度で外方に延出しており、各ポット毎の単体に分離した状態での保形性および体裁や取扱い易さを考慮して、その幅は通常1〜5mmの範囲に設定される。」(同頁22行目〜25行目)との各記載があることは当事者間に争いがなく、これらの記載及び先願明細書(甲第3号証)の図5、図6の記載に照らして、先願発明には、その育苗ポットに係る「上端開口部に外方への張出し状をなす連結耳部」が側壁(周壁)と一体に形成されるものが含まれていることは明らかである。
そうすると、本件発明1の「複数個の育苗ポットがコップ形状を有し、かつ、複数個の育苗ポットを縦横方向に整列させて平面配置した育苗ポット用樹脂成形体」(審決謄本9頁20行目〜22行目)の構成(審決認定の構成(@))中には、先願発明の「複数個の育苗ポットが上端開口部に外方への張出し状をなす連結耳部6を有し、かつ、複数個の育苗ポットを縦横方向に整列させて平面配置した育苗ポット用樹脂成形体」(同頁22行目〜24行目)の構成(審決認定の構成(A))も含まれるものと解されるから、本件発明1と先願発明が構成を異にするとして、両者を同一ということはできないとした審決の上記認定は誤りというべきである。
なお、被告は、本件発明1の各育苗ポットは連結耳部(フランジ)を有することをその構成要件とはしていない旨主張するところ、本件発明1が、各育苗ポットを、上端開口部に外方への張出し状を成す連結耳部を有するものに限定した構成を採用するものではないことはそのとおりであるとしても、上記のとおり、本件発明1の「複数個の育苗ポットがコップ形状を有し」との構成中に、各育苗ポットが上端開口部に外方への張出し状をなす連結耳部を有するものも含まれると解されるのであるから、被告の上記主張は採用することができない。
(3) 被告は、本件発明1の「相互に隣接する前記育苗ポットの上端開口部の周縁を構成するそれぞれの隣接対向辺に、隣接する育苗ポット同士を微小な幅寸法でのみ連結する連接部を一体的に形成」するとの構成に関し、本件発明1が連結耳部(フランジ)を有するとした場合には、連結耳部は上端開口部の周縁から外方に張り出した部位であり、その連結耳部の外周縁に連接部が形成されることになるが、
連結耳部の外周縁は「開口部の周縁を構成する・・・隣接対向辺」には当たらないから、「開口部の周縁を構成する・・・隣接対向辺に・・・連接部を一体的に形成」することはできず、したがって、本件発明1が連結耳部(フランジ)を備えない構成であることは、その特許請求の範囲の記載から一義的に明らかである旨主張する。
しかしながら、本件発明1の「育苗ポットの上端開口部の周縁」が、開口部における育苗ポットの内部と外部の各空間を仕切る周壁の上端の外周縁を意味することは明らかであるところ、連接部を「育苗ポットの開口部の周縁を構成する・・・隣接対向辺」に形成することについては、訂正明細書(甲第7号証)の記載上、相互に隣接する育苗ポット同士を連結するための連接部を、周壁の上端部の外周縁、すなわち、互いに向き合った「隣接対向辺」に設けるという当然のことを規定したという以外に、特段の技術的意義を見いだすことはできない。
このことにかんがみれば、各育苗ポットの周壁に連結耳部が一体的に形成された場合、すなわち、周壁の上端において、その上端部が内周縁から連続的に外方に延出する場合には、延出した上端部の外周縁(連結耳部の外周縁)が「育苗ポットの上端開口部の周縁」に当たるものと解するのが自然であり、そうとすれば、
連結耳部の外周縁は「育苗ポットの上端開口部の周縁を構成する・・・隣接対向辺」に当たることにもなる。訂正明細書の「底部の周縁と上端開口部の周縁との間の側部」(特許請求の範囲の請求項1、【0008】項)との記載も、その表現上、
「底部の周縁」と「側部」と「上端開口部の周縁」との相互の位置関係を規定したものにすぎないと解されるから、上記のように解することを妨げるものということはできない。
したがって、殊更、本件発明1が連結耳部(フランジ)を有するとした場合には、連結耳部は「上端開口部の周縁」から外方に張り出した部位であるとし、
連結耳部の外周縁は「開口部の周縁を構成する・・・隣接対向辺」には当たらないとして、「開口部の周縁を構成する・・・隣接対向辺に・・・連接部を一体的に形成」することはできないとする被告の主張は採用することができない。
(4) そうすると、原告らのその余の主張について判断するまでもなく、審決の相違点の認定及びそれについての判断は誤りというべきであり、この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
2 以上によれば、原告らの主張する審決取消事由は理由があるから、審決は違法として取消しを免れない。
よって、原告らの請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 石原直樹
裁判官 宮坂昌利